(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】シートモールディングコンパウンドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240910BHJP
C08G 59/42 20060101ALI20240910BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240910BHJP
C08K 5/1539 20060101ALI20240910BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20240910BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08G59/42
C08L63/00 Z
C08K5/1539
C08K5/3492
C08K7/06
(21)【出願番号】P 2022153947
(22)【出願日】2022-09-27
(62)【分割の表示】P 2021035293の分割
【原出願日】2018-04-10
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017079132
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】太田 智
(72)【発明者】
【氏名】市野 正洋
(72)【発明者】
【氏名】寺西 拓也
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/022527(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/190329(WO,A1)
【文献】特開2002-012649(JP,A)
【文献】特開2017-078125(JP,A)
【文献】特表2009-521566(JP,A)
【文献】特開平06-166742(JP,A)
【文献】国際公開第2016/182077(WO,A1)
【文献】STEPHAN, F. et al.,In-Process Control of Epoxy Composite by Microdielectrometric Analysis,POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,1997年,Vol. 37, No. 2,p. 436-449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/24
C08G 59/00- 59/72
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状のエポキシ樹脂組成物をチョップド強化繊維束のシート状物に含浸させることと、前記含浸の後に前記液状のエポキシ樹脂組成物をBステージ化させることと、を含むシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、
前記液状のエポキシ樹脂組成物には、25℃において液状のエポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対し5質量部以上25質量部以下の酸無水物と、融点が120~300℃であるイミダゾール系化合物とが配合されており、
前記液状のエポキシ樹脂組成物は、下記粘度測定(a)で測定される調製から30分後の30℃における粘度が0.5~15Pa・sであり、
前記酸無水物は下記式(1)または下記式(2)で表される化合物の少なくとも一種を含む、
製造方法。
粘度測定(a):調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で30分間静置した後、30℃における粘度を測定する。
【化1】
【請求項2】
液状のエポキシ樹脂組成物をチョップド強化繊維束のシート状物に含浸させることと、前記含浸の後に前記液状のエポキシ樹脂組成物をBステージ化させることと、を含むシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、
前記液状のエポキシ樹脂組成物には、25℃において液状のエポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対し5質量部以上25質量部以下の酸無水物と、融点が120~300℃であるイミダゾール系化合物とが配合されており、
前記液状のエポキシ樹脂組成物は、下記粘度測定(b)で測定される調製から10日後の30℃における粘度が2,000~55,000Pa・sであり、
前記酸無水物は下記式(1)または下記式(2)で表される化合物の少なくとも一種を含む、
製造方法。
粘度測定(b):調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で10日間静置した後、30℃における粘度を測定する。
【化2】
【請求項3】
液状のエポキシ樹脂組成物をチョップド強化繊維束のシート状物に含浸させることと、前記含浸の後に前記液状のエポキシ樹脂組成物をBステージ化させることと、を含むシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、
前記液状のエポキシ樹脂組成物には、25℃において液状のエポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対し5質量部以上25質量部以下の酸無水物と、融点が120~300℃であるイミダゾール系化合物(ただし、2-メチルイミダゾールを除く)とが配合されており、
前記酸無水物は下記式(1)または下記式(2)で表される化合物の少なくとも一種を含む、
製造方法。
【化3】
【請求項4】
前記液状のエポキシ樹脂組成物は、下記粘度測定(a)で測定される調製から30分後の30℃における粘度が0.5~15Pa・sである、請求項
2または
3に記載の製造方法。
粘度測定(a):調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で30分間静置した後、30℃における粘度を測定する。
【請求項5】
前記液状のエポキシ樹脂組成物は、下記粘度測定(b)で測定される調製から10日後の30℃における粘度が2,000~55,000Pa・sである、請求項1
、3、4のいずれか一項に記載の製造方法。
粘度測定(b):調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で10日間静置した後、30℃における粘度を測定する。
【請求項6】
前記融点が120~300℃であるイミダゾール系化合物が2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記液状のエポキシ樹脂組成物に、更に、25℃において液状のイミダゾール系化合物が配合されている、請求項1~
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記液状のエポキシ樹脂組成物に、更に、ジシアンジアミドが配合されている、請求項1~
7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートモールディングコンパウンド、および繊維強化複合材料に関する。
本願は、2017年4月12日に、日本に出願された特願2017-079132号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる炭素繊維強化複合材料は、その優れた機械特性等から、航空機、自動車、産業用途に幅広く用いられている。近年、その使用実績を積むにしたがって炭素繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がってきている。炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂には、高温環境にあっても高度の機械特性を発現することが必要とされる。また、炭素繊維強化複合材料の製造に用いられる成形材料(シートモールディングコンパウンド(以下、SMCとも記す。)、プリプレグ等)のマトリックス樹脂には、成形性に優れることが必要とされる。
【0003】
成形材料のマトリックス樹脂としては、炭素繊維への含浸性や硬化後の耐熱性に優れる熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられている。このうち、エポキシ樹脂組成物は、成形性および硬化後の耐熱性に優れており、エポキシ樹脂組成物を用いた炭素繊維強化複合材料が高度の機械特性を発揮できることから、マトリックス樹脂として好適である。
【0004】
成形材料を成形して炭素繊維強化複合材料を製造する方法としては、オートクレーブ成形法、フィラメントワインド成形法、樹脂注入成形法、真空樹脂注入成形法、プレス成形法等がある。このうち、プレス成形法は、生産性が高く、優れた意匠面を有する炭素繊維強化複合材料が得られやすいことから需要が高まっている。プレス成形法に用いる成形材料としては、複雑な形状の炭素繊維強化複合材料の製造が可能であり、構造部材に最適な炭素繊維強化複合材料が得られることから、強化短繊維とマトリックス樹脂とから構成されるSMCが活発に利用されている。
【0005】
SMCに用いられるマトリックス樹脂には、下記の特性が求められる。
・SMCの製造時の炭素繊維への含浸性を確保するため、SMCのマトリックス樹脂には、SMCの製造時に非常に低粘度であることが求められる。
・プレス成形時のSMCの取り扱い作業性を確保するため、SMCのマトリックス樹脂には、適度に増粘することによってBステージ(半硬化によって増粘した状態であって、加熱によって流動化し得る状態)となり、適度なタック性(粘着性)およびドレープ性(柔軟性)を有することが求められる。
・プレス成形時のマトリックス樹脂の流動性を確保するため、SMCのマトリックス樹脂には、Bステージを長期間保持できること(Bステージの安定性)が求められる。
