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特許7555194天ぷら用衣組成物、冷凍天ぷら、および天ぷらの製造方法、並びに、前記天ぷら用衣組成物を用いた衣の白化抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】天ぷら用衣組成物、冷凍天ぷら、および天ぷらの製造方法、並びに、前記天ぷら用衣組成物を用いた衣の白化抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20240913BHJP
   A23L 29/219 20160101ALI20240913BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240913BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L29/219
A23L5/10 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020049671
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021145624
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 瑞葉
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 正二郎
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-131109(JP,A)
【文献】特開2019-041717(JP,A)
【文献】特開2000-125794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)小麦粉と、
(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチのいずれかを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉:5~15質量%と、
(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉のいずれかの未加工澱粉、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉のいずれかを原料とする漂白澱粉、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉のいずれかを原料とするエーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉:1~20質量%と、
を含有する、冷凍天ぷら用衣組成物。
【請求項2】
前記(b)酸化澱粉および前記(c)澱粉の配合比が、前記(b)酸化澱粉:前記(c)澱粉=1:0.2~2である、請求項1に記載の冷凍天ぷら用衣組成物。
【請求項3】
前記(b)酸化澱粉および前記(c)澱粉を、合計で6~30質量%含有する、請求項1または2に記載の冷凍天ぷら用衣組成物。
【請求項4】
前記(b)酸化澱粉がサゴ澱粉を原料とする酸化澱粉である、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷凍天ぷら用衣組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の冷凍天ぷら用衣組成物を用いた、冷凍天ぷら。
【請求項6】
請求項5に記載の冷凍天ぷらを再加熱または解凍する工程を含む、天ぷらの製造方法。
【請求項7】
冷凍天ぷらの衣の白化を抑制する方法であって、
(a)小麦粉と、
(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチのいずれかを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉:5~15質量%と、
(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉のいずれかの未加工澱粉、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉のいずれかを原料とする漂白澱粉、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉のいずれかを原料とするエーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉:1~20質量%と、
