(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ペリクル
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20240910BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F7/20 501
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2021067563
(22)【出願日】2021-04-13
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】関原 一敏
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-202011(JP,A)
【文献】特開2011-158585(JP,A)
【文献】特開2012-220533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 1/62
G03F 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの辺長が1000mmを超えるペリクルフレームと、その一方の枠状面に接着されたペリクル膜とを含んで構成されるペリクルであって、互いに平行且つ線対称である一対のペリクルフレーム辺に平行な方向に1%以上2.5%以下の引張歪みをペリクル膜に付与して
おり、 前記一対のペリクルフレーム辺に垂直な方向に0.5%以上2%以下の引張歪みをペリクル膜に付与していることを特徴とするペリクル。
【請求項2】
少なくとも1つの辺長が1000mmを超えるペリクルフレームと、その一方の枠状面に接着されたペリクル膜とを含んで構成されるペリクルであって、互いに平行且つ線対称である一対のペリクルフレーム辺に平行な方向に1%以上2.5%以下の引張歪みをペリクル膜に付与しており、 前記ペリクルフレームは矩形であり、前記一対のペリクルフレーム辺が前記矩形の長辺であることを特徴とするペリクル。
【請求項3】
前記矩形の長辺に垂直な方向に0.5%以上2%以下の引張歪みをペリクル膜に付与していることを特徴とする請求項
2に記載のペリクル。
【請求項4】
太さが最大でも100μmである、少なくとも一本の線状補強体が、前記ペリクル膜に接合されて、前記ペリクルフレームの互いに対向する二辺間に張設されていることを特徴とする請求項
2又は
3に記載のペリクル。
【請求項5】
太さが最大でも100μmである二本の線状補強体が、前記ペリクル膜に接合されて、前記ペリクルフレームの対角線に沿って張設されていることを特徴とする請求項
2又は
3に記載のペリクル。
【請求項6】
前記ペリクル膜の材質が非晶質フッ素系樹脂であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載のペリクル。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のペリクルをフォトマスクに装着してなるペリクル付きフォトマスク。
【請求項8】
請求項
7に記載のペリクル付きフォトマスクを用いて露光することを特徴とする露光方法。
【請求項9】
請求項
7に記載のペリクル付きフォトマスクを用いて露光する工程を有するフラットパネルディスプレイ用パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板あるいはフラットパネル等を製造する際のゴミよけとして使用されるペリクル、特には液晶などのFPDデバイス製造用途で使用される、少なくとも一つの辺長が1000mmを超える大きさのペリクルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSI等の半導体あるいは液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等に使用されるフラットパネルディスプレイ用パネルの製造においては、フォトレジストを塗布した半導体ウエハあるいは液晶用ガラス板に紫外光を照射してパターンを作製するが、この時に用いるフォトマスクにゴミが付着していると、このゴミが紫外光を遮り、又は反射するために、転写したパターンの変形、短絡などが発生し、品質が損なわれるという問題があった。
【0003】
このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミよけとしてペリクルを貼り付けした後に露光を行っている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
一般的なペリクルでは、紫外光を良く透過させるニトロセルロース、プロピオン酸セルロースあるいはフッ素系樹脂などからなる透明なペリクル膜が、アルミニウム合金、ステンレス鋼、エンジニアリングプラスチックなどからなるペリクルフレームの枠状面に接着されている。さらに、ペリクル膜の反対側の枠状面には、フォトマスクに装着するためのポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着層が設けられ、必要に応じて粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が取り付けられている。
【0005】
上記のように、一般的にペリクル膜は薄い樹脂で構成されるので、シワが寄ったりすることが無いよう、これに適切な大きさの張力を掛けてペリクルフレームに張設している。しかし、ペリクル膜にも自重があり、ごくわずかではあるが、どのようなペリクルであっても、ペリクル膜は下方向への垂れ下がりが生じている。
【0006】
図9にフォトマスクにペリクルが貼り付けられた状態の断面図を示す。通常、露光機内ではフォトマスク91は露光パターン92が描画されている面が下向きとなるように設置されている。そして、ペリクル99はその露光パターン92を覆うように、フォトマスク91の下面にマスク粘着層96を介して取り付けられている。
【0007】
ペリクル膜98の自重垂れ下がり量xが大きい場合、ペリクル膜98の頂点y(通常はペリクルの中央)はフォトマスク91の下方向に突出することになり、露光機や異物検査機(図示しない)内で装置部品に干渉する危険がある。一般的な露光機の場合、ペリクル自体や各部品の取り付け公差を勘案すると、許容されるペリクル膜の突出量は、少なくとも0.8mm以下、より好ましくは0.6mm以下である。この許容値は、同じ光学系を採用した露光機、異物検査機であれば、ペリクルが大きくなってもほぼ同じ数値が要求される。
【0008】
しかし、近年は露光機内でフォトマスクの移動速度がより高速になってきたため、移動時にペリクル膜が受ける風圧や移動開始時、停止時における慣性によるペリクル内の空気の偏りが大きくなってきた。これにより、自重による垂れ下がり量xに加えて、動作に伴うペリクル膜の揺れが大きくなり、ペリクル膜が装置へ接触する危険性は格段に高まっている。その結果、膜の自重垂れ下がり量xはより少ない値が求められるようになってきており、近年では一般的には0.35mm、場合によっては0.2mm以下が要求されてきている。また、膜揺れ量の要求値としては、適用する装置や運転条件においても要求が異なるため一概には言えないが、例を挙げるとすれば、いかなる条件においても、辺長が1mを超えるペリクルでは少なくとも4mm以下、辺長が1.5mを超えるペリクルでは少なくとも5mm以下であることが好ましい。
【0009】
かつて本発明者は、この課題に対して、ペリクルフレームの平行な2辺間にペリクル膜とは異なる材質からなる太さ100μm以下の細線状補強体を張設すると共に、該細線状補強体はペリクル膜の外側に接触していることを特徴とするペリクルの発明を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明では、補強体の働きによりペリクル膜の自重垂れが抑制されるが、補強体はデフォーカスされるため、露光品質には一切影響を及ぼすことが無い。この発明の方法は、一辺の長さが2000mmを超える大きなペリクルであっても自重撓み量を0.3mmに抑制することができ、自重垂れ下がり抑制には非常に有効な方法であった。しかし一方で、生産性が極めて悪く量産に適さないという問題があった。
【0012】
また、ペリクル膜の自重撓み量xを抑制することの本質的な目的は、上述の通り装置内でのペリクル膜接触を防止することであるが、単純にペリクル膜の自重撓み量xを減らしただけでは、フォトマスクに装着されたペリクル移動時の外力により発生するペリクル膜の揺れ量を抑制することには不十分で、ペリクル膜接触の危険性は必ずしも低減されない。
【0013】
また、特許文献1でも詳述した通り、通気孔94、フィルタ95を介しての空気の流動は極めてゆっくりであり、自重撓み量xは気圧や温度変化、またペリクル膜の材質によっては湿度によっても膨らんだり縮んだりして常に変動しており、安全性を示す指標としてもやや適切ではない。
