IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-液晶素子、電波反射板及びアンテナ 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】液晶素子、電波反射板及びアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024515879
(86)(22)【出願日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2023043749
【審査請求日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2022203099
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 剛
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-524019(JP,A)
【文献】特開2005-354595(JP,A)
【文献】特開2004-056549(JP,A)
【文献】国際公開第2022/259891(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電波透過部材と、
第二の電波透過部材と、
前記第一の電波透過部材と前記第二の電波透過部材の間に挟持された電圧を印加することにより駆動可能な液晶層とを備える液晶素子であって、
前記液晶層の25℃、589nmにおけるΔn(屈折率異方性)が、0.15以上であり、
前記液晶層が一軸配向でない液晶素子。
【請求項2】
前記第一の電波透過部材及び/又は第二の電波透過部材と前記液晶層との間に配向膜を備えない請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記液晶層がランダム配向である請求項1又は2に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記液晶層がツイスト配向である請求項1又は2に記載の液晶素子。
【請求項5】
前記液晶層の旋回角度が45度の倍数であることを特徴とする請求項4に記載の液晶素子。
【請求項6】
前記液晶層がカイラル剤を含む請求項5に記載の液晶素子。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の液晶素子を備えた電波反射板。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の液晶素子を備えたアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子、電波反射板及びアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ用途に多く用いられている液晶の新規用途として、自動車等の移動体と通信衛星との間で、電波の送受信を行う液晶を用いたアンテナが注目されている。従来、衛星通信は、パラボラアンテナを用いているが、自動車等の移動体で用いる場合、随時パラボラアンテナを衛星方向へ向けなければならず、大きな可動部が必要であった。しかし液晶を用いたアンテナは、パネル内部の液晶が動作することにより電波の送受信方向を変える事が出来るため、アンテナ自体を動かす必要が無くアンテナの形状も平面にすることが出来る。また、グローバルな大容量かつ高速通信を実現するため、多数の低軌道衛星による低軌道衛星コンステレーションの検討が進んでいる。地上からでは常に移動しているように見える低軌道衛星を追従するには、電波の送受信方向を容易に変えることができる液晶アンテナは有用である。このようなアンテナの技術としては、例えば特許文献1が挙げられる。
他にも液晶の新規用途として、第5世代以降の移動体通信に使用される電波反射板が注目されている。第5世代以降の移動体通信では、データ通信の容量を向上するために周波数の高い電波を用いるが、周波数の高い電波は直線性が高い性質を持つために、障害物による電波の陰となる領域ができてしまうことが課題となる。その電波の陰となる部分に電波を反射させるための電波反射板が必要となるが、この電波反射板に液晶を用いることで電波の反射方向を容易に調整することができる。このような電波反射板の技術としては、例えば特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-530387号公報
