(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】湯種及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/26 20060101AFI20240910BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20240910BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20240910BHJP
A21D 13/064 20170101ALI20240910BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D2/36
A21D10/00
A21D13/064
(21)【出願番号】P 2018192613
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-07-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨石 雄也
(72)【発明者】
【氏名】杉本 利枝子
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】淺野 美奈
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-42809(JP,A)
【文献】特開2003-23955(JP,A)
【文献】飯島記念食品科学振興財団年報、2011,Vol.2009,pp.208-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D2/00-17/00
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉
、豆由来たん白
質及び水を含有する湯種であって、湯種100質量部あたりの
豆由来たん白質の割合が0.09~3.75質量
部である、湯種(但し、小麦粉、グルテン、ショ糖、酢酸及び水を混合し、加熱処理して調製される湯種を除く)。
【請求項2】
小麦粉、
及び小麦粉とは別に添加された植物性たん白質(外添植物性たん白質)を含有する湯種用組成物を、水の存在下で、小麦粉の糊化開始温度以上の温度で混捏し、湯種100質量部あたりの外添植物性たん白質の割合が0.09~3.75質量部
である湯種を調製する工程(但し、小麦粉、グルテン、ショ糖、酢酸及び水を混合し、加熱処理する工程を除く)を有する湯種の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載する湯
種を含むベーカリー生地。
【請求項4】
さらに澱粉質及びイーストを含有する請求項3に記載するベーカリー生地。
【請求項5】
小麦粉、及び小麦粉とは別に添加された植物性たん白質(外添植物性たん白質)を含有する湯種用組成物を、水の存在下で、小麦粉の糊化開始温度以上の温度で混捏し、湯種100質量部あたりの外添植物性たん白質の割合が0.09~3.75質量部である湯種を調製する工程(但し、小麦粉、グルテン、ショ糖、酢酸及び水を混合し、加熱処理する工程を除く)、
前記工程で得られる湯種を用いてベーカリー生地を調製する工程を有する、ベーカリー生地の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載するベーカリー生地が加熱されてなるベーカリー製品。
【請求項7】
小麦粉、及び小麦粉とは別に添加された植物性たん白質(外添植物性たん白質)を含有する湯種用組成物を、水の存在下で、小麦粉の糊化開始温度以上の温度で混捏し、湯種100質量部あたりの外添植物性たん白質の割合が0.09~3.75質量部である湯種を調製する工程(但し、小麦粉、グルテン、ショ糖、酢酸及び水を混合し、加熱処理する工程を除く)、
前記工程で得られる湯種を用いてベーカリー生地を調製する工程、及び
前記工程で得られるベーカリー生地を、必要に応じて発酵させた後に、加熱する工程を有する、ベーカリー製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の湯
種を、ベーカリー製品、または麺皮製品の製造に使用する方法。
【請求項9】
湯種製法において、湯種として請求項1に記載する湯
種を用いて、生地を調製することを特徴とする、生地の粘着性を低減する方法。
【請求項10】
小麦粉、及び小麦粉とは別に添加された植物性たん白質(外添植物性たん白質)を含有する湯種用組成物を、水の存在下で、小麦粉の糊化開始温度以上の温度で混捏し、湯種100質量部あたりの外添植物性たん白質の割合が0.09~3.75質量部である湯種を調製する工程(但し、小麦粉、グルテン、ショ糖、酢酸及び水を混合し、加熱処理する工程を除く)、
前記工程で得られる湯種を用いて麺皮を製造する工程を有する
麺皮製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品または麺皮製品の製造に使用される湯種及びその製造方法に関する。さらに本発明は当該湯種を用いたベーカリー生地及びベーカリー製品、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パン類等のベーカリー製品をしっとり、もっちりとした独特な食感にする方法として、湯種を用いる方法(湯種製法または湯捏製法ともいう)が知られている。例えば、湯種を用いたベーカリー製品の製造方法に関しては、特許文献1~3に記載されているように、イーストを含まない穀粉原材料を高温の水の存在下で混捏して湯種生地とし、これを用いて、ストレート法や中種法等の各種製パン方法によってベーカリー生地を作製し、ベーカリー製品を製造することが知られている。
