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  • 特許-熱可塑性樹脂フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20240912BHJP
   C08F 220/14 20060101ALI20240912BHJP
   B29C 48/88 20190101ALI20240912BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20240912BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240912BHJP
   B29K 33/04 20060101ALN20240912BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
B29C48/92
C08F220/14
B29C48/88
B29C48/305
B29C48/08
B29K33:04
B29L7:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020175013
(22)【出願日】2020-10-16
(65)【公開番号】P2022066090
(43)【公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 正明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 希
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213882(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199161(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131831(WO,A1)
【文献】特開2008-265268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
C08F 220/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tダイから溶融押出した熱可塑性樹脂組成物を弾性金属ロール(I)と剛体鏡面金属ロール(II)とで狭圧し、更に剛体鏡面金属ロール(III)を経由させてフィルムを巻き取る工程を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物であり、
前記剛体鏡面金属ロール(II)と前記剛体鏡面金属ロール(III)との間隔Gth(mm)、及び熱可塑性樹脂フィルムの厚みFth(mm)が下記式(1)の関係を満たし、
前記熱可塑性樹脂フィルムの厚みFthが0.05~0.13mmであり、
前記間隔Gthが0.4~2.0mmであり、
ライン速度が15~35m/分であり、
前記剛体鏡面金属ロール(II)と前記剛体鏡面金属ロール(III)との温度差が10℃以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
5.0≦Gth/Fth≦30.0 (1)
【請求項2】
前記剛体鏡面金属ロール(II)及び前記剛体鏡面金属ロール(III)の温度が、それぞれ50~105℃である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記弾性金属ロール(I)の中心と、前記剛体鏡面金属ロール(II)の中心とを結んだ直線(A)と、前記剛体鏡面金属ロール(II)と前記剛体鏡面金属ロール(III)の中心とを結んだ直線(B)とが交差してなす角のうち鋭角の角度が0°~45°である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記Tダイから吐出する熱可塑性樹脂組成物の吐出量が90~600kg/時間である、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横段の発生を抑制することができる熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長手方向に一軸ロール延伸する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法においては、横段が生じたり、端部にしわやキズが生じたりするため、これらの発生を抑制した平滑性に優れる熱可塑性樹脂フィルムの製造方法が種々検討されている。
例えば特許文献1には、熱可塑性樹脂シートをそのガラス転移温度より高く加熱して一軸延伸した後、冷却オーブンによって熱可塑性樹脂フィルムをそのガラス転移温度以下まで冷却する方法が提案されている。また、特許文献2には、横段を解消する方法として、樹脂フィルムを挟む鏡面ロール又は鏡面ベルトの表面温度を130℃以下にする方法が記載されている。
また、特許文献3には、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、流延ダイの流延幅端部からのドープの吐出速度V1Eと、流延ダイの流延幅中央部からのドープの吐出速度V1Cと、支持体の移動速度Vとが、(1)V>V1C及び(2)(V/V1E)>(V/V1C)の関係を満たすことを特徴とする製造方法が提案されている。
更に特許文献4には、弾性ロールと冷却ロールとで狭圧する工程を有する光学フィルムの製造方法について、冷却ロールの表面温度Tr1と、光学フィルムを構成する樹脂混合物のガラス転移温度Tgとが、Tg<Tr1≦Tg+40℃を満たすことを特徴とする製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-99946号公報
【文献】国際公開第2016/157908号
【文献】国際公開第2018/074019号
【文献】特開2011-68005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~4の製造方法によれば、横段の発生をある程度抑制することができるものの十分ではなく、改善が望まれていた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、横段の発生が少ない熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、Tダイから溶融押出した熱可塑性樹脂組成物を弾性金属ロールと剛体金属鏡面ロールとで狭圧し、その後特定の位置関係で配置したロールを経由させることにより、横段の発生を抑制し、平滑性に優れる熱可塑性樹脂フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は下記[1]~[7]を要旨とするものである。
[1]Tダイから溶融押出した熱可塑性樹脂組成物を弾性金属ロール(I)と剛体鏡面金属ロール(II)とで狭圧し、更に剛体鏡面金属ロール(III)を経由させてフィルムを巻き取る工程を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、前記剛体鏡面金属ロール(II)と前記剛体鏡面金属ロール(III)との間隔Gth(mm)、及び熱可塑性樹脂フィルムの厚みFth(mm)が下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
5.0≦Gth/Fth≦30.0 (1)
[2]前記熱可塑性樹脂フィルムの厚みFthが0.02~0.20mmである、[1]に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
[3]前記間隔Gthが0.4~2.0mmである、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
[4]ライン速度が9~60m/分である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
[5]前記剛体鏡面金属ロール(II)と前記剛体鏡面金属ロール(III)との温度差が10℃以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
[6]前記熱可塑性樹脂組成物が(メタ)アクリル系樹脂組成物である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
[7]前記(メタ)アクリル系樹脂組成物が多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含有する、[6]に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、横段の発生が少ない熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の製造方法における製膜装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱可塑性樹脂フィルムの製造方法]
本発明は、Tダイから溶融押出した熱可塑性樹脂組成物を弾性金属ロール(I)と剛体鏡面金属ロール(II)とで狭圧し、更に剛体鏡面金属ロール(III)を経由させてフィルムを巻き取る工程を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記剛体鏡面金属ロール(II)と前記剛体鏡面金属ロール(III)との間隔Gth(mm)、及び熱可塑性樹脂フィルムの厚みFth(mm)が下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするものである。