【文献】特開2021-141359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、取り扱う電波の種類によっては、アンテナや電波反射板に用いられる部材の中に偏波依存性を持つ部材があると、電波の入射角度によっては電波の強度変化が大きくなってしまうという課題がある。
本発明は、入射する電波の角度が変わっても電波強度変化を少なくすることができる、つまり偏波依存性の少ない液晶素子及びこれを用いた電波反射板及びアンテナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、液晶層が一軸配向でない液晶素子が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決する本発明の構成の一例としては、以下の通りである。
【0006】
項1.第一の電波透過部材と、
第二の電波透過部材と、
前記第一の電波透過部材と前記第二の電波透過部材の間に挟持された液晶層と
を備える液晶素子であって、
前記液晶層が一軸配向でない液晶素子。
【0007】
項2.前記液晶層の25℃、589nmにおけるΔn(屈折率異方性)が、0.15以上である項1に記載の液晶組成物。
【0008】
項3.前記液晶層がランダム配向である項1又は2に記載の液晶素子。
【0009】
項4.前記液晶層がツイスト配向である項1又は2に記載の液晶素子。
【0010】
項5.前記液晶層の旋回角度が45度の倍数であることを特徴とする項4に記載の液晶素子。
【0011】
項6.前記液晶層がカイラル剤を含む項5に記載の液晶素子。
【0012】
項7.項1~6のいずれか1項に記載の液晶素子を備えた電波反射板。
【0013】
項8.項1~6のいずれか1項に記載の液晶素子を備えたアンテナ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液晶層が一軸配向でない液晶素子により、入射する電波の入射角度が変わっても電波強度変化を少なくすることができ、電波反射板及びアンテナに有用である。
更に、本発明に係る液晶素子は、液晶層がツイスト配向であり、所定の旋回角度を有する場合にはメモリー性を発現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る液晶素子の評価系の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一の電波透過部材及び第二の電波透過部材)
本発明に係る液晶素子は、第一の電波透過部材及び第二の電波透過部材を備え、当該部材はセルを構成する。
第一の電波透過部材及び第二の電波透過部材は、液晶層を挟みこむように対向して配置されてセルを構成し、部材間に液晶層を挟持する。
第一の電波透過部材及び第二の電波透過部材としては、ガラス製部材、プラスチック製部材等が挙げられる。
ガラス製部材としては、無アルカリガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
プラスチック製部材としては、LCP(液晶ポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)等が挙げられる。
部材の形態としては、基板、フィルム等が挙げられる。
部材の厚みは、製造性の観点から、好ましくは0.1~2mm、好ましくは0.5~1.5mmである。
部材の形状は、特に限定されないが、正方形、長方形等が好ましい。
部材の形状が正方形である場合は、その大きさは5~30cm角四方であることが好ましく、5~15cm角四方が好ましい。
【0017】
第一の電波透過部材及び第二の電波透過部材の部材間距離(セル厚)は、電波の波長に応じて適宜設定できるが、好ましくは1~5000μm、好ましくは3~2000μm、好ましくは500~1500μmである。
部材間距離(セル厚)は、スペーサー等を用いることにより確保することができる。
スペーサーとしては、ガラス粒子、プラスチック粒子、アルミナ粒子等の粒状スペーサー、フォトリソグラフィー法により形成された樹脂製のスペーサー柱等が挙げられる。
また、所定の膜厚を有するフィルムをスペーサーとして用いてもよい。
フィルムの材質としては、PTFE等のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0018】
