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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】把持装置及びこれを用いた把持方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
B25J15/08 S
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020100934
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021194718
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(73)【特許権者】
【識別番号】520234774
【氏名又は名称】KiQ Robotics株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】西田 健
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-200853(JP,A)
【文献】特開2013-086185(JP,A)
【文献】特開2011-230259(JP,A)
【文献】特表2013-523478(JP,A)
【文献】国際公開第2015/006613(WO,A1)
【文献】実開昭49-077675(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部に設けられ、液状流体と粉粒体を内部に充填した変形自在な袋状体をそれぞれ備える複数の指部により、対象物を把持する把持装置であって、
前記液状流体の前記袋状体からの排出及び前記袋状体への供給を行って、該袋状体を硬化状態及び軟化状態にする硬軟手段が設けられ、
前記粉粒体は、比重が異なる2種以上の粒状物で構成され、しかも、前記粉粒体は少なくとも、前記液状流体より大きな比重の前記粒状物と、前記液状流体より小さな比重の前記粒状物を有することを特徴とする把持装置。
【請求項2】
請求項1記載の把持装置において、前記硬軟手段は、前記袋状体に取付けられた流体搬送用管材を介して前記液状流体の前記袋状体からの排出及び前記袋状体への供給を行うポンプと、前記流体搬送用管材の前記袋状体への取付け領域に設けられ、前記液状流体のみを通過可能とするフィルタとを有することを特徴とする把持装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の把持装置において、前記各指部は更に、前記袋状体が設けられた補強部材を備え、駆動手段により前記袋状体が互いに接近又は離間するように、前記補強部材が前記ベース部に傾動可能に設けられていることを特徴とする把持装置。
【請求項4】
請求項3記載の把持装置において、前記補強部材は前記袋状体の外部又は内部に設けられていることを特徴とする把持装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の把持装置において、前記補強部材は弾性体であることを特徴とする把持装置。
【請求項6】
請求項5記載の把持装置を用いた把持方法であって、
前記複数の指部で対象物を掴み、軟化状態にある前記各袋状体を前記対象物に接触させる準備工程と、
前記硬軟手段により、前記各袋状体からの前記液状流体の排出を行い、該各袋状体を硬化状態にする硬化工程とを有し、
前記硬化工程における前記各袋状体からの前記液状流体の排出過程で、前記弾性体で構成された前記補強部材により、前記各袋状体の体積減少に伴って前記各指部に設けられた前記袋状体が互いに接近し、前記対象物の把持が完了することを特徴とする把持方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の把持装置を用いた把持方法であって、
前記複数の指部で対象物を掴み、軟化状態にある前記各袋状体を前記対象物に接触させる準備工程と、
前記硬軟手段により、前記各袋状体からの前記液状流体の排出を行い、該各袋状体を硬化状態にする硬化工程と、
前記硬軟手段により、前記各袋状体への前記液状流体の供給を行い、該各袋状体を軟化状態にした後、前記各袋状体を前記対象物に接触させる接触工程とを有し、
