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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】制御装置及び負荷制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/24 20060101AFI20240910BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20240910BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H02J3/24
H02J3/32
H02J3/38 120
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020144919
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039749
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔1〕 ▲1▼発行日 令和2年3月1日(web公開期間:2020年3月6日~2020年8月28日) ▲2▼刊行物 令和2年電気学会全国大会講演論文集、第124~125頁 一般社団法人電気学会 発行 (Web公開URL:https://gakkai-web.net/iee/program/2020/index.html) <資 料> 令和2年電気学会全国大会講演論文公開案内 <資 料> 令和2年電気学会全国大会講演論文集 掲載論文 〔2〕 ▲1▼発行日 令和2年8月28日 ▲2▼刊行物 令和2年電気学会電力・エネルギー部門大会講演論文集、1WEB2-1~1WEB2-10 一般社団法人電気学会 発行 (Web公開URL:https://www.iee.jp/pes/b_event/r02/ https://gakkai-web.net/p/pes/pes/mod2.php) <資 料> 令和2年電気学会電力・エネルギー部門大会講演論文公開案内 <資 料> 令和2年電気学会電力・エネルギー部門大会講演論文集 掲載論文
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇人
(72)【発明者】
【氏名】小関 英雄
(72)【発明者】
【氏名】天野 博之
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-127655(JP,A)
【文献】特開2011-234577(JP,A)
【文献】特開2011-019362(JP,A)
【文献】特開2008-048554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0329383(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J3/00-5/00
H02J13/00
H02H1/00-3/07
H02H3/32-3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再エネ電源及び負荷が接続されている電力系統の周波数を安定化させる制御装置であって、
リアルタイムで得られる前記再エネ電源の出力に基づいて、前記電力系統の周波数変化率に応じた前記再エネ電源の脱落量を示す再エネ脱落特性を生成する特性生成部と、
一つ以上の前記再エネ電源が脱落した場合には、前記特性生成部が生成した前記再エネ脱落特性に合わせて前記再エネ電源の脱落量と同程度の負荷制御量の前記負荷を前記電力系統から切り離すことで電力需給のアンバランスを解消させる制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
負荷遮断を行う周波数低下リレーが前記電力系統の各負荷フィーダに設けられており、
前記制御部は、前記特性生成部が生成した再エネ脱落特性に合わせて前記再エネ電源の脱落量と同程度の前記負荷制御量の負荷を前記電力系統から切り離すように、前記周波数低下リレーの整定値を調整する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記各負荷の負荷量と前記各再エネ電源の出力とに基づいて、前記負荷遮断を行う前記周波数低下リレーが設けられている負荷フィーダの中から制御対象を選定する制御対象選定部と、
