(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】メタルマスク用クラッド板材およびメタルマスク
(51)【国際特許分類】
C23F 1/00 20060101AFI20240910BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240910BHJP
C22C 38/10 20060101ALI20240910BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20240910BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20240910BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240910BHJP
C23F 1/28 20060101ALI20240910BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20240910BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20240910BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20240910BHJP
【FI】
C23F1/00 C
C22C38/00 302R
C22C38/10
C22C19/03 G
C22C19/07 G
C22C30/00
C23F1/28
B21B1/22 B
C23C14/04 A
H10K71/16
(21)【出願番号】P 2023068084
(22)【出願日】2023-04-18
(62)【分割の表示】P 2019060252の分割
【原出願日】2019-03-27
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】堀部 孝広
(72)【発明者】
【氏名】横山 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】石尾 雅昭
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特許第6319505(JP,B1)
【文献】特開2004-039319(JP,A)
【文献】特開2007-095324(JP,A)
【文献】特開昭62-082630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00-4/04
C23C 14/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に切断された断面視において、NiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含むFe基合金からなる基材層と、前記基材層の一方側に直接圧接されている第1キャリア層と、を備え、
前記基材層および前記第1キャリア層は同質の塩化第二鉄液でエッチングが可能であって、前記基材層は前記第1キャリア層よりも前記塩化第二鉄液に対して高耐食であり、
同等の環境下で同質の塩化第二鉄液を用いてエッチングを行って、前記基材層の腐食減量をM
bとし、前記第1キャリア層の腐食減量をM
C1とするとき、前記基材層および前記第1キャリア層は、M
b/M
c1≦0.9の関係を満足する、メタルマスク用クラッド板材。
【請求項2】
厚さ方向に切断された断面視において、NiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含むFe基合金からなる基材層と、前記基材層の一方側に直接圧接されている第1キャリア層と、前記基材層の他方側に直接圧接されている第2キャリア層と、を備え、
前記基材層、前記第1キャリア層および前記第2キャリア層は同質の塩化第二鉄液でエッチングが可能であって、前記基材層は前記第1キャリア層および前記第2キャリア層よりも前記塩化第二鉄液に対して高耐食であり、
同等の環境下で同質の塩化第二鉄液を用いてエッチングを行って、前記基材層の腐食減量をM
bとし、前記第1キャリア層の腐食減量をM
C1とし、前記第2キャリア層の腐食減量をM
C2とするとき、前記基材層、前記第1キャリア層および前記第2キャリア層は、M
b/M
c1≦0.9およびM
b/M
c2≦0.9の関係を満足する、メタルマスク用クラッド板材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメタルマスク用クラッド板材を用いて形成されたメタルマスクであって、
前記基材層を構成する前記Fe基合金からなる第1金属層と、前記第1キャリア層を構成する金属からなる第2金属層と、を備え、前記第1金属層と前記第2金属層とが直接接合されてなる、メタルマスク。
【請求項4】
請求項2に記載のメタルマスク用クラッド材板を用いて形成されたメタルマスクであって、
前記基材層を構成する前記Fe基合金からなる第1金属層と、前記第1キャリア層を構成する金属からなる第2金属層と、前記第2キャリア層を構成する金属からなる第3金属層と、を備え、前記第2金属層と前記第1金属層と前記第3金属層とがこの順に直接接合されてなる、メタルマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メタルマスク用クラッド板材およびメタルマスクに関する。
詳しくは、エッチング液に対する耐食性保護膜を形成可能な金属表面を有するメタルマスク用クラッド板材、および、このメタルマスク用クラッド板材を用いたメタルマスクであって、例えば、有機EL素子用メタルマスクを製造するためのメタルマスク用クラッド板材および有機EL素子用メタルマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には有機EL素子の製造に用いられる単一種の金属からなるマスキング治具(メタルマスク)の製造方法が開示されている。このメタルマスクは
図1に示すような工程によって製造される。
図1において、工程(a)は素材準備工程である。この素材準備工程ではメタルマスクとなる、単一種の金属からなる厚さT
100の単層構造の金属板材100aを準備する。この金属板材100aは例えば約36質量%のNi(ニッケル)および約64質量%のFe(鉄)を含むFe-Ni合金からなる。このFe-Ni合金は周知の36アロイであり、線膨張係数が小さく、約1.2×10
-6/℃である。金属板材100aの厚さT
100は例えば10μm以上50μm以下である。工程(b)は第1被覆工程である。この第1被覆工程では、金属板材100aの第1表面100bに所定のエッチングパターンを形成するための保護膜101を形成し、金属板材100aの第2表面100cにエッチングを防ぐための保護膜102を形成する。工程(c)は第1エッチング工程である。この第1エッチング工程では、上記Fe-Ni合金に適するエッチング液を用いて金属板材100aをエッチングする。この第1エッチングにより、Fe-Ni合金からなる第1表面100bの保護膜101を有さない部分がエッチングされ、例えばエッチング孔100dが形成される。工程(d)は第2被覆工程である。この第2被覆工程では、金属板材100aの第2表面100cに所定のエッチングパターンを形成するための保護膜103を形成し、金属板材100aの第1表面100bおよびエッチング孔100dにエッチングを防ぐための保護膜104を形成する。工程(e)は第2エッチング工程である。この第2エッチング工程では、第1エッチング工程で用いたものと同質のエッチング液を用いて金属板材100aをエッチングする。この第2エッチングにより、Fe-Ni合金からなる第2表面100cの保護膜103を有さない部分がエッチングされ、例えばエッチング孔100eが形成される。工程(f)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、保護膜103および保護膜104が除去され、金属板材100aの全表面が清浄処理され、メタルマスク100に仕上げられる。こうした工程を経て、金属板材100aを用いて、例えばマスクパターン100fを有し、金属板材100aと略同等の厚さT
100で、Fe-Ni合金からなる単層構造のメタルマスク100が得られる。
【0003】
また、例えば、特許文献2にはスクリーン印刷に用いられる金属製の厚膜用メタルマスクの製造方法が開示されている。このメタルマスクは
図2に示すような工程によって製造される。
図2において、工程(a)は素材準備工程である。この素材準備工程ではメタルマスクとなる、2種の金属が接合された2層構造のクラッド板材200aを準備する。特許文献2にはクラッド板材200aの厚さは記載されていないが、クラッド板材200aは厚膜用メタルマスクに相応しい厚さT
200を有すると考えられる。このクラッド板材200aは例えば銅からなる第1層201と、第1層201とは異種の例えばステンレス鋼からなる第2層202と、からなる。なお、銅に適するエッチング液とステンレス鋼に適するエッチング液とは異質であるため、銅からなる第1層201はステンレス鋼からなる第2層に適するエッチング液ではエッチングされず、ステンレス鋼からなる第2層202は銅からなる1層201に適するエッチング液ではされない。工程(b)は被覆工程である。この被覆工程では、第1層201の表面201aに所定のエッチングパターンを形成するための保護膜203を形成し、第2層202の表面202aに所定のエッチングパターンを形成するための保護膜204を形成する。工程(c)は第1エッチング工程である。この第1エッチング工程では、銅に適するエッチング液を用いて第1層201の表面201aをエッチングする。この第1エッチングにより、銅からなる第1層201の保護膜203を有さない表面201a部分がエッチングされ、例えばエッチング孔201bが形成される。このとき、ステンレス鋼からなる第2層202の保護膜204を有さない表面202a部分はエッチングされない。工程(d)は第2エッチング工程である。この第2エッチング工程では、第1エッチング工程とは異なる、ステンレス鋼に適するエッチング液を用いて第2層202の表面202aをエッチングする。この第2エッチングにより、ステンレス鋼からなる第2層202の保護膜204を有さない表面202a部分がエッチングされ、例えばエッチング孔202bが形成される。このとき、銅からなる第1層201の保護膜203を有さないエッチング孔201bはエッチングされない。工程(e)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、保護膜203および保護膜204が除去され、クラッド板材200aの全表面が清浄処理され、メタルマスク200に仕上げられる。こうした工程を経て、クラッド板材200aを用いて、例えばマスクパターン200fを有し、クラッド板材200aと略同等の厚さT
200で、銅およびステンレス鋼からなる2層構造のメタルマスク200が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第643072号公報
【文献】特公昭62-21629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、マスクパターンのさらなる高精細化が望まれている。そのためにはメタルマスクの厚さをさらに薄肉化する必要がある。目標とするメタルマスクの厚さは例えば20μm以下であり、望ましくは15μm以下である。上記した単層構造の金属板材100aの厚さT
100は例えば10μm以上50μm以下であるが、こうした薄肉の金属板材は皺や折れなどの不具合が発生しやすくなる。例えば20μmの厚さの金属板材をさらに薄肉化することは技術的に可能であるが、単純に薄肉化された金属板材は機械的強さの低下によってハンドリングが困難になる。上記した2層構造のクラッド板材200aは厚膜用メタルマスクに相応しい厚さを有すると考えられる。このような2層構造のクラッド板材のさらなる薄肉化を単純に行えば、厚さ方向(
図2に示すZ方向)における層構造の非対称性がクラッド板材に大きな反りを発生させる。そのため、例えば20μm以下の厚さのクラッド板材を得ることは技術的に容易ではない。大きな反りを有するクラッド材板はハンドリングが困難であるし、メタルマスクの製造も容易ではない。こうした事情から、メタルマスクのさらなる薄肉化を可能にするメタルマスク用板材の開発が必要である。
【0006】
メタルマスク用板材の開発に際しては、薄肉化およびハンドリングの容易化に加えて、望ましくはメタルマスクの生産性が従来同等に確保されること、より望ましくはメタルマスクの生産性が向上すること、が期待されている。上記した単一種の金属板材100aを用いるメタルマスクの製造方法では、少なくとも、2回の被覆工程および2回のエッチング工程が必要になる。また、上記した異種の金属が接合された2層構造のクラッド板材200aを用いるメタルマスクの製造方法では、単一種の金属板材100aを用いる方法と比べて、被覆工程の低減が可能になる。しかし、2層構造のクラッド板材200aを用いる方法であっても、マスクパターン200fを形成するのに少なくとも2回のエッチング工程が必要になるし、それぞれのエッチング工程で用いるエッチング液を共用することができない。そのため、メタルマスク用板材の好ましい変化がメタルマスクの製造プロセスを好ましく変化させ、メタルマスクの生産性向上に繋がる可能性がある。
【0007】
この発明は、ハンドリングが容易で、メタルマスクの薄肉化が可能で、望ましくはメタルマスクの生産性向上を可能にする、メタルマスク用板材を提供し、このメタルマスク用板材を用いたメタルマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、2種の金属が接合された2層構造のクラッド板材において、同質のエッチング液でエッチングが可能な2種の金属を接合することによって、上記課題が解決できることを見出し、メタルマスク用クラッド板材に係る発明の構成に想到した。
【0009】
メタルマスク用クラッド材板に係る発明の一つは、厚さ方向に切断された断面視において、NiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含むFe基合金からなる基材層と、前記基材層の一方側に直接圧接されている第1キャリア層と、を備え、前記基材層および前記第1キャリア層は同質の塩化第二鉄液でエッチングが可能であって、前記基材層は前記第1キャリア層よりも前記塩化第二鉄液に対して高耐食である、メタルマスク用クラッド板材である。この発明において、同等の環境下で同質の塩化第二鉄液を用いてエッチングを行って、前記基材層の腐食減量をMbとし、前記第1キャリア層の腐食減量をMC1とするとき、前記基材層および前記第1キャリア層は、Mb/Mc1≦0.9の関係を満足する。
