(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】位置決め装置、放射線治療装置、位置決め方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
A61N5/10 M
(21)【出願番号】P 2020073580
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 孝明
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162379(JP,A)
【文献】特開2000-140137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0280727(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者をX線透視により撮影した透視X線画像を取得する透視X線画像撮影装置と、前記患者が搭載された寝台の位置を変更させる寝台制御装置とを有する放射線治療装置に用いられる位置決め装置であって、
前記寝台の複数の前記位置のそれぞれにおける複数の前記透視X線画像をそれぞれ取得し、前記複数の前記透視X線画像を合成した合成透視X線画像であって、前記複数の前記透視X線画像のそれぞれに写された前記患者との相対的位置が固定された特定箇所のそれぞれが前記合成透視X線画像における略同一位置にあるように合成することで前記患者との相対的位置が固定された特定箇所を強調した合成透視X線画像を生成し、
前記患者の3次元断層画像を取得し、前記透視X線画像を撮影した撮影体系と同じ仮想空間上の撮影体系で前記3次元断層画像を使用して前記仮想空間上の前記寝台の複数の位置のそれぞれにおける複数の疑似透視X線画像を生成し、前記複数の前記疑似透視X線画像を合成した合成疑似透視X線画像であって、前記複数の前記疑似透視X線画像のそれぞれに写された前記特定箇所のそれぞれが前記合成疑似透視X線画像における略同一位置にあるように合成することで前記患者との相対的位置が固定された特定箇所を強調した合成疑似透視X線画像を生成し、
前記合成透視X線画像及び前記合成疑似透視X線画像を用いて、前記放射線治療装置による放射線治療時の前記寝台の位置決めに必要な前記寝台の移動量を算出する
ことを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記特定箇所は前記患者の特定部位であることを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
複数の前記透視X線画像は、前記患者を搭載する位置から前記放射線治療装置による放射線治療の位置まで前記寝台を移動させるときに撮影されたものであることを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項4】
前記特定箇所は前記患者との相対的位置が固定されたマーカであることを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項5】
患者をX線透視により撮影した透視X線画像を取得する透視X線画像撮影装置と、前記患者が搭載された寝台の位置を変更させる寝台制御装置と、前記寝台の位置決めを行う位置決め装置とを有する放射線治療装置であって、
前記位置決め装置は、
前記寝台の複数の前記位置のそれぞれにおける複数の前記透視X線画像をそれぞれ取得し、前記複数の前記透視X線画像を合成した合成透視X線画像であって、前記複数の前記透視X線画像のそれぞれに写された前記患者との相対的位置が固定された特定箇所のそれぞれが前記合成透視X線画像における略同一位置にあるように合成することで前記患者との相対的位置が固定された特定箇所を強調した合成透視X線画像を生成し、
前記患者の3次元断層画像を取得し、前記透視X線画像を撮影した撮影体系と同じ仮想空間上の撮影体系で前記3次元断層画像を使用して前記仮想空間上の前記寝台の複数の位置のそれぞれにおける複数の疑似透視X線画像を生成し、前記複数の前記疑似透視X線画像を合成した合成疑似透視X線画像であって、前記複数の前記疑似透視X線画像のそれぞれに写された前記特定箇所のそれぞれが前記合成疑似透視X線画像における略同一位置にあるように合成することで前記患者との相対的位置が固定された特定箇所を強調した合成疑似透視X線画像を生成し、
