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特許7554275検体液の濃縮方法、及び、検体液の検査方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】検体液の濃縮方法、及び、検体液の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/40 20060101AFI20240911BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240911BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240911BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
G01N1/40
G01N33/543 521
G01N1/28 J
G01N1/10 C
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022547459
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030117
(87)【国際公開番号】W WO2022054510
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2020152760
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕康
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳哉
(72)【発明者】
【氏名】油屋 吉宏
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-543110(JP,A)
【文献】特表2008-506930(JP,A)
【文献】特開平02-311506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0111194(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0182795(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0122149(US,A1)
【文献】特開2014-066674(JP,A)
【文献】特開平07-072056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/40,
G01N 33/48,33/543,
B01D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の高吸水性ポリマーが収容されたシリンダーに、高分子を含む水溶液である検体液を注入する、検体液注入工程と、
前記シリンダーに注入された検体液に含まれる水が前記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーによって吸収されて、前記シリンダー中に前記高分子の析出物又は高濃度溶液である検体液濃縮物が生成する、吸水工程と、
前記検体液濃縮物に、前記検体液注入工程でシリンダーに注入された検体液よりも少ない液を添加する、液添加工程と、
前記シリンダーに、前記シリンダーに挿入可能なピストンであって前記高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有する先端部を備えるピストンを挿入することで、前記ピストンの先端部の孔を通して前記検体液濃縮物と前記液添加工程で添加された液との混合物である検体液濃縮液を取り出す、取り出し工程とをこの順に備える、検体液の濃縮方法。
【請求項2】
前記検体液注入工程が、前記シリンダーに前記検体液を注入するとともに、前記シリンダーに注入された検体液の一部を前記液添加工程で添加される液として前記シリンダー中に保持する工程であり、
前記吸水工程が、前記シリンダーに注入された検体液のうち前記液添加工程で添加される液として保持された検体液以外の検体液に含まれる水が前記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーによって吸収されて、前記シリンダー中に前記検体液濃縮物が生成する工程であり、
前記液添加工程が、前記検体液濃縮物に前記液添加工程で添加される液として保持された検体液を添加する工程である、請求項1に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項3】
前記シリンダーが底部に前記液添加工程で添加される液を保持するための液保持部を有し、前記高吸水性ポリマーが前記液保持部の上に前記液保持部に接して前記シリンダーに収容され、
前記検体液注入工程が、前記シリンダーに前記検体液を注入するとともに、前記シリンダーに注入された検体液の一部を前記液添加工程で添加される液として前記液保持部に保持する工程である、請求項2に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項4】
前記液保持部が、前記シリンダーの底部と、前記シリンダーの内周面に前記シリンダーの長手方向に移動可能に設置された隔壁とによって囲まれた部分であり、前記隔壁が前記高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さい孔を有し、
前記液添加工程が、前記隔壁を前記シリンダーの底面まで移動させて、前記液保持部に保持された検体液を前記隔壁の孔を通して前記隔壁の上に導入することで、前記検体液濃縮物に前記液保持部に保持された検体液を添加する工程である、請求項3に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項5】
前記液保持部が、前記シリンダーの底部に収容された多孔質の樹脂が有する孔によって形成された部分であり、前記樹脂が有する孔が前記高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さく、
前記液添加工程が、前記樹脂を圧潰させて、前記液保持部に保持された検体液を前記樹脂の孔を通して前記樹脂の上に導入することで、前記検体液濃縮物に前記液保持部に保持された検体液を添加する工程である、請求項3に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項6】
前記多孔質の樹脂がスポンジである、請求項5に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項7】
前記検体液注入工程が、前記シリンダーに前記検体液を注入するとともに、前記シリンダーに前記ピストンを挿入して、前記ピストンの先端部を前記シリンダーに注入された検体液の液面よりも低く前記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーよりも高い位置に固定することで、前記シリンダーに注入された検体液のうち前記ピストンの先端部の上に存在する検体液を前記液添加工程で添加される液として前記シリンダー中に保持する工程であり、
前記液添加工程が、前記ピストンを引き上げて、前記ピストンの先端部の上に存在する検体液を前記ピストンの先端部の孔を通して前記ピストンの先端部の下に導入することで、前記検体液濃縮物に前記ピストンの先端部の上に存在する検体液を添加する工程である、請求項2に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項8】
前記取り出し工程において、更に、前記取り出された検体液濃縮液を、前記検体液濃縮液を回収するための回収口を有する蓋を用いて回収する、請求項1~7のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項9】
前記高吸水性ポリマーの吸水速度が、高吸水性ポリマー1g当たり0.01g/分以上40g/分以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項10】
前記高吸水性ポリマーの粒子径が、5mm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項11】
前記高吸水性ポリマーの膨潤率が、0.2g/g超800g/g未満である、請求項1~10のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項12】
前記検体液が、生体液中に含まれる高分子を含む水溶液である、請求項1~11のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項13】
前記シリンダーが、更に、前記生体液中に含まれる高分子と特異的に結合する結合物質を含む、請求項12に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項14】
前記結合物質が、金属粒子との複合体として、前記シリンダーに含まれる、請求項13に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項15】
前記生体液中に含まれる高分子が抗原であり、前記結合物質が前記抗原に対する抗体である、請求項13又は14に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項16】
前記シリンダーが、更に、カゼイン及びトリシンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項17】
前記検体液が、尿である、請求項1~16のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法。
【請求項18】
高分子を含む水溶液である検体液中の高分子を検出する、検体液の検査方法であって、
請求項1~17のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法を用いて、前記検体液濃縮液を得る、濃縮工程と、
得られた前記検体液濃縮液中の高分子を検出する、検出工程とをこの順に備える、検体液の検査方法。
【請求項19】
前記検体液が、抗原を含み得る水溶液であり、
前記濃縮工程が、請求項1~17のいずれか1項に記載の検体液の濃縮方法を用いて、前記抗原を含み得る水溶液を濃縮して、抗原濃縮液を得る工程であり、
前記検出工程が、抗原抗体反応を用いたイムノクロマトグラフィーによって前記抗原濃縮液中の抗原を検出する工程である、請求項18に記載の検体液の検査方法。
【請求項20】
前記検出工程が、前記抗原濃縮液中の抗原の情報を増幅する増幅工程を備える、請求項19に記載の検査方法。
【請求項21】
前記増幅工程が、銀増幅工程である、請求項20に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体液の濃縮方法、及び、検体液の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原等の高分子を含む水溶液(以下、「検体液」とも言う)を高吸水性ポリマーによって濃縮する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-355339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者らが特許文献1等を参考にして高吸水性ポリマーを用いた検体液の濃縮方法について検討したところ、検体液の濃縮液(検体液濃縮液)の濃縮倍率を制御することが難しいことが明らかになった。濃縮倍率が制御されていない検体液濃縮液を用いて検査を行った場合、検体液同士の検査結果に比較障害が生じるため問題である。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、所望の濃縮倍率の検体液濃縮液を得ることができる検体液の濃縮方法、及び、上記検体液の濃縮方法を用いた検体液の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、高吸水性ポリマーが収納されたシリンダーに検体液を注入し、検体液中の水が高吸水性ポリマーによってほぼ完全に吸収させて検体液の濃縮物を生成されてから、これに液を添加して、孔の空いたピストンを用いて液を取り出すことで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 粒子状の高吸水性ポリマーが収容されたシリンダーに、高分子を含む水溶液である検体液を注入する、検体液注入工程と、
上記シリンダーに注入された検体液に含まれる水が上記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーによって吸収されて、上記シリンダー中に上記検体液の濃縮物である検体液濃縮物が生成する、吸水工程と、
上記検体液濃縮物に、上記検体液注入工程でシリンダーに注入された検体液よりも少ない液を添加する、液添加工程と、
上記シリンダーに、上記シリンダーに挿入可能なピストンであって上記高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有する先端部を備えるピストンを挿入することで、上記ピストンの先端部の孔を通して上記検体液の濃縮液である検体液濃縮液を取り出す、
取り出し工程とをこの順に備える、検体液の濃縮方法。
(2) 上記検体液注入工程が、上記シリンダーに上記検体液を注入するとともに、上記シリンダーに注入された検体液の一部を上記液添加工程で添加される液として上記シリンダー中に保持する工程であり、
上記吸水工程が、上記シリンダーに注入された検体液のうち上記液添加工程で添加される液として保持された検体液以外の検体液に含まれる水が上記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーによって吸収されて、上記シリンダー中に上記検体液濃縮物が生成する工程であり、
上記液添加工程が、上記検体液濃縮物に上記液添加工程で添加される液として保持された検体液を添加する工程である、上記(1)に記載の検体液の濃縮方法。
(3) 上記シリンダーが底部に上記液添加工程で添加される液を保持するための液保持部を有し、上記高吸水性ポリマーが上記液保持部の上に上記液保持部に接して上記シリンダーに収容され、
上記検体液注入工程が、上記シリンダーに上記検体液を注入するとともに、上記シリンダーに注入された検体液の一部を上記液添加工程で添加される液として上記液保持部に保持する工程である、上記(2)に記載の検体液の濃縮方法。
(4) 上記液保持部が、上記シリンダーの底部と、上記シリンダーの内周面に上記シリンダーの長手方向に移動可能に設置された隔壁とによって囲まれた部分であり、上記隔壁が上記高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さい孔を有し、
上記液添加工程が、上記隔壁を上記シリンダーの底面まで移動させて、上記液保持部に保持された検体液を上記隔壁の孔を通して上記隔壁の上に導入することで、上記検体液濃縮物に上記液保持部に保持された検体液を添加する工程である、上記(3)に記載の検体液の濃縮方法。
(5) 上記液保持部が、上記シリンダーの底部に収容された多孔質の樹脂が有する孔によって形成された部分であり、上記樹脂が有する孔が上記高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さく、
上記液添加工程が、上記樹脂を圧潰させて、上記液保持部に保持された検体液を上記樹脂の孔を通して上記樹脂の上に導入することで、上記検体液濃縮物に上記液保持部に保持された検体液を添加する工程である、上記(3)に記載の検体液の濃縮方法。
(6) 上記多孔質の樹脂がスポンジである、上記(5)に記載の検体液の濃縮方法。
(7) 上記検体液注入工程が、上記シリンダーに上記検体液を注入するとともに、上記シリンダーに上記ピストンを挿入して、上記ピストンの先端部を上記シリンダーに注入された検体液の液面よりも低く上記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーよりも高い位置に固定することで、上記シリンダーに注入された検体液のうち上記ピストンの先端部の上に存在する検体液を上記液添加工程で添加される液として上記シリンダー中に保持する工程であり、
上記液添加工程が、上記ピストンを引き上げて、上記ピストンの先端部の上に存在する検体液を上記ピストンの先端部の孔を通して上記ピストンの先端部の下に導入することで、上記検体液濃縮物に上記ピストンの先端部の上に存在する検体液を添加する工程である、上記(2)に記載の検体液の濃縮方法。
(8) 上記取り出し工程において、更に、上記取り出された検体液濃縮液を、上記検体液濃縮液を回収するための回収口を有する蓋を用いて回収する、上記(1)~(7)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法。
(9) 上記高吸水性ポリマーの吸水速度が、高吸水性ポリマー1g当たり0.01g/分以上40g/分以下である、上記(1)~(8)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法。
(10) 上記高吸水性ポリマーの粒子径が、5mm以下である、上記(1)~(9)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法。
(11) 上記高吸水性ポリマーの膨潤率が、0.2g/g超800g/g未満である、上記(1)~(10)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法。
(12) 上記検体液が、生体液中に含まれる高分子を含む水溶液である、上記(1)~(11)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法。
(13) 上記シリンダーが、更に、上記生体液中に含まれる高分子と特異的に結合する結合物質を含む、上記(12)に記載の検体液の濃縮方法。
(14) 上記結合物質が、金属粒子との複合体として、上記シリンダーに含まれる、上記(13)に記載の検体液の濃縮方法。
(15) 上記生体液中に含まれる高分子が抗原であり、上記結合物質が上記抗原に対する抗体である、上記(13)又は(14)に記載の検体液の濃縮方法。
(16) 上記シリンダーが、更に、カゼイン及びトリシンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記(1)~(15)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法。
(17) 上記検体液が、尿である、上記(1)~(16)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法。
