(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】固体バイオ燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20240913BHJP
C10B 53/02 20060101ALI20240913BHJP
C10B 53/00 20060101ALI20240913BHJP
C10B 57/02 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C10L5/44
C10B53/02
C10B53/00 A
C10B57/02
(21)【出願番号】P 2020160689
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2019177741
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】水野 諭
(72)【発明者】
【氏名】澤井 徹
(72)【発明者】
【氏名】井田 民男
(72)【発明者】
【氏名】村上 高広
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-100807(JP,A)
【文献】特開2012-246414(JP,A)
【文献】特開2008-274107(JP,A)
【文献】国際公開第2006/078023(WO,A1)
【文献】特開2006-315316(JP,A)
【文献】特開2010-138253(JP,A)
【文献】国際公開第2015/134901(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0221363(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00- 7/04
C10L 9/00-11/08
C10B 1/00-57/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料を成型空間に入れ、8MPa以上の初期圧力を印加し、成型開始温度および前記初期圧力より大きい成型開始圧力になるまで加熱加圧する工程と、
前記成型開始圧力から常に最大成型圧力を更新するように前記成型空間の体積を調節しながら所定時間保持する成型工程と、
冷却開始時の前記成型空間以下の体積となるように前記成型空間の圧力を調節しながら前記成型空間を冷却する工程を有し、
前記成型工程における最大成型圧力が、30MPaより高いことを特徴とする固体バイオ燃料の製造方法。
【請求項2】
前記冷却する工程は、
前記最大成型圧力以上の圧力が維持されるように前記成型空間の体積を調節しながら前記成型空間を冷却する工程を有することを特徴とする請求項
1に記載された固体バイオ燃料の製造方法。
【請求項3】
前記加熱加圧する工程では、常に最大成型圧力を更新しながら加熱加圧する工程であることを特徴とする請求項
1又は
2の請求項に記載された固体バイオ燃料の製造方法。
【請求項4】
前記加熱加圧する工程では、常に最大成型圧力を更新しながら加熱する工程と、
強制的に所定のレートで昇圧させながら加熱する工程を組み合わせたことを特徴とする請求項
1又は
2の請求項に記載された固体バイオ燃料の製造方法。
【請求項5】
前記加熱加圧する工程では、強制的に所定のレートで昇圧させながら加熱する工程であることを特徴とする請求項
1又は
2の請求項に記載された固体バイオ燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体バイオ燃料およびその製造方法に関するもので、石炭コークスの代替燃料並びにマテリアル素材としても利用可能である固体バイオ燃料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳物製造あるいは製鉄において、石炭コークスの一部を置き換えることのできるバイオマスを原料とするバイオマス燃料は、再生可能資源であり、カーボンニュートラルな性質によって、温室効果ガスを削減できるものとして切望されている。
【0003】
特に鋳物製造あるいは製鉄において用いられる石炭コークスは、炉内への投入時に互いに衝突しあう、炉内への落下距離が高いといった理由により、大きな応力がかかる。したがって、バイオマス燃料にも相当の硬度が必要とされた。
【0004】
