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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】生育予測プログラムおよび生育予測方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 99/00 20060101AFI20240913BHJP
   G06Q 50/02 20240101ALI20240913BHJP
【FI】
A01M99/00
G06Q50/02
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2024514508
(86)(22)【出願日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2023019256
(87)【国際公開番号】W WO2024084727
(87)【国際公開日】2024-04-25
【審査請求日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2022168664
(32)【優先日】2022-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 郁弥
(72)【発明者】
【氏名】柴 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松倉 啓一郎
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-145632(JP,A)
【文献】特開2022-002507(JP,A)
【文献】特開2021-064370(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108764542(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01M 1/00 - 99/00
G06N 3/00 - 3/126
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積算発育速度を目的変数とする特定の1つ又は複数の式中に、節足動物が発生した時期を示すデータ及び気象観測データを入力して、積算発育速度の予測値を得るステップと、
得られた前記予測値を用いて節足動物発生時期を予測するステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項2】
請求項1の生育予測プログラムで、
積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の、不連続的なパラメータの値に対して、パラメータの値に対応する積算発育速度の予測値を目的変数として算出するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づき最適なパラメータの値の組み合わせを求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項3】
請求項1の生育予測プログラムで、
積算発育速度を算出するための複数の式中のそれぞれに存在する不連続的なパラメータの値に対して、パラメータの値に対応する積算発育速度の予測値を当該複数の式それぞれの目的変数として算出するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づき最適な積算発育速度を算出するための式とパラメータの値の組み合わせを求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項4】
請求項1の生育予測プログラムで、
積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の全てのパラメータについて、不連続的なパラメータの値に対して、パラメータの値に対応する積算発育速度の予測値を当該特定の1つの式の目的変数として算出するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づきパラメータの値の組み合わせを求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項5】
請求項1の生育予測プログラムで、
積算発育速度を算出するための複数の式中のそれぞれに存在する全ての不連続的なパラメータの値に対して、パラメータの値に対応する積算発育速度の予測値を当該複数の式の目的変数として算出するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づき最適な積算発育速度を算出するための式とパラメータの値の組み合わせを求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項6】
請求項2、3、4、又は5の生育予測プログラムで、
損失関数として複数の損失関数を用いてそれぞれのスコアを算出するステップと、
交差検証のスコアが最良の場合の積算発育速度を目的変数の値とするステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項7】
請求項1の生育予測プログラムで、
積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の、係数以外の不連続的なパラメータの中の一部のパラメータの値に対して、当該パラメータの値に対応する当該係数の逆数の推定値を算出するステップと、
算出された各推定値の特性を示す値を対象節足動物固有の当該係数の逆数として固定し、当該パラメータの値に対応する積算発育速度の予測値を当該特定の1つの式の目的変数として算出するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づき最適なパラメータの値の組み合わせを求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項8】
請求項1の生育予測プログラムで、
積算発育速度を算出するための複数の式中のそれぞれに存在する係数以外の不連続的なパラメータの中の一部のパラメータの値に対して、当該パラメータの値に対応する当該係数の逆数の推定値を当該複数の式それぞれに対して算出するステップと、
算出された各推定値の特性を示す値を対象節足動物固有の当該係数の逆数として固定し、当該パラメータの値に対応する積算発育速度の予測値を当該複数の式の目的変数として算出するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に関する交差検証のスコアに基づき最適な積算発育速度を算出するための式とパラメータの値の組み合わせを求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項9】
請求項1の生育予測プログラムで、
積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の、係数以外の全ての不連続的なパラメータに対して、当該パラメータの値に対応する当該係数の逆数の推定値を算出するステップと、
算出された各推定値の特性を示す値を対象節足動物固有の当該係数の逆数として固定し、当該パラメータの値に対応する積算発育速度の予測値を当該複数の式の目的変数として算出するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づき最適なパラメータの値の組み合わせを求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項10】
請求項1の生育予測プログラムで、
積算発育速度を算出するための複数の式中のそれぞれに存在する、係数以外の全ての不連続的なパラメータの値に対して、当該パラメータの値に対応する当該係数の逆数の推定値を算出するステップと、
算出された各推定値の特性を示す値を対象節足動物固有の当該係数の逆数として固定し、当該パラメータに対応する積算発育速度の予測値を当該複数の式の目的変数として算出するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に関する交差検証のスコアに基づき最適な積算発育速度を算出するための式とパラメータの値の組み合わせを求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項11】
