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特許7554469ジャガイモ病害ウイルスの存在の有無を識別する方法およびプライマーセット
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  • 特許-ジャガイモ病害ウイルスの存在の有無を識別する方法およびプライマーセット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ジャガイモ病害ウイルスの存在の有無を識別する方法およびプライマーセット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20240912BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240912BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20240912BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/6888 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020213212
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099443
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 信哉
(72)【発明者】
【氏名】大木 健広
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】Arch Virol. ,158(2),2013年,379-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記1)~4)のいずれか2以上のプライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法により、試料中のジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV:potato leafroll virus)、ジャガイモSウイルス(PVS:potato virus S)、ジャガイモXウイルス(PVX:potato virus X)及びジャガイモYウイルス(PVY:potato virus Y)からなる群から選ばれるいずれか2以上のウイルスの存在の有無を識別することを含み、
前記2以上のプライマーセットが、2)と4)の一方又は両方のプライマーセットを含み、
下記1)~4)のプライマーセットを使用して増幅された各増幅産物のTm値が互いに異なり、各増幅産物のTm値の温度差が0.5℃以上である、方法:
1)PLRVの識別に用いられ、
配列番号11に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、
配列番号12に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、を備える、PLRV配列増幅用プライマーセット;
2)PVSの識別に用いられ、
配列番号13に記載の塩基配列を3’末端に含み、21~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、
配列番号14に記載の塩基配列を3’末端に含み、20~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、を備える、PVS配列増幅用プライマーセット;
3)PVXの識別に用いられ、
配列番号15に記載の塩基配列を3’末端に含み、21~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、
配列番号16に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、を備える、PVX配列増幅用プライマーセット;
4)PVYの識別に用いられ、
配列番号17に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、
配列番号18に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、を備える、PVY配列増幅用プライマーセット。
【請求項2】
前記1)~4)の前記プライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法により、ジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV:potato leafroll virus)、ジャガイモSウイルス(PVS:potato virus S)、ジャガイモXウイルス(PVX:potato virus X)及びジャガイモYウイルス(PVY:potato virus Y)の存在の有無を識別することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インターカレート色素の存在下で、前記マルチプレックスPCR法を実施する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ウイルスのRNAに対する逆転写反応に用いられる逆転写酵素、及び前記マルチプレックスPCRに用いられる2以上のプライマーセットを含む反応系において、前記逆転写反応及び前記マルチプレックスPCR法を連続して実施する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法に用いるためのPLRV配列増幅用プライマーセットであって、
配列番号11に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、
配列番号12に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、を備える、PLRV配列増幅用プライマーセット。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法に用いるためのPVS配列増幅用プライマーセットであって、
配列番号13に記載の塩基配列を3’末端に含み、21~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、
配列番号14に記載の塩基配列を3’末端に含み、20~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、を備える、PVS配列増幅用プライマーセット。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法に用いるためのPVX配列増幅用プライマーセットであって、
配列番号15に記載の塩基配列を3’末端に含み、21~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、
配列番号16に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、を備える、PVX配列増幅用プライマーセット。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法に用いるためのPVY配列増幅用プライマーセットであって、