【0014】
本発明は上記のような問題に鑑みてなされたもので、少なくとも一つの辺の辺長が1000mmを超えるペリクルにおいて、フォトマスクに装着されたペリクルが高速で移動した際に、ペリクル膜の揺れ量が小さいペリクルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は鋭意検討の結果、フォトマスクに装着されたペリクルが移動した際のペリクル膜の揺れ量を低減するには、ペリクル膜に引張歪みを与えてペリクルフレームに接着すること、及びその方向が重要であることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明の解決手段は、少なくとも1つの辺長が1000mmを超えるペリクルフレームと、その一方の枠状面に接着されたペリクル膜とを含んで構成されるペリクルであって、互いに平行且つ線対称である一対のペリクルフレーム辺に平行な方向(長軸方向)に1%以上2.5%以下の引張歪みをペリクル膜に付与していることを特徴とするペリクルである。さらに、ペリクル膜の前記一対のペリクルフレーム辺に垂直な方向(短軸方向)に0.5%以上2%以下の引張歪みを付与してペリクルフレームに接着固定することにより、ペリクル膜のシワを防止することができる。
【0017】
さらに、上記ペリクル膜の材質が非晶質フッ素系樹脂であることとすれば、環境変化に対しても影響を受けずにペリクル膜の揺れ量を小さく維持することができる。
【0018】
さらに、本発明の前記特徴に、上述した本発明者が提供した特許文献1の特徴をプラスした発明も、超大型ペリクルの場合、有効な実施形態となるであろう。すなわち、本発明の引張歪みを付与されたペリクル膜に接合するように、太さが最大でも100μmである、少なくとも一本の線状補強体がペリクルフレームの互いに対向する二辺間に張設されてなる態様である。あるいは、本発明の引張歪みを付与されたペリクル膜に接合するように、太さが最大でも100μmである二本の線状補強体がペリクルフレームの対角線に沿って張設されてなる態様である。これらの具体的内容は、特許文献1に開示されている。
さらに、本発明は、上記ペリクルをフォトマスクに装着してなるペリクル付きフォトマスク、該ペリクル付きフォトマスクを用いて露光することを特徴とする露光方法、及び該ペリクル付きフォトマスクを用いて露光する工程を有するフラットパネルディスプレイ用パネルの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ペリクル膜の長辺に平行な方向(長軸方向)に1~2.5%の引張歪みを与えてペリクルフレームに接着することにより、辺長が1000mmを超えるような大型のペリクルであっても、高速で移動させた際のペリクル膜の揺れ量を小さく抑制することができる。その結果、露光機や異物検査機内において、装置部品にペリクル膜が接触する危険性が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明の一実施形態を示す
図1のA―A断面図である。
【
図3】ペリクルを装着したフォトマスクを水平移動させた際のペリクル膜の挙動を示す説明図である。
【
図5】本発明で使用する支持枠を使用したペリクル膜の剥離方法を説明するための断面図である。
【
図6】本発明で使用する支持枠の概略平面図である。
【
図7】本発明で使用する支持枠引張機構の斜視図である。
【
図8】実施例により製作したペリクルの斜視概略図である。
【
図9】フォトマスクにペリクルが取り付けられた状態の概略断面図である。
【
図10】比較例で使用した支持枠の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
図1、2に本発明の一実施形態を示す。
図1は平面図、
図2は
図1のA-A断面図である。ペリクルフレーム11の上側枠状面にはペリクル膜接着層12が設けられ、ペリクル膜13が接着されている。また、その逆側の枠状面にはマスク粘着層14が設けられている。この実施形態では、ペリクルフレーム11の外形は長方形状となっているが、これに類するその他の形状、例えば、正方形、八角形などであってもかまわない。ペリクル膜13は長軸方向(矢印a方向)に所定の率の引張歪みが加えられた状態でペリクル膜接着層12を介してペリクルフレーム11に接着されている。この引張歪みは、1%以上2.5%以下とすることが好ましい。ここで、引張歪みとは下式により表される値である。
