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特許7552688室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20240910BHJP
   C08K 5/5419 20060101ALI20240910BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20240910BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240910BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20240910BHJP
   G02F 1/1339 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K5/5419
C08K5/544
C09K3/10 G
C09K3/10 B
C09D183/06
G02F1/1339 505
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022515307
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014274
(87)【国際公開番号】W WO2021210421
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020073190
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】安田 成紀
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/189463(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/209083(WO,A1)
【文献】特開2016-204612(JP,A)
【文献】特表2004-536957(JP,A)
【文献】特開2005-139452(JP,A)
【文献】特表2009-513734(JP,A)
【文献】特表2007-513203(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106634771(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C09D 1/00-201/10
C09J 1/00-201/10
C09K 3/10
G02F 1/00- 1/39
C08G 77/00- 77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)成分
(A);R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基又はヒドロキシ基を表す)及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位のモル比が0.5~1.5であり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記のとおり)を、SiO4/2単位に対し、それぞれ0~1.0のモル比で含有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基(シラノール基)を0.005~0.15モル/100g有する、分子量が2,000~10,000である三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂:100質量部、
(B);下記一般式(1)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:(A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.2~1となる量、
【化1】
(1)
(式(1)中、R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、R2は非置換又は置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Yは加水分解性基であり、mはである。)
(C);分子鎖両末端がシラノール基で封鎖され、23℃における粘度が30~10,000mPa・sであり、重合度が10~1,000である直鎖状ジオルガノポリシロキサン:10~100質量部、及び
(D);上記(A)成分及び(B)成分以外の、アミノ基含有加水分解性オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物:0.5~5質量部
を含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
更に、(E);沸点が40~180℃であり、ベンゼン、トルエン及びキシレン以外の有機溶剤を、組成物の不揮発分が20~80質量%となるような量で含むものである請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
金属系縮合触媒を含まないものである請求項1又は2に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
電気・電子部品及び/又はその基板のコーティング用である請求項1~3のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
液晶表示素子のシール用である請求項1~3のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物でコーティング又はシールされた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度の硬化物・コーティング膜を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものであり、コーティング材組成物やシール材組成物等としての用途、特に電気・電子部品及びその基板のコーティング材(コンフォーマルコーティング材)、液晶表示素子用シール材等に好適な三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂を含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものである。