5.0≦Gth/Fth≦30.0 (1)
【0010】
Tダイから溶融押出した熱可塑性樹脂組成物を弾性金属ロール(I)、剛体鏡面金属ロール(II)及び剛体鏡面金属ロール(III)を経由させて熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法について本発明者らが検討したところ、剛体鏡面金属ロール(II)から剛体鏡面金属ロール(III)へ熱可塑性樹脂フィルムがスムーズに搬送されない場合、熱可塑性樹脂フィルムが剛体鏡面金属ロール(II)に貼り付いた状態が長くなり、その後、剛体鏡面金属ロール(II)から一気に剥がれるように剛体鏡面金属ロール(III)へと搬送され、その際に熱可塑性樹脂フィルムにたわみやシワに起因する横段が発生することを知見した。そこで、本発明は、剛体鏡面金属ロール(II)から剛体鏡面金属ロール(III)へ熱可塑性樹脂フィルムがスムーズに搬送されるように間隔Gthを調整することによって横段の発生を抑制するものである。具体的に間隔Gthは、前述のフィルムのたわみ及びシワの発生を抑制する観点から、熱可塑性樹脂フィルムの厚みをFthとした場合に、Gth/Fthは、5.0以上である必要があり、6.0以上であることが好ましく、7.0以上であることがより好ましく、8.0以上であることが更に好ましく、30.0以下である必要があり、25.0以下であることが好ましく、21.0以下であることがより好ましく、18.0以下であることが更に好ましい。
具体的に間隔Gthは、0.4mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、0.6mm以上であることが更に好ましい。一方、間隔Gthは2.0mm以下であることが好ましく、1.9mm以下であることがより好ましく、1.6mm以下であることが更に好ましい。
なお、本明細書においてGthは、剛体鏡面金属ロール(II)の中心と前記剛体鏡面金属ロール(III)の中心とを結んだ直線上における、剛体鏡面金属ロール(II)の側面と前記剛体鏡面金属ロール(III)の側面との間の距離をいう。
【0011】
本発明の製造方法は、前記構成要件を満たせば、どのような装置で製造を行ってもよいが、例えば、図1に示す装置により実施することができる。
図1の装置においては、まず原料である熱可塑性樹脂組成物を押出機1にて溶融する。次いで、溶融した熱可塑性樹脂組成物はギアポンプ2を経て、ポリマーフィルター3にてろ過され、その後、Tダイ4からシート状に吐出される。吐出された溶融樹脂(溶融状態の熱可塑性樹脂組成物)は、ロール5(弾性金属ロール(I))とロール6(剛体鏡面金属ロール(II))とで狭圧されて所望の厚みに成形されつつ、剛体鏡面金属ロール(II)で冷却される。次いで、ロール7(剛体鏡面金属ロール(III))で更に冷却した後、更にニップロール8,8’にて狭圧され、最後に巻取り機9にてロール状に巻き取られる。
【0012】
本発明においては、横段の発生を抑制する観点から、剛体鏡面金属ロール(II)と剛体鏡面金属ロール(III)との温度差を10℃以下とすることが好ましい。前記温度差が、10℃以下であると熱可塑性樹脂フィルムが過度に冷却されることがないため、温度変化に起因する横段の発生を更に効率的に抑制することが可能になる。この観点から、剛体鏡面金属ロール(II)と剛体鏡面金属ロール(III)との温度差は、8℃以下であることがより好ましく、6℃以下であることが更に好ましく、5℃以下であることがより更に好ましい。それぞれのロールの温度は、設定温度とする。
具体的に、剛体鏡面金属ロール(II)及び剛体鏡面金属ロール(III)の温度は、それぞれ、50~105℃であることが好ましく、60~100℃であることがより好ましく、70~95℃であることが更に好ましい。剛体鏡面金属ロール(II)及び剛体鏡面金属ロール(III)の温度が前記範囲内であると、熱可塑性樹脂フィルムがロールにより十分に冷却されるため、横段の発生を抑制しやすくなる。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度との関係では、剛体鏡面金属ロール(II)及び剛体鏡面金属ロール(III)の温度は、(熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度)-70~(熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度)-15℃であることが好ましく、(熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度)-60~(熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度)-20℃であることがより好ましく、(熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度)-50~(熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度)-25℃であることが更に好ましい。
【0013】
本発明において、弾性金属ロール(I)の中心と剛体鏡面金属ロール(II)の中心とを結んだ直線(A)(図示せず)と、剛体鏡面金属ロール(II)と剛体鏡面金属ロール(III)の中心とを結んだ直線(B)(図示せず)とが交差してなす角のうち鋭角の角度は、直線(A)と直線(B)が一直線上にある場合を0°とした場合、0~+45°であることが好ましく、0~+30°であることがより好ましく、0~+20°であることが更に好ましい。直線(A)と直線(B)とが交差してなす角のうち鋭角の角度が上記範囲内であると、本発明の効果を奏しやすく、また、溶融樹脂の冷却が十分行われ、フィルム表面の荒れが発生しにくくなる。
本発明では、弾性金属ロール(I)、剛体鏡面金属ロール(II)、剛体鏡面金属ロール(III)以外に、冷却用又は搬送用に1又は2以上のロールを使用することができる。これらのロールについても、隣り合うロールとの位置関係において、上記角度であることが好ましいが、製造ラインのスペースを考慮して、これらの角度を更に適宜調整することが好ましい。
【0014】
以下、本発明の実施に好適な製造装置及び条件等について詳細に説明する。
<押出機>
熱可塑性樹脂組成物を溶融し、押し出すための前記押出機としては、例えば単軸押出機、二軸押出機又は多軸押出機等を用いることができる。本発明においては、熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する際に発生する揮発分を除去するため、押出機はベント機構を備えることが好ましい。
押出機のスクリューとしてはバリアフライトやミキシングセクション付きスクリュー等を用いることができる。スクリューのL/D(Lは押出機のシリンダー長さ、Dはシリンダー内径を表す)としては、熱可塑性樹脂組成物の充分な可塑化や混練状態を得る観点から、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上であり、更に好ましくは25以上であり、そして、好ましくは100以下であり、より好ましくは50以下であり、更に好ましくは40以下である。L/Dが前記下限値以上であることにより熱可塑性樹脂組成物の十分な可塑化や混練状態が得られる。また、L/Dが前記上限値以下であることにより、剪断発熱による熱可塑性樹脂組成物の分解を抑制しつつ混練が可能である。
【0015】
熱可塑性樹脂組成物を溶融状態にする場合の押出機のシリンダー温度は、使用する熱可塑性樹脂及びそのガラス転移温度にもよるが、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは310℃以下であり、より好ましくは280℃以下である。シリンダー温度が前記下限値以上であることにより熱可塑性樹脂組成物を十分に溶融することができる。一方、シリンダー温度が前記上限値以下であることにより、熱可塑性樹脂組成物の熱劣化による分解によって発生する低沸点の分解物、ヤケ、及びゲル化を抑制することができる。
【0016】
<ギアポンプ>
本発明においては、後述するポリマーフィルターやスタティックミキサーでの圧力損失を補うため、押出機の後にギアポンプを設置してもよい。ギアポンプとしては特に制限はないが、インバータ制御のギアポンプが好ましい。インバータ制御のギアポンプを用いることにより、押出機から吐出される溶融樹脂流量の脈動を抑制することができる。
ギアポンプ入口の樹脂圧は10MPa以下であることが好ましく、8MPa以下であることがより好ましい。ギアポンプ入口の樹脂圧が前記上限値以下であるとスタティックミキサーのエレメント数が増加した場合でも押出不良が発生しにくくなる。
【0017】
<ポリマーフィルター>
本発明においては、ギアポンプとスタティックミキサーとの間にポリマーフィルターを用いることが好ましい。ポリマーフィルターとしては熱可塑性樹脂組成物をろ過するフィルターエレメント部と、溶融樹脂が導入及び排出されるハウジング部とからなることが好ましい。
フィルターエレメントとしては、ディスク型や筒型のものが挙げられる。
筒型のフィルターエレメントは通常、外周面から流体をろ過するろ過部、ろ過された流体が流れる中空部、この中空部から流体を排出する端部の排出部、及びフィルターエレメントの先端部を備える。筒型のフィルターエレメントとしては、例えばチューブタイプ、キャンドルタイプ等が挙げられ、中でも、キャンドルタイプのフィルターエレメントが好ましい。
