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特許7553010レーザ溶接欠陥検出装置およびレーザ溶接欠陥検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】レーザ溶接欠陥検出装置およびレーザ溶接欠陥検出方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240910BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20240910BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240910BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/064 K
B23K26/21 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020069293
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021164939
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508333033
【氏名又は名称】株式会社NISHIHARA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 駿
(72)【発明者】
【氏名】中新 紘貴
(72)【発明者】
【氏名】木下 正吉
(72)【発明者】
【氏名】井戸 諒治
(72)【発明者】
【氏名】柏木 孝介
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】川上 佳剛
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-183980(JP,A)
【文献】特開平05-337662(JP,A)
【文献】特開2000-042769(JP,A)
【文献】特開2005-034885(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102006013960(DE,A1)
【文献】特開2016-093825(JP,A)
【文献】特開2016-121385(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0175071(US,A1)
【文献】特開2015-188938(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第4140182(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発振するレーザ光発振装置と、
前記レーザ光発振装置により発振されたレーザ光を溶接箇所に照射するレーザ光照射装置と、
レーザ光の照射により溶接箇所から発生した熱放射光の強度を検知する熱放射光センサーと、
前記レーザ光発振装置に接続された光ファイバーを有し、かつ前記レーザ光発振装置からレーザ光を前記レーザ光照射装置へ伝送するレーザ光伝送経路と、
前記レーザ光照射装置から前記熱放射光センサーへ熱放射光を伝送し、かつ前記光ファイバーを前記レーザ光伝送経路との間で共有する熱放射光伝送経路と
前記熱放射光センサーにより検知された熱放射光の強度に基づいて溶接箇所におけるビード幅を算出し、算出したビード幅が閾値未満であるか否かに基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定するコントローラと、を備えた、レーザ溶接欠陥検出装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記熱放射光センサーにより検知された熱放射光の強度が閾値未満であるか否かに基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する、請求項1に記載のレーザ溶接欠陥検出装置。
【請求項3】
内部空間を有し、前記内部空間に前記レーザ光発振装置と前記熱放射光センサーとの双方を収納する筐体をさらに備えた、請求項1または請求項に記載のレーザ溶接欠陥検出装置。
【請求項4】
レーザ光を発振するステップと、
発振されたレーザ光を、レーザ光照射装置に接続された光ファイバーを有するレーザ光伝送経路を経由して前記レーザ光照射装置へ伝送するステップと、
前記レーザ光照射装置から溶接箇所にレーザ光を照射するステップと、
レーザ光の照射により溶接箇所から発生した熱放射光を、前記光ファイバーを前記レーザ光伝送経路との間で共有する熱放射光伝送経路を経由して熱放射光センサーへ伝送するステップと、
前記熱放射光センサーにより熱放射光の強度を検知するステップと