を含有する、天ぷら用衣組成物を用いて衣を調製する工程を含む、衣の白化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天ぷら用衣組成物に関する。より詳しくは、冷凍時の衣の白化の抑制を実現し得る天ぷら用衣組成物、冷凍天ぷら、および天ぷらの製造方法、並びに、前記天ぷら用衣組成物を用いた衣の白化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天ぷらの外観や食感等を向上させる技術として、酸化澱粉を用いた天ぷら用衣組成物に関する技術が開発されている。例えば、特許文献1には、揚げ物用衣材の原料として、小麦粉(A)と、カルボキシル基含量0.1~1.1%である酸化澱粉(B)と、加熱溶解度が3~40%である膨潤抑制澱粉(C)とを、小麦粉(A)と、酸化澱粉(B)及び膨潤抑制澱粉(C)との質量比が10:90~60:40で、酸化澱粉(B)と、膨潤抑制澱粉(C)との質量比が15:85~35:65となるように含有させることで、サク味に優れ、歯切れがよく、油っぽさが少ない衣を形成することができる技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、酸化澱粉およびワキシー澱粉を含有することで、べとつきがなく、歯もろさ及びソフトさに優れていて、しかも口溶けの良好な、食感に優れた衣を有するテンプラ等の揚げ物をつくることができる揚げ物用衣組成物が開示されている。
【0004】
また、油ちょうした天ぷらを冷凍保存し、喫食前に再加熱または解凍して食される冷凍天ぷらの外観等を向上させる技術も開発されている。例えば、特許文献3には、トレハロースと、α化穀粉及び/又はα化澱粉と、水溶性蛋白質とを含有することにより、冷凍保存中に冷凍焼けによる変質(外観の白化や食感の劣化等)が生じにくく、再油ちょうしても外観と食感が良好な冷凍天ぷらを製造することができる、冷凍天ぷら用バッターミックスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-254785号公報
【文献】特開平8-131109号公報
【文献】国際公開第2016-136582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、天ぷら調理の簡便化を目的に、冷凍天ぷらがスーパーマーケットのバックヤード等で再加熱され、惣菜コーナー等に置かれたバットや皿等に並べて販売されることや、飲食店等で再加熱され、顧客へ提供されることに注目した。それらの場合、外観が売り上げに大きく寄与するため、外観に優れた天ぷらを製造することが大変重要である。また、スーパーマーケット等で購入した天ぷらを喫食するタイミングは、家に持ち帰った後のため、再加熱から時間が経過しても味や食感に優れた天ぷらを製造することが大変重要である。
【0007】
更に、冷凍天ぷらは、冷凍保管中に、部分的に衣が白っぽくなる現象(白化)が起こる場合があり、再加熱するとより白化が強調され、外観が損なわれる。加えて、油ちょう後に冷凍工程を経て製造された天ぷらは、冷凍していない天ぷらに比べ、時間が経った際の衣の食感が劣る場合がある。特許文献3のように、外観と食感を向上させる技術は存在するものの、更なる技術の向上が期待されているのが実情である。
【0008】
そこで、本技術では、冷凍天ぷらの衣の白化を抑制し、かつ、油ちょう後に冷凍工程を経た天ぷらの衣の歯切れを時間が経過しても良好に維持する技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、冷凍天ぷらの衣の白化を抑制し、かつ、油ちょう後に冷凍工程を経た天ぷらの衣の歯切れを時間が経過しても良好に維持する技術について鋭意研究を行った結果、天ぷら用衣組成物に、特定の澱粉を特定の量配合することにより、冷凍天ぷらの衣の白化抑制と油ちょう後に冷凍工程を経た天ぷらの衣の良好な歯切れを両立することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本技術では、まず、(a)小麦粉と、
(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉:5~15質量%と、
(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉:1~20質量%と、
を含有する、天ぷら用衣組成物を提供する。
本技術に係る天ぷら用衣組成物において、前記(b)酸化澱粉および前記(c)澱粉の配合比は、前記(b)酸化澱粉:前記(c)澱粉=1:0.2~2とすることができる。
また、本技術に係る天ぷら用衣組成物には、前記(b)酸化澱粉および前記(c)澱粉を、合計で6~30質量%含有させる。
本技術に係る天ぷら用衣組成物に使用する前記(b)酸化澱粉は、サゴ澱粉を原料とする酸化澱粉を選択することができる。
【0011】
本技術では、次に、本技術に係る天ぷら用衣組成物を用いた、冷凍天ぷらを提供する。
本技術では、また、本技術に係る冷凍天ぷらを再加熱または解凍する工程を含む、天ぷらの製造方法を提供する。
【0012】
本技術では、更に、冷凍天ぷらの衣の白化を抑制する方法であって、
(a)小麦粉と、
(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉:5~15質量%と、
(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉:1~20質量%と、