特に、製造が簡便でかつコストが安く、更に縮合触媒である金属化合物を非含有でも安定した硬化性を示し、高硬度のコーティング被膜を形成できることを特徴とする脱アルコール型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中の湿気により室温(23℃±15℃)で架橋・硬化してシリコーンエラストマー(シリコーンゴム硬化物)を与えることができる室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物は、その取り扱いが容易な上、耐候性や電気特性に優れているため、建材用のシーリング材、電気・電子分野での接着剤など様々な分野で使用されている。特に電気・電子分野では、使用される被着体(樹脂系)に対する接着・コーティング適正から、脱アルコールタイプのRTVシリコーンゴム組成物が使用される傾向にある。また、近年急速に需要が伸びてきている液晶周辺や電源回路基板のコーティング材としても同様であり、脱アルコールタイプのRTVシリコーンゴム組成物が使用されている。しかし、このコーティング材はその主目的である、電気・電子回路の絶縁、防湿と言った性能は満足すべきであるが、回路パターンの細密化に伴う配線等の保護を目的とした材料の硬さ改善は不十分であった。これまで、回路パターンなどの保護や防湿を目的としたシリコーンゴムは以下の様な技術が開示されている。
【0003】
特開2004-143331号公報(特許文献1)には、透明性が高く、かつ高強度の硬化物・被膜を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が開示されている。ただし、(CH33SiO1/2単位及びSiO4/2からなり、(CH33SiO1/2単位/SiO4/2単位(モル比)=0.74、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基含有量が1.62質量%であるオルガノポリシロキサンと両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサンを、アンモニア水により20℃で12時間縮合反応を行っているため、反応時間が長いことが問題である。また、加熱によるアンモニア除去工程を加えても、アンモニアの臭気が組成物中に残るため、実使用上問題となる場合がある。
【0004】
特開2002-327115号公報(特許文献2)には、防湿性に優れる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が開示されている。(CH33SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、(CH33SiO1/2単位/SiO4/2単位(モル比)=0.74と、分子鎖両末端がシラノール基であるオルガノポリシロキサンをトルエンに溶解させ樹脂状のコポリマーとし、加熱条件により室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を調製している。加熱工程のため、製造が簡便ではないことが問題である。
【0005】
特開2007-99955号公報(特許文献3)においても、高硬度な硬化物、コーティング膜を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法が開示されている。(CH33SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、(CH33SiO1/2単位/SiO4/2単位(モル比)=0.75、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基含有量が1.1質量%と両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサンをテトラメチルグアニジンにより、室温で1時間縮合反応を行っている。上記特開2002-327115号公報(特許文献2)より製造時間が短縮されているが、極性の高いアミン化合物を使用しているため、オルガノシロキサン組成物に対する相溶性が悪く、またオルガノポリシロキサンと直接架橋しないため、組成物からアミン化合物が滲み出す問題がある。
【0006】
特許第6319168号公報(特許文献4)には、製造が簡便で、タクトタイムが短いことを特徴とする室温硬化性オルガノシロキサン組成物及びその製造方法が開示されている。R3SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、チタン触媒を含有する脱アルコールタイプの室温硬化性組成物としているが、チタン触媒含有のため湿気により加水分解されて組成物自体が白化する可能性がある。ビニルトリイソプロペノキシシラン及びテトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランを配合した脱アセトンタイプの室温硬化性組成物としても記載があるが、該シランは高価なことに加えて、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランが強塩基性を示すことから電気・電子部品及びその基板に使用されるフラックス成分と反応し、導電性の塩が生成されることで、電気的な性能が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-143331号公報
【文献】特開2002-327115号公報
【文献】特開2007-99955号公報
【文献】特許第6319168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、電気・電子分野(特に液晶周辺や電源回路基板)のコーティング材において、製造が簡便でかつコストが安く、更に縮合触媒である金属化合物非含有であっても高硬度の硬化物・コーティング膜(コンフォーマルコーティング被膜)を与える三次元網状構造を有する脱アルコール型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物の硬化物でコーティング又はシールされた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、(A)シラノール基を特定量有する、特定分子量及び特定構造の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂、(B)オルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、(C)分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン、及び(D)アミノ基含有加水分解性オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物を特定割合で含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、製造が簡便でかつコストが安く、更に金属化合物非含有であっても高硬度の硬化物・コーティング膜(コンフォーマルコーティング被膜)を与えることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は下記の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物の硬化物でコーティング又はシールされた物品を提供するものである。