前記合成透視X線画像及び前記合成疑似透視X線画像を用いて、前記放射線治療装置による放射線治療時の前記寝台の位置決めに必要な前記寝台の移動量を算出する
ことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項6】
患者をX線透視により撮影した透視X線画像を取得する透視X線画像撮影装置と、前記患者が搭載された寝台の位置を変更させる寝台制御装置とを有する放射線治療装置に用いられる位置決め装置による位置決め方法であって、
前記位置決め装置が、前記寝台の複数の前記位置のそれぞれにおける複数の前記透視X線画像をそれぞれ取得し、
前記位置決め装置が、前記複数の前記透視X線画像を合成した合成透視X線画像であって、前記複数の前記透視X線画像のそれぞれに写された前記患者との相対的位置が固定された特定箇所のそれぞれが前記合成透視X線画像における略同一位置にあるように合成することで前記患者との相対的位置が固定された特定箇所を強調した合成透視X線画像を生成し、
前記位置決め装置が、前記患者の3次元断層画像を取得し、前記透視X線画像を撮影した撮影体系と同じ仮想空間上の撮影体系で前記3次元断層画像を使用して前記仮想空間上の前記寝台の複数の位置のそれぞれにおける複数の疑似透視X線画像を生成し、前記複数の前記疑似透視X線画像を合成した合成疑似透視X線画像であって、前記複数の前記疑似透視X線画像のそれぞれに写された前記特定箇所のそれぞれが前記合成疑似透視X線画像における略同一位置にあるように合成することで前記患者との相対的位置が固定された特定箇所を強調した合成疑似透視X線画像を生成し、
前記位置決め装置が、前記合成透視X線画像及び前記合成疑似透視X線画像を用いて、前記放射線治療装置による放射線治療時の前記寝台の位置決めに必要な前記寝台の移動量を算出することを特徴とする位置決め方法。
【請求項7】
患者をX線透視により撮影した透視X線画像を取得する透視X線画像撮影装置と、前記患者が搭載された寝台の位置を変更させる寝台制御装置とを有する放射線治療装置に用いられるコンピュータにより実行されるコンピュータプログラムであって、
前記寝台の複数の前記位置のそれぞれにおける複数の前記透視X線画像をそれぞれ取得する機能と、
前記複数の前記透視X線画像を合成した合成透視X線画像であって、前記複数の前記透視X線画像のそれぞれに写された前記患者との相対的位置が固定された特定箇所のそれぞれが前記合成透視X線画像における略同一位置にあるように合成することで前記患者との相対的位置が固定された特定箇所を強調した合成透視X線画像を生成する機能と、
前記患者の3次元断層画像を取得し、前記透視X線画像を撮影した撮影体系と同じ仮想空間上の撮影体系で前記3次元断層画像を使用して前記仮想空間上の前記寝台の複数の位置のそれぞれにおける複数の疑似透視X線画像を生成し、前記複数の前記疑似透視X線画像を合成した合成疑似透視X線画像であって、前記複数の前記疑似透視X線画像のそれぞれに写された前記特定箇所のそれぞれが前記合成疑似透視X線画像における略同一位置にあるように合成することで前記患者との相対的位置が固定された特定箇所を強調した合成疑似透視X線画像を生成する機能と、
前記合成透視X線画像及び前記合成疑似透視X線画像を用いて、前記放射線治療装置による放射線治療時の前記寝台の位置決めに必要な前記寝台の移動量を算出する機能とを実現させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め装置、放射線治療装置、位置決め方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療法の一つとして挙げられる放射線治療では、治療で用いる放射線の線種としてX線やガンマ線といった非荷電粒子線を使用する治療と、陽子線や炭素線といった荷電粒子線を使用する治療に大別される。後者の荷電粒子線(荷電粒子ビーム)を使用した治療は、一般に粒子線治療と呼ばれている。
【0003】
非荷電粒子は体内で浅い位置から深い位置にかけて一定の割合で線量の付与量が減少するといった特徴を有する一方で、荷電粒子ビームはエネルギーによって定まる特定の深さにピークを有する線量分布(ブラックカーブ)を形成するため、ピーク位置を腫瘍位置に合わせてビームを照射することで腫瘍より深い位置にある正常組織への線量を大幅に低下させることが可能であるといった特徴を有する。
