(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】イソインドリン化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 209/44 20060101AFI20240910BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C07D209/44 CSP
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2023567254
(86)(22)【出願日】2023-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2023016032
(87)【国際公開番号】W WO2023210555
(87)【国際公開日】2023-11-02
【審査請求日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2022073265
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】フー シオンワン
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 博
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/045236(WO,A1)
【文献】特開平08-193064(JP,A)
【文献】国際公開第2022/255135(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/014635(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第114573998(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性炭素原子
14Cを含有し、pMC(パーセントモダンカーボン)が50%以上である、下記式(I-2)で表されるイソインドリン化合物。
【化1】
(前記式(I-2)中、R
1~R
4は互いに独立して水素原子、炭素原子数1~12の直鎖又は分岐のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はアルキル基で置換されてもよいフェニル基を表す。なお、R
2とR
3は閉環して5~8員環を形成してもよい。)
【請求項2】
顔料の作製に用いられる、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の前記式(I-2)で表される化合物を含有する組成物。
【請求項4】
顔料用組成物として用いられる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
放射性炭素原子
14Cを含有し、pMC(パーセントモダンカーボン)が50%以上である、下記式(I-2)で表されるイソインドリン化合物を製造する、イソインドリン化合物の製造方法であって、
【化2】
(前記式(I-2)中、R
1~R
4は互いに独立して水素原子、炭素原子数1~12の直鎖又は分岐のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はアルキル基で置換されてもよいフェニル基を表す。なお、R
2とR
3は閉環して5~8員環を形成してもよい。)
フラン及び無水マレイン酸の少なくともいずれかがバイオ由来である原料を用い、前記フラン及び前記無水マレイン酸から、下記式(DA)で表される化合物及び下記式(PA)で表される化合物を経て、前記式(I-2)で表される化合物を製造するための反応経路において、
前記式(PA)で表される化合物に対し、モリブデンアンモニウム、尿素またはNH
3、
及び下記式(q)で表される化合物の存在下でアミノ化反応させ
て、前記式(I-2)で表される化合物を製造する、イソインドリン化合物の製造方法。
【化3】
(式(DA)中、R
1~R
4は前記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
【化4】
(式(PA)中、R
1~R
4は前記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
【化5】
(式(q)中、M
f+は、NH
4
+、Li
+、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、又はAl
3+を表す。)
【請求項6】
前記式(DA)で表される化合物から前記式(PA)で表される化合物を得るのに、前記式(DA)で表される化合物を、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸、無水酢酸、トリフリック酸、リン酸、無水リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、硝酸、又はこれらの酸の混合物の群から選ばれるいずれかの酸を用いることにより形成される酸性条件下で反応させ