[1]
下記(A)~(D)成分
(A);R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基又はヒドロキシ基を表す)及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位のモル比が0.5~1.5であり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記のとおり)を、SiO4/2単位に対し、それぞれ0~1.0のモル比で含有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基(シラノール基)を0.005~0.15モル/100g有する、分子量が2,000~10,000である三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂:100質量部、
(B);下記一般式(1)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:(A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.2~1となる量、
【化1】
(1)
(式(1)中、R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、R2は非置換又は置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Yは加水分解性基であり、mはである。)
(C);分子鎖両末端がシラノール基で封鎖され、23℃における粘度が30~10,000mPa・sであり、重合度が10~1,000である直鎖状ジオルガノポリシロキサン:10~100質量部、及び
(D);上記(A)成分及び(B)成分以外の、アミノ基含有加水分解性オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物:0.5~5質量部
を含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[2]
更に、(E);沸点が40~180℃であり、ベンゼン、トルエン及びキシレン以外の有機溶剤を、組成物の不揮発分が20~80質量%となるような量で含むものである[1]に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[3]
金属系縮合触媒を含まないものである[1]又は[2]に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[4]
電気・電子部品及び/又はその基板のコーティング用である[1]~[3]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[5]
液晶表示素子のシール用である[1]~[3]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物でコーティング又はシールされた物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造が簡便でかつコストが安く、更に金属化合物非含有であっても高硬度の硬化物・コーティング膜を与える脱アルコール型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0013】
[(A)成分]
まず、本発明の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂を含有する縮合反応硬化型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、主剤(ベースポリマー)として用いられる(A)成分は、R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基又はヒドロキシ基を表す)及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位のモル比が0.5~1.5であり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記のとおり)を、SiO4/2単位に対し、それぞれ0~1.0のモル比で含有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基(シラノール基)を0.005~0.15モル/100g有する、分子量が2,000~10,000である三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂である。
【0014】
前記Rは、非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基又はヒドロキシ基を示し、Rの非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基が挙げられ、またこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子等で置換したクロロメチル基等が挙げられる。これらRとしては、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基が好ましく、ヒドロキシ基、メチル基、フェニル基が特に好ましい。
【0015】
(A)成分において、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位のモル比は0.5~1.5の範囲であり、好ましくは0.6~1.3、特に好ましくは0.65~1.2である。このモル比が0.5より小さいと硬化物の補強性が不十分となり、1.5を超えると硬化物の硬度が不十分となる。
【0016】
(A)成分の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂としては、R3SiO1/2単位とSiO4/2単位のみからなることが好ましいが、SiO4/2単位に対するR2SiO2/2単位のモル比、SiO4/2単位に対するRSiO3/2単位のモル比がいずれも0~1.0の範囲で含有してもよく、より望ましくは該モル比がそれぞれ0.8以下(0~0.8)である。
【0017】
