(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】共役系導電性重合体含有分散液、及び固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240910BHJP
C08K 5/357 20060101ALI20240910BHJP
C08K 7/16 20060101ALI20240910BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240910BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240910BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240910BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K5/357
C08K7/16
C08L65/00
C08G61/12
H01G9/00 290H
H01G9/028 G
(21)【出願番号】P 2023063733
(22)【出願日】2023-04-10
(62)【分割の表示】P 2019538961の分割
【原出願日】2018-05-09
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2017167324
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 元章
(72)【発明者】
【氏名】大久保 隆
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021164(JP,A)
【文献】特開2009-196202(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088300(WO,A1)
【文献】特公昭55-028214(JP,B1)
【文献】特開2008-085240(JP,A)
【文献】国際公開第2014/163202(WO,A1)
【文献】特開2014-024905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08G
H01G 9/00
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子、またはポリアニオンと、
共役系導電性高分子と、
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は、(1)水素原子、(2)水酸基、シアノ基、アミノ基で置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基、(3)炭素数5~6のシクロアルケニル基、(4)アミノ基、シアノ基、またはホルミル基で置換されていてもよいフェニル基
、(7)アリル基
、(9)ピリジル基、
または(10)水酸基で置換されていてもよいアルキルスルホ
基を表わし、nは0、1または2である。)で示されるモルホリン化合物と、分散媒体と、を含む共役系導電性重合体含有分散液。
【請求項2】
前記分散媒体は、水性媒体である請求項1に記載の共役系導電性重合体含有分散液。
【請求項3】
前記一般式(1)で示されるモルホリン化合物が、モルホリン、4-エチルモルホリン、4-n-ブチルモルホリン、4-イソブチルモルホリン、4-フェニルモルホリン、4-(2-ヒドロキシプロピル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、または4-(3-ヒドロキシプロピル)モルホリンである請求項1または2に記載の共役系導電性重合体含有分散液。
【請求項4】
前記モルホリン化合物が、4-エチルモルホリンである請求項3に記載の共役系導電性重合体含有分散液。
【請求項5】
さらに、添加剤として電気伝導率向上剤を含み、該電気伝導率向上剤が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれる少なくとも1つを含む請求項1~4のいずれかに記載の共役系導電性重合体含有分散液。
【請求項6】
ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子を含む分散媒中で、またはポリアニオンを含む分散媒中で、共役系導電性重合体を得るための単量体を重合して共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)、
前記共役系導電性重合体含有分散液に、下記一般式(1)
【化2】
(式中、R
1は、(1)水素原子、(2)水酸基、シアノ基、アミノ基で置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基、(3)炭素数5~6のシクロアルケニル基、(4)アミノ基、シアノ基、またはホルミル基で置換されていてもよいフェニル基、(5)アセチル基、(6)アセトアセチル基、(7)アリル基、(8)アク
リロイル基、(9)ピリジル基、(10)水酸基で置換されていてもよいアルキルスルホ基、または(11)ホルミル基を表わし、nは0、1または2である。)で示されるモルホリン化合物を添加し、該モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液を調製する工程(B)、
前記分散液を表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体に付着させる工程(C)、
及び前記多孔性陽極体に付着した、モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液から分散媒を除去し固体電解質層を形成する工程(D)を有し、
前記工程(B)において、前記モルホリン化合物と前記共役系導電性重合体を含有する前記分散液はpH3~13であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子を含む分散媒中で、またはポリアニオンを含む分散媒中で、共役系導電性重合体を得るための単量体を重合して共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)、
前記共役系導電性重合体含有分散液に、4-エチルモルホリンを添加し、該4-エチルモルホリンと共役系導電性重合体を含有する分散液を調製する工程(B)、
前記分散液を表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体に付着させる工程(C)、
及び前記多孔性陽極体に付着した、前記4-エチルモルホリンと共役系導電性重合体を含有する分散液から分散媒を除去し固体電解質層を形成する工程(D)を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記一般式(1)で示されるモルホリン化合物が、モルホリン、4-エチルモルホリン、4-n-ブチルモルホリン、4-イソブチルモルホリン、4-フェニルモルホリン、4-(2-ヒドロキシプロピル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、または4-(3-ヒドロキシプロピル)モルホリンである請求項6に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記シード粒子が、エチレン性不飽和単量体の重合体の粒子である請求項6~8のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子のd50粒子径が、0.01~10μmである請求項6~9のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)において、生成する共役系導電性重合体を分散処理する請求項6~10のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
前記分散処理が超音波照射である請求項11に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項13】
前記共役系導電性重合体を得るための単量体が、下記式(2)
【化3】
(式中、R
2及びR
3は、各々独立して水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルコキシ基、若しくは置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキルチオ基を表し、またはR
2とR
3とが互いに結合して置換基を有してもよい炭素数3~10の脂環、置換基を有してもよい炭素数6~10の芳香環、置換基を有してもよい炭素数2~10の酸素原子含有複素環、置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子含有複素環、若しくは置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子及び酸素原子含有複素環を表す。)
で示される化合物である請求項6~12のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
前記ポリアニオンが、スルホ基を有するポリマーである請求項6~13のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項15】
前記ポリアニオン中のアニオン基の割合が、前記共役系導電性重合体を得るための単量体1モルに対し、0.25~30モルである請求項6~14のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
前記工程(B)において、電気伝導率向上剤としてエチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれる少なくとも1つを添加する請求項6~15のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項17】
ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子、またはポリアニオンと、
共役系導電性高分子と、
下記一般式(1)
【化4】
(式中、R
1
は、(1)水素原子、(2)水酸基、シアノ基、アミノ基で置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基、(3)炭素数5~6のシクロアルケニル基、(4)アミノ基、シアノ基、またはホルミル基で置換されていてもよいフェニル基、(5)アセチル基、(6)アセトアセチル基、(7)アリル基、(8)アクリロイル基、(9)ピリジル基、(10)水酸基で置換されていてもよいアルキルスルホ基、または(11)ホルミル基を表わし、nは0、1または2である。)で示されるモルホリン化合物と、分散媒体と、添加剤として電気伝導率向上剤と、を含み、前記電気伝導率向上剤が、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールから選ばれる少なくとも1つを含む共役系導電性重合体含有分散液。