検知された熱放射光の強度に基づいて溶接箇所におけるビード幅を算出するステップと、
算出したビード幅が閾値未満であるか否かに基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定するステップと、を備えた、レーザ溶接欠陥検出方法。
【請求項5】
検知された熱放射光の強度が閾値未満であるか否かに基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定するステップをさらに備えた、請求項に記載のレーザ溶接欠陥検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ溶接欠陥検出装置およびレーザ溶接欠陥検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光で溶接を行なっている状態で溶接の欠陥を検査するレーザ溶接欠陥検出装置は、たとえば特開2000-334587号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
特許文献1では、レーザ溶接時にワークから放出される溶接光(反射光、プラズマ光)がレーザトーチ(加工ヘッド)内部の光学系を通してレーザ照射光と光学的に同軸に取得される。取得された溶接光は光電変換され、光電変換により得られた電気信号に基づいて欠陥有無などの溶接状態が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-334587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業機械などの部品の溶接においては、大型で厚い素材が溶接対象物として用いられる。このためそのような素材をレーザ溶接する際には溶接対象物を固定して、レーザ溶接機の加工ヘッドを移動させる必要がある。
【0006】
またレーザ溶接の場合、溶接対象物に対するレーザ光の焦点位置が変化すると、正確な溶接ができなくなる。このため加工ヘッドと溶接対象物との間の距離を一定に管理することが重要となる。仮にレーザ溶接時に加工ヘッドと溶接対象物との双方を移動させると、溶接対象物に対するレーザ光の焦点位置の管理が難しくなる。この点からもレーザ溶接時には、溶接対象物を固定して、レーザ溶接機の加工ヘッドを移動させる必要がある。
【0007】
また作業機械などの部品においては溶接形状が複雑となる場合が多い。このため加工ヘッドを溶接対象物に対して上下、左右、前後に立体的に移動させながらレーザ溶接を行なう必要がある。
【0008】
特許文献1に記載のレーザ溶接欠陥検出装置によれば、溶接光を光電変換するセンサが加工ヘッドに接続されている。このため加工ヘッドの移動における制約が多くなり、複雑な溶接形状に対応することが難しい。
【0009】
本開示の目的は、溶接欠陥を検出でき、かつ複雑な溶接形状に対応が容易なレーザ溶接欠陥検出装置およびレーザ溶接欠陥検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のレーザ溶接欠陥検出装置は、レーザ光発振装置と、レーザ光照射装置と、熱放射光センサーと、レーザ光伝送経路と、熱放射光伝送経路とを備えている。レーザ光発振装置は、レーザ光を発振する。レーザ光照射装置は、レーザ光発振装置により発振されたレーザ光を溶接箇所に照射する。熱放射光センサーは、レーザ光の照射により溶接箇所から発生した熱放射光の強度を検知する。レーザ光伝送経路は、レーザ光発振装置に接続された光ファイバーを有し、かつレーザ光発振装置からレーザ光をレーザ光照射装置へ伝送する。熱放射光伝送経路は、レーザ光照射装置から熱放射光センサーへ熱放射光を伝送し、かつ光ファイバーをレーザ光伝送経路との間で共有する。
【0011】
本開示のレーザ溶接欠陥検出方法は、以下のステップを有している。
【0012】
レーザ光が発振される。発振されたレーザ光が、レーザ光照射装置に接続された光ファイバーを有するレーザ光伝送経路を経由してレーザ光照射装置へ伝送される。レーザ光照射装置から溶接箇所にレーザ光が照射される。レーザ光の照射により溶接箇所から発生した熱放射光が、光ファイバーをレーザ光伝送経路との間で共有する熱放射光伝送経路を経由して熱放射光センサーへ伝送される。熱放射光センサーにより熱放射光の強度が検出される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、溶接欠陥を検出でき、かつ複雑な溶接形状に対応が容易なレーザ溶接欠陥検出装置およびレーザ溶接欠陥検出方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施の形態に係るレーザ溶接欠陥検出装置の構成を示す斜視図である。
図2図1に示すレーザ溶接欠陥検出装置に含まれるコントローラの機能ブロックを示す図である。
図3】一実施の形態に係るレーザ溶接欠陥検出方法を示すフロー図である。