また、該(A)成分のオルガノポリシロキサン樹脂に含まれるシラノール基が0.005~0.15モル/100g(即ち、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で0.085~2.5質量%)であることが必要で、好ましくは0.01~0.13モル/100g(0.17~2.2質量%)であり、より好ましくは0.02~0.12モル/100g(0.3~2.0質量%)である。シラノール基が0.15モル/100gより多く存在すると、ゴム物性(特に硬度)が高値となり組成物のクラック発生が起こり得る。また、シラノール基が0.005モル/100gより少ないと(A)成分と(C)成分との縮合反応が十分進行しない場合があり、目的とする特性が得られない可能性がある
【0018】
(A)成分の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂としては、分子量が2,000~10,000、好ましくは2,500~8,000程度のものであり、分子量が小さすぎるとオルガノポリシロキサン組成物を硬化させて得られる硬化物(シリコーンゴム硬化物)がゴム弾性に乏しく割れやすくなり、分子量が大きすぎると均一なオルガノポリシロキサン組成物を調製することが困難となる。この分子量(又は重合度)は、通常、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量(又は数平均重合度)等として求めることができる。
【0019】
(A)成分のオルガノポリシロキサン樹脂は、1個の加水分解性基を有する1官能性トリオルガノシランを、4個の加水分解性基を有する4官能性シランと共に、あるいは更に3個の加水分解性基を有する3官能性オルガノシラン及び/又は2個の加水分解性基を有する2官能性ジオルガノシランと共に、有機溶媒中で共加水分解して縮合させることによって得られ、実質的に揮発成分を含まないものであり、公知の材料である。
ここで、共加水分解反応に用いられる有機溶媒としては、(A)成分であるオルガノポリシロキサン樹脂を溶解させることが必要であり、典型的な有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、シクロヘキサンやエチルシクロヘキサン、イソパラフィン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0020】
[(B)成分]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、下記一般式(1)で示される、分子中にケイ素原子に結合したアルコキシメチル基等のオルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を架橋剤(硬化剤)として含むことを特徴とする。なお、本発明において「部分加水分解縮合物」とは、該加水分解性オルガノシラン化合物を部分的に加水分解・縮合して生成する、分子中に残存加水分解性基を2個以上、好ましくは3個以上有するオルガノシロキサンオリゴマーを意味する。
【化2】
(1)
(式中、R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基であり、R2は非置換又は置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基であり、Yは加水分解性基であり、mは0、1又は2である。)
【0021】
ここで、上記式(1)において、R1で表される非置換又は置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等を例示することができる。これらの中でも、アルケニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基を除くものであることが好ましく、メチル基、エチル基等のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0022】
次に、上記式(1)において、R2で表される非置換又は置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基などや、これらの基の水素原子の一部が、メトキシ基、エトキシ基等の低級アルコキシ基で置換されたアルキル基、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等を例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基等の炭素原子数1~4の低級アルキル基が好ましい。
【0023】
また、上記式(1)において、Yは加水分解性基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素原子数1~4のアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等の炭素原子数2~4のアルコキシアルコキシ基;アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素原子数2~8のアシロキシ基;ビニロキシ基、プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、1-エチル-2-メチルビニルオキシ基等の炭素原子数2~6のアルケニルオキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基等の炭素原子数3~7のケトオキシム基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基等の炭素原子数2~6のアミノ基;ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基等の炭素原子数2~6のアミノキシ基;N-メチルアセトアミド基、N-エチルアセトアミド基、N-メチルベンズアミド基等の炭素原子数3~8のアミド基等が挙げられる。これらの中でも、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
mは0、1又は2であり、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0024】
上記式(1)で表される、分子中にケイ素原子に結合したアルコキシメチル基等のオルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物、及びその部分加水分解縮合物の具体例としては、メトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシラン、メトキシメチルメチルジメトキシシラン、エトキシメチルメチルジエトキシシラン、メトキシメチルエチルジメトキシシラン、エトキシメチルエチルジエトキシシラン、メトキシメチルヘキシルジメトキシシラン、エトキシメチルヘキシルジエトキシシラン、メトキシメチルオクチルジメトキシシラン、エトキシメチルオクチルジエトキシシラン、メトキシメチルフェニルジメトキシシラン、エトキシメチルフェニルジエトキシシラン、及びその部分加水分解縮合物などが挙げられる。