配列番号17に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、
配列番号18に記載の塩基配列を3’末端に含み、18~25ヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドと、を備える、PVY配列増幅用プライマーセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャガイモ病害ウイルスの存在の有無を識別する方法およびプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
ジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV)、ジャガイモSウイルス(PVS)、ジャガイモXウイルス(PVX)およびジャガイモYウイルス(PVY)の4種類のジャガイモ病害ウイルスは、世界的に分布し、ジャガイモの収量及び品質を低下させる重要病原である。多くの国々では、これらのウイルス病を防ぐため、ウイルスフリーの種イモ(塊茎)を選別する種ばれいしょ検疫が行われている。日本国内では、上記の4種類のウイルスについて、特に注力して検疫が行われている。
【0003】
日本国内では、年間8万検体を超える種ばれいしょ検疫が行われており、検疫の省力化が求められている。
現行の種ばれいしょ検疫は、ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)による免疫学的測定により実施されている。しかし、ELISA法では、ウイルスの種類ごとに個別にアッセイを行う必要があり、検査対象のウイルスの種類を増やすことでさらに検査数が増加してしまう。
【0004】
これまで、本発明者らは、ELISA法に代えてマルチプレックスPCR法を採用することで、複数種類のウイルスを同時に検査可能な技術を開発してきた(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】“Detection of four major potato viruses in Japan using a simple RNA preparation and one-step multiplex RT-PCR”,Onozuka et al., Journal of General Plant Pathology 86:290-299 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記非特許文献1の技術では、増幅産物長の解析に電気泳動が用いられており、検査のさらなる省力化については、未だ検討の余地がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、ジャガイモ病害ウイルスの存在の有無を効率的に識別可能な方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、マルチプレックスPCR法を用い、複数種類のウイルスの存在の有無を効率的に識別可能とする特定のプライマーセットを見出だし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0009】
(1)下記1)~4)のいずれか2以上のプライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法により、試料中のジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV:potato leafroll virus)、ジャガイモSウイルス(PVS:potato virus S)、ジャガイモXウイルス(PVX:potato virus X)及びジャガイモYウイルス(PVY:potato virus Y)からなる群から選ばれるいずれか2以上のウイルスの存在の有無を識別することを含む、方法:
1)PLRVの識別に用いられ、
配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PLRV配列増幅用プライマーセット;
2)PVSの識別に用いられ、
配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVS配列増幅用プライマーセット;
3)PVXの識別に用いられ、
配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVX配列増幅用プライマーセット;
4)PVYの識別に用いられ、
配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVY配列増幅用プライマーセット。
(2)前記1)~4)の前記プライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法により、ジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV:potato leafroll virus)、ジャガイモSウイルス(PVS:potato virus S)、ジャガイモXウイルス(PVX:potato virus X)及びジャガイモYウイルス(PVY:potato virus Y)の存在の有無を識別することを含む、前記(1)に記載の方法。
(3)インターカレート色素の存在下で、前記マルチプレックスPCR法を実施する前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記1)~4)の前記プライマーセットを使用して増幅された各増幅産物のTm値が互いに異なり、各増幅産物のTm値の温度差が0.5℃以上である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5)前記ウイルスのRNAに対する逆転写反応に用いられる逆転写酵素、及び前記マルチプレックスPCRに用いられる2以上のプライマーセットを含む反応系において、前記逆転写反応及び前記マルチプレックスPCR法を連続して実施する、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6)前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の方法において、
1)PLRVの識別に用いられ、
配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PLRV配列増幅用プライマーセット。
(7)前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の方法において、
2)PVSの識別に用いられ、
配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVS配列増幅用プライマーセット。
(8)前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の方法において、
3)PVXの識別に用いられ、
配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVX配列増幅用プライマーセット。
(9)前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の方法において、
