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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】吸着フィルター
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
B01J20/20 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024511872
(86)(22)【出願日】2023-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2023010837
(87)【国際公開番号】W WO2023189806
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022053499
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110004303
【氏名又は名称】弁理士法人三協国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉延 寛枝
(72)【発明者】
【氏名】花本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓太
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121590(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131305(WO,A1)
【文献】特開2020-19016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターであって、
水銀圧入法により測定される前記吸着フィルターの体積基準での細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積が0.06cm/cc~0.30cm/ccであり、かつ、水銀圧入法により測定される前記吸着フィルターの体積基準での細孔直径7μm以下の細孔容積が0.12cm /cc以上である、吸着フィルター。
【請求項2】
活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターであって、
前記活性炭の体積基準の累計粒度分布において、D50が30μm以上110μm以下であり、D90が110μm以上であり、
前記活性炭の粒子径が10μm以下である粒子含有率が、1.2体積%以上8.9体積%以下であり、かつ、
水銀圧入法により測定される前記吸着フィルターの体積基準での細孔直径7μm以下の細孔容積が0.12cm /cc以上である、吸着フィルター。
【請求項3】
前記活性炭の体積基準の累計粒度分布において、D50が30μm以上110μm以下であり、D90が110μm以上であり、かつ、
前記活性炭の粒子径が10μm以下である粒子含有率が、1.2体積%以上8.9体積%以下である、請求項1に記載の吸着フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水道水の水質に関する安全衛生上の関心が高まってきており、水道水中に含まれる遊離残留塩素、トリハロメタン類等のVOC(揮発性有機化合物)、農薬、カビ臭等の有害物質を除去することが望まれている。
【0003】
このような有害物質を除去するため、一般的に、活性炭成型体からなる吸着フィルターが用いられている。
【0004】
活性炭成型体からなる吸着フィルターは、水道水中に含まれる濁り成分(粒子状物質)の除去性能も有することが望まれる。そのため、例えば、特許文献1には、活性炭成型体の流入濾材部と流出濾材部との硬度差を調整することによって、より長期間の使用が可能な濁度低減フィルター体の製造方法が開示されている。また、例えば、特許文献2には、活性炭成型体と不織布とを備える、高い濁り除去性能と十分に長い目詰まり寿命とを両立可能な浄水カートリッジが開示されている。さらに、例えば、特許文献3には、中心粒子径が80μm~120μmで、かつ粒径分布における標準偏差σgが1.3~1.9である粉末状活性炭(a)および繊維状バインダー(b)を含む混合物を成型してなる活性炭成型体について開示されている。特許文献3の活性炭成型体によると、遊離残留塩素、揮発性有機化合物、CATおよび2-MIBの除去能に優れ、さらに濁りろ過能力にも優れることが記載されている。
【0005】
一般的に、活性炭成型体のフィルターに対して行われる濁り除去性能試験は、例えばJIS S 3201:2019で規定されている。当該試験では、約1μm~20μm程度のカオリンを濁り成分(粒子状物質)とし、その除去性能を評価する。特許文献1、特許文献2および特許文献3の活性炭成型体の評価においても、当該試験に基づき濁り除去性能が評価されている。
【0006】
一方、最近では、さらなる安全衛生上の観点から、微粒子(一般には粒径1μm~20μm)だけでなく、粒径1μm以下の超微粒子の除去性能を有する活性炭成型体からなる吸着フィルターが求められ始めている。このような吸着フィルターとして、例えば、特許文献4には、粒子状物質の中心粒子径D50と粒子径が10μm以下の粒子状物質の含有率とを所定の範囲内に規定することによって、微粒子除去性能を向上した成形吸着体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-033680号公報
【文献】特開2016-140788号公報
【文献】国際公開第2011/016548号
