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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】農作業用膝補助器具
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/06 20060101AFI20240910BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A41D13/06 105
A41D13/05 168
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021036587
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136799
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 豊
(72)【発明者】
【氏名】田中 正浩
(72)【発明者】
【氏名】梅野 覚
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開実用新案第20-2013-0002167(KR,U)
【文献】米国特許第4561123(US,A)
【文献】米国特許第4333181(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0200595(US,A1)
【文献】特開2021-95662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/05-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作業者の腿裏に装着されるクッション性を有した腿裏装着具と、
前記腿裏装着具を農作業者の腿部に固定する固定部材とを備え、
前記固定部材は、
前記腿裏装着具における腿裏への当接面に接合する接合部を有し、腿部の周囲に隙間なく巻き付けて、腿部に前記腿裏装着具を固定する第1ベルトと、
前記第1ベルトの接合部とは異なる位置で前記腿裏装着具に接合され、前記第1ベルトにて腿部に固定された前記腿裏装着具を腿部側に引き寄せるようにして腿部に締結される第2ベルトとを備え、
前記第2ベルトは、前記腿裏装着具の左右側面に接合されていることを特徴とする農作業用膝補助器具。
【請求項2】
前記第2ベルトは、前記第1ベルトに連結されていることを特徴とする請求項記載の農作業用膝補助器具。
【請求項3】
前記第1ベルトと前記第2ベルトの一方又は両方は、一端側が前記腿裏装着具に接合される一対のベルトからなることを特徴とする請求項1又は2項記載の農作業用膝補助器具。
【請求項4】
前記第2ベルトは、前記腿裏装着具の周囲に巻かれる単体のベルトであることを特徴とする請求項1又は2項記載の農作業用膝補助器具。
【請求項5】
前記腿裏装着具における前記当接面には、腿裏が嵌る凹部が形成されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項記載の農作業用膝補助器具。
【請求項6】
前記腿裏装着具は、装着される農作業者の膝曲げ時にふくらはぎが嵌る凹部を有することを特徴とする請求項1~のいずれか1項記載の農作業用膝補助器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業用膝補助器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農作業等に使用できる膝補助器具としては、作業者の膝付近に器具を装着することで、膝を急激に曲げた際の膝への負荷を軽減するものが提案されている(下記特許文献1参照)。この従来技術は、膝を保護する強度と保形性を備えたカップ部と、カップ部の内面に配置するクッション性を備えた前面パッドと、カップ部を膝に装着するための装着ベルトを備えて、膝を強く曲げたときに太ももとふくらはぎの間に挟まれる背面パッドを装着ベルトに支持させている。この従来技術では、背面パッドを太ももとふくらはぎで挟むことで、膝が過度に屈曲されるのを防止し、背面パッドのクッション性によって膝に与えるダメージが軽減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-155389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
