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特許7554215リン化インジウム基板及び半導体エピタキシャルウエハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】リン化インジウム基板及び半導体エピタキシャルウエハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/40 20060101AFI20240911BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C30B29/40 A
H01L21/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022013453
(22)【出願日】2022-01-31
(62)【分割の表示】P 2021015354の分割
【原出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118721
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2022-03-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡 俊介
(72)【発明者】
【氏名】川平 啓太
(72)【発明者】
【氏名】野田 朗
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-137699(JP,A)
【文献】特表2020-528392(JP,A)
【文献】特開2013-256444(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158316(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/202650(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B29/40
C30B27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が100mm以下であり、表面に鏡面を有し、前記表面に、波長405nmのレーザー光をS偏光にて照射し検査したとき、前記表面において、トポグラフィーチャンネルで検出される直径20~100μm且つ深さ1~5μmの凹形状の欠陥が0個である、リン化インジウム基板。
【請求項2】
直径が50~100mmである、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリン化インジウム基板と、前記リン化インジウム基板の主面に設けられたエピタキシャル結晶層と、を有する、半導体エピタキシャルウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ、リン化インジウム単結晶インゴットの製造方法及びリン化インジウム基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン化インジウム(InP)は、インジウムリンとも称される、III族のインジウム(In)とV族のリン(P)とからなるIII-V族化合物半導体材料である。半導体材料としての特性は、バンドギャップ1.35eV、電子移動度~5400cm/V・sであり、高電界下での電子移動度はシリコンや砒化ガリウムといった他の一般的な半導体材料より高い値になるという特性を有している。また、常温常圧下での安定な結晶構造は立方晶の閃亜鉛鉱型構造であり、その格子定数は、ヒ化ガリウム(GaAs)やリン化ガリウム(GaP)等の化合物半導体と比較して大きな格子定数を有するという特徴を有している。
【0003】
単結晶化したInPは、シリコン等と比較して大きな電子移動度を利用して、高速電子デバイスとして用いられる。また、ヒ化ガリウム(GaAs)やリン化ガリウム(GaP)等と比較して大きな格子定数は、InGaAs等の三元系混晶やInGaAsP等の四元系混晶をヘテロエピタキシャル成長させる際の格子不整合率を小さくできる。そのため、これらの混晶化合物を積層して形成する半導体レーザー、光変調器、光増幅器、光導波路、発光ダイオード、受光素子等の各種光通信用デバイスやそれらを複合化した光集積回路用の基板としてInP単結晶は用いられている。
【0004】
