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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】癌患者筋肉量減少抑制組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/23 20060101AFI20240911BHJP
   A61K 31/70 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240911BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240911BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
A61K31/23
A61K31/70
A61K38/02
A61P3/02
A61P35/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018003185
(22)【出願日】2018-01-12
(65)【公開番号】P2019123672
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】芦田 欣也
(72)【発明者】
【氏名】殿内 秀和
(72)【発明者】
【氏名】笹山 秋菜
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】山村 祥子
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038101(WO,A1)
【文献】Cancer and Metabolism, (2014) Vol.2, No.18, p.1-19
【文献】Asian Pacific Journal of Cancer Prevention、(2015)、Vol.16, No.5、pp.2061-2068
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L33/00
Caplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質として長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質を有効成分とし、
前記脂質として前記長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの両方を含有し、
前記長鎖脂肪酸トリグリセリドの重量に対する前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの重量の比は0.7以上2.0以下の範囲内であり、
前記タンパク質と前記糖質の合計重量に対する前記脂質の重量の割合(ケトン比)が2.5以上3.5以下の範囲内である
癌患者筋肉量減少抑制組成物。
【請求項2】
癌患者の筋肉量の減少速度を緩和する組成物である
請求項1に記載の癌患者筋肉量減少抑制組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌患者の筋肉量の減少を抑制する組成物、癌患者の筋肉量の減少速度を緩和する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌患者の多くは栄養不良に陥りがちであり、そのため、癌患者の60~80%に栄養不良による筋肉の減少が認められている。癌患者の筋肉の減少は、癌患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下や治療コンプライアンスの悪化の原因になっており、臨床で問題視されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
癌に伴う筋肉の減少は腫瘍の進行を抑制しない限り悪化し続け、さらに抗癌剤や放射線等の癌治療が原因で栄養状態が悪化することもある(例えば、非特許文献2参照)。しかも、癌患者の体重や筋肉量が一定値を下回ってしまうと、その癌患者は抗癌剤治療を受けることができなくなってしまうおそれがある。そのため、栄養状態を維持して、体重や筋肉を減少させることなく、腫瘍を縮小させるような治療が望まれる(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
近年、薬物治療などの既存の癌治療に加えて、栄養療法、非薬物治療を組み合わせるような集学的治療が提供されており、癌に対する単独療法よりも有用である可能性が示されている。例えば、癌患者は、エイコサペンタエン酸(EPA)等を含む経口栄養補助食品等を積極的に経口摂取して自身の体重や筋肉量の減少を抑制するように努めていることが知られている(例えば、非特許文献4参照)。また、特表2013-508411号公報(特許文献1)には、癌の増殖または癌の症状を軽減する方法として、癌患者に、通常摂取するカロリーの最大50%を与え、そのうち少なくとも50%のカロリーは脂肪から得るステップと、その患者に、次の所定期間、最大500kcal/日を与えるステップを含む方法が記載されている。さらに、国際公開第2017/038101号(特許文献2)には、高脂肪食を含む、がんを処置するための組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-508411号公報
