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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】集束イオンビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/09 20060101AFI20240912BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20240912BHJP
   H01J 37/30 20060101ALI20240912BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01J37/09 A
H01J37/317 D
H01J37/30 A
H01J37/305 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023544871
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2021032130
(87)【国際公開番号】W WO2023032078
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】永原 幸児
(72)【発明者】
【氏名】大庭 弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 安彦
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0292535(US,A1)
【文献】特開2021-051892(JP,A)
【文献】特開2004-288810(JP,A)
【文献】特開平8-162389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/09
H01J 37/317
H01J 37/30
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを発生させるイオン源と、
前記イオン源から発生する前記イオンビームの一部を通過させるために選択される少なくとも1つの貫通孔が形成された絞り部材と、
前記絞り部材の前記貫通孔を通過する前記イオンビームの一部を遮蔽する遮蔽部材と、
前記遮蔽部材を駆動する駆動機構と、
前記貫通孔を通過した前記イオンビームを試料に照射する光学系と、
を備え、
前記駆動機構は、前記光学系が所定の光学条件を維持する状態で前記絞り部材の前記貫通孔を通過する前記イオンビームの前記遮蔽部材による遮蔽有無を切り替え、
前記駆動機構は、前記イオンビームの中心部に配置される前記貫通孔を通過する前記イオンビームの前記遮蔽部材による遮蔽有無を切り替え、
前記絞り部材の前記貫通孔の外形は円形状であり、
前記遮蔽部材は直線的なエッジ状の端部を備え、
前記駆動機構は、前記貫通孔を通過する前記イオンビームの前記端部による遮蔽有無を切り替えることによって、ビーム軸に対する断面形状が弓形又は半円形のビームと円形のビームとを切り替え、
前記イオン源、前記絞り部材、前記遮蔽部材および前記駆動機構の動作を制御する制御装置を有し、
前記制御装置は、第1プロセスを実施可能であり、
前記第1プロセスにおいて、前記制御装置は、
前記遮蔽部材による前記イオンビームの遮蔽無しに、前記絞り部材の前記貫通孔の中心部を前記イオンビームの中心部に一致させ、前記ビーム軸に対する断面形状が円形である前記イオンビームを形成し、前記イオンビームにより前記試料を走査して、前記試料の観察用の画像を取得し、
次に、前記光学系の光学条件を前記観察用の画像の取得時と同一に維持した状態で、前記遮蔽部材により前記イオンビームの一部を遮蔽して、前記ビーム軸に対する断面形状が弓形又は半円形である前記イオンビームを形成し、前記試料を加工する、
ことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記貫通孔を通過する前記イオンビームを前記遮蔽部材の端部によって遮蔽する場合に前記端部を前記イオンビームの中心部に配置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項5】
前記駆動機構は、少なくとも1軸方向の駆動方向に前記遮蔽部材を進退させることによって、前記貫通孔を通過する前記イオンビームに対して、前記駆動方向の両端部の各々による遮蔽有無を切り替える、
ことを特徴とする請求項1又は3に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項6】
前記制御装置は、第2プロセスを実施可能であり、
前記第2プロセスにおいて、前記制御装置は、
前記遮蔽部材による前記イオンビームの遮蔽無しに、前記絞り部材の前記貫通孔の中心部を前記イオンビームの中心部に一致させ、前記ビーム軸に対する断面形状が円形である前記イオンビームを形成し、前記イオンビームにより前記試料を走査して、前記試料の観察用の画像を取得し、
次に、前記光学系の光学条件を前記観察用の画像の取得時から変更し、前記光学系の光学条件の変更に伴う予め設定したプリセット動作を前記光学系に対して実行し、前記遮蔽部材により前記イオンビームの一部を遮蔽して、前記ビーム軸に対する断面形状が弓形又は半円形である前記イオンビームを形成し、前記試料を加工する、
