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特許7553265多孔質セラミックス積層体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】多孔質セラミックス積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/89 20060101AFI20240910BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20240910BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240910BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240910BHJP
   C04B 41/83 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C04B41/89 A
B01D39/20 D
B01D71/02
C04B38/00 303Z
C04B41/83 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020075786
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2021172540
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈須 義総
(72)【発明者】
【氏名】原 秀作
(72)【発明者】
【氏名】貞岡 和男
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-288324(JP,A)
【文献】特開2004-000914(JP,A)
【文献】特開2007-045691(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160122(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/014149(WO,A1)
【文献】坂元俊介,梶野哲平,奈須義総,榊祥太,酒谷能彰,高純度アルミナの新規技術開発と用途展開,住友化学,日本,2020年07月31日,Vol.2020,P.17-25,図9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00-38/10,41/80-41/91
B01D 39/20
B01D 71/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1多孔質層と、前記第1多孔質層の上に積層された第2多孔質層とを有する多孔質セラミックス積層体であって、
前記第2多孔質層は、前記第1多孔質層の上に接して積層されている部分と、前記第1多孔質層の上に空気を介して積層されている部分を有し、
前記第2多孔質層の膜厚の変動係数CV(tb)が0.05以上0.35以下であり、
前記第2多孔質層の膜厚の標準偏差σ(t b )を、前記第1多孔質層の平均細孔径D a で除した値(σ(t b )/D a )が0.2以上0.8以下であり、
前記第2多孔質層の膜厚の平均値AVE(t b )を、前記第1多孔質層の平均細孔径D a で除した値(AVE(t b )/D a )が0.5以上5以下であり、
前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の界面における空隙率が29.0%以上55%以下であり、
前記第2多孔質層の平均細孔径D b に対する前記第1多孔質層の平均細孔径D a の比(D a /D b )が10以上200以下であり、
前記変動係数CV(t b )及び膜厚の標準偏差σ(t b )は、下記の要領で求められる値であることを特徴とする多孔質セラミックス積層体。
(i)前記第1多孔質層と第2多孔質層の積層方向に平行な断面の画像を取得する。
(ii)前記画像において、前記第2多孔質層の、第1多孔質層側表面の合計長さが、前記第1多孔質層の平均細孔径の100倍以上となるように画像を取得する。
(iii)画像解析により第2多孔質層のみを抽出し、得られた画像を一定間隔で区切って190か所以上の領域とし、各領域の面積を求めて、区切った間隔の長さで除した値を各領域における第2多孔質層の膜厚とする。ただし、区切った間隔の長さは第1多孔質層の平均細孔径の1.8倍以下の長さとする。