例えば、特許文献1には、石炭コークスと混在され、使用することが可能なバイオマス燃料として、光合成に起因するバイオマス原料を加熱しながら加圧成形してなる半炭化前或いは半炭化固形物からなり、最高圧縮強度60~200MPaおよび発熱量18~23MJ/kgであることを特徴とするバイオマス固形物の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石炭コークスはほぼ炭素だけで構成されており、チャー収率は約100%である。一方、特許文献1を始め従来のバイオマス固形物は、チャー収率が22%程度でしかなかった。これは、バイオマス固形物は、原料を炭化していないため、揮発分が多いためである。言い換えると、固形物内部で揮発分の放出を抑制しておけなかったため、チャー収率が少なかったといえる。しかし、石炭コークスの一部代替品として用いるために、チャー収率の高いバイオマス固形物が切望された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて想到されたもので、原材料よりもチャー収率が高く、その値は25質量%以上となるバイオマス固形物(以下「固体バイオ燃料」と呼ぶ。)の製造方法を提供するものである。
【0009】
また、本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法は、
光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料を成型空間に入れ、8MPa以上の初期圧力を印加し、成型開始温度および前記初期圧力より大きい成型開始圧力になるまで加熱加圧する工程と、
前記成型開始圧力から常に最大成型圧力を更新するように前記成型空間の体積を調節しながら所定時間保持する成型工程と、
冷却開始時の前記成型空間以下の体積となるように前記成型空間の圧力を調節しながら前記成型空間を冷却する工程を有し、
前記成型工程における最大成型圧力が、30MPaより高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る固体バイオ燃料は、原材料のチャー収率より高いチャー収率を有し、そのチャー収率は25質量%以上となる。この値は、従来のバイオマス固形物では、達成できなかった値であり、従来のバイオマス固形物よりも、長時間燃焼することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る製造方法での温度圧力の経緯を示すグラフである。
【
図2】初期圧力が30MPaより高い場合の温度圧力の経緯を示すグラフである。
【
図3】初期圧力が30MPaより低い場合の温度圧力の経緯を示すグラフである。
【
図4】加熱加圧工程を強制的に加圧する場合の温度圧力の経緯を示すグラフである。
【
図5】加熱加圧工程に常に最大圧力を更新する加圧方法と、強制的な加圧方法を組み合わせた場合の温度圧力の経緯を示すグラフである。
【
図6】バックプレッシャ(Back pressure[MPa])とチャー収率(Char yield[%])の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明に係る固体バイオ燃料およびその製造方法について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。また、チャー収率とは、固体バイオ燃料から揮発した成分を除いた非揮発分の比率を意味する。具体的には固定炭素分や灰分等の合計が相当する。
【0013】
本発明に係る固体バイオ燃料は、光合成に起因するバイオマスだけを原料とする。ここでバイオマスとは、「再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの。」という一般的な定義と考えてよい。また、「光合成に起因するバイオマス」とは、木質類、草本類、農作物類、厨芥類などのバイオマスがあげられる。
【0014】
木質類としては、木、枯葉またはその廃棄物である林地残渣、剪定・葉刈り材、流木、紙などが好適に利用できる。草本類としては、竹、ケナフなどが好適に利用できる。農作物類としては、オオバ茎、ゴマ茎、芋つる、籾殻といった、非食部位が好適に利用できる。厨芥類としては、コーヒー滓、茶殻、オカラ等が好適に利用できる。
【0015】
また、本発明に係る固体バイオ燃料は、原料が半炭化前状態にされている。ここで、「半炭化前状態」の原料とは、全乾ベースの原料であることをいう。また、「全乾ベース」とは、測定対象から水分を脱離させた状態の質量を100とする比率をいう(以下に同じ)。
【0016】
<成型装置>