ことを特徴とする請求項1,3又は5に記載の集束イオンビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体デバイスの不良解析等で集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)装置を用いたミクロンレベルの局所加工が行われる場合がある。例えば、FIB装置と走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を備える複合ビーム装置によれば、試料表面の二次電子像による観察と高エネルギーのイオンビームによるスパッタ加工が可能である。
これらの機能を利用して半導体デバイスの特定領域を局所加工して断面構造の評価解析あるいは薄片化の後、透過電顕による解析が行われている。解析結果は製造プロセス条件にフィードバックされて、プロセス条件の最適化、信頼性向上等に利用されている。本発明は、上記のような集束イオンビームによる解析用加工に関する。
断面加工あるいは薄片化加工においては評価解析対象となる面をエッジの立った垂直平面に加工する必要がある。
集束イオンビームによる解析用加工において、直線的なエッジを有する所望の縁形状の開口が形成されたマスク(アパーチャ)を光学系に備え、マスクによって切り取られるビーム形状の整形ビームによって試料を加工することによって、直線的なエッジを有する加工形状を形成するビームシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、試料室にてイオンビーム鏡筒と試料台の試料との間に配置され、試料に照射されるイオンビームの一部を遮蔽することによって加工形状及び加工位置を調整するマスクを備える加工観察装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、光学軸と直交するエッジを有する所望の縁形状の開口が形成されたマスクを光学系に備え、マスクによって切り取られるビーム形状を加工形状と一致させる投射モードによって試料にイオンビームを照射する加工装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-123196号公報
【文献】特開2008-258149号公報
【文献】特開平9-162098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大電流による集束イオンビーム加工では、ビーム径が光学系の収差によるボケのためにひろがってしまい、断面加工あるいは薄片化加工においては評価解析対象となる面を急峻なエッジの立った垂直平面に加工することが困難である。従って大電流(数10nA)、中電流(数nA)、小電流(数100pA)と順次ビーム電流を下げて、加工することでエッジの立った平面を作製していた。
この方法においてはビーム電流を変えて複数回の加工が必要になるため、スループットの点で不利となる。
ところで、上記した特許文献1及び特許文献3に示されるビームシステム及び加工装置の場合、例えば加工位置の位置決め等のために、加工用のビーム照射によって観察対象の画像を生成すると、歪んだ画像が得られることによって所望の位置精度を確保することができないという問題が生じる。このような問題に対して、例えば、観察時と加工時とでマスクの開口の形状又は光学条件を切り替えることによって観察用の画像を生成する方法がある。
例えば、マスクの開口の切り替えでは、複数の異なる形状の開口が形成されたマスクによって、観察時でのマスクの開口の形状を小径の円形等に切り替えて、細く絞ったビームの走査によって観察対象の画像(走査像)を生成する。しかしながら、観察時と加工時とでマスクの開口の形状を切り替える場合、マスクに複数の開口が必要になるとともに、マスクの切り替えに伴う変位によってビームの照射位置の精度及び再現性が低下するおそれがある。
【0005】
また、例えば、光学条件の切り替えでは、いわゆるガウシアンビームを生成する集束モード(イオンビームを集束レンズによってほぼ平行ビームとして対物レンズによって対象上に集束させるモード)に切り替えて、観察対象に対するビームの走査によって画像(走査像)を生成する。しかしながら、観察時と加工時とで光学条件を切り替える場合、レンズ電圧の変更に伴ってビームの照射位置の精度及び再現性が低下するおそれがある。
また、上記した特許文献2に示される加工観察装置の場合、試料とイオンビーム鏡筒との間に、例えばマイクロマニュピレータのようなサンプリング機器及びガス供給機器等の移動する機器並びに電子ビーム鏡筒の対物レンズ等が配置されると、マスクを他の機器との干渉無しに配置することが困難になるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、イオンビームによる加工位置の位置精度を向上させることができる集束イオンビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る集束イオンビーム装置は、イオンビームを発生させるイオン源と、前記イオン源から発生する前記イオンビームの一部を通過させるために選択される少なくとも1つの貫通孔が形成された絞り部材と、前記絞り部材の前記貫通孔を通過する前記イオンビームの一部を遮蔽する遮蔽部材と、前記遮蔽部材を駆動する駆動機構と、前記貫通孔を通過した前記イオンビームを試料に照射する光学系と、を備え、前記駆動機構は、前記光学系が所定の光学条件を維持する状態で前記絞り部材の前記貫通孔を通過する前記イオンビームの前記遮蔽部材による遮蔽有無を切り替える。
【0008】
上記構成では、前記駆動機構は、前記イオンビームの中心部に配置される前記貫通孔を通過する前記イオンビームの前記遮蔽部材による遮蔽有無を切り替えてもよい。
【0009】