【文献】国際公開第2017/038101号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Prado CM, et al.、「The Lancet Oncology」、2008、9(7)、p.629-635
【文献】Nakamura K, et al.、「Nutrition and cancer」、2015、67(6)、p.912-920
【文献】Beck SA, et al.、「Br J Cancer」、1989、59(5)、p.677-681
【文献】比企直樹、「もっと知ってほしいがんと栄養のこと」、[online]、[平成29年12月18日検索]、インターネット〈URL:http://www.cancernet.jp/seikatsu/eiyou/〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、癌患者の栄養状態を維持して、癌患者の筋肉の減少を抑制し、癌患者の生命予後の延長や、QOLの向上に有用な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、例えば、高脂肪低炭水化物組成物などであって、脂質として長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質を有効成分とする。なお、この癌患者筋肉量減少抑制組成物は、タンパク質、長鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリドおよび糖質を含有し、それらを有効成分するのが好ましい。なお、ここで「癌患者筋肉量減少抑制組成物」は、文字通り、癌患者の筋肉量の減少を抑制する組成物であり、癌治療における食事的支援を提供するものである。また、ここで、癌患者筋肉量減少抑制組成物は、タンパク質、長鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリドおよび糖質を主成分として含有してもよいし、タンパク質、長鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリドおよび糖質のみから構成されていてもよい。また、ここにいう「組成物」には、流動食、サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が含まれる。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上述の癌患者筋肉量減少抑制組成物が、癌に伴う筋肉減少を抑制する効果を有することを見出した。具体的には、結腸癌細胞株を移植したマウスに対して、本発明に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物を摂取させたところ、同組成物を摂取させていないマウスと比較して、癌の進展に伴う筋肉の減少が抑制されることを見出した。すなわち、この癌患者筋肉量減少抑制組成物は「癌患者の筋肉量の減少速度を緩和する組成物」と称することもできる。このため、上述の癌患者筋肉量減少抑制組成物は、癌患者の筋肉量の減少を抑制する効果を有する。
【0010】
なお、上述の癌患者筋肉量減少抑制組成物において、タンパク質と糖質の合計重量に対する脂質の重量の割合(以下、「ケトン比」という。)の下限は、特に制限はされないが、好ましくは0.1、より好ましくは1.0、さらに好ましくは2.0、特に好ましくは2.5である。また、その上限は、特に制限はされないが、好ましくは6.0、より好ましくは5.5、さらに好ましくは5.0、特に好ましくは3.5である。
【0011】
また、上述の通り、癌患者筋肉量減少抑制組成物には、脂質として長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリドが含まれることが好ましい。なお、脂肪酸トリグリセリドは、主として長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリドからなっていてもよいし、長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリドのみからなっていてもよい。また、この癌患者筋肉量減少抑制組成物において長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの両方が含まれている場合、長鎖脂肪酸トリグリセリドの重量に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの重量の比の下限は、特に制限はされないが、好ましくは0.1、より好ましくは0.3、さらに好ましくは0.5、特に好ましくは0.7である。また、その上限は、好ましくは2.0、より好ましくは1.8、さらに好ましくは1.3、特に好ましくは0.9である。
【0012】
