(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20240913BHJP
G01N 25/56 20060101ALI20240913BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G06Q50/02
G01N25/56 E
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2020147104
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】根本 学
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 綾
【審査官】岩橋 龍太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-220998(JP,A)
【文献】特開2006-275615(JP,A)
【文献】特開平10-048054(JP,A)
【文献】特開2017-127281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G01N 25/00-25/72
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌水分の空間分布を推定する対象となる土壌の位置を示す位置情報、前記空間分布の推定において参照される熱赤外画像を撮影する日付を示す日付情報、及び前記位置における土壌の土質を示す土質情報を取得する取得部と、
前記位置情報、前記日付情報、及び前記土質情報、並びに各時刻における土壌水分に関する値と地表面温度との対応関係を示す情報を参照して、前記位置の土壌の湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差が最大となる前記日付の時刻を推定する推定部とを備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記位置情報と前記日付情報とを参照して前記日付における気象条件を推定し、
前記土質情報、及び前記気象条件での前記対応関係を示す情報を参照して、前記土質の土壌における地表面温度であって、前記気象条件での湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度をそれぞれ推定し、
前記日付における所定時間毎の前記土壌の湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差を推定し、
前記地表面温度差が最大となる前記日付の時刻を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記気象条件には、日射量に関する条件が少なくとも含まれることを特徴とする請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
装置によって実行される情報処理方法であって、
土壌水分の空間分布を推定する対象となる土壌の位置を示す位置情報、前記空間分布の推定において参照される熱赤外画像を撮影する日付を示す日付情報、及び前記位置における土壌の土質を示す土質情報を
前記装置が取得する取得ステップと、
前記位置情報、前記日付情報、及び前記土質情報、並びに各時刻における土壌水分に関する値と地表面温度との対応関係を示す情報を参照して、前記位置の土壌の湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差が最大となる前記日付の時刻を
前記装置が推定する推定ステップとを含む
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、前記取得部及び前記推定部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、土壌水分の空間分布を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
降水量の多い日本では、作物を生産する圃場の排水性を高めること、或いは土壌水分の空間不均一を減少させることが、多くの作物において、収量増と高品質化に繋がる。そのため、大規模圃場の土壌水分量を短時間でモニタリングする技術が求められている。この社会的ニーズに対し、熱赤外カメラによる空撮画像の利用が有効である。
【0003】
非特許文献1では、互いに異なる時刻に撮影された熱赤外画像を参照して土壌温度の変化量から土壌水分量を推定する方法が開示されている。非特許文献2では、土壌に埋設された暗渠管の有無による土壌水分の多寡に起因する地表面温度の変化の違いを利用して、熱赤外画像を参照して土壌温度の分布から地中の暗渠管を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Anne Verhoef, Remote estimation of thermal inertia and soil heat flux for bare soil. Agricultural and Forest Meteorology, 123(2004), pp.221-236.
