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特許7553809クランクシャフト、カウンターウェイトの位置設定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】クランクシャフト、カウンターウェイトの位置設定方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/20 20060101AFI20240911BHJP
   F16F 15/26 20060101ALI20240911BHJP
   F02B 77/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
F16C3/20
F16F15/26 D
F02B77/00 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021010809
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2021148290
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020046898
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】古川 俊太
(72)【発明者】
【氏名】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】景山 健太
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 充久
(72)【発明者】
【氏名】船本 浩司
【審査官】沖 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158030(JP,A)
【文献】実開平03-046040(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/20
F16F 15/26
F02B 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受に回転可能に支持される4つのメインジャーナルと、
前記メインジャーナルに対して偏心して配置される3つのクランクピンと、
前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結する6つのクランクショルダーと、
前記メインジャーナルを介して前記クランクショルダーに連なる6つのカウンターウェイトと、
を備え、4つの前記メインジャーナルの中心軸を回転軸として回転可能な直列3気筒エンジン用のクランクシャフトであって、
補機駆動端から順に、4つの前記メインジャーナルは1番~4番メインジャーナルであり、3つの前記クランクピンは1番~3番クランクピンであり、6つの前記クランクショルダーは1番~6番クランクショルダーであり、6つの前記カウンターウェイトは1番~6番カウンターウェイトであり、
前記回転軸の回転方向前側を進角側、回転方向後側を遅角側、
前記2番クランクピンに対応する2番ピストンが上死点から下死点に移動する方向を下方向、
前記回転軸の軸方向から見て、前記回転軸から前記下方向に延在する基準線の位相を基準位置、
前記回転軸の軸方向から見て、前記回転軸と前記3番カウンターウェイトの重心とを結ぶ直線の位相を3番ウェイト位置、
前記回転軸の軸方向から見て、前記回転軸と前記4番カウンターウェイトの重心とを結ぶ直線の位相を4番ウェイト位置として、
前記基準位置に対して、前記3番ウェイト位置は前記進角側に、前記4番ウェイト位置は前記遅角側に、各々設定されることを特徴とするクランクシャフト。
【請求項2】
前記基準位置を0°、前記基準位置に対して前記進角側を+側、前記遅角側を-側として、
前記3番ウェイト位置は19.9°以上24.6°以下の範囲に、前記4番ウェイト位置は-13.7°以上-19.9°以下の範囲に、各々設定される請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項3】
前記2番ピストンが前記下死点から前記上死点に移動する方向を上方向、前記回転軸に直交し前記2番ピストンのストローク方向に延在する軸を垂直軸、前記回転軸および前記垂直軸に直交する方向に延在する軸を水平軸として、
前記2番ピストンが前記上方向に移動する際の、前記2番メインジャーナル、前記3番メインジャーナルの各々に対して、前記上方向成分を含む方向であって、前記回転軸に直交する方向に、作用する並進荷重を算出する並進荷重算出ステップと、