引張歪み(%)=歪み量(引張量)(mm) / 歪む前の引張方向のペリクル膜の外寸(mm) × 100
【0023】
一般的なペリクル膜は、シワなくペリクルフレームに接着することを目的として幾ばくかの張力を掛けているが、その量は歪みに換算すると0.5%程度である。また、従来の技術では
図10に示すようにペリクル膜を保持した支持枠100の辺中央を引っ張ったり、あるいは押したりして張力を調節していたため、その位置や大きさ、方向を考慮することができなかった。
【0024】
樹脂のペリクル膜13は伸縮が可能であり、弾性範囲内で引張歪みを付与することで外力に対する抵抗力を高めることができる。膜揺れ量を低減する効果は、引張歪み0.5%以上で大きくなり、その観点からは、高いほど良い。引張に対して降伏点を有する材料の場合、降伏点近くまで引張歪みを付与できることになり、例えば、フッ素系樹脂の場合は降伏点での伸び量が約10%なので、最大9%程度まで引張歪みを付与することができる。
【0025】
しかし一方で、引張歪みが高ければ高いほど、外傷への耐性は低下する。接触等で発生した外傷がたとえ僅かであっても、その方向によっては発生した亀裂が一気に伝播してペリクル膜の全面的な破損に繋がる恐れがある。また、ペリクル膜接着層にも常時大きなせん断応力が掛かることになり、接着の信頼性の点からも懸念がある。膜揺れの低減効果と接着剤の接着力、外傷への耐性のバランスを考慮すると、最も好適な引張歪みの範囲は1%以上2.5%以下である。また、この引張歪みをフレーム上の位置によって適宜調節することもできる。例えば、ペリクル膜の揺れ量が大きくなる長手方向中心軸上付近の引張歪みを特に高くすることも良い。
【0026】
通常、フォトマスクが長方形の場合、露光機内でのフォトマスクの移動方向は長軸方向である。
図3にペリクル付きフォトマスクを移動させ、急停止した際のペリクル膜の揺れ形態を示す。この図は長手中心軸での断面であり、矢印はペリクル付きフォトマスクの移動方向、二点鎖線は最も揺れが大きくなった時のペリクル膜の挙動を示す。
【0027】
ペリクル膜の揺れはフォトマスクの移動に伴って発生する。狭い空間を通過することにより外部から受ける風圧の影響もあるが、最も大きい揺れは移動開始時又は停止時に、慣性によりペリクル内の空気が一方向に偏ることによって発生する。
図3の例では、右方向への急停止によりペリクル内の空気が右方向へ移動し、それによりペリクル膜のB部では凹み、C部では突出が発生している。これは
図1の平面図において、それぞれ点線で囲まれたB及びCの領域に相当する。本発明では長軸方向に大きな引張歪みを加えることで、特にこの方向での空気の偏りに対して抵抗力を高めているため、膜揺れ量を効果的に抑制することができる。
【0028】
図4に本発明の別の実施形態の平面図を示す。ペリクル膜43は
図1の実施形態の長軸方向(矢印a)に加えて、短軸方向(矢印b)にも引張歪みを加えて、ペリクル膜接着層42を介してペリクルフレーム41に接着している。この短軸方向の引張歪みは0.5%以上2%以下とすることが好ましい。ペリクル膜の長軸方向に引張歪みを与えるとポアソン効果により短軸方向には縮みが生じるため、シワ発生を防ぐのがこの目的である。また、外傷に対する耐性低下を防ぐ観点からも短軸方向に付与する引張歪みを大きくする必要はない。
【0029】
また、ペリクル膜の材質は公知のもの、例えばニトロセルロース、プロピオン酸セルロースなどのセルロース系樹脂、非晶質フッ素系樹脂などを使用することができる。この中でも、特には非晶質フッ素系樹脂を用いることが良い。非晶質フッ素系樹脂は、吸湿による寸法変化が無く、また、波長300nm以下の短波長紫外光を使用してもエッチングによる膜厚減少が無いことから、付与した引張歪み量を長期間安定して維持することができ、膜揺れ量の変動が発生しない。また、非晶質であることから比較的亀裂が伝播し難く、大きな引張歪み量を与えていても外傷に対して強いという利点がある。
【0030】
次に、本発明のペリクルの製造方法について詳述する。
平滑に研磨した石英、低膨張ガラスなどからなる基板上にスピンコート法、スリットコート法などの公知の塗工手段によりペリクル膜材料の溶液を塗布し、オーブン、ホットプレート、IRランプなどの加熱手段により完全に溶媒を蒸発させ、基板上に乾燥したペリクル膜の層を得る。
【0031】
冷却後、前記ペリクル膜を成膜基板から剥離する。剥離は
