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  • 特許-シリコン単結晶の抵抗率測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の抵抗率測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240910BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20240910BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20240910BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H01L21/66 L
C30B33/02
C30B15/00 Z
C30B29/06 502H
C30B29/06 502G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024010783
(22)【出願日】2024-01-29
【審査請求日】2024-05-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】三原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】矢沢 茂
(72)【発明者】
【氏名】大関 正彬
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑宜
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-62466(JP,A)
【文献】特開2020-145306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/64 -H01L 21/66
H01L 21/304
C30B 1/00 -C30B 35/00
G01N 27/00 -G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶の抵抗率を測定する方法であって、
前記シリコン単結晶より切り出された基板に対して、1100~1250℃の温度で90~240分の酸化熱処理を行うことで前記基板表面に熱酸化膜を形成し、
前記基板表面から前記熱酸化膜を除去した後に、前記基板の抵抗率を測定することを特徴とするシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【請求項2】
前記基板表面の前記熱酸化膜をフッ化水素酸によるエッチングで除去した後に、前記基板表面を研削することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶の窒素濃度を3.0×1014atoms/cm以上、酸素濃度を8.0×1017atoms/cm(ASTM’79)以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶の抵抗率測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンなどの通信用途としてRF(高周波)デバイスが用いられている。このRFデバイスには専ら化合物半導体が用いられてきたが、CMOSプロセスの微細化が進んだことや、デバイス作製時に低コスト化したいといった理由から、近年、シリコン単結晶をベースとしたRFデバイスが広く用いられている。
【0003】
シリコン単結晶ウェーハを用いたRFデバイスでは基板の抵抗率が低い、すなわちドーパント濃度が高くなると、高導電性となることで損失が大きくなるため、高抵抗率の基板、具体的には100Ωcm以上の要求がある。SOI(Silicon On Insulator)と呼ばれるシリコン基板の表層部に薄い酸化膜と薄いシリコン層が形成されたウェーハを用いることもあるが、この場合も高抵抗率が望まれている。また、パワーデバイス向けにおいても高耐圧用途として高抵抗率の基板の要求がある。
【0004】
RF(高周波)デバイスやパワーデバイスでは、シリコン基板中に酸素ドナーが存在すると特性が悪化するため、酸素ドナー抑制のために酸素濃度が低いシリコン単結晶の要求がある。
【0005】
CZ法ではシリコンの原料融液は石英ルツボ中に収容されており、結晶引き上げ中に石英ルツボから酸素が原料融液中に溶出し、単結晶中に酸素が取り込まれる。
【0006】