キャンドルタイプのフィルターエレメントの形状に特に制限はなく、波型又はプリーツ型等が使用できる。前記プリーツ型におけるプリーツは、フィルターエレメントの半径方向に延びたものでもよいし、半径方向に対して斜めに延び、湾曲した断面形状又はアーチ型の断面形状を有する、いわゆるスパイラルプリーツであってもよい。
【0018】
フィルターエレメントのろ過精度は、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、そして、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。ろ過精度が前記範囲内であることにより、生産性と異物サイズのバランスを向上させることができる。特にろ過精度が前記下限値以上であることにより、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を通過させる際の剪断発熱による熱劣化を抑制できる。一方、ろ過精度が前記上限値以下であることにより、異物の効果的な除去が可能となる。
【0019】
<スタティックミキサー>
本発明においては、圧力損失を小さくしつつ、熱可塑性樹脂組成物を効率的に撹拌混合することを目的としてスタティックミキサーを用いてもよい。
スタティックミキサーを用いる場合、そのエレメント数(単位混合要素の数)は、5~30であることが好ましく、8~25であることがより好ましく、11~20であることが更に好ましい。エレメント数が前記範囲内であることにより、熱可塑性樹脂組成物の温度の均一性や、各配合成分の均一性が向上する。また、エレメント数が前記上限値以下であるとエレメントの表面積が少なくなるため、劣化した樹脂がエレメント表面に付着することを抑制することが可能になり異物の混入を抑えることができる。
【0020】
<Tダイ>
本発明において用いるTダイは、製膜したフィルムの厚みを均一化する観点から、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、及びコートハンガーダイ等のTダイを用いることが好ましい。なお、厚みを安定的に制御する観点から、ダイリップクリアランス調整ボルトを自動で調整する機構を備える自動調整ダイを用いることが好ましい。
【0021】
Tダイから吐出する熱可塑性樹脂組成物の吐出量は、押出機サイズにもよるが、好ましくは90~600kg/時間であり、より好ましくは100~400kg/時間であり、更に好ましくは110~250kg/時間である。吐出量が前記範囲内であることによって、押出機からTダイにおける溶融樹脂の状態が安定し、またTダイでの吐出量のムラが抑えられ、本発明の効果がより得られやすい。
【0022】
ダイリップクリアランスは、膜厚精度を高め、またダイライン及び横段の少ないフィルムを得やすくする観点から、好ましくは0.2~2.0mmであり、より好ましくは0.3~1.8mmであり、更に好ましくは0.5~1.5mmである。
ダイリップ幅は、ダイリップクリアランスと同様の観点から、好ましくは300~4,000mmであり、より好ましくは1,000~3,000mmであり、更に好ましくは1,500~2,500mmである。
【0023】
<エアギャップ>
Tダイの樹脂吐出部分と、溶融樹脂とキャストロール(図1のロール5)との接点との距離をあらわすエアギャップは、好ましくは50mm~150mmであり、より好ましくは50mm~100mmであり、更に好ましくは50mm~90mmである。エアギャップが前記上限値以下であると溶融樹脂と空気との接触時間が比較的短時間になるため熱可塑性樹脂組成物の表面温度が低下せず、ロールによる鏡面転写性が向上する。一方、エアギャップを前記下限値以上とすることにより、熱可塑性樹脂組成物からの揮発成分が拡散するための時間を確保することができ、揮発成分がキャストロール等に付着しにくくなる。
【0024】
<ロール>
本発明の製造方法においては、横段の発生を抑制し、更に熱可塑性樹脂フィルムの平滑性及び厚み精度を向上させる観点から、押出された溶融物(溶融樹脂)を、弾性金属ロール(I)と剛体鏡面金属ロール(II)とで狭圧すると共に前記剛体鏡面金属ロール(II)で冷却し、更に剛体鏡面金属ロール(III)で熱可塑性樹脂組成物を冷却する。特に本発明においては、前記剛体鏡面金属ロール(II)と前記剛体鏡面金属ロール(III)との間隔Gth(mm)、及び熱可塑性樹脂フィルムの厚みFth(mm)が前記式(1)の関係を満たすため、横段の発生を抑制し、平滑性に優れる熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0025】
本発明において用いる各ロールの線圧は、熱可塑性樹脂フィルムの平滑性を向上させる観点から、好ましくは5N/mm以上であり、より好ましく10N/mm以上であり、更に好ましくは15N/mm以上である。各ロールの線圧の上限値は、通常50N/mmであり、40N/mmであってもよい。
【0026】
本発明においては、前記ロールの回転速度を調整することにより、ライン速度(固化した後のフィルムの搬送速度。ただし、延伸処理を行った場合は延伸処理前のフィルム搬送速度。)を調整することが好ましく、具体的には、9~60m/分であることが好ましく、11~50m/分であることがより好ましく、15~35m/分であることが更に好ましい。ライン速度が前記下限値以上であることにより、熱可塑性樹脂フィルムが剛体鏡面金属ロール(II)に貼り付きにくくなり、剛体鏡面金属ロール(II)から剛体鏡面金属ロール(III)への熱可塑性樹脂フィルムの搬送がスムーズになるため横段の発生が抑制されやすくなる。一方、ライン速度が前記上限値以下であることにより、熱可塑性樹脂フィルムの破断を防ぎつつ製造することができる。
【0027】
<厚み(Fth)>
本発明の製造方法は、特に厚み0.02~0.20mmの熱可塑性樹脂フィルムの製造において本発明の効果を奏しやすく、また高い厚み精度で所望の熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。更に、熱可塑性樹脂フィルムのハンドリング性の向上やコストを低く抑える観点から、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、好ましくは0.03~0.18mmであり、より好ましくは0.04~0.15mm、更に好ましくは0.05~0.13mmである。厚みが前記下限値以上であることによって剛性が高くなり、熱可塑性樹脂フィルムのハンドリング性が向上する。また、厚みが前記上限値以下であることによって、熱可塑性樹脂フィルムの強度と製造コストとのバランスが向上する。厚みは、フィルムの幅方向の任意の3箇所の厚みをマイクロメーターで測定し、その平均値とする。
【0028】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物は熱可塑性樹脂を含むものであれば特に制限はないが、ダイラインの発生を抑制しやすくする観点、及び光学用途等に好適なフィルムを製造する観点から、(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂組成物、すなわち、(メタ)アクリル系樹脂組成物であることが特に好ましい。
【0029】
〔(メタ)アクリル系樹脂〕
本発明において用いる(メタ)アクリル系樹脂に特に制限はないが、メチルメタクリレートに由来する構造単位と、必要に応じてアクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有することが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂に用いることができるアクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-へキシルアクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、ペンタデシルアクリレート、ドデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、ノルボルネニルアクリレート、イソボニルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、アリルアクリレート、フェニルアクリレート等を挙げることができる。これらのうち、アルキル基の炭素数が1~6であるアルキルアクリレートが好ましい。
【0030】
(メタ)アクリル系樹脂中のメチルメタクリレートに由来する構造単位の量は、熱可塑性樹脂フィルムの機械強度を向上する観点から、好ましくは85~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%である。
また、(メタ)アクリル系樹脂がアクリル酸エステルに由来する構造単位を含有する場合、その量は、熱可塑性樹脂フィルムの厚み精度を向上させる観点から、(メタ)アクリル系樹脂中に、好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~10質量%である。
【0031】
本発明において用いられる(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、好ましくは95℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは105℃以上である。ガラス転移温度が前記範囲内であることによって熱可塑性樹脂フィルムの厚み精度が向上する。本発明において用いられる(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は通常130℃以下である。