(iv)測定した全領域についての膜厚の平均値AVE(t b )、膜厚の標準偏差σ(t b )を求める。
(v)前記膜厚の標準偏差σ(t b )を前記膜厚の平均値AVE(t b )で除すことにより前記膜厚の変動係数CV(t b )を求める。
【請求項2】
前記第1多孔質層の平均細孔径Daが0.1μm以上、600μm以下である請求項1に記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質セラミックス積層体の製造方法であって、
前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に、撥水撥油剤を塗布する工程を含み、
前記撥水撥油剤は、下記の条件(1)及び(2)が満たされるように塗布される多孔質セラミックス積層体の製造方法。
(1)撥水撥油剤を前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に塗布し、乾燥後、前記第1多孔質層の撥水撥油剤塗布面(両面に塗布される場合にはいずれか一方の塗布面)から空気を1.0m3/hの流量で流した際、空気を流した面と反対側の面から少なくとも0.8m3/h以上の流量の空気が流れる。
(2)撥水撥油剤を前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に塗布し、乾燥後、前記第1多孔質層の撥水撥油剤塗布面(両面に塗布される場合にはいずれか一方の塗布面)から空気を1.0m3/hの流量で流した際、空気を流す試験前後の重量減少率が0.1%以内である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質セラミックス積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックスは、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス分離膜等、気体、液体等の流体の分離、濃縮、濾過等の機能を有する膜として、様々な分野で利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、無機質支持体と、前記支持体を被覆する1層以上の無機質被覆層から成るセラミック多孔質非対称膜であって、前記支持体を被覆する1層以上の無機質被覆層のうちの少なくとも1層として、薄層状の無機多孔質体を含むセラミック多孔体が開示されている。特許文献1では、平均細孔径が11.0又は14.2μmの多孔質支持体に、平均粒子径が3又は5μmのアルミナを含むスラリー膜を製膜し、焼成して、前記多孔質支持体上に多孔質層を形成している。また、特許文献2には、支持層と、その支持層の内面或いは外面に形成される多孔質層からなる非対称膜が開示されている。特許文献2では、平均粒子径5μmのアルミナ粒子やその他の無機物質の粒子を用いて連通気孔径1~2μmの支持層を作成し、平均粒径0.5μmのアルミナ微粉末が分散した液を用いて前記支持層の表面に多孔質層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-292653号公報
【文献】特開昭62-186908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質セラミックスを用いて、流体の分離等を行う場合、分離等の機能を十分に発揮しつつ、前記セラミックス多孔体中に流体が流れやすいこと、すなわち流体の圧力損失が小さいことが重要であるが、前記特許文献1及び2では、流体の圧力損失を低減することが難しいと考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、流体の圧力損失を低減できる多孔質セラミックス積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成した本発明は以下の通りである。
[1]第1多孔質層と、前記第1多孔質層の上に積層された第2多孔質層とを有する多孔質セラミックス積層体であって、
前記第2多孔質層は、前記第1多孔質層の上に接して積層されている部分と、前記第1多孔質層の上に空気を介して積層されている部分を有し、
前記第2多孔質層の膜厚の変動係数CV(tb)が0.35以下であることを特徴とする多孔質セラミックス積層体。
[2]前記第1多孔質層の平均細孔径Daが0.1μm以上、600μm以下である[1]に記載の多孔質セラミックス積層体。