前記接触工程の終了後、前記硬軟手段により、前記各袋状体からの前記液状流体の排出を行い、該各袋状体を硬化状態にした際に、前記袋状体のいずれか1又は2以上と前記対象物とが非接触状態となることを条件として、前記液状流体を排出した非接触状態の袋状体と対象物とが接触状態となるまで、前記接触工程を行うことを特徴とする把持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な質量、大きさ、形状を有する対象物を、重力に影響されることなく安定して把持(挟持)可能な把持装置及びこれを用いた把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の手の届かない場所や、狭隘な場所、水中、宇宙空間、高放射線環境下などの場所では、遠隔操作による作業が不可欠となる。
このような遠隔作業においては、作業ツールの形状に合わせた専用の把持装置や、対象物の大きさや形状に合わせた多数の専用の把持装置を準備する必要があった。このため、専用の把持装置を準備するための費用が増大するだけでなく、準備するための時間や作業中の交換時間が増大することに繋がっていた。
そこで、作業対象に合わせた把持装置の準備を不要とするため、特許文献1に記載の把持装置が提案されている。この把持装置は、粉粒体を内包する袋体を使って対象物を把持するものであり、対象物の形状に合わせて袋体を変形させることにより、物品を安定して把持するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-220492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の把持装置は、対象物を、袋体(柔軟な膜)と対象物との間の摩擦力のみで把持するため、対象物の質量が大きい場合や、対象物が袋体より大きく袋体との接触面積を大きくできない場合は、対象物を安定して把持できず落下させるおそれがあった。
更に、この把持装置は、粉粒体が袋体内の下側(先側)に溜まるため、袋体の下方に配置された対象物は把持できる。しかし、例えば、袋体の上方に配置された対象物を把持するに際しては、重力の影響により、粉粒体が袋体内の下側(基側)に移動するため、対象物を把持できないおそれがあった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、様々な質量、大きさ、形状の対象物を、重力に影響されることなく安定して把持可能な把持装置及びこれを用いた把持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る把持装置は、ベース部に設けられ、液状流体と粉粒体を内部に充填した変形自在な袋状体をそれぞれ備える複数の指部により、対象物を把持する把持装置であって、
前記液状流体の前記袋状体からの排出及び前記袋状体への供給を行って、該袋状体を硬化状態及び軟化状態にする硬軟手段が設けられ、
前記粉粒体は、比重が異なる2種以上の粒状物で構成されている。
【0007】
本発明に係る把持装置において、前記粉粒体は少なくとも、前記液状流体より大きな比重の前記粒状物と、前記液状流体より小さな比重の前記粒状物を有することが好ましい。
【0008】
本発明に係る把持装置において、前記硬軟手段は、前記袋状体に取付けられた流体搬送用管材を介して前記液状流体の前記袋状体からの排出及び前記液状袋状体への供給を行うポンプと、前記流体搬送用管材の前記袋状体への取付け領域に設けられ、前記液状流体のみを通過可能とするフィルタとを有することが好ましい。
【0009】
本発明に係る把持装置において、前記各指部は更に、前記袋状体が設けられた補強部材を備え、駆動手段により前記袋状体が互いに接近又は離間するように、前記補強部材が前記ベース部に傾動可能に設けられていることが好ましい。
ここで、前記補強部材は弾性体であることが好ましい。
また、前記補強部材は前記袋状体の外部又は内部に設けることができる。
【0010】
前記目的に沿う第1の発明に係る把持方法は、本発明に係る把持装置を用いた把持方法であって、
前記複数の指部で対象物を掴み、軟化状態にある前記各袋状体を前記対象物に接触させる準備工程と、
