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特許7553682小麦粉組成物、及び小麦粉二次加工品用ミックス
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  • 特許-小麦粉組成物、及び小麦粉二次加工品用ミックス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】小麦粉組成物、及び小麦粉二次加工品用ミックス
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240910BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20240910BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20240910BHJP
   A21D 13/44 20170101ALI20240910BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L7/109 C
A23L7/109 D
A23L35/00
A21D13/44
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023187508
(22)【出願日】2023-11-01
【審査請求日】2024-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 創
(72)【発明者】
【氏名】大井 雄介
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033362(JP,A)
【文献】特開平09-191842(JP,A)
【文献】特開平10-066529(JP,A)
【文献】特開2009-017871(JP,A)
【文献】特開2023-132881(JP,A)
【文献】特開2023-048512(JP,A)
【文献】小麦について,桜井食品株式会社[online],2023年02月04日,[検索日 2024.05.02], インターネット:<URL:https://web.archive.org/web/20230204030850/https://www.sakuraifoods.com/know/knowledge/wheat.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10 - 35/00
A21D 13/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及び
アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含み、
体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である小麦粉組成物。
【請求項2】
前記アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦が、硬質小麦である請求項1に記載の小麦粉組成物。
【請求項3】
前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの質量比率(小麦粉A:小麦粉B)が、1:1~20である請求項1に記載の小麦粉組成物。
【請求項4】
たん白質含量が、5.5~12質量%である請求項1に記載の小麦粉組成物。
【請求項5】
麺類用である請求項1に記載の小麦粉組成物。
【請求項6】
前記麺類が、加熱調理後に冷蔵及び/又は冷凍される麺類である請求項に記載の小麦粉組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の小麦粉組成物を含む小麦粉二次加工品用ミックス。
【請求項8】
請求項1に記載の小麦粉組成物又は請求項に記載の小麦粉二次加工品用ミックスが用いられた小麦粉二次加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉組成物に関し、特に麺類、ベーカリー製品等の小麦粉二次加工品に用いることで、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させる小麦粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
麺類、ベーカリー製品等の小麦粉二次加工品は、小麦粉を主体として、必要に応じて米粉、そば粉等のその他の穀粉、澱粉類等を含む組成物を用いて製造される。小麦粉二次加工品の課題の一つとして、経時的な食感の低下の抑制、すなわち老化耐性の向上が挙げられる。そこで、従来から、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させる技術開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、食味や風味に影響を与えることなく、ソフトでモチモチした食感を与え、長期間保存しても老化を来たさない麺類を提供することを目的とし、モチ性小麦粉を5~70重量%含有することを特徴とする麺類用穀粉が開示されている。また、特許文献2では、食味や風味に影響を与えることなく、冷蔵又は冷凍保存しても食感が硬化しない麺皮食品を提供することを目的とし、モチ性小麦粉を10~90重量%含有することを特徴とする麺皮用穀粉が開示されている。さらに、特許文献3では、食感が良好であり、特に低温(冷蔵、冷凍)保管に伴う経時劣化耐性を有する麺類を製造可能な麺類用穀粉組成物を提供することを目的とし、小麦粉を含む麺類用穀粉組成物であって、前記小麦粉100質量部中に、もち性小麦粉を10~65質量部、及び、きたほなみ由来の小麦粉を35~90質量部含有する、麺類用穀粉組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-191842号公報
【文献】特開平10-66529号公報