【0003】
しかし、湯種を配合したベーカリー生地は、湯種の配合量に応じて、粘着性(べたつき)が増加するとともに、弾力が低下することが知られている。よって、ミキサーボウル等の製造器具に生地が付着しやすいため、作業性が悪く、また、ミキシングのかかり方が一定になりにくく、製品の品質が安定しないという問題もある。
【0004】
かかる問題を改善する方法として、ベーカリー生地をミキシングする際にグルテンを添加する方法が知られているが、生地の弾力は改善するものの、粘着性(べたつき)は改善されない。また、湯種をベーカリー生地のミキシング工程で数回に分けて添加する方法も知られているが(特許文献4)、粘着性の改善において、充分な手段とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3080368号公報
【文献】特開2000-262205号公報
【文献】特開2002-034436号公報
【文献】特開2017-163929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の湯種製法の特徴であるしっとり、もっちりとした食感を維持しながら、短所であったベーカリー生地の粘着性(べたつき)を抑制することで、製造作業性を改善することを目的とする。具体的には、湯種製法の作業性改善に好適に使用される湯種、及びその原材料としての湯種用組成物を提供することを目的とする。また、当該湯種を用いたベーカリー生地及びベーカリー製品、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、湯種製法でベーカリー製品を製造するにあたり、湯種の原材料として小麦粉に加えて植物性たん白質を用いた湯種を用いることで、意外にも、湯種製法で得られる独特な食感を維持しながらも、ベーカリー生地の粘着性(べたつき)を抑制することができ、その結果、湯種製法の長年の問題であった製造機械等への生地の付着、及びそれによる作業性の低下が改善できることを見出し、安定した品質のベーカリー製品を効率よく製造することができることを確認した。
【0008】
本発明はこれらの一連の知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有する。
【0009】
(I)湯種用組成物、湯種、及びその製造方法
(I-1)小麦粉、及び小麦粉とは別に添加された植物性たん白質(以下、これを「外添植物性たん白質」と称する)を含有する湯種用組成物。
(I-2)前記植物性たん白質が、小麦たん白、大豆たん白、えんどう豆たん白、及びとうもろこしたん白よりなる群より選択される少なくとも1種である、(I-1)に記載する湯種用組成物。
(I-3)小麦粉、及び小麦粉とは別に添加された植物性たん白質、及び水を含有する湯種。
(I-4)前記植物性たん白質が、小麦たん白、大豆たん白、えんどう豆たん白、及びとうもろこしたん白よりなる群より選択される少なくとも1種である、(I-3)に記載する湯種。
(I-5)(I-1)または(I-2)に記載する湯種用組成物を水の存在下で、小麦粉の糊化開始温度以上の温度で混捏する工程を有する(I-3)または(I-4)に記載する湯種の製造方法。
【0010】
(II)ベーカリー生地、及びその製造方法
(II-1)(I-3)若しくは(I-4)に記載する湯種、または(I-5)に記載する製造方法で得られる湯種を含むベーカリー生地。
(II-2)さらに澱粉質及びイーストを含有する(II-1)に記載するベーカリー生地。
(II-3)(I-3)若しくは(I-4)に記載する湯種、または(I-5)に記載する製造方法で得られる湯種に、少なくとも澱粉質、イースト及び水を加えて混捏する工程を有するか、または前記湯種とは別に、少なくとも澱粉質、イースト及び水を含む組成物を混捏して中種を製造し、これを前記湯種と混捏する工程を有する、ベーカリー生地の製造方法。
(II-4)ベーカリー生地が、パン、洋菓子(例えば、ケーキ、ワッフル、クレープ、ドーナツ、パイ、ピザ、ビスケット等)、及び和菓子(例えば、どら焼き等)からなる群より選択される少なくとも1種のベーカリー製品の生地である(II-1)に記載するベーカリー生地、または(II-3)に記載するベーカリー生地の製造方法。
【0011】
(III)ベーカリー製品及びその製造方法
(III-1)(II-1)若しくは(II-2)に記載するベーカリー生地、または(II-3)若しくは(II-4)に記載の製造方法で得られるベーカリー生地が加熱されてなるベーカリー製品。
(III-2)(II-1)若しくは(II-2)に記載するベーカリー生地、または(II-3)若しくは(II-4)に記載の製造方法で得られるベーカリー生地を、必要に応じて発酵させた後に、加熱する工程を有する、ベーカリー製品の製造方法。
(III-3)ベーカリー製品が、パン、洋菓子(例えば、ケーキ、ワッフル、クレープ、ドーナツ、パイ、ピザ、ビスケット等)、及び和菓子(例えば、どら焼き等)からなる群より選択される少なくとも1種のベーカリー製品である(III-1)に記載するベーカリー製品、または(III-2)に記載するベーカリー製品の製造方法。