・プレス成形法においては短時間かつ高温でSMCを成形するため、SMCのマトリックス樹脂には、短時間で硬化し、かつ硬化後に高い耐熱性を有することが求められる。
・プレス成形後の脱型性を確保するために、SMCのマトリックス樹脂には、硬化後に剛性が高いことが求められる。
・高い機械特性および耐熱性を有する炭素繊維強化複合材料を得るため、SMCのマトリックス樹脂には、硬化後に高い機械特性および耐熱性を発現できることが求められる。
【0006】
しかし、エポキシ樹脂組成物は、硬化物の機械特性および耐熱性に優れるものの、速硬化性とBステージの安定性とを両立することは困難である。
すなわち、エポキシ樹脂を短時間で硬化させる硬化剤は、室温において硬化反応を速やかに進行させるため、エポキシ樹脂組成物のBステージを長期間保持できない。一方、エポキシ樹脂組成物のBステージを長期間保持できる硬化剤は、短時間でエポキシ樹脂を硬化させることが困難である。
【0007】
そのため、SMCのマトリックス樹脂としては、通常、不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂をスチレンで希釈した熱硬化性樹脂組成物が用いられる。しかし、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物は、硬化収縮が大きいことから、硬化収縮が小さいエポキシ樹脂組成物を用いたSMCの開発が望まれている。
【0008】
SMCに用いられるエポキシ樹脂組成物としては、下記のものが提案されている。
(1)水酸基を有するエポキシ樹脂、ポリオール、ポリイソシアネート化合物からなる樹脂組成物(特許文献1)。
(2)エポキシ樹脂、ポリオール、ポリイソシアネート化合物、ジシアンジアミド、特定のイミダゾール化合物からなる樹脂組成物(特許文献2)。
【0009】
接着剤に用いられるエポキシ樹脂組成物としては、下記のものが提案されている。
(3)エポキシ樹脂と、活性化温度が20~100℃である硬化剤と、活性化温度が100~200℃である硬化剤からなる液状接着剤(特許文献3)。
(4)室温において固体のエポキシ樹脂、室温において液体のエポキシ樹脂、アミノ基末端を有する線状ポリオキシプロピレン、潜伏性硬化剤(ジシアンジアミド)を含有する反応性ホットメルト接着剤(特許文献4)。
【0010】
プリプレグに用いられるエポキシ樹脂組成物としては、下記のものが提案されている。
(5)エポキシ樹脂、潜在性硬化剤、重合性不飽和基を有する樹脂、重合開始剤を含有する含浸用樹脂組成物(特許文献5)。
(6)エポキシ樹脂、酸無水物、ルイス酸塩(三塩化ホウ素アミン錯体)を含むエポキシ樹脂組成物(特許文献6~8)。
【0011】
エポキシ樹脂を安定してBステージ化することができるエポキシ樹脂組成物としては、下記のものが提案されている。
(7)エポキシ樹脂と、硬化剤として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサメチレンジアミン、メンセンジアミンを含有する樹脂組成物(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開昭58-191723号公報
【文献】特開平4-88011号公報
【文献】特開平2-88684号公報
【文献】特開平2-88685号公報
【文献】特開平2-286722号公報
【文献】特開2004-189811号公報
【文献】特開2004-43769号公報
【文献】特開2001-354788号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】新保正樹編、「エポキシ樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、昭和62年12月25日、p.155
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
(1)、(2)の樹脂組成物は、ウレタン化反応を利用しているため、樹脂組成物中の水分の影響で増粘反応速度とBステージの状態が大幅に変化する。そのため、SMCの取り扱い作業性およびBステージの安定性を確保することが困難である。
(3)の液状接着剤は、活性化温度が20~100℃である硬化剤(ポリアミン、メルカプタン、イソシアネート、イミダゾール、ポリアミド、ポリサルファイドフェノール、BF3錯体、ケチミン等)を用いているため、1段目の硬化反応でゲル化状態に至ってしまう。そのため、2段階目の硬化前では流動性が少なく、賦形が困難であり、SMCのマトリックス樹脂として用いることができない。
(4)の反応性ホットメルト接着剤は、粘度が高く、強化繊維への良好な含浸性を得ることができず、SMCのマトリックス樹脂として用いることができない。
【0015】
(5)の含浸用樹脂組成物を用いたプリプレグの製造においては、含浸用樹脂組成物に溶媒を含ませ、加熱によって溶媒の除去および硬化反応の一部を進めることが、特許文献5に記載されている。この方法は、溶媒の除去が容易であり、加熱、冷却時の厚さによる温度むらが少ない薄いプリプレグの製造には適用できる。しかし、SMCのような厚物のシートでは、溶媒の除去が困難であり、温度むらが大きくなるため、Bステージ化後には表面と内部の状態が違った不良物となる。
(6)のエポキシ樹脂組成物は、室温(23℃)でBステージ化するまでに時間が長くかかる。また、室温でBステージ化した後の粘度が低く、タックが強すぎるためSMCには適さない。
(7)の樹脂組成物は、2、5-ジメチル-2,5-ヘキサンジアミンを含有するため、ポットライフが短い。また、メンセンジアミンを含有するため、樹脂組成物の硬化性が不十分である。そのため、SMCのマトリックス樹脂には適さない。
【0016】
本発明は、取り扱い作業性(タック性およびドレープ性)、プレス成形時のマトリックス樹脂の流動性および速硬化性に優れるとともに、バリの発生を抑えることができ、脱型性、機械特性および耐熱性に優れた繊維強化複合材料を得ることができるシートモールディングコンパウンド;および、脱型性、機械特性および耐熱性に優れた繊維強化複合材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定のエポキシ樹脂と、酸無水物と、エポキシ樹脂硬化剤とを用いることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0018】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 成分(A)、成分(B)、及び成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の増粘物であるシートモールディングコンパウンドであって、
前記成分(A)が25℃において液状のエポキシ樹脂であり、
前記成分(B)が酸無水物であり、
前記成分(C)がエポキシ樹脂硬化剤であり、
前記増粘物は、前記成分(A)のエポキシ基の少なくとも一部と、前記成分(B)に由来するカルボキシ基の少なくとも一部とでエステルを形成している、シートモールディングコンパウンド。
[2] さらに強化繊維を含む、[1]に記載のシートモールディングコンパウンド。
[3] 下記粘度測定(a)で測定される調製から30分後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が、0.5~15Pa・sである、[1]又は[2]に記載のシートモールディングコンパウンド。
粘度測定(a):調製した直後の前記エポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で30分間静置した後、前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
[4] 下記粘度測定(b)で測定される調製から10日後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が、2,000~55,000Pa・sである、[1]~[3]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
粘度測定(b):調製した直後の前記エポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で10日間静置した後、前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
[5] 下記粘度測定(c)で測定される調製から20日後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が、2,000~100,000Pa・sである、[1]~[3]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
粘度測定(c):調製した直後の前記エポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で20日間静置した後、前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
[6] 下記粘度測定(b)で測定される調製から10日後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が、2,000~55,000Pa・sであり、
下記粘度測定(c)で測定される調製から20日後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が、2,000~100,000Pa・sであり、
前記粘度測定(b)にて測定される粘度(b)と、前記粘度測定(c)にて測定される粘度(c)が、[粘度(c)]/[粘度(b)]≦3の関係にある[1]~[3]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