上述した各種デバイスを形成するためには、InPを単結晶化したインゴットを所定の結晶方位に薄板(ウエハ)状に切り出してInP基板としたものが用いられる。この基板の基となるInP単結晶インゴットの製造には、特許文献1または2等に開示されているような垂直ブリッジマン法(VB法)、特許文献3等に開示されているような垂直温度勾配凝固法(VGF法)や、特許文献4、5に開示されているような液体封止チョクラルスキー法(LEC法)等といった手段が従来から用いられている。
【0005】
VB法またはVGF法は、容器内に保持した原料融液に対して垂直方向へ温度勾配を形成し、容器か炉の温度分布の何れかを垂直方向へ移動させることで結晶の凝固点(融点)を垂直方向へ連続的に移動させ、容器内の垂直方向に連続的に単結晶を成長させる方法である。VB法やVGF法では垂直方向の固液界面に設定する温度勾配を小さくすることができ、平均的な結晶の転位密度を低く抑えることが可能である。しかし、VB法やVGF法は、結晶成長速度が比較的遅く生産性が低いという問題がある他、容器内での結晶成長であるため、結晶成長にともなって容器から作用する応力によって局所的に高転位密度となる領域が発生する等の短所がある。
【0006】
これに対し、LEC法は、大型シリコン単結晶の一般的な製造方法としても広く用いられているチョクラルスキー法(CZ法)を改変したものであり、単結晶を引き上げるための原料融液表面の気液界面部分を酸化ホウ素(B23)等の軟化点温度の低い酸化物等の液体封止剤で覆い、原料融液中の揮発成分の蒸発による散逸を防ぎつつ原料融液に種結晶を接触させて単結晶インゴットを引き上げ成長させる方法である。LEC法では、先述したVB法やVGF法と比較して、融液と引き上げられる結晶との固液界面に形成される温度勾配が一般的に大きく転位密度が高くなる傾向があるが、結晶成長速度が早く量産に適しているという特徴がある。また、上述した欠点を改善するものとして、LEC法における結晶成長時の固液界面の温度勾配の制御性を高めるため、融液保持容器の上方に熱遮蔽効果を有する隔壁を設けた熱バッフルLEC(TB-LEC)法と称される改良型のLEC法も、特許文献4、5に開示されているように必要に応じて用いられている。
【0007】
LEC法による単結晶の製造方法において、従来、単結晶内にピットと呼ばれる小さな孔の発生を抑制することが課題の一つとして知られている。このような技術として、例えば、特許文献6には、ルツボ内に液体カプセル材で覆われたGaP融液を形成してGaP単結晶の引上げを行う方法において、原料として用いるGaP単結晶を予め減圧下で脱水乾燥処理し、かつルツボに形成したGaP融液内の表面近傍における結晶引上げ軸方向の温度勾配を30℃/cm乃至100℃/cmに設定して単結晶引上げを行うことで、Bピットがエッチングによって現われない、均質で低欠陥のGaP単結晶が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2004/106597号
【文献】特開2008-120614号公報
【文献】特開2000-327496号公報
【文献】国際公開第2005/106083号
【文献】特開2002-234792号公報
【文献】特公平02-040640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
単結晶基板内に発生するピットの種類に着目し、当該ピットの発生を抑制する技術については種々研究されているが、いまだ開発の余地がある。また、単結晶基板内の特定のピットの発生を完全に抑制すると、基板上にエピタキシャル成長を実施した際の表面品質が向上する等の大きな効果がある。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、凹形状の欠陥の発生が抑制されたリン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ、リン化インジウム単結晶インゴットの製造方法及びリン化インジウム基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は一側面において、直径が100mm以下であり、表面に鏡面を有し、前記表面に、波長405nmのレーザー光をS偏光にて照射し検査したとき、前記表面において、トポグラフィーチャンネルで検出される直径20~100μm且つ深さ1~5μmの凹形状の欠陥が0個である、リン化インジウム基板である。
【0012】
本発明のリン化インジウム基板は一実施形態において、直径が50~100mmである。
【0013】
本発明は別の一側面において、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板と、前記リン化インジウム基板の主面に設けられたエピタキシャル結晶層と、を有する、半導体エピタキシャルウエハである。