前記制御対象選定部に選定した前記制御対象の整定値を調整することで、前記再エネ脱落特性に合わせて前記脱落量と同程度の前記負荷制御量の負荷を前記電力系統から切り離す調整部と、
を備える
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記制御対象選定部に選定した前記制御対象以外の周波数低下リレーの負荷遮断機能を無効化する、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
再エネ電源及び負荷が接続されている電力系統の周波数を安定化させる負荷制御方法であって、
リアルタイムで得られる前記再エネ電源の出力に基づいて、前記電力系統の周波数変化率に応じた前記再エネ電源の脱落量を示す再エネ脱落特性を生成し、
一つ以上の前記再エネ電源が脱落した場合には、生成した前記再エネ脱落特性に合わせて前記再エネ電源の脱落量と同程度の負荷制御量の前記負荷を前記電力系統から切り離すことで電力需給のアンバランスを解消させる、
負荷制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置及び負荷制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然災害による大規模停電を契機に、電力系統におけるレジリエンス強化の重要性が再認識されている。また、脱炭素化の要請の高まりを背景に、将来的な再生可能エネルギー電源(以下、「再エネ電源」という。)の主力電源化が期待されている。
【0003】
将来の電力系統においてレジリエンス強化と脱炭素化を両立するには、災害時など周波数が大幅に変動した際の周波数安定性の低下要因として懸念される、再エネ電源の脱落に対して的確に対処可能な周波数制御技術の開発が重要となる。最近の周波数制御技術として、多様な系統条件を考慮した周波数低下リレーの整定方法が以下の非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Turaj. Amraee, Mohammad. Ghaderi. Darebaghi, Alireza. Soroudi and Andrew. Keane, "Probabilistic Under Frequency Load Shedding Considering RoCoF Relays of Distributed Generators," in IEEE Transactions on Power Systems, vol. 33, no. 4, pp. 3587-3598 (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、再エネ電源の脱落量は、そのときの再エネ電源の出力すなわち日射量や風速等に応じて変化するため、従来の周波数制御技術では、再エネ電源の脱落に対して的確に対処することが困難となっていくと考えられる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、再エネ電源の脱落によって発生する供給力不足による周波数安定性の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、再エネ電源及び負荷が接続されている電力系統の周波数を安定化させる制御装置であって、一つ以上の前記再エネ電源が脱落した場合には、一つ以上の前記負荷を前記電力系統から切り離すことで電力需給のアンバランスを解消させる制御装置である。
【0008】
(2)上記(1)の系統安定化システムであって、前記制御装置は、前記再エネ電源が脱落した場合には、前記再エネ電源の脱落量に応じた前記負荷を前記電力系統から切り離してもよい。
【0009】
(3)上記(2)の制御装置であって、前記制御装置は、前記再エネ電源が脱落した場合には、前記再エネ電源の脱落量と同程度の負荷制御量の前記負荷を前記電力系統から切り離してもよい。
【0010】
(4)上記(3)の制御装置であって、前記再エネ電源の出力に基づいて、電力系統の周波数変化率に応じた再エネ電源の脱落量を示す再エネ脱落特性を求める特性生成部と、前記特性生成部が生成した前記再エネ脱落特性に合わせて前記再エネ電源の脱落量と同程度の前記負荷制御量の負荷を前記電力系統から切り離す制御部と、を備えてもよい。
【0011】