請求項7、8、9、又は10に記載の生育予測プログラムで、
前記特性を示す値は、各推定値の平均値又は中央値であ
育予測プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載の生育予測プログラムで、
損失関数として複数の損失関数を用い、交差検証のスコアが最良の場合の積算発育速度を目的変数の値とするステップを有す
育予測プログラム。
【請求項13】
請求項11に記載の生育予測プログラムで、
得られたパラメータの値の組み合わせを初期値とし、得られた積算発育速度を算出するための式に基づき、最適化手法を用いて選択された損失関数を最小化する生育予測パラメータの組み合わせを求めるステップを有す
育予測プログラム。
【請求項14】
請求項7、8、9、又は10に記載の生育予測プログラムで、
パラメータの値の組み合わせを初期値とし、積算発育速度を算出するための式に基づき、最適化手法を用いて選択された損失関数を最小化する生育予測パラメータの組み合わせを求めるステップを有す
育予測プログラム。
【請求項15】
請求項12に記載の生育予測プログラムで、
得られたパラメータの値の組み合わせを初期値とし、得られた積算発育速度を算出するための式に基づき、最適化手法を用いて選択された損失関数を最小化する生育予測パラメータの組み合わせを求めるステップを有す
育予測プログラム。
【請求項16】
請求項13に記載の生育予測プログラムで、
前記最適化手法がCОBYLA法であ
育予測プログラム。
【請求項17】
請求項14に記載の生育予測プログラムで、
前記最適化手法がCОBYLA法であ
育予測プログラム。
【請求項18】
請求項1に記載の生育予測プログラムで、
目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための特定の1つの式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づき最適なパラメータの値の組み合わせを最適化手法を用いて求めるステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項19】
請求項1に記載の生育予測プログラムで、
目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための特定の1つの式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する複数の損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、
当該積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項20】
請求項1に記載の生育予測プログラムで、
目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための複数の式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、
当該複数の積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な特定の1つの積算発育速度を算出するための式及び当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項21】
請求項1に記載の生育予測プログラムで、
目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための複数の式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、
当該積算発育速度の予測値に関する複数の損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、
当該複数の積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な特定の1つの積算発育速度を算出するための式及び当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、
を有す
育予測プログラム。
【請求項22】
請求項18、19、20、又は21に記載の生育予測プログラムで、
前記最適化手法がCОBYLA法である
生育予測プログラム。
【請求項23】
積算発育速度を目的変数とする特定の1つ又は複数の式中に、節足動物が発生した時期を示すデータ及び気象観測データを入力して、積算発育速度の予測値を得るステップと、
得られた前記予測値を用いて節足動物発生時期を予測するステップと、
を有す
育予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生育予測プログラムおよび生育予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬の適期散布および化学農薬の不必要な散布の削減のために、病害虫の発生時期及び植物の生育状況の早期かつ正確な把握が必要になる。
【0003】
従来、昆虫やクモ・ダニ類をはじめとする節足動物、特に農業害虫の発生時期予測には有効積算温度計算が用いられている。この発生時期予測においては、各生物種固有の有効積算温度、発育零点等の生育予測パラメータは、室内飼育試験で得た複数の温度条件における発育速度(生育日数の逆数)の回帰分析を行うことで決定される。
【0004】
非特許文献1では、シマトビケラ科の昆虫の生育予測パラメータの推定において、それらの発生消長と気象観測データを用いて、任意の発育零点における有効積算温度の予測値を算出し、その標準偏差が最小となる発育零点と有効積算温度を最適な生育予測パラメータとする試みがされている。
【0005】
非特許文献2では、野外観測データを用いた水稲生育予測にかかるパラメータの決定のために、生育日数の残差平方和を損失関数に用いた最小二乗法を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】宇治川に優占するシマトビケラ科2種の有効積算温量の推定-成虫の季節消長パターンに基づく分析-(京都大学防災研究所年報58:448-457)
【文献】イネの発育過程のモデル化と予測に関する研究(日作紀59:687-695)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
病害虫の発生時期予測には、一般的に有効積算温度計算が用いられるが、予測のための各種パラメータを得るには必ず多くの室内飼育試験を実施する必要がある。しかし、飼育に依存した手法では、室内飼育が困難な害虫種に適用できない、飼育条件下で決定したパラメータでは野外での予測精度が悪い場合がある、予測精度が悪い場合でもパラメータを補正する術がないといった適用範囲・予測精度・対応力における課題が残っている。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、このような問題の根本的な原因は室内飼育試験に依存したパラメータ決定方法にあると考え、飼育を必要としない生育予測計算のパラメータの決定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の前提として、対象とする生物種の発育速度に影響を与える環境要因が既知であり、発育速度を説明する回帰式が知られている場合であれば、生育予測パラメータの決定が可能である。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0010】
本発明は、積算発育速度を目的変数とする特定の1つ又は複数の式中に、野外の生物種の生長データ及び気象観測データを入力して、積算発育速度の予測値を得るステップと、得られた前記予測値を用いて当該生物種の生育予測を行うステップと、を有する生物種の生育予測方法である。
【0011】
又、本発明は、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための特定の1つの式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づき最適なパラメータの値の組み合わせを最適化手法を用いて求めるステップと、を有する生物種の生育予測方法である。
【0012】