【文献】特開2021-122778号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明は、低通水抵抗による優れた通水性と超微粒子除去性能とを両立可能であり、かつ、長期間にわたり使用できる吸着フィルターを提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。
【0010】
本発明の第一の局面に係る吸着フィルターは、活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターであって、
水銀圧入法により測定される前記吸着フィルターの体積基準での細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積が0.06cm/cc~0.30cm/ccである。
【0011】
あるいは、本発明の第二の局面に係る吸着フィルターは、活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターであって、
前記活性炭の体積基準の累計粒度分布において、D50が30μm以上110μm以下であり、D90が110μm以上であり、かつ、
前記活性炭の粒子径が10μm以下である粒子含有率が、1.2体積%以上8.9体積%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態における吸着フィルターを調製するための型枠の1例を示す斜視図を示す。
図2図2は、図1の型枠を用いて得られる本実施形態における吸着フィルターの1例を示す斜視図である。
図3図3は、吸着フィルターの細孔容積の測定の際のサンプルの切り取り方を説明する図である。
図4図4は、吸着フィルターを製造するための自動研削機の1例を示す斜視図である。
図5図5は、実施例1~3および比較例1における、濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例1~3および比較例1における、逆洗作業を行う場合での濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例4~6における、濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例4~6における、逆洗作業を行う場合での濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフである。
図9図9は、比較例2~5における、濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフである。
図10図10は、比較例2~5における、逆洗作業を行う場合での濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述したように、特許文献4に記載の成形吸着体は、粒子状物質の中心粒子径D50と粒子径が10μm以下の粒子状物質の含有率とを所定の範囲内に規定することにより、微粒子除去性能を向上させている。しかしながら、微粒子除去性能、特に超微粒子除去性能を向上させた吸着フィルターは、一般的に、原料の活性炭の粒度を細かくすることで、吸着フィルターの空隙を小さくする必要がある。そのため、吸着フィルターの通水抵抗が高くなってしまう。従って、低通水抵抗による優れた通水性と超微粒子除去性能とを両立可能な吸着フィルターが求められる。
【0014】
加えて、例えば特許文献4に記載されている成形吸着体のように、原料の活性炭の粒度が細かい吸着フィルターは、約1μm~20μm程度の濁り物質によって、早期に目詰まりを起こしてしまうことも考えられる。その結果、吸着フィルターの除去性能が低下してしまい、吸着フィルターのライフが短くなることが想定される。
【0015】
吸着フィルターのライフの長期化のために、所定の時間毎に吸着フィルターの通水方向を逆転させて通水する作業(本明細書中、「逆洗作業」とも称する)を行い、濁り物質による目詰まりを解消させる方法がある。しかしながら、粒度が細かい活性炭からなる吸着フィルターは、このような逆洗作業を行った場合であっても、濁り物質が放出され難いことが想定される。
【0016】
本発明によれば、低通水抵抗による優れた通水性と超微粒子除去性能とを両立可能であり、かつ、長期間にわたり使用できる吸着フィルターを提供することができる。本発明による吸着フィルターは、逆洗作業を行うことによって、流量を効率よく再生することができ、フィルターのライフをより長くすることができる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0018】
本実施形態における吸着フィルターは、活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターであって、水銀圧入法により測定される当該吸着フィルターの体積基準での細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積が0.06cm/cc~0.30cm/ccである。
【0019】
あるいは、本実施形態における吸着フィルターは、活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターであって、当該活性炭の体積基準の累計粒度分布において、D50が30μm以上110μm以下であり、D90が110μm以上であり、かつ、当該活性炭の粒子径が10μm以下である粒子含有率が、1.2体積%以上8.9体積%以下である。
【0020】
なお、本明細書において、「D50」とは、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径を意味する。さらに、「D90」とは、体積基準の累計粒度分布における90%粒子径を意味する。また、後の実施例で測定される「D10」とは、体積基準の累計粒度分布における10%粒子径を意味する。