なお、例えば、上記具体例のメトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシランの構造式を示せば、以下のとおりである。これらの中では、エトキシメチルトリエトキシシランが特に好ましい。
【化3】
【0025】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、(B)成分のオルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物は、(A)成分のベースポリマー中のシラノール基と縮合反応により架橋構造を形成する架橋剤(硬化剤)として作用するものであって、(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物の配合量は、(A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.2~1となる量であり、0.4~1となる量が特に好ましい。(B)成分が少なすぎると該組成物を硬化しても十分なゴム物性が得られない、あるいは保存安定性が悪くなる場合があり、多すぎると速硬化性を損なう、又は経済的に不利である。
【0026】
[(C)成分]
(C)成分は、前記(A)成分と(B)成分との縮合反応によって(A)成分中のシラノール基の部位に(B)成分由来の加水分解性基が導入された三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂同士を縮合反応によって化学的に繋ぐ(連結する)ための重要な成分である。具体的には、分子鎖両末端がシラノール基(又はヒドロキシジオルガノシロキシ基)で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンであり、下記一般式(2)で示されるものが好ましい。
【化4】
(2)
(式中、R3は独立に炭素原子数1~10の非置換又はアルコキシ置換1価炭化水素基であり、nは10以上の整数である。)
【0027】
上記式(2)において、R3の炭素原子数1~10の非置換又はアルコキシ置換1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、あるいはこれらの水素原子の一部又は全部をアルコキシ基で置換した、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等のアルコキシ置換アルキル基などのアルコキシ置換1価炭化水素基を挙げることができる。これらの中でもメチル基が好ましい。
【0028】
この(C)成分の粘度は、23℃で10,000mPa・s以下(通常、30~10,000mPa・s)、好ましくは50~8,000mPa・s、特に好ましくは100~6,000mPa・s程度の粘度を示す流体(液状物)であることが好ましく、通常、上記式(2)における繰り返し単位数n(重合度)の値が約10~1,000、好ましくは30~500、より好ましくは50~400程度に相当するものである。なお、粘度は、通常、回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)により測定することができる。
【0029】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10~100質量部であり、10~80質量部が好ましい。(C)成分が少なすぎると該組成物を硬化するものの高硬度になりすぎてしまい良好なゴム特性が得られない。多すぎると硬度が低下するため、本発明の目的とする物性が得られない。
【0030】
[(D)成分]
(D)成分は、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に接着性を付与させる成分(接着性向上剤)であり、アミノ基含有加水分解性オルガノシラン(いわゆるアミノ官能性カーボンファンクショナルシラン又はアミノ官能性シランカップリング剤)及び/又はその部分加水分解縮合物である。
【0031】
アミノ基含有加水分解性オルガノシランとしては、下記一般式(3)で示されるものが例示できる。
【化5】
(3)
(式中、R4は独立に炭素原子数1~10の非置換又はアルコキシ置換1価炭化水素基であり、R5は窒素原子を含んでもよい炭素原子数2~15の2価炭化水素基であり、aは2又は3である。)
【0032】
上記式(3)において、R4の炭素原子数1~10の非置換又はアルコキシ置換1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、あるいはこれらの水素原子の一部又は全部をアルコキシ基で置換した、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等のアルコキシ置換アルキル基などのアルコキシ置換1価炭化水素基を挙げることができる。これらの中でもメチル基、エチル基が好ましい。R4は同じであっても、異なっていてもよい。
aは2又は3である。
【0033】
また、上記式(3)において、R5は窒素原子を含んでもよい炭素原子数2~15、好ましくは炭素原子数3~12の2価炭化水素基である。R5としては、例えば、下記(4-1)~(4-11)で示されるものが挙げられる。
-CH2-CH2- (4-1)
-CH2-CH2-CH2- (4-2)
-CH2-CH2-CH2-CH2- (4-3)
-CH2-C64- (4-4)
-CH2-C64-CH2- (4-5)
-CH2-CH2-C64- (4-6)
-CH2-CH2-C64-CH2- (4-7)
-CH2-CH2-C64-CH2-CH2- (4-8)
-CH2-CH2-NH-CH2-CH2- (4-9)
-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-CH2- (4-10)
-CH2-C64-CH2-NH-CH2-CH2-CH2- (4-11)
【0034】
フェニレン基に結合するアルキレン基の配向は、オルト、メタ、パラいずれの場合であってもよい。これらの中で、(4-2)、(4-10)が好ましく、特に好ましくは(4-2)である。
【0035】
また、(D)成分としては、下記一般式(5)で示される2価の塩基性部位Aを有するアミノ基含有加水分解性オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物も例示できる。
A=N-B-SiZ3 (5)
【0036】