又、本発明は、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための特定の1つの式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、当該積算発育速度の予測値に関する複数の損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、当該積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、を有する生物種の生育予測方法である。
【0013】
又、本発明は、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための複数の式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、当該複数の積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な特定の1つの積算発育速度を算出するための式及び当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、を有する生物種の生育予測方法である。
【0014】
又、本発明は、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための複数の式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、当該積算発育速度の予測値に関する複数の損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、当該複数の積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な特定の1つの積算発育速度を算出するための式及び当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、を有する生物種の生育予測方法である。
【0015】
又、本発明は、積算発育速度を目的変数とする特定の1つ又は複数の式中に、野外の生物種の生長データ及び気象観測データを入力して、積算発育速度の予測値を得るステップと、得られた前記予測値を用いて当該生物種の生育予測を行うステップと、を有する生物種の生育予測プログラムである。
【0016】
又、本発明は、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための特定の1つの式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数に基づき最適なパラメータの値の組み合わせを最適化手法を用いて求めるステップと、を有する生物種の生育予測プログラムである。
【0017】
又、本発明は、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための特定の1つの式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、当該積算発育速度の予測値に関する複数の損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、当該積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、を有する生物種の生育予測プログラムである。
【0018】
又、本発明は、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための複数の式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、当該積算発育速度の予測値に関する特定の1つの損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、当該複数の積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な特定の1つの積算発育速度を算出するための式及び当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、を有する生物種の生育予測プログラムである。
【0019】
又、本発明は、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための複数の式中のパラメータの値を任意の方法で決定するステップと、当該積算発育速度の予測値に関する複数の損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せを最適化手法を用いて探索するステップと、当該複数の積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な特定の1つの積算発育速度を算出するための式及び当該パラメータの値の組合せを選択するステップと、を有する生物種の生育予測プログラムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、対象生物種の生育予測計算に必要なパラメータを、野外における各生物種の生長データおよび気象観測データを用いて決定することで、従来必要であった室内飼育試験が不要になり、適用範囲・予測精度・対応力における課題が解決される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る生育予測方法のうち、積算発育速度の算出のために、全てのパラメータを変動させる方法の流れを示すフローチャート。
図2】同生育予測方法のうち、有効積算温度の予測値の平均値または中央値を固定する方法の流れを示すフローチャート。
図3図2の方法で更にCОBYLA法を用いる場合の流れを示すフローチャート。
図4】同生育予測方法のうち、任意の方法でパラメータを決定して初期値とし、CОBYLA法を用いる方法の流れを示すフローチャート。
図5図4の発明で複数の式と複数の損失関数を用い、交差検証を行う場合の流れを示すフローチャート。
図6】本発明の実施形態に係る図1図5までの発明の具体的実施態様の概要の例。
図7図1図5までの発明の一実施形態に係る生育予測装置の概略図。
図8図6中のユーザ端末の機能的構成を示す図。
図9図1に示した方法を実施する際のシステムの関連する構成部分の動作を示す図。
図10図2に示した方法を実施する際のシステムの関連する構成部分の動作を示す図。
図11図3に示した方法を実施する際のシステムの関連する構成部分の動作を示す図。
図12図5に示した方法を実施する際のシステムの関連する構成部分の動作を示す図。
図13図1図2図3に示した発明による生育予測の精度検証図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下に記す実施形態に限定されず、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えた実施が可能である。
【0023】
<生育予測方法>
初めに、本発明の一態様である生育予測方法について説明する。
【0024】
〔積算発育速度の算出のために、全てのパラメータを変動させる方法〕
図1は、生育予測方法のうち、積算発育速度の算出のために、全てのパラメータを変動させる方法(以下、「方法1」と略記する)のフローチャートである。以下、各ステップで行われる処理について説明する。
【0025】
ステップS1では、事前に取得して蓄積されている、野外での動植物の生長データ、気象観測データ180を取得する。生長データには、例えば、病害虫が発生した時期を示すデータ、水稲が出穂した時期を示すデータ、果物が収穫可能な状態となった時期を示すデータ等が含まれる。
【0026】
上記の気象観測データ180には、一例として気温などが含まれる。
【0027】
ステップS2では、複数の、積算発育速度を目的変数とする式それぞれの中の、全て(複数種類)の生育予測パラメータを所定の方法でそれぞれ変動させる。そして、各生育予測パラメータの任意の値を抽出することにより、任意の生育予測パラメータの値の組合せを得る。
【0028】