【請求項18】
前記電気伝導率向上剤が、エチレングリコール及びグリセリンから選ばれる少なくとも1つである請求項17に記載の共役系導電性重合体含有分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役系導電性重合体含有分散液、固体電解コンデンサの製造方法及びその製造方法により得られる固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、金属表面に陽極酸化によって誘電体酸化被膜を形成し、これに固体電解質を接触させて製造される。固体電解質として導電性高分子を用いた固体電解コンデンサが提案されている。
陽極酸化による誘電体酸化被膜で被われる金属の例として、アルミニウム、タンタル、ニオブ等が知られている。
また、固体電解コンデンサに用いられる導電性高分子として、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリ(p-フェニレン-ビニレン)、ポリアセン、ポリチオフェンビニレン及びその誘導体等の共役系導電性重合体が知られている。また、前記共役系導電性重合体の対アニオンとしてポリスチレンスルホン酸等のポリアニオンを用い、共役系導電性重合体をドープする技術が知られている。
【0003】
固体電解質は、一般的に弁作用を有する金属表面に形成した誘電体酸化被膜上に、導電性高分子重合体を得るための単量体溶液と酸化剤溶液とを化学酸化重合して形成されるか、もしくは電解重合によって形成される。また、導電性高分子水溶液もしくは懸濁液の塗布によって固体電解質を形成する方法が提案されている。
例えば、特開2003-100561号公報(特許文献1)には、コンデンサ素子に導電性高分子の微粒子を分散させた導電性高分子分散水溶液を含浸させて第1の固体電解質層を形成する工程と、この第1の固体電解質層の表面に、複素環式モノマーを含有する溶液と酸化剤を含有する溶液を個々に含浸させることにより、または複素環式モノマーと酸化剤を含有する混合溶液を含浸させることにより第2の固体電解質層を形成する工程を有する製造方法が開示されている。
【0004】
特開2005-109252号公報(特許文献2)には、弁金属粉末を焼結してなる焼結体の表面に誘電体酸化皮膜を形成したコンデンサ素子に、重合性モノマーの化学重合により導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、このコンデンサ素子を導電性高分子溶液に浸漬、または導電性高分子溶液を塗布し乾燥させることにより、化学重合による導電性高分子層の上にさらに導電性高分子層を厚く形成する方法が開示されている。
【0005】
特表2011-510141号公報(米国特許第8721928号公報)(特許文献3)には、導電性ポリマーをコンデンサ内部へ含浸させるために、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホン酸(PEDOT-PSS)分散液を低粘度化し、超音波照射を用いて重合するプロセスが提案されている。
【0006】
国際公開第2014/163202号(米国特許第9640325号公報)(特許文献4)には、共役系導電性重合体を得るための単量体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子を含む分散媒中で、単量体を重合して共役系導電性重合体含有分散液を得る工程により、コンデンサ特性に優れた固体電解コンデンサを生産性よく製造できる方法及び固体電解コンデンサが開示されている。この固体電解コンデンサは、導電性高分子を用いることで低等価直列抵抗(ESR)、優れた周波数特性、温度変化に対し特性変化が小さいという特徴を持っている。近年、固体電解コンデンサは、インバーター電源や車載機器等の回路周辺温度が上昇する傾向にある箇所への適用が期待されており、固体電解コンデンサのさらなる高温安定性及び高温信頼性が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-100561号公報
【文献】特開2005-109252号公報
【文献】特表2011-510141号公報(米国特許第8721928号公報)
【文献】国際公開第2014/163202号(米国特許第9640325号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、容量発現率(静電容量)が高く、耐熱性に優れ、高温条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを得るための共役系導電性重合体含有分散液を提供することを目的とする。
また、本発明は、容量発現率(静電容量)が高く、耐熱性に優れ、高温条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、固体電解コンデンサの固体電解質として用いる共役系導電性重合体分散液にモルホリン化合物を添加して調製した分散液、すなわちモルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液を、誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性用極体に付着させる工程により固体電解質層を形成することにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記[1]~[14]の固体電解コンデンサの製造方法及び固体電解コンデンサに関する。
【0010】
[1]ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子を含む分散媒中で、またはポリアニオンを含む分散媒中で、共役系導電性重合体を得るための単量体を重合して共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)、
前記共役系導電性重合体含有分散液に、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は、(1)水素原子、(2)水酸基、シアノ基、アミノ基で置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基、(3)炭素数5~6のシクロアルケニル基、(4)アミノ基、シアノ基、またはホルミル基で置換されていてもよいフェニル基、(5)アセチル基、(6)アセトアセチル基、(7)アリル基、(8)アクロイル基、(9)ピリジル基、(10)水酸基で置換されていてもよいアルキルスルホ基、または(11)ホルミル基を表わし、nは0、1または2である。)
で示されるモルホリン化合物を添加し、モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液を調製する工程(B)、前記分散液を表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性陽極体に付着させる工程(C)、及び前記多孔性陽極体に付着した、モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液から分散媒を除去し固体電解質層を形成する工程(D)を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
[2] 前記一般式(1)で示されるモルホリン化合物が、4-n-ブチルモルホリン、4-イソブチルモルホリン、4-フェニルモルホリン、4-(2-ヒドロキシプロピル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、または4-(3-ヒドロキシプロピル)モルホリンである前項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[3] 前記シード粒子が、エチレン性不飽和単量体の重合体の粒子である前項1または2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[4] 前記ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子のd50粒子径が、0.01~10μmである前項1~3のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[5] 前記共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)において、前記共役系導電性重合体を得るための単量体の重合中にさらにポリアニオンまたはポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子の分散液を添加する前項1~4のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[6] 前記共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)において、生成する共役系導電性重合体を分散処理する前項1~5のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[7] 前記分散処理が超音波照射である前項6に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[8] 前記共役系導電性重合体を得るための単量体が、置換基を有してもよい、ピロール化合物、アニリン化合物、及びチオフェン化合物から選ばれる少なくとも1つである前項1~7のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[9] 前記共役系導電性重合体を得るための単量体が、下記式(2)
【化2】
(式中、R
2及びR
3は、各々独立して水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルコキシ基、若しくは置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキルチオ基を表し、またはR
2とR