(18) 高分子を含む水溶液である検体液中の高分子を検出する、検体液の検査方法であって、
上記(1)~(17)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法を用いて、上記検体液濃縮液を得る、濃縮工程と、
得られた上記検体液濃縮液中の高分子を検出する、検出工程とをこの順に備える、検体液の検査方法。
(19) 上記検体液が、抗原を含み得る水溶液であり、
上記濃縮工程が、上記(1)~(17)のいずれかに記載の検体液の濃縮方法を用いて、上記抗原を含み得る水溶液を濃縮して、抗原濃縮液を得る工程であり、
上記検出工程が、抗原抗体反応を用いたイムノクロマトグラフィーによって上記抗原濃縮液中の抗原を検出する工程である、上記(18)に記載の検体液の検査方法。
(20) 上記検出工程が、上記抗原濃縮液中の抗原の情報を増幅する増幅工程を備える、上記(19)に記載の検査方法。
(21) 上記増幅工程が、銀増幅工程である、上記(20)に記載の検査方法。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、所望の濃縮倍率の検体液濃縮液を得ることができる検体液の濃縮方法、及び、上記検体液の濃縮方法を用いた検体液の検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の濃縮方法の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち最初の状態を示すものである。
図1B】本発明の濃縮方法の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち検体液注入工程を示すものである。
図1C】本発明の濃縮方法の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち吸水工程を示すものである。
図1D】本発明の濃縮方法の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち抽出液添加工程を示すものである。
図1E】本発明の濃縮方法の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち取り出し工程を示すものである。
図2A】態様A1の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち最初の状態を示すものである。
図2B】態様A1の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち検体液注入工程を示すものである。
図2C】態様A1の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち吸水工程を示すものである。
図2D】態様A1の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち抽出液添加工程を示すものである。
図2E】態様A1の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち取り出し工程を示すものである。
図3A】態様A2の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち最初の状態を示すものである。
図3B】態様A2の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち検体液注入工程を示すものである。
図3C】態様A2の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち吸水工程を示すものである。
図3D】態様A2の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち抽出液添加工程を示すものである。
図3E】態様A2の一態様を工程順に示す模式的断面図のうち取り出し工程を示すものである。
図4A】態様Bの一態様を工程順に示す模式的断面図のうち最初の状態を示すものである。
図4B】態様Bの一態様を工程順に示す模式的断面図のうち検体液注入工程を示すものである。
図4C】態様Bの一態様を工程順に示す模式的断面図のうち吸水工程を示すものである。
図4D】態様Bの一態様を工程順に示す模式的断面図のうち抽出液添加工程を示すものである。
図4E】態様Bの一態様を工程順に示す模式的断面図のうち取り出し工程を示すものである。
図5】本発明の濃縮デバイスの一態様の模式的断面図である。
図6】態様A1の一態様の模式的断面図である。
図7】態様A2の一態様の模式的断面図である。
図8】態様Bの一態様の模式的断面図である。
図9】濃縮デバイス201~204の一部の斜視図である。
図10】濃縮デバイス204の一部の斜視図である。
図11】本発明の検査方法の検出工程で使用される不溶性担体の一態様の模式図である。
図12】イムノクロマトグラフキットの一実施形態の態様を示す斜視図である。
図13】イムノクロマトグラフキットの一実施形態の態様を示す分解概略斜視図である。
図14】検査用ストリップ、第1および第2のポットの位置関係を示す模式側面図である。
図15図12に示すイムノクロマトグラフキットの上部ケースに設けられている第1の凸状変形部の斜視図である。
図16図15に示す第1の凸状変形部の変形前後におけるV-V’線切断部端面図ある。
図17図12に示すイムノクロマトグラフキットの上部ケースに設けられている第2の凸状変形部の斜視図である。
図18図17に示す第2の凸状変形部の変形前後におけるVII-VII’線切断部端面図である。
図19】設計変更例の凸状変形部の変形前後における切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の検体液の濃縮方法、及び、本発明の検体液の検査方法について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において各成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
また、本明細書において、本発明の検体液の濃縮方法において、所望の濃縮倍率の検体液濃縮液を得ることができること、及び、得られる検体液濃縮液の濃度の均一性が高いこと、並びに、本発明の検体液の検査方法において、検出感度が高いこと、及び、S/N比(信号/ノイズ比)が高いことを、本発明の効果等が優れる、とも言う。
【0011】
[1]検体液の濃縮方法
本発明の検体液の濃縮方法(以下、「本発明の濃縮方法」とも言う)は、
粒子状の高吸水性ポリマーが収容されたシリンダーに、高分子を含む水溶液である検体液を注入する、検体液注入工程と、
上記シリンダーに注入された検体液に含まれる水が上記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーによって吸収されて、上記シリンダー中に上記検体液の濃縮物である検体液濃縮物が生成する、吸水工程と、
上記検体液濃縮物に、上記検体液注入工程でシリンダーに注入された検体液よりも少ない液(以下、「抽出液」とも言う)を添加する、液添加工程(以下、「抽出液添加工程」とも言う)と、
上記シリンダーに、上記シリンダーに挿入可能なピストンであって上記高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有する先端部を備えるピストンを挿入することで、上記ピストンの先端部の孔を通して上記検体液の濃縮液である検体液濃縮液を取り出す、取り出し工程とをこの順に備える、検体液の濃縮方法である。
【0012】
最初に図面を用いて本発明の濃縮方法について説明する。
【0013】
図1図1A図1E)は、本発明の濃縮方法の一態様を工程順に示す模式的断面図である。
【0014】
まず、検体液注入工程において、粒子状の高吸水性ポリマー230が収容されたシリンダー211(図1A)に開口部216から検体液240を注入する(図1B)。
【0015】
その後、吸水工程において、検体液240に含まれる水が高吸水性ポリマー230によって吸収されて、シリンダー211中に検体液240の濃縮物である検体液濃縮物246が生成する(高吸水性ポリマー230は膨潤した高吸水性ポリマー232となる)(図1C)。
【0016】
次いで、抽出液添加工程において、検体液注入工程でシリンダー211に注入された検体液よりも少ない抽出液250を添加する(図1D)。
【0017】
そして、取り出し工程において、シリンダー211に、開口部216から、シリンダー211に挿入可能なピストンであって高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径(膨潤した高吸水性ポリマー232の粒子径)よりも小さい孔222を有する先端部221を備えるピストン220を挿入することで、ピストン220の先端部221の孔222を通して検体液240の濃縮液である検体液濃縮液248を取り出す(図1E)。
【0018】
以下、各工程について説明する。
【0019】
[検体液注入工程]
上述のとおり、検体液注入工程は、粒子状の高吸水性ポリマーが収容されたシリンダーに、高分子を含む水溶液である検体液を注入する工程である。
【0020】
〔シリンダー〕
上記シリンダーの形状は特に制限されないが、円筒状であることが好ましい。
上記シリンダーは、通常、長手方向の一方の端は閉じられ(底面)、他方の端は開放されている(開口部)。
【0021】
上記シリンダーの材質は特に制限されないが、射出成型可能で安価で大量に生産できることから、熱可塑性樹脂であることが好ましい。ある程度の硬度を有することから、具体的には、ポリプロピレン、アクリル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂)が好ましい。
【0022】
〔粒子状の高吸水性ポリマー〕
上記シリンダーに収容される粒子状の高吸水性ポリマー(superabsorbent polymer:SAP)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、ポリアクリル酸系、ポリアクリルアミド系、セルロース系、又は、ポリエチレンオキシド系のポリマーであることが好ましい。
【0023】
<膨潤率>
上記高吸水性ポリマーの膨潤率は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、0.2g/g超800g/g未満であることが好ましく、1.0g/g以上600g/g以下であることがより好ましく、10g/g以上500g/g以下であることがさらに好ましく、20g/g以上100g/g以下であることが特に好ましい。
ここで、膨潤率とは、「高吸水性ポリマー1gが保持する水の質量(g)」として定義される値である。
【0024】
(膨潤率の測定方法)
25℃5%RH(相対湿度)で10日間保管した高吸水性ポリマーの質量を測定し、その後すぐに、多量の蒸留水の中に浸漬させる。120分後、高吸水性ポリマーを取り出し、表面の水を除去して、再度質量を測定し、以下の計算式を用いて膨潤率を測定する。
{(吸水後の質量(g)-吸水前の初期質量(g))/吸水前の初期質量(g)}
【0025】
膨潤率を上述した特定の範囲に調整する方法は特に制限されないが、ポリマーの種類を変更する、ポリマーの分子量を変更する、架橋度を変更する、粒子径を変更する等の方法が挙げられる。
【0026】
<吸水速度>
上記高吸水性ポリマーの吸水速度は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、高吸水性ポリマー1g当たり0.01g/分以上40g/分以下であることが好ましく、高吸水性ポリマー1g当たり0.02g/分以上40g/分以下であることがより好ましい。
【0027】
上記吸水速度は以下のように測定する。
25℃5%RH(相対湿度)で10日間保管した高吸水性ポリマーの質量を測定し(重量M、単位g)、その後すぐに、多量の蒸留水の中に浸漬させる。10分後、高吸水性ポリマーを取り出し、表面の水を除去して、質量を測定する(質量M10)。質量測定後ただちに、多量の蒸留水の中に再び浸漬させる。10分後、高吸水性ポリマーを取り出し、表面の水を除去して、再度質量を測定する(質量M20)。質量M20の測定後ただちに、多量の蒸留水の中に再び浸漬させる。10分後、高吸水性ポリマーを取り出し、表面の水を除去して、再度重量を測定する(質量M30)。
【0028】
以下のように吸水量を定義する。
10分間の吸水量: ΔM10 = (M10-M)/M20分間の吸水量: ΔM20 = (M20-M)/M30分間の吸水量: ΔM30 = (M30-M)/M
上記のように定義した吸水量を用いて、以下のように吸水速度を求める。
横軸時間(x=10,20,30;単位 分)と縦軸吸水量(y=ΔM10、ΔM20、ΔM30;単位 g水/gポリマー量)としてX-Y平面に3点をプロットし、最小二乗法を用いた時間に対する吸水量の直線近似式の傾きを、単位時間(分)あたりの吸水速度とする。
【0029】
<粒子径>
上記高吸水性ポリマーの粒子径は、本発明の効果等がより優れる理由から、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましい。上記高吸水性ポリマーの粒子径の下限は、本発明の効果等がより優れる理由から、0.01mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、1mm以上であることがさらに好ましい。
ここで、上記粒子径は、光学顕微鏡により50個の粒子状のポリマーの直径を測定し、その算術平均値として求めることができる。
【0030】
〔生体液中に含まれる高分子と特異的に結合する結合物質〕
上記シリンダーは、本発明の効果等がより優れる理由から、更に、後述する検体液中の生体液中に含まれる高分子と特異的に結合する結合物質を含むのが好ましい。上記シリンダーが上記結合物質を含む場合、例えば、検体液の濃縮と同時に抗原抗体反応が進行し、検体液中の抗原と標識抗体との複合体が濃縮された状態で形成され、検出感度の向上に繋がる。
上記結合物質としては、例えば、後述する第1の結合物質(特に抗体)が挙げられる。すなわち、本発明において、本発明の効果等がより優れる理由から、上記生体液中に含まれる高分子が抗原であり、上記結合物質が抗体であるのが好ましい。
上記結合物質は、本発明の効果等がより優れる理由から、標識物質との複合体として、上記シリンダーに含まれるのが好ましい。
上記複合体としては、例えば、標識抗体が挙げられる。
ここで、標識抗体とは、検出が可能な標識物質が結合した抗体のことであり、標識物質とは、例えば、検出が可能な物質であり、直接、検出が可能な物質、例えば、色、蛍光、光等の電磁波を生じ得る物質、あるいは、色、蛍光、光等の電磁波を散乱し得る物質であり、更には、発光前駆体や発色前駆体と相互作用することで発光体あるいは発色体を形成する酵素等、を含む物質あるいは状態である。
上記標識抗体は、本発明の効果等がより優れる理由から、可視光などの電磁波の照射により鮮やかな色調を呈する金属粒子で修飾された抗体であることが好ましい。上記金属粒子は、本発明の効果等がより優れる理由から、金粒子であることがより好ましい。上記標識抗体は、本発明の効果等がより優れる理由から、金粒子で標識された抗体、即ち、抗体で修飾された金粒子(後述する修飾金粒子)であることが好ましい。
上記標識抗体は、抗体で修飾された金コロイド粒子である修飾金コロイド粒子が保持されたパッド(金コロイド保持パッド)として、上記シリンダーに含まれていてもよい。
【0031】
〔カゼイン、トリシン〕
上記シリンダーは、本発明の効果等がより優れる理由から、更に、カゼイン及びトリシンからなる群より選択される少なくとも1種を含むのが好ましく、カゼイン及びトリシンの両方を含むのがより好ましい。
カゼインは偽陽性を抑制する働きがあると考えられる。また、尿など検体液のpHが酸性よりである場合、偽陽性が発生し易いところ、トリシンはpHを中性~アルカリ性に調整して偽陽性を抑制する働きがあると考えられる。
【0032】
〔抽出液保持部〕
上記シリンダーは、本発明の効果等がより優れる理由から、後述する好適な態様に示されるように、底部に後述する抽出液を保持するための液保持部(以下、「抽出液保持部」とも言う)を有するのが好ましい。上記抽出液保持部については後述する。
【0033】
〔検体液〕
上記検体液は、高分子を含む水溶液である。なかでも、生体液中に含まれる高分子を含む水溶液であることが好ましい。
上記検体液の具体例としては、動物(特にヒト)の体液(例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙液、汗、尿、膿、鼻水、又は喀痰)、うがい液等を挙げることができる。この中で、高分子としての抗原が含まれる検体として、血清、血漿、尿、鼻水であることが好ましく、本発明の効果等がより優れる理由から、尿であることが特に好ましい。
【0034】
<生体液中に含まれる高分子>
上記生体液中に含まれる高分子(特に抗原)としては、例えば、主として疾病の判断に有用な高分子であり、生体液中から検出される、菌、細菌(例えば、結核菌、結核菌に含まれるリポアラビノマンナン(LAM))、バクテリア、ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)や、それらの核タンパク質等が挙げられる。なお、LAMは、結核における主要な抗原であり、細胞膜および細胞壁の主要構成成分である糖脂質である。
上記生体液中に含まれる高分子は、本発明の効果等がより優れる理由から、抗原であることが好ましく、ウイルス(特に、インフルエンザウイルス)又はLAMであることがより好ましく、LAMであることがさらに好ましい。
生体液中に含まれる高分子の分子量は、本発明の効果等がより優れる理由から、1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましい。分子量は、疾病の判断に有用な高分子であって構造式が既知の高分子である場合には構造式から計算される理論値を用いることができる。また、構造式が確定していない場合には、電気泳動法を用いて分子量が既知の物質との比較により算出する方法や、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により求めることが可能である。
【0035】
<検体液の前処理>
上記検体液は、検体液をそのままで、又は、抗原を適当な抽出用溶媒を用いて抽出して得られる液の形で、更には、抽出して得られる液を適当な希釈剤で希釈して得られる希釈液の形、若しくは抽出して得られる液を適当な方法で濃縮した形で、用いることができる。
上記抽出用溶媒としては、通常の免疫学的分析法で用いられる溶媒(例えば、水、生理食塩液、又は緩衝液等)、あるいは、かかる溶媒で希釈することにより直接抗原抗体反応を実施することができる水混和性有機溶媒を用いることもできる。
【0036】
〔検体液に対する高吸水性ポリマーの割合〕