る、請求項5に記載のイソインドリン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソインドリン化合物、該イソインドリン化合物を含有する組成物、及び該イソインドリン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
KII(3-イミノイソインドリン-1-オン)は、Y173(イソインドリンイエロー顔料)の合成に使用できる重要な中間体であり、一方、DII(1,3-ジイミノイソインドリン)は、Y139やY185(イソインドリンイエロー顔料)、非金属フタロシアニン、金属フタロシアニンなどの既存の顔料を作るための重要な中間体である。
KIIやDIIは、既存の顔料作製として重要なだけでなく、新規のイソインドリン顔料や染料、さらには抗がん剤、抗酸化剤、抗菌剤などの特性を持つバイオアクティブなイソインドリン類を合成するための重要な中間体でもある。
従来のKIIとDIIの合成方法では、フタロニトリルを出発原料としていたもの(例えば、非特許文献1及び2参照)が主で、この他、無水フタル酸(例えば、特許文献1及び2参照)、2-シアノ安息香酸メチル、フタルイミダート塩酸ジメチルなどの出発原料についても報告されている。
しかし、フタロニトリルは人体に有害であり、環境にも悪影響を及ぼす。また一般的に、フタロニトリルの供給源は石油資源のみである。
近年、持続可能な発展、二酸化炭素排出量の削減、安全性の観点から、石油由来の原料からバイオ(バイオマス)由来の原料への切り替えや、有害な化学物質をより毒性の低いものに置き換える動きが活発化している。
KII、DIIについてもバイオ由来のKII及びDIIの提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-97366号公報
【文献】特開平7-330729号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Adv. Synth. Catal. 2008 350 1 135-142
【文献】Chem. Lett. 1984 8 1423-1426
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全で、クリーンかつカーボンニュートラルなアプローチで得られるバイオ由来のイソインドリン化合物(KII、DIIなど)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、原料としてバイオ由来のフランと、バイオ由来の無水マレイン酸とを使用し、Diels-Alder(DA)反応によりDA中間体を得、DA中間体を、脱水と開環反応を経て、最終段階では、酸素原子の一部または全部が窒素に交換されることにより、放射性炭素原子14Cを含有するバイオKII又はバイオDIIが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] 放射性炭素原子
14Cを含有する下記式(I)で表されるイソインドリン化合物。
【化1】
(前記式(I)中、A及びBは互いに独立して酸素原子またはNHを表す。R
1~R
4は互いに独立して水素原子、炭素原子数1~12の直鎖又は分岐のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はアルキル基で置換されてもよいフェニル基を表す。なお、R
2とR
3は閉環して5~8員環を形成してもよい。)
[2] 前記(I)で表される化合物におけるpMC(パーセントモダンカーボン)が、1%以上である[1]に記載の化合物。
[3] 顔料の作製に用いられる、[1]又は[2]に記載の化合物。
[4] 前記式(I)で表されるイソインドリン化合物が、下記式(I-1)で表されるイソインドリン化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
【化2】
(式(I-1)中、R
1~R
4は、前記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
[5] 前記式(I)で表されるイソインドリン化合物が、下記式(I-2)で表されるイソインドリン化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
【化3】
(式(I-2)中、R
1~R
4は、前記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の前記式(I)で表される化合物を含有する組成物。
[7] 顔料用組成物として用いられる、[6]に記載の組成物。
[8] 前記式(I)で表される化合物を少なくとも2種以上含有する、[6]に記載の組成物。
[9] 放射性炭素原子
14Cを含有する下記式(I)で表されるイソインドリン化合物を製造するイソインドリン化合物の製造方法であって、
【化4】
(前記式(I)中、A及びBは互いに独立して酸素原子またはNHを表す。R
1~R
4は互いに独立して水素原子、炭素原子数1~12の直鎖又は分岐のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はアルキル基で置換されてもよいフェニル基を表す。なお、R
2とR
3は閉環して5~8員環を形成してもよい。)