粘度測定(b):調製した直後の前記エポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で10日間静置した後、前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
粘度測定(c):調製した直後の前記エポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で20日間静置した後、前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
[7] 前記成分(B)の含有量が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ基の1当量に対して、酸無水物基が0.1~0.5当量となる量である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[8] 前記成分(B)の含有量が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して3~30質量部である、[1]~[7]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[9] 前記成分(C)の含有量が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して0.1~25質量部である、[1]~[8]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[10] 前記成分(A)が、グリシジルアミン系エポキシ樹脂を含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[11] 前記グリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して1~30質量部である、[10]に記載のシートモールディングコンパウンド。
[12] 前記成分(B)が、25℃において液状である、[1]~[11]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[13] 前記成分(C)が、25℃において固体状である、[1]~[12]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[14] 前記成分(B)が、分子内に2つの環状酸無水物を有する化合物を含む、[1]~[13]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[15] 前記成分(B)が、無水フタル酸または置換基を有してもよい水素添加無水フタル酸を含む、[1]~[14]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[16] 前記成分(B)が、置換基を有してもよい水素添加無水フタル酸を含み、前記置換基を有してもよい水素添加無水フタル酸が、下記式(1)で表される化合物または下記式(2)で表される化合物である、[1]~[15]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【0019】
【0020】
[17] 前記成分(C)が、融点が120~300℃であるイミダゾール系化合物を含む、[1]~[16]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[18] 前記エポキシ樹脂組成物が、成分(D)をさらに含み、
前記成分(D)が、ジシアンジアミドであり、
前記成分(D)の含有量が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して、0.1~5質量部である、[1]~[17]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[19] 前記成分(C)が、成分(E)をさらに含み、
前記成分(E)が、25℃において液状のイミダゾール系化合物であり、
前記成分(E)の含有量が、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して、0.01~0.2質量部である、[1]~[18]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
[20] [1]~[19]のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンドの硬化物である、繊維強化複合材料。
【0021】
[21]前記分子内に2つの環状酸無水物を有する化合物が、グリセリルビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、N,N-ビス[2-(2,6-ジオキソモルホリノ)エチル]グリシン、4,4’-スルホニルジフタル酸無水物、4,4’-エチレンビス(2,6-モルホリンジオン)、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)、及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種である、[14]に記載のシートモールディングコンパウンド。
[22]前記融点が120~300℃であるイミダゾール系化合物が、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンである、[17]に記載のシートモールディングコンパウンド。
[23]前記成分(E)が、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、及び1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールからなる群から選択される少なくとも1種である、[19]に記載のシートモールディングコンパウンド。
[24]前記グリシジルアミン系エポキシ樹脂が、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンである、[10]に記載のシートモールディングコンパウンド。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシートモールディングコンパウンドは、強化繊維への含浸性、Bステージの安定性、Bステージ化後の取扱い作業性(タック性およびドレープ性)、貯蔵安定性、加熱した際の速硬化性、プレス成形時のマトリックス樹脂の流動性および速硬化性に優れるとともに、金型へのバリの発生が少ない。
また、このシートモールディングコンパウンドの硬化物である本発明の繊維強化複合材料は、脱型性、剛性、機械特性および耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「25℃において液状」とは、25℃、1気圧の条件下で液体であることを意味する。 「25℃において固体状」とは、25℃、1気圧の条件下で固体であることを意味する。
「エポキシ樹脂」は、エポキシ基を分子内に2個以上有する化合物である。
「酸無水物基」は、2つの酸基(カルボキシ基等)から1つの水分子が除去された構造を有する基である。
「酸無水物」は、酸無水物基を有する化合物である。
「水素添加無水フタル酸」は、無水フタル酸のベンゼン環の不飽和炭素結合の一部または全部が飽和炭素結合に置き換わった化合物である。
「粘度」は、レオメータを用い、測定モード:応力一定、応力値:300Pa、周波数:1.59Hz、プレート径:25mm、プレートタイプ:パラレルプレート、プレートギャップ:0.5mmの条件で測定された値である。
「バリ」は、プレス成形時に金型の隙間に樹脂が流入し固化することで形成される、成型品の端部に形成される不要部分である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0024】
≪シートモールディングコンパウンド≫
本発明のシートモールディングコンパウンドは、後述するエポキシ樹脂組成物の増粘物である。
【0025】
<エポキシ樹脂組成物>
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、成分(A):25℃において液状のエポキシ樹脂と、成分(B):酸無水物と、成分(C):エポキシ樹脂硬化剤とを含む。
このエポキシ樹脂組成物は、成分(B)が成分(A)と作用することによってエステル結合を形成し、調製直後から増粘する。そして、この増粘物が本発明のシートモールディングコンパウンドである。
このエポキシ樹脂組成物は、成分(D):ジシアンジアミドをさらに含んでもよい。本発明のエポキシ樹脂組成物は、成分(C)が、成分(E):25℃において液状のイミダゾール系化合物をさらに含んでもよい。本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて他の成分を含んでもよい。
【0026】
下記粘度測定(a)で測定される調製から30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、0.5~15Pa・sが好ましく、0.5~10Pa・sがより好ましく、1~5Pa・sがさらに好ましい。調製から30分後の30℃における粘度が0.5Pa・s以上、より好ましくは1Pa・s以上であれば、本発明のシートモールディングコンパウンドの製造時において、エポキシ樹脂組成物をフィルムに塗工する際の目付(エポキシ樹脂組成物の厚み)の精度が安定しやすい傾向にある。また、調製から30分後の30℃における粘度が、15Pa・s以下、より好ましくは10Pa・s以下、さらに好ましくは5Pa・s以下であれば、このエポキシ樹脂組成物と強化繊維等からシートモールディングコンパウンドを製造する場合において、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性が高くなる傾向にある。
粘度測定(a):調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で30分間静置した後、エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