上記検体液に対する上記高吸水性ポリマーの割合は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、検体液1mLに対して、0.01~100gであることが好ましく、0.1~50gであることがより好ましい。
【0037】
[吸水工程]
上述のとおり、吸水工程は、上述した検体液注入工程でシリンダーに注入された検体液に含まれる水が上記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーによって吸収されて、上記シリンダー中に上記検体液の濃縮物である検体液濃縮物が生成する工程である。
吸水工程では、通常、検体液中の水が高吸水性ポリマーによってほぼ完全に吸収されるまで静置する。
【0038】
〔検体液濃縮物〕
上述のとおり、吸水工程では、シリンダー中に検体液の濃縮物である検体液濃縮物が生成する。
検体液と高吸水性ポリマーとを混合した場合、検体液中の水は高吸水性ポリマーに取り込まれるのに対して、検体液中の高分子(例えば、抗原)は、ある程度の流体力学半径を有するため、高吸水性ポリマーの表面の網目構造がふるい効果を生み出し、高吸水性ポリマーに取り込まれ難い。結果として、検体液中の高分子(例えば、抗原)が濃縮される。
検体液濃縮物は、通常、高吸水性ポリマーの近傍に、高分子の析出物、又は、微量の残液に溶解した高分子の高濃度溶液として存在する。
【0039】
[抽出液添加工程]
上述のとおり、抽出液添加工程は、上述した吸水工程で生成した検体液濃縮物に、上述した検体液注入工程でシリンダーに注入された検体液よりも少ない抽出液を添加する工程である。
抽出液は、吸水工程で生成した検体液濃縮物を抽出する(取り出す)役目を有する。
抽出液を添加する方法は特に制限されず、例えば、シリンダーの開口部から入れる方法、スポイト等を用いてシリンダーの底部に送液する方法等が挙げられる。
【0040】
〔抽出液〕
上記抽出液は特に制限されないが、必要に応じて緩衝剤や界面活性剤、その他添加物により機能を持たせることもできる。上記抽出液は、本発明の効果等がより優れる理由から、緩衝液であることが好ましく、PBS(Phosphate buffered salts)であることがより好ましい。
また、後述する好適な態様に示されるように、検体液の一部を抽出液と使用するのでもよい。
【0041】
上記抽出液の量は、検体液を濃縮する観点から、シリンダーに注入される検体液の量よりも少ない。なお、後述する好適な態様に示されるように検体液の一部を抽出液として使用した場合、抽出液の量はシリンダーに注入される検体液の量よりも必然的に少なくなる。
シリンダーに注入される検体液の量に対する抽出液の量の割合(抽出液/検体液)は体積比で100%未満であればよいが、本発明の効果等がより優れる理由から、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、0.01%以上10%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
[取り出し工程]
上述のとおり、取り出し工程は、上述した吸水工程後のシリンダーに、上記シリンダーに挿入可能なピストンであって上述した高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有する先端部を備えるピストンを挿入することで、上記ピストンの先端部の孔を通して上述した検体液の濃縮液である検体液濃縮液を取り出す工程である。
取り出し工程では、シリンダーにピストンを挿入し、孔を有する先端部を高吸水性ポリマーに対して押し込む。このとき、抽出液が高吸水性ポリマーの間隙をくまなく移動しながら上方に集まるため、このときの撹拌効果によって、均一な検体液濃縮液が得られる。
【0043】
〔ピストン〕
上記ピストンはシリンダーに挿入可能なピストンであって上述した高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有する先端部を備えるピストンである。
【0044】
上記ピストンの材質は特に制限されず、その好適な態様は上述したシリンダーと同じである。
【0045】
上述のとおり、ピストンの先端部は上述した高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有する。なお、高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径は、50個の粒子状のポリマーの直径を測定し、その算術平均値として求めることができる。
上記先端部の孔の径は、本発明の効果等がより優れる理由から、高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径の1/2以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましく、1/10以下であることがさらに好ましい。
上記先端部の孔の径は、本発明の効果等がより優れる理由から、高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さいことが好ましい。
上記先端部の孔の径は、本発明の効果等がより優れる理由から、0.01~5mmであることが好ましく、0.1~2mmであることがより好ましい。
上記先端部が有する孔の数は特に制限されないが、10~100であることが好ましく、20~50であることがより好ましい。
上記先端部の面積に対する上記先端部の孔の総面積の割合は、本発明の効果等がより優れる理由から、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。
【0046】
〔検体液濃縮液〕
上述のとおり、取り出し工程では、検体液濃縮液が得られる。検体液濃縮液の量はおよそ抽出液の量である。すなわち、検体液濃縮液の濃縮倍率はおよそ検体液/抽出液となる。そのため、検体液と抽出液の量を一定にすることで所望の濃縮倍率の検体液濃縮液を得ることができる。
【0047】
〔回収口を有する蓋〕
上記取り出し工程においては、本発明の効果等がより優れる理由から、更に、上述のとおり取り出された検体液濃縮液を、検体液濃縮液を回収するための回収口を有する蓋を用いて回収するのが好ましい。
上記蓋の具体的な態様としては、例えば、後述する実施例1で使用されるような蓋(図9)が挙げられる。
【0048】
[好適な態様]
本発明の濃縮方法の好適な態様としては、上述した本発明の濃縮方法において、
上記検体液注入工程が、上記シリンダーに上記検体液を注入するとともに、上記シリンダーに注入された検体液の一部を上記抽出液として上記シリンダー中に保持する工程であり、
上記吸水工程が、上記シリンダーに注入された検体液のうち上記抽出液として保持された検体液以外の検体液に含まれる水が上記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーによって吸収されて、上記シリンダー中に上記検体液濃縮物が生成する工程であり、
上記抽出液添加工程が、上記検体液濃縮物に上記抽出液として保持された検体液を添加することで上記検体液濃縮液を得る工程である、態様が挙げられる。
【0049】
上記好適な態様では、検体液の一部を抽出液として使用するため、別途抽出液を用意する必要がなく、ユーザビリティを向上させることができる。
【0050】
また、上記好適な態様の具体的な態様としては、例えば、以下の2つの態様(好適な態様A、好適な態様B)が挙げられる。
【0051】
(1)好適な態様A
好適な態様Aは、上記好適な態様において、
上記シリンダーが底部に上記抽出液を保持するための抽出液保持部を有し、上記高吸水性ポリマーが上記抽出液保持部の上に上記抽出液保持部に接して上記シリンダーに収容され、
上記検体液注入工程が、上記シリンダーに上記検体液を注入するとともに、上記シリンダーに注入された検体液の一部を上記抽出液として上記抽出液保持部に保持する工程である、態様である。
【0052】
好適な態様Aの具体的な態様としては、例えば、後述する態様A1~A2が挙げられる。
【0053】
(2)好適な態様B(態様B)
態様Bは、上記好適な態様において、
上記検体液注入工程が、上記シリンダーに上記検体液を注入するとともに、上記シリンダーに上記ピストンを挿入して、上記ピストンを上記シリンダーに注入された検体液の液面よりも低く上記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーよりも高い位置に固定することで、上記シリンダーに注入された検体液のうち上記ピストンの上に存在する検体液を上記抽出液として上記シリンダー中に保持する工程であり、
上記抽出液添加工程が、上記ピストンを引き上げて、上記ピストンの上に存在する検体液を上記ピストンの孔を通して上記ピストンの下に導入することで、上記検体液濃縮物に上記ピストンの上に存在する検体液を添加する工程である、態様である。
【0054】
〔態様A1〕
態様A1は、上述した好適な態様Aにおいて、
上記抽出液保持部が、上記シリンダーの底部と、上記シリンダーの内周面に上記シリンダーの長手方向に移動可能に設置された隔壁とによって囲まれた部分であり、上記隔壁が上記高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さい孔を有し、
上記抽出液添加工程が、上記隔壁を上記シリンダーの底面まで移動させて、上記抽出液保持部に保持された検体液を上記隔壁の孔を通して上記隔壁の上に導入することで、上記検体液濃縮物に上記抽出液保持部に保持された検体液を添加する工程である、態様である。
【0055】
図面を用いて態様A1について説明する。
図2図2A図2E)は、態様A1の一態様を工程順に示す模式的断面図である。
【0056】
まず、検体液注入工程において、粒子状の高吸水性ポリマー230が収容されたシリンダー212(図2A)に開口部216から検体液240を注入する(図2B)。
ここで、シリンダー212は、シリンダー212の内周面にシリンダー212の長手方向に移動可能に設置された隔壁260を有する。また、上記隔壁260は、高吸水性ポリマー230の吸水前の粒子径よりも小さい孔262を有する。また、上記高吸水性ポリマー230は、隔壁260の上に隔壁260に接してシリンダー212に収容されている。
上述のとおりシリンダー212に検体液240を注入した場合、検体液240の一部は隔壁260の孔262を通って、隔壁260の下に導入される。そして、後述する吸水工程においては、検体液240のうち隔壁260の上に存在する検体液242に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によって吸収され、検体液240のうち隔壁260の下に存在する検体液241に含まれる水は高吸水性ポリマー230によって吸収されない。
すなわち、検体液注入工程は、シリンダー212に検体液240を注入するとともに、シリンダー212に注入された検体液の一部(検体液241)を後述する抽出液添加工程で添加される抽出液として、シリンダー212の底部217と、隔壁260とによって囲まれた部分(抽出液保持部)に保持する工程となる。
【0057】
その後、吸水工程において、検体液240のうち隔壁260の上に存在する検体液242(検体液240のうち抽出液として保持された検体液241以外の検体液242)に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によって吸収されて、シリンダー211中に検体液242の濃縮物である検体液濃縮物246が生成する(高吸水性ポリマー230は膨潤した高吸水性ポリマー232となる)(図2C)。
【0058】
次いで、抽出液添加工程において、隔壁260をシリンダー212の底面218まで移動させて、抽出液保持部に保持された検体液241を隔壁260の孔262を通して隔壁260の上に導入することで、検体液濃縮物246に抽出液保持部に保持された検体液241を添加する(図2D)。なお、図2Dでは、シリンダー212に、開口部216から、後述する取り出し工程で使用されるピストン220を挿入することで、高吸水性ポリマー232を押し下げて隔壁260をシリンダー212の底面218まで移動させているが、隔壁260を移動させる方法はこれに限られず、例えば、隔壁260が移動する機構をピストン220と独立に設けてもよい。また、隔壁260を移動させる代わりに、底面218をシリンダー212の長手方向に移動可能なものとし、底面218を隔壁260まで移動させて、抽出液保持部に保持された検体液241を隔壁260の孔262を通して隔壁260の上に導入することで、検体液濃縮物246に抽出液保持部に保持された検体液241を添加するのでもよい。
【0059】
そして、取り出し工程において、シリンダー212に、シリンダー212に挿入可能なピストンであって高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径(膨潤した高吸水性ポリマー232の粒子径)よりも小さい孔222を有する先端部221を備えるピストン220を挿入することで、ピストン220の先端部221の孔222を通して検体液240の濃縮液である検体液濃縮液248を取り出す(図2E)。
【0060】
<隔壁>
上述のとおり、上記態様A1では、シリンダーは隔壁を備える。
上記隔壁の材質は特に制限されず、その好適な態様は上述したシリンダーと同じである。
【0061】
上述のとおり、上記隔壁は上述した高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さい孔を有する。そのため、高吸水性ポリマーは隔壁の下に落ちない。
上記隔壁の孔の径は、本発明の効果等がより優れる理由から、高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径の2/3以下であることが好ましい。
上記隔壁の孔の径は、本発明の効果等がより優れる理由から、0.05~5mmであることが好ましく、0.1~3mmであることがより好ましく、0.2~2mmであることがさらに好ましい。
上記先端部が有する上記隔壁の孔の数は特に制限されないが、10~100であることが好ましく、20~50であることがより好ましい。
上記隔壁の面積に対する上記隔壁の孔の総面積の割合は、本発明の効果等がより優れる理由から、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。
【0062】
〔態様A2〕
態様A2は、上述した好適な態様Aにおいて、
上記抽出液保持部が、上記シリンダーの底部に収容された多孔質の樹脂が有する孔によって形成された部分であり、上記樹脂が有する孔が上記高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さく、
上記抽出液添加工程が、上記樹脂を圧潰させて、上記抽出液保持部に保持された検体液を上記樹脂の孔を通して上記樹脂の上に導入することで、上記検体液濃縮物に上記抽出液保持部に保持された検体液を添加する工程である、態様である。
【0063】
図面を用いて態様A2について説明する。
図3図3A図3E)は、態様A2の一態様を工程順に示す模式的断面図である。
【0064】
まず、検体液注入工程において、粒子状の高吸水性ポリマー230が収容されたシリンダー213(図3A)に開口部216から検体液を注入する(図3B)。
ここで、シリンダー213の底部217には多孔質の合成樹脂270が収容されている。合成樹脂270の有する孔(図示せず)は、高吸水性ポリマー230の吸水前の粒子径よりも小さい。また、高吸水性ポリマー230は、合成樹脂270の上に合成樹脂270に接してシリンダー213に収容されている。
上述のとおりシリンダー213に検体液を注入した場合、検体液の一部は合成樹脂270の孔に導入される(合成樹脂270は、検体液の一部である検体液241(図示せず)が孔に導入された合成樹脂272となる)。そして、後述する吸水工程においては、検体液のうち合成樹脂270の上に存在する検体液242に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によって吸収され、検体液のうち合成樹脂270の孔に存在する検体液241に含まれる水は高吸水性ポリマー230によって吸収されない。
すなわち、検体液注入工程は、シリンダー213に検体液を注入するとともに、シリンダー213に注入された検体液の一部(検体液241)を後述する抽出液添加工程で添加される抽出液として、シリンダー213の底部217に収容された多孔質の合成樹脂270が有する孔(抽出液保持部)に保持する工程となる。
【0065】
その後、吸水工程において、検体液のうち合成樹脂270の上に存在する検体液242(検体液のうち抽出液として保持された検体液241以外の検体液242)に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によって吸収されて、シリンダー213中に検体液242の濃縮物である検体液濃縮物246が生成する(高吸水性ポリマー230は膨潤した高吸水性ポリマー232となる)(図3C)。
【0066】
次いで、抽出液添加工程において、合成樹脂270を圧潰させて、抽出液保持部に保持された検体液241を合成樹脂270の孔を通して合成樹脂270の上に導入することで、検体液濃縮物246に抽出液保持部に保持された検体液241を添加する(図3D)。
なお、図3Dでは、シリンダー213に、開口部216から、後述する取り出し工程で使用されるピストン220を挿入することで、高吸水性ポリマー232を押し下げて合成樹脂270を圧潰させているが、合成樹脂270を圧潰させる方法はこれに限られず、例えば、合成樹脂270を圧潰させる機構をピストン220と独立に設けてもよい。
【0067】
そして、取り出し工程において、シリンダー213に、シリンダー213に挿入可能なピストンであって高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径(膨潤した高吸水性ポリマー232の粒子径)よりも小さい孔222を有する先端部221を備えるピストン220を挿入することで、ピストン220の先端部221の孔222を通して検体液の濃縮液である検体液濃縮液248を取り出す(図3E)。
【0068】
<樹脂>
上述のとおり、上記態様A2において、シリンダーは多孔質の樹脂を備える。
上記樹脂としては、自然界に存在する樹脂や、合成樹脂のいずれの使用も可能であるが、成形の容易さや大量に安価に生産可能な観点から合成樹脂である態様が好ましい。
上記合成樹脂の材質は特に制限されないが、その具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。
上記樹脂は、本発明の効果等がより優れる理由から、スポンジであることが好ましい。
【0069】
上記樹脂の孔は、上述した高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さい。そのため、高吸水性ポリマーは樹脂の中に入らない。