【0012】
(IV)湯種の用途
(IV-1)(I-3)若しくは(I-4)に記載する湯種、または(I-5)に記載する製造方法で得られる湯種を、ベーカリー製品、または麺皮製品の製造に使用する方法。
(IV-2)湯種製法において、湯種として(I-3)若しくは(I-4)に記載する湯種、または(I-5)に記載する製造方法で得られる湯種を用いて、生地を調製することを特徴とする、生地の粘着性を低減する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、湯種の原材料の一つとして小麦粉とは別に植物性たん白質を用いることにより、湯種製法の特徴であるしっとり、もっちりした食感はそのままに、湯種製法の従来の問題である生地の粘着性(べたつき)を抑制することができる。その結果、製造器具等への生地の付着による作業効率の低下、及び付着によってミキシングが一定にかからず生地形成が充分になされないことによる製品の品質低下を改善することができる。またこの結果、本発明によれば、湯種製法により安定した製品を大量に製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)湯種用組成物、湯種、及びその製造方法
(I-1)湯種用組成物
本発明が対象とする湯種用組成物は、湯種を調製するために用いられる組成物である。当該湯種用組成物は、小麦粉に加えて、別に植物性たん白質を含むことを特徴とする。なお、本発明において対象とする湯種は、パン等のベーカリー製品を製造する方法として広く知られている湯種製法に用いられる、小麦粉の澱粉の一部がα化されてなる中間生地である。湯種製法とは、ベーカリー製品の原材料の一つとして使用される小麦粉を先に水等とともに所望の温度で混捏して湯種(中間生地)を製造し、得られた湯種を残りの原材料(澱粉質、イースト、副原材料)とともに混捏、発酵、加熱等することによってベーカリー製品を製造する公知の方法である。
【0015】
本発明において使用される植物性たん白質(外添植物性たん白質)としては、植物に由来する可食性のたん白を挙げることができる。その限りにおいて、特に制限されないものの、例えば小麦たん白としてグルテン;豆類たん白として大豆たん白及びえんどう豆たん白;とうもろこしたん白としてゼイン(ツェイン)を例示することができる。好ましくは小麦たん白であるグルテン、及び大豆たん白を挙げることができる。なお、植物性たん白として、たん白質100%からなる精製物を使用する必要は必ずしもなく、たん白質を含むものであれば粗精製物を使用することもできる。例えば、きなこは、約35.5質量%の割合で大豆たん白質を含有する食品素材(植物性たん白質含有素材)であり、本発明においても好適に使用することができる。このような植物性たん白質含有素材は、商業的に入手することができ、例えばグルテンを含む食品素材としては、「AグルG」(たん白質含量76質量%)、及び「AグルSS」(たん白質含量83.2質量%)(以上、グリコ栄養食品株式会社製);大豆たん白を含む食品素材としては、きなこ(たん白質含量35.5質量%)、「フレッシュフラワーS55」(たん白質含量37.5質量%)、「フレッシュRF」(たん白質含量46.3質量%)(以上、昭和産業株式会社製)、及び「フジプロ-F」(たん白質含量90.8質量%)(以上、不二製油株式会社製);えんどう豆たん白を含む食品素材としては「PP-CS」(たん白質含量77質量%)(以上、オルガノフードテック株式会社製)等を、制限なく例示することができる。
【0016】
湯種用組成物に用いられる小麦粉は、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、及びデュラム小麦粉等のなかから、製造する対象のベーカリー製品の種類に応じて適宜選択することができる。
【0017】
湯種用組成物において、小麦粉と組み合わせて使用される外添植物性たん白質の割合は、小麦粉100質量%に対して外添植物性たん白質の添加量が例えば65質量%以下となる割合を挙げることができる。好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。また、小麦粉100質量%に対して外添植物性たん白質の添加量が例えば0.2質量%以上となる配合を挙げることができる。好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上である。なお、ここで「質量%」はベーカーズ%による表示である。ベーカーズ%とは、ベーカリー製品の分野で一般的に用いられる単位表記であり、配合成分中の澱粉質(ここでは小麦粉)の総重量を100%とした時の他の成分の重量割合を表す。
【0018】
本発明の湯種用組成物は前記小麦粉及び外添植物性たん白質からなるものであってもよいが、本発明の効果を妨げないことを限度として、上記成分以外に、副原材料を含むこともできる。副原材料としては、小麦粉以外の澱粉質、油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油、粉末油脂等)、食塩、糖類(トレハロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、砂糖、マルトース、イソマルトース等の、液状または粉粒状の糖類)、糖アルコール類(ソルビトール、マルチトール、パラチニット、還元水飴等の、液状または粉粒状の糖アルコール類)、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、酵素類、調味料(アミノ酸、核酸等)、及び香料等を、制限されることなく例示することができる。これらの副原材料は、単独で使用しても、また2種以上を混合して添加することもできる。本発明の湯種用組成物は、小麦粉以外の澱粉質を含むものであってもよいが、米粉は含まないことが好ましい。