農作業では、苗移植、管理(草取りなど)、収穫などの各種作業において、長時間膝を深く屈曲したままのしゃがみ姿勢や跪き姿勢を保持することが多い。このような姿勢での作業は、その作業が重量物を保持しない軽作業であったとしても、脚の筋肉疲労や膝関節への負荷が大きく、作業者にとっては辛い作業になり、その改善が求められている。
【0005】
また、近年農作業者の高齢化や担い手不足が深刻化している状況を鑑みると、辛い姿勢での作業を少なくして、農作業をより快適に行えるようにすることは、農業従事者のためだけでなく、農作業に不慣れな人を補助作業者として確保する上でも重要な課題になっている。
【0006】
これに対して、一般の動作補助具として、膝などを補助するものは多数提案されている。しかしながら、農作業に特化した場合には、長時間膝を深く屈曲したままの姿勢を保持する際の脚の疲労や膝への負担を軽減することが、優先すべき課題になり、サポータなどの一般の動作補助具はこの課題に対応したものがなく、前述した従来技術も、急激な膝の曲げに対する負荷軽減を目的としていて、前述の優先すべき課題に対しては、有効な解決策になり得ない。
【0007】
長時間膝を深く屈曲したままの姿勢を保持する際の脚の疲労や膝への負担を軽減するためには、太ももとふくらはぎの間に適正な厚さの弾性部材(クッション材)を配置することが有効であるが、この際、この弾性部材が神経の集中している膝裏に接触すると、作業者にとって違和感になる。このため、この弾性部材を膝裏に接触しない適正な位置に保持することが求められる。
【0008】
そして、農作業では、膝の曲げ伸ばしが頻繁に行われるが、その際に、前述した弾性部材の位置がずれてしまうと、有効な効果が得られなくなり、膝裏に弾性部材が接触すると作業にとって違和感になる。特に、脚の所定位置に前述した弾性部材を固定する場合には、立ち姿勢では膝を曲げている姿勢に対して通常脚の周囲が細くなることで、弾性部材が下にずれ易くなる。また、作業者の移動中に弾性部材が脚の周りに振れることがあるので、膝の曲げ伸ばしを繰り返した場合に適正な位置に弾性部材を保持し続けることが難しい。
【0009】
また、脚の所定位置に前述した弾性部材を固定する際に、農作業では長靴を履いて作業を行うことが多いので、長靴との干渉が生じないことが求められる。また農作業では、作物の生えた圃場内での作業があるので、脚に固定した弾性部材が圃場に生えた作物に接触しないようにすることも求められる。
【0010】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、農作業を行う際に、長時間膝を深く屈曲したままの姿勢を保持する際の脚の疲労や膝への負担を軽減するために効果的な農作業用膝補助器具を提供することが、本発明の一つの課題である。
【0011】
そして、補助器具の装着位置を適正な位置に保持すること、作業中の膝の曲げ伸ばしに対して補助器具のずれや振れを抑止すること、農作業時に作業者が履く長靴との干渉が無く、作物との接触が起こらないようにすること、簡易に着脱できるようにすること、などが、本発明のより具体的な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために、本発明の農作業用膝補助器具は、以下の構成を具備するものである。
農作業者の腿裏に装着されるクッション性を有した腿裏装着具と、前記腿裏装着具を農作業者の腿部に固定する固定部材とを備え、前記固定部材は、前記腿裏装着具における腿裏への当接面に接合する接合部を有し、腿部の周囲に隙間なく巻き付けて、腿部に前記腿裏装着具を固定する第1ベルトと、前記第1ベルトの接合部とは異なる位置で前記腿裏装着具に接合され、前記第1ベルトにて腿部に固定された前記腿裏装着具を腿部側に引き寄せるようにして腿部に締結される第2ベルトとを備え、前記第2ベルトは、前記腿裏装着具の左右側面に接合されていることを特徴とする農作業用膝補助器具。