【0010】
また、メタルマスク用クラッド板材に係る発明の一つは、厚さ方向に切断された断面視において、NiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含むFe基合金からなる基材層と、前記基材層の一方側に直接圧接されている第1キャリア層と、前記基材層の他方側に直接圧接されている第2キャリア層と、を備え、前記基材層、前記第1キャリア層および前記第2キャリア層は同質の塩化第二鉄液でエッチングが可能であって、前記基材層は前記第1キャリア層および前記第2キャリア層よりも前記塩化第二鉄液に対して高耐食である、メタルマスク用クラッド板材である。この発明において、同等の環境下で同質の塩化第二鉄液を用いてエッチングを行って、前記基材層の腐食減量をMbとし、前記第1キャリア層の腐食減量をMC1とし、前記第2キャリア層の腐食減量をMC2とするとき、前記基材層、前記第1キャリア層および前記第2キャリア層は、Mb/Mc1≦0.9およびMb/Mc2≦0.9の関係を満足する。
【0011】
上記いずれかのメタルマスク用クラッド板材を用いて、メタルマスクに係る発明の構成に想到した。すなわち、メタルマスクの係る発明の一つは、前記基材層および前記第1キャリア層を備える上記いずれかのメタルマスク用クラッド板材、または、前記基材層、前記第1キャリア層および前記第2キャリア層を備える上記いずれかのメタルマスク用クラッド板材を用いて形成されたメタルマスクであって、前記基材層を構成する前記Fe基合金からなる、メタルマスクである。
【0012】
また、メタルマスクの係る発明の一つは、前記基材層および前記第1キャリア層を備える上記いずれかのメタルマスク用クラッド板材、または、前記基材層、前記第1キャリア層および前記第2キャリア層を備える上記いずれかのメタルマスク用クラッド板材を用いて形成されたメタルマスクであって、前記基材層を構成する前記Fe基合金からなる第1金属層と、前記第1キャリア層を構成する金属からなる第2金属層と、を備え、前記第1金属層と前記第2金属層とが直接接合されてなる、メタルマスクである。
【0013】
また、メタルマスクの係る発明の一つは、前記基材層、前記第1キャリア層および前記第2キャリア層を備える上記いずれかのメタルマスク用クラッド板材を用いて形成されたメタルマスクであって、前記基材層を構成する前記Fe基合金からなる第1金属層と、前記第1キャリア層を構成する金属からなる第2金属層と、前記第2キャリア層を構成する金属からなる第3金属層と、を備え、前記第2金属層と前記第1金属層と前記第3金属層とがこの順に直接接合されてなる、メタルマスクである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、ハンドリングが容易で、メタルマスクの薄肉化を可能にする、メタルマスク用クラッド板材が得られる。このメタルマスク用クラッド板材を用いれば、ハンドリングが容易で、従来よりも薄肉のメタルマスクが得られる。また、このメタルマスク用クラッド板材を用いれば、メタルマスクの生産性向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来技術として、単一種の金属からなる単層構造の金属板材を用いたメタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図2】従来技術として、2種の金属が接合された2層構造のクラッド板材を用いたメタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図3】この発明の一実施形態として、2層構造のメタルマスク用クラッド板材の一例を示す図である。
【
図4】この発明の一実施形態として、3層構造のメタルマスク用クラッド板材の一例を示す図である。
【
図5】この発明の一実施形態として、3層構造のメタルマスク用クラッド板材の別例を示す図である。
【
図6】この発明の一実施形態として、単層構造のメタルマスクの一例を示す図である。
【
図7】この発明の一実施形態として、単層構造のメタルマスクの別例を示す図である。
【
図8】この発明の一実施形態として、2層構造のメタルマスクの一例を示す図である。
【
図9】この発明の一実施形態として、2層構造のメタルマスクの別例を示す図である。
【
図10】この発明の一実施形態として、3層構造のメタルマスクの一例を示す図である。
【
図11】この発明の一実施形態として、3層構造のメタルマスクの別例を示す図である。
【
図12】2層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図13】2層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図14】2層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図15】2層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図16】2層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図17】3層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図18】3層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図19】3層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【
図20】3層構造のメタルマスク用クラッド板材を用いた、メタルマスクの製造方法について説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明について、この発明によるメタルマスク用クラッド板材を具体化した実施形態を挙げて説明する。
【0017】
<第1実施形態>
この発明によるメタルマスク用クラッド板材の第1実施形態を
図3に示す。
図3は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク用クラッド板材1S(以下「クラッド板材1S」という)の断面視である。
【0018】
クラッド板材1Sは、厚さ方向に切断された断面視において、2層構造である。クラッド板材1S(厚さT1S)は、基材層10(厚さt0)と、基材層10の一方側(Z1側)に圧接されている第1キャリア層11(厚さt1)と、を備えている。基材層10と第1キャリア層11との圧接形態は、例えば、基材層10を構成するための板材と、第1キャリア層11を構成するための板材とを、直接重ね合わせた状態で圧延(クラッド圧延)し、必要に応じて拡散焼鈍を行うことによって得られる。なお、クラッド板材1Sは特許請求の範囲の「メタルマスク用クラッド板材」の一例であり、基材層10は特許請求の範囲の「基材層」の一例であり、第1キャリア層11は特許請求の範囲の「第1キャリア層」の一例である。
【0019】
クラッド板材1Sを構成する基材層10はメタルマスクの主体にすることができる。この場合、基材層10部分からなる単層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、基材層10部分と第1キャリア層11部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能である。上記したように、目標とするメタルマスクの厚さは例えば20μm以下であり、望ましくは15μm以下である。この目標に照らし、薄肉化の観点から、クラッド板材1Sの厚さT1Sの上限値あるいは基材層10部分をメタルマスクの主体にする場合の基材層10の厚さt0の上限値は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、より一層好ましくは10μm以下である。また、ハンドリングの容易化の観点から、クラッド板材1Sの厚さT1Sの下限値あるいは基材層10部分をメタルマスクの主体にする場合の基材層10の厚さt0の下限値は、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、より一層好ましくは5μm以上である。クラッド板材1Sの厚さT1Sが薄いほど、あるいは基材層10がメタルマスクの主体になる場合には基材層10の厚さt0が薄いほど、エッチングにおけるサイドエッチングの量が抑制されるため、エッチングによって形成されたエッチング孔などのマスクパターンの寸法精度が改善され、より高精細なマスクパターンを有するメタルマスクを得ることが可能になる。
【0020】
クラッド板材1Sを構成する基材層10はFe基合金からなる。このFe基合金はNi(ニッケル)およびCo(コバルト)のうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含む。NiおよびCoを除く残部はFe(鉄)および不可避的不純物であってよいし、さらに1種以上の添加元素を含んでいてもよい。なお、NiおよびCoを含むFe基合金は、Coが10質量%以下(すなわちNiが20質量%以上40質量%以下)であるものが好ましい。Feに対してNiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含むFe基合金は、例えば有機EL素子用メタルマスクの使用に際して蒸着時の加熱変形(歪)を抑制するのに有効な線膨張係数が小さいものが多く、メタルマスク用板材を構成するのに適する。このFe基合金はNiおよびCo以外の元素(添加元素)を10質量%以下の範囲で含む場合がある。添加元素は、例えば、Mn(マンガン)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)およびCr(クロム)などである。これらの添加元素を0質量%以上10質量%以下の範囲で含むFe基合金は、0.2%耐力、引張強さ、伸び、ヤング率、硬さ、線膨張係数など、メタルマスク用板材を構成する金属材料として好ましい機械的強さおよび諸特性を有する可能性がある。上記したFe基合金からなる基材層10は上記したFe基合金に適した一般的な塩化第二鉄液でエッチングが可能である。
【0021】
クラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11は基材層10の一方側(Z1側)に直接圧接されている。第1キャリア層11はメタルマスクの主体となる薄肉化された基材層10の補強に有効であり、薄肉のクラッド板材1Sの機械的強さの向上に有効である。第1キャリア層11は薄肉化された基材層10のキャリアとなり、薄肉化された基材層10のハンドリングを容易化し、基材層10を含むクラッド板材1Sの大きな反りを抑制してエッチングの安定化に寄与する。また、第1キャリア層11は、基材層10と同様に、メタルマスクの主体にすることができる。この場合、第1キャリア層11部分からなる単層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第1キャリア層11部分と基材層10部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能である。第1キャリア層11の厚さt1は、基材層10の諸特性に加えて、クラッド板材1S全体の諸特性を考慮して設定するとよい。例えば、ハンドリングの容易化の観点から基材層10の補強を目的とする場合、第1キャリア層11の厚みt1は、好ましくは5μm以上100μm以下、より好ましくは20μm以上100μm以下である。例えば、第1キャリア層11部分をメタルマスクの主体にする場合には、第1キャリア層11の厚さt1の上限値は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、より一層好ましくは10μm以下である。
【0022】
第1キャリア層11は基材層10のエッチングが可能な塩化第二鉄液で、エッチング可能である。つまり、基材層10および第1キャリア層11は同質の塩化第二鉄液で同時にエッチングが可能である。この発明では、基材層10と第1キャリア層11とが塩化第二鉄液で同時にエッチング可能な場合において、その塩化第二鉄液に対して、基材層10は第1キャリア層11よりも高耐食であればよい。これにより、この塩化第二鉄液で基材層10および第1キャリア層11のエッチングを同時に開始した場合、基材層10は第1キャリア層11よりもエッチングされ難いため、第1キャリア層11のエッチング速度よりも、基材層10のエッチング速度を遅くすることができる。したがって、例えば、基材層10および第1キャリア層11に対して同時にエッチング孔を形成する際に、基材層10の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さが、第1キャリア層11の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも浅くなる。こうしたエッチング孔の深さの差が得られるメタルマスク用板材(クラッド板材1S)を用いれば、一方面側に配置された孔の深さと他方面側に配置された孔の深さとが異なるマスクパターンを有するメタルマスクの構成が可能になる。
【0023】
また、同等の環境下で同質の塩化第二鉄液を用いてクラッド板材1Sのエッチングを行って、基材層10の腐食減量をMbとし、第1キャリア層11の腐食減量をMC1とするとき、基材層10および第1キャリア層11は、Mb/Mc1≦0.9の関係を満足することが好ましい。この関係を満足するクラッド板材1Sは、基材層10および第1キャリア層11を同時にエッチングした際に、基材層10のエッチング速度を第1キャリア層11のエッチング速度よりも確実に遅くすることができる。これにより、例えばエッチング孔を同時に形成しようとしたとき、基材層10の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さを、第1キャリア層11の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも確実に浅くすることができる。なお、同時にエッチングされる基材層10および第1キャリア層11は、Mb/Mc1>0(Mb>0、Mc1>0)の関係を満足する。
【0024】