【0019】
なお、本発明において澱粉質とは、粉末状に調製された澱粉を含む可食性原材料を意味する。かかる澱粉質には穀粉類と澱粉類が含まれる。穀粉類は例えば、小麦粉(強力粉、薄力粉、準強力粉、中力粉、全粒粉、デュラム小麦粉、小麦胚芽、またはふすま等)、米粉(上新粉、上用粉、餅粉、白玉粉、玄米粉等)、大麦粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、あわ粉、ひえ粉、はと麦粉、そば粉等が挙げられる。澱粉類は例えば、とうもろこし、もち種とうもろこし、馬鈴薯、葛、タピオカ、サゴ等を原材料とした未加工の澱粉が挙げられる。また、それら澱粉を原材料として、物理的及び/または化学的処理等(酵素処理、湿熱処理、α化、ヒドロキシプロピル化、架橋等)を施した加工澱粉も澱粉類に含まれる。
【0020】
(I-2)湯種、及びその製造方法
本発明の湯種は、前述する湯種用組成物、つまり小麦粉、及び外添植物性たん白質、さらに所望により副原材料との混合物を、水の存在下で高温条件で混捏することで製造される(以下、この工程を「湯種製造工程」ともいう。)。ここで「高温条件で混捏する」とは、混捏中に湯種が少なくとも一回高温に達する条件で混捏することを意味する。達する温度条件(高温条件)として、小麦粉の澱粉が糊化を開始する温度(糊化開始温度)以上の温度条件を挙げることができる。かかる温度条件としては、水の量によっても相違するが、例えば50℃以上、好ましくは55℃以上を挙げることができる。かかる温度の上限としては、澱粉の糊化を妨げない限り制限されないが、例えば100℃程度以下、好ましくは95℃程度以下、より好ましくは90℃程度以下を挙げることができる。
【0021】
かかる高温条件で混捏する方法としては、上記水として温~熱水を使用して上記原材料の混合物を混捏する方法を例示することができる。かかる温~熱水の温度としては、前記するように小麦粉の澱粉の糊化開始温度以上であればよく、特に制限されないが、例えば70~100℃程度、好ましくは80~100℃程度を例示することができる。なお、湯種製造に使用する水の割合としては、製造される湯種(100質量%)中の水分含量に換算して例えば30~80質量%、好ましくは35~70質量%、より好ましくは40~70質量%である。かかる水分含量になるように、湯種に使用する小麦粉100質量%(ベーカーズ%)に対する水分含量としては例えば50~600質量%、好ましくは60~300質量%、より好ましくは70~300質量%、特に好ましくは100~250質量%を挙げることができ、かかる範囲から適宜調整することができる。
【0022】
前述する湯種用組成物、つまり小麦粉、及び外添植物性たん白質、並びに所望により上記副原材料との混合物を、上記の如く水の存在下で高温条件で混捏する他の方法としては、例えば常温の水を使用して、上記混合物を、蒸気、直火、電子レンジ、オーブン等の任意の方法で加熱しながら混捏することにより、混捏中に湯種が少なくとも一回、前記の高温状態に達するようにする方法を挙げることができる。なお、ここで常温とは、例えば20℃±15℃(5~35℃)、好ましくは15~25℃を挙げることができる。
【0023】
混捏方法(練り上げる方法)は、特に制限されず、定法に従って行うことができる。制限されないものの、簡便には、例えば高速ミキサー等の混合機を用いて混捏する方法を挙げることができる。このようにして捏ね上げられることで、湯種の捏上温度は、例えば50~80℃、好ましくは60~70℃に調整することが好ましい。
【0024】
このようにして製造される湯種に含まれる、小麦粉100質量%に対する外添植物性たん白質の割合は湯種用組成物に関して説明した前述の通りである。また湯種100g中に含まれる外添植物性たん白質含量としては、制限されないものの、例えば15g以下を挙げることができる。好ましくは8g以下であり、より好ましくは6g以下である。また、下限値として制限されないものの、例えば0.05g以上を挙げることができる。好ましくは0.1g以上であり、より好ましくは1g以上である。湯種に含まれる外添植物性たん白質含量が多くなりすぎると、しっとり、もっちりした食感が低減して、噛み応えの強い食感になる傾向がある。
【0025】
このようにして製造される湯種は、そのままベーカリー生地を製造するための材料として使用されてもよいし、必要に応じて小分けして、常温保存、冷蔵保存(チルド冷蔵保存及びパーシャル冷蔵保存を含む)または冷凍保存されてもよい。本発明が対象とする湯種には、かかる常温状態の湯種、冷蔵状態の湯種、及び冷凍状態の湯種が含まれる。
【0026】
湯種を常温で保存する方法としては、制限されないものの、例えば、捏ね上げられた湯種をポリエチレン製等の気密性フィルム等に密封し、例えば15℃~25℃の温度帯で保管する方法を挙げることができる。また、湯種の冷蔵保存方法としては、例えば、捏ね上げられた湯種を前記気密性フィルム等に密封し、例えば-3℃~5℃の温度帯で保管する方法を挙げることができる。また冷凍保存方法としては、例えば、捏ね上げられた湯種を前記気密性フィルム等に密封し、例えば-40℃~-15℃の温度帯で保管する方法を挙げることができる。このようにして冷凍保存された湯種は、適宜解凍して使用することができる。