(5)上記(4)の制御装置であって、負荷遮断を行う周波数低下リレーが前記電力系統の各負荷フィーダに設けられており、前記制御部は、前記特性生成部が生成した再エネ脱落特性に合わせて前記再エネ電源の脱落量と同程度の前記負荷制御量の負荷を前記電力系統から切り離すように、前記周波数低下リレーの整定値を調整してもよい。
【0012】
(6)上記(5)の制御装置であって、前記制御部は、前記各負荷フィーダの負荷量と前記再エネ電源の出力とに基づいて、前記負荷遮断を行う前記周波数低下リレーが設けられている負荷フィーダの中から制御対象を選定する制御対象選定部と、前記制御対象選定部に選定した前記制御対象の整定値を調整することで、前記再エネ脱落特性に合わせて前記再エネ電源の脱落量と同程度の前記負荷量の負荷を前記電力系統から切り離す調整部と、を備えてもよい。
【0013】
(7)上記(6)の制御装置であって、前記調整部は、前記制御対象選定部に選定した前記制御対象以外の周波数低下リレーの負荷遮断機能を無効化してもよい。
【0014】
(8)本発明の一態様は、再エネ電源及び負荷が接続されている電力系統の周波数を安定化させる負荷制御方法であって、一つ以上の前記再エネ電源が脱落した場合には、一つ以上の前記負荷を前記電力系統から切り離すことで電力需給のアンバランスを解消させる、負荷制御方法である。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、再エネ電源の脱落によって発生する供給力不足による周波数安定性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態の系統安定化システムが適用される電力系統の構成図である。
図2】第1の実施形態の制御装置の各機能部を説明する図である。
図3】第1の実施形態の再エネ脱落特性を説明する図である。
図4】第1の実施形態の制御装置の動作のフロー図である。
図5】第1の実施形態の効果を説明する図である。
図6】第2の実施形態の系統安定化システムが適用される電力系統の構成図である。
図7】第2の実施形態の制御装置の各機能部を説明する図である。
図8】第2の実施形態の制御装置の動作のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態に係る系統安定化システムを、図面を用いて説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態の系統安定化システムが適用される電力系統100の構成図である。電力系統100は、再エネ電源や送電線、変圧器など各種設備を備える。一例として、電力系統100は、主系統10、変電所11、第1の母線12、複数の負荷フィーダ13-k(k=1、2、…-n)(nは2以上の整数)及び複数の下位系統14-kを有する。以下の説明において、ハイフン以下の符号を省略する場合がある。
【0019】
変電所11は、変電所11よりも上位の系統である主系統10からの電力を、変電所11よりも下位の系統である各下位系統14に供給する。本実施形態では、電力系統100が2つの変電所11を有する場合について説明するが、その数には特に限定されない。
【0020】
第1の母線12は、変電所に配置されている母線であって、変電所11に接続されている。本実施形態では、第1の母線12は、各変電所11に対応して接続されている。
【0021】
負荷フィーダ13-kは、第1の母線12と下位系統14-kとを接続する接続線である。
【0022】
下位系統14-kは、例えば、第2の母線20-k、一つ以上の再エネ電源30-k及び一つ以上の負荷40-kを備える。
【0023】
第2の母線20-kには、一つ以上の再エネ電源30-k及び一つ以上の負荷40-kが接続されている。図1に示す例では、第2の母線20-kには1つの再エネ電源30-kが電気的に接続されているが、これに限定されず、第2の母線20-kに接続される再エネ電源30-kの数は複数であってもよい。同様に、図1に示す例では、第2の母線20-kには1つの負荷40-kが電気的に接続されているが、これに限定されず、第2の母線20-kに接続される負荷40-kの数は複数であってもよい。
【0024】
再エネ電源30-kは、再生可能エネルギーを利用した電源であって、例えば、太陽光発電、風力発電などを利用した電源である。一例として、再エネ電源30-kは、太陽光発電の発電装置32-kと、パワーコンディショナーシステム(PCS)31-kと、を有する。
【0025】
