(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】負極活物質、二次電池および負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240910BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240910BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240910BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240910BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2023111321
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2023521877の分割
【原出願日】2022-10-27
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2021197251
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】諸 培新
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢一
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-186732(JP,A)
【文献】特開2009-266795(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121324(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸部を有する主に黒鉛からなる粒状構造体と、前記粒状構造体の表面の少なくとも一部に、平均粒径が20nmから200nmのシリコン粒子がマトリクス相中に分散した表面層を有
し、前記表面層はシリコンオキシカーバイド、非晶質炭素および前記シリコン粒子を含み、前記シリコン粒子が前記表面層の全質量を100質量%として、1から80質量%である負極活物質。
【請求項2】
前記シリコン粒子は、フレーク状かつ結晶質であり、X線回折において2θが28.4°の結晶子サイズが40nm以下である請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記粒状構造体は、3nmから300nmの範囲にある細孔径の積算細孔容積が0.001cm
3/g以上である請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記黒鉛は、天然黒鉛あるいは人造黒鉛であり、平均粒径が1μmから25μm、比表面積が0.5m
2/gから20m
2/gである請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記表面層の質量が前記負極活物質の全質量を100%として1質量%から80質量%である請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記表面層は、更に窒素を含む請求項
1に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記シリコン粒子の粒径が、5nmから300nmの範囲に分布している請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項8】
前記粒状構造体の平均粒径が1μmから30μm、比表面積が1m
2/gから30m
2/gである請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項9】
前記粒状構造体の表面に、さらに炭素被膜を有する請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項10】
前記炭素被膜が負極活物質の全質量を100質量%として1質量%から10質量%である請求項
9に記載の負極活物質。
【請求項11】
下記工程(1)から(3)を含む請求項1または2に記載の負極活物質の製造方法。
工程(1)表面層作製用前駆体を得る工程
工程(2)表面に凹凸を有する主に黒鉛からなる粒状構造体の表面に前記表面層作製用前駆体を塗布する工程
工程(3)不活性雰囲気中、焼成温度1000℃から1300℃で高温焼成して負極活物質を得る工程
【請求項12】
請求項
11で得られる負極活物質の粉末を、化学気相蒸着装置内で、熱分解性炭素源ガスとキャリア不活性ガスのフローの中、700℃から1000℃の温度範囲にて炭素被膜で被覆する負極活物質の製造方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載の負極活物質を含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質および前記負極活物質を含む二次電池に関する。また本発明は前記負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、携帯機器を始め、ハイブリッド自動車や電気自動車、家庭用蓄電池などに用いられており、電気容量、安全性、作動安定性など複数の特性をバランスよく有することが要求されている。
非水電解質二次電池としては、主に、リチウムイオンを層間から放出するリチウムインターカレーション化合物を負極物質に用い、充放電時にリチウムイオンを結晶面間の層間に吸蔵放出できる。例えば黒鉛等の炭素質材料を負極活物質に用いた各種リチウムイオン電池の開発が進み、実用化もされている。
さらに、近年、各種電子機器および通信機器の小型化およびハイブリッド自動車等の急速な普及に伴い、これら機器等の駆動電源として、より高容量であり、かつサイクル特性や放電レート特性等の各種電池特性が更に向上した二次電池の開発が強く求められている。
【0003】
二次電池のさらなる高容量化を目的として、理論容量が高く、リチウムイオンを吸蔵放出可能な元素であるシリコンを、従来負極活物質として用いられてきた黒鉛等と併用する試みがなされている。
例えば特許文献1および2はソフトカーボン粉末粒子の表層に担持されたナノ材料コーティングと、前記ナノ材料コーティングの外表面を被覆する導電性カーボン層を含むリチウムイオン二次電池負極材用ソフトカーボン材料を開示している。しかし、ナノ材料が担持されたソフトカーボンは、空隙が多く存在することが考えられる。空隙が多く存在すると充放電時にナノ材料と電解液の接触を抑制する効果が限られ、その結果、ナノ粒子上に電解液の分解反応が進み活物質の性能低下が回避できない場合がある。
【0004】
特許文献3は特定のナノシリコンを含む非晶質炭素が黒鉛粒子の表面に付着した複合粒子を含む負極材を開示している。また特許文献4は黒鉛からなる粒状の活物質と、前記粒状の活物質の表面の一部に、複数のC-O-Si結合を有する網状構造が設けられたリチウムイオン電池の負極材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-128045号公報
【文献】特表2017-526118号公報
【文献】WO2020/088248号
【文献】特開2020-64876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記文献に記載の負極活物質でも、二次電池とした時の初回放電容量および容量維持率のさらなる改良が求められている。また充放電容量に関してもさらなる改良が求められている。
【0007】
本発明者らは負極活物質の母材である黒鉛と併用するシリコン粒子との接着強度に着目し、両者の接着強度を高めることで負極活物質のさらなる高性能化が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、初回放電容量、容量維持率および充放電容量が高く、またこれら特性のバランスに優れた二次電池を与える負極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 表面に凹凸部を有する主に黒鉛からなる粒状構造体と、前記粒状構造体の表面の少なくとも一部に、平均粒径が20nmから200nmのシリコン粒子がマトリクス相中に分散した表面層を有する負極活物質。
[2] 前記シリコン粒子は、フレーク状かつ結晶質であり、X線回折において2θが28.4°の結晶子サイズが40nm以下である前記[1]に記載の負極活物質。
[3] 前記粒状構造体の凹部内部への前記表面層の侵入深さが下記式(1)を満たす前記[1]または[2]に記載の負極活物質。
0.01≦B/A≦0.3 (1)
ただし、式(1)中、Aは前記粒状構造体の平均粒径、Bは前記表面層の凹部内部への侵入深さを表す。
[4] 前記粒状構造体は、3nmから300nmの範囲にある細孔径の積算細孔容積が0.001cm3/g以上である前記[1]から[3]のいずれかに記載の負極活物質。
[5] 前記黒鉛は、天然黒鉛あるいは人造黒鉛であり、平均粒径が1μmから25μm、比表面積が0.5m2/gから20m2/gである前記[1]から[4]のいずれかに記載の負極活物質。
[6] 前記表面層の質量が前記負極活物質の全質量を100%として1質量%から80質量%である前記[1]から[5]のいずれかに記載の負極活物質。