下記式(DA)で表される化合物から下記(PA)で表される化合物を得、
【化5】
(式(DA)中、R
1~R
4は前記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
【化6】
(式(PA)中、R
1~R
4は前記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
前記式(PA)で表される化合物から前記式(I)で表されるイソインドリン化合物を得る、イソインドリン化合物の製造方法。
[10] 前記式(DA)で表される化合物から前記式(PA)で表される化合物を得るのに、前記式(DA)で表される化合物を、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸、無水酢酸、トリフリック酸、リン酸、無水リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、硝酸、又はこれらの酸の混合物の群から選ばれるいずれかの酸を用いることにより形成される酸性条件下で反応させる、[9]に記載のイソインドリン化合物の製造方法。
[11] 前記式(PA)で表される化合物から前記式(I)で表されるイソインドリン化合物を得るのに、触媒としてモリブデンアンモニウム、アミン源として尿素またはNH
3を用い、これらの存在下でアミノ化反応させる、[9]又は[10]に記載のイソインドリン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、安全で、クリーンかつカーボンニュートラルなアプローチで得られるバイオ由来のイソインドリン化合物(KII、DIIなど)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1のGC/MSの測定結果を示す図である。
【
図2】実施例2のHPLCの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0011】
(放射性炭素原子14Cを含有するイソインドリン化合物)
本発明のイソインドリン化合物は、放射性炭素原子14Cを含有する。
本発明のイソインドリン化合物は、下記式(I)で表される。
【0012】
【0013】
式(I)中、A及びBは互いに独立して酸素原子またはNHを表す。R1~R4は互いに独立して水素原子、炭素原子数1~12の直鎖又は分岐のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はアルキル基で置換されてもよいフェニル基を表す。
なお、R2とR3は閉環して5~8員環を形成してもよい。
【0014】
本発明のイソインドリン化合物は、バイオ由来のフランとバイオ由来の無水マレイン酸とを用いて製造されているため、バイオ原料に由来したバイオ(バイオマス)成分が含まれている。本発明のイソインドリン化合物にバイオ成分が含有されていることは、例えば、放射性炭素原子14Cを測定することにより、確認することができる。
例えば、生物由来と石油由来の化合物や組成物は、分子量や機械的性質・熱的性質のような物性に差を生じない。これらを区別するためには、一般的にバイオマス度が用いられる。このバイオマス度では、石油由来の化合物や組成物の炭素には、14C(放射性炭素14、半減期5730年)が含まれていないことから、この14Cの濃度を加速器質量分析により測定することにより、生成された化合物や組成物が、石油由来の化合物であるか、バイオ由来の化合物なのかを確認することができる。
【0015】
このバイオマス度の測定は、例えば、測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄を触媒として水素で還元し、グラファイトを生成させる。
そして、このグラファイトをタンデム加速器をベースとした14C-AMS専用装置(NEC社製)に装着して、14Cの計数、13Cの濃度(13C/12C)、14Cの濃度(14C/12C)の測定を行い、この測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の14C濃度の割合を算出することで求められる。なお、測定では、米国国立標準局(NIST)から提供されるシュウ酸(HOxII)を標準試料とすることができる。
【0016】
バイオマス度を評価する一つの指標として、例えば、pMC(パーセントモダンカーボン)が挙げられる。
ここで、pMC(パーセントモダンカーボン)は、ASTM-D6866-18に従った測定によって算出することができ、標準現代炭素中における14C濃度に対する対象物中における14C濃度の割合を表す。なお、対象物が放射性炭素原子14Cを含有しない場合pMCは0%となる。
式(I)で表される本発明のイソインドリン化合物におけるpMC(パーセントモダンカーボン)は、1%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、75%以上であることがより好ましく、90%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明において、放射性炭素原子14Cを含有するというのは、セグリゲーションアプローチにおける意味であることは勿論のこと、マスバランスアプローチ及びブックアンドクレームアプローチにおける意味も含まれる(参考文献:Enabling Cirrcular Ecoonmy for Chemical with the Mass Balance Approach、the Ellen MacAthur Foundation network)。