【0027】
(II)ベーカリー生地、ベーカリー製品及びそれらの製造方法
(II-1)ベーカリー生地、及びその製造方法
前述する本発明の湯種は、ベーカリー製品製造用生地(本発明では「ベーカリー生地」と称する)の材料として使用することができる。
【0028】
本発明のベーカリー生地は、上記方法で得られた湯種と、ベーカリー生地を製造するための原材料(以下、「生地製造用原材料」ともいう)、及び、所望により水分とを混捏することによって製造することができる。具体的には、本発明の湯種、生地製造用原材料及び、所望により水分を、ミキサーに投入して、混捏することにより、本発明のベーカリー生地を製造することができる(ストレート法)。また本発明のベーカリー生地は、上記方法で得られた湯種とは別に、生地製造用原材料と水分の一部を混捏し、発酵させた中種生地を製造しておき、これを上記本発明の湯種と残りの生地製造用原材料粉と水分とともに混捏することによって製造することもできる(中種法)。なお、本発明のベーカリー生地の製造方法は、上記方法で得られた湯種を用いる限り、これらの方法に限定されるものではなく、例えば液種を用いる方法、加糖中種法、オートリーズ法、及びノータイム法等、公知のベーカリー生地の製造方法をいずれも使用することができる。これらの方法によるベーカリー生地の製造工程を、以下、単に「生地製造工程」ともいう。
【0029】
ベーカリー生地を製造するための原材料(生地製造用原材料)としては、制限されないものの、澱粉質、及びイースト(パン酵母:生イースト、ドライイースト、インスタントドライイースト等)を挙げることができる。
【0030】
ベーカリー生地の製造にあたり、澱粉質は1種単独で使用してもよいし、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ベーカリー生地の製造において、澱粉質として好ましくは穀粉類より選択される少なくとも1種を含むものである。より好ましくは小麦粉を含むものである。
【0031】
ベーカリー製品の種類によっても相違するが、その他、製造するベーカリー製品の種類に応じて、必要により、食塩やその他の塩(塩化ナトリウム、塩化カリウム等);イーストフード(無機フード、有機フード、酵素系フード等);発酵種(自家培養発酵種、簡易発酵種、酒種、ルヴァン種、パネトーネ種、ヨーグルト種、サワー種等);油脂類(固形または流動状脂(ショートニング、ラード、マーガリン、バター等)、液状油(オリーブオイル、植物オイル等)、粉末油脂、折り込み油脂等);糖類(トレハロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、砂糖、マルトース、イソマルトース、蜂蜜、モルト等の、液状または粉粒状の糖類);糖アルコール類(ソルビト-ル、マルチトール、パラチニット、還元水飴等の、液状または粉粒状の糖アルコール類);乳製品(牛乳、粉乳類(脱脂粉乳を含む)、クリーム類、チーズ類、ヨーグルト等);卵製品;増粘剤(キサンタンガム、グアガム、アルギン酸エステル、ペクチン、タマリンドシードガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アラビアガム、ガラクトマンナン、ジェランガム等の増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、等);膨張剤(重曹、炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等);乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等);酵素類;製パン改良剤;調味料(アミノ酸、核酸等)、保存料、または香料等を用いることもできる。また好みに応じて、ドライフルーツ(レーズン、デーツ等)、ナッツ(カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカデミアナッツ、栗、クルミ、ピーカンナッツ、ピスタチオナッツ、ココナッツ等)、種実(南瓜の種、ひまわりの種、芥子の実、ごま等)を配合することもできる。
【0032】
なお、ベーカリー生地における本発明の湯種の割合としては、制限されないものの、ベーカリー生地100質量%中、例えば2~50質量%、好ましくは5~40質量%、より好ましくは7~30質量%を例示することができる。これをベーカリー生地に含まれる、湯種に由来しない澱粉質の総重量を100質量%とした時の湯種の割合として示すと、制限されないものの、例えば4~110質量%、好ましくは10~100質量%、より好ましくは15~90質量%を例示することができる。
【0033】
湯種及び澱粉質以外の生地製造用原材料及び水の量は、従来公知の湯種製法の条件に従ってベーカリー生地が製造できる範囲で、当業者が適宜設定することができる。
【0034】
(II-2)ベーカリー製品、及びその製造方法