4)PVYの識別に用いられ、
配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVY配列増幅用プライマーセット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジャガイモ病害ウイルスの存在の有無を効率的に識別可能な方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例において取得された増幅産物の融解曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の方法、及びプライマーセットの実施形態を説明する。
【0013】
≪方法≫
実施形態の方法は、下記1)~4)のいずれか2以上のプライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法により、試料中のジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV:potato leafroll virus)、ジャガイモSウイルス(PVS:potato virus S)、ジャガイモXウイルス(PVX:potato virus X)及びジャガイモYウイルス(PVY:potato virus Y)からなる群から選ばれるいずれか2以上のウイルスの存在の有無を識別することを含む、方法である。
【0014】
1)PLRVの識別に用いられ、
配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチド、又は
配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチドと、
配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチド、又は
配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチドと、を備える、PLRV配列増幅用プライマーセット。
【0015】
2)PVSの識別に用いられ、
配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチド、又は
配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチドと、
配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチドと、を備える、PVS配列増幅用プライマーセット。
【0016】
3)PVXの識別に用いられ、
配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチド、又は
配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチドと、
配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチド、又は
配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチドと、を備える、PVX配列増幅用プライマーセット。
【0017】
4)PVYの識別に用いられ、
配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチド、又は
配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチドと、
配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチド、又は
配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端としてを含むポリヌクレオチドと、を備える、PVY配列増幅用プライマーセット。
【0018】
本実施形態に係る上記1)~4)の4つの各プライマーセットは、各プライマーセットを用いた増幅反応により、各ウイルスゲノムに対応する領域を増幅可能なよう設計されている。該当の領域の核酸を含み得る試料に対して、上記のプライマーセットを用いて増幅反応を行い、増幅産物が得られた場合には、試料に該当のウイルスが存在すると判定できる。
【0019】
上記の各プライマーセットの詳細については後述する。後述する実施形態のプライマーセットは、実施形態の方法に使用することができる。
【0020】
上記のPCR反応は、PCR法の検査対象の試料に含まれ得る核酸を鋳型とすることができる。ウイルスの存在が“有”と識別されることは、PCR法の検査対象の試料においてウイルスに由来する核酸が検出されたことと同義である。
【0021】
実施形態の方法において、該当のウイルスに由来する核酸を含み得る試料としては、ウイルスの存在が疑われる植物体又はその抽出物、加工品等が挙げられる。
【0022】
試料の対象となる植物種としては、ジャガイモ(Solanum tuberosum)が好適である。その他、上記のウイルスの感染が認められる場合、トマト(Solanum lycopersicum)などのSolanum属植物や、タバコ(Nicotiana tabacum)などのNicotiana属植物等であってもよい。
【0023】
植物体としては、ウイルスが存在し得る植物体の一部分であってよく、ジャガイモの場合であれば、芽、茎、葉、根、ストロン等を例示できる。種ばれいしょ検疫では、収穫した塊茎から育てた植物(次世代)を検査することが行われており、収穫した塊茎から育てた植物の葉が好適である。本実施形態の方法は、種ばれいしょ検疫に、好適に適用可能である。
【0024】
PLRV、PVS、PVX、及びPVYはRNAウイルスであり、ウイルスに由来する核酸はRNAである。植物体からのRNAの抽出は公知の手法により実施することができる。
【0025】
実施形態の方法は、植物体からRNAを抽出する操作を行う工程を含むことができる。
抽出されたRNAからは、公知の逆転写反応を利用してDNAを得ることができる。ウイルスに由来するRNAを逆転写して得られたDNAをウイルスに由来する核酸として、PCR反応の鋳型として用いることができる。逆転写反応には、ランダムプライマー又はリバースプライマーを用いることができる。
【0026】
実施形態の方法の一例として、試料に対して、上記1)~4)のいずれか2以上のプライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法を実施する工程と、
PLRV配列増幅用プライマーセットを用いた増幅反応で、PLRVに由来する増幅産物の増幅が認められた場合には前記試料にPLRVが存在する、又は、PLRVに由来する増幅産物の増幅が認められなかった場合には前記試料にPLRVが存在しないと判定する、
PVS配列増幅用プライマーセットを用いた増幅反応で、PVSに由来する増幅産物の増幅が認められた場合には前記試料にPVSが存在する、又は、PVSに由来する増幅産物の増幅が認められなかった場合には前記試料にPVSが存在しないと判定する、
PVX配列増幅用プライマーセットを用いた増幅反応で、PVXに由来する増幅産物の増幅が認められた場合には前記試料にPVXが存在する、又は、PVXに由来する増幅産物の増幅が認められなかった場合には前記試料にPVXが存在しないと判定する、及び