また、第一の電波透過部材及び/又は第二の電波透過部材は複数の電極を備えてもよい。
また、第一の電波透過部材及び/又は第二の電波透過部材は液晶層と接触する面に配向膜を備えてもよい。
配向膜としては、ポリイミド配向膜等が挙げられる。
配向膜に配向膜表面を一方向に繊維で擦る処理(ラビング処理)を行うことにより擦った方向に液晶分子の長軸方向が一軸配向することが知られている。
配向膜を備える場合でも、ラビング処理を施さない場合には液晶層は一軸配向せず、分子長軸方向がランダムなランダム配向にすることができる。
液晶層がランダム配向である場合は、第一の電波透過部材及び/又は第二の電波透過部材と液晶層との間にラビング処理がされていない配向膜を備え、液晶層と配向膜が直接接触することが好ましい。
また、液晶層がランダム配向である場合は、第一の電波透過部材及び/又は第二の電波透過部材と液晶層との間に配向膜を備えず、液晶層と配向膜が直接接触することが好ましい。
また、液晶層がカイラル剤を含まずにツイスト配向を取る場合は、第一の電波透過部材及び第二の電波透過部材と液晶層との間にラビング処理がされた配向膜を備えることが好ましい。
また、液晶層がカイラル剤を含みツイスト配向を取る場合は、第一の電波透過部材及び/又は第二の電波透過部材と前記液晶層との間に配向膜を備えず、第一の電波透過部材及び/又は第二の電波透過部材と液晶層とが直接接触することが好ましい。
【0019】
(液晶層)
本発明に係る液晶素子は、第一の電波透過部材と第二の電波透過部材の間に挟持された液晶層を備える。
液晶層は、液晶組成物からなるものであってもよいし、液晶組成物を含むものであってもよい。
【0020】
本発明に係る液晶素子は、液晶層の未駆動時(駆動電圧未印加時)において一軸配向性でないことにより、偏波依存性を低減させることができる。
なお、「一軸配向」とは、面内の液晶分子が一方向に揃っている状態をいう。
一軸配向でない状態としては、ランダム配向、ツイスト配向が好ましい。
液晶層がツイスト配向である場合における旋回角度は、偏波依存性の解消の観点から、好ましくは45度の倍数(旋回角度(度)=45×n、nは自然数を表す。)であり、より好ましくは90度の奇数倍数(旋回角度(度)=90×(2n-1)、nは自然数を表す。)である。
旋回角度は、偏波依存性解消の観点から、好ましくは45~540,000度の範囲における45度の倍数又は90度の奇数倍数が好ましい。
90度の奇数倍数の旋回角度としては、具体的には、偏波依存性解消の観点から、90度、270度、450度、630度、810度等が好ましい。
また、旋回角度が10,000度未満の場合においては、旋回角度は90度の奇数倍数が好ましい。
そして、旋回角度が10,000度以上の場合においては、旋回角度は10,000~540,000度が好ましく、15,000~450,000度が好ましい。
旋回角度は、電波透過部材に配向膜を備える場合には、配向膜のラビング処理角度で調整することが可能である。
第一の電波透過部材と第二の電波透過部材のラビング処理角度がアンチパラレルである場合には旋回角度が0度である。
このアンチパラレルからラビング角度を変更することにより旋回角度を調整可能である。
電波透過部材に配向膜を備えない場合には、液晶層にカイラル剤を添加することで旋回角度の調整が可能である。
例えば、カイラル剤を添加することにより発現する螺旋ピッチを0.36度/μmに調整された液晶組成物を、1000μmのセルに注入した場合の旋回角度は360度となる。
すなわち、この場合においては、旋回角度(度)=螺旋ピッチ(度/μm)×セル厚(μm)である。
そして、カイラル剤の添加量を可変することで任意の旋回角度に調整することが可能である。
【0021】
ここで、「旋回角度」とは、液晶層が駆動していない状態における旋回角度をいう。
また、「液晶層が駆動していない状態」とは、液晶層に電圧が印加されていない状態又は液晶層に駆動電圧(Vth)未満の電圧が印加された状態をいう。
旋回角度を液晶層に付与する方法としては、配向膜により旋回角度を液晶層に付与する方法、液晶層にカイラル剤を添加することにより旋回角度を液晶層に付与する方法等が挙げられるが、大きな旋回角度を任意に設定できる観点から、液晶層にカイラル剤を添加することにより旋回角度を液晶層に付与する方法が好ましい。
【0022】