上記式(5)において、2価の塩基性部位Aは、その構造中に窒素原子を2個以上、好ましくは2~5個、より好ましくは2~4個含む炭素原子数1~15の2価炭化水素基を示し、塩基性部位Aを含むA=N-で示される1価の基としては、例えば、下記式(6)で示される1,5,7-トリアザビシクロ[4,4,0]デカ-5-エンの部分構造からなる基などが挙げられ、塩基性部位A、すなわちA=で示される2価の基としては、例えば、下記式(7)で示されるN-置換又は非置換のグアニジル基等の強塩基性を示すものなどが挙げられる。なお、下記式(6)において、波線部は、Bとの結合部位であり、下記式(7)において、波線部は、窒素原子との結合部位である。
【化6】
(6)
【化7】
(7)
【0037】
上記式(7)中のR6~R9はそれぞれ、水素原子又は炭素原子数1~10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基などが挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。また、R6~R9は同じものであっても、異なっていてもよい。
【0038】
上記式(5)において、Zは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基、ビニロキシ基、アリロキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等のアルケニルオキシ基、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等のケトオキシム基、アセトキシ基等のアシルオキシ基などの炭素原子数1~6、好ましくは炭素原子数1~4の加水分解性基(即ち、ケイ素原子に結合してSi-O-C結合を形成し得る基)、あるいは、メチル基、エチル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基などの炭素原子数1~6、好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基から選ばれる1種又は2種以上の1価の基であるが、ケイ素原子に結合する3個のZのうち、少なくとも2個、好ましくは3個のZは加水分解性基である。
【0039】
加水分解性シリル基(-SiZ3)としては、例えば、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ビニルジメトキシシリル基、フェニルジメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のアルコキシシリル基;トリイソプロペノキシシリル基、メチルジイソプロペノキシシリル基、エチルジイソプロペノキシシリル基、ビニルジイソプロペノキシシリル基、フェニルジイソプロペノキシシリル基等のイソプロペノキシシリル基;トリス(ジメチルケトオキシム)シリル基、トリス(ジエチルケトオキシム)シリル基、トリス(エチルメチルケトオキシム)シリル基等のケトオキシムシリル基などが挙げられ、好ましくはトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基である。
【0040】
上記式(5)において、Bは、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含んでもよい、炭素原子数1~10、好ましくは炭素原子数1~6、より好ましくは炭素原子数2~4の、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基等又はこれらが組み合わされた基などの非置換又は置換の2価炭化水素基を示す。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、2-メチルプロピレン基等のアルキレン基;フェニレン基等のアリーレン基、これらアルキレン基とアリーレン基が結合した基、ケトン、エステル、アミド等が介在した上記アルキレン基などが挙げられるが、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、アミド結合を介したプロピレン基等であり、特に好ましくはプロピレン基である。
【0041】
上記式(5)で示されるアミノ基含有加水分解性オルガノシランの具体例としては、下記一般式(8-1)~(8-5)に示されるもの等を挙げることができる。なお、Me、Et、Phはそれぞれ、メチル基、エチル基、フェニル基を示す。
【化8】
(8-1)
【化9】
(8-2)
【化10】
(8-3)
【化11】
(8-4)
【化12】
(8-5)
【0042】
また、上記式(5)で示されるアミノ基含有加水分解性オルガノシランの具体例としては、A=N-で示される1価の基として式(6)で示される1,5,7-トリアザビシクロ[4,4,0]デカ-5-エンの部分構造で末端が置換されたプロピル基等の末端アミノ官能性基置換アルキル基を有するトリメトキシシランやトリエトキシシラン等も挙げることができる。
【0043】
これらの中では、式(8-1)、式(8-2)で示される、特には式(8-2)で示される、N-メチル置換のグアニジル基含有トリメトキシシラン(例えば、γ-(N,N’-ジメチルグアニジル)プロピルトリメトキシシラン)等の、N-メチル置換グアニジル基含有トリアルコキシシランが好ましい。
【0044】
(D)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
この(D)成分のアミノ基含有加水分解性オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物は、(A)成分100質量部に対して0.5~5質量部、好ましくは0.5~3質量部、特に好ましくは0.5~2質量部である。0.5質量部未満では、(A)成分と(C)成分の反応率が低くなり、目的とする硬化物が得られず、接着性が低下する場合がある。5質量部を超えると価格的に不利になる場合や、組成物の保存安定性が悪くなるなどの欠点がある。
【0045】
[(E)成分]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、更に(E)有機溶剤を配合することができる。(E)成分は、前記(A)成分を溶解させる溶剤として使用するものである。例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、フランなどのエーテル類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、低沸点イソパラフィン等の炭化水素類などが挙げられる。一般的な有機溶剤として、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物が知られているが、人に対して毒性を有すること、環境に対し悪影響を及ぼすため、近年では使用が敬遠されている。特にトルエンに関して、日本においては劇物に指定されており、管理濃度は20ppmと低く、厳重に管理されるべき化合物として知られている。よって、本発明においては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物を含まないことが好ましい。