低酸素結晶を得る方法としては、例えば、特許文献1には水平磁場下で結晶回転数とルツボ回転数を規定して低酸素結晶を得る方法が開示されている。また特許文献2には水平磁場の磁場強度を2000G以上とし、石英ルツボ回転数を0.2rpm以下、結晶回転数を5rpm以下とする方法が開示されている。特許文献3ではカスプ磁場下で、磁場極小面位置と湯面の位置と上下コイル間の中間面と石英ルツボ内壁の交点における磁場強度を規定することで、低酸素結晶を得る方法が開示されている。
【0007】
このように、近年のCZ法によるシリコン単結晶の製造では、水平磁場やカスプ磁場といった磁場を用い、かつ、結晶回転数やルツボ回転数、磁場強度や励磁形態といった操業パラメータを適宜最適化することで、低酸素結晶を安定して製造することが可能となっている。
【0008】
ただし、低酸素のシリコン単結晶では、酸素による転位固着効果が弱くなることで高温長時間のプロセス(熱処理)中にスリップの発生が顕著となり、これによってRFデバイスやパワーデバイス作製時には歩留まりが低下することが問題となる。このスリップ耐性を向上させる方法として、シリコン単結晶中に窒素を添加する方法がある。シリコン単結晶中の窒素は酸素に比べて転位固着能力が高いため、シリコン単結晶中の窒素を高濃度とすることで、高温かつ長時間のデバイスプロセス中におけるスリップの発生を抑制できる。
【0009】
しかし、シリコン単結晶中に窒素を添加すると、窒素ドナー(NOドナー)が形成される。この窒素ドナーは、高温かつ長時間のプロセス(熱処理)によって消滅するため、プロセス後であれば抵抗率の変化は生じないが、as-grownの時点では窒素ドナーは残存しており、特に、抵抗率100Ωcm以上の高抵抗結晶では窒素ドナーの残存により抵抗率の変化が顕著となり、ドーパントに由来した真の抵抗率からの乖離が大きくなってしまうという問題があった。
【0010】
この問題に対する解決策として、例えば、特許文献4では、FZ法によって抵抗率1000Ωcm以上の窒素添加シリコン単結晶を作製し、結晶から抵抗率測定用のサンプル(シリコン単結晶基板)を採取した後に、900~1250℃の温度で10~120分で熱処理を行い、その後に抵抗率測定を行う方法が開示されている。また特許文献4では、抵抗率測定用のサンプルに対してウェット酸素雰囲気、ドライ酸素雰囲気、窒素雰囲気のいずれか1つで熱処理を行い、熱処理後は無処理のまま抵抗率測定を行うこととしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2009-18984号公報
【文献】WO2009/025340
【文献】特許7124938号公報
【文献】WO2005/010243
【文献】特開2007-176725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら酸素雰囲気での熱処理を行うと、サンプル表面に熱酸化膜が形成され、熱酸化膜がサンプル表面に残存したまま抵抗率の測定を行うと、ドーパントに由来した正確な抵抗率が得られないという問題があった。また、窒素雰囲気で熱処理を行うと、シリコン単結晶内の窒素の外方拡散と窒素雰囲気からの内方拡散が同時に起こり、熱処理条件によっては窒素ドナー(NOドナー)が残存してしまう問題があった。
【0013】
特許文献5では、FZ法によって抵抗率1000Ωcm以上の窒素添加シリコン単結晶を作製し、結晶から抵抗率測定用のサンプルを採取した後に熱処理と中性子線照射を行い、その後に抵抗率測定を行うという方法が開示されている。特許文献5の技術においても、抵抗率測定用のサンプルに対してウェット酸素もしくはドライ酸素雰囲気で熱処理を行った後に中性子線照射を行い、中性子線照射後に抵抗率測定を行うとしているが、これも熱酸化膜がサンプル表面に残存したままで抵抗率の測定を行っているため、ドーパントに由来した正確な抵抗率が得られないことが問題であった。
【0014】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶に対して、ドーパント由来の正確な抵抗率を測定できるシリコン単結晶の抵抗率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法は、MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶の抵抗率を測定する方法であって、前記シリコン単結晶より切り出された基板に対して、1100~1250℃の温度で90~240分の酸化熱処理を行うことで前記基板表面に熱酸化膜を形成し、前記基板表面から前記熱酸化膜を除去した後に、前記基板の抵抗率を測定する方法である。
【0016】
