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  • 特許-筋肉量低下抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】筋肉量低下抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/9068 20060101AFI20240911BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240911BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 35/02 20150101ALI20240911BHJP
   A61K 36/539 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/346 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/284 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/708 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/538 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/744 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/234 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/232 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/534 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/238 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 36/634 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
A61K36/9068
A61P21/00
A61P3/00
A61K35/02
A61K36/539
A61K36/484
A61K36/346
A61K36/284
A61K36/708
A61K36/538
A61K36/744
A61K36/65
A61K36/234
A61K36/232
A61K36/534
A61K36/238
A61K36/634
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019107416
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2019214561
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292805(JP,A)
【文献】特開2014-101346(JP,A)
【文献】特表2008-535919(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0055848(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0268038(US,A1)
【文献】J. New Rem. & Clin,2007年,Vol.56, No.9,pp.1624-1638
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 31/00-31/327
A61P
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防風通聖散の水エキスを含有し、
前記防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物が、その全量100重量部当たり、ショウキョウを4~5重量部含む、体重減量時における筋肉量低下抑制剤。
【請求項2】
腹部の筋肉量の低下を抑制するために用いられる、請求項1に記載の筋肉量低下抑制剤。
【請求項3】
前記防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の全量100重量部当たり、ボウショウが硫酸ナトリウム無水物換算で3~6重量部である、請求項1又は2に記載の筋肉量低下抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体重減量時における筋肉量の低下を抑制できる、筋肉量低下抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食文化の欧米化に伴い、日本人の脂質摂取量は増加しており、過剰に摂取された脂質は脂肪の形で体内に蓄積され、肥満等の原因となっている。肥満は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、様々な健康障害を合併することが知られている。特に、内臓脂肪の蓄積は、メタボリックシンドロームを経て、糖尿病、脂質異常症、高血圧等の生活習慣病を引き起こし、さらに動脈硬化を進展させることで、心筋梗塞、脳卒中等の重篤疾患をも発症し得る。このため、近年において、体内に蓄積した脂肪を低減させることは重要課題として認識されている。
【0003】