これらの中では、低臭気で溶解性に優れ、環境負荷の少ない低沸点イソパラフィンであるIsoparC、IsoparE(いずれもExxon Mobil社製)が好ましく、IsoparEが特に好ましい。
【0046】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、(E)成分の沸点は40~180℃の範囲であることが好ましい。40℃未満では、揮発性が高いため危険性が増し、また室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化が早くなり作業性が低下する可能性がある。180℃を超えると揮発性が低くなることで硬化が遅くなる場合がある。
【0047】
また(E)成分は、前記室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の不揮発分が20~80質量%の範囲になるように添加されることが好ましい。20質量%未満では(E)成分の揮発量が多くなりアトムエコノミー的に不利である。80質量%を超えると、前記(A)成分に対する溶解性が悪くなり室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を調製することが難しくなる。
【0048】
[その他の成分]
また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、上記成分以外に、必要に応じて充填剤や添加剤などを本発明の目的を損なわない範囲で配合しても差し支えない。充填剤としては、粉砕シリカ、煙霧状シリカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウム、湿式シリカなどが挙げられる。添加剤としては、公知の添加剤、例えば、ウェッターやチキソトロピー向上剤としてのポリエーテル、可塑剤、非反応性ジメチルシリコーンオイルなどが挙げられる。更に、必要に応じて、顔料、染料等の着色剤、蛍光増白剤、防かび剤、抗菌剤、ブリードオイルとしての非反応性フェニルシリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、シリコーンと非相溶の有機液体等の表面改質剤も添加してよい。
【0049】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、常法に従い上記各成分を混合することによって製造し、湿分を避けた雰囲気で保存することができ、これを室温(23℃±15℃)に放置することにより、空気中の水分存在下で通常5分~1週間で硬化する。
なお、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の粘度は、23℃で10~5,000mPa・s、特に20~3,000mPa・sであることが好ましい。
【0050】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、通常、縮合硬化型の組成物に常用される有機鉛化合物、有機スズ化合物、有機チタン化合物等の縮合触媒作用を有する金属化合物(金属系縮合触媒)を含有しなくても、安定的に硬化反応が進行して高硬度の硬化被膜を形成することができる。
【0051】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、特に、製造が簡便でかつコストが安く、更に金属化合物非含有であっても、高硬度の硬化物・コーティング膜(コンフォーマルコーティング被膜)を得ることができる。該組成物は、コーティング材組成物やシール材組成物としての用途、特に電気・電子部品及びその基板のコーティング材(コンフォーマルコーティング材)、液晶表示素子用シール材等に好適である。
【0052】
また、本発明によれば、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物でコーティング又はシールされた物品を提供することができる。
本発明を適用する物品としては、例えば、自動車用部品(車載部品)、自動車用オイルシール、電気・電子用部品及びその基板、液晶表示素子、電線・ケーブル、建築用構造物、土木工事用構造物等が挙げられる。
【実施例
【0053】
以下、本発明を具体的に説明する実施例及び比較例を示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記の例において、Meはメチル基であり、粘度は23℃における回転粘度計による測定値であり、分子量はトルエンを展開溶媒としたGPC分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量を示す。
【0054】
[実施例1]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparE(Exxon Mobil社製、沸点115~140℃、以下同じ)で溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.74となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が700mPa・sであり、重合度が約270であるジメチルポリシロキサンポリマー40質量部、(D)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1質量部を室温(23℃、以下同じ)で30分混合して組成物1を得た。
【0055】
[実施例2]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン8質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.59となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサンポリマー30質量部、(D)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1質量部を室温で30分混合して組成物2を得た。
【0056】