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有する本発明は、農作業を行う際に、長時間膝を深く屈曲したままの姿勢を保持する際の脚の疲労や膝への負担を軽減するために効果的な農作業用膝補助器具を提供することができる。そして、この農作業用膝補助器具を農作業者に装着するに際して、補助器具の装着位置を適正な位置に保持することができ、作業中の膝の曲げ伸ばしに対して補助器具のずれや振れを抑止することができ、農作業時に作業者が履く長靴との干渉が無く、作物との接触が起こらないようにすることができる。また、農作業者に対して補助器具を簡易に着脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態にかかる農作業用膝補助器具を示した全体説明図((a)が全体斜視図、(b)が腿側から膝向きに見た図、図示矢印は装着する際の方向を指す。)。
図2】本発明の実施形態にかかる農作業用膝補助器具の装着状態を示した説明図((a)は、作業者が立ち姿勢のときの装着状態を示す図、(b)は作業者が膝を深く曲げたときの右側から見た装着状態を示す図、(c)は、装着状態(作業者立ち姿勢)の腿側から膝向きに見た図、図示の矢印は装着した作業者から見た方向を指す。)。
図3】第1ベルト又は第2ベルトにおける自由端の結合例を示した説明図((a)がバックルによる結合、(b)(c)が面ファスナーによる結合を示している。)。
図4】第1ベルトと第2ベルトの自由端の構成例を示す説明図((a)が自由端をループ状にしたものを腿長軸方向から見たもの、(b)が自由端に指入れ孔を設けたもの、(c)が自由端の先端部につまみスペースを設けたもの)。
図5】本発明の他の実施形態にかかる農作業用膝補助器具の装着状態を示した説明図。
図6図5に示した例の第1ベルトと第2ベルトを予め連結する例の説明図。
図7】本発明の他の実施形態にかかる農作業用膝補助器具の装着状態を示した説明図。
図8】本発明の他の実施形態にかかる農作業用膝補助器具の装着状態を示した説明図(図示の矢印は装着した作業者から見た方向を指す。)。
図9図8に示した例の腿側から膝向きに見た図(図示の矢印は装着した作業者から見た方向を指す。)。
図10】本発明の他の実施形態にかかる農作業用膝補助器具の装着状態を示した説明図(図示の矢印は装着した作業者から見た方向を指す。)。
図11図10に示した例の腿側から膝向きに見た図(図示の矢印は装着した作業者から見た方向を指す。)。
図12】補助部材の説明図((a)が上面図、(b)が(a)をA方向から見た側面図、(c)が(b)をB方向から見た側面図)。
図13】腿裏装着具の構成例を示す説明図((a)平面図、(b)側面図、(c)正面図)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0016】
図1及び図2に示すように、農作業用膝補助器具1は、腿裏装着具2と固定部材3を備えている。農作業用膝補助器具1における腿裏装着具2は、農作業者の腿裏M2に装着されて、農作業者が膝M3を曲げたときに腿裏M2とふくらはぎM5の間に挟まれる部材である。この腿裏装着具2は、所定の厚さを有しており、農作業者の腿裏M2とふくらはぎM5で挟むことで弾性変形するクッション性を有している。
【0017】
農作業用膝補助器具1における固定部材3は、第1ベルト10と第2ベルト20を備えている。第1ベルト10は、腿裏装着具2における腿裏M2への当接面(腿裏当接面)2Aに接合する接合部3aを有し、装着される農作業者の腿部M1の周囲に隙間なく巻き付けられて、腿部M1に腿裏装着具2を固定する。第2ベルト20は、第1ベルト10の接合部3aとは異なる位置の接合部3bで腿裏装着具2に接合され、第1ベルト10にて農作業者の腿部M1に固定された腿裏装着具2を腿部M1側に引き寄せるようにして、腿部M1に締結する。
【0018】
第1ベルト10と第2ベルト20は、腿部M1に対する腿裏装着具2の固定に際して、異なる機能を有している。すなわち、第1ベルト10は、主に腿部M1に対する腿裏装着具2の位置決めの役割を担うものであるのに対して、第2ベルト20は、腿部M1に対して位置決めされた腿裏装着具2を腿裏M2に引き寄せて増し締めを行うことで、腿裏装着具2の当接面2Aを広い面積で腿裏M2に密着させ、しっかりと固定する役割を担っている。この際、第1ベルト10による位置決めを先行して行うことで、第2ベルトの固定がより円滑且つ確実に行えるので、両者の機能は互いに関係し合って相乗効果を生み出している。