このような、シリコン単結晶の抵抗率測定方法とすれば、まず窒素を添加して育成したシリコン単結晶に形成される窒素ドナーに対して、1100~1250℃の温度で90~240分の酸化熱処理を行うことで窒素ドナーを消滅させ、窒素ドナーの残存による抵抗率の変化を抑制することができる。次に、酸化熱処理によって基板表面に形成された熱酸化膜を除去することで、熱酸化膜の残存による抵抗率への影響を排除することができる。その結果、抵抗率100Ωcm以上の高抵抗率の窒素添加シリコン単結晶であっても、ドーパントに由来した正確な抵抗率を測定することができる。
【0017】
また、本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法は、前記基板表面の前記熱酸化膜をフッ化水素酸(フッ酸ともいう)によるエッチングで除去した後に、前記基板表面を研削することが好ましい。
【0018】
フッ酸によるエッチングは容易でコスト面でも有利であり、その後基板表面を研削することで確実に熱酸化膜を除去することができる。
【0019】
また、本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法は、前記シリコン単結晶の窒素濃度を3.0×1014atoms/cm以上、酸素濃度を8.0×1017atoms/cm(ASTM’79)以下とすることが好ましい。
【0020】
このような、シリコン単結晶の抵抗率測定方法とすれば、まずシリコン単結晶の酸素濃度を8.0×1017atoms/cm(ASTM’79)以下とすることにより、酸素ドナー濃度のみならず窒素ドナー(NOドナー)濃度を抑制することが可能となり、より精度の高い抵抗率測定が可能となる。しかし低酸素のシリコン単結晶では、酸素による転位固着効果が弱くなることで高温長時間のプロセス(熱処理)中にスリップの発生が顕著となり、これによってデバイス作製時に歩留まりが低下することが問題となる。そこで、シリコン単結晶の窒素濃度を3.0×1014atoms/cm以上とすることにより、高温・長時間のプロセスに耐えるための十分なスリップ耐性を付与することができる。その結果、デバイス作製時の歩留まり低下を防ぎながらも、精度の高い抵抗率測定が実現できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法とすれば、MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶の抵抗率を正確に測定することができる。まず窒素を添加して育成したシリコン単結晶に形成される窒素ドナーに対して、1100~1250℃の温度で90~240分の酸化熱処理を行うことで窒素ドナーを消滅させ、窒素ドナーの残存による抵抗率の変化を抑制することができる。次に、酸化熱処理によって基板表面に形成された熱酸化膜を除去することで、熱酸化膜の残存による抵抗率への影響を排除することができる。その結果、抵抗率100Ωcm以上の高抵抗率の窒素添加シリコン単結晶であっても、ドーパントに由来した正確な抵抗率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明で用いる水平磁場によるMCZ法の引上げ装置を説明する図である。
図3】本発明で用いるカスプ磁場によるMCZ法の引上げ装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
前述した通り、窒素添加シリコン単結晶ではas-grown時点で窒素ドナーが残存しており、特に、抵抗率100Ωcm以上の高抵抗結晶では、窒素ドナーの残存によって抵抗率の変化が顕著となり、ドーパントに由来した真の抵抗率からの乖離が大きくなってしまうことが問題となっていた。この問題に対する解決策として、特許文献4や特許文献5では、酸素雰囲気での熱処理、もしくは、酸素雰囲気での熱処理と中性子線照射を行った後に抵抗率測定を行う手法が開示されているが、酸素雰囲気で高温の熱処理を行うとシリコン単結晶基板表面に熱酸化膜が形成され、熱酸化膜が残存した状態ではドーパントに由来した正確な抵抗率が得られないことが問題となっていた。
【0025】
そして、MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶に対して、ドーパント由来の正確な抵抗率を測定できるシリコン単結晶の抵抗率測定方法が求められていた。