上記構成では、前記駆動機構は、前記貫通孔を通過する前記イオンビームを前記遮蔽部材の端部によって遮蔽する場合に前記端部を前記イオンビームの中心部に配置してもよい。
【0010】
上記構成では、前記絞り部材の前記貫通孔の外形は円形状であり、前記遮蔽部材は直線的なエッジ状の端部を備え、前記駆動機構は、前記貫通孔を通過する前記イオンビームの前記端部による遮蔽有無を切り替えることによって、ビーム軸に対する断面形状が弓形又は半円形のビームと円形のビームとを切り替えてもよい。
【0011】
上記構成では、前記駆動機構は、少なくとも1軸方向の駆動方向に前記遮蔽部材を進退させることによって、前記貫通孔を通過する前記イオンビームに対して、前記駆動方向の両端部の各々による遮蔽有無を切り替えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学系が所定の光学条件を維持する状態で絞り部材の貫通孔を通過するイオンビームの遮蔽部材による遮蔽有無を切り替える駆動機構を備えることによって、観察時と加工時との切り替えに伴うビーム照射の位置精度の低下を抑制し、イオンビームによる加工位置の位置精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態での複合ビーム装置の構成を示す図。
図2】本発明の実施形態でのイオンビーム鏡筒の構成を示す図。
図3】本発明の実施形態でのイオンビーム鏡筒の遮蔽部材及び絞り部材とイオンビームとの対応の一例を示す図。
図4】本発明の実施形態での複合ビーム装置のイオンビームのスポット形状の例を示す図。
図5】本発明の実施形態での複合ビーム装置のイオンビームによるエッチング加工で形成される断面の例を示す図。
図6】本発明の実施形態の変形例での遮蔽部材の第1の移動例を示す図。
図7】本発明の実施形態の変形例での遮蔽部材の第2の移動例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る複合ビーム装置10について、添付図面を参照しながら説明する。
【0015】
(複合ビーム装置)
図1は、実施形態での複合ビーム装置10の構成を示す図である。
複合ビーム装置10は、試料室11と、試料ホルダ12と、試料台13と、試料室11に固定される電子ビーム鏡筒15及びイオンビーム鏡筒17とを備える。
但し、本発明の実施において電子ビーム鏡筒15は必ずしも必要ではない。複合ビーム装置10の代わりに、イオンビーム鏡筒17を備えた集束イオンビーム装置で実施可能である。
複合ビーム装置10は、試料室11に固定される検出器として、例えば、二次荷電粒子検出器21を備える。複合ビーム装置10は、試料Sの表面にガスを供給するガス供給部23を備える。複合ビーム装置10は、試料室11の外部で複合ビーム装置10の動作を統合的に制御する制御装置25と、制御装置25に接続される入力装置27及び表示装置29を備える。
【0016】
なお、以下において、3次元空間で互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の各軸方向は各軸に平行な方向である。例えば、Z軸方向は複合ビーム装置10の上下方向(例えば、鉛直方向など)に平行である。X軸方向及びY軸方向は、複合ビーム装置10の上下方向に直交する基準面(例えば、水平面など)に平行である。
【0017】
試料室11は、所望の減圧状態を維持可能な気密構造の耐圧筐体によって形成されている。試料室11は、排気装置(図示略)によって内部を所望の減圧状態になるまで排気可能である。
試料ホルダ12は、試料Sを固定する。
試料台13は、試料室11の内部に配置されている。試料台13は、試料ホルダ12を支持するステージ31と、試料ホルダ12と一体にステージ31を3次元的に並進及び回転させるステージ駆動機構33とを備える。
ステージ駆動機構33は、例えば、X軸、Y軸及びZ軸の各軸方向に沿ってステージ31を並進させる。ステージ駆動機構33は、例えば、所定の回転軸及び傾斜軸の各軸周りに適宜の角度でステージ31を回転させる。回転軸は、例えば、ステージ31に対して相対的に設定され、ステージ31が傾斜軸の軸周りの所定基準位置である場合に、複合ビーム装置10の上下方向に平行である。傾斜軸は、例えば、複合ビーム装置10の上下方向に直交する方向に平行である。ステージ駆動機構33は、例えば、ステージ31を回転軸及び傾斜軸の各軸周りにユーセントリック(eucentric)に回転させる。ステージ駆動機構33は、複合ビーム装置10の動作モードなどに応じて制御装置25から出力される制御信号によって制御される。
【0018】
電子ビーム鏡筒15は、試料室11の内部における所定の照射領域内の照射対象に電子ビーム(EB)を照射する。電子ビーム鏡筒15は、例えば、電子ビームの出射端部15aを複合ビーム装置10の上下方向に対して所定角度傾斜した傾斜方向でステージ31に臨ませる。電子ビーム鏡筒15は、電子ビームの光軸を傾斜方向に平行にして、試料室11に固定されている。
電子ビーム鏡筒15は、電子を発生させる電子源と、電子源から射出された電子を集束及び偏向させる電子光学系とを備える。電子光学系は、例えば、電磁レンズ及び偏向器などを備える。電子源及び電子光学系は、電子ビームの照射位置及び照射条件などに応じて制御装置25から出力される制御信号によって制御される。
【0019】
イオンビーム鏡筒17は、試料室11の内部における所定の照射領域内の照射対象に集束イオンビーム等のイオンビーム(IB)を照射する。イオンビーム鏡筒17は、例えば、イオンビームの出射端部17aを複合ビーム装置10の上下方向でステージ31に臨ませる。イオンビーム鏡筒17は、イオンビームの光軸を上下方向に平行にして、試料室11に固定されている。