【0021】
本実施形態における吸着フィルターは、これらの構成のいずれかを有することによって、低通水抵抗による優れた通水性と超微粒子除去性能とを両立することができ、かつ、長期間にわたり使用することができる。
【0022】
具体的には、本実施形態では、原料の活性炭の物性、配合比率等を適切に選択および/または調整し、フィルター中の空隙容積を適切に制御することによって、所定の細孔直径範囲における細孔容積が特定の範囲内になるように調整する。あるいは、本実施形態では、原料の活性炭として、体積基準の累計粒度分布におけるD50およびD90が所定の範囲内であり、かつ、粒子径が特定値以下の含有率が所定範囲内である活性炭を使用する。その結果、低通水抵抗による優れた通水性と超微粒子除去性能とを両立可能であり、かつ、長期間にわたり使用できる吸着フィルターを得ることができる。
【0023】
[吸着フィルターの物性]
本実施形態における吸着フィルターは、水銀圧入法により測定される吸着フィルターの体積基準での細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積(以下、単に「細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積」とも称する)が0.06cm/cc~0.30cm/ccである。細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積を0.06cm/cc以上にすることによって、濁り物質による目詰まりを抑制し、優れた通水性を有し、長期間にわたり良好に使用可能な吸着フィルターを得ることができる。さらに、逆洗作業を行うことによって、吸着フィルターの流量を効率よく再生することができ、当該吸着フィルターのライフをより長くすることができる。また、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積を0.30cm/cc以下にすることによって、吸着フィルターの超微粒子除去性能を良好にすることができる。
【0024】
細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積は、好ましくは0.08cm/cc以上、より好ましくは0.10cm/cc以上、さらに好ましくは0.12cm/cc以上、特に好ましくは0.13cm/cc以上である。また、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積は、好ましくは0.27cm/cc以下、より好ましくは0.25cm/cc以下、さらに好ましくは0.23cm/cc以下、特に好ましくは0.21cm/cc以下である。
【0025】
さらに、本実施形態における吸着フィルターは、水銀圧入法により測定される吸着フィルターの体積基準での細孔直径7μm以下の細孔容積(以下、単に「細孔直径7μm以下の細孔容積」とも称する)が0.10cm/cc以上であることが好ましい。細孔直径7μm以下の細孔容積を0.10cm/cc以上にすることによって、吸着フィルターは、顕著に優れた超微粒子除去性能を得ることができる。
【0026】
細孔直径7μm以下の細孔容積は、より好ましくは0.12cm/cc以上、さらに好ましくは0.14cm/cc以上である。また、細孔直径7μm以下の細孔容積の上限は、特に限定されないが、例えば、細孔直径7μm以下の細孔容積は、好ましくは0.50cm/cc以下、より好ましくは0.45cm/cc以下、さらに好ましくは0.40cm/cc以下である。
【0027】
さらに、本実施形態における吸着フィルターは、好ましくは、水銀圧入法により測定される吸着フィルターの体積基準での全細孔容積(以下、単に「全細孔容積」とも称する)が0.50cm/cc~0.73cm/ccであることが好ましい。全細孔容積を0.50cm/cc以上とすることによって、吸着フィルターはより優れた通水性を得ることができ、例えば浄水フィルター等の用途に好適に用いることができる。全細孔容積を0.73cm/cc以下とすることによって、十分量の活性炭を保持することができ、一般的なフィルターとしての吸着性能を良好にすることができる。
【0028】
全細孔容積は、より好ましくは0.53cm/cc以上であり、さらに好ましくは0.56cm/cc以上である。また、全細孔容積は、より好ましくは0.70cm/cc以下であり、さらに好ましくは0.67cm/cc以下である。
【0029】
本明細書において、水銀圧入法により測定される、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積、細孔直径7μm以下の細孔容積および全細孔容積は、後の実施例で述べるように、水銀圧入法細孔容積測定装置(マイクロメリティックス社製「MicroActive AutoPore V 9620」)を用いて測定することができる。なお、後述の実施例ではフィルターの成型層を約1cm角の大きさの測定試料としているが、この測定試料の大きさはフィルターサイズによって適宜変更することが好ましい。例えば、スパウトインタイプ用のフィルターであれば、約5mm角の測定試料で測定することが望ましい。
【0030】