【文献】Barry Allred, Neal Eash, Robert Freeland, Luis Martinez, and DeBonne Wishart. Effective and efficient agricultural drainage pipe mapping with UAS thermal infrared imagery: A case study. Agricultural Water Management, 197(2018), pp.132-137.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した技術は、土壌水分の多寡に起因する地表面温度の空間分布を、熱赤外カメラで計測することで土壌水分量の空間分布を推定するものであるが、土壌表面温度は気象条件の影響も受けて時々刻々変化するため、撮影タイミングによって水分量推定精度が変動する。しかしながら、水分量推定にとって適した撮影時刻を決定できる方法はこれまでになく、土壌水分量の空間分布を効率的に得ることができないという問題がある。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、土壌水分の空間分布を推定するための熱赤外画像の撮影に適した時刻を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、土壌水分の空間分布を推定する対象となる土壌の位置を示す位置情報、前記空間分布の推定において参照される熱赤外画像を撮影する日付を示す日付情報、及び前記位置における土壌の土質を示す土質情報を取得する取得部と、前記位置情報、前記日付情報、及び前記土質情報を参照して、前記位置の土壌の湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差が最大となる前記日付の時刻を推定する推定部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、土壌水分の空間分布を推定するための熱赤外画像の撮影に適した時刻を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【
図3】地表面温度と体積含水率との関係の一例を示す図である。
【
図4】情報処理装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】ユーザが各情報を入力するための画面の一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。本実施形態においては、土壌水分の空間分布を推定するための熱赤外画像の撮影に適した時刻を推定する情報処理装置について説明する。土壌の上記熱赤外画像は、例えばドローンやUAV(Unmanned aerial vehicle)等によって空撮されてもよい。
【0011】
〔1.情報処理装置の構成例〕
図1は、本実施形態に係る情報処理装置1の構成例を示す機能ブロック図である。
図1に示すように、情報処理装置1は、制御部10、記憶部16、表示部20及び入力部18を備えている。
【0012】
制御部10は、情報処理装置1全体を統括するCPU等の制御装置であって、取得部12及び推定部14としても機能する。
【0013】
取得部12は、土壌水分の空間分布を推定する対象となる土壌の位置(範囲)を示す位置情報、前記空間分布の推定において参照される熱赤外画像を撮影する日付を示す日付情報、及び前記位置における土壌の土質を示す土質情報を取得する。
【0014】
ここで、位置情報は、例えば緯度及び経度によって指定される情報であってもよいし、住所によって指定される情報であってもよい。また、土質情報は、例えば土の粒子の大きさによって区分される情報であってもよいし、飽和含水率によって区分される情報であってもよい。
【0015】
推定部14は、位置情報、日付情報、及び土質情報を参照して、位置情報が示す位置の土壌の湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差が最大となる上記日付の時刻を推定する。
【0016】
ここで、湿潤条件とは、土壌水分の空間分布を推定する対象となる所定範囲であって、或る気象条件下における所定範囲において、最も湿っている傾向にある場所における水分量の条件を意味する。また、乾燥条件とは、上記所定範囲において、最も乾いている傾向にある場所における水分量の条件を意味する。また、湿潤条件及び乾燥条件における土壌の水分量は、例えば情報処理装置1が別途備える図示しないセンサから取得部12が取得する構成であってもよいし、ユーザが測定した値を、入力部18を介して入力する構成であってもよい。また、上述した気象条件とは、例えば日射量、気温、湿度又は天気等に関する条件である。また、本開示において土壌の水分量とは、単位体積あたりの土に含まれる水分量、又は体積含水率を意味することもある。
【0017】
記憶部16は、各種情報を格納する記憶装置であって、例えば、各気象条件下における土壌水分量と地表面温度との対応関係を示すテーブルを格納する。
【0018】
表示部20は、制御部10による制御に基づき、テキスト又は動画像等を表示する表示パネルである。入力部18は、情報処理装置1に対してユーザが入力操作をするためのキーボード等のインターフェースである。
【0019】
また、情報処理装置1は、例えばインターネットを介して外部装置にアクセスし、後述する気象条件に関する情報等を制御部10が取得可能な構成であってもよい。
【0020】
図2は、熱赤外画像の一例を示している。また、
図2においては、通路22によって区切られた矩形領域24が土壌部分であり、より明るい部分の地表面温度がより高いことを示している。
図2の画像下部においては通路22及び一部の矩形領域26に黒い防草シートがかけられているため、その箇所の地表面温度が高くなっているが、土壌部分が露出した矩形領域24においては、画像上部に示す土壌の方が、画像下部に示す土壌よりも地表面温度が高い測定結果となっている。これは、画像上部に示す土壌の方が、土壌の水分量が少ないことに起因している。
【0021】
図3の説明
図30及び説明