前記2番ピストンが前記上方向に移動する際の、前記2番メインジャーナル、前記3番メインジャーナルの各々に対して、前記水平軸の軸周りに、作用するモーメントを算出するモーメント算出ステップと、
前記2番メインジャーナルに作用する前記並進荷重、前記モーメントが小さくなるように前記3番ウェイト位置を設定し、前記3番メインジャーナルに作用する前記並進荷重、前記モーメントが小さくなるように前記4番ウェイト位置を設定するウェイト位置設定ステップと、
を有する請求項1または請求項2に記載のクランクシャフトのカウンターウェイトの位置設定方法。
【請求項4】
前記ウェイト位置設定ステップにおいて、前記2番メインジャーナルに作用する前記並進荷重、前記モーメントが小さくなるように前記3番カウンターウェイトの質量を設定し、前記3番メインジャーナルに作用する前記並進荷重、前記モーメントが小さくなるように前記4番カウンターウェイトの質量を設定する請求項3に記載のカウンターウェイトの位置設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列3気筒エンジン用のクランクシャフト、および当該クランクシャフトのカウンターウェイトの位置設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、1番~3番気筒を備える直列3気筒エンジン用のクランクシャフトが開示されている。1番気筒用のカウンターウェイトは進角側に、3番気筒用のカウンターウェイトは遅角側に、オフセットされている。1番気筒用のバランスウェイトにおいて、進み側部分は遅れ側部分よりも大径化されている。3番気筒用のバランスウェイトにおいて、遅れ側部分は進み側部分よりも大径化されている。同文献のクランクシャフトによると、2番気筒用の2つのカウンターウェイトを省略することができる。このため、クランクシャフトを軽量化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-247044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直列3気筒エンジン用のクランクシャフトは、4つのメインジャーナル(1番~4番メインジャーナル)を備えている。4つのメインジャーナルは、各々、軸受により回転可能に支持されている。クランクシャフトが回転する際、4つのメインジャーナルと4つの軸受との間には、各々、フリクション(摩擦損失。摩擦によるエネルギ損失)が発生する。
【0005】
ここで、特許文献1に示すような、2番気筒用の2つのカウンターウェイト(3番カウンターウェイト、4番カウンターウェイト)が省略されたクランクシャフトの場合、1番~4番メインジャーナルのうち、中央の2番メインジャーナル、3番メインジャーナルのフリクションが大きくなってしまう。特に、2番気筒内をピストンが上昇する際、2番メインジャーナル、3番メインジャーナルのフリクションが大きくなってしまう。
【0006】
すなわち、2番気筒内をピストンが上昇する際、2番気筒用のクランクピン(2番クランクピン)には、上向きの慣性力(遠心力)が加わる。3番カウンターウェイト、4番カウンターウェイトが省略されているクランクシャフトの場合、当該慣性力の相殺が困難であるため、2番メインジャーナル、3番メインジャーナルのフリクションが大きくなってしまう。そこで、本発明は、3番カウンターウェイト、4番カウンターウェイトが配置されていないクランクシャフトに対して、2番メインジャーナル、3番メインジャーナルのフリクションを低減可能なクランクシャフトを提供することを目的とする。また、本発明は、当該クランクシャフトのカウンターウェイトの位置設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のクランクシャフトは、軸受に回転可能に支持される4つのメインジャーナルと、前記メインジャーナルに対して偏心して配置される3つのクランクピンと、前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結する6つのクランクショルダーと、前記メインジャーナルを介して前記クランクショルダーに連なる6つのカウンターウェイトと、を備え、4つの前記メインジャーナルの中心軸を回転軸として回転可能な直列3気筒エンジン用のクランクシャフトであって、補機駆動端から順に、4つの前記メインジャーナルは1番~4番メインジャーナルであり、3つの前記クランクピンは1番~3番クランクピンであり、6つの前記クランクショルダーは1番~6番クランクショルダーであり、6つの前記カウンターウェイトは1番~6番カウンターウェイトであり、前記回転軸の回転方向前側を進角側、回転方向後側を遅角側、前記2番クランクピンに対応する2番ピストンが上死点から下死点に移動する方向を下方向、前記回転軸の軸方向から見て、前記回転軸から前記下方向に延