【文献】特開2023-45388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術を用いても、特に加熱調理後に冷凍、及び/冷蔵された小麦二次加工品の場合、老化耐性が十分に得られない場合がある。さらに麺類においては、つるみが十分に得られない場合や、加熱調理後によじれやすくなる場合がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、小麦粉二次加工品に用いることで、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させる小麦粉組成物を提供することにある。特に麺類においては、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制する小麦粉組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の種類の小麦から得られた小麦粉を組み合わせた組成物を調製して検討した結果、所定の小麦から得られた2種の小麦粉を組み合わせることによって、上記課題を解決することができることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A 、及びアミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含み、体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、55%以上である小麦粉組成物、及び本発明の小麦粉組成物を含む小麦粉二次加工品用ミックスによって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させ、特に麺類においては、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制する小麦粉組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例における麺のよじれの抑制の評価基準を説明するための写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[小麦粉組成物]
本発明の小麦粉組成物は、アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びアミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む。本発明の小麦粉組成物を用いることで、老化耐性が向上された小麦粉二次加工品を製造することができる。特に小麦粉二次加工品が麺類である場合は、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれが抑制された麺類を製造することができる。普通小麦は、異質六倍体であり、A、B及びDの3つのゲノムを持つことが知られている。そして、野生型の普通小麦の胚乳澱粉のアミロース合成をつかさどるアミロース合成遺伝子Wx-1は、それぞれのゲノム上に存在し、それぞれWx-A1、Wx-B1及びWx-D1と称されている。本発明において、アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦は、そのWx-A1、Wx-B1及びWx-D1が全て欠失した小麦を意味し、いわゆる「もち性小麦」である。また、アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦は、Wx-A1、Wx-B1及びWx-D1の内、2遺伝子(すなわち、Wx-A1及びWx-B1、又はWx-A1及びWx-D1、又はWx-B1及びWx-D1)が欠失した小麦を意味し、いわゆる「低アミロース小麦」である。なお、本発明におけるアミロース合成遺伝子の欠失は、その遺伝子にコードされている顆粒性澱粉合成酵素の発現や機能が低減又は消失したことをいう。後述の実施例で説明する通り、前記小麦粉A及び前記小麦粉Bの組み合わせることで、初めて上記効果が得られる。
【0012】
前記小麦粉Aが得られるアミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦には、硬質小麦と軟質小麦がある。種子の硬軟質性は、ピュロインドリン-a及びピュロインドリン-bという2種のたん白質の遺伝子の欠失・変異によって決定され、野生型が軟質で、これらの遺伝子の何れか、又は両方に欠失・変異が起きると硬質になることが知られている。本発明において、前記アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦は、硬質小麦、軟質小麦の何れでもよいが、小麦粉二次加工品の老化耐性がより向上するため、硬質小麦であることが好ましい。前記アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦は、具体的には、硬質小麦としては、もち姫、はつもち等が挙げられ、軟質小麦としては、うららもち、もち乙女等が挙げられる。また、前記小麦粉Bが得られるアミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦については、硬質小麦、軟質小麦の何れでもよいが、ピュロインドリン-a及びピュロインドリン-b遺伝子の欠失・変異がない軟質小麦が好ましい。前記アミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦は、具体的には、あやひかり、チクゴイズミ、つるぴかり等が挙げられ、小麦粉二次加工品の老化耐性がより向上し、特に麺類においてはつるみがさらに向上するため、好ましくはあやひかりである。なお、本発明において、小麦品種を示す場合、現存する小麦品種、及びそれらから派生した小麦品種(現存する日本産小麦品種の品種改良で生まれた小麦品種)を含むものとする。
【0013】
