(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、及び反射型マスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20240910BHJP
【FI】
G03F1/24
(21)【出願番号】P 2023192035
(22)【出願日】2023-11-10
(62)【分割の表示】P 2023557802の分割
【原出願日】2023-06-23
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2022108642
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022179622
(32)【優先日】2022-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】赤木 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 啓明
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-024617(JP,A)
【文献】国際公開第2022/138170(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/138360(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する、反射型マスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、材料の主成分がIrであって、CuKα線を用いたXRD法で2θが55°~60°における強度の平均値Iaに対する2θが35°~45°の範囲におけるピーク強度の最大値Ipの比(Ip/Ia)が1.0以上30以下であって、前記EUV光に対する屈折率nが0.925以下であって、前記EUV光に対する消衰係数kが0.030以上であり、
前記位相シフト膜は、Irを50at%以上含有し、且つOとNを含有し、且つTa、Cr、Mo、W、ReおよびSiからなる第2群から選択される少なくとも1つの第2元素X2を含有
し、
前記位相シフト膜は、前記位相シフト膜の断面を走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)で撮像することでグレースケール画像を取得し、前記グレースケール画像の輝度プロファイルを作成すると、前記輝度プロファイルにおけるスキューネス(Rsk)が負である、反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記位相シフト膜は、X線電子分光法で観測されるIrの4f
7/2のピークのケミカルシフトが0.3eV未満であって、X線電子分光法で観測される前記第2元素X2のピークのケミカルシフトがIrの4f
7/2のピークのケミカルシフトよりも大きい、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記位相シフト膜は、Irを50at%~98at%、OとNを合計で1.0at%~49at%、前記第2元素X2を合計で1.0at%~49at%含有する、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記位相シフト膜は、Irを60at%~89at%、OとNを合計で1.0at%~10at%、前記第2元素X2を合計で10at%~30at%含有するか、またはIrを60at%~85at%、OとNを合計で10at%~30at%、前記第2元素X2を合計で5.0at%~20at%含有する、請求項3に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記位相シフト膜は、OとNの合計含有量が1.0at%~45at%であるか、または前記第2元素X2の合計含有量が5.0at%~49at%である、請求項3記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記位相シフト膜は、
前記第2元素X2がTaの場合、Ta含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/Ta)が、1~190である、請求項3に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記位相シフト膜は、
前記第2元素X2がCrの場合、Cr含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/Cr)が、1~105である、請求項3に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記位相シフト膜は、N含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/N)が、10~70である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記位相シフト膜は、O含有量(at%)とN含有量(at%)の合計に対するIr含有量(at%)の比(Ir/(O+N))が、4~17である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記位相シフト膜は、前記EUV光に対する消衰係数kが0.034以上である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
前記位相シフト膜は、CuKα線を用いたXRD法で2θが35°~60°の範囲において最も強度の高いピークの半値全幅が1.2°以上である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項12】
前記位相シフト膜の膜厚が、20nm~60nmである、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項13】
前記保護膜は、Ru、RhおよびSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項14】
前記位相シフト膜を基準として前記保護膜とは反対側に、エッチングマスク膜を有し、
前記エッチングマスク膜は、Al、Hf、Y、Cr、Nb、Ti、Mo、TaおよびSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項15】
前記エッチングマスク膜は、さらにO、NおよびBから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項
14に記載の反射型マスクブランク。
【請求項16】
前記位相シフト膜は、前記EUV光に対する屈折率nが0.918以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項17】
請求項1~
16のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクを備え、
前記位相シフト膜に開口パターンを含む、反射型マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反射型マスクブランク、及び反射型マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、極端紫外線(Extreme Ultra-Violet:EUV)を用いた露光技術であるEUVリソグラフィー(EUVL)が開発されている。EUVとは、軟X線および真空紫外線を含み、具体的には波長が0.2nm~100nm程度の光のことである。現時点では、13.5nm程度の波長のEUVが主に検討されている。
【0003】
EUVLでは、反射型マスクが用いられる。反射型マスクは、ガラス基板などの基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、多層反射膜を保護する保護膜と、EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する。位相シフト膜には、開口パターンが形成される。EUVLでは、位相シフト膜の開口パターンを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。
【0004】
特許文献1の位相シフト膜は、位相シフト膜の膜厚の変動による位相差の変動を抑制すべく、A群から選ばれる元素とB群から選ばれる元素とを有する合金からなる。A群は、Pd、Ag、Pt、Au、Ir、W、Cr、Mn、Sn、Ta、V、FeおよびHfからなる。B群は、Rh、Ru、Mo、Nb、ZrおよびYからなる。
【0005】
特許文献2の位相シフト膜は、最上層とそれ以外の下層とを有する。最上層は、Rh、Pd、Ag、Pt、Ru、Au、Ir、Co、Sn、Ni、Re、MoおよびNbから選ばれる少なくとも1つの金属元素を含み、さらに水素または重水素を含む。最上層は、水素または重水素を含むことで、微結晶構造またはアモルファス構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2018-146945号公報
