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  • 特許-電気二重層キャパシタの作製方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電気二重層キャパシタの作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/86 20130101AFI20240910BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20240910BHJP
   H01G 11/58 20130101ALI20240910BHJP
【FI】
H01G11/86
H01G11/46
H01G11/58
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021133862
(22)【出願日】2021-08-19
(65)【公開番号】P2023028267
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】池田 愛
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】谷保 芳孝
(72)【発明者】
【氏名】野島 勉
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-191394(JP,A)
【文献】特開2022-013089(JP,A)
【文献】特開2005-244201(JP,A)
【文献】特開2006-278588(JP,A)
【文献】特開2016-154189(JP,A)
【文献】特表2014-508399(JP,A)
【文献】特表2014-533894(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112331492(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/86
H01G 11/46
H01G 11/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶基板の上に、ACuO2(A=Ba、Sr、Ca)、または、Aの一部を希土類元素で置換したA1-xxCuO2(Rは希土類元素)を有する銅酸化物を結晶成長して第1電極を形成する第1工程と、
前記第1電極の表面に接する状態でイオン液体を配置する第2工程と、
前記イオン液体に接触する状態で第2電極を配置する第3工程と、
前記第1電極を負電極とし前記第2電極を正電極とした電気化学エッチングにより前記第1電極に存在する結晶欠陥を選択的にエッチングすることで、前記第1電極を多孔質とする第4工程と
を備える電気二重層キャパシタの作製方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気二重層キャパシタの作製方法において、
前記第1電極は、前記銅酸化物をc軸配向する状態に結晶成長することで形成することを特徴とする電気二重層キャパシタの作製方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の電気二重層キャパシタの作製方法において、
前記第2電極は、前記イオン液体と反応しない材料から構成されていることを特徴とする電気二重層キャパシタの作製方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタの作製方法において、
前記イオン液体は、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドから構成されていることを特徴とする電気二重層キャパシタの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質(誘電体部)にイオン液体を用いた電気二重層キャパシタが開発されている。この電気二重層キャパシタは、図6に示すように、単結晶基板301の上に形成された銅酸化物層からなる負電極302と、負電極302の上に配置されたイオン液体303と、イオン液体303の上に配置された正電極304とを備える。
【0003】
電気二重層キャパシタは、セラミックコンデンサや金属皮膜コンデンサといった一般的なコンデンサに比べ、10~100倍大きな単位面積当たりの電気容量を有するためことで知られ、主として電池に代わる蓄電デバイスとして応用されている(非特許文献1)。電気二重層キャパシタは、大きな電気容量と繰り返し可能な短時間での充放電特性により、電池に代わる電子機器の補助電源やバックアップ電源、車両の回生エネルギー用蓄電池といった大型機器応用に使用されるだけでなく、小型回路中に組み込み可能な蓄電デバイスとしても働くことが期待されている。
【0004】
上述した電気二重層キャパシタの電気容量Cは、イオン液体の比誘電率ε、イオン液体の分子サイズd、真空の誘電率ε0、電気二重層界面の実効面積S用いて「C=εε0(S/d)」で規定される。限られた面積の回路中に電気二重層キャパシタを実装する場合において、電気容量をさらに増加させるためには、電極の実効的な表面積の増加が必要となる。このためには、図7に示すように、電極の多孔質化(a)や微細構造化(b)などの、特殊電極形成プロセスにより実効的な面積Sを大きくする必要がある(非特許文献2)。このようなプロセスによるキャパシタの作製には、電極の形成プロセスに時間とコストが生じていた。
【0005】
なお、これまで電気二重層キャパシタの電極材料として、大きな表面積を持つ、活性炭(特許文献1)、多孔質アルミニウム(特許文献2)、酸化グラフェン積層(特許文献3)、酸化タングステン粉末(特許文献4)、カーボンナノチューブ(特許文献5) 、繊維状セルロース(特許文献6)などが開発されている。
【0006】