本発明の小麦粉組成物において、前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの質量比率(小麦粉A:小麦粉B)は、本発明の効果が得られる範囲であれば、特に制限はない。前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの質量比率(小麦粉A:小麦粉B)は、好ましくは1:1~20であり、より好ましくは1:2~10であり、さらに好ましくは1:2.5~8であり、よりさらに好ましくは1:4~7である。前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの質量比率(小麦粉A:小麦粉B)をこの範囲にすることで小麦粉二次加工品の老化耐性がより向上し、特に麺類では、老化耐性、つるみの向上、加熱調理後のよじれを抑制する効果の総合的な評価において良好な麺類を得ることができる。本発明の小麦粉組成物は、本発明の効果を損なわない限り、前記小麦粉A及び前記小麦粉B以外のその他の小麦粉を含んでいてもよい。本発明の小麦粉組成物に含まれる前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの合計量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。また、本発明の小麦粉組成物は、前記小麦粉A及び前記小麦粉B以外の小麦粉を含まなくてもよい。本発明の小麦粉組成物に含まれるその他の小麦粉としては、アミロース合成遺伝子が野生型である小麦から得られた小麦粉、アミロース合成遺伝子が一重欠失した小麦から得られた小麦粉、二粒系小麦から得られた小麦粉、一粒系小麦から得られた小麦粉例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、セモリナ粉等が挙げられ、より具体的には、ダーク・ノーザン・スプリング(DNS)、ハード・レッド・ウインター(HRW)、No.1カナダ・ウェスタン・レッド・スプリング(1CW)、オーストラリアン・プライム・ハード(APH)、オーストラリアン・ハード(AH)、オーストラリアン・プレミアム・ホワイト(APW)、ゆめちから、春よ恋、デュラム小麦等の硬質小麦から得られた小麦粉や、ウエスタン・ホワイト(WW)、ソフト・レッド・ウインター(SRW)、日本産のきたほなみ、さとのそら、農林61号、軟質のデュラム小麦等の軟質小麦から得られた小麦粉が挙げられる。
【0014】
本発明の小麦粉組成物において、たん白質含量は、本発明の効果が得られる範囲であれば、特に制限はない。前記たん白質含量は、好ましくは5.5~12質量%であり、より好ましくは6~11.5質量%であり、さらに好ましくは6.5~11質量%であり、よりさらに好ましくは7~10質量%、7.5~9.5質量%であってもよい。なお、本発明において、たん白質含有量は、ケルダール法によって、小麦粉組成物(水分14質量%換算)の窒素含有量を定量し、窒素-たん白質換算係数(5.70)を乗じて算出した値である。
【0015】
本発明の小麦粉組成物は、体積基準の粒子径分布において、粒子径50μm以下の粒子の割合が、好ましくは55%以上であり、より好ましくは60~75%であり、より好ましくは63~72%である。また、本発明の小麦粉組成物は、中心粒子径が好ましくは20~35μmであり、より好ましくは22~33μmであり、さらに好ましくは23~31μmである。なお、本発明において、体積基準の粒子径分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置HELOS&RODOS(日本レーザー製)を用いて、フラウンホーファー回折によって体積基準の粒子径分布を得て、50μm以下の粒子径を有する粒子の体積基準の割合を算出する。また、粒子径分布における体積基準での積算分析曲線の50%に相当する粒子径を中心粒子径として算出する。
【0016】
本発明において小麦粉は一般的な方法で製造することができる。例えば、精選した小麦粒を、加水・テンパリング工程を行った後、ブレーキング工程、リダクション工程等を行うことができる。また、ピーリング工程、粉砕工程、分級工程等を、自由に組み合わせて行うことができる。粉砕工程における粉砕方法は特に限定されないが、例えば、石臼、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて粉砕することができる。本発明の小麦粉組成物は、小麦粉A、小麦粉Bを得てから混合してもよく、それぞれの原料小麦を混合してから得られる小麦粉であってもよい。原料小麦で混合した場合の小麦粉Aと小麦粉Bの検出は、Wx遺伝子マーカーを用いて分析することができる。
【0017】
本発明の小麦粉組成物は、種々の小麦粉二次加工品の製造に使用することができる。小麦粉二次加工品としては、例えば、麺類やベーカリー製品などが挙げられる。本発明の麺類とは、中華麺やスパゲッティ、マカロニなどのパスタ類に用いられる麺線や麺帯はもちろん、餃子やしゅうまいなどに用いられる麺皮類を包含する概念である。具体的には、中華麺、焼きそば、うどん、和そば、素麺、冷や麦、冷麺、ビーフン、きしめんなどはもちろん、餃子皮、しゅうまい皮、ワンタン皮、春巻皮などに用いられる麺皮類が挙げられる。
【0018】
本発明の小麦粉組成物を用いて麺類を製造する場合、製造方法は特に限定されず、麺類用生地の調製方法も一般的な調製方法を自由に用いることができる。例えば、本発明の小麦粉組成物や、後述の小麦粉二次加工品用ミックスに、必要に応じて粉体材料、水、塩等を配合して混練し、麺類用生地を調製することができる。また、中華麺用生地を調製する場合には、さらに、かんすい等を配合してもよい。麺生地を調製する際の水の量は、麺類の種類にもよるが、通常は、穀粉類100質量部に対して、水25~50質量部とすることが好ましく、水28~48質量部とすることがより好ましい。
【0019】
製麺方法も特に限定されず、手打ち、手延べ又は手打ち式製麺、圧延式製麺、押出式製麺等の公知の製麺方法を採用することができる。本技術の一つの態様において、麺類用生地は、圧延され、所望の厚さの麺帯とされる。当該圧延は、麺類用生地を圧延ロールに通すことで行われる。次いで、製麺機等を用いて麺帯を切り出して麺線とし、この麺線を所望の長さに切断することにより生麺を得ることができる。また、型抜き機等を用いて麺帯から麺皮を得ることができる。
【0020】
本発明の一つの態様において、麺類用生地を引き伸ばしたり撚ったりして麺線を得てもよく、また、麺類用生地を穴等から押し出して麺類を製造してもよい。一般に、スパゲッティやマカロニ等の麺類は、麺類用生地を押し出して製造することが多い。また本技術においては、機械を用いて製麺してもよく、機械を用いずに手延べや手打ちによって製麺してもよい。