【文献】日本国特開2021-128247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
位相シフト膜として、Ir系材料からなるものが考えられる。Ir系材料は、Irを主成分として含む材料である。Irは、EUV光に対する屈折率が小さく、且つEUV光に対する消衰係数が大きい。従って、位相シフト膜の材料としてIr系材料を用いることで、所望の位相差を確保しつつ位相シフト膜を薄化できる。
【0008】
しかし、Irは、単独で使用すると、結晶化しやすいという問題がある。結晶のサイズが大きいほど、開口パターンの側壁のラフネスが大きくなってしまう。開口パターンの形成時に、結晶粒界に沿ってエッチングが進みやすいからである。
【0009】
特許文献1には、位相シフト膜がIrを含むことについて記載があるが、Irの結晶化については記載がない。IrをNb、ZrまたはYと合金化すれば、Irの結晶化を抑制できる可能性はあるが、位相シフト膜の光学特性(屈折率と消衰係数)が悪化してしまう。
【0010】
特許文献2には、位相シフト膜がIrを含むことについて記載があるが、Irを含む位相シフト膜の実験データは記載されていない。本発明者の知見によれば、Irは水素または重水素とは結合し難く、水素または重水素を用いてIrの結晶化を抑制することは困難である。
【0011】
本開示の一態様は、位相シフト膜がIrを主成分として含む場合に、位相シフト膜の光学特性の低下を抑制しつつ、位相シフト膜の結晶化を抑制する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様に係る反射型マスクブランクは、基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する。前記位相シフト膜は、材料の主成分がIrであって、CuKα線を用いたXRD法で2θが55°~60°における強度の平均値Iaに対する2θが35°~45°の範囲におけるピーク強度の最大値Ipの比(Ip/Ia)が1.0以上30以下であって、前記EUV光に対する屈折率nが0.925以下であって、前記EUV光に対する消衰係数kが0.030以上である。前記位相シフト膜は、Irを50at%以上含有し、且つOとNを含有し、且つTa、Cr、Mo、W、ReおよびSiからなる第2群から選択される少なくとも1つの第2元素X2を含有する。前記位相シフト膜は、前記位相シフト膜の断面を走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)で撮像することでグレースケール画像を取得し、前記グレースケール画像の輝度プロファイルを作成すると、前記輝度プロファイルにおけるスキューネス(Rsk)が負である。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、位相シフト膜がIrを主成分として含む場合に、位相シフト膜の光学特性の低下を抑制しつつ、位相シフト膜の結晶化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る反射型マスクブランクを示す断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る反射型マスクを示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の反射型マスクで反射されるEUV光の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る反射型マスクブランクの製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、一実施形態に係る反射型マスクの製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、例1~例5に係る位相シフト膜の光学特性を示す図である。
【
図7】
図7は、例1~例5に係る位相シフト膜のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図9】
図9は、例6~例10に係る位相シフト膜のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図10】
図10は、例11、例12、例19及び例20に係る位相シフト膜のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図11】
図11は、分散粒子とマトリックスの一例を示す図である。
【
図12】
図12は、例1に係る位相シフト膜のSTEM画像である。
【
図13】
図13は、例6に係る位相シフト膜のSTEM画像である。
【
図14】
図14は、例19に係る位相シフト膜のSTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において同一のまたは対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0016】
図1~
図3において、X軸方向とY軸方向とZ軸方向は互いに直交する方向である。Z軸方向は、基板10の第1主面10aに対して垂直な方向である。X軸方向は、EUV光の入射面(入射光線と反射光線を含む面)に直交する方向である。
図3に示すように、X軸方向から見たときに、入射光線はZ軸負方向に向かうほどY軸正方向に傾斜し、反射光線はZ軸正方向に向かうほどY軸正方向に傾斜する。
【0017】
図1を参照して、一実施形態に係る反射型マスクブランク1について説明する。反射型マスクブランク1は、例えば、基板10と、多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、エッチングマスク膜14と、をこの順番で有する。多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、エッチングマスク膜14とは、この順番で、基板10の第1主面10aに形成される。なお、反射型マスクブランク1は、少なくとも、基板10と、多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、を有していればよい。
【0018】
反射型マスクブランク1は、
図1には図示しない機能膜を更に有してもよい。例えば、反射型マスクブランク1は、基板10を基準として、多層反射膜11とは反対側に、導電膜を有してもよい。導電膜は、基板10の第2主面10bに形成される。第2主面10bは、第1主面10aとは反対向きの面である。導電膜は、例えば反射型マスク2を露光装置の静電チャックに吸着するのに用いられる。
【0019】
反射型マスクブランク1は、図示しないが、保護膜12と位相シフト膜13の間にバッファ膜を有してもよい。バッファ膜は、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成するエッチングガスから、保護膜12を保護する。バッファ膜は、位相シフト膜13よりも緩やかにエッチングされる。バッファ膜は、保護膜12とは異なり、最終的に位相シフト膜13の開口パターン13aと同一の開口パターンを有することになる。
【0020】
次に、
図2および
図3を参照して、一実施形態に係る反射型マスク2について説明する。反射型マスク2は、例えば、
図1に示す反射型マスクブランク1を用いて作製され、位相シフト膜13に開口パターン13aを含む。なお、
図1に示すエッチングマスク膜14は、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成した後に除去される。
【0021】
EUVLでは、位相シフト膜13の開口パターン13aを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。以下、基板10、多層反射膜11、保護膜12、位相シフト膜13、およびエッチングマスク膜14について、この順番で説明する。
【0022】
基板10は、例えばガラス基板である。基板10の材質は、TiO2を含有する石英ガラスが好ましい。石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、線膨張係数が小さく、温度変化による寸法変化が小さい。石英ガラスは、SiO2を80質量%~95質量%、TiO2を4質量%~17質量%含んでよい。TiO2含有量が4質量%~17質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。石英ガラスは、SiO2およびTiO2以外の第三成分または不純物を含んでもよい。なお、基板10の材質は、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス、シリコン、または金属等であってもよい。
【0023】