3とが互いに結合して置換基を有してもよい炭素数3~10の脂環、置換基を有してもよい炭素数6~10の芳香環、置換基を有してもよい炭素数2~10の酸素原子含有複素環、置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子含有複素環、若しくは置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子及び酸素原子含有複素環を表す。)示される化合物である前項1~8のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[10] 前記ポリアニオンが、スルホ基を有するポリマーである前項1~9のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[11] 前記ポリアニオン中のアニオン基の割合が、前記共役系導電性重合体を得るための単量体1モルに対し、0.25~30モルである前項1~10のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[12] 前記共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)において、前記分散媒が水を含み、前記重合がペルオキソ二硫酸及びその塩から選ばれる少なくとも1つの酸化剤を用いて行われる前項1~11のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[13] 前記工程(B)において、電気伝導率向上剤としてエチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンから選ばれる少なくとも1つを添加する前項1~12のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[14] 前項1~13のいずれかに記載の製造方法で得られた固体電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容量発現率(静電容量)が高く、耐熱性に優れ、高温条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを得るための共役系導電性重合体含有分散液を提供することができる。
また、本発明によれば、容量発現率(静電容量)が高く、耐熱性に優れ、高温条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子を含む分散媒中で、またはポリアニオンを含む分散媒中で、共役系導電性重合体を得るための単量体を重合して共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)、前記共役系導電性重合体含有分散液に、一般式(1)で示されるモルホリン化合物(詳細は後述する。)を添加し、モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液を調製する工程(B)、前記分散液を表面に誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性用極体に付着させる工程(C)、及び前記多孔性陽極体に付着した、モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液から分散媒を除去し固体電解質層を形成する工程(D)を有することを特徴とする。
本明細書においては、共役系導電性重合体を得るための単量体を単独で重合して、または複数の単量体を共重合して得られる共役系導電性共重合体を合わせて「共役系導電性重合体」と言う。
また、ポリアニオンがシード粒子の表面に配位して保護コロイドを形成した状態の粒子を「ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子」と言う。なお、ポリアニオンは、アニオン性基を2個以上有する重合体を意味する。
【0013】
<共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)>
共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)は、(1)共役系導電性重合体を得るための単量体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子とを含む分散媒中で、または(2)共役系導電性重合体を得るための単量体とポリアニオンとを含む分散媒中で、前記単量体を重合して行われる。
本工程(A)における共役系導電性重合体含有分散液(以下、「分散液a」と呼ぶことがある)は、共役系導電性重合体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子との複合体、または共役系導電性重合体とポリアニオンとの複合体から選択される少なくとも一つが分散媒中に分散した分散液である。本工程において、ポリアニオンは共役系導電性重合体にドープすることで複合体を形成すると考えられる。
【0014】
[共役系導電性重合体]
本明細書において、共役系導電性重合体は主鎖にπ共役系を有する有機高分子化合物であれば特に限定されるものではない。共役系導電性重合体化合物としては、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリイソチアナフテン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。なお、前記の共役系導電性重合体化合物表記における「類」は、当該化合物構造を含む化合物群を意味するものであり、例えばポリピロール類はポリピロール構造を含む化合物群を指す。
前記の共役系導電性重合体の中でも、ポリピロール類、ポリチオフェン類及びポリアニリン類が好ましく、ポリチオフェン類がより好ましい。また、高い導電性を得る観点から、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシル基、水酸基、シアノ基等の置換基を有する共役系導電性重合体が好ましい。
以下に好ましい共役系導電性重合体であるポリピロール類、ポリチオフェン類及びポリアニリン類の具体例を示す。
【0015】
ポリピロール類としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)及びポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。
【0016】
ポリチオフェン類としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)及びポリ(3,4-エチレンオキシチアチオフェン)等が挙げられる。
【0017】
ポリアニリン類として、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)及びポリ(3-アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
これらの中でも、導電性が高い点から、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)及びポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。特に導電性が高く、耐熱性にも優れていることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)がより好ましい。
本発明では、共役系導電性重合体は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
[共役系導電性重合体を得るための単量体]
前記共役系導電性重合体の構成単位である単量体は、置換基を有してもよいピロール、置換基を有してもよいアニリン、及び置換基を有してもよいチオフェンから選ばれる1種以上を含むものが好ましい。置換基としては、例えば炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数5~10のヘテロアリール基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のアルキルチオ基、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子及びシアノ基等が挙げられる。なお、前記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基及びアルキルチオ基は、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子またはシアノ基のうちから選ばれる1種以上で置換されていてもよい。また、前記置換基は、2つ以上が縮合して環を形成していてもよい。
【0019】
前記単量体の具体例としては、ピロール、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-n-プロピルピロール、3-ブチルピロール、3-オクチルピロール、3-デシルピロール、3-ドデシルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジブチルピロール、3-カルボキシルピロール、3-メチル-4-カルボキシルピロール、3-メチル-4-カルボキシエチルピロール、3-メチル-4-カルボキシブチルピロール、3-ヒドロキシピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール、3-ブトキシピロール、3-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール;
【0020】
チオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3-プロピルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-オクタデシルチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-クロロチオフェン、3-ヨードチオフェン、3-シアノチオフェン、3-フェニルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-ヘキシルオキシチオフェン、3-ヘプチルオキシチオフェン、3-オクチルオキシチオフェン、3-デシルオキシチオフェン、3-ドデシルオキシチオフェン、3-オクタデシルオキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、3,4-ジオクチルオキシチオフェン、3,4-ジデシルオキシチオフェン、3,4-ジドデシルオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-ブチレンジオキシチオフェン、3-メチル-4-メトキシチオフェン、3-メチル-4-エトキシチオフェン、3-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン、3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン、3,4-エチレンオキシチアチオフェン;アニリン、2-メチルアニリン、3-イソブチルアニリン、2-アニリンスルホン酸、3-アニリンスルホン酸等が挙げられる。
本発明では共役系導電性重合体を得るための単量体は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
共役系導電性重合体を得るための単量体としては、前記単量体の中でも、下記式(2)で示される化合物が含まれることが好ましく、下記式(3)で示される化合物が含まれることがより好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェンが含まれることがさらに好ましい。
【0022】
【0023】