「カイラル剤」とは、液晶分子にねじれを付与し、液晶組成物に旋光性を付与することができる添加物をいい、添加量に応じて螺旋ピッチが可変される。
本発明に係る液晶素子において、カイラル剤は、液晶層に旋回角度を付与することができれば、その化学構造や使用量は特に限定されない。
カイラル剤としては、公知のものでよく、例えば、不斉原子を有する化合物、軸不斉を有する化合物、面不斉を有する化合物、及びアトロプ異性体等が挙げられ、不斉原子を有する化合物又は軸不斉を有する化合物が好ましい。
不斉原子を有する化合物において、不斉原子は不斉炭素原子又は不斉ヘテロ原子であることが好ましく、立体反転が起こりにくいという観点から、不斉炭素原子が好ましい。
不斉原子は鎖状構造の一部に導入されていても、環状構造の一部に導入されていてもよい。
螺旋誘起力が強いことを特に要求される場合には、軸不斉を有する化合物が好ましい。
また、カイラル剤は重合性基を有するものでも、重合性基を有しないものでもよい。
前記カイラル剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
液晶組成物におけるカイラル剤の含有量は、任意の旋回角度に応じて設定することができる。
また、カイラル剤は、右巻きであっても左巻きであっても良く、液晶素子の用途によって適宜使い分けることができる。
【0023】
本発明に係る液晶層(液晶組成物)の25℃、589nmにおけるΔn(屈折率異方性)は、波長の光の位相変調力の観点から、0.15以上であることが好ましく、0.15~0.60であることが好ましく、0.20~0.55であることが好ましく、0.25~0.50であることが好ましい。
25℃、589nmにおけるΔnはアッベ屈折計を用いて液晶組成物の異常光屈折率(n)と常光屈折率(n)の差(n-n)から求める。
また、位相差測定装置から、Δnを求めることもできる。
位相差Re、液晶層の厚さd及びΔnとの間には、Δn=Re/dの関係が成り立つ。
セルギャップ(d)が約3.0μmで、アンチパラレルラビング処理を施したポリイミド配向膜付きガラスセルに液晶組成物を注入し、面内のReを位相差フィルム・光学材料検査装置RETS-100(大塚電子株式会社製)で測定する。
測定は温度25℃、589nmの条件で行い、単位はない。
【0024】
本発明に係る液晶層(液晶組成物)の25℃、1kHz(正弦波)における誘電率異方性(Δε)は、正(2≦Δε)であることが好ましい。
本発明に係る液晶層(液晶組成物)の誘電率異方性(Δε、25℃、1kHz(正弦波))は、動作電圧しきい値(Vth)の観点から、2.0~30.0であることが好ましい。
誘電率異方性(Δε、25℃、1kHz(正弦波))は、LCRメータ(キーサイト社製)により測定できる。
【0025】
液晶組成物は、使用する電波の周波数帯で大きな屈折率異方性を発現する観点から、液晶化合物としてエチニル基(-C≡C-)を有する液晶化合物、イソチオシアネート基(-NCS)を有する化合物、シアノ基(-CN)を有する液晶化合物、アゾ基(-N=N-)を有する液晶化合物等を含むことが好ましい。
また、液晶層(液晶組成物)は、必要に応じて添加物を含んでもよい。
添加物としては、安定剤、色素化合物、重合性化合物等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、ヒドロキノン類、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール類、ピロガロール類、チオフェノール類、ニトロ化合物類、β-ナフチルアミン類、β-ナフトール類、ニトロソ化合物類、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類等が挙げられる。
【0026】
(液晶素子)
本発明に係る液晶素子は、主に移動体通信に用いられる周波数の観点から、好ましくは3~300GHz、好ましくは10~200GHz、好ましくは20~150GHzの周波数帯の電波が適用されるデバイスに好適である。
電波の種類としては、直線偏波、円偏波が挙げられるが、本発明に係る液晶素子は直線偏波に対して好適である。
また、本発明に係る液晶素子は、液晶層における液晶分子の配向方向を可逆的に変えることにより誘電率を可逆的にスイッチングすることが可能な液晶素子であることが好ましい。
液晶素子は、以下のようにして作製することができる。