在する基準線の位相を基準位置、前記回転軸の軸方向から見て、前記回転軸と前記3番カウンターウェイトの重心とを結ぶ直線の位相を3番ウェイト位置、前記回転軸の軸方向から見て、前記回転軸と前記4番カウンターウェイトの重心とを結ぶ直線の位相を4番ウェイト位置として、前記基準位置に対して、前記3番ウェイト位置は前記進角側に、前記4番ウェイト位置は前記遅角側に、各々設定されることを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のカウンターウェイトの位置設定方法は、前記2番ピストンが前記下死点から前記上死点に移動する方向を上方向として、前記2番ピストンが前記上方向に移動する際の、前記2番メインジャーナル、前記3番メインジャーナルの各々に作用する並進荷重を算出する並進荷重算出ステップと、前記2番ピストンが前記上方向に移動する際の、前記2番メインジャーナル、前記3番メインジャーナルの各々に作用するモーメントを算出するモーメント算出ステップと、前記2番メインジャーナルに作用する前記並進荷重、前記モーメントが小さくなるように前記3番ウェイト位置を設定し、前記3番メインジャーナルに作用する前記並進荷重、前記モーメントが小さくなるように前記4番ウェイト位置を設定するウェイト位置設定ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクランクシャフト、カウンターウェイトの位置設定方法によると、3番ウェイト位置は、基準位置よりも進角側に設定されている。このため、3番カウンターウェイトが配置されていないクランクシャフトに対して、2番メインジャーナルに作用する並進荷重、モーメントを小さくすることができる。したがって、2番メインジャーナルのフリクションを低減させることができる。
【0010】
また、4番ウェイト位置は、基準位置よりも遅角側に設定されている。このため、4番カウンターウェイトが配置されていないクランクシャフトに対して、3番メインジャーナルに作用する並進荷重、モーメントを小さくすることができる。したがって、3番メインジャーナルのフリクションを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態のクランクシャフトの斜視図である。
図2図2は、同クランクシャフトの右面図である。
図3図3は、図2のIII-III方向断面図である。
図4図4は、図2のIV-IV方向断面図である。
図5図5は、図2の枠V内の拡大図である。
図6図6(A)は、比較例1の上下方向断面図である。図6(B)は、比較例2~4の上下方向断面図である。
図7図7(A)は、実施例1~3、比較例1~4の質量変化量と質量効率との関係を示すグラフである。図7(B)は、実施例1~3、比較例1~4の質量変化量とフリクション低減率との関係を示すグラフである。
図8図8は、実施例1~3、比較例1の質量変化量と水平方向のNV低減率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のクランクシャフト、カウンターウェイトの位置設定方法の実施の形態について説明する。
【0013】
(クランクシャフトの構成)
まず、本実施形態のクランクシャフトの構成について説明する。図1に、本実施形態のクランクシャフトの斜視図を示す。図2に、同クランクシャフトの右面図を示す。図1図2に示すように、クランクシャフト1は、直列3気筒エンジン用である。クランクシャフト1は、4つのメインジャーナル2a~2dと、3つのクランクピン3a~3cと、6つのクランクショルダー4a~4fと、6つのカウンターウェイト5a~5fと、フランジ6と、を備えている。なお、図1前端の位相図においては、クランクピン3a~3cを白丸で、カウンターウェイト5a~5fを黒丸で、各々示す。
【0014】
クランクシャフト1の前端(補機駆動端)には、クランクプーリー(図略)が取り付けられている。クランクシャフト1の後端のフランジ6には、フライホイール(図略)が取り付けられている。
【0015】
4つのメインジャーナル2a~2dは、前後方向(軸方向)に一列に並んでいる。メインジャーナル2a~2dの中心軸は、クランクシャフト1の回転軸Xである。回転軸Xは、前後方向に延在している。軸受90は、いわゆるすべり軸受であり、シリンダーブロック(図略)に取り付けられている。メインジャーナル2a~2dは、各々、油膜を介して、軸受90により、回転軸Xの軸周りに回転可能に支持されている。
【0016】
3つのクランクピン3a~3cは、4つのメインジャーナル2a~2dに対して、径方向(回転軸Xを基準とする径方向)に偏心して配置されている。3つのクランクピン3a~3cは、互いに120°ずつ、ずれて配置されている。
【0017】