なお、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠して測定することができる。
【0032】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は60,000~150,000であることが好ましい。重量平均分子量が前記下限値以上であると機械物性が高くなり、前記上限値以下であると溶融粘度が低くなり加工性が向上する。重量平均分子量は、前記観点から、より好ましくは70,000~120,000であり、更に好ましくは80,000~100,000である。
【0033】
また、(メタ)アクリル系樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比、Mw/Mn)は、1.0~1.8であることが好ましく、1.0~1.4であることがより好ましく、1.0~1.3であることが更に好ましい。分子量分布(Mw/Mn)が前記範囲内であることにより、フィルムの力学強度が向上する。Mw/Mnは、製造時に使用する重合開始剤の種類、量を調整することによって制御できる。
Mw及びMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値であり、具体的には実施例において後述する方法により求めることができる。
【0034】
(メタ)アクリル系樹脂の立体規則性に特に制限はなく、例えば、イソタクチック、ヘテロタクチック、シンジオタクチック等の立体規則性を有する(メタ)アクリル系樹脂を用いることができる。
本発明においては、(メタ)アクリル系樹脂を構成する単量体、重量平均分子量、立体規則性等が異なる2種以上の(メタ)アクリル系樹脂を併用してもよい。
【0035】
前記(メタ)アクリル系樹脂の製造方法は特に制限されず、例えば、ラジカル重合法、アニオン重合法等の公知の重合法によって製造することができる。製造条件に特に制限はなく、重合温度、重合時間、連鎖移動剤の種類や量、重合開始剤の種類や量等を適宜調整することにより所望の(メタ)アクリル系樹脂を得ることができる。
【0036】
本発明における熱可塑性樹脂組成物中の(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂フィルムの透明性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは75質量%以上である。
【0037】
〔多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体〕
本発明において用いる熱可塑性樹脂組成物は、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含有してもよい。
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、多層構造を有するものであれば特に制限はなく、例えば、コアシェル多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体を挙げることができる。また、多層構造を構成する層の数に特に制限はなく、2層でも3層以上でもよい。
これらの中でも、熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性を向上させる観点から、コアシェル多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体が好ましく、より具体的には、コア(内層)、インナーシェル(中間層)、及びアウターシェル(外層)の3層からなるコアシェル多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体が好ましい。本発明において、3層からなるコアシェル多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体とは、コアとインナーシェル、インナーシェルとアウターシェルが各々異なる重合体で構成されたものを指す。
なお、前記の3層からなるコアシェル多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体は、これを含む樹脂組成物を溶融混練した場合に、前記アウターシェルの全部又は一部が(メタ)アクリル系樹脂と融着、合一してマトリックスを形成し、該マトリックスがコアとインナーシェルの2層からなるコアシェル粒子を含有するようになる。
【0038】
以下、コア(内層)、インナーシェル(中間層)、及びアウターシェル(外層)の3層からなるコアシェル多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体について詳細に説明する。なお、コアを構成する重合体を「重合体(a)」、インナーシェルを構成する重合体を「重合体(b)」、及びアウターシェルを構成する重合体を「重合体(c)」として説明する。
【0039】
(重合体(a):コアを構成する重合体)
重合体(a)は、メチルメタクリレートに由来する構造単位、アルキルアクリレートに由来する構造単位、グラフト化剤に由来する構造単位、及び必要に応じて架橋剤に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。なお、本発明においてグラフト化剤とは、異なる重合性基を2個以上有する単量体を意味し、架橋剤とは、同種の重合性基を2個以上有する単量体(ただし、前記グラフト化剤を除く)を意味する。
【0040】
重合体(a)に用いるアルキルアクリレートに特に制限はないが、アルキル基の炭素数が好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6である。アルキルアクリレート中のアルキル基の炭素数が前記範囲内であることによって、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の耐熱分解性が向上すると共に熱可塑性樹脂フィルムの耐温水白化性や耐沸水白化性が向上する。具体的なアルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ブチルメチルアクリレート、n-ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも前記の観点から、メチルアクリレートが特に好ましい。
【0041】
重合体(a)は、重合体(a)と重合体(b)とを化学的に結合させることを目的として、また、重合体(a)の架橋構造の形成を補助することを目的として、グラフト化剤に由来する構造単位を含むことが好ましい。
重合体(a)に用いるグラフト化剤としては、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、モノ-又はジ-アリルマレエート、モノ-又はジ-アリルフマレート、クロチルアクリレート、及びクロチルメタクリレート等を挙げることができる。これらのグラフト化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、重合体(a)と重合体(b)との間の結合能を向上させ、熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性及び透明性を向上させる観点から、アリルメタクリレートが好ましい。
【0042】
重合体(a)は、重合体(a)中で架橋構造を形成することを目的として、また、重合体(a)と重合体(b)との間でグラフト構造を形成することを目的として、架橋剤に由来する構造単位を含んでいてもよい。
重合体(a)に用いる架橋剤としては、例えば、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物、ジアリル化合物、ジビニル化合物、ジエン化合物、トリビニル化合物等が挙げられる。より具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、エチレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、ブタジエン等を挙げることができる。これらの架橋剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
重合体(a)におけるメチルメタクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(a)の全構造単位中に、好ましくは40~98.99質量%であり、より好ましくは45~96.9質量%である。メチルメタクリレートに由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐候性が向上し、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0044】
重合体(a)におけるアルキルアクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(a)の全構造単位中に、好ましくは1~59質量%であり、より好ましくは3~55質量%である。アルキルアクリレートに由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の耐熱分解性が向上し、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐温水白化性や耐沸水白化性が向上する。
【0045】