ここで、「複数の、積算発育速度を目的変数とする式中の、全ての生育予測パラメータ」とは、例えば、有効積算温度・発育零点を変動させる積算発育速度を目的変数とする式、有効積算温度・発育零点・発育上限温度を変動させる積算発育速度を目的変数とする式、及び有効積算温度・発育零点・発育上限温度・発育停止温度を変動させる積算発育速度を目的変数とする式、において、含まれるパラメータに関し、パラメータの値をそれぞれ別々に変動させた場合のパラメータの値の組合せを指す。以下の方法の説明においても同様である。
【0029】
昆虫及び昆虫に関連する節足動物の生長の温度依存を記述するために提案されている数式には、例えば以下の数1がある。
【数1】
【0030】
上記のそれぞれの式におけるDは日数、eはネイピア数を意味する。
1番上の式と、上から2番目の式について、a、bは経験的定数(empirical constant)、
cは最大発育速度、Tは日平均気温(℃)、Toptは至適温度(℃)を意味する。ここで、経験的定数とは、実質的な意味(温度や生育速度など)を持たない、フィッティングのためのパラメータを意味する。以下の数式の説明でも経験的定数の意味は同様である。
上から3番目の式について、Ψは発育最低温度(℃) (発育零点に相当)以上の気温における発育速度、ρは至適温度までの発育速度の上昇割合、Tは発育最低温度と気温との差、Tmaxは致死温度、ΔTは高温境界層の幅を意味する。
上から4番目の式について、Tは日平均気温(℃)、a、b、c、dは経験的定数を意味する。
上から5番目の式について、ρは至適温度までの発育速度の上昇割合、Tは日平均気温(℃)、Tmaxは致死温度(℃)、Δは至適温度と致死温度の差、λは経験的定数を示す。
上から6番目の式及び上から7番目の式について、a、mは経験的定数、Tは日平均気温(℃)、Tminは発育最低温度(℃) (発育零点に相当)、Tmaxは致死温度(℃)を意味する。
上から8番目の式について、Tは日平均気温(℃)、ρ、α、βは経験的定数を意味する。
【0031】
又、植物の1日あたりの発育速度DVRと日平均気温T(℃)及び日長L(hour)との関係を記述するために提案されている数式には、例えば以下の数2がある。
【数2】
ここで、G、Th、Lc、A,B及びDVI*はパラメータであり、それぞれ次のような意味を持つ。Gはある品種の出穂までの最小日数、Thはある日長条件下で発育速度が最大値の半分になる温度、Lcは限界日長、AとBはそれぞれ温度係数と日長係数、そしてDVI*は日長に感応し始める発育指数である。
【0032】
又、ここで、「生育予測パラメータの値の組合せ」は、方法1が積算発育速度を算出する過程を含む場合においては、積算発育速度を算出するまでの任意のタイミングで、変動させることが可能な生育予測パラメータの値の組合せを指す。又、「生育予測パラメータの値の組合せ」は、積算発育速度を算出した後、当該算出に伴って決定された生育予測パラメータを、前記積算発育速度を算出するまでは変動させることが可能な生育予測パラメータと併せたものも指す。以下の方法の説明、及び特許請求の範囲の記載においても同様である。
【0033】
ステップS3では、複数の、積算発育速度を目的変数とする式それぞれの中の、ステップS2で得られた、生育予測パラメータの各組合せにおいて、ある発育段階または世代の発生ピークを起点として、次の発育段階または次世代の発生ピークまでの毎日の気温データセットを用いて、積算発育速度の予測値を算出する。このステップでは、各式に、得られた生育予測パラメータの各組合せをそれぞれ適用する。このため、式の数×生育予測パラメータの値の組合せの数の予測値が算出される。
【0034】
ステップS4では、まず、複数の、積算発育速度を目的変数とする式(S4中の「モデル式」に対応する。以下、図中の「モデル式」、「発育速度モデル式」などの記載は、明細書及び特許請求の範囲の中では「モデル式」という言葉を使わず、「積算発育速度を目的変数とする式」と記載する。)中の、任意の生育予測パラメータの値の組合せにおける積算発育速度の理想値である1と各予測値との差を残差としてそれぞれ算出する。
【0035】
次に、理想値と予測値の残差に対して、損失関数を複数用いて、それぞれの損失関数が最小となる積算発育速度を算出するための式と生育予測パラメータの値の組合せを決定する。
【0036】
用いられる複数の損失関数について記す。n組のデータセットがあると仮定する。i番目のデータに対する理想値をyi、予測値を
【数7】
とすると、残差eiは
【数3】
と表される。このとき、複数の損失関数の変化を、残差平方和(Residual Sum of Squares: RSS)、平均二乗誤差の平方根(Root Mean Squared Error: RMSE)、平均絶対誤差(Mean Absolute Error: MAE)、中央絶対誤差(Median Absolute Error: MedAE)、平均絶対パーセント誤差(Mean Absolute Percentage Error: MAPE)を例に記載する。
【数4】
又、平均二乗対数誤差(Mean Squared Logarithmic Error: MSLE)、その平方根(Root Mean Squared Logarithmic Error: RMSLE)の場合は残差eiの計算方法が変化する。
【数5】
この条件下で、
【数6】
となる。
【0037】
次に、それぞれの損失関数の最小化モデルにおいて交差検証を用いて汎化性能の評価を行い、そのスコアが最良の損失関数を選択し、選択した損失関数が最小となる積算発育速度を算出するための式を最適な式として決定し、選択した損失関数が最小となる生育予測パラメータの値の組合せを最適なパラメータとして決定する。
【0038】
ステップS5では、ステップS4で得られた積算発育速度を算出するための式、及びパラメータを使用して生育予測を実行する。
【0039】
上記非特許文献2においては、生育日数を目的変数とするため、パラメータを一義的に決定するには多数のデータセットが必要になるという問題がある。方法1では目的変数に生育日数ではなく積算発育速度を用いることで、データセットが少ない場合(6個程度)でもパラメータを一義的に定めることが可能である。
【0040】
なお、ステップS2で、積算発育速度を算出するための式を特定の1つに決めて当該式しか使わずに方法1を実施することもできる。
【0041】
また、ステップS2で、積算発育速度を算出するための式中の全てのパラメータを変動させず、一部のパラメータのみを変動させて方法1を実施することもできる。
【0042】
また、ステップS4で、損失関数を特定の1つに決めて当該損失関数しか使わずに方法1を実施することもできる。使用する積算発育速度を算出するための式及び損失関数がそれぞれ1つだけの場合は交差検証を行う必要はなくなる。
【0043】
[有効積算温度の予測値の平均値または中央値を、対象の生物種固有の有効積算温度として固定する方法]
図2は、生育予測方法のうち、積算発育速度の算出のために、全てのパラメータを変動させるのではなく、積算発育速度を算出するための複数の式中の係数の逆数(有効積算温度に相当する)の予測値の平均値または中央値を、対象の生物種固有の有効積算温度として固定する方法(以下「方法2」と略記する)のフローチャートである。各ステップで行われる処理について説明する。
【0044】
ステップS11では、事前に取得して蓄積されている、野外での動植物の生長データ、気象観測データ180を取得する。
【0045】
ステップS12では、複数の、積算発育速度を目的変数とする式それぞれの中の、係数以外の全ての生育予測パラメータを所定の方法でそれぞれ変動させる。そして、変動させた生育予測パラメータの任意の値を抽出することにより、任意の生育予測パラメータの値の組合せを得る。
【0046】
ステップS13では、複数の、積算発育速度を目的変数とする式それぞれに関して、当該式中の、ステップS12で得た生育予測パラメータの値の組合せの条件に対応する当該係数の逆数(有効積算温度に相当する)を推定する。
【0047】
ステップS14では、ステップS13で求めた係数の逆数の推定値の平均値又は中央値を、生育予測を行う対象の生物種に固有の値として固定する。
【0048】
ステップS15では、複数の、積算発育速度を目的変数とする式それぞれの中の、式中の係数を除く生育予測パラメータの各組合せにおいて、ステップS11で取得した各データセットにおける積算発育速度(予測値)を算出する。その後、積算発育速度の理想値である1と予測値の差を残差として算出する。
【0049】
ステップS16では、理想値と予測値の残差に対して、損失関数を複数用いて、それぞれの損失関数が最小となる積算発育速度を算出するための式と生育予測パラメータの値の組合せを決定する。