[3]前記第2多孔質層の膜厚の標準偏差σ(tb)を、前記第1多孔質層の平均細孔径Daで除した値(σ(tb)/Da)が0.8以下である[1]または[2]に記載の多孔質セラミックス積層体。
[4]前記第2多孔質層の膜厚の平均値AVE(tb)を、前記第1多孔質層の平均細孔径Daで除した値(AVE(tb)/Da)が5以下である[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
[5]前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の界面における空隙率が29.0%以上である[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
[6]前記第2多孔質層の平均細孔径Dbに対する前記第1多孔質層の平均細孔径Daの比(Da/Db)が10以上である[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体の製造方法であって、
前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に、撥水剤及び/又は撥油剤を塗布する工程を含み、
前記撥水剤及び/又は撥油剤は、下記の条件(1)及び(2)が満たされるように塗布される多孔質セラミックス積層体の製造方法。
(1)撥水剤及び/又は撥油剤を前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に塗布し、乾燥後、前記第1多孔質層の撥水剤及び/又は撥油剤塗布面(両面に塗布される場合にはいずれか一方の塗布面)から空気を1.0m3/hの流量で流した際、空気を流した面と反対側の面から少なくとも0.8m3/h以上の流量の空気が流れる。
(2)撥水剤及び/又は撥油剤を前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に塗布し、乾燥後、前記第1多孔質層の撥水剤及び/又は撥油剤塗布面(両面に塗布される場合にはいずれか一方の塗布面)から空気を1.0m3/hの流量で流した際、空気を流す試験前後の重量減少率が0.1%以内である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、気体、液体等の流体の圧力損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例2において、第2多孔質層の膜厚を測定した際の解析画像である。
図2】空隙率の測定要領を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、第1多孔質層と、前記第1多孔質層の上に積層された第2多孔質層とを有する多孔質セラミックス積層体であって、前記第2多孔質層は、前記第1多孔質層の上に接して積層されている部分と、前記第1多孔質層の上に空気を介して積層されている部分を有し、前記第2多孔質層の膜厚の変動係数CV(tb)が0.35以下であることを特徴とする。
【0011】
前記第2多孔質層の一部は、前記第1多孔質層の上に接して積層されており、前記第2多孔質層のその他の部分は、空気を介して前記第1多孔質層の上に積層されており、前記第2多孔質層が、空気を介して前記第1多孔質層の上に積層されている箇所を有することは、流体の圧力損失を低減する上で重要な要件である。
【0012】
更に、前記多孔質セラミックス積層体において、第2多孔質層の膜厚の変動係数CV(tb)が0.35以下となるように均一に形成されることで、多孔質セラミックス積層体中に流れる流体の圧力損失を低減できる。前記第2多孔質層の膜厚tbの変動係数CV(tb)は、0.32以下が好ましく、0.25以下がより好ましく、0.20以下が更に好ましい。前記変動係数の下限は特に限定されないが、例えば0.05であり、0.10であってもよい。なお、前記膜厚tbは以下の要領で測定することができ、また前記膜厚の変動係数CV(tb)は、膜厚の標準偏差σ(tb)を膜厚の平均値AVE(tb)で除すことにより求めることができる。まず、前記第1多孔質層と第2多孔質層の積層方向に平行な断面の画像を取得する。前記画像において、前記第2多孔質層の、第1多孔質層側表面の合計長さが、前記第1多孔質層の平均細孔径の100倍以上となるように画像を取得して、画像解析により第2多孔質層のみを抽出する。そして、得られた画像を一定間隔で区切って190か所以上の領域とし、各領域の面積を求めて、区切った間隔の長さで除した値を各領域における第2多孔質層の膜厚とし、測定した全領域についての膜厚の平均値、標準偏差、変動係数を求める。ただし、区切った間隔の長さは第1多孔質層の平均細孔径の1.8倍以下の長さとする。