このようにして製造されたベーカリー生地を用いて、ベーカリー製品の種類に応じて、定法に従って、ベーカリー製品を製造することができる。なお、本発明が対象とするベーカリー製品とは、澱粉質を主な原材料として焼成、蒸し、蒸し焼き、油ちょう、及び電子レンジ調理等の加熱処理をして製造される加工食品であり、制限されないものの、例えばパンや、ケーキ、ワッフル、クレープ、ドーナツ、パイ、ピザ、ビスケット等の洋菓子、及びどら焼き等の和菓子を挙げることができる。パンとしては、食事パン(例えば、食パン、ライ麦パン、フランスパン、乾パン、バラエティブレッド、ロールパン等)、調理パン(例えば、ホットドッグ、ハンバーガー、ピザパイ等)、菓子パン(例えばジャムパン、アンパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スイートロール、クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュ、コロネ等)、蒸しパン(例えば、肉まん、中華まん、あんまん等)、特殊パン(グリッシーニ、イングリッシュマフィン、ナン等)等が例として挙げられる。ケーキとしては、蒸しケーキ、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ等が例として挙げられる。なお、洋菓子には、上記のほか、カステラ、クッキー、及びサブレなどが含まれる。また和菓子には、上記のほか、饅頭、たい焼き、及び回転焼きなどが含まれる。
【0035】
ベーカリー製品の製法としては、例えば、ベーカリー製品がパンの場合は、前述の生地製造工程後に、生地発酵工程、及び加熱工程が行われる。具体的には、例えばパンをストレート法で製造する場合、前記生地製造工程に続いて、発酵工程(フロア)、分割工程、丸め工程、ねかし(ベンチ)工程、成形工程、焙炉(ホイロ:最終発酵)工程、及び加熱工程を行うことで製造することができる。またパンを中種法で製造する場合、材料の一部で中種を作製し、発酵(第1発酵)させた後、発酵後の中種と残りの材料を加え混捏する工程、次いで第2発酵(30分程度の比較的短時間の発酵工程)を行った後に、分割工程、丸め工程、ねかし(ベンチ)工程、成形工程、焙炉(ホイロ:最終発酵)工程、及び加熱工程を行うことで製造することができる。これらの各工程で行われる各操作やその条件には、常法の製パン工程で採用される操作及び条件が採用される。加熱工程は、ベーカリー製品の種類に応じて、焼成、蒸し、蒸し焼き、油ちょう、電子レンジ調理等の方法によって行なうことができる。
【0036】
(III)湯種の用途
(III-1)ベーカリー製品等の製造における使用
前述する本発明の湯種によれば、植物性たん白質を別に添加しないで調製された従来の湯種を用いた場合と比べて、湯種製法で製造される生地の粘着性(べたつき)が抑制ないし低減されており、その結果、従来の湯種製法において問題とされていた製造作業性の悪さを改善することができる。こうした湯種製法における課題と、それに対する本発明による改善効果は、前述するベーカリー製品に限らず、湯種製法を用いて製造されるあらゆる加工食品に当てはまることである。このため、本発明の湯種は、ベーカリー製品の製造だけでなく、湯種製法を用いて製造される各種の澱粉質製品、例えば、うどん、そば、中華麺、パスタ、そうめん、冷麦、餃子皮等の皮もの、生麺、乾麺、半生麺、茹麺、蒸麺、LL(ロングライフ)麺、冷凍麺、即席麺など麺皮類(特開2013-223461号公報、特開2016-127814号公報)の製造にも用いることができる。
【0037】
(III-2)生地の粘着性を低減する方法
本発明は、湯種製法において、湯種を使用した生地の粘着性を低減する方法を提供する。
【0038】
当該方法は、湯種製法に使用する湯種として、前述する本発明の湯種、つまり小麦粉及び水に加えて、別に植物性たん白質(外添植物性たん白質)を含む湯種を用いることで実施することができる。外添植物性たん白質としては、小麦たん白、大豆たん白、えんどう豆たん白、及びとうもろこしたん白よりなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。当該湯種は、具体的には小麦粉、及び外添植物性たん白質を含む組成物を水の存在下で、小麦粉澱粉の糊化開始温度以上の温度で混捏する工程を経て製造することができる。当該湯種において、外添植物性たん白質の含有割合は、前記(I)で説明した通りであり、ここに援用することができる。また、湯種の製造に使用される小麦粉の種類、及び副原材料、並びにその製造方法についても、前記(I)で説明した通りであり、同様にここに援用することができる。
【0039】
本発明の方法によれば、小麦粉とは別に植物性たん白質を配合しないで製造された湯種を用いた生地と比べて、粘着性(べたつき)が抑制ないし低減されており、その結果、従来の湯種製法において問題とされていた製造作業性の悪さ、及び/または生地形成が充分になされないことによる製品の品質低下を改善することができる。なお、湯種を使用した生地の粘着性(べたつき)の程度は、後述する実験例で説明するように、湯種を使用した生地のミキサーボウル壁面への付着性、または生地感確認時の指への付着性から評価することができる。小麦粉とは別に植物性たん白質を配合しないで製造された対照の湯種を用いて調製した生地と比べて、ミキサーボウル壁面への付着性及び/または生地感確認時の指への付着性が抑制ないし低減されている場合、当該生地の調製に使用した湯種は、生地の粘着性を低減する効果を奏しており、本発明の方法に好適に使用できる湯種であると判断することができる。
【0040】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。また、特に言及しない限り、「%」は質量%を意味するものとする。
のとする。
【0042】
実験例1 植物性たん白質配合による湯種の効果