なお、上述の発明は、「脂質として長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質を含有する組成物を癌患者筋肉量減少抑制組成物として使用する方法」、「癌患者筋肉量減少抑制組成物としての使用のための長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質を含有する組成物」、「脂質として長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質を含有する組成物を癌患者に投与して癌患者の筋肉量の減少を抑制する方法」、「脂質として長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質を含有する組成物を癌患者に投与して癌患者の筋肉量の減少速度を緩和する方法」とも表現することができる。また、別の観点から「癌患者の筋肉量の減少を抑制させるための組成物の製造のための長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質の使用」、「癌患者の筋肉量の減少速度を緩和させるための組成物の製造のための長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質の使用」とも表現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上述の癌患者筋肉量減少抑制組成物が、癌患者の筋肉量の減少を有効に抑制することができることが明らかとされた。このため、癌に罹患したヒト等の動物が癌患者筋肉量減少抑制組成物を継続して摂取することで、癌患者は自身の筋肉量の減少を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における正常群の正常マウス、担癌対照群の担癌マウスおよびKF群の担癌マウスの21日経過後の体重を示す棒グラフ図である。
図2】実施例における正常群の正常マウス、担癌対照群の担癌マウスおよびKF群の担癌マウスの21日経過後の体重変化量を示す棒グラフ図である。
図3】実施例における正常群の正常マウス、担癌対照群の担癌マウスおよびKF群の担癌マウスの21日経過後の総エネルギー摂取量を示す棒グラフ図である。なお、総エネルギー摂取量は摂餌量より計算されたものである。
図4】実施例における正常群の正常マウス、担癌対照群の担癌マウスおよびKF群の担癌マウスの21日経過後の腓腹筋重量を示す棒グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施の形態を示すことにより本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下に記載する個々の形態には限定されることはない。
【0016】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、癌患者の筋肉量の減少を抑制する組成物、より詳細には癌患者の筋肉量の減少速度を緩和する組成物であって、長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリド、タンパク質ならびに糖質を主成分とする。なお、この癌患者筋肉量減少抑制組成物は、高脂肪低炭水化物組成の組成物であることが好ましい。以下、これらの成分および組成について詳述する。
【0017】
(1)成分
(1-1)タンパク質
タンパク質としては、特に制限されないが、例えば、コーングルテン、小麦グルテン、大豆タンパク質、小麦タンパク質、乳タンパク質、食肉又は魚肉から得られる動物性タンパク質(コラーゲンを含む)、卵白、卵黄などが挙げられるが、乳タンパク質が好ましい。乳タンパク質は、ヒト、サル、ゴリラ、マントヒヒ、チンパンジー等の霊長動物や、ウマ、ウシ、スイギュウ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラクダ、シカ等の家畜動物、イヌ、ネコ等の愛玩動物等の哺乳動物から得られる乳に含まれるタンパク質成分であり、好ましくは、ホエイタンパク質や、カゼインおよびその塩等である。
【0018】
ホエイタンパク質は、乳のホエイに含まれるタンパク質成分であり、代表的な成分として、α-ラクトアルブミン(α-La)、β-ラクトグロブリン(β-Lg)、免疫グロブリンおよびラクトフェリンが挙げられる。本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物において、上記成分の一部および全部をホエイタンパク質として用いることができる。また、本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物において、ホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)およびその凍結物もホエイタンパク質として用いることができる。さらに、本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物において、脱塩ホエイ、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)およびホエイタンパク質精製物(WPI)もホエイタンパク質として用いることができる。
【0019】
カゼインは、乳に約80重量%の割合で含まれるタンパク質の一種である。乳に酸を加えると、沈殿が生じるが、その沈殿物がカゼインである。カゼイン塩としては、食品への添加が許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム、カゼインマグネシウム等が挙げられる。これらのカゼイン塩の中でもカゼインナトリウムが好ましい。カゼインナトリウムは、例えば、カゼインを水酸化ナトリウム、もしくは炭酸水素ナトリウムと反応させる等して製造することができる。カゼインまたはカゼイン塩は商業的に入手可能であり、市販品を使用してもよい。