PVY配列増幅用プライマーセットを用いた増幅反応で、PVYに由来する増幅産物の増幅が認められた場合には前記試料にPVYが存在する、又は、PVYに由来する増幅産物の増幅が認められなかった場合には前記試料にPVYが存在しないと判定する、ことからなる群から選ばれるいずれか2以上の判定を行う工程と、を含む方法を例示できる。
【0027】
なお、上記の1)~4)の各プライマーセットは、上記の4種類のジャガイモ病害ウイルスゲノムの外被タンパク質(CP:coat protein)遺伝子の領域に設計されている。外被タンパク質遺伝子の配列は保存性が高く、個別にウイルス変異が生じたとしても、安定的に解析が可能である。
【0028】
ここで、本実施形態の方法は、前記1)~4)のいずれか2以上のプライマーセットを使用したマルチプレックスPCR法を採用する。マルチプレックスPCR法とは、1つの反応系に2以上のプライマーセットが含まれていることを意味する。即ち、実施形態の方法では、上記の4種類のジャガイモ病害ウイルスのうち、2種類以上の上記ウイルスに由来する増幅産物を同一の反応系において同時に増幅でき、2種類以上のウイルスを一度に検出することが可能である。
【0029】
上記反応系とは、例えば1つの反応容器に含まれるPCR反応液を例示でき、例えば、1つの反応チューブに収められたPCR反応液や、反応プレートの1つのウェルに収められたPCR反応液であってよい。
上記反応液には、前記1)~4)のいずれか2以上のプライマーセットの他に、PCR反応に必要な種々の試薬類を含むことができる。試薬類としては、テンプレートの核酸を含み得る検査対象の試料、DNAポリメラーゼ、ヌクレオチド、Mg2+イオン、バッファー、塩類等が挙げられる。また、反応液は、後述するインターカレート色素やTaqMan(登録商標)プローブ等の検出試薬を含むことができる。
【0030】
上記の非特許文献1の手法では、増幅産物長に基づき増幅産物を特定するため、PCR反応で得られた増幅産物を電気泳動によって分離する方法が用いられている。
一方、本実施形態の手法によれば、電気泳動に代えてPCR反応で得られる増幅産物を、例えばPCR装置を用いて増幅過程において検出することが可能である。PCR装置を用いた場合には、増幅産物の量をリアルタイムで検出できるので、当該方法は、リアルタイムPCR法と称される。
【0031】
リアルタイムPCR法において、増幅効率を向上させる観点から、該PCR反応で得られる各増幅産物のポリヌクレオチドの長さは、50~400bpが好ましく、70~250bpがより好ましく、90~200bpがさらに好ましい。
【0032】
実施形態の方法は、インターカレート色素の存在下で、前記マルチプレックスPCR法を実施することが好ましい。
【0033】
インターカレート色素を使用したPCR反応は、インターカレーター法と称される。
インターカレーター法では、色素が増幅産物の二本鎖核酸にインターカレーションすることにより発せられたシグナルを測定することで、増幅産物を検出可能である。
【0034】
インターカレート色素は、二本鎖核酸へのインターカレーションが可能で、インターカレーションによりシグナルが生じる又は増強される色素である。インターカレート色素としては、二本鎖核酸へのインターカレーションにより蛍光が発せられるインターカレート蛍光色素が好ましい。
インターカレート蛍光色素としては、SYBR(登録商標)Green、EvaGreen(登録商標)Dye、TBGreen(登録商標)等が挙げられる。
【0035】
インターカレーター法において、PCR反応で目的の増幅産物が得られたことは、増幅産物のTm値(melting temperature:融解温度)を解析することで特定できる。Tm値は、増幅産物の長さや増幅産物に含まれる塩基の種類によって、増幅産物ごとに異なった値を示す。そのため、実際のPCR反応で得られた増幅産物のTm値を測定し、推定又は予め測定されたリファレンスの増幅産物のTm値と照らし合わせ、目的の増幅産物が得られているかを検証できる。リファレンスの増幅産物については、配列情報を予め解読して、該当のプライマーセットを用いて目的の増幅産物が得られるかどうかを確認することができる。
【0036】
したがって、実施形態の方法は、上記1)~4)のいずれか2以上のプライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法を実施する工程の後に、該工程で得られた増幅産物のTm値を取得し、前記Tm値に基づき、前記増幅産物がPLRV、PVS、PVX、又はPVYのいずれに由来する増幅産物であるかを特定する工程、を含むことができる。
【0037】
増幅産物のTm値は、PCR反応後に、PCR装置を使用して融解曲線解析を行うことにより測定できる。
【0038】
本実施形態の方法において、上記の1)~4)の前記プライマーセットを使用して得られる各増幅産物のTm値は、互いに異なっている。
例えば、後述の実施例の表1に示される増幅産物の、同時検出時のTm値(測定値)を温度の低い順から挙げると、
PVY配列増幅用プライマーセットを用いて増幅された増幅産物のTm値の一例は79.8±0.1℃であり、
PVS配列増幅用プライマーセットを用いて増幅された増幅産物のTm値の一例は81.3±0.1℃であり、
PVX配列増幅用プライマーセットを用いて増幅された増幅産物のTm値の一例は85.3±0.2℃であり、
PLRV配列増幅用プライマーセットを用いて増幅された増幅産物のTm値の一例は88.0±0.1℃である。
このように、本実施形態の前記1)~4)のいずれか2以上のプライマーセットによれば、各増幅産物のTm値が互いに異なっている。そのため、目的の増幅産物を、Tm値に基づき明確に区別可能である。
【0039】
Tm値に基づき、増幅産物を明確に区別可能な程度の指標の一例としては、前記1)~4)の前記プライマーセットの全てを使用したマルチプレックスPCRにて増幅された各増幅産物のTm値が互いに異なり、1反応あたりの各増幅産物のTm値の温度差が0.5℃以上であることが好ましく、1℃以上であることがより好ましく、1.3℃以上であることがさらに好ましく、1.5℃以上であることが特に好ましい。
前記Tm値の温度差の上限値は特に制限されるものではないが、前記1)~4)の前記プライマーセットの全てを使用して増幅された各増幅産物の温度差の上限値は、一例として10℃以下であってよく、7℃以下であってよく、5℃以下であってよく、3℃以下であってよい。
前記Tm値の温度差の数値範囲の一例としては、0.5℃以上10℃以下であってよく、1℃以上7℃以下であってよく、1.3℃以上5℃以下であってよく、1.5℃以上3℃以下であってよい。
【0040】
上記の各増幅産物のTm値の温度差は、前記1)~4)の前記プライマーセットの全てを使用したマルチプレックスPCRにて増幅された、上記の4種類のウイルスに由来する増幅産物のうち、Tm値の一番近い増幅産物同士を比較するものとする。増幅産物のTm値は、増幅産物の融解曲線のピーク値を採用することができる。
【0041】
実施形態の方法は、上記の1)~4)の前記プライマーセットの他に、さらに別の任意のプライマーセットを含んでもよい。
例えば、逆転写反応及びPCR反応が適切に行われているかどうかを検証する観点から、ジャガイモで発現するジャガイモの遺伝子を標的とした核酸増幅が可能なプライマーセットを使用して測定されたジャガイモの遺伝子の発現を内部標準としてもよい。当該遺伝子としては、ジャガイモにおける安定的な発現が認められることから、例えば、ジャガイモの伸長因子-1 アルファ(EF1α:elongation factor 1 alpha)遺伝子が挙げられる。