上記樹脂の空隙率(空隙の体積/空隙を含めた樹脂の体積)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、50%以上であることが好ましく、70%以上99%以下であることがより好ましく、70%以上98%以下であることがさらに好ましい。
【0070】
〔態様B〕
図面を用いて態様Bについて説明する。
図4図4A図4E)は、態様Bの一態様を工程順に示す模式的断面図である。
【0071】
まず、検体液注入工程において、粒子状の高吸水性ポリマー230が収容されたシリンダー214(図4A)に開口部216から検体液240を注入するとともに、シリンダー214に、シリンダー214に挿入可能なピストンであって高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径よりも小さい孔222を有する先端部221を備えるピストン224を挿入して、ピストン224の先端部221をシリンダー214に注入された検体液240の液面244よりも低くシリンダー214に収容された高吸水性ポリマー230よりも高い位置(以下、「位置A」とも言う)に固定する(図4B)。なお、シリンダー214とピストン224は、ピストン224の先端部221を、高吸水性ポリマー230の吸水膨張に伴い圧力に抗して、位置Aに固定する、ピストン位置固定機構(図示せず)を備える。
上述のとおりシリンダー214に検体液240を注入するとともに、シリンダー214にピストン224を挿入して、ピストン224の先端部221を位置Aに固定した場合、検体液の一部はピストン224の先端部221の孔222を通って、ピストン224の先端部221の上に導入される。そして、後述する吸水工程においては、検体液240のうちピストン224の先端部221の下に存在する検体液242に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によって吸収され、検体液240のうちピストン224の先端部221の上に存在する検体液241に含まれる水は高吸水性ポリマーによって吸収されない。
すなわち、検体液注入工程は、シリンダー214にピストン224を挿入して、ピストン224の先端部221を位置Aに固定することで、シリンダー214に注入された検体液240のうちピストン224の先端部221の上に存在する検体液241を後述する抽出液添加工程で添加される抽出液として保持する工程となる。
【0072】
その後、吸水工程において、検体液240のうちピストン224の先端部221の下に存在する検体液242(検体液240のうち抽出液として保持された検体液241以外の検体液242)に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によって吸収されて、シリンダー214中に検体液242の濃縮物である検体液濃縮物246が生成する(高吸水性ポリマー230は膨潤した高吸水性ポリマー232となる)(図4C)。
【0073】
次いで、抽出液添加工程において、ピストン224を引き上げて、ピストン224の先端部221の上に存在する検体液241をピストン224の先端部221の孔222を通してピストン224の先端部221の下に導入することで、検体液濃縮物246にピストン224の先端部221の上に存在する検体液241を添加する(図4D)。
【0074】
そして、取り出し工程において、シリンダー214に、ピストン224を挿入することで、ピストン224の先端部221の孔222を通して検体液240の濃縮液である検体液濃縮液248を取り出す(図4E)。
【0075】
<ピストン位置固定機構>
上述のとおり、上記態様Bにおいて、上記シリンダーと上記ピストンは、上記ピストンの先端部を、上述した高吸水性ポリマーの吸水膨張に伴い圧力に抗して、上述した位置Aに固定する、ピストン位置固定機構を備える。
上記ピストン位置固定機構は特に制限されないが、例えば、後述する実施例4(図10)に示されるような、シリンダーが切り欠きを備え、ピストンが突起を備え、ピストンをシリンダーに挿入し、ピストンの突起をシリンダーの切り欠きに引っ掛けることで、ピストンの先端部を、高吸水性ポリマーの吸水膨張に伴う圧力に抗して、位置Aに固定することができるものが挙げられる。
【0076】
[2]濃縮デバイス
次に、上述した本発明の濃縮方法で用いられる濃縮デバイス(以下、「本発明の濃縮デバイス」とも言う)について説明する。
【0077】
本発明の濃縮デバイスは、
粒子状の高吸水性ポリマーが収容されたシリンダーと、上記シリンダーに挿入可能なピストンとを備える、高分子を含む水溶液である検体液を濃縮するための濃縮デバイスであって、
上記ピストンが上記高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有する濃縮デバイスである。
【0078】
最初に図面を用いて本発明の濃縮デバイスについて説明する。
【0079】
図5は、本発明の濃縮デバイスの一態様の模式的断面図である。
図5に示されるように、濃縮デバイス201は、高吸水性ポリマー230が収容されたシリンダー211と、上記シリンダー211に挿入可能なピストン220とを備える。上記ピストン220は、上記高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径よりも小さい孔222を有する先端部221を備える。
【0080】
[好適な態様]
本発明の濃縮デバイスの具体的な態様としては、例えば、以下の2つの態様(好適な態様A、好適な態様B)が挙げられる。
【0081】
(1)好適な態様A
好適な態様Aは、
粒子状の高吸水性ポリマーが収容されたシリンダーと、上記シリンダーに挿入可能なピストンとを備える、高分子を含む水溶液である検体液を濃縮するための濃縮デバイスであって、
上記シリンダーが、底部に、上記シリンダーに注入された検体液の一部を抽出液として保持するための抽出液保持部を有し、上記抽出液保持部の容積が上記シリンダーに注入される検体液のうち上記抽出液保持部に保持される検体液以外の検体液の体積よりも小さく、
上記高吸水性ポリマーが、上記抽出液保持部の上に上記抽出液保持部に接して上記シリンダーに収容され、
上記ピストンが、上記高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有し、
上記高吸水性ポリマーが、上記シリンダーに注入された検体液のうち上記抽出液保持部に保持された検体液以外の検体液に含まれる水を吸収し、上記シリンダー中に上記検体液の濃縮物である検体液濃縮物を生成し、
上記抽出液保持部に保持された検体液が、上記検体液濃縮物に添加されることで、上記検体液の濃縮液である検体液濃縮液を生成し、
上記ピストンが、上記シリンダーに挿入されることで、上記ピストンの孔から上記検体液濃縮液を取り出す、濃縮デバイスである。
【0082】
上記好適な態様Aの具体的な態様としては、例えば、後述する態様A1~A2が挙げられる。
【0083】
(2)好適な態様B(態様B)
態様Bは、
粒子状の高吸水性ポリマーが収容されたシリンダーと、上記シリンダーに挿入可能なピストンとを備える、高分子を含む水溶液である検体液を濃縮するための濃縮デバイスであって、
上記ピストンが、上記高吸水性ポリマーの吸水後の粒子径よりも小さい孔を有する先端部を備え、
上記ピストンの先端部を上記シリンダーに注入された検体液の液面よりも低く上記シリンダーに収容された高吸水性ポリマーよりも高い位置に固定することで、上記ピストンの先端部の上部に注入された検体液の一部を抽出液として保持するための抽出液保持部を有し、
上記抽出液保持部の容積が上記シリンダーに注入される検体液のうち上記抽出液保持部に保持される検体液以外の検体液の体積よりも小さく、上記高吸水性ポリマーが上記抽出液保持部の下に上記ピストンを介して上記シリンダーに収容され、
上記シリンダーと上記ピストンが、上記ピストンの先端部を、上記高吸水性ポリマーの吸水膨張に伴う圧力に抗して、上記位置に固定する、ピストン位置固定機構を備え、
上記高吸水性ポリマーが、上記シリンダーに注入された検体液のうち上記抽出液保持部に保持された検体液以外の検体液に含まれる水を吸収し、上記シリンダー中に上記検体液の濃縮物である検体液濃縮物を生成し、
上記ピストン位置固定機構を解除し上記ピストンを引き上げて、上記ピストンの先端部の上に存在する抽出液を上記ピストンの先端部の孔を通して上記ピストンの先端部の下に導入することで、上記検体液濃縮物に上記ピストンの上に存在する検体液を添加し、
上記ピストンが、上記シリンダーに再び引き下げることで、上記ピストンの先端部の孔から上記検体液の濃縮液である検体液濃縮液を取り出す、濃縮デバイスである。
【0084】
〔態様A1〕
態様A1は、上述した好適な態様Aにおいて、
上記抽出液保持部が、上記シリンダーの底部と、上記シリンダーの内周面に上記シリンダーの長手方向に移動可能に設置された隔壁とによって囲まれた部分であり、上記隔壁が上記高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さい孔を有し、
上記隔壁が、上記シリンダーの底面まで移動されることで、上記抽出液保持部に保持された検体液を上記隔壁の孔を通して上記隔壁の上に導入し、
上記隔壁の上に導入された検体液が、上記検体液濃縮物に添加される、態様である。
【0085】
図面を用いて態様A1について説明する。
図6は、態様A1の一態様の模式的断面図である。
図6に示されるように、濃縮デバイス202は、高吸水性ポリマー230が収容されたシリンダー212と、上記シリンダー212に挿入可能なピストン220とを備える。上記ピストン220は、上記高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径よりも小さい孔222を有する先端部221を備える。
ここで、シリンダー212は、シリンダー212の内周面にシリンダー212の長手方向に移動可能に設置された隔壁260を有する。また、上記隔壁260は、高吸水性ポリマー230の吸水前の粒子径よりも小さい孔262を有する。また、上記高吸水性ポリマー230は、隔壁260の上に隔壁260に接してシリンダー212に収容されている。
本発明の濃縮方法の態様A1で述べたとおり、シリンダー212の底部217と隔壁260とによって囲まれた部分は抽出液保持部となる。
【0086】
〔態様A2〕
態様A2は、上述した好適な態様Aにおいて、
上記抽出液保持部が、上記シリンダーの底部に収容された多孔質の樹脂が有する孔によって形成された部分であり、上記樹脂が有する孔が上記高吸水性ポリマーの吸水前の粒子径よりも小さく、
上記樹脂が、圧潰されることで、上記抽出液保持部に保持された検体液を上記樹脂の孔を通して上記樹脂の上に導入し、
上記樹脂の上に導入された検体液が、上記検体液濃縮物に添加される、態様である。
【0087】
図面を用いて態様A2について説明する。
図7は、態様A2の一態様の模式的断面図である。
図7に示されるように、濃縮デバイス203は、高吸水性ポリマー230が収容されたシリンダー213と、上記シリンダー213に挿入可能なピストン220とを備える。上記ピストン220は、上記高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径よりも小さい孔222を有する先端部221を備える。
ここで、上記シリンダー213の底部217には多孔質の合成樹脂270が収容されている。また、上記合成樹脂270が有する孔(図示せず)は高吸水性ポリマー230の吸水前の粒子径よりも小さい。また、上記高吸水性ポリマー230は、合成樹脂270の上に合成樹脂270に接してシリンダー213に収容されている。
本発明の濃縮方法の態様A2で述べたとおり、合成樹脂270が有する孔は抽出液保持部となる。
【0088】
〔態様B〕
図面を用いて態様Bについて説明する。
図8は、態様Bの一態様の模式的断面図である。
図8に示されるように、濃縮デバイス204は、高吸水性ポリマー230が収容されたシリンダー214と、上記シリンダー214に挿入可能なピストン224とを備える。上記ピストン224は、上記高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径よりも小さい孔222を有する先端部221を備える。シリンダー214とピストン224は、ピストン224の先端部221を、高吸水性ポリマー230の吸水膨張に伴い圧力に抗して、位置Aに固定する、ピストン位置固定機構(図示せず)を備える。
【0089】
[回収口を有する蓋]
本発明の濃縮デバイスは、本発明の効果等がより優れる理由から、更に、上述した検体液濃縮液を回収するための回収口を有する蓋を備えるのが好ましい。
上記蓋の具体的な態様としては、例えば、後述する実施例1で使用されるような蓋(図9)が挙げられる。
【0090】
[3]本発明の検体液の検査方法
本発明の検体液の検査方法(以下、「本発明の検査方法」とも言う)は、
高分子を含む水溶液である検体液中の高分子を検出する、検体液の検査方法であって、
上述した本発明の検体液の濃縮方法(上述した本発明の濃縮方法)を用いて、上記検体液濃縮液を得る、濃縮工程と、
得られた上記検体液濃縮液中の高分子を検出する、検出工程とをこの順に備える、検査方法である。
【0091】
本発明の検査方法では、上述した本発明の濃縮方法で得られた検体液濃縮液を用いて高分子の検出を行うため、高い検出感度が得られる。
【0092】
[濃縮工程]
本発明の濃縮方法を用いて検体液濃縮液を得る方法については上述のとおりである。
【0093】
[検出工程]
検出工程は、検体液濃縮液中の高分子を検出する工程である。
検出工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、抗原抗体反応を用いる方法であることが好ましく、そのような方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、固相酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ウエスタンブロット法、イムノクロマトグラフィー等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、イムノクロマトグラフィーが好ましい。
【0094】
[好適な態様]
本発明の検査方法は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上記検体液が、抗原(高分子)を含み得る水溶液であり、
上記濃縮工程が、上述した本発明の濃縮方法を用いて、上記抗原を含み得る水溶液を濃縮して、抗原濃縮液(検体液濃縮液)を得る工程であり、
上記検出工程が、抗原抗体反応を用いたイムノクロマトグラフィーによって上記抗原濃縮液中の抗原を検出する工程である、検査方法であるのが好ましい。
【0095】
ここで、上記検出工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上記抗原濃縮液中の抗原と、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である修飾金粒子との複合体である金粒子複合体を形成させた状態で、上記抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化された反応部位を有する不溶性担体に展開する、展開工程と、
上記不溶性担体の反応部位において、上記金粒子複合体を捕捉する、捕捉工程とを備えるのが好ましい。
上記検出工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
さらに、上記捕捉工程で捕捉された金粒子複合体を銀増幅する、銀増幅工程を備えるのが好ましい。
ここで、本発明の効果等がより優れる理由から、上記第1の結合物質及び上記第2の結合物質の少なくとも一方はモノクローナル抗体であることが好ましく、上記第1の結合物質及び上記第2の結合物質の両方がモノクローナル抗体であることがより好ましい。
【0096】
なお、検体液中には、塩等の夾雑物が含まれる場合がある。例えば、検体液が尿である場合、尿素等の低分子成分の夾雑物が含まれる。本発明者らの検討から、生体液中に含まれる高分子と一緒にこれらの夾雑物が濃縮された場合、抗原抗体反応が阻害され、検出感度が低下してしまう場合があることが知見されている。すなわち、濃縮による検出感度の向上効果が十分に得られない場合があることが分かっている。
そのため、上述した濃縮工程で用いられる上述した本発明の濃縮デバイスにおいて、高吸水性ポリマーの膨潤率は夾雑物等を十分に吸収可能とする上述した好適な範囲であることが好ましい。上記範囲であると、これらの夾雑物は水と一緒に高吸水性ポリマーに取り込まれ、上述したような検出感度の低下は生じ難く、結果として、生体液中に含まれる高分子に対して極めて高い検出感度が達成されるものと考えられる。
【0097】
以下、上記好適な態様(以下、「本発明の方法」とも言う)が備える各工程について説明する。
【0098】
〔展開工程〕
展開工程は、上述した濃縮工程で得られた抗原濃縮液中の抗原と、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である修飾金粒子との複合体である金粒子複合体を形成させた状態で、上記抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化された反応部位を有する不溶性担体に展開する工程である。
【0099】
<金粒子複合体>
上述のとおり、展開工程では、まず、上述した濃縮工程で得られた抗原濃縮液中の抗原と、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である修飾金粒子との複合体である金粒子複合体を形成させる。なお、検体液の濃縮と同時に検体液中の抗原と標識抗体との複合体を形成している場合には、抗原濃縮液をそのまま不溶性担体に展開するだけでもよい。
【0100】
(修飾金粒子)
修飾金粒子は、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である。
【0101】
(1)金粒子
金粒子は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、金コロイド粒子であることが好ましい。
金粒子は、本発明の方法が後述する銀増幅工程を備える場合、銀増幅工程において銀イオンを還元する触媒として働く。
【0102】
上記金粒子の粒子径は、本発明の効果等がより優れる理由から、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。
上記金粒子の粒子径の下限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。
【0103】
なお、粒子径は、市販の粒度分布計等で計測することができる。粒度分布の測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。粒子径の測定方法としては、粒子径範囲および測定の容易さから、動的光散乱法を好ましく用いることができる。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB-550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子(株))等が挙げられ、本発明においては、25℃の測定温度で測定したメジアン径(d=50)の値として求める。