重合体(a)におけるグラフト化剤に由来する構造単位の量は、重合体(a)の全構造単位中に、好ましくは0.01~1質量%であり、より好ましくは0.1~0.5質量%である。グラフト化剤に由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって、重合体(a)と重合体(b)との結合力が向上し、また前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0046】
重合体(a)における架橋剤に由来する構造単位の量は、重合体(a)の全構造単位中に、好ましくは0~0.5質量%であり、より好ましくは0~0.2質量%である。架橋剤に由来する構造単位の量が前記範囲内であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0047】
重合体(a)及び後述する重合体(b)は、アセトン等の溶媒に不溶なもの、すなわち、グラフト化されたものであることが好ましい。重合体(a)及び重合体(b)がグラフト化されたものであると、マトリクス中に重合体(a)及び重合体(b)が2層構造の粒子として存在するようになり、熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性を向上させるため好ましい。
【0048】
(重合体(b):インナーシェルを構成する重合体)
重合体(b)は、アルキルアクリレートに由来する構造単位、グラフト化剤に由来する構造単位、及び必要に応じて芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、架橋剤に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。
【0049】
重合体(b)に用いるアルキルアクリレートとしては、前記重合体(a)で例示したアルキルアクリレートを挙げることができ、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の耐熱分解性が向上すると共に熱可塑性樹脂フィルムの耐温水白化性や耐沸水白化性を向上させる観点から、n-ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0050】
重合体(b)に用いる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができ、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の耐熱分解性を向上させる観点から、スチレンが好ましい。
【0051】
また、重合体(b)に用いるグラフト化剤としては、前記重合体(a)で例示したグラフト化剤を挙げることができ、重合体(a)と重合体(b)との間の結合能を向上させ、熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性及び透明性を向上させる観点から、アリルメタクリレートが好ましい。
【0052】
重合体(b)に用いる架橋剤としては、前記重合体(a)で例示した架橋剤を挙げることができ、重合体(b)中で架橋構造を形成する観点、及び重合体(a)と重合体(b)との間で架橋構造を形成する観点から、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物、ジアリル化合物、ジビニル化合物等が好ましい。
【0053】
重合体(b)におけるアルキルアクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(b)の全構造単位中に、好ましくは70~99.5質量%であり、より好ましくは80~99質量%である。アルキルアクリレートに由来する構造単位が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上し、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性及び透明性が向上する。
【0054】
重合体(b)における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の量は、重合体(b)の全構造単位中に、好ましくは0~29質量%であり、より好ましくは0~20質量%である。メチルメタクリレートに由来する構造単位の量が前記範囲内であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0055】
重合体(b)におけるグラフト化剤に由来する構造単位の量は、重合体(b)の全構造単位中に、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%である。グラフト化剤に由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性が向上する。一方、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0056】
重合体(b)における架橋剤に由来する構造単位の量は、重合体(b)の全構造単位中に、好ましくは0~5質量%であり、より好ましくは0~2質量%である。架橋剤に由来する構造単位の量が前記範囲内であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0057】
本発明において、重合体(b)は、重合体(a)及び重合体(c)よりも軟らかいことが好ましい。重合体(b)が、重合体(a)及び重合体(c)よりも軟らかいことによって耐衝撃性が向上する。
【0058】
(重合体(c):アウターシェルを構成する重合体)
重合体(c)は、メチルメタクリレートに由来する構造単位、及びアルキルアクリレートに由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。
重合体(c)に用いるアルキルアクリレートとしては、前記重合体(a)で例示したアルキルアクリレートを挙げることができ、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の耐熱分解性が向上すると共に熱可塑性樹脂フィルムの耐温水白化性や耐沸水白化性を向上させる観点から、メチルアクリレートが特に好ましい。
【0059】
重合体(c)におけるメチルメタクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(c)の全構造単位中に、好ましくは80~99質量%であり、より好ましくは85~98質量%である。メチルメタクリレートに由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性が向上する。一方、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐熱分解性が向上する。
【0060】
重合体(c)におけるアルキルアクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(c)の全構造単位中に、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは2~15質量%である。アルキルアクリレートに由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の耐熱分解性が向上し、前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性が向上する。
【0061】
重合体(c)はアセトン等の溶剤に可溶なものであること、すなわち、架橋されていないことが好ましい。重合体(c)が架橋されていない場合、重合体(a)、重合体(b)及び重合体(c)からなる多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体を本発明において熱可塑性樹脂組成物の一部として用いると、重合体(c)がマトリクスの一部を形成し、その中に重合体(a)及び重合体(b)からなる粒子が存在するようになり、熱可塑性樹脂フィルムの製造容易性が向上する。
【0062】
(重合体(a)、重合体(b)及び重合体(c)の質量比)
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体中の重合体(a)の量は、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは5~45質量%であり、更に好ましくは10~40質量%である。重合体(a)の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの熱安定性及び生産性が向上する。一方、重合体(a)の量が前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性及び柔軟性が向上する。
【0063】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体中の重合体(b)の量は、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~55質量%であり、更に好ましくは30~50質量%である。重合体(b)の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの熱安定性及び生産性が向上する。一方、重合体(b)の量が前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性及び柔軟性が向上する。