【0026】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ね、まず窒素を添加して育成したシリコン単結晶に形成される窒素ドナーに対して、1100~1250℃の温度で90~240分の酸化熱処理を行うことで基板表面に熱酸化膜を形成し、窒素ドナーを消滅させ、窒素ドナーの残存による抵抗率の変化を抑制することができることを見出した。次に、酸化熱処理によって基板表面に形成された熱酸化膜を除去することで、熱酸化膜の残存による抵抗率への影響を排除することができることを確認した。その結果、抵抗率100Ωcm以上の高抵抗率の窒素添加シリコン単結晶であっても、ドーパントに由来した正確な抵抗率を測定することができる方法を見出し、本発明を完成させた。
【0027】
即ち、本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法は、MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶の抵抗率を測定する方法であって、シリコン単結晶より切り出された基板に対して、1100~1250℃の温度で90~240分の酸化熱処理を行うことで基板表面に熱酸化膜を形成し、基板表面から熱酸化膜を除去した後に、基板の抵抗率を測定する方法である。
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
まず、図1図2図3を参照しながら本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の抵抗率測定方法の一例について説明する。
【0030】
本発明では、磁場印加CZ法(MCZ法)によって抵抗率100Ωcm以上の窒素添加シリコン単結晶を育成するが、この時の磁場の形態については、特に限定するものではないが、水平磁場もしくはカスプ磁場とすることができる。
【0031】
水平磁場を備えた単結晶製造装置は、図2に示す通り、加熱ヒーター8と、石英ルツボ7に収容された原料融液(シリコン融液)5と対向するように熱遮蔽部材12が配置され、中心軸10を有するシリコン単結晶引上げ装置(引上げ炉)1と、引き上げ炉1の周囲に設けられた水平磁場発生装置20とを備え、水平磁場発生装置20内の超電導コイルに通電することによりシリコン融液5に水平磁場を印加してシリコン単結晶4を中心軸10方向に引き上げる構成となっている。さらにシリコン単結晶引上げ装置1は、種結晶2、種ホルダ3、黒鉛ルツボ6、断熱部材9、筒部11を備える。
【0032】
カスプ磁場を備えた単結晶製造装置は、図3に示す通り、加熱ヒーター38と石英ルツボ36に収容された原料融液(シリコン融液)35と対向するように熱遮蔽部材43が配置され、中心軸40を有するシリコン単結晶引上げ装置(引上げ炉)31と、引上げ炉31の周囲に設けられ上コイル(超電導コイル)50a、下コイル(超電導コイル)50bを有するカスプ磁場発生装置50とを備え、超電導コイル50a、50bに通電することによりシリコン融液35にカスプ磁場を印加してシリコン単結晶34を中心軸40方向に引上げる構成となっている。さらにシリコン単結晶引上げ装置31は、種結晶32、種ホルダ33、黒鉛ルツボ37、断熱部材39、筒部42を備える。
【0033】
カスプ磁場発生装置50は鉛直方向に上下移動可能な昇降装置50cの上に設置されており、シリコン単結晶引上げ装置31の側面を取り囲むように上コイル50aと下コイル50bが配置されている。カスプ磁場では、上下2本のコイルに対し、互いに反対方向の電流を流すことにより、上下で反発する磁力線を発生させる。上コイル50aと下コイル50bの電流値を同じ値に設定し、上下2本のコイルに対し互いに反対方向の電流を流すことで、上下対称かつ前後左右対称な磁場分布となるが、この時、中心軸40と2つのコイル間の中間面41の交点にある磁場極小点51の磁場強度が0G(Gauss)となる。例えば、カスプ磁場の磁場極小点位置を原料融液表面から下方10mm、上下コイル間の中間面41と坩堝壁の交点における磁場強度を1000Gとすることで、酸素濃度8.0×1017atoms/cm(ASTM’79)以下のシリコン単結晶を容易に製造することができる。なお、シリコン単結晶の窒素濃度は3.0×1014atoms/cm以上とすることが好ましい。
【0034】
このような、シリコン単結晶とすれば、まずシリコン単結晶の酸素濃度を8.0×1017atoms/cm(ASTM’79)以下とすることにより、酸素ドナー濃度のみならず窒素ドナー(NOドナー)濃度を抑制することが可能となり、より精度の高い抵抗率測定が可能となる。しかし低酸素のシリコン単結晶では、酸素による転位固着効果が弱くなることで高温長時間のプロセス(熱処理)中にスリップの発生が顕著となり、これによってデバイス作製時に歩留まりが低下することが問題となる。そこで、シリコン単結晶の窒素濃度を3.0×1014atoms/cm以上とすることにより、高温・長時間のプロセスに耐えるための十分なスリップ耐性を付与することができる。その結果、デバイス作製時の歩留まり低下を防ぎながらも、精度の高い抵抗率測定が実現できる。