体脂肪の低減のための対策としては、体脂肪の低減と共に筋肉の増大が期待される運動療法が最も推奨されている。一方で、体脂肪の低減効果を効果的に得る程度の運動を日常的に行うことは負担が大きいため、運動療法で体脂肪を低減させることは容易ではない。
【0004】
そこで、体脂肪の低減に運動を要しない体脂肪低減剤が種々報告されている。例えば、脂肪の蓄積を抑制し、蓄積した脂肪を分解することで内臓脂肪を低減するラクトフェリン(特許文献1)、体脂肪の燃焼の促進作用を有する茶抽出物(特許文献2)、抗肥満効果及び脂肪分解活性を有する柑橘類果実抽出物(特許文献3)等が報告されている。
【0005】
しかしながら、運動を行うことなく体脂肪を低減させると、それに伴って筋肉量も低下することが良く知られている。そして、筋肉量の低下は基礎代謝量の減少を伴うため、体脂肪低減効率が悪くなり、ひいてはリバウンドをも引き起こす原因となる。従って、体脂肪低減剤の服用においては、運動の併用が推奨されることが通常である。
【0006】
そこで、肥満改善を目的として体脂肪を低減させる効果とともに筋肉を増強させる効果を有するタンパク質として、そば粉(特許文献4)、及び分離大豆タンパク質(非特許文献1及び2)等が報告されている。
【0007】
一方、内臓脂肪を効率的に低減させるために、腹部の筋肉が重要であることが、最近のEMSを用いた研究から明らかになっている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-1333号公報
【文献】特開2006-117687号公報
【文献】特開2006-321772号公報
【文献】特開2004-166666号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Soy Protein Isolate and Its hydrolysate Reduce Body Fat of Dietary Obese Rats and Genetically Obese Mice (Yellow KK). Nutrition 16:349-354
【文献】糖尿病モデルマウスにおいて食餌中の大豆たんぱく質が糖質および脂質の酸化に及ぼす効果;大豆たん白質研究 2002; 5:92-98
【文献】臨床報告 複合高周波によるEMSが腹部内臓脂肪面積,血漿アディポネクチンに及ぼす改善効果について;Anti-aging science : 脳心血管抗加齢研究会機関誌 8(1), 89-94, 2016-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、体脂肪低減効果と筋肉増強効果とを奏する上記のタンパク質は、いずれも食物アレルギーを高頻度で発症する原因となるものであり、適用できない対象も存在する。
【0011】
そこで本発明は、体重減量時に筋肉量の低下を抑制できる新たな剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、防風通聖散が、体脂肪を低減する一方で筋肉量低下を抑制できることを新たに発見した。また、予想外なことに、防風通聖散の構成生薬のうちショウキョウを増量した場合に、体脂肪低減効果がより一層向上する一方で筋肉量低下がより一層抑制されることも見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 防風通聖散エキスを含有する、体重減量時における筋肉量低下抑制剤。
項2. 腹部の筋肉量の低下を抑制するために用いられる、項1に記載の筋肉量低下抑制剤。
項3. 前記防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の全量100重量部当たり、ショウキョウが1~5重量部である、項1又は2に記載の筋肉量低下抑制剤。
項4. 請求項1~3のいずれかに記載の筋肉量低下抑制剤による体重減量時における筋肉量低下抑制効果を示すプレゼンテーション方法であって、腹部断層撮影画像又はそのイラストを用い、筋肉部位の面積を実質的に縮小することなく、内臓脂肪部位及び/又は皮下脂肪部位の面積が縮小する様子を経時的に示すことを含む、方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の筋肉量低下抑制剤によれば、体重減量時に筋肉量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】防風通聖散エキスの服用前及び12週間服用後におけるヒトの腹部のCT画像及び腹部脂肪面積及び腹部筋肉面積の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.筋肉量低下抑制剤
本発明の筋肉量低下抑制剤は、防風通聖散エキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の筋肉量低下抑制剤について詳述する。
【0017】
防風通聖散エキス
本発明の筋肉量低下抑制剤において、防風通聖散エキスは、体重減量時における筋肉量低下を抑制する。特に、本発明の筋肉量低下抑制剤において、防風通聖散エキスは、腹部における筋肉量を抑制する。腹部の筋肉は、腹部断層撮影画像で撮影される筋肉であり、具体的には、脊柱直立筋、側筋、腹直筋、大腰筋、腰方形筋等が挙げられる。本発明の筋肉量低下抑制剤は、腹部の筋肉の中でも最も大きい脊柱直立筋の筋肉量低下を抑制することができるため、筋肉量低下抑制効果を効率的に得ることができる。
【0018】