を含有する、天ぷら用衣組成物を用いて衣を調製する工程を含む、衣の白化抑制方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本技術によれば、冷凍天ぷらの衣の白化を抑制し、かつ、油ちょう後に冷凍工程を経た天ぷらの衣の歯切れを時間が経過しても良好に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
<天ぷら用衣組成物>
本技術に係る天ぷら用衣組成物は、(a)小麦粉と、(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉と、(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉と、を含有する。以下、各成分および特性について詳細に説明する。
【0016】
(a)小麦粉
本技術に係る天ぷら用衣組成物に用いる小麦粉は、一般的な天ぷら粉に用いることができる小麦粉を自由に選択して用いることができる。例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等およびそれらの加熱処理粉が挙げられる。
【0017】
本技術に係る天ぷら用衣組成物中の小麦粉の含有量は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができる。例えば、本技術に係る天ぷら用衣組成物中の小麦粉の含有量を、50~94質量%に設定することができるが、好ましくは60~94質量%、より好ましくは70~90質量%、さらに好ましくは80~90質量%である。
【0018】
(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉
本技術に係る天ぷら用衣組成物では、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉を用いることを特徴とする。酸化澱粉は、澱粉を次亜塩素酸塩、さらし粉、過酸化水素、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤を用いて酸化することにより得られる澱粉である。本技術では、酸化方法は特に限定されず、本技術の効果を損なわない限り、あらゆる酸化方法によって製造された澱粉を自由に選択して用いることができる。
【0019】
また、本技術に係る天ぷら用衣組成物では、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉を、本技術に係る天ぷら用衣組成物中に、5~15質量%含有することを特徴とする。本技術に係る天ぷら用衣組成物中の、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉の含有量は、5~15質量%の範囲内であれば自由に設定することができるが、好ましくは8~15質量%、より好ましくは8~12.5質量%である。
【0020】
本技術に係る天ぷら用衣組成物では、冷凍天ぷらの衣の白化抑制および油ちょう後に冷凍工程を経た天ぷらの衣の食感低下防止の観点から、(b)酸化澱粉として、サゴ澱粉および/またはワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉を用いることが好ましく、サゴ澱粉を原料とする酸化澱粉を用いることがより好ましい。
【0021】
(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉
本技術に係る天ぷら用衣組成物では、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉を用いることを特徴とする。漂白澱粉は、化学修飾を行うことなく、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤等で処理して、色素成分を酸化等することにより、澱粉の色素が調整された加工澱粉である。本技術では、漂白方法は特に限定されず、本技術の効果を損なわない限り、あらゆる漂白方法を用いて漂白された澱粉を自由に選択して用いることができる。エーテル化澱粉は、澱粉分子間のいくつかの水酸基が官能基でエーテル化されている加工澱粉である。本技術では、エーテル化に用いる官能基も本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、一般的なエーテル化澱粉に用いる官能基でエーテル化された澱粉を自由に選択して用いることができる。また、他の加工と組み合わせた加工澱粉でもよく、例えば、架橋処理と組み合わせても良い。架橋処理は、澱粉原料に従来公知の架橋剤、例えば、トリメタリン酸塩、オキシ塩化リン、アジピン酸等を作用させて分子間、および/または分子内に官能基をブリッジ状に導入させる処理である。本技術に係るエーテル化澱粉は、ヒドロキシプロピル化澱粉またはヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が好ましく、ヒドロキシプロピル化澱粉がより好ましい。
【0022】