図5の断面図を示すように、基板55上のペリクル膜54の端部に支持枠50の膜支持体52を接着し、角部からゆっくりと持ち上げて剥離することが好ましい。支持枠50に支持されたペリクル膜の平面図を
図6に示す。支持枠50は外枠51と膜支持体52、引張機構53から構成される。この実施形態では支持枠50を接着して基板55上のペリクル膜54を剥離したが、ペリクル膜の剥離は別の手段で行い、その後に支持枠50を装着しても構わない。
【0032】
外枠51はペリクル膜54に引張歪みを付与する際に撓まないよう、剛性のある材質、構造とすることが好ましい。膜支持体52はペリクル膜の周縁を各々20~100mmほどの幅で分割支持するもので、表面に塗布した接着剤、両面テープ等の接着手段(図示しない)によりペリクル膜54を接着する。膜支持体52は幅が狭いほど、きめ細かに引張歪みを調整ができるが、一方で幅が狭いと作業の煩雑さも激増するので、膜の大きさ、生産性、シワの入りやすさ等を総合的に勘案して支持幅を決定することが良い。
【0033】
膜支持体52は、隣接するものに対して5mm以下の間隙を持って配置されており、それぞれが外枠51から引張機構53を介して支持され、個別にその引張量を調整することができる。引張機構53の斜視図を
図7に示す。引張機構53は、引張方向cに対して直交する方向dへ移動可能なレール71、スライダ72からなる直動移動手段の上に搭載されており、引張歪みを付与した際の膜の変位に追随して自由に移動できるようになっている。引張手段として、この実施形態は、メスねじ部73、オスねじ部74から構成されるねじ機構を利用しているが、これに限定されるものではない。オスねじ部74の先端には、表面に接着剤や両面テープで構成した膜接着層75を有する膜支持体52が、オスねじ部74の回転に対して自由な状態で取り付けられており、オスねじ部74の回転操作により膜支持体52は引張方向cへ移動する。
【0034】
ペリクル膜54を支持枠50で支持した状態から、引張機構53の操作によりペリクル膜54に所望の引張歪み量を与える。膜支持体52を後退させるほど、付与する引張歪み量が増えることになるが、移動量は対向する膜支持体52同士が同量となるように操作する。操作は最初に付与する引張歪み量が大きい長軸方向を操作し、次いで短軸方向を操作することが良い。最後にペリクル膜54にシワが発生していないことを確認し、その後は通常のペリクル製造方法と同様にして、ペリクルフレームのペリクル膜接着層にペリクル膜54を接着し、ペリクルを完成させる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
図8の斜視図に示したペリクル80を製作した。ペリクルフレーム81は、A5052アルミニウム合金を用いて機械加工により製作した外寸1526×1748、内寸1493×1715mmの長方形で、高さは6.0mm、各角部の形状は内側R2、外側R6とした。また、長辺外面にはハンドリング用として直径2.5mm、深さ2mmの凹み孔82を各辺2箇所設け、短辺外面に高さ2mm、深さ3mmの溝83、同様に長辺外面の3箇所に高さ2mm、深さ3mmの溝84を設けた。また、両長辺には直径1.5mmの通気孔85、フィルタ86を各8箇所設けた。最後に表面をサンドブラスト処理の後、黒色アルマイト処理を施した。
【0037】
このペリクルフレーム81をクリーンルームに搬入し、界面活性剤と純水で良く洗浄、乾燥させた。そして、ペリクルフレームの一方の枠状面にペリクル膜接着層88としてシリコーン粘着剤、他方の枠状面にマスク粘着層87としてシリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製)をトルエンで希釈してエア加圧式ディスペンサにより厚さ2mmに塗布し、加熱によりキュアさせた。
【0038】
次に、1620×1780×厚さ17mmの平滑に研磨した石英基板55上に、スリットダイコータにより非晶質フッ素樹脂(商品名サイトップ、旭硝子(株)製)を溶解したペリクル膜材料溶液を塗布した。このときの塗布量は、乾燥後膜厚が3.9μmとなるよう設定した。次いで、これをオーブンにて180℃に加熱し溶媒を乾燥させた。
【0039】
この基板55上のペリクル膜54に、
図5に示すように支持枠50を接着した。ここで、支持枠50の引張機構は
図7に示す構造となっている。膜支持体52の下面に設けられたシリコーン両面テープからなる膜接着層75を基板端のペリクル膜54に接着し、次いで、この支持枠50を角部からゆっくりと持ち上げた。
図6は剥離後の状態を示した平面図である。