【0004】
放射線治療では、可能な限り正確に、所望の線量を照射標的とする腫瘍に照射することが治療効果の向上につながる。腫瘍への正確な治療放射線の照射を実現するためには、実際の照射時において治療計画装置で作成した治療計画と同じ照射位置に患者を位置合わせする必要がある。前記位置合わせのことを患者位置決めと呼んでいる。
【0005】
放射線治療における患者位置決めは、一般的に直交に配置された2対のX線管と平面検出器により2方向から患者を撮影した透視X線画像を用いて実施される。撮影した透視X線画像と治療計画時のCT画像を仮想空間上に配置して前述の透視X線画像と同方向から仮想X線管から仮想平面検出器に入るX線の減弱量を計算することで作成した投影処理画像(以下、疑似透視X線画像)とを比較して、両者が一致するために必要な変位量を求めることで実施している。ここでは、透視X線画像上の目印となる骨(以下、位置決め対象骨)が前記疑似透視X線画像上の同部位と一致するように医療従事者による目視による手動合わせもしくは自動計算による自動合わせにより変位量を求めることで実施されている。
【0006】
しかし、位置決め対象骨は撮影方向前後の構造物(腸内空洞、固定具、非位置決め対象骨)の重なりにより視認性が低下することがあり、その場合は自動計算による位置合わせが困難となるため、自動計算よりも時間を要する手動位置合わせで対応している。放射線治療では治療総時間の内、患者位置決め時間は半分近くも占めており、治療時間短縮のためにも全ての患者で高速な自動位置合わせが実施されることが望ましい。
【0007】
本技術分野の一般技術として、特許文献1に記載の技術がある。
【0008】
特許文献1には、「第1のイメージング・システム(20)を使用して対象物を走査して、対象物の少なくとも第1の画像(158)を得る段階と、第1の画像(158)で観察可能である関心領域(ROI)(160)の座標を決定する段階であって、該ROI(160)が異常部(152)を含んでいる段階と、ROI(160)の座標を使用して、第2のイメージング・システム(14)によって対象物を走査する段階とを含む。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Medical Physics(米)、vol.44、No.11, p.5584-5595
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
通常、2次元である透視X線画像上の位置決め対象骨前後の構造物の重なりを分離するためには、画像処理により位置決め対象骨だけを強調する対策が考えられるが、透視撮影方向から見て対象骨とその前後に存在する構造物との区別が難しい場合や、体厚が大きい患者の場合は厚い軟組織の層により対象骨の視認性自体が元々低下している場合がある。対象骨のみの情報を得るためには通常3次元情報の取得が考えられるが、3次元画像を取得するために既存施設の治療室内に新たにコンピュータ断層撮影装置(Computed Tomography:CT)やコーンビーム方式のコンピュータ断層撮影装置(CBCT装置)を導入するには空間的にも経済的にも施設管理側の負担が大きくなることが考えられる。
【0012】
また、特許文献1に記載されるように、透視画像上で対象骨が存在する断層像を強調して透視画像を合成作成するトモシンセシス撮影技術と呼ばれる方法もあるが、この撮影技術では合成画像を作成するために強調対象部位を焦点として撮影角度を変えた透視X線画像を複数枚取得する必要があるために撮影時にX線管と検出器が稼働する必要があり既存装置の改造が必要となる。
【0013】
また、複数のX線管と大型平面検出器を用いてトモシンセシス画像を取得する試みもある。非特許文献1に記載される方法では治療放射線を照射するノズル周辺に8つの小型X線管をアイソセンタと呼ばれる治療放射線の照射基準位置に焦点が来るように配置し、治療放射線下流側に設置された大型平面検出器の8つの小領域で各々のX線を受像する。8枚のX線画像を同時に取得し、取得した8つのX線画像を加算合成することでアイソセンタ付近の深さの物体を強調した合成画像を取得するという技術である。当技術では撮影方向を変えた画像を取得するために複数の小型X線管を必要としている。