実施形態でのイオンビーム鏡筒17の詳細については後述する。
【0020】
電子ビーム鏡筒15及びイオンビーム鏡筒17の互いの光軸は、例えば、試料台13の上方の所定位置Pで交差している。
なお、電子ビーム鏡筒15及びイオンビーム鏡筒17の互いの配置は適宜に入れ替えられてもよい。例えば、電子ビーム鏡筒15は上下方向に配置され、イオンビーム鏡筒17は上下方向に対して傾斜する傾斜方向又は直交方向に配置されてもよい。
【0021】
複合ビーム装置10は、照射対象の表面にイオンビームを走査しながら照射することによって、被照射部の画像化と、スパッタリングによる各種の加工(掘削及びトリミング加工など)と、デポジション膜の形成となどを実行可能である。複合ビーム装置10は、試料Sから透過電子顕微鏡による透過観察用の試料片(例えば、薄片試料及び針状試料など)及び電子ビームによる分析用の分析試料片などを形成する加工を実行可能である。複合ビーム装置10は、試料片ホルダに移設された試料片を、透過電子顕微鏡による透過観察に適した所望の厚さの薄膜とする加工を実行可能である。複合ビーム装置10は、試料S、試料片及びニードルなどの照射対象の表面にイオンビーム又は電子ビームを走査しながら照射することによって、照射対象の表面の観察を実行可能である。
【0022】
二次荷電粒子検出器21は、イオンビーム又は電子ビームなどの照射によって照射対象から発生する二次荷電粒子(二次電子及び二次イオン)を検出する。二次荷電粒子検出器21は制御装置25に接続されており、二次荷電粒子検出器21から出力される検出信号は制御装置25に送信される。
複合ビーム装置10は、二次荷電粒子検出器21に限らず、他の検出器を備えてもよい。他の検出器は、例えば、EDS( Energy Dispersive X-ray Spectrometer)検出器、反射電子検出器及びEBSD(Electron Back-Scattering Diffraction)検出器などである。EDS検出器は、電子ビームの照射によって照射対象から発生するX線を検出する。反射電子検出器は、電子ビームの照射によって照射対象から反射される反射電子を検出する。EBSD検出器は、電子ビームの照射によって照射対象から発生する電子線後方散乱回折パターンを検出する。なお、二次荷電粒子検出器21のうち二次電子を検出する二次電子検出器及び反射電子検出器は、電子ビーム鏡筒15の筐体内に収容されてもよい。
【0023】
ガス供給部23は、試料室11に固定されている。ガス供給部23は、ステージ31に臨ませて配置されるガス噴射部(ノズル)を備える。ガス供給部23は、エッチング用ガス及びデポジション用ガスなどを照射対象に供給する。エッチング用ガスは、イオンビームによる照射対象のエッチングを照射対象の材質に応じて選択的に促進する。デポジション用ガスは、照射対象の表面に金属又は絶縁体などの堆積物によるデポジション膜を形成する。
ガス供給部23は、複合ビーム装置10の動作モードなどに応じて制御装置25から出力される制御信号によって制御される。
【0024】
制御装置25は、例えば、入力装置27から出力される信号又は予め設定された自動運転制御処理によって生成される信号等によって、複合ビーム装置10の動作を統合的に制御する。
制御装置25は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって所定のプログラムが実行されることにより機能するソフトウェア機能部である。ソフトウェア機能部は、CPUなどのプロセッサ、プログラムを格納するROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)及びタイマーなどの電子回路を備えるECU(Electronic Control Unit)である。制御装置25の少なくとも一部は、LSI(Large Scale Integration)などの集積回路であってもよい。
【0025】
入力装置27は、例えば、操作者の入力操作に応じた信号を出力するマウス及びキーボード等である。
表示装置29は、複合ビーム装置10の各種情報と、二次荷電粒子検出器21から出力される信号によって生成された画像データと、画像データの拡大、縮小、移動及び回転等の操作を実行するための画面等を表示する。
【0026】
(イオンビーム鏡筒)
図2は、実施形態でのイオンビーム鏡筒17の構成を示す図である。
イオンビーム鏡筒17は、イオン源41と、イオン光学系42とを備える。イオン源41及びイオン光学系42は、イオンビーム(IB)の照射位置及び照射条件などに応じて制御装置25から出力される制御信号によって制御される。
イオン源41はイオンを発生させる。イオン源41は、例えば、液体ガリウムなどを用いた液体金属イオン源である。なお、イオン源41は、例えば、ガス電界電離型イオン源又は誘導結合若しくは電子サイクロトロン共鳴(ECR)などによるプラズマ型イオン源などであってもよい。
【0027】
イオン光学系42は、イオン源41から引き出されたイオンビームを集束及び偏向させる。イオン光学系42は、光学条件を後述する集束モード及び投射モードなどの複数のモードのいずれかに切り替え可能である。イオン光学系42は、例えば、イオン源41側からイオンビーム鏡筒17の出射端部17a側(つまり試料S側)に向かって順次に配置される引出電極51と、コンデンサレンズ52と、ブランカー53と、可動遮蔽部54と、可動絞り55と、アライメント56と、スティグメータ57と、走査電極58と、対物レンズ59とを備える。
【0028】