【0040】
次に、引張機構53を操作して膜支持体52を膜中央方向へ向かって移動させ、ペリクル膜が緩み始める位置を求めた。この位置を基準として、短辺上に配置された対向する引張機構53を同時に操作してペリクル膜に長軸方向の引張歪みを与えた。この時付与して伸びた量は41mm、伸び率にして約2.3%の引張歪みとし、操作は短辺の中心から外側へ順次行った。次いで、長辺に配置された引張機構53を同様に操作し、短軸方向に歪み量30mm、伸び率にして約1.9%の引張歪みを付与した。最後に膜全面について目視観察し、シワが発生していないことを確認した。
【0041】
この長軸方向、短軸方向に引張歪みが付与されたペリクル膜54を支持した支持枠50を移動して、
図8に示すように、上述のように製作したペリクルフレーム81上のペリクル膜接着層88にペリクル膜89を接着し、周囲の余剰膜をカッターにて切断してペリクル80を完成させた。この実施例1では、引張歪みは
図4に示す方向a、bに付与されたことになる。
【0042】
完成したペリクル80を1620×1780×厚さ17mmの石英基板に貼付けた後、直動ガイドとスライダからなる運動機構上に搭載し、
図3に示すように水平方向に移動させ、レーザー測距センサにより移動中の膜揺れ量を計測した。その結果、速度1300mm/s、加速度2940mm/s
2、減速度2940mm/s
2の条件において、ペリクル膜の突出側最大揺れ量は約2.3mmとなり、これは全く膜接触の心配がない値であった。
【実施例2】
【0043】
ペリクル膜に付与する歪み量を変え、上記実施例と同様にしてペリクルを製作した。この時付与して伸びた量は、長軸方向に19mm、伸び率で約1.1%、短軸方向に10mm、伸び率で0.6%の引張歪みとした。完成したペリクルを上記実施例と全く同条件にて膜揺れ量を評価したところ、ペリクル膜の最大揺れ量は約3.7mmとなり、実用的には膜接触の懸念がないレベルであった。
【比較例】
【0044】
実施例1と同様にして、1620×1780×厚さ17mmの平滑に研磨した石英製の基板上に、スリットダイコータにより非晶質フッ素樹脂(商品名サイトップ、旭硝子(株)製)を溶解したペリクル膜材料溶液を塗布し、これを乾燥させた。この基板上のペリクル膜の周縁部に、
図10に示すような支持枠100を接着し、角部からゆっくりと剥離してペリクル膜101を得た。上記実施例1、2では、ペリクル膜は支持枠50にて剥離、保持し、引張機構により引張歪みを付与したが、この比較例の支持枠100に引張機構は無い。シワの防止を目的として、ペリクル膜101の各長辺、各短辺の中央を図中矢印のように外側に引っ張り、その状態を保ったまま、上記実施例1、2と同様にして製作したペリクルフレーム上のペリクル膜接着層に接着し、フレーム周囲の余剰膜をカッターにて切断してペリクルを完成させた。この時、支持枠100は、辺の中央を引くと辺全体が撓んで膜を引っ張る形となり、また、長辺、短辺の引張量が相互に影響し合う。そのため、引張量は上記実施例とは単純に比較することはできないが、参考として辺中央部において引張歪みを求めると長辺、短辺とも約0.5%であった。
【0045】
完成したペリクルを上記実施例1、2と全く同条件にて膜揺れ量を評価したところ、ペリクル膜の最大揺れ量は突出側で約5.2mmとなり、これは装置内でペリクル膜が接触する懸念があるレベルであった。
【符号の説明】
【0046】
11 ペリクルフレーム
12 ペリクル膜接着層
13 ペリクル膜
14 マスク粘着層
15 フォトマスク
41 ペリクルフレーム
42 ペリクル膜接着層
43 ペリクル膜
50 支持枠
51 外枠
52 膜支持体
53 引張機構
54 ペリクル膜
55 基板
71 レール
72 スライダ
73 メスねじ部
74 オスねじ部
75 膜接着層
80 ペリクル
81 ペリクルフレーム
82 凹み孔
83 溝(短辺)
84 溝(長辺)
85 通気孔
86 フィルタ
87 マスク粘着層
88 ペリクル膜接着層
89 ペリクル膜
91 フォトマスク
92 露光パターン
93 ペリクルフレーム
94 通気孔
95 フィルタ
96 マスク粘着層
97 ペリクル膜接着層
98 ペリクル膜
99 ペリクル
100 支持枠
101 ペリクル膜
A 長軸方向中心
B 膜揺れ量の大きい領域(凹)
C 膜揺れ量の大きい領域(凸)
a 引張方向(長軸方向)
b 引張方向(短軸方向)
c 引張方向
d 引張方向に対する直交方向
x ペリクル膜の自重撓み量
y ペリクル膜の頂点(中心)