【0019】
ここで、図1に示した例の腿裏装着具2は、腿裏当接面2Aと、その左右の側面2Bと、腿裏当接面2Aに対して傾斜して設けられる傾斜面2Cと、背面2D、底面2Eを有し、側面視で略台形の形状、平面視、正面視、背面視で略矩形の形状を有している。ここでの傾斜面2Cは、農作用者が膝M3を曲げたときにふくらはぎM5が当接する面(ふらはぎ当接面)になり、この傾斜面(ふらはぎ当接面)2Cと腿裏当接面2Aとの角度を適宜設定することで、膝曲げ時のふくらはぎM5の圧迫を抑制することができる。
【0020】
また、図1に示した腿裏装着具2は、図示のような線ファスナー2eや面ファスナー或いはホックなどで開閉できる開口を有し、布地等の材質からなる袋状のカバー材2fを備えており、このカバー材2fの中にクッション材2gを入れた構造になっている。カバー材2fに入れるクッション材2gとしては、ポリウレタン等の合成樹脂を発泡成形した合成スポンジ、天然スポンジ、ゴムスポンジなどの単体又は集合体を用いることができる。また、カバー材2fにクッション材2gを入れる構造は一例であって、腿裏装着具2自体を単体のクッション材で形成することもできる。
【0021】
図1に示した例では、固定部材3の一つを構成する第1ベルト10は、単体のベルト材からなり、その一部が接合部3aの1箇所で腿裏装着具2の腿裏当接面2Aの左右略中央に接合されており、その自由端を互いに結合部3cで結合できるようにしている。また、図示の例では、第1ベルト10を単体のベルトにしているが、接合部3aと同じ位置で一端側を腿裏当接面2Aに接合して他端側を自由端とする一対のベルトにしてもよい。なお、第1ベルト10の接合部3aは、接続強度を保つために第1ベルト10の長手方向に沿って多少の幅を持たせてもよいが、幅を極力小さくして線状にすることで、当接面2Aと腿部M1との間の隙間を減らすことができる。
【0022】
第1ベルト10は、腿裏当接面2Aに接合部3aで接合されることで、図2に示すように、腿部M1に巻いたときに、腿部M1の周囲ほぼ全周に隙間なく巻き付けられる。これにより、第1ベルト10を広い接触面積で腿部M1に巻き付けることができ、第1ベルト10を移動、回転させないようにすることで、腿裏装着具2を膝裏M4に接触しない適正な位置で確実に位置決めすることができる。
【0023】
なお、第1ベルト10は、可撓性を有し、伸縮弾性を有するものが好ましい。第1ベルト10の素材としては、一般的なベルト用素材を採用することができ、例えば、合成樹脂繊維の布材、ゴム材、皮革等を用いることができる。
【0024】
固定部材3の他の一つを構成する第2ベルト20は、一対のベルト材からなり、その一端が接合部3bにて腿裏装着具2の側面2Bに接合されている。そして、その自由端を互いに結合部3dで結合するようにしている。図示の例では、接合部3bの位置を腿裏装着具2の側面2Bにしているが、これに限らず、接合部3aと側面2Bの間で、第2ベルト20で増し締めした時に当接面2Aが腿部側に引き寄せされる動作が可能な位置などを接合部3bにすることができる。
【0025】
この第2ベルト20は、第1ベルト10の接合部3aと異なる位置で腿裏装着具2と接合され、第1ベルト10による位置決めに加えて増し締めを行って更に固定することで、図2(c)に示すように、第1ベルト10にて腿部M1に位置決めされた腿裏装着具2を、腿部側に引き寄せるようにして、しっかりと固定することができる。この異なる機能を有する第1ベルト10と第2ベルト20の相乗効果で、腿部M1に装着された腿裏装着具2は、腿長軸方向のずれと、腿長軸方向の回転振れと、腿長軸周りの回転ずれを抑制することができる。ここでの腿長軸方向とは、図示の「腿」「膝」間の矢印方向を指し、これ以降の説明で、腿長軸方向のずれとは腿長軸に沿った腿方向又は膝方向へずれること、腿長軸方向の回転振れとは腿長軸に対してヨーイングによる振れ、腿長軸周りの回転ずれとは腿長軸に対してローリングによる回転をそれぞれ表す。
【0026】