防風通聖散を構成する生薬は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)によれば、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウ、及びカッセキである。書簡によっては、前記生薬の内、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)がある。本発明で使用される防風通聖散エキスは、これらのいずれの防風通聖散から得られるものであってもよい。
【0019】
また、防風通聖散を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)、「第十七改正日本薬局方」等によれば、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ショウキョウ0.3~1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部またはハマボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部、及びカッセキ3~5重量部である。また、書簡によっては、前記分量中、1.2重量部を全て1.5重量部としているものもある(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)。
【0020】
防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物における各生薬の分量については、特に制限されず、前記で例示した書簡に示されている各生薬の分量で使用してもよいが、好適な例として、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部(好ましくは2重量部)、及びカッセキ3~5重量部(好ましくは3重量部)であり、且つショウキョウが0.6~1.5重量部、好ましくは0.8~1.4重量部、更に好ましくは1~1.3重量部、特に好ましくは1.2重量部であるものが挙げられる。防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物におけるショウキョウの分量を上記の範囲に調節することによって、筋肉量低下抑制効果をより好ましく向上させることができる。
【0021】
また、ボウショウの分量は、硫酸ナトリウム無水物換算で、好ましくは1~1.5重量部、更に好ましくは1.3~1.5重量部、特に好ましくは1.5重量部を充足することによって、錠剤として成形された場合に、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることができる。
【0022】
なお、本発明において、「防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物」とは、防風通聖散エキスの製造において、抽出に供される原料調合物、即ち、防風通聖散を構成する所定量の生薬を含む調合物である。また、ボウショウの硫酸ナトリウム無水物換算とは、ボウショウとして硫酸ナトリウムの水和物を使用する場合には、当該水和物を無水物重量に換算することを指す。なお、ボウショウとしては、硫酸ナトリウムの水和物(例えば、10水和物)及び/又は硫酸ナトリウム無水物が使用され、錠剤として成形された場合において錠剤の硬度及び崩壊性を向上させる観点からは、硫酸ナトリウム無水物が好ましく使用される。
【0023】
本発明で使用される防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例として、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ショウキョウが3~5重量部、より好ましくは4~5重量部、更に好ましくは4~4.5重量部含まれているものが挙げられる。このようにショウキョウの比率が高い生薬調合物から防風通聖散エキスを得ることによって、筋肉量低下抑制効果をより好ましく向上させることが可能になる。
【0024】
また、本発明で使用される防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例として、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ボウショウが硫酸ナトリウム無水物換算で3~6重量部、好ましくは4~6重量部、更に好ましくは5~6重量部、特に好ましくは5~5.5重量部含まれているものが挙げられる。用量及び製剤形態等にもよるが、このような比率で生薬調合物中にボウショウが含まれることによって、錠剤として成形された場合において、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることが可能になる。
【0025】
また、本発明で使用される防風通聖散エキスの好適な例として、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6-ギンゲロールが0.005~0.055重量部含まれているものが挙げられる。6-ギンゲロールは、ショウキョウに含まれている成分である。本発明では、6-ギンゲロールの含有量が高い防風通聖散エキスを使用することによって、筋肉量低下抑制効果をより好ましく向上させることが可能になる。筋肉量低下抑制効果をより好ましく向上させる観点、又は錠剤として成形された場合において錠剤の硬度及び崩壊性を向上させる観点から、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6-ギンゲロールが0.02~0.055重量部、より好ましくは0.025~0.055重量部、更に好ましくは0.03~0.055重量部、特に好ましくは0.040~0.055重量部含まれているものが挙げられる。ここで、生薬由来成分とは、防風通聖散を構成する生薬から抽出された成分である。即ち、賦形剤等の添加剤が配合されていない防風通聖散エキス末の場合であれば、当該エキス末の重量が生薬由来成分の総量になり、賦形剤等の添加剤が配合されている防風通聖散エキス末の場合であれば、当該エキス末の重量から含有する添加剤の重量を差し引いた重量が生薬由来成分の総量になる。