本発明における固体バイオ燃料は、加圧力を調節しながら加熱できる成型装置で成型することができる。成型装置には成型室が設けられ、成型室の少なくとも一方の壁が移動することで、成型室の体積が小さくなり成型室内の原料に圧力がかかる。以下成型室の圧力とは、成型室の体積を維持若しくは小さくするように印加された圧力を言う。すなわち、成型室の体積を縮小する方向に圧力が調節されるとは成型室に圧力が加わるということである。また、成型室の体積を一定にしていても、内部の原料が膨張すると成型室に圧力が加わることになる。いずれの場合でも、成型室の体積を調節すると言ってよい。
【0017】
<チップ化工程>
本発明に係る固体バイオ燃料は以下に説明するように、チップ化工程、加熱加圧工程、成型工程、冷却工程を含む工程によって得ることができる。これらの工程は、以下説明した後、図を用いた詳説をさらに行う(<グラフを用いた説明>)。まず、原料は、所定の大きさに裁断される。具体的には、数mmから数cm程度であるのが好ましい。これは、原料となるバイオマスをチップ化する工程と呼んでよい。また、このようにして得た原料は、「光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料」ということができる。さらに、原料を25%以下に調湿する工程を含む。
【0018】
<加熱加圧工程>
次に、これらの原料を、加圧・加熱できる成型空間(成型装置の成形室)に投入し、初期圧力ILP(Initial Loading Pressure)が8MPa以上の条件で、成型開始温度Tt(例えば190℃)まで加熱する。成型開始温度の時の圧力が成型開始圧力Ptである。成型開始圧力Ptは初期圧力ILPより高い圧力にする。昇温レートTrupは10℃/分程度が通常利用されるが、このレートに限定されない。成型開始温度Ttは190℃が好適であるが、180℃~210℃の範囲で選択することができる。
【0019】
加熱加圧工程における加圧では、常に最大圧力を更新しながら加熱加圧する方法が好適に利用できる。「常に最大圧力を更新しながら加熱加圧する方法」とは、加熱によって原料が膨張し、成型空間内の圧力が高くなったら、高くなった圧力より低い圧力にすることなく加熱を行う方法である。
【0020】
より具体的には、微小時間前の圧力を最大圧力Pmとし、現在の圧力がPmより高ければ、現在の圧力を新たな最大圧力Pmとする。そして、成型装置は常に最大圧力Pmが成型空間にかかるように制御される。したがって、加熱によって原料の温度が上昇し、それによって成型空間の圧力が上昇するのであれば、成型空間の体積は一定のままでよい。
【0021】
しかし、微小時間前の最大圧力Pmより圧力が減少するようなことがあれば、成型空間の体積を減少させ、微小時間前の最大圧力Pmを維持するように成型装置は動作する。すなわち、常に最大圧力が維持されるように成型空間の体積が調節される。なお、ここで微小時間は、成型装置のマシンタイムで決めてよく、例えば0.01秒から3秒の範囲が好適に利用できる。
【0022】
加熱加圧工程における加圧は、所定の昇圧レートで強制的に成型空間の圧力を上昇させてもよい。例えば、一定体積の成型空間内の原料を加熱し、加熱によって上昇する圧力よりも早く成型空間の圧力を高くしたい場合は、強制的な加圧を行いながら加熱することができる。なお、ここで強制的な加圧とは成型空間を強制的に小さくする方向に力が加わることである。また、この際の昇圧レートは、時間と圧力の直線的な比例関係だけに限定されない。例えば、時間に対して圧力が2次関数的に増加するような昇圧レートであってもよい。
【0023】
また、加熱加圧工程における加圧は、常に最大圧力を更新しながら加熱加圧する方法と、強制的に加圧しながら加熱加圧する方法を組み合わせてもよい。例えば、昇温の途中までは、常に強制的に加圧しながら加熱加圧し、途中からは最大圧力を更新しながら加圧加熱してもよい。
【0024】
なお、本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法では、後述する「最大成型圧力Pmx」が30MPaより高い値で成型されたものである。したがって、成型開始圧力Ptは、30MPaより高い値であるか、後述する成型工程で、最大成型圧力Pmxが30MPaを超えるような圧力である。また、加熱加圧工程および後述する成型工程において、初期圧力ILPより高くなる圧力をバックプレッシャ(BP)と呼ぶ。本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法では、バックプレッシャを有することも必要である。つまり、加熱加圧工程がどのような手順で行われても、成型開始圧力は初期圧力より高くなる。
【0025】
<成型工程>
成型開始温度Ttに到達したら、常に最大圧力を更新しながら、所定時間の間、成型空間を保持する。ここで、成型工程における成型空間の圧力を「成型圧力」と呼ぶ。成型圧力は成型空間内の原料にかかる圧力と解してよい。