引出電極51は、イオン源41との間に発生させる電界によってイオン源41からイオンを引き出す。引出電極51に印加される電圧は、例えば、イオンビームの所望するエミッション電流に応じて制御される。
コンデンサレンズ52は、例えば、光軸に沿って配置される第1コンデンサレンズ52a及び第2コンデンサレンズ52bを備える。第1コンデンサレンズ52a及び第2コンデンサレンズ52bの各々は、例えば、光軸に沿って配置される3つの電極を備える静電レンズである。
コンデンサレンズ52は、引出電極51によってイオン源41から引き出されたイオンビームを集束させる。コンデンサレンズ52では、イオンビーム鏡筒17の光学条件に応じて印加される電圧が調整されることによって、イオンビームの集束度合いに関するレンズ強度が変更される。
【0029】
ブランカー53、アライメント56及び走査電極58は、イオンビームを偏向させる静電偏向器60を構成し、スティグメータ57はビーム形状を補正する。
ブランカー53は、例えば、イオンビームの進行方向に交差する方向の両側から光軸を挟み込むように対向して配置される一対の電極(ブランキング電極)等を備える。ブランカー53は、イオンビームの遮断の有無を切り替える。例えば、ブランカー53は、イオンビームを偏向させることによってブランキングアパーチャ(図示略)に衝突させて遮断し、イオンビームを偏向させないことによって遮断を解除する。
【0030】
可動遮蔽部54は、遮蔽駆動機構54aと、遮蔽部材54bとを備える。
遮蔽駆動機構54aは、複合ビーム装置10の動作モードなどに応じて制御装置25から出力される制御信号によって制御される。例えば、遮蔽駆動機構54aは、駆動方向が少なくとも1軸方向であるアクチュエータを備える。アクチュエータは、例えば圧電アクチュエータである。アクチュエータの駆動方向は、イオンビーム鏡筒17の光軸に交差する平面内の少なくとも任意の1軸方向である。例えば、アクチュエータは、イオンビーム鏡筒17の光軸に直交するX軸方向及びY軸方向の各々に遮蔽部材54bを進退させる。尚、遮蔽駆動機構54aはモータと歯車機構とから構成されるものでもよい。
【0031】
遮蔽部材54bの外形は、例えば、矩形板状である。遮蔽部材54bの短手方向の少なくとも一端の外形は、長手方向に沿って直線的に延びるナイフエッジ状である。遮蔽部材54bは、例えば、タングステンなどの金属に比べてスパッタ率がより小さいガラス状炭素などの材料又はエッチングされても直線性の高いナイフエッジ状を保つ単結晶シリコンなどの材料によって形成されている。
遮蔽部材54bは、短手方向を遮蔽駆動機構54aによる第1の駆動方向(例えば、X軸方向)に平行とし、長手方向に沿ったナイフエッジ状の一端54cを遮蔽駆動機構54aによる第2の駆動方向(例えば、Y軸方向)に平行として配置される。遮蔽部材54bは、遮蔽駆動機構54aによってX軸方向に変位することによって、ナイフエッジ状の一端54cを含む端部54dによってイオンビームの一部を遮蔽する。遮蔽部材54bは、遮蔽駆動機構54aによってY軸方向に変位することによって、ナイフエッジ状の一端54cを含む端部54dのうちイオンビームを遮蔽する部位をY軸方向に沿って変更する。
例えば、遮蔽部材54bは、後述する可動絞り55によって光軸に対する断面形状が円形に成形されるイオンビームの一部を予め遮蔽することによって、可動絞り55を通過後に光軸に対する断面形状が弓形又は半円形になるイオンビームを形成する。遮蔽部材54bによって形成されるイオンビームの光軸に対する断面形状は、ナイフエッジ状の一端54cによって形成される弦と、遮蔽部材54bとは干渉しない円弧とによる弓形又は半円形である。
【0032】
可動絞り55は、絞り駆動機構55aと、絞り部材55bとを備える。
絞り駆動機構55aは、複合ビーム装置10の動作モードなどに応じて制御装置25から出力される制御信号によって制御される。例えば、絞り駆動機構55aは、駆動方向が少なくとも1軸方向であるアクチュエータを備える。アクチュエータは、例えば圧電アクチュエータである。アクチュエータの駆動方向は、イオンビーム鏡筒17の光軸に交差する平面内の少なくとも任意の1軸方向である。例えば、アクチュエータは、例えばイオンビーム鏡筒17の光軸に直交するX軸方向及びY軸方向の各々に絞り部材55bを進退させる。尚、絞り駆動機構55aはモータと歯車機構とから構成されるものでもよい。
絞り部材55bの外形は、例えば、少なくとも1つの貫通孔55cが形成された板状である。例えば、絞り部材55bには、所定方向に沿って配列される複数の貫通孔55cが形成されている。所定方向は、絞り駆動機構55aの駆動方向に平行な方向であって、例えば、X軸方向である。複数の貫通孔55cのいずれかは、絞り駆動機構55aによる絞り部材55bの駆動に応じて、イオンビームの少なくとも一部を通過させる。複数の貫通孔55cは、少なくとも観察用及び加工用の相互に大きさが異なる円形孔である。遮蔽部材54b及び絞り部材55bがイオンビーム鏡筒17の内部に配置されるので、遮蔽部材54b及び絞り部材55bと他の機器との干渉が防止される。
【0033】
アライメント56、スティグメータ57及び走査電極58の各々は、例えば、イオンビームの光軸を取り囲むように筒状に配置される複数の電極等を備える。
アライメント56は、イオンビームが対物レンズ59の中心軸を通過するようにイオンビームの軌道を調整する。
スティグメータ57は、イオンビームの非点収差を補正する。
走査電極58は、対物レンズ59を通過したイオンビームを試料S上で走査させる。走査電極58は、例えば、2次元走査用の偏向電圧が印加されることによって、試料Sの表面上の矩形領域をラスター走査する。
【0034】
