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特許7555320円形加速器、粒子線治療システム、およびイオン源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】円形加速器、粒子線治療システム、およびイオン源
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/00 20060101AFI20240913BHJP
   H05H 13/04 20060101ALI20240913BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H05H13/00
H05H13/04
A61N5/10 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021155862
(22)【出願日】2021-09-24
(65)【公開番号】P2023046984
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】関 孝義
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-96405(JP,A)
【文献】特開2019-169255(JP,A)
【文献】特表2011-523185(JP,A)
【文献】特開昭55-74050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/00
H05H 7/08
A61N 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する磁極と、
加速電極と、
前記対向する磁極の間に設置されており、周回するイオンビームの中心軸に平行に直線状にイオンを生成する放電室が少なくとも2個以上配置されたイオン源と、を備え、
前記イオン源を前記中心軸に平行な方向に移動させることで少なくとも2個以上の前記放電室のうち、イオンを引き出す前記放電室が選択可能である
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項2】
請求項1に記載の円形加速器において、
前記イオン源の陰極は、少なくとも2個以上の前記放電室で共通の支持具により支持されておりであり、
前記イオン源のうち、動作させる前記放電室にのみ試料ガスを供給する
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の円形加速器において、
前記放電室に試料ガスを供給するガス配管が、少なくとも2個以上の前記放電室で共通であり、
前記放電室が前記中心軸に平行な方向に移動する
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の円形加速器において、
イオンビームの電流を検出する電流モニタを更に備え、
前記電流モニタで検出される電流値の変動に応じて、動作させる前記放電室を切り替える
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の円形加速器において、
前記イオン源は、少なくとも2個以上の前記放電室の前記中心軸の方向の位置を合わせるガイドを有する
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の円形加速器において、
少なくとも2個以上の前記放電室のうち、最も端に配置される前記放電室に、位置合わせピンが設けられる
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の円形加速器において、
前記放電室から前記イオンを引き出す引き出し孔が、前記中心軸に平行に直線状に並んで配置された
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の円形加速器と、
ビーム輸送系と、
照射装置と、
治療台と、を備えた
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項9】
イオンを生成する放電室と、
前記放電室に試料ガスを供給するガス配管と、
前記放電室から前記イオンを引き出す引き出し孔と、を備え、
少なくとも2つ以上の前記放電室が、直線状に並んで配置された
ことを特徴とするイオン源。
【請求項10】
請求項9に記載のイオン源において、
少なくとも2つ以上の前記引き出し孔が、前記直線状に並んで配置された
ことを特徴とするイオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円形加速器やその円形加速器に好適なイオン源、更には粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1に記載の技術がある。
【0003】