【0042】
かかるプライマーセットとして、以下を例示する。
5)EF1αの検出に用いられ、
配列番号9に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号9に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
配列番号10に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号10に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、EF1α配列増幅用プライマーセット。
【0043】
上記プライマーセットは、以下を包含する。
5’)EF1αの検出に用いられ、
配列番号19に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
配列番号19に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、
配列番号20に記載の塩基配列3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
配列番号20に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、を備える、EF1α配列増幅用プライマーセット。
【0044】
上記のEF1α配列増幅用プライマーセットを用いて増幅された増幅産物のTm値(測定値)の一例は75.7±0.1℃である。この温度は上記の1)~4)の前記プライマーセットを用いて増幅された増幅産物のTm値のいずれとも重複しないため、実施形態の方法に好適に利用可能である。
【0045】
ジャガイモ遺伝子の内部標準の増幅産物の量は、ウイルス検出の閾値とすることができる。例えば、EF1α配列増幅用プライマーセットにより増幅された増幅産物の量を、ウイルス検出の閾値とすることができる。
一例として、インターカレーター法で得られ、EF1α配列増幅用プライマーセットにより増幅された増幅産物の量を示す蛍光強度を基準として、上記の1)~4)の前記プライマーセットにより増幅された増幅産物が、この閾値を超える値を示した場合、目的の増幅産物の増幅が認められるものと判断できる。
【0046】
前記2以上のプライマーセットとは、前記1)~4)のいずれか3以上のプライマーセットであってもよく、前記1)~4)の4つ全てのプライマーセットであってもよい。
2以上のプライマーセットの組み合わせは任意であり、少なくともPLRV配列増幅用プライマーセットを含む組み合わせ、少なくともPVS配列増幅用プライマーセットを含む組み合わせ、少なくともPVX配列増幅用プライマーセットを含む組み合わせ、少なくともPVY配列増幅用プライマーセットを含む組み合わせを例示できる。また例えば、上記のPLRV配列増幅用プライマーセット及びPVS配列増幅用プライマーセットを含む組み合わせや、PVS配列増幅用プライマーセット及びPVY配列増幅用プライマーセットを含む組み合わせ、PVS配列増幅用プライマーセット及びPVX配列増幅用プライマーセットを含む組み合わせ等を例示できる。
【0047】
前記プライマーセットの組み合わせにおいては、上記のPVS配列増幅用プライマーセット及び/又はPVY配列増幅用プライマーセットを含むことが好ましい。
PVSには、普通系統(PVSO:Ordinary lineage)、アンデス系統(PVSA:Andean lineage)およびフレーヤ系統(PVSP:Phureja lineage)が存在することが知られている(既報:Vallejo D, Gutierrez P, Marin M (2016) Genome characterization of a potato virus S (PVS) variant from tuber sprouts of Solanum phureja Juz. et Buk. Agron Colomb 34:51-60)。
PVYには、C系統(PVYC:C strain)、O系統(PVYO: O strain)、Eu-N系統(PVYEu-N:Eu-N-strain)、NA-N系統(PVYNA-N:NA-N strain)およびE系統(PVYE:E strain)、ならびに、これらの5つの系統間における組換え体などが存在する。組換え体とは、PVYEu-NとPVYOの組換え体であるNTN系統(PVYNTN:NTN strain)やWilga系統(PVYN-Wi:N-Wi strain)等である。(既報:Green KJ, Brown CJ, Gray SM, Karaseva AV (2017) Phylogenetic study of recombinant strains of potato virus Y. Virology 507:40-50)。
特にPVSは、系統間で配列が大きく異なっており、上記3系統に対応可能なプライマーセットを構築することは容易ではない。
従来のプライマーセットでは、上記の系統を検出することは困難であったが、実施形態に係るプライマーセットによれば、例えば後述の実施例の表1に示すように、これらの系統を容易に検出可能である。
【0048】
プライマーの特異性にはプライマーの3’末端側の配列が特に重要とされる。PVS配列増幅用プライマーセットにおける配列番号13及び14に記載の塩基配列(配列番号13及び14における混合塩基の全ての組み合わせを含む)は、PVSO、PVSAおよびPVSPのゲノム配列に対し、3’末端から8塩基以内にミスマッチが存在しない。同様に、PVY配列増幅用プライマーセットにおける配列番号17に記載の塩基配列は、PVYC、PVYO、PVYEu-N、PVYNA-N、PVYE、及びPVYNTNのゲノム配列に対し、3’末端から8塩基以内にミスマッチが存在しない。
即ち、PVS配列増幅用プライマーセット及びPVY配列増幅用プライマーセットは、複数系統の解析に対応可能な有用なプライマーセットである。
【0049】
前記1)~4)の4つ全てのプライマーセットを使用する場合の実施形態の方法として、下記の方法が挙げられる。
前記1)~4)の前記プライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法により、ジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV:potato leafroll virus)、ジャガイモSウイルス(PVS:potato virus S)、ジャガイモXウイルス(PVX:potato virus X)及びジャガイモYウイルス(PVY:potato virus Y)の存在の有無を識別することを含む、方法。
【0050】
前記1)~5)の5つ全てのプライマーセットを使用する場合の実施形態の方法として、下記の方法が挙げられる。
前記1)~5)の前記プライマーセットを使用して、マルチプレックスPCR法により、ジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV:potato leafroll virus)、ジャガイモSウイルス(PVS:potato virus S)、ジャガイモXウイルス(PVX:potato virus X)及びジャガイモYウイルス(PVY:potato virus Y)の存在の有無を識別することを含む、方法。