【0014】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、撮影装置を追加することなく精度のよい患者位置決めを行うことが可能な位置決め装置、放射線治療装置、位置決め方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく、本発明の一つの観点に従う位置決め装置は、患者をX線透視により撮影した透視X線画像を取得する透視X線画像撮影装置と、患者が搭載された寝台の位置を変更させる寝台制御装置とを有する放射線治療装置に用いられる位置決め装置であって、複数の寝台の位置における透視X線画像をそれぞれ取得し、患者との相対的位置が固定された特定箇所が特定の透視X線画像の特定位置にあるようにこの特定の透視X線画像を強調して複数の透視X線画像を合成した合成透視X線画像を生成し、この合成透視X線画像を用いて、放射線治療装置による放射線治療時の寝台の位置決めに必要な寝台の移動量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、撮影装置を追加することなく精度のよい患者位置決めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る放射線治療装置の全体概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る位置決め装置による自動患者位置決め方法の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図3】実施形態に係る位置決め装置における、合成画像作成に必要となる透視X線画像撮影方法を示す概念図である。
【
図4】実施形態に係る位置決め装置における、機器の幾何学配置を考慮した合成画像作成方法を示す概念図である。
【
図5】実施形態1に係る位置決め装置による合成画像作成方法の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0019】
なお、実施形態を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0021】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0022】
本実施形態では、以下に述べるように、撮影対象を移動させながら撮影した透視X線画像から作成した合成画像と、前記透視X線画像と同じ体系で治療計画時の三次元画像を使用して仮想的に作成した疑似透視X線画像を作成して、位置決め対象骨を強調させた合成画像をそれぞれ作成して位置決めに使用する。
【0023】
より詳細には、本実施形態では、従来、患者位置決めで使用されてきた直交に配置された2対のX線管と平面検出器を用いて、両撮影装置で形成される撮影領域を通るように患者を載せた寝台を移動させて連続的に撮影することでX線管と平面検出器中心間の直線に対する位置決め対象骨の相対的な角度を変えた透視X線画像を取得する。取得した複数のX線画像を患者体内の位置決め対象骨の存在する深さに応じて画像を合成処理することで位置決め対象骨の深さの像を強調した合成透視X線画像を作成する。同様に、同撮影体系で合成疑似透視X線画像を作成する。前記合成透視X線画像と前記合成疑似透視X線画像を利用することで位置決め対象骨を強調し、かつ撮影方向前後に存在する構造物の像を暈した画像を患者位置決め計算に使用することができる。
【0024】
本実施形態による放射線治療装置における自動患者位置決め動作について
図1から
図5を用いて説明する。
【0025】
図1の放射線治療装置Aの全体構成図が示すように、放射線治療装置Aは、加速器1と、ビーム輸送装置2と、ガントリー3と、照射ノズル4と、平面検出器5A、5Bと、X線管6A、6Bと、寝台7、ロボットアーム8、治療計画装置20と、通信装置30と、データサーバ40と、透視X線画像撮影装置50、寝台制御装置60、患者位置決め装置70と、を備える。
【0026】