対物レンズ59は、例えば、光軸に沿って配置された3つの電極を備える静電レンズである。対物レンズ59は、イオンビームを試料Sに集束させる。対物レンズ59では、イオンビーム鏡筒17の光学条件に応じて印加される電圧が調整されることによって、イオンビームの集束度合い及びビーム形状の大きさ等に関するレンズ強度が変更される。
【0035】
イオン光学系42は、例えば、光学条件を集束モード及び投射モードなどの複数のモードのいずれかに切り替え可能である。
集束モードは、コンデンサレンズ52と対物レンズ59との間でイオンビームの軌道を交差させずにほぼ平行とし、可動遮蔽部54及び可動絞り55によってイオンビームの角度広がりを調整する。集束モードは、対物レンズ59によって試料S上に集束させられて走査電極58によって偏向されるイオンビームによって試料S上を走査する。
投射モードは、いわゆる均一照明であるケーラー照明法に基づいて、視野絞りに相当する可動絞り55で成形されるイオンビームを走査せずに試料S上に投射する。投射モードは、対物レンズ59によって可動絞り55を光源とし、可動絞り55によって切り取られたビーム形状でイオンビームを試料S上に集束させる。なお、投射モードでは、照射範囲を拡大するなどのために走査が実行されてもよい。
【0036】
イオン光学系42は、例えば、試料Sの観察及び加工が繰り返し実行される場合等にて、光学条件を集束モードに維持するとともに、イオンビームを通過させる可動絞り55の貫通孔55cの選択を維持した状態で、可動遮蔽部54によるイオンビームの遮蔽有無を切り替えて選択する。
例えば、イオン光学系42は、先ず、加工領域の設定及び位置ずれの補正等のための観察時には、可動遮蔽部54によるイオンビームの遮蔽無しに、可動絞り55での所望の円形孔の中心をビーム中心C(後述の図3及び図4参照)に一致させることによって、光軸に対する断面形状が円形であるイオンビームを形成する。走査電極58によって偏向されるイオンビームによって試料S上を走査して、試料Sの表面から発生する二次荷電粒子信号を二次荷電粒子検出器21により検出して観察像を形成する。
次に、イオン光学系42は、加工時には、イオン光学系42でのレンズ電圧等の光学条件及び可動絞り55の設定を観察時と同一に維持した状態で可動遮蔽部54によってイオンビームの一部を遮蔽することによって、光軸に対する断面形状が弓形又は半円形であるイオンビームを形成し、加工を実施する。
【0037】
図3は、実施形態でのイオンビーム鏡筒17の遮蔽部材54b及び絞り部材55bとイオンビーム(IB)との対応の一例を示す図である。図4は、実施形態での複合ビーム装置10のイオンビーム(IB)のスポット形状の例を示す図である。図5は、実施形態での複合ビーム装置10のイオンビーム(IB)によるエッチング加工で形成される断面の例を示す図である。
図3に示すように、遮蔽部材54bによる遮蔽無しに絞り部材55bによって絞られるイオンビームの広がり角度(第1ビーム半角)α1に比べて、遮蔽部材54bによって一部が遮蔽されるイオンビームの広がり角度(第2ビーム半角)α2は、より小さくなる。
例えば、下記数式(1)に示すように、試料S上に集束されるイオンビームの最小ビーム径dは、光学系倍率M、仮想光源径ρ、球面収差係数C、色収差係数C、ビーム半角α、放出イオンのエネルギー幅ΔV及びビームエネルギーVによって記述される。
【0038】
【数1】
【0039】
上記数式(1)の√の中にて、第1項はイオン源のエミッションポイントの試料S上での結像の大きさであり、第2項は球面収差による像のぼけ量であり、第3項は色収差による像のぼけ量である。第2項及び第3項はビーム半角αに依存し、ビーム半角αが小さくなるほど、各ぼけ量が減少する。つまり、遮蔽部材54bによる遮蔽の有無に応じて、イオンビームのビーム半角αが、第1ビーム半角α1から第2ビーム半角α2(<α1)へと減少することによって、第2ビーム半角α2側での球面収差による像のぼけ量及び色収差による像のぼけ量が減少する。
【0040】
例えば、図4に示すイオンビームのスポット形状は、相互に異なる大きさの各ビーム電流I1,I2,I3,I4のイオンビームに対して、遮蔽部材54bによって光軸に対する断面形状が半円形に成形された場合のスポット形状である。遮蔽部材54bのナイフエッジ状の一端54cによって形成されるビーム面BSは略平面状であり、球面収差及び色収差の各々による像のぼけ量が低減されていることによって、イオンビームの広がりは低減されている。ナイフエッジ状の一端54cの位置を調整してビーム中心Cに合わせこむと、第2ビーム半角α2をほぼ零にすることができ、ビーム面BSにおいて球面収差による像のぼけ量及び色収差による像のぼけ量を無くすことができる。
例えば図4に示すビーム電流I4は40nAである。Y軸方向には球面収差及び色収差の各々による像のぼけ量によりひろがるものの、X軸方向については原点より負側の広がりが抑えられている。従って、大電流においてエッジの立った垂直平面の加工が可能となる。
例えば図5に示す試料Sの断面CSは、遮蔽部材54bによって形成されたビーム面BSを有するイオンビームのエッチング加工によって得られる実施例での加工幅PW及びだれ面DSと、遮蔽部材54bによる遮蔽無しのイオンビームのエッチング加工によって得られる比較例での加工幅PWa及びだれ面DSaとの例を示す。実施例での加工幅PW及びだれ面DSは、イオンビームの広がりが比較例に比べて低減されていることによって、比較例での加工幅PWa及びだれ面DSaよりも小さくなる。実施例のだれ面DSの急峻性は、比較例のだれ面DSaの急峻性に比べて、より高くなる。
【0041】
(観察及び加工プロセス)
以下に、上述した複合ビーム装置10による試料Sの観察及び加工の動作例について説明する。