一例を挙げると、約32質量%のNiおよび約5.5質量%のCoを含むFe基合金からなる板材Aと、約36質量%のNiを含むFe基合金からなる板材Bとを、それぞれ、40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)でエッチングした場合、板材Aの腐食減量(MA)と板材Bの腐食減量(MB)の比(MA/MB)は約0.89となることを確認することができた。この関係を有する、板材Aを基材層10(厚さt0)に、板材Bを第1キャリア層11(厚さt1=t0)に、それぞれ用いてクラッド板材1Sを構成した場合、上記したMb/Mc1は約0.89になる。したがって、基材層10および第1キャリア層11は、Mb/Mc1≦0.9の関係を満足する。
【0025】
クラッド板材1Sは、0.2%耐力、引張強さ、伸び、ヤング率、硬さ、線膨張係数など、メタルマスクに適する機械的強さおよび諸特性を有することが好ましい。例えば、ハンドリングを容易化する観点では、引張強さが大きく、ヤング率が大きい、クラッド板材1Sが好ましい。この場合、クラッド板材1Sは、特にメタルマスクの主体となる基材層10は、引張強さが700MPa以上で、ヤング率が100GPa以上であることが好ましい。また、例えば有機EL素子用メタルマスクの使用に際して蒸着時の加熱変形(歪)を抑制する観点では、加熱により発生する反りが小さいクラッド板材1Sが好ましく、クラッド板材1Sを構成する基材層10の線膨張係数と第1キャリア層11の線膨張係数との差が小さいことが好ましい。この場合、基材層10の線膨張係数が5ppm/℃以下で、第1キャリア層11の線膨張係数が基材層10の線膨張係数に対して±2ppm/℃以内であることが好ましい。
【0026】
<第2実施形態>
この発明によるメタルマスク用クラッド板材の第2実施形態を
図4に示す。なお、
図4では簡便のため
図3に示す符号を援用する。
図4は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク用クラッド板材2S(以下「クラッド板材2S」という)の断面視である。
図4に示すクラッド板材2Sと
図3に示すクラッド板材1Sとは層数が異なる。クラッド板材2Sに備わる基材層10および第1キャリア層11は、クラッド板材1Sに備わる基材層10および第1キャリア層11と、同等構成であってよいし、同等構成でなくてもよい。
【0027】
クラッド板材2Sは、厚さ方向に切断された断面視において、3層構造である。クラッド板材2S(厚さT
2S)は、基材層10(厚さt0)と、基材層10の一方側(Z1側)に圧接されている第1キャリア層11(厚さt1)と、基材層10の他方側(Z2側)に圧接されている第2キャリア層12(厚さt2)と、を備えている。
図4に示す第1キャリア層11と第2キャリア層12とは厚さが略同等(t1=t2)である。基材層10と第1キャリア層11と第2キャリア層12との圧接形態は、例えば、基材層10を構成するための板材と、第1キャリア層11を構成するための板材と、第2キャリア層12を構成するための板材とを、直接重ね合わせた状態で圧延(クラッド圧延)し、必要に応じて拡散焼鈍を行うことによって得られる。なお、クラッド板材2Sは特許請求の範囲の「メタルマスク用クラッド板材」の一例であり、基材層10は特許請求の範囲の「基材層」の一例であり、第1キャリア層11は特許請求の範囲の「第1キャリア層」の一例であり、第2キャリア層12は特許請求の範囲の「第2キャリア層」の一例である。
【0028】
クラッド板材2Sを構成する基材層10はメタルマスクの主体にすることができる。この場合、基材層10部分からなる単層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、基材層10部分と第1キャリア層11部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、基材層10部分と第2キャリア層12部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第1キャリア層11部分と基材層10部分と第2キャリア層12部分とからなる3層構造のメタルマスクを得ることも可能である。上記したように、目標とするメタルマスクの厚さは例えば20μm以下であり、望ましくは15μm以下である。この目標に照らし、薄肉化の観点から、クラッド板材2Sの厚さT2Sの上限値あるいは基材層10部分をメタルマスクの主体にする場合の基材層10の厚さt0の上限値は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、より一層好ましくは10μm以下である。また、ハンドリングの容易化の観点から、クラッド板材2Sの厚さT2Sの下限値あるいは基材層10部分をメタルマスクの主体にする場合の基材層10の厚さt0の下限値は、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、より一層好ましくは5μm以上である。クラッド板材2Sの厚さT2Sが薄いほど、あるいは基材層10部分をメタルマスクの主体にする場合には基材層10の厚さt0が薄いほど、エッチングにおけるサイドエッチングの量が抑制されるため、エッチングによって形成されたエッチング孔などのマスクパターンの寸法精度が改善され、より高精細なマスクパターンを有するメタルマスクを得ることが可能になる。
【0029】
クラッド板材2Sを構成する基材層10はFe基合金からなる。このFe基合金はNiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含む。NiおよびCoを除く残部はFeおよび不可避的不純物であってよいし、さらに1種以上の添加元素を含んでいてもよい。なお、NiおよびCoを含むFe基合金は、Coが10質量%以下(すなわちNiが20質量%以上40質量%以下)であるものが好ましい。Feに対してNiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含むFe基合金は、例えば有機EL素子用メタルマスクの使用に際して蒸着時の加熱変形(歪)を抑制するのに有効な線膨張係数が小さいものが多く、メタルマスク用板材を構成するのに適する。このFe基合金はNiおよびCo以外の元素(添加元素)を10質量%以下の範囲で含む場合がある。添加元素は、例えば、Mn、Mo、NbおよびCrなどである。これらの添加元素を0質量%以上10質量%以下の範囲で含むFe基合金は、0.2%耐力、引張強さ、伸び、ヤング率、硬さ、線膨張係数など、メタルマスク用板材を構成する金属材料として好ましい機械的強さおよび諸特性を有する可能性がある。上記したFe基合金からなる基材層10は上記したFe基合金に適した一般的な塩化第二鉄液でエッチングが可能である。
【0030】
クラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11は基材層10の一方側(Z1側)に直接圧接されている。また、クラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12は基材層10の他方側(Z2側)に直接圧接されている。第1キャリア層11および第2キャリア層12はメタルマスクの主体となる薄肉化された基材層10の補強に有効であり、薄肉のクラッド板材2Sの機械的強さを高めるのに有効である。第1キャリア層11および第2キャリア層12は薄肉化された基材層10のキャリアとなり、薄肉化された基材層10のハンドリングを容易化し、基材層10を含むクラッド板材2Sのエッチングの安定化に寄与する。また、第1キャリア層11および第2キャリア層12は、基材層10と同様に、メタルマスクの主体にすることができる。この場合、第1キャリア層11部分からなる単層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第2キャリア層12部分からなる単層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第1キャリア層11部分と基材層10部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第2キャリア層12部分と基材層10部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第1キャリア層11部分と基材層10部分と第2キャリア層12部分とからなる3層構造のメタルマスクを得ることも可能である。ハンドリングの容易化の観点から基材層10の補強を目的とする場合、第1キャリア層11の厚みt1および第2キャリア層12の厚みt2は、それぞれ、好ましくは5μm以上100μm以下、より好ましくは20μm以上100μm以下である。第1キャリア層11部分あるいは第2キャリア層12部分をメタルマスクの主体にする場合には、第1キャリア層11の厚さt1の上限値および第2キャリア層12の厚みt2の上限値は、それぞれ、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、より一層好ましくは10μm以下である。
【0031】
第1キャリア層11および第2キャリア層12は、ともに、基材層10のエッチングが可能な塩化第二鉄液で、エッチング可能である。つまり、基材層10と第1キャリア層11、基材層10と第2キャリア層12、および第1キャリア層11と第2キャリア層12は、それぞれの組合せにおいて、同質の塩化第二鉄液で同時にエッチングが可能である。この発明では、基材層10と第1キャリア層11とが同時にエッチング可能な場合、基材層10と第2キャリア層12とが同時にエッチング可能な場合、および第1キャリア層11と第2キャリア層12とが同時にエッチング可能な場合のそれぞれにおいて、その塩化第二鉄液に対して、基材層10は第1キャリア層11および第2キャリア層12よりも高耐食であればよい。なお、第1キャリア層11が第2キャリア層12よりも同じ塩化第二鉄液に対して高耐食であってよく、あるいは第2キャリア層12が第1キャリア層11よりも同じ塩化第二鉄液に対して高耐食であってよい。これにより、例えば、第1キャリア層11および第2キャリア層12を同材質で厚さが同等(t1=t2)になるように構成すれば、第1キャリア層11と第2キャリア層12を同時にハーフエッチングすることによって、第1キャリア層11および第2キャリア層12を同時に除去して基材層10の一方側(Z1側)の表面および他方側(Z2側)の表面を同時に露出させ、基材層10からなる単層構造の金属板材を得ることができる。この場合、ハーフエッチングの条件を調整することによって、第1キャリア層11および第2キャリア層12のそれぞれが所定の厚さを有して基材層10の両面に備わる、3層構造のクラッド板材を得ることができる。また、第1キャリア層11と第2キャリア層12の材質を異ならせて構成すれば、ハーフエッチングにより同様に、塩化第二鉄液に対してより高耐食の第1キャリア層11または第2キャリア層12のいずれか一方のみを所定の厚さで残すことも可能になる。この場合、第1キャリア層11または第2キャリア層12のいずれか一方のみが所定の厚さを有して基材層10に備わる、2層構造のクラッド板材を得ることが可能である。
【0032】
この塩化第二鉄液に対して、基材層10は第1キャリア層11および第2キャリア層12よりも高耐食である。これにより、この塩化第二鉄液で上記した2層構造のクラッド板材のエッチングを開始した場合、基材層10は第1キャリア層11(あるいは第2キャリア層12)よりもエッチングされ難いため、第1キャリア層11(あるいは第2キャリア層12)のエッチング速度よりも、基材層10のエッチング速度を遅くすることができる。したがって、例えば、基材層10および第1キャリア層11を備える2層構造のクラッド板材に対して同時にエッチング孔を形成する際に、基材層10の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さが、第1キャリア層11の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも浅くなる。あるいは、基材層10および第2キャリア層12を備える2層構造のクラッド板材に対して同時にエッチング孔を形成する際に、基材層10の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さが、第2キャリア層12の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも浅くなる。こうしたエッチング孔の深さの差が得られるメタルマスク用板材(クラッド板材2S)を用いれば、一方面側に配置された孔の深さと他方面側に配置された孔の深さとが異なるマスクパターンを有するメタルマスクの構成が可能になる。
【0033】
また、同等の環境下で同質の塩化第二鉄液を用いてクラッド板材2Sのエッチングを行って、基材層10の腐食減量をMbとし、第1キャリア層11の腐食減量をMC1とし、第2キャリア層12の腐食減量をMC2とするとき、基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12は、Mb/Mc1≦0.9およびMb/Mc2≦0.9の関係を満足することが好ましい。この関係を満足するクラッド板材2Sは、基材層10および第1キャリア層11を同時にエッチングした際に、基材層10のエッチング速度を第1キャリア層11のエッチング速度よりも確実に遅くすることができるし、あるいは、基材層10および第2キャリア層12を同時にエッチングした際に、基材層10のエッチング速度を第2キャリア層12のエッチング速度よりも確実に遅くすることができる。これにより、例えばエッチング孔を同時に形成しようとしたとき、基材層10の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さを、第1キャリア層11の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも確実に浅くすることができるし、あるいは、基材層10の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さを、第2キャリア層12の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも確実に浅くすることができる。なお、同時にエッチングされる基材層10および第1キャリア層11は、Mb/Mc1>0(Mb>0、Mc1>0)の関係を満足し、あるいは、同時にエッチングされる基材層10および第2キャリア層12は、Mb/Mc2>0(Mb>0、Mc2>0)の関係を満足する。なお、第1キャリア層11および第2キャリア層12は、Mc1/Mc2≦0.9の関係を満足するものであってよく、あるいはMc2/Mc1≦0.9の関係を満足するものであってよい。