この第2ベルト20も、第1ベルト10と同様に、可撓性を有し、伸縮弾性を有するものが好ましい。第2ベルト20の素材としては、第1ベルト10と同様に、一般的なベルト用素材を採用することができ、例えば、合成樹脂繊維の布材、ゴム材、皮革等を用いることができる。
【0027】
このような農作業用膝補助器具1は、図2(a)に示すように、農作業者の立ち姿勢で、農作業者の腿裏M2に腿裏装着具2を装着する。この際、先ず、第1ベルト10を腿部M1に巻き付けて、第1ベルト10の結合部3cを結合することで、第1ベルト10を締め付け固定する。次に、第2ベルト20を腿部M1に巻き付け、第1ベルト10によって腿部M1に固定されている腿裏装着具2を腿側に引きつけるようにして、第2ベルト20の結合部3dを結合することで、第2ベルト20による増し締めを行う。
【0028】
これによると、農作業用膝補助器具1の腿裏装着具2は、立ち姿勢(図2(a)参照)と膝曲げ姿勢(図2(b))のいずれにおいても、農作業用膝補助器具1が装着された農作業者の膝裏M4から離れた位置に固定保持される。これにより、農作業用膝補助器具1が装着された農作業者は、膝裏M4に物が接触する違和感がなく、快適に農作業を行うことができる。
【0029】
また、立ち姿勢においては、腿部M1の中央付近の筋肉が弛緩して隆起が小さくなるので、膝曲げ姿勢に比べて腿部M1の外径は細くなる。この腿部M1の外径が細くなっている立ち姿勢で、図2(c)に示すように、第1ベルト10による締め付けがなされ、更に第2ベルト20による増し締めがなされるので、その後に、膝曲げ姿勢と立ち姿勢を繰り返した場合であっても、腿部M1に対する第1ベルト10と第2ベルト20の締め付けが維持される。これにより、農作業用膝補助器具1は、作業中において、腿裏装着具2の腿長軸方向のずれ、腿長軸方向の回転振れ、腿長軸周りの回転ずれを抑制することができる。
【0030】
また、図1に示した例は、第1ベルト10と第2ベルト20がそれぞれ個別に配置されている。腿部M1の太さは、一般に膝M3に近い方が細くて膝M3から離れる位置で太くなる。これに対して、図1に示した例では、太さが異なる腿部M1の部位に対して、第1ベルト10と第2ベルト20を別々に対応させて締め付け固定を行うことができる。また、第1ベルト10の腿部M1の周囲ほぼ全周に隙間なく巻き付けられる接触面積に加え、第2ベルト20の増し締めにより腿裏装着具2が腿部側に引き寄せるように固定される際の腿裏装着具2の当接面2Aが腿裏M2に接触する接触面積が加わることで、全体として接触面積を大きくすることができ、より安定した腿裏装着具2の締め付け固定が可能になる。
【0031】
そして、農作業用膝補助器具1は、農作業者の腿部M1に装着されるので、農作業者がふくらはぎを覆うように筒丈の高い長靴を履いて作業を行う際にも、長靴に干渉することなく装着することができ、作物の生えた畑等で作業を行う場合にも、農作業用膝補助器具1が作物に接触することがない。
【0032】
また、農作業用膝補助器具1の固定部材3は、第1ベルト10と第2ベルト20のみであるから、簡易に農作業者の腿部M1に対して農作業用膝補助器具1を脱着することができる。
【0033】
第1ベルト10と第2ベルト20の結合部3c,3dは、各種の結合方式を採用することができる。図3には、その結合方式の一例を示している。図3(a)に示した例は、結合部3c,3dにバックル30を用いた例である。この例では、第1ベルト10又は第2ベルト20の自由端の一方に嵌合部30Aを取り付け、他方に被嵌合部30Bを取り付ける。第1ベルト10又は第2ベルト20の自由端は、嵌合部30A又は被嵌合部30Bに対してベルト長さを調整できるように取り付けられている。この長さ調整を行うことで、第1ベルト10又は第2ベルト20は、様々な太さの腿部M1に対して適切な締め付け強度を得ることができる。
【0034】
図3(b),(c)に示した例は、結合部3c,3dに面ファスナー31を用いた例である。この例では、第1ベルト10又は第2ベルト20の自由端の片面に結合面31A,31Bを設け、結合面31A,31Bを互いに結合する。結合面31Aの長さを長めに設定しておくことで、第1ベルト10又は第2ベルト20の実質的な長さ調整が可能になる。面ファスナー31を採用する場合にも、この長さ調整を行うことで、第1ベルト10又は第2ベルト20は、様々な太さの腿部M1に対して適切な締め付け強度を得ることができる。