【0013】
前記膜厚の変動係数CV(tb)が0.35以下である限り、前記第2多孔質層の膜厚の平均値AVE(tb)は限定されないが、平均値AVE(tb)は例えば0.3μm以上であり、より好ましくは1.0μm以上、更に好ましくは5.0μm以上、一層好ましくは10μm以上であり、また例えば3000μm以下であり、500μm以下がより好ましく、更に好ましくは100μm以下であり、一層好ましくは75μm以下であり、特に50μm以下が好ましい。また、平均値AVE(tb)は、15μm以上、25μm以下の範囲であってもよい。
【0014】
また、前記第2多孔質層の膜厚の標準偏差σ(tb)を前記第1多孔質層の平均細孔径Daで除した値(σ(tb)/Da)を調整することも好ましい。σ(tb)/Daは0.8以下であることが好ましく、0.6以下がより好ましく、0.5以下が更に好ましく、0.4以下が一層好ましい。σ(tb)/Daの下限は特に限定されないが、0.2程度であってもよい。σ(tb)/Daは、第一多孔質層の平均細孔径に対する第2多孔質層膜厚標準偏差を表し、当該値は小さいほど、第2多孔質層が均一に塗工できている事を表しており、圧力損失を低減する観点から、σ(tb)/Daは小さい方が好ましい。
【0015】
更に、前記第2多孔質層の膜厚の平均値AVE(tb)を、前記第1多孔質層の平均細孔径Daで除した値(AVE(tb)/Da)が5以下であることも好ましく、好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下であり、下限は特に限定されないが例えば0.5程度であってもよい。
【0016】
流体の圧力損失を低減する観点から、前記第1多孔質層と前記第2多孔質層の界面における空隙率を所定以上にすることも好ましい。前記空隙率は、以下の要領で求めることができる。まず、前記第1多孔質層と第2多孔質層の積層方向に平行な断面の画像を取得する。前記画像において、前記第2多孔質層の、第1多孔質層側表面の合計長さが、前記第1多孔質層の平均細孔径の250倍以上となるように画像を取得して、画像解析により第2多孔質層のみを抽出する。抽出した第2多孔質層の下側(第2多孔質層の、第1多孔質層側表面から第1多孔質層側)の領域について、前記第2多孔質層の前記第1多孔質層側の境界から、第2多孔質層に沿って、第1多孔質層の細孔径の2倍の領域を画像解析により設定し、解析領域とする。この解析領域内の空隙部分を画像解析で抽出し、空隙部分の面積を解析領域の面積で除算して100倍することで空隙率を得ることができる。
【0017】
前記空隙率は29.0%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは33%以上である。前記空隙率の上限は、前記第1多孔質層の空隙率にもよるが、例えば55%である。
【0018】
また、前記第2多孔質層の平均細孔径Dbに対する前記第1多孔質層の平均細孔径Daの比(Da/Db)が10以上であることが好ましい。このように、DaとDbの差を大きくすることで、前記多孔質セラミックス積層体を透過する流体の圧力損失をより低減することができるため好ましい。Da/Dbは、好ましくは10以上、200以下であり、より好ましくは10以上、150以下であり、更に好ましくは15以上、100以下であり、一層好ましくは20以上(特に50以上)、65以下である。なお、前記特許文献1では、平均粒子径が3又は5μmのアルミナを含むスラリーを用いて、前記多孔質支持体上に前記多孔質層を形成しており、前記アルミナの粒子径から考えて、前記多孔質層の平均細孔径は1μm程度と考えられ、前述した通り、前記多孔質支持体の平均細孔径は11.0又は14.2μmである。従って、前記特許文献1における前記多孔質層の平均細孔径に対する前記支持体の平均細孔径の比は、最大でも14程度であると考えられる。また、特許文献2では、前記支持層の連通気孔径が1~2μmであり、前記多孔質層の気孔径が0.2μmであるため、前記多孔質層の気孔径に対する前記支持層の連通気孔径の比は最大でも10である。
【0019】