特許文献1には、「前記第一内部イオン源(1)と同じ粒子イオンを生成するための第二内部イオン源(2)を含み、さらに前記サイクロトロンは前記第一内部イオン源または前記第二内部イオン源のいずれかによりまたは同時に両イオン源により発生されたエネルギー粒子ビームを発生することができる。」という記載や、「中心垂直軸は、サイクロトロンの中心を通過しかつサイクロトロンの内側の磁場の向きと平行である軸として規定される。別の実施態様によれば、イオン源は中心軸から実質的に同じ距離に、しかし必ずしも中心軸に対して対称的にではなく置かれる。」という記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2011-523185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、サイクロトロン内部にイオン源を周回面内に2個配置して、2個のイオン源を切り換えて使用することで稼働率や信頼性を向上させることが記載されている。
【0006】
しかし特許文献1に記載された技術は、加速ギャップが1個の加速電極を有する円形加速器の場合に適用することが配慮されていない。そのため、例えば、イオン源が周回ビームに干渉して加速器からの出射電流が低下する、あるいは設置が困難であるという問題があった。また、干渉しないようにそれぞれのイオン源の設置位置調整が必要で、イオン源の交換に要する時間が長くなり、装置の稼働率が低下する問題があった。さらに、イオン源を2個以上設置することが難しく、更なる稼働率の向上を図ることが困難であった。
【0007】
本発明は、装置の稼働率とメンテナンス性を従来に比べて向上させた円形加速器、粒子線治療システム、およびイオン源を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、対向する磁極と、加速電極と、前記対向する磁極の間に設置されており、周回するイオンビームの中心軸に平行に直線状にイオンを生成する放電室が少なくとも2個以上配置されたイオン源と、を備え、前記イオン源を前記中心軸に平行な方向に移動させることで少なくとも2個以上の前記放電室のうち、イオンを引き出す前記放電室が選択可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、装置の稼働率とメンテナンス性を従来に比べて向上させることができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の円形加速器を用いた粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
図2図1に示す円形加速器の側面断面を示す図である。
図3図1に示す円形加速器の横断面を示す図である。
図4図2のイオン源周りの側面の概略を示す図である。
図5図4のイオン源を下から見た場合の概略構造を示す図である。
図6図4のイオン源を位置合わせガイドで下方へ移動した場合の概略を示す図である。
図7】本発明のイオン源の他の形態を示す図で、位置合わせピンで移動させる場合の概略を示した図である。
図8】本発明のイオン源の更に他の形態を示す図で、ガス導入配管を一体化した場合の構造を示す図である。
図9図8のイオン源で、ガス導入配管を一体化した場合にイオン源を下方へ移動した場合の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の円形加速器、粒子線治療システム、およびイオン源の実施例について図1乃至図9を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0012】
最初に、粒子線治療システムの全体構成および関連する装置の構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施例の粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
【0013】
図1において、粒子線治療システム100は、サイクロトロン型の加速器50、ビーム輸送系52、照射装置54、治療台40、および制御装置56等を備える。
【0014】
粒子線治療システム100では、イオン源3で発生させたイオンを加速器50で加速してイオンビームとする。所望のエネルギーまで加速されたイオンビームは加速器50から出射され、ビーム輸送系52により照射装置54まで輸送される。輸送されたイオンビームは照射装置54で患部形状に合致するように整形され、治療台40に横になった患者45の標的に対して所定量照射される。これら加速器50をはじめとした粒子線治療システム100内の各装置、機器の動作は、制御装置56によって制御される。
【0015】
次に加速器50の構造について図2および図3を用いて説明する。図2は本実施例の加速器の側面の断面図で、図3は横断面図である。
【0016】
図2および図3に示すように、サイクロトロン型の加速器50は、主磁極1、円環状コイル2、真空容器6、高周波加速電極8、イオン源3によって構成される。