上述してきたような本実施形態の吸着フィルターにおける、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積、細孔直径7μm以下の細孔容積および全細孔容積は、様々な方法によってその値を制御することができる。例えば、原料の活性炭の物性およびその配合量、異なる物性の2種以上の活性炭を使用する場合はそれらの配合比率、原料のバインダーの種類およびその配合量、原料の任意成分の配合量、吸着フィルターの製造の際における処理条件(吸引圧力、乾燥時間等)等を、適切に選択および/または調整することによって、その値を制御することができる。特に、後に詳細に述べるように、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積は、原料の活性炭のD50およびD90、ならびに原料の活性炭の粒子径10μm以下の粒子含有率(体積%)を所定の範囲内に調整することによって、制御することができる。
【0031】
本実施形態における吸着フィルターの密度(以下、単に「フィルター密度」とも称する)は、0.59g/cm以下であることが好ましい。フィルター密度が0.59g/cm以下であることによって、通水抵抗をより良好に保つことができ、例えば浄水フィルター等に好適に用いることができる。また、フィルターの目詰まりも抑えることができる。また、フィルター密度は、0.35g/cm以上であることが好ましい。フィルター密度が0.35g/cm以上であることによって、活性炭の総量が好適な量となり、超微粒子および他の通常の有害物質の除去性能を良好に保つことができる。
【0032】
フィルター密度は、より好ましくは0.38g/cm以上、さらに好ましくは0.40g/cm以上、特に好ましくは0.42g/cm以上である。また、フィルター密度は、より好ましくは0.57g/cm以下、さらに好ましくは0.55g/cm以下、特に好ましくは0.53g/cm以下である。本明細書において、フィルター密度は、後の実施例で詳細に述べる方法で測定することができる。
【0033】
フィルター密度は、様々な方法によってその値を制御することができる。例えば、原料の活性炭の物性およびその配合量、異なる物性の2種以上の活性炭を使用する場合はそれらの配合比率、原料のバインダーの種類およびその配合量、原料の任意成分の配合量、吸着フィルターの製造の際における処理条件(吸引圧力、乾燥時間等)等を、適切に選択および/または調整することによって、その値を制御することができる。
【0034】
本実施形態における吸着フィルターは、ベンゼン飽和吸着量が18%~35%であると好ましい。本明細書において、吸着フィルターのベンゼン飽和吸着量は、JIS K 1474:2014の活性炭試験方法に準拠し、25℃において、溶剤飽和濃度の1/10となる溶剤蒸気を含む空気を通し、質量が一定となったときの試料の増量(%)から求めることができる。
【0035】
ベンゼン飽和吸着量が18%以上であることによって、特に有機物についての十分な除去性能を得ることができる。ベンゼン飽和吸着量が35%以下であることによって、過賦活状態で細孔直径が増大することを防止することができ、有害物質の吸着保持能力が低下するおそれを抑制することができる。ベンゼン飽和吸着量は、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは22%以上である。また、ベンゼン飽和吸着量は、より好ましくは33%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0036】
本実施形態における吸着フィルターのベンゼン飽和吸着量は、例えば、原料の活性炭の物性およびその配合量、異なる物性の2種以上の活性炭を使用する場合はそれらの配合比率等を、適切に選択および/または調整することによって、その値を制御することができる。
【0037】
[吸着フィルターの構成]
本実施形態における吸着フィルターは、活性炭とバインダーとを含む成型体からなる。
【0038】
(活性炭)
本実施形態における吸着フィルターに使用される原料の活性炭は、当該活性炭の体積基準の累計粒度分布において、D50が30μm以上110μm以下であり、かつ、D90が110μm以上である。さらに、当該活性炭の粒子径が10μm以下である粒子含有率が、1.2体積%以上8.9体積%以下である。
【0039】
原料としてこのような粒度の活性炭を用いることによって、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積が0.06cm/cc~0.30cm/ccの範囲内となる吸着フィルターを得ることができる。
【0040】
具体的には、原料の活性炭として、D50が30μm以上110μm以下であり、かつ、D90が110μm以上である活性炭を用いることによって、吸着フィルターの細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積を増加させることができる。その結果、濁り物質による目詰まりを抑制し、優れた通水性を有し、長期間にわたり良好に使用可能な吸着フィルターを得ることができる。さらに、逆洗作業を行うことによって、流量を効率よく再生することができ、当該吸着フィルターのライフをより長くすることができる。
【0041】
原料の活性炭において、D50は、33μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、44μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。また、原料の活性炭において、D50は、108μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、92μm以下であることがさらに好ましく、85μm以下であることが特に好ましい。
【0042】
原料の活性炭において、D90は、120μm以上であることが好ましく、130μm以上であることがより好ましく、140μm以上であることがさらに好ましく、150μm以上であることが特に好ましい。なお、D90の上限は、特に限定されないが、例えば、300μm以下であればよい。