【0014】
本発明は更に別の一側面において、LEC炉内にルツボを設け、前記ルツボ内に原料及び封止剤を設けて、ヒータ発熱により原料及び封止剤を加熱、融解し、生じた原料融液の表面に種結晶を接触させて、徐々に引き上げることにより、リン化インジウム単結晶の成長を行なうリン化インジウム単結晶インゴットの製造方法において、前記LEC炉内を、15Pa以下の真空状態を保ったまま室温から500℃以上600℃以下まで昇温し、続いて前記LEC炉内の圧力を2.0×106Pa以上4.0×106Pa以下の範囲の任意の圧力となるまで加圧した後、前記種結晶を引き上げてリン化インジウム単結晶の成長を行なう、リン化インジウム単結晶インゴットの製造方法である。
【0015】
本発明は更に別の一側面において、本発明の実施形態に係るリン化インジウム単結晶インゴットの製造方法で製造されたリン化インジウム単結晶インゴットから、リン化インジウム基板を切り出す工程を含む、リン化インジウム基板の製造方法である。
【0016】
本発明のリン化インジウム基板の製造方法は一実施形態において、前記リン化インジウム基板の直径が100mm以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、凹形状の欠陥の発生が抑制されたリン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ、リン化インジウム単結晶インゴットの製造方法及びリン化インジウム基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るLEC法で用いるLEC炉の断面模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るLEC炉内の昇温工程における炉内温度と炉内圧力との関係を示すグラフである。
図3】従来のLEC炉内の昇温工程における炉内温度と炉内圧力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0020】
〔リン化インジウム基板〕
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、少なくとも一方の表面に、波長405nmのレーザー光をS偏光にて照射し検査したとき、当該表面において、トポグラフィーチャンネルで検出される凹形状の欠陥が0個である。ここで、「S偏光」は、入射面に垂直に電界が振動する偏光である。また、「トポグラフィーチャンネルで検出」とは、上述のレーザー光によって、リン化インジウム基板の表面全体をスキャンし、表面からの散乱光をもとに基板表面の凹形状の欠陥を検出することを意味する。また、具体的には、リン化インジウム基板の表面(主面)の最外周3mmを除く全体に対し、KLA Tencor社製Candela8720により、波長405nmのレーザー光をS偏光にてリン化インジウム基板に照射することで、所定の直径を有する凹形状の欠陥をトポグラフィーチャンネルで検出することができる。
【0021】
「凹形状の欠陥」は、基板の表面において、貫通孔ではなく、表面に対して窪んだ形状を有する欠陥を示す。凹形状の欠陥の大きさは特に限定されないが、典型的には、表面真上から見たときの欠陥の外接円の直径が20~100μmである。また、凹形状の欠陥の深さは特に限定されないが、典型的には、表面から1~5μmである。
【0022】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、上述のように表面の凹形状の欠陥が0個であるため、リン化インジウム基板上にエピタキシャル成長を実施して得られた、エピタキシャル成長後の表面の品質が向上し、当該基板を用いたフォトダイオード等の暗電流等の、半導体デバイスの特性が向上する。
【0023】
上述の凹形状の欠陥が0個である表面は、リン化インジウム基板のエピタキシャル結晶層を形成するための主面のみであってもよく、当該主面と裏面との両面であってもよい。
【0024】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、直径が100mm以下である。リン化インジウム基板の直径は、50~100mmであってもよく、50~76.2mmであってもよい。
【0025】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、ドーパントを含んでいてもよい。ドーパントは、S、Zn、Fe、及び、Snから選択される一種以上であってもよい。リン化インジウム基板のドーパント濃度についても限定されず、1×1016~1×1019cm-3であってもよい。