基板10は、第1主面10aと、第1主面10aとは反対向きの第2主面10bと、を有する。第1主面10aには、多層反射膜11などが形成される。平面視(Z軸方向視)にて基板10のサイズは、例えば縦152mm、横152mmである。縦寸法および横寸法は、152mm以上であってもよい。第1主面10aと第2主面10bは、各々の中央に、例えば正方形の品質保証領域を有する。品質保証領域のサイズは、例えば縦142mm、横142mmである。第1主面10aの品質保証領域は、0.150nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rq)と、100nm以下の平坦度と、を有することが好ましい。また、第1主面10aの品質保証領域は、位相欠陥を生じさせる欠点を有しないことが好ましい。
【0024】
多層反射膜11は、EUV光を反射する。多層反射膜11は、例えば高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものである。高屈折率層の材質は例えばシリコン(Si)であり、低屈折率層の材質は例えばモリブデン(Mo)であり、Mo/Si多層反射膜が用いられる。なお、Ru/Si多層反射膜、Mo/Be多層反射膜、Mo化合物/Si化合物多層反射膜、Si/Mo/Ru多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru多層反射膜、MoRu/Si多層反射膜、Si/Ru/Mo多層反射膜なども、多層反射膜11として使用可能である。
【0025】
多層反射膜11を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、各層の材質、およびEUV光に対する反射率に応じて適宜選択できる。多層反射膜11は、Mo/Si多層反射膜である場合、入射角θ(
図3参照)が6°であるEUV光に対して60%以上の反射率を達成するには、膜厚2.3±0.1nmのMo膜と、膜厚4.5±0.1nmのSi膜とを繰り返し単位数が30以上60以下になるように積層すればよい。多層反射膜11は、入射角θが6°であるEUV光に対して60%以上の反射率を有することが好ましい。反射率は、より好ましくは65%以上である。
【0026】
多層反射膜11を構成する各層の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、またはイオンビームスパッタリング法などである。イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si多層反射膜を形成する場合、Mo膜とSi膜の各々の成膜条件の一例は下記の通りである。
<Si膜の成膜条件>
ターゲット:Siターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:0.013Pa~0.027Pa、
イオン加速電圧:300V~1500V、
成膜速度:0.030nm/sec~0.300nm/sec、
Si膜の膜厚:4.5±0.1nm、
<Mo膜の成膜条件>
ターゲット:Moターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:0.013Pa~0.027Pa、
イオン加速電圧:300V~1500V、
成膜速度:0.030nm/sec~0.300nm/sec、
Mo膜の膜厚:2.3±0.1nm、
<Si膜とMo膜の繰り返し単位>
繰り返し単位数:30~60(好ましくは40~50)。
【0027】
保護膜12は、多層反射膜11と位相シフト膜13の間に形成され、多層反射膜11を保護する。保護膜12は、位相シフト膜13に開口パターン13a(
図2参照)を形成するエッチングガスから多層反射膜11を保護する。保護膜12は、エッチングガスに曝されても除去されずに、多層反射膜11の上に残る。
【0028】
エッチングガスは、例えばハロゲン系ガス、酸素系ガス、またはこれらの混合ガスである。ハロゲン系ガスとしては、塩素系ガスと、フッ素系ガスと、が挙げられる。塩素系ガスは、例えばCl2ガス、SiCl4ガス、CHCl3ガス、CCl4ガス、BCl3ガスまたはこれらの混合ガスである。フッ素系ガスは、例えばCF4ガス、CHF3ガス、SF6ガス、BF3ガス、XeF2ガスまたはこれらの混合ガスである。酸素系ガスは、O2ガス、O3ガスまたはこれらの混合ガスである。
【0029】
保護膜12のエッチング速度ER1に対する、位相シフト膜13のエッチング速度ER2の比(ER2/ER1)を、選択比(ER2/ER1)とも呼ぶ。選択比(ER2/ER1)が大きいほど、位相シフト膜13の加工性が良い。選択比(ER2/ER1)は、好ましくは5.0以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは30以上である。選択比(ER2/ER1)は、好ましくは200以下であり、より好ましくは100以下である。
【0030】
保護膜12は、例えばRu、RhおよびSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する。保護膜12は、Rhを含有する場合、Rhのみを含有してもよいが、Rh化合物を含有することが好ましい。Rh化合物は、Rhに加えて、Ru、Nb、Mo、Ta、Ir、Pd、Zr、YおよびTiからなる群から選択される少なくとも1つの元素Z1を含有してもよい。
【0031】
Rhに対してRu、Nb、Mo、Zr、YまたはTiを添加することで、屈折率の増大を抑制しつつ、消衰係数を小さくでき、EUV光に対する反射率を向上できる。また、Rhに対してRu、Ta、Ir、PdまたはYを添加することで、エッチングガス又は/及び硫酸過水に対する耐久性を向上できる。硫酸過水は、後述するレジスト膜の除去または反射型マスク2の洗浄などに用いられる。
【0032】
Z1(全てのZ1)とRhの元素比(Z1:Rh)は、好ましくは1:99~1:1である。本明細書において、元素比とは、モル比のことである。比の値(Z1/Rh)が1/99以上であれば、EUV光に対する反射率が良好である。比の値(Z1/Rh)が1以下であれば、保護膜12のエッチングガスに対する耐久性が良好である。Z1とRhの元素比(Z1:Rh)は、より好ましくは3:10~1:1である。
【0033】
Rh化合物は、Rhに加えて、N、O、CおよびBからなる群から選択される少なくとも1つの元素Z2を含有してもよい。元素Z2は、保護膜12のエッチングガスに対する耐久性を低下させてしまう反面、保護膜12の結晶化を抑制でき、保護膜12の表面を平滑に形成できる。元素Z2を含有するRh化合物は、非結晶構造または微結晶構造を有する。Rh化合物が非結晶構造または微結晶構造を有する場合、Rh化合物のX線回折プロファイルは明瞭なピークを有しない。
【0034】
Rh化合物がRhに加えてZ2を含有する場合、Rhの含有量またはRhとZ1の合計の含有量は40at%~99at%であって且つZ2の合計の含有量は1.0at%~60at%であることが好ましい。Rh化合物がRhに加えてZ2を含有する場合、Rhの含有量またはRhとZ1の合計の含有量は80at%~99at%であって且つZ2の合計の含有量は1.0at%~20at%であることがより好ましい。
【0035】
Rh化合物は、Rhを90at%以上含有し、Z1とZ2の少なくとも1つを含有し、且つ10.0g/cm3~14.0g/cm3の膜密度を有する場合、非結晶構造または微結晶構造を有する。保護膜12の膜密度は、好ましくは11.0g/cm3~13.0g/cm3である。なお、保護膜12は、Rhを100at%含有し、且つ11.0g/cm3~12.0g/cm3の膜密度を有する場合、非結晶構造または微結晶構造を有する。なお、保護膜12の膜密度は、X線反射率法を用いて測定する。
【0036】
保護膜12は、本実施形態では単層であるが、複数層であってもよい。つまり、保護膜12は、下層及び上層を有する多層膜であってもよい。保護膜12の下層は、多層反射膜11の最上面に接触して形成された層である。保護膜12の上層は、位相シフト膜13の最下面に接触している。このように、保護膜12を複数層構造とすることで、所定の機能に優れた材料を各層に使用できるので、保護膜12全体の多機能化を図ることができる。保護膜12は、全体としてRhを50at%以上含有する場合に、Rhを含有しない層を有してもよい。保護膜12が多層膜である場合、下記の保護膜12の厚みとは多層膜の合計膜厚を意味する。
【0037】
保護膜12の厚みは、好ましくは1.5nm以上4.0nm以下であり、より好ましくは2.0nm以上3.5nm以下である。保護膜12の厚みが1.5nm以上であれば、エッチング耐性が良い。また、保護膜12の厚みが4.0nm以下であれば、EUV光に対する反射率の低下を抑制できる。
【0038】
保護膜12の膜密度は、好ましくは10.0g/cm3以上14.0g/cm3以下である。保護膜12の膜密度が10.0g/cm3以上であれば、エッチング耐性が良い。また、保護膜12の膜密度が14.0g/cm3以下であれば、EUV光に対する反射率の低下を抑制できる。
【0039】
保護膜12の上面、すなわち保護膜12の位相シフト膜13が形成される表面は、二乗平均平方根粗さ(Rq)が好ましくは0.300nm以下であり、より好ましくは0.150nm以下である。二乗平均平方根粗さ(Rq)が0.300nm以下であれば、保護膜12の上に位相シフト膜13などを平滑に形成できる。また、EUV光の散乱を抑制でき、EUV光に対する反射率を向上できる。二乗平均平方根粗さ(Rq)は、好ましくは0.050nm以上である。
【0040】