[実施例3]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン8質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.59となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサンポリマー30質量部、(D)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン0.3質量部を室温で30分混合して組成物3を得た。
【0057】
[実施例4]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン8質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.59となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサンポリマー30質量部、(D)成分としてγ-(N,N’-ジメチルグアニジル)プロピルトリメトキシシラン0.3質量部を室温で30分混合して組成物4を得た。
【0058】
[実施例5]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン8質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.59となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサンポリマー30質量部、(D)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部、γ-(N,N’-ジメチルグアニジル)プロピルトリメトキシシラン0.1質量部を室温で30分混合して組成物5を得た。
【0059】
[比較例1]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.74となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が700mPa・sであり、重合度が約270であるジメチルポリシロキサンポリマー40質量部を室温で30分混合して組成物6を得た。
【0060】
[比較例2]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.74となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサンポリマー40質量部を室温で30分混合して組成物7を得た。
【0061】
[比較例3]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.74となる量)、(D)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1質量部を室温で30分混合して組成物8を得た。
【0062】
[比較例4]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分としてエトキシメチルトリエトキシシラン2質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.15となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサンポリマー30質量部、(D)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1質量部を室温で30分混合して組成物9を得た。
【0063】
[比較例5]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500でかつ、シラノール基含有量が0.11モル/100g(ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた樹脂状シロキサンコポリマー92質量部、(B)成分の代わりにビニルトリイソプロペノキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対してビニルトリイソプロペノキシシランのモル比が0.72となる量)、(D)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部を室温で30分混合した。次に、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖され、23℃における粘度が700mPa・sであり、重合度が約270であるジメチルポリシロキサンポリマー60質量部を室温で40分混合した。最後に(D)成分としてγ-(N,N’-ジメチルグアニジル)プロピルトリメトキシシラン1質量部を室温で30分混合して組成物10を得た。

【0064】
調製した組成物1~10を用いて、以下の特性を確認した。下記の結果と共に組成物の調製時間を下記表1、2に示す。
【0065】
・粘度及び初期硬化性
調製した組成物1~10について、23℃/50%RH環境下での粘度を測定した。また、初期硬化性として、調製した組成物1~10を、23℃/50%RH環境下にて厚さが3mmになるように7日放置して硬化させ、JIS K 6249に従い、タイプAデュロメータにて硬さを測定した。
【0066】
・保存性
調製した組成物1~10を密閉可能容器に入れ、23℃/50%RH環境下で6ヶ月放置した。6ヶ月経過した組成物1~10を、23℃/50%RH環境下にて厚さが3mmになるように7日放置して硬化させ、JIS K 6249に従い、タイプAデュロメータにて硬さを測定し、初期硬度と比較して±5の値であれば良好、±5を外れた場合は不良として判断した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
(D)成分を配合しない組成物6及び7は、23℃/50%RH環境下にて厚さが3mmになるように7日放置して硬化させたが、粘稠体となり測定不能であった。
(C)成分を配合しない組成物8は、液体のままで硬化せず、長期間放置すると粉体となって析出した。
(A)成分中のシラノール基に対する(B)成分のモル比が本発明の範囲から外れる組成物9は、良好な硬化性を示したが、保存性試験では硬度が低下し、更に粘度も大きくなる結果であった。
組成物10は、前記特許文献4(特許第6319168号公報)に記載の方法で調製した脱アセトンタイプの室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。硬さ、保存性共に良好であったが、調製するために三工程を経る必要があるため製造工程が煩雑になるばかりか、調製(混合)時間も長いため本発明の目的とする簡便な製造方法とは言い難い。
これに対して、本発明の(A)~(D)成分の特定量を配合した実施例の組成物1~5は、製造が簡便でかつコストが安く、更に縮合触媒である金属化合物を含有しなくとも安定した硬化性を示し、硬さ、保存性共に良好である。