【0026】
〔リン化インジウム単結晶インゴットの製造方法〕
次に、本発明の実施形態に係るリン化インジウム単結晶インゴットの製造方法について、図面に基づいて詳述する。図1は、液体封止チョクラルスキー(LEC)法で用いる炉(LEC炉100)の断面模式図である。LEC炉100内には、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスによって加圧される高圧容器101、及び、ルツボ支持軸105によって回転可能に支持されたルツボ104が設けられている。ルツボ104内には、原料102となるリン化インジウム融液(リン化インジウム多結晶原料)と、B23のような液体の封止剤103が設けられている。また、高圧容器101の上方からは、ルツボ104内に向かって引き上げ軸108が回転可能且つ上下動可能に垂下されている。
【0027】
LEC炉100は、ルツボ104の上方において、引き上げ軸108の下端の側方から、後述の種結晶106までを覆うような熱バッフル111を有し、さらに、ルツボ104の側方のヒータ109を覆う断熱材110を有している。熱バッフル111はこの断熱材110に立脚している。熱バッフル111及び断熱材110は、例えば石英、グラファイト、pBN(熱分解窒化ホウ素)などで構成することができる。
【0028】
次に、上記構成のLEC炉100を用いて、リン化インジウム単結晶の成長を行なう具体例について説明する。まず、ルツボ104内にリン化インジウム多結晶原料と液体の封止剤103としてB23とを入れて、高圧容器101内に設置する。次に、ルツボ104を炉内の最下部に配置する。次に、LEC炉100内を、15Pa以下の真空状態を保ったままヒータ109により炉内を500℃以上600℃以下の一定温度まで昇温する。続いて当該温度を保ったまま、LEC炉100内の圧力を2.0×106Pa以上4.0×106Pa以下の範囲の任意の圧力となるまで加圧する。次に、炉内温度をリン化インジウムが融解する温度まで昇温させた後、原料融液の表面に種結晶106を接触させて、引き上げ軸108を徐々に引き上げることで、種結晶106を引き上げてリン化インジウム単結晶の成長を行なう。
【0029】
上述の原料102の融解温度までの昇温工程について、以下に従来技術との違い及び効果とともに、更に詳述する。LEC法では、一般に、リン(P)の揮発を防ぐために、原料102の融解時に炉内の圧力を高圧にする。従来、原料融解のために、ヒータ109により炉内温度をT1からT3まで加熱すると、図3に示すように、ボイルシャルルの法則により炉内圧力が単調増加する。このような昇温形態によれば、炉内のリン化インジウム多結晶およびB23中に水分等の不純物が残存してしまい、当該水分等の不純物を含んだまま結晶成長が行われると、基板製品に凹形状の欠陥が発生する原因となる。
【0030】
これに対し、上述の本発明の実施形態に係る原料102の融解温度までの昇温工程では、まず、15Pa以下の真空状態(P1)を保ったまま炉内温度を室温T1から一定温度(T2:500℃以上600℃以下)まで昇温させる。T2:500℃以上600℃以下は、水分等の不純物が揮発する温度である。これにより、結晶成長直前の環境下で炉内のホットゾーン(炉内を構成するグラファイト製の保温筒や加熱用ヒータ等の部材及び石英製部材)、原料102のリン化インジウム多結晶及び封止剤103であるB23中に含まれる水分等の不純物を十分に揮発させることができる。また、このT2温度においてB23が軟化する。T1~T2までの昇温速度は15~20℃/minであると、水分の揮発に有利となり、製造効率が向上するため、好ましい。
【0031】
続いて当該温度を保ったまま、LEC炉100内の圧力を2.0×106Pa以上4.0×106Pa以下の範囲の任意の圧力となるまで加圧する(P2)。次に、炉内温度をリン化インジウムが融解する温度(T3)まで昇温させ、多結晶原料を融解させた後、原料融液の表面に種結晶106を接触させて、引き上げ軸108を徐々に引き上げることで、種結晶106を引き上げてリン化インジウム単結晶107の成長を行なう。T2~T3の温度上昇に伴い、ボイルシャルルの法則により、炉内の圧力もP2~P3へと上昇する。T3は1050~1300℃とすることができ、P3は4~5MPaである。
【0032】
LEC法によるリン化インジウム単結晶の引き上げは、通常適用されている条件によって行うことができる。例えば、引き上げ速度5~20mm/時、引き上げ軸回転数5~30rpm、ルツボ支持軸回転数10~20rpm、引き上げ軸方向のB23中の温度勾配130~85℃/cmといった条件で適宜調整して引き上げを行うことができる。