【0018】
上記式(I)中、R2とR3は、上述したように、閉環して5~8員環を形成してもよい。そして、環構造は、機能的なエーテル性、アルコール性、又はカルボキシル性の官能基とすることができる。ここで、機能的な官能基とするとは、環構造中に-OH基、-COOH基、-O-基を有してもよいことを意味する。例えば、下記式(v)や下記式(vi)や下記式(vii)で表される化合物であってもよいことを意味する。
【0019】
【0020】
また、上記式(v)、上記式(vi)、又は上記式(vii)で表される化合物のより好ましい実施態様として、下記式(v’)や下記式(vi’)や下記式(vii’)で表される化合物が挙げられる。
【0021】
【0022】
式(I)で表されるイソインドリン化合物の好ましい実施態様として、例えば、下記(I-1)で表されるイソインドリン化合物、下記(I-2)で表されるイソインドリン化合物が挙げられる。
【0023】
【0024】
【0025】
(式(I-1)及び式(I-2)中、R1~R4は上記R1~R4と同じ意味を表す。)
【0026】
さらに、式(I-1)で表されるイソインドリン化合物の好ましい実施態様として、例えば、下記(I-1-1)で表されるKII、式(I-2)で表されるイソインドリン化合物の好ましい実施態様として、例えば、下記(I-2-1)で表されるDIIが挙げられる。
【0027】
【0028】
【0029】
式(I)で表されるイソインドリン化合物を用いて、各種イソインドリン顔料や染料、さらには抗がん剤、抗酸化剤、抗菌剤などの特性を持つバイオアクティブなイソインドリン類を合成することができる。
【0030】
(式(I)で表されるイソインドリン化合物の製造方法)
放射性炭素原子14Cを含有する、つまりバイオ成分を含有する式(I)で表される本発明のイソインドリン化合物は、以下に記載の方法により得ることができる。
下記式(DA)で表される化合物から下記(PA)で表される化合物を得、
【0031】
【化14】
(式(DA)中、R
1~R
4は上記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
【0032】
【化15】
(式(PA)中、R
1~R
4は上記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
上記式(PA)で表される化合物から上記式(I)で表されるイソインドリン化合物を得ることができる。
【0033】
上記式(DA)で表される化合物から上記(PA)で表される化合物を得る際は、酸性条件下で反応させる。
係る酸性条件としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、例えば、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸、無水酢酸、トリフリック酸、リン酸、無水リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、硝酸、またはこれらの酸の混合物の群から選ばれるいずれかの酸を用いることにより形成される。
【0034】
上記式(PA)で表される化合物から上記式(I)で表されるイソインドリン化合物を得る際は、触媒としてモリブデンアンモニウム、アミン源として尿素またはNH3を用い、これらの存在下でアミノ化反応させる。
【0035】
式(I)で表されるイソインドリン化合物の製造方法の好ましい実施態様として、上記式(I-1)で表されるイソインドリン化合物の製造方法と、上記式(I-2)で表されるイソインドリン化合物の製造方法が挙げられる。それぞれの製造方法について、以下詳しく説明する。
【0036】
<式(I-1)で表されるイソインドリン化合物の製造方法>
下記式(DA)で表される化合物から下記式(PA)で表される化合物を経て、本発明の式(I-1)で表されるイソインドリン化合物を得ることができる。
この製造方法の具体的な反応経路を以下に示す。
【0037】
【化16】
(式中R
1~R
4は上記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
【0038】
<<反応A>>
化合物(DA)を開環脱水反応を行うことにより、化合物(PA)を製造することができる。
反応溶媒としては反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、例えば、水、アセトニトリル、トルエン、キシレン、アルキルベンゼン、或はそれぞれの混合溶剤、無溶剤が挙げられる。
反応温度は反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、20~150℃が好ましく、30~120℃がより好ましく、40~100℃がより好ましい。下限値としては20℃以上が好ましく、25℃以上が好ましく、30℃以上が好ましく、35℃以上が好ましく、40℃以上が好ましい。上限値としては150℃以下が好ましく、140℃以下が好ましく、130℃以下が好ましく、120℃以下が好ましく、110℃以下が好ましく、100℃以下が好ましい。