[7] 前記表面層はシリコンオキシカーバイド、非晶質炭素および前記シリコン粒子を含み、前記シリコン粒子が前記表面層の全質量を100質量%として、1から80質量%である前記[1]から[6]のいずれかに記載の負極活物質。
[8] 前記表面層は、更に窒素を含む前記[7]に記載の負極活物質。
[9] 前記シリコン粒子の粒径が、5nmから300nmにブロード分布している前記[1]から[8]のいずれかに記載の負極活物質。
[10] 前記粒状構造体の平均粒径が1μmから30μm、比表面積が1m2/gから30m2/gである前記[1]から[9]のいずれかに記載の負極活物質。
[11] 前記粒状構造体の表面に、さらに炭素被膜を有する前記[1]から[10]のいずれかに記載の負極活物質。
[12] 前記炭素被膜が負極活物質の全質量を100質量%として1質量%から10質量%である前記[11]に記載の負極活物質。
【0009】
また本発明は、下記の態様を有する。
[13] 下記工程(1)から(3)を含む前記[1]から[13]のいずれかに記載の負極活物質の製造方法。
工程(1)表面層作製用前駆体を得る工程
工程(2)表面に凹凸を有する主に黒鉛からなる粒状構造体の表面に前記表面層作製用前駆体を塗布する工程
工程(3)不活性雰囲気中、焼成温度1000℃から1300℃で高温焼成して負極活物質を得る工程
[14] 前記[13]で得られる負極活物質の粉末を、化学気相蒸着装置内で、熱分解性炭素源ガスとキャリア不活性ガスのフローの中、700℃から1000℃の温度範囲にて炭素被膜で被覆する負極活物質の製造方法。
【0010】
さらに本発明は、下記の態様を有する。
[15] 前記[1]から[14]のいずれかに記載の負極活物質を含む二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、初回放電容量、容量維持率および充放電容量が高く、またこれら特性のバランスに優れた二次電池を与える負極活物質および前記負極活物質を用いた二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の負極活物質(以下、「本負極活物質」とも記す。)は、表面に凹凸部を有する主に黒鉛からなる粒状構造体(以下、「本粒状構造体」とも記す。)と、前記本粒状構造体の表面の少なくとも一部に平均粒径が20nmから200nmのシリコン粒子がマトリクス相中に分散した表面層を有する。
従来、リチウム二次電池の高容量化を目的に黒鉛より高い理論容量を有するシリコンの併用が検討されている。しかしながらシリコンは、リチウムの挿入に伴って最大約3から4倍まで体積が膨張して自壊することや、電極から剥離してしまうこと知られている。その結果、シリコンを含む活物質を負極に用いた場合、得られるリチウム二次電池のサイクル特性が低下することが知られている。
【0013】
前記体積膨張を抑制するために、前記特許文献1から4に記載のように黒鉛の表面をシリコン粒子で被覆または表面に付着させる方法、三次元網の目構造を導入する方法等が提案されている。しかしながら特許文献1から4では黒鉛とシリコン粒子との強度が不十分であり、充放電時の活物質の体積膨張および収縮によるシリコン粒子の剥離または脱離が抑制されていないと考えられる。
本負極活物質は表面に凹凸がある黒鉛を主成分とする粒状構造体を用い、前記本粒状構造体の表面の少なくとも一部にシリコン粒子がマトリクス相中に分散した表面層を有することで、黒鉛とシリコン粒子との強度が改良されたと考えられる。その結果、本負極活物質を用いた二次電池の初回放電容量、容量維持率および充放電容量が改良されたと考えられる。
【0014】
本粒状構造体は主に黒鉛からなる。本粒状構造体の質量を100質量%として、黒鉛の含有量は、50質量%超が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
主成分である黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボンまたはソフトカーボンのような非晶質炭素が挙げられる。黒鉛は初回放電容量または充放電容量の観点から、天然黒鉛または人造黒鉛が好ましい。
本粒状構造体は黒鉛以外にカーボンナノチューブや炭素繊維、または造粒工程時に用いられる少量なバインダーなどを含んでもよい。
【0015】
黒鉛が天然黒鉛または人造黒鉛の場合、黒鉛の平均粒径は1μmから25μm、比表面積は0.5m2/gから20m2/gが、黒鉛粒子表面粗面化で表面層接着強度の向上と充放電時黒鉛表面副作用の抑制を両立させる観点から好ましい。
なお平均粒径はレーザー回折式粒度分析計などを用いて測定することができるD50の値である。D50は、レーザー粒度分析計などを用い動的光散乱法により測定することができる。平均粒径は、粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となるときの粒子径である。以下、平均粒径とはD50のことである。
また比表面積は、窒素ガス吸着測定より、比表面積測定装置を用いてBETの式により求めたBET比表面積である。以下、比表面積とはBET比表面積のことである。
【0016】
本粒状構造体は表面に凹凸部を有する。凹凸部は本粒状構造体の表面の一部に形成されていればよく、全面に形成されていても構わない。凹凸部は本粒状構造体の表面に連続的に形成されていても、断続的に形成されていてもよい。また凹凸部は規則的に形成されていても、不規則に形成されていてもよい。
前記凹凸部は例えば本粒状構造体の表面を粗面化して形成してもよく、表面に複数の孔を形成することで凹凸部としてもよい。複数の孔を形成する場合、孔は開放孔であっても連通孔であってもよい。
【0017】
凹凸部の隣り合う最深部と最高部との距離の平均である凹凸深度は、後述する表面層と本粒状構造体との接着強度の観点から、凹凸深度と本粒状構造体粒径との比は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。また、0.3以上になると、粒状構造体の力学性能の低下を招く可能性があり、また表面層が前記粒状構造体の凹凸部に入りにくくなり、活物質中に空隙が生じて充放電時に電解液の浸透により性能低下の可能性がある。
凹凸部の断面形状は例えば、三角形、矩形、半円形、半楕円状形等の形状が挙げられ、これら形状が複数種、混じっていてもよい。
【0018】
前記本粒状構造体の平均粒径は1μmから30μmが好ましく、3μmから20μmがより好ましい。
また前記本粒状構造体の比表面積は、1m2/gから30m2/gが好ましく、3m2/gから20m2/gがより好ましい。比表面積が前記範囲であると、表面層との密着性を維持するために適切な表面空隙を保つことができる。
【0019】
前記本粒状構造体は3nmから300nmの範囲にある細孔径の積算細孔容積は、表面層との密着性を維持する観点から、0.001cm3/g以上が好ましい。なお細孔径の積算細孔容積とは水銀圧入法で測定される細孔のうち、細孔径が2nm以上100nm以下の範囲の積算細孔容積である。ここで水銀圧入法とは、硬化体内部へ水銀を圧入させて、その時の圧力と侵入量の関係から細孔径の分布を測定するものであり、細孔の形状が円筒形であると仮定して計算されたものである。
前記積算細孔容積は0.01cm3/g以上がより好ましい。また積算細孔容積の上限値は、通常、0.5cm3/gである。
【0020】
本負極活物質は前記本粒状構造体の表面の少なくとも一部に平均粒径が20nmから200nmのシリコン粒子(以下、「本シリコン粒子」とも記す。)がマトリクス相中に分散した表面層を有する。
本シリコン粒子の平均粒径は前記D50の値である。本シリコン粒子の平均粒径は、サイクル性能改善の観点から、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。また本シリコン粒子の平均粒径は、シリコンナノ粒子の良好な分散性を維持する観点から、20nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましい。
【0021】
本シリコン粒子の粒径は前記平均粒径を満足する範囲で5nmから300nmの広範囲に分布しているのが好ましい。広範囲で粒径が異なるシリコン粒子を用いることで、本活物質中のシリコン粒子の充填密度を高くしやすい。なお、広範囲に分布しているとは、粒径分布形状は特に限定されず、前記粒径の範囲に粒子が存在すれば良い。本シリコン粒子の粒径が広範囲に分布する場合、粒径の一部範囲に粒子が集中して存在してもよく、正規分布が好ましい。粒径が広範囲に分布したシリコン粒子は、例えば乾式または湿式の機械粉砕法により作製することができる。
【0022】
本シリコン粒子は0価のシリコンから構成され、例えばシリコンの塊を平均粒径が前記範囲となるように粉砕などで粒子化し得ることができる。
シリコンの塊の粉砕に用いる粉砕機としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどの粉砕機が例示できる。また、粉砕は有機溶剤を用いた湿式粉砕であってもよく、有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類などを好適に用いることができるが、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶剤も用いることができる。