【0033】
次に、結晶の固化率が0.7~0.9となった時点で引き上げ速度を毎時300mm以下とすることによって、結晶肩部が熱バッフル111に接触する直前までに育成結晶を融液から切離す工程を行う。育成結晶の切離し後、ルツボ104を降下させ、炉内温度が室温になるまで冷却した後、結晶を取り出す。これにより、リン化インジウム単結晶インゴットが得られる。なお、本発明において、室温とはLEC炉内のヒータ加熱前の温度をいい、10~30℃程度を意味する。
【0034】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム単結晶インゴットの製造方法では、上述のように、結晶成長直前にLEC炉100内で、結晶成長直前の環境下で炉内のホットゾーン、原料102のリン化インジウム多結晶及び封止剤103であるB23中に含まれる水分等の不純物を十分に揮発させて除去しているため、当該リン化インジウム単結晶インゴットを用いて、凹形状の欠陥の発生が抑制されたリン化インジウム基板を得ることができる。
【0035】
〔リン化インジウム基板の製造方法〕
このようにして得られたリン化インジウム単結晶インゴットから、リン化インジウム単結晶基板を切り出すことで、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板が得られる。より具体的には、以下に例示する工程を経てリン化インジウム単結晶インゴットからリン化インジウム基板を作製することができる。
【0036】
まず、リン化インジウム単結晶インゴットを研削して円筒にする。次に、研削したリン化インジウム単結晶インゴットから、ワイヤーソー等により基板を切り出す。
【0037】
次に、ワイヤーソーによる切断工程において生じた加工変質層を除去するために、切断後の基板をリン酸水溶液及び過酸化水素水の混合溶液等に浸漬することで、表面をエッチングする。
【0038】
次に、基板の外周部分の面取りを行い、100mm以下の直径に加工する。また、面取り後の基板の少なくとも一方の表面、好ましくは両面を研磨する(ラッピング)。
【0039】
次に、研磨後の基板をリン酸水溶液及び過酸化水素水及び超純水の混合溶液等に浸漬することにより、表面エッチングする。
次に、基板の主面を鏡面研磨用の研磨材で研磨して鏡面に仕上げる。
次に、洗浄を行うことで、直径が100mm以下のリン化インジウム単結晶基板が製造される。
【0040】
〔半導体エピタキシャルウエハ〕
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の主面に対し、公知の方法で半導体薄膜をエピタキシャル成長させることで、エピタキシャル結晶層を形成し、半導体エピタキシャルウエハを作製することができる。当該エピタキシャル成長の例としては、リン化インジウム基板の主面に、InAlAsバッファ層、InGaAsチャネル層、InAlAsスペーサ層、InP電子供給層をエピタキシャル成長させたHEMT(High Electron Mobility Transistor)構造を形成してもよい。このようなHEMT構造を有する半導体エピタキシャルウエハを作製する場合、一般には、鏡面仕上げしたリン化インジウム基板に、硫酸/過酸化水素水などのエッチング溶液によるエッチング処理を施して、基板表面に付着したケイ素(Si)等の不純物を除去する。このエッチング処理後のリン化インジウム基板の裏面をサセプターに接触させて支持した状態で、リン化インジウム基板の主面に、分子線エピタキシャル成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)又は有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によりエピタキシャル膜を形成する。
【実施例
【0041】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0042】
(実施例1)
図1に記載した形態のLEC炉を準備した。次に、ルツボ内にリン化インジウム多結晶原料と液体封止剤としてB23とを入れて、高圧容器内に設置した。次に、ルツボを炉内の最下部に位置させた。ここで、本発明における炉内温度とは、ルツボ底のグラファイト製ルツボサセプターに設置した熱電対によって観測した温度とした。