【0039】
上記反応は酸性条件下で行われる。係る酸性条件は、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸、無水酢酸、トリフリック酸、リン酸、無水リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、硝酸、またはこれらの酸の混合物の群から選ばれるいずれかの酸を用いることにより形成される。
中でも、硫黄やリンを含む酸を用いることが好ましい。なぜなら、これらの酸は、下記式(p)で表されるように、δ+とδ-の配置になる可能性があるからである。
【0040】
【化17】
(式(p)中、Xは-OH、-ONa、-OK、又はメチル基を表す。Yは硫黄原子又はリン原子を表し、Zは水素原子、-COCH
3、-COH、又は-(PO
2)
nOHを表す。)
【0041】
上記酸の量としては、式(DA)で表される化合物に対して0.1~3000mol%が好ましく、0.5~2500mol%が好ましく、1~2000mol%が好ましく、5~1500mol%が好ましく、10~1000mol%が好ましく、20~500mol%が好ましく、50~500mol%が好ましく、70~500mol%が好ましく、100~500mol%が好ましく、150~500mol%が好ましく、200~500mol%が好ましく、250~500mol%が好ましく、300~500mol%が好ましい。下限値としては0.1mol%以上が好ましく、0.5mol%以上が好ましく、1mol%以上が好ましく、5mol%以上が好ましく、10mol%が好ましく、20mol%以上が好ましく、50mol%以上が好ましく、70mol%以上が好ましく、100mol%以上が好ましく、150mol%以上が好ましく、200mol%以上が好ましく、250mol%以上が好ましく、300mol%以上が好ましい。上限値としては3000mol%以下が好ましく、2500mol%以下が好ましく、2000mol%以下が好ましく、1500mol%以下が好ましく、1000mol%以下が好ましく、500mol%以下が好ましい。これらの上限値と下限値はいずれの組み合わせでも用いられる。
【0042】
<<反応B>>
上記反応Aで示すように、酸性条件下で反応させたのち、反応Bでは、触媒としてモリブデンアンモニウム、アミン源として尿素またはNH3の存在下で、アミノ化を行う。
なお、反応Bにおいて、上記化合物(PA)で示す化合物中の酸素原子を窒素原子に置換する場合、1~2個の酸素原子の置換であれば、特に添加剤を添加する必要はない。
【0043】
<(I-2)で表されるイソインドリン化合物の製造方法>
下記式(DA)で表される化合物から下記式(PA)で表される化合物や下記式(I-2硝酸塩)で表される化合物を経て、本発明の式(I-2)で表されるイソインドリン化合物を得ることができる。
この製造方法の具体的な反応経路を以下に示す。
【0044】
【化18】
(式中R
1~R
4は上記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
【0045】
<<反応A>>
反応Aは、上記<(I-1)で表されるイソインドリン化合物の製造方法>の欄の<<反応A>>で説明した通りである。
【0046】
<<反応C>>
上記反応Aで示すように、酸性条件下で反応させたのち、反応Cでは、触媒としてモリブデンアンモニウム、アミン源として尿素またはNH3の存在下で、アミノ化を行う。
なお、反応Cでは、上記化合物(PA)で示す化合物中の酸素原子を窒素原子に置換する場合、1~2個の酸素原子の置換であれば、特に添加剤を添加する必要はないが、反応Cのように、すべての酸素原子を窒素原子に交換するためには、オリゴマー化やポリマー化などの副反応を防ぐために、下記式(q)で表される化合物を添加することが好ましい。
【0047】
【化19】
(式(q)中、M
f+は、NH
4
+、Li
+、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、又はAl
3+を表す。)
【0048】
<<反応D>>
上記反応Dでは、反応Cを経て得られた反応物に対しアンモニア水、及び水酸化ナトリウムを供することにより、式(I-2)で表されるイソインドリン化合物を作製する。
【0049】
例えば、上記製造方法により製造すると、式(I)で表される化合物を含有する組成物が得られるが、公知慣用の方法により精製を行うことにより、式(I)で表される化合物(例えば、式(I-1)で表される化合物や式(I-2)で表される化合物)のみを取り出すことも可能である。
【0050】
本発明の(I)で表されるイソインドリン化合物を製造するために用いた、上記式(DA)で表される化合物は、下記式(FR)で表される化合物と無水マレイン酸とを反応させることにより得ることができる。
【0051】
【化20】
(式(FR)中、R
1~R
4は上記R
1~R
4と同じ意味を表す。)
【0052】
上記無水マレイン酸はバイオマス由来であることが好ましい。