【0035】
図4は、第1ベルト10と第2ベルト20の自由端(先端部)の構成例を示している。第1ベルト10と第2ベルト20の自由端は、面ファスナーなどで互いに結合する際に、自由端を指で保持して引っ張ることで着圧を得るので、滑らないように保持できる構造が望ましい。図4(a)に示した例は、第1ベルト10と第2ベルト20の自由端に、指を入れるループRを設けて滑り止めにしている。図4(b)に示した例は、第1ベルト10と第2ベルト20の自由端に、指を入れる孔P設けて滑り止めにしている。図4(c)に示した例は、自由端に設ける面ファスナーの結合面31Aの先端側に、指で摘みやすいスペースSを設けて滑り止めにしている。
【0036】
以下、図5図11において、第1ベルト10と第2ベルト20の形態が異なる様々な実施形態を説明する。
【0037】
図5に示した例は、第1ベルト10と第2ベルト20が一部で連結されている。図示の例では、第1ベルト10と第2ベルト20が重なる部分に連結部3eを設けて、腿裏装着具2を腿部M1に装着する際に両者を連結させている。このような連結では、第1ベルト10による位置決めを行ってから、第2ベルト20を締めて行く過程で、連結部3eで重なるようにしても良いし、第2ベルト20は別の位置で一旦仮締めして仮固定してから、図示の連結部3eの位置に移動し、最終的に第2ベルト20の増し締めを行うときに連結部3eにて連結するようにしてもよい。連結部3eでの連結は、面ファスナーなどを用いることができる。
【0038】
これに対して、第1ベルト10と第2ベルト20の連結は、予め両者が連結されていてもよい。この場合には、第1ベルト10と第2ベルト20が連結している状態であっても、第1ベルト10による位置決めと第2ベルト20による増し締めによる固定が別々に行えるようにする。
【0039】
図6は、その一例を示している。この例では、特殊バックル32を用いて、第1ベルト10と第2ベルト20を連結しているが、第1ベルト10と第2ベルト20は独立して長さ調整ができるようになっている。これによると、特殊バックル32の嵌合部32Aと被嵌合部32Bには、それぞれ第1ベルト10と第2ベルト20が所定の角度を付けた状態でそれぞれ長さ調整自在に取り付けられおり、この特殊バックル32を介して第1ベルト10と第2ベルト20は互いに連結している。そして、装着時には、嵌合部32Aと被嵌合部32Bを腿部M1上で結合した後に、先ず第1ベルト10の長さ調整で第1ベルト10による位置決めを行い、その後、第2ベルト20の長さ調整で第2ベルト20による増し締めを行う。
【0040】
第1ベルト10と第2ベルト20の連結は、前述するように、装着時に連結する場合と予め連結しておく場合があるが、その両方において、以下に示す利点が得られる。
【0041】
すなわち、図5或いは図6に示すように第1ベルト10と第2ベルト20を連結すると、腿部M1の周囲ほぼ全周に隙間なく巻き付けられて位置決めの機能を有する第1ベルト10に対して第2ベルトは所定の角度で傾斜した状態で腿部M1に巻かれる。これにより、膝M3に向けて徐々に細くなり略円錐状になる腿部M1に対して、第2ベルト20が最短周長で巻き締められることになり、締め付け時の筋肉の外形変化幅が最小になってずれが抑制される。
【0042】
また、第2ベルト20は、増し締めにより二つの接合部3bにて、腿裏装着具2が腿部側に引き寄せるように固定されるので、腿裏装着具2の当接面2Aが腿裏M2に接触する接触面積が大きくなり、ずれを抑制することができるが、第1ベルト10と第2ベルト20が連結部3eなどで連結されている場合には、この連結部と二つの接合部3bと接合部3aの4点がそれぞれ立体的に離れた位置に配置され、4点支持による四面体の内側で腿部M1と腿裏M2が挟まれることにより、立体的に変形が抑制される。これにより、腿裏装着具2の腿長軸方向のずれ、腿長軸方向の回転振れ、腿長軸周りの回転ずれを抑制することができる。
【0043】
図7に示した例は、第1ベルト10に対して重なるように第2ベルト20を設けている。この際、第1ベルト10と第2ベルト20の連結は行わない。この例では、最初に第1ベルト10を締め付け固定して、その後、第1ベルト10の上で第2ベルト20を更に締め上げる。これによると、第1ベルト10で固定された腿裏装着具2の位置が第2ベルト20の締め上げでずれることがないので、腿裏装着具2の位置合わせが容易になる。