シリコン粒子の粉砕条件を適切に制御することで平均粒径が前記範囲となるようにし、最後に分級等することで、本シリコン粒子が得られる。
【0023】
本シリコン粒子の形状は前記平均粒径を満たす範囲であれば、粒状、針状、フレーク状のいずれでもよいが、フレーク状が活物質性能向上の観点から好ましい。本シリコン粒子がフレーク状の場合、結晶質であり、X線回折スペクトルにおける2θが28.4°のピークから得られる結晶子サイズが40nm以下であれば、初期クーロン効率および容量維持率の観点から好ましい。結晶子サイズは30nm以下がより好ましい。また結晶子サイズは10nm以上がより好ましい。
【0024】
マトリクス相を構成する化合物は、ケイ素、酸素、炭素を含む化合物が好ましく、ケイ素、酸素、炭素を含む化合物はケイ素-酸素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造とフリー炭素を含む構造が好ましい。ここでフリー炭素とは、ケイ素-酸素-炭素の三次元骨格に含まれていない炭素である。フリー炭素は炭素相として存在する炭素、炭素相の炭素同士で結合している炭素、およびケイ素-酸素-炭素骨格と炭素相が結合している炭素を含む。
【0025】
マトリクス相を構成する化合物がケイ素、酸素、炭素を含む化合物であり、ケイ素-酸素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造とフリー炭素を含む構造の場合、マトリクス相中のケイ素-酸素-炭素骨格は化学安定性が高く、フリー炭素との複合構造となることで、電子遷移抵抗の低減に伴いリチウムイオンの拡散も容易になる。本シリコン粒子がケイ素-酸素-炭素骨格とフリー炭素との複合構造体に密に包まれることで、本シリコン粒子と電解液との直接な接触が阻止される。その結果、本負極活物質を負極として用いた場合、負極中の本シリコン粒子が充放電性能発現の主要成分とする役割を果たしながら、充放電時にケイ素と電解液との化学反応が回避されることによって本シリコン粒子の性能劣化が最大限に防がれる。
【0026】
またケイ素-酸素-炭素骨格は、リチウムイオンの接近によりケイ素-酸素-炭素骨格の内部の電子分布に変動が生じ、ケイ素-酸素-炭素骨格とリチウムイオンとの間に静電的な結合や配位結合などが形成される。この静電的な結合や配位結合によりリチウムイオンがケイ素-酸素-炭素骨格中に貯蔵される。一方、配位結合エネルギーは比較的低いため、リチウムイオンの脱離反応が容易に行われる。つまりケイ素-酸素-炭素骨格が充放電の際にリチウムイオンの挿入と脱離反応を可逆的に起こすことができると考えられる。
マトリクス相がフリー炭素を含む構造を有している場合、フリー炭素は非晶質炭素が好ましい。
【0027】
マトリクス相を構成する化合物がケイ素、酸素、炭素を含む化合物の場合、マトリクス相は下記式(2)で表されるシリコンオキシカーバイドを含有するのが好ましい。
SiOxCy (2)
式(2)中、xはケイ素に対する酸素のモル比、yはケイ素に対する炭素のモル比を表す。
本負極活物質を二次電池に用いた場合、充放電性能と容量維持率とのバランスが優位になるという観点から、1≦x≦2が好ましく、1.1≦x≦1.8がより好ましく、1.2≦x≦1.7がさらに好ましい。
また、本負極活物質を二次電池に用いた場合、充放電性能と初回充放電効率のバランスとの観点から、1≦y≦20が好ましく、1.2≦y≦15がより好ましい。
【0028】
前記マトリクス相を構成する化合物はケイ素、酸素、炭素以外に窒素を含んでもよい。窒素は後述する本活物質の製造方法において、使用する原料、例えばフェノール樹脂、分散剤、ポリシロキサン化合物、その他の窒素化合物、および焼成プロセスで用いる窒素ガス等がその分子内に官能基として窒素を含む原子団を有することで、マトリクス相に導入することができる。マトリクス相が窒素を含むことで、本負極活物質を用いた時の充放電性能や容量維持率に優れる傾向にある。
マトリクス相を構成する化合物がケイ素、酸素、炭素および窒素を含む化合物の場合、マトリクス相は下記式(3)で表される化合物を含有するのが好ましい。
SiOxCyNz (3)
式(3)中、xおよびyは前記と同じ意味であり、zはケイ素に対する窒素のモル比を表す。
マトリクス相が前記式(3)で表される化合物を含む場合、本活物質を二次電池に用いた際の充放電性能や容量維持率の観点から、1≦x≦2、1≦y≦20、0≦z≦0.5が好ましく、1.1≦x≦1.8、1.2≦y≦15、0≦z≦0.4がより好ましい。
【0029】
前記x、yおよびzはそれぞれの元素の質量含有量を測定した後、モル比(原子数比)に換算することにより求めることができる。この際、酸素と炭素は無機元素分析装置を使用することによって、その含有量を定量でき、ケイ素の含有量はICP発光分析装置(ICP-OES)を使用することによって定量できる。
なお、前記x、yおよびzの測定は前記方法によって実施することが好ましいが、本活物質の局所的な分析を行い、それにより得られた含有比データの測定点数を多く取得して、本負極活物質全体の含有比を類推することでも可能である。局所的な分析としては、例えばエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)や電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)が挙げられる。
【0030】
本負極活物質が本粒状構造体の少なくとの一部に有する表面層は、本シリコン粒子と、本シリコン粒子が分散したマトリクス相として前記シリコンオキシカーバイドと前記フリーの炭素として非晶質炭素を含み、前記表面層の全質量を100質量%として、本シリコン粒子を1から80質量%含むのが好ましい。
非晶質炭素としては芳香族樹脂など有機物熱分解の炭素が挙げられる。
また表面層は前記に加えて窒素を含むのがSi-O―C骨格安定性の観点から好ましい。表面層が窒素を含む場合、マトリクス相は前記式(3)で表される化合物を含有するのが好ましい。
前記表面層は本シリコン粒子を10質量%以上含むのがより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。前記表面層は本シリコン粒子を80質量%以下含むのが好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0031】
本負極活物質は、充放電容量、初回効率とサイクル性能の観点から、本負極活物質の全質量を100質量%として、前記表面層を1質量%から80質量%含むのが好ましい。本負極活物質は、充放電容量向上の観点から、本負極活物質の全質量を100質量%として、前記表面層を5質量%以上含むのがより好ましく、10質量%以上含むのがさらに好ましい。本負極活物質は、サイクル性能と初回効率の観点から、本負極活物質の全質量を100質量%として、前記表面層を70質量%以下含むのがより好ましく、60質量%以下含むのがさらに好ましい。
なお本負極活物質の全質量とは、本負極活物質を構成する本粒状構造体と表面層の合計質量である。前記マトリクス相が窒素を含む場合は、窒素も含む合計量である。本負極活物質が後述する被覆層を含む場合は、本負極活物質の全質量は前記に加えて被覆層の質量を含む合計量である。
【0032】
また本負極活物質は、前記本粒状構造体の表面の少なくとも一部に前記表面層を有するが、比表面積抑制と微細構造合理化の観点から、前記本粒状構造体の表面の80%以上に前記表面層を有するのが好ましく、前記本粒状構造体の表面の90%以上に前記表面層を有するのがより好ましい。
【0033】
本負極活物質は前記粒状構造体の凹部内部への前記表面層の侵入深さが前記式(1)を満たすのが好ましい。
0.01≦B/A≦0.3 (1)
ただし、式(1)中、Aは前記本粒状構造体の平均粒径、Bは前記表面層の前記凹部内部への侵入深さを表す。ここでAは前記D50であり、Bは粒子断面のSEM観察により測定される。
前記AとBは、粒状構造体強度と表面層密着性の観点から、下記式(4)を満たすのがより好ましく、下記式(5)を満たすのがさらに好ましい。
0.05≦B/A≦0.25 (4)
0.10≦B/A≦0.20 (5)
【0034】
本負極活物質は前記以外に他の必要な第三成分を含んでもよい。
また本負極活物質は被覆材により表面が被覆されていてもよい。被覆材としては、電子伝導性、リチウムイオン伝導性、電解液の分解抑制効果が期待出来る物質が好ましい。
【0035】
本負極活物質の表面が前記被覆材により被覆されている場合、被膜の平均厚みは10nm以上300nm以下が好ましい。前記被膜の平均厚みは、好ましくは20nm以上200nm以下である。本負極活物質が前記平均厚みの被膜を有することで、粒状構造体の表面上に露出した本シリコン粒子を保護することができ、これにより本負極活物質を用いた場合、負極活物質の化学安定性や熱安定性が改善される。結果として得られる二次電池の充放電性能の低下をさらに抑制することができる。
また本負極活物質の表面が前記被膜により被覆されている場合、負極活物質の化学安定性や熱安定性の改善の観点から、被膜の含有量は前記本負極活物質の全質量を100質量%として、1から30質量%が好ましく、3から25質量%がより好ましい。なお本負極活物質の全質量とは前記と同じである。
【0036】
前記被膜としては、炭素、チタン、ニッケル等の電子伝導性物質が挙げられる。これらの中でも、負極活物質の化学安定性や熱安定性改善の観点から、炭素が好ましく、低結晶性炭素がより好ましい。