PCS31-kは、発電装置32-kが発電した直流電力を交流に変換する。PCS31-kで変換された直流電力は、主系統10や負荷40-kに供給される。PCS31-kは、例えば負荷側の周波数の変化などにより単独運転を検出し、再エネ電源30-kの出力を停止させる単独運転検出機能を有する。具体的には、電力系統100の供給力が不足して電力需給がアンバランスになると、電力系統100の周波数が低下していく。電力需給のアンバランスの大きいほど、電力系統100の周波数の変化率(df/dt)が大きくなる。したがって、PCS31-kは、単独運転検出機能として、周波数の変化率(df/dt)が所定値以上になった場合には再エネ電源30-kの出力を停止させる。以下の説明において、単独運転検出機能によって再エネ電源30の出力が停止することを「脱落」と称する。
【0026】
負荷40-kは、例えば、需要家における電気機器などである。
【0027】
第1の実施形態の系統安定化システムは、複数の負荷側周波数低下リレー(UFR:Under Frequency Relay)200-k及び制御装置300を備える。
【0028】
UFR200-kは、負荷フィーダ13-kに設けられている。UFR200-kが導通状態(オン状態)から遮断状態(オフ状態)に動作すると、下位系統14-kが主系統10から切り離される。すなわち、UFR200-kが導通状態(オン状態)から遮断状態(オフ状態)に動作すると、下位系統14-kに含まれる負荷40-kが主系統10から切り離される負荷遮断が行われる。本実施形態では、UFR200-kは、負荷フィーダごとに設けられている。
【0029】
UFR200-kは、負荷側の周波数変化等を検出する。UFR200-kは、大規模な電源脱落等に起因した供給力不足により大幅に周波数が低下する稀頻度リスクに対応して、脱落した電源を除いた供給力(発電側)で周波数を制御できる範囲にまで負荷遮断することで周波数を回復させる緊急的な措置を実施する。
【0030】
例えば、周波数低下による連鎖的な電源トリップや大規模停電を防ぐため、UFR200-kにおいて何段階かの整定値として周波数のレベルとその継続時間が設定され、負荷側の周波数が予め設定されたレベル以下となる時間が、予め設定された継続時間を連続して経過した場合には、順次負荷遮断が行われる。
【0031】
UFR200-kは、周波数変化率とその継続時間に応じて負荷制御を行う負荷遮断機能を有している。具体的には、負荷遮断機能では、整定値として周波数変化率とその継続時間が設定され、負荷側の周波数の変化率が予め設定されたレベル以上となる時間が、予め設定された継続時間を連続して経過した場合には、UFR200-kは、導通状態(オン状態)から遮断状態(オフ状態)になり負荷遮断する。
【0032】
UFR200-kの整定値は、制御装置300によって調整されてもよい。また、UFR200-kの負荷遮断機能は、制御装置300によって有効化及び無効化されてもよい。
【0033】
制御装置300は、一つ以上の再エネ電源30が脱落した場合には、一つ以上の負荷40を電力系統100から切り離すことで電力需給のアンバランスを解消させる。例えば、制御装置300は、再エネ電源30が脱落した場合には、再エネ電源30の脱落量に応じた負荷40を電力系統100から切り離す。再エネ電源30の脱落量とは、再エネ電源30が脱落したことによって再エネ電源30から電力系統100への電力供給が停止されたすべての電力量を示す情報である。すなわち、脱落量とは、電力系統100に接続されている全ての再エネ電源30を一つの集合体とした場合において、その集合体(再エネ集合体)から電力系統100への電力供給が停止された電力量である。例えば、制御装置300は、再エネ電源30が脱落した場合には、再エネ電源30の脱落量と同程度の負荷40の電力量(以下、「負荷制御量」という。)を電力系統100から切り離す。
【0034】
制御装置300は、各UFR200-kに対して有線又は無線で接続されている。
【0035】
以下において、制御装置300の機能部について、図2を用いて説明する。図2は、制御装置300の各機能部を説明する図である。
【0036】
制御装置300は、データ取得部310、特性生成部320及び制御部330を備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integrated circuit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。記憶装置は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等により構成される。