図4】一実施の形態に係るレーザ溶接欠陥検出方法の変形例を示すフロー図である。
図5】比較例に係るレーザ溶接欠陥検出装置の構成を示す模式図である。
図6】レーザ光を用いた重ね継手溶接により作製した複数の試料における溶接箇所の断面を示す図である。
図7】ビード幅と接合幅との関係を示す図である。
図8】熱放射光強度とビード幅との関係を示す図である。
図9】横軸に沿って図中左側から右側へ溶接をした場合に、溶接条件を途中で変えたときの熱放射光強度およびビード幅の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書および図面において、同一の構成要素または対応する構成要素には、同一の符号を付し、重複する説明を繰り返さない。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。また、実施の形態と変形例とは、互いに任意に組み合わされてもよい。
【0016】
<レーザ溶接欠陥検出装置の構成>
まず本実施の形態に係るレーザ溶接欠陥検出装置の構成について図1を用いて説明する。
【0017】
図1は、一実施の形態に係るレーザ溶接欠陥検出装置の構成を示す斜視図である。図1に示されるように、レーザ溶接欠陥検出装置10は、レーザ溶接をするとともに、溶接箇所における欠陥の有無を検出する装置である。
【0018】
レーザ溶接欠陥検出装置10は、レーザ光発振装置1と、レーザ光伝送経路2a、2b、5と、加工ヘッド3(レーザ光照射装置)と、熱放射光伝送経路2a、2c、5と、熱放射光センサー4と、筐体6と、コントローラ20とを有している。
【0019】
レーザ光発振装置1は、レーザ光を発振する。レーザ光は、たとえば光ファイバー内を伝搬できるレーザ光であればよい。レーザ光は、たとえばYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ光、半導体レーザ光、ファイバーレーザー光のいずれかである。
【0020】
加工ヘッド3は、レーザ光発振装置1により発振されたレーザ光を溶接箇所に照射する部分である。加工ヘッド3は、内部にレンズなどの光学系を有している。加工ヘッド3の光学系によりレーザ光は集光されて溶接箇所に照射される。加工ヘッド3は、レーザ光を溶接箇所に対してたとえば垂直に照射する。
【0021】
加工ヘッド3は、溶接対象物11、12に対して、上下、左右、前後に立体的に移動できるように構成されている。加工ヘッド3は、たとえば多関節ロボットアームに取り付けられている。加工ヘッド3は、溶接対象物11、12に対して、上下、左右、前後に移動可能であれば、多関節ロボットアーム以外の部材(たとえばガイドレールなど)に取り付けられていてもよい。
【0022】
加工ヘッド3は、溶接箇所から発生した熱放射光を取得し、熱放射光伝送経路2a、2c、5へ伝送する部分である。加工ヘッド3において熱放射光は、レーザ光と同じ光学系を同軸に伝送される。熱放射光が加工ヘッド3の光学系を伝送される方向は、レーザ光が加工ヘッド3の光学系を伝送する方向と逆方向である。
【0023】
熱放射光センサー4は、レーザ光の照射により溶接箇所から発生した熱放射光の強度を検知する部分である。熱放射光センサー4は、受光した熱放射光を光電変換して、電気信号を得る光電変換素子である。熱放射光センサー4は、たとえばフォトダイオードである。
【0024】
レーザ光伝送経路2a、2b、5は、レーザ光発振装置1と加工ヘッド3との間を繋いでいる。レーザ光伝送経路2a、2b、5は、レーザ光発振装置1から発振されたレーザ光をレーザ光照射装置3へ伝送する部分である。
【0025】
レーザ光伝送経路2a、2b、5は、光ファイバー2aと、光ファイバー2bと、光分岐器5とを有している。光ファイバー2aの一端は加工ヘッド3に接続されている。光ファイバー2bの一端はレーザ光発振装置1に接続されている。光ファイバー2aの他端と光ファイバー2bの他端との各々は、光分岐器5に接続されている。
【0026】
熱放射光伝送経路2a、2c、5は、レーザ光発振装置1と熱放射光センサー4との間を繋いでいる。熱放射光伝送経路2a、2c、5は、レーザ光照射装置3から熱放射光センサー4へ熱放射光を伝送する部分である。
【0027】
熱放射光伝送経路2a、2c、5は、光ファイバー2aと、光ファイバー2cと、光分岐器5とを有している。光ファイバー2cの一端は熱放射光センサー4に接続されている。光ファイバー2cの他端は光分岐器5に接続されている。
【0028】
レーザ光伝送経路2a、2b、5と、熱放射光伝送経路2a、2c、5とは、光分岐器5と、レーザ光発振装置1に接続された光ファイバー2aとを共有している。光ファイバー2bと光ファイバー2cとは、光分岐器5を介在して光ファイバー2aから分岐している。
【0029】