【0026】
「常に最大圧力を更新しながら」とは、<加熱加圧工程>での説明と同様である。すなわち、微小時間前の圧力を最大圧力Pmとし、現在の圧力がPmより高ければ、現在の圧力を新たな最大圧力Pmとする。そして、成型装置は常に最大圧力Pmが成型空間にかかるように成型空間の体積が制御されることである。
【0027】
成型工程の間で最も圧力が大きい圧力を「最大成型圧力Pmx」と呼ぶ。常に最大圧力を更新しながら圧力制御が行われるので、最大成型圧力Pmxは、成型工程の最終時点(後述する冷却工程の開始時)の圧力である。
【0028】
成型工程の時間である「所定時間」は、1分乃至数時間程度が好適に採用される。また、「所定時間」は「成型時間」といってもよい。成型時間はあらかじめ設定される時間である。
【0029】
成型工程における成型空間の温度を「成型温度」と呼ぶ。成型温度は成型空間内の原料の温度と解してよい。成型温度は通常成型開始温度Ttを維持するように制御される。しかし、成型時間の間、成型温度を強制的に(成型装置が加熱若しくは冷却して)変化させてもよい。また、加圧された原料に内部発熱が生じ、成型空間内の温度が上昇した場合、それを一定の温度にするように冷却してもよいし、上昇した温度をそのまま維持するように温度制御が行われてもよい。ただし、本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法においては、成型温度に変化があっても、成型圧力は常に最大圧力を更新するように制御される。成型工程を経た成型空間内の原料を成型品と呼ぶ。
【0030】
成型工程において、常に最大圧力を更新することで、熱伝導による加熱が足りず、成型品内部の温度が低い場合でも、軟化による樹脂化を発現させることができるという効果を奏する。加えて、最大成型圧力Pmxを長時間(60分程度)維持すれば、熱伝導により成型品内部の温度が上昇し、成型品内部の大部分を軟化・樹脂化させることができるという効果も奏する。これらの効果は、成型品が冷却され固体バイオ燃料となった際にも残ることとなる。
【0031】
<冷却工程>
成型工程において成型開始から成型時間が経過したら、冷却工程に移る。冷却工程では成型空間内の温度を所定のレートで冷却する。
【0032】
冷却工程では、急激な除荷は成型品に割れを生じさせるため好ましくない。冷却開始時の成型空間の大きさ(体積)を維持したまま、冷却が行われる。成型品は温度が下がるにつれ体積が減少する。その結果成型空間にかかる圧力も減少する。本発明における冷却工程では、成型空間の体積が、少なくとも冷却開始時の成型空間以下になるように圧力が制御されながら冷却が行われる。すなわち、冷却工程においては、成型空間は、冷却開始時の成型空間を維持するか、もしくは成型品に圧力がかかるように冷却開始時の成型空間より小さくなるように制御される。
【0033】
特に、冷却開始時の成型空間の圧力(最大成型圧力Pmx)を維持したまま冷却するのは好ましい。このような冷却では、温度低下による成型品の体積減少に伴う圧力減少を補償するため、成型空間の体積を減少させるように成型装置は制御される。冷却工程が終了した成型品は固体バイオ燃料となる。
【0034】
<グラフによる説明>
図1に上記の説明の工程を具体的に示す。
図1は成型装置の運転プログラムを表しているともいえる。
図1を参照して、横軸は時刻であり、左縦軸は成型空間の温度、右縦軸は成型空間の圧力を示す。温度の単位は「℃:摂氏」若しくは「K:ケルビン」が好適に用いられる。圧力の単位はMPaが好適に利用できる。
【0035】
時刻t0は処理開始時刻である。通常処理開始時刻における初期温度Tsは常温である。成型装置は、時刻t2に成型開始温度であるTtまで加温し、時刻t2から時刻t4まで温度Ttを維持し、その後時刻t5まで一定の降温レートで冷却する。したがって、時刻t0から時刻t2までが加熱加圧工程であり、時刻t2から時刻t4までが成型工程であり、時刻t4から時刻t5までが冷却工程である。
【0036】
処理開示時刻t0において、成型空間には初期圧力ILPが載荷されている。
図1では、加熱加圧工程の途中である時刻t1から成型空間内の原料の温度が上昇し、圧力が高くなっていることを示している。加熱加圧工程では、常に最大圧力を更新するように、成型空間の体積が調節される。ほとんどの原料は加熱によって体積が膨張するので、成型空間は初期圧力ILP時の体積を保持するだけでよい。しかし、加熱によって体積が一時的に減少する場合、体積減少による圧力減少を補償するために成型空間の体積が減少するように圧力が制御される。
【0037】