前記式(2)中、R2及びR3は、各々独立して、水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~18のアルコキシ基、若しくは置換基を有してもよい炭素数1~18のアルキルチオ基を表す。R2とR3とは互いに結合して環を形成した、置換基を有してもよい炭素数3~10の脂環、置換基を有してもよい炭素数6~10の芳香環、置換基を有してもよい炭素数2~10の酸素原子含有複素環、置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子含有複素環、若しくは置換基を有してもよい炭素数2~10のイオウ原子及び酸素原子含有複素環を表す。置換基としては、例えば炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数5~10のヘテロアリール基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のアルキルチオ基、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子及びシアノ基が挙げられる。なお、上記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基及びアルキルチオ基は、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子またはシアノ基で置換されていてもよい。また2つ以上の置換基が縮合して環を形成していてもよい。
【0024】
前記酸素原子含有複素環としては、オキシラン環、オキセタン環、フラン環、ヒドロフラン環、ピラン環、ピロン環、ジオキサン環、トリオキサン環等が挙げられる。
前記イオウ原子含有複素環としては、チイラン環、チエタン環、チオフェン環、チアン環、チオピラン環、チオピリリウム環、ベンゾチオピラン環、ジチアン環、ジチオラン環、トリチアン環等が挙げられる。
前記イオウ原子及び酸素原子含有複素環としては、オキサチオラン環、オキサチアン環等が挙げられる。
【0025】
式(3)中、R4及びR5は各々独立して、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基を表し、または、R4とR5とが互いに結合して環を形成した、置換基を有してもよい炭素数3~6の酸素原子含有複素環を表す。
R4及びR5は、好ましくはR4とR5とが互いに結合して環を形成した、置換基を有してもよい炭素数3~6の酸素原子含有複素環である。前記酸素原子含有複素環としては、ジオキサン環、トリオキサン環等が挙げられ、好ましくはジオキサン環である。置換基としては、例えば炭素数1~18のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数5~10のヘテロアリール基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のアルキルチオ基、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子及びシアノ基が挙げられる。なお、前記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基及びアルキルチオ基は、カルボキシ基、水酸基、ハロゲン原子またはシアノ基で置換されていてもよい。また2つ以上の置換基が縮合して環を形成していてもよい。
【0026】
[ポリアニオン]
ポリアニオンは、アニオン性基を2個以上有する重合体であり、シード粒子の表面に配位して保護コロイドを形成し、かつ、共役系導電性重合体へのドーパントとして機能する。
アニオン性基としては、例えば、スルホン酸またはその塩からなる基、リン酸またはその塩からなる基、一置換リン酸エステル基、カルボン酸またはその塩からなる基、一置換硫酸エステル基等が挙げられる。これらの中でも、強酸性基が好ましく、スルホン酸またはその塩からなる基、及びリン酸またはその塩からなる基がより好ましく、スルホン酸またはその塩からなる基がさらに好ましい。
アニオン性基は、重合体の主鎖に直接結合していても、側鎖に結合していてもよい。アニオン性基が側鎖に結合している場合、ドープ効果がより顕著となることから、側鎖末端に結合していることが好ましい。
【0027】
ポリアニオンは、アニオン性基以外の置換基を有してもよい。置換基としては、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、フェノール基、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、エステル基、ハロゲノ基、アルケニル基、イミド基、アミド基、アミノ基、オキシカルボニル基、カルボニル基等が挙げられる。これらの中でアルキル基、水酸基、シアノ基、フェノール基、オキシカルボニル基が好ましく、アルキル基、水酸基、シアノ基がより好ましい。置換基はポリマー主鎖に直接結合していてもよいし、側鎖に結合していてもよい。側鎖に置換基が結合している場合にそれぞれの置換基の作用効果を示すため、置換基は側鎖末端に結合していることが好ましい。
【0028】
ポリアニオン中に置換し得るアルキル基は、分散媒への溶解性及び分散性、共役系導電性重合体との相溶性及び分散性等を高くする作用が期待できる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。分散媒への溶解性、共役系導電性重合体への分散性、立体障害等を考慮すると、炭素数1~12のアルキル基がより好ましい。
【0029】
ポリアニオン中に置換し得る水酸基は、他の水素原子等との水素結合を形成しやすくし、分散媒への溶解性、共役系導電性重合体との相溶性、分散性、接着性を高くする作用が期待できる。水酸基は、ポリマー主鎖に結合した炭素数1~6のアルキル基の末端に結合したものが好ましい。
【0030】
ポリアニオン中に置換し得るシアノ基及びヒドロキシフェニル基は、共役系導電性重合体との相溶性、分散媒への溶解性、耐熱性を高くする作用が期待できる。シアノ基は、ポリマー主鎖に直接結合したもの、ポリマー主鎖に結合した炭素数1~7のアルキル基の末端に結合したもの、ポリマー主鎖に結合した炭素数2~7のアルケニル基の末端に結合したものが好ましい。
【0031】
ポリアニオン中に置換し得るオキシカルボニル基は、ポリマー主鎖に直接結合した、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、他の官能基を介在してなるアルキルオキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基が好ましい。
【0032】
ポリアニオンのポリマー主鎖の組成は、特に制限されない。ポリマー主鎖としては、例えば、ポリアルキレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。これらのうち、合成や入手し易さの観点から、ポリアルキレンが好ましい。
【0033】
ポリアルキレンは、エチレン性不飽和単量体の繰り返し単位で構成されるポリマーである。ポリアルキレンは主鎖に炭素-炭素二重結合を有してもよい。ポリアルキレンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリ(3,3,3-トリフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等が挙げられる。
【0034】
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2,3,3-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、2,2-[4,4’-ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の酸無水物とオキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとの重縮合反応で得られるものが挙げられる。
【0035】
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10等が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0036】
ポリアニオンとして好適に用いられるスルホ基を有するポリマーの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等が挙げられる。これらは単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。これらのうち、導電性付与の点から、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましく、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がより好ましい。
ポリアニオン、特にスルホ基を有するポリマーは、共役系導電性重合体を得るための単量体の分散媒中での分散性を向上させ、さらに共役系導電性重合体のドーパントとして機能する。
【0037】
本発明に用いるポリアニオンは、その重量平均分子量が好ましくは1000~1000000、より好ましくは5000~500000、さらに好ましくは50000~300000である。重量平均分子量がこの範囲にあると、ポリアニオンの分散媒への溶解性、ポリアニオンの共役系導電性重合体へのドーピングが良好となる。なお、ここで言う重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算分子量として測定された値である。
【0038】
ポリアニオンは市販品の中から上記特性を有するものを選択してもよいし、または公知の方法により合成したものでもよい。ポリアニオンの合成法は、例えば、特開2005-76016号公報に記載されている。
【0039】
ポリアニオンの使用量、すなわちシード粒子の保護コロイド化に使用されるもの、重合開始前に予め仕込んでおくもの及び/または重合途上で添加するものを合わせたポリアニオンの総使用量は、ポリアニオン中のアニオン性基が、共役系導電性重合体を得るための単量体1モルに対して、好ましくは0.25~30モル、より好ましくは0.8~25モルとなる量である。
また、本工程における共役系導電性重合体100質量部に対するポリアニオンの使用量は、好ましくは10~30000質量部、より好ましくは50~25000質量部である。
ポリアニオンの使用量が10質量部以上であれば導電性重合体の導電性が適切であり、30000質量部以下であれば導電性重合体の分散媒中での分散性が良好である。
【0040】
[シード粒子]
本発明に用いるシード粒子は、分散媒体中でポリアニオンにより保護コロイド化されるポリマー粒子である。シード粒子としては、例えば、1種または2種以上のエチレン性不飽和単量体を構成単位として含む重合体からなるものが好ましい。重合体は、1種単独でも、2種以上の混合物でもよく、また、結晶性または非晶性のいずれでもよい。結晶性の場合は、結晶化度が50%以下であることが好ましい。
【0041】