被膜が炭素の場合、炭素被膜の平均厚みは10nm以上300nm以下、または、炭素の含有量は本負極活物質の全量を100質量%として、1から10質量%が好ましい。本負極活物質の全量は前記と同じである。
【0037】
炭素被膜の場合、被膜は化学蒸着法(CVD:Chemical Vapor Deposition)で作製するのが好ましい。
炭素被膜の場合、前記ラマンスペクトルの散乱ピーク強度比I(Gバンド/Dバンド)は、0.9から1.1の範囲であるのが好ましい。BET法による比表面積は3.5m2/g以下、真密度は1.9g/cm3以上が好ましい。
【0038】
本負極活物質は、初回放電容量、容量維持率および充放電容量が高く、またこれら特性のバランスに優れていることから、本負極活物質を含む電池負極として用いた二次電池は、良好な充放電特性を発揮する。
具体的には、本負極活物質と有機結着剤と、必要に応じてその他の導電助剤などの成分を含んで構成されるスラリーを集電体銅箔上へ薄膜状に塗付して負極とすることができる。また、前記のスラリーに黒鉛など炭素材料を加えて負極を作製することもできる。
炭素材料としては、天然黒鉛、人工黒鉛、ハードカーボンまたはソフトカーボンのような非晶質炭素などが挙げられる。
【0039】
例えば、本負極活物質と、有機結着材であるバインダーとを、溶媒とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成することで得ることができる。また、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することでも負極層を得ることができる。
【0040】
前記有機結着剤としては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム共重合体(以下、「SBR」とも記す。);メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、およびヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、および、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸からなる(メタ)アクリル共重合体等の不飽和カルボン酸共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」とも記す。)などの高分子化合物が挙げられる。
【0041】
これらの有機結着剤は、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。リチウムイオン二次電池負極の負極層中の有機結着剤の含有比率は、1質量%から30質量%であることが好ましく、2質量%から20質量%であることがより好ましく、3質量%から15質量%であることがさらに好ましい。
【0042】
有機結着剤の含有比率が1質量%以上であることで密着性がより良好で、充放電時の膨張または収縮によって負極構造の破壊がより抑制される。一方、30質量%以下であることで、電極抵抗の上昇がより抑えられる。
かかる範囲において、本負極活物質は、化学安定性が高く、水性バインダーも採用することができる点で、実用化面においても取り扱い容易である。
【0043】
また、前記負極材スラリーには、必要に応じて、導電助材を混合してもよい。導電助材としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、本発明の負極活物質に対して1質量%から15質量%程度とすればよい。
【0044】
また前記集電体の材質および形状については、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用できる。
【0045】
前記負極材スラリーを集電体に塗布する方法としては、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などが挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うことが好ましい。
【0046】
また、前記負極材スラリーをシート状またはペレット状等として、これと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等により行うことができる。
【0047】
前記集電体上に形成された負極層または集電体と一体化した負極層は、用いた有機結着剤に応じて熱処理することが好ましい。例えば、水に分散したSBRなどを用いた場合には100から130℃で熱処理すればよく、ポリイミド、ポリアミドイミドを主骨格とした有機結着剤を用いた場合には150から450℃で熱処理することが好ましい。
【0048】
この熱処理により溶媒の除去、バインダーの硬化による高強度化が進み、粒子間および粒子と集電体間の密着性が向上できる。尚、これらの熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、または真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0049】
熱処理した後に、負極は加圧処理しておくことが好ましい。本負極活物質を用いた負極では、電極密度が1g/cm3から1.8g/cm3であることが好ましく、1.1g/cm3から1.7g/cm3であることがより好ましく、1.2g/cm3から1.6g/cm3であることがさらに好ましい。電極密度については、高いほど密着性および電極の体積容量密度が向上する傾向がある。一方、電極密度が高すぎると、電極中の空隙が減少することでケイ素など体積膨張の抑制効果が弱くなり、容量維持率が低下することがある。そのため電極密度の最適な範囲が選択される。
【0050】
本発明の二次電池は前記本負極活物質を負極に含む。本負極活物質を含む負極を有する二次電池としては、非水電解質二次電池と固体型電解質二次電池が好ましく、特に非水電解質二次電池の負極として用いた際に優れた性能を発揮するものである。
【0051】
前記本発明の二次電池は、例えば、湿式電解質二次電池に用いる場合、正極と、本発明の負極活物質を含む負極とを、セパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより構成することができる。
【0052】
正極は、負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0053】
正極層に用いる正極材料としては、特に制限されない。非水電解質二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池を作製する場合には、例えば、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、または導電性高分子材料を用いればよい。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、およびこれらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(ただし、MはCo、Ni、MnまたはFe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを単独或いは混合して使用することができる。
【0054】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製する非水電解質二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0055】
電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体もしくは2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。
【0056】
本発明の二次電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群としたりし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。尚、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本活物質を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。
【0057】
本負極活物質を用いた二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などとして使用される。本負極活物質は、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタ、固体リチウム二次電池などにも適用することが可能である。
【0058】
前記本負極活物質は、例えば、下記工程(1)から(3)を含む方法で製造できる。なお下記工程は、マトリクス相としてポリシロキサン化合物を使用する場合を例示しているが、これら方法に限定されるものではない。
工程(1)表面層作製用前駆体を得る工程
工程(2)表面に凹凸を有する主に黒鉛からなる粒状構造体の表面に前記表面層作製用前駆体を塗布する工程
工程(3)不活性雰囲気中、焼成温度1000℃から1300℃で高温焼成して負極活物質を得る工程
【0059】
<工程(1)>