【0020】
ここで、癌患者筋肉量減少抑制組成物中に含まれるタンパク質量の下限は、特に制限はされないが、同組成物の固形分100gあたり、好ましくは5g、より好ましくは10g、さらに好ましくは12g、特に好ましくは14gである。また、その上限は、特に制限はされないが、好ましくは30g、より好ましくは25g、さらに好ましくは20g、特に好ましくは16gである。なお、癌患者筋肉量減少抑制組成物にタンパク質を含めないことも考え得るが、癌患者筋肉量減少抑制組成物にタンパク質を含めることが好ましいことが判明したため、癌患者筋肉量減少抑制組成物にタンパク質が含められている。
【0021】
なお、ここで、癌患者の一日当たりのタンパク質摂取量は、癌患者の実質体重(現実の体重)を50kgとしたとき、50g以上80g以下の範囲内であることが好ましく、50g以上70g以下の範囲内であることがより好ましく、55g以上70g以下の範囲内であることがさらに好ましく、60g以上70g以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、例えば、実質体重が80kgである癌患者は、単純に上記摂取量の1.6(=80/50)倍の量の乳タンパク質を摂取すればよいことになる。
【0022】
(1-2)脂肪酸トリグリセリド
本発明の実施の形態に係る脂肪酸トリグリセリドは、癌患者の体内で分解されることによりエネルギー源であるケトン体(アセト酢酸およびβヒドロキシ酢酸の少なくとも一方を含むもの)を生じさせるものであって、長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリドを含む。なお、この脂肪酸トリグリセリドは、主として長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリドからなっていてもよいし、長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリドのみからなっていてもよい。また、この癌患者筋肉量減少抑制組成物において長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの両方が含まれている場合、長鎖脂肪酸トリグリセリドの重量に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの重量の比の下限は、特に制限はされないが、好ましくは0.1、より好ましくは0.3、さらに好ましくは0.5、特に好ましくは0.7である。また、その上限は、好ましくは2.0、より好ましくは1.8、さらに好ましくは1.3、特に好ましくは0.9である。
【0023】
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、MCT(Medium Chain Triglyceride)とも称されるものであって、構成脂肪酸の長さが中程度であるトリグリセリド、具体的には炭素数が6以上12以下の範囲内であるトリグリセリドである。なお、構成脂肪酸の炭素数は、8以上12以下の範囲内であることが好ましく、8以上10以下の範囲内であることがより好ましい。中鎖脂肪酸の具体例としては、例えば、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)等が挙げられる。また、1つのグリセロールに結合する3つの中鎖脂肪酸は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。グリセロールに複数種類の中鎖脂肪酸が結合する場合、これらの割合は特に限定されない。また、ここで、脂肪酸トリグリセリド中における中鎖脂肪酸トリグリセリド量の割合の下限は、脂肪酸トリグリセリド全量100重量部に対して、好ましくは0重量部、より好ましくは20重量部、さらに好ましくは30重量部、特に好ましくは40重量部である。また、その上限は、好ましくは100重量部、より好ましくは80重量部、さらに好ましくは70重量部、特に好ましくは50重量部である。
【0024】
ところで、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、ココナッツ、パームフルーツ等の植物体の種子や、牛乳、乳製品等に含まれる油脂中に存在する。本発明の実施の形態において、中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、そのような油脂から抽出(粗抽出を含む)あるいは精製(粗精製を含む)したものを使用することができる。なお、このような油脂は、商業的に入手可能であり、市販品を使用してもよい。
【0025】
長鎖脂肪酸トリグリセリドは、LCT(Long Chain Triglyceride)とも称されるものであって、構成脂肪酸の長さが比較的長いトリグリセリド、具体的には炭素数が13以上30以下の範囲内であるトリグリセリドである。なお、構成脂肪酸の炭素数は、13以上24以下の範囲内であることが好ましく、13以上18以下の範囲内であることがより好ましい。長鎖脂肪酸の具体例としては、例えば、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、9-ヘキサデセン酸、オクタデカン酸、cis-9-オクタデセン酸、11-オクタデセン酸、テトラコサン酸、cis-15-テトラコサン酸、トリアコンタン酸等が挙げられる。なお、脂肪酸は、不飽和脂肪酸であってもよい。また、1つのグリセロールに結合する3つの長鎖脂肪酸は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。グリセロールに複数種類の長鎖脂肪酸が結合する場合、これらの割合は特に限定されない。また、ここで、脂肪酸トリグリセリド中における長鎖脂肪酸トリグリセリド量の割合の下限は、脂肪酸トリグリセリド全量100重量部に対して、好ましくは0重量部、より好ましくは30重量部、さらに好ましくは35重量部、特に好ましくは50重量部である。また、その上限は、好ましくは100重量部、より好ましくは90重量部、さらに好ましくは80重量部、特に好ましくは60重量部である。