【0021】
本発明に係る麺類の製造方法において、例えば、前記生麺を茹でることによって茹で麺が得られ、蒸すことによって蒸し麺が得られ、調湿乾燥法等により乾燥すれば乾麺が得られる。また、例えば、茹で処理又は蒸し処理を行った後、フライ用バスケットあるいは乾燥用バスケットに一食ずつ成形充填し、フライあるいは高温熱風乾燥処理すれば即席麺が得られる。
【0022】
また、本発明のベーカリー製品とは、パン類、ケーキ、洋菓子類、和菓子類などが挙げられる。パン類としては、食事パン(例えば、食パン、ライ麦パン、フランスパン、乾パン、バラエティブレッド、ロールパン等)、調理パン(例えば、ホットドッグ、ハンバーガー、ピザパイ等)、菓子パン(例えば、ジャムパン、アンパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スイートロール、クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュ、コロネ等)、蒸しパン(例えば、肉まん、中華まん、あんまん等)、特殊パン(例えば、グリッシーニ、イングリッシュマフィン、ナン等)などが挙げられる。ケーキとしては、例えば、蒸しケーキ、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキなどが挙げられる。なお、洋菓子には、シュー、ワッフル、ドーナツ、クレープ、パイ、ビスケット、カステラ、マドレーヌ、クッキー、サブレなども含まれる。また、和菓子には、どら焼、饅頭、たい焼、回転焼などが含まれる。その他に、たこ焼、お好み焼などの和風食品も含まれる。
【0023】
本発明のベーカリー製品の製造方法は、一般的なベーカリー製品の製造方法を自由に選択して用いることができる。具体的には、例えば、前述した本発明の小麦粉組成物、又は後述の小麦粉二次加工品用ミックスを用いて前述したベーカリー製品用生地を製造する工程と、該ベーカリー製品用生地を用いてベーカリー製品を製造する工程と、を少なくとも行うことで、本技術に係るベーカリー製品を製造することができる。ベーカリー製品用生地を用いてベーカリー製品を製造する工程としては、例えば、本技術に係るベーカリー製品用生地を、必要に応じて、一次発酵、分割、成形、二次発酵等を行い、加熱することでベーカリー製品を製造することができる。加熱方法は特に限定されず、焼成、蒸し、油ちょう、マイクロ波加熱等、本技術の効果を損なわない限り、1種又は2種以上の加熱方法を自由に選択して用いることができる。
【0024】
本発明の小麦粉組成物を用いることで、老化耐性が向上された小麦粉二次加工品が得られる。特に、本発明の小麦粉組成物は、麺類の製造に用いることで、つるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制することができるので、麺類用であることが好ましい。また、別の好ましい態様として、本発明の小麦粉組成物を用いて製造された小麦粉二次加工品は、老化耐性が向上されるので、特に老化が問題になる、加熱調理後に冷蔵及び/又は冷凍される小麦粉二次加工品であることが好ましい。
【0025】
[小麦粉二次加工品用ミックス]
本発明の小麦粉二次加工品用ミックスは、本発明の小麦粉組成物を含む。本発明の小麦粉二次加工品用ミックスを用いることで、老化耐性が向上された小麦粉二次加工品を容易に製造することができる。特に前記小麦粉二次加工品が麺類の場合は、つるみを有し、加熱調理後のよじれが抑制された麺類を製造することができる。前記小麦粉二次加工品用ミックスに含まれる麦粉組成物以外のその他の材料は、製造する小麦粉二次加工品の種類に応じて、適宜配合することができる。例えば、米粉、そば粉、大麦粉、ライ麦粉、オーツ麦粉、トウモロコシ粉、大豆粉、緑豆粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、ホワイトソルガム粉等の小麦粉以外の穀粉、これらの穀粉を加熱処理した加熱処理穀粉;コーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉等の澱粉(地上系澱粉)、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉等のような地下茎又は根由来の澱粉(地下系澱粉)、これらのワキシー種、ハイアミロース種の澱粉、及びそれらの澱粉に物理的又は化学的な加工を単独または複数組み合せて施した加工澱粉;グルテン、卵白、卵黄、カゼイン、ホエイ、大豆たん白等のたん白質;バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂;砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール等の糖質;食物繊維;色素;グアガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;アラニン、グリシン、リジン等のアミノ酸;グルタミン酸ナトリウム、食塩等の調味料; その他、香料、かんすい、イースト、ベーキングパウダー、酵素製剤、ビタミンC、乳化剤、イーストフード、アルコール製剤等が挙げられる。好ましくはエステル化及び/又はエーテル化が施された澱粉を含む。
【0026】
本発明の小麦粉二次加工品用ミックスは、本発明の小麦粉組成物を含んでいればよく、その含有量は特に限定されない。好ましくは、小麦粉二次加工品に用いられる穀粉(加熱処理穀粉を含む)及び澱粉(加工澱粉を含む)の合計100質量%当たり、前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの合計量が20質量%以上となるように含有されており、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは35質量%以上である。
本発明の小麦粉二次加工品用ミックスにおいて、たん白質含量は、本発明の効果が得られる範囲であれば、特に制限はない。前記たん白質含量は、好ましくは5.5~12質量%であり、より好ましくは6~11.5質量%であり、さらに好ましくは6.5~11質量%であり、よりさらに好ましくは7~10質量%、7.5~9.5質量%であってもよい。なお、本発明において、小麦粉二次加工品用ミックスのたん白質含有量は、小麦粉組成物のたん白質含有量と同様の方法で測定した値である。