【0034】
クラッド板材2Sは、0.2%耐力、引張強さ、伸び、ヤング率、硬さ、線膨張係数など、メタルマスクに適する機械的強さおよび諸特性を有することが好ましい。例えば、ハンドリングを容易化する観点では、引張強さが大きく、ヤング率が大きい、クラッド板材2Sが好ましい。この場合、クラッド板材2Sは、特にメタルマスクの主体となる基材層10は、引張強さが700MPa以上で、ヤング率が100GPa以上であることが好ましい。また、例えば、例えば有機EL素子用メタルマスクの使用に際して蒸着時の加熱変形(歪)を抑制する観点では、加熱により発生する反りが小さいクラッド板材2Sが好ましく、クラッド板材2Sを構成する基材層10の線膨張係数、第1キャリア層11の線膨張係数および第2キャリア層12の線膨張係数の相互の差が小さいことが好ましい。この場合、基材層10の線膨張係数が5ppm/℃以下で、第1キャリア層11の線膨張係数および第2キャリア層12の線膨張係数が、それぞれ、基材層10の線膨張係数に対して±2ppm/℃以内であることが好ましい。
【0035】
<第3実施形態>
この発明によるメタルマスク用クラッド板材の第3実施形態を
図5に示す。なお、
図5では簡便のため
図3および
図4に示す符号を援用する。
図5は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク用クラッド板材3S(以下「クラッド板材3S」という)の断面視である。
図5に示すクラッド板材3Sと
図4に示すクラッド板材2Sとは第2キャリア層12の厚さが異なる(便宜上、いずれの厚さの符号もt2と表記する)。クラッド板材3Sを構成する基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12は、第1キャリア層11の厚さt1と第2キャリア層12の厚さt2が異なる(t1>t2)ことを除き、上記したクラッド板材2Sを構成する基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12と同等構成であってよいし、同等構成でなくてもよい。
【0036】
クラッド板材3Sは、厚さ方向に切断された断面視において、3層構造である。クラッド板材3S(厚さT
3S)は、基材層10(厚さt0)と、基材層10の一方側(Z1側)に圧接されている第1キャリア層11(厚さt1)と、基材層10の他方側(Z2側)に圧接されている第2キャリア層12(厚さt2)と、を備えている。
図5に示す第1キャリア層11と第2キャリア層12とは厚さが異なる(t1>t2)。なお、クラッド板材3Sは、例えば、第1キャリア層11の厚さt1よりも第2キャリア層12の厚さt2が厚くてもよい(t1<t2)。基材層10と第1キャリア層11と第2キャリア層12との圧接形態は、例えば、基材層10を構成するための板材と、第1キャリア層11を構成するための板材と、第2キャリア層12を構成するための板材とを、直接重ね合わせた状態で圧延(クラッド圧延)し、必要に応じて拡散焼鈍を行うことによって得られる。なお、クラッド板材3Sは特許請求の範囲の「メタルマスク用クラッド板材」の一例であり、基材層10は特許請求の範囲の「基材層」の一例であり、第1キャリア層11は特許請求の範囲の「第1キャリア層」の一例であり、第2キャリア層12は特許請求の範囲の「第2キャリア層」の一例である。
【0037】
クラッド板材3Sを構成する基材層10はメタルマスクの主体にすることができる。この場合、基材層10部分からなる単層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、基材層10部分と第1キャリア層11部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、基材層10部分と第2キャリア層12部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第1キャリア層11部分と基材層10部分と第2キャリア層12部分とからなる3層構造のメタルマスクを得ることも可能である。上記したように、目標とするメタルマスクの厚さは例えば20μm以下であり、望ましくは15μm以下である。この目標に照らし、薄肉化の観点から、クラッド板材2Sの厚さT3Sの上限値あるいは基材層10部分をメタルマスクの主体にする場合の基材層10の厚さt0の上限値は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、より一層好ましくは10μm以下である。また、ハンドリングの容易化の観点から、クラッド板材2Sの厚さT3Sの下限値あるいは基材層10部分をメタルマスクの主体にする場合の基材層10の厚さt0の下限値は、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、より一層好ましくは5μm以上である。クラッド板材2Sの厚さT3Sが薄いほど、あるいは基材層10部分をメタルマスクの主体にする場合には基材層10の厚さt0が薄いほど、エッチングにおけるサイドエッチングの量が抑制されるため、エッチングによって形成されたエッチング孔などのマスクパターンの寸法精度が改善され、より高精細なマスクパターンを有するメタルマスクを得ることが可能になる。
【0038】
クラッド板材3Sを構成する基材層10はFe基合金からなる。このFe基合金はNiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含む。NiおよびCoを除く残部はFeおよび不可避的不純物であってよいし、さらに1種以上の添加元素を含んでいてもよい。なお、NiおよびCoを含むFe基合金は、Coが10質量%以下(すなわちNiが20質量%以上40質量%以下)であるものが好ましい。Feに対してNiおよびCoのうちの1種以上を30質量%以上50質量%以下の範囲で含むFe基合金は、例えば有機EL素子用メタルマスクの使用に際して蒸着時の加熱変形(歪)を抑制するのに有効な線膨張係数が小さいものが多く、メタルマスク用板材を構成するのに適する。このFe基合金はNiおよびCo以外の元素(添加元素)を10質量%以下の範囲で含む場合がある。添加元素は、例えば、Mn、Mo、NbおよびCrなどである。これらの添加元素を0質量%以上10質量%以下の範囲で含むFe基合金は、0.2%耐力、引張強さ、伸び、ヤング率、硬さ、線膨張係数など、メタルマスク用板材を構成する金属材料として好ましい機械的強さおよび諸特性を有する可能性がある。上記したFe基合金からなる基材層10は上記したFe基合金に適した一般的なエッチング液(例えば塩化第二鉄液など)でエッチングが可能である。
【0039】
クラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11は基材層10の一方側(Z1側)に直接圧接されている。また、クラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12は基材層10の他方側(Z2側)に直接圧接されている。第1キャリア層11および第2キャリア層12はメタルマスクの主体となる薄肉化された基材層10の補強に有効であり、薄肉のクラッド板材2Sの機械的強さを高めるのに有効である。第1キャリア層11および第2キャリア層12は薄肉化された基材層10のキャリアとなり、薄肉化された基材層10のハンドリングを容易化し、基材層10を含むクラッド板材2Sのエッチングの安定化に寄与する。また、第1キャリア層11および第2キャリア層12は、基材層10と同様に、メタルマスクの主体にすることができる。この場合、第1キャリア層11部分からなる単層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第2キャリア層12部分からなる単層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第1キャリア層11部分と基材層10部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第2キャリア層12部分と基材層10部分とからなる2層構造のメタルマスクを得ることも可能であるし、第1キャリア層11部分と基材層10部分と第2キャリア層12部分とからなる3層構造のメタルマスクを得ることも可能である。ハンドリングの容易化の観点から基材層10の補強を目的とする場合、第1キャリア層11の厚みt1および第2キャリア層12の厚みt2は、それぞれ、好ましくは5μm以上100μm以下、より好ましくは20μm以上100μm以下である。第1キャリア層11部分あるいは第2キャリア層12部分をメタルマスクの主体にする場合には、第1キャリア層11の厚さt1の上限値および第2キャリア層12の厚みt2の上限値は、それぞれ、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、より一層好ましくは10μm以下である。
【0040】
第1キャリア層11および第2キャリア層12は、ともに、基材層10のエッチングが可能な塩化第二鉄液で、エッチング可能である。つまり、基材層10と第1キャリア層11、基材層10と第2キャリア層12、および第1キャリア層11と第2キャリア層12は、それぞれの組合せにおいて、同質の塩化第二鉄液で同時にエッチングが可能である。この発明では、基材層10と第1キャリア層11とが同時にエッチング可能な場合、基材層10と第2キャリア層12とが同時にエッチング可能な場合、および第1キャリア層11と第2キャリア層12とが同時にエッチング可能な場合のそれぞれにおいて、その塩化第二鉄液に対して、基材層10は第1キャリア層11および第2キャリア層12よりも高耐食であればよい。なお、第1キャリア層11が第2キャリア層12よりも同じ塩化第二鉄液に対して高耐食であってよく、あるいは第2キャリア層12が第1キャリア層11よりも同じ塩化第二鉄液に対して高耐食であってよい。これにより、例えば、厚さが異なる(例えばt1>t2)第1キャリア層11および第2キャリア層12を同時にハーフエッチングすることによって、第1キャリア層11の一部および第2キャリア層12の全部を同時に除去して基材層10の一方側(Z2側)の表面のみを露出させ、基材層10の他方側(Z1側)に第1キャリア層11が所定の厚さを有して備わる、2層構造のクラッド板材を得ることができる。また、こうした2層構造のクラッド板材は、例えば、第1キャリア層11と第2キャリア層12の材質を異ならせて構成し、塩化第二鉄液に対してより高耐食の第1キャリア層11または第2キャリア層12のいずれか一方のみを所定の厚さで残すことによっても得ることが可能である。こうした場合、ハーフエッチングの条件を調整することによって、第1キャリア層11および第2キャリア層12のそれぞれが所定の厚さを有して基材層10の両面に備わる、3層構造のクラッド板材を得ることも可能である。
【0041】
この塩化第二鉄液に対して、基材層10は第1キャリア層11および第2キャリア層12よりも高耐食である。これにより、この塩化第二鉄液で上記した2層構造のクラッド板材のエッチングを開始した場合、基材層10は第1キャリア層11(あるいは第2キャリア層12)よりもエッチングされ難いため、第1キャリア層11(あるいは第2キャリア層12)のエッチング速度よりも、基材層10のエッチング速度を遅くすることができる。したがって、例えば、基材層10および第1キャリア層11を備える2層構造のクラッド板材に対して同時にエッチング孔を形成する際に、基材層10の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さが、第1キャリア層11の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも浅くなる。あるいは、基材層10および第2キャリア層12を備える2層構造のクラッド板材に対して同時にエッチング孔を形成する際に、基材層10の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さが、第2キャリア層12の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも浅くなる。こうしたエッチング孔の深さの差が得られるメタルマスク用板材(クラッド板材3S)を用いれば、一方面側に配置された孔の深さと他方面側に配置された孔の深さとが異なるマスクパターンを有するメタルマスクの構成が可能になる。
【0042】
また、同等の環境下で同質の塩化第二鉄液を用いてクラッド板材3Sのエッチングを行って、基材層10の腐食減量をMbとし、第1キャリア層11の腐食減量をMC1とし、第2キャリア層12の腐食減量をMC2とするとき、基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12は、Mb/Mc1≦0.9およびMb/Mc2≦0.9の関係を満足することが好ましい。この関係を満足するクラッド板材3Sは、基材層10および第1キャリア層11を同時にエッチングした際に、基材層10のエッチング速度を第1キャリア層11のエッチング速度よりも確実に遅くすることができるし、あるいは、基材層10および第2キャリア層12を同時にエッチングした際に、基材層10のエッチング速度を第2キャリア層12のエッチング速度よりも確実に遅くすることができる。これにより、例えばエッチング孔を同時に形成しようとしたとき、基材層10の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さを、第1キャリア層11の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも確実に浅くすることができるし、あるいは、基材層10の表面(Z1側)からZ2側に向かって形成が進むエッチング孔の深さを、第2キャリア層12の表面(Z2側)からZ1側に向かって形成が進むエッチング孔の深さよりも確実に浅くすることができる。なお、同時にエッチングされる基材層10および第1キャリア層11は、Mb/Mc1>0(Mb>0、Mc1>0)の関係を満足し、あるいは、同時にエッチングされる基材層10および第2キャリア層12は、Mb/Mc2>0(Mb>0、Mc2>0)の関係を満足する。なお、第1キャリア層11および第2キャリア層12は、Mc1/Mc2≦0.9の関係を満足するものであってよく、あるいはMc2/Mc1≦0.9の関係を満足するものであってよい。
【0043】