また、本技術に係る天ぷら用衣組成物では、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉を、本技術に係る天ぷら用衣組成物中に、1~20質量%含有することを特徴とする。本技術に係る天ぷら用衣組成物中のタピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉の含有量は、1~20質量%の範囲内であれば自由に設定することができるが、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~10質量%、さらに好ましくは2~5質量%である。
【0023】
本技術に係る天ぷら用衣組成物では、冷凍天ぷらの衣の白化抑制および油ちょう後に冷凍工程を経た天ぷらの衣の食感低下防止の観点から、(c)澱粉として、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチおよびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉を用いることが好ましく、ワキシーコーンスターチおよびその漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉を用いることがより好ましく、ワキシーコーンスターチおよび/またはその漂白澱粉を用いることがさらに好ましい。漂白澱粉は、化学修飾されていないため、未加工澱粉と同様の効果が期待できる。
【0024】
以上説明した(b)酸化澱粉および(c)澱粉の配合比は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、自由に設定することができる。本技術では特に、(b)酸化澱粉および(c)澱粉の配合比を、冷凍天ぷらの衣の白化抑制および油ちょう後に冷凍工程を経た天ぷらの衣の食感低下防止の観点から、(b)酸化澱粉:(c)澱粉=1:0.2~2の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは1:0.25~1、さらに好ましくは1:0.25~0.5である。
【0025】
また、(b)酸化澱粉および(c)澱粉の合計含有量も、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、自由に設定することができる。本技術では特に、(b)酸化澱粉および(c)澱粉の合計含有量を、冷凍天ぷらの衣の白化抑制および油ちょう後に冷凍工程を経た天ぷらの衣の食感低下防止の観点から、本技術に係る天ぷら用衣組成物中に、6~30質量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは8~20質量%、さらに好ましくは10~15質量%である。
【0026】
(d)その他
本技術に係る天ぷら用衣組成物は、前述した(a)小麦粉、(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉、(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉の他に、一般的な天ぷら用衣組成物に用いられている材料や食品添加物を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、ライ麦粉、大麦粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉等の穀粉類(加熱処理したものを含む/(a)小麦粉を除く);澱粉類(加工澱粉類を含む/(b)酸化澱粉および(c)澱粉を除く);大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳等の蛋白素材;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトース、糖アルコール等の糖質類;食塩、炭酸カルシウム等の無機塩類;膨張剤、増粘剤、乳化剤、酵素製剤、pH調整剤、甘味料、香辛料、調味料、色素、香料等を適宜含有させることができる。
【0027】
本技術に係る天ぷら用衣組成物は、少なくとも前述した(a)小麦粉、(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉、(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉と、前記材料や食品添加物とを混合して得られる、粉粒体として流通させる形態を採用することができる。また、本技術に係る天ぷら用衣組成物に水等を混合したバッターを冷蔵、冷凍で流通させることもできる。
【0028】
<冷凍天ぷら>