上記式(FR)で表される化合物はバイオマス由来であることが好ましい。
上記無水マレイン酸と上記式(FR)で表される化合物は共にバイオマス由来であることがより好ましい。
【0053】
上記製造方法に用いる原料のバイオマス度は1%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。さらに、マスバランス方式、ブックアンドクレイム方式によるバイオマス原料が入手できる場合には1%以上100%までのバイオマス度とすることがより容易になる。本特許ではマスバランス方式、ブックアンドクレイム方式によるバイオマス原料を含めたバイオマス度を対象とする。
【0054】
バイオマス由来の無水マレイン酸としては、例えば特許第5791838号公報や特許第6328990号公報に記載の方法により得られるFFやHMFを酸化することにより得られるマレイン酸を脱水環化することによって得られ、又は直接酸化することによっても得ることができる。バイオマス由来の式(FR)で表される化合物としては、例えば上記特許第5791838号公報や上記特許第6328990号公報に記載の方法により得られるFFやHMFに対し脱カルボニル反応、還元反応及び脱水反応等を適宜組み合わせて行うことにより得ることができる。
【0055】
上記製造方法の具体的な反応経路を以下に示す。
【0056】
【0057】
<<反応a>>
化合物(FR)及び無水マレイン酸をDiels-Alder反応に供することにより化合物(DA)を製造することができる。
上記反応は反応溶媒を用いても、無溶媒であってもよい。反応溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないがクロロホルム、ジオキサン、酢酸エチル、アルキルベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテルが好ましい。
反応温度は反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、-10~100℃が好ましく、0℃~80℃がより好ましく、10℃~70℃がさらに好ましく、15度~50℃が特に好ましい。下限値としては-10℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、15℃以上が特に好ましい。上限値としては100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、70℃以下がさらに好ましく、50℃以下が特に好ましい。
【0058】
反応圧力は反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、0.1~5MPaが好ましく、0.1~3MPaがより好ましく、0.1~1MPaがさらに好ましく、0.1~0.5MPaが特に好ましい。下限値としては0.1MPa以上が好ましく、0.2MPa以上が好ましく、0.3MPa以上が好ましく、0.4MPa以上が好ましい。上限値としては5MPa以下が好ましく、3MPa以下が好ましく、1MPa以下が好ましく、0.9MPa以下が好ましく、0.8MPa以下が好ましく、0.7MPa以下が好ましく、0.6MPa以下が好ましく、0.5MPa以下が好ましい。
【0059】
(イソインドリン化合物を含有する組成物)
本発明は、式(I)で表される本発明のイソインドリン化合物を1種又は2種以上含有する組成物であってもよい。
本発明の組成物の好ましい実施態様としては、例えば、下記式(I-1)で表されるイソインドリン化合物を含有する組成物、下記式(I-2)で表されるイソインドリン化合物を含有する組成物、下記式(I-1)で表されるイソインドリン化合物と下記式(I-2)で表されるイソインドリン化合物とを含有する組成物、又は下記式(I-1)で表されるイソインドリン化合物と下記式(I-3)で表されるイソインドリン化合物とを含有する組成物などが挙げられる。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
(式(I-1)、式(I-2)、及び式(I-3)中、R1~R4は上記R1~R4と同じ意味を表す。)
【0064】
なお、上記式(I-1)で表されるイソインドリン化合物、又は上記式(I-2)で表されるイソインドリン化合物は、下記式(s)で表されるように異性化反応により、下記式(i)又は下記式(ii)で表されるイソインドリン化合物や、下記式(t)で表されるように異性化反応により、下記式(iii)又は下記式(iv)で表されるイソインドリン化合物が生じている場合もある。
【0065】
【0066】
(式(i)~式(iv)中、R1~R4は上記R1~R4と同じ意味を表す。)
【0067】
そのため、本発明の組成物としては、例えば、上記式(I-1)で表されるイソインドリン化合物と上記式(i)又は上記式(ii)で表されるイソインドリン化合物とを含有する組成物や、上記式(I-2)で表されるイソインドリン化合物と上記式(iii)又は上記(iv)で表されるイソインドリン化合物とを含有する組成物であってもよい。
【0068】
上記組成物を用いて、顔料用組成物を作製することができる。
【0069】
(本発明のイソインドリン化合物の適用)