【0050】
次に、それぞれの損失関数の最小化モデルにおいて交差検証を用いて汎化性能の評価を行い、そのスコアが最良の損失関数を選択し、選択した損失関数が最小となる積算発育速度を算出するための式を最適な式として決定し、選択した損失関数が最小となる生育予測パラメータの値の組合せを最適なパラメータとして決定する。
【0051】
ステップS17では、ステップS16で得られた積算発育速度を算出するための式、及びパラメータを使用して生育予測を実行する。
【0052】
なお、ステップS12で、積算発育速度を算出するための式を特定の1つに決めて当該式しか使わずに方法2を実施することもできる。
【0053】
また、ステップS12で、積算発育速度を算出するための式中の係数以外の全てのパラメータを変動させず、一部のパラメータのみを変動させて方法2を実施することもできる。
【0054】
また、ステップS14では、ステップS13で求めた係数の逆数の推定値の平均値又は中央値以外の値を推定値の特性を示す値として用いることもできる。
【0055】
また、ステップS16で、損失関数を特定の1つに決めて当該損失関数しか使わずに方法2を実施することもできる。使用する積算発育速度を算出するための式及び損失関数がそれぞれ1つだけの場合は交差検証を行う必要はなくなる。
【0056】
方法2は、積算発育速度を算出するための式中の係数を、変動させる生育予測パラメータの値の組合せに含めない。このため、全てのパラメータを変動させる方法1の問題点であった莫大な計算量を削減できることが利点である。
【0057】
[方法2において、決定した生育予測パラメータの値の組合せを初期値として、CОBYLA法を用いる方法]
図3は、上述の方法2において、決定した生育予測パラメータの値の組合せを初期値として、CОBYLA法を用いる方法(以下「方法3」と略記する)のフローチャートである。各ステップで行われる処理について説明する。
【0058】
上述の方法2を用いて、積算発育速度を算出するための式と、生育予測パラメータの値の組合せを決定する。すなわち、ステップS11からS16までは、方法2と同様である。
【0059】
ステップS27では、方法2により得られたパラメータの値の組み合わせを初期値として用いる。
【0060】
ステップS28では、方法2により得られた積算発育速度を算出するための式に基づき、数理計画法を含む最適化手法の一つであるCОBYLA法(Constrained optimization by linear approximation: 線形近似による制約条件付き最適化)を用いて選択された損失関数を最小化する生育予測パラメータの組み合わせを求める。
【0061】
ステップS29では、ステップS28で得られた積算発育速度を算出するための式、及びパラメータを使用して生育予測を実行する。
【0062】
なお、ステップS12で、積算発育速度を算出するための式を特定の1つに決めて当該式しか使わずに方法3を実施することもできる。
【0063】
また、ステップS12で、積算発育速度を算出するための式中の係数以外の全てのパラメータを変動させず、一部のパラメータのみを変動させて方法3を実施することもできる。
【0064】
また、ステップS14では、ステップS13で求めた係数の逆数の推定値の平均値又は中央値以外の値を推定値の特性を示す値として用いることもできる。
【0065】
ステップS16で、損失関数を特定の1つに決めて当該損失関数しか使わずに方法3を実施することもできる。使用する積算発育速度を算出するための式及び損失関数がそれぞれ1つだけの場合は交差検証を行う必要はなくなる。
【0066】
ステップS28で、CОBYLA法以外の最適化手法を用いて方法3を実施することもできる。
【0067】
制約条件を付けない場合の最適化手法の例としては、Nelder-Mead法、Powell法、共役勾配法(conjugate gradient method)、BFGS法(Broyden-Fletcher-Goldfarb-Shanno method)、ニュートン共役勾配法(Newton conjugate gradient method)、信頼領域ニュートン共役勾配法(Newton conjugate gradient trust-region method)、信頼領域dog-leg法(dog-leg trust-region method)などが挙げられる。
【0068】
一方、制約条件を付ける場合の最適化手法の例としては、範囲制約付きメモリ制限BFGS法(L-BFGS-B)、切断ニュートン共役勾配法(TNC)、sequential least squares programming (SLSQP)、ベイズ最適化などが挙げられる。
【0069】
上記非特許文献1において、損失関数は0を最適な値とする関数であるが、損失関数を有効積算温度の標準偏差に設定する非特許文献1の手法は、発育零点が大きくなるほど有効積算温度の予測値の標準偏差(損失関数)が0に収束する欠陥がある(有効積算温度の平均値が0に収束するため)。この欠陥は、発育上限温度や発育停止温度などの高温閾値をパラメータに追加した際に顕著に表れ、適切なパラメータを推定することをできなくする。非特許文献1では高温閾値の推定も試みているが網羅性に欠ける手法で行っており、実用性に乏しい。
方法3では、目的変数に積算発育速度を用いて損失関数を最小化するため、発育上限温度や発育停止温度などの高温閾値をパラメータに追加しても網羅性を保ったまま適切な生育予測パラメータを決定することが可能になる。
【0070】
又、上記非特許文献2では、生育日数の残差平方和を損失関数とする最小二乗法を用いている。この方法は残差が整数値になるため、パラメータの値の組合せごとの僅差を区別するために多数のデータセットを要することに加え、最小二乗法は外れ値に大きく影響されるため、適切なパラメータを推定できない可能性がある。また、非特許文献2において損失関数の最小化アルゴリズムで用いるシンプレックス法は、初期値を適切に設定できない場合に最適な生育予測パラメータの値の組合せを推定できない、初期値が手動である、パラメータに対して制約条件を設定できない、などの問題がある。
方法3では、最適化手法に用いる初期値および適切な損失関数を自動で決定することが可能であり、CОBYLA法を用いることで各パラメータに0≦有効積算温度、発育零点≦高温閾値などの制約条件を設定することもできる。これにより、上記問題を解消し、適切なパラメータを推定できるようになる。
【0071】
〔任意の方法でパラメータを決定して初期値とし、CОBYLA法を用いる方法〕
図4は、生育予測方法のうち、任意の方法でパラメータを決定して初期値とし、CОBYLA法を用いる方法(以下、「方法4」と略記する)のフローチャートである。各ステップで行われる処理について説明する。
【0072】
ステップS31では、事前に取得して蓄積されている、野外での動植物の生長データ、気象観測データ180を取得する。
【0073】
ステップS32では、積算発育速度の予測値を算出するための特定の1つの式中のパラメータの値を任意の方法を用いて決定する。
【0074】
ステップS33では、特定の1つの損失関数に基づき最適なパラメータの値の組み合わせをCОBYLA法を用いて求める。
【0075】
ステップS34では、ステップS33で得られたパラメータを使用して生育予測を実行する。
【0076】
ステップS33で、CОBYLA法以外の最適化手法を用いて方法4を実施することもできる。
【0077】
本方法によると、方法1の問題点であった莫大な計算量が必要となることに関して、方法2及び方法3以上に、計算量を削減することができる。
【0078】
[方法4で、複数の式と複数の損失関数を用い、交差検証を行う方法]
図5は、方法4において、任意の方法で決定するパラメータの値を複数の式中の値とし、複数の損失関数を用いた上で交差検証を行う方法(以下、「方法5」と略記する)のフローチャートである。各ステップで行われる処理について説明する。
【0079】
ステップS41では、事前に取得して蓄積されている、野外での動植物の生長データ、気象観測データ180を取得する。
【0080】
ステップS42では、目的変数として積算発育速度の予測値を算出するための複数の式中のパラメータの値を任意の方法で決定する。
【0081】
ステップS43では、積算発育速度の予測値を算出するための複数の式それぞれに関して、当該積算発育速度の予測値に関する複数の損失関数を最小化する当該パラメータの値の組合せをCОBYLA法を用いて探索する。