【0064】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体中の重合体(c)の量は、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは10~35質量%であり、更に好ましくは15~30質量%である。重合体(c)の量が前記下限値以上であることによって多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の流動性及び熱可塑性樹脂フィルムの成形性が向上する。重合体(c)の量が前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性及び耐応力白化性が向上する。
【0065】
(多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法)
本発明に用いられる多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の製造方法に特に制限はないが、例えば1次重合にて重合体(a)、2次重合にて重合体(b)、及び3次重合にて重合体(c)を順次、シード乳化重合法によって形成させることにより得ることができる。
【0066】
(重合開始剤)
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の製造に用いる重合開始剤に特に制限はないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性の無機系開始剤;無機系開始剤に亜硫酸塩又はチオ硫酸塩等を併用してなるレドックス開始剤;有機過酸化物に第一鉄塩又はナトリウムスルホキシレート等を併用してなるレドックス開始剤等を挙げることができる。
重合開始剤は重合開始時に一括して反応系に添加してもよいし、反応速度等を勘案して重合開始時と重合途中とに分割して反応系に添加してもよい。重合開始剤の使用量は、例えば、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の平均粒子径が後述の範囲になるように適宜設定できる。
【0067】
(乳化剤)
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体をラテックスとして得る観点から、本発明に用いられる多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の製造には乳化剤を用いることが好ましい。乳化剤に特に制限はないが、例えば、長鎖アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸アルキルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム等のアルキルエーテルカルボン酸塩等のノニオン・アニオン系乳化剤を挙げることができる。乳化剤の使用量は、例えば、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の平均粒子径が後述の範囲になるように適宜設定できる。
【0068】
(連鎖移動剤)
本発明に用いられる多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の製造には、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の分子量を調整することを目的として、各重合において連鎖移動剤を使用することができる。特に第3次重合において、連鎖移動剤を反応系に添加して重合体(c)の分子量を調節することによって、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量を前記の範囲に調整することができる。
用いる連鎖移動剤に特に制限はないが、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。
【0069】
連鎖移動剤の使用量は、各重合において重合体を所定の分子量に調節できる範囲で適宜設定できる。第3次重合において使用される連鎖移動剤の量は、第3次重合に使用する重合開始剤の量等によって変わるが、第3次重合において使用する単量体、具体的にはメチルメタクリレート及びアルキルアクリレートの合計量100質量部に対して、好ましくは0.05~2質量部であり、より好ましくは0.08~1質量部である。
【0070】
本発明に用いられる多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の製造において、第1次重合、第2次重合及び第3次重合は一つの重合槽中で順次行ってもよいし、第1次重合、第2次重合、及び第3次重合の度に重合槽を変えて順次行ってもよいが、各重合を一つの重合槽中で順次行うことが好ましい。また、重合を行っている間の反応系の温度は、好ましくは30~120℃であり、より好ましくは50~100℃である。
【0071】
前記各重合は、前記の単量体、具体的にはメチルメタクリレート、アルキルアクリレート、グラフト化剤及び架橋剤を前記の割合で混ぜ合わせて反応系に供給することにより行うことができる。前記単量体を反応系に供給する速度に特に制限はないが、各重合において使用される単量体の合計量に対して、好ましくは0.05~10質量%/分であり、より好ましくは0.1~8質量%/分であり、更に好ましくは0.2~7質量%/分になるような速度で供給することが好ましい。前記速度で供給することによって、望ましくない重合体凝集物の生成や重合体スケールの反応槽への付着を防ぐことができ、重合体凝集物や重合体スケールの混入で生じることがあるフィッシュアイ等の外観不良を生じさせないようにすることができる。
【0072】
前記の方法により得られたラテックスの凝固は、公知の方法で行うことができる。凝固法としては、凍結凝固法、塩析凝固法、酸析凝固法等を挙げることができる。これらのうち、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体にとって不純物となる凝固剤の添加を要しない点から、凍結凝固法が好ましい。
【0073】
凝固によって得られたスラリーの洗浄及び脱水は十分に行うことが好ましい。スラリーの洗浄及び脱水によって、乳化剤や触媒等の水溶性成分をスラリーから除去できる。スラリーの洗浄及び脱水は、例えば、フィルタープレス、ベルトプレス、ギナ型遠心分離機、スクリューデカンタ型遠心分離機等で行うことができる。生産性、洗浄効率の観点からスクリューデカンタ式遠心分離機を用いることが好ましい。スラリーの洗浄及び脱水は、少なくとも2回行うことが好ましい。洗浄及び脱水の回数が多いほど水溶性成分の残存量が下がる。生産性の観点から、洗浄及び脱水の回数は、3回以下であることが好ましい。
【0074】
更に得られたスラリーは乾燥することが好ましい。スラリーの乾燥は、前記の方法によって得られた多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体中の水分の含有率(水分率)が、好ましくは0.2質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満になるように行うことが好ましい。水分率が高いほど溶融押出成形の際に多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体にエステル加水分解反応が起き、分子鎖にカルボキシル基が生成する傾向があり、その結果、熱可塑性樹脂フィルムのスジの発生を招きやすい。
【0075】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.04μm以上であり、更に好ましくは0.05μm以上であり、特に好ましくは0.07μm以上であり、好ましくは0.35μm以下であり、より好ましくは0.30μm以下である。平均粒子径が大きすぎると熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性は低下する傾向がある。平均粒子径は、光散乱法に基づいて実施例に記載の方法により求められる。
【0076】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の含有量は、熱可塑性樹脂フィルムの機械強度と加工性とを向上させる観点から、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して好ましくは5~50質量部であり、より好ましくは10~40質量部であり、更に好ましくは15~30質量部である。
【0077】
〔任意成分〕
本発明に用いられる熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、高分子加工助剤、滑剤、染料、顔料等の公知の添加剤を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂組成物が添加剤を含有する場合、その含有量は熱可塑性樹脂組成物中に20質量%以下であることが好ましい。
添加剤は、例えば、フィルム成形機内で溶融している熱可塑性樹脂組成物に添加してもよいし、ペレット化された熱可塑性樹脂組成物にドライブレンドしてもよいし、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体及び/又は(メタ)アクリル系樹脂をペレット化する際に添加してもよい(マスターバッチ法)。
【0078】