保護膜12の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法などである。DCスパッタリング法を用いてRh膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<Rh膜の成膜条件>
ターゲット:Rhターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.0×10-2Pa~1.0×100Pa、
ターゲットの出力密度:1.0W/cm2~8.5W/cm2、
成膜速度:0.020nm/sec~1.000nm/sec、
Rh膜の膜厚:1nm~10nm。
【0041】
なお、Rh膜を形成する場合、スパッタガスとして、N2ガスまたはArガスとN2の混合ガスを使用してもよい。スパッタガス中のN2ガスの体積比(N2/(Ar+N2))は0.05以上1.0以下である。
【0042】
DCスパッタリング法を用いて、RhO膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<RhO膜の成膜条件>
ターゲット:Rhターゲット、
スパッタガス:O2ガスまたはArガスとO2の混合ガス、
スパッタガス中のO2ガスの体積比(O2/(Ar+O2)):0.05~1.0、
ガス圧:1.0×10-2Pa~1.0×100Pa、
ターゲットの出力密度:1.0W/cm2~8.5W/cm2、
成膜速度:0.020nm/sec~1.000nm/sec、
RhO膜の膜厚:1nm~10nm。
【0043】
DCスパッタリング法を用いて、RhRu膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<RhRu膜の成膜条件>
ターゲット:RhターゲットおよびRuターゲット(またはRhRuターゲット)、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.0×10-2Pa~1.0×100Pa、
ターゲットの出力密度:1.0W/cm2~8.5W/cm2、
成膜速度:0.020nm/sec~1.000nm/sec、
RhRu膜の膜厚:1nm~10nm。
【0044】
位相シフト膜13は、開口パターン13aが形成される膜である。開口パターン13aは、反射型マスクブランク1の製造工程では形成されずに、反射型マスク2の製造工程で形成される。位相シフト膜13は、EUV光を吸収するだけではなく、EUV光の位相をシフトさせる。位相シフト膜は、
図3に示す第1EUV光L1に対して、第2EUV光L2の位相をシフトさせる。
【0045】
第1EUV光L1は、位相シフト膜13を透過することなく開口パターン13aを通過し、多層反射膜11で反射され、再び位相シフト膜13を透過することなく開口パターン13aを通過した光である。第2EUV光L2は、位相シフト膜13に吸収されながら位相シフト膜13を透過し、多層反射膜11で反射され、再び位相シフト膜13に吸収されながら位相シフト膜13を透過した光である。
【0046】
第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差(≧0)は、例えば170°~250°である。第1EUV光L1の位相が、第2EUV光L2の位相よりも、進んでいてもよいし、遅れていてもよい。位相シフト膜13は、第1EUV光L1と第2EUV光L2の干渉を利用して、転写像のコントラストを向上する。転写像は、位相シフト膜13の開口パターン13aを対象基板に転写した像である。
【0047】
EUVLでは、いわゆる射影効果(シャドーイング効果)が生じる。シャドーイング効果とは、EUV光の入射角θが0°ではない(例えば6°である)ことに起因して、開口パターン13aの側壁付近に、側壁によってEUV光を遮る領域が生じ、転写像の位置ずれまたは寸法ずれが生じることをいう。シャドーイング効果を低減するには、開口パターン13aの側壁の高さを低くすることが有効であり、位相シフト膜13の薄化が有効である。
【0048】
位相シフト膜13の膜厚は、シャドーイング効果を低減すべく、例えば60nm以下であり、好ましくは50nm以下である。位相シフト膜13の膜厚は、第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差を確保すべく、好ましくは20nm以上であり、より好ましくは30nm以上である。
【0049】
第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差を確保しつつ、シャドーイング効果を低減すべく位相シフト膜13の膜厚を小さくするには、位相シフト膜13の屈折率nを小さくすることが有効である。そこで、本実施形態の位相シフト膜13は、Ir系材料からなる。Ir系材料は、Irを主成分とする材料であり、Irを50at%~100at%含有する材料である。つまり、位相シフト膜13は、Irを50at%~100at%含有する。
【0050】
Ir系材料は、屈折率nが小さく、且つ消衰係数kが大きい。従って、所望の位相差を確保しつつ位相シフト膜13を薄化できる。Ir含有量が大きいほど、屈折率nが小さく、消衰係数kが大きい。Ir含有量は、好ましくは70at%以上であり、より好ましくは80at%以上である。
【0051】
位相シフト膜13の屈折率nは、好ましくは0.925以下であり、より好ましくは0.920以下であり、さらに好ましくは0.918以下であり、特に好ましくは0.910以下であり、さらに特に好ましくは0.900以下である。位相シフト膜13の屈折率nが小さいほど、位相シフト膜13を薄化できる。なお、位相シフト膜13の屈折率nは、好ましくは0.885以上である。本明細書において、屈折率は、EUV光(例えば波長13.5nmの光)に対する屈折率である。
【0052】
位相シフト膜13の消衰係数kは、好ましくは0.030以上であり、より好ましくは0.034以上であり、さらに好ましくは0.036以上、特に好ましくは0.038以上である。位相シフト膜13の消衰係数kが大きいほど、薄い膜厚で所望の反射率を得ることが容易である。なお、位相シフト膜13の消衰係数kは、好ましくは0.065以下である。本明細書において、消衰係数は、EUV光(例えば波長13.5nmの光)に対する消衰係数である。
【0053】
位相シフト膜13は、CuKα線を用いたXRD法で、2θが55°~60°における強度(回折強度)の平均値Iaに対する2θが35°~45°の範囲におけるピーク強度の最大値Ipの比(Ip/Ia)が、好ましくは30以下であり、より好ましくは20以下であり、さらに好ましくは10以下である。XRD法としては、out of plane法を用いる。以下、Ip/Iaをピーク強度比とも呼ぶ。ピーク強度比Ip/Iaが30以下であれば、位相シフト膜13の結晶性が低く、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。ピーク強度比Ip/Iaは、小さいほど好ましい。Ip/Iaが小さいほど結晶性が低いが、Ip/Iaは好ましくは1.0以上であり、より好ましくは2.0以上である。
【0054】
位相シフト膜13は、CuKα線を用いたXRD法で、2θが35°~60°の範囲において最も強度の高いピークの半値全幅FWHMが1.2°以上であることが好ましい。XRD法としては、out of plane法を用いる。2θが35°~60°の範囲において最も強度の高いピークは、2θが35°~45°の範囲に現れる。半値全幅FWHMが1.2°以上であれば、位相シフト膜13の結晶性が低く、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。半値全幅FWHMは、好ましくは1.5°以上であり、より好ましくは2.0°以上である。半値全幅FWHMは大きいほど好ましく、明瞭なピークが無いことが好ましい。
【0055】
位相シフト膜13は、Irに加えて、O、B、CおよびNからなる第1群から選択される少なくとも1つの第1元素X1を含むことが好ましい。第1元素X1は、非金属元素である。Irに第1元素X1を添加することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。
【0056】
第1元素X1は、酸素を含むことが好ましく、酸素と窒素を含むことがより好ましい。酸素は、少ない添加量で、位相シフト膜13の結晶化を抑制でき、位相シフト膜13の光学特性の低下を抑制できる。
【0057】
第1元素X1の合計含有量は、好ましくは1.0at%~49at%であり、より好ましくは5.0at%~30at%であり、さらに好ましくは7.0at%~30at%であり、特に好ましくは15at%~25at%である。第1元素X1の合計含有量が1.0at%以上であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制できる。第1元素X1の合計含有量が49at%以下であれば、後述する耐水素性が良好であり、光学特性が良好である。
【0058】
ところで、EUV露光装置の内部で、反射型マスク2は、水素ガスに曝されることがある。水素ガスは、例えばカーボンのコンタミを低減する目的で使用される。従って、位相シフト膜13が、水素ガスに曝されることがある。一般的に、水素ガスと第1元素X1は、水素化物(例えばH2O)を形成しうる。