【0043】
また、原料の活性炭において、粒子径10μm以下の粒子含有率が1.2体積%以上であることによって、優れた超微粒子除去性能を有する吸着フィルターを得ることができる。さらに、原料の活性炭において、粒子径10μm以下の粒子含有率が8.9体積%以下であることによって、低通水抵抗による優れた通水性を有する吸着フィルターを得ることができる。
【0044】
原料の活性炭において、粒子径10μm以下の粒子含有率は、好ましくは2.7体積%以上、より好ましくは2.9体積%以上、さらに好ましくは3.1体積%以上、特に好ましくは3.2体積%以上である。また、原料の活性炭において、粒子径10μm以下の粒子含有率は、好ましくは8.0体積%以下、より好ましくは7.4体積%以下、さらに好ましくは6.8体積%以下、特に好ましくは6.3体積%以下である。
【0045】
原料の活性炭の種類は、このようなD50、D90および粒子径10μm以下の粒子含有率の条件を満たせば特に限定されず、単独または異なる物性の2種以上の活性炭を組み合わせて使用することができる。粒子径10μm以下の粒子含有率は、活性炭が2種以上組み合わせて使用される場合、それぞれの活性炭の物性およびそれぞれの活性炭の配合比率等に応じて変化する。従って、それらを適切に選択および/または調整することによって、その値を制御することができる。
【0046】
本明細書において、原料の活性炭のD50、D90および粒子径10μm以下の粒子含有率は、例えば、後述する活性炭の原料となる炭素質材料の種類ならびに活性炭の製造の際における炭素質材料の賦活処理方法とその処理条件(加熱温度および時間等)、粉砕条件および分級条件等を、適切に選択および/または調整することによって、その値を制御することができる。さらに、原料の活性炭におけるD50、D90および粒子径10μm以下の粒子含有率は、後の実施例に記載の通り、例えば、湿式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、「Microtrac MT3300EX-II」)等を用いたレーザー回折・散乱法によって、分析および測定することができる。
【0047】
原料の活性炭は市販品を使用してもよい。あるいは、例えば、活性炭の原料となる炭素質材料に対して必要に応じて炭化処理を行った後、賦活処理、ならびに必要に応じて洗浄処理、乾燥処理および粉砕処理を行うことによって得られる活性炭を使用することもできる。
【0048】
原料となる炭素質材料としては、特に限定されないが、例えば植物系炭素質材料(例えば、木材、鉋屑、木炭、ヤシ殻やクルミ殻などの果実殻、果実種子、パルプ製造副生成物、リグニン、廃糖蜜等の植物由来の材料)、鉱物系炭素質材料(例えば、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残渣、石油ピッチ等の鉱物由来の材料)、合成樹脂系炭素質材料(例えば、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂等の合成樹脂由来の材料)、天然繊維系炭素質材料(例えば、セルロース等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維等の天然繊維由来の材料)等が挙げられる。これらの炭素質材料は、単独で使用してもよく、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
これらの炭素質材料のうち、JIS S 3201:2019に規定されている揮発性有機化合物除去性能に関与するミクロ細孔が発達し易いという観点から、ヤシ殻またはフェノール樹脂が好ましい。
【0050】
炭化処理を必要とする場合、これらの炭素質材料に対して、通常、酸素または空気を遮断した環境下において、例えば400℃~800℃、好ましくは500℃~800℃、さらに好ましくは550℃~750℃程度で炭化処理を行うことができる。その後、必要に応じて粒度調整を行ってもよい。
【0051】
その後、炭素質材料に対して賦活処理を行う。賦活処理とは、炭素質材料の表面に細孔を形成し、多孔質体である活性炭に変える処理である。賦活処理は、当該技術分野において一般的な方法により行うことができ、特に限定されず、主に、ガス賦活処理または薬剤賦活処理の2種類の処理方法を挙げることができる。これらのうち、浄水処理用として使用する場合、不純物の残留が少ないという観点から、ガス賦活処理が好ましい。
【0052】
ガス賦活処理は、例えば、水蒸気、二酸化炭素、空気、酸素、燃焼ガス、またはこれらの混合ガスの存在下で、炭素質材料を加熱する処理である。加熱温度は、特に限定されないが、例えば、700℃~1100℃、好ましくは800℃~980℃、より好ましくは850℃~950℃程度の温度において行われる。賦活時間および昇温速度は特に限定されず、選択する炭素質材料の種類、形状、サイズに応じて適宜調整すればよい。安全性および反応性を考慮すると、水蒸気を10容量%~40容量%で含有する水蒸気含有ガスを用いて行うことが好ましい。薬剤賦活処理としては、例えば、塩化亜鉛、塩化カルシウム、リン酸、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の賦活剤を炭素質材料と混合し、不活性ガス雰囲気下で加熱する公知の方法で行ってもよい。
【0053】
賦活処理後の活性炭は、必要に応じて洗浄および乾燥する。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属等の不純物を含むヤシ殻等の植物系炭素質材料または鉱物系炭素質材料を活性炭の原料とした場合、灰分や薬剤等を除去するために必要に応じて洗浄する。洗浄には鉱酸や水が用いられ、鉱酸としては洗浄効率の高い塩酸が好ましい。