前記第1多孔質層の平均細孔径Daは、例えば0.1μm以上であり、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは5μm以上、一層好ましくは9μm以上であり、また600μm以下であってもよく、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは60μm以下である。Daは12μm以上、18μmの範囲であってもよい。また、前記第2多孔質層の平均細孔径Dbは例えば0.01μm以上、10μm以下であり、好ましくは0.05μm以上、5μm以下であり、より好ましくは0.15μm以上、1μm以下であり、更に好ましくは0.20μm以上、1μm以下である。
【0020】
前記第1多孔質層の平均厚みは、例えば500μm以上、5000μm以下であり、好ましくは1000μm以上、2800μm以下、さらに好ましくは1400μm以上、1900μm以下である。
【0021】
前記第2多孔質層は、前記第1多孔質層の少なくとも片面に積層されていればよく、前記第1多孔質層の片面のみに積層されていることが好ましい。本発明の多孔質セラミックス積層体の形状は特に限定されず、平面状、円筒状、又はハニカム状であってもよく、円筒状であることが好ましい。本発明の多孔質セラミックス積層体が円筒状である場合、前記第2多孔質層は、前記第1多孔質層の外周面又は内周面のいずれに積層されていてもよく、前記第1多孔質層の外周面のみ又は内周面のみに積層されていることが好ましく、前記第1多孔質層の外周面のみに前記第2多孔質層が積層されていることがより好ましい。
【0022】
前記第1多孔質層及び第2多孔質層の素材は特に限定されないが、いずれも金属酸化物を含むことが好ましい。なお、本発明において、金属とは、Si、Ge等の半金属を含む意味で用いる。前記第1多孔質層は、前記金属酸化物として、金属酸化物A及び前記金属酸化物Aの融点よりも高い融点を有する金属酸化物Bを含むことが好ましく、前記第2多孔質層は、前記金属酸化物として、前記金属酸化物Aの融点よりも高い融点を有する金属酸化物Cを含むことが好ましい。前記金属酸化物B及び前記金属酸化物Cは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0023】
前記金属酸化物Aは融点が95℃以上、1600℃以下であることが好ましい。前記金属酸化物Aとしては、具体的には、B23、SiO2、GeO2、Al23、V25、As25、Sb25、ZrO2、TiO2、ZnO、PbO、ThO2、BeO、CdO、Ta25、Nb25、WO3、ScO2、La23、Y23、SnO2、Ga23、In23、PbO2、MgO、Li2O、BaO、CaO、SrO、Na2O、K2O、Rb2O、HgO、Cs2O、Ag2O、TeO2、Tl2O等が挙げられ、好ましくはSiO2が挙げられる。つまり、前記金属酸化物Aは、前記した酸化物の少なくとも1種を構成成分とするものが挙げられ、特に前記した酸化物の少なくとも1つを構成成分とするガラスであることが好ましく、特に石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナケイ酸塩ガラス等のケイ素の酸化物(特にSiO2)を含むガラスであることが好ましい。前記金属酸化物B及び前記金属酸化物Cは、同一であっても異なっていてもよく、いずれも融点が2000℃以上、2800℃以下であることが好ましい。前記金属酸化物B及び前記金属酸化物Cとしては、具体的には、Al23、ZrO2、MgO、Cr23、Y23等が挙げられ、好ましくはAl23が挙げられる。
【0024】
前記多孔質セラミックス積層体は、前記第1及び第2多孔質層に加えて、更に第2多孔質層の上に、1層以上の他の多孔質層が更に積層されていてもよい。前記他の多孔質層は前記第2多孔質層よりも平均細孔径が小さいことが好ましく、他の多孔質層が2層以上ある場合には、前記第2多孔質層に最も近い他の多孔質層の平均細孔径が最も大きく、積層されるに従って平均細孔径が小さくなる構成とすることが好ましい。
【0025】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、流体の圧力損失を低減することができる。前記多孔質セラミックス積層体は、後記する実施例で評価されるパーミアンスを5.0×10-5mol/(m2・sec・Pa)以上にすることができ、好ましくは1.0×10-4mol/(m2・sec・Pa)以上とすることができ、より好ましくは1.5×10-4mol/(m2・sec・Pa)以上とすることができる。前記パーミアンスの上限は特に限定されないが、例えば1.5×10-3mol/(m2・sec・Pa)であり、5.0×10-4mol/(m2・sec・Pa)であってもよい。