【0026】
ショウキョウに含まれる6-ギンゲロール含量は、ショウキョウの産地や生育年数等に応じて異なり、またショウキョウからの6-ギンゲロールの抽出効率も抽出条件等によって変動する。そのため、6-ギンゲロールを前記比率で含む防風通聖散エキスを得るには、ショウキョウに含まれる6-ギンゲロール含量に応じて、生薬調合物におけるショウキョウの比率や、抽出に供されるショウキョウ(即ち、生薬調合物に使用されるショウキョウ)の形状等を適宜設定すればよい。例えば、生薬調合物の全量100重量部当たりのショウキョウの比率を前述する範囲に設定したうえで、ショウキョウを例えば1~8mm程度角となるように細切物したものを抽出に供することにより、6-ギンゲロールを前記含有量の範囲内で含む防風通聖散エキスを好適に得ることができる。
【0027】
本発明で使用される防風通聖散エキスは、前記生薬調合物を公知の手法で抽出することによって得ることができる。前記生薬調合物を抽出する方法については、従来の防風通聖散エキスの抽出法と同様の方法で行えばよく、例えば、前記生薬調合物に対して、約10~20倍量の水を加え、80~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。抽出後に、遠心分離、濾過等の固液分離に供して固形分を除去し、必要に応じて、濃縮処理や乾燥処理に供することによって防風通聖散エキスが得られる。
【0028】
防風通聖散エキスをエキス末として得るには、固形分を除去した抽出液を、必要に応じて濃縮した後に、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理に供すればよい。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際に、必要に応じて抽出液に、デキストリン等の賦形剤を添加してもよい。このように賦形剤を添加することにより、乾燥時間を短縮することが可能になる。添加される賦形剤の種類や添加量については、一般的な漢方エキス末を製造する場合と同様である。
【0029】
また、防風通聖散エキスを軟エキスとして得るには、形分を除去した抽出液を、減圧濃縮等によって濃縮すればよい。また、軟エキスに、適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末としてもよい。
【0030】
本発明で使用される防風通聖散エキスは、エキス末又は軟エキスのいずれであってもよく、本発明の筋肉量低下抑制剤の形態に応じて、エキス末又は軟エキスを適宜選択すればよい。また、錠剤として成形される場合においては、硬度及び崩壊性に優れた錠剤を得る観点から、エキス末であることが好ましい。
【0031】
その他の成分
本発明の筋肉量低下抑制剤は、防風通聖散エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、筋肉量低下抑制剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0032】
添加剤及び基剤としては、デンプン、カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ハイドロタルサイト、無水リン酸水素カルシウム、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポピドンが挙げられ、好ましくは、カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、及び合成ケイ酸アルミニウムが挙げられる。これらの添加剤及び基剤の含有量は、使用する添加剤及び基剤の種類に応じて適宜設定される。
【0033】
また、本発明の筋肉量低下抑制剤は、防風通聖散エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、筋肉量低下抑制剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0034】
製剤形態
本発明の筋肉量低下抑制剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、含有成分の安定性や携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
【0035】
製造方法
本発明の筋肉量低下抑制剤を前記製剤形態に調製するには、防風通聖散エキス、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。錠剤として製剤する場合においては、好ましくは、本発明の筋肉量低下抑制剤の製造方法は、防風通聖散エキス、又は必要に応じ添加剤、基材、他の栄養成分、及び/又は他の薬理成分と混合した防風通聖散エキス混合物を造粒する造粒工程、及び造粒物を打錠する打錠工程を含む。
【0036】
用途