【0054】
賦活処理後の活性炭は、必要に応じて粉砕処理および/または分級処理される。粉砕処理は、一般的に活性炭の粉砕に用いられる粉砕装置、例えば、エロフォールミル、ロッドミル、ローラーミル、ハンマーミル、ブレードミル、ピンミル等の高速回転ミル、ボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。分級処理は、一般的に活性炭の分級に用いられる方法、例えば篩を用いた分級、湿式分級、乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。
【0055】
このような処理を経て得られた活性炭または市販の活性炭の形状は、粉末状、粒子状、繊維状(糸状、織り布(クロス)状、フェルト状)等のいずれの形状でもよく、用途によって適宜選択することができる。これらの形状のうち、体積当たりの吸着性能の高い粉末状が好ましい。
【0056】
(バインダー)
本実施形態における吸着フィルターに使用されるバインダーは、特に限定されず、形状が粉末状または繊維状のバインダーを単独または2種以上組み合わせて使用することができる。これらのうち、吸着フィルターを成型した際に通水性に優れるとの観点から、繊維状バインダーを含むと好ましい。
【0057】
繊維状バインダーとしては、活性炭を絡めて賦形できるものであれば、特に限定されず、合成品、天然品を問わず幅広く使用可能である。このようなバインダーとしては、例えば、アクリル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、セルロース系繊維、ナイロン系繊維、アラミド繊維、パルプなどが挙げられる。繊維状バインダーの繊維長は4mm以下であることが好ましい。
【0058】
繊維状バインダーがアクリル系繊維状バインダーを含むと好ましい。さらに、繊維状バインダーがセルロース系繊維状バインダーを含むとより好ましい。また、これらの繊維状バインダーは2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、アクリル系繊維状バインダーおよびセルロース系繊維状バインダーの両方を組み合わせて使用するとより好ましい。セルロース系繊維状バインダーを組み合わせて用いることによって、本実施形態における吸着フィルターからの微粉の流出を低減することができる。アクリル系繊維状バインダーとセルロース系繊維状バインダーとの配合比率は、アクリル系繊維状バインダー100質量部に対して、セルロース系繊維状バインダーが、好ましくは30質量部~70質量部、より好ましくは40質量部~60質量部である。
【0059】
本実施形態において、繊維状バインダーの通水性は、CSF値で1mL~200mL程度であることが好ましい。また、CSF値は10mL~150mLであることがより好ましい。ここで、本明細書において、CSF値は、JIS P 8121:2012に規定されている「パルプの濾水度試験方法」カナダ標準ろ水度法を参考にして測定される値とする。具体的には、測定において、伝導度が100μs/cm程度となる水道水を用いて評価される値とする。なお、CSF値は、例えばバインダーをフィブリル化させることによって調整できる。
【0060】
繊維状バインダーのCSF値が1mL以上であることによって、十分な通水性を維持し、成型体の強度の低下を抑制し、圧力損失のおそれを防止することができる。さらに、CSF値が200mL以下であることによって、粉末状の活性炭を十分に保持することができ、成型体の強度の低下も抑制し、吸着性能が低下するおそれを防止することができる。なお、繊維状バインダーが2種以上組み合わされて使用される場合には、2種以上の繊維状バインダーが混合された状態でのCSF値が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0061】
具体的には、繊維状バインダーがアクリル系繊維状バインダーを含む場合、当該アクリル系繊維状バインダーのCSF値は20mL以上であることが好ましく、50mL以上であることがより好ましい。また、当該アクリル系繊維状バインダーのCSF値は200mL以下であることが好ましく、150mL以下であることがより好ましい。このような範囲にすることによって、繊維状バインダーがアクリル系繊維状バインダー以外の他の繊維状バインダーを含む場合であっても、当該アクリル系繊維状バインダーが含まれる繊維状バインダー全体としてのCSF値が適切な値となり、成型体の強度改善、圧力損失の低減、粉末活性炭の保持および吸着性能の維持を可能にすることができる。また、同様の観点から、繊維状バインダーがアクリル系繊維状バインダーおよびセルロース系繊維状バインダーを含む場合、セルロース系繊維状バインダーは、アクリル系繊維状バインダー100質量部に対して当該セルロース系繊維状バインダーを50質量部配合した状態でのCSF値が1mL以上であることが好ましく、10mL以上であることがより好ましい。また、セルロース系繊維状バインダーは、アクリル系繊維状バインダー100質量部に対して当該セルロース系繊維状バインダーを50質量部配合した状態でのCSF値が50mL以下であることが好ましく、40mL以下であることがより好ましい。
【0062】
活性炭とバインダーとの配合比率は、特に限定されず、吸着フィルターが成型された際に、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積(および好ましくは細孔直径7μm以下の細孔容積)が本実施形態において規定される特定の範囲内になるように適宜設定すればよい。例えば、活性炭による吸着性能および吸着フィルターの成型性等の観点も考慮すると、活性炭100質量部に対して、好ましくはバインダー2質量部~8質量部程度である。バインダーの量を2質量部以上にすることによって、十分な強度を有する吸着フィルターの成型体を得ることができる。バインダーの量を8質量部以下にすることによって、吸着フィルター中の活性炭の吸着性能が低下することを抑制することができる。