【0104】
(2)第1の結合物質
第1の結合物質は上記抗原と結合し得るものであれば特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、タンパク質であることが好ましく、抗体(例えば、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体)であることがより好ましく、モノクローナル抗体であることがより高い検出感度を実現する観点でさらに好ましい。
上記抗体は特に制限されないが、例えば、抗原によって免疫された動物の血清から調製する抗血清や、抗血清から精製された免疫グロブリン画分を用いることが可能であり、また、抗原によって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、又はFv]を用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行うことができる。
【0105】
抗原がインフルエンザウイルスである場合の、第1の結合物質の一例としては、市販の抗体が使用でき、例えば、抗インフルエンザA型モノクローナル抗体(Anti-Influenza A SPTN-5 7307、Medix Biochemica社)や、抗インフルエンザA型モノクローナル抗体(Bios Pacific社製、クローンナンバー:A60010044P)が挙げることができる。
また、抗原がLAMである場合の、第1の結合物質の一例としては、国際公開2017/139153号に記載のA194-01抗体が挙げられる。A194-01抗体に関する国際公開2017/139153号に記載の内容はすべて本明細書の開示の一部として本明細書中に援用される。
抗原がLAMである場合の、第1の結合物質の別の一例としては、国際公開2013/129634号の段落番号[0080]においてMoAb1として記載される配列を有する抗体を挙げることができる。MoAb1抗体に関する国際公開2013/129634号に記載の内容はすべて本明細書の開示の一部として本明細書中に援用される。
【0106】
(3)修飾金粒子の製造方法
上記修飾金粒子を製造する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、金とSH基とが化学結合することを利用し、抗体にSH基を導入後、金粒子と接近するときにSH結合が開裂してAu表面上に生成するAu-S結合で固定化させる等の化学的な結合方法が挙げられる。
【0107】
<不溶性担体>
上記不溶性担体(多孔性担体)は、上記抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化された反応部位(テストライン)を有する不溶性担体である。不溶性担体は、抗原の種類に合わせて複数のテストラインを有していてもよい(例えば、インフルエンザA型ウイルス用のテストラインとインフルエンザB型用のテストライン)。また、不溶性担体は、上記金粒子複合体の展開を確認するために、テストラインより下流側にコントロールラインを有していてもよい。また、後述する銀増幅工程において還元剤液を用いる場合には、還元剤液を検出するために、テストラインより下流側に発色試薬固定化ラインを有していてもよい。
上記不溶性担体の具体的な態様としては、例えば、図11に示されるような、上流側から、金コロイド保持パッド301、テストライン302、コントロールライン303、発色試薬固定化ライン304を有するニトロセルロースメンブレン300が挙げられる。ここで、金コロイド保持パッド301は第1の結合物質で修飾された金粒子(修飾金粒子)を保持するパッドであり、テストライン302は第2の結合物質が固定化されたラインであり、コントロールライン303は展開を確認するためのラインであり、発色試薬固定化ライン304は後述する還元剤液を検出するためのラインである。ここで上流側、下流側とは、金粒子複合体が展開する際、上流側から下流側に向けて展開することを意図した記載を意味する。
上記不溶性担体(又はこれを有するイムノクロマトグラフキット)のより具体的な態様としては、例えば、特許第5728453号公報に記載の不溶性担体及びイムノクロマトグラフキットが挙げられ、不溶性担体及びイムノクロマトグラフキットに関する特許第5728453号公報に記載の内容はすべて本明細書の開示の一部として本明細書中に援用される。
【0108】
(不溶性担体)
不溶性担体は、多孔性担体が好ましい。特に、本発明の効果等がより優れる理由から、ニトロセルロース膜(ニトロセルロースメンブレン)、セルロース膜、アセチルセルロース膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布、または糸等が好ましく、ニトロセルロース膜がより好ましい。
【0109】
(第2の結合物質)
第2の結合物質は上記抗原と結合し得るものであれば特に制限されない。
第2の結合物質の具体例及び好適な態様は、例えば、上述した第1の結合物質に記載した具体例及び好適な態様と同じものが挙げられる。第2の結合物質は、上述した第1の結合物質と同じであっても異なってもよいが、本発明の効果等がより優れる理由から、異なる物質である態様が好ましい。
また、第1の結合物質及び第2の結合物質が抗体である場合、第1の結合物質である抗体と第2の結合物質である抗体は、本発明の効果等がより優れる理由から、異なる態様が好ましい。
また、第1の結合物質及び第2の結合物質が抗体である場合、第1の結合物質のエピトープ(第1の結合物質が認識する抗原の一部)と第2の結合物質のエピトープ(第2の結合物質が認識する抗原の一部)は、本発明の効果等がより優れる理由から、異なる態様が好ましい。抗体のエピトープが異なることは、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)によって確認することができる。
【0110】
<展開>
金粒子複合体を形成させた状態でテストラインを有する不溶性担体に展開する方法は特に制限されないが、例えば、上述した図11に示されるようなニトロセルロースメンブレン300(又はこれを有するイムノクロマトグラフキット)を準備して、上述した濃縮工程で得られた抗原濃縮液を金コロイド保持パッドに滴下し、図11に示されるように上流側から下流側に毛細管現象を利用して移動させる方法等が挙げられる。
【0111】
〔捕捉工程〕
捕捉工程は、上記不溶性担体の反応部位において、上記金粒子複合体を捕捉する工程である。
上述のとおり、不溶性担体の反応部位には抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化されているため、上記展開工程で不溶性担体に展開された金粒子複合体(抗原と修飾金粒子との複合体)は、不溶性担体の反応部位(テストライン)で捕捉される。
捕捉された金粒子複合体は金粒子の表面プラズモン等により着色するため、視認できる。また、画像解析装置等を用いて、捕捉された複合体の濃度を見積もることもできる。このようにして、試料中の抗原を検出することができる。
なお、試料が抗原を含まない場合には上記金粒子複合体が形成されないため、不溶性担体の反応部位で捕捉されず、着色しない。
【0112】
〔銀増幅工程〕
銀増幅工程は、上記捕捉工程で捕捉された金粒子複合体を銀増幅する工程である。
銀増幅工程は、上記捕捉工程後の不溶性担体に銀イオンを付与することで、不溶性担体の反応部位で捕捉された金粒子複合体に大きな銀粒子を形成する工程である。より詳細には、上記金粒子複合体の金粒子を触媒として銀イオンが還元され、銀粒子(例えば、直径10μm以上)が形成される工程である。
これにより、捕捉された金粒子複合体の検出感度が著しく向上する。
なお、展開工程とともに銀増幅工程を行ってもよく、銀増幅工程が展開工程を兼ねていてもよい。
【0113】
<好適な態様>
上記捕捉工程後の不溶性担体に銀イオンを付与する方法は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、下記還元剤液及び下記銀増幅液を使用する方法が好ましい。
また、還元剤液及び銀増幅液に加えて、特異的な結合反応以外で不溶性担体に残存している複合体を洗浄するために洗浄液を使用してもよい。上記還元液は洗浄液を兼ねていてもよい。
【0114】
(還元剤液)
上記還元剤液は、銀イオンを還元し得る還元剤を含有する。銀イオンを還元し得る還元剤は、銀イオンを銀に還元することができれば、無機・有機のいかなる材料、またはその混合物でも用いることができる。無機還元剤としては、Fe2+、V2+、Ti3+、などの金属イオンで原子価の変化し得る還元性金属塩、還元性金属錯塩を好ましく挙げることができる。無機還元剤を用いる際には、酸化されたイオンを錯形成するか還元して、除去するか無害化する必要がある。例えば、Fe2+を還元剤として用いる系では、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いて酸化物であるFe3+の錯体を形成し、無害化することができる。本発明ではこのような無機還元剤を用いることが好ましく、本発明のより好ましい態様としては、Fe2+の金属塩を還元剤として用いることが好ましい。
【0115】
なお、湿式のハロゲン化銀写真感光材料に用いられる現像主薬(例えばメチル没食子酸塩、ヒドロキノン、置換ヒドロキノン、3-ピラゾリドン類、p-アミノフェノール類、p-フェニレンジアミン類、ヒンダードフェノール類、アミドキシム類、アジン類、カテコール類、ピロガロール類、アスコルビン酸(またはその誘導体)、およびロイコ色素類)、および本分野での技術に熟練しているものにとって明らかなその他の材料、例えば米国特許第6,020,117号に記載されている材料も還元剤として用いることができる。
【0116】
還元剤としては、アスコルビン酸還元剤も好ましい。有用なアスコルビン酸還元剤は、アスコルビン酸とその類縁体、異性体とその誘導体を含み、例えば、D-またはL-アスコルビン酸とその糖誘導体(例えばγ-ラクトアスコルビン酸、グルコアスコルビン酸、フコアスコルビン酸、グルコヘプトアスコルビン酸、マルトアスコルビン酸)、アスコルビン酸のナトリウム塩、アスコルビン酸のカリウム塩、イソアスコルビン酸(又はL-エリスロアスコルビン酸)、その塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩又は当技術分野において知られている塩)、エンジオールタイプのアスコルビン酸、エナミノールタイプのアスコルビン酸、チオエノ-ルタイプのアスコルビン酸等を好ましく挙げることができ、特にはD、LまたはD,L-アスコルビン酸(そして、そのアルカリ金属塩)若しくはイソアスコルビン酸(またはそのアルカリ金属塩)が好ましく、ナトリウム塩が好ましい塩である。必要に応じてこれらの還元剤の混合物を用いることができる。
【0117】
還元剤液は、本発明の効果等がより優れる理由から、展開工程における展開方向と還元剤液の展開方向との間の角度が0度~150度になるように流すのが好ましく、展開工程における展開方向と還元剤液の展開方向との間の角度が0度~135度になるように流すのがより好ましい。
なお、展開工程における展開方向と還元剤液の展開方向との間の角度を調節する方法としては、例えば、特開2009-150869号公報の実施例に記載の方法等が挙げられる。
【0118】
(銀増幅液)
上記銀増幅液は、銀イオンを含む化合物を含有する液である。銀イオンを含む化合物としては、例えば、有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体を用いることができる。好ましくは、水などの溶媒に対して溶解度の高い銀イオン含有化合物である、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、酪酸銀、チオ硫酸銀などが挙げられる。特に好ましくは硝酸銀である。銀錯体としては、水酸基やスルホン基など水溶性基を有する配位子に配位された銀錯体が好ましく、ヒドロキシチオエーテル銀等が挙げられる。
【0119】
有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体は、銀として銀増幅液に0.001mol/L~5mol/L、好ましくは0.005mol/L~3mol/L、更には0.01mol/L~1mol/Lの濃度で含有されることが好ましい。
【0120】
銀増幅液の助剤としては、緩衝剤、防腐剤、例えば酸化防止剤または有機安定剤、速度調節剤等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウムまたはこれらの塩のうちの一つ、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いた緩衝剤、その他一般的化学実験に用いられる緩衝剤を用いることができる。これら緩衝剤を適宜用いて、その増幅溶液に最適なpHに調整することができる。また、カブリ防止剤としてアルキルアミンを助剤として用いることができ、特に好ましくはドデシルアミンである。またこれら助剤の溶解性向上のため、界面活性剤を用いることができ、特に好ましくはC19-C-O-(CHCHO)50Hである。
【0121】
銀増幅液は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した展開工程と逆方向から流すのが好ましく、展開工程における展開方向と還元剤液の展開方向との間の角度が45度~180度になるように流すのがより好ましい。
なお、展開工程における展開方向と銀増幅液の展開方向との間の角度を調節する方法としては、例えば、特開2009-150869号公報の実施例に記載の方法等が挙げられる。
【0122】
[4]検査キット
本発明の検査キットは、
高分子を含む水溶液である検体液中の高分子を検出するための検査キットであって、
上述した本発明の濃縮デバイスと、
上述した本発明の濃縮方法を用いて得られた検体液濃縮液中の高分子を検出する検出デバイスと、
を備える、検査キットである。
【0123】
[濃縮デバイス]
本発明の濃縮デバイスについては上述のとおりである。
【0124】
[検出デバイス]
上記検出デバイスは、本発明の効果等がより優れる理由から、イムノクロマトグラフであることが好ましい。
【0125】
上記検出デバイスは、本発明の効果等がより優れる理由から、
生体液中に含まれる高分子を検出するための検査領域を有する不溶性担体を含む検査用ストリップと、上記検査領域における検査信号を増幅するための第1の増幅液及び第2の増幅液がそれぞれ封入された第1のポット及び第2のポットと、上記検査用ストリップ、上記第1のポット及び上記第2のポットを内包するハウジングケースとを備える、検出デバイスであるのが好ましい。
【0126】
〔好適な態様〕
上記検出デバイスは、本発明の効果等がより優れる理由から、
試料液(検体液)中の被検物質(生体液中に含まれる高分子)を検出するイムノクロマトグラフキットであって、
試料液を展開させる、被検物質の検査領域を有する不溶性担体を含む検査用ストリップと、
検査領域における検出信号を増幅するための、第1の増幅液および第2の増幅液がそれぞれ封入された、シート部材を備えた一面を有する第1のポットおよび第2のポットと、
検査用ストリップ、第1のポットおよび第2のポットを内包するハウジングケースとを備え、
ハウジングケースが、検査用ストリップが配置される収容部を備えた下部ケースと、下部ケースと周縁で接合された上部ケースと、上部ケースと下部ケースとの間に配置された中間部材とを備えてなり、
中間部材が、第1のポットのシート部材を破断する破断部を、第1のポットのシート部材に面して備え、
上部ケースが、第1のポットに対向する部分に、外部から押圧力が加えられることにより、第1のポット側に変形して、第1のポットのシート部材を中間部材の破断部により破断する第1の凸状変形部と、第2のポットに対向する部分に、外部から押圧力を加えることにより、第2のポット側に変形して第2のポットのシート部材を破断する第2の凸状変形部とを備えてなるイムノクロマトグラフキット(以下、「本発明のイムノクロマトグラフキット」又は単に「イムノクロマトグラフキット」とも言う)であることが好ましい。
【0127】
本発明のイムノクロマトグラフキットにおいては、第1の凸状変形部が、押圧力が加えられることにより、第1のポットを、シート部材が中間部材の破断部により破断される位置まで移動させるものであることが好ましい。
このとき、上部ケースが、第1の凸状変形部に押圧力を加えた際に第1のポットに当接して移動させる、第1のポット側に向かって立設された2つの突起部を備えることが好ましい。
【0128】
本発明のイムノクロマトグラフキットにおいては、第1の凸状変形部が中央対称な山型形状を有していることが好ましい。
また、このとき、2つの突起部が、山型形状の頂上に対して対称に配置されていることが好ましい。
また、2つの突起部が、山型形状の頂上を挟む斜面に互いに独立して形成されていることも好ましい。
【0129】
本発明のイムノクロマトグラフキットにおいては、第1の凸状変形部が上述の2つの突起部を備えているとき、この2つの突起部が、第1のポットの当接面の中央に対して対称に配置されていることが好ましい。
また、2つの突起部が、第1のポットの当接面の中央から端部までの距離の半分よりも端部側に配置されていることが好ましい。
【0130】
なお、本明細書において凸状変形部は、イムノクロマトグラフキットの外部から見た場合に凸状であることを意味する、また、山型形状も同様に、外部から見て山型であることを意味する。
【0131】
本発明のイムノクロマトグラフキットにおいては、第1の凸状変形部が上述の2つの突起部を備えているとき、この2つの突起部のそれぞれの先端が第1のポットに当接し、徐々に端部側に変位しつつ第1のポットを移動させるように構成することができる。
【0132】
本発明のイムノクロマトグラフキットにおいては、第1の凸状変形部を構成する材質の曲げ弾性率が50MPa~350MPaであることが好ましい。
また、上部ケースを構成する材質の曲げ弾性率が50MPa~350MPaであり、下部ケースを構成する材質の曲げ弾性率が500MPa~900MPaであることが好ましい。
【0133】
本発明のイムノクロマトグラフキットにおいては、上部ケースが、射出成形により第1の凸状変形部および第2の凸状変形部を一体的に形成されてなるものであることが好ましい。
【0134】
本発明のイムノクロマトグラフキットは、上部ケースが、第1のポットに対向する部分に、外部から押圧力が加えられることにより、第1のポット側に変形して、第1のポットのシート部材を中間部材の破断部により破断する第1の凸状変形部と、第2のポットに対向する部分に、外部から押圧力を加えることにより、第2のポット側に変形して第2のポットのシート部材を破断する第2の凸状変形部とを備え、2つの凸状変形部にヒトが指等で押圧力を加えることで、変形させて、ポットのシート部材を破断させることができ、増幅液を検査用ストリップに供給することができるため、電源を要する専用の分析装置がなくても、増幅反応を正常に行うことができる。従って本発明のイムノクロマトグラフキットは専用の分析装置を備えていない、あるいは分析装置が使用できない非常時、災害時等において特に有用である。