本発明の小麦粉二次加工品用ミックスのその他の好ましい態様は、本発明の小麦粉組成物の場合と同様である。
【0027】
[小麦粉二次加工品]
本発明の小麦粉二次加工品は、本発明の小麦粉組成物又は本発明の小麦粉二次加工品用ミックスが用いられた小麦粉二次加工品である。本発明の小麦粉二次加工品は、老化耐性が向上された小麦粉二次加工品である。特に小麦粉二次加工品が麺類の場合は、つるみを有し、加熱調理後のよじれが抑制された麺類である。本発明の小麦粉二次加工品は、常法に従って製造することができる。本発明の小麦粉二次加工品の好ましい態様は、本発明の小麦粉組成物の場合と同様である。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.小麦粉組成物の調製
表1に示した配合で小麦粉A、小麦粉B、及び/又はその他の小麦粉を混合し、各小麦粉組成物を調製した。各小麦粉組成物の物性として、以下の方法で測定したたん白質含量、及び粒度分布を表1に示す。
<たん白質含量>
各小麦粉組成物(水分14質量%換算)の窒素含有量をケルダール法で測定し、窒素-たん白質換算係数(5.70)を乗じてたん白質含量を算出した。
<粒度分布>
各小麦粉組成物の粒度分布をレーザー回折式の粒度分布測定装置(HELOS&RODOS、日本レーザー)を用いて、フラウンホーファー回折によって測定した。各小麦粉組成物の粒子径50μm以下の粒子の割合は、体積基準分布(頻度分布)から50μm以下の割合を測定し、中心粒子径は、体積基準分布(頻度分布)から累積50%粒子径を求めた。なお、分析条件は、分散圧2bar、測定レンジR4とした。
【0029】
【表1】
【0030】
2.小麦粉二次加工品(麺類(うどん))の調製、評価
2-1.再加熱調理用うどん(冷蔵)の調製
1で調製した各小麦粉組成物を用いて再加熱調理用うどん(冷蔵)を調製した。なお、参考例1は、小麦粉として、アミロース合成遺伝子(Wx-1)が一重欠失した小麦「きたほなみ」由来の小麦粉(フユエゾ、木田製粉株式会社)のみを用いた。具体的には、横型ピンミキサーを用いて、各小麦粉組成物100質量部、塩4質量部、水34質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を調製した。得られた生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角10番)、麺線の厚みが3.0mmの生麺(うどん)を製造した。
2-2.再加熱調理用うどん(冷蔵)の評価
2-1で製造した生麺を、沸騰水中で茹で増重率が160%になるように茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済のうどんを得た。調理済のうどんをゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で72時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱して喫食し、官能評価を行った。なお、官能評価は、訓練を受けた10名の専門パネルによって、弾力、粘り、つるみ、麺のよじれについて、以下の評価基準に基づいて評価した。評価結果は、評価点の平均値を算出した。結果を表2及び表3に示す。
<評価基準>
(1)弾力
5:参考例と比較し弾力が非常にあり、非常に良好
4:参考例と比較し弾力があり、良好
3:参考例と同等の弾力であり、やや良好
2:参考例と比較し弾力がややなく、やや劣る
1:参考例と比較し弾力がなく、劣る
(2)粘り
5:参考例と比較し粘りが非常にあり、非常に良好
4:参考例と比較し粘りがあり、良好
3:参考例と同等の粘りであり、やや良好
2:参考例と比較し粘りがややなく、やや劣る
1:参考例と比較し粘りがなく、劣る
(3)つるみ
5:参考例と比較しつるみが非常にあり、非常に良好
4:参考例と比較しつるみがあり、良好
3:参考例と同等のつるみであり、やや良好
2:参考例と比較しつるみがややなく、やや劣る
1:参考例と比較しつるみがなく、劣る
(4)麺のよじれの抑制(図1参照)
5:麺のよじれがほとんどなく、非常に良好(図1(a)の状態)
4:麺のよじれが少なく、良好
3:麺のよじれがやや少なく、やや良好 (図1(b)の状態)
2:麺のよじれがやや多く、やや劣る
1:麺のよじれが多く、劣る(図1(c)の状態)
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
表2及び表3に示した通り、アミロース合成遺伝子(Wx-1)が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びアミロース合成遺伝子(Wx-1)が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む小麦粉組成物3~10を用いて製造した実施例1~8のうどんは、良好な弾力、粘り、つるみ、及び麺のよじれの抑制を示した。一方、小麦粉Aを含むが、小麦粉Bを含まない小麦粉組成物1を用いた比較例1のうどんは、つるみ、麺のよじれの抑制の評価が低く、小麦粉Bを含むが小麦粉Aを含まない小麦粉組成物2を用いた比較例2のうどんは、弾力の評価が劣り、老化耐性の向上が十分得られなかった。また、小麦粉Aを含み、小麦粉Bの代わりにWx-1が一重欠失した小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物12を用いた比較例3のうどんは、つるみ、よじれの抑制の評価が低く、野生型の硬質小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物15を用いた比較例5のうどんは、粘り、つるみ、麺のよじれの抑制の評価が低く、野生型の軟質小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物16を用いた比較例6のうどんは、全ての評価が低かった。さらに、小麦粉Bを含み、小麦粉Aの代わりにWx-1が一重欠失した小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物14を用いた比較例4のうどんは、弾力、麺のよじれの抑制の評価が低かった。