本技術に係る冷凍天ぷらは、前述した天ぷら用衣組成物を用いることを特徴とする。冷凍天ぷらの製造方法は、特に限定されず、例えば、前述した天ぷら用衣組成物に水等を適量加えてバッターを調製し、バッターを具材に付着させ、油ちょうして天ぷらを得、その後冷凍することにより得られる。一般的に天ぷらでは、ボリュームがあり見栄えがよい外観にするために、適度に花チリ(「花咲き」ともいわれる細かい凹凸の針状の衣)を付ける場合がある。花チリをつけるためには、具材にバッターを付着させたものを油中に投入した後、追いダネと呼ばれるバッターを追加して投入する。通常、花チリをつけた冷凍天ぷらの衣は、表面積が大きくなるため冷凍保管中の変化が起こりやすく、白化も起こりやすい。本技術に係る冷凍天ぷらは、前述した天ぷら用衣組成物を追いダネに用いていることが好ましい。なお、前述した天ぷら用衣組成物を追いダネのみに用いることもできる。本技術に係る冷凍天ぷらの具材としては、特に限定されず、エビ、イカ、キス、穴子等の魚介類;ちくわ等の水産物加工品;さつまいも、玉ねぎ、人参、かぼちゃ、しし唐、茸等の野菜類;鶏肉、豚肉等の畜肉類等が挙げられる。また、それらの1種または2種以上の具材からなるかき揚げも含む。好ましくは、花チリをつけることが一般的であるエビ、イカ、キス、穴子等の魚介類である。油ちょうした天ぷらは、急速凍結または緩慢凍結により冷凍するが、好ましくは急速凍結である。凍結した天ぷらは、通常の手段で冷凍保管する。
【0029】
<天ぷらの製造方法>
本技術に係る天ぷらは、前述した冷凍天ぷらを用いて製造される。前述の天ぷら用衣組成物を用いているため、衣の白化も抑制され、時間が経過した後の衣の歯切れも良好になる。本技術に係る天ぷらの製造方法は、前述した冷凍天ぷらを再加熱または解凍する工程を含むことが好ましく、再加熱する工程を含むことがより好ましい。再加熱方法としては特に限定されず、例えば油ちょうまたは過熱水蒸気調理、オーブン等での乾熱調理、マイクロ波加熱調理(電子レンジ調理)等が挙げられる。天ぷらの衣の歯切れを良好にするため、好ましくは、油ちょうまたは過熱水蒸気調理、オーブン等での乾熱調理であり、より好ましくは、油ちょうまたはオーブン等での乾熱調理による加熱であり、さらに好ましくは油ちょうである。
【0030】
<衣の白化抑制方法>
本技術に係る衣の白化抑制方法は、前述した天ぷら用衣組成物を用いて衣を調製する工程を含むことを特徴とする。より具体的には、前述した天ぷら用衣組成物に、水等を適量加えてバッターを調製し、具材に付着させるおよび/または追いダネで利用する。好ましくは追いダネに利用する。なお、追いダネでのみ利用してもよい。本技術に係る衣の白化抑制方法は、冷凍天ぷらの製造工程の一工程として用いることができる。本技術に係る衣の白化抑制方法を用いて製造された天ぷらは、衣の白化の抑制はもちろんのこと、時間が経過した後の衣の歯切れも良好になる。
【実施例
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0032】
なお、各表中の澱粉は、下記の表1に示す澱粉を用いた。
【表1】
【0033】
<実験例1>
実験例1では、澱粉の種類や加工方法の違いによる、冷凍天ぷらの衣の白化および冷凍工程を経た天ぷらの衣の食感への影響を調べた。
【0034】
(1)冷凍天ぷらの製造
下記表2および表3に示す材料中、水以外を混合し、天ぷら用衣組成物を調製した。調製した各天ぷら用衣組成物に、表2および表3に示す割合で水を混合し、バッターを調製した。約17g/尾のえび(26/30サイズ)に、各天ぷら用衣組成物を打ち粉としてまぶした後、各バッターを付着させて175℃の油中に投入した。その後、大さじ1杯(約13g)の追いダネを行い、1分30秒間油ちょうした。放冷後、-40℃で1時間急速凍結し、冷凍天ぷらを製造した。
【0035】
(2)天ぷらの製造
前記で製造した各冷凍天ぷらを、-25℃で30日間冷凍保管した。冷凍保管した天ぷらを、175℃で3分間再油ちょうし、天ぷらを製造した。
【0036】
(3)評価
前記で製造した直後の外観と食感、および、室温保管3時間後の食感を、訓練を受けた専門のパネル10名が下記の評価基準に基づき評価を行った。
【0037】
[外観]パネル10名の合議により、1点から5点の評価基準で、0.5点刻みの9段階で評価し、点数を決定した。
5 白化がみられず、見栄えが非常に良い
4 白化がほとんどみられず、見栄えが良い
3 白化がややみられるが、見栄えは許容範囲
2 白化がみられ、見栄えが悪い
1 白化が顕著にみられ、見栄えが非常に悪い
【0038】
[食感]パネル10名の平均点を評価点とした。
5 サクミを強く感じ、非常に歯切れが良い
4 サクミを感じ、歯切れが良い
3 ややサクミを感じ、歯切れがやや良い
2 ややガリガリとした食感又はやややわらかい食感で、歯切れがやや悪い
1 ガリガリとした食感又はやわらかい食感で、歯切れが悪い
【0039】
(4)結果
評価結果を下記表2および表3に示す。
【表2】

【表3】
【0040】
(5)考察
表2および表3に示す通り、(a)小麦粉、(b)タピオカ澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチを原料とする酸化澱粉から選択される1以上の酸化澱粉:5~15質量%と、(c)タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉およびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉:1~20質量%を含むミックスを用いた試験例1~6は、再油ちょう直後の外観、食感、および3時間後の食感の全てにおいて、良好な結果であった。
【0041】