【0026】
次に、前記多孔質セラミックス積層体の製造方法について説明する。通常、多孔質層の上に他の層を積層させようとすると、基材となる多孔質層(第1多孔質層)の細孔内に、上の層(第2多孔質層)の構成成分が取り込まれるため、第2多孔質層を層状に形成することが難しい上に、更に膜厚の均一性の高い第2多孔質層を形成することは難しい。
【0027】
前記多孔質セラミックス積層体の製造方法は、前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に、撥水剤及び/又は撥油剤を塗布する工程を含む。前記撥水剤及び/又は撥油剤を塗布することで、その後に塗布される第2多孔質層の構成成分が、第多孔質層の細孔内に取り込まれることがないため、第1多孔質層の上に、層状でかつ膜厚の均一性の高い第2多孔質層を形成することができる。上記した「表面」とは、多孔質体の表面に存在する孔も含める意味であり、撥水剤及び/又は撥油剤はこの孔も含めて多孔質体の少なくとも一方の表面に塗布される。ここで、撥水剤又は撥油剤は、以下の条件(1)及び(2)が満たされるように塗布される。
【0028】
(1)撥水剤及び/又は撥油剤を前記第1多孔質層の少なくとも一方の表面に塗布し、乾燥後、前記第1多孔質層の撥水剤及び/又は撥油剤塗布面(両面に塗布される場合にはいずれか一方の塗布面)から空気を1.0m3/hの流量で流した際、空気を流した面と反対側の面から少なくとも0.8m3/h以上の流量の空気が流れる。
(2)撥水剤及び/又は撥油剤を前記第1多孔質層体の少なくとも一方の表面に塗布し、乾燥後、前記第1多孔質層の撥水剤及び/又は撥油剤塗布面(両面に塗布される場合にはいずれか一方の塗布面)から空気を1.0m3/hの流量で流した際、空気を流す試験前後の重量減少率が0.1%以内である。
【0029】
つまり、撥水剤及び/又は撥油剤塗布後の第1多孔質層に所定流量の空気を流したときに、通気が確保され、かつ撥水剤及び/又は撥油剤が第1多孔質層から離脱しないように、撥水剤及び/又は撥油剤が塗布されていることが重要である。
【0030】
上記条件(1)について、撥水剤及び/又は撥油剤が第1多孔質層の片面に塗布されている時には、撥水剤及び/又は撥油剤の塗布面から空気を流し、その反対側面での空気の流量を測定すればよく、両面に塗布されている場合には、いずれか一方の塗布面から空気を流して、その反対側面での空気の流量を測定すればよい。上記条件(1)の空気を流す時間は、3分であり、流す空気の温度は10~35℃である。
【0031】
また、上記条件(2)については、撥水剤及び/又は撥油剤が第1多孔質層の片面に塗布されている時には、撥水剤及び/又は撥油剤の塗布面から空気を流し、また両面に塗布されている場合には、いずれか一方の塗布面から空気を流して、重量減少率を測定すればよい。重量減少率は、撥水剤及び/又は撥油剤が塗布され空気を流す前の第1多孔質層重量から、空気を流した後の第1多孔質層重量を差し引き、これを、空気を流す前の第1多孔質層重量で除した割合(百分率)である。
【0032】
撥水剤及び/又は撥油剤の塗布方法としては、ディップコートが好ましく、撥水剤及び/又は撥油剤の塗布後は、通常乾燥を行う。乾燥は、20~50℃程度で1分~24時間程度行うことが好ましい。また、撥水剤及び/又は撥油剤の塗布及び乾燥後に、撥水剤及び/撥油剤が残存していることが好ましい。上記条件(1)及び(2)を満足できる限り、撥水剤及び撥油剤の組成は限定されないが、例えばフッ素系撥水撥油剤、ポリシロキサン系撥水撥油剤を用いることができる。フッ素系撥水撥油剤としては、パーフルオロアルキル基を有するもの、パーフルオロポリエーテル構造を有するものなどが挙げられる。
【0033】
前記製造方法において、更に、前記撥水剤又は前記撥油剤が塗布された前記第1多孔質層の表面に、前記第2多孔質層に含まれる前記金属酸化物と溶剤と増粘剤を含むスラリーを塗布する工程、及び前記スラリーが塗布された前記第1多孔質層を熱処理する工程を含むことが好ましい。
【0034】
前記溶剤としては、水、有機系溶剤等が挙げられる。好ましい態様において前記第2多孔質層に含まれる金属酸化物は、より好ましくは前記金属酸化物Cを含む。前記金属酸化物のスラリー中の濃度は、例えば2質量%以上、15質量%以下であり、好ましくは4質量%以上、13質量%以下である。前記第2多孔質層が複数種の金属酸化物を含む場合には、前記濃度は複数種の金属酸化物の合計濃度を意味する。前記第2多孔質層に含まれる金属酸化物の平均粒径は、例えば0.1μm以上、50μm以下であり、0.3μm以上、30μm以下であり、0.3μm以上、20μm以下であり、0.5μm以上、10μm以下であり、0.5μm以上、5μm以下である。