【0051】
マルチプレックスPCR法に用いるプライマーセットの数が増えるほど、ウイルスの検疫効率を向上させることができる。
【0052】
一方で、インターカレーター法のシグナル検出に適した増幅産物の長さは400bp以下とされている。そのため、反応系内のプライマーセットの数を増やし、好ましい増幅産物長を保ちつつ、増幅産物を明確に区別可能な程度に、各増幅産物を識別可能な特定のプライマーセットを見出すことは困難である。
【0053】
リアルタイムPCR法では、上記のインターカレーター法の他に、プローブ法が一般的に実施されている。
一般的に、リアルタイムPCRにおけるマルチプレックスPCR法では、インターカレーター法ではなく、プローブ法が採用されることが通例である。むしろ、一般的に、マルチプレックスPCR法にはインターカレーター法では適用が困難であると認識されている。
【0054】
その理由としては、上述のように、インターカレーター法に好適な増幅産物長で、且つ増幅産物を明確に区別可能な特定のプライマーセットを見出すことは非常に困難であるためである。
【0055】
プローブ法は、蛍光色素等で標識され、標的配列にハイブリダイズ可能なプローブの存在下でPCR反応を行う。プローブとしては、TaqManプローブ、サイクリングプローブ等が挙げられる。プローブ法では、プローブごとに異なる標識種を付与することができるため、標識による増幅産物の区別が容易であることも、マルチプレックスPCR法にプローブ法が用いられる要因である。標識としては、蛍光色素による蛍光標識が挙げられる。蛍光色素としては、FAM、Cy5、VIC等が挙げられ、市販の蛍光色素を適宜用いることができる。
【0056】
ただし、プローブ法では、標識されたプローブが高価であること、多種の標識のシグナルを一度に検出するためには、多波長を検出可能な高価なPCR装置を用いる必要がある。
【0057】
一方で、実施形態の方法によれば、マルチプレックスPCR法に、インターカレーター法を適用可能である。そのため、安価で汎用性の高い解析を実施することができる。これは、種ばれいしょ検疫のような非常に多くの検体を扱う場合において、実用面で特に重要な点である。
【0058】
本実施形態の前記1)~4)のプライマーセットによれば、インターカレーター法により、ジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV)、ジャガイモSウイルス(PVS)、ジャガイモXウイルス(PVX)およびジャガイモYウイルス(PVY)の4種類全てのジャガイモ病害ウイルスの存在の有無を、マルチプレックスPCR法により、全て一度に識別することが可能であり、検査効率向上の観点から非常に有用である。
【0059】
また、実施形態の方法は、逆転写反応及びPCR反応を、1つの反応系で続けて行う、所謂1ステップRT-PCR法により、実施することができる。
例えば、実施形態の方法は、前記ウイルスRNAに対する逆転写反応に用いられる逆転写酵素、及び前記マルチプレックスPCRに用いられる2以上のプライマーセットを含む反応系において、前記逆転写反応及び前記マルチプレックスPCR法を連続して実施することができる。
【0060】
1ステップRT-PCR法では、逆転写反応で得られたDNAに対して、非特異的なアニーリングが生じやすいところ、本実施形態の前記1)~4)のプライマーセットでは、非特異的なアニーリング及び増幅が生じ難い。本実施形態の前記1)~4)のプライマーセットによれば、1ステップRT-PCR法においても、精度の高い解析を維持できる。
【0061】
実施形態の方法によれば、マルチプレックスPCRに、インターカレーター法による1ステップRT-PCRを適用可能であるので、従来の検査手法と比較し、格段に省力化されたウイルス検出が可能であり、検査の効率化を飛躍的に向上可能である。
【0062】
≪プライマーセット≫
本実施形態の1)~4)のプライマーセットが備えることのできる各プライマーに係るポリヌクレオチドとして、以下の(1-1)~(8-2)のポリヌクレオチドを例示できる。
【0063】
(1-1)配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
(1-2)配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
(2-1)配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
(2-2)配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PLRV配列増幅用プライマーセット。
【0064】
(3-1)配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
(3-2)配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
(4-1)配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
(4-2)配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVS配列増幅用プライマーセット。
【0065】
(5-1)配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
(5-2)配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
(6-1)配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
(6-2)配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVX配列増幅用プライマーセット。
【0066】
(7-1)配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
(7-2)配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、
(8-1)配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
(8-2)配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチドと、を備える、PVY配列増幅用プライマーセット。
【0067】
配列番号3~4に記載の塩基配列のうち、BはG、T、又はCであり、MはA又はCであり、WはA又はTである混合塩基を表す。
【0068】
上記の連続する15塩基以上の塩基配列の塩基数の上限値としては、各配列番号1~8に記載の各塩基配列の塩基数が挙げられるが、40塩基以下が好ましい。
配列番号1であれば、配列番号1に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上40塩基以下の塩基配列であってよい。
配列番号2であれば、配列番号2に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上40塩基以下の塩基配列であってよい。
配列番号3であれば、配列番号3に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上23塩基以下の塩基配列であってよい。