クランクピン3a~3dには、コンロッド(図略)を介して、各々ピストン(図略)が取り付けられている。ピストン(図略)は、気筒(図略)内を上下方向(上死点と下死点とを結ぶ方向)に往復動可能である。
【0018】
6つのクランクショルダー4a~4fは、各々、メインジャーナル2a~2dとクランクピン3a~3cとを径方向に連結している。6つのカウンターウェイト5a~5fは、回転軸Xを介して、クランクショルダー4a~4fに連なっている。
【0019】
以下、適宜、前側から後側に向かって、4つのメインジャーナル2a~2dを1番~4番メインジャーナル2a~2dと、3つのクランクピン3a~3cを1番~3番クランクピン3a~3cと、6つのクランクショルダー4a~4fを1番~6番クランクショルダー4a~4fと、6つのカウンターウェイト5a~5fを1番~6番カウンターウェイト5a~5fと、3つのピストンを1番~3番ピストンと、各々称する。
【0020】
(1番~6番カウンターウェイトの位置)
次に、1番~6番カウンターウェイト5a~5fの位置(位相、周方向位置)、形状について説明する。1番カウンターウェイト5aと2番カウンターウェイト5bとは、回転軸Xを基準に、互いに同位置に配置されている。同様に、5番カウンターウェイト5eと6番カウンターウェイト5fとは、回転軸Xを基準に、互いに同位置に配置されている。後述する基準位置Bと、5番カウンターウェイト5eおよび6番カウンターウェイト5fと、1番カウンターウェイト5aおよび2番カウンターウェイト5bと、は回転軸Xを基準に互いに120°ずつ離間して配置されている。1番カウンターウェイト5a、2番カウンターウェイト5b、5番カウンターウェイト5e、6番カウンターウェイト5fは、各々、扇形状を呈している。
【0021】
図3に、図2のIII-III方向断面図を示す。図4に、図2のIV-IV方向断面図を示す。なお、図3においては、軸受90を省略して示す。図1図3図4に示すように、3番カウンターウェイト5cと4番カウンターウェイト5dとは、回転軸Xを基準に、互いに異なる位置に配置されている。
【0022】
図3図4に示すように、回転軸Xの回転方向前側(紙面、時計回り方向)を進角側、回転方向後側(紙面、反時計回り方向)を遅角側とする。また、前側(回転軸Xの軸方向)から見て、回転軸Xから下方向に延在する基準線の位相を基準位置B、回転軸Xと3番カウンターウェイト5cの重心(本実施形態の場合は周方向中心)とを結ぶ直線の位相を3番ウェイト位置C、回転軸Xと4番カウンターウェイト5dの重心とを結ぶ直線の位相を4番ウェイト位置Dとする。
【0023】
図3に示すように、基準位置Bに対して、3番ウェイト位置Cは進角側にずれて配置されている。また、図4に示すように、基準位置Bに対して、4番ウェイト位置Dは遅角側にずれて配置されている。ここで、基準位置Bを0°、基準位置Bに対して進角側を+側、遅角側を-側とする。3番ウェイト位置Cは、19.9°以上24.6°以下の範囲に含まれる位置に、設定されている。4番ウェイト位置Dは-13.7°以上-19.9°以下の範囲に含まれる位置に、設定されている。すなわち、3番カウンターウェイト5cと4番カウンターウェイト5dとは、周方向(回転方向)にオフセットされている。3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dは、各々、扇形状を呈している。
【0024】
(カウンターウェイトの位置設定方法)
次に、本実施形態のカウンターウェイトの位置設定方法について説明する。カウンターウェイトの位置設定方法においては、3番ウェイト位置C、4番ウェイト位置Dを設定する。また、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dの質量、形状を設定する。カウンターウェイトの位置設定方法は、並進荷重算出ステップと、モーメント算出ステップと、ウェイト位置設定ステップと、を有している。カウンターウェイトの位置設定方法は、CAE(Computer Aided Engineering)解析により実行される。図5に、図2の枠V内の拡大図を示す。
【0025】
並進荷重算出ステップにおいては、2番クランクピン3bが上昇する際(詳しくは、2番クランクピン3bに対応する2番ピストンが、下死点から上死点に移動する際であって、上死点の直近に位置する際)の、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cの各々に作用する並進荷重Fb、Fcを算出する。
【0026】
すなわち、3番メインジャーナル2cには、前側に隣接する2番クランクピン3b、4番カウンターウェイト5d、後側に隣接する3番クランクピン3c、5番カウンターウェイト5eから、各々慣性力(遠心力)が加わる。これらの慣性力の合成慣性力が、並進荷重Fcである。並進荷重Fcは、3番メインジャーナル2cに対して、上方向(詳しくは、上方向成分を含む方向であって、回転軸Xに直交する方向)に作用する。同様に、2番メインジャーナル2bには、上方向の並進荷重Fbが加わる。本ステップにおいては、並進荷重Fb、Fcを算出する。