エチレン性不飽和単量体としては、重合性のエチレン性炭素-炭素二重結合を1個以上有しているものであればよい。エチレン性不飽和単量体としては、例えば、直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;酢酸ビニル、アルカン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のモノオレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β-不飽和モノあるいはジカルボン酸;アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド等のカルボニル基含有ビニル化合物等が挙げられる。これらのエチレン性不飽和単量体は、1種単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを指し、また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを指す。
【0042】
また、エチレン性不飽和単量体は、架橋性単量体を含んでいてもよく、それ自身同士、または活性水素基を持つエチレン性不飽和化合物と組み合わせて架橋させてもよい。架橋した共重合体とすることにより、導電膜の耐水性、耐湿性、耐熱性等を向上させることができる。なお、架橋性単量体とは、エチレン性炭素-炭素二重結合を2個以上有する化合物、またはエチレン性炭素-炭素二重結合を1個以上有し、かつその他の反応性基を1個以上有する化合物を言う。
架橋性単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有α,β-エチレン性不飽和化合物;ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性アルコキシシリル基含有α,β-エチレン性不飽和化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物等が挙げられる。
また、カルボニル基含有α,β-エチレン性不飽和化合物(ケトン基含有のもの)等の架橋性単量体を用いて、ポリヒドラジン化合物(特に、シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等の2個以上のヒドラジド基を有するもの)と組み合わせて架橋させてもよい。
エチレン性不飽和単量体中の架橋性単量体の含有量は、50質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
ポリアニオンによって保護コロイド化されたシード粒子の製造:
シード粒子は、分散媒体中でポリアニオンによって保護コロイド化されるものであり、分散媒中に分散した保護コロイド化されたシード粒子の分散液は、樹脂エマルジョンとして製造することができる。
【0044】
樹脂エマルジョンの重合反応は、ラジカル重合反応であり、常圧反応器または耐圧反応器を用い、バッチ式、半連続式、連続式のいずれかの方法で行われる。また、重合時の反応安定性や重合体の均一性の点から、エチレン性不飽和単量体及びポリアニオンを、それぞれ分散媒体中に予め溶解、乳化または分散させたポリアニオン含有液にエチレン性不飽和単量体溶液を連続的または断続的に添加して重合させることが好ましい。
反応温度は、通常10~100℃で行われ、30~90℃が一般的である。反応時間は特に制限されることはなく、各成分の使用量、重合開始剤の種類及び反応温度等に応じて適宜調整すればよい。
【0045】
ラジカル重合する際、保護コロイドであるポリアニオンがエマルジョン粒子の安定性に寄与するが、必要に応じてアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤及び反応性乳化剤等の乳化剤や、脂肪族アミン等を重合系内に添加してもよい。乳化剤、脂肪族アミンの種類や使用量は、ポリアニオンの使用量、エチレン性不飽和単量体の組成をはじめとした種々の条件に応じて適宜調節すればよい。
【0046】
このようなラジカル重合反応に使用する乳化剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル等のアニオン性乳化剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0047】
脂肪族アミンとしては、オクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の1級アミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン等の2級アミン、N,N-ジメチルラウリルアミン、N,N-ジメチルミリスチルアミン、N,N-ジメチルパルミチルアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N.N-ジメチルベヘニルアミン、N,N-ジメチルオレイルアミン、N-メチルジデシルアミン、N-メチルジオレイルアミン等の3級アミン等が挙げられる。
乳化剤及び脂肪族アミンは、1種単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
また、得られる共役系導電性重合体の特性を損なわない範囲で、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子を併用してもよい。
【0049】
分散媒体は水性媒体であり、水、または水と水溶性溶媒の混合溶媒が挙げられる。混合溶媒中での水溶性溶媒の割合は0~30質量%が好ましい。水溶性溶媒の割合が30質量%以下であると樹脂エマルジョンの重合反応を安定化させることができる。水溶性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。
【0050】
ラジカル重合に際して使用される重合開始剤としては、公知慣用のものを使用することができる。重合開始剤は、例えば、過酸化水素、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物類、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾ化合物類が挙げられる。また、必要に応じて、これらの重合開始剤をナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド、アスコルビン酸類、亜硫酸塩類、酒石酸またはその塩類、硫酸鉄(II)等と組み合わせてレドックス重合としてもよい。また、必要に応じて、アルコール類、メルカプタン類等の連鎖移動剤を使用してもよい。
【0051】
保護コロイド化されたシード粒子の製造時におけるポリアニオンとエチレン性不飽和単量体の使用量はポリアニオン100質量部に対してエチレン性不飽和単量体が、好ましくは10~100質量部、より好ましくは20~90質量部である。エチレン性不飽和単量体の使用量が10質量部以上であれば、共役系導電性重合体に占めるポリアニオンによって保護コロイド化されたシード粒子を含む導電性重合体の割合が適切であり、重合による増粘を抑制できる。100質量部以下であれば、保護コロイド化されたシード粒子の安定性が良好である。
保護コロイド化されて、分散媒体中に分散しているシード粒子の粒径のd50(体積基準での50%メジアン径)は、0.01~10μmであることが好ましく、より好ましくは0.05~1μmで、さらに好ましくは0.1~0.8μmである。シード粒子の粒子径分布は、日機装(株)製、マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置にて測定できる。分散媒体中に分散しているシード粒子の粒径のd50が0.01μm以上であればシード粒子の分散性が良好であり、10μm以下であれば粒子が沈降しにくい。
【0052】
共役系導電性重合体を得るための単量体の重合:
共役系導電性重合体を得るための単量体の重合は、(1)当該単量体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子とを含む分散媒中で、または(2)当該単量体とポリアニオンとを含む分散媒中で行われる。
【0053】
[共役系導電性重合体を得るための単量体液]
共役系導電性重合体を得るための単量体を分散媒中で重合するためには、単量体と保護コロイド化されたシード粒子とを含む分散液、または単量体とポリアニオンを含む分散液(以下、併せて単に「単量体液」と称すことがある。)を調製する。
前記単量体液は、共役系導電性重合体を得るための単量体が均一に分散しているものであればよい。そのための分散処理には通常ホモジナイザー等の強力な撹拌装置、または超音波照射装置を使用するが、超音波照射処理が好ましい。超音波照射エネルギーは、均一な単量体液が得られるのであれば特に限定されないが、消費電力5~500W/L(リットル)、照射時間0.1~2時間/L(リットル)で行うことが好ましい。
【0054】
また、単量体液として共役系導電性重合体を得るための単量体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子とを含む分散液を用いる場合には、重合により生成する共役系導電性重合体の凝集を抑える観点から、シード粒子の保護コロイド化に使用されるものと同じポリアニオンを含有させることが好ましい。ポリアニオンは、単量体液に添加し、溶解、乳化または分散させることによって含有させることができる。保護コロイド化されたシード粒子の分散液に含まれるもの以外にポリアニオンを単量体液に含有させる場合、その量は、使用するポリアニオンの総量の5~99質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましく、20~80質量%がさらに好ましい。
【0055】
[分散媒]
共役系導電性重合体を得るための単量体の重合に用いられる分散媒は、共役系導電性重合体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子との複合体、または共役系導電性重合体とポリアニオンとの複合体を分散させることができるものであれば特に限定されないが、シード粒子の分散液に用いたのと同じ種類のものが好ましい。
分散媒としては、例えば、水;N-ビニルピロリドン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のアミド類;クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類;ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコール類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;ジオキサン、ジエチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等のエーテル類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物;アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、水を1~99質量%含む分散媒を用いることが好ましく、水を50~99質量%含むことがより好ましく、水を単独で用いることがさらに好ましい。