【0027】
下記粘度測定(b)で測定される調製から10日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、2000~55,000Pa・sが好ましく、2000~42,000Pa・sがより好ましく、4000~20,000Pa・sがさらに好ましい。調製から10日後の30℃における粘度が、2000Pa・s以上、より好ましくは4000Pa・s以上であれば、シートモールディングコンパウンドの取扱い時において表面のタックが少なくなる傾向にある。調製から10日後の30℃における粘度が、55,000Pa・s以下、より好ましくは42,000Pa・s以下、さらに好ましくは20,000Pa・s以下であれば、シートモールディングコンパウンドのドレープ性が適切な範囲となり、取り扱い作業性が良好となる傾向にある。
粘度測定(b):調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃で20日間静置した後、エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を測定する。
【0028】
下記粘度測定(c)で測定される調製から20日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、2000~100,000Pa・sが好ましく、4000~80,000Pa・sがより好ましく、5000~70,000Pa・sがさらに好ましい。調製から20日後の30℃における粘度が、2000Pa・s以上、より好ましくは4000Pa・s以上、さらに好ましくは5000Pa・s以上であれば、シートモールディングコンパウンドの取扱い時において表面のタックが少なくなる傾向にある。調製から20日後の30℃における粘度が、100,000Pa・s以下、より好ましくは80,000Pa・s以下、さらに好ましくは70,000Pa・s以下であれば、シートモールディングコンパウンドのドレープ性が適切な範囲となり、取り扱い作業性が良好となる傾向にある。 また、調製から20日後の30℃における粘度が前記範囲内であるということは、Bステージを長期間保持できていること(Bステージの安定性に優れていること)を示している。
【0029】
前記粘度測定(b)にて測定される粘度(b)と、前記粘度測定(c)にて測定される粘度(c)が、[粘度(c)]/[粘度(b)]≦3の関係にある場合には、このBステージの安定性がより優れる傾向にあるとともに、シートモールディングコンパウンドの経時による粘度変化が小さく、貯蔵安定性に優れる傾向にあり好ましい。より好ましくは、[粘度(c)]/[粘度(b)]が0.3~3の範囲にある場合であり、さらに好ましくは、0.5~3の範囲である。
【0030】
(成分(A))
成分(A)は、25℃において液状のエポキシ樹脂である。
成分(A)は、エポキシ樹脂組成物の粘度を前記範囲に調整し、シートモールディングコンパウンドの製造時において、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性を高める成分である。また、シートモールディングコンパウンドの硬化物である、繊維強化複合材料の機械特性および耐熱性を高める成分である。また、成分(A)が芳香族環を有する場合、繊維強化複合材料の機械特性を所望の範囲に調整しやすい。
【0031】
成分(A)としては、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、これらのハロゲン置換体等)のグリシジルエーテル;フェノール類と芳香族カルボニル化合物との縮合反応により得られる多価フェノール類のグリシジルエーテル;多価アルコール類(ポリオキシアルキレンビスフェノールA等)のグリシジルエーテル;芳香族アミン類から誘導されるポリグリシジル化合物等が挙げられる。
【0032】
成分(A)としては、エポキシ樹脂組成物の粘度を強化繊維への含浸に適した粘度に調製しやすく、かつ繊維強化複合材料の機械特性を所望の範囲に調整しやすい点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、二官能のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。繊維強化複合材料の耐熱性および耐薬品性が良好である点からは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。同程度の分子量を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂よりも粘度が低く、繊維強化複合材料の弾性率が高い点からは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
ここで「二官能のビスフェノール型エポキシ樹脂」とは、分子内にエポキシ基を2つ有するビスフェノール型エポキシ樹脂のことを意味する。
【0033】
成分(A)は、三官能以上のエポキシ樹脂であってもよい。三官能のエポキシ樹脂、四官能のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物の粘度を大きく変えずに、繊維強化複合材料の耐熱性をさらに向上できる。
ここで「三官能のエポキシ樹脂」とは、分子内にエポキシ基を3つ有する樹脂のことを意味する。「四官能のエポキシ樹脂」とは、分子内にエポキシ基を4つ有する樹脂のことを意味する。
【0034】
二官能のビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、下記のものが挙げられる。 三菱ケミカル社製のjER(登録商標)の825、827、828、828EL、828XA、806、806H、807、4004P、4005P、4007P、4010P、
DIC社製のエピクロン(登録商標)の840、840-S、850、850-S、EXA-850CRP、850-LC、830、830-S、835、EXA-830CRP、EXA-830LVP、EXA-835LV、
新日鉄住金化学社製のエポトート(登録商標)のYD-115、YD-115G、YD-115CA、YD-118T、YD-127、YD-128、YD-128G、YD-128S、YD-128CA、YDF-170、YDF-2001、YDF-2004、YDF-2005RL等。
【0035】
三官能以上の成分(A)の市販品としては、下記のものが挙げられる。
三菱ケミカル社製のjER(登録商標)の152、154、157S70、1031S、1032H60、604、630、630LSD、
DIC社製のN-730A、N-740、N-770、N-775、N-740-80M、N-770-70M、N-865、N-865-80M、N-660、N-665、N-670、N-673、N-680、N-690、N-695、N-665-EXP、N-672-EXP、N-655-EXP-S、N-662-EXP-S、N-665-EXP-S、N-670-EXP-S、N-685-EXP-S、HP-5000、
三菱ガス化学社製のTETRAD-X等。
特に、成分(A)が上記のTETRAD-X等のようなグリシジルアミン系エポキシ樹脂を含むことによって、エポキシ樹脂組成物の粘度の経時変化を早めることができる。
すなわち、このグリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量を調整することで、上記の粘度(b)や粘度(c)の粘度値を制御でき、シートモールディングコンパウンドの製造においてBステージ化する時間を早め、その生産性を高めることもできる。
このグリシジルアミン系エポキシ樹脂を使用する場合は、成分(A)100質量%に対して1~30質量%程度含有するのが好ましい。より好ましくは2~20質量%であり、さらに好ましくは3~15質量%である。これは、グリシジルアミン系エポキシ樹脂を1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上含有することによって、シートモールディングコンパウンドのBステージ化時間を好適に短縮できる傾向にあるためである。また、グリシジルアミン系エポキシ樹脂を30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下含有することによって、シートモールディングコンパウンドの貯蔵安定性が良好となる傾向にあるためである。
成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0036】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物における成分(A)の含有量は、調製から30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が0.5~15Pa・sとなるように設定すればよく、成分(A)の種類により異なる。
成分(A)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全量100質量%のうち、20~100質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましい。成分(A)の含有量が前記範囲内であれば、エポキシ樹脂組成物の粘度を前記範囲に容易に調整でき、強化繊維への含浸性が高くなる。また、繊維強化複合材料の耐熱性が高くなる。
【0037】
(成分(B))
成分(B)は、酸無水物である。
成分(B)は、成分(A)に対して室温で作用できる成分であり、エポキシ樹脂組成物を調製直後から増粘させ、シートモールディングコンパウンドとしてBステージ化させる成分である。
この成分(B)は、25℃において液状であることが好ましい。これによって、エポキシ樹脂組成物における各成分が均一に混合され、エポキシ樹脂組成物を均一に増粘させることができる。
【0038】