前記硬軟手段により、前記各袋状体からの前記液状流体の排出を行い、該各袋状体を硬化状態にする硬化工程とを有し、
前記硬化工程における前記各袋状体からの前記液状流体の排出過程で、前記弾性体で構成された前記補強部材により、前記各袋状体の体積減少に伴って前記各指部に設けられた前記袋状体が互いに接近し、前記対象物の把持が完了する。
【0011】
前記目的に沿う第2の発明に係る把持方法は、本発明に係る把持装置を用いた把持方法であって、
前記複数の指部で対象物を掴み、軟化状態にある前記各袋状体を前記対象物に接触させる準備工程と、
前記硬軟手段により、前記各袋状体からの前記液状流体の排出を行い、該各袋状体を硬化状態にする硬化工程と、
前記硬軟手段により、前記各袋状体への前記液状流体の供給を行い、該各袋状体を軟化状態にして前記対象物に接触させる接触工程とを有し、
前記接触工程の終了後、前記硬軟手段により、前記各袋状体からの前記液状流体の排出を行い、該各袋状体を硬化状態にした際に、前記袋状体のいずれか1又は2以上と前記対象物とが非接触状態となることを条件として、該非接触状態の袋状体と対象物とが接触状態となるまで、前記接触工程を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る把持装置及びこれを用いた把持方法は、液状流体と粉粒体を内部に充填した変形自在な袋状体をそれぞれ備える複数の指部を有し、液状流体の袋状体からの排出及び袋状体への供給を行って、袋状体を硬化状態及び軟化状態にする硬軟手段が設けられているので、把持装置で対象物を掴んだ際に、各袋状体が対象物の形状にフィット(追従)して変形する。
ここで、袋状体内の粉粒体は、比重が異なる2種以上の粒状物で構成されているので、例えば、袋状体の下方又は上方に配置された対象物を把持装置で掴もうとする場合に、重力の影響によって、全ての粉粒体が袋状体内の下側のみ又は上側のみに移動することを抑制、更には、防止できるため、対象物を安定して把持することができる。
従って、様々な質量、大きさ、形状の対象物を、重力に影響されることなく安定して把持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係る把持装置の部分斜視図である。
図2】同把持装置を部分的に側面視した説明図である。
図3】同把持装置全体の説明図である。
図4】同把持装置の袋状体の内部構造を示す説明図である。
図5】(A)、(B)はそれぞれ同把持装置が対象物を把持する前の状態、把持した状態を示す説明図である。
図6】同把持装置を用いた把持システム全体の斜視図である。
図7】同把持装置の動作を示すフローチャートである。
図8】変形例に係る把持装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1図5(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係る把持装置10は、例えば、産業用ロボットのエンドエフェクタ(物体の把持に使用するエンドエフェクタ(把持機構)、即ちグリッパ)として使用され、様々な質量、大きさ、形状の対象物11を、重力に影響されることなく安定して把持(挟持)できる装置である。なお、把持する対象物11は、特に限定されるものではなく、例えば、各種機器、部品、食品等があり、その質量、大きさ、形状は様々(例えば、棒状や板状、球状)である。以下、詳しく説明する。
【0015】
把持装置10は、図1図3に示すように、ベース部12と、このベース部12の前方に配置された複数の指部13と、ベース部12の後方に配置された駆動手段(開閉機構)14、及び、硬軟手段(硬化機構)15とを有している。
ベース部12に設ける指部13の本数は、ここでは3本であるが、対象物11を掴んで(挟んで)把持可能な本数であれば特に限定されるものではなく、対象物の質量、大きさ、形状等に応じて、例えば、2本でもよく、また、4本以上でもよい(上限は、例えば10本程度)。
【0016】
指部13は、図1図2図5(A)、(B)に示すように、板状の補強部材16と、この補強部材16の片面に取付けられた袋状体17とを備えている。