【0035】
以上説明したように、例えば水平磁場もしくはカスプ磁場を備えたシリコン単結晶引上げ装置を用いたMCZ法によって、抵抗率100Ωcm以上の窒素添加シリコン単結晶を育成できる。
【0036】
次に、図1はシリコン単結晶の抵抗率測定方法の一例を示すフロー図である。具体的なステップをA~Hで示す。前述の抵抗率100Ωcm以上の窒素添加シリコン単結晶の育成(ステップA)が完了した後は、シリコン単結晶にインゴット加工(外径研削)(ステップB)を行い、その後、シリコン単結晶を内周刃スライサーやワイヤソー等を用いてスライス切断(ステップC)し、所定の厚さのシリコン単結晶基板を切り出す。基板表面の研削と酸エッチング(ステップD)が完了した後に、窒素ドナー除去のための酸化熱処理(ステップE)を行うが、この酸化熱処理時の雰囲気としては、ウェット酸素雰囲気もしくはドライ酸素雰囲気とすることができる。そして、ドライ酸素雰囲気もしくはウェット酸素雰囲気とした上で熱処理時の温度を1100~1250℃とし、上記温度を維持したまま90~240分間の熱処理を行う。このような酸化熱処理を行うことで窒素ドナーを消滅させ、窒素ドナーの残存による抵抗率の変化を抑制することができる。
【0037】
なお、上記熱処理の処理時間を90分未満とすると窒素ドナーが残存することが問題となるし、上記熱処理の処理時間を240分よりも長時間とした場合、例えば250分以上とすると窒素ドナーは完全に消去されるものの、処理時間が長くなることで熱処理炉のヒーターライフが著しく低下することや抵抗率測定のスループットが悪化することが問題となる。以上の理由から、上記熱処理の処理時間は90~240分間とする。なお、窒素ドナー除去のための熱処理に用いる熱処理炉については、横型炉を用いても良いし、縦型炉を用いても良い。
【0038】
窒素ドナー除去のための熱処理(ステップE)が完了した後に、基板表面から熱酸化膜を除去する。熱酸化膜を除去することで、熱酸化膜の残存による抵抗率への影響を排除することができる。その結果、抵抗率100Ωcm以上の高抵抗率の窒素添加シリコン単結晶であっても、ドーパントに由来した正確な抵抗率を測定することができる。
【0039】
このとき、例えばフッ酸(フッ化水素酸)によるエッチングを行うことができる(ステップF)。フッ酸によるエッチングは容易でコスト面でも有利である。この時のフッ化水素酸の濃度は0.1wt%以上であれば、問題なく熱処理起因で生じた熱酸化膜の除去を行うことが可能である。
【0040】
酸化膜除去(ステップF)完了後は、さらに基板表面について研削加工を行うことが好ましい(ステップG)。基板表面を研削することで確実に熱酸化膜を除去することができる。この時の研削加工は砥石もしくは研削パッドを用いて行い、加工時の取り代は5μm以上とすることが好ましい。また、この時の研削加工で用いる砥粒の番手については、#300程度の粗研としても良いし、#2000程度の精研としても良い。
【0041】
このように熱酸化膜を除去する方法として、フッ酸によるエッチングと研削加工を行うと、フッ酸によるエッチングは容易でコスト面でも有利であり、その後基板表面を研削することで確実に熱酸化膜を除去することができる。
【0042】
その後、抵抗率測定を行う(ステップH)が、測定については4探針法、拡がり抵抗法、ホール効果法等の手法を用いることができる。
【0043】
以上の条件を用いることで、MCZ法によって育成された抵抗率100Ωcm以上の高抵抗率の窒素添加シリコン単結晶の抵抗率測定を正確に行うことが可能となる。
【実施例
【0044】
口径800mmの石英ルツボに360kgのシリコン原料を入れて溶融し、カスプ磁場を印加し、狙い抵抗率P型2000Ωcm(ドーパントはボロン)の直径300mmの窒素添加シリコン単結晶の引上げを異なる4台の引上げ装置でそれぞれ1本ずつ行い、計4本のシリコン単結晶の製造を行った。引き上げ後のシリコン単結晶については、インゴット加工をしてシリコン単結晶基板を作製し、作製したシリコン単結晶基板に対して酸素雰囲気で熱処理を行い、上記の熱処理後に基板表面の熱酸化膜をフッ酸エッチングにて除去した。熱酸化膜除去後に#2000の番手の砥石で研削を行い、4探針法にてシリコン基板に対する抵抗率測定を行った。なお、本実施例と比較例では、抵抗率の測定値とドーパントの投入量(偏析曲線)から試算した抵抗率の比を「(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)」と定義し、上記の比が1.05未満(5%未満)となった場合を、ドーパント(ボロン)由来の抵抗率が得られているものとして抵抗率測定可能(評価○)としている。