【0017】
主磁極1は互いに対向するように設置される一対の磁性体であり、例えば鉄などからなる。主磁極1には、ビームの周回軌道12を発生させるように向かい合うように上下一対の磁極10が対向するように設けられており、その磁極10の間に磁場を発生させる。磁極10によって図2に示すような磁場B0を発生させるとともに、磁極10の周回中心から外側に向かって傾斜磁場を形成することで周回するイオンビームの集束力を発生させ、安定周回を実現する。磁場B0を発生させる上下一対の磁極10の磁極ギャップ間の対向する各々の面の表面形状は対称形状である。あるいは、ビームの進行方向に凹凸を設けた磁極形状とすることで収束効果を付加する形の磁極とすることができる。
【0018】
真空容器6は主磁極1によって挟まれており、磁極10を内面としてひとつの真空容器を形成するとともに磁気回路を構成する。真空容器6は非磁性体である。なお、磁極10の間隙内に、磁極10を真空容器内面としない、分離された真空容器を別途設けてもかまわない。
【0019】
円環状コイル2は真空容器6より大気側に設置されており、上下一対の主磁極1間にB0の磁場を発生させる。円環状コイル2は常電導材料によるコイルでも超電導材料によるコイルでも同様に磁場を発生可能である。なお、円環状コイル2は真空容器6内に設置してもよく、特に規定されるものではない。
【0020】
イオン源3は磁極10の内部に配置され、放電室36内に生成されたプラズマから引き出し孔37を通し、高周波電源20によって供給される高周波で、高周波加速電極8とイオン源3およびイオン源3と同電位となる接地電極9の間に発生した高周波電場により引き出しビーム15が形成される。形成された引き出しビーム15は磁極10が生成する磁場B0と高周波加速電極8と接地電極9の加速間隙7に発生する電場とによって、螺旋状の周回軌道12を描きながら周回運動して加速間隙7を通過するごとに加速され、エネルギーを増加させながら所定のエネルギーまで加速された後、主磁極1の外部へ取り出される。
【0021】
次に図4乃至図6を用いて、イオン源3の詳細を説明する。図4図2のイオン源3の詳細を示した図で、第一イオン源31および第二イオン源32を、磁極10で生成する磁場に平行な方向に直列に配置した場合の例で、第一イオン源31を動作させた場合の図である。図5はイオン源3を下側から見た図である。図6図2のイオン源3を下方へ動かし、第二イオン源32を動作させた場合の図である。
【0022】
図4に示すイオン源3は、対向する磁極10の間に設置されており、周回するイオンビームの中心軸に平行にイオンを生成する放電室36が直線状に少なくとも2個以上配置されたものである。
【0023】
より具体的には、イオン源3は、電子を生成する陰極33、イオンを生成する放電室36、放電用電源21、放電室36からイオンを引き出す引き出し孔37、放電容器39で構成されるPIG(Penning Ionization Gauge)型の第一イオン源31、およびこの第一イオン源31と構成を同じにした第二イオン源32が、周回するイオンビームの中心軸に平行な直線状に並んで、すなわちイオン源3の主磁極1への挿入方向(複数の放電室36の配置される向きと同じ方向)に2個配置されることで構成されている。
【0024】
イオン源3には、これら第一イオン源31の放電室36、および第二イオン源32の放電室36のそれぞれに試料ガスを供給するガス配管24が更に設けられている。
【0025】
なお、イオン源3の放電室36の数量は2個に限定するものではなく、複数個同様の方向に重ねて配置することも可能であり、3個以上とすることができる。
【0026】
図4乃至図6に示すイオン源3では、第一イオン源31の陰極33、および第二イオン源32の陰極33は、図4乃至図5に示すように共通の陰極支持具35に固定されており、第一イオン源31および第二イオン源32のいずれでも放電室36をはさむように配置されている。
【0027】
第一イオン源31、および第二イオン源32では、放電用電源21によって陰極33と放電容器39間に電圧を印加する。陰極33を放電容器39に対して負電位にすることで電子が放電室36に向かって引き出される。
【0028】
第一イオン源31の放電室36、および第二イオン源32の放電室36の各々には、それぞれ別々に設けられたガス配管24が接続されており、ガス切り替え器23によって高周波加速電極8に位置する第一イオン源31に試料ガス22を供給する。すなわち、イオン源3のうち、動作させる放電室36にのみ試料ガス22を供給する構成となっている。
【0029】
この際、第一イオン源31の陰極33と第二イオン源32の陰極33の双方の陰極33に電圧が印加されるが、試料ガス22が導入されない第二イオン源32ではプラズマの生成が行われず、イオンビームも引き出されない。プラズマが生成されないので、プラズマのイオンによる陰極33の損傷がなく、寿命に影響はない。
【0030】