光分岐器5は、レーザ光発振装置1から発振されたレーザ光を光ファイバー2bから光ファイバー2aへ伝送するが、光ファイバー2cへは伝送しないように構成されている。また光分岐器5は、加工ヘッド3が受け取った熱放射光を光ファイバー2aから光ファイバー2cへ伝送するが、光ファイバー2bへは伝送しないように構成されている。光分岐器5は、たとえば光サーキュレータ、分光フィルタ、光カプラ、スプリッタなどである。
【0030】
筐体6は、内部空間を有している。筐体6の内部空間には、少なくともレーザ光発振装置1、熱放射光センサー4、光ファイバー2b、2cおよび光分岐器5が配置されている。筐体6の内部空間には、光ファイバー2aの一部が配置されていてもよい。筐体6は加工ヘッド3に取り付けられておらず、加工ヘッド3とは分離されている。
【0031】
コントローラ20は、熱放射光センサー4と有線または無線で接続されている。コントローラ20は、たとえばプロセッサであり、CPU(Central Processing Unit)であってもよい。コントローラ20は、熱放射光センサー4により検出された熱放射光の強度に基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する。
【0032】
<コントローラ20の機能ブロック>
次に、図1に示すレーザ溶接欠陥検出装置10に含まれるコントローラ20の機能ブロックについて図2を用いて説明する。
【0033】
図2は、図1に示すレーザ溶接欠陥検出装置に含まれるコントローラの機能ブロックを示す図である。図2に示されるように、コントローラ20は、少なくとも熱放射光強度取得部20aと、欠陥判定部20cと、記憶部20dとを有している。
【0034】
熱放射光強度取得部20aは、熱放射光センサー4から熱放射光の強度を表す電気信号を取得する。熱放射光強度取得部20aは、取得した熱放射光の強度を表す電気信号を欠陥判定部20cへ出力する。
【0035】
欠陥判定部20cは、取得した熱放射光の強度を表す電気信号に基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する。欠陥判定部20cは、たとえば熱放射光の強度が閾値未満か否かにより溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する。具体的には欠陥判定部20cは、熱放射光の強度が閾値未満である場合には溶接箇所に欠陥があると判定し、熱放射光の強度が閾値以上である場合には溶接箇所に欠陥がないと判定する。
【0036】
上記判定に用いられる閾値は、たとえば記憶部20dに記憶されている。欠陥判定部20cは、溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する際に、記憶部20dから閾値を取得する。
【0037】
欠陥判定部20cは、溶接箇所に欠陥があるか否かの判定結果を表示部8に出力する。表示部8は、コントローラ20の外部に配置されている。表示部8は、取得した溶接箇所に欠陥があるか否かの判定結果を表示する。
【0038】
上記においては熱放射光の強度から溶接箇所の欠陥を直接判定する場合について説明したが、熱放射光からビード幅を算出し、そのビード幅に基づいて溶接箇所の欠陥が判定されてもよい。この場合、コントローラ20は、ビード幅算出部20bを有している。
【0039】
ビード幅算出部20bは、熱放射光強度取得部20aから熱放射光の強度を表す電気信号を取得する。ビード幅算出部20bは、取得した熱放射光の強度を表す電気信号に基づいてビード幅を算出する。
【0040】
具体的にはビード幅算出部20bは、熱放射光の強度とビード幅との関係を示すテーブルを参照して、取得した熱放射光の強度からビード幅を算出する。上記の熱放射光の強度とビード幅との関係を示すテーブルは、たとえば記憶部20dに記憶されている。ビード幅算出部20bは、ビード幅を算出する際に、上記の熱放射光の強度とビード幅との関係を示すテーブルを記憶部20dから取得する。
【0041】
ビード幅算出部20bは、算出したビード幅を欠陥判定部20cに出力する。欠陥判定部20cは、取得したビード幅に基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する。たとえば欠陥判定部20cは、ビード幅が閾値未満か否かにより溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する。具体的には欠陥判定部20cは、ビード幅が閾値未満である場合には溶接箇所に欠陥があると判定し、ビード幅が閾値以上である場合には溶接箇所に欠陥がないと判定する。
【0042】
上記判定に用いられる閾値は、たとえば記憶部20dに記憶されている。欠陥判定部20cは、溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する際に、記憶部20dから閾値を取得する。記憶部20dには、たとえば入力部7から閾値などの情報が入力される。
【0043】