成分(B)としては、分子内の2つまたはそれ以上の酸から1つまたはそれ以上の水分子が除去された構造を有する環状酸無水物を挙げることができ、これらは、分子内に1つまたは2つ以上の環状酸無水物基を有する化合物を含む。
例えば、1つの環状酸無水物基を有する化合物としては、ドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、3-アセトアミドフタル酸無水物、4-ペンテン-1,2-ジカルボン酸無水物、6-ブロモ-1,2-ジヒドロ-4H-3,1-ベンゾオキサジン-2,4-ジオン、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。 また、2つの環状酸無水物基を有する化合物としては、グリセリルビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、N,N-ビス[2-(2,6-ジオキソモルホリノ)エチル]グリシン、4,4’-スルホニルジフタル酸無水物、4,4’-エチレンビス(2,6-モルホリンジオン)、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等が挙げられる。
【0039】
成分(B)としては、エポキシ樹脂組成物の増粘の安定性、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱性や機械特性の点から、無水フタル酸または置換基を有してもよい水素添加無水フタル酸が好ましく、下記式(1)で表される化合物または下記式(2)で表される化合物がより好ましい。
【0040】
【0041】
また、成分(B)としては、プレス成形時のバリの発生を低減できる点から、分子内に2つの環状酸無水物を有する化合物を使用するのが好ましい。
成分(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0042】
成分(B)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ基の1当量に対して、酸無水物基が0.1~0.5当量となる量とするのが好ましく、0.1~0.4当量となる量が好ましく、0.1~0.3当量となる量がより好ましい。成分(B)の含有量が前記範囲内であれば、シートモールディングコンパウンドのBステージ化が適度に進行する。成分(B)の含有量を前記範囲の下限値以上とすることによって、シートモールディングコンパウンドのBステージ化が良好に達成され、適度なタックが得られ、シートモールディングコンパウンドからのキャリアフィルムの離形性も良好となる傾向にある。成分(B)の含有量が前記範囲の上限値以下とすることによって、シートモールディングコンパウンドのBステージ化が適度に進むため、良好なドレープ性が得られるとともに、シートモールディングコンパウンドのカット作業、積層作業等の作業性も良好となる傾向にある。
【0043】
また、成分(B)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して3~30質量部とするのが好ましい。より好ましくは5~25質量部であり、さらに好ましくは、8~20質量部である。成分(B)の含有量が前記範囲内であれば、シートモールディングコンパウンドのBステージ化が適度に進行する。成分(B)の含有量をエポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して3質量部以上、より好ましく5質量部以上、さらに好ましくは8質量部以上とすることによって、シートモールディングコンパウンドのBステージ化が良好に達成され、適度なタックが得られ、シートモールディングコンパウンドからのキャリアフィルムの離形性も良好となる傾向にある。成分(B)の含有量をポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下とすることによって、シートモールディングコンパウンドのBステージ化が適度に進むため、良好なドレープ性が得られるとともに、シートモールディングコンパウンドのカット作業、積層作業等の作業性も良好となる傾向にある。
【0044】
また、成分(B)として、上述の分子内に2つの環状酸無水物を有する化合物を使用する場合、その含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して、1~20質量部とするのが好ましい。より好ましくは1~10質量部であり、さらに好ましくは1~5質量部である。
分子内に2つの環状酸無水物を有する化合物の含有量をエポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して1質量%以上とすることによって、シートモールディングコンパウンドのプレス成形時のバリの発生が低減できる傾向にある。また、分子内に2つの環状酸無水物を有する化合物の含有量をエポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して20質量%以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下とすることによって、プレス成形時のシートモールディングコンパウンドの成形型内の流動性が良好となる傾向にある。
【0045】
(成分(C))
成分(C)は、エポキシ樹脂硬化剤である。
成分(C)は、エポキシ樹脂の硬化剤として働くとともに、成分(A)と成分(B)とが反応するBステージ化の際に、成分(A)と成分(B)とを室温で反応させるための触媒として作用する成分である。
この成分(C)は、25℃において固体状であることが好ましい。これにより、シートモールディングコンパウンド製造時や製造されたシートモールディングコンパウンドの貯蔵中における成分(C)の反応が抑制され、シートモールディングコンパウンドの生産性、貯蔵安定性、取扱い性、成形時の流動性等が良好となる傾向にある。
【0046】
成分(C)としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミン、二級アミン、三級アミン、イミダゾール系化合物、メルカプタン類等が挙げられる。
成分(C)としては、上記のエポキシ樹脂組成物を含むシートモールディングコンパウンドの貯蔵安定性の点から、融点が120~300℃であるイミダゾール系化合物が好ましく、例えば、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンを好適に使用することができる。
【0047】
また、成分(C)として、25℃において液状のイミダゾール系化合物(以下、成分(E)ともいう)を使用することによって、シートモールディングコンパウンドをBステージ化する時間を早めることができる。
成分(E)としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール等を挙げることができる。
成分(E)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して、0.01~0.2質量部が好ましく、0.01~0.1質量部がより好ましく、0.03~0.07質量部がさらに好ましい。この含有量を0.01質量部以上、好ましくは0.03質量部以上とすることによって、シートモールディングコンパウンドをBステージ化する時間を早めることができる傾向にある。また、この含有量を0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下、さらに好ましくは0.07質量部以下とすることによって、シートモールディングコンパウンドのBステージ化の安定性が良好となる傾向にある。
上記の成分(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0048】
成分(C)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して、0.1~25質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましく、3~7質量部がさらに好ましい。成分(C)の含有量を0.1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上とすることによって、シートモールディングコンパウンドの成形時の速硬化性が良好となる傾向にある。また、成分(C)の含有量を25質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下とすることによって、シートモールディングコンパウンド製造時におけるBステージの安定性が良好となる傾向にある。
【0049】
成分(C)の25℃における粒子径は、シートモールディングコンパウンドの特性に影響することがある。例えば、成分(C)の粒子径が大きい場合、成分(C)の表面積が小さくなり、エポキシ樹脂組成物が短時間で硬化するためには成分(C)の含有量を多くする必要が生じることがある。また、成分(C)の粒子径が大きい場合、強化繊維の内部にまで侵入するエポキシ樹脂組成物の割合が小さくなり、結果的に硬化時間が遅くなることがある。成分(C)の平均粒子径は、25μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。より具体的には、0μm超~25μmが好ましく、1~15μmがより好ましい。 なお、平均粒子径は、画像解析法、レーザー回折散乱法、コールター法、遠心沈降法等を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定できる。
【0050】
(成分(D))
成分(D)は、ジシアンジアミドである。
上記のエポキシ樹脂組成物がジシアンジアミドをさらに含むことによって、シートモールディングコンパウンドのBステージ化およびその安定性、速硬化性を損なうことなく、このエポキシ樹脂組成物から得られるシートモールディングコンパウンドの硬化物の靱性および耐熱性をさらに向上することができる。
【0051】