クラッド板材3Sは、0.2%耐力、引張強さ、伸び、ヤング率、硬さ、線膨張係数など、メタルマスクに適する機械的強さおよび諸特性を有することが好ましい。例えば、ハンドリングを容易化する観点では、引張強さが大きく、ヤング率が大きい、クラッド板材3Sが好ましい。この場合、クラッド板材3Sは、特にメタルマスクの主体となる基材層10は、引張強さが700MPa以上で、ヤング率が100GPa以上であることが好ましい。また、例えば、有機EL素子用メタルマスクの使用に際して蒸着時の加熱変形(歪)を抑制する観点では、加熱により発生する反りが小さいクラッド板材3Sが好ましく、クラッド板材3Sを構成する基材層10の線膨張係数、第1キャリア層11の線膨張係数および第2キャリア層12の線膨張係数の相互の差が小さいことが好ましい。この場合、基材層10の線膨張係数が5ppm/℃以下で、第1キャリア層11の線膨張係数および第2キャリア層12の線膨張係数が、それぞれ、基材層10の線膨張係数に対して±2ppm/℃以内であることが好ましい。
【0044】
上記したメタルマスク用クラッド板材(第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態)を用いて製造することができる、この発明によるメタルマスクを具体化した実施形態(製品例)を挙げて説明する。
【0045】
<第1製品例>
この発明によるメタルマスクの第1製品例を
図6に示す。
図6は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク1Mの断面視である。メタルマスク1Mは、マスクパターンとして、例えばエッチング孔1fを有する。厚さ方向に切断された断面視において、メタルマスク1Mは単層構造である。メタルマスク1Mの主体は基材部10Mである。基材部10Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する基材層10部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する基材層10部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する基材層10部分からなる。メタルマスク1Mは薄肉化されており、その厚さT
1Mは20μm以下(好ましくは15μm以下)である。このように薄肉化されているメタルマスク1Mは、エッチングによって形成されたエッチング孔1fなどのマスクパターンの寸法精度が高く、より高精細なマスクパターンを有している。メタルマスク1Mの厚さT
1Mは、例えば、クラッド板材1Sを構成する基材層10の厚さ、クラッド板材2Sを構成する基材層10の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する基材層10の厚さと、同等であってよく(T
1M=t0)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(T
1M<t0)。
【0046】
<第1製品例の変形例>
この発明によるメタルマスクの第1製品例の変形例を
図7に示す。
図7は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク1Maの断面視である。メタルマスク1Maは、マスクパターンとして、例えばエッチング孔1fを有する。厚さ方向に切断された断面視において、メタルマスク1Maは単層構造部分と2層構造部分とからなる。単層構造部分はメタルマスク1Maの主体であって、基材部10Mからなる。2層構造部分は、基材部10Mと、メタルマスク1Maの主体を補強するためのフレーム部11fとからなる。基材部10Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する基材層10部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する基材層10部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する基材層10部分からなる。フレーム部11fは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11部分からなる。フレーム部11fは基材層10の辺縁部分に環状に配置されている。こうしたフレーム部11を備えたメタルマスク1Maは、
図6に示すメタルマスク1Mと比べて、メタルマスクの主体の厚さが略同等の場合は機械的強さが向上されるため、ハンドリングが容易なメタルマスクとなる。フレーム部11fは基材部10Mの辺縁部分に環状に配置されているが、基材部10Mの辺縁部分に環状に配置されていなくてもよいし、基材部10Mの反対面側に配置されていてもよい。なお、フレーム部11fの構成は上記に限定されない。例えば、フレーム部11fは、
図3に示すクラッド板材1Sの基材層10部分、
図4に示すクラッド板材2Sの基材層10部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sの基材層10部分のいずれからも構成することが可能である。フレーム部11fが基材層10部分から構成されている場合、そのメタルマスクは単層構造になる。また、フレーム部11fは、
図4に示すクラッド板材2Sの第2キャリア層12部分、あるいは
図5に示すクラッド板材2Sの第2キャリア層12部分のいずれからも構成することが可能である。
【0047】
メタルマスク1Maは薄肉化されており、その厚さT1Maは20μm以下(好ましくは15μm以下)である。このように薄肉化されているメタルマスク1Maは、エッチングによって形成されたエッチング孔1fなどのマスクパターンの寸法精度が高く、より高精細なマスクパターンを有している。メタルマスク1Maの厚さT1Maは、例えば、クラッド板材1Sを構成する基材層10の厚さ、クラッド板材2Sを構成する基材層10の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する基材層10の厚さと、同等であってよく(T1Ma=t0)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(T1Ma<t0)。フレーム部11fの厚さTXは、例えば、クラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11の厚さ、クラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11の厚さと、同等であってよく(TX=t1)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TX<t1)。なお、上記した厚さT1Maと厚さTXの合計の厚さ(T1Ma+TX)をメタルマスク1Maの厚さと見做すこともできる。
【0048】
<第2製品例>
この発明によるメタルマスクの第2製品例を
図8に示す。
図8は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク2Mの断面視である。メタルマスク2Mは、マスクパターンとして、例えばエッチング孔2fを有する。厚さ方向に切断された断面視において、メタルマスク2Mは2層構造である。メタルマスク2Mの主体は基材部10Mとキャリア部12Mとからなる。基材部10Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する基材層10部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する基材層10部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する基材層10部分からなる。キャリア部12Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第2キャリア層12部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12部分からなる。なお、キャリア部12Mの構成は上記に限定されない。例えば、キャリア部12Mは、
図3に示すクラッド板材1Sの第1キャリア層11部分、
図4に示すクラッド板材2Sの第1キャリア層11部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sの第1キャリア層11のいずれからも構成することが可能である。
【0049】
メタルマスク2Mは薄肉化されており、その厚さT2Mは20μm以下(好ましくは15μm以下)である。このように薄肉化されているメタルマスク2Mは、エッチングによって形成されたエッチング孔2fなどのマスクパターンの寸法精度が高く、より高精細なマスクパターンを有している。メタルマスク2Mの厚さT2Mは、例えば、クラッド板材1Sを構成する基材層10および第2キャリア層12の合計の厚さ、クラッド板材2Sを構成する基材層10および第2キャリア層12の合計の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する基材層10および第2キャリア層12の合計の厚さと、同等であってよく(T2M=t0+t2)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(T2M<t0+t2)。キャリア部12Mの厚さTYは、例えば、クラッド板材1Sを構成する第2キャリア層12の厚さ、クラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12の厚さと、同等であってよく(TY=t2)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TY<t2)。
【0050】
<第2製品例の変形例>
この発明によるメタルマスクの第2製品例の変形例を
図9に示す。
図9は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク2Maの断面視である。メタルマスク2Maは、マスクパターンとして、例えばエッチング孔2fを有する。厚さ方向に切断された断面視において、メタルマスク2Maは2層構造部分と3層構造部分とからなる。2層構造部分はメタルマスク2Maの主体であって、基材部10Mとキャリア層12Mとからなる。3層構造部分は、基材部10Mおよびキャリア層12Mと、メタルマスク2Maの主体を補強するためのフレーム部11fとからなる。基材部10Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する基材層10部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する基材層10部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する基材層10部分からなる。キャリア部12Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第2キャリア層12部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12部分からなる。フレーム部11fは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11部分からなる。フレーム部11fは基材層10の辺縁部分に環状に配置されている。こうしたフレーム部11を備えたメタルマスク2Maは、
図8に示すメタルマスク2Mと比べて、メタルマスクの主体の厚さが略同等の場合は機械的強さが向上されるため、ハンドリングが容易なメタルマスクとなる。フレーム部11fは基材部10Mの辺縁部分に環状に配置されているが、基材部10Mの辺縁部分に環状に配置されていなくてもよいし、基材部10Mの反対面側に配置されていてもよい。なお、フレーム部11fの構成は上記に限定されない。例えば、フレーム部11fは、
図3に示すクラッド板材1Sの基材層10部分、
図4に示すクラッド板材2Sの基材層10部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sの基材層10部分のいずれからも構成することが可能である。フレーム部11fが基材層10部分から構成されている場合、そのメタルマスクは基材層10およびキャリア部12Mの2層構造になる。また、キャリア部12Mの構成は上記に限定されない。例えば、キャリア部12Mは、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11部分のいずれからも構成することが可能である。
【0051】
メタルマスク2Maは薄肉化されており、その厚さT2Maは20μm以下(好ましくは15μm以下)である。このように薄肉化されているメタルマスク2Maは、エッチングによって形成されたエッチング孔2fなどのマスクパターンの寸法精度が高く、より高精細なマスクパターンを有している。メタルマスク2Maの厚さT2Maは、例えば、クラッド板材1Sを構成する基材層10および第2キャリア層12の合計の厚さ、クラッド板材2Sを構成する基材層10および第2キャリア層12の合計の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する基材層10および第2キャリア層12の合計の厚さと、同等であってよく(T2Ma=t0+t2)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(T2Ma<t0+t2)。キャリア部12Mの厚さTYは、例えば、クラッド板材1Sを構成する第2キャリア層12の厚さ、クラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12の厚さと、同等であってよく(TY=t2)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TY<t2)。フレーム部11fの厚さTXは、例えば、クラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11の厚さ、クラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11の厚さと、同等であってよく(TX=t1)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TX<t1)。なお、上記した厚さT2Maと厚さTXの合計の厚さ(T2Ma+TX)を、メタルマスク2Maの厚さと見做すこともできる。
【0052】
<第3製品例>
この発明によるメタルマスクの第3製品例を
図10に示す。