【0037】
データ取得部310は、各再エネ電源30の出力データをリアルタイムで取得する。そして、データ取得部310は、取得した各再エネ電源30の出力の合計値を求める。以下において、再エネ集合体の出力、すなわち前記合計値を、「再エネ出力」と称する。ここで、再エネ出力は計測値でもよいし、日射量などに基づいた推定値でもよい。本実施形態のリアルタイムとは、完全に同時である必要はなく、ネットワークを介した通信などによるタイムラグを含んでもよい。
【0038】
データ取得部310は、各負荷40の電力量である負荷量(需要)のデータをリアルタイムで取得する。
【0039】
特性生成部320は、データ取得部310で取得した再エネ出力のデータに基づいて、電力系統100の周波数変化率に応じた再エネ電源30の脱落量を示す再エネ脱落特性を生成する。図3は、本実施形態の再エネ脱落特性の一例を示す図であり、再エネ脱落特性をグラフ化した図である。
【0040】
図3に示すグラフの横軸が周波数変化率であり、縦軸が再エネ電源の脱落量を示す。図3に示す再エネ電源の脱落量は、系統需要を100%とした場合において、脱落によって電力系統100に対して供給が停止された再エネ電源の電力の割合を示す。図3に示すように、再エネ脱落特性は、周波数変化率が大きくなるにつれて脱落量も大きくなり、周波数変化率がある値に達すると脱落量が飽和するという特徴を有している。すなわち、図3では、周波数変化率が増大するにつれて脱落していく再エネ電源30の数が増加していき、周波数変化率がある値に達すると、脱落していない残りの再エネ電源30が一斉に脱落して、全ての再エネ電源30が脱落することを示している。
【0041】
再エネ脱落特性は、個々の再エネ電源30の脱落特性の重ね合せにより表現される。そのため、対象エリアの再エネ電源の単独運転検出機能のロジックや整定とその比率を集約することで、同エリアの再エネ電源30の集合的な再エネ脱落特性を表現することが可能である。ここで、再エネ脱落特性は、単独運転検出機能により特徴付けられる。そのため、ある周波数変化率に対して脱落する再エネの種類や数は変わることはない。一方、再エネ出力は日射量や風速により常時変化するため、これに応じて、再エネ電源30の脱落時の周波数変化に対する脱落量もまた常時変化することになる。そこで、特性生成部320は、リアルタイムで得られる常時の再エネ出力に基づいて適宜、再エネ脱落特性を生成する。
【0042】
一例として、特性生成部320は、各PCS31の単独運転検出機能のロジックや整定値とその比率を集約したデータシートなどから、ある周波数変化率に対して脱落する再エネ電源30の種類や数を示す脱落情報を予め求めておき、その脱落情報を格納している。そして、特性生成部320は、脱落情報と、データ取得部310で得られたリアルタイムの再エネ出力とに基づいて、再エネ脱落特性を生成する。例えば、特性生成部320は、再エネ出力が100%である場合には、図3の点線で示す再エネ脱落特性を生成し、再エネ出力が50%である場合には、図3の実線で示す再エネ脱落特性を生成する。なお、特性生成部320は、再エネ脱落特性の情報をテーブル形式で生成してもよいし、数式で生成してもよい。
【0043】
制御部330は、特性生成部320が生成した再エネ脱落特性に合わせて脱落量と同程度の電力量を負荷制御量として電力系統100から切り離すように、各UFR200の整定値を調整する。ここで、再エネ脱落特性の脱落量は、負荷制御量とみなすことができる。すなわち、再エネ脱落特性は、周波数変化に対する負荷制御量を示すものとなる。換言すれば、特性生成部320は、再エネ脱落特性を生成することで、周波数変化率に対する負荷制御量(以下、「負荷制御量特性」という。)を生成する。例えば、図3に示す点線で示す負荷制御量特性を例にとると、制御部330は、1Hz/sで系統需要の8%に相当する電力量を負荷制御量として、2Hz/sで系統需要の14%に相当する電力量を負荷制御量として電力系統100から切り離すように、複数のUFR200から制御対象のUFR200を選定し、その選定したUFR200の整定値を調整する。このように、制御部330は、負荷制御量特性に基づいてUFR200の整定値を調整することで、種々の系統状態における再エネ脱落量に応じて負荷制御量を適正化する。
【0044】
以下において、制御部330の機能部を説明する。制御部330は、制御対象選定部340及び調整部350を備える。