【0026】
ところで、長鎖脂肪酸トリグリセリドは、大豆、菜種、オリーブ等の植物体の種子や、牛脂やラード等に含まれる油脂中に存在する。本発明の実施の形態において、長鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、そのような油脂から抽出(粗抽出を含む)あるいは精製(粗精製を含む)したものを使用することができる。なお、このような油脂は、商業的に入手可能であり、市販品を使用してもよい。
【0027】
ここで、癌患者筋肉量減少抑制組成物中の脂肪酸トリグリセリドの含有量の下限は、特に制限はされないが、同組成物の固形分100gあたり、好ましくは40g、より好ましくは50g、さらに好ましくは55g、特に好ましくは70gである。また、その上限は、特に制限はされないが、好ましくは100g、より好ましくは90g、さらに好ましくは88g、特に好ましくは76gである。
【0028】
また、ここで、癌患者の一日当たりの脂質摂取量は、癌患者の実質体重(現実の体重)を50kgとしたとき、80g以上200g以下の範囲内であることが好ましく、90g以上190g以下の範囲内であることがより好ましく、95g以上170g以下の範囲内であることがさらに好ましく、100g以上150g以下の範囲内であることがさらに好ましく、120g以上140g以下の範囲内であることが特に好ましい。なお、例えば、実質体重が80kgである癌患者は、単純に上記摂取量の1.6(=80/50)倍の量の脂肪酸トリグリセリドを摂取すればよいことになる。
【0029】
(1-3)糖質
糖質は、食物繊維ではない炭水化物であって、単糖類、二糖類および多糖類を含む。単糖類としては、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース等が挙げられる。二糖類としては、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)等が挙げられる。多糖類としては、デンプン(アミロース、アミロペクチン)、グリコーゲン、デキストリン等が挙げられる。なお、ここで、糖質は、ラクトースを含むのが好ましく、ラクトースを含むがグルコースを含まないのがより好ましく、実質的にラクトースのみを含むのがさらに好ましい。
【0030】
ここで、癌患者筋肉量減少抑制組成物中の糖質の含有量の下限は、特に制限はされないが、同組成物の固形分100gあたり、好ましくは0.5g、より好ましくは2.0g、さらに好ましくは5.0gである。また、その上限は、特に制限はされないが、好ましくは12g、より好ましくは11g、さらに好ましくは9gである。また、癌患者筋肉量減少抑制組成物に糖質を含めないことも考え得るが、癌患者筋肉量減少抑制組成物に糖質を含めることが好ましいことが判明したため、癌患者筋肉量減少抑制組成物に糖質が含められている。
【0031】
なお、ここで、癌患者の一日当たりの糖質摂取量は、癌患者の実質体重(現実の体重)を50kgとしたとき、0g超90g以下の範囲内であることが好ましく、0g超60g以下の範囲内であることがより好ましく、0g超30g以下の範囲内であることがさらに好ましく、0g超20g以下の範囲内であることがさらに好ましく、0g超10g以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、例えば、実質体重が80kgである癌患者は、単純に上記摂取量の1.6(=80/50)倍の量の糖質を摂取することができる。ところで、癌患者の一日当たりの糖質摂取量を30g以下にすれば、癌患者の血中ケトン体を誘導することが可能となり、その結果、癌患者の予後を改善することになり好ましい。
【0032】
ここで、癌患者筋肉量減少抑制組成物のエネルギーの下限は、特に制限はされないが、好ましくは50kcal/固形分100g、より好ましくは80kcal/固形分100g、さらに好ましくは100kcal/固形分100gである。また、その上限は、特に制限はされないが、好ましくは1000kcal/固形分100g、より好ましくは900kcal/固形分100g、さらに好ましくは800kcal/固形分100gである。
【0033】
(2)組成
上述の通り、癌患者筋肉量減少抑制組成物は、高脂肪低炭水化物組成の組成物であることが好ましい。ここで「高脂肪低炭水化物組成」とは、文字通り、脂質を多く含む組成である。そして、この高脂肪低炭水化物組成の組成物では、例えば、同組成物の固形分中30重量%以上が脂質であることが好ましい。なお、この高脂肪低炭水化物組成の組成物は、脂質のみで構成されていてもよい。脂質としては、長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドの少なくとも一方の脂肪酸トリグリセリドが特に好ましい。