次に、LEC炉内の昇温を行った。昇温条件は、上述の図2で示したグラフに基づくものであり、具体的な数値は後述の表1に示す。まず、圧力P1の真空状態を保ったままヒータにより炉内を室温(T1:20℃)から温度T2まで昇温した。T1~T2までの昇温速度は17℃/minとした。続いて温度T2を保ったまま、LEC炉内の圧力をP2まで上げた。次に、炉内温度をリン化インジウムが融解する温度であるT3まで昇温させた後、原料融液の表面に種結晶を接触させて、引き上げ軸を徐々に引き上げることで、種結晶を引き上げてリン化インジウム単結晶の成長を行なった。ここで、引き上げ速度は10mm/時、引き上げ軸回転数は20rpm、ルツボ支持軸回転数は15rpm、引き上げ軸方向のB23中の温度勾配は110℃/cmとした。
【0043】
次に、結晶の固化率が0.7~0.9となった時点で引上げ速度を毎時300mm以下とすることによって、結晶肩部が熱バッフルに接触する直前までに育成結晶の切離しを行った。育成結晶の切離し後、ルツボを降下させ、炉内温度が室温になるまで冷却した後、結晶を取り出した。これにより、リン化インジウム単結晶インゴットを作製した。
【0044】
このようにして得られたリン化インジウム単結晶インゴットを研削して円筒にし、続いてワイヤーソー等により基板を切り出し、直径が50.0mmのリン化インジウム基板を取得した。
【0045】
(実施例2)
1~T2までの昇温速度を18℃/minとし、昇温条件を表1のように制御したこと以外は、実施例1と同様にリン化インジウム基板を作製した。
【0046】
(比較例1~3)
昇温条件を表1のように制御したこと以外は、実施例1と同様にリン化インジウム基板を作製した。すなわち、比較例1~3では、昇温条件は、上述の図3で示したグラフに基づくものであり、結晶成長直前に炉内を真空状態で昇温させず、従来の通り、炉内を常温・常圧から炉内圧力P2を2.2MPaに加圧してから加熱して原料を溶融させ、原料融液の表面に種結晶を接触させて、引き上げ軸を徐々に引き上げることで、種結晶を引き上げてリン化インジウム単結晶の成長を行なった。
【0047】
(欠陥評価)
作製したリン化インジウム基板の表面(主面)の全体に対し、KLA Tencor社製Candela8720により、波長405nmのレーザー光をS偏光にてリン化インジウム基板に照射することで、直径およそ20μm以上の凹形状の窪んだ欠陥をトポグラフィーチャンネルで検出した。
KLA Tencor社製Candela8720の測定では、凹型形状欠陥、凸型形状欠陥のどちらも欠陥としてカウントすることが可能であるが、本発明では、20μm径以上の凸形状の欠陥が無く、観測されていなかったこと、および水分制御と20μm径以上の凹型形状欠陥の有無に実施例と比較例に差異があったため、凹型欠陥の分析を実施した。すなわち、基板表面において観察対象としているピット(製造工程で結晶成長直前に原料に含まれる水分等の不純物に起因する欠陥)は、Candela8720の測定により凹形状の欠陥として検出することができる。ここで、凹型形状欠陥の検出については、基板に照射したレーザー光のS偏光が、基板表面をスキャンしたときに、凹型形状のスロープを下り、凹型形状底部通過後に昇ることにより、光の反射方向が正反射に対して下方向にずれた後上方向にずれる現象によって識別でき、凸型形状の場合には、凹型形状と光の反射方向が逆の現象となることから、凹型、凸型の識別が可能である。
実施例1~2、比較例1~3のリン化インジウム基板について、それぞれ基板を1枚または複数枚準備して上記の欠陥数を測定し、その平均値を算出した。
製造条件及び評価結果を表1に示す。表1の昇温条件において、P1~P3、T1~T3は、それぞれ図2及び図3のグラフで示されたP1~P3、T1~T3に対応する。
【0048】
【表1】
【0049】
(考察)
実施例1及び2は、LEC炉内を、15Pa以下の真空状態を保ったまま(真空引きをした状態で)500℃以上600℃以下まで昇温し、続いて真空引きを停止し、LEC炉内の圧力を2.0×106Pa以上4.0×106Pa以下の範囲の任意の圧力となるまで純窒素ガス(純度6N、H2O露点-80℃:0.53ppm以下程度)で加圧した後、種結晶を引き上げてリン化インジウム単結晶の成長を行ったため、リン化インジウム基板の表面の凹形状の欠陥がいずれも0個であった。
一方、比較例1~3は、それぞれ従来の昇温条件に基づいてリン化インジウム単結晶の成長を行ったため、リン化インジウム基板の表面の凹形状の欠陥が検出された。
【符号の説明】
【0050】
100 LEC炉
101 高圧容器
102 原料
103 封止剤
104 ルツボ
105 ルツボ支持軸
106 種結晶
107 リン化インジウム単結晶
108 引き上げ軸
109 ヒータ
110 断熱材
111 熱バッフル
図1
図2
図3