また、回路基板中に適切な電気容量を持つ電気二重層キャパシタの実測においては、電極を形成した後では電気容量の調節は不可能であることから、あらかじめ狙った値になるよう構造設計をし、試験後、再設計するという過程を繰り返す必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4618929号公報
【文献】特許第6443725号公報
【文献】特許第6455861号公報
【文献】特許第6712758号公報
【文献】特許第6830950号公報
【文献】特許第6848877号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】長谷部 章雄 著、「エネルギーデバイス 電気二重層キャパシタとその応用」、まてりあ、第41巻、第6号、2002年。
【文献】牧野 翔、 杉本 渉、「特集:二次元ナノシートおよび二次元ナノ空間の創製と電気化学デバイスへの応用 3.酸化ルテニウムナノシートの創製と電気化学キャパシタへの応用」、Electrochemistry、第83巻、第8号、642~647頁、2015年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の技術では、イオン液体を用いた電気二重層キャパシタを、所望の電気容量に作製することが容易ではないという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、イオン液体を用いた所望の電気容量を有する電気二重層キャパシタが、従来技術に比較して容易に作製できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電気二重層キャパシタの作製方法は、単結晶基板の上に、ACuO2(A=Ba、Sr、Ca)、または、Aの一部を希土類元素で置換したA1-xxCuO2(Rは希土類元素)を有する銅酸化物を結晶成長して第1電極を形成する第1工程と、第1電極の表面に接する状態でイオン液体を配置する第2工程と、イオン液体に接触する状態で第2電極を配置する第3工程と、第1電極を負電極とし第2電極を正電極とした電気化学エッチングにより第1電極に存在する結晶欠陥を選択的にエッチングすることで、第1電極を多孔質とする第4工程とを備える。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、銅酸化物を結晶成長して形成した第1電極を負電極とし、第2電極を正電極とした電気化学エッチングにより第1電極に存在する結晶欠陥を選択的にエッチングすることで、第1電極を多孔質化するので、イオン液体を用いた所望の電気容量を有する電気二重層キャパシタが、従来技術に比較して容易に作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、本発明の実施の形態に係る電気二重層キャパシタの作製方法を説明するための途中工程の電気二重層キャパシタの状態を示す断面図である。
図1B図1Bは、本発明の実施の形態に係る電気二重層キャパシタの作製方法を説明するための途中工程の電気二重層キャパシタの状態を示す断面図である。
図1C図1Cは、本発明の実施の形態に係る電気二重層キャパシタの作製方法を説明するための途中工程の電気二重層キャパシタの状態を示す断面図である。
図1D図1Dは、本発明の実施の形態に係る電気二重層キャパシタの作製方法を説明するための途中工程の電気二重層キャパシタの状態を示す断面図である。
図2図2は、実際に作製した電気二重層キャパシタにおける、電気化学エッチングによる電気容量の変化の測定結果を示す特性図である。
図3図3は、第1電極102に内在する結晶欠陥の部分が選択的にエッチングされる状態を説明するための説明図である。
図4図4は、実際に作製した電気二重層キャパシタの第1電極の表面を走査電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図5図5は、印加する電圧と、電荷の蓄積、電気化学エッチング、還元反応との関係を示す説明図である。
図6図6は、電気二重層キャパシタの構成を示す構成図である。
図7図7は、実効的な表面積を増加させる電極の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る電気二重層キャパシタの作製方法について図1A図1Dを参照して説明する。
【0015】
まず、図1Aに示すように、単結晶基板101の上に、銅酸化物を結晶成長して第1電極102を形成する(第1工程)。銅酸化物は、無限層銅酸化物と呼ばれる物質であり、ACuO2(A=Ba、Sr、Ca)、または、Aの一部を希土類元素で置換したA1-xxCuO2(Rは希土類元素)の化学組成を有するものである。
【0016】
例えば、単結晶基板101は、例えば、(LaAlO30.3-(SrAl0.5Ta0.530.7の単結晶から構成することができる。また、上述した銅酸化物を、よく知られた分子線エピタキシー(MBE)法により、c軸配向する状態に結晶成長(エピタキシャル成長)することで、第1電極102を形成することができる。第1電極102は、例えば厚さ70nmとすることができる。第1電極102は、電気二重層キャパシタの負電極となる。
【0017】
次に、図1Bに示すように、第1電極102の表面に接する状態でイオン液体103を配置する(第2工程)。イオン液体103は、例えば、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[N,N-Diethyl-N-methyl-N-(2-methoxyethyl)ammonium bis(trifluoro methanesulfonyl)imide:DEME-TFSI]から構成することができる。イオン液体103は、電気二重層キャパシタの電解液となる。
【0018】
次に、図1Cに示すように、イオン液体103に接触する状態で第2電極104を配置する(第3工程)。第2電極104は、イオン液体103と反応しない材料から構成する。第2電極104は、例えば、Pt、Au、Agなどの金属から構成することができる。第2電極104は、電気二重層キャパシタの正電極となる。この状態において、各電極のイオン液体103との界面近傍の各々に電気二重層が形成される。