加熱加圧工程を常に最大圧力を更新するように成型空間が調節される方法で加圧する場合は、加熱加圧工程から成型工程に移行するのは、成型開始温度Ttへ到達したか否かで判断される。この場合は、成型開始圧力Ptは、いわば成り行きによる圧力になるからである。
【0038】
図1では、時刻t2の時の圧力が成型開始圧力Ptである。成型工程(時刻t2から時刻t4)においては、常に最大圧力を更新するように圧力制御が行われる。なお、加熱加圧の条件で、成型品内部で膨張する変化が生じた場合は、成型空間の圧力は上昇する。
図1では時刻t3において、そのような変化が生じたことを示している。
【0039】
成型圧力は常に最大圧力を更新するように成型空間が制御されるので、一度上昇した圧力は最大圧力として維持される。すなわち、仮にその後成型品の体積が縮小しても、圧力が維持されるように成型空間は小さくなるように制御される。加熱加圧工程において、加熱の最中に原料に圧力がかかるように成型空間が制御されるので、成型開始圧力Ptは必ず、初期圧力ILPより大きい圧力(バックプレッシャ:BP)を有する。
【0040】
図1では、成型工程における成型温度は成型開始温度Ttを維持するように制御されている例を示している。しかし、<成型工程>で説明したように、強制的に変化させてもよい。
【0041】
成型工程は時間で管理される。すなわち、時刻t2から時刻t4の間の時間は予め設定されている。
【0042】
成型工程が終了したら、冷却工程に移行する(時刻t4から時刻t5)。冷却開始時の圧力は最大成型圧力Pmxである。本発明はこの最大成型圧力Pmxが30MPa以上であるように設定することで、チャー収率が25%を超える固体バイオ燃料を得ることができる。
【0043】
冷却開始時の成型空間を維持したまま、冷却すると、成型品の体積減少若しくは成型品の内部圧力減少に従い成型空間の圧力は減少する。この圧力減少を「成型空間一定冷却」と呼ぶ。本発明では、成型空間一定冷却以上の圧力をかけながら冷却を行う。
図1では、灰色の領域に、成型空間の減圧線(時間と成型空間の圧力の関係を示すライン)があればよい。この領域に減圧線があれば、冷却開始時の成型空間以下の体積の成型空間となる圧力で成型空間を冷却すると言える。
【0044】
特に本発明では、冷却開始時の最大成型圧力Pmxを維持するように、成型空間を制御しながら冷却するのが好ましい形態として挙げられる。
図1では、符号12で表される減圧線である。なお、成型空間一定冷却を表す減圧線は符号10で示した。減圧線12は、温度が常温(
図1ではTs)付近まで冷却され処理が終了する直前まで最大成型圧力Pmxが維持されるように、成型空間が調節される。そして処理終了時刻(時刻t5)に一気に除荷される。なお、最大成型圧力Pmxを維持するように成型空間を制御しつつ冷却するとは、常に最大圧力を更新しながら冷却するのではない。
【0045】
本発明においては、減圧線12だけでなく、灰色の領域であれば、他の減圧線を経てもよい(例えば減圧線14、16等)。また冷却開始時の最大成型圧力Pmx以上の圧力をかけながら冷却してもよい(減圧線18等)。なお、冷却開始時の最大成型圧力Pmx以上の減圧線の存在領域の上限は特になく、成型装置の限界であってよい。図では、白矢印で最大成型圧力Pmx以上の圧力でもよいことを示した。
【0046】
図2には加熱加圧工程の一形態を示す。本発明においては最大成型圧力Pmxが30MPaより大きいことが必要であるが、そのためには、初期圧力ILPが30MPa以上に設定することで達成される。また、
図3に示すように、初期圧力ILPが30MPa未満であっても、その後の加熱加圧工程と成型工程によって30MPaを超えることができるのであれば、初期圧力ILPが30MPaより低くてもよい。いずれの場合も加熱加圧工程での加圧は常に最大圧力を更新するように行う加圧である。したがって、バックプレッシャをかけながら成型工程が行われる。
【0047】
図4では、初期圧力ILPから成型開始圧力まで強制的に圧力を加える場合を示す。この場合は成型開始圧力Ptも予め設定されているので、確実に成型開始圧力を、30MPaを超える圧力にすることができ、バックプレッシャも付与することができる。
【0048】
図5では、加熱加圧工程の始めの部分(時刻t0から時刻t6まで)では、常に外部から強制的に圧力を加えるが、時刻t6からは最大圧力を更新するように加圧を行っている場合を示す。本発明では、このように、強制的に加圧する方法と、常に最大圧力を更新しながら加圧する方法を組み合わせて、加熱加圧工程を実施してもよい。
【0049】