例えば、第一の電波透過部材にエポキシ系熱硬化性組成物等のシール材を注入口を設けた形で描画し、当該部材と第二の電波透過部材とを貼り合わせ、その後加熱してシール剤を熱硬化させることにより、空セルを作製する。
次に、当該空セルにおける2つの部材間に、真空注入法又はODF法等を用いて液晶組成物を狭持させることにより、液晶素子を製造することができる。
【0027】
本発明に係る液晶素子は、液晶層がツイスト配向であり、所定の旋回角度を有する場合にはメモリー性を発現することも可能である。
「メモリー性」とは、印可する電圧差により配向状態を保持(メモリー)することができることをいう。
誘電率異方性が正の液晶組成物であって、カイラル剤を使用した組成物においては、通常最初の配向状態(ツイスト配向)から、垂直配向状態(ホメオトロピック配向)に変化する。
ツイスト配向とホメオトロピック配向の間には、フォーカルコニック配向が存在することが知られている。「フォーカルコニック配向」とは、液晶分子の螺旋状態を保持したまま垂直に配向している状態をいう。
つまり、フォーカルコニック配向から、さらに印可電圧を上げることで、カイラル剤による螺旋状態が解けることでホメオトロピック配向に至る。
そして、メモリー性を有することにより、常に電圧を印可することなく液晶層の誘電率のスイッチングをすることが可能となる。
【0028】
(電波反射板)
本発明に係る電波反射板は、上述した液晶素子を備えることを特徴とする。
本発明に係る電波反射板の構造としては、例えば特開2017-175201号公報等に記載されている事項等を参酌し、適用することができる。
【0029】
(アンテナ)
本発明に係るアンテナは、上述した液晶素子を備えることを特徴とする。
本発明に係るアンテナの構造としては、例えば国際公開第2021/157189号パンフレット等に記載されている事項等を参酌し、適用することができる。
【実施例
【0030】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1~13並びに比較例1)
(液晶素子の製造)
まず、2枚の無アルカリガラス基板(コーニング社製、EAGLE XG、10cm×10cm、厚さ:1.1mm)と、フィルム(ニチアス社製、フッ素樹脂(PTFE)、厚み1000μm)と、シール材(三井化学社製、ストラクトボンド、エポキシ系熱硬化性組成物)と、必要に応じてポリイミド配向膜を用いて、空セルを作成した。
配向膜を用いる場合は、配向膜を両方の基板に塗布、焼成した。
次に、液晶組成物(Δn(25℃、589nm):0.30、誘電率異方性(Δε、25℃、1kHz(正弦波)):2.0以上)とカイラル剤(アトロプ異性体)を用いて液晶組成物を調製した。
作成した空セルに調製した液晶組成物を充填した後、シール材(三井化学社製、ストラクトボンド、エポキシ系熱硬化性組成物)で封止することにより、表1に示す液晶素子1~14を製造した。
【0031】
【表1】
【0032】
(電波透過強度の評価)
図1に示すように、ベクトルネットワークアナライザ1(ベクトルネットワークアナライザN5222B、キーサイト株式会社製、周波数:0.1~26.5GHz、電波の種類:直線偏波)に周波数拡大のためにエクステンダ2(エクステンダWR10、VDI社製)を接続し、出力周波数帯域を67~115GHzとした。
エクステンダには導波管3(VDI社製)を接続し、67~115GHzの周波数の電波を送受信できる状態とした。
この導波管からは、一軸方向に偏波した直線偏波の電波が出射される。
導波管間の距離は50mmとし、ベクトルネットワークアナライザ1に接続された導波管3間の中央に導波管3から出射される電波の偏波方向と、配向方向(液晶セルの電波入射側基板の配向膜のラビング方向)が一致する角度に回転ホルダーに保持した液晶素子4を設置し、この時の設置角度を0度とした。なお、ランダム配向の液晶素子ではラビング処理された配向膜を備えていないので、正方形である液晶素子の任意の一辺を選択し、そこを固定して回転ホルダーに設置し、その時の設置角度を0度と定義した。
液晶素子は回転ホルダーに固定され、基板の対角線の交点に垂直な方向を軸として、任意の角度で液晶素子を回転することが可能な構造となっている。
まず、設置角度0度で、電波透過強度を測定し、次いで液晶素子を回転ホルダーの角度目盛を読みながら90度回転させた場合及び180度回転させた場合の電波透過強度を測定することにより、電波強度変化を評価した。
すなわち、設置角度0度で測定した電波透過強度を基準とし、設置角度90度及び180度の場合に強度がどの程度変化したかを評価した。