【0044】
図8及び図9に示した例は、第1ベルト10に対して重なるように第2ベルト20を設け、更に第1ベルト10と第2ベルト20を連結部3fで連結している。この例では、第2ベルト20は、その自由端が第1ベルト10の外表面に連結部3fにて連結されている。ここでの連結部3fは面ファスナーなどで構成することができる。この例においても、第1ベルト10で固定された腿裏装着具2の位置が第2ベルト20の締め上げでずれることがないので、腿裏装着具2の位置合わせが容易になる。
【0045】
図10及び図11に示した例は、前述した例と同様に、第1ベルト10に対して重なるように第2ベルト20を設け、第1ベルト10と第2ベルト20を連結部3gで連結している。そして、第2ベルト20は腿裏装着具2の周囲に締結される単体のベルトになっている。この際、第2ベルト20と腿裏装着具2との接合部3bは、腿裏装着具2の底面2Eに設けられる。この例は、前述した例と同様に、腿裏装着具2の位置合わせが容易になると共に、立ち姿勢での腿裏装着具2の振れを抑えることができる。
【0046】
また、図10及び図11に示した例は、腿裏装着具2を構成するために、前述したカバー材2fの中に、図12に示すような補助部材4を入れて構成することができる。
【0047】
図12(a)に示すように、補助部材4は、クッション性を有した部材からなり、直方体の一端側の側面には第1凹部4aが形成されており、複数(図示の例では、5つ)の補助部材4が積層されている。また、最上面(農作業者の腿裏部に接する面)の補助部材4だけは、図12(a)、(b)に示すように、第1凹部4aに加えて、上面に第2凹部4bが形成されている。
【0048】
また、図12(c)に示すように、補助部材4は、カバー材2fの形状に合わせて、最上面から下の層に行くに連れて、腿長軸方向の全長が短くなっていて、図示の例では、複数の補助部材4が積層された状態では、第1凹部4aを有する側面が階段状となっている。なお、図示の例では、第1凹部4aを有する側面が階段状となっているが、階段状ではなく、スロープ状(斜面)としても良い。
【0049】
この複数の補助部材4は、腿裏装着具2の形状になるように、対応するカバー材2fの形状に合わせてカバー材2f内に挿入されるが、このカバー材2fに挿入する補助部材4の数を変更することで、腿裏装着具2の厚みを調整することが可能になっている。この際、図10及び図11に示した例では、第2ベルト20が腿裏装着具2の周囲に締結される単体のベルトになっているので、カバー材2fに挿入する補助部材4の数を変更した場合であっても、第2ベルト20による増し締めによって、腿裏装着具2を腿裏M2に密着させることができる。
【0050】
なお、カバー材2fから補助部材4を抜く場合(補助部材4の数を変更する場合)は、中段(最上面及び最下面以外)の補助部材4を抜くのが望ましい。このように、中段の補助部材4を抜くことで、脹脛に当たる面の角度を変えることができる。なお、カバー材2fから補助部材4を抜いた場合、カバー材2fの中で各補助部材4が腿長軸方向のずれを生じてしまう可能性があるが、農作業者が膝を屈曲した状態となると、補助部材4は、背面2D側に押し当てられることにより、腿長軸方向のずれが補正されて揃うことになる。
【0051】
また、補助部材4に第1凹部4aを設けることで、農作業者が膝を屈曲した状態となったときに、この第1凹部4aの凹部が脹脛などを挟み込むように当接し、腿裏装着具2の腿長軸周りの回転ずれを防止することができる。また、補助部材4に第2凹部4bを設けることで、農作業者の腿裏部が第2凹部4bに沿うようになり、この第2凹部4bの凹部が腿裏部を挟み込むように当接し、腿裏装着具2の腿長軸方向の回転振れを防止することができる。
【0052】
図13は、単体の腿裏装着具2の構成例を示している。腿裏装着具2における腿裏当接面2Aには、腿裏が嵌る凹部2Pを形成することが好ましい。この凹部2Pは、使用する農作業者の腿部M1の太さや腿裏M2の表面曲率などに応じて適宜の深さと形状に形成される。この凹部2Pは、腿裏M2に腿裏装着具2を装着する際の位置決めになると共に、腿裏装着具2を腿部M1に固定した後には、平面で接するのではなく腿部M1が凹部に沿って接しているので、第2ベルト20で更に増し締めしたときに、腿裏装着具2を更に腿部M1に密着度を増加させて引き寄せるように固定できるので、腿裏装着具2の腿長軸方向の回転振れや腿長軸周りの回転ずれを更に抑止する効果がある。