配列番号4であれば、配列番号4に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上28塩基以下の塩基配列であってよい。
配列番号5であれば、配列番号5に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上23塩基以下の塩基配列であってよい。
配列番号6であれば、配列番号6に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上32塩基以下の塩基配列であってよい。
配列番号7であれば、配列番号7に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上29塩基以下の塩基配列であってよい。
配列番号8であれば、配列番号8に記載の塩基配列のうちの連続する15塩基以上40塩基以下の塩基配列であってよい。
【0069】
上記の連続する塩基数の数値範囲としては、各配列番号1~8に記載の各塩基配列の塩基数に範囲において、それぞれ独立に、例えば、15塩基以上40塩基以下であってよく、17塩基以上30塩基以下であってよく、18塩基以上25塩基以下であってよい。プライマーの特異性を高めるとの観点からは、該塩基数は大きいほうがよいが、プライマー自体のTm値を好適なものとする観点から、該塩基数は上記上限値以下であることが好ましい。
【0070】
上記の配列番号1~8は、各ウイルスゲノムの保存領域にあたる配列であり、且つプライマーとして好適な塩基配列を有するので、この連続する15塩基以上の塩基配列を含むポリヌクレオチドであれば、各ウイルスに由来するPCR反応の鋳型のDNA鎖へ、プライマーとして容易にアニーリングさせることができる。
【0071】
プライマーのアニーリングには、プライマーの3’末端側の配列が重要であることが知られている。そのため、上記の配列番号1~8に記載の塩基配列のうち、第15番目以降のいずれかの塩基を3’末端に有している。
【0072】
実施例で使用されたプライマーの3’末端を考慮するのであれば、
(1-1)又は(1-2)のポリヌクレオチドであれば、配列番号1に記載の塩基配列の第21番目の塩基を3’末端に有することが好ましく、
(2-1)又は(2-2)のポリヌクレオチドであれば、配列番号2に記載の塩基配列の第41番目の塩基を3’末端に有することが好ましく、
(3-1)又は(3-2)のポリヌクレオチドであれば、配列番号3に記載の塩基配列の第22番目の塩基を3’末端に有することが好ましく、
(4-1)又は(4-2)のポリヌクレオチドであれば、配列番号4に記載の塩基配列の第28番目の塩基を3’末端に有することが好ましく、
(5-1)又は(5-2)のポリヌクレオチドであれば、配列番号5に記載の塩基配列の第21番目の塩基を3’末端に有することが好ましく、
(6-1)又は(6-2)のポリヌクレオチドであれば、配列番号6に記載の塩基配列の第23番目の塩基を3’末端に有することが好ましく、
(7-1)又は(7-2)のポリヌクレオチドであれば、配列番号7に記載の塩基配列の第26番目の塩基を3’末端に有することが好ましく、
(8-1)又は(8-2)のポリヌクレオチドであれば、配列番号8に記載の塩基配列の第42番目の塩基を3’末端に有することが好ましい。
当該3’末端は、配列番号11~18に記載の塩基配列の3’末端に一致するものである。
【0073】
また、(2-1)又は(2-2)のポリヌクレオチドは、下記のポリヌクレオチドを包含する。
配列番号2に記載の塩基配列の第1~45番目の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列を含み、第15~45番目のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド、又は
配列番号2に記載の塩基配列の第1~45番目の塩基配列のうちの連続する15塩基以上の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、第15~45番目のいずれかの塩基を3’末端として含むポリヌクレオチド。
【0074】
また、同様に実施例で使用された各プライマーの配列を考慮し、以下の(1-1a)~(8-2a)のプライマーセットを例示できる。
【0075】
(1-1a)配列番号11に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
(1-2a)配列番号11に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、
(2-1a)配列番号12に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
(2-2a)配列番号12に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、を備える、PLRV配列増幅用プライマーセット。
【0076】
(3-1a)配列番号13に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
(3-2a)配列番号13に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、
(4-1a)配列番号14に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
(4-2a)配列番号14に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、を備える、PVS配列増幅用プライマーセット。
【0077】
(5-1a)配列番号15に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
(5-2a)配列番号15に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチドと、
(6-1a)配列番号16に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
(6-2a)配列番号16に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、を備える、PVX配列増幅用プライマーセット。
【0078】
(7-1a)配列番号17に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
(7-2a)配列番号17に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、
(8-1a)配列番号18に記載の塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチド、又は
(8-2a)配列番号18に記載の塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を3’末端側に含むポリヌクレオチドと、を備える、PVY配列増幅用プライマーセット。
【0079】
プライマーとして好適なTm値を有するとの観点から、上記の(1-1)~(8-2)及び(1-1a)~(8-2a)のポリヌクレオチドは、例えば、15~40ヌクレオチドであることが好ましく、17~30ヌクレオチドであることがより好ましく、18~25ヌクレオチドであることがさらに好ましい。