【0027】
モーメント算出ステップにおいては、2番クランクピン3bが上昇する際の、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cの各々に作用するモーメントMb、Mcを算出する。図1に示すように、回転軸Xに直交し上下方向(2番ピストンのストローク方向)に延在する軸を垂直軸Z、回転軸Xおよび垂直軸Zに直交し左右方向に延在する軸を水平軸Yとする。図1図5に示すように、2番クランクピン3b上昇時において、3番メインジャーナル2cには、水平軸Yの軸周りに、右側から見て時計回り方向(2番クランクピン3bに向かって上昇する方向)に、モーメントMcが加わる。同様に、2番メインジャーナル2bには、水平軸Yの軸周りに、右側から見て反時計回り方向(2番クランクピン3bに向かって上昇する方向)に、モーメントMbが加わる。本ステップにおいては、モーメントMb、Mcを算出する。
【0028】
ウェイト位置設定ステップにおいては、図3に示す3番ウェイト位置C、図4に示す4番ウェイト位置Dを設定する。また、3番カウンターウェイト5cの質量、形状、4番カウンターウェイト5dの質量、形状を設定する。具体的には、3番ウェイト位置C、3番カウンターウェイト5cの質量、形状を調整することにより、図5に示す2番メインジャーナル2bに作用する並進荷重Fb、モーメントMbの方向、大きさを調整する。並進荷重Fb、モーメントMbが総合的に小さくなるように、3番ウェイト位置C、3番カウンターウェイト5cの質量、形状を設定する。同様に、4番ウェイト位置D、4番カウンターウェイト5dの質量、形状を調整することにより、図5に示す3番メインジャーナル2cに作用する並進荷重Fc、モーメントMcの方向、大きさを調整する。並進荷重Fc、モーメントMcが総合的に小さくなるように、4番ウェイト位置D、4番カウンターウェイト5dの質量、形状を設定する。以上説明したカウンターウェイトの位置設定方法に基づいて、3番ウェイト位置C、3番カウンターウェイト5cの質量、形状、4番ウェイト位置D、4番カウンターウェイト5dの質量、形状は設定されている。
【0029】
(作用効果)
次に、本実施形態のクランクシャフト、カウンターウェイトの位置設定方法の作用効果について説明する。図3に示すように、3番ウェイト位置Cは、基準位置Bよりも進角側に設定されている。このため、3番カウンターウェイト5cが配置されていないクランクシャフトに対して、図5に示す2番メインジャーナル2bに作用する並進荷重Fb、モーメントMbを小さくすることができる。したがって、2番メインジャーナル2bのフリクションを低減させることができる。
【0030】
また、図4に示すように、4番ウェイト位置Dは、基準位置Bよりも遅角側に設定されている。このため、4番カウンターウェイト5dが配置されていないクランクシャフトに対して、図5に示す3番メインジャーナル2cに作用する並進荷重Fc、モーメントMcを小さくすることができる。したがって、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができる。
【0031】
また、後述するCAE解析から明らかなように、本実施形態のクランクシャフト(基準位置Bに対して、3番ウェイト位置Cが進角側に、4番ウェイト位置Dが遅角側に、各々設定されているクランクシャフト)1によると、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dが共に基準位置B(同位相)に設定されているクランクシャフトに対して、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができる。このため、全てのメインジャーナル2a~2dのフリクションの合計値を低減させることができる。
【0032】
図3に示す3番ウェイト位置Cは、19.9°以上24.6°以下の範囲に、設定されている。このため、2番メインジャーナル2bに作用する並進荷重Fb、モーメントMbを、さらに小さくすることができる。ただし、3番ウェイト位置Cが19.9°未満、24.6°超過の場合であっても、従来のクランクシャフト(3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dを備えないクランクシャフト、長方形状の3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dが同位置(同位相)に設定されているクランクシャフト)に対して、2番メインジャーナル2bに作用する並進荷重Fb、モーメントMbを小さくすることができる。