【0082】
ステップS44では、当該複数の積算発育速度を算出するための式、当該複数の損失関数、及び交差検証のスコアに基づき適切な特定の1つの積算発育速度を算出するための式及び当該パラメータの値の組合せを選択する。
【0083】
ステップS45では、ステップS44で得られた積算発育速度を算出するための式、及びパラメータを使用して生育予測を実行する。
【0084】
本方法によると、方法4に比べて、より適切な生育予測パラメータを求めることができる。
【0085】
ステップS42で、積算発育速度を算出するための式を特定の1つに決めて当該式しか使わずに方法5を実施することもできる。
【0086】
ステップS43で、損失関数を特定の1つに決めて当該損失関数しか使わずに方法5を実施することもできる。使用する積算発育速度を算出するための式及び損失関数がそれぞれ1つだけの場合は交差検証を行う必要はなくなる。
【0087】
ステップS43で、CОBYLA法以外の最適化手法を用いて方法5を実施することもできる。
【0088】
以上説明してきた方法1~5は、後述する生育予測プログラムを実行する生育予測装置100を用いて行ってもよいし、他の装置(例えば論理回路等)を用いて行ってもよい。
【0089】
<生育予測プログラムおよび装置>
次に、本発明の他の態様である生育予測プログラムおよび装置について説明する。
【0090】
図6は、本実施形態に係る生育予測システムの構成図である。図6に示した通り、生育予測システムは、生育予測プログラムを実行する生育予測装置100、ユーザ端末500によって構成される。生育予測装置100は、公衆回線網300(インターネット網や第3世代、第4世代、第5世代通信網など)を介して、ユーザ端末500と通信可能である。
【0091】
生育予測装置100は、生育予測プログラムの実行が可能であり、かつ、データ通信の実行が可能であり、家庭用にも業務用にも用いられうる装置である。生育予測装置100としては、例えば、生育予測プログラムを実行可能な演算処理能力を有するサーバ装置やパーソナルコンピュータが挙げられる。
【0092】
生育予測装置100は、図7に示したように、通信部110と、計算部120と、記憶部160と、を有している。計算部120の動作については後述する。
【0093】
通信部110は、ユーザ端末500と有線または無線で通信する。本実施形態に係る通信部110は、通信モジュールで構成されている。
【0094】
本実施形態に係る記憶部160は、半導体メモリ、ハードディスク等で構成されている。記憶部160は、生育予測装置100の計算部120を動作させるための生育予測プログラム190と、生物の観測データ170と、気象観測データ180と、を格納している。生育予測プログラム190は、例えば、上記図1~5に示した方法1~5の少なくともいずれかに対応する処理を計算部120に実行させる内容となっている。
【0095】
ここで、生物の観測データ170とは、野外の生物種の生長を記録したデータであり、気象観測データ180とは、野外の気象を観測して記録したデータである。
【0096】
ユーザ端末500は、データ通信の実行が可能であり、家庭用にも業務用にも用いられうる電化製品である。
【0097】
ユーザ端末500は、図8に示したように、操作部510と、提示部520と、を有している。操作部510はユーザが操作するキーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル等で構成されている。提示部520は、表示用デバイス(液晶パネル等)、スピーカ、プリンタ等で構成されている。また、本実施形態に係るユーザ端末500は、インターネットブラウザがインストールされている。なお、ユーザ端末500は、専用の情報閲覧用アプリケーションがインストールされたものであってもよい。
【0098】
ユーザは、ユーザ端末500を操作し、公衆回線網300を介して生育予測装置100にアクセスする。
【0099】
その後、ユーザは、生育予測装置100に自らが知りたい特定の地域で特定の害虫が発生する時期を問い合わせる。
【0100】
生育予測装置100は、当該特定の地域で当該特定の害虫が発生する時期を計算し、計算結果をユーザ端末500に返す。
【0101】
これにより、ユーザは、当該特定の地域で当該特定の害虫が発生する時期の予測値を知ることができる。
【0102】
上述した手段、機能は、生育予測装置100(CPU、情報処理装置、各種端末を含む)が、本発明の生育予測プログラムを読み込んで、実行することによって実現される。生育予測プログラムは、例えば、USBメモリ、CD(CD-ROMなど)、DVD(DVD-ROM、DVD-RAMなど)等の生育予測プログラムを実行する生育予測装置100が読取可能な記録媒体に記録された形態で提供される。
この場合、生育予測プログラムを実行する生育予測装置100の計算部120は当該記録媒体から生育予測プログラムを読み出し、内部記憶装置・外部記憶装置に転送し記憶して実行する。また、その生育予測プログラムを、例えば、磁気ディスク、光ディスク、等の記憶装置に記録しておき、その記憶装置から通信回線を介してプログラムを実行する生育予測装置100に送信する形式でもよい。
【0103】
図9に、計算部120が方法1に対応する処理を実行する場合について、交差検証スコア計算部130、交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135、パラメータ推定部140、最適化手法実行部150、生物の観測データ170、気象観測データ180の機能及び連関、その結果としての出力を示す。
【0104】
[機械学習時]
図9において、T1では、入力として、生物の観測データ170と気象観測データ180が与えられる。
【0105】
交差検証スコア計算部130は、当該データを受け取り、T2で任意の方法で教師データT3と検証データT4に分割する。
【0106】
ここで、「任意の方法」の例としては、ホールドアウト法、k-分割法、leave-one-out法などが挙げられる。以下でも同様である。
【0107】
作成された教師データT3は、交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135に送られる。
【0108】
交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135では、T8で、予め用意している積算発育速度を算出するための複数の式中から特定の1つの式を選び、かつ、当該1つの式中の全てのパラメータを特定の値にする。
【0109】
T5で、前記パラメータ及び教師データT3に基づき、前記積算発育速度を算出するための特定の1つの式を用いて積算発育速度を算出する。
【0110】
T6で、T5で算出された積算発育速度を用意されている複数の損失関数のうち特定の1つに代入し、損失の値を算出する。
【0111】
T7で、積算発育速度の算出に使用された、積算発育速度を算出するための式、当該1つの式中の全てのパラメータの特定の値、代入に用いられた損失関数、及び損失の値を蓄積する。
【0112】
上記の、T8→T5→T6→T7→T8・・・の操作を、積算発育速度を算出するための式、当該1つの式中の全てのパラメータの特定の値の組、及び代入に用いる損失関数のうち少なくとも1つを変更した上で、予め決められた所定の条件が満たされるまで繰り返す。
【0113】
所定条件としては、例えば、機械学習を行う前に設定された、一定の繰り返し回数が挙げられる。以下、本明細書では、処理の繰り返しにおいては、明示の記載が無い限り、同様である。但し、それぞれの処理の繰り返しごとに、所定条件は異なり得る。
【0114】
上記の、予め決められた所定の条件が満たされた後に、T7で蓄積されたデータをT9に送り、教師データT3に基づき特定の1つの損失関数における損失の値が最小になるパラメータの値の組合せを決定する。
【0115】
T10では、T9で決定したパラメータの値の組合せを用いて、検証データT4に基づき、交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135での推定精度の検証が行われる。
【0116】
T11では、上記で用いた、積算発育速度を算出するための特定の1つの式及び損失関数の組合せごとに、検証結果を蓄積する。
【0117】