【0056】
分散媒の使用量は、共役系導電性重合体を得るための単量体、ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子、及びポリアニオンの総計100質量部に対して、好ましくは1~50000質量部、より好ましくは50~10000質量部である。分散媒の使用量が1質量部以上であれば重合中の粘度が適切であり、50000質量部以下であれば固体電解コンデンサの性能が良好である。
【0057】
[酸化剤]
前記単量体の重合において、例えば、ポリピロール類やポリチオフェン類を共役系導電性重合体として含む分散液を製造する場合、酸化剤の存在下に所定の温度にすることによって重合が開始される。
酸化剤としては、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等のペルオキソ二硫酸塩;三フッ化ホウ素等の金属ハロゲン化合物;塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物;酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物;過酸化水素、オゾン等の過酸化物;過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;酸素等が挙げられる。これらのうちペルオキソ二硫酸及びペルオキソ二硫酸塩が好ましく、ペルオキソ二硫酸塩がより好ましい。
前記酸化剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
[重合温度]
前記単量体の重合時の温度は通常、5~80℃であり、好ましくは10~60℃であり、より好ましくは15~40℃である。重合時の温度をこの範囲内にすると、適度な反応速度で重合を行うことができ、粘度の上昇を抑えることができ、導電性重合体を含む分散液の製造を安定的に経済的な時間で行うことができ、かつ得られる導電性重合体の導電率が高くなる傾向がある。重合時の温度は、公知のヒータやクーラを用いることにより管理することができる。また、必要に応じ、前記範囲内で温度を変化させながら重合を行ってもよい。
【0059】
[分散処理]
共役系導電性重合体含有分散液を得る工程(A)においては、重合反応中に前記単量体の重合で生成する共役系導電性重合体を分散処理することが好ましい。この分散処理は、ホモジナイザー等の強力な撹拌装置や超音波照射によって行うことが好ましい。この分散処理によって、長い主鎖を有する共役系導電性重合体の凝集を抑制することができる。例えば、特開2007-332183公報に記載のせん断速度5000s-1以上で撹拌しながら重合させる方法や、超音波照射の場合、分散処理液あたりの消費電力5~500W/Lで、反応終了時まで行うことが好ましい。
【0060】
[保護コロイド化されたシード粒子の分散液の添加]
また、前記単量体と保護コロイド化されたシード粒子とを含む分散液を用いた前記単量体の重合中に、ポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子の分散液をさらに添加することが好ましい。前記単量体の重合中に、所定量の保護コロイド化されたシード粒子の分散液をさらに添加することにより、重合時の反応液の増粘を抑制でき撹拌混合効率の向上や製造装置への負荷を低減することができる。重合中に添加する保護コロイド化されたシード粒子の分散液の量は、使用する保護コロイド化されたシード粒子の分散液の総量の10~90質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましい。
【0061】
[ポリアニオンの添加]
単量体液の重合中にポリアニオンをさらに添加してもよい。前記単量体の重合中に所定量のポリアニオンの一部をさらに添加することにより重合時の反応液の増粘を抑制でき撹拌混合効率の向上や製造装置への負荷を低減することができる。重合中に添加するポリアニオンの量は、使用するポリアニオンの総量の0~90質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましい。
【0062】
<モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液を調製する工程(B)>
本発明の製造方法では、前述の工程(A)で得られた共役系導電性重合体含有分散液(分散液a)にモルホリン化合物を添加したモルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液(以下「分散液b」と呼ぶことがある)を調製する工程を有する。
【0063】
[モルホリン化合物]
モルホリン化合物は、下記一般式(1)
【化4】
で示される。モルホリン化合物の添加によって容量発現率(静電容量)が高く、かつ耐熱性に優れ、高温条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを作製することができる。また、固体電解コンデンサに耐腐食性を付与することでき、また共役系導電性重合体含有分散液のpHを調整することができる。
式(1)中、R
1は、(1)水素原子、(2)水酸基、シアノ基、アミノ基で置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基、(3)炭素数5~6のシクロアルケニル基、(4)アミノ基、シアノ基、またはホルミル基で置換されていてもよいフェニル基、(5)アセチル基、(6)アセトアセチル基、(7)アリル基、(8)アク
リロイル基、(9)ピリジル基、(10)水酸基で置換されていてもよいアルキルスルホ基、または(11)ホルミル基を表し、nは0、1または2である。
【0064】
一般式(1)で示される化合物の具体例としては、モルホリン、4-メチルモルホリン、4-エチルモルホリン、4-n-プロピルモルホリン、4-イソプロピルモルホリン、4-n-ブチルモルホリン、4-イソブチルモルホリン、4-ペンチルモルホリン、4-ヘキシルモルホリン、(R)-3-メチルモルホリン、(S)-3-メチルモルホリン、cis-2,6-ジメチルモルホリン、4-(1-シクロヘキセニル)モルホリン、1-モルホリノ-1-シクロペンテン、4-フェニルモルホリン、4-(p-トリル)モルホリン、4-(2-アミノエチル)モルホリン、4-(3-アミノプロピル)モルホリン、2-モルホリノアニリン、4-モルホリノアニリン、4-(2-モルホリノエトキシ)アニリン、4-(4-ピリジル)モルホリン、4-アミノモルホリン、4-(2-ヒドロキシプロピル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、4-(3-ヒドロキシプロピル)モルホリン、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸、2-モルホリノエタンスルホン酸、3-モルホリノプロパンスルホン酸、4-アセチルモルホリン、4-アセトアセチルモルホリン、4-アクリロイルモルホリン、4-アリルモルホリン、フェニル)モルホリン、3-(モルホリノ)プロピオン酸エチル、4-ホルミルモルホリン、4-(4-ホルミルフェニル)モルホリン、及び前記化合物の塩類が挙げられる。
【0065】
これらの中でも、モルホリン、4-エチルモルホリン、4-n-ブチルモルホリン、4-イソブチルモルホリン、4-フェニルモルホリン、4-(2-ヒドロキシプロピル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、4-(3-ヒドロキシプロピル)モルホリンが生産性の面で好ましい。
【0066】
分散液aへの前記モルホリン化合物の添加量は、分散液aの中和当量に対して、0.1~4当量が好ましく、0.4~2当量がさらに好ましい。0.1当量以上であれば添加効果が顕著に表れる。4当量以下の添加であれば、共役系導電性重合体にドープしているポリアニオンの脱ドープが起きにくい。
【0067】
また、分散液aへの前記モルホリン化合物の添加量は、pHが3~13の範囲に入るよう調整することが好ましく、pH4~7に調整することがさらに好ましい。pHが3以上であれば、アルミニウム等の使用する弁金属によって腐食が進行しにくくなる。また、pH13以下であれば、導電性重合体においてドープしているポリアニオンの脱ドープが起こりにくくなる。
【0068】
[他の添加剤]
分散液bには、必要に応じて一般式(1)で示されるモルホリン化合物以外に他の添加剤を添加することができる。他の添加剤は、共役系導電性重合体、及びポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子若しくはポリアニオンと混合しうるものであれば特に制限されない。また、他の添加剤は、工程(A)で添加してもよい。
このような添加剤としては、例えば、水溶性高分子化合物、水分散性化合物、アルカリ性化合物、界面活性剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、電気伝導率向上剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
水溶性高分子化合物は、高分子の主鎖または側鎖にカチオン性基やノニオン性基を有する水溶性ポリマーである。水溶性高分子化合物の具体例としては、例えば、ポリオキシアルキレン、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリイミド、水溶性ポリアクリル、水溶性ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらのうち、ポリオキシアルキレンが好ましい。
【0070】
ポリオキシアルキレンの具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、オリゴポリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノクロルヒドリン、ジエチレングリコールモノクロルヒドリン、オリゴエチレングリコールモノクロルヒドリン、トリエチレングリコールモノブロムヒドリン、ジエチレングリコールモノブロムヒドリン、オリゴエチレングリコールモノブロムヒドリン、ポリエチレングリコール、グリシジルエーテル類、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリエチレンオキシド、トリエチレングリコール・ジメチルエーテル、テトラエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジエチレングリコール・ジエチルエーテル・ジエチレングリコール・ジブチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンジオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0071】