【0045】
[実施例1]
実施例1では、シリコン単結晶中の窒素濃度が3.0×1015atoms/cm、酸素濃度が1.5×1017atoms/cm(ASTM’79)の箇所からシリコン単結晶基板を作製し、単結晶基板に対してウェット酸素雰囲気で熱処理を実施した。熱処理時の温度と時間の組み合わせは、温度1100℃×時間90分、温度1100℃×時間240分、温度1250℃×時間90分、温度1250℃×時間240分の計4通りとしている。上記の熱処理後に、基板表面の熱酸化膜をフッ酸エッチングにて除去し、その後に#2000の番手の砥石で研削を行い、4探針法にて抵抗率測定を行った。その結果、全ての場合で(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.00となっており、窒素ドナーが消去されることでドーパント(ボロン)由来の抵抗率が極めて正確に得られていることを確認できた。表1には、実施例1の条件で抵抗率測定を行った時の(抵抗率_測定値)と(抵抗率_試算値)の比、抵抗率測定の可否を示した。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、実施例1とは別に、窒素ドナー消去のための熱処理をドライ酸素雰囲気とし、その他の条件は実施例1と同一条件で抵抗率測定を行ったところ、全ての場合で(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.00となり、ドーパント(ボロン)由来の抵抗率が極めて正確に得られていることも確認できた。また、実施例1とは別に、単結晶中の抵抗率を100Ωcmとし、その他の条件は実施例1と同一条件で抵抗率測定を行い、全ての場合でドーパント(ボロン)由来の抵抗率が得られていることも確認できた。
【0048】
[実施例2]
実施例2では、シリコン単結晶中の酸素濃度を8.0×1017atoms/cm(ASTM’79)とし、その他の条件は実施例1と同一条件として抵抗率測定を行った。その結果、全ての場合で(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.01以下となり、窒素ドナーが消去されることでドーパント(ボロン)由来の抵抗率が正確に得られていることを確認できた。表2には、実施例2の条件で抵抗率測定を行った時の(抵抗率_測定値)と(抵抗率_試算値)の比、抵抗率測定の可否を示した。
【0049】
【表2】
【0050】
なお、実施例2とは別に、窒素ドナー消去のための熱処理をドライ酸素雰囲気とし、その他の条件は実施例2と同一条件で抵抗率測定を行い、その結果、全ての場合で(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.01以下となり、ドーパント(ボロン)由来の抵抗率が正確に得られていることも確認できた。また、実施例2とは別に、単結晶中の抵抗率を100Ωcmとし、その他の条件は実施例2と同一条件で抵抗率測定を行い、全ての場合でドーパント(ボロン)由来の抵抗率が得られていることも確認できた。
【0051】
[実施例3]
実施例3では、シリコン単結晶中の窒素濃度を3.0×1014atoms/cmとし、その他の条件は実施例1と同一条件として抵抗率測定を行った。その結果、全ての場合で(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.00となり、窒素ドナーが消去されることでドーパント(ボロン)由来の抵抗率が極めて正確に得られていることを確認できた。表3には、実施例3の条件で抵抗率測定を行った時の(抵抗率_測定値)と(抵抗率_試算値)の比、抵抗率測定の可否を示した。
【0052】
【表3】
【0053】
なお、実施例3とは別に、窒素ドナー消去のための熱処理をドライ酸素雰囲気とし、その他の条件は実施例3と同一条件で抵抗率測定を行い、その結果、全ての場合で(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.00となり、ドーパント(ボロン)由来の抵抗率が極めて正確に得られていることも確認できた。また、実施例3とは別に、単結晶中の抵抗率を100Ωcmとし、その他の条件は実施例3と同一条件で抵抗率測定を行い、全ての場合でドーパント(ボロン)由来の抵抗率が得られていることも確認できた。
【0054】
[実施例4]