植物性たん白質(小麦たん白[グルテン]、大豆たん白)を配合した各種の湯種を用いて湯種製法によりパンを製造し、作業性(生地の粘着性(べたつき))、生地形成性(生地の伸展性及び弾力性)、焼成後のベーカリー製品の外観(ボリューム)、及び食感(もっちり、しっとり感)を評価した。なお、これらの評価は、製パン経験があり、またベーカリー製品の官能評価試験について訓練をうけた5名の専門パネルにより行った。
【0043】
(1)湯種製造工程
植物性たん白質として、小麦たん白であるグルテン〔グルテン1:商品名「AグルG」グリコ栄養食品(株)製(たん白質含量:76%)、及びグルテン2:商品名「AグルSS」グリコ栄養食品(株)製(たん白質含量:83.2%)〕、及び大豆たん白(商品名「フジプロ-F」不二製油(株)製、たん白質含量:90.8%)を使用して、表1記載の処方に従って湯種を製造した。
【表1】
【0044】
上記の割合で小麦粉(強力粉または薄力粉)、並びにグルテン1,グルテン2または大豆たん白をミキサーボウルに投入し、これに熱湯(98℃)を投入して3分間撹拌混捏し、捏上温度が65℃の湯種を調製した。得られた各湯種をバットに移し、室温になるまで放冷した。放冷後、湯種を300gずつビニール袋に小分けし、-25℃の冷凍庫にて冷凍した。
【0045】
(2)製パン工程(ストレート法)
上記で調製した各湯種(比較例A~B、実施例A~D)を用いて表2の処方に従ってパン(参考例、比較例1~3、実施例1~4)を製造した。なお湯種は、上記冷凍品を解凍して使用した。
【表2】
【0046】
具体的には、上記表2記載の割合でショートニング以外の原材料を全てミキサーボウルに投入し、混捏(低速撹拌4分+中速撹拌6分)し、ショートニングを投入した後、さらに混捏(低速撹拌3分+中速撹拌4分)して、捏上温度が27℃のベーカリー生地を調製した。なお、上記低速撹拌の撹拌回転数は150rpmで、中速撹拌の撹拌回転数は250rpmで実施した。得られたベーカリー生地を、フロアタイム(温度28℃、相対湿度80%)として60分間発酵させた後、80gに分割し、丸めた後、ベンチタイムとして室温で20分間休ませた後にロール状に成形した。これを、60分間のホイロ(温度38℃、相対湿度85%)によって発酵させた後に、200℃で10分間焼成し、ロール状のベーカリー製品(ロールパン)を製造した。
【0047】
(3)評価
上記方法で製造した各種のロールパン(参考例、比較例1~3、実施例1~4)について、5名の専門パネルに、作業性(生地の粘着性(べたつき))、生地形成性(生地の伸展性及び弾力性)、焼成後のベーカリー製品の外観(ボリューム)、及び食感(もっちり、しっとり感)を、表3に記載する基準に基づいて評価した。なお、作業性評価のうち、「生地感確認時の指への付着」は、ベーカリー生地の一部をちぎって、両手で引き伸ばして膜状に広げた際の、生地の指への付着性から評価した。生地形成性(生地の伸展性と弾力)は、上記「生地感確認」に際して、ベーカリー生地を膜状に広げた際の生地の伸び感(生地の薄さ)と抵抗感から評価した。なお、生地の粘着性と生地形成性(伸展性と弾力性)及び焼成後のベーカリー製品のボリュームとは次の関係がある。生地の粘着性(べたつき)が強いと、製造器具等に生地が付着するためうまくミキシングがされない。このため、生地形成が不充分でグルテンが繋がっていないために、見かけ上非常によく伸びる(過度な伸展性)一方で、弾力性は非常に弱い生地になる。このため、生地形成性は伸展性と弾力性の両方で評価する必要がある。また、生地形成が不充分でグルテンが繋がっていないと、例えば風船に例えると、風船の膜に穴がたくさん開いている状態なので焼成後のボリュームは出にくい。また湯種を用いた場合、焼成後のベーカリー製品のボリュームと食感とは次の関係がある。ボリュームが小さいと「しっとりしない、または硬くなりやすい」食感:ボリュームが標準的であるということは程よく生地形成がなされた結果なので「もっちり、しっとり」した食感;またボリュームが大きいと「ぱさぱさし乾いた食感」が得られる傾向がある。
【表3】
【0048】
上記表3に記載する評価基準に基づいて参考例(湯種を用いず通常の製法によって製造したパン)を評価した結果を下記表4に示す。比較例1~3及び実施例1~4については、この参考例の結果との対比で評価した。なお、作業性に関する生地の粘着性(べたつき)は、ミキサーボウル壁面への生地の付着の有無と生地感確認時の指への付着の両方から総合的に評価した。結果を表4に示す。なお、表4に示す各数値は専門パネル5名で評価基準をすり合わせて統一したうえで相談して決定した評点である。
【0049】
【表4】
表4に示すように、従来の湯種(植物性たん白質非外添:比較例A)を用いて、ストレート法により製造したベーカリー生地(比較例1)は、参考例と比較して、粘着性(べたつき)が強くて、製造工程での作業性は悪く、また伸展性が強い一方で弾力性は弱く、生地形成が充分になされていない状態であった。しかし、この生地から製造されたパンは、湯種製法の特徴である食感(もっちり、しっとり感)を充分に備えていた。また、従来の湯種(植物性たん白質非外添)に加えて、小麦たん白であるグルテンを別添加して製造したベーカリー生地(比較例2)は、上記比較例1よりは改善されているものの、依然として粘着性(べたつき)が強く、製造工程での作業性はよくなく、また伸展性と弾力性のバランスが悪く、生地形成状態が不均一で、べたつく部分が残されていた。しかし、この生地から製造したパンも、湯種製法の特徴である食感(もっちり、しっとり感)を充分に備えていた。また、湯種の調製に使用する小麦粉として薄力粉を用いて製造したベーカリー生地(比較例3)は、強力粉を用いたベーカリー生地(比較例1)と同様に粘着性(べたつき)が強く、湯種製法の特徴である食感を備えていたが、もっちり、しっとり感は、比較例1よりもやや劣っていた。