【0035】
前記増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。前記増粘剤のスラリー中の濃度は、例えば0.5質量%以上、5質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、3質量%以下である。
【0036】
前記撥水剤又は前記撥油剤が塗布された前記第1多孔質層の表面に、前記スラリーを、塗布する方法は特に限定されず、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、スリットコート法、刷毛塗り等が挙げられる。
【0037】
前記熱処理の温度は、例えば95℃以上であり、好ましくは265℃以上であり、より好ましくは500℃以上であり、更に好ましくは1000℃以上である。前記熱処理の温度は例えば1600℃以下であり、好ましくは1400℃以下である。前記熱処理の温度が前記金属酸化物Aの軟化温度以上であることが好ましく、具体的には、前記熱処理の温度が1000℃以上、1500℃以下であることが好ましく、1100℃以上、1400℃以下であることがより好ましい。前記熱処理の温度での保持時間は、例えば30分以上、10時間以下であり、好ましくは1時間以上、8時間以下であり、より好ましくは3時間以上、7時間以下である。
【0038】
前記多孔質セラミックス積層体は、精密濾過膜として用いることができる。前記多孔質セラミックス積層体における前記第2多孔質層の上に、さらに機能膜を積層することで、前記機能膜が積層された本発明の多孔質セラミックス積層体は、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス分離膜等の膜の基材としても用いることができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
下記実施例及び比較例で得られたセラミックス積層体は、以下の方法で評価した。
【0041】
(1)細孔径の測定
多孔質セラミックス積層体試料を120℃で4時間乾燥した後、オートポアIV9520(micromeritics社製)を用いて、水銀圧入法により測定した。第2多孔質層を積層する前の第1多孔質層、及び、下記実施例の多孔質セラミックス積層体試料を測定すると、横軸を細孔径とするlog微分細孔容積分布において、第2多孔質層を積層する前の第1多孔質層では1つのピークが観測され、下記実施例の多孔質セラミックス積層体では2つのピークが観測された。第2多孔質層を積層する前の第1多孔質層で観測されたピーク位置をDaとした。下記実施例の多孔質セラミックス積層体で観測された2つのピークのうち、低細孔径側のピーク位置をDbとした。
【0042】
(2)第2多孔質層の膜厚の変動係数の測定
円筒形の多孔質セラミックス積層体を樹脂に埋め込み、研磨して、軸方向に垂直な断面(すなわち、第1及び第2多孔質層の積層方向に並行な断面)を出して、走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)にて観察した。前記第2多孔質層の、前記第1多孔質層側表面の合計長さが円周方向に1.5mm以上となるように画像を取得し、画像解析により第2多孔質層のみを抽出した。得られた画像を8μmピッチで区切って190か所以上の領域とし、それぞれについて面積を求めて8μmで除算した値を各領域における膜厚とした。得られた膜厚から平均値、及び、標準偏差を算出し、標準偏差を平均値で除算することで変動係数を得た。さらに、第2多孔質層の平均膜厚AVE(tb)及び標準偏差σ(tb)を、それぞれ第1多孔質層の細孔径Daで除算した。図1に、実施例2において第2多孔質層の膜厚を測定した際の画像解析の一部を示す。図1中、1は第1多孔質層、2は第2多孔質層、3は測定の間隔(図1では8μm)である。
【0043】
(3)空隙率の測定