(紫外線吸収剤)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂組成物は、添加剤として、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有する。有機系の紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系、蓚酸アニリド系、マロン酸エステル系、ホルムアミジン系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0079】
ベンフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、4-n-オクチルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、1,4-ビス(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノン)-ブタン等が挙げられる。
サリシレート系紫外線吸収剤としては、例えば、p-tert-ブチルフェニルサリシレート等が挙げられる。ベンゾエート系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
【0080】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-ベンゾトリアゾール-2-イル-4,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-C7-9アルキルエステル等が挙げられる。
【0081】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシエトキシ)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-トリアジン、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-オクチルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン骨格を有する化合物等が挙げられる。
紫外線吸収剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
【0082】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は、相溶性と耐候性の点からベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましい。これらの中でも、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましい。
紫外線吸収剤の含有量は、熱可塑性樹脂及び多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体との合計量100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部である。
【0083】
(高分子加工助剤)
高分子加工助剤としては、通常、乳化重合法によって製造できる、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子を用いることが好ましい。該重合体粒子は、単一組成比及び単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比又は極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。これらの中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dL/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましい。
【0084】
本発明に用いる高分子加工助剤は、極限粘度が3~6dL/gであることが好ましい。極限粘度が前記範囲内であると樹脂組成物の成形加工性が向上する。
高分子加工助剤の市販品としては、例えばパラロイドK125、K125P(いずれも商品名、ダウ・ケミカル日本株式会社製)、メタブレンP-530A、P-550A(いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製)、カネエースPA-20、PA-30(いずれも商品名、株式会社カネカ製)等が挙げられる。
【0085】
熱可塑性樹脂組成物が高分子加工助剤を含有する場合、その含有量は、熱可塑性樹脂及び多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体との合計100質量部に対して0.1~15質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましく、1.0~5質量部であることが更に好ましい。高分子加工助剤の含有量が前記範囲内であると成形性が向上する。
【0086】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法に特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体、及び任意成分を公知の混合方法によって十分に混合することにより製造することができる。
【0087】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度は70~135℃であることが好ましく、80~130℃であることがより好ましく、90~125℃であることが更に好ましい。本発明に用いられる熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度を適切な範囲に調整することによって、本発明の効果がより得られやすくなる。
【0088】
<熱可塑性樹脂フィルムの用途>
本発明の製造方法により製造した熱可塑性樹脂フィルムは、以下の各種用途に使用することができる。例えば、自動車内外装、パソコン内外装、携帯電話内外装、太陽電池内外装、太陽電池バックシート、眼鏡、コンタクトレンズ、内視鏡用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品等の医療機器分野、道路標識、浴室設備、床材、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓、カーポート、照明カバー、建材用サイジング等の建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具等に使用することができる。また、転写箔シートを使用した成形品の代替用途としても使用できる。
特に耐熱性及び光学特性に優れる点で光学用フィルムに好適であり、各種光学部材に用いることができる。例えば、カメラ、VTR、プロジェクター用の撮影レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、レンズカバー等の映像分野;CDプレイヤー、DVDプレイヤー、MDプレイヤー等における光ディスク用ピックアップレンズ等のレンズ分野;CD、DVD、MD等の光ディスク用の光記録分野;携帯電話、スマートフォン、タブレット等の端末の液晶画面の前面板;自動車ヘッドライトテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフ等の車両分野;照明用レンズ;液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシート、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルム、透明導電フィルム等の液晶ディスプレイ用フィルム等として液晶表示装置周辺;表面保護フィルム等の情報機器分野;有機EL用フィルムとして有機EL装置周辺;光ファイバ、光スイッチ、光コネクター等の光通信分野;光学レンズ;光ディスク;等の公知の光学的用途に適用できる。
【0089】
本発明によって得られた樹脂フィルムは、少なくとも一方の面に、金属及び/又は金属酸化物よりなる層、熱又は活性エネルギー線によって硬化する樹脂からなる層、他の熱可塑性樹脂層等の他の層が積層された積層フィルム等として用いられることもできる。他の層を積層する方法は特に限定されず、直接又は接着層を介して接合する、又は共押出して製造することができる。他の層は、1層又は複数層を積層することができる。
【実施例
【0090】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例における測定方法等は以下のとおりである。
【0091】
[測定方法]
<フィルムの厚み(Fth)>
各実施例又は比較例で製造したフィルムの、幅方向の中央部及び、中央部から幅方向に600mm離れた2点、計3箇所の位置の厚みをマイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、型番:MDH-25)で測定し、その平均値をフィルムの厚みとした。
【0092】
<重量平均分子量(Mw)>
測定対象樹脂4mgをテトラヒドロフラン(THF)5mlに溶解させ、孔径0.1μmのフィルターでろ過したものを試料溶液とした。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー(株)製「HLC-8320」を使用した。カラムとして、東ソー(株)製の「TSKgel Super Multipore HZM-M」2本と「Super HZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。溶離剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μLを装置内に注入して、クロマトグラムを測定した。クロマトグラムは、試料溶液と参照溶液との屈折率差に由来する電気信号値(強度Y)を保持時間Xに対してプロットしたチャートである。