図10は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク3Mの断面視である。メタルマスク3Mは、マスクパターンとして、例えばエッチング孔3fを有する。厚さ方向に切断された断面視において、メタルマスク3Mは3層構造である。メタルマスク3Mの主体は基材部10Mと第1キャリア部11Mおよび第2キャリア部12Mとからなる。基材部10Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する基材層10部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する基材層10部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する基材層10部分からなる。第1キャリア部11Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11部分からなる。第2キャリア部12Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第2キャリア層12部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12部分からなる。なお、第1キャリア部11Mおよび第2キャリア部12Mの構成は上記に限定されない。例えば、第1キャリア部11Mを
図3に示すクラッド板材1Sの第2キャリア層12部分から構成し、第2キャリア部12Mを
図3に示すクラッド板材1Sの第1キャリア層11部分から構成することが可能である。また、第1キャリア部11Mを
図4に示すクラッド板材2Sの第2キャリア層12部分から構成し、第2キャリア部12Mを
図4に示すクラッド板材2Sの第1キャリア層11部分から構成することが可能である。また、第1キャリア部11Mを
図5に示すクラッド板材3Sの第2キャリア層12部分から構成し、第2キャリア部12Mを
図5に示すクラッド板材3Sの第1キャリア層11部分から構成することが可能である。
【0053】
メタルマスク3Mは薄肉化されており、その厚さT3Mは20μm以下(好ましくは15μm以下)である。このように薄肉化されているメタルマスク3Mは、エッチングによって形成されたエッチング孔3fなどのマスクパターンの寸法精度が高く、より高精細なマスクパターンを有している。メタルマスク3Mの厚さT3Mは、例えば、クラッド板材1Sを構成する基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12の合計の厚さ、クラッド板材2Sを構成する基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12の合計の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12の合計の厚さと、同等であってよく(T3M=t0+t1+t2)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(T3M<t0+t1+t2)。第1キャリア部11Mの厚さTY1は、例えば、クラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11の厚さ、クラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11の厚さと、同等であってよく(TY1=t1)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TY1<t1)。第2キャリア部12Mの厚さTY2は、例えば、クラッド板材1Sを構成する第2キャリア層12の厚さ、クラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12の厚さと、同等であってよく(TY2=t2)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TY2<t2)。
【0054】
<第3製品例の変形例>
この発明によるメタルマスクの第3製品例の変形例を
図11に示す。
図11は厚さ方向(Z方向)に切断されたメタルマスク3Maの断面視である。メタルマスク3Maは、マスクパターンとして、例えばエッチング孔3fを有する。厚さ方向に切断された断面視において、メタルマスク3Maは3層構造である。メタルマスク3Maの主体は基材部10Mと第1キャリア部11Mおよび第2キャリア部12Mとからなる。第1キャリア部11Mはメタルマスク3Maを補強するためのフレーム部11fを有する。基材部10Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する基材層10部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する基材層10部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する基材層10部分からなる。第1キャリア部11Mおよびフレーム部11fは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11部分からなる。第2キャリア部12Mは、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを構成する第2キャリア層12部分、
図4に示すクラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12部分からなる。フレーム部11fは第1キャリア部11Mを形成する際に形成することができる。フレーム部11fは基材層10の辺縁部分に環状に配置されている。こうしたフレーム部11を備えたメタルマスク3Maは、
図10に示すメタルマスク3Mと比べて、メタルマスクの主体の厚さが略同等の場合は機械的強さが向上されるため、ハンドリングが容易なメタルマスクとなる。フレーム部11fは第1キャリア部11Mの辺縁部分に環状に配置されているが、第1キャリア部11Mの辺縁部分に環状に配置されていなくてもよいし、第1キャリア部11Mの反対面側の第2キャリア部12Mに配置されていてもよい。なお、フレーム部11fの構成は上記に限定されない。例えば、フレーム部11fは、
図3に示すクラッド板材1Sの第2キャリア層12部分、
図4に示すクラッド板材2Sの第2キャリア層12部分、あるいは
図5に示すクラッド板材3Sの第2キャリア層12部分のいずれからも構成することが可能である。
【0055】
メタルマスク3Maは薄肉化されており、その厚さT3Maは20μm以下(好ましくは15μm以下)である。このように薄肉化されているメタルマスク3Maは、エッチングによって形成されたエッチング孔3fなどのマスクパターンの寸法精度が高く、より高精細なマスクパターンを有している。メタルマスク3Maの厚さT3Maは、例えば、クラッド板材1Sを構成する基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12の合計の厚さ、クラッド板材2Sを構成する基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12の合計の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する基材層10、第1キャリア層11および第2キャリア層12の合計の厚さと、同等であってよく(T3Ma=t0+t1+t2)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(T3Ma<t0+t1+t2)。第1キャリア部11Mの厚さTY1は、例えば、クラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11の厚さ、クラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11の厚さと、同等であってよく(TY1=t1)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TY1<t1)。第2キャリア部12Mの厚さTY2は、例えば、クラッド板材1Sを構成する第2キャリア層12の厚さ、クラッド板材2Sを構成する第2キャリア層12の厚さ、あるいはクラッド板材3Sを構成する第2キャリア層12の厚さと、同等であってよく(TY2=t2)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TY2<t2)。フレーム部11fの厚さTXは、例えば、クラッド板材1Sを構成する第1キャリア層11の厚さから、クラッド板材2Sを構成する第1キャリア層11の厚さから、あるいはクラッド板材3Sを構成する第1キャリア層11の厚さから、第1キャリア部11Mの厚さを差し引いた厚さと同等であってよく(TX=t1-TY1)、ハーフエッチングなどによって同等以下に薄くなっていてもよい(TX<t1-TY1)。なお、上記した厚さT3Maと厚さTXの合計の厚さ(T3Ma+TX)を、メタルマスク3Maの厚さと見做すこともできる。
【0056】
以下、この発明に係るメタルマスク用クラッド板材(第1実施例、第2実施例および第3実施例)を用いて、この発明に係るメタルマスクを具体化した実施形態(製品例)を製造する方法について、
図12から
図20に基づいて説明する。なお、
図12から
図16に基づいて
図3に示すクラッド板材1S(第1実施形態)を用いたメタルマスクの製造方法の一例を説明し、
図17から
図20に基づいて
図4に示すクラッド板材2S(第2実施形態)および
図5に示すクラッド板材3S(第3実施形態)を用いたメタルマスクの製造方法の一例を説明する。
【0057】
<第1製品例><第2製品例>
図12および
図13に示すメタルマスクの製造方法によれば、
図6に示すメタルマスク1M(第1製品例)および
図8に示すメタルマスク2M(第2製品例)を製造することができる。
【0058】
図12において、工程(a)は素材準備工程である。この素材準備工程では、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを準備する。クラッド板材1S(厚さT
1S)は基材層10(厚さt0)と第1キャリア層11(厚さt1)とを備える。基材層10の厚さは1μm以上20μm以下(好ましくは5μm以上15μm以下)である。基材層10と第1キャリア層11とは圧接されている。基材層10は例えば約32質量%のNiおよび約5.5質量%のCoを含むFe基合金Aからなる。第1キャリア層11は例えば約36質量%のNiを含むFe基合金Bからなる。Fe基合金Aからなる基材層10およびFe基合金Bからなる第1キャリア層11は同質の塩化第二鉄液(例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液など)でエッチングが可能である。なお、Fe基合金Aからなる基材層10はFe基合金Bからなる第1キャリア層11よりも上記塩化第二鉄液に対して高耐食である。
【0059】
図12において、工程(b)は被覆工程である。この被覆工程では、所定のエッチングパターンを形成するために、基材層10の表面10aに保護膜13を形成し、第1キャリア層11の表面11aに保護膜14を形成する。
【0060】
図12において、工程(c)はエッチング工程である。このエッチング工程では、基材層10を構成するFe基合金Aおよび第1キャリア層11を構成するFe基合金Bの両方に適する塩化第二鉄液を用いて、クラッド板材1Sをエッチングする。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このエッチングにより、保護膜13を有さない基材層10の表面10aおよび保護膜14を有さない第1キャリア層11の表面11aが同時にエッチングされ、例えばエッチング孔10bおよびエッチング孔11bが略同時に形成される。このとき、Fe基合金Aからなる基材層10がFe基合金Bからなる第1キャリア層11よりも上記塩化第二鉄液に対して高耐食であることによって、基材層10側のエッチング速度よりも第1キャリア層11側のエッチング速度が大きくなる。そのため、基材層10側よりも第1キャリア層11側の腐食減量が大きくなり、基材層10側のエッチング孔10bよりも第1キャリア層11側のエッチング孔11bのサイズ(表面からの深さ、表面への開口径、孔内の体積など)を大きくすることができる。なお、エッチング孔10bおよびエッチング孔11bのサイズなどの調整は、基材層10および第1キャリア層11の厚さ、材質などを適切に選択すれば可能である。
【0061】
図12において、工程(d)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、クラッド板材1Sから保護膜13および保護膜14が除去され、全表面が清浄処理される。これによりメタルマスクを製造することができる。このメタルマスクはFe基合金Aからなる基材部10MおよびFe基合金Bからなるキャリア部11Mによって構成されている。このメタルマスクは、例えば
図8に示すようなメタルマスク2Mであって、例えばマスクパターン2fを有する厚さT
2Mの2層構造のメタルマスク2M(第2製品例)である。
【0062】
次に、
図13に示す製造プロセスを用いるメタルマスクの製造方法について説明する。
図13に示す製造プロセスは、
図12に示す工程(a)から工程(c)に続くプロセスである。
図12に示す工程(a)から工程(c)に続いて、
図13に示す工程(c1)および工程(d1)を経ることによって、例えば
図6に示すようなメタルマスク1M(第1製品例)を製造することができる。
【0063】
図13において、工程(c1)はハーフエッチング工程である。このハーフエッチング工程では、クラッド板材1Sから保護膜13が除去された後にハーフエッチングが行われる。ハーフエッチングは、基材層10を構成するFe基合金Aに適する塩化第二鉄液を用いて、基材層10の表面10a側(Z2側)から第1キャリア層11側(Z1側)に向かって略均一に行われる。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このハーフエッチングによって基材層10の略全部が除去される。なお、ハーフエッチング条件の調整によって、基材層10が除去された後の第1キャリア層11に対して、Z1側に向かうハーフエッチングを行うことも可能である。これにより、メタルマスクの薄肉化が可能である。
【0064】