【0059】
位相シフト膜13は、第1元素X1を含有する場合、X線電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)で観測されるIrの4f7/2のピークのケミカルシフトΔE1が0.3eV未満であることが好ましい。ΔE1が0.3eV未満であれば、位相シフト膜13に含まれるIrと第1元素X1がほとんど結合していない。
【0060】
Irと第1元素X1が結合していなければ、その結合が水素ガスによって切断されることもなく、第1元素X1の水素化物が生成されることもない。なお、第1元素X1の水素化物が生成されると、水素化物は揮発性が高く、第1元素X1が位相シフト膜13から脱離し、位相シフト膜13が還元される。還元後の膜厚は、還元前の膜厚よりも小さい。膜厚の変化は、位相差の変化につながる。
【0061】
X線電子分光法で観測される電子の結合エネルギーは、電子が飛び出すときに消費するエネルギーの大きさを表す。Irが第1元素X1と結合すると、Irが正に帯電するので、電子がIrを振り切って飛び出すのに、大きなエネルギーが消費される。それゆえ、Irが第1元素X1と結合すると、Irが単体で存在する場合に比べて、ピークの結合エネルギーが高くなる。
【0062】
X線電子分光法で観測されるIrのピークのケミカルシフトΔE1は、実際に観測されるIrのピークの結合エネルギーと、第1元素X1と結合しておらず単体で存在する場合のIrのピークの結合エネルギー(基準の結合エネルギー)との差の大きさ(絶対値)である(ΔE1≧0.0eV)。実際に観測されるIrのピークの結合エネルギーは、基本的に基準の結合エネルギー以上になる。各元素における基準の結合エネルギーは、HANDBOOK OF X-RAY PHOTOELECTRON SPECTROSCOPY (1979)、(箸者:D. Wagner, W. M. Riggs, L. E. Davis, J. F. Maulder, G. E. Muilenberg)等に記載の文献値を用いる。
【0063】
ΔE1は、例えばIrを含むターゲットと第1元素X1を含むターゲットと第2元素X2を含むターゲットとを使用した多元スパッタリング、またはIrを含むターゲットと第2元素X2を含むターゲットを使用した反応性スパッタリングによって調整することができる。多元スパッタリングまたは反応性スパッタリングによって位相シフト膜13に含まれる第2元素X2が選択的に第1元素X1と結合することで、Irと第1元素X1との結合が抑制され、その結合が水素ガスによって切断されることも抑制されるため、第1元素X1の水素化物生成を抑制できる。それゆえ、ΔE1を0.3eV未満に調整することができる。第1元素X1の供給方法は特に限定されないが、ガス、もしくは、ターゲットから供給することが好ましく、ガスとして供給することがより好ましい。ガスとしては、酸素、窒素、メタンを使用することが好ましい。第1元素X1をガスとして供給する場合、Irを含むターゲットと、第2元素X2を含むターゲットを用いた多元スパッタリングにおいて、第1元素X1のガスは第2元素X2を含むターゲット付近から供給することが好ましい。そうすることにより、後述するΔE2を、ΔE1よりも大きくすることができる。
【0064】
また、ΔE1は、Irを含むターゲットと第1元素X1と第2元素X2を含む化合物ターゲットの多元スパッタリングによって調整することもできる。第1元素X1と第2元素X2を含む化合物ターゲットを使用することで、Irと第1元素X1との結合が抑制され、その結合が水素ガスによって切断されることも抑制されるため、第1元素X1の水素化物生成を抑制できる。それゆえ、ΔE1を0.3eV未満に調整することができる。
【0065】
本発明において、XPSによる位相シフト膜の分析は、以下の手順で行う。XPSによる分析には、アルバック・ファイ株式会社製の分析装置「PHI 5000 VersaProbe」を用いる。なお、上記装置は、JIS K0145に則って校正されている。
まず、反射型マスクブランクから約1cm角の測定用サンプルを切り出して得る。得られた測定用サンプルは、位相シフト膜が測定面となるように測定用ホルダにセットする。
測定用ホルダを上記装置に搬入後、アルゴンイオンビームで位相シフト膜の一部を最表面から観測されるピークが一定になるまで除去する。
位相シフト膜の表面を除去した後、除去した部分にX線(単色化AlKα線)を照射し、光電子取り出し角(測定用サンプルの表面と検出器の方向とのなす角)を45°として分析を行う。また、分析中は中和銃を用いて、チャージアップの抑制を行う。
分析は、結合エネルギーが0ev~1000eVの範囲でワイドスキャンを行って存在する元素を確認したあと、存在する元素に応じてナロースキャンを行う。ナロースキャンは、例えばパスエネルギー58.7eV、エネルギーステップ0.1eV、タイム/ステップ50ms、積算回数5回で行う。ワイドスキャンは、パスエネルギー58.7eV、エネルギーステップ1eV、タイム/ステップ50ms、積算回数2回で行う。
ここで、結合エネルギーの校正は、測定サンプル上に存在する炭素に由来するC1s軌道のピークを用いる。具体的には、まず、測定サンプルにおけるC1s軌道のピークを示す結合エネルギー値をナロースキャンの分析結果から得て、284.8eVからその結合エネルギー値を減算した値をシフト値とする。ナロースキャンの分析結果から得られる各軌道のピークを示す結合エネルギー値に対して上記シフト値を加算し、上記に定義した各軌道に対応するピークの結合エネルギー値を算出する。なお、超高真空中で表面を清浄化したAuを用いて結合エネルギーの校正を行ってもよい。この際、シフト値は、Au4f7/2軌道の結合エネルギー値をナロースキャンの分析結果から得て、83.96eVからその結合エネルギー値を減算した値とする。
上記ナロースキャンの分析結果から各軌道のピークを示す結合エネルギー値を読み取る際には、ピークトップを示す値を結合エネルギー値として読み取る。
【0066】
X線電子分光法で観測されるIrのピークのケミカルシフトΔE1が0.3eV未満であれば、位相シフト膜13に含まれるIrと第1元素X1がほとんど結合していない。よって、第1元素X1の水素化物が生成されることがなく、第1元素X1が位相シフト膜13から脱離することもない。従って、位相シフト膜13の耐水素性を向上でき、位相シフト膜13の膜厚変化を抑制できる。ΔE1は、0.3eV未満が好ましく、0.2eV以下がより好ましく、0.1eV以下が更に好ましい。
【0067】
位相シフト膜13は、酸化物、ホウ化物、炭化物および窒化物の少なくともいずれか1つの標準生成ギブスエネルギーが-130kJ/mol以下である第2元素X2を含むことが好ましい。つまり、位相シフト膜13は、IrとX1とX2の化合物を含むことが好ましい。標準生成ギブスエネルギーは、標準状態(25℃、1気圧)において、ある元素が単体で安定に存在する状態を基底として、その単体から物質を合成するのに要する自由エネルギーのことである。標準生成ギブスエネルギーが低いほど、物質の安定性が高い。
【0068】
第2元素X2と第1元素X1の化合物である、酸化物、ホウ化物、炭化物または窒化物の標準生成ギブスエネルギーが-130kJ/mol以下であれば、化合物の安定性が十分に高く、第2元素X2と第1元素X1が強く結合しており、その結合が水素ガスによって切断されない。よって、第1元素X1の水素化物の生成を抑制でき、第1元素X1が位相シフト膜13から脱離するのを抑制できる。従って、位相シフト膜13の耐水素性を向上できる。上記の標準生成ギブスエネルギーは、より好ましくは-500kJ/mol以下である。
【0069】
第2元素X2は、例えば、Ta、Cr、Mo、W、ReおよびSiからなる第2群から選択される少なくとも1つである。第2群の元素によれば、上記の標準生成ギブスエネルギーが-500kJ/mol以下になる。よって、Ta、Cr、Mo、W、ReおよびSiは、いずれも、第1元素X1の水素化物の生成を抑制でき、第1元素X1が位相シフト膜13から脱離するのを抑制できる。また、Ta、Cr、Mo、W、ReおよびSiは、いずれも、選択比(ER2/ER1)を向上できる。さらに、第2群の元素の中でも、Ta、Cr、WおよびReは、位相シフト膜13の光学特性の低下を抑制しつつ、位相シフト膜13の耐水素性を向上できる。さらにまた、第2群の元素の中でも、MoおよびSiは、位相シフト膜13の耐水素性をより向上できる。
【0070】
位相シフト膜13は、X線電子分光法で観測される第2元素X2のピークのケミカルシフトΔE2が、IrのピークのケミカルシフトΔE1よりも大きいことが好ましい。第2元素X2のピークは、例えばTa、WまたはReの4f7/2のピークであるか、Crの2p3/2のピークであるか、Moの3d5/2のピークであるか、Siの2p3/2のピークである。
【0071】
X線電子分光法で観測される電子の結合エネルギーは、電子が飛び出すときに消費するエネルギーの大きさを表す。第2元素X2が第1元素X1と結合すると、第2元素X2が正に帯電するので、電子が第2元素X2を振り切って飛び出すのに、大きなエネルギーが消費される。それゆえ、第2元素X2が第1元素X1と結合すると、第2元素X2が単体で存在する場合に比べて、ピークの結合エネルギーが高くなる。
【0072】