【0034】
2-3.冷やしうどんの調製
1で調製した各小麦粉組成物を用いて冷やしうどんを調製した。なお、参考例2は、小麦粉として、アミロース合成遺伝子(Wx-1)が一重欠失した小麦「きたほなみ」由来の小麦粉(フユエゾ、木田製粉株式会社)のみを用いた。具体的には、表4に示した配合で、各小麦粉組成物、アセチル化澱粉(SF-800、昭和産業株式会社)、グルテン(Bパウダーグル、昭和産業株式会社)をあらかじめ混合し小麦粉二次加工品用ミックス(麺類用ミックス)を調製した。その後、横型ピンミキサーを用いて、各麺類用ミックス100質量部、塩4質量部、水40質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を調製した。得られた生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角10番)、麺線の厚みが3.0mmの生麺(うどん)を製造した。
2-4.冷やしうどんの評価
2-3で製造した生麺を、沸騰水中で茹で増重率が175%になるように茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済のうどんを得た。調理済のうどん100質量部に市販ほぐし剤(ソヤアップ、不二製油株式会社)を3質量部塗布し、冷蔵で72時間保存した。保存後、冷やしうどんスープをかけ喫食し、官能評価に供した。官能評価は、2-2と同様に評価した。結果を表4に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
表4に示した通り、アミロース合成遺伝子(Wx-1)が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びアミロース合成遺伝子(Wx-1)が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む小麦粉組成物4、5、及び9をそれぞれ含む麺類用ミックスを用いて製造した実施例9、10、及び11のうどんは、良好な弾力、粘り、つるみ、及び麺のよじれの抑制を示した。一方、小麦粉Aを含むが、小麦粉Bを含まない小麦粉組成物1を含む麺類用ミックスを用いた比較例7のうどんは、つるみ、麺のよじれの抑制の評価が低く、小麦粉Bを含むが小麦粉Aを含まない小麦粉組成物2を含む麺類用ミックスを用いた比較例8のうどんは、弾力の評価が劣り、老化耐性の向上が十分得られなかった。また、小麦粉Aを含み、小麦粉Bの代わりにWx-1が一重欠失した小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物12を含む麺類用ミックスを用いた比較例9のうどんは、つるみ、よじれの抑制の評価が低く、野生型の軟質小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物16を含む麺類用ミックスを用いた比較例11のうどんは、弾力、粘り、つるみ、麺のよじれの抑制の評価が低かった。さらに、小麦粉Bを含み、小麦粉Aの代わりにWx-1が一重欠失した小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物14を含む麺類用ミックスを用いた比較例10のうどんは、弾力、麺のよじれの抑制の評価が低かった。
【0037】
2-5.再加熱調理用うどん(冷凍)の調製
1で調製した各小麦粉組成物を用いて再加熱調理用うどん(冷凍)を調製した。なお、参考例3は、小麦粉として、アミロース合成遺伝子(Wx-1)が一重欠失した小麦「きたほなみ」由来の小麦粉(フユエゾ、木田製粉株式会社)のみを用いた。具体的には、表5に示した配合で、各小麦粉組成物、「きたほなみ」由来の小麦粉(フユエゾ、木田製粉株式会社)、アセチル化澱粉(SF-800、昭和産業株式会社)、グルテン(Bパウダーグル、昭和産業株式会社)をあらかじめ混合し小麦粉二次加工品用ミックス(麺類用ミックス)を調製した。各麺類用ミックス100質量部、塩4質量部、水36質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を調製した。得られた生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角10番)、麺線の厚みが3.0mmの生麺(うどん)を製造した。
2-6.再加熱調理用うどん(冷凍)の評価
2-5で製造した生麺を、沸騰水中で茹で増重率が170%になるように茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済のうどんを得た。調理済のうどんを冷凍で48時間保存した後、沸騰水中で1分間茹で、水切りし、うどんスープに入れて喫食し、官能評価に供した。官能評価は、2-2と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0038】
【表5】
【0039】
表5に示した通り、小麦粉A、及び小麦粉Bを含む小麦粉組成物4及び5をそれぞれ含む麺類用ミックスを用いて製造した実施例12及び13のうどんは、良好な弾力、粘り、つるみ、及び麺のよじれの抑制を示した。
以上のことから、Wx-1が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びWx-1が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む小麦粉組成物を含む麺類用ミックスを用いることでも、老化耐性が向上され、つるみを有し、加熱調理後のよじれが抑制されたうどんを製造することができることが示唆された。
【0040】
3.小麦粉二次加工品(麺類(中華麺))の調製、評価
3-1.再加熱調理用中華麺(冷蔵)の調製