T2、T5、T6、T7、T8、T9、T10、T11に示された動作は、予め決められた所定の条件が満たされるまで繰り返される。繰り返しの度に、T9で使用される損失関数は変更され得る。
【0118】
上記の繰り返しにおいては、予め用意された複数の積算発育速度を算出するための式、及び複数の損失関数の全ての組合せに対してT11での検証結果の蓄積が行われるまで処理を繰り返してもよい。
【0119】
処理の流れの構造としては、T2→T5→T6→T7→T8→T5→T6→T7→T9→T10→T11→T2・・・というループの中に、T5→T6→T7→T8→T5・・・というループが存在し、いずれのループも所定の回数繰り返される、2重ループ構造となる。
【0120】
T12では、T16で蓄積された検証結果を統合し、スコアが最良の積算発育速度を算出するための特定の1つの式及び損失関数を選択する。
【0121】
[生育予測実行時]
T13で、T12で選択した積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の全てのパラメータの特定の値を選択する。
【0122】
T13で選択された全てのパラメータの特定の値及び当該パラメータが用いられる積算発育速度を算出するための特定の1つの式がT14に送られるのと同時に、T1からT14に生物の観測データ170と気象観測データ180が送られる。
【0123】
T14では、T13で選択したパラメータの特定の値と、T1から受け取った観測データに基づき、T12で選択した積算発育速度を算出するための特定の1つの式を用いて積算発育速度を算出する。
【0124】
T15で、算出された積算発育速度を、T12で選択した損失関数に代入し、損失の値を算出する。
【0125】
T16で、積算発育速度の算出に使用された、積算発育速度を算出するための式中の全てのパラメータの特定の値、及び損失の値を蓄積する。
【0126】
上記の、T13→T14→T15→T16→T13・・・の操作を、積算発育速度を算出するための式中の全てのパラメータの特定の値を変更した上で、予め決められた所定の条件が満たされるまで繰り返す。
【0127】
T17で、T12で選択した損失関数における損失の値が最小になる、T12で選択した特定の1つの積算発育速度を算出するための式中のパラメータの値の組合せを決定する。
【0128】
T18では、T12で選択した積算発育速度を算出するための式及びT17で決定したパラメータの値の組合せを出力し、出力したものを使うことで生育予測が実行できる。
【0129】
図10に、計算部120が図2に示した方法2に対応する処理を実行する場合について、交差検証スコア計算部130、交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135、パラメータ推定部140、生物の観測データ170、気象観測データ180の機能及び連関、その結果としての出力を示す。
【0130】
[機械学習時]
図10において、T21で、入力として、生物の観測データ170と気象観測データ180が与えられる。
【0131】
交差検証スコア計算部130は、当該データを受け取り、T22で任意の方法で教師データT23と検証データT24に分割する。
【0132】
作成された教師データT23は、交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135に送られる。
【0133】
交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135では、T30で、予め用意している積算発育速度を算出するための複数の式中から特定の1つの式を選び、当該1つの式中の係数の値は固定し、係数以外の全てのパラメータを特定の値にする。
【0134】
T25で、前記パラメータ及び教師データT23に基づき、前記積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の上記固定した係数の逆数の推定値を算出する。
【0135】
T26で、前記推定値の平均値又は中央値を、当該係数の逆数として固定する。
【0136】
T27で、算出した係数の逆数の推定値を、当該係数で除算することにより、特定の値にされた係数以外の全てのパラメータの値の組合せのうちの1つの組合せにおける積算発育速度を算出する。
【0137】
T28で、上記で算出された積算発育速度を、予め用意された複数の損失関数のうち特定の1つの損失関数に代入し、損失の値を算出する。
【0138】
T29で、上記の、積算発育速度を算出するための特定の1つの式、当該1つの式中の係数以外の全てのパラメータ、代入に用いられた損失関数、損失の値を蓄積する。
【0139】
予め用意している全ての積算発育速度を算出するための式及び当該式中の係数以外の全てのパラメータが取り得る所定の値に対して、上記の固定した係数の逆数の推定値を用いて、上記のT30→T25→T26→T27→T28→T29の操作を行う。
【0140】
上記の、積算発育速度を算出するための特定の1つの式、当該1つの式中の係数以外の全てのパラメータ、代入に用いられた損失関数のうち少なくとも一つを変更し、T30→T25→T26→T27→T28→T29→T30・・・の操作を予め決められた所定の条件が満たされるまで繰り返す。
【0141】
上記の、予め決められた所定の条件が満たされた後に、T29で蓄積されたデータをT31に送り、教師データT23に基づきT28で用いられた特定の1つの損失関数における損失の値が最小になるパラメータの値の組合せを決定する。
【0142】
T32では、T31で決定したパラメータの値の組合せを用いて、検証データT24に基づき、交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135での推定精度の検証が行われる。
【0143】
T33では、上記で用いた、積算発育速度を算出するための特定の1つの式及び損失関数の組合せごとに、T32での検証結果を蓄積する。
【0144】
T22、T25、T26、T27、T28、T29、T30、T31、T32、T33に示された動作は、予め決められた所定の条件が満たされるまで繰り返される。繰り返しの度に、T28で使用される損失関数は変更され得る。
【0145】
上記の繰り返しにおいては、予め用意された複数の積算発育速度を算出するための式、及び複数の損失関数の全ての組合せに対してT33での検証結果の蓄積が行われるまで処理を繰り返してもよい。
【0146】
処理の流れの構造としては、T22→T25→T26→T27→T28→T29→T30→T25→T26→T27→T28→T29→T31→T32→T33→T22・・・というループの中に、T25→T26→T27→T28→T29→T30→T25・・・というループが存在し、いずれのループも所定回数繰り返される、2重ループ構造となる。
【0147】
T34では、T33で蓄積された検証結果を統合し、スコアが最良の積算発育速度を算出するための特定の1つの式及び損失関数を選択する。
【0148】
[生育予測実行時]
T35で、T34で選択した積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の、係数を除く全てのパラメータについて特定の値を選択する。
【0149】
T35で選択された全てのパラメータの特定の値及び当該パラメータが用いられる積算発育速度を算出するための特定の1つの式がT36に送られるのと同時に、T21からT36に生物の観測データ170と気象観測データ180が送られる。
【0150】
T36で、T35で選択したパラメータの特定の値と、T21から受け取った観測データに基づき、T34で選択した積算発育速度を算出するための特定の1つの式を用いて当該式中の係数の逆数の推定値を算出する。
【0151】
T37で、T36で算出された推定値の平均値又は中央値を、T36で用いられた積算発育速度を算出するための特定の1つの式の係数の逆数として固定する。
【0152】
T38で、T37で固定した係数の逆数を、当該係数で除算し、特定の値にされた係数以外の全てのパラメータの値の組合せのうちの1つの組合せにおける積算発育速度を算出する。
【0153】
T39で、算出された積算発育速度を、T34で選択した損失関数に代入し、損失の値を算出する。
【0154】
T40で、積算発育速度の算出に使用された、積算発育速度を算出するための式中のパラメータの値の組合せ、及び損失の値を蓄積する。
【0155】