【0063】
活性炭100質量部に対するバインダーの混合比率は、より好ましくは3量部以上、さらに好ましくは4質量部以上である。また、活性炭100質量部に対するバインダーの混合比率は、より好ましくは7質量部以下、さらに好ましくは6質量部以下である。なお、バインダーの混合比率は、後述する鉛吸着剤等を含む場合は、活性炭および鉛吸着剤の合計に対して上記混合比率であることが好適である。
【0064】
(任意成分)
さらに、本実施形態における吸着フィルターには、本発明の効果が阻害されない限り、他の任意の機能性成分が含まれていてもよい。例えば、溶解性鉛を吸着除去できるゼオライト系粉末(鉛吸着剤)、イオン交換樹脂もしくはキレート樹脂等が挙げられる。さらに、抗菌性を付与するため、銀イオンもしくは銀化合物を含んだ各種吸着剤等を単独または2種以上組み合わせて含んでいてもよい。このような吸着剤の一例として、本実施形態における吸着フィルターの物性等に影響を及ぼさない量で添加される、銀添着活性炭が挙げられる。これらの他の任意成分の配合量は、特に限定されないが、吸着フィルターが成型された際に、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積(および好ましくは細孔直径7μm以下の細孔容積)が本実施形態において規定される特定の範囲内になるように適宜設定すればよい。例えば、吸着フィルター全体100質量部に対して、1質量部~30質量部配合することができる。
【0065】
本実施形態における活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターは、さらに中芯を含んでおり、円筒状吸着フィルターであってもよい。円筒形状にすることによって、通水抵抗を低下することができる。さらに、後述するようにハウジングに充填してカートリッジとして使用する場合、浄水器へのカートリッジの装填および交換作業が簡単にできるという利点がある。
【0066】
中芯としては、円筒状吸着フィルターの中空部に挿入され、円筒状吸着フィルターを補強できるものであれば特に限定されない。例えば、トリカルパイプ、ネトロンパイプ、セラミックフィルター等が挙げられる。さらに、中芯の外周に不織布等を巻き付けて使用することもできる。
【0067】
[吸着フィルターの製造方法]
本実施形態における吸着フィルターの製造方法は、当業者に公知の任意の方法によって行われればよく、特に限定されない。効率よく製造できるという観点から、スラリー吸引方法が好ましい。
【0068】
以下、本実施形態における円筒状吸着フィルターの製造方法の1例を詳細に説明するが、当該製造方法に限定されることはない。
【0069】
具体的には、例えば、本実施形態における円筒状吸着フィルター(成型体)は、スラリー調製工程と、吸引濾過工程と、必要に応じた転動工程と、乾燥工程と、必要に応じた研削工程とを含む方法により製造することができる。スラリー調製工程では、粉末状活性炭および繊維状バインダーを水中に分散させて、スラリーを調製する。吸引濾過工程では、調製したスラリーを吸引しながら濾過して予備成型体を得る。転動工程では、吸引濾過後の予備成型体を整形台上で圧縮することにより、必要に応じて外表面の形状を整える。乾燥工程では、形状を整えた予備成型体を乾燥して、乾燥した成型体を得る。研削工程では、乾燥させた成型体の外表面を必要に応じて研削する。以下、各々の工程について、より詳細に説明する。
【0070】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程では、粉末状活性炭および繊維状バインダーを、例えば、粉末状活性炭100質量部に対して繊維状バインダーを2質量部~8質量部となるように、かつ、固形分濃度が0.1質量%~10質量%、好ましくは1質量%~5質量%になるように、溶媒に分散させたスラリーを調製する。溶媒は特に限定はされないが、水等を用いることが好ましい。スラリーの固形分濃度を高すぎない濃度に調整することによって、分散を容易に均一にすることができ、成型体に斑が生じることを防止することができる。一方、スラリーの固形分濃度が低すぎない濃度に調整することによって、成型時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。さらに、成型体の密度が高くなり過ぎることも抑制し、良好な通水性を保つことができる。
【0071】
(吸引濾過工程)
吸引濾過工程について、図1を用いて説明する。図1において、各符号は、型枠1、芯体2、吸引用孔3、フランジ4、4’、および濾液排出口5を表している。吸引濾過工程では、例えば、図1に示すような、芯体2の表面に多数の吸引用穴3を有し、両端にフランジ4、4’が取り付けられ、濾液排出口5が設けられている円筒状成型体用の型枠1を使用する。まず、型枠1に前述したような中芯を取り付け、調製したスラリー中に入れ、濾液排出口5から型枠1の内側から吸引しながら濾過することにより、スラリーを型枠1に付着させる。吸引方法としては、慣用の方法、例えば、吸引ポンプ等を用いて吸引する方法等を利用することができる。このようにして、予備成型体を型枠1に付着させる。
【0072】
(転動工程)
必要に応じて、吸引濾過工程の後、予備成型体の外径を所定の大きさに調整し、真円度を高め、かつ外周面の凹凸を減少させるために、転動工程を行うこともできる。転動工程では、吸引濾過工程で得られた予備成型体を付着させたままの型枠1を台上に載せ、所定の力で押さえつけながら前後に動かせばよい。