水分散性化合物は、親水性の低い化合物の一部が親水性の高い官能基で置換されたもの、あるいは、親水性の低い化合物の周囲に親水性の高い官能基を有する化合物が吸着したもの(例えばエマルジョン等)であって、水中で沈殿せずに分散するものが挙げられる。具体例としては、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びこれらポリマーのエマルジョン等が挙げられる。また、アクリル樹脂とポリエステルやポリウレタン等の他の共重合体とのブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。
水溶性高分子化合物及び水分散性化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。水溶性高分子化合物及び水分散性化合物を添加することにより、導電性重合体を含む分散液の粘度調節ができ、また塗布性能を向上させることができる。
【0072】
水溶性高分子化合物及び水分散性化合物の使用量は、共役系導電性重合体とポリアニオンにより保護コロイド化されたシード粒子との合計100質量部に対して、好ましくは1~4000質量部、より好ましくは50~2000質量部である。水溶性高分子化合物及び水分散性化合物の量が1~4000質量部の範囲にあると適正な導電性を発現させることができ、良好な固体電解コンデンサの等価直列抵抗(ESR)が得られる。
【0073】
分散液bに、モルホリン化合物の他にアルカリ性化合物を添加しても良い。アルカリ性化合物の添加によって分散液を適用した物品に耐腐食性を付与することでき、また共役系導電性重合体含有分散液のpHを調整することができる。
【0074】
アルカリ性化合物として、公知の無機アルカリ性化合物やモルホリン化合物以外の有機アルカリ性化合物を使用できる。無機アルカリ性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等が挙げられる。有機アルカリ性化合物としては、芳香族アミン、脂肪族アミン、アルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。
【0075】
芳香族アミンの中では、窒素含有ヘテロアリール環化合物が好ましい。窒素含有ヘテロアリール環化合物は芳香族性を示す窒素含有ヘテロ環化合物である。芳香族アミンにおいては、ヘテロ環に含まれる窒素原子が他の原子と共役関係を持つ。
窒素含有ヘテロアリール環化合物としては、ピリジン類、イミダゾール類、ピリミジン類、ピラジン類、トリアジン類等が挙げられる。これらの中でも、溶媒溶解性等の観点から、ピリジン類、イミダゾール類、ピリミジン類が好ましい。
【0076】
脂肪族アミンとしては、例えば、エチルアミン、n-オクチルアミン、ジエチルアミン、ジイソブチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アリルアミン、2-エチルアミノエタノール、2,2’-イミノジエタノール、N-エチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0077】
アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、カルシウムアルコキシド等が挙げられる。
【0078】
界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤;アミン塩、4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤;カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0079】
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンレジン等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類等が挙げられる。
【0080】
電気伝導率向上剤は、導電性重合体を含む分散液の電気伝導率を増大させるものであれば特に制限されない。電気伝導率向上剤としては、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル結合を含む化合物;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン基を含む化合物;カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルホルムアニリド、N-メチルピロリドン、N-オクチルピロリドン、ピロリドン等のアミド若しくはラクタム基を含む化合物;テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド等のスルホン化合物若しくはスルホキシド化合物;スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース等の糖類または糖類誘導体;ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類;スクシンイミド、マレイミド等のイミド類;2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸等のフラン誘導体;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のジアルコール若しくはポリアルコール等が挙げられる。これらの中でも、電気伝導率向上の観点から、テトラヒドロフラン、N-メチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、ソルビトールが好ましく、中でもエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンがより好ましい。電気伝導率向上剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
<多孔性陽極体にモルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液(分散液b)を付着させる工程(C)>
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、前述の工程(B)で得られた分散液bを、弁金属からなる陽極体と、該陽極体表面の少なくとも一部に形成された誘電体被膜とを有する多孔性陽極体の表面に付着させる工程(C)を有する。
本発明の製造方法に係る固体電解コンデンサは、例えば、高表面積を有する弁金属粉末を焼結してなる多孔性の電極、あるいは弁金属箔をエッチングし得られる多孔性膜を電極とすることができる。
前記弁金属としては、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、アンチモン(Sb)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)及びジルコニウム(Zr)、ならびにこれらの金属の少なくとも1つと他の元素との合金または化合物が挙げられる。中でもAl、Nb、またはTaの弁金属から構成される電極材料が好ましい。
【0082】
弁金属からなる多孔性電極は、例えば、陽極酸化によって表面に誘電体酸化被膜を形成し、多孔性陽極体とする。
前記多孔性電極は、例えばリン酸溶液中で電圧を印加することにより陽極酸化され、誘電体酸化被膜を形成することができる。誘電体酸化被膜の厚さやコンデンサの耐電圧により、化成電圧の大きさを決めることができる。好ましい化成電圧は1~800Vであり、より好ましくは1~300Vである。
【0083】
次いで、分散液bを多孔性陽極体に付着させる。付着させる方法としては、塗布、噴霧、浸漬等の公知の方法が挙げられる。中でも分散液bを多孔性陽極体にムラなく均一に付着、浸透させることができる点から、浸漬させる方法が好ましい。また、多孔性陽極体の細部により含侵させるために、減圧下で含侵してもよい。
浸漬時間は、通常10秒~5分間程度であり、分散液bの温度は分散媒の種類にもよるが通常10~35℃程度である。
【0084】
<固体電解質層を形成する工程(D)>
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、前述の工程(C)で得られた多孔性陽極体に付着した分散液bから、分散媒を除去し固体電解質層を形成する工程(D)を有する。本工程(D)における分散媒の除去は、分散媒の全てを除去することを意味するものでなく、固体電解コンデンサの製造に影響しない範囲で分散媒が一部残存してもいて差し支えない。
分散媒の除去は、効率性の点から加熱処理による乾燥が好ましい。加熱条件は、分散媒の沸点や揮発性を考慮して決めることができる。加熱は、導電性重合体の酸素による劣化のない温度範囲、例えば、室温~300℃、好ましくは50~200℃で行うことが好ましい。加熱処理時間は5秒~数時間が好ましい。加熱処理は、例えば、ホットプレート、オーブン、熱風乾燥機を用いて大気下で、もしくは加熱処理を迅速に行うために減圧下で行ってもよい。
【0085】
本発明では、電極体の種類に応じて、上述の分散液を付着させる工程(C)と固体電解質層を形成する工程(D)を1回または2回以上繰り返し行ってもよい。分散液を付着させるごとに加熱処理を行い、分散媒の一部または全部を除去してもよく、または複数回分散液を連続で付着させ、最後に分散媒を除去してもよい。さらに、付着させた分散液に含まれる分散媒の一部はまたは全部を除去した後に、任意の電解液を含浸させてもよい。
【実施例】
【0086】
以下に実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。実施例及び比較例における分散液の各物性の測定方法を下記の通りである。
【0087】
(1)固形分濃度
各例の固形分濃度は、各例で得られた試料およそ10gを、赤外線水分計((株)ケツト科学研究所製、形式FD-720、加熱条件110℃/30分)を用いて測定し、蒸発残分を固形分として計算した。
(2)pH
各例で得られた分散液のpHは、25℃においてpHメーター(東亜ディーケーケー(株)製、型式HM-30G)を用いて測定した。
(3)シード粒子の粒径
日機装(株)製マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置により測定した。
(4)ポリスチレンスルホン酸ナトリウムの重量平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定を行った。なお、測定には昭和電工(株)製の「Shodex(登録商標) GPC 101」(カラム OHPak SB-806M HQ)を用い、測定条件はカラム温度40℃、溶出液は水、溶出速度1ml/分とした。標準ポリスチレン換算分子量(Mw)で表示した。
【0088】
実施例1:
[ポリアニオンで保護コロイド化されたシード粒子の分散液の作製]