【0019】
次に、第1電極102を負電極とし第2電極104を正電極とした電気化学エッチングにより第1電極102に存在する結晶欠陥を選択的にエッチングすることで、図1Dに示すように、第1電極102を多孔質とする(第4工程)。例えば、イオン液体103の温度を220Kとし、第1電極102と第2電極104との間に-4.5Vの電圧を印加することで、上述した電気化学エッチングが実施できる。
【0020】
一般に、電気二重層キャパシタでは、電極がエッチングされるなどの電気化学反応が発生しないという条件で電極材料開発がなされている。これに対し、実施の形態では、所定の条件で電気二重層キャパシタ中の電極間に電圧を印加することで、銅酸化物からなる負電極を構成する銅酸化物結晶中の結晶欠陥(積層欠陥,逆位相欠陥など)が選択的にエッチングされる電気化学反応現象を利用し、多孔質化を実現したものである。この多孔質化によれば、特別な微細加工を必要としない。
【0021】
よく知られているように、無限層銅酸化物は、格子定数がほぼ一致する結晶基板の上にエピタキシャル成長した結晶であっても、積層欠陥,逆位相欠陥などの結晶欠陥が存在しており、このような結晶欠陥は、他の領域に比べてエッチングされやすいものとなっている。無限層銅酸化物をc軸配向させて結晶成長することで得られる第1電極102においては、第1電極102の平面に対して例えば垂直な方向など、平面に対して交差する方向に結晶欠陥が形成されている。従って、この箇所を選択的にエッチングすることで、第1電極102の表面から単結晶基板101に向かう微細な孔を、多数形成することができ、第1電極102を多孔質化することができる。結晶欠陥の種類や密度は、単結晶基板の種類、銅酸化物の組成、結晶成長条件により調整することができる。
【0022】
実際に作製した電気二重層キャパシタにおける、上述した電気化学エッチングによる電気容量の変化の測定結果を図2に示す。この測定では、MBE法でCa0.94Nd0.06CuO2を結晶成長して第1電極とした。また、第2電極は、白金箔から構成した。実験条件として設定したエッチング時間毎に、印加する電圧Vを減少させるときに、放電電流の時間積分から放電される電荷量Qを計測し、C=Q/Vから電気容量Cを求めた。また、エッチングおよび充電過程は、イオン液体の温度T=220K、印加する電圧V=-4.5Vの条件とした。
【0023】
図2に示されているように、エッチング時間が長くなるとともに、電気容量がほぼ線形に増加していることがわかる。これは、図3の(a),(b)に示すような、第1電極102に内在する結晶欠陥の部分が選択的にエッチングされ、図3の(c),(d)に示すように、エッチング箇所が周囲に広がる多孔質化により、実効的な表面積が広がることで起こるものと考えられる。実際に作製した電気二重層キャパシタを、上述した処理により電気容量を増加させた後、第1電極の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、図4に示すように、欠陥部分を中心にエッチングが起こり、これが広がることでまだら模様になることが観察された。
【0024】
ところで、図5に示すように、印加する電圧の絶対値が3.5Vより小さい範囲では、電荷が蓄積され、印加する電圧の-3.5Vより小さい範囲では、電極における電気化学エッチングが起きるようになる。従って、印加する電圧を-3.5Vより小さい範囲とすることで、負電極である第1電極の電気化学エッチングは可能である。イオン液体の温度については、原理的には、イオン液体の凝固点より高い範囲とすることで上述したエッチング処理が実施可能である。電気化学エッチングの起こり始める閾値電圧は、イオン液体の温度の上昇とともに、240Kで-2.5V、260Kで-2.0Vとその絶対値が小さくなる。
【0025】
また、イオン液体は、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに限らず、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMIM-TFSI)などの、(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)アニオン(TFSI)を含むイオン液体においても同様な機能が可能と見込まれる。
【0026】
以上に説明したように、本発明によれば、銅酸化物を結晶成長して形成した第1電極を負電極とし、第2電極を正電極とした電気化学エッチングにより第1電極に存在する結晶欠陥を選択的にエッチングすることで、第1電極を多孔質化するので、イオン液体を用いた所望の電気容量を有する電気二重層キャパシタが、従来技術に比較して容易に作製できるようになる。
【0027】
電気二重層キャパシタのような電気化学キャパシタでは、イオン(電解液)と接する電極界面の実効面積が電気容量の大きさを決める。このため、限られた空間で電気容量の増加が必要な場合、電極を多孔質化したり、微細加工により複数の微細な構造を備える状態としたりする前段階プロセスを必要としていた。本発明により、このような前段階プロセスを必要とせずに、電気二重層キャパシタを作製後、電気化学エッチングが起こり始める電圧と静電的なキャリア蓄積(キャパシタの機能のみ)が働く電圧領域の境界に位置するある閾値以上の電圧をかけるだけで、電気容量の大きさを10倍程度まで増加させることが可能となり、大容量を持つ電気二重層キャパシタ作製過程のプロセスが簡便化される。
【0028】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0029】
101…単結晶基板、102…第1電極、103…イオン液体、104…第2電極。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7