X線電子分光法で観測される第2元素X2のピークのケミカルシフトΔE2は、実際に観測される第2元素X2のピークの結合エネルギーと、第1元素X1と結合しておらず単体で存在する場合の第2元素X2のピークの結合エネルギー(基準の結合エネルギー)との差の大きさ(絶対値)である。実際に観測される第2元素X2のピークの結合エネルギーは、基本的に、基準の結合エネルギーよりも高くなる。
【0073】
第2元素X2のピークのケミカルシフトΔE2は、好ましくはIrのピークのケミカルシフトΔE1よりも大きい。第2元素X2がIrよりも第1元素X1と強く結合しており(X2とX1の結合がIrとX1の結合よりも強く)、その結合(X2とX1の結合)が水素ガスによって切断されない。よって、第1元素X1の水素化物の生成を抑制でき、第1元素X1が位相シフト膜13から脱離するのを抑制できる。従って、位相シフト膜13の耐水素性を向上できる。
【0074】
X線電子分光法で観測される第2元素X2のピークのケミカルシフトΔE2は、好ましくは0.2eV以上であり、より好ましくは0.3eV以上であり、更に好ましくは0.5eV以上であり、より更に好ましくは2.0eV以上であり、特に好ましくは2.5eV以上である。ΔE2は、大きいほど好ましいが、5.0eV以下であってよい。
【0075】
位相シフト膜13は、Irを50at%~98at%、第1元素X1を合計で1.0at%~49at%、第2元素X2を合計で1.0at%~49at%含有することが好ましい。Irと第1元素X1と第2元素X2の各々の含有量が上記範囲内であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制すると共に、位相シフト膜13の耐水素性を向上する効果が高い。
【0076】
位相シフト膜13は、より好ましくは、Irを60at%~89at%、第1元素X1を合計で1.0at%~10at%、第2元素X2を合計で10at%~30at%含有するか、またはIrを60at%~85at%、第1元素X1を合計で10at%~30at%、第2元素X2を合計で5.0at%~20at%含有する。Irと第1元素X1と第2元素X2の各々の含有量が上記範囲内であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制すると共に、位相シフト膜13の耐水素性を向上する効果が高く、高い光学特性を得られる効果が高い。
【0077】
位相シフト膜13は、好ましくは、第1元素X1の合計含有量が1.0at%~45at%であるか、または第2元素X2の合計含有量が5.0at%~49at%である。位相シフト膜13は、第1元素X1の合計含有量が45at%よりも大きく且つ第2元素X2の合計含有量が5.0at%未満である場合、水素に対して不安定な酸化イリジウムが生じ、反射型マスクブランク1の水素耐性は悪くなる。
【0078】
位相シフト膜13は、第2元素X2がTaの場合、Ta含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/Ta)は、例えば1~190である。Ta含有量に対するIr含有量の比(Ir/Ta)が1以上であれば、位相シフト膜13の光学特性が良い。Ta含有量に対するIr含有量の比(Ir/Ta)が190以下であれば、位相シフト膜13の加工性が良い。Ta含有量に対するIr含有量の比(Ir/Ta)は、好ましくは1~100であり、より好ましくは1~40であり、さらに好ましくは2~30であり、特に好ましくは2~20であり、最も好ましくは2~12である。
【0079】
位相シフト膜13は、第2元素X2がCrの場合、Cr含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/Cr)は、例えば1~105である。Cr含有量に対するIr含有量の比(Ir/Cr)が1以上であれば、位相シフト膜13の光学特性が良い。Cr含有量に対するIr含有量の比(Ir/Cr)が105以下であれば、選択比(ER2/ER1)が大きく、位相シフト膜13の加工性が良い。Cr含有量に対するIr含有量の比(Ir/Cr)は、好ましくは1~105であり、より好ましくは2~105であり、さらに好ましくは3~105であり、特に好ましくは4~105である。
【0080】
位相シフト膜13は、第2元素X2がWの場合、W含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/W)は、例えば1~100である。W含有量に対するIr含有量の比(Ir/W)が1以上であれば、位相シフト膜13の光学特性が良い。W含有量に対するIr含有量の比(Ir/W)が100以下であれば、選択比(ER2/ER1)が大きく、位相シフト膜13の加工性が良い。W含有量に対するIr含有量の比(Ir/W)は、好ましくは1~90であり、より好ましくは2~80であり、さらに好ましくは3~70であり、特に好ましくは4~30である。
【0081】
位相シフト膜13は、硫酸過水によるエッチング速度が0nm/min~0.05nm/minである。硫酸過水は、後述するレジスト膜の除去、又は反射型マスク2の洗浄などに用いられる。位相シフト膜13の硫酸過水によるエッチング速度が0.05nm/min以下であれば、洗浄時に位相シフト膜13の損傷を抑制できる。
【0082】
位相シフト膜13は、第1元素X1として、O、CおよびBから選択される少なくとも1つの元素に加え、Nを含有することが好ましい。O、CおよびBから選択される少なくとも1つの元素にNを添加することで、結晶化を抑制できる。OとCとBの合計含有量は、好ましくは15at%以下である。また、N含有量は、好ましくは10at%以下である。第1元素X1の合計含有量が少ないほど、密度が高く、光学特性が良い。
【0083】
位相シフト膜13は、第1元素X1として、Nを1.0at%~10at%含有することが好ましい。N含有量が1.0at%以上であれば、O含有量が少なくても、結晶化を抑制できる。N含有量は、光学特性の観点から、好ましくは10at%以下であり、より好ましくは5.0at%以下である。
【0084】
位相シフト膜13は、第1元素X1として、Oを1.0at%~15at%含有することが好ましい。O含有量が1.0at%以上であれば、結晶化を抑制できる。O含有量は、光学特性の観点およびパターンニング性の観点から、好ましくは15at%以下である。O含有量が15at%を超えると、密度が低くなり、光学特性が悪くなる。また、O含有量が15at%を超えると、大きな分散粒子が生じ、パターンニング性が悪くなる。
【0085】
位相シフト膜13は、第1元素X1がOを含有する場合、O含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/O)は、例えば1~40である。O含有量に対するIr含有量の比(Ir/O)が1以上であれば、位相シフト膜13の耐水素性が向上できる。O含有量に対するIr含有量の比(Ir/O)が40以下であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。O含有量に対するIr含有量の比(Ir/O)は、好ましくは1~40であり、より好ましくは2~35であり、さらに好ましくは2~30であり、特に好ましくは2~20であり、最も好ましくは3~15である。
【0086】
位相シフト膜13は、第1元素X1がNを含有する場合、N含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/N)は、例えば10~105である。N含有量に対するIr含有量の比(Ir/N)が10以上であれば、位相シフト膜13の耐水素性が向上できる。N含有量に対するIr含有量の比(Ir/N)が105以下であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁ラフネスを小さくできる。N含有量に対するIr含有量の比(Ir/N)は、好ましくは10~105であり、より好ましくは10~70であり、さらに好ましくは10~45であり、特に好ましくは11~36であり、最も好ましくは12~30である。
【0087】
位相シフト膜13は、第1元素X1がOとNを含有する場合、O含有量(at%)とN含有量(at%)の合計に対するIr含有量(at%)の比(Ir/(O+N))は、例えば1~45である。O含有量とN含有量の合計に対するIr含有量の比(Ir/(O+N))が1以上であれば、位相シフト膜13の耐水素性を向上できる。O含有量とN含有量の合計に対するIr含有量の比(Ir/(O+N))が45以下であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁ラフネスを小さくできる。O含有量とN含有量の合計に対するIr含有量の比(Ir/(O+N))は、好ましくは1~45であり、より好ましくは2~30であり、さらに好ましくは2.5~20であり、特に好ましくは4~17であり、最も好ましくは6~16である。
【0088】
図11に示すように、分散粒子131は、マトリックス132に分散する粒子である。分散粒子131は第1元素X1と第2元素X2に富み、マトリックス132はIrに富む。分散粒子131が大きいほど、開口パターン13aの側壁のラフネスが大きくなり、パターンニング性が悪くなる。開口パターン13aの形成時に、分散粒子131とマトリックス132の界面に沿ってエッチングが進みやすいからである。