【0135】
以下、本発明のイムノクロマトグラフキットの実施形態について図面を用いて説明するが、本発明のイムノクロマトグラフキットはこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜変化させてある。
【0136】
図12は、本発明の実施形態にかかるイムノクロマトグラフキット100の概略斜視図であり、図13は、図12のイムノクロマトグラフキット100の分解概略斜視図である。
図12および図13に示すように、本実施形態のイムノクロマトグラフキット100は、試料液を展開させる、被検物質の検査領域を有する不溶性担体2(多孔性担体2)を含む検査用ストリップ1と、検査領域における検出信号を増幅するための、第1の増幅液41および第2の増幅液46がそれぞれ封入された、シート部材を備えた一面を有する第1のポット40および第2のポット45とがハウジングケース9に内包されてなる。ハウジングケース9は、検査用ストリップ1が配置される収容部21を備えた下部ケース20と、下部ケース20と周縁で接合された上部ケース10と、上部ケース10と下部ケース20との間に配置された中間部材30とを備えてなる。なお、イムノクロマトグラフキット100を説明するに当たっては、上部ケース10側を上、下部ケース20側を下と定義する。
【0137】
中間部材30は、第1のポット40を受容し、第1の増幅液41を不溶性担体2上に滴下させるための増幅液充填孔を底面に備えたポット収容部32を有している。また、ポット収容部32内の第1のポット40のシート部材43に面する位置にシート部材43を破断する突起状の破断部34が設けられている。本例においては、ポット収容部32の上方に第1のポット40が、そのシート部材43を有する面が下面となるように配置されており、そのシート部材43に対向するポット収容部32の底面に破断部34が設けられている(図14参照)。
また中間部材30のポット収容部32の底面の下流側に延在する流路形成部35を備えている。流路形成部35は、検査領域L、確認領域Lおよび増幅指標領域Lの上方位置に一致して配置され、これらの領域L~Lを視認可能とするために透明な材料で形成されている。
【0138】
上部ケース10は、第1のポット40に対向する部分に、外部から押圧力が加えられることにより、第1のポット40側に変形してその第1のポット40のシート部材43を中間部材30の破断部34により破断させる第1の凸状変形部12を備えている。また、上部ケース10は、第2のポット45に対向する部分に、外部から押圧力を加えることにより、第2のポット45側に変形して第2のポット45のシート部材48を破断する第2の凸状変形部14を備えている。
また、上部ケース10には、試料液滴下用開孔16が設けられており、この開孔16から検査用ストリップ1の標識保持パッド3上に試料液が滴下される。開孔16と標識保持パッド3との位置が一致するように、標識保持パッド3の位置を調整することで、標識保持パッド3上に確実に試料液を点着することが可能となる。また、上部ケース10は、中間部材30の流路形成部35に対応する位置に3つの領域L~Lを視認するための観察窓18を備えている。
【0139】
下部ケース20には、検査用ストリップ1が配置される収容部として、不溶性担体2が載置される不溶性担体収容部21およびその下流側に吸収パッド6が載置される吸収パッド収容部22が設けられている。また、不溶性担体収容部21の上流側には第2のポット45が収容される第2のポット収容部24が設けられている。
【0140】
図14は、検査用ストリップ1、中間部材30および2つのポット40、45の位置関係を示す模式的断面図である。検査用ストリップ1は、図14に示すように、試料液を展開させる不溶性担体2と、不溶性担体2上に固定された被検物質に結合可能な第1の物質で修飾された標識物質を含む標識保持パッド3と、不溶性担体2の一端に接触して配置された第2の増幅液46を不溶性担体2に送液する送液用パッド4と、不溶性担体2の他端に接触して配置された吸収パッド6とを備えている。不溶性担体2はバック粘着シート7上に固定されて支持されている。そして、不溶性担体2は、標識保持パッド3と吸収パッド6との間に、被検物質に結合する第2の物質を含む検査領域L、第1の物質に結合可能な物質を含む確認領域L、第2の増幅液と反応する物質を含む増幅指標領域Lを標識保持パッド3側から順に有する。
【0141】
なお、本明細書において検査領域L、確認領域Lおよび増幅指標領域Lが形成されてなる不溶性担体2をクロマトグラフ担体と称する場合がある。また、本明細書においては、図14に記載のように送液用パッド4側を上流、吸収パッド6側を下流として定義する。
【0142】
中間部材30は検査用ストリップ1の下流端側の上部に位置されており、第1のポット40はシート部材43を下にして、中間部材30のポット収容部32中に配置されている。第2のポット45はシート部材48を上にして、下部ケース20の検査用ストリップ1の上流端の下方に収容されている。
【0143】
図14に示されているように、中間部材30の流路形成部35の裏面36と、検査用ストリップ1の不溶性担体2との間には、隙間(クリアランス)Dが形成される。この隙間Dは0.01mm~1mmの範囲にあることが好ましい。0.01mm以上であれば増幅液等を充分浸潤させることができ、1mm以下であれば毛細管力が発揮され、第1の増幅液41により不溶性担体2と中間部材30の隙間を均一に満たすことが可能である。
【0144】
第1の増幅液41が封入された第1のポット40は、例えば樹脂材料から構成された一面に開口を有する容器42に第1の増幅液41が充填され、その容器42の開口が破断可能なシート部材43により覆われ封止されている。
第2の増幅液46が封入された第2のポット45も同様に、例えば樹脂材料から構成された一面に開口を有する容器47に第2の増幅液46が充填され、その容器47の開口が破断可能なシート部材48により覆われ封止されている。
第1のポット40および第2のポット45における破断可能なシート部材43、48としては、アルミ箔やアルミラミシートなどのラミネートフィルムが好適に使用される。ここで、破断とは、破れた後に再生しない状態をいう。
【0145】
上部ケースの2か所の凸状変形部12、14について詳細に説明する。
図15は、第1の凸状変形部12を示す斜視図であり、図16図15のV-V’線切断端面図であって、図16のAは第1の凸状変形部12の変形前、図16のBは変形後を表し、第1のポット40との位置関係を示す図である。
【0146】
第1の凸状変形部12は、押圧力が加えられることにより、第1のポット40を、シート部材43が中間部材30の破断部34により破断される位置まで移動させるものである。具体的には、第1の凸状変形部12は、指等により押下することによって、下方に押し込むことができるように構成されており、第1の凸状変形部12を下に凸となるように(外部からみると凹部状に)変形させることによって、中間部材30のポット収容部32内の破断部34により第1のポット40のシート部材43が破断される位置まで、第1のポット40を破断部34に向けて移動させる。これにより、破断部34が第1のポット40のシート部材43を突き破り、第1の増幅液41を外部に供給することが可能となる。中間部材30のポット収容部32の底面に設けられている増幅液充填孔から不溶性担体2の上部に第1の増幅液41が滴下されて不溶性担体上の検査領域L、確認領域Lおよび増幅指標領域Lに第1の増幅液41を供給することが可能となる。なお、この際、増幅液充填孔から不溶性担体2の上部に滴下された第1の増幅液41は、中間部材30と不溶性担体2との隙間に充填されていき、隙間を通って検査領域L、確認領域Lおよび増幅指標領域Lの上方に供給されて、徐々に不溶性担体2に浸透する。
【0147】
図16に示すように、第1の凸状変形部12は、第1のポット40に対向する位置に第1のポット40側に向かって立設された2つの突起部12bを備えている。第1の凸状変形部12に押圧力が加えられて変形する際に、この2つの突起部12bが第1のポット40に当接して第1のポット40を移動させるように構成されている。
第1の凸状変形部12は、中央対称な山型形状を有しており、2つの突起部12bが、山型形状の頂上12aに対して対称に配置されており、頂上12aを挟む斜面12cの下方(裏面)に互いに独立して形成されている。
【0148】
また、図16のAに示すように、第1の凸状変形部12は、変形前において、2つの突起部12bが第1のポット40の当接面の中央に対して対称な位置となるように上部ケース10に形成されている。そして、中間部材30の破断部34が図16中に破線で示すように、第1のポット40のシート部材43の下方に位置している。第1の凸状変形部12に押圧力が付与されて変形する際には、2つの突起部12bが、2つの突起部12bのそれぞれの先端が第1のポット40に当接し、徐々に端部側に変位しつつ第1のポット40を移動させる。そして、図16のBに示すように、凸状変形部12の変形後には、2つの突起部12bの間隔が拡がり、2つの突起部12bの先端は、互いに第1のポット40の当接面の中央から端部までの距離の半分よりも端部側に位置することとなる。本実施形態においては、2つの突起部12bが独立して設けられて、その突起部12bの間(頂上12a裏面)に隙間を有しており、凸状変形部12が柔軟な素材で形成されていることにより、2つの突起部12b間を大きく拡げつつ、第1のポット40を押下させている。
【0149】
突起部12bの形状や配置は上記形態に限らず、例えば、変形前において、2つの突起部12bが、第1のポット40の当接面の中央から端部までの距離の半分よりも端部側となる位置に設けられていてもよい。
【0150】
第1のポット40を移動させる第1の凸状変形部12としては、突起部12bが2本あることにより、第1のポット40を2か所で均等に押すことができるので、第1のポット40を平行に移動させることができる。
第1の凸状変形部12は指等で押すことにより、容易に変形し、第1の凸状変形部12は下に凸状(凹部状)になる。この押圧後には凹部状が戻らず、第1のポット40を押し付けた状態を維持できる構成となっていることが好ましい。第1の凸状変形部12は頂上12aを押圧するように構成されているが、山型形状の斜面を押さえることによっても、凸状変形部12の弾性により同様に変形可能である。
【0151】
図17は、第2の凸状変形部14を示す斜視図であり、図18図17のVII-VII’線切断端面図であって、図18のAは第2の凸状変形部14の変形前、図18のBは変形後を表し、第2のポット45との位置関係を併せて示す図である。
第2の凸状変形部14は、押圧力が加えられることにより、第2のポット45のシート部材48を破断させるものである。図18のAに示すように、第2の凸状変形部14は、第2のポット45に対向する位置に第2のポット45に向かって立設された1本の突起部14bを備えている。また、第2のポット45との間に検査用ストリップ1の送液用パッド4が配置されている。第2の凸状変形部14に押圧力が加えられて第2のポット45側に凸、すなわち、外部から見て凹部状に変形し、図18のBに示すように、突起部14bが送液用パッド4の表面に当接して、第2のポット45のシート部材48を突き破り、送液用パッド4を第2のポット45中に押し込む。この第2の凸状変形部14は、図18に示すように、上下流方向に沿った断面において、やや上流側に頂上14aを有する山型形状を有しており、変形時には、突起部14bが下流側に向かって傾いてシート部材48を突き破るように構成されている。
【0152】
この操作により、送液用パッド4が第2のポット45中の増幅液46に浸漬され、第2の増幅液46が毛細管現象により送液用パッド4内を浸透して不溶性担体2に供給可能となる。
第2の凸状変形部14も、指等で押すことにより、容易に変形して凹部状となる。この押圧後には凹部状が戻らず、送液用パッド4を第2のポット45中に押し込んだ状態を維持できる構成となっていることが好ましい。
【0153】
本発明は、電源につながった装置を使用せずに、第1および第2の凸状変形部を変形させて増幅液を供給し高感度な分析を実現するもので、一つの態様として、人が手で変形させる態様が想定される。従って、増幅液が誤って外部に漏れない設計とすることが好ましく、上部ケース10に設けられている第1および第2の凸状変形部12、14は、上部ケース10の他の部分と隙間なく一体的に形成されていることが好ましい。凸状変形部12、14は伸縮可能な材質で作製されていて上部ケース10の他の部分と密閉された状態で接合されていることが好ましい。上部ケース10の第1および第2の凸状変形部12、14とそれ以外の部分とを個別に作製した後、互いに接合したものであってもよいが、第1および第2の凸状変形部12、14を上部ケース10の一部として、射出成形により、途中に接合箇所がない連続的な1つの部材として一体的に成形されていることが好ましい。
【0154】
第1および第2の凸状変形部12、14はヒトの指等で容易に変形させることができる程度の柔軟性を有するものであることが必要である。凸状変形部12、14を構成する材質の曲げ弾性率は、50MPa以上350MPa以下が好ましく、70MPa以上150MPa以下がより好ましい。
【0155】
また、上部ケース10と下部ケース20とを組み合わせる際に嵌め合うだけの場合には、隙間から液が漏れだすことがあるため、上部ケース10と下部ケース20の嵌合部についても、密閉状態で接着されていることが好ましい。
上部ケース10と下部ケース20との接着方法としては、超音波溶着法を用いることが好ましい。一般的に超音波溶着は溶着する部材が同素材でなければ溶着しづらいことが知られており、上部ケース/下部ケースの組み合わせは、ポリエチレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリプロピレンあるいはABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)/ABSが良い。
【0156】
一方で、凸状変形部12、14を上部ケース10に一体的に成形する場合には、上部ケース10を構成する材質が柔軟性を有するものであることを要する。他方、下部ケース20は検査用ストリップ1や第2のポット45を固定するために剛直であることが好ましい。具体的には、上部ケース10を構成する材質の曲げ弾性率は50MPa以上350MPa以下であることが好ましく、70MPa以上150MPa以下であることがより好ましい。下部ケース20を構成する材質の曲げ弾性率は500MPa以上900MPaが好ましく、650MPa以上750MPa以下が特に好ましい。
【0157】
なお、曲げ弾性率は、ISO178規格の測定方法に従い、温度20℃の環境において、以下のように式(1)より算出した値とする。
曲げ弾性率を測定する材質について、幅b(mm)、厚さh(mm)の板状の試験片を作成し、支点間距離をL(mm)とした2つの支点で試験片を支える。支点間の中心にF(N)の荷重をかけ、荷重をかけた方向へのたわみ量(mm)を測定する。横軸にたわみS(mm)、縦軸に荷重F(N)とした、たわみ-荷重曲線を作成する。この曲線の原点での接線を求め、その傾き(荷重の変化量ΔF(N)、たわみの変化量ΔS(mm)とした場合、(ΔF/ΔS))を算出し、以下の式を用いて曲げ弾性率E(MPa)が算出できる。
曲げ弾性率E=(L/(4bh))×(ΔF/ΔS) 式(1)
【0158】
従って、上部ケース/下部ケースの組み合わせは、軟化剤入りポリプロピレン/ポリプロピレンの組み合わせがもっとも好ましい。ここで、軟化剤入りポリプロピレンに使用する軟化剤はオレフィン系エラストマーが好ましく、ポリプロピレンに対するオレフィン系エラストマーの濃度は20質量%以上60質量%以下が好ましく、40質量%以上55質量%以下が特に好ましい。具体的な軟化剤としては、住友化学(株)社製のタフセレン(登録商標)が挙げられる。
【0159】
なお、本発明のイムノクロマトグラフキットは、2つ以上の凸状変形部を有していればよく、検査ストリップに対して供給すべき溶液が3種以上ある場合には、それに応じて凸状変形部も3つ以上備えていてもよい。
【0160】
不溶性担体(多孔性担体)2としては、例えば、ニトロセルロースメンブレンなどを使用することができる。また、不溶性担体2が固定されるバック粘着シート7とは、不溶性担体2が貼り付けられる面が粘着面であるシート状基材である。
【0161】
標識保持パッド3は、不溶性担体2の長手方向中央部に固定されている。標識物質は、例えば、直径50nmの金コロイド(EM.GC50、BBI社製)を用いることが可能である。標識物質の表面は、被検物質と結合する物質で修飾することにより、被検物質との結合体を形成することが可能である。
標識物質は上記に限るものではなく、通常のクロマトグラフ法に用いることができる金属硫化物、免疫凝集反応に用いられる着色粒子などを使用することができ、特には、金属コロイドが好ましい。金属コロイドとしては、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、鉄コロイド、水酸化アルミニウムコロイド、およびこれらの複合コロイドなどが挙げられ、特に、適当な粒径において、金コロイドは赤色、銀コロイドは黄色を示す点でこのましく、その中でも金コロイドが最も好ましい。
滴下する試料液が、予め、標識物質の表面にある被検物質と結合する物質と、試料液中の被験物質と結合させる工程を得て調製されている場合には、標識保持パッド3は標識物質を含有しない態様であることが好ましい。この場合は、標識保持パッド3は、標識物質を含む試料液を滴下する位置を示すパッドとして機能する。
【0162】
なお、検査用ストリップ1は、上部ケース10の試料液滴下用開孔16と標識保持パッド3の位置が一致するように位置されている。
【0163】
検査領域Lは、被検物質に結合する第2の物質を含み、被検物質と結合した標識物質が被検物質を介して補足される標識物質補足領域である。例えば、インフルエンザA型ウイルスあるいはそのバイオマーカーを被検物質として検出したい場合には、例えば、抗インフルエンザA型モノクローナル抗体(Anti-Influenza A SPTN-5 7307、Medix Biochemica社製)が物理吸着によりライン状に固定化されている抗体固定化ラインにより検査領域Lを構成する態様が好ましい。
この検査領域Lに被検物質と第1の物質を介して標識物質が結合した複合体が到達すると第2の物質と被検物質が特異的に結合し、被検物質と第1の物質を介して標識物質が補足されることとなる。一方、被検物質との複合体を構成していない標識物質は、検査領域Lに補足されることなく通過する。
【0164】