標的に対して治療放射線を照射するために放射線治療装置Aは加速器1で治療放射線を生成し治療に適したエネルギーまで加速する。その後、ビーム輸送装置2は加速した治療放射線をガントリー3へ輸送する。ガントリー3は回転機構を有しており治療放射線を様々な角度で患者患部に照射することができる。ガントリー3により適した角度に曲げられた治療放射線は照射ノズル4を通過して患者9の患部に照射される。照射ノズル4は患者の患部形状に合うように治療放射線の形状を変える機構が組み込まれている。患者9は治療放射線を照射される前に寝台7に上に載せられ、寝台7に接続されたロボットアーム8により事前に計画された計画位置に移動する。ここでの計画位置とは治療計画装置12を用いて事前に作成された治療計画と同じ位置状態を再現する放射線治療室内の位置を指す。ロボットアーム8は並進3方向、回転3軸方向の駆動が可能で患者9を載せた寝台7を適切な位置と角度で配置できる。
【0027】
治療計画装置20は事前に患者9を撮影した3次元画像に対して治療放射線の適切な照射角度と照射形状、照射量を照射情報として計算により求めて決定する。決定した照射情報は通信装置30を介してデータサーバ40に保存される。
【0028】
透視X線画像撮影装置50は直交に配置した平面検出器5A、5B、X線管6A、6Bをそれぞれ制御して透視X線画像を取得する。取得した画像は患者位置決め装置70に送られる。
【0029】
患者位置決め装置70はデータサーバ40から照射情報と患者の3次元画像情報とを通信装置30を介して取得し、患者位置決め装置70の疑似透視X線画像作成部71により疑似透視X線画像を作成する。合成画像作成部72は透視X線画像と疑似透視X線画像から合成透視X線画像と合成疑似透視X線画像を作成する。変位量算出部73は前記合成透視X線画像と前記合成疑似透視X線画像とを用いて患者を計画位置に配置するために必要な変位量を算出する。
【0030】
患者位置決め装置70は各種情報処理が可能な装置、一例としてコンピュータ等の情報処理装置から構成される。情報処理装置は、演算素子、記憶媒体及び通信インターフェースを有し、さらに、必要に応じてマウス、キーボード等の入力部、ディスプレイ等の表示部を有する。
【0031】
演算素子は、例えばCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等である。記憶媒体は、例えばHDD(Hard Disk Drive)などの磁気記憶媒体、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などの半導体記憶媒体等を有する。また、DVD(Digital Versatile Disk)等の光ディスク及び光ディスクドライブの組み合わせも記憶媒体として用いられる。その他、磁気テープメディアなどの公知の記憶媒体も記憶媒体として用いられる。
【0032】
記憶媒体には、ファームウェアなどのプログラムが格納されている。患者位置決め装置70の動作開始時(例えば電源投入時)にファームウェア等のプログラムをこの記憶媒体から読み出して実行し、患者位置決め装置70の全体制御を行う。また、記憶媒体には、プログラム以外にも、患者位置決め装置70の各処理に必要なデータ等が格納されている。
【0033】
なお、本実施例の患者位置決め装置70は、それぞれ、情報処理装置が通信ネットワークを介して通信可能に構成された、いわゆるクラウドにより構成されてもよい。
【0034】
本実施形態の患者位置決め方法について
図2を用いて説明する。
【0035】
放射線治療の患者位置決め時において、まず患者9はセットアップポジションにて寝台7に配置され、治療計画装置20で立てた照射情報での患者位置を再現するように治療室内に設置された赤外線レーザーを用いて体表位置が合わせられる。その後、患者9を載せた寝台7は寝台制御装置60を介してロボットアーム8を制御することで放射線の照射基準位置であるアイソセンタに向け移動する(Step100)。
【0036】
寝台7は、患者の位置決め対象骨10(
図3参照)が平面検出器5A、5B及びX線管6A、6Bで形成される
図3中の照射領域12A、12Bの外側である寝台位置200から、照射領域12A、12Bを跨ぐように移動する。照射領域12A、12B中を位置決め対象骨10が移動する間に透視X線画像撮影装置50を制御することにより、複数枚の透視X線画像(Digital Radiography:DR)を取得する(Step101)。
【0037】