【0089】
分散粒子131の大きさは、グレースケール画像から評価することが可能である。分散粒子131は、マトリックス132に比べて第1元素X1と第2元素X2に富むので、低い密度を有する。それゆえ、グレースケール画像において、分散粒子131はマトリックス132に比べて暗く写る。
【0090】
グレースケール画像は、位相シフト膜13の断面を走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)で撮像することで取得する。グレースケール画像は、例えば、諧調が256段階であり、倍率が250万倍であり、解像度が0.10nm/pixelである。
【0091】
分散粒子131の大きさは、グレースケール画像の輝度プロファイルから評価することが可能である。輝度プロファイルを作成する領域は、例えば、縦方向寸法が25nmであって、横方向寸法が60nmである。ここで、縦方向とは、Z軸方向である。横方向とは、X軸方向またはY軸方向である。
【0092】
輝度プロファイルは、アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)が配布するImageJ(バージョン1.53e)のプラグインツールであるSurfCharJを用いて作成する。ImageJは、オープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェアである。SurfCharJを使用することで画像の輝度プロファイルにおける粗さのパラメータ、具体的にはスキューネス(Rsk)などが得られる。
【0093】
輝度プロファイルにおけるスキューネス(Rsk)は、負であることが好ましい。Rskが負であれば、平均線を中心としたとき細かい谷が多く、分散粒子131の大きさが小さく、位相シフト膜13の構造が均一である。それゆえ、Rskが負であれば、パターンニング性が良い。Rskは、より好ましくは-0.01以下である。Rskは、JIS B0601:2013に準拠して求める。
【0094】
位相シフト膜13の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。スパッタガス中のO2ガスの含有量で、位相シフト膜13の酸素含有量を制御可能である。また、スパッタガス中のN2ガスの含有量で、位相シフト膜13の窒素含有量を制御可能である。
【0095】
反応性スパッタリング法を用いてIrTaON膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<IrTaON膜の成膜条件>
ターゲット:IrターゲットおよびTaターゲット(またはIrTaターゲット)、
Irターゲットの出力密度:1.0W/cm2~8.5W/cm2、
Taターゲットの出力密度:1.0W/cm2~8.5W/cm2、
スパッタガス:ArガスとO2ガスとN2ガスの混合ガス、
スパッタガス中のO2ガスの体積比(O2/(Ar+O2+N2)):0.01~0.25、
スパッタガス中のN2ガスの体積比(N2/(Ar+O2+N2)):0.01~0.25、
成膜速度:0.020nm/sec~0.060nm/sec、
膜厚:20nm~60nm。
【0096】
位相シフト膜13は、本実施形態では単層であるが、複数層であってもよい。位相シフト膜13は、Irを含まない層を有してもよい。位相シフト膜13は、全体としてIrを50at%以上含有すればよい。位相シフト膜13が第1層と第2層を含む場合、位相シフト膜13の屈折率nは下記式(1)から算出する。
【0097】
【数1】
上記式(1)において、n
1は第1層の屈折率であり、n
2は第2層の屈折率であり、t
1は第1層の膜厚であり、t
2は第2層の膜厚であり、d
1は第1層の密度であり、d
2は第2層の密度であり、M
1は第1層の原子量であり、M
2は第2層の原子量である。
【0098】
位相シフト膜13が第1層と第2層を含む場合、位相シフト膜13の消衰係数kは下記式(2)から算出する。
【0099】
【数2】
上記式(2)において、k
1は第1層の消衰係数であり、k
2は第2層の消衰係数であり、t
1は第1層の膜厚であり、t
2は第2層の膜厚であり、d
1は第1層の密度であり、d
2は第2層の密度であり、M
1は第1層の原子量であり、M
2は第2層の原子量である。
【0100】
なお、位相シフト膜13は、第1層及び第2層に加えて、第1層及び第2層とは異なる化学組成の第3層を含んでもよい。第3層を含む場合も、上記式(1)及び上記式(2)と同様の式を用いて、屈折率nと消衰係数kを算出可能である。
【0101】
エッチングマスク膜14は、位相シフト膜13を基準として保護膜12とは反対側に形成され、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成するのに用いられる。エッチングマスク膜14の上には、不図示のレジスト膜が設けられる。反射型マスク2の製造工程では、先ずレジスト膜に第1開口パターンを形成し、次に第1開口パターンを用いてエッチングマスク膜14に第2開口パターンを形成し、次に第2開口パターンを用いて位相シフト膜13に第3開口パターン13aを形成する。第1開口パターンと第2開口パターンと第3開口パターン13aは、平面視(Z軸方向視)で同一の寸法および同一の形状を有する。エッチングマスク膜14は、レジスト膜の薄膜化を可能にする。
【0102】
エッチングマスク膜14は、好ましくはAl、Hf、Y、Cr、Nb、Ti、Mo、TaおよびSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する。エッチングマスク膜14は、さらにO、NおよびBから選択される少なくとも1つの元素を含有してもよい。
【0103】
エッチングマスク膜14の膜厚は、好ましくは2nm以上30nm以下であり、より好ましくは2nm以上25nm以下であり、更に好ましくは2nm以上10nm以下である。
【0104】
エッチングマスク膜14の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、またはイオンビームスパッタリング法などである。
【0105】
次に、
図4を参照して、一実施形態に係る反射型マスクブランク1の製造方法について説明する。反射型マスクブランク1の製造方法は、例えば、
図4に示すステップS101~S105を有する。ステップS101では、基板10を準備する。ステップS102では、基板10の第1主面10aに多層反射膜11を形成する。ステップS103では、多層反射膜11の上に保護膜12を形成する。ステップS104では、保護膜12の上に位相シフト膜13を形成する。ステップS105では、位相シフト膜13の上にエッチングマスク膜14を形成する。
【0106】
なお、反射型マスクブランク1の製造方法は、少なくとも、ステップS101~S104を有していればよい。反射型マスクブランク1の製造方法は、
図4には図示しない機能膜を形成するステップを更に有してもよい。
【0107】
次に、
図5を参照して、一実施形態に係る反射型マスク2の製造方法について説明する。反射型マスク2の製造方法は、
図5に示すステップS201~S204を有する。ステップS201では、反射型マスクブランク1を準備する。ステップS202では、エッチングマスク膜14を加工する。エッチングマスク膜14の上には、不図示のレジスト膜が設けられる。先ずレジスト膜に第1開口パターンを形成し、次に第1開口パターンを用いてエッチングマスク膜14に第2開口パターンを形成する。ステップS203では、第2開口パターンを用いて位相シフト膜13に第3開口パターン13aを形成する。ステップS203では、エッチングガスを用いて位相シフト膜13をエッチングする。ステップS204では、レジスト膜およびエッチングマスク膜14を除去する。レジスト膜の除去には、例えば硫酸過水が用いられる。エッチングマスク膜14の除去には、例えばエッチングガスが用いられる。ステップS204(エッチングマスク膜14の除去)で用いられるエッチングガスは、ステップS203(位相シフト膜13のエッチング)で用いられるエッチングガスと同種であってもよい。なお、反射型マスク2の製造方法は、少なくとも、ステップS201およびS203を有していればよい。
【実施例1】
【0108】
以下、実験データについて説明する。
【0109】
<例1~例12、例19及び例20>
例1~例12、例19及び例20では、位相シフト膜の膜種とその成膜条件を除き、同じ条件でEUVL用反射型マスクブランクを作製した。各反射型マスクブランクは、基板と多層反射膜と保護膜と位相シフト膜で構成した。例1が比較例であり、例2~例12、例19及び例20が実施例である。
【0110】
基板としては、SiO2-TiO2系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.3mm)を準備した。このガラス基板は、20℃における熱膨張係数が0.02×10-7/℃であり、ヤング率が67GPaであり、ポアソン比が0.17であり、比剛性は3.07×107m2/s2であった。基板の第1主面の品質保証領域は、研磨によって0.15nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rq)と、100nm以下の平坦度と、を有していた。基板の第2主面には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜した。Cr膜のシート抵抗は100Ω/□であった。