【0033】
図4に示す4番ウェイト位置Dは、-13.7°以上-19.9°以下の範囲に、設定されている。このため、3番メインジャーナル2cに作用する並進荷重Fc、モーメントMcを、さらに小さくすることができる。ただし、4番ウェイト位置Dが-13.7°未満、-19.9°超過の場合であっても、従来のクランクシャフトに対して、3番メインジャーナル2cに作用する並進荷重Fc、モーメントMcを小さくすることができる。
【0034】
また、図3図4に示すように、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dは、扇形状を呈している。このため、本実施形態のカウンターウェイトは、従来のクランクシャフト(長方形状の3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dが同位置(同位相)に設定されているクランクシャフト)に対して、質量効率(クランクシャフト1の質量1グラムあたりのフリクション低減率)が高い。したがって、クランクシャフト1を軽量化しながら、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができる。
【0035】
本実施形態のカウンターウェイトの位置設定方法は、並進荷重算出ステップと、モーメント算出ステップと、ウェイト位置設定ステップと、を有している。このため、並進荷重Fb、モーメントMb、つまり2番メインジャーナル2bのフリクションが小さくなるように、3番ウェイト位置C、3番カウンターウェイト5cの質量、形状を設定することができる。同様に、並進荷重Fc、モーメントMc、つまり3番メインジャーナル2cのフリクションが小さくなるように、4番ウェイト位置D、4番カウンターウェイト5dの質量、形状を設定することができる。
【0036】
また、本実施形態のカウンターウェイトの位置設定方法によると、従来のクランクシャフト(3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dを備えないクランクシャフト)に対して、クランクシャフト1の質量増加を抑制しつつ、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができる。
【0037】
また、本実施形態のカウンターウェイトの位置設定方法によると、従来のクランクシャフト(長方形状の3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dが同位置(同位相)に設定されているクランクシャフト)に対して、クランクシャフト1を軽量化しながら、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができる。
【0038】
(その他)
以上、本発明のクランクシャフト、カウンターウェイトの位置設定方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0039】
図3に示す3番ウェイト位置C(3番カウンターウェイト5cの重心の位置)と3番カウンターウェイト5cの周方向中心とは、一致していても異なっていてもよい。例えば、軽量化のために3番カウンターウェイト5cに減肉部(孔など)が設定される場合、重心と周方向中心とが異なる場合がある。図4に示す4番ウェイト位置Dについても同様である。
【0040】
3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dの形状は特に限定しない。扇形状、長方形状などであってもよい。3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dの形状が扇形状である場合、長方形状である場合と比較して、質量効率が高くなる。このため、クランクシャフト1を軽量化しながら、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができる。ただし、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dの形状が長方形状であっても、基準位置Bに対して、3番ウェイト位置Cを進角側に、4番ウェイト位置Dを遅角側に、各々設定することにより、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができる。その他のカウンターウェイト5a、5b、5e、5fの形状、位置(位相)は特に限定しない。クランクシャフト1の回転バランスが取れる形状、位置であればよい。
【0041】