【0045】
制御対象選定部340は、データ取得部310で取得された各負荷40の負荷量を含む情報に基づいて、負荷遮断を行うUFR200である制御対象を選定する。一例として、制御対象選定部340は、データ取得部310で取得された各負荷40の負荷量と各再エネ電源30の出力に基づいて、特性生成部320で生成した負荷制御量特性になるように、負荷遮断を行うUFR200である制御対象を選定する。
【0046】
調整部350は、UFR200の負荷遮断機能によって上記負荷制御量特性が実現されるように、制御対象選定部340に選定した制御対象の整定値を調整する。また、調整部350は、制御対象選定部340で選定した制御対象以外のUFR200の負荷遮断機能を無効化してもよい。
【0047】
例えば、0.5Hz/sごとに2つの負荷フィーダ、すなわち2つの下位系統14を主系統10から切り離すことで、再エネ出力が100%における負荷制御量特性を実現できるとする。その際には、例えば、調整部350は、UFR200-1とUFR200-2の各整定値を0.5Hz/sに調整し、UFR200-3とUFR200-4の各整定値を1Hz/sに調整し、UFR200-5とUFR200-6の各整定値を1.5Hz/sに調整する。そして、例えば、調整部350は、再エネ出力が100%から50%に変動した場合には、UFR200-1とUFR200-2のうちUFR200-2による負荷遮断機能を無効化し、UFR200-3とUFR200-4のうちUFR200-4による負荷遮断機能を無効化し、UFR200-5とUFR200-6のうちUFR200-6による負荷遮断機能を無効化する。これにより、制御部330は、再エネ出力に応じて変動する負荷制御量特性を実現させることができる。
【0048】
以下において、第1の実施形態の制御装置300における演算処理の流れを、図4を用いて説明する。図4は、第1の実施形態の制御装置300の演算処理のフロー図である。制御装置300は、一定周期ごとに図4に示す演算処理を繰り返す。
【0049】
制御装置300は、あるエリアにおける各負荷フィーダの再エネ電源30の出力データと各負荷40の負荷量データをリアルタイムで取得する(ステップS101)。そして、制御装置300は、各再エネ電源30の出力データの合計値(再エネ出力)を求め、その合計値に基づいて、負荷制御量特性を生成する(ステップS102)。制御装置300は、各再エネ電源30の出力データと各負荷40の負荷量とに基づいて下位系統14の負荷量を下位系統14ごと(負荷フィーダごと)に求める(ステップS103)。すなわち、制御装置300は、負荷40-kの負荷量から再エネ電源30-kの出力を差し引くことで、下位系統14-kの負荷量を求める。ここで、下位系統14-kの負荷量は計測してもよい。制御装置300は、ステップS102で生成した負荷制御量特性に沿って負荷遮断するように、負荷制御量特性及び下位系統14ごとの負荷量に基づいて、周波数変化率に応じて負荷遮断するUFR200(制御対象)を選定し(ステップS104)、その選定したUFR200の整定値を調整する(ステップS105)。
【0050】
例えば、周波数変化率が1Hz/sとなった場合には負荷制御量(再エネ電源30の脱落量)が15MWとなり、周波数変化率が2Hz/sとなった場合には負荷制御量が10MW追加されて25MWとなる負荷制御量特性が生成されたとする。また、負荷40-1の負荷量が10MWであり、再エネ電源30-1の出力が5MWであると仮定すると、下位系統14-1の負荷量は5MWとなる。また、負荷40-2の負荷量が20MWであり、再エネ電源30-2の出力が5MWであると仮定すると、下位系統14-2の負荷量は15MWとなる。また、負荷40-3の負荷量が5MWであり、再エネ電源30-3の出力が0MWであると仮定すると、下位系統14-3の負荷量は5MWとなる。このような場合には、制御装置300は、負荷制御量特性に従い、周波数変化率が1Hz/sになった時点で15MWを負荷制御量として電力系統100から切り離すために、UFR200-2の整定値を1Hz/sに調整する。また、周波数変化率が2Hz/sになった時点でさらに10MWを負荷制御量として電力系統100から切り離すために、UFR200-1とUFR200-3の各整定値を2Hz/sに調整する。そして、制御装置300は、UFR200-1からUFR200-3以外のUFR200の負荷遮断機能を無効化する。これにより、制御装置300は、再エネ電源の脱落に起因した供給力不足による電力需給のアンバランスを解消させることができ、電力系統100の周波数の安定化に寄与する。