確認領域Lは、第1の物質に結合可能な物質を含み、標識保持パッド3から試料液と共に不溶性担体2中を展開され、検査領域Lを通過した標識物質が第1の物質を介して補足され、試料液の展開の完了を確認するための領域である。例えば、インフルエンザA型ウイルスあるいはそのバイオマーカーを被検物質として検出したい場合には、例えば、抗マウスIgG抗体(抗マウスIgG(H+L)、ウサギF(ab’)2、品番566-70621、富士フイルム和光純薬(株)社製)が物理吸着によりライン状に固定化されている態様が好ましい。
【0165】
増幅指標領域Lは、第2の増幅液46と反応する物質を含み、第2の増幅液46と反応して発色もしくは色が変化することにより、第2の増幅液46がその領域まで展開されたことを示し、第1の増幅液41の滴下のタイミングの指標となる領域である。例えば、第2の増幅液として、硝酸鉄水溶液とクエン酸(富士フイルム和光純薬(株)社製、038-06925)の混合水溶液を使用する場合には、ブロモクレゾールグリーン(富士フイルム和光純薬(株)社製)がライン状に固定化された発色試薬固定化ラインにより増幅指標領域Lを構成する態様が好ましい。このとき第2の増幅液46が増幅指標領域Lに到達すると、領域Lは緑色からオレンジ色へと変化する。この変色は、検査領域Lおよび確認領域Lが第2の増幅液46により十分に満たされたことの指標として捕えることができる。
【0166】
金属コロイドなどの金属系標識物質のシグナルを増幅させる方法としては、標識物質に銀イオンおよび銀イオンのための還元剤を接触させ、還元剤によって銀イオンを還元して銀粒子を生成させ、その銀粒子が標識物質を核として標識物質上に沈着することにより標識物質によるシグナルを増幅させる方法(以下において、銀増幅)を用いることが好ましい。
銀増幅を実現させるために、第1の増幅液41として銀イオンを含む溶液を、第2の増幅液46として銀イオンのための還元剤を含む還元剤液を用いればよい。
【0167】
(第1の増幅液)
第1の増幅液41として用いられる銀イオンを含む溶液としては、溶媒中に銀イオン含有化合物が溶解されているものが好ましい。銀イオン含有化合物としては有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体を用いることができる。好ましくは、無機銀塩もしくは銀錯体である。無機銀塩としては、水などの溶媒に対して溶解度の高い銀イオン含有化合物を使用することが可能であり、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、酪酸銀、チオ硫酸銀などが挙げられる。特に好ましくは硝酸銀である。銀錯体としては、水酸基やスルホン基など水溶性基を有する配位子に配位された銀錯体が好ましく、ヒドロキシチオエーテル銀などが挙げられる。
【0168】
(第2の増幅液)
第2の増幅液46として用いられる銀イオンを還元し得る還元剤を含有する還元剤液中に用いられる還元剤としては、銀イオンを銀に還元することができるものであれば、無機・有機のいかなる材料、またはその混合物でも用いることができる。無機還元剤としては、Fe2+、V2+あるいはTi3+などの金属イオンで原子価の変化し得る還元性金属塩、還元性金属錯塩を好ましく挙げることができる。無機還元剤を用いる際には、酸化されたイオンを錯形成するか還元して、除去するか無害化する必要がある。例えば、Fe2+を還元剤として用いる系では、クエン酸やEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用いて酸化物であるFe3+の錯体を形成し、無害化することができる。本系ではこのような無機還元剤を用いることが好ましく、より好ましくはFe2+の金属塩が好ましい。
【0169】
なお、湿式のハロゲン化銀写真感光材料に用いられる現像主薬(例えばメチル没食子酸塩、ヒドロキノン、置換ヒドロキノン、3-ピラゾリドン類、p-アミノフェノール類、p-フェニレンジアミン類、ヒンダードフェノール類、アミドキシム類、アジン類、カテコール類、ピロガロール類、アスコルビン酸(またはその誘導体)、およびロイコ色素類)、および本分野の当業者にとって明らかなその他の材料、例えば米国特許第6,020,117号に記載されている材料も用いることができる。
【0170】
還元剤としては、アスコルビン酸還元剤も好ましい。有用なアスコルビン酸還元剤は、アスコルビン酸と類似物、異性体とその誘導体を含み、例えば、D-またはL-アスコルビン酸とその糖誘導体(例えばγ-ラクトアスコルビン酸、グルコアスコルビン酸、フコアスコルビン酸、グルコヘプトアスコルビン酸、マルトアスコルビン酸)、アスコルビン酸のナトリウム塩、アスコルビン酸のカリウム塩、イソアスコルビン酸(またはL-エリスロアスコルビン酸)、その塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩または当技術分野において知られている塩)、エンジオールタイプのアスコルビン酸、エナミノールタイプのアスコルビン酸、チオエノ-ルタイプのアスコルビン酸等を好ましく挙げることができ、特にはD、LまたはD,L-アスコルビン酸(そして、そのアルカリ金属塩)若しくはイソアスコルビン酸(またはそのアルカリ金属塩)が好ましく、ナトリウム塩が好ましい塩である。必要に応じてこれらの還元剤の混合物を用いることができる。
【0171】
なお、本実施形態において、第1の凸状変形部12は、第1のポット40を中間部材30に設けられている破断部34に向けて移動させるものとしたが、第1の凸状変形部12は、その変形に伴い、第1のポット40のシート部材43を破断部34により破断させることができる構成であればよい。
【0172】
第1のポット40のシート部材43が破断されて第1のポット40から流出する第1の増幅液41をポット収容部32の底面の増幅液充填孔から不溶性担体2上に滴下させることができる構成であれば、第1のポット40および第1のポット40を収容するポット収容部32の構成も本実施形態の構成に限らない。
【0173】
また、第1の凸状変形部の突起部は2つ以上あることが、第1のポット40を傾けず平行に移動させることができ、好ましい。ただし、第1の凸状部材は上記実施形態の第2の凸状変形部と同様の形状の突起部が1つの形態であっても構わない。第2の凸状部変形部と同一形状の凸状変形部を第1のポット40を移動させる第1の凸状変形部としても用いてもよい。
【0174】
図19は、第2の凸状変形部と同一形状の凸状変形部114を、第1のポット40を移動させるために使用する場合の形態を示す図18と同様の切断端面図である。
図19のAに示すように、変形前において、凸状変形部114の突起部114bの下方に第1のポット40が位置するように配置される。また、第1のポット40の下方には中間部材30の破断部34が位置している。凸状変形部114の頂上114aを押下することにより突起部114bが第1のポット40の上面に押しあたり、第1のポット40を押し下げる。それにより第1のポット40のシート部材43を破断部34が突き破り、第1のポット40に封入されていた第1の増幅液41が第1のポットから流出して検査用ストリップ1に供給される。
このように、凸状変形部114に設けられている突起部が1つであってもポットを移動させることができる。
【0175】
なお、本発明のイムノクロマトグラフキットには、検体の抽出を補助する補助薬品などを含む検体抽出液を内包するポットや検体希釈液を内包するポット、キットの保存を助ける乾燥剤や脱酸素剤、取扱い説明書などの添付文書、および、綿棒などの検体採取器具などの検査に必要な器材一式もしくはその一部を含んでも良い。
【0176】
本発明のイムノクロマトグラフキットを用いれば、専用の分析装置などを用いることなく、このキット単体で精度よく検査を行うことができる。
【0177】
<イムノクロマトグラフ検査方法>
上記イムノクロマトグラフキット100を用いたイムノクロマトグラフ検査方法について簡単に説明する。
試料液滴下用開孔16から試料液を標識保持パッド3上に滴下する。試料液中に被検物質が含まれている場合には、標識保持パッド3において、被検物質と第1の物質が結合することにより、第1の物質を介する被検物質と標識物質との複合体が形成され、この複合体が試料液と共に吸収パッド6の吸引力により毛細管現象で吸収パッド6側に向かって展開される。予め試料液中の被検物質と標識物質との複合体が形成されている場合には、標識保持パッド3には標識物質を含有しない態様が好ましく、予め形成された複合体が吸収パッド6側に向かって展開される。この試料液を滴下すると同時もしくはその後、第2の凸状変形部14を押下し、送液用パッド4を変位させて第2のポット45のシート部材48を破断させ、送液用パッド4を第2の増幅液46に浸して第2の増幅液46を不溶性担体2に送液する。なお、第2の凸状変形部14を押下するタイミングは試料液の滴下時から30秒以内とすることが好ましく試料液の滴下の直後が特に好ましい。
【0178】
検査領域Lに到達した複合体は、検査領域Lの第2の物質と結合し捕捉される。また、被検物質と結合していない第1の物質は検査領域Lを通過して確認領域Lに到達し、確認領域Lの第1の物質と結合する物質と結合し捕捉される。
【0179】
第2の増幅液46は検査領域L、確認領域Lを経て増幅指標領域Lへ到達する。このとき、増幅指標領域Lが変色することにより、第2の増幅液46の増幅指標領域Lへの到達を視覚的に認識することができる。増幅指標領域Lの変色を確認後、第1の凸状変形部12を押下して第1の増幅液41を不溶性担体2上に供給する。
【0180】
第1の増幅液41を不溶性担体2に供給してから反応終了を待ち、観察窓18から、検査領域Lおよび確認領域Lの発色を確認する。検査領域Lの発色により被検物質の有無およびその濃度の高低を確認することが可能であり、確認領域Lの発色により被検物質を測定する検査が成功したかどうかを確認することができる。検査領域Lおよび確認領域Lにおける発色は標識のシグナルを増幅して得られたものであり、高感度な検査を実現することができる。
【実施例
【0181】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0182】
[検体液の調製]
健常人の尿検体(BioreclamationIVT社)をプールした尿検体に、結核菌より抽出されたリポアラビノマンナン(LAM)(02249-61、ナカライテスク社)(抗原)を添加し、表1に記載のLAM濃度の検体液を調製した。
【0183】
[抗リポアラビノマンナン(LAM)モノクローナル抗体修飾金コロイド保持パッドの作製]
金コロイド粒子(粒子径:50nm)を含有する溶液(品番:EM.GC50、BBI社製)9mLに50mmol/LのKHPOバッファー(pH8.0)を1mL加えることでpHを調整した。pHが調整された上記溶液に、20μg/mLの抗LAMモノクローナル抗体含有溶液1mLを加えて10分間攪拌した。その後、10分間静置した後に、1質量%のポリエチレングリコール(PEG(polyethylene glycol);重量平均分子量(Mw:20000、品番:168-11285、富士フイルム和光純薬(株)社製)含有水溶液を550μL加えて10分間攪拌し、続いて10質量%牛血清アルブミン(BSA(Bovine serum albumin);FractionV、品番:A-7906、SIGMA社製)の水溶液を1.1mL加えて10分間攪拌した。この溶液を遠心分離装置(himacCF16RX、日立(株)社製)を用いて、8000×g、4℃の条件で30分間遠心分離した。容器の底に1mLを残して上澄み液を取り除き、超音波洗浄機により容器の底に残った1mL液中に含まれる金コロイド粒子を再分散した。この後、20mLの金コロイド保存液(20mmol/L Tris-HCl(トリス塩酸)バッファー(pH8.2)、0.05%PEG(Mw.20000)、150mmol/L NaCl、1%BSA)に分散し、再び同じ遠心分離装置を用いて同様の条件で遠心分離を行い、上澄み液を取り除き、超音波分散後、金コロイド保存液に分散し、抗LAMモノクローナル抗体で修飾された金コロイド粒子(粒子径:50nm)である修飾金コロイド粒子(標識抗体)の溶液を得た。得られた溶液をTris-HClバッファー(pH8.2)の濃度が20mmol/L、PEG(Mw.20000)の濃度が0.05質量%、スクロースの濃度が5質量%、そして光路長10mmとしたときの金コロイドの520nmの光学濃度が0.1となるように水で抽出したのち、5mm×30cmのグラスファイバーパッド(Merck社GFDX203000)1枚あたり1mLずつ均一に塗布したのち、15時間真空乾燥機で乾燥させ、パッドを裁断する事で、抗LAMモノクローナル抗体で修飾された金コロイド粒子である修飾金コロイド粒子(標識抗体)が保持されたパッド(金コロイド保持パッド)(5mm×4mm)を得た。
【0184】
[イムノクロマトグラフキットの作製]
以下のとおり、イムノクロマトグラフキットを作製した。
【0185】
〔クロマトグラフ担体の作製〕
多孔性担体として、60mm×300mmに切断したニトロセルロースメンブレン(プラスチックの裏打ちあり、HiFlow Plus HF135(キャピラリーフローレート=135秒/cm、ミリポア社製)を用い、このメンブレン上に以下のような方法により、検査領域、確認領域および増幅指標領域を形成してクロマトグラフ担体を作製した。
ニトロセルロースメンブレンの60mmの短辺のうちの下流側から15mmの位置に、1.5mg/mLとなるように調製した抗LAM抗体溶液をライン状に塗布し検査領域とした。さらに60mmの短辺のうちの下流側から11mmの位置に、0.5mg/mLとなるように調製した抗ヒトIgG抗体(抗ヒトIgG(H+L)、ウサギF(ab’)2、品番309-006-003、富士フイルム和光純薬(株)社製)溶液をライン状に塗布し確認領域とした。さらに60mmの短辺のうちの下流側から9mmの位置に、30mmol/Lに調製したブロモクレゾールグリーン(富士フイルム和光純薬(株)社製)をライン状に塗布し増幅指標領域とした。それぞれの塗布の後にニトロセルロースメンブレンを、温風式乾燥機で50℃、30分間乾燥した。乾燥が終了した後、ブロッキング液(0.5質量%カゼイン(乳由来、品番030-01505、富士フイルム和光純薬(株)社製)を含有する50mmol/Lのホウ酸バッファー(pH8.5))500mLを入れたバットに、上記のように乾燥したニトロースメンブレンを浸漬させてそのまま30分間静置した。その後、ニトロセルロースメンブレンを取り出して、別のバットに準備した洗浄・安定化液(0.5質量%スクロースおよび0.05質量%コール酸ナトリウムを含む50mmol/L Tris-HCl(pH7.5)バッファー)500mL中にニトロセルロースメンブレンを浸し、そのまま30分間静置した。その後、ニトロセルロースメンブレンを液から取り出し、25℃の環境で24時間乾燥させた。
抗LAM抗体を固定化した部分が、被検物質に結合する第2の物質を含む検査領域、抗マウスIgG抗体を固定化した部分が、第1の物質に結合可能な物質を含む確認領域、ブロモクレゾールグリーンを固定した部分が、下記に記載の第2のポットに封入する増幅液(還元剤溶液)と反応する物質を含む増幅指標領域にそれぞれ相当する。
【0186】
〔検査用ストリップの作製〕
バック粘着シート(60mm×300mm(Adhesives Research社製))に、上述のとおり作製したクロマトグラフ担体を貼り付けた。次に、クロマトグラフ担体の短辺のうちの下流側から26mmの位置に幅3mmの両面テープ(日東電工)を固定した。その後、両面テープの下流端と8mm×300mmに切ったグラスファイバーパッド(GlassFiber Conjugate Pad、ミリポア社製)の下流端が重なるようにして金コロイドを保持していない裁断前のパッド(5mm×30cm)をクロマトグラフ担体に固定した。送液用パッド(25mm×300mmに切ったグラスファイバーパッド(Glass Fiber Conjugate Pad、ミリポア社製))をクロマトグラフ担体の上流側に、送液用パッドとクロマトグラフ担体が7mm重なるように貼り付けた。こうして作製した部材を、300mmの長辺と垂直な方向に対して平行に、幅が5mmとなるようにギロチン式カッター(CM4000、ニップンテクノクラスタ社製)で切断し、60本の検査用ストリップ(但し、吸収パッドを含まない。)を作製した。
【0187】
〔第2のポットに封入する増幅液(還元剤溶液)の作製〕
水290gに、硝酸鉄(III)九水和物(富士フイルム和光純薬(株)社製、095-00995)を水に溶解して作製した1mol/Lの硝酸鉄水溶液23.6mL、クエン酸(富士フイルム和光純薬(株)社製、038-06925)13.1gを溶解させた。全て溶解したら、スターラーで攪拌しながら硝酸(10重量%)溶液を36mL加え、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(富士フイルム和光純薬(株)社製、091-00855)を60.8g加えた。このように調製した溶液を第2のポットに封入する第2の増幅液である還元剤溶液とした。
【0188】
〔第1のポットに封入する増幅液(銀イオン溶液)の作製〕
水66gに、硝酸銀溶液8mL(10gの硝酸銀を含む)と1mol/Lの硝酸鉄水溶液24mLを加えた。さらに、この溶液と、硝酸(10重量%)5.9mL、ドデシルアミン(富士フイルム和光純薬(株)社製、123-00246)0.1g、界面活性剤C1225-C-O-(CHCHO)50H 0.1gをあらかじめ47.6gの水に溶解した溶液を混合し、これを第1のポットに封入する第1の増幅液である銀イオン溶液とした。
【0189】
〔吸収パッドの作製〕
12mm×10mmに切ったグラスファイバーパッド(ガラス濾紙、アドバンテック社製)を60枚準備し、吸収パッドとした。
【0190】
〔イムノクロマトグラフキットの部品の作製〕
図12図14に示すようなイムノクロマトグラフキット100を構成する下部ケース20、上部ケース10、中間部材30、および第1のポット40、第2のポット45を、ポリプロピレンを材料として射出成形によりそれぞれ作製した。上部ケースは住友化学(株)社製オレフィン系エラストマーであるタフセレン(登録商標)を50質量%含有するポリプロピレンを材料として射出成形により作製した。なお、上部ケース10は、2つの変形可能な部位(第1の凸状変形部と第2の凸状変形部と)を備え、この2つの変形部は上部ケース10と分離する部分はなく、すべての境界部で上部ケース10の一部として射出成形で作製した。
なお、実施例の上部ケースは、図12および図13に示す第1の凸状変形部12が2本の突起部を有し、第2の凸状変形部14が1本の突起部を有する構成とした。
【0191】
〔イムノクロマトグラフキットの作製〕