本発明の筋肉量低下抑制剤は、体重減量時に、体脂肪の低減に伴う筋肉量の低下を抑制する目的で使用される。従って、本発明の筋肉量低下抑制剤は、体重減量中の対象に対して適用される。体重減量としては、運動による体重減量でない限り特に限定されず、例えば、食事制限による体重減量、及び他のダイエットサプリメント又は他の脂肪低減剤の服用による体重減量等が挙げられる。
【0037】
また、本発明の筋肉量低下抑制剤は、内臓脂肪を効率的に低減させるために重要な腹部の筋肉量の低下を抑制できるため、内臓脂肪低減による体重減量時に使用されることが好ましい。従って、本発明の筋肉量低下抑制剤は、内臓脂肪による腹部肥満の体重減量中の対象に対して好ましく適用される。
【0038】
なお、筋肉量を測定する方法としては、侵襲的測定方法として、摘出した筋肉を直接重量測定する方法が挙げられ、非侵襲的測定方法として、生体電気インピーダンス法、X線CT法、二重X線吸収測定法、核磁気共鳴画像診断法等が挙げられる。
【0039】
用量・用法
本発明の筋肉量低下抑制剤は経口投与によって使用される。本発明の筋肉量低下抑制剤の用量については、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、防風通聖散エキスの生薬由来成分の総量が1~10g程度、好ましくは1.5~8g程度、より好ましくは1.5~6g程度となる量で、1日1~3回、好ましくは2又は3回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
【0040】
また、本発明の筋肉量低下抑制剤による筋肉量低下抑制効果は、継続的な服用によって奏されるので、本発明の筋肉量低下抑制剤は、継続的な服用(具体的には4週間以上の継続的な服用、好ましくは12週間以上の継続的な服用)を行うことが好ましい。
【0041】
2.体重減量時における筋肉量低下抑制効果を示すプレゼンテーション方法
上述のとおり、本発明の筋肉量低下抑制剤は、体重減量時における筋肉量低下を抑制する。従って、本発明は、更に、上述の本発明の筋肉量低下抑制剤による体重減量時における筋肉量低下抑制効果を示すプレゼンテーション方法であって、腹部断層撮影画像又はそのイラストを用い、筋肉部位の面積を実質的に縮小することなく、内臓脂肪部位及び/又は皮下脂肪部位の面積が減少する様子を経時的に示すことを含む方法も提供する。これによって、本発明の筋肉量低下抑制剤による優れた効果を視覚的にわかりやすく説明することができる。なお、筋肉部位の面積を実質的に縮小しないとは、当該又は当該イラスト中における筋肉部位の面積の総和(全筋肉面積)が、服用後において、服用前の95%以上であることを意味する。
【0042】
具体的なプレゼンテーション方法の例としては、図1に示される腹部断層撮影画像が挙げられる。図1においては、本発明の筋肉量低下抑制剤の服用前の腹部断層撮影画像と、服用後の腹部断層撮影画像とを対比できるように示しており、服用によって内臓脂肪部位の面積及び皮下脂肪部位の面積が縮小する一方で、脊柱直立筋、側筋、腹直筋、大腰筋、腰方形筋等の腹部筋肉部位の面積の総和(全筋肉面積)は実質的に縮小していない。つまり、図1によると、本発明の筋肉量低下抑制剤の服用によって、筋肉部位の面積が実質的に縮小することなく、内臓脂肪部位及び/又は皮下脂肪部位の面積が減少する様子を経時的に示している。
【0043】
本発明のプレゼンテーション方法は、上述の本発明の筋肉量低下抑制剤の効能を説明するいかなる手段においても用いることができる。そのような手段としては、当該筋肉量低下抑制剤に関するコマーシャルメッセージ、ウェブサイト、商品パッケージ等が挙げられる。
【実施例
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
防風通聖散エキスの製造及び分析
1.防風通聖散エキス末の製造
表1に示す各生薬を細切して、所定の分量を混合し、細切して生薬調合物を得た。生薬調合物に、重量比で20倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、防風通聖散エキス末を得た。
【0046】
なお、ショウキョウは1~8mm角に細切したものを使用した。また、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の熱風を供給することにより行った。
【0047】
【表1】
【0048】
2.防風通聖散エキス末中の6-ギンゲロール含量の測定
防風通聖散のエキス末約1gを精密に量り、共栓遠心沈殿管に入れ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加え、20分間振り混ぜた後、遠心分離し、抽出液を分取した。残留物にメタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加えて、更にこの操作を2回繰り返した。全抽出液を合わせ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)を加えて正確に100mLとし、試料溶液とした。別に定量用6-ギンゲロール約5mgを精密に量り、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)に溶かし、正確に100mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の試験条件で液体クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0049】