マトリクス相にシリコン粒子が分散している前記表面層を与える表面層作成用前駆体は以下の方法で作成される。
シリコン粒子は例えば、有機溶媒を用い、シリコン塊を湿式粉末粉砕装置にて粉砕して得られる。有機溶媒においてシリコン塊の粉砕を促進させるために分散剤を用いても良い。シリコン塊としては市販のシリコン粉体や大粒径のシリコン粒子等が用いられる。
湿式粉砕装置としては、特に限定されるものでなく、ローラーミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル、ビーズミルなどが挙げられる。
湿式粉砕ではシリコン粒子が本シリコン粒子の粒径となるまで粉砕するのが好ましい。
【0060】
湿式法で用いる有機溶媒は、シリコンと化学反応しない有機溶媒が挙げられる。例えば、ケトン類のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン;アルコール類のエタノール、メタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール;芳香族のベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0061】
前記分散剤の種類は、水系や非水系の分散剤が挙げられる。シリコン粒子の表面に対する過剰酸化を抑制するため、非水系分散剤の使用が好ましい。非水系分散剤の種類は、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系などの高分子型、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系などの低分子型、ポリリン酸塩系などの無機型が例示される。湿式粉砕におけるシリコンの濃度は特に限定されないが、前記溶媒および、必要に応じて分散剤を含む場合は分散剤とケイ素の合計量を100質量%として、シリコンの量は5質量%から40質量%の範囲が好ましく、10質量%から30質量%がより好ましい。
【0062】
本シリコン粒子として粒径が5nmから300nmにブロードに分布しているシリコン粒子を用いる場合、このようなシリコン粒子は以下の方法で作製することができる。
湿式ビーズミル装置を用いて、分散剤添加量、ビーズ径、回転数、粉砕時間など複数粉砕条件の制御が挙げられる。
【0063】
前記本シリコン粒子が分散するマトリクス相の原料として、ポリシロキサン化合物を用いることができる。ポリシロキサン化合物としては、ポリカルボシラン構造、ポリシラザン構造、ポリシラン構造およびポリシロキサン構造を少なくとも1つ含む樹脂である。これらの構造のみを含む樹脂であっても良く、これら構造の少なくとも一つをセグメントとして有し、他の重合体セグメントと化学的に結合した複合型樹脂でも良い。複合化の形態はグラフト共重合、ブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合などがある。例えば、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントの側鎖に化学的に結合したグラフト構造を有する複合樹脂があり、重合体セグメントの末端にポリシロキサンセグメントが化学的に結合したブロック構造を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0064】
ポリシロキサンセグメントが、下記一般式(S-1)および/または下記一般式(S-2)で表される構造単位を有するものが好ましい。なかでもポリシロキサン化合物が、シロキサン結合(Si-O-Si)主骨格の側鎖または末端に、カルボキシ基、エポキシ基、アミノ基、またはポリエーテル基を有することがより好ましい。
【0065】
【0066】
【化2】
(前記一般式(S-1)および(S-2)中、R
1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基またはアルキル基、エポキシ基、カルボキシ基などを表す。R
2およびR
3は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基、エポキシ基、カルボキシ基などを示す。)
【0067】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。前記のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0068】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0069】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0070】
ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメント以外の重合体セグメントとしては、例えば、アクリル重合体、フルオロオレフィン重合体、ビニルエステル重合体、芳香族系ビニル重合体、ポリオレフィン重合体等のビニル重合体セグメントや、ポリウレタン重合体セグメント、ポリエステル重合体セグメント、ポリエーテル重合体セグメント等の重合体セグメント等が挙げられる。中でも、ビニル重合体セグメントが好ましい。
【0071】
ポリシロキサン化合物が、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントとが下記の構造式(S-3)で示される構造で結合した複合樹脂でもよく、三次元網目状のポリシロキサン構造を有してもよい。
【0072】
【化3】
(式中、炭素原子は重合体セグメントを構成する炭素原子であり、2個のケイ素原子はポリシロキサンセグメントを構成するケイ素原子である)
【0073】
ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメントは、ポリシロキサンセグメント中に重合性二重結合など加熱により反応が可能な官能基を有していてもよい。熱分解前にポリシロキサン化合物を加熱処理することにより、架橋反応が進行し、固体状とすることにより、熱分解処理を容易に行うことができる。
【0074】
重合性二重結合としては、例えば、ビニル基や(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。重合性二重結合は、ポリシロキサンセグメント中に2つ以上存在することが好ましく3から200個存在することがより好ましく、3から50個存在することが更に好ましい。また、ポリシロキサン化合物として重合性二重結合が2個以上存在する複合樹脂を使用することによって、架橋反応が容易に進行させることができる。
【0075】
ポリシロキサンセグメントは、シラノール基および/または加水分解性シリル基を有してもよい。加水分解性シリル基中の加水分解性基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられ、これらの基が加水分解されることにより加水分解性シリル基はシラノール基となる。前記熱硬化反応と並行して、シラノール基中の水酸基や加水分解性シリル基中の前記加水分解性基の間で加水分解縮合反応が進行することで、固体状のポリシロキサン化合物を得ることができる。
【0076】
本発明でいうシラノール基とはケイ素原子に直接結合した水酸基を有するケイ素含有基である。本発明で言う加水分解性シリル基とはケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有するケイ素含有基であり、具体的には、例えば、下記の一般式(S-4)で表される基が挙げられる。
【0077】
【化4】
(式中、R
4はアルキル基、アリール基またはアラルキル基等の1価の有機基を、R
5はハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、アリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基またはアルケニルオキシ基である。またbは0から2の整数である。)
【0078】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。
【0079】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0080】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0081】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0082】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、第二ブトキシ基、第三ブトキシ基等が挙げられる。
【0083】
アシロキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、フェニルアセトキシ基、アセトアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基等が挙げられる。
【0084】
アリルオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0085】