つまり、強度変化が少ない場合には、入射する偏波依存性が少ないと言える。
液晶素子1~14の評価結果を表2に示す。
【0033】
なお、偏波依存性の指標としては、下記の通りである。
「〇」(偏波依存性がない):
90度/0度と180度/0度の相対平均強度が等しい。
「△」(偏波依存性が少ない):
90度/0度と180度/0度の相対平均強度差が10%未満である。
「×」(著しい偏波依存性がある):
90度/0度と180度/0度の相対平均強度差が10%以上である。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例1~2より、配向膜の有無に関わらずランダム配向の場合には、偏波依存性はないことが分かった。また、実施例3~13より、旋回角度を設けた液晶素子では偏波依存性が少なくなることが分かった。
特に旋回角度が10,000度未満の場合において、90度の奇数倍に調整された液晶素子では、偏波依存性がなく、また平均相対強度の低下も発生しないことが分かった。これは90度の奇数倍の旋回角度の場合には、偏波面に対する液晶分子の平均屈折率(平均屈折率:(no+ne)/2)が完全に等しくなるからと考えられる。つまり液晶層が一軸配向でない液晶素子は、角度を変化させても相対平均強度差(90度/0度、180度/0度)に変化が見られず、偏波依存性を解消することができることがわかった。
更に、旋回角度が10,000度以上の場合においては、屈折率が十分に平均化されているため、偏波依存性を解消することができることがわかった。
【0036】
更に液晶素子4~14について、メモリー性を評価した。
液晶素子4~14の評価結果を表3に示す。
(メモリー性の評価)
メモリー性は、直交配置した偏光板の間に液晶素子を設置し、電圧印可時の配向状態を顕微鏡(光学顕微鏡、商品名:エクリプス、ニコン社製)で確認することで評価した。
液晶素子に電圧を印加し、電圧を徐々に上げながら液晶素子における最初の配向状態(ツイスト配向)からフォーカルコニック配向が得られる電圧(電圧レベル1)と、フォーカルコニック配向からホメオトロピック配向が得られる電圧(電圧レベル2)を求めた。
なお、印可電圧は100Hzの矩形波を用いた。
また、液晶素子に電圧を印加していない状態を「電圧レベル0」とする。
次に、ホメオトロピック配向が得られる電圧レベル2から、フォーカルコニック配向が得られる電圧レベル1に瞬時に切り替えて電圧を低下させ、フォーカルコニック配向に変化したことを確認した後、速やかに電圧レベル0とした。
そして、フォーカルコニック配向が保持される時間を計測した。
なお、メモリー性の指標としては、下記の通りである。
「〇」(メモリー性が発現され、且つ、良好である):
フォーカルコニック配向が保持される時間が10秒以上である。
「△」(メモリー性の発現が見られる):
フォーカルコニック配向が保持される時間が10秒未満である。
「×」(メモリー性の発現が見られない):
電圧レベル0に切り替えると共に最初の配向状態(ツイスト配向)に転移する。
【0037】
【表3】
【0038】
実施例11~13より、メモリー性の発現が確認され、特に旋回角度が36000度と360000度で良好なメモリー性が得られることが分かった。このメモリー性を利用することで、常に電圧を印可することなく液晶層の誘電率のスイッチングをすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の液晶素子は、電波反射板及びアンテナに利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1:ベクトルネットワークアナライザ
2:エクステンダ
3:導波管
4:回転ホルダーに保持した液晶素子
【要約】
本発明は、入射する電波の角度が変わっても電波強度変化を少なくすることができる、つまり偏波依存性の少ない液晶素子及びこれを用いた電波反射板及びアンテナを提供することを課題とする。
本発明によれば、液晶層が一軸配向でない液晶素子により、入射する電波の偏波角度が変わっても電波強度変化を少なくすることができ、電波反射板及びアンテナに有用である。具体的には第一の電波透過部材と、第二の電波透過部材と、前記第一の電波透過部材と前記第二の電波透過部材の間に挟持された液晶層とを備える液晶素子であって、前記液晶層が一軸配向でない液晶素子である。
図1