【0034】
<癌患者筋肉量減少抑制組成物の摂取主体およびその摂取方法>
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、癌患者、特にまだ抗癌治療や放射線治療に耐え得る筋力を有する癌患者に摂取されることによってその機能を発揮する。さらに、癌患者筋肉量減少抑制組成物は、上述の条件を満たせば末期癌患者に対しても有効に作用し得るが、パフォーマンスステータス(PS)2以下の癌患者に対して利用することが好ましい。パフォーマンスステータス(PS)2以下の癌患者は、通常の食事療法が支障なく実施し得る患者であるからである。なお、ここにいう「癌患者」としては、任意の哺乳動物を挙げることができる。ここにいう哺乳動物とは、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等である。癌患者がヒトである場合、老若男女を問わず、乳児から高齢者まで、幅広い年齢層のヒトであってよい。また、癌患者は糖尿病を合併していないことが望ましい。糖尿病患者は別途糖質の制限をする必要があるからである。ただし、適宜糖質を糖尿病にも対応するよう制限することで、本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物を利用することができる。
【0035】
また、ここで「癌」には、例えば、正常な細胞が突然変異を起こして発生する腫瘍が含まれる。悪性腫瘍は全身のあらゆる臓器や組織から生じ得る。特に区別しない限り、本願明細書では「癌」と「悪性腫瘍」とを同義で用いる。そして、ここで、「癌」とは、例えば、肺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、副腎癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、小腸癌、卵巣癌、子宮癌、子宮体癌、子宮内膜癌、膀胱癌、前立腺癌、尿管癌、腎盂癌、尿管癌、陰茎癌、精巣癌、脳腫瘍、中枢神経系の癌、末梢神経系の癌、頭頸部癌、グリオーマ、多形性膠芽腫、皮膚癌、メラノーマ、甲状腺癌、唾液腺癌、悪性リンパ腫、癌腫、肉腫、白血病および血液悪性腫瘍からなる群から選ばれる1種以上を含む。肺癌は、例えば、非小細胞肺癌(例えば、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌など)、または小細胞肺癌を含む。本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、進行癌や転移癌等を含む末期癌の患者に対しても有効である。特に末期癌の患者では予後の改善が非常に著明である。また、本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、特に脳腫瘍に有効である。
【0036】
また、ここにいう「摂取」とは、癌患者の体内に入れば摂取経路に限定はなく、例えば、経口摂取、経管摂取、経腸摂取など、公知の摂取方法の全てによって実現され得る。このとき、典型的には、消化管を経由する経口摂取や経腸摂取が挙げられるが、経口摂取が好ましく、飲食による経口摂取がより好ましい。なお、場合によっては、点滴や胃瘻等により摂取されてもよい。また、摂取頻度は、通常1日に3回であるが、場合によっては1日2回、または1回でもよく、逆に4回でも5回でもよい。
【0037】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物では、固形分全量に対してタンパク質、脂肪酸トリグリセリドおよび糖質が100質量%を占めるのが好ましく、95質量%を占めるのがより好ましく、90質量%を占めるのがさらに好ましく、80質量%を占めるのがさらに好ましく、70質量%を占めるのが特に好ましい。
【0038】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物の単位包装あたりの重量は特に限定されないが、効果を十分に得ることができ且つ一回で摂取し切りやすいとの観点から、その下限は、好ましくは25g、より好ましくは50g、さらに好ましくは125g、特に好ましくは130gである。また、その上限は、特に制限はされないが、好ましくは400g、より好ましくは300g、さらに好ましくは200g、特に好ましくは150gである。
【0039】
また、一食のカロリー量は特に限定されないが、効果を十分に得ることができ且つ一回で摂取し切りやすいとの観点から、その下限は、好ましくは80kcal、より好ましくは100kcal、さらに好ましくは125kcalである。また、その上限は、好ましくは400kcal、より好ましくは300kcal、さらに好ましくは200kcal、特に好ましくは150kcalである。特に、100kcal以上500kcal以下の範囲内であることが最も好ましい。
【0040】
なお、癌患者筋肉量減少抑制組成物の一日当たりの摂取カロリーは、ヒトの基礎代謝量を下回らないことが好ましい。この基礎代謝量は、公知の計算式等で癌患者の実質体重をもとに算出することができる。例えば、厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015年版)によれば、50歳以上の男性で21.5kcal/kg体重/日であり、50歳以上の女性で20.7kcal/kg体重/日であるが、18~29歳の男性では24.0kcal/kg体重/日であり、18~29歳の女性では22.1kcal/kg体重/日である。また、上述の単位包装とは、袋、箱、容器当たりの単位包装のみならず、それらに含まれる一回あたりの単位包装であってもよいし、一日当たりの単位包装であってもよい。なお、複数の日数、例えば1週間分の摂取に適切な数量をまとめて包装したもの、または複数の個包装を含むもの等とすることもできる。