【0051】
第1の実施形態の効果について説明する。図5(a)は、従来の系統安定化システムによる負荷制御の結果を示す図である。従来の系統安定化システムでは、UFRは、周波数のレベルを整定値として負荷遮断を行う。図5(b)は、第1の実施形態の系統安定化システムによる負荷制御の結果を示す図である。
【0052】
図5(a)に示すように、従来の系統安定化システムでは、再エネ電源30の脱落に対する制御遅れが大きく、制御量不足となるため、再エネ電源30の脱落量の低減や周波数ボトムの改善は困難である。
【0053】
図5(b)に示すように、第1の実施形態の系統安定化システムでは、再エネ電源30の脱落に対する制御遅れや制御量不足がともに大幅に改善され、再エネ電源30の脱落量が低減し、周波数ボトムも大幅に改善されている。また、第1の実施形態の系統安定化システムは、再エネ電源30の脱落に対して高速かつ適量の負荷制御が可能となるため、負荷制御量も低減している(従来よりも少ない負荷制御で制御効果を得られている)。
【0054】
上述したように、第1の実施形態の制御装置300は、一つ以上の再エネ電源30が脱落した場合には、一つ以上の負荷40を電力系統100から切り離すことで電力需給のアンバランスを解消させる。このような構成により、制御装置300は、再エネ電源30の脱落によって発生する供給力不足による周波数安定性の低下を抑制することができる。
【0055】
また、第1の実施形態の制御装置300は、再エネ出力に基づいて生成した再エネ脱落特性に合わせて脱落量と同程度の負荷制御量の負荷40を電力系統100から切り離すようにUFR200の整定値を調整する。これにより、再エネ電源を除いた電源脱落に対応した従来制御との制御協調が可能となる。
【0056】
<第2の実施形態>
図6は、第2の実施形態の系統安定化システムが適用される電力系統100の構成図である。系統安定化システムは、第1の実施形態と比較して、負荷フィーダ13のそれぞれに対してUFR200ではなく、遮断器などのリレーが設けられている点に異なる。以下の説明において、第1の実施形態で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0057】
第2の実施形態の系統安定化システムは、複数のリレー400-k及び制御装置300Aを備える。
【0058】
リレー400-kは、負荷フィーダ13-kに設けられている。リレー400-kが導通状態(オン状態)から遮断状態(オフ状態)になると、下位系統14-kが主系統10から切り離される。
【0059】
制御装置300Aは、複数のリレー400-kのそれぞれをオン状態又はオフ状態に制御する。制御装置300Aは、一つ以上の再エネ電源30が脱落した場合には、一つ以上の負荷40を電力系統100から切り離すことで電力需給のアンバランスを解消させる。制御装置300Aは、再エネ電源30が脱落した場合には、再エネ電源30の脱落量に応じた負荷40を電力系統100から切り離す。
【0060】
以下において、制御装置300Aの機能部について、図7を用いて説明する。図7は、制御装置300Aの各機能部を説明する図である。
【0061】
制御装置300Aは、データ取得部310、特性生成部320及び制御部330Aを備える。
【0062】
以下において、制御部330Aの機能部を説明する。制御部330Aは、制御対象選定部340A及び調整部350Aを備える。
【0063】
制御対象選定部340Aは、データ取得部310で取得された各負荷40の負荷量を含む情報に基づいて、リレー400が設けられている負荷フィーダの中から制御対象を選定する。一例として、制御対象選定部340Aは、データ取得部310で取得された各負荷フィーダの負荷40の負荷量と再エネ電源30の出力に基づいて、特性生成部320で生成した負荷制御量特性が実現されるように、周波数変化率に対応する制御対象を選定する。
【0064】
調整部350Aは、上記負荷制御量特性が実現されるように、複数のリレー400-kのそれぞれをオン状態又はオフ状態に制御する。例えば、調整部350Aは、制御対象選定部340Aに選定した制御対象のリレー400をオフ状態に制御する。
【0065】