実施例4では、シリコン単結晶中の酸素濃度9.0×1017atoms/cm(ASTM’79)とし、その他の条件は実施例1と同一条件として抵抗率測定を行った。その結果、(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.03~1.04となり、ドーパント(ボロン)由来の抵抗率が得られた。この結果と実施例1、2の結果とを比べると、
実施例1、2の方がより正確な測定ができることがわかる。従って、酸素濃度は実施例2の8.0×1017atoms/cm(ASTM’79)以下とする方が、比を1.01以下にできるので、より好ましいと言える。表4には、実施例4の条件で抵抗率測定を行った時の(抵抗率_測定値)と(抵抗率_試算値)の比、抵抗率測定の可否を示した。
【0055】
【表4】
【0056】
[比較例1]
比較例1では、熱処理時の温度と時間の組み合わせを温度900℃×時間90分、温度900℃×時間240分、温度1000℃×時間90分、温度1000℃×時間240分の計4通りとし、その他の条件は実施例1と同一条件として抵抗率測定を行った。その結果、(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.82~3.40となり、熱処理後も窒素ドナーが残存することで抵抗率が変化し、ドーパント(ボロン)由来の正確な抵抗率が得られないという結果であった。表5には、比較例1の条件で抵抗率測定を行った時の(抵抗率_測定値)と(抵抗率_試算値)の比、抵抗率測定の可否を示した。
【0057】
【表5】
【0058】
なお、比較例1とは別に、熱処理時の温度と時間を温度1000℃×時間480分に変更し、その他の条件は比較例1と同一条件で抵抗率測定を行ったところ、(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.50となり、ドーパント(ボロン)由来の正確な抵抗率が得られなかった。
【0059】
[比較例2]
比較例2では、熱処理時の温度と時間の組み合わせを温度1100℃×時間30分、温度1100℃×時間60分、温度1250℃×時間30分、温度1250℃×時間60分の計4通りとし、その他の条件は実施例1と同一条件として抵抗率測定を行った。その結果、(抵抗率_測定値)/(抵抗率_試算値)が1.05~1.45となり、熱処理後も窒素ドナーが残存することで抵抗率が変化し、ドーパント(ボロン)由来の正確な抵抗率が得られないという結果であった。表6には、比較例2の条件で抵抗率測定を行った時の(抵抗率_測定値)と(抵抗率_試算値)の比、抵抗率測定の可否を示した。
【0060】
【表6】
【0061】
以上のように、本発明に係る実施例によれば、MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶に対し、1100~1250℃の温度で90~240分の酸化熱処理を行うことで窒素ドナーを消滅させて窒素ドナーの残存による抵抗率の変化を抑制でき、酸化熱処理によって基板表面に形成された熱酸化膜を除去することで熱酸化膜の残存による抵抗率への影響を排除することができ、その結果、抵抗率100Ωcm以上の高抵抗率の窒素添加シリコン単結晶であっても、ドーパントに由来した正確な抵抗率を測定することができた。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0063】
1、31…シリコン単結晶引上げ装置(引上げ炉)、 2、32…種結晶、
3、33…種ホルダ、 4、34…シリコン単結晶、
5、35…原料融液(シリコン融液)、 7、36…石英ルツボ、
6、37…黒鉛ルツボ、 8、38…加熱ヒーター、 9、39…断熱部材、
10、40…中心軸、 11、42…筒部、 12、43…熱遮蔽部材、
20…水平磁場発生装置、 41…中間面、 50…カスプ磁場発生装置、
50a…上コイル(超電導コイル)、 50b…下コイル(超電導コイル)、
50c…昇降装置、 51…磁場極小点。
【要約】
【課題】MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶に対して、ドーパント由来の正確な抵抗率を測定できるシリコン単結晶の抵抗率測定方法を提供する。
【解決手段】MCZ法によって窒素を添加して育成した抵抗率100Ωcm以上のシリコン単結晶の抵抗率を測定する方法であって、前記シリコン単結晶より切り出された基板に対して、1100~1250℃の温度で90~240分の酸化熱処理を行うことで前記基板表面に熱酸化膜を形成し、前記基板表面から前記熱酸化膜を除去した後に、前記基板の抵抗率を測定することを特徴とするシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【選択図】図1
図1
図2
図3