【0111】
多層反射膜としては、Mo/Si多層反射膜を形成した。Mo/Si多層反射膜は、イオンビームスパッタリング法を用いてSi層(膜厚4.5nm)とMo層(膜厚2.3nm)を成膜することを40回繰り返すことにより形成した。Mo/Si多層反射膜の合計膜厚は272nm((4.5nm+2.3nm)×40)であった。
【0112】
保護膜としては、Rh膜(膜厚2.5nm)を形成した。Rh膜は、DCスパッタリング法を用いて形成した。
【0113】
位相シフト膜としては、Ir膜、IrTaON膜またはIrCrON膜を形成した。例1では、DCスパッタリング法を用いてIr膜を形成した。例2~例4、例6~例9、例11および例12では、反応性スパッタリング法を用いてIrTaON膜を形成した。例5および例10では、反応性スパッタリング法を用いてIrCrON膜を形成した。
【0114】
例1~例12、例19及び例20で得た位相シフト膜の膜種とその特性を表1に示す。
【0115】
【表1】
位相シフト膜の組成は、アルバックファイ社製X線光電子分光装置(PHI 5000
VersaProbe)を用いて測定した。表1に示す位相シフト膜の組成は、位相シフト膜を水素ガスに曝露する前に測定した。
【0116】
位相シフト膜の光学特性(屈折率nと消衰係数k)は、Center for X-Ray Optics,Lawrence Berkeley National Laboratoryのデータベースの値、または後述する反射率の「入射角の依存性」から算出した値を用いた。
【0117】
EUV光の入射角θと、EUV光に対する反射率Rと、位相シフト膜の屈折率nと、位相シフト膜の消衰係数kとは、下記の式(3)を満たす。
R=|(sinθ-((n+ik)2-cos2θ)1/2)/(sinθ+((n+ik)2-cos2θ)1/2)|・・・(3)
入射角θと反射率Rの組み合わせを複数測定し、複数の測定データと式(3)との誤差が最小になるように、最小二乗法で屈折率nと消衰係数kを算出した。
【0118】
位相シフト膜の結晶性(半値全幅と結晶子サイズ)は、リガク社製X線回折分析装置(MiniFlexII)を用いて測定した。位相シフト膜のX線回折スペクトルを、
図7~
図10に示す。表1に示すFWHMは、2θが35°~60°の範囲において最も強度の高いピークの半値全幅である。結晶子サイズは、シェラーの式(Scherrer's equation)を用いてFWHMなどから算出した。
【0119】
ピーク強度比Ip/Iaは、2θが55°~60°における強度の平均値Iaと、2θが35°~45°の範囲におけるピーク強度の最大値Ipとをそれぞれ求め、IpをIaで除すことで算出した。
【0120】
位相シフト膜の密度は、X線反射率測定法(XRR:X-Ray Reflectometry)を用いて測定した。
【0121】
図7~
図10および表1に示すように、例2~例12、例19及び例20では、例1とは異なり、位相シフト膜が、Irに加えて、O、B、CおよびNからなる第1群から選択される少なくとも1つの第1元素X1を含むものであった。その結果、例2~例12、例19及び例20では、ピーク強度比Ip/Iaが30以下であって、例1に比べて結晶性が低かった。結晶性が低いほど、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。また、
図6および表1から、Irに第1元素X1を添加することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制できることが分かる。
【0122】
さらに例2~例10及び例19では、例1とは異なり半値全幅FWHMが1.2°以上であって、例1に比べて結晶子サイズが小さかった。結晶子サイズが小さいほど、結晶性が低く、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。
【0123】
なお、
図6において、IrNbは、Ir含有量が50at%であり、Nb含有量が50at%であり、屈折率nが0.919であり、消衰係数kが0.025である。また、
図6において、IrYは、Ir含有量が50at%であり、Y含有量が50at%であり、屈折率nが0.931であり、消衰係数kが0.024である。さらに、
図6において、IrZrは、Ir含有量が50at%であり、Zr含有量が50at%であり、屈折率nが0.939であり、消衰係数kが0.023である。IrをNb、ZrまたはYと合金化すれば、Irの結晶化を抑制できる可能性はあるが、位相シフト膜13の光学特性(屈折率nと消衰係数k)が低下してしまう。
【0124】
<例13~例18>
例13~例18では、位相シフト膜の膜種とその成膜条件を除き、例2~例12と同じ条件で基板と多層反射膜と保護膜と位相シフト膜を含む、EUVL用反射型マスクブランクを作製した。例13~例18は実施例である。
【0125】
例13~例18で得た位相シフト膜の膜種とその特性を表2に示す。
【0126】
【表2】
位相シフト膜の組成と光学特性は、表1と同様に測定した。なお、表2において、かっこ書きで示す含有量は、水素曝露の後に測定した値である。水素曝露は、試験試料を2.5cm角に切断した試験片をSiダミー基板に貼付けて水素照射試験装置内にセットし、水素(水素イオンを含む)を照射することで行った。
【0127】
位相シフト膜のケミカルシフトΔE1、ΔE2は、アルバックファイ社製X線光電子分光装置(PHI 5000 VersaProbe)を用いて測定した。ΔE1は、Irの4f7/2のピークのケミカルシフトである。ΔE2は、Taの4f7/2のピークまたはCrの2p3/2のピークのケミカルシフトである。
【0128】
表2に示すように、例13~例15では、例16~例17とは異なり、水素曝露前に位相シフト膜の第2元素X2(TaとCr)の合計含有量が1.0at%以上であった。その結果、Oが位相シフト膜から脱離するのを抑制できた。OがTaと強く結合しており、その結合が水素曝露によって切断されないためと考えられる。
【0129】
<STEM画像の解析結果>
【0130】
例3、例6、例9、例11、例12及び例19では、得られた位相シフト膜の断面をSTEMで撮像することでグレースケール画像を取得し、グレースケール画像の輝度プロファイルを作成した。輝度プロファイルの解析結果と組成を表3に示す。
【0131】
【表3】
表3に示すように、例6、例9、例11及び12では、例3及び例19とは異なり、O含有量が15%以下であったので、位相シフト膜中に生じる分散粒子の大きさが小さく、Rskが負であって、位相シフト膜の構造が均一であった。位相シフト膜の構造が均一であれば、パターンニング性が良い。例1のSTEM画像を
図12に示し、例6のSTEM画像を
図13に示し、例19のSTEM画像を
図14に示す。
【0132】
作製した例1及び例6のEUVL用反射型マスクブランクに対してラインアンドスペースパターンを作成し、その後下記条件でエッチング試験を実施した。エッチング試験は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)エッチング装置を用いて行った。エッチングガスとしては、CF4ガスとO2ガスの混合ガスを用いた。誘導結合プラズマエッチングの具体的な条件は、下記の通りであった。
ICPアンテナバイアス:1200W、
基板バイアス:50W、
エッチング圧力:2.0×10-1Pa、
エッチングガス:CF4ガスとO2ガスの混合ガス、
CF4ガスの流量:28sccm、
O2ガスの流量:7sccm、
エッチング時間:285秒。
【0133】
エッチング試験後のEUVL用反射型マスクブランク表面SEM像を取得し、LER(Line Edge Roughness)を算出し、表4に示す。
【0134】
【0135】
表4に示すように、Ip/Iaの値が大きく結晶性が高い例1は、Ip/Iaの値が小さく結晶性が低い例6と比べ、LERの値が大きく、パターンラフネスが悪かった。
【0136】
以上、本開示に係る反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、および反射型マスクの製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、および組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【0137】
本出願は、2022年7月5日に日本国特許庁に出願した特願2022-108642号と2022年11月9日に日本国特許庁に出願した特願2022-179622号に基づく優先権を主張するものであり、特願2022-108642号と特願2022-179622号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0138】
1 反射型マスクブランク
2 反射型マスク
10 基板
11 多層反射膜
12 保護膜
13 位相シフト膜