イオン源3では、第一イオン源31の引き出し孔37と第二イオン源32の引き出し孔37とは挿入方向に一列とし、周回するイオンビームの中心軸に平行な直線状に一致させて配置している。
【0031】
また、第一イオン源31と第二イオン源32には、共通する位置合わせガイド34を設け、接地電極9に設けた切り欠き9Aに合わせて位置合わせガイド34をスライドさせて挿入するものとしている。これにより、2個以上の放電室36の周回するイオンビームの中心軸の方向の位置を合わせている。
【0032】
位置合わせガイド34は、図5に示すように台形断面の形状とすることで、イオン源3の位置、回転を固定することができる。なお、位置合わせガイド34を用いる代わりに、別途、挿入方向上流にフランジ等で固定することにより位置決めを行うことも可能である。
【0033】
陰極33は電子放出が起きやすい材料で、例えばタングステン(W)やランタンヘキサボライド(LaB)などがあるが、特に限定するものではない。また、陰極33は過熱しない冷陰極でも、電流を流して強制的に加熱するタイプの陰極でも構わない。ただし、陰極33の寿命は冷陰極のほうが良好である。
【0034】
放電容器39は熱に強い材料で、タンタル(Ta)や、熱伝導の良い銅(Cu)が好適であるが、特に限定するものではない。
【0035】
第一イオン源31および第二イオン源32は、次のように動作し、イオンビームのもととなるプラズマを生成する。
【0036】
陰極33と放電室36を形成する容器との間に放電用電源21により電圧を印加する。高電圧によって陰極33より電子が放出され、陰極33から見て正電位となる放電容器39に向かうため結果的に放電室36内に導入される。ガス配管24を介して導入される試料ガス22と電子との衝突によりプラズマを生成する。この際に磁極10により発生させた磁場B0により、電子はらせん運動を行うことで電子の放電室36内での滞在時間が延び、プラズマ生成効率をより上昇させる。
【0037】
次に、イオン源3の第一イオン源31と第二イオン源32との切り替えの手順について説明する。
【0038】
まず、第一イオン源31を高周波加速電極8の位置に移動させる。そのうえで、放電用電源21で陰極33に電圧を印加し、ガス切り替え器23によって第一イオン源31の放電室36に試料ガス22を供給してプラズマを生成し、引き出しビーム15を引き出す。
【0039】
引き出しビーム15が不安定、あるいは低下した場合、イオン源3を主磁極1に対して垂直に更に挿入し、図6に示すように、高周波加速電極8の位置に第二イオン源32を移動させる。この際、イオン源3を中心軸に平行な方向に移動させるのみのため、加速器50の真空状態を維持したままでよく、交換に要する時間は最小限度とすることができる。
【0040】
その後、ガス切り替え器23によって第二イオン源32の放電室36に試料ガス22を供給してプラズマを生成し、引き出しビーム15を引き出す。この際、第一イオン源31の放電室36に対しては試料ガス22の供給が行われなくなるため、イオンが生成されることはない。
【0041】
本実施例では、イオン源3を主磁極1、磁極10を貫通するように孔を設けて挿入する。主磁極1の上部より挿入し、挿入方向に重ねて設置することで、周回軌道12との干渉を避けて複数のイオン源(第一イオン源31と第二イオン源32)を設置することができる。
【0042】
ここで、主磁極1や磁極10に穴を設けることによって磁極10間に生成される磁場B0の分布が影響を受けて変化する。孔の直径が小さいほど磁場B0への影響は少なくなり、磁極10の形状や別途鉄片等を設置することで容易に補正が可能である。このため、磁極10にあける孔を小さくする必要があり、すなわちイオン源3の外径を小さくする必要がある。
【0043】
さらに、磁極10間に発生する磁場B0の強度によって周回軌道12の周回半径が決定する。磁場強度が大きくなれば周回半径は小さくなり、例えば磁場B0が2テスラ、加速電圧10キロボルトで加速される陽子イオンの場合、周回半径は7.2mmとなり、磁場B0が6テスラの場合、2.4mmになる。
【0044】
イオン源3の外径は、周回するイオンビームがイオン源3自身に衝突して電流値が減少することを避け、イオンビームの利用効率を上げるために、周回直径(半径)よりも小さくする必要がある。
【0045】
以上のことからイオン源3に電圧を供給する陰極支持具35やガス配管24を狭小領域に設置する必要がある。このため、陰極33を共通する陰極支持具35で支持し、試料ガス22をガス切り替え器23でプラズマを生成、動作させるイオン源を切り替えることで狭小領域に複数個のイオン源を設置可能な構造としている。
【0046】
次いで、図6のように第一イオン源31から第二イオン源32に切り替えるタイミング、あるいはイオン源3自体を交換するタイミングの決定方法について説明する。
【0047】
まず、前提として、磁極10間を周回する周回軌道12を回るイオンビームの電流を検出する電流モニタ17を更に設ける。そのうえで、電流モニタ17で検出される電流値の変動に応じて、動作させる放電室36を切り替える。