1で調製した各小麦粉組成物とアミロース合成遺伝子(Wx-1)が一重欠失した小麦「ゆめちから」由来の小麦粉(ゆめちから元気、木田製粉株式会社)を表6で示した配合で混合し、再加熱調理用中華麺(冷蔵)を調製した。なお、参考例4は、小麦粉として「ゆめちから」由来の小麦粉(ゆめちから元気、木田製粉株式会社)のみを用いた。具体的には、横型ピンミキサーを用いて、各小麦粉組成物と「ゆめちから」由来の小麦粉の合計100質量部、かんすい1質量部、塩1質量部、水32質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を調製した。得られた生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角20番)、麺線の厚みが1.5mmの生麺(中華麺)を製造した。
3-2.再加熱調理用中華麺(冷蔵)の評価
3-1で製造した生麺を、沸騰水中で茹で増重率が160%になるように茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済の中華麺を得た。調理済の中華麺をゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で72時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱し、官能評価に供した。官能評価は、2-2と同様に評価した。結果を表6に示す。
【0041】
【表6】
【0042】
表6に示した通り、小麦粉A、及び小麦粉Bを含む小麦粉組成物4、5、及び9をそれぞれ含む小麦粉組成物を用いて製造した実施例14、15、及び16の中華麺は、良好な弾力、粘り、つるみ、及び麺のよじれの抑制を示した。一方、小麦粉Aを含むが、小麦粉Bを含まない小麦粉組成物1を用いた比較例12の中華麺は、つるみ、麺のよじれの抑制の評価が低く、小麦粉Bを含むが小麦粉Aを含まない小麦粉組成物2を用いた比較例13の中華麺は、弾力の評価が劣り、老化耐性の向上が十分得られなかった。また、小麦粉Aを含み、小麦粉Bの代わりにWx-1が一重欠失した小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物12を用いた比較例14の中華麺は、つるみ、よじれの抑制の評価が低く、野生型の硬質小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物15を用いた比較例16の中華麺は、粘り、つるみ、麺のよじれの抑制の評価が低く、野生型の軟質小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物16を用いた比較例17の中華麺は、全ての評価が低かった。さらに、小麦粉Bを含み、小麦粉Aの代わりにWx-1が一重欠失した小麦から得られた小麦粉組成物14を用いた比較例15の中華麺は、弾力、麺のよじれの抑制の評価が低かった。
【0043】
3-3.冷やし中華の調製
1で調製した各小麦粉組成物とアミロース合成遺伝子(Wx-1)が一重欠失した小麦「ゆめちから」由来の小麦粉(ゆめちから元気、木田製粉株式会社)を用いて冷やし中華を調製した。なお、参考例5は、小麦粉として「ゆめちから」由来の小麦粉(ゆめちから元気、木田製粉株式会社)のみを用いた。具体的には、表7で示した配合で、各小麦粉組成物、「ゆめちから」由来の小麦粉(ゆめちから元気、木田製粉株式会社)、アセチル化澱粉(SF-800、昭和産業株式会社)、グルテン(Bパウダーグル、昭和産業株式会社)をあらかじめ混合し小麦粉二次加工品用ミックス(麺類用ミックス)を調製した。その後、横型ピンミキサーを用いて、各麺類用ミックス100質量部、かんすい1質量部、塩1質量部、水38質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を調製した。得られた生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角20番)、麺線の厚みが1.5mmの生麺(中華麺)を製造した。
3-4.冷やし中華の評価
3-3で製造した生麺を、沸騰水中で茹で増重率が175%になるように茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済の中華麺を得た。調理済の中華麺100質量部に市販ほぐし剤(ソヤアップ、不二製油株式会社)を3質量部塗布し、冷蔵で72時間保存した。保存後、冷やし中華スープをかけ喫食し、官能評価に供した。官能評価は、2-2と同様に評価した。結果を表7に示す。
【0044】
【表7】
【0045】
表7に示した通り、小麦粉A、及び小麦粉Bを含む小麦粉組成物4、5、及び9をそれぞれ含む麺類用ミックスを用いて製造した実施例17、18、及び19の中華麺は、良好な弾力、粘り、つるみ、及び麺のよじれの抑制を示した。一方、小麦粉Aを含むが、小麦粉Bを含まない小麦粉組成物1を含む麺類用ミックスを用いた比較例18の中華麺は、つるみ、麺のよじれの抑制の評価が低く、小麦粉Bを含むが小麦粉Aを含まない小麦粉組成物2を含む麺類用ミックスを用いた比較例19の中華麺は、弾力の評価が劣り、老化耐性の向上が十分得られなかった。また、小麦粉Aを含み、小麦粉Bの代わりにWx-1が一重欠失した小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物11を含む麺類用組成物を用いた比較例20の中華麺は、つるみ、よじれの抑制の評価が低く、野生型の硬質小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物15を含む麺類用ミックスを用いた比較例21の中華麺は、粘り、つるみ、麺のよじれの抑制の評価が低く、野生型の軟質小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉組成物16を含む麺類用ミックスを用いた比較例22の中華麺は、全ての評価が低かった。
以上のことから、Wx-1が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びWx-1が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む小麦粉組成物を用いることで、老化耐性が向上され、つるみを有し、加熱調理後のよじれが抑制された中華麺を製造することができることが示唆された。
【0046】
4.小麦粉二次加工品(麺類(餃子の皮))の調製、評価
4-1.再加熱調理用餃子(冷凍)の調製