アルケニルオキシ基としては、例えば、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、2-ペテニルオキシ基、3-メチル-3-ブテニルオキシ基、2-ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0086】
上記一般式(S-1)および/または上記一般式(S-2)で示される構造単位を有するポリシロキサンセグメントとしては、例えば以下の構造を有するもの等が挙げられる。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
重合体セグメントは、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて各種官能基を有していても良い。かかる官能基としては、例えばカルボキシル基、ブロックされたカルボキシル基、カルボン酸無水基、3級アミノ基、水酸基、ブロックされた水酸基、シクロカーボネート基、エポキシ基、カルボニル基、1級アミド基、2級アミド基、カーバメート基、下記の構造式(S-5)で表される官能基等を使用することができる。
【0091】
【0092】
また、前記重合体セグメントは、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の重合性二重結合を有していてもよい。
【0093】
上記ポリシロキサン化合物は、例えば、下記(4)から(6)に示す方法で製造することが好ましい。
【0094】
(4)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製しておき、この重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物とを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0095】
(5)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製する。また、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を加水分解縮合反応してポリシロキサンも予め調製しておく。そして、重合体セグメントとポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0096】
(6)前記重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物と、ポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
上述方法によりポリシロキサン化合物が得られる。
ポリシロキサン化合物としては、例えば、セラネート(登録商標)シリーズ(有機・無機ハイブリッド型コーティング樹脂;DIC株式会社製)やコンポセランSQシリーズ(シルセスキオキサン型ハイブリッド;荒川化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0097】
マトリクス相の別の原料として炭素源樹脂が用いられる。炭素源樹脂は、ポリシロキサン化合物との混和性が良く、また、不活性雰囲気中・高温焼成により炭化され、芳香族官能基を有する合成樹脂や天然化学原料を用いることが好ましい。
【0098】
合成樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。天然化学原料としては、重質油、特にはタールピッチ類としては、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、メソフェーズピッチ、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなどが挙げられるが、安価入手や不純物排除の観点からフェノール樹脂の使用がより好ましい。
【0099】
特に、炭素源樹脂が、芳香族炭化水素部位を含む樹脂であることが好ましく、上記の芳香族炭化水素部位を含む樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、または熱硬化性樹脂であることが好ましく、フェノール樹脂はレゾール型が好ましい。
フェノール樹脂としては、例えばスミライトレジンシリーズ(レゾール型フェノール樹脂,住友ベークライト株式会社製)が挙げられる。
【0100】
前記で得られたシリコン粒子のスラリーを、前記ポリシロキサン化合物と前記炭素源樹脂と混合し、シリコン粒子、ポリシロキサン化合物および炭素源樹脂が均一に分散した懸濁液が得られる。
得られた懸濁液を脱溶媒と乾燥を経て表面層作製用前駆体が得られる。ポリシロキサン化合物と炭素源樹脂を含む混合物は、ポリシロキサン化合物と炭素源樹脂とが均一に混合した状態であることが好ましい。前記混合は分散・混合の機能を有する装置を用いて行われる。例えば、攪拌機、超音波ミキサー、プリミックス分散機などが挙げられる。有機溶媒を溜去することを目的とする脱溶剤と乾燥の作業では、乾燥機、減圧乾燥機、噴霧乾燥機などを用いることができる。
【0101】
表面層作製用前駆体は、本シリコン粒子を3質量%から50質量%、ポリシロキサン化合物の固形分を15質量%から85質量%、炭素源樹脂の固形分を3質量%から70質量%含有するのが好ましく、本シリコン粒子の固形分含有量を8質量%から40質量%、ポリシロキサン化合物の固形分を20から70質量%、炭素源樹脂の固形分を3質量%から60質量%含有するのがより好ましい。
【0102】
<工程(2)>
工程(2)では前記本粒状構造体の表面に前記工程(1)で得られた表面層作製用前駆体を塗布する。
塗布方法は例えば、前記表面層作成用前期体を含むスラリーに前記本粒状構造体を添加し混合後、脱溶媒と乾燥を行う方が挙げられる。混合、脱溶媒、乾燥については前記工程(1)と同じである。
【0103】
表面に凹凸を有する主に黒鉛からなる粒状構造体は、例えば、黒鉛と孔形成剤または少量の樹脂バインダーを均一に混合し、例えばプレス機等を用いて、一旦、ペレット状、粒状、フレーク状等に成形する。その後、孔形成剤または樹脂バインダーを除去して表面に凹凸を有する粒状構造体を作製することができる。
なお孔形成剤とは、前記成形後、焼成、エッチング、洗浄等により成形体から除去されることで成形体に孔を形成するために用いられるものである。孔形成剤の除去方法により孔形成剤の材質は適宜選定されるが、例えば、耐酸性または耐アルカリ性に劣る銅等の金属、焼成温度が黒鉛より低い無機物、熱分解容易な有機物が挙げられる。
【0104】
<工程(3)>
工程(3)は、上記工程(2)で得られた表面層作製用前駆体が塗布された本粒状構造体を不活性雰囲気中、温度1000℃から1300℃で高温焼成することで本負極活物質が得られる。焼成により熱分解可能な有機成分を完全分解させ、その他の主成分を焼成条件の精密制御により本負極活物質に適した焼成物となる。具体的にいうと、原料のポリシロキサン化合物および炭素源樹脂が高温処理のエネルギーによってケイ素-酸素-炭素骨格とフリー炭素に転化される。
【0105】
工程(3)では、前記工程(2)で得られた表面層作製用前駆体が塗布された本粒状構造体を不活性雰囲気下、前記温度範囲で焼成することで本負極活物質の微細構造が精密に制御でき、高温焼成での本シリコン粒子の酸化も回避できることでより優れた充放電特性が得られる。
【0106】
焼成方法は、特に限定されないが、不活性雰囲気中にて加熱機能を有する反応装置を用いればよく、連続法、回分法での処理が可能である。焼成用装置については、流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。
【0107】
前記工程(3)で得られた本負極活物質は、必要に応じて粉砕、分級されてもよい。粉砕は、ビーズミル、ジェットミル等で行なってもよい。また分級は風力分級機、湿式分級機等等を用いて行えばよい。尚、工程(3)の焼成前に前駆体混合物を噴霧乾燥等により目標粒子径付近の形状に制御し、その形状で焼成を行った場合は、粉砕工程を省くことも可能である。
【0108】
本負極活物質が前記炭素被膜を有する場合、前記工程(1)から(3)で得られた本負極活物質を、例えば、化学気相蒸着装置内で、熱分解性炭素源ガスとキャリア窒素ガスのフロー、700℃から1000℃の温度範囲内の高温処理との条件で化学気相蒸着を行なうことにより、炭素被膜が形成された本負極活物質を得ることができる。
【0109】
前記のとおり、本負極活物質を二次電池の負極活物質とした時、初期のクーロン効率および容量維持率に優れた二次電池を与える。
本活物質は前記方法により負極として用い、前記負極を有する二次電池とすることができる。
【0110】
以上、本負極活物質、本負極活物質を負極に含む二次電池、および本負極活物質の製造方法に関して説明したが、本発明は前記の実施形態の構成に限定されない。
本活物質および本活物質を負極に含む二次電池は前記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
また本負極活物質の製造方法は前記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてもよい。
【実施例】
【0111】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