【0080】
また、実施形態に係るPCR反応で、PLRV、PVS、PVX、又はPVYに由来する核酸を増幅可能な範囲において、上記配列番号1~18に記載の各塩基配列は、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であってもよく、1又は複数個の塩基が置換された塩基配列であってもよい。
【0081】
1又は複数個としては、1~5個であってもよく、1~4個であってもよく、1~3個であってもよく、1~2個であってもよい。ただし、プライマーの3’末端から2塩基、より好ましくは8塩基には、塩基の欠失、置換若しくは付加が存在しないことが好ましい。
【0082】
実施形態のプライマーセットは、PLRV配列増幅用プライマーセット、PVS配列増幅用プライマーセット、PVX配列増幅用プライマーセット、及びPVY配列増幅用プライマーセットからなる群から選ばれるいずれか2以上のプライマーセットを含むものが好ましい。
かかる4種類のプライマーセットのうちの、いずれか2以上のプライマーセットによれば、PLRV、PVS、PVX、及びPVYからなる群から選ばれるいずれか2以上のウイルスに由来する核酸を増幅可能である。実施形態のプライマーセットは、上記に説明した実施形態の方法に好適に使用可能である。
【実施例
【0083】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
<核酸抽出>
非特許文献1に記載の手法に沿って、RNAを抽出した。
【0085】
(ウイルス感染葉について)
汁液接種法又は接ぎ木接種法により、人為的にウイルス分離株を接種したジャガイモ(品種:男爵薯)の感染葉を用意した。接種には、PLRV(ChLR_2: GenBank/MLBL/DDBJ accession, LC501445)、PVX(O-IC249:AB451181)、PVSO(M:AB451180)、PVYNTN(Eu-12Jp:AB702945)を用いた。ウイルスの感染は病徴観察及びRT-PCR法により確認し、感染葉は使用直前まで-80℃保存した。
【0086】
(RNA抽出)
ジャガイモの感染葉に対して、40倍量のRNA抽出バッファー(800 mM グアニジンイソシアネート、 50 mM Tris-HCl[pH 8.0]、 0.5% [v/v] Triton X-100、1% [v/v] Tween 20)を加えて磨砕し、磨砕液を得た。100μlの磨砕液を、直径3mmのろ紙片が入ったPCRチューブに加えて数回ピペッティングした後、すぐに磨砕液をPCRチューブから除去した。PCRチューブ内で、200μlの50%(v/v)イソプロパノールで1回、75%(v/v)エタノールで1回の順に加え、ピペッティングにより、ろ紙を洗浄した。50μlのRNase-free水をPCRチューブに添加し、95℃で5分間処理してろ紙からRNAをRNa-free水中に溶出させた。この溶液をRNA溶液(試料)とした。
また、各ウイルスの同時検出を確認するため、各ウイルス感染葉の磨砕液を等量ずつ含む混和溶液からも、同様にRNA溶液を抽出した。
【0087】
<1ステップ マルチプレックスリアルタイムRT-PCR>
1)試薬類・プライマー
ジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV)、ジャガイモSウイルス(PVS)、ジャガイモXウイルス(PVX)及びジャガイモYウイルス(PVY)について、公開されている各ウイルスのゲノムの塩基配列から、保存領域である外被タンパク質(CP:coat protein)遺伝子の領域を特定し、該領域を増幅可能なプライマーを設計した。
また、逆転写反応及びPCR反応の対照(内部標準)として、ジャガイモの伸長因子-1 アルファ(EF1α:elongation factor 1 alpha)遺伝子の配列領域を特定し、該領域を増幅可能なプライマーを設計した。
【0088】
上記の各プライマーの塩基配列及び増幅産物のTm値を以下に示す。単独検出時及び同時検出時のTm値(測定値)については、(平均値)±2×(標準誤差)として信頼範囲(95%)を示している。
【0089】
【表1】
【0090】
使用した試薬類を以下に示す。
PrimeScript One Step RT PCR Kit Ver.2 (タカラバイオ株式会社)
EvaGreen Dye, 20X in Water(Biotium, Inc.)
ROX Reference Dye (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
【0091】
2)反応液の調整
以下の組成にて、各試薬類及び5つのプライマーセットを含む混合液を調整した。下記の混合液の量は、1反応あたりの量を示す。なお、ROX Reference Dyeは使用するリアルタイムPCRシステムによって必要な濃度が異なるため、希釈濃度や液量によって調整が推奨される。
【0092】
【表2】
【0093】
上記の混合液をウェルプレートに9μlずつ分注し、分注後の混合液に、上記で取得した混合溶液から取得したRNA溶液を1μl添加し、反応液を得た。
【0094】
3)反応
QuantStudio3リアルタイムPCRシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用し、反応液に対し、以下の条件にて反応を行った。
【0095】
【表3】
【0096】
4)結果
上記のPCR反応後の増幅産物の融解曲線を、図1に示す。図中の矢印は、対応するウイルスの増幅産物とその融点(Tm値)を示している。
【0097】
なお、増幅曲線の解析において、蛍光強度が閾値以上となるサイクル数(Cycles of threshold:Ct値)が、試料のRNA溶液に代えて精製水(DW)を用いた対照群のCt値以下のもの判定に用いた。例えば、今回は、DWを用いた対照群のCt値が30超であったため、Ct値が30以下となる試料を判定に用いた。試料のCt値が30より大きい場合は、RNA抽出又は検出反応が正しく行われていない可能性がある。
【0098】
また、融解曲線に現れる特異的な温度帯のピークのうち、内部標準(ジャガイモ遺伝子)に対応するピーク(76℃付近)の蛍光強度の閾値以上のピークを、判定に用いた。
【0099】
図1に示されるとおり、PLRV、PVS、PVX、PVYの4種類のウイルスを対象とした増幅産物が得られ、試料中にウイルスが存在することを識別できた。増幅産物は、Tm値が互いに異なっており、各ウイルスの種類に対応するピークを明確且つ容易に識別可能であった。
【0100】
上記実施例によれば、上記の4種類のウイルスの存在の有無の識別を、1ステップマルチプレックスリアルタイムRT-PCR法を用い、簡便で高効率に実施可能であった。
【0101】
また、解析にEvaGreen Dye(インターカレート色素)を利用しているため、安価で汎用性の高い解析を実施できた。
【0102】
更には、増幅産物の増幅曲線のピークは、それぞれのTm値の差が大きく、明確且つ容易に識別可能であることから、誤判定が生じ難い高精度な解析が可能であった。
【0103】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
図1
【配列表】
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