(試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:205nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの(COSMOSIL 5C18 MS-II(5μm,4.6×150mm)(ナカライテスク株式会社))。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル/リン酸混液(水:アセトニトリル:リン酸の容量比3800:2200:1)
流速:6-ギンゲロールの保持時間が約19分になるように調整した。
【0050】
下記式に従って、試料溶液中の6-ギンゲロール量を算出し、各防風通聖散のエキス末中の6-ギンゲロール含量を求めた。
【数1】
【0051】
結果を表2に示す。生薬調合物100重量部に対するショウキョウの比率が4.29重量部と高い生薬調合物から得られた防風通聖散エキスでは、生薬調合物100重量部に対するショウキョウの比率が1.11重量部と低い生薬調合物から得られた防風通聖散エキス(製造例1)よりも6-ギンゲロールの含有量が0.052重量%と高くなっていた(製造例2)。
【0052】
【表2】
【0053】
試験例1:マウスにおける体重減量時の筋肉量低下抑制効果の評価
マウス(C57BL/6Jマウス、5週齢、雄)に高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)を4週間自由摂食させて飼育し、肥満モデルマウスを作製した。この肥満モデルマウスの体重を測定後、各群の平均体重が約26gとなるように、コントロール群、試験群1、及び試験群2の合計3つの群に分けた。各群は9匹で構成した。試験群1では、肥満モデルマウスに、前記高脂肪食に製造例1の防風通聖散エキスを2重量%となるように配合した飼料を1ヶ月間給餌した。試験群2では、肥満モデルマウスに、前記高脂肪食に製造例2の防風通聖散エキスを2重量%となるように配合した飼料を1ヶ月間給餌した。コントロール群では、肥満モデルマウスに、防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を1ヶ月間給餌した。なお、群間で摂餌量に差はなかった。
【0054】
1ヶ月間の給餌の後、まず、実験動物用X線CT装置(Latheta LCT-100、日立アロカメディカル、東京)を用いて、イソフルラン麻酔下、剣状突起から仙骨までを1.5mm間隔で断層撮影を行い、付属のCT画像解析ソフトにて、腹部の内臓脂肪量を算出した。さらに、仙骨部位の断層撮影画像に基づいて、腹部周囲筋肉の1つである脊柱直立筋の筋肉量を同様に算出した。結果を下記表に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
上記表3から明らかなとおり、防風通聖散エキス投与により、内臓脂肪量が有意に減少したことが分かった。また、ショウキョウの含有量が多い生薬調合物から得た製造例2の防風通聖散エキスを投与した試験群2では内臓脂肪量がより一層低減していた。このように、内臓脂肪量が顕著に低減する(つまり体重が減量する)一方で、表4から明らかなとおり、脊柱直立筋量にはほとんど変化が認められなかった。更に、試験群1及び試験群2による脊柱直立筋量の平均値を対比すると、ショウキョウの含有量が多い生薬調合物から得た製造例2の防風通聖散エキスを投与した試験群2は、内臓脂肪量の低減効果がより一層高い(表4)にもかかわらず、より一層優れた筋肉量低下抑制効果が得られた。
【0058】
試験例2:ヒトにおける筋肉量低下抑制
服用開始前においてBMIが25以上、又はウエスト周囲径が男性85cm以上・女性90cm以上の、30歳第代~40歳代(男性14名、女性9名)を対象とし、上記製造例1の組成を有する防風通聖散エキス錠を、1日当たり、防風通聖散エキスの生薬由来成分の総量が2.5gとなるよう、1日3回食前または食間に1回4錠を服用させた。なお、試験期間中において、特別な運動負荷は実施せず、食事制限も行わなかった。
【0059】
服用前及び服用後において、身体計測(服用前、服用2週、4週、8週及び12週後)、並びに、腹部脂肪面積測定(服用前、並びに、服用4週及び12週後)を行った。
【0060】
(身体計測)
体組成分析装置InBody3.2(株式会社バイオスペース)を用い、体重、BMI、体脂肪量、体脂肪率、筋肉量、筋肉率を記録した。
【0061】
(腹部脂肪面積等測定)
CTスキャン日立EXA.CT Scanner System(株式会社日立メディコ)を用い、被験者の臍位置の腹部断面を撮影した。得られたX線CT画像データを脂肪計測ソフトFat Scanにて解析し、内臓脂肪面積及び皮下脂肪面積、並びに、各筋肉面積を得た。
【0062】
身体計測結果、腹部脂肪面積測定結果、及び身体各部サイズ測定結果を下記表及び図1に示す。下記表における測定結果は、すべて平均値±標準偏差で示した。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
表5に示すとおり、防風通聖散エキス錠の服用により、体重、BMI、体脂肪量、及び体脂肪率のいずれについても有意な減少が認められた一方で、筋肉量が減少しておらず、筋肉率の向上が認められた。また、表6に示すとおり、内臓脂肪の有意な減少が認められた。さらに、図1に示すとおり、防風通聖散エキスの服用前後における腹部周囲の脂肪面積及び筋肉面積の解析の結果、脂肪面積が顕著に低減している一方で、筋肉面積はほとんど減少していないことが分かった。また、内臓脂肪面積の低減率が一層顕著であることも分かった。
図1