尚、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本発明のケイ素含有活物質を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。
【0112】
合成例1:シリコン粒子の作製
150mlの小型ビーズミル装置の容器中に60%の充填率で粒径が0.1mmから0.2mmのジルコニアビーズおよび100mlのメチルエチルケトン溶媒(MEK)を入れた。その後、平均粒径が5μmのシリコン粉体(市販品)とカチオン性分散剤液(ビックケミー・ジャパン株式会社:BYK145)を入れ、表1に記載の条件下にてビーズミル湿式粉砕を行い、固形物濃度が30質量%の濃い褐色液体状のシリコンスラリーSi1からSi6を得た。TEM観察でシリコン粉砕品の形態およびサイズを確認し、表1に示したように、それぞれをSi1、Si2、Si3、Si4、Si5およびSi6とした。
【0113】
【0114】
合成例2:黒鉛粒子表面への凹凸付与処理
黒鉛1から7は、表2に示した平均粒径が2.5μmから15μmの範囲にある200gの球状黒鉛粉末に表2に記載の平均粒径を有する200gの銅粒子を加えて、卓上ミキサーで30分間混合後、成型機にて表2に示したように40から80MPaの圧力で円柱状に成型した。成型物を乳鉢で粉砕し、粉砕物を10質量%の硫酸溶液に24時間、室温で浸漬し、銅を溶解除去した。混合液を濾過後、110 ℃、12時間にて減圧乾燥して黒鉛粉末表面に空隙を付与した。
黒鉛表面上の凹凸深度はSEMによる断面観察にて計測し、光散乱型粒径測定装置や比表面積測定装置を用いて黒鉛粒子の平均粒径と比表面積および細孔容積などを求めた。結果を表2に示した。
【0115】
黒鉛8は15μmの球状黒鉛粉末を粒径5mmのジルコニアボールを用いてボールミル条件下にて10時間粉砕して黒鉛の平均粒径を1.5μmとし、さらに平均粒径が1μmの銅粒子を用いて空隙付与を行った後、銅を溶解除去した。黒鉛9は15μmの球状黒鉛粉末と平均粒径が1μmの銅粒子を成型機にて35MPaの圧力で円柱状に成型後、上記の条件下にて銅を溶解除去して空隙付与を行った。
黒鉛10は平均粒径2.5μmの球状黒鉛粉末と平均粒径が1μmの銅粒子を成型機にて70MPaの圧力で円柱状に成型後、上記の条件下にて銅を溶解除去して空隙付与を行った。
黒鉛1から10の空隙付与の条件を表2に示した。
【0116】
【0117】
合成例3:ポリシロキサン化合物の作製
(メチルトリメトキシシランの縮合物の合成)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、1,421質量部のメチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」と略記する。)を仕込み、60℃まで昇温した。次いで、前記反応容器中に0.17質量部のiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)と207質量部の脱イオン水との混合物を5分間で滴下した後、80℃の温度で4時間撹拌して加水分解縮合反応させた。
上記の加水分解縮合反応によって得られた縮合物を、温度40から60℃及び40から1.3kPaの減圧下で蒸留し前記反応過程で生成したメタノールおよび水を除去することによって、数平均分子量1,000から5000のMTMSの縮合物を含有する有効成分が70質量%の液を1,000質量部得た。なお、「40から1.3kPaの減圧下」とは、メタノールの留去開始時の減圧条件が40kPaで、最終的に1.3kPaとなるまで減圧する条件をいう。また、前記有効成分とは、MTMS等のシランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)を、縮合反応後の実収量(質量部)で除した値〔シランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)/縮合反応後の実収量(質量部)〕により算出したものである。
【0118】
(硬化性樹脂組成物(1)の製造)
撹拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、150質量部のブタノール(以下、「BuOH」とも記す。)、105質量部のフェニルトリメトキシシラン(以下、「PTMS」とも記す。)、277質量部のジメチルジメトキシシラン(以下、「DMDMS」とも記す。)を仕込んで80℃まで昇温した。
次いで、同温度で21質量部のメチルメタアクリレート(以下、「MMA」とも記す。)、4質量部のブチルメタアクリレート(以下、「BMA」とも記す。)、3質量部の酪酸(以下、「BA」とも記す。)、2質量部のメタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「MPTS」とも記す。)、3質量部のBuOHおよび0.6質量部のブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(以下、「TBPEH」とも記す。)を含有する混合物を、前記反応容器中へ6時間で滴下した。滴下終了後、更に同温度で20時間反応させて加水分解性シリル基を有する数平均分子量が10,000のビニル重合体(a2-1)の有機溶剤溶液を得た。
【0119】
次いで、0.04質量部のiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)と112質量部の脱イオン水との混合物を、5分間で滴下し、更に同温度で10時間撹拌して加水分解縮合反応させることで、ビニル重合体(a2-1)を有する加水分解性シリル基と、前記PTMSおよびDMDMS由来のポリシロキサンの有する加水分解性シリル基及びシラノール基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。
次いで、この液に合成例1で得られた472質量部のMTMSの縮合物(a1)と80質量部の脱イオン水を添加し、同温度で10時間撹拌して加水分解縮合反応させたものを、合成例1と同様の条件で蒸留することによって生成したメタノールおよび水を除去した。次いで、250質量部のBuOHを添加し、不揮発分が60.1質量%の硬化性樹脂組成物(1)を1,000質量部得た。
【0120】
(硬化性樹脂組成物(2)の製造)
撹拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、150質量部のBuOH、249質量部のPTMS、263質量部のDMDMSを仕込んで80℃まで昇温した。次いで、同温度で18質量部のMMA、14質量部のBMA、7質量部のBA、1質量部のアクリル酸(以下、「AA」とも記す。)、2質量部のMPTS、6質量部のBuOHおよび0.9質量部のTBPEHを含有する混合物を、前記反応容器中へ5時間で滴下し、滴下終了後、更に同温度で10時間反応させて加水分解性シリル基を有する数平均分子量が20,100のビニル重合体(a2-2)の有機溶剤溶液を得た。
【0121】
次いで、0.05質量部のiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)と147質量部の脱イオン水との混合物を、5分間で滴下し、更に同温度で10時間撹拌して加水分解縮合反応させることで、ビニル重合体(a2-2)の有する加水分解性シリル基と、前記PTMS及びDMDMS由来のポリシロキサンの有する加水分解性シリル基及びシラノール基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。
次いで、この液に76質量部の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、231質量部の前記MTMSの縮合物、56質量部の脱イオン水を添加し、同温度で15時間撹拌して加水分解縮合反応させたものを、前記と同様の条件で蒸留することによって生成したメタノールおよび水を除去し、次いで、250質量部のBuOH を添加し、不揮発分が60.0質量%の硬化性樹脂組成物(2)を1,000質量部得た。
【0122】
実施例1
上記合成例3のように作製した平均分子量が3500のポリシロキサン樹脂(硬化性樹脂(1))および平均分子量が3000のフェノール樹脂を焼成後の組成重量比がSiOC/Cが50/50となるように樹脂固形物重量構成比の45/55で加え、高温焼成後の生成物中にシリコン粒子含有量を50重量%となるように合成例1で得られたSi3のシリコンスラリーと、適量のメチルエチルケトン溶媒を添加して撹拌機中にて十分に混合させた。その結果、固形物濃度が10質量%のシリコン粒子含有樹脂混合懸濁液得た。100質量部の前記シリコン粒子含有樹脂混合懸濁液に上記合成例2で処理した黒鉛2を高温焼成後に94質量%になるように入れて、十分に混合後に120℃のオイルバス中、窒素フォロー条件下にて脱溶媒を行った。その後、真空乾燥機を用いて110℃で減圧乾燥を10時間行い、最後に窒素雰囲気中で1100℃、4時間、高温焼成して黒色固形物の複合粒子を得た。遊星型ボールミルで粉砕後に活物質を作製した。平均粒径はD50で約16μmであり、BET法による比表面積は3.1m2/gであった。Cu-Kα線による粉末X線回折(XRD)の測定結果によりSi(111)結晶面に帰属される回折ピークである2θが28.4°の半値幅に基づき、シェラー式により求めた、結晶子サイズは21nmであった。
【0123】