上記の、T35→T36→T37→T38→T39→T40→T35・・・の操作を、積算発育速度を算出するための式中の全てのパラメータの特定の値を変更した上で、予め決められた所定の条件が満たされるまで繰り返す。
【0156】
T41で、T40で蓄積された損失の値に基づき、T34で選択した損失関数における損失の値が最小になる、T34で選択した積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の、係数を除く全てのパラメータの値の組合せを決定する。
【0157】
T42で、決定された積算発育速度を算出するための式及びパラメータの値の組合せを出力し、出力したものを使うことで生育予測が実行できる。
【0158】
図11に、計算部120が図3に示した方法3に対応する処理を実行する場合について、図10の一部でもあるパラメータ推定部140、生物の観測データ170、気象観測データ180の機能及び連関、その結果としての出力を示す。
【0159】
図10に示した処理の結果算出された、積算発育速度の算出に適した積算発育速度を算出するための式及びパラメータの値の組合せが図10におけるパラメータ推定部140のT41から図11の最適化手法実行部150のT43に送られる。
【0160】
図10のT34で選択された損失関数もT43に送られる。
【0161】
最適化手法実行部150での最適化手法の実行時には、T43で、受け取ったパラメータの値の組合せが初期値とされる。
【0162】
パラメータ推定部140のT41から受け取った積算発育速度を算出するための式及び損失関数、T45の生物の観測データ170、気象観測データ180を用いて、当該損失関数を最小化する最適化手法がT44で実行される。ここで、T45の生物の観測データ170及び気象観測データ180はT21で入力として与えられた、生物の観測データ170及び気象観測データ180と同一である。
【0163】
T46で、損失関数を最小化するパラメータの値の組合せが決定される。
【0164】
T47で、当該パラメータの値の組合せ、及びパラメータ推定部140のT41から受け取った積算発育速度を算出するための式を出力し、出力したものを使うことで、生育予測が実行できる。
【0165】
図12に、計算部120が図5に示した方法5に対応する処理を実行する場合について、パラメータ推定部140、交差検証スコア計算部130、生物の観測データ170、気象観測データ180の機能及び連関、その結果としての出力を示す。
【0166】
[機械学習時]
図12において、T51で、入力として、生物の観測データ170と気象観測データ180が与えられる。
【0167】
交差検証スコア計算部130は、当該データを受け取り、T52で任意の方法で教師データT53と検証データT54に分割する。
【0168】
作成された教師データT53は、交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135に送られる。
【0169】
交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135では、T55で、予め用意している積算発育速度を算出するための複数の式中から特定の1つの式を選び、パラメータの値の組合せを任意の方法で特定の値にしたものを生成する。
【0170】
T56で、前記積算発育速度を算出するための式、パラメータの値の組合せ及び教師データT53に基づき、予め用意された損失関数のうち特定の1つの損失関数を最小化する最適化手法を実行する。
【0171】
T57で、教師データT53に基づき、上記の損失関数における損失の値を最小化したパラメータの値の組合せを決定する。
【0172】
T57では、T56で使用した積算発育速度を算出するための式、T56で使用した損失関数、及びT57で決定したパラメータの値の組合せを蓄積してもよい。
【0173】
上記の、積算発育速度を算出するための特定の1つの式、当該1つの式中の全てのパラメータ、代入に用いられた損失関数のうち少なくとも一つを変更し、T55→T56→T57→T55・・・・の操作を予め決められた所定の条件が満たされるまで繰り返してもよい。
【0174】
T57で決定された積算発育速度を算出するための式、損失関数、パラメータの値の組合せはT58に送られる。T57で積算発育速度を算出するための式、損失関数、パラメータの値の組合せが蓄積されている場合には、蓄積されたデータ全てがT58に送られる。
【0175】
T58では、受け取ったパラメータの値の組合せなど及び検証データT54から、交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部135での予測精度の検証が行われる。
【0176】
T59では、積算発育速度を算出するための式及び損失関数の組合せごとにT58の検証結果が蓄積される。
【0177】
T52、T55、T56、T57、T58、T59に示された動作は、予め決められた所定の条件が満たされるまで繰り返される。
【0178】
上記の繰り返しにおいては、予め用意された複数の積算発育速度を算出するための式、及び複数の損失関数の全ての組合せに対してT59での検証結果の蓄積が行われるまで処理を繰り返してもよい。
【0179】
処理の流れの構造としては、T52→T55→T56→T57→T55→T56→→T57→T58→T59→T52・・・という所定の回数繰り返されるループの中に、T55→T56→T57→T55・・・という所定の回数繰り返され得るループが存在する、2重ループ構造となる。
【0180】
T60では、T59で蓄積された検証結果を統合し、スコアが最良の積算発育速度を算出するための特定の1つの式及び損失関数を選択する。
【0181】
[生育予測実行時]
T61で、T60で選択した積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の全てのパラメータについて任意の方法で特定の値を選択する。
【0182】
T61で選択された全てのパラメータの特定の値及び当該パラメータが用いられる積算発育速度を算出するための特定の1つの式がT62に送られるのと同時に、T51からT62に生物の観測データ170と気象観測データ180が送られる。
【0183】
T62で、T60で選択した積算発育速度を算出するための特定の1つの式中の全てのパラメータと、当該1つの式、及びT51から受け取った観測データを基に、T60で選択した損失関数を最小化する最適化手法を実行する。
【0184】
T63では、T60で選択した損失関数を最小化した上記パラメータの値の組合せを決定する。
【0185】
T64で、上記積算発育速度を算出するための式及びパラメータの値の組合せを出力し、出力したものを使うことで生育予測が実行できる。
【0186】
図13は、2011年に、方法1、方法2、方法3のそれぞれを用いて、フタオビコヤガ雄成虫の羽化推定日を算出した結果を示している。
【0187】
比較対象として、フェロモントラップ調査におけるフタオビコヤガ雄成虫の誘殺消長の実測値と、飼育による従来の生育予測法による値が示されている。
【0188】
図から、多くの場合において方法1、方法2、方法3のそれぞれは飼育による従来法より実測値に近い値を算出し、従来法に対し優位性を示している。
【0189】
本発明は、野外観測データを活用した農業害虫の生育予測パラメータの決定を可能にし、決定したパラメータに基づいた農薬散布等の防除適期診断の予測に利用される。本発明は、室内飼育が困難な生物種に対しても適用可能であり、生育予測パラメータ決定手法の新しい選択肢となる。本発明に利用するデータセットは、逐次、追加・削除でき、地域ごとの野外観測データからパラメータを決定できるため、室内試験に依存した従来技術に比較して生育予測パラメータの対応力と害虫発生時期の予測精度の高度化をもたらす。また、本発明は、害虫などの昆虫の発生時期予測だけでなく、果樹や稲などの植物の生育予測のためのパラメータの決定にも利用できる。
【符号の説明】
【0190】
100 生育予測装置
110 通信部
120 計算部
130 交差検証スコア計算部
135 交差検証スコア計算部内のパラメータ推定部
140 パラメータ推定部
150 最適化手法実行部
160 記憶部
170 生物の観測データ
180 気象観測データ
190 生育予測プログラム
300 公衆回線網
500 ユーザ端末
510 操作部
520 提示部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13