カウンターウェイトの位置設定方法における、並進荷重算出ステップとモーメント算出ステップとの先後関係は特に限定しない。並進荷重算出ステップの前にモーメント算出ステップを行ってもよい。並進荷重算出ステップとモーメント算出ステップとを並行して行ってもよい。
【0042】
2番ピストンのストローク方向(図2における上下方向)は特に限定しない。垂直方向でも、水平方向でも、垂直方向および水平方向に対して交差する方向であってもよい。エンジンと電池(二次電池、燃料電池など)とを併用してもよい。エンジンの駆動対象物は、自動車、バイクなどであってもよい。
【実施例
【0043】
以下、本発明のクランクシャフトのフリクション低減効果、水平方向のNV(Noise Vibration)低減効果を検証するためのCAE解析について説明する。フリクション低減効果の解析においては、実施例1~3、比較例1~4の合計七つのモデルを用いた。水平方向のNV低減効果の解析においては、実施例1~3、比較例1の合計四つのモデルを用いた。
【0044】
まず、実施例1~3、比較例1~4の形状について説明する。図6(A)に、比較例1の上下方向断面図を示す。図6(B)に、比較例2~4の上下方向断面図を示す。なお、図6(A)、図6(B)の断面位置は、図3に対応している。図6(A)、図6(B)において、図3と対応する部位については同じ符号で示す。
【0045】
実施例1~3は、図1図2に示すクランクシャフト1である。図6(A)に示すように、比較例1は、図1図2に示すクランクシャフト1から、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dを省略したクランクシャフト1である。図6(B)に示すように、比較例2~4は、図1図2に示すクランクシャフト1において、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dを扇形状から長方形状(カウンターウェイトの周方向両縁が上下方向に直線状に延在する形状)に変更したクランクシャフト1である。また、比較例2~4は、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dを同位置(同位相)に配置したクランクシャフト1である。すなわち、3番ウェイト位置C、4番ウェイト位置Dは、基準位置Bと一致している。表1に、実施例1~3、比較例1~4の仕様を示す。
【表1】
【0046】
表1中、「CW」は「カウンターウェイト」を示す。表1に示すように、比較例1を基準に、比較例2は1600g、比較例3は1200g、比較例4は800g、各々質量が増加している。同様に、比較例1を基準に、実施例1は1600g、実施例2は1200g、実施例3は800g、各々質量が増加している。
【0047】
実施例1~3、比較例2~4の質量変化量は、主に、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dの質量変化によるものである。ただし、3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dの質量変化に伴い、クランクシャフト1の回転バランスが崩れる場合は、回転バランスを取るために、適宜、1番カウンターウェイト5a、2番カウンターウェイト5b、5番カウンターウェイト5e、6番カウンターウェイト5fの質量も変化させている。
【0048】
次に、フリクション低減効果の解析結果について説明する。フリクション低減効果は、フリクション低減率により評価した。図7(A)に、実施例1~3、比較例1~4の質量変化量と質量効率との関係を示す。縦軸の質量効率は、クランクシャフト1の質量1グラムあたりの、比較例1に対するフリクション低減率である。当該フリクション低減率は、全てのメインジャーナル2a~2dのフリクション低減率の合計値である。質量効率は、比較例1の質量効率を100%とした場合の、比較例1に対する質量効率の変化量である。横軸の質量変化量は、比較例1に対するクランクシャフトの質量変化量(質量増加量)である。
【0049】
図7(A)に示すように、比較例1に対して、実施例1~3、比較例2~4は、いずれも質量効率が高くなっている。また、比較例1に対する質量変化量が小さいほど、質量効率は高くなっている。また、実施例1~3、比較例2~4に着目して、質量が同じクランクシャフト1同士を比較すると、実施例1は比較例2よりも、実施例2は比較例3よりも、実施例3は比較例4よりも、各々質量効率が高くなっている。
【0050】
図7(B)に、実施例1~3、比較例1~4の質量変化量とフリクション低減率との関係を示す。縦軸のフリクション低減率は、比較例1のフリクション低減率を100%とした場合の、比較例1に対するフリクション低減率の変化量である。当該フリクション低減率は、全てのメインジャーナル2a~2dのフリクション低減率の合計値である。横軸の質量変化量は、図7(A)同様である。