第1の動作例では、先ず、制御装置25は、可動遮蔽部54による遮蔽無しに可動絞り55の円形孔によって、光軸に対する断面形状が円形であるイオンビームを形成する。制御装置25は、相対的に小電流のイオンビームの照射によって試料Sの表面を走査することによって、観察用の画像(観察像)を取得する。制御装置25は、観察像上にて加工領域及び加工条件を設定する。
次に、制御装置25は、可動遮蔽部54によってイオンビームの一部を遮蔽することによって、光軸に対する断面形状が弓形又は半円形であるイオンビームを形成する。制御装置25は、イオン光学系42でのレンズ電圧等の光学条件及び可動絞り55の設定を相対的に大電流又は中電流に変更し、例えばビーム電流の変更に伴う照射位置の補正等の予め設定した所定のプリセット動作を静電偏向器60に対して実行した後に、相対的に大電流又は中電流のイオンビームの照射によって試料Sをエッチング加工する。
【0042】
第2の動作例では、先ず、制御装置25は、所定の粗加工の終了後に、可動遮蔽部54による遮蔽無しに可動絞り55の円形孔によって、光軸に対する断面形状が円形であるイオンビームを形成する。制御装置25は、相対的に中電流のイオンビームの照射による試料Sの表面の損傷を無視できる場合、中電流のイオンビームで試料Sの表面を走査することによって、観察用の画像(観察像)を取得する。制御装置25は、観察像上にて加工領域及び加工条件を設定する。
次に、制御装置25は、可動遮蔽部54によってイオンビームの一部を遮蔽することによって、光軸に対する断面形状が弓形又は半円形であるイオンビームを形成する。制御装置25は、例えば観察時と同様に中電流であるイオンビームの照射によって試料Sをエッチング加工する。
【0043】
第3の動作例では、先ず、制御装置25は、可動遮蔽部54による遮蔽無しに可動絞り55の円形孔によって、光軸に対する断面形状が円形であるイオンビームを形成する。制御装置25は、相対的に小電流又は中電流のイオンビームの照射によって試料Sの表面を走査することによって、予め試料Sの表面に形成されている基準点を示す参照マークを観察するための画像(観察像)を取得する。制御装置25は、観察像上の参照マークの位置座標に基づいて、必要に応じて試料Sの位置ずれを補正する。
次に、制御装置25は、可動遮蔽部54によってイオンビームの一部を遮蔽することによって、光軸に対する断面形状が弓形又は半円形であるイオンビームを形成する。制御装置25は、イオン光学系42でのレンズ電圧等の光学条件及び可動絞り55の設定を相対的に大電流又は中電流に変更し、例えばビーム電流の変更に伴う照射位置の補正等の予め設定した所定のプリセット動作を静電偏向器60に対して実行した後に、相対的に大電流又は中電流のイオンビームの照射によって試料Sをドリフト補正インターバルの間、エッチング加工する。ドリフト補正は、制御装置25により、可動遮蔽部54による遮蔽無しに可動絞り55の円形孔によって、光軸に対する断面形状が円形であるイオンビームを形成する。制御装置25は、試料Sの表面を走査することによって、予め試料Sの表面に形成されている基準点を示す参照マークを観察するための画像(観察像)を取得する。制御装置25は、観察像上の参照マークの位置座標に基づいて、必要に応じて試料Sの位置ずれを補正する。
そして、制御装置25は、加工領域が所望の位置に到達するまで、上述した観察像の取得及び位置ずれ補正と、エッチング加工とを繰り返し実行する。
【0044】
第4の動作例では、制御装置25は、可動遮蔽部54によってイオンビームの一部を遮蔽するとビーム電流が減少することから、例えば、ビーム電流を最大に設定した状態で加工内容に応じて可動遮蔽部54による遮蔽量を変更することによって、ビーム電流を調整する。
例えば、制御装置25は、最大のビーム電流に対して、粗加工での遮蔽量を20%とし、中間加工での遮蔽量を50%とし、仕上げ加工での遮蔽量を80%とする。これにより、例えば、最大のビーム電流が80nAであれば、粗加工でのビーム電流は64nAであり、中間加工でのビーム電流は40nAであり、仕上げ加工でのビーム電流は16nAである。なお、制御装置25は、可動遮蔽部54の遮蔽部材54bの位置をより詳細に変更することによって、ビーム電流をより詳細に調整してもよい。
【0045】
上述したように、実施形態の複合ビーム装置10は、イオン光学系42が所定の光学条件を維持する状態で絞り部材55bの貫通孔55cを通過するイオンビームの遮蔽部材54bによる遮蔽有無を切り替える遮蔽駆動機構54aを備えることによって、観察時と加工時との切り替えに伴うビーム照射の位置精度の低下を抑制し、イオンビームによる加工位置の位置精度を向上させることができる。例えば観察時の集束モード及び加工時の投射モード等のように、レンズ電圧等の光学的な設定が大きく異なる複数の光学条件を観察時及び加工時の各々に応じて切り替える場合に比べて、光学条件を維持することによってビーム照射位置の再現性を向上させることができる。
【0046】
ビーム中心Cに配置される貫通孔を通過するイオンビームを遮蔽部材54bによって遮蔽することにより、ビーム電流が相対的に大きいビーム中心部によって試料Sを加工することができる。
遮蔽部材54bによる遮蔽無しに絞り部材55bの円形孔を通過するイオンビームによって観察用の適正な画像を得ることができ、精度の良い観察及び加工位置決めを行うことができる。
遮蔽部材54bによって整形される断面形状が弓形又は半円形のイオンビームによって、直線的なエッジの断面形状を容易に形成することができる。球面収差及び色収差の各々による像のぼけ量が低減されているイオンビームによって、仕上げ加工幅を低減することができ、加工時間が嵩むことを抑制して、効率よく断面加工を行うことができる。