欠陥判定部20cは、溶接箇所に欠陥があるか否かの判定結果を表示部8に出力する。表示部8は、取得した溶接箇所に欠陥があるか否かの判定結果を表示する。
【0044】
なお記憶部20dは、コントローラ20に含まれておらず、コントローラ20の外部に配置されていてもよい。また記憶部20dには、コントローラ20の外部の入力部7から、閾値、熱放射光の強度とビード幅との関係を示すテーブルなどの情報が記憶されてもよい。
【0045】
<レーザ溶接欠陥検出方法>
次に、図1および図2に示すレーザ溶接欠陥検出装置を用いたレーザ溶接欠陥検出方法について図1図3を用いて説明する。
【0046】
図3は、一実施の形態に係るレーザ溶接欠陥検出方法を示すフロー図である。図1および図3に示されるように、まずレーザ光発振装置1からレーザ光が発振される(ステップS1:図3)。
【0047】
レーザ光発振装置1から発振されたレーザ光は、レーザ光伝送経路2a、2b、5を経由して加工ヘッド3へ伝送される(ステップS2:図3)。具体的にはレーザ光発振装置1から発振されたレーザ光は、光ファイバー2b、光分岐器5および光ファイバー2aを順に経由して加工ヘッド3へ伝送される。この際、レーザ光発振装置1から発振されたレーザ光は、光分岐器5の機能によって光ファイバー2bから光ファイバー2cへ伝送されることはない。
【0048】
加工ヘッド3に伝送されたレーザ光は、加工ヘッド3内の光学系により集光されて加工ヘッド3から溶接箇所に照射される(ステップS3:図3)。これにより溶接対象物11、12をレーザ溶接によって接合することができる。
【0049】
具体的にはレーザ溶接欠陥検出装置10は、レーザ光を用いて、たとえば重ね継手溶接を行なう。重ね継手溶接においては、たとえば溶接対象物である下板11および上板12が重ね合わされた状態でレーザ溶接が行なわれる。加工ヘッド3において集光されたレーザ光は、上板12に照射される。レーザ光が上板12に照射されることにより、上板12から下板11に向かってキーホールが形成され、上板12だけでなく下板11も溶融する。これにより下板11および上板12の双方が溶融し一体化する。溶融した部分は凝固し、溶接痕としてのビード13が生じる。
【0050】
上記レーザ光の照射により溶接箇所から熱放射光が発生する。溶接箇所から発生した熱放射光は、加工ヘッド3の光学系と熱放射光伝送経路2a、2c、5とを経由して熱放射光センサー4へ伝送される(ステップS4:図3)。具体的には溶接箇所から発生した熱放射光は、加工ヘッド3の光学系と、光ファイバー2aと、光分岐器5と、光ファイバー2cとを順に経由して熱放射光センサー4へ伝送される。この際、加工ヘッド3の光学系を経由した熱放射光は、光分岐器5の機能によって光ファイバー2aから光ファイバー2bへ伝送されることはない。
【0051】
光ファイバー2cを伝送される熱放射光は、熱放射光センサー4により受光される。熱放射光センサー4は、受光した熱放射光の強度を検知する(ステップS5:図3)。具体的には、熱放射光センサー4は、受光した熱放射光を光電変換することにより、熱放射光の強度を示す電気信号に変換する。
【0052】
図2および図3に示されるように、コントローラ20の熱放射光強度取得部20aは、熱放射光センサー4から熱放射光の強度を表す電気信号を取得して、欠陥判定部20cへ出力する。欠陥判定部20cは、熱放射光センサー4により得られた熱放射光の強度が閾値未満か否かに基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する(ステップS6:図3)。
【0053】
具体的には、熱放射光の強度が閾値未満である場合には溶接箇所に欠陥が有ると判定される(ステップS7:図3)。また熱放射光の強度が閾値以上である場合には溶接箇所に欠陥が無いと判定される(ステップS8:図3)。
【0054】
上記によりコントローラ20は、熱放射光センサー4により検出された熱放射光の強度に基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定することにより溶接欠陥を検出する。
【0055】
上記においては熱放射光の強度に基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する場合について説明したが、熱放射光から算出されたビード幅に基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かが判定されてもよい。この場合におけるレーザ溶接欠陥検出方法を図4を用いて以下に説明する。
【0056】
図4は、一実施の形態に係るレーザ溶接欠陥検出方法の変形例を示すフロー図である。図4に示されるように、本変形例におけるレーザ溶接欠陥検出方法は、図3に示すステップS1~S5と同様のステップを経る。この後、検知された熱放射光の強度から溶接箇所のビード幅が算出される(ステップS11:図4)。
【0057】