その後、取得した複数のDRは患者位置決め装置70の合成画像作成部72に転送され、合成画像作成部72はアイソセンタ深さの層を強調するようにDR合成して合成DRを作成する(Step102)。
【0038】
図3、
図4を用いて、本実施例の患者位置決め装置70における、Step102に示す合成画像作成方法の一例としてシフト加算法を使用した合成画像作成方法を説明する。
【0039】
ここでは便宜上、
図3の3つの寝台位置201、202、203で取得した透視X線画像の内、平面検出器5A、X線管6Aで取得した透視X線画像1A、2A、3A(204、205、206)のみを使用して説明する。
【0040】
各寝台位置201、202、203で撮影された位置決め対象骨10は、図中点線と平面検出器5A上との交点に位置する検出素子でそれぞれ検出され、透視X線画像上に写り込む。X線撮影時の寝台の位置ログ情報を用いて、位置決め対象骨10がアイソセンタ80位置にあるときに取得した透視X線画像2Aを基準に、透視X線画像1A、透視X線画像3Aを左右にシフトして加算画像を作成する。
【0041】
本実施形態の寝台7の移動方向は撮影方向と45度の角度をなしており、強調したい位置決め対象骨10はアイソセンタ高さに存在することから、画像のシフト量は寝台の実際の移動量にsinθを掛け、画像拡大率を掛け合わした値に相当する。ここで、θはX線管6A-平面検出器5A中心と水平面とがなす角度であり(
図4参照)、画像拡大率は、X線管6Aからアイソセンタ80の位置までの距離をaとし、アイソセンタ80の位置から平面検出器5Aまでの距離をbとしたときに、(a+b)/aで表される値である。
【0042】
よって、透視X線画像1A(204)の右方向シフト量x
1と透視X線画像3A(206)の左方向シフト量x
2は下記のように表される。
【数1】
今回、図示する撮影体系ではθ=45°であるため、x
1、x
2は下記のように表される。
【数2】
【0043】
図2のStep102に示す合成画像作成方法の手順を
図5のフローで説明する。
【0044】
まず、撮影した全DRを読み込む(Step150)。各DR撮影時の寝台7の位置情報を寝台制御装置60のログ情報から取得する(Step151)。画像強調したい層と同層上の基準位置(e.g.アイソセンタ)を設定する(Step152)。各DR撮影時の寝台7の位置から基準位置までの距離dを計算する(Step153)。X線管-基準位置間の距離aと平面検出器中心-基準位置間の距離bと前記距離dの情報を用いて画像シフトに必要なシフト量xを各DRに対して計算する(Step154)。シフト量に応じて各DRをシフトして加算することで合成画像207を作成する(Step155)。以上の手順を通して合成画像作成処理が終了する(Step156)。
【0045】
以上の処理方法により
図2のフローのStep102で合成画像を作成した後、次に患者位置決めで治療計画時の位置決め参照情報である3次元情報から仮想的に投影処理して作成する疑似透視X線画像(Digitally Reconstructed Radiography:DRR)を準備するために、DRR作成に必要な並進3自由度、回転3自由度の初期値を設定する(Step103)。
【0046】
Step101での各DR取得条件と同じ撮影条件で複数のDRRをCTから作成する(Steo104)。Step102と同様の合成方法で複数のDRRから合成DRRを作成する(Step105)。
【0047】
Step102とStep105で作製した合成DRと合成DRRで両者の一致度を計算する(Step106)。類似度指標としては一般に使用されている正規化相互相関係数や相互情報量などを使用しても良いし、その他の類似度指標を使用しても良い。
【0048】
次に算出された類似度が事前に設定した収束条件を満たすかを判定する(Step107)。収束条件を満たさない場合は最適化処理により収束条件を満たす条件(並進3自由度、回転3自由度の計6自由度の値)を求める。6自由度のような多変数の最適化処理には滑降シンプレックス法やパウエル法などの手法があるがその他の手法を用いても良い。
【0049】
最適化処理では6自由度の値を更新し(Step108)、Step104~108を繰り返す。Step107で一致度が収束条件を満たした場合は得られた6自由度の値を基に寝台を動かすことで患者を現在の配置から治療計画時の配置へと移動することができ精密な位置決めが実施できる(Steo109)。以上により自動患者位置決めは終了し(Step110)実際の治療放射線の照射が実施される。