例えば、電流密度が相対的に小さいイオンビーム等にて所望のビーム電流を確保するために絞り部材55bの貫通孔55cを大きくすることに起因して収差が増大する場合であっても、加工によって形成される断面形状のエッジの急峻性を確保することができる。
【0047】
遮蔽部材54bにてイオンビームの一部を遮蔽する部位、つまりナイフエッジ状の一端54cを含む端部54dは、遮蔽駆動機構54aの第2の駆動方向(例えば、Y軸方向)に平行である。これにより、遮蔽部材54bにてイオンビームを遮蔽する部位(イオンビームが照射される部位)を遮蔽駆動機構54aの第2の駆動方向に沿ってずらすことができ、遮蔽部材54bの寿命(交換が必要となるまでの期間)を長くすることができる。
【0048】
(変形例)
以下、実施形態の変形例について説明する。なお、上述した実施形態と同一部分については、同一符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0049】
上述の実施形態では、遮蔽部材54bの外形を矩形板状としたが、これに限定されず、矩形以外の形状の板状等であってもよい。
上述の実施形態では、遮蔽部材54bの短手方向の少なくとも一端54cの外形は長手方向に沿うナイフエッジ状であるとしたが、これに限定されない。例えば、遮蔽部材54bにはイオンビームを遮蔽するための複数の端部が設けられてもよい。
図6及び図7は、実施形態の変形例での遮蔽部材61の第1及び第2の移動例を示す図である。
図6及び図7に示すように、変形例の遮蔽部材61の外形は、遮蔽駆動機構54aに接続される軸部62が設けられた矩形板状である。変形例の遮蔽部材61は、遮蔽駆動機構54aによる第1の駆動方向(例えば、X軸方向)の両端として、第2の駆動方向(例えば、Y軸方向)に沿って直線的に延びるナイフエッジ状の第1端61a及び第2端61bを備える。遮蔽部材61は、遮蔽駆動機構54aによる第2の駆動方向(例えば、Y軸方向)の両端として、第1の駆動方向(例えば、X軸方向)に沿って直線的に延びるナイフエッジ状の第3端61c及び第4端61dを備える。
【0050】
図6に示すように、遮蔽部材61は、遮蔽駆動機構54aによってX軸方向に変位することによって、ナイフエッジ状の第1端61a及び第2端61bの各々を含む各端部61A,61Bのいずれかによって貫通孔55cを通過するイオンビーム(IB)の一部を遮蔽する。
図7に示すように、遮蔽部材61は、遮蔽駆動機構54aによってY軸方向に変位することによって、ナイフエッジ状の第3端61c及び第4端61dの各々を含む各端部61C,61Dのいずれかによって貫通孔55cを通過するイオンビーム(IB)の一部を遮蔽する。
この変形例によれば、例えば薄片試料の形成等の断面加工時に、遮蔽部材61によって形成されるイオンビームの略平面状のビーム面BSの方向及びビーム面BSによって形成される試料Sでの断面の方向(向き)を変更することができる。
【0051】
上述の実施形態では、可動絞り55での所望の円形孔の中心をビーム中心Cに一致させた状態で可動遮蔽部54の遮蔽部材54bを変位させることによって、光軸に対する断面形状が弓形又は半円形であるイオンビームを形成するとしたが、これに限定されない。
例えば、可動絞り55での所望の円形孔の中心はビーム中心Cからずれて配置されてもよい。この場合、さらに、可動遮蔽部54によるイオンビームの遮蔽時に遮蔽部材54bのナイフエッジ状の一端54cがビーム中心Cと交差するように配置されてもよい。この場合、イオンビームの光軸に対する断面形状が半円形ではなく弓形であっても、イオンビームのビーム電流が相対的に大きいビーム中心部によって試料Sに断面を形成することができる。
また、上述の実施形態では、可動遮蔽部54によるイオンビームの遮蔽無しの観察時と、可動遮蔽部54によってイオンビームの一部を遮蔽する加工時とで、可動絞り55の絞り部材55bの位置を不変としたが、これに限定されず、相互に絞り部材55bの位置が変更されることによってビーム電流が調整されてもよい。
【0052】
上述の実施形態では、可動遮蔽部54は、可動絞り55の上流側に配置されるとしたが、これに限定されず、可動遮蔽部54は、可動絞り55の下流側に配置されてもよい。
【0053】
上述の実施形態では、複合ビーム装置10は、電子ビーム鏡筒15及びイオンビーム鏡筒17を備えるとしたが、これに限定されない。例えば、複合ビーム装置10は、電子ビーム鏡筒15を備えずにイオンビーム鏡筒17のみを備えてもよい。
【0054】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
10…複合ビーム装置、11…試料室、12…試料ホルダ、13…試料台、15…電子ビーム鏡筒、17…イオンビーム鏡筒、21…二次荷電粒子検出器、23…ガス供給部、25…制御装置、27…入力装置、29…表示装置、41…イオン源、42…イオン光学系、52…コンデンサレンズ、53…ブランカー、54…可動遮蔽部、55…可動絞り、54a…遮蔽駆動機構(駆動機構)、54b…遮蔽部材、54c…一端、54d…端部、55…可動絞り、55a…絞り駆動機構、55b…絞り部材、55c…貫通孔、56…アライメント、57…スティグメータ、58…走査電極、59…対物レンズ、61…遮蔽部材、61a…第1端、61b…第2端、61c…第3端、61d…第4端、61A,61B,61C,61D…端部、IB…イオンビーム、C…ビーム中心、S…試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7