図13において、工程(d1)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、クラッド板材1Sから保護膜14が除去され、クラッド板材1Sの全表面が清浄処理され、メタルマスク製造することができる。このメタルマスクはFe基合金Bからなるキャリア部11Mによって構成されている。このメタルマスクは、例えば
図6に示すようなメタルマスク1Mであって、例えばマスクパターン1fを有する厚さT
1Mの単層構造のメタルマスク1M(第1製品例)である。
【0065】
<第1製品例の第1変形例>
図12および
図14、あるいは
図12および
図15に示すメタルマスクの製造方法によれば、
図7に示すメタルマスク(第1製品例の変形例)と類似の構成を有する、
図14あるいは
図15に示すメタルマスク1Ma(第1製品例の第1変形例)を製造することができる。
【0066】
図14あるいは
図15に示すメタルマスク1Ma(第1製品例の第1変形例)は、
図12に示す工程(a)から工程(c)に続いて、
図13あるいは
図14に示す製造プロセスによって製造することができる。なお、
図12に示す工程(a)に対応する素材準備工程では、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを準備する。このクラッド板材1Sは上記したメタルマスク1Mの場合と同様なものであってよい。
図12に示す工程(b)に対応する被覆工程および工程(c)に対応するエッチング工程は上記したメタルマスク1Mの場合と同様に行ってよい。
【0067】
図14に示す製造プロセスを用いるメタルマスクの製造方法について説明する。
図14に示す製造プロセスは、
図12に示す工程(a)から工程(c)に続くプロセスである。
図14において、工程(e)は被覆工程である。この被覆工程では、Z1側に所定の形状のフレーム部11f(工程(h)参照)を形成するために、第1キャリア層11の表面11aに保護膜15を形成し、エッチング孔11b(
図12参照)に保護膜16を形成し、基材層10の表面10aおよびエッチング孔10bに保護膜17を形成する。
【0068】
図14において、工程(f)はエッチング工程である。このエッチング工程では、第1キャリア層11を構成するFe基合金Bに適する塩化第二鉄液を用いて、第1キャリア層11をエッチングする。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このエッチングにより、保護膜15および保護膜16を有さない第1キャリア層11の表面11aがエッチングされ、例えばエッチング孔11cが形成される。このエッチング孔11cの深さ(エッチング量)の調整はエッチング条件の調整などによって可能である。
【0069】
図14において、工程(g)はハーフエッチング工程である。このハーフエッチング工程では、まず、基材層10から保護膜17が除去される。次いで、エッチング孔11bおよびエッチング孔11cを含む第1キャリア層11の表面11aに保護膜18が形成され、エッチング孔10b(
図12参照)に保護膜19が形成される。その後、ハーフエッチングが行われる。ハーフエッチングは、基材層10の表面10a側(Z2側)から第1キャリア層11側(Z1側)に向かって略均一に行われる。このハーフエッチングによって基材層10の略全部が除去される。なお、ハーフエッチング条件の調整によって、基材層10が除去された後の第1キャリア層11に対して、Z1側に向かうハーフエッチングを行うことも可能である。これにより、メタルマスクの薄肉化が可能である。
【0070】
図14において、工程(h)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、クラッド板材1Sから保護膜18および保護膜19が除去され、全表面が清浄処理される。これによりメタルマスクを製造することができる。このメタルマスクは、Fe基合金Bからなるキャリア部11Mによって構成され、キャリア部11MのZ1側の辺縁部分に環状にフレーム部11fが配置されている。このフレーム部11fは第1キャリア層11部分からなる。このメタルマスクは、例えば
図7に示すメタルマスクと類似の構成を有するものであって、例えばマスクパターン1faを有する厚さT
1Maの単層構造のメタルマスク1Ma(第1製品例の第1変形例)である。
【0071】
次に、
図15に示す製造プロセスを用いるメタルマスクの製造方法について説明する。
図15に示す製造プロセスは、
図12に示す工程(a)から工程(c)に続くプロセスである。
図15において、工程(e1)は被覆工程である。この被覆工程では、Z1側に所定の形状のフレーム部11f(工程(h1)参照)を形成するために、第1キャリア層11の表面11aに保護膜15を形成し、エッチング孔11b(
図12参照)に保護膜16を形成し、エッチング孔10b(
図12参照)に保護膜19を形成する。なお、基材層10の表面10aには保護膜を形成しない。
【0072】
図15において、工程(f1)はエッチングおよびハーフエッチング工程である。このエッチングおよびハーフエッチング工程では、基材層10を構成するFe基合金Aおよび第1キャリア層11を構成するFe基合金Bの両方に適する塩化第二鉄液を用いて、第1キャリア層11側(Z1側)および基材層10側(Z2側)を同時にエッチングする。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このエッチングにより、保護膜15および保護膜16を有さない第1キャリア層11の表面11aがエッチングされ、例えばエッチング孔11cが形成される。このエッチング孔11cの深さ(エッチング量)の調整はエッチング条件の調整などによって可能である。また、同時に、保護膜19を有さない基材層10の表面10aが第1キャリア層11側(Z1側)に向かって略均一にハーフエッチングされ、基材層10の略全部が除去される。なお、ハーフエッチング条件の調整によって、基材層10が除去された後の第1キャリア層11に対して、Z1側に向かうハーフエッチングを行うことも可能である。これにより、メタルマスクの薄肉化が可能である。
【0073】
図15において、工程(h1)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、クラッド板材1Sから保護膜15、保護膜16および保護膜19が除去され、全表面が清浄処理される。これによりメタルマスクを製造することができる。このメタルマスクは、Fe基合金Bからなるキャリア部11Mによって構成され、キャリア部11MのZ1側の辺縁部分に環状にフレーム部11fが配置されている。このフレーム部11fは第1キャリア層11部分からなる。このメタルマスクは、例えば
図7に示すメタルマスクと類似の構成を有するものであって、例えばマスクパターン1faを有する厚さT
1Maの単層構造のメタルマスク1Ma(第1製品例の第1変形例)である。
【0074】
<第1製品例の第2変形例>
図12および
図16に示すメタルマスクの製造方法によれば、
図7に示すメタルマスク(第1製品例の変形例)と類似の構成であって、フレーム部11fがZ2側に配置されている、
図16に示すメタルマスク1Mb(第1製品例の第2変形例)を製造することができる。
【0075】
図16に示すメタルマスク1Mb(第1製品例の第2変形例)は、
図12に示す工程(a)から工程(c)に続いて、
図16に示す製造プロセスによって製造することができる。なお、
図12に示す工程(a)に対応する素材準備工程では、例えば、
図3に示すクラッド板材1Sを準備する。このクラッド板材1Sは上記したメタルマスク1Mの場合と同様なものであってよい。
図12に示す工程(b)に対応する被覆工程および工程(c)に対応するエッチング工程は上記したメタルマスク1Mの場合と同様に行ってよい。
【0076】
図16に示す製造プロセスは、
図12に示す工程(a)から工程(c)に続くプロセスである。
図16において、工程(e2)は被覆工程である。この被覆工程では、Z2側に所定の形状のフレーム部10f(工程(h2)参照)を形成するために、基材層10の表面10aに保護膜17を形成し、エッチング孔10bに保護膜19を形成し、第1キャリア層11の表面11aおよびエッチング孔11b(
図12参照)に保護膜20を形成する。
【0077】
図16において、工程(f2)はエッチング工程である。このエッチング工程では、基材層10を構成するFe基合金Aに適する塩化第二鉄液を用いて、基材層10をエッチングする。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このエッチングにより、保護膜17および保護膜19を有さない基材層10の表面10aがエッチングされ、基材層10の略全部が除去され、例えばエッチング孔10cが形成される。このエッチング孔10cの深さ(エッチング量)の調整はエッチング条件の調整などによって可能である。なお、エッチング条件の調整によって、基材層10が除去された後の第1キャリア層11に対して、Z1側に向かうエッチングを行うことも可能である。これにより、メタルマスクの薄肉化が可能である。
【0078】
図16において、工程(h2)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、保護膜17、保護膜19および保護膜20が除去され、全表面が清浄処理される。これによりメタルマスクを製造することができる。このメタルマスクは、Fe基合金Bからなるキャリア部11Mによって構成され、キャリア部11MのZ2側の辺縁部分に環状にフレーム部10fが配置されている。このフレーム部10fは基材層10部分からなる。このメタルマスクは、例えば
図7に示すメタルマスクと類似の構成を有するものであって、フレーム部10fがZ2側に配置されている。このフレーム部10fは第2キャリア層12部分からなる。このメタルマスクは、例えばマスクパターン1fを有する厚さT
1Mbのメタルマスク1Mb(第1製品例の第2変形例)である。このメタルマスク1Mbの主体は単層構造である。
【0079】
<第3製品例>
図17に示すメタルマスクの製造方法によれば、
図10に示すメタルマスク3M(第3製品例)を製造することができる。
【0080】
図17において、工程(i)は素材準備工程である。この素材準備工程では、例えば、
図4に示すクラッド板材2Sまたは
図5に示すクラッド板材3Sを準備する。
図16では、代表して、
図4に示すクラッド板材2Sを挙げている。クラッド板材2S(厚さT
2S)は基材層10(厚さt0)と第1キャリア層11(厚さt1)と第2キャリア層12(厚さt2)とを備える。基材層10の厚さは1μm以上20μm以下(好ましくは5μm以上15μm以下)である。基材層10と第1キャリア層11とは直接圧接されている。基材層10と第2キャリア層12とは直接圧接されている。基材層10は例えば約32質量%のNiおよび約5.5質量%のCoを含むFe基合金Aからなる。第1キャリア層11は例えば約36質量%のNiを含むFe基合金Bからなる。第2キャリア層12はFe基合金Cからなり、Fe基合金Bと同質の塩化第二鉄液でエッチング可能であって、その塩化第二鉄液に対してFe基合金Bよりも高耐食である。Fe基合金Aからなる基材層10、Fe基合金Bからなる第1キャリア層11およびFe基合金Cからなる第2キャリア層12は、いずれも、同質の塩化第二鉄液(例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液など)でエッチングが可能である。なお、Fe基合金Aからなる基材層10は、上記塩化第二鉄液に対して、Fe基合金Bからなる第1キャリア層11よりも高耐食であり、Fe基合金Cからなる第2キャリア層12よりも高耐食である。
【0081】
図17において、工程(j)は被覆工程である。この被覆工程では、所定のエッチングパターンを形成するために、第1キャリア層11の表面11aに保護膜13を形成し、第2キャリア層12の表面12aに保護膜14を形成する。
【0082】
図17において、工程(k)はエッチング工程である。このエッチング工程では、第1キャリア層11を構成するFe基合金Bおよび第2キャリア層12を構成するFe基合金Cの両方に適する塩化第二鉄液を用いて、クラッド板材2Sをエッチングする。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このエッチングにより、保護膜13を有さない第1キャリア層11の表面11aと、保護膜14を有さない第2キャリア層12の表面12aとが、同時にエッチングされ、例えばエッチング孔11bおよびエッチング孔12bが略同時に形成される。このとき、Fe基合金Cから構成される第2キャリア層12がFe基合金Bから構成される第1キャリア層11よりも上記塩化第二鉄液に対して高耐食であることによって、第2キャリア層12側のエッチング速度よりも第1キャリア層11側のエッチング速度が大きくなる。そのため、基材層10側よりも第1キャリア層11側の腐食減量が大きくなり、Z1側からZ2側に向かうエッチング孔の形成がより速く進む。その結果、基材層10のエッチングはZ1側から進行するため、第2キャリア層12側(Z2側)のエッチング孔12bよりも第1キャリア層11側(Z1側)のエッチング孔11bのサイズ(表面からの深さ、表面への開口径、孔内の体積など)を大きくすることができる。なお、エッチング孔11bおよびエッチング孔12bのサイズなどの調整は、第1キャリア層11および第2キャリア層12の厚さ、材質などを適切に選択すれば可能である。
【0083】
図17において、工程(m)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、クラッド板材2Sから保護膜13および保護膜14が除去され、全表面が清浄処理される。これによりメタルマスクを製造することができる。このメタルマスクはFe基合金Aからなる基材部10M、Fe基合金Bからなる第1キャリア部11MおよびFe基合金Cからなる第2キャリア部12Mによって構成されている。このメタルマスクは、例えば
図10に示すようなメタルマスク3Mであって、例えばマスクパターン3fを有する厚さT
3Mの3層構造のメタルマスク3M(第3製品例)である。
【0084】
<第3製品例の変形例>
図17および
図18に示す製造プロセスによれば、
図11に示すメタルマスク3Ma(第3製品例の変形例)を製造することができる。
【0085】
図11に示すメタルマスク3Ma(第3製品例の変形例)は、
図17に示す工程(i)から工程(k)に続いて、
図18に示す製造プロセスによって製造することができる。なお、
図17に示す工程(a)に対応する素材準備工程では、例えば、
図5に示すクラッド板材3Sを準備する。クラッド板材3S(厚さT