円筒形の多孔質セラミックス積層体を樹脂に埋め込み、研磨して、軸方向に垂直な断面を出して、走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)にて観察した。前記第2多孔質層の、前記第1多孔質層側表面の合計長さが円周方向に4.0mm以上となるように画像を取得し画像解析により第2多孔質層のみを抽出した。抽出した第2多孔質層の下側の領域について、前記第2多孔質層の前記第1多孔質層側表面から(すなわち、第2多孔質層の第1多孔質層側の境界から)、第2多孔質に沿って第1多孔質層の細孔径の2倍の領域を画像解析により設定し、解析領域とした。この解析領域内の空隙部分を画像解析で抽出し、空隙部分の面積を解析領域の面積で除算して100倍することで空隙率を得た。図2に、空隙率を測定する方法を模式的に示す。図2中、1は第1多孔質層、2は第2多孔質層、2’は第2多孔質層の第1多孔質層側の境界、4は空隙である。
【0044】
(4)パーミアンスの測定
円筒形の多孔質セラミックス積層体試料の外側から空気を1.0m3/hの一定の流量で流し、前記試料の内側から空気を透過させた。前記試料の透過前後の圧力差を測定した。測定した結果を用いて、下記式によってパーミアンスを算出した。
【0045】
【数1】
【0046】
実施例1
第1多孔質層として、アルミナとSiO2を含む萩ガラス社製アルミナ基材A-16を用いた。前記基材A-16の形状は、内径が8.6mm、外径が11.5mm、長さが5cmの円筒形であった。株式会社コロンブス製の撥水剤SHコンク(フッ素樹脂と石油系炭化水素を含む)に前記基材A-16をディップし、常温で12時間以上乾燥させた。次に、住友化学株式会社製のアルミナ粉末AKP-3000と、増粘剤として信越化学工業株式会社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース65SH-30000を、それぞれ、5wt%、1.5wt%の濃度で水に混合してスラリーを用意した。なお、前記アルミナ粉末AKP-3000の平均粒径は0.7μmであった。前記基材A-16の内周面に前記スラリーが入り込まないように、前記基材A-16の上端及び下端を封止して、前記スラリーで前記基材A-16をディップコートした。その後、前記外周面に前記スラリーが塗布された前記基材A-16を1200℃で3時間熱処理した。なお、前記撥水剤SHコンクを塗布し乾燥させた後、上記した条件(1)及び(2)の要件を満たしていたことを確認している。
【0047】
比較例1
株式会社コロンブス製の撥水剤SHコンクをディップしないこと以外は、前記実施例1と同様にして試料を得た。
【0048】
実施例2
第1多孔質層として、アルミナとSiO2を含む萩ガラス社製アルミナ基材A-12を用いた。前記基材A-12の形状は、内径が7.0mm、外径が9.5mm、長さが10cmの円筒形であった。株式会社コロンブス製の撥水剤SHコンクに前記基材A-12をディップし、常温で12時間以上乾燥させた。次に、住友化学株式会社製のアルミナ粉末AKP-3000と、増粘剤として信越化学工業株式会社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース65SH-30000を、それぞれ、5wt%、1.5wt%の濃度で水に混合してスラリーを用意した。なお、前記アルミナ粉末AKP-3000の平均粒径は0.7μmであった。前記基材A-12の内周面に前記スラリーが入り込まないように、前記基材A-12の上端及び下端を封止して、前記スラリーで前記基材A-12をディップコートした。その後、前記外周面に前記スラリーが塗布された前記基材A-12を1200℃で3時間熱処理した。前記スラリーの塗布と熱処理をもう一度繰り返して試料を得た。なお、前記撥水剤SHコンクを塗布し乾燥させた後、上記した条件(1)及び(2)の要件を満たしていたことを確認している。
【0049】
比較例2
株式会社コロンブス製の撥水剤SHコンクをディップしないこと以外は、前記実施例2と同様にして試料を得た。
【0050】
実施例及び比較例について、上記した(1)~(4)に従って測定した結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1において、実施例1と比較例1を対比すると、第2多孔質層の膜厚の変動係数が0.35以下である実施例1では良好なパーミアンスを実現していたのに対し、前記変動係数が0.35を超えていた比較例1では、実施例1に比べてパーミアンスが劣る結果となった。また、撥水剤を用いないこと以外は実施例2と同様にして積層体を作成した比較例2では、第2多孔質層が形成できなかったのに対し、実施例2では膜厚の変動係数が0.35以下である第2多孔質層を形成することができ、良好なパーミアンスを実現できた。
図1
図2