成分(D)の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂の100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.3~5質量部がより好ましく、1~4質量部がさらに好ましい。成分(D)の含有量を0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上とすることによって、シートモールディングコンパウンドの硬化物の靱性や耐熱性が良好となる傾向にある。また、成分(D)の含有量を5質量部以下、より好ましくは4質量部以下とすることによって、シートモールディングコンパウンド製造時におけるBステージの安定性が良好となる傾向にある。
【0052】
(他の成分)
上記のエポキシ樹脂組成物が必要に応じて含有していてもよい他の成分としては、エポキシ樹脂の硬化促進剤、無機質充填材、内部離型剤、界面活性剤、有機顔料、無機顔料、成分(A)以外のエポキシ樹脂、他の樹脂(熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマー)等が挙げられる。
【0053】
硬化促進剤としては、繊維強化複合材料の機械特性(曲げ強度、曲げ弾性率)が高くなる点から、尿素化合物が好ましい。
尿素化合物としては、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエン、1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)等が挙げられる。
【0054】
無機質充填材としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、クレー、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、ガラスパウダー、中空ガラスビーズ、エアロジル等が挙げられる。 内部離型剤としては、カルナバワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0055】
界面活性剤を含むことによって、シートモールディングコンパウンドからのキャリアフィルムの離形性を向上することができる。また、シートモールディングコンパウンドに含まれるボイドを減らすことができる。
【0056】
成分(A)以外のエポキシ樹脂としては、25℃で半固形または固形状態のエポキシ樹脂が挙げられる。成分(A)以外のエポキシ樹脂としては、芳香族環を有するエポキシ樹脂が好ましく、二官能のエポキシ樹脂がさらに好ましい。また、二官能のエポキシ樹脂以外にも、硬化物の耐熱性向上やエポキシ樹脂組成物の粘度調節を目的として、様々なエポキシ樹脂を本発明のエポキシ樹脂組成物に含有させてもよい。耐熱性を向上させるためには、多官能のエポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格のエポキシ樹脂が有効である。
【0057】
熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマーは、エポキシ樹脂組成物の粘弾性を変化させて、エポキシ樹脂組成物の粘度、貯蔵弾性率およびチキソトロープ性を適正化するだけでなく、エポキシ樹脂組成物の硬化物の靭性を向上させる役割がある。熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0058】
(エポキシ樹脂組成物の調製方法)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、従来公知の方法で調製できる。例えば、各成分を同時に混合して調製してもよく、あらかじめ成分(A)に、成分(B)、成分(C)等を各々適宜分散させたマスターバッチを調製し、これを用いて調製してもよい。また、混練による剪断発熱等で、系内の温度が上がる場合には、混練速度を調節することや、調製釜や混練釜を水冷する等、混練中に温度を上げない工夫をすることが好ましい。混練装置としては、らいかい機、アトライタ、プラネタリミキサー、ディゾルバー、三本ロール、ニーダー、万能撹拌機、ホモジナイザー、ホモディスペンサー、ボールミル、ビーズミルが挙げられる。混練装置は、2種以上を併用してもよい。
【0059】
(作用効果)
以上説明した本発明で使用するエポキシ樹脂組成物にあっては、成分(A):25℃において液状のエポキシ樹脂を主成分とし、調製直後の粘度を低くすることができ、例えば、30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を15Pa・s以下とすることができるため、強化繊維への含浸性に優れ、シートモールディングコンパウンドの製造に好適に使用することができる。
また、このエポキシ樹脂組成物にあっては、調製後から短時間で増粘させることができ、例えば、調製から10日後の前記エポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が、2,000~55,000Pa・sとすることができるため、シートモールディングコンパウンドの取扱い時において表面のタックを抑えることができるとともに、適切なドレープ性を得ることができ、良好な取り扱い作業性を得ることができる。
さらに、このエポキシ樹脂組成物にあっては、増粘後の粘度を長時間保持させることができ、例えば、調製から20日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度が2000~100,000Pa・sとすることができるため、Bステージ化後のタック性およびドレープ性、ならびにBステージの安定性に優れる。
また、このエポキシ樹脂組成物にあっては、成分(A)を含むため、シートモールディングコンパウンドの硬化物の剛性、機械特性および耐熱性に優れる。
【0060】
(強化繊維)
シートモールディングコンパウンドは、強化繊維を含んでいてもよい。強化繊維としては、シートモールディングコンパウンドの用途や使用目的に応じて様々なものを採用することができ、炭素繊維(黒鉛繊維を含む。以下同様。)、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、タングステンカーバイド繊維、ガラス繊維等が挙げられ、繊維強化複合材料の機械特性の点から、炭素繊維、ガラス繊維が好ましく、炭素繊維が特に好ましい。
【0061】
強化繊維は、通常1000本以上、60000本以下の範囲の単繊維からなる強化繊維束の状態で使用される。成形材料中では強化繊維束の形状を保ったまま存在している場合もあれば、より少ない繊維からなる束に分かれて存在する場合もある。SMC中では、通常、より少ない束に分かれて存在する。
【0062】
SMCにおける強化繊維としては、短繊維からなるチョップド強化繊維束が好ましい。短繊維の長さは、0.3~10cmが好ましく、1~5cmがより好ましい。短繊維の長さが0.3cm以上であれば、機械特性が良好な繊維強化複合材料が得られる。短繊維の長さが10cm以下であれば、プレス成形時の流動特性が良好なSMCが得られる。
SMCにおける強化繊維の形態としては、チョップド強化繊維束が二次元ランダムに積み重なったシート状物がより好ましい。
【0063】
(SMCの製造方法)
SMCは、例えば、チョップド強化繊維束のシート状物に、このエポキシ樹脂組成物を十分に含浸させ、エポキシ樹脂組成物を増粘させることによって製造される。
【0064】
上記のエポキシ樹脂組成物を、強化繊維の形態に合った周知の方法によって強化繊維に含浸させた後、室温~60℃程度の温度に数時間~数十日間、または、60~80℃程度の温度に数秒~数十分保持することによって、エポキシ樹脂組成物中の成分(A)および任意に配合された他のエポキシ樹脂が有するエポキシ基と、成分(B)に由来するカルボキシ基とがエステル化反応し、エポキシ樹脂組成物がBステージ化する。
エポキシ樹脂が有するエポキシ基と成分(B)に由来するカルボキシ基との反応条件は、エステル化反応後に得られるエポキシ樹脂組成物の増粘物の30℃における粘度が上述した範囲になるよう選択することが好ましい。
【0065】
チョップド強化繊維束のシート状物に上記のエポキシ樹脂組成物を含浸させる方法については、従来公知の様々な方法を採用できる。例えば、下記の方法が挙げられる。
上記のエポキシ樹脂組成物を均一に塗布したフィルムを2枚用意する。一方のフィルムのエポキシ樹脂組成物の塗布面にチョップド強化繊維束を無秩序に撒き、シート状物とする。他方のフィルムのエポキシ樹脂組成物の塗布面をシート状物の上に貼り合わせ、エポキシ樹脂組成物をシート状物に圧着含浸させる。その後、エポキシ樹脂組成物を増粘させることによって、SMCの表面のタックが抑制され、成形作業に適したSMCが得られる。
【0066】
(作用効果)
以上説明した本発明のSMCにあっては、Bステージ化後のタック性およびドレープ性に優れるエポキシ樹脂組成物の増粘物を含むため、取り扱い作業性(タック性およびドレープ性)に優れる。
また、本発明のSMCにあっては、Bステージの安定性に優れる本発明のエポキシ樹脂組成物の増粘物を含むため、プレス成形時のマトリックス樹脂の流動性に優れるとともに、金型へのバリの発生を抑えることができる。
また、本発明のSMCにあっては、プレス成形時の速硬化性に優れる。プレス成形時の硬化速度が速いことから、金型占有時間が短くなり、繊維強化複合材料の生産性が高くなる。
また、本発明のSMCにあっては、硬化物の剛性、機械特性および耐熱性に優れるエポキシ樹脂組成物の増粘物を含むため、脱型性、機械特性および耐熱性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【0067】
<繊維強化複合材料>
本発明の繊維強化複合材料は、本発明のSMCの硬化物である。
本発明の繊維強化複合材料は、SMCを加熱成形して、Bステージ化した上記の樹脂組成物を硬化させることによって製造される。
【0068】
SMCを用いた繊維強化複合材料の製造方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