【0048】
より具体的には、電流モニタ17で検出される電流値がある設定値より低下した場合、通常は放電用電源21を制御して陰極33へ印加する電圧を上昇させる。しかし、陰極33へ印加する電圧を上昇させてもビーム電流が増加しない場合、使用中の第一イオン源31が寿命を迎えたと判断できるため、第一イオン源31を移動して、現在動作していない第二イオン源32を用いるよう別途設けた挿入機構とガス切り替え器23を制御することで、イオン源を長時間停止することなくイオンビームの供給が可能となる。
【0049】
更に、第二イオン源32を使用しても引き出しビーム15が不安定、あるいは低下した場合は、イオン源3自体の交換が必要となる。そこで、イオン源3自体を交換する際は加速器50の運転を停止して大気開放を行い、交換を行う。
【0050】
電流モニタ17で検出される電流値を監視し、切り替えのタイミングの決定を行うのは制御装置(図示の都合上省略)により装置側で自動で行っても良いし、検出結果を表示装置に表示してオペレータが行うことでもよく、特に限定されない。
【0051】
次いで、イオン源3の変形形態について図7乃至図9を用いて説明する。図7は位置合わせピンで移動させる場合の概略を示した図、図8および図9はガス導入配管を一体化した場合の概略を示した図である。
【0052】
図7に示すイオン源3Aは、少なくとも2個以上の放電室36のうち、最も端に配置される放電室36に、位置合わせピン38が設けられているものであり、位置合わせピン38を用いて回転を含んだ位置合わせを実施する形態である。
【0053】
位置合わせピン38の断面は円形や半円などの形状で、第一イオン源31の下部に設ける。磁極10に設けた基準穴に位置合わせピン38を貫通させてイオン源3Aの位置決めをする。また、位置合わせピン38を中心としてイオン源3Aを回転させることで、イオン源3Aのイオンビームの出射方向の位置調整などに用いることができる。なお、位置合わせピンを磁極10の第一イオン源31に対向する面に設けて、イオン源3の側に基準穴を設けてもよい。
【0054】
位置合わせピン38は、イオン源3Aの回転中心となる位置に設置するのが望ましく、例えば引き出し孔37の下部、イオン源3Aの中心、周回軌道12の中心などである。
【0055】
図8および図9に示すイオン源3Bは、放電室36に試料ガスを供給するガス配管25を、少なくとも2個以上の放電室36で共通とした形態である。
【0056】
図8は第一イオン源31に試料ガス22を供給してプラズマを生成する場合の例で、図9は、イオン源3Bを下方へ移動させて第二イオン源32に試料ガス22を導入してプラズマを生成する場合の例である。
【0057】
イオン源3Bでは、図4乃至図6と同様に放電室36が中心軸に平行な方向に移動するが、第一イオン源31の放電室36、および第二イオン源32の放電室36から放電容器39の表面へ接続されたガス配管25が設けられている。なお、ガス配管25を設ける場合に限られず、試料ガスを供給する穴を共通としてもよい。
【0058】
ガス配管25は、第一イオン源31、あるいは第二イオン源32が高周波加速電極8の高さと一致する高さに移動したときに、第一イオン源31や第二イオン源32に設けられたガス供給用の穴の位置に一致するように接地電極9に固定される。
【0059】
第一イオン源31を使用する場合には、図8に示すように、第一イオン源31のガス導入穴とガス配管25とを接続できる位置に移動し、試料ガス22を放電室36に導入する。第二イオン源32を使用する場合には、図9に示すように、イオン源3Bを下方へ移動し、第二イオン源32のガス導入穴がガス配管25と一致する位置に移動する。試料ガス22が第二イオン源32の放電室36に導入されてプラズマが生成される。
【0060】
複数個のイオン源を設置した場合でも、ガス配管25が1個で済むので、狭小な場所に設置するのに有効である。
【0061】
なお、図4乃至図9では、イオン源3,3A,3Bを主磁極1の上部から挿入した場合について説明したが、イオン源3,3A,3Bを主磁極1の下部から上部側に向けて挿入する形態としてもよく、同様の動作が可能である。
【0062】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0063】
上述した本実施例の加速器50は、対向する磁極10と、高周波加速電極8と、対向する磁極10の間に設置されており、周回するイオンビームの中心軸に平行に直線状にイオンを生成する放電室36が少なくとも2個以上配置されたイオン源3,3A,3Bと、を備え、イオン源3,3A,3Bを中心軸に平行な方向に移動させることで少なくとも2個以上の放電室36のうち、イオンを引き出す放電室36が選択可能である。
【0064】