スチレン86g、2-エチルヘキシルアクリレート49g、ジビニルベンゼン15g及びポリスチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー有機化学株式会社製、ポリナスPS-5、重量平均分子量:約120000)22質量%水溶液500gを撹拌混合し、単量体混合液を調製した。一方、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(同上)22質量%水溶液1000gを撹拌しながら、80℃に昇温し、これに過硫酸カリウム2gを添加した。この溶液に、前記単量体混合液及び過硫酸カリウム2.5質量%水溶液40gを、それぞれ、2時間及び2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で2時間保持し、その後、室温(25℃)まで冷却した。得られた反応液に陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IR120B-H)1500ml及び陰イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IRA410-OH)1500mlを添加し、12時間撹拌した後、イオン交換樹脂をろ別した。イオン交換水(以下、単に水と言う。)を添加して固形分濃度が15.0質量%となるように調整し、ポリアニオンで保護コロイド化されたシード粒子(Tg:30℃、粒径d50:0.46μm)の分散液を得た。
【0089】
[工程(A):ポリアニオンによって保護コロイド化されたシード粒子を含む共役系導電性重合体含有分散液(分散液a)の製造]
1Lポリエチレン製容器内で、水223.2g、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム12質量%水溶液31.5g、及び上記で作製したポリアニオンで保護コロイド化されたシード粒子の分散液34.0gを32℃で撹拌混合した。この混合液に、32℃で3,4-エチレンジオキシチオフェン2.80gを添加して、ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、ロボミックス;4000rpm)で30分間乳化混合し、単量体分散液を調製した(3,4-エチレンジオキシチオフェン1モルに対するスルホ基含有量:1.9モル)。なお、前記スルホ基は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム12質量%水溶液及び前記分散液中のポリスチレンスルホン酸ナトリウム由来のものである。
前記単量体分散液を、ハイシェアミキサー(太平洋機工株式会社製、マイルダー(登録商標)303V;5000rpm)及び循環ポンプが接続された1Lステンレス製容器に投入し、撹拌翼及びハイシェアミキサーにより、32℃で循環しながら撹拌し、酸化剤としてペルオキソ二硫酸ナトリウム5.89g及び硫酸鉄(III)六水和物の1質量%水溶液6.88gを添加して、24時間重合反応を行った。得られた反応液221g、及び水79gをハイシェアミキサー(IKA社製、マジックラボ;1800rpm)及び循環ポンプが接続された1Lステンレス製容器に投入し、12時間、循環しながら撹拌し、分散処理を行った。得られた分散液300gに、陽イオン交換樹脂(同上)300mL及び陰イオン交換樹脂(同上)300mLを添加し、6時間撹拌した後、イオン交換樹脂をろ別し、この操作により、未反応単量体及び酸化剤を除去し、ポリアニオンで保護コロイド化されたシード粒子と共役系導電性重合体との複合体を含む分散液(固形分濃度2.7質量%、pH1.9)を得た。
[工程(B):モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液(分散液b)の調製]
得られた分散液にモルホリンを添加し、さらに純水を加えて、固形分濃度が1.6質量%、pHが4.9の分散液を得た。さらに、得られた分散液100質量部に対しエチレングリコールを5質量部添加し、固体電解コンデンサ作製用の含侵液(1-1)を得た。
【0090】
[誘電体酸化被膜を表面に有する多孔性陽極体の形成]
特開2011-77257号公報に記載の方法によって固体電解コンデンサに用いる、誘電体酸化被膜を表面に有する多孔性陽極体を製造した。すなわち、コンデンサ用ニオブ粉末を用い、陽極体表面に五酸化二ニオブを有する誘電体酸化被膜が形成された陽極リード付きの多孔性陽極体を作製した。この多孔性陽極体は、20%硫酸中での静電容量は、21.4μFであった。
【0091】
[工程(C)及び(D):固体電解コンデンサの作製]
25℃の大気下で、上記方法で得られた多孔性陽極体を、前記分散液(1-1)に1分間含浸させた後、熱風乾燥器(TABAI製、形式ST-110)で120℃30分間乾燥した。この処理を10回繰り返し行った。次いで陽極リード端子に接触させないように多孔性陽極体にカーボンペーストを塗布し乾燥させた。さらに、陽極・陰極の接点をとるために銀ペーストを塗布しリードフレーム上に置き、乾燥させた。この素子を該素子の陽極リード線をリードフレームの陽極リード部に電気的に接続させ樹脂で封止し、これによって固体電解コンデンサ素子を得た。得られた固体電解コンデンサ素子の120Hzでの静電容量(μF)をLCRメーターを用いて測定し、初期静電容量とした。次に、素子を130℃の熱風乾燥機で250時間放置した後の120Hzでの静電容量(μF)を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
実施例2:
実施例1のモルホリンの代わりに4-エチルモルホリンを添加し、固形分濃度が1.7質量%、pHが4.5の分散液を得た。さらに、得られた分散液100質量部に対しエチレングリコールを5質量部添加し、固体電解コンデンサ作製用の含侵液(1-2)を得た。実施例1と同様の方法で、固体電解コンデンサ素子を作製し、120Hzでの静電容量(μF)をLCRメーターを用いて測定した。さらに、得られた素子を130℃の熱風乾燥機で250時間放置した後の120Hzでの静電容量(μF)を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
実施例3:
実施例1のモルホリンの代わりに4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリンを添加し、固形分濃度が1.7質量%、pHが4.7の分散液を得た。さらに、得られた分散液100質量部に対しエチレングリコールを5質量部添加し、固体電解コンデンサ作製用の含侵液(1-3)を得た。実施例1と同様の方法で、固体電解コンデンサ素子を作製し、120Hzでの静電容量(μF)をLCRメーターを用いて測定した。さらに、得られた素子を130℃の熱風乾燥機で250時間放置した後の120Hzでの静電容量(μF)を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
実施例4:
[工程(A):ポリアニオンを含む共役系導電性重合体含有分散液(分散液a)の製造(シード粒子を含まない)]
1Lポリエチレン製容器内で、水231.0g、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム12質量%水溶液60.0gを32℃で撹拌混合した。この混合液に、32℃で3,4-エチレンジオキシチオフェン2.80gを添加して、ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、ロボミックス;4000rpm)で30分間乳化混合し、単量体分散液を調製した。
前記単量体分散液を、ハイシェアミキサー(太平洋機工株式会社製、マイルダー(登録商標)303V;5000rpm)及び循環ポンプが接続された1Lステンレス製容器に投入し、撹拌翼及びハイシェアミキサーにより、32℃で循環しながら撹拌し、酸化剤としてペルオキソ二硫酸ナトリウム5.89g及び硫酸鉄(III)六水和物の1質量%水溶液6.88gを添加して、24時間重合反応を行った。得られた反応液221g、及び水79gをハイシェアミキサー(IKA社製、マジックラボ;1800rpm)及び循環ポンプが接続された1Lステンレス製容器に投入し、12時間、循環しながら撹拌し、分散処理を行った。得られた分散液300gに、陽イオン交換樹脂(同上)300mL及び陰イオン交換樹脂(同上)300mLを添加し、6時間撹拌した後、イオン交換樹脂をろ別し、この操作により、未反応単量体及び酸化剤を除去し、ポリアニオンと共役系導電性重合体との複合体を含む分散液(固形分濃度2.6質量%、pH1.8)を得た。
【0095】
[工程(B):モルホリン化合物と共役系導電性重合体を含有する分散液(分散液b)の調製(シード粒子を含まない)]
得られた分散液にモルホリンを添加し、固形分濃度が1.6質量%、pHが4.6の分散液を得た。さらに、得られた分散液100質量部に対しエチレングリコールを5質量部添加し、固体電解コンデンサ作製用の含侵液(1-4)を得た。実施例1と同様の方法で、固体電解コンデンサ素子を作製し、120Hzでの静電容量(μF)をLCRメーターを用いて測定した。さらに、得られた素子を130℃の熱風乾燥機で250時間放置した後の120Hzでの静電容量(μF)を測定した。結果を表1に示す。
【0096】
比較例1:
実施例1のモルホリンの添加を行わず、固形分濃度が1.4質量%、pHが1.9の分散液を得た。分散液100質量部に対しエチレングリコールを5質量部添加し、固体電解コンデンサ作製用の含侵液(1-5)を得た。実施例1と同様の方法で、固体電解コンデンサ素子を作製し、120Hzでの静電容量(μF)をLCRメーターを用いて測定した。さらに、得られた素子を130℃の熱風乾燥機で250時間放置した後の120Hzでの静電容量(μF)を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
比較例2:
実施例1のモルホリンの代わりにアンモニア水を添加し、固形分濃度が1.5質量%、pHが4.8の分散液を得た。さらに、得られた分散液100質量部に対しエチレングリコールを5質量部添加し、固体電解コンデンサ作製用の含侵液(1-6)を得た。
実施例1と同様の方法で、固体電解コンデンサ素子を作製し、120Hzでの静電容量(μF)をLCRメーターを用いて測定した。さらに、得られた素子を130℃の熱風乾燥機で250時間放置した後の120Hzでの静電容量(μF)を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1の結果から、誘電体被膜を有する弁作用金属からなる多孔性用極体に付着させる工程において、モルホリン化合物を添加した共役系導電性重合体を含有する分散液を使用した実施例1~4の固体電解コンデンサ素子は、モルホリン化合物を添加しない比較例1~2の固体電解コンデンサ素子に比べて容量発現率(静電容量)が安定し、耐熱性に優れ、高温条件下での信頼性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、容量発現率(静電容量)が高く、耐熱性に優れ、高温条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを得るための共役系導電性重合体含有分散液を提供することができる。
また、本発明によれば、容量発現率(静電容量)が高く、かつ、耐熱性に優れ、高温条件下における信頼性が高い、産業上有用な固体電解コンデンサを製造することができる。