板状の補強部材16の基部には取付け部18が設けられ、この取付け部18がベース部12に回動軸19を介して取付けられ、補強部材16がベース部12に対して傾動可能となっている。具体的には、複数の指部13が対象物11を掴んで把持できるように、各指部13の補強部材16の片面側を、間隔を有して対向させた状態で、各補強部材16がベース部12に配置されている。
【0017】
この補強部材16は長方形の板状(帯状)となって、その先側を、他の補強部材16に向けて屈曲させた形状となっているが、複数の指部が対象物を把持可能な形状であれば、特に限定されるものではなく、例えば、補強部材を、他の補強部材に向けて、基部から先部にかけて複数段に屈曲させてもよく、また、補強部材を、他の補強部材に向けて、円弧状に湾曲させてもよい。
更に、把持する対象物に応じて、補強部材の先側を他の部分よりも幅広又は幅狭にすることもでき、また、補強部材を棒状(1本又は複数本)や網状にすることもできる。
【0018】
補強部材16の厚みと材質等は、複数の指部13が対象物11を掴んで把持するための強度を有すれば、特に限定されるものではなく、掴む対象物の質量、大きさ、形状等に応じて、例えば、プラスチック製や金属製の板材(薄板材)等で構成でき、弾性体であることが好ましい。
なお、弾性体としては、例えば、板ばね(薄板ばねや重ね板ばね等)や強化プラスチック等を使用でき、板ばねを使用する場合は、把持する対象物に応じて板ばねの種類(ばね定数)を変更することができる。
【0019】
袋状体17は、例えば、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)やシリコン等の弾性材料で構成された変形自在な(柔軟性を有する)中空状のものであり、内部に充填される液状流体20や粉粒体21、また、接触する対象物11等で、損傷しない程度の厚みを有するものである。
この袋状体17は、補強部材16の片面(各補強部材16の対向側の片面)に、その基部から先部にかけて設けられている。これにより、複数の指部13にそれぞれ取付けられた各袋状体17は互いに対向し、複数の指部13で対象物11を掴んだ際には、各袋状体17が対象物11の表面と接触する。
【0020】
このように、袋状体17は補強部材16の片面(補強部材16は袋状体17の外部)に取付けられているが、袋状体を補強部材の先部から基部にかけて被せて(補強部材を袋状体の内部に)設けることもでき、また、複数の袋状体を、補強部材の先部から基部にかけて間隔を有して取付けることもできる。
なお、袋状体17の外表面は未処理(袋状体17の素材のまま)であるが、例えば、対象物との摩擦力が高められるように、袋状体の外表面に凹凸加工を施したり、また、滑止め部材等を貼付けたりすることもできる。
【0021】
図3図4に示すように、袋状体17の内部には、液状流体20と粉粒体21が充填されている(満たされている)。
液状流体20には、例えば、水や油等の液体を使用できる。
粉粒体21は、例えば、凹凸形状を有する粒状(粒径が、例えば1~5mm程度)のものであり、比重が異なる2種(2種類)の粒状物(粒状物A)22と粒状物(粒状物B)23で構成されている。この場合、一方の粒状物22の比重を液状流体20の比重より大きく(例えば、液状流体が水の場合は1より大きく)し、他方の粒状物23の比重を液状流体20の比重より小さく(例えば、液状流体が水の場合は1より小さく)することが好ましい。なお、粒状物22、23のいずれか一方の比重を、液状流体20の比重と同一にしてもよい。この粉粒体21(粒状物22、23)としては、例えば、コーヒー豆、シリコンビーズ(ビーズ玉)、そば殻、プラスチック粒体、セラミックス粒体、ガラス粒体、金属粒体等を使用できるが、プラスチック、セラミックス、ガラス、及び、金属のいずれか1又は2以上を用いて、比重の異なるものを(意図した比重のものを)人工的に製造することもできる。
【0022】
このように、粉粒体21を比重が異なる2種の粒状物22、23で構成するのは、掴もうとする対象物11の配置位置によっては、重力の影響により、袋状体内の粉粒体が袋状体内の下側のみ又は上側のみに偏り(例えば、粉粒体が袋状体の全体に渡って万遍なく行き渡らない状態で、後述するジャミング転移現象が発生し)、対象物を把持できなくなることによる。