1枚のSMCまたは複数枚のSMCを重ねたものを、1対の金型の間にセットする。SMCを120~230℃で2~60分間加熱圧縮して、エポキシ樹脂組成物を硬化させ、成形品である繊維強化複合材料を得る。ダンボール等のハニカム構造体を芯材とし、その両面または片面にSMCを配してもよい。
【0069】
(作用効果)
以上説明した本発明の繊維強化複合材料にあっては、本発明のSMCの硬化物であるため、脱型性、機械特性および耐熱性に優れる。
【0070】
<他の実施形態>
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々の変更が可能である。異なる実施形態に、上述した各実施形態に示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
<各成分>
(成分(A))
jER(登録商標)828:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、25℃における粘度:12Pa・s)。
jER(登録商標)807:ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、25℃における粘度:4Pa・s)。
jER(登録商標)604:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(三菱ケミカル社製、25℃における粘度:360Pa・s)。
jER(登録商標)630:トリグリシジル-p-アミノフェノール(三菱ケミカル社製、25℃における粘度:0.7Pa・s)。
TETRAD-X:N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン(三菱ガス化学社製、25℃における粘度:2Pa・s)。
【0073】
(成分(B))
HN-2200:3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸又は4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(日立化成社製、25℃における粘度:75mPa・s)。
HN-2000:3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸又は4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(日立化成社製、25℃における粘度:40mPa・s)。
HN―5500:3-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸又は4-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成社製、25℃における粘度:75mPa・s)。
MHAC-P:メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(日立化成社製、25℃における粘度:225mPa・s)。
HN-2200:3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸又は4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(日立化成社製)。
MH―700:4-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸と、ヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物(新日本理化株式会社製)。
TMEG-600:エチレングリコール-ビス(アンヒドロトリメリテート)(新日本理化株式会社製)。
MTA-15:4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、及びグリセリルビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテートの混合物(新日本理化株式会社製)。
【0074】
(成分(C))
2MZA-PW:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(四国化成工業社製、融点:253℃)。
【0075】
(成分(D))
DICYANEX1400F:ジシアンジアミド(エアープロダクツ社製)。
【0076】
(成分(E))
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業社製、融点:約40℃)。
【0077】
(他の成分)
Omicure(登録商標)24:2,4-ジ(N,N-ジメチルウレイド)トルエン(ピイ・ティ・アイ・ジャパン社製)。
DY9577:三塩化ホウ素アミン錯体(ハンツマン社製、融点28~35℃)。
【0078】
(マスターバッチの調製)
DICYANEX1400F、2MZA-PW、TMEG-600については、それぞれをjER(登録商標)828と1:1(質量比)で混合した。混合物をそれぞれ三本ロールで混練し、マスターバッチを得た。
【0079】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
(実施例1~23、比較例1~3)
表1~表5に示す配合にしたがい、各成分をフラスコに秤量した。DICYANEX1400F、2MZA-PW、リカシッドTH、リカシッドTMEG-600については、マスターバッチを用いた。フラスコに秤量した各成分を室温にて撹拌機で均一に撹拌し、エポキシ樹脂組成物を得た。下記の測定および評価を行った。結果を表1~表5に示す。
【0080】
(等温粘度の測定)
調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃の部屋で直射日光の当たらない場所に静置し、保管した。調製から30分後、10日後、20日後のエポキシ樹脂組成物の粘度を以下のように測定した。
レオメータ(TAインスツルメント社製、AR-G2)のプレートをあらかじめ30℃まで加温し、温度が安定するまで待った。温度が安定したことを確認してから、エポキシ樹脂組成物をプレートに分取し、ギャップを調整した後、下記条件にて測定を開始した。10分間で10点測定し、その平均値を粘度とした。
測定モード:応力一定、
応力値:300Pa、
周波数:1.59Hz、
プレート径:25mm、
プレートタイプ:パラレルプレート、
プレートギャップ:0.5mm。
【0081】
(昇温粘度の測定)
調製した直後のエポキシ樹脂組成物を密閉できる容器に入れて密封し、23℃の部屋で直射日光の当たらない場所に静置し、保管した。調製から7日後のエポキシ樹脂組成物の粘度を以下のように測定した。
レオメータ(サーモフィッシャー社製、MARS40)のプレートをあらかじめ30℃まで加温し、温度が安定するまで待った。温度が安定したことを確認してから、エポキシ樹脂組成物をプレートに分取し、ギャップを調整した後、下記条件にて測定を開始した。10分間で10点測定し、その平均値を粘度とした。
測定モード:応力一定、
応力値:300Pa、
周波数:1.59Hz、
プレート径:25mm、
プレートタイプ:パラレルプレート、
プレートギャップ:0.5mm
温度:30℃から、エポキシ樹脂組成物が硬化反応を開始する直前の温側(つまり、急激に粘度が上昇する温度)まで2℃/min.で昇温
【0082】
(粘度の評価)
調製から30分後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、エポキシ樹脂組成物が強化繊維に含浸する際の含浸性の目安となる。30分後の粘度について、下記の基準で評価した。
A:30分後の粘度が15Pa・s以下である(含浸性に優れる)。
B:30分後の粘度が15Pa・s超である。
【0083】
調製から10日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、SMCが適度なタック性やドレープ性を短時間で発揮し、良好な取り扱い作業性を保持できているかの目安となる。10日後の粘度について、下記の基準で評価した。
A:10日後の粘度が2000~55,000Pa・sである(取り扱い作業性に優れる)。
B:10日後の粘度2000Pa・s未満または55,000Pa・s超である。
調製から20日後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、SMCが適度なタック性やドレープ性を発揮できるようなBステージの増粘物となっているかを判断するための目安となる。また、Bステージを長期間保持できているか(Bステージの安定性)の目安となる。20日後の粘度について、下記の基準で評価した。
A:20日後の粘度が2000~50,000Pa・sである(Bステージの安定性に優れる)。
B:20日後の粘度2000Pa・s未満または100,000Pa・s超である。
【0084】
(粘度測定(c)と粘度測定(b)の変化率)
[粘度測定(c)]/[粘度測定(b)]の値はSMCの貯蔵安定性の目安となる。
[粘度測定(c)]/[粘度測定(b)]の値について、下記の基準で評価した。
A:[粘度測定(c)]/[粘度測定(b)]の値が3以下(貯蔵安定性に優れる) B:[粘度測定(c)]/[粘度測定(b)]の値が3より大きい
【0085】
(昇温粘度の評価)
昇温粘度測定は、プレス成形時のSMC流動性の目安となる。昇温粘度測定の結果から、エポキシ樹脂組成物が硬化反応を開始する直前の粘度(つまり、急激に粘度が上昇する粘度)が高いほど、プレス成形時のバリの発生が抑制できる。昇温粘度について、下記の基準で評価した。
A:7日後のエポキシ樹脂組成物の硬化反応を開始する直前の粘度が0.5Pa・s~500Pa・sである(プレス成形時のSMC流動性が良好)。
B:7日後のエポキシ樹脂組成物の硬化反応を開始する直前の粘度が0.5Pa・s未満または500Pa・s超である。
【0086】
(バリ発生の評価)
成形の金型へのバリの発生が少ないと、成形後、短時間でバリを除去できるので、成形サイクルを短縮することができる。