【0050】
従って、本実施例によれば、撮影装置を追加することなく精度のよい患者位置決めを行うことが可能な位置決め装置、放射線治療装置、位置決め方法及びコンピュータプログラムを実現することができる。
【0051】
より詳細には、上述の合成画像同士を患者位置決めに使用することにより、撮影装置の追加が不要であるにもかかわらず位置決め非対象骨の重なりや体厚の大きな患者に対しても位置決め対象骨を基準とした自動計算位置決めができるようになる。またこの撮影動作は一般的な患者位置決めのワークフローとして組み込まれる寝台動作に組み込むことが可能なため当技術適用による位置決め時間増加に与える影響は小さいと考えられる。
【0052】
また、本実施形態によれば、位置決め対象骨10を強調させた合成画像同士を用いるため、従来、位置決め対象骨の視認性が低く手動での位置合わせが必要であった場合でも自動計算による位置合わせが可能となり、位置決め時間の短縮に繋がる。また合成画像は原理上、画像を積分して作成する画像であるため透視X線画像1枚1枚が線量の十分にある信号―ノイズ比(SN)のよい画像である必要はない。したがって撮影の総X線線量は少なくてもよく低線量での撮影が可能となる。
【0053】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0054】
一例として、本実施形態に記載の加速器1は治療X線を想定した電子線加速器でもよいし、陽子や炭素といった粒子線加速器でもよい。
【0055】
また、合成画像作成に必要となる画像シフト量については寝台の位置ログ情報に基づいて算出してもよいし、寝台上または寝台内にマーカを設置して求めても良い。マーカを用いて寝台位置を算出する場合は、2対のX線平面検出器で取得した画像上のマーカの2次元位置情報とX線管と平面検出器の幾何学的配置から、三角法を用いてマーカの三次元位置情報を算出して利用する。
【0056】
また、透視X線画像撮影時の寝台の移動方向について、位置決め対象骨と非位置決め対象骨との位置関係に応じて移動方向を変更してもよい。例えば本実施形態のように水平方向に左右に移動して撮影してもよいし、頭尾方向や腹背方向(垂直方向)に移動し撮影する方法も考えられる。非位置決め対象骨の除去したい端の直線に垂直方向に移動させた撮影方法で合成画像を作成することでより非位置決め対象骨の像を暈す効果が得られる。
【0057】
また、合成画像の作成方法として本実施形態では画像同士をシフトして加算するシフト加算法を用いて説明したが、一般的にトモシンセシス画像の合成で用いるフィルターバックプロジェクト法といった解析的再構成手法や逐次近似再構成法といった統計的再構成手法を用いて画像を再構成することも可能である。
【0058】
患者位置決めに使用する合成画像について、本実施形態では2対のX線-平面検出器それぞれで取得した透視X線画像で合成画像を2枚作成して、同様の撮影体系で疑似的に作成して合成した合成疑似透視X線画像2枚とを用いて位置決めを実施するように示したが、2対のX線-平面検出器で取得した画像全てを使用して一枚の合成画像を作成し、同様に作成した合成疑似透視X線画像とを用いて位置決めしてもよい。また使用するX線管と平面検出器は必ずとも2対である必要はなく1対、または3対以上を用いて取得した画像から合成画像を作成して患者位置決めに使用しても良い。
【0059】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0060】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0061】
A…放射線治療装置 1…加速器 2…ビーム輸送装置 3…ガントリー 4…照射ノズル 5A、5B…平面検出器 6A、6B…X線管 7…寝台 8…ロボットアーム 9…患者 10…位置決め対象骨 11…位置決め非対象骨 20…治療計画装置 30…通信装置 40…データサーバ 50…透視X線画像撮影装置 60…寝台制御装置 70…患者位置決め装置 71…疑似透視X線画像作成部 72…合成画像作成部 73…変位量算出部 80…アイソセンタ