このような構成によって、主磁極1の内部にイオン源3,3A,3Bを備えたサイクロトロン型の加速器50において、イオン源3,3A,3Bに複数個のイオン源を高周波加速電極8や磁極10の位置に対して同じ位置に設置可能で、イオン源を交換した場合(第一イオン源31から第二イオン源32)でも位置調整が1回で済み、イオンビームの干渉もなく、大気解放することなく順次イオン源を変えてイオンビームの引き出しが可能となる。このため、特許文献1に記載のような従来の内部イオン源よりもイオン源の個数を増やすことができることから、イオン源の交換頻度を従来より低減し、内部イオン源の寿命を大幅に長くできる加速器を提供することができる。
【0065】
また、イオン源3,3A,3Bは直列に一体として組み立て、設置ができることから、1回の設置で同時に位置調整が可能で、メンテナンス性を向上するとともに、メンテナンス時間やメンテナンス周期の短縮となり、装置の稼働率向上の効果も得られるものとなっている。
【0066】
また、高磁場下や高周波加速電極が複数個あってもイオン源同士の干渉がないため、加速器から出射される電流損失が少なくなり、出射効率が向上するほか、どのような円形加速器にも適用可能である。
【0067】
更に、上述の特許文献1のような技術では、イオン源を切り替えると制御パラメータの位相を180°変える必要があるが、本発明ではイオンビームの周回方向の位置関係は切り替え前後で変わらないことから位相の変更は不要であり、制御が容易である、との利点も奏する。
【0068】
また、イオン源3,3A,3Bの陰極33は、少なくとも2個以上の放電室36で共通の陰極支持具35により支持されており、イオン源3,3A,3Bのうち、動作させる放電室36にのみ試料ガスを供給するため、イオン源3,3A,3Bをより省スペースな構成とすることができる。
【0069】
更に、放電室36に試料ガスを供給するガス配管25が、少なくとも2個以上の放電室36で共通であり、放電室36が中心軸に平行な方向にすることでも、イオン源3Bをより省スペースな構成とすることができる。
【0070】
また、周回するイオンビームの電流を検出する電流モニタ17を更に備え、電流モニタ17で検出される電流値の変動に応じて、動作させる放電室36を切り替えることにより、極力寿命に近いタイミングで第一イオン源31と第二イオン源32との切り替えが可能となる。
【0071】
更に、イオン源3は、少なくとも2個以上の放電室36の中心軸の方向の位置を合わせる位置合わせガイド34を有すること、あるいは少なくとも2個以上の放電室36のうち、最も端に配置される放電室36に、位置合わせピン38が設けられることにより、イオン源3のイオンビームの中心軸の方向の位置合わせが容易となり、メンテナンスに要する手間をより省くことができる。
【0072】
また、放電室36からイオンを引き出す引き出し孔37が、中心軸に平行に直線状に並んで配置されたことで、第一イオン源31から第二イオン源32に切り替えた際の調整がより少ないものとすることができ。
【0073】
<その他>
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えことが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0074】
例えば、加速器50の型は、磁極10に凹凸を設けた磁極を有するサイクロトロン型の加速器に限らず、磁極10の中心から傾斜した磁極を有しており、高周波加速の周波数を変調するシンクロサイクロトロン型の加速器にも用いることができる。
【0075】
シンクロサイクロトロン型の加速器とは、サイクロトロンを改良した加速器の一種であり、大型磁極間で円運動する荷電粒子に周波数変調した高周波電場を加えて繰返し加速する。また、光速では加速された粒子の質量が相対論的効果によって増加し、磁場内の荷電粒子の円運動の周期は質量に比例して増加する。これによって起こる高周波電圧との周期のずれを、周波数を変調することによって取り除いているものである。
【0076】
シンクロサイクロトロン型の加速器も構成がサイクロトロン型の加速器と同様の構成であることからイオン源3を主磁極1内に配置することができ、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0077】
1…主磁極
2…円環状コイル
3,3A,3B…イオン源
6…真空容器
7…加速間隙
8…高周波加速電極
9…接地電極
9A…切り欠き
10…磁極
12…周回軌道
15…引き出しビーム
17…電流モニタ
20…高周波電源
21…放電用電源
22…試料ガス
23…ガス切り替え器
24,25…ガス配管
31…第一イオン源
32…第二イオン源
33…陰極
34…位置合わせガイド
35…陰極支持具
36…放電室
37…引き出し孔
38…位置合わせピン
39…放電容器
40…治療台
45…患者
50…加速器
52…ビーム輸送系
54…照射装置
56…制御装置
100…粒子線治療システム
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9