例えば、袋状体の上方に対象物が配置され、この対象物を把持しようとする袋状体が上下方向に配置された場合、粉粒体が液状流体の比重より大きい粒状物のみで構成されていれば、重力の影響によって、粉粒体が袋状体の下側に集まった状態でジャミング転移現象が発生し、対象物を把持できなくなり、また、袋状体の下方に対象物が配置され、この対象物を把持しようとする袋状体が上下方向に配置された場合、粉粒体が液状流体の比重より小さい粒状物のみで構成されていれば、重力の影響によって、粉粒体が袋状体の上側に集まった状態でジャミング転移現象が発生し、対象物を把持できなくなる(図5(A)参照)。
【0023】
なお、粉粒体21を比重の異なる2種の粒状物22、23で構成する場合、粒状物22、23の混合割合は、粉粒体21(粒状物22、23全体)の体積を100体積%として、一方の粒状物22の混合割合を、例えば、40~60体積%とするのがよい(他方の粒状物23の混合割合を、例えば、60~40体積%)。
また、粉粒体は、比重の異なる3種の粒状物で構成することもできる。この場合、粉粒体を、例えば、液状流体の比重より大きな粒状物aと、小さな粒状物bと、同程度(同一)の粒状物cとで構成できる。更に、粉粒体を、比重の異なる4種以上(上限は、例えば10種程度)の粒状物で構成する場合は、例えば、上記した粒状物aと粒状物cとの間の比重や、粒状物bと粒状物cとの間の比重を備えた粒状物等を、更に加えるのがよい。なお、比重の異なる2種以上の粒状物は全て、液状流体の比重より大きいもののみ、又は、小さいもののみにすることもできる。
【0024】
この袋状体17の内部に充填される粉粒体21の量(体積量)は、対象物11と接触した際に、袋状体17が対象物11の表面形状に追従して変形できれば、特に限定されるものではないが、袋状体17が膨らんだ状態での内容積を100%として、例えば、60~80%であるのがよい。
ここで、粉粒体の体積量が袋状体の内容積の60%未満の場合、充填される粉粒体が少な過ぎて、対象物の表面形状に対応できず、一方、粉粒体の体積量が袋状体の内容積の80%超の場合、充填される粉粒体が多過ぎて、対象物に接触しても粉粒体が移動できず、袋状体が変形しづらくなる。
【0025】
駆動手段14は、図2図3に示すように、指部13ごとに設けられている(即ち、1つの指部13に1つの駆動手段14が設けられている)。
駆動手段14は、指部13が設けられた取付け部18に、その一端部が取付けられた連結ロッド24と、この連結ロッド24の他端部に、その先端部が取付けられたアクチュエータ(シリンダ(油圧又は空圧等))25とを有している。このアクチュエータ25には、チューブ26を介してポンプ27が接続され、このポンプ27を動作させることでアクチュエータ25が往復駆動する。これにより、図5(A)、(B)に示すように、指部13の補強部材16に力が作用し、アクチュエータ25の動きに応じて複数の指部13が、ベース部12に対して回動軸19を中心として傾動し、対向する指部13が開閉する(各袋状体17が互いに接近又は離間する)。
【0026】
硬軟手段15は、図3図4に示すように、指部13ごとに設けられている(即ち、1つの指部13に1つの硬軟手段15が設けられている)。
硬軟手段15は、電動ポンプ(ポンプの一例)28と、受けタンク29と、電動ポンプ28と受けタンク29と袋状体17を繋ぐチューブ(流体搬送用管材の一例)30と、袋状体17とチューブ30の間に設けたフィルタ31とを有している。この電動ポンプ28は、チューブ30を介して液状流体20の袋状体17からの排出及び袋状体17への供給を行うものであり、フィルタ31は、袋状体17とチューブ30との間で液状流体20のみを通過可能とするものである(粉粒体21は通さない)。
【0027】
ここで、電動ポンプ28を動作させて、指部13の袋状体17から液状流体20を排出すると、ジャミング転移現象を発生して袋状体17が硬化(固化)し、また、指部13の袋状体17に液状流体20を供給(注入)すると、袋状体17が軟化する。この液状流体20の袋状体17からの排出と袋状体17への供給は、瞬時(例えば、3秒以下程度)に行われる。
なお、フィルタ31は、袋状体17内の粉粒体21がチューブ30内に侵入しない位置(チューブ30の袋状体17への取付け領域)に設ければよく、ここでは、袋状体17へのチューブ30の取付け部分に突出させて設けているが、袋状体内のチューブの取付け部分に設けることもできる。