【0041】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、癌治療中において継続的に摂取するのが望ましい。なお、本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は安全に摂取できるため、摂取期間は特に限定されず、永久的に継続することができる。
【0042】
<癌患者筋肉量減少抑制組成物の形態>
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、飲食品として使用することができる。その飲食品は、癌患者の筋肉量の減少抑制効果を有する点で有用である。本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物を飲食品として使用する場合には、単独の癌患者筋肉量減少抑制組成物を使用してもよく、または2種類以上の癌患者筋肉量減少抑制組成物を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物を飲食品として利用するに際し、それらの状態は特に限定されず、固体、粉末、半固体物、液体、液状物、ゲル、ペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、媒体に分散させた液状物、希釈剤で希釈した希釈物、乾燥物をミルなどで破砕した破砕物などの状態のものとすることができる。
【0044】
さらに、本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、病者用食品(癌患者筋肉量減少抑制食品等)とすることができる。なお、かかる場合、この病者用食品は錠剤やカプセル等の形態とされてもかまわない。
【0045】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物に、その用途、効能、機能、有効成分の種類、機能性成分の種類、摂取方法などの説明を表示することが好ましい。ここにいう「表示」は、医薬部外品、機能性表示食品およびサプリメントそれぞれにおいて適した表示とすべきである。また、ここにいう「表示」には、需要者に対して上記説明を知らしめるための全ての表示が含まれる。この表示は、上述の表示内容を想起・類推させ得るような表示であればよく、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体などの如何に拘わらない全てのあらゆる表示を含み得る。例えば、製品の包装・容器に上記説明を表示すること、製品に関する広告・価格表もしくは取引書類に上記説明を表示して展示もしくは頒布すること、またはこれらを内容とする情報を電磁気的(インターネットなど)方法により提供することが挙げられる。
【0046】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物を包装してなる製品が例えば飲食品である場合、その飲食品には、例えば「癌患者の筋肉量の減少抑制」・「癌患者の筋肉量減少速度の緩和」等との表示が付されることが好ましい。
【0047】
なお、以上のような表示を行うために使用する文言は、上述の例に限定されず、そのような意味と同義である文言であってもかまわない。そのような文言としては、例えば、需要者に対して、「癌患者の筋肉量が減少するのを抑制する」、「癌患者の筋肉量が減少する速度を緩和する」「癌患者の筋肉量が減少するのを抑制するのに役立つ」あるいは「癌患者の筋肉量が減少する速度を緩和するのに役立つ」等の種々の文言が許容され得る。
【0048】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物を飲食品とする場合、癌患者筋肉量減少抑制組成物は、例えば、食事、飲料、栄養剤、サプリメント、医薬品等として、経口又は経管(胃瘻、腸瘻、経鼻経管)摂取できる。具体的には、流動食、半流動食、粉末食品、ゼリー、ゲル、ムース、アイスクリーム、シェーク、高エネルギーサプリメント、高エネルギーペースト、食事代替飲食品、介護食品、特別用途食品、総合栄養食品、栄養補助食品、特定保健用食品、機能性表示食品、加工食品等の形態にすることができる。好ましくは、流動食、半流動食、粉末食品、ゼリー、ゲル、ムース、アイスクリーム、シェーク、高エネルギーサプリメント、高エネルギーペーストであり、より好ましくは、流動食、半流動食、粉末食品、ゼリー、ゲル、アイスクリーム、高エネルギーペーストであり、特に好ましくは、流動食、粉末食品、半流動食、病者用食品、栄養食品等である。このような飲食品の製造にあたっては、本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物をそのまま使用することが望ましいが、本発明の趣旨の損なうことが想定されない場合には他の飲食品ないし食品成分と混合してもよい。また、飲食品の形状についても特に限定されず、通常用いられる飲食品の形状であればかまわない。例えば、固体状(粉末、顆粒状を含む)、ペースト状、ゲル状、液状、懸濁状などのいずれの形状でもよく、またこれらに限定されない。