分子量が400~5,000,000の範囲の標準ポリスチレン10点を用いてGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて、測定対象樹脂の重量平均分子量(Mw)を決定した。なお、クロマトグラムのベースラインは、GPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。クロマトグラムが複数のピークを示す場合は、最も高分子量側のピークの傾きがゼロからプラスに変化する点と、最も低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。
【0093】
<ガラス転移温度>
(メタ)アクリル系樹脂及び熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠して測定した。
【0094】
<多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の平均粒子径>
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の平均粒子径は、試料粒子を含むラテックスを水で200倍に希釈し、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名「LA-950V2」)を用いて25℃で係る希釈液を分析し、粒子径を測定した。この際、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体及び水の絶対屈折率をそれぞれ、1.4900、1.3333とした。
【0095】
[評価方法]
<横段>
実施例及び比較例で製造した熱可塑性樹脂フィルムロールから、長さ500mm抜き取り、黒いシートの上に置き、蛍光燈下でフィルムに映る蛍光灯の歪みのピッチを横段として目視評価した。横段は歪のピッチが短いと薄く視認性が低いが、ピッチが長いと強く視認性が高くなり製品とならない。横段のピッチが2mm未満の場合(横段が確認されなかった場合を含む)を「◎」、横段のピッチが2mm以上10mm未満の場合を「○」、横段のピッチが10mm以上の場合を「×」として評価した。
【0096】
<製膜性>
熱可塑性樹脂フィルムには、エッジビードと呼ばれるフィルム両端のエッジ部分の厚みが増し、ビード状(ひも状)に盛り上がる現象がしばしば発生する。このエッジビードがロール6とロール7との隙間より大きいと 、フィルムが通過する際、エッジビードを起点に、折れたシワが発生し製品とならない。また、このシワがロール6とロール7を通過する際、ロールを傷つけ装置を壊すことがある。このシワがロール6とロール7の隙間調整後5分以上発生しない場合を「〇」、シワがロール6とロール7の隙間調整後5分未満で発生する場合を「×」として評価した。
【0097】
[製造例]
<製造例1:(メタ)アクリル樹脂の製造>
メチルメタクリレート99.3質量部及びメチルアクリレート0.7質量部に重合開始剤〔2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃〕0.008質量部、及び連鎖移動剤(n-オクチルメルカプタン)0.26質量部を加え、溶解させて3000kgの原料液を得た。
イオン交換水100質量部、硫酸ナトリウム0.03質量部、及びポリメタクリル酸カリウム0.45質量部を混ぜ合わせて6000kgの混合液を得た。耐圧重合槽に、当該混合液と前記原料液(合計9000kg)を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始後、3時間経過時に、温度を90℃に上げ、撹拌を引き続き1時間行うことによりビーズ状共重合体が分散した液を得た。なお、重合槽壁面あるいは撹拌翼にポリマーが若干付着したが、泡立ちもなく、円滑に重合反応が進んだ。
得られた共重合体分散液を適量のイオン交換水で洗浄し、バケット式遠心分離機により、ビーズ状共重合体を取り出し、80℃の熱風乾燥機で12時間乾燥し、ビーズ状の(メタ)アクリル樹脂を得た。
得られた(メタ)アクリル樹脂は、メチルメタクリレート単位の含有量が99.3質量%、メチルアクリレート単位の含有量が0.7質量%であり、重量平均分子量(Mw)が92,000、ガラス転移温度は120℃であった。
【0098】
<製造例2:多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体の製造>
以下の手順にしたがって、コア(内層)、インナーシェル(中間層)、及びアウターシェル(外層)の3層からなるコアシェル多層構造を有するアクリル系重合体を製造した。
(1)内層の合成
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.3質量部及び炭酸ナトリウム0.7質量部(合計2100kg)を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃にし、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間撹拌した。これに、メチルメタクリレート95.4質量%、メチルアクリレート4.4質量%及びアリルメタクリレート0.2質量%からなる単量体混合物245質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるように更に30分間重合反応を行った。
【0099】
(2)中間層の合成
次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間撹拌した。その後、n-ブチルアクリレート80.5質量%、スチレン17.5質量%及びアリルメタクリレート2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるように更に30分間重合反応を行った。
【0100】
(3)外層の合成
次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間撹拌した。その後、メチルメタクリレート95.2質量%、メチルアクリレート4.4質量%及びn-オクチルメルカプタン0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるように更に60分間重合反応を行った。
【0101】
以上の操作によって、多層構造を有するアクリル系重合体を含むラテックスを得た後、多層構造を有するアクリル系重合体を含むラテックスを凍結して凝固させた。次いで水洗、及び乾燥して多層構造を有するアクリル系重合体を得た。当該粒子の平均粒子径は0.23μmであった。
【0102】
[実施例1]
図1の装置を用いて熱可塑性樹脂フィルムを作成した。具体的には、(メタ)アクリル系樹脂78.4質量部、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体19.6質量部及び紫外線吸収剤としてアデカスタブLA-31((株)アデカ製)2.0質量部をヘンシェルミキサーで混合し、ベント付きの二軸押出機(スクリュー径:58mm、シリンダー温度:260℃)を用いて溶融混練を行って熱可塑性樹脂組成物((メタ)アクリル系樹脂組成物)を得た。
この(メタ)アクリル系樹脂組成物をベント付きの単軸押出機(スクリュー径:75mm、シリンダー温度:265℃、L/D=33)を用いて溶融状態とし、180kg/時間の吐出速度でダイリップ幅1850mm、ダイリップクリアランス0.5mmのTダイよりフィルム状にして押出した。次いで、弾性金属ロール(I)と剛体鏡面金属ロール(II)とで狭圧した後、剛体鏡面金属ロール(II)で冷却し、更に剛体鏡面金属ロール(III)で冷却することにより厚み60μmの熱可塑性樹脂フィルム((メタ)アクリル系樹脂フィルム)を得た。弾性金属ロール(I)の中心と剛体鏡面金属ロール(II)の中心とを結んだ直線と、剛体鏡面金属ロール(II)と剛体鏡面金属ロール(III)の中心とを結んだ直線とが交差してなす角のうち鋭角の角度は0°(すなわち、両直線が一直線上)であった。評価結果を表1に示す。
なお、ギアポンプは、平歯の外接ギアポンプ(東芝機械(株)製)を使用し,入口圧力5MPaで送り出した。その他の条件については表1に示す。
【0103】
[実施例2及び比較例1~2]
樹脂の配合及び各ローラの条件を表1のとおりとしたこと以外は、実施例1と同じ方法で熱可塑性樹脂フィルム((メタ)アクリル系樹脂フィルム)を得た。評価結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
実施例1、2では、横段の発生の少ないフィルムを製膜性良く製造することができた。一方、比較例1では、エッジビードによるシワ欠点が発生して横段の評価に供することができるフィルムが得られず、比較例2では、製膜性良くフィルムが得られたものの、横段の発生を抑えることはできなかった。
実施例及び比較例の結果から明らかなように、本発明によれば、横段の発生が少ない熱可塑性樹脂フィルムを製造できる。
【符号の説明】
【0106】
1 押出機
2 ギアポンプ
3 ポリマーフィルター
4 Tダイ
5 ロール(弾性金属ロール(I))
6 ロール(剛体鏡面金属ロール(II))
7 ロール(剛体鏡面金属ロール(III))
8, 8’ ニップロール
9 巻取り機
図1