【0053】
また、腿裏装着具2における傾斜面(ふくらはぎ当接面)2Cには、農作業者の膝曲げ時にふくらはぎM5が嵌る凹部2Qを設けることが好ましい。この凹部2Qは、使用する農作業者のふくらはぎM5の太さや表面曲率などに応じて適宜の深さと形状に形成される。この凹部2Qは、膝曲げ時に腿裏装着具2が腿裏M2とふくらはぎM5の間で適正な位置に収まるための位置決めになると共に、膝曲げ時にふくらはぎM5の接触面への圧力が分散され、部分的に過度に圧迫されるのを抑止する効果がある。
【0054】
腿裏装着具2の寸法は、使用対象者の年齢は男女区別に応じて、使用対象者の体格に適した寸法にすることが好ましい。例えば、腿裏装着具2の横幅Wは、両足の腿部M1に1個ずつ腿裏装着具2を装着することを前提にして、日本人の体格寸法の平均値(大腿の横幅やヒップ幅の1/2)から160~170mmとすることが好ましい。
【0055】
また、腿裏装着具2の厚さHについては、使用対象者の膝曲げ時に膝曲げ角度を適正に制限でき、長時間の膝曲げ作業時に腿裏装着具2の十分なクッション効果が得られ、膝曲げ状態から立ち上がる際に、腿裏装着具2の弾性反発で立ち上がりのアシストができる等の効果を考慮して、適宜設定することができる。
【0056】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる農作業用膝補助器具1は、膝曲げ作業時に、腿裏M2とふくらはぎM5の間にクッション性を有する腿裏装着具2を適正に保持することができるので、腿裏M2とふくらはぎM5の筋肉の圧迫を分散させて和らげることができ、膝M3の曲げ角度を適度に抑制することができるので、長時間膝を深く屈曲したままの姿勢を保持する際の脚の疲労や膝への負担を効果的に軽減することができる。
【0057】
そして、腿裏装着具2は、第1ベルト10と第2ベルト20からなる固定部材3で、腿部M1における膝裏M4に接触しない適切な位置に固定保持されているので、違和感なく作業することができ、立ち姿勢と膝曲げ姿勢を繰り返して作業を行う際にも、腿裏装着具2のずれや振れ(腿長軸方向のずれ、腿長軸方向の回転振れ或いは腿長軸周りの回転ずれ)を抑えることができる。
【0058】
また、農作業用膝補助器具1の固定部材3は、第1ベルト10と第2ベルト20のみであるから、農作業者に対して補助器具の着脱を簡易に行うことができる。そして、第1ベルト10と第2ベルト20は、腿部M1に対する腿裏装着具2の固定に際して、異なる機能を有しており、第1ベルト10が、主に腿部M1に対する腿裏装着具2の位置決めの役割を担い、第2ベルト20が、腿部M1に対して位置決めされた腿裏装着具2を腿裏M2に引き寄せて増し締めを行い、しっかりと固定する役割を担っているので、第1ベルト10による位置決めを先行して行うことで、第2ベルトの固定をより円滑且つ確実に行うことができ、両者機能の相乗効果で作業中にもずれ難い腿裏装着具2の固定が可能になる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1:農作業用膝補助器具,
2:腿裏装着具,2A:当接面(腿裏当接面),2B:側面,
2C:傾斜面(ふくらはぎ当接面),2D:背面,2E:底面,
2P,2Q:凹部,
2e:線ファスナー,2f:カバー材,2g:クッション材,
3:固定部材,3a,3b:接合部,3c,3d:結合部,
3e,3f,3g:連結部,
4:補助部材,4a:第1凹部,4b:第2凹部,
10:第1ベルト,20:第2ベルト,
30:バックル,30A:嵌合部,30B:被嵌合部,
31:面ファスナー,31A,31B:結合面,
32:特殊バックル,32A:嵌合部,32B:被嵌合部,
M1:腿部,M2:腿裏,M3:膝,M4:膝裏,M5:ふくらはぎ,
R:ループ,P:孔,S:スペース,
H:腿裏装着具2の厚さ,W:腿裏装着具2の横幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13