図32は、同じ位置及び日付における第1の時刻(10時)と第2の時刻(15時)とにおける土壌の地表面温度と体積含水率(Volumetric Water Contents)との関係をそれぞれ示している。ここで、各説明図のグラフは、横軸が土壌の地表面温度に対応し、縦軸が土壌における体積含水率に対応する。また、グラフ上部の「R
2」は、統計計算に用いる決定変数を示している。
【0022】
各グラフに示すように、時刻に応じて土壌の地表面温度及び体積含水率は変化しているものの、傾向として土壌の水分量が多い程、地表面温度は低いものとなる。
【0023】
また、第1の時刻と第2の時刻とでは、湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差が互いに異なっている。説明
図30に対応する第1の時刻の場合、土壌の体積含水率が約30%の湿潤条件においては、地表面温度が約30度であり、体積含水率が約10%の乾燥条件においては、地表面温度が約45度である。即ち、第1の時刻において地表面温度差は、約15度である。一方で、説明
図32に対応する第2の時刻の場合、土壌の体積含水率が約25%の湿潤条件においては、地表面温度が約25度であり、体積含水率が約10%の乾燥条件においては、地表面温度が約35度である。即ち、第2の時刻において地表面温度差は、約10度である。
図3に示す第1の時刻及び第2の時刻においては、より地表面温度差が大きい第1の時刻の方が、熱赤外画像の撮影により適した時刻となる。
【0024】
また、或る日付において地表面温度差が最大となる時刻に撮影された熱赤外画像を用いることによって、土壌水分の空間分布の差異がより強調されるので、他の時刻に撮影された熱赤外画像を用いるよりも高い精度で土壌水分の空間分布を推定することが可能となる。即ち、地表面温度差が最大となる時刻が熱赤外画像の撮影に非常に適した時刻となる。
【0025】
〔2.情報処理装置の処理例〕
本実施形態に係る情報処理装置1における処理の流れについて、
図4を参照して説明する。
図4は、本実施形態に係る情報処理装置1による処理の流れを示すフローチャートである。
【0026】
ステップS101において、取得部12は、位置情報、日付情報、及び土質情報を取得する。
図5は、表示部20に表示された画面であって、入力部18を介してユーザが各情報を入力するための画面の一例を示している。
図5の例においては、位置情報として緯度及び経度の値を用いている。また、画面内の「0616」とは、日付情報の一例である6月16日を示している。また、「土壌タイプ」とは土質情報に対応し、土の粒子の大きさによって区分される「Roam」「Sand」「FineSand」の何れかを選択する。この例では「FineSand」が最も土の粒子が大きく、「Roam」が最も土の粒子が小さい。なお、各情報の入力画面及び入力形式は、
図4に例示するものに限定されない。また、取得部12が取得する各情報は、ユーザの操作によって情報処理装置1に入力されたものに限定されない。
【0027】
ステップS102において、推定部14は、取得部12が取得した位置情報と日付情報とを参照して、当該日付情報が示す日付における気象条件を推定する。推定部14は、例えば上記日付における気象条件として、単位時間毎の日射量を推定する。
【0028】
ステップS103において、推定部14は、土質情報を参照して、土質条件が示す土質の土壌における地表面温度であって、上記日付におけるそれぞれの気象条件での湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度を、熱パラメータ計算および地表面でのエネルギー収支計算によりそれぞれ推定する。
【0029】
ステップS104において、推定部14は、日付情報が示す日付における所定時間毎の土壌の湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差を推定する。ここで、所定時間は、特定の時間に限定されず、例えば1分等であってもよい。
【0030】
ステップS105において、推定部14は、日付情報が示す日付において、土壌の湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差が最大となる時刻を推定する。また、本ステップS105において、制御部10は、
図5に例示するように上記時刻を表示部20に表示させる。
【0031】
以上、情報処理装置1によって実現される情報処理方法であって、土壌水分の空間分布を推定する対象となる土壌の位置を示す位置情報、前記空間分布の推定において参照される熱赤外画像を撮影する日付を示す日付情報、及び前記位置における土壌の土質を示す土質情報を取得する取得ステップと、前記位置情報、前記日付情報、及び前記土質情報を参照して、前記位置の土壌の湿潤条件と乾燥条件とにおける地表面温度差が最大となる前記日付の時刻を推定する推定ステップとを含む情報処理方法について説明した。
【0032】
上記の構成によれば、土壌水分の空間分布を推定するための熱赤外画像の撮影に適した時刻を推定できる。
【0033】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置の制御ブロック(特に取得部12および推定部14)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0034】
後者の場合、情報処理装置は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0035】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1 情報処理装置
10 制御部
12 取得部
14 推定部
16 記憶部
18 入力部
20 表示部