【0050】
これに対して、外添植物性たん白質(小麦たん白、大豆たん白)を配合して調製した湯種を用いて、ストレート法により製造したベーカリー生地(実施例1~4)は、比較例1~3と比較して、いずれも粘着性(べたつき)が有意に抑制されており、作業性が大幅に改善されることが確認された。また伸展性及び弾力性も標準(参考例)に近づいており、このことから、ミキシングが充分になされ、生地形成が標準状態と同程度になされていたことが確認された。しかも、この生地から製造したパンは、湯種製法の特徴である食感(もっちり、しっとり感)を充分に備えていた。
【0051】
以上のことから、湯種製法において外添植物性たん白質を含む湯種を用いることで、湯種製法に特有の食感(もっちり、しっとり感)はそのままに、従来の問題であったベーカリー生地の粘着性(べたつき)が抑制され、製造作業性が改善できることが確認された。本実験では、外添植物性たん白質として、小麦たん白であるグルテン及び大豆たん白を使用した場合に、いずれも同様の結果が得られたことから、これら以外の、例えばえんどう豆たん白やとうもろこしたん白(ゼイン)も植物性たん白質として同様に使用できると考えられる。
【0052】
一方、外添たん白質として、植物性たん白質に代えて、動物性たん白質に相当する乳たん白を配合した湯種を用いて同様に湯種製法によりパンを製造したものの、湯種の短所であるベーカリー生地の粘着性(べたつき)は抑制されなかった。このことから、本発明の湯種製法におけるベーカリー生地の粘着性(べたつき)抑制効果は、外添たん白質として植物性たん白質を添加した湯種を使用することによって得られる特有の効果であるといえる。
【0053】
実験例2 湯種における植物性たん白質の配合量
湯種製法に使用する湯種中の外添植物性たん白質の含有量と、作業性(生地の粘着性(べたつき))、生地形成性(生地の伸展性及び弾力性)、焼成後のベーカリー製品の外観(ボリューム)、及び食感(もっちり、しっとり感)に対する影響を調べた。なお、各評価は、実験例1と同様に、5名の専門パネルが同じ基準に基づいて行った。
【0054】
(1)湯種製造工程
植物性たん白質として、グルテン(小麦たん白)を使用して、表5記載の処方に従って湯種を製造した。なお、表5において比較例Dは前述する比較例A、実施例Iは前述する実施例Aと同じ処方からなる湯種である(表1参照)。
【表5】
【0055】
上記の割合で小麦粉、及びグルテンをミキサーボウルに投入し、これに熱湯(98℃)を投入して3分間撹拌混捏し、捏上温度が65℃の湯種を調製した。得られた湯種をバットに移し、室温になるまで放冷した。次いで湯種を300gずつビニール袋に小分けし、-25℃の冷凍庫にて冷凍した。
【0056】
(2)製パン工程(ストレート法)
上記で調製した各湯種を用いて表6の処方に従って、実験例1と同様の方法でロールパン(比較例4~5、実施例1、実施例5~11)を製造した。なお湯種は、上記冷凍品を解凍して使用した。
【表6】
【0057】
[製法条件]
ミキシング:低速撹拌4分→中速撹拌6分→油脂投入→低速撹拌3分→中速撹拌4分
捏上温度:27℃
フロアタイム(28℃、rh80%):60分
分割重量:80g
ベンチタイム:20分
成形:ロール成形
ホイロ(38℃、rh85%):60分
焼成:200℃、10分
【0058】
(3)評価
上記方法で製造した各種のロールパン(比較例4~5、実施例5~11)について、実験例1と同様に、専門パネル5名に、作業性(生地の粘着性(べたつき))、生地形成性(生地の伸展性及び弾力性)、焼成後のベーカリー製品の外観(ボリューム)、及び食感(もっちり、しっとり感)を、表3に記載する基準に基づいて評価した。結果を表7に示す。なお、表7に示す各数値は専門パネル5名で相談して決定した評点である。
【表7】
【0059】
表7に示すように、従来の湯種(植物性たん白質非外添)を用いて、湯種製法(ストレート法)により製造したベーカリー生地(比較例4及び5)は、参考例と比較して、粘着性(べたつき)が強くて、製造工程での作業性は悪く、また伸展性が強い一方で弾力性は弱く、生地形成が充分になされていない状態であった。しかし、この生地から製造されたパンは、湯種製法の特徴である食感(もっちり、しっとり感)を充分に備えていた。
【0060】
これに対して、外添植物性たん白質(小麦たん白)を配合して調製した湯種を用いて、湯種製法(ストレート法)により製造したベーカリー生地(実施例5~11)は、比較例4及び5と比較して、いずれも粘着性(べたつき)が有意に抑制されており、作業性が大幅に改善されることが確認された。また伸展性及び弾力性も標準(参考例)に近づき、生地形成が、標準状態と同程度になされていたことが確認された。しかも、この生地から製造したパンは、湯種製法の特徴である食感(もっちり、しっとり感)を充分に備えていた。また、この実験結果から、湯種が外添植物性たん白質を含んでいる場合に、本発明の効果を発揮することが確認された。また制限されないものの、湯種100g中に含まれる外添植物性たん白質含有量が0.09g以上であるとより好適に本発明の効果を発揮することが確認された。