縦300mm、横300mm、厚さ2mmの金型に縦300mm、横300mmのSMCを2ply積層した積層物をチャージし、金型温度140℃、圧力4MPaの条件で5分間加熱圧縮し、300mm角、厚さ約2mmの平板状の繊維強化複合材料(CFRP成形板)を得た。このCFRP成形板の製造時のバリ発生率を以下の式で算出した。
(X-Y)/(X)*100
ここで、
X:金型にチャージしたSMC重量
Y:成形後、金型から取り出した成型物の重量
である。
バリ発生の評価基準を以下に示す。
A(良好):上記式で算出されるバリ発生率の割合が10%未満
B(不良):上記式で算出されるバリ発生率の割合が10%以上
【0087】
(速硬化性)
示差走査熱量測定装置(TAインスツルメント社製、Q1000)の装置標準のアルミニウムハーメチックパンにエポキシ樹脂組成物を秤量し、装置標準のアルミニウムリッドで蓋をして試料を作成した。装置の温度制御プログラムによって30℃から140℃まで200℃/分で昇温した後、140℃の等温で30分間保持し、一連の制御温度下でのエポキシ樹脂組成物のDSC発熱曲線を得た。DSC発熱曲線において、発熱量のピークから発熱量が減少していく部分の曲線で勾配が最大になる点で引いた接線と、硬化反応による発熱が終息した部分で引いた接線(ベースライン)との交点の時間を硬化完了時間とした。硬化完了時間は、成形材料の成形時間の目安となる。速硬化性について、下記の基準で評価した。
A:硬化完了時間が10分以内である(速硬化性良好)。
B:硬化完了時間が10分超である。
【0088】
(硬化樹脂板の作製)
エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡し、2mm厚のポリテトラフルオロエチレンのスペーサを挟んだ2枚の4mm厚のガラス板の間に注入し、ガラス板の表面温度が140℃となる条件で、熱風循環式恒温炉にて10分間加熱した後に冷却して硬化樹脂板を得た。
【0089】
(曲げ特性)
硬化樹脂板から幅8mm、長さ60mmの試験片を6枚切り出し、万能試験機(インストロン社製、インストロン4465)を用い、下記条件にて曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ破断伸度、曲げ降伏伸度を測定し、6枚の平均値を求めた。
クロスヘッドスピード;2mm/分、
スパン間距離:硬化樹脂板の厚さを実測し、(厚さ×16)mmとした。
【0090】
(耐熱性)
硬化樹脂板を長さ55mm×幅12.5mmの試験片に加工し、レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES-RDA)を用いて測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分で測定を行った。logG’を温度に対してプロットし、logG’の平坦領域の近似直線と、logG’が急激に低下する領域の近似直線との交点の温度をガラス転移温度(G’-Tg(℃))として記録した。また、LogG”のピークのトップをG”-Tg(℃)とした。また、tanδのピークのトップをtanδ(℃)とした。耐熱性について、下記の基準で評価した。
A:ガラス転移温度(G’-Tg)が130℃以上である(耐熱性良好)。
B:ガラス転移温度(G’-Tg)が130℃未満である。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
実施例1~23のエポキシ樹脂組成物は、調製から30分後の粘度が低く、SMCを製造する際に含浸性に優れる。また、調製から10日後に適度にBステージ化しており、SMCとした場合、ほどよいタックとドレープ性を有する。また、Bステージの安定性もよい。さらに、速硬化性も良好であり、SMCとした場合、短時間で成形できる。実施例1~23のエポキシ樹脂組成物から得られるSMCの硬化物は、バリの発生もなく、曲げ強度、曲げ弾性率が高く、耐熱性も高い。
【0097】
比較例1、2は、特許文献6~8の実施例を参考にエポキシ樹脂組成物を調製した例である。比較例1、2のエポキシ樹脂組成物は、調製から30分後の粘度は低く、良好な含浸性が得られるが、調製から20日後の粘度が低く、タックが非常に強い。成形材料とした場合、べたつきが強く取り扱い作業性が悪い。また、速硬化性に劣り、硬化に要する時間が長い。成形材料とした場合、金型占有時間が長くなる。
【0098】
比較例3は、特許文献6~8の実施例を参考にエポキシ樹脂組成物を調製した例である。比較例3のエポキシ樹脂組成物は、調製から30分後の粘度は低く、含浸性が高い。また、調製から20日後に適度にBステージ化しており、成形材料とした場合、ほどよいタックとドレープ性を有する。しかし、速硬化性に劣り、硬化に要する時間が長い。成形材料とした場合、金型占有時間が長くなる。
【0099】
<繊維強化複合材料の製造>
(実施例24~26)
表6に示す配合のエポキシ樹脂組成物を、ドクターブレードを用いてポリエチレン製キャリアフィルム上に600g/m2となるように塗布した。エポキシ樹脂組成物の上に、フィラメント数が15000本の炭素繊維束(三菱ケミカル社製、TR50S 15L)を長さ25mmに切断したチョップド炭素繊維束を、炭素繊維の目付が1200g/m2で略均一になるように、かつ炭素繊維の繊維方向がランダムになるように散布した。
同じエポキシ樹脂組成物を、ドクターブレードを用いてポリエチレン製キャリアフィルム上に厚さ600g/m2になるように塗布した。
2枚のキャリアフィルムで、エポキシ樹脂組成物側が内側となるようにチョップド炭素繊維束を挟み込んだ。これをロールの間に通して押圧して、エポキシ樹脂組成物をチョップド炭素繊維束に含浸させ、SMC前駆体を得た。
SMC前駆体を室温(23℃)にて20日間静置することによって、SMC前駆体中のエポキシ樹脂組成物を十分に増粘させてSMCを得た。
【0100】
SMCを2ply積層し、成形用金型にチャージ率(金型面積に対するSMCの面積の割合)65%でチャージして、金型温度140℃、圧力4MPaの条件で5分間加熱圧縮し、エポキシ樹脂組成物を硬化させ、厚さ約2mm、300mm角の平板状の繊維強化複合材料(CFRP成形板)を得た。下記の測定および評価を行った。結果を表6に示す。
【0101】
(含浸性)
SMC前駆体を約30cm切断し、含浸状態を目視で確認し、下記基準にて評価した。
A:切断面にドライ炭素繊維等がなく、含浸性が良好である。
B:切断面にドライ炭素繊維が確認され、含浸性が良くない。
【0102】
(タック性)
SMCのタック性について下記基準にて評価した。
A:SMCを手で触ったところ、適度なタックを有しており、SMCの積層作業が簡便であった。
B:SMCを手で触ったところ、べたつきが強い、または、べたつきが弱く積層作業が困難であった。
【0103】
(ドレープ性)
SMCのドレープ性について下記基準にて評価した。
A:SMCを手で触ったところ、適度な柔軟性を有しており、カット作業、持ち運びが容易であった。
B:SMCを手で触ったところ、柔軟性に乏しく、カット作業、持ち運びが困難であった。
【0104】
(取り扱い作業性)
SMCの取り扱い作業性について下記基準にて評価した。
A:タック性およびドレープ性の評価がいずれもAである。
B:タック性およびドレープ性のいずれか一方または両方の評価がBである。
【0105】
(耐熱性)
CFRP成形版を長さ55mm×幅12.5mmの試験片に加工し、レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES-RDA)を用いて測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分で測定を行った。logG’を温度に対してプロットし、logG’の平坦領域の近似直線と、logG’が急激に低下する領域の近似直線との交点の温度をガラス転移温度(G’-Tg(℃))として記録した。また、LogG”のピークのトップをG”-Tg(℃)とした。また、tanδのピークのトップをtanδ(℃)とした。耐熱性について、下記の基準で評価した。
A:ガラス転移温度(G’-Tg)が130℃以上である(耐熱性良好)。
B:ガラス転移温度(G’-Tg)が130℃未満である。
【0106】
【0107】
実施例24~26のエポキシ樹脂組成物を用いてSMCを作製し、繊維強化複合材料を製造した。含浸性、タック性、ドレープ性が良好であり、取り扱い作業性が非常に優れていた。また、耐熱性が高く、金型からの取り出しの際に、十分な剛性を保持しており、脱型性も良好であった。
【0108】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
(実施例27~30)
表7に示す配合に従い、実施例1~23と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。各測定および評価を実施例1~23と同様に行った。結果を表7に示す。
【0109】
【0110】
実施例27~30のエポキシ組成物は、調製から30分後の粘度が低く、SMCを製造する際に含浸性に優れる。また、調製から10日後に適度にBステージ化しており、SMCとした場合、ほどよいタックとドレープ性を有する。また、Bステージの安定性もよい。さらに、速硬化性も良好であり、SMCとした場合、短時間で成形できる。実施例27~30のエポキシ樹脂組成物から得られるSMCの硬化物は、バリの発生もなく、曲げ強度、曲げ弾性率が高く、耐熱性も高い。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のシートモールディングコンパウンドは、強化繊維への含浸性、Bステージ化後のタック性およびドレープ性、Bステージの安定性(プレス成形時の流動性)、加熱した際の速硬化性(プレス成形時の金型占有時間が短いこと)、および硬化物の耐熱性に優れる。また、本発明のシートモールディングコンパウンドは、硬化後の機械特性および耐熱性に優れることから、工業用、自動車用の構造部品の原料として好適である。