【0049】
本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物には、本発明の趣旨を損なわない範囲で、水、長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリド以外の脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー、機能性成分、食品添加物等、通常の食品に含まれる成分を添加することができる。上記飲食物の製造において、長鎖脂肪酸トリグリセリドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリド以外の脂質源としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロテン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。機能性成分として、例えばオリゴ糖、グルコサミン、コラーゲン、セラミド、ローヤルゼリー、ポリフェノールなどが挙げられる。食品添加物として、例えば乳化剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、甘味剤、酸味料、保存料、抗酸化剤、pH調整剤、着色剤、香料などが挙げられる。また、本発明の実施の形態に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物には、癌患者筋肉量減少抑制効果を有する任意の成分、例えば、エイコサペンタエン酸(EPA)や分岐鎖アミノ酸(BCAA)等が添加されてもよい。
【0050】
これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができる。また上記原材料は、天然物、天然物加工品、合成品および/またはこれらを多く含む食品のいずれであってもよい。
【実施例
【0051】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
試験開始日に、25匹のCDF1マウスを3つの群に分けた後、2つの群(N=10匹)に属するCDF1マウスの皮下に結腸癌由来Colon26細胞を5×10個を移植した。以下、これらの2つの群を「担癌マウス群」と称し、担癌マウス群に属するCDF1マウスを「担癌マウス」と称する。そして、残りの1つの群(N=5匹)に属するCDF1マウスには結腸癌由来Colon26細胞を移植せず、CDF1マウスを正常な状態を保つようにした。以下、この1つの群を「正常群」と称し、正常群に属するCDF1マウスを「正常マウス」と称する。
【0053】
次に、試験開始日から21日間、担癌マウス群の片方の群に属する担癌マウス、および、正常群に属するCDF1マウスに動物用精製飼料AIN-93G(組成:表1参照,ケトン比:0.08)を自由摂食させた。そして、その後に、担癌マウスおよび正常マウスを解剖し、電子秤を用いてそれらの体重および腓腹筋重量を計測した。それらの結果は、図1~4に示されている。なお、以下、担癌マウスに動物用精製飼料AIN-93Gを摂食させた群を「担癌対照群」と称する。
【0054】
【表1】
【0055】
その一方、試験開始日から21日間、担癌マウス群のもう片方の群に属する担癌マウスに株式会社明治製の明治ケトンフォーミュラ(登録商標)817-B(組成:表2参照,ケトン比:3)を自由摂食させた。そして、その後に、担癌マウスを解剖し、電子秤を用いてそれらの体重および腓腹筋重量を測定した。それらの結果は、図1~4に示されている。なお、以下、担癌マウスに株式会社明治製の明治ケトンフォーミュラ(登録商標)を摂食させた群を「KF群」と称する。
【0056】
【表2】
【0057】
図1に示される通り、試験開始日から21日経過時の正常群の正常マウスの体重は、担癌対照群の担癌マウスおよびKF群の担癌マウスの体重よりも有意に重かったが、KF群の担癌マウスの体重は、担癌対照群の担癌マウスの体重よりも有意に重かった。
【0058】
また、図2に示される通り、正常群の正常マウスの体重は21日間で増加したが、担癌対照群の担癌マウスおよびKF群の担癌マウスの体重は21日間で減少した。KF群の担癌マウスの体重の減少量は、担癌対照群の担癌マウスの体重の減少量よりも有意に少なかった。
【0059】
なお、図3に示される通り、試験開始日から21日経過時までのKF群の担癌マウスの総エネルギー摂取量は、正常群の正常マウスおよび担癌対照群の担癌マウスの総エネルギー摂取量よりも有意に多かった。
【0060】
そして、図4に示される通り、試験開始日から21日経過時の正常群の正常マウスの腓腹筋重量は、担癌対照群の担癌マウスおよびKF群の担癌マウスの腓腹筋重量よりも有意に重かったが、KF群の担癌マウスの腓腹筋重量は、担癌対照群の担癌マウスの腓腹筋重量よりも有意に重かった。すなわち、株式会社明治製の明治ケトンフォーミュラ(登録商標)を摂取したKF群の担癌マウスでは、腓腹筋の減少速度が緩和されたと結論付けることができた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る癌患者筋肉量減少抑制組成物は、癌患者の栄養状態を維持し、癌患者の筋肉の減少を抑制することで、癌患者の生命予後の延長や、QOLの向上に有用である。
図1
図2
図3
図4