【0051】
図7(B)に示すように、比較例1に対して、実施例1~3、比較例2~4は、いずれもフリクション低減率が高くなっている。また、比較例1に対する質量変化量が大きいほど、フリクション低減率は高くなっている。また、実施例1~3、比較例2~4に着目して、質量が同じクランクシャフト1同士を比較すると、実施例1は比較例2よりも、実施例2は比較例3よりも、実施例3は比較例4よりも、各々フリクション低減率が高くなっている。
【0052】
以上まとめると、図6(A)に示す比較例1(3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dを省略したクランクシャフト1)に対して、実施例1~3によると、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができるため、全てのメインジャーナル2a~2dのフリクションの合計値を低減させることができる。
【0053】
また、図6(B)に示す比較例2~4(3番カウンターウェイト5c、4番カウンターウェイト5dが長方形状であって同位相のクランクシャフト1)に対して、実施例1~3によると、質量が同じクランクシャフト1同士を比較する場合、2番メインジャーナル2b、3番メインジャーナル2cのフリクションを低減させることができるため、全てのメインジャーナル2a~2dのフリクションの合計値を低減させることができる。すなわち、より高い質量効率でフリクションを低減させることができる。
【0054】
次に、水平方向のNV低減効果の解析結果について説明する。水平方向のNV低減効果は、水平方向のNV低減率(以下、適宜、「NV低減率」と略称する)により評価した。なお、「水平方向」は、図1に示す水平軸Yの延在方向(左右方向)に対応している。すなわち、「水平方向」とは、シリンダーブロックの底面に対して平行であって、回転軸Xの延在方向(クランクシャフト1の延在方向)に対して垂直の方向である。
【0055】
実施例1~3、比較例1のNV低減率は、各々、以下の手順で取得した。クランクシャフト1の回転数(エンジン回転数)は2800rpm(rotation per minute)とした。また、3つの気筒の筒内圧は、各々10MPaとした。まず、Th側(スラスト側。図1に示す左側。ピストンが上死点通過後に、ピストン外周面から気筒内周面に、側圧が加わる側)、ATh側(反スラスト側。図1に示す右側。水平方向においてTh側の反対側)における、シリンダーブロックのボトムレールの各メインジャーナル2a~2d付近の水平方向の加速度(以下、適宜、「加速度」と略称する)を出力した。すなわち、合計8箇所(Th側4箇所、ATh側4箇所)の加速度を出力した。
【0056】
次に、8箇所の加速度(詳しくは、各メインジャーナル2a~2dの1回転(1周期)分の加速度波形)各々の2乗平均値の平方根つまり実効値を算出した。続いて、8箇所の実効値の平均値を算出した。このようにして、実施例1~3、比較例1の各々について、実効値の平均値を算出した。
【0057】
それから、実施例1~3、比較例1各々のNV低減率を算出した。具体的には、基準となる比較例1の実効値の平均値をAav0、実施例1の実効値の平均値をAav1、実施例2の実効値の平均値をAav2、実施例3の実効値の平均値をAav3として、以下の式(1)により、実施例1のNV低減率を算出した。
NV低減率={1-(Aav1/Aav0)}×100 ・・・式(1)
【0058】
比較例1のNV低減率は式(1)のAav1にAav0を、実施例2のNV低減率は式(1)のAav1にAav2を、実施例3のNV低減率は式(1)のAav1にAav3を、各々代入することにより算出した。
【0059】
図8に、実施例1~3、比較例1の質量変化量と水平方向のNV低減率との関係を示す。縦軸のNV低減率は、比較例1のNV低減率を100%とした場合の、比較例1に対するNV低減率の変化量である。横軸の質量変化量は、図7(A)、図7(B)同様である。図8に示すように、比較例1に対して、実施例1~3は、いずれもNV低減率が高くなっている。また、比較例1に対する質量変化量が大きいほど、NV低減率は高くなっている。
【符号の説明】
【0060】
1:クランクシャフト、2a~2d:1番~4番メインジャーナル、3a~3c:1番~3番クランクピン、4a~4f:1番~4番クランクショルダー、5a~5f:1番~4番カウンターウェイト、6:フランジ、B:基準位置、C:3番ウェイト位置、D:4番ウェイト位置、Fb:並進荷重、Fc:並進荷重、Mb:モーメント、Mc:モーメント、X:回転軸、Y:水平軸、Z:垂直軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8