図2および図4に示されるように、コントローラ20の熱放射光強度取得部20aは、熱放射光センサー4から熱放射光の強度を表す電気信号を取得して、ビード幅算出部20bへ出力する。
【0058】
ビード幅算出部20bは、熱放射光の強度とビード幅との関係を示すテーブルを参照して、取得した熱放射光の強度からビード幅を算出する。ビード幅算出部20bは、算出したビード幅を欠陥判定部20cに出力する。欠陥判定部20cは、ビード幅が閾値未満か否かに基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する(ステップS12:図4)。
【0059】
具体的には、ビード幅が閾値未満である場合には溶接箇所に欠陥が有ると判定される(ステップS7:図4)。またビード幅が閾値以上である場合には溶接箇所に欠陥が無いと判定される(ステップS8:図4)。
【0060】
上記によりコントローラ20は、ビード幅に基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定することにより溶接欠陥を検出する。
【0061】
<効果>
次に、上記実施の形態における効果について図5に示す比較例と対比して説明する。
【0062】
図5は、比較例に係るレーザ溶接欠陥検出装置の構成を示す模式図である。図5に示されるように、比較例のレーザ溶接欠陥検出装置10Aでは、レーザ光発振装置1と加工ヘッド3との間の光伝送経路2bと、加工ヘッド3と光センサー4aとの間の光伝送経路2cとの間で光ファイバーが共有されていない。
【0063】
具体的にはレーザ光発振装置1と加工ヘッド3との間は光ファイバー2bにより接続されている。また加工ヘッド3と光センサー4aとの間は光ファイバー2cにより接続されている。光ファイバー2bと光ファイバー2cとは互いに異なる光伝送経路を構成しており、光伝送経路を共有していない。
【0064】
比較例に係るレーザ溶接欠陥検出装置では、加工ヘッド3に2つの異なる光ファイバー2b、2cが接続されている。このため加工ヘッド3が上下、左右、前後に立体的に移動する際の移動の制約が多くなる。よって複雑な溶接形状に対応することが難しい。
【0065】
これに対して上記実施の形態および変形例によれば、図1に示されるようにレーザ光発振装置1と加工ヘッド3との間のレーザ光伝送経路と、加工ヘッド3と光センサー4aとの間のレーザ光伝送経路との間で光ファイバー2aが共有されている。このため加工ヘッド3に接続される光ファイバーは光ファイバー2aの1つのみである。よって加工ヘッド3が上下、左右、前後に立体的に移動する際の移動の制約が少なくなる。よって、たとえば作業機械のブームなどの部品をレーザ溶接する際においても複雑な溶接形状に対応することが容易となる。
【0066】
また本実施の形態によれば、図2に示されるように、熱放射光センサー4により検出された熱放射光の強度に基づいてコントローラ20が溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する。
【0067】
ここで本発明者らは、レーザ溶接におけるビード幅が小さくなると溶接箇所に欠陥が生じるという知見を得た。以下、その知見について説明する。
【0068】
本発明者らは、レーザ光を用いた重ね継手溶接を行なうことで、ビード幅の異なる複数の試料を作製し、それらの試料の溶接箇所の断面を観察した。その結果を、図6に示す。
【0069】
図6は、レーザ光を用いた重ね継手溶接により作製した複数の試料における溶接箇所の断面を示す図である。図6に示されるように、試料A、B、C、Dの各ビード幅a、b、c、dは、a>b>c>dの関係を有している。つまり試料Aのビード幅が最も大きく、次いで試料B、C、Dの順でビード幅が小さくなっている。
【0070】
最もビード幅の大きい試料Aにおいては、溶接対象物である下板11と上板12との接合幅も十分であり、欠陥は見当たらなかった。また試料B、Cにおいては、下板11と上板12との接合幅が試料Aよりも小さく、下板11と上板12との間に隙間14が生じているものの、接合幅は十分な大きさを有していた。
【0071】
これに対して、作製した試料のうち最もビード幅の小さい試料Dでは、下板11と上板12とが接合されておらず、下板11と上板12との間の隙間14も大きい。
【0072】
上記の結果から、ビード幅が小さくなると、下板11と上板12との接合幅が小さくなることが分かった。またビード幅が小さくなりすぎると、下板11と上板12とが接合されず(接合幅が0になり)、溶接欠陥が生じることが分かった。
【0073】
そこで本発明者らは、ビード幅と接合幅との関係をさらに詳しく調べた。その結果を図7に示す。
【0074】
図7は、ビード幅と接合幅との関係を示す図である。図7に示されるように、本発明者らは、上板12の厚みに対するビード幅の比(ビード幅/上板厚)を変化させたときの、上板厚に対する接合幅の比(接合幅/上板厚)の変化を調べた。
【0075】