下部ケース20、上述のとおり作製した検査用ストリップ1と上述のとおり作製した吸収パッド6を、図12図14に示すように固定した。次に、第1のポット40、第2のポット45に、それぞれ、上述のとおり作製した第1のポット40に封入する第1の増幅液41、第2のポット45に封入する第2の増幅液46を充填し、シート部材48としてのアルミ箔で第2のポット45を、シート部材43としてのアルミ箔で第1のポット40をそれぞれ封止し、図12図14に示すように、第2のポット45を、シート部材48を上にして下部ケース20に、第1のポット40を、シート部材43を下にして中間部材30に装着した。そして、上部ケース10と下部ケース20とを外周同士が接触するように嵌め合わせた状態で、上部ケースと下部ケースとの接触部を超音波溶着により接合させた。このとき、溶着部位は密閉状態で均一にすべての部位で溶着されていることを確認した。このようにしてイムノクロマトグラフキットを作製した。
【0192】
[実施例1]
【0193】
〔濃縮デバイスの作製〕
図5及び図9に示されるような濃縮デバイス201を作製した。なお、図9は、濃縮デバイス201の一部(上部)の斜視図である。実施例1の濃縮デバイス201は、図9に示されるように、回収口282を有する蓋280を備える。
【0194】
具体的には、シリンダー211(内径12mm、深さ60mm、円筒形、上部に外ねじを備える)に、0.2質量%カゼイン(030-01505、富士フイルム和光純薬(株)社製)、2質量%Tween40(T2531、東京化成工業(株)社製)を含む800mmol/L Tricine緩衝液(pH8.5)(347-02844、富士フイルム和光純薬(株)社製)を調製し、50μL添加し、25℃10%Rh(相対湿度)以下の環境で3日間乾燥させた後、24時間減圧乾燥することで固体状態にして乾燥試薬を作製した。さらに、金コロイド保持パッド(5mm×4mm)1枚及び高吸水性ポリマー230(後述する高吸水性ポリマー)を700mg添加した。
また、シリンダー211に挿入可能なピストンであって高吸水性ポリマー230の吸水後の粒子径よりも小さい孔222(孔径1mm、孔数24)を有する先端部221を備えるピストン220、及び、回収口282を有するソフトチューブ281を備える蓋280(内ねじを備える)を準備し、シリンダー211と結合して、濃縮デバイス201を完成させた。
【0195】
<高吸水性ポリマー>
市販の高吸水性ポリマー粒子(M2 Polymer Technologies Inc.社製;SAP Sphere 2.5mm)を700mg分粒して、実施例等で使用される高吸水性ポリマー230とした。高吸水性ポリマー230の粒子径は2.5mmであり、膨潤率は13g/gであり、吸水速度は0.5g/分であった。
【0196】
〔検体液の濃縮〕
得られた濃縮デバイス201を用いて、図1に示されるように、上述した検体液を濃縮した。
【0197】
<検体液注入工程>
まず濃縮デバイス201から蓋280及びピストン220を取り外した。そして、シリンダー211に開口部216から上述した検体液を4.5mL注入し、攪拌した(図1B)。
【0198】
<吸水工程>
その後、濃縮デバイス201を60分間静置した。この間、検体液240に含まれる水が高吸水性ポリマー230によってほぼ完全に吸収されて、検体液240の濃縮物である検体液濃縮物246が生成した(高吸水性ポリマー230は膨潤した高吸水性ポリマー232となった)(図1C)。なお、上述のとおりシリンダー211には金コロイド保持パッドが含まれるため、濃縮と同時に抗原抗体反応が進行し、検体液に含まれるLAMとシリンダーに含まれる抗LAMモノクローナル抗体で修飾された金コロイド粒子である修飾金コロイド粒子(標識抗体)との複合体である金粒子複合体が形成された。すなわち、得られた検体液濃縮物246において、LAMは修飾金コロイド粒子(標識抗体)との複合体である金粒子複合体を形成している。
【0199】
<抽出液添加工程>
次いで、検体液濃縮物246に抽出液250(PBS(-)富士フイルム和光純薬株式会社製 166-23555)400μLを添加した(図1D)。
【0200】
<取り出し工程>
そして、シリンダー211に開口部216からピストン220を挿入し、ピストン220の上から蓋280を締めた。蓋280をねじ締めすることでピストン220が押し下がり、ピストン220の先端部221の孔222を通して検体液の濃縮液である検体液濃縮液248を得た(図1E)。濃縮デバイス201を反転し、得られた検体液濃縮液248をソフトチューブ281に移動させ、ソフトチューブ281を押すことで回収口282から検体液濃縮液248を取り出した。なお、上述のとおり、吸水工程で得られた検体液濃縮物246と同様、検体液濃縮液248において、LAMは金粒子複合体を形成している。
【0201】
〔LAMの検出〕
得られた検体液濃縮液248(24μL)を、上述のとおり作製したイムノクロマトグラフキットに滴下した。滴下直後に、第2の凸状変形部14を押下することで、第2のポット45に封入した第2の増幅液46を封止しているシート部材48であるアルミ箔を破り、第2のポット45の中に送液用パッド4を浸すことにより、毛細管現象を利用して第2の増幅液46を多孔性担体2に供給した。
増幅指標領域Lが緑からオレンジに変色した後、第1の凸状変形部12を押下して第1のポット40を中間部材30のポット収容部32の破断部34に向けて移動させることにより、第1のポット40を封止しているシート部材43であるアルミ箔を破断部34により押し破り、第1の増幅液41である銀イオン溶液を中間部材30の開口部から多孔性担体2に供給して、銀増幅反応を行った。銀増幅反応は数十秒で完了する。
銀増幅反応終了後、目視にて着色を確認した。結果を表1に示す。
+:着色がある
-:着色がない
【0202】
[実施例2]
【0203】
〔濃縮デバイスの作製〕
図6及び図9に示されるような濃縮デバイス202を作製した。なお、実施例2の濃縮デバイス202は、シリンダー211がシリンダー212である点以外、実施例1の濃縮デバイス201と同じである。
【0204】
具体的には、シリンダー211の代わりにシリンダー212(内径12mm、深さ60mm、円筒形、上部に外ねじを備える)を用いた点以外は、実施例1と同様の手順に従って濃縮デバイス(濃縮デバイス202)を作製した。
ここで、シリンダー212は、底面218から3.5mmの位置に、シリンダーの内周面にシリンダー212の長手方向に移動可能に設置された隔壁260を有する。隔壁260は高吸水性ポリマー230の吸水前の粒子径よりも小さい孔262(孔径1mm、孔数24)を有する。底部217と隔壁260とによって囲まれた部分(400μL)は上述した抽出液保持部に相当する。隔壁260はシリンダー212の底面から3.5mmの位置の内周面に形成された突起(図示せず)によって位置決めされているが、上部から押力が加わることで突起を乗り越えて抽出液保持部に侵入することが可能である。
なお、図6に示されるように、濃縮デバイス202において、高吸水性ポリマー230は、隔壁260の上に隔壁260に接してシリンダー212に収容されている。
【0205】
〔検体液の濃縮〕
得られた濃縮デバイス202を用いて、図2に示されるように、上述した検体液を濃縮した。
【0206】
<検体液注入工程>
まず濃縮デバイス202から蓋280及びピストン220を取り外した。そして、シリンダー212に開口部216上述した検体液を4.5mL注入し、攪拌した。このとき、検体液の一部(検体液241:400μL)は隔壁260の孔262を通って、隔壁260の下に導入された(図2B)。
【0207】
<吸水工程>
その後、濃縮デバイス202を60分間静置した。この間、検体液240のうち隔壁260の上に存在する検体液242(検体液240のうち抽出液として保持された検体液241以外の検体液242)に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によってほぼ完全に吸収されて、シリンダー212中に検体液242の濃縮物である検体液濃縮物246が生成した(高吸水性ポリマー230は膨潤した高吸水性ポリマー232となった)(図2C)。なお、実施例1と同様に、得られた検体液濃縮物246において、LAMは修飾金コロイド粒子(標識抗体)との複合体である金粒子複合体を形成している。
【0208】
<抽出液添加工程>
次いで、シリンダー212に開口部216からピストン220を挿入し、高吸水性ポリマー232を押し下げることで、隔壁260をシリンダー212の底面218まで移動させて、抽出液保持部に保持された検体液241を隔壁260の孔262を通して隔壁260の上に導入した。このようにして、検体液濃縮物246に抽出液保持部に保持された検体液241を添加した(図2D)。
【0209】
<取り出し工程>
そして、実施例1と同様の手順に従って、検体液濃縮液248を取り出した。
【0210】
〔LAMの検出〕
得られた検体液濃縮液248(24μL)について、実施例1と同様の手順に従って、LAMの検出を行った。結果を表1に示す。
【0211】
[実施例3]
【0212】
〔濃縮デバイスの作製〕
図7及び図9に示されるような濃縮デバイス203を作製した。なお、実施例3の濃縮デバイス203は、シリンダー211がシリンダー213である点以外、実施例1の濃縮デバイス201と同じである。
【0213】
具体的には、シリンダー211の代わりにシリンダー213(内径12mm、深さ60mm、円筒形、上部に外ねじを備える)を用いた点以外は、実施例1と同様の手順に従って濃縮デバイス(濃縮デバイス203)を作製した。
ここで、シリンダー213の底部217(底面218から4mm)には多孔質の合成樹脂270(PVA(ポリビニルアルコール)製のスポンジ)(空隙率90%)が収容されている。合成樹脂270の有する孔(図示せず)は、高吸水性ポリマー230の吸水前の粒子径よりも小さい。合成樹脂270が有する孔は上述した抽出液保持部に相当する。
なお、図7に示されるように、濃縮デバイス203において、高吸水性ポリマー230は、合成樹脂270の上に合成樹脂270に接してシリンダー213に収容されている。
【0214】
〔検体液の濃縮〕
得られた濃縮デバイス203を用いて、図3に示されるように、上述した検体液を濃縮した。
【0215】
<検体液注入工程>
まず濃縮デバイス203から蓋280及びピストン220を取り外した。そして、シリンダー213に開口部216から上述した検体液を4.5mL注入し、攪拌した。このとき、検体液の一部(検体液241:400μL)は合成樹脂270の孔に導入された(合成樹脂270は、検体液240の一部である検体液241が孔に導入された合成樹脂272となった)(図3B)。
【0216】
<吸水工程>
その後、濃縮デバイス203を60分間静置した。この間、検体液240のうち合成樹脂270の上に存在する検体液242(検体液240のうち抽出液として保持された検体液241以外の検体液242)に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によってほぼ完全に吸収されて、シリンダー213中に検体液242の濃縮物である検体液濃縮物246が生成した(高吸水性ポリマー230は膨潤した高吸水性ポリマー232となった)(図3C)。なお、実施例1と同様に、得られた検体液濃縮物246において、LAMは修飾金コロイド粒子(標識抗体)との複合体である金粒子複合体を形成している。
【0217】
<抽出液添加工程>
次いで、シリンダー213に開口部216からピストン220を挿入し、高吸水性ポリマー232を押し下げることで、合成樹脂270を圧潰させて、抽出液保持部に保持された検体液241を合成樹脂270の孔を通して合成樹脂270の上に導入した。このようにして、検体液濃縮物246に抽出液保持部に保持された検体液241を添加した(図3D)。
【0218】
<取り出し工程>
そして、実施例1と同様の手順に従って、検体液濃縮液248を取り出した。
【0219】
〔LAMの検出〕
得られた検体液濃縮液248(24μL)について、実施例1と同様の手順に従って、LAMの検出を行った。結果を表1に示す。
【0220】
[実施例4]
【0221】
〔濃縮デバイスの作製〕
図8及び図9~10に示されるような濃縮デバイス204を作製した。なお、実施例4の濃縮デバイス204は、シリンダー211がシリンダー214である点、及び、ピストン220がピストン224である点以外、実施例1の濃縮デバイス201と同じである。
【0222】
具体的には、シリンダー211の代わりにシリンダー214(内径12mm、深さ60mm、円筒形、上部に外ねじを備える)を用いた点、及び、ピストン220の代わりにピストン224を用いた点以外は、実施例1と同様の手順に従って濃縮デバイス(濃縮デバイス204)を作製した。
ここで、シリンダー214及びピストン224は、ピストン224の先端部221を、高吸水性ポリマー230の吸水膨張に伴う圧力に抗して、上述した位置A(具体的には、後述する検体液注入工程においてシリンダー214に注入される検体液240の液面244から3.5mm低い位置)に固定するピストン位置固定機構を備える。
より具体的には、図10に示されるように、シリンダー214は切り欠き215を備え、ピストン224は突起223を備える。ピストン224をシリンダー214に挿入し、ピストン224の突起223をシリンダー214の切り欠き215に引っ掛けることで、ピストン224の先端部221を、高吸水性ポリマー230の吸水膨張に伴う圧力に抗して、位置Aに固定することができる。
【0223】
〔検体液の濃縮〕
得られた濃縮デバイス204を用いて、図4に示されるように、上述した検体液を濃縮した。
【0224】
<検体液注入工程>
まず濃縮デバイス204から蓋280及びピストン220を取り外した。そして、シリンダー214に開口部216から上述した検体液を4.5mL注入し、攪拌するとともに、シリンダー214にピストン224を挿入して、ピストン224の突起223をシリンダー214の切り欠き215に引っ掛けることで、ピストン224の先端部221を上述した位置Aに固定した。このとき、検体液の一部(検体液241:400μL)はピストン224の先端部221の孔222を通って、ピストン224の先端部221の上に導入された(図4B)。
【0225】
<吸水工程>
その後、濃縮デバイス204を60分間静置した。この間、検体液240のうちピストン224の先端部221の下に存在する検体液242(検体液240のうち抽出液として保持された検体液241以外の検体液242)に含まれた水のみが高吸水性ポリマー230によってほぼ完全に吸収されて、シリンダー214中に検体液242の濃縮物である検体液濃縮物246が生成した(高吸水性ポリマー230は膨潤した高吸水性ポリマー232となった)(図4C)。なお、実施例1と同様に、得られた検体液濃縮物246において、LAMは修飾金コロイド粒子(標識抗体)との複合体である金粒子複合体を形成している。
【0226】
<抽出液添加工程>
次いで、ピストン224を引き上げて、ピストン224の先端部221の上に存在する検体液241をピストン224の先端部221の孔222を通してピストン224の先端部221の下に導入することで、検体液濃縮物246にピストン224の先端部221の上に存在する検体液241を添加した(図4D)。
【0227】
<取り出し工程>
そして、実施例1と同様の手順に従って、検体液濃縮液248を取り出した。
【0228】
〔LAMの検出〕
得られた検体液濃縮液248(24μL)について、実施例1と同様の手順に従って、LAMの検出を行った。結果を表1に示す。
【0229】
[実施例5]
シリンダー211に高吸水性ポリマー230を300mg添加した点以外は、実施例1と同様の手順に従って、濃縮デバイス201を作製した。
得られた濃縮デバイス201を用いた点以外は、実施例1と同様の手順に従って、検体濃縮液を取り出し、LAMの検出を行った。結果を表1に示す。
【0230】
[比較例1]
シリンダー211に高吸水性ポリマー230を添加しなかった点以外は、実施例1と同様の手順に従って、濃縮デバイス(比較デバイス1)を作製した。
得られた比較デバイス1を用いた点以外は、実施例1と同様の手順に従って、検体液の濃縮を行ったところ、濃縮されずに検体液そのものが取り出された。そして、取り出された検体液について、実施例1と同様の手順に従って、LAMの検出を行った。結果を表1に示す。
【0231】
[比較例2]
実施例1と同様に、検体液注入工程、吸水工程、及び、抽出液添加工程を行った。その後、ピストン220を用いずに、シリンダー211を傾けて検体液濃縮液を取り出そうとしたところ、検体液濃縮液を取り出すことができなかった。
【0232】
[比較例3]
実施例1と同様に、検体液注入工程、及び、吸水工程を行った。その後、抽出液を添加せずに、実施例1と同様に取り出し工程を行ったところ、検体液濃縮液(検体液濃縮物)を取り出すことができなかった。
【0233】
【表1】
【0234】
本発明の濃縮方法である実施例1~5の方法を用いた場合、所望の濃縮倍率の検体液濃縮液を得ることができた。一方、高吸水性ポリマーを用いなかった比較例1は、検体液を濃縮することができなかった。また、所定のピストンを用いなかった比較例2は、検体液濃縮液を取り出すことができなかった。また、抽出液を添加しなかった比較例3も、検体液濃縮液(検体液濃縮物)を取り出すことができなかった。
【符号の説明】
【0235】
1 検査用ストリップ
2 不溶性担体(多孔性担体)
3 標識保持パッド(グラスファイバーパッド)
4 送液用パッド
6 吸収パッド
7 バック粘着シート
9 ハウジングケース
10 上部ケース
12 第1の凸状変形部
12a 第1の凸状変形部の頂上
12b 第1の凸状変形部の突起部
12c 第1の凸状変形部の斜面
14 第2の凸状変形部
14a 第2の凸状変形部の頂上
14b 第2の凸状変形部の突起部
16 試料液滴下用開孔
18 観察窓
20 下部ケース
21 不溶性担体収容部(多孔性担体収容部)
22 吸収パッド収容部
24 第2のポット収容部
30 中間部材
32 第1のポット収容部
34 破断部
35 流路形成部
36 流路形成部35の裏面
40 1の増幅液用の第1のポット
41 第1の増幅液
42 ポット容器
43 シート部材
45 第2の増幅液用の第2のポット
46 第2の増幅液
47 ポット容器
48 シート部材
100 イムノクロマトグラフキット
114 凸状変形部
114a 凸状変形部114の頂上
114b 凸状変形部114の突起部
201、202、203、204 濃縮デバイス
211、212、213、214 シリンダー
215 切り欠き
216 開口部
217 底部
218 底面
220、224 ピストン
221 先端部
222 先端部の孔
223 突起
230 高吸水性ポリマー(吸水前の高吸水性ポリマー)
232 高吸水性ポリマー(吸水後の高級水性ポリマー)(膨潤した高吸水性ポリマー)240、241、242 検体液
244 検体液の液面
246 検体液濃縮物
248 検体液濃縮液
250 抽出液
260 隔壁
262 隔壁の孔
270 合成樹脂
272 検体液が孔に導入された合成樹脂
280 回収口を有する蓋
281 ソフトチューブ
282 回収口
300 ニトロセルロースメンブレン
301 金コロイド保持パッド
302 テストライン
303 コントロールライン
304 発色試薬固定化ライン
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19