以上のような工程を経て、本発明に係る固体バイオ燃料が成型される。本発明に係る固体バイオ燃料の特徴は、従来得られていた固体バイオマス固形物のチャー収率より高いチャー収率を有する点である。後述する実施例では、チャー収率25質量%以上のものが得られているが、このようなチャー収率は、従来のバイオマス固形物が到達できなかった値である。
【0050】
次に、いくつかの指標の測定方法を説明する。なお、以下は測定法の一例であり、測定原理が同じであれば、改変することができる。
【0051】
<炭素質量分率>
試料中の炭素量を求めたものである。全乾ベースで測定される。この計測を規定している規格は、「ISO16948:固体バイオ燃料―炭素、水素、窒素全量の決定」および「JIS M 8813 石炭類及びコークス類―元素分析方法」である。
【0052】
計測原理としては、分析試料を酸素雰囲気下で燃焼し、排ガス中の二酸化炭素の質量を測定することで炭素質量分率を決定する。
【0053】
例えば、原材料バイオマスとして、スギの炭素質量分率を測定すると、51.3質量%(全乾ベース)となった。すなわち、全乾ベースで、全質量中の約半分が炭素であるといえる。
【0054】
次に後述する固体バイオ燃料と原材料の質量比、すなわち炭素質量分率を表1に示す。ここでは、原材料質量をm0とし、固体バイオ燃料の質量をmとし、質量比(%)をm/m0×100で求めたものを示している。
【0055】
【0056】
固体バイオ燃料の炭素質量分率は原材料バイオマスの炭素質量分率と同じであるといえる。
【0057】
<原材料の揮発分率>
原材料中の揮発分の割合を求めたものである。全乾ベースで測定される。この計測を規定しているのは、「JIS M 8812 石炭類及びコークス類―工業分析方法」である。
【0058】
計測原理は、分析試料を入れた蓋付るつぼを900±20℃の雰囲気に7分間投入した際の質量減少量から分析試料の水分量を差し引いた質量mVMを計測する。分析試料から水分量を差し引いた質量をm0とする。m0に対するmVMの比、mVM/m0×100を全乾ベースでの揮発分の質量分率VM[%](揮発分率)として求める。
【0059】
この計測によって、原材料中で水分以外の揮発分の割合を求めることができる。例えば、原材料をスギとして測定したところ、揮発分率は81.6質量%という値を得た。
【0060】
<原材料の灰分率>
灰とは、原材料を燃焼させた残渣である。炭素、酸素、水素以外の構成を考えられる。この計測を規定しているのは、「JIS M 8812 石炭類及びコークス類―工業分析方法」である。
【0061】
測定原理は、分析試料を空気雰囲気下で815℃に加熱・燃焼させ、残留する灰の質量mASHを計測する。分析試料から水分量を差し引いた質量をm0とし、m0に対するmASHの比、mASH/m0×100を全乾ベースでの灰分の質量分率A[%](灰分率)とする。
【0062】
この計測によって、原料中の灰分の割合を求めることができる。例えば、原料をスギとして測定したところ、灰分率は、0.40%という値を得た。
【0063】
<原材料の固定炭素分率>
この計測を規定している規格は、「JIS M 8812 石炭類及びコークス類―工業分析方法」である。
【0064】
計測原理は、全乾ベースでの固定炭素分率は、計測したVM[%]とA[%]から(1)式で計算して求める。
FC[%]=100-VM[%]-A[%] ・・・(1)
【0065】
(1)式より固定炭素分率は、全体から揮発分率VMと灰分率Aを引いたものである。原材料をスギとして測定したところ、固定炭素分率はおよそ18質量%という値を得た。
【実施例】
【0066】
以下本発明に係る固体バイオ燃料の実施例を示す。原料となるバイオマスはスギ由来のものを用いた。このバイオマスは予め含水率が10質量%程度まで乾燥させた。次に、バイオマスをカッターミルで25秒間粉砕した後、ふるい振とう機を用いて、53~150μmに分級した。
【0067】
底面を金型で閉じた内径4mmの円筒に分級後のバイオマスを50mg投入し、底面と同様の金型を上面から挿入し、油圧ジャッキでバイオマスに所定の圧力(22~70MPa)を印加した。これは初期加圧力である。
【0068】
バイオマスへの加圧は、全製造工程が終了するまで行う。
【0069】
圧力を印加した状態で円筒を電気管状炉で覆い、設定温度(190℃)まで加熱した。設定温度まで加熱を行う過程で、円筒内の圧力は初期値から上昇するが、徐荷せずにそのまま上昇状態を保持した。
【0070】
設定温度に到達した後、1分15秒間、設定温度と上昇後の圧力(最大成型圧力:30~100MPa)で保持した。
【0071】
その後、電気管状炉を取り外し、その状態のまま冷却を行った。冷却開始時点の最大成型圧力と初期圧力の差をパックプレッシャBPとした。また、冷却工程中も冷却開始時の最大成型圧力を維持した。すなわち、冷却による減圧が生じた場合は、直ちに加圧して最大成型圧力を維持するようにした。