【0028】
上記した駆動手段14と硬軟手段15は、有線又は無線の制御手段(図示しない)を使用して、ポンプ27と電動ポンプ28をそれぞれ動かすことにより動作させることができる。なお、駆動手段14と硬軟手段15の動作は、例えば、作業者等が、把持装置10の指部13の動作を確認しながら制御手段を操作することで行うことができるが、例えば、プログラムを制御手段に予め入力しておき、この入力されたプログラムに基づいて自動的に行うこともできる。
【0029】
上記した把持装置10は、ベース部12の背面側を、図6に示す把持システム32のロボットアーム33の先端部に設けることができ、コントローラ(制御手段)34により、ロボットアーム33の動作範囲内の任意の位置に移動させることができる。このとき、把持する対象物11が、ロボットアーム33の動作範囲内にあれば、把持装置10により把持できる。
このように、把持装置10を把持システム32に設ける場合、駆動手段14のチューブ26と、硬軟手段15の袋状体17に接続されたチューブ30は、ロボットアーム33内に収容配置され、ロボットアーム33外に配置されたポンプ27と電動ポンプ28にそれぞれ接続されるが、チューブ26、30をロボットアーム33外に配置してもよい。
また、把持システム32のコントローラ34と、前記した把持装置10の制御手段とを一体にすることもできる。
【0030】
続いて、本発明の一実施の形態に係る把持方法について、図6図7を参照しながら説明する。なお、ここでは、複数の指部13の補強部材16が、弾性体(板ばね)で構成されている場合について説明する。
まず、図6に示す把持システム32のロボットアーム33を動かして、ロボットアーム33に設けられた把持装置10の指部13を対象物11に近づける(ステップ1(ST1):図5(A)参照)。
【0031】
(準備工程)
複数の駆動手段14(ポンプ27)をそれぞれ動かし、複数の指部13で対象物11を掴み、軟化状態にある各袋状体17を対象物11に接触させる(ステップ2(ST2))。
(硬化工程)
複数の硬軟手段15(電動ポンプ28)により、各袋状体17からの液状流体20の排出をそれぞれ行い、各袋状体17を硬化状態にする。この各袋状体17からの液状流体20の排出過程においては、弾性体で構成された補強部材16により、各袋状体17の体積減少に伴って各指部13に設けられた袋状体17が互いに接近する(指部13が対象物11の形状に対応して自然に閉じる)(ステップ3(ST3))。
このため、上記した準備工程においては、硬化工程における袋状体17の体積減少を考慮して、複数の指部13で対象物11をより強く(補強部材16が反る程度に)掴むことが好ましい。
これにより、対象物11の把持動作を完了する(ステップ4(ST4):(図5(B)参照))。
【0032】
上記した操作により、把持動作が完了した場合、全ての袋状体17が対象物11の任意の形状にフィットして変形し、対象物11と袋状体17の外表面との間に接触摩擦力が発生する。また、袋状体17内の凹凸形状をした粉粒体21同士(粒状物22、22同士、粒状物22、23同士、粒状物23、23同士)の接触摩擦により、袋状体17は硬くなり、補強部材16によって対象物11が拘束される。
これにより、対象物11を安定して把持することができる。なお、対象物が、例えば、長棒のような重心が不安定な物でも、また、把持装置の質量と比較して大きくても、安定して把持することができる。
【0033】
更に、変形例に係る把持方法について、図6図8を参照しながら説明する。なお、ここでは、例えば、複数の指部13の補強部材16が、弾性体以外のもの(単なる板材等)で構成されている場合について説明する。
まず、図6に示す把持システム32のロボットアーム33を動かして、ロボットアーム33に設けられた把持装置10の指部13を対象物11に近づける(ステップ1(ST1):図5(A)参照)。
【0034】
(準備工程)
複数の駆動手段14(ポンプ27)をそれぞれ動かし、複数の指部13で対象物11を掴み、軟化状態にある各袋状体17を対象物11に接触させる(ステップ2(ST2))。
(硬化工程)