得られた活物質粉末を80部と導電助剤としてアセチレンブラックを10部およびバインダーとしてCMCとSBRの混合物を10部との混合でスラリーを調製して銅箔上に製膜した。110℃で減圧乾燥後、Li金属箔を対極にしてコイン型リチウム二次電池のハーフセルを作製し、二次電池充放電試験装置(北斗(株)製)を用い、充放電特性の評価を行った。カットオフ電圧範囲は0.005から1.5Vとした。充放電の測定結果は、初回放電容量が403mAh/g;初回クーロン効率が90%であった。
フルセルの評価は、正極材料としてLiCoO2を正極活物質、集電体としてアルミ箔を用いた単層シートを用いて、正極膜を作製し、400mAh/gの放電容量設計値にて黒鉛粉体と活物質粉末を混合して負極膜を作製した。非水電解質には六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で1/1として混合液に1mol/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いたラミ型リチウムイオン二次電池を作製した。ラミ型リチウムイオン二次電池を室温下、テストセルの電圧が4.2Vに達するまで1.2mA(正極基準で0.25c)の定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は、セル電圧を4.2V に保つように電流を減少させて充電を行い、放電容量を求めた。25℃で300 サイクル後の容量維持率が91%であった。結果を表3に示す。
【0124】
実施例2から9
実施例1と同じように、固形物濃度が10質量%である100質量部の合成例1で得られたSi3のシリコン粒子含有樹脂混合懸濁液に合成例2で処理した黒鉛2の添加量を表3に記載のように、焼成後に90質量%から50質量%になるように調整し、十分に混合後に120℃のオイルバス中、窒素ガスフロー条件下にて脱溶媒を行った。その他の条件は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を含む負極活物質を用いた二次電池の評価を行った。結果を表3に示した。
【0125】
実施例10から17
平均分子量が3200の硬化性樹脂(2)を用いて固形物濃度が10質量%の100質量部の合成例1で得られたSi3のシリコン粒子含有樹脂混合懸濁液に合成例2で処理した黒鉛1(実施例10)、黒鉛3(実施例11)、黒鉛4(実施例12)、黒鉛5(実施例13)、黒鉛6(実施例14)、黒鉛7(実施例15)、黒鉛8(実施例16)および黒鉛3(実施例17)を焼成後にそれぞれ85質量%になるように入れた。十分に混合後、120℃のオイルバス中、窒素ガスフロー条件下にて脱溶媒を行った。その他の条件は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を含む負極活物質を用いた二次電池の評価を行った。結果を表4に示した。
【0126】
実施例18から20
固形物濃度が10質量%の100質量部の合成例1で得られたSi1(実施例18)、Si2(実施例19)およびSi4(実施例20)のシリコン粒子含有樹脂混合懸濁液に合成例2で処理した黒鉛2を高温焼成にそれぞれ85質量%になるように入れて、十分に混合した。その後、120℃のオイルバス中、窒素ガスフロー条件下にて脱溶媒を行った。その他の条件は、実施例1と同様にして活物質を得た。その後、活物質の粉末のそれぞれ25gを化学気相蒸着装置(CVD、ディスクロータリキルン、高砂工業株式会社)の反応容器に入れて、アセチレンの流量を0.3L/min、窒素の流量を0.7L/minとして混合ガスフロー中、900℃で反応時間を1時間、2時間および3時間と変更して炭素被膜を行った。熱分析結果によると炭素被膜量はそれぞれ2%、4%および8%となった。得られた炭素被膜活物質の性状および二次電池の評価結果を表4に示す。
【0127】
実施例21
D50の平均粒径が50nmである市販単分散球状のシリコン粒子(Alfa Aesar社製)を用いて、実施例1と同様な条件下にて固形物濃度が10質量部含有する樹脂混合懸濁液を調製した。100質量部の上記樹脂混合懸濁液に合成例2で処理した黒鉛2を高温焼成後に85質量%になるように入れて、十分に混合後に120℃のオイルバス中、窒素ガスフロー条件下にて脱溶媒を行った。その他の条件は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を含む負極活物質を用いた二次電池の評価を行った。結果を表4に示した。
【0128】
実施例22
前記合成例1で得られたSi3のシリコン粒子を用いて、実施例1と同様な条件下にて固形物濃度が10質量部含有する樹脂混合懸濁液を調製した。100質量部の上記樹脂混合懸濁液に合成例2で処理した黒鉛9を高温焼成後に85質量%になるように入れて、十分に混合後に120℃のオイルバス中、窒素ガスフロー条件下にて脱溶媒を行った。その他の条件は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を含む負極活物質を用いた二次電池の評価を行った。結果を表4に示した。
【0129】
実施例23
固形物濃度が10質量%である100質量部の合成例1で得られたSi3のシリコン粒子含有樹脂混合懸濁液に合成例2で処理した黒鉛10を高温焼成後に85質量%になるように入れて、十分に混合後に120℃のオイルバス中、窒素ガスフロー条件下にて脱溶媒を行った。その他の条件は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を含む負極活物質を用いた二次電池の評価を行った。結果を表4に示した。
【0130】
比較例1
D50の平均粒径が15μmの球状の黒鉛を用いて、粒径分布や比表面積の測定を実施後、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を含む負極活物質を用いた二次電池の評価を行った。結果を表4に示した。
【0131】
比較例2
固形物濃度が10質量%である100質量部の合成例1で得られたSi5のシリコン粒子含有樹脂混合懸濁液にD50の平均粒径が15μmの市販の黒鉛粒子を高温焼成後に85質量%になるように入れて、十分に混合した。その後に120℃のオイルバス中、窒素ガスフロー条件下にて脱溶媒を行った。その他の条件は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を含む負極活物質を用いた二次電池の評価を行った。結果を表4に示した。
【0132】
比較例3
固形物濃度が10質量%である100質量部の合成例1で得られたSi6のシリコン粒子含有樹脂混合懸濁液にD50の平均粒径が15μmの市販の黒鉛粒子を高温焼成後に85質量%になるように入れて、十分に混合した。その後に120℃のオイルバス中、窒素ガスフロー条件下にて脱溶媒を行った。その他の条件は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を含む負極活物質を用いた二次電池の評価を行った。結果を表4に示した。
【0133】
【0134】
【0135】
[評価方法]
表3および表4中、各評価方法は以下のとおりである。
D50:レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製、マスターサイザー3000)を用いて測定した。
比表面積:比表面積測定装置(BELJAPAN社製、BELSORP-mini)を用いて窒素吸着測定より、BET法で測定した。29Si-NMR:JEOL RESONANCE社製、JNM-ECA600を用いた。
【0136】
表面侵入深度:FB-2100(株式会社日立ハイテク製)で断面加工してFE-SEM(JSM-7900F、日本電子株式会社製)で測定した。
積算細孔容積:水銀ポロヒーター(島津製作所Micromeritic製オートポアIV9520)で測定した。
【0137】
結晶子サイズ:X線回折装置(SmartLab、株式会社リガク製)で測定を行い、シェラー式で計算を行った。
比表面積:比表面測定装置(BELSORP VAC3、マイクロトラック・ベル社製)で測定した。
【0138】
電池特性評価:二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて電池特性を測定し、室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005から1.5Vに、充放電レートが0.1C(1から3回)と0.2C(4サイクル以後)にし、定電流・定電圧式充電/定電流式放電の設定条件下で充放電特性の評価試験を行った。各充放電時の切り替え時には、30分間、開回路で放置した。初回放電容量、初回充放電効率と300サイクル時の容量維持率は以下のようにして求めた。初回放電容量初回充放電効率(%)=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)容量維持率(%@300サイクル目)=300サイクル目の放電容量(mAh/g)/初回放電容量(mAh/g)
【0139】
前記結果から明らかなように、本負極活物質を用いた二次電池は、初回放電容量は400以上、初回効率は80%以上、300サイクル時の容量維持率が80%以上といずれも高く、またこれらのバランスに優れる。この理由は市販の黒鉛と比較して、表面に凹凸を形成した黒鉛は、前記表面層との密着強度が改良され、その結果、初回放電容量等の二次電池の特性が改良されたと考えられる。