その結果、ビード幅/上板厚が所定の数値未満となると、接合幅/上板厚が0になることが分かった。ここで接合幅/上板厚が0であるとは、接合幅が0であり、下板11と上板12とが接合されていない状態を意味する。
【0076】
上記の結果から、接合幅が0になる試料と接合幅が0にならない試料との間に、ビード幅/上板厚の閾値が存在することが分かった。またそのビード幅/上板厚の閾値は、0.7~1.0の範囲内に存在することが分かった。このためビード幅/上板厚の閾値は、0.7であることが好ましく、1.0であることがより好ましい。
【0077】
さらに本発明者らは、レーザ溶接時に溶接箇所から生じる熱放射光の強度とその溶接箇所に生じるビード幅との関係を調べた。その結果を図8に示す。
【0078】
図8は、熱放射光強度とビード幅との関係を示す図である。図8に示す結果から、熱放射光の強度とビード幅/上板厚とは、ほぼ比例関係にあることが分かった。
【0079】
図6図8の結果から、レーザ溶接時における熱放射光の強度からビード幅を知ることができ、そのビード幅が上記閾値未満であるか否かにより溶接箇所に溶接欠陥があるか否かを判定できることが分かった。
【0080】
このため本実施の形態のように、熱放射光の強度を検出する熱放射光センサー4が設けられることにより、溶接箇所に溶接欠陥があるか否かを判定することが可能となる。
【0081】
また本実施の形態によれば、図2に示されるように、熱放射光センサー4により検出された熱放射光の強度に基づいてコントローラ20が溶接箇所におけるビード幅を算出する。このようにビード幅を算出することにより、ビード幅の大きさから溶接欠陥があるか否かを判定することが可能となる。
【0082】
また本実施の形態によれば、図2に示されるように、コントローラ20は、算出したビード幅が閾値未満であるか否かに基づいて溶接箇所に欠陥があるか否かを判定する。このようにビード幅が閾値未満であるか否かにより、溶接欠陥があるか否かを判定することが可能となる。また溶接欠陥の有無をビード幅が閾値未満であるか否かという単純なアルゴリズムで実現できるため、アルゴリズム作成時間を短縮することができる。
【0083】
また上記においては熱放射光の強度からビード幅を算出し、ビード幅が閾値未満であるか否かにより溶接欠陥の有無を判定したが、熱放射光の強度が閾値未満であるか否かにより溶接欠陥の有無が判定されてもよい。
【0084】
このことに関して本発明者らは、レーザ光を用いた重ね継手溶接において溶接条件を変えたときの熱放射光強度およびビード幅の変化について調べた。具体的には、上記継手溶接において、下板11と上板12との間の隙間が小さい領域と大きい領域とを意図的に設けて、各領域を溶接したときの熱放射光強度およびビード幅の相違を調べた。その結果を図9に示す。なお隙間が小さい領域と大きい領域とを溶接する際の溶接条件は、上記の隙間の大きさ以外は同じとした。
【0085】
図9は、横軸に沿って図中左側から右側へ溶接をした場合に、溶接条件(隙間の大きさ)を途中で変えたときの熱放射光強度およびビード幅の変化を示す図である。図9に示されるように、下板11と上板12との間の隙間が小さい領域では熱放射光の強度が大きくなり、当該隙間が大きい領域では熱放射光の強度が小さくなることが分かった。また下板11と上板12との間の隙間が小さい領域ではビード幅が大きくなり、当該隙間が大きい領域ではビード幅が小さくなることが分かった。また下板11と上板12との間の隙間が小さい領域では図6の試料Aで示される溶接状態が得られ、当該隙間が大きい領域では図6の試料Dで示される溶接状態が得られた。
【0086】
上記の結果から、熱放射光の強度が閾値未満であるか否かにより溶接欠陥の有無が判定できることが分かった。具体的には、熱放射光の強度が閾値未満である場合には溶接箇所に欠陥があると判定することができ、熱放射光の強度が閾値以上である場合には溶接箇所に欠陥がないと判定することができる。
【0087】
このように熱放射光の強度が閾値未満であるか否かにより溶接欠陥の有無を判定することによりビード幅を算出することなく、溶接欠陥の有無を判定することが可能となる。
【0088】
また本実施の形態によれば、図1に示されるように、筐体6は、その内部空間にレーザ光発振装置1と熱放射光センサー4との双方を収納する。これによりレーザ光発振装置1と熱放射光センサー4とを1つのモジュールとして取り扱うことが可能となる。
【0089】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
1 レーザ光発振装置、2a,2b,2c 光ファイバー、3 加工ヘッド、4 熱放射光センサー、5 光分岐器、6 筐体、7 入力部、8 表示部、10 レーザ溶接欠陥検出装置、11,12 溶接対象物、13 ビード、20 コントローラ、20a 熱放射光強度取得部、20b ビード幅算出部、20c 欠陥判定部、20d 記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9