複数の硬軟手段15(電動ポンプ28)により、各袋状体17からの液状流体20の排出をそれぞれ行い、各袋状体17を硬化状態にする。このとき、各袋状体17の体積減少により、一部又は全部(1又は2以上)の袋状体17が対象物11と非接触状態になる(ステップ3(ST3))。
【0035】
(接触工程)
複数の硬軟手段15により、各袋状体17への液状流体20の供給をそれぞれ行い、各袋状体17を軟化状態にした後、複数の駆動手段14をそれぞれ動かし、複数の指部13で対象物11を掴み、軟化状態にある各袋状体17を対象物11に再度接触させる(ステップ4(ST4))。
上記した接触工程の終了後、複数の硬軟手段15により、各袋状体17からの液状流体20の排出をそれぞれ行い、各袋状体17を硬化状態にした際に、全ての袋状体17と対象物11とが接触状態を維持しているか、また、袋状体17の一部又は全部と対象物11とが非接触状態であるかを判断する。
【0036】
上記した判断は、例えば、作業者が、コントローラ34を用いてロボットアーム33を動かした際に、対象物11が把持装置10から落下しそうになる状況等を目視により確認して判断することができるが、例えば、複数の駆動手段14の電流変動をそれぞれ検知すること、また、各袋状体17の対象物11との接触面側に感圧センサ等を取付け、その圧力変動等を検知すること等で、判断することもできる(ステップ5(ST5))。
ここで、全部の袋状体17と対象物11とが接触状態を維持していると判断された場合、把持動作を完了する(ステップ6(ST6):(図5(B)参照))。
【0037】
一方、袋状体17のいずれか1又は2以上と対象物11とが非接触状態であると判断された場合、ステップ4へ戻り、複数の硬軟手段15により、各袋状体17への液状流体20の供給をそれぞれ行い、各袋状体17を軟化状態にした後、複数の駆動手段14をそれぞれ動かし、複数の指部13で対象物11を掴み、軟化状態にある各袋状体17を対象物11に再度接触させる。
上記したステップ4へ戻る操作を、全部の袋状体17と対象物11とが接触状態を維持していると判断されるまで(非接触状態の袋状体17と対象物11とが接触状態となるまで)、繰返しを行う。
【0038】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の把持装置及びこれを用いた把持方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、1つの指部に、駆動手段と硬軟手段が1つずつ設けられた場合について説明したが、1つの駆動手段で2つ以上の指部を動かすこともでき、また、1つの硬軟手段で2つ以上の指部を動かすこともできる。
また、前記実施の形態においては、袋状体とチューブとの接続領域に、液状流体のみを通過可能にするフィルタを設けた場合について説明したが、例えば、チューブの内側断面積が粉粒体の大きさ(最小幅)よりも小さい場合には、フィルタを省略することもできる。
更に、前記実施の形態においては、指部が補強部材を備えた場合について説明したが、把持する対象物によっては、補強部材を用いなくてもよい。この場合、補強部材を傾動させる駆動手段を設けなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る把持装置及びこれを用いた把持方法は、様々な質量、大きさ、形状の対象物を、重力に影響されることなく安定して把持可能である。これにより、例えば、産業用ロボットのエンドエフェクタとして有効に利用でき、人の手の届かない場所や、狭隘な場所、水中、宇宙空間、高放射線環境下などの場所での遠隔操作による作業が容易になる。
【符号の説明】
【0040】
10:把持装置、11:対象物、12:ベース部、13:指部、14:駆動手段、15:硬軟手段、16:補強部材、17:袋状体、18:取付け部、19:回動軸、20:液状流体、21:粉粒体、22:粒状物(粒状物A)、23:粒状物(粒状物B)、24:連結ロッド、25:アクチュエータ、26:チューブ、27:ポンプ、28:電動ポンプ(ポンプ)、29:受けタンク、30:チューブ(流体搬送用管材)、31:フィルタ、32:把持システム、33:ロボットアーム、34:コントローラ
図1
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図8