例えば、0.5Hz/sごとに2つの負荷フィーダ、すなわち、2つの下位系統14を主系統10から切り離すことで、再エネ出力が100%における負荷制御量特性を実現できるとする。その際には、例えば、調整部350Aは、周波数変化率が0.5Hz/sになった場合には、リレー400-1とリレー400-2をオフ状態に制御し、周波数変化率が1Hz/sになった場合には、リレー400-3とリレー400-4をさらにオフ状態に制御する。これにより、制御部330Aは、再エネ出力に応じて変化する負荷制御量特性を実現させることができる。
【0066】
以下において、第2の実施形態の制御装置300Aの動作の流れを、図8を用いて説明する。図8は、第2の実施形態の制御装置300Aの動作のフロー図である。ステップS201からステップS203は、図4のステップS101からステップS103と同様の処理であるため、説明を省略する。
【0067】
制御装置300Aは、ステップS102で生成した負荷制御量特性に沿って負荷遮断するように、下位系統14ごとの負荷量に基づいて、周波数変化率に応じて負荷遮断するリレー400(制御対象)を選定し(ステップS204)、その選定したリレー400をリアルタイムで取得する周波数変化率に応じてオフ状態に制御する(ステップS205)。
【0068】
例えば、周波数変化率が1Hz/sとなった場合には負荷制御量(再エネ電源30の脱落によって発生した脱落量)が15MWとなり、周波数変化率が2Hz/sとなった場合には負荷制御量が10MWだけ追加されて25MWとなる負荷制御量特性が生成されたとする。また、負荷40-1の負荷量が10MWであり、再エネ電源30-1の出力が5MWであると仮定すると、下位系統14-1の負荷量は5MWとなる。また、負荷40-2の負荷量が20MWであり、再エネ電源30-2の出力が5MWであると仮定すると、下位系統14-2の負荷量は15MWとなる。また、負荷40-3の負荷量が5MWであり、再エネ電源30-3の出力が0MWであると仮定すると、下位系統14-3の負荷量は5MWとなる。このような場合には、制御装置300Aは、負荷制御量特性に従い、周波数変化率が1Hz/sになった時点で15MWを負荷制御量として電力系統100から切り離すために、周波数変化率が1Hz/sになった時点でリレー400-2をオフ状態に制御する。また、制御装置300Aは、周波数変化率が2Hz/sになった時点でさらに10MWを負荷制御量として電力系統100から切り離すために、周波数変化率が2Hz/sになった時点でリレー400-1とリレー400-3をオフ状態に制御する。これにより、制御装置300Aは、再エネ電源の脱落に起因した供給力不足による電力需給のアンバランスを解消させることができ、電力系統100の周波数の安定化に寄与する。
【0069】
以上説明した第2の実施形態の制御装置300Aによれば、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0070】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0071】
例えば、制御対象選定部340は、各負荷フィーダの負荷40の負荷量と再エネ電源30の出力とに基づいて、負荷遮断を行うUFR200である制御対象を選定するにあたって、負荷制御量特性の負荷制御量を超えない範囲において下位系統14の負荷量が大きいものを優先的に選定してもよい。例えば、周波数変化率が1Hz/sである場合での負荷制御量が10MWとなる負荷制御量特性が生成されたとする。この場合において、下位系統14-1の負荷量が5MW、下位系統14-2の負荷量が5MW、下位系統14-3の負荷量が10MWである場合には、制御対象選定部340は、10MW以下の範囲において、下位系統14の負荷量が最も大きい下位系統14-3を周波数変化率1Hz/sでの制御対象に選定する。すなわち、制御対象選定部340は、下位系統14-1と下位系統14-2とを周波数変化率1Hz/sでの制御対象に選定しても負荷制御量特性を実現可能であるが、より少ない制御で負荷制御量特性を実現するために下位系統14-3を制御対象に選定してもよい。これにより、整定値の調整を行うUFR200の数を最小限に抑えることができる。
【0072】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1,1A…系統安定化システム、300,300A…制御装置、310…データ取得部、320,320A…特性生成部、330,330A…制御部、340,340A…制御対象選定部、350,350A…調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8