A群から酸化サゴ澱粉を採用し、B群から澱粉を採用しなかった試験例7は、衣の白化を防止することができなかった。また、A群から澱粉を採用せず、B群からワキシーコーンスターチを採用した試験例12は、衣の白化は防止できたものの、再油ちょう3時間後の食感が劣る結果であった。
【0042】
また、A群から酸化サゴ澱粉を採用した場合でも、B群からコーンスターチを採用した試験例8は、衣の白化を防止することができなかった。また、B群からリン酸架橋タピオカ澱粉を用いた試験例9、および、アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉を用いた試験例11は、衣の白化を防止することができず、また、再油ちょう3時間後の食感も劣る結果であった。さらに、B群からアセチル化タピオカ澱粉を用いた試験例10は、衣の白化は防止できたものの、再油ちょう3時間後の食感が劣る結果であった。
【0043】
一方、B群からワキシーコーンスターチを採用した場合でも、A群から酸化コーンスターチを採用した試験例13、および、酸化馬鈴薯澱粉を採用した試験例14は、衣の白化は防止できたものの、再油ちょう3時間後の食感が劣る結果であった。
【0044】
試験例1~6の中で比較すると、A群から酸化サゴ澱粉を採用した試験例1が、酸化タピオカ澱粉を採用した試験例5、酸化ワキシーコーンスターチを採用した試験例6に比べて、再油ちょう直後の外観、および3時間後の食感において、良好な結果であった。これらの結果から、(b)酸化澱粉が、サゴ澱粉を原料とする酸化澱粉であることが好ましいことが分かった。
【0045】
また、B群からワキシーコーンスターチを採用した試験例1が、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋ワキシーコーンスターチを採用した試験例3に比べて、再油ちょう直後の外観、および3時間後の食感において、良好な結果であった。さらに、試験例1が、ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉を採用した試験例4に比べて、再油ちょう3時間後の食感において、良好な結果であった。これらの結果から、(c)澱粉が未加工澱粉であることが好ましいことが分かった。また、化学修飾されていない漂白澱粉も好ましいと推測される。試験例1および試験例4が、B群から漂白ワキシー馬鈴薯澱粉を採用した試験例2に比べて、再油ちょう直後の外観、および3時間後の食感において、良好な結果であった。これらの結果から、(c)澱粉がタピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチおよびそれらの漂白澱粉、エーテル化澱粉から選択される1以上の澱粉であることが好ましいことが分かった。
【0046】
<実験例2>
実験例2では、(b)酸化澱粉、および(c)澱粉の好ましい含有量について、検討を行った。
【0047】
(1)冷凍天ぷらの製造
下記表4に示す材料を用いて、前記実験例1と同様の方法で、冷凍天ぷらを製造した。
【0048】
(2)天ぷらの製造
前記実験例1と同様の方法で、天ぷらを製造した。
【0049】
(3)評価
前記実験例1と同様の方法で、評価を行った。
【0050】
(4)結果
評価結果を下記表4に示す。
【表4】
【0051】
(5)考察
表4に示す通り、試験例1、15~21は、再油ちょう直後の外観、食感、および3時間後の食感の全てにおいて、本発明の効果を満たす結果であった。
【0052】
(b)酸化澱粉および(c)澱粉の配合比に着目すると、(b)酸化澱粉:(c)澱粉=1:0.17の試験例20に比べて、(b)酸化澱粉:(c)澱粉=1:0.2の試験例16の方が、油ちょう直後の外観が良好であり、更に、(b)酸化澱粉:(c)澱粉=1:0.25の試験例21の方が、再油ちょう直後の外観が良好な結果であった。これらの結果から、(b)酸化澱粉を1とした場合に、(c)澱粉の下限値は0.2であることが好ましく、0.25とすることがより好ましいことが分かった。
【0053】
また、(b)酸化澱粉:(c)澱粉=1:2の試験例15に比べて、(b)酸化澱粉:(c)澱粉=1:1の試験例19の方が、3時間後の食感が良好であり、更に、(b)酸化澱粉:(c)澱粉=1:0.5の試験例1の方が、3時間後の食感が良好な結果であった。これらの結果から、(b)酸化澱粉を1とした場合に、(c)澱粉の上限値は1であることが好ましく、0.5とすることがより好ましいことが分かった。
【0054】
(b)酸化澱粉および(c)澱粉の合計量に着目すると、合計で6質量%含有する試験例17に比べて、合計で10質量%含有する試験例21の方が、3時間後の食感が良好な結果であった。この結果から、(b)酸化澱粉および前記(c)澱粉の合計量の下限値は、10質量%とすることが好ましいことが分かった。
【0055】
また、合計で30質量%含有する試験例18に比べて、合計で20質量%含有する試験例19の方が、3時間後の食感が良好であり、更に、合計で15質量%含有する試験例1の方が、3時間後の食感が良好な結果であった。これらの結果から、(b)酸化澱粉および(c)澱粉の合計量の上限値は、20質量%とすることが好ましく、15質量%とすることがより好ましいことが分かった。