3S)は基材層10(厚さt0)と第1キャリア層11(厚さt1)と第2キャリア層12(厚さt2、t1>t2)とを備える。基材層10の厚さは1μm以上20μm以下(好ましくは5μm以上15μm以下)である。第1キャリア層11の厚さt1は、第1キャリア層11部分を用いてフレーム部11f(
図18参照)を設けるために、第2キャリア層12の厚さt2よりも厚くしてある(
図5参照、t1>t2)。基材層10と第1キャリア層11とは直接圧接されている。基材層10と第2キャリア層12とは直接圧接されている。基材層10は例えば約32質量%のNiおよび約5.5質量%のCoを含むFe基合金Aからなる。第1キャリア層11は例えば約36質量%のNiを含むFe基合金Bからなる。第2キャリア層12はFe基合金Cからなり、Fe基合金Bと同質の塩化第二鉄液でエッチング可能であって、その塩化第二鉄液に対してFe基合金Bよりも高耐食である。Fe基合金Aからなる基材層10、Fe基合金Bからなる第1キャリア層11およびFe基合金Cからなる第2キャリア層12は、いずれも、同質の塩化第二鉄液(例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液など)でエッチングが可能である。なお、Fe基合金Aからなる基材層10は、上記塩化第二鉄液に対して、Fe基合金Bからなる第1キャリア層11よりも高耐食であり、Fe基合金Cからなる第2キャリア層12よりも高耐食である。
図17に示す工程(j)に対応する被覆工程および工程(k)に対応するエッチング工程は上記したメタルマスク3Mの場合と同様に行ってよい。
【0086】
図18に示す製造プロセスは、
図17に示す工程(i)から工程(k)に続くプロセスである。
図18において、工程(n)は被覆工程である。この被覆工程では、Z1側に所定の形状のフレーム部11f(工程(q)参照)を形成するために、第1キャリア層11の表面11aに保護膜15を形成し、エッチング孔11b(
図17参照)に保護膜16を形成し、第2キャリア層12の表面12aおよびエッチング孔12b(
図17参照)に保護膜17を形成する。
【0087】
図18において、工程(p)はエッチング工程である。このエッチング工程では、第1キャリア層11を構成するFe基合金Bに適する塩化第二鉄液を用いて、第1キャリア層11をエッチングする。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このエッチングにより、保護膜15を有さない第1キャリア層11の表面11aがエッチングされ、例えばエッチング孔11cが形成される。なお、エッチング時間などの条件の調整によって、エッチング孔11cの深さの調整が可能である。
【0088】
図18において、工程(q)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、クラッド板材3Sから保護膜15、保護膜16および保護膜17が除去され、全表面が清浄処理される。これによりメタルマスクを製造することができる。このメタルマスクは、Fe基合金Aからなる基材部10MとFe基合金Bからなる第1キャリア部11MおよびFe基合金Cからなる第2キャリア部12Mによって構成され、第1キャリア部11MのZ1側の辺縁部分に環状にフレーム部11fが配置されている。このフレーム部11fは第1キャリア層11部分からなる。このメタルマスクは、例えば
図11に示すようなメタルマスク3Maであって、例えばマスクパターン3fを有する厚さT
3Maの3層構造のメタルマスク3Ma(第3製品例)である。
【0089】
<第2製品例の変形例>
図17および
図19に示す製造プロセスによれば、
図9に示すメタルマスク2Ma(第2製品例の変形例)を製造することができる。
【0090】
図9に示すメタルマスク2Ma(第2製品例の変形例)は、
図17に示す工程(i)から工程(k)に続いて、
図19に示す製造プロセスによって製造することができる。なお、
図17に示す工程(a)に対応する素材準備工程では、例えば、
図4に示すクラッド板材2Sまたは
図5に示すクラッド板材3Sを準備する。
図19では、代表して、
図4に示すクラッド板材2Sを挙げている。このクラッド板材2Sは上記したメタルマスク3Mの場合と同様なものであってよい。第1キャリア層11の厚さt1は、第1キャリア層11部分をエッチングしてフレーム部11f(
図18参照)を設けるために、第2キャリア層12の厚さt2と略同等であってよい(
図4参照、t1=t2)。
図17に示す工程(b)に対応する被覆工程および工程(c)に対応するエッチング工程は上記したメタルマスク3Mの場合と同様に行ってよい。
【0091】
図19に示す製造プロセスは、
図17に示す工程(i)から工程(k)に続くプロセスである。
図19において、工程(n1)は被覆工程である。この被覆工程では、Z1側に所定の形状のフレーム部11f(工程(q1)参照)を形成するために、第1キャリア層11の表面11aに保護膜15を形成し、エッチング孔11b(
図17参照)に保護膜16を形成し、第2キャリア層12の表面12aおよびエッチング孔12b(
図17参照)に保護膜17を形成する。
【0092】
図19において、工程(p1)はエッチング工程である。このエッチング工程では、第1キャリア層11を構成するFe基合金Bに適する塩化第二鉄液を用いて、第1キャリア層11をエッチングする。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このエッチングにより、保護膜15を有さない第1キャリア層11の表面11aがエッチングされ、第1キャリア層11の略全部が除去され、例えばエッチング孔11cが形成される。なお、エッチング時間などの条件の調整によって、エッチング孔11cの深さの調整が可能である。また、エッチング条件の調整によって、第1キャリア層11が除去された後の基材層10に対して、Z2側に向かうエッチングを行うことも可能である。これにより、メタルマスクの薄肉化が可能である。
【0093】
図19において、工程(q1)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、クラッド板材2Sから保護膜15、保護膜16および保護膜17が除去され、全表面が清浄処理される。これによりメタルマスクを製造することができる。このメタルマスクの主体は、Fe基合金Aからなる基材部10MおよびFe基合金Cからなる第2キャリア部12Mによって構成される。このメタルマスクは、Fe基合金Bからなる第1キャリア部11MのZ1側の辺縁部分に環状にフレーム部11fが配置されている。このフレーム部11fは第1キャリア層11部分からなる。このメタルマスクは、例えば
図9に示すようなメタルマスク2Maであって、例えばマスクパターン2fを有する厚さT
2Maのメタルマスク2Ma(第2製品例の変形例)である。このメタルマスク2Maの主体は2層構造である。
【0094】
<第1製品例の第3変形例>
図17および
図20に示す製造プロセスによれば、
図7に示すメタルマスク1Ma(第1製品例の変形例)を製造することができる。なお、この製造プロセスで得られる
図20に示すメタルマスク1Maを、便宜上、第1製品例の第3変形例という。
【0095】
図7に示すメタルマスク1Ma(第1製品例の第3変形例)は、
図17に示す工程(i)から工程(k)に続いて、
図20に示す製造プロセスによって製造することができる。なお、
図17に示す工程(a)に対応する素材準備工程では、例えば、
図4に示すクラッド板材2Sまたは
図5に示すクラッド板材3Sに類似のクラッド板材を準備する。このクラッド板材3Sは、上記したメタルマスク3Ma(
図18参照)の場合と同様なものであってよいが、上記したメタルマスク3Ma(
図18参照)の場合と同様なものでなくてもよい。クラッド板材3Sは、例えば、第1キャリア層11の厚さt1よりも第2キャリア層12の厚さt2が厚くてもよい(t1<t2)。
図20では、代表して、
図5に示すクラッド板材3Sに類似の3層構造のクラッド板材(以下、クラッド板材3Sという)を挙げている。基材層10は例えば上記Fe基合金Aからなる。第1キャリア層11は上記Fe基合金Aよりも同質の塩化第二鉄液でエッチングされやすい例えば上記Fe基合金Cからなる。第2キャリア層12は上記Fe基合金Cよりも同質の塩化第二鉄液でエッチングされやすい例えば上記Fe基合金Bからなる。したがって、基材層10と第1キャリア層11および第2キャリア層12は同時にエッチング可能である。また、その塩化第二鉄液に対して、基材層10は第1キャリア層11および第2キャリア層12よりも高耐食であり、第1キャリア層11は第2キャリア層12よりも高耐食である。
図17に示す工程(b)に対応する被覆工程は上記したメタルマスク3Mの場合と同様に行ってよい。また、工程(c)に対応するエッチング工程では、第1キャリア層11が第2キャリア層12よりも高耐食であることによって、第1キャリア層11のエッチング速度と比べて、第2キャリア層12のエッチング速度が大きくなる。そのため、第1キャリア層11側(Z1側)からZ1側に向かうエッチング量(深さ)よりも、第2キャリア層12側(Z2側)からZ1側に向かうエッチング量(深さ)が大きくなることを考慮して調整するとよい。
【0096】
図20に示す製造プロセスは、
図17に示す工程(i)から工程(k)に続くプロセスである。
図20において、工程(n2)は被覆工程である。この被覆工程では、Z1側に所定の形状のフレーム部11f(工程(q2)参照)を形成するために、第1キャリア層11の表面11aに保護膜15を形成し、エッチング孔11b(
図17参照)に保護膜16を形成し、エッチング孔12b(
図17参照)に保護膜19を形成する。なお、第2キャリア層11の表面11aには保護膜を形成しない。
【0097】
図20において、工程(p2)はエッチングおよびハーフエッチング工程である。このエッチングおよびハーフエッチング工程では、第1キャリア層11を構成するFe基合金Bおよび第2キャリア層12を構成するFe基合金Cに適する塩化第二鉄液を用いて、第1キャリア層11および第2キャリア層12を同時にエッチングする。この塩化第二鉄液は例えば40質量%濃度の塩化第二鉄液(水溶液)を使用する。このエッチングにより、保護膜15を有さない第1キャリア層11の表面11aがエッチングされ、第1キャリア層11の略全部が除去され、例えばエッチング孔11cが形成される。また、同時に、保護膜19を有さない第2キャリア層12の表面12aが基材層10側(Z1側)に向かって略均一にハーフエッチングされ、第2キャリア層11の略全部が除去される。この場合、第2キャリア層12よりも高耐食である第1キャリア層11のエッチング速度と比べて、第2キャリア層12のエッチング速度が大きくなる。そのため、第1キャリア層11側(Z1側)からZ1側に向かうエッチング量(深さ)よりも、第2キャリア層12側(Z2側)からZ1側に向かうエッチング量(深さ)は大きくなる。したがって、第1キャリア層11と第2キャリア層12との厚さおよび耐食性の差を考慮すれば、エッチング孔11Cの形成と略同時に第2キャリア層12を略除去する調整が可能である。なお、エッチング条件の調整によって、エッチング孔11cの深さの調整が可能である。また、エッチング条件の調整によって、第2キャリア層12が除去された後の基材層10に対して、Z1側に向かうハーフエッチングを行うことも可能である。これにより、メタルマスクの薄肉化が可能である。
【0098】
図20において、工程(q2)は仕上げ工程である。この仕上げ工程では、クラッド板材2Sから保護膜15、保護膜16および保護膜19が除去され、全表面が清浄処理される。これによりメタルマスクを製造することができる。このメタルマスクの主体は、Fe基合金Aからなる基材部10Mよって構成される。このメタルマスクは、基材部10MのZ1側の辺縁部分に環状にフレーム部11fが配置されている。このフレーム部11fは第1キャリア層11部分からなる。このメタルマスクは、例えば
図7に示すようなメタルマスク1Maであって、例えばマスクパターン1fを有する厚さT
1Maのメタルマスク1Ma(第1製品例の第3変形例)である。このメタルマスク1Maの主体は単層構造である。上記したクラッド板材3Sのようなメタルマスク用クラッド板材は、十分にハンドリングが容易で、メタルマスクの十分な薄肉化を可能にする可能性が高い。また、上記したクラッド板材3Sを用いた
図17および
図20に示すようなメタルマスクの製造方法によれば、十分にハンドリングが容易で、十分に薄肉化されたメタルマスクの製造が可能であり、十分な生産性向上が期待される。
【符号の説明】
【0099】
<
図1、
図2>
100、200.メタルマスク
100a.金属板材
100b.第1表面
100c.第2表面
100d、100e、201b、202b.エッチング孔
100f.マスクパターン
101~104.保護膜
200.メタルマスク
200a.クラッド板材
200f.マスクパターン
201.第1層
201a、202a.表面
202.第2層
203、204.保護膜
<
図3~
図5>
1S.クラッド板材(第1実施形態)
2S.クラッド板材(第2実施形態)
3S.クラッド板材(第3実施形態)
10.基材層
11.第1キャリア層
12.第2キャリア層
<
図6~
図11>
1M.メタルマスク(第1製品例)
1Ma.メタルマスク(第1製品例の変形例)
1f、2f、3f.マスクパターン
2M.メタルマスク(第2製品例)
2Ma.メタルマスク(第2製品例の変形例)
3M.メタルマスク(第3製品例)
3Ma.メタルマスク(第3製品例の変形例)
10M.基材部
11M.キャリア部(第1キャリア部)
11f.フレーム部
12M.キャリア部(第2キャリア部)
<
図12、
図13>
1M.メタルマスク
1S.クラッド板材
1f、2f.マスクパターン
2M.メタルマスク
10.基材層
10M.基材部
10a、11a.表面
10b、11b.エッチング孔
11.第1キャリア層
11M.キャリア部
13、14.保護膜
<
図14~
図16>
1Ma、1Mb.メタルマスク
1f、1fa.マスクパターン
10.基材層
10a、11a.表面
10c、11c.エッチング孔
10f、11f.フレーム部
11.第1キャリア層
11M.キャリア部
15~20.保護膜
<
図17~
図20>
1Ma、2Ma、3M、3Ma.メタルマスク
1f、2f、3f.マスクパターン
2S、3S.クラッド板材
10.基材層
10M.基材部
11.第1キャリア層
11M.第1キャリア部
11a、12a.表面
11b、12b.エッチング孔
12.第2キャリア層
12M.第1キャリア部
13~17、19.保護膜