上記方法により得られた式(I)で表され、放射性炭素原子14Cを含有する本発明のイソインドリン化合物は、顔料を作るための重要な中間体である。本発明のイソインドリン化合物を用いて、Y173、Y139、Y185等の各種優れた顔料を作製することができる。
また、本発明のイソインドリン化合物は、抗がん剤、抗酸化剤、抗菌剤などの特性を持つバイオアクティブな各種優れたイソインドリン類を作製することもできる。
本発明のイソインドリン化合物は、バイオマス由来の炭素を含有しており、カーボンニュートラルによる環境負荷低減に貢献するものである。
また、本発明のイソインドリン化合物は、上記製造方法により得られるため、フランの種類を変えたり、他のタイプのジエンに変えたりすることで、様々な種類の官能基の数及び位置を制御することができる。
上述したように、本発明のイソインドリン化合物は、多様な用途に適用可能である。
例えば、本発明のイソインドリン化合物、及び該イソインドリン化合物を有する組成物を用いて顔料を作製し、係る作製された顔料を用い、必要に応じて、他の樹脂、ゴム、添加剤、顔料や染料等と混合され、化粧品、医薬品または農薬のコーティング材または印字マーカー、文房具、筆記具、印刷インキ、インクジェットインキ、金属インキ、塗料、プラスチック着色剤、カラートナー、カラーフィルター等に調整され使用される。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0071】
(合成例1)DA中間体の合成
窒素雰囲気下、撹拌装置を備えた反応器にバイオマス由来の無水マレイン酸12gをジエチルエーテル(250mL)に溶解させ、バイオマス由来のフラン10gを投入し、室温、0.25MPaで24時間反応させた。その後白色粗体をフィルターで濾別し、真空乾燥することでDA中間体20gを得た。
【0072】
(実施例1)バイオKII
無水酢酸14gをメタンスルホン酸74gに加え、氷浴で冷却しながらDA中間体5gをゆっくり加えた。反応混合物を室温で2時間撹拌した後、80℃で4時間加熱した。反応混合物をトルエン(3×50mL)で抽出した。合わせたトルエンを食塩水、炭酸水素ナトリウムで洗浄し、減圧下で蒸発させた。得られた針白に10mLのアルキルベンゼン中で尿素5.3g、モリブデン0.02gを混合した。反応混合物を150℃で2時間加熱した。室温まで冷却した後、ろ過し、酢酸エチル、エタノールで洗浄した。得られた固体を減圧乾燥させることで放射性炭素C14を分子中に含有する、純度77%の化合物2.1gを得た。
【0073】
(実施例2)バイオDII
無水酢酸14gをメタンスルホン酸74gに加え、氷浴で冷却しながらDA中間体5gをゆっくり加えた。反応混合物を室温で2時間撹拌した後、80℃で4時間加熱した。反応混合物をトルエン(3×50mL)で抽出した。合わせたトルエンを食塩水、炭酸水素ナトリウムで洗浄し、減圧下で蒸発させた。得られた針白に10mLのアルキルベンゼン中で尿素13g、硝酸アンモニウム6g、モリブデン0.03gを混合した。反応混合物を165℃で5時間加熱した後、アルキルベンゼンが減圧蒸留により除去した。メタノール30mLを加え、15分間蒸留した後、室温まで冷却して、ろ過した。得られた固体を水10mLに分散させて、アンモニア水3g、25%苛性ソーダ4.4mLを加えた。溶液を氷浴で冷やして、析出させた固体をろ過して、水で洗浄した。得られた固体を減圧乾燥させることで放射性炭素C14を分子中に含有する、純度100%の化合物2.9gを得た。
【0074】
(比較例1)石油由来のKIIの合成
特願平5-264068号公報に記載の方法に基づいて、石油由来のKIIを合成した。
【0075】
(比較例2)石油由来のDII
市販のDII(TCI社製)を購入し、用いた。
【0076】
(ガスクロマトグラフィー質量分析)
上記実施例1で得られたイソインドリン化合物(KII)に対し、ガスクロマトグラフィー質量分析を行った。分析方法としては、測定試料をメスフラスコに約2.5mg採取し、THF(酸化防止剤不含)で5mLにメスアップして、測定溶液として、GC/MS(Agilent製8890GCSystemと5977BGC-MSD)測定を行った。測定結果を
図1に示す。
【0077】
(高速液体クロマトグラフィー分析)
上記実施例2で得られたイソインドリン化合物(DII)に対し、高速液体クロマトグラフィー分析を行った。分析方法としては、測定試料5mgを10mLのアセトニトリルに溶解させた溶液をろ過し、HPLCで測定した。測定結果を
図2に示す。
図2において、tRは、tR=2.820であった。なお、市販品のDIIのtRは、tR=2.853である。
【0078】
(加速器質量分析(AMS法))
タンデム加速器をベースとした14C-AMS専用装置(NEC社製)を使用し、14Cの計数、13C濃度(13C/12C)、14C濃度(14C/12C)の測定を行った。
測定では、米国国立標準局(NIST)から提供されたシュウ酸(HOxII)を標準試料とした。この標準試料とバックグラウンド試料の測定も同時に実施した。pMC(percent Modern Carbon)は、標準現代炭素に対する試料炭素の14C濃度の割合である。
実施例1~2、比較例1~2のAMS法の分析結果を、下記表1に示す。
【0079】