【0072】
冷却過程において、温度計の指示値が50℃を下回ったら冷却を終了したと判断した。すなわち処理を終了した。バイオマスに加えた圧力を除荷し、固体バイオ燃料を取り出した。
【0073】
上記の固体バイオ燃料のチャー収率を以下のようにして測定した。まず、測定室の雰囲気は不活性(窒素)雰囲気とし、測定室には150cc/minで窒素を供給した。成型した状態のままの分析試料を10℃/minの昇温速度で、常温から設定温度107℃まで昇温し、設定温度到達後、30分間保持し水分を放出させた。これで全乾状態と判断した。
【0074】
所定の時間が経過した後、10℃/minでさらに設定温度900℃まで昇温を行い、到達後10分間、900℃一定で保持し揮発分を放出させた。このときに残った質量が、非揮発分の質量となる。これと、水分を除く測定前の分析試料質量との比から、全乾ベースのチャー収率(%)を算出した。
【0075】
固体バイオ燃料(成型温度190℃)の場合のチャー収率(Char yield)[%]を
図6に示す。
図6を参照して、横軸はバックプレッシャBP(MPa)であり、縦軸はチャー収率(%)である。黒丸は初期圧力44MPaでバックプレッシャをかけた場合の試料であり、本発明に係る固体バイオ燃料である。黒菱形は初期圧力22MPaでバックプレッシャBPをかけた場合の試料である。いずれの試料も常に最大圧力を更新する加圧方法で加熱加圧工程および成型工程を実施した。そして、いずれの試料も成型工程で最大成型圧力は30MPaを超え、バックプレッシャを得ることができ、本発明に係る固体バイオ燃料である。
【0076】
黒四角は、初期圧力44MPaであり、本発明に係る製造方法と同様に常に最大圧力を更新する加圧方法が用いられたが、バックプレッシャBPがかからなかった試料であり、比較例となる。この試料は成型温度が110℃であるが、原料が膨張せず、常に最大圧力を更新する加圧法で加熱加圧工程および成型工程を実施しても、バックプレッシャが発生しなかった。つまり、加熱加圧工程では、初期圧力ILPが維持されるように、成型空間が縮まるように制御された。その後の成型工程においても、初期圧力ILPが維持されるように成型空間が維持された。つまり、成型空間内の成型品の圧力が低くなるように変化しても、成型空間を縮めるように制御され、成型空間の圧力は初期圧力ILPが維持された。冷却工程においては、初期圧力ILPが維持されるように、成型空間は小さくなるように制御されたものである。
【0077】
白丸および白四角は、チップ化された原料を初期圧力44MPaで固めた後は、圧力がかけられずに処理が進んだものである。すなわち、本発明に係る製造方法が施されていないサンプルである。したがって、加熱加圧工程では、白丸は成型開始温度190℃、白四角は成型開始温度110℃まで圧力がかからずに加熱された。また成型工程では、圧力がかけられずに成型開始温度が維持され、その後の冷却工程においても、圧力は加えられていない。白丸および白四角も比較例である。なお、原料のチャー収率は16%であった。
【0078】
図6を参照して、バックプレッシャを付与できた本発明に係る固体バイオ燃料は、いずれもチャー収率が24%を超えている。より具体的には、初期圧力が22MPaであった黒菱形の試料は、バックプレッシャBPが10MPa付近でチャー収率が25.5%~26.3%であった。初期圧力が44MPaであった黒丸の試料は、バックプレッシャBPが18.9MPa、33.9MPa、51.0MPaでそれぞれチャー収率が27.4%、28.3%、28.4%であった。
【0079】
一方、白丸、白四角、黒四角の各試料は、従来行われている固体バイオ燃料を代表していると考えられるもので、いずれもチャー収率は25%に届くものではなかった。すなわち、本発明に係る固体バイオ燃料は従来になく高いチャー収率を有するものであった。
【0080】
特に黒四角のサンプルは、加熱加圧工程および成型工程を通じて、常に最大圧力を更新するように行われた。しかし、成型開始温度110℃では、バックプレッシャは発生しなかった。したがって、同一原料であっても成型開始温度等の条件の違いによって、バックプレッシャがかからない場合があり、異なる固体バイオ燃料ができることを示している。
【0081】
このようにチャー収率の高い固体バイオ燃料は、よりコークスに近づき、コークスの代替品として利用ができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、バイオマスを燃料とする固体バイオ燃料に好適に利用することができる。