1で調製した各小麦粉組成物を用いて再加熱調理用餃子に使う餃子の皮を調製した。なお、参考例6は、小麦粉として、アミロース合成遺伝子(Wx-1)が一重欠失した小麦「きたほなみ」由来の小麦粉(フユエゾ、木田製粉株式会社)のみを用いた。具体的には、表8に示した配合で、各小麦粉組成物、「きたほなみ」由来の小麦粉(フユエゾ、木田製粉株式会社)、アセチル化澱粉(SF-800、昭和産業株式会社)、グルテン(Bパウダーグル、昭和産業株式会社)をあらかじめ混合し小麦粉二次加工品用ミックス(麺類用ミックス)を調製した。その後、横型ピンミキサーを用いて、麺類用ミックス100質量部、塩1質量部、加工油脂(フレンジーM、理研ビタミン株式会社)1質量部、水34質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を調製した。得られた生地を、ロール式製麺機にて圧延してから型でくり抜き、餃子の皮(直径90mm、厚さ1mm)を製造した。
餃子の餡は、豚挽き肉200質量部、ラード30質量部を混合し、ごま油25質量部、醤油25質量部、酒15質量部、おろしニンニク2質量部、おろしショウガ2質量部、及びコショウ少々を加えてさらに混合し、キャベツ400質量部、及び刻んだニラ400質量部を加えて軽く混合して、餡を調製した。上記餃子の皮を用いて、15gの餡を包み、生餃子を製造した。
4-2.再加熱調理用餃子(冷凍)の評価
4-1で製造した生餃子の表面に、澱粉(コーンスターチ、昭和産業株式会社)をまぶして付着させ、蒸し処理(8分)を行い、調理済の餃子を得た。調理済の餃子を冷凍で48時間保存した後、200℃に加熱したフライパンに油をひき、7分間焼き調理し、官能評価に供した。官能評価は、2-2の弾力、粘り、つるみと同様に評価した。結果を表8に示す。
【0047】
【表8】
【0048】
表8に示した通り、小麦粉A、及び小麦粉Bを含む小麦粉組成物4及び5をそれぞれ含む麺類用ミックスを用いて製造した実施例20及び21の餃子の皮は、良好な弾力、粘り、つるみを示した。したがって、Wx-1が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びWx-1が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む小麦粉組成物を用いることで、餃子の皮の場合も、うどん、中華麺の場合と同様な効果が得られることが示唆された。
【0049】
5.小麦粉二次加工品(ベーカリー製品(ホットケーキ))の調製、評価
5-1.再加熱調理用ホットケーキ(冷凍)の調製
1で調製した各小麦粉組成物を用いて再加熱調理用ホットケーキを調製した。なお、参考例7は、小麦粉として「きたほなみ」由来の小麦粉(フユエゾ、木田製粉株式会社)のみを用いた。具体的には、表9に示した配合で、各小麦粉組成物、食塩、膨張剤、グラニュー糖をあらかじめ混合し小麦粉二次加工品用ミックス(ベーカリー製品用ミックス)を調製した。その後、ベーカリー製品用ミックス100質量部、液卵25質量部、水50質量部をボウルに入れ、ホイッパーで40回撹拌して生地を調製した。
5-2.再加熱調理用ホットケーキ(冷凍)の評価
5-1で製造した生地80gを180℃に熱したホットプレートで、3分間焼成し、反転してさらに3分間焼成し、ホットケーキを得た。ホットケーキを冷凍で48時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで1分間加熱し、官能評価に供した。なお、官能評価は、訓練を受けた10名の専門パネルによって、ふんわり感について、以下の評価基準に基づいて評価した。評価結果は、評価点の平均値を算出した。結果を表8に示す。
<評価基準>
(1)ふんわり感
5:参考例と比較しふんわり感が非常にあり、非常に良好
4:参考例と比較しふんわり感があり、良好
3:参考例と同等のふんわり感であり、やや良好
2:参考例と比較しふんわり感がややなく、やや劣る
1:参考例と比較しふんわり感がなく、劣る
【0050】
【表9】
【0051】
表9に示した通り、小麦粉A、及び小麦粉Bを含む小麦粉組成物4及び5をそれぞれ含むベーカリー製品用ミックスを用いて製造した実施例22及び23のホットケーキは、良好なふんわり感を示した。したがって、Wx-1が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びWx-1が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む小麦粉組成物を用いることで、麺類の場合と同様に、ベーカリー製品の場合も、老化耐性が向上されることが示唆された。
【0052】
以上の実施例の結果から、Wx-1が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びWx-1が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む小麦粉組成物、及びそれを含む小麦粉二次加工品用ミックスを用いることで、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させることができ、特に麺類においては、つるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制することができることが示唆された。
【0053】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させ、特に麺類においては、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制する小麦粉組成物を提供することができるので、良好な品質を有する小麦粉二次加工品を容易に製造することができる。


【要約】
【課題】小麦粉二次加工品に用いることで、小麦粉二次加工品の老化耐性を向上させる小麦粉組成物を提供する。特に麺類においては、さらにつるみを有し、加熱調理後のよじれを抑制する小麦粉組成物を提供する。
【解決手段】アミロース合成遺伝子が三重欠失した小麦から得られた小麦粉A、及びアミロース合成遺伝子が二重欠失した小麦から得られた小麦粉Bを含む小麦粉組成物、及び本発明の小麦粉組成物を含む小麦粉二次加工品用ミックス。
【選択図】なし

図1