【0073】
なお、吸引濾過工程および必要に応じて行われる転動工程は、所望する細孔容積および吸着フィルター密度等を得るために、任意の回数において行っても構わない。
【0074】
(乾燥工程)
次いで、型枠1の両端のフランジ4、4’を取り外し、芯体2を抜き取る。これによって、中空円筒型の予備成型体を得ることができる。乾燥工程では、このように型枠1から取り外した予備成型体を、乾燥機等で乾燥することにより、図2に示す成型体6(本実施形態における吸着フィルター)を得ることができる。
【0075】
乾燥温度は、例えば、100℃~150℃、特に110℃~130℃程度である。乾燥時間は、例えば、4~24時間、特に8~16時間程度である。乾燥温度が高すぎない温度にすることによって、繊維状バインダーの変質もしくは溶融による濾過性能の低下または成型体の強度の低下を生じ難くすることができる。乾燥温度が低すぎない温度にすることによって、乾燥時間を短縮することができ、乾燥が不十分になることを防止することができる。
【0076】
(研削工程)
必要に応じて、乾燥工程の後、吸着フィルターの外径をさらに調整するため、または外周面の凹凸を減少させるために、研削工程を行うこともできる。研削方法は、乾燥した成型体の外表面を研削(または研磨)できれば、特に限定されず、当業者に公知の任意の研削方法を用いればよい。研削の均一性の観点から、成型体自体を回転させて研削する研削機を用いる方法が好ましい。
【0077】
なお、研削工程は、研削機を用いた方法に限定されず、例えば、回転軸に固定した成型体に対して、固定した平板状の砥石で研削してもよい。この方法では、発生する研削滓が研削面に堆積し易いため、エアブローしながら研削すると効果的である。
【0078】
[吸着フィルターの用途等]
本実施形態における吸着フィルターは、例えば、浄水フィルター、人工透析用フィルター等として使用することができる。浄水フィルターまたは人工透析用フィルターとして使用する場合、例えば、吸着フィルターを上述した製造方法によって製造し、整形および乾燥後、所望の大きさおよび形状に切断してフィルターを使用することができる。さらに、必要に応じて、先端部分にキャップを装着したり、または表面に不織布を装着させたりしてもよい。
【0079】
本実施形態における吸着フィルターは、ハウジングに充填して浄水用カートリッジとして使用することができる。浄水用カートリッジは浄水器に装填され、通水に供されるが、通水方式としては、原水を全量濾過する全濾過方式または循環濾過方式を採用することができる。浄水器に装填される浄水用カートリッジは、例えば、浄水フィルター(本実施形態における吸着フィルター)をハウジングに充填して使用すればよい。あるいは、浄水フィルターは、公知の不織布フィルター、各種吸着剤、ミネラル添加材、セラミック濾過材等とさらに組合せて使用することもできる。
【0080】
以上、本発明の概要について説明したが、本実施形態における吸着フィルターをまとめると以下の通りである。
【0081】
本発明の第一の局面に係る吸着フィルターは、活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターであって、
水銀圧入法により測定される前記吸着フィルターの体積基準での細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積が0.06cm/cc~0.30cm/ccである。
【0082】
あるいは、本発明の第二の局面に係る吸着フィルターは、活性炭とバインダーとを含む成型体からなる吸着フィルターであって、
前記活性炭の体積基準の累計粒度分布において、D50が30μm以上110μm以下であり、D90が110μm以上であり、かつ、
前記活性炭の粒子径が10μm以下である粒子含有率が、1.2体積%以上8.9体積%以下である。
【0083】
前述の第一または第二の局面に係る吸着フィルターにおいて、水銀圧入法により測定される前記吸着フィルターの体積基準での細孔直径7μm以下の細孔容積が、0.10cm/cc以上であることが好ましい。
【0084】
前述の第一の局面に係る吸着フィルターにおいて、前記活性炭の体積基準の累計粒度分布において、D50が30μm以上110μm以下であり、D90が110μm以上であり、かつ、
前記活性炭の粒子径が10μm以下である粒子含有率が、1.2体積%以上8.9体積%以下であることが好ましい。
【実施例
【0085】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0086】
まず、各実施例および各比較例において用いた原料、原料の粉末状活性炭の物性測定方法、ならびに、製造した吸着フィルターの物性測定方法および評価方法の詳細について説明する。
【0087】
[吸着フィルターの原料]
以下、原料に使用した活性炭(粉末状活性炭)の製造方法を記載するが、必要な物性を満足すれば製造方法は特に限定されるものではない。
【0088】
・粉末状活性炭A
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を900℃で水蒸気賦活し、得られたヤシ殻活性炭を希塩酸洗浄、イオン交換水で脱塩することで粒状活性炭を得た。得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕し、D10が15μm、D50が85μm、D90が159μmの粉末状活性炭Aを得た。
【0089】
・粉末状活性炭B
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭をボールミルで粉砕し、D10が14μm、D50が60μm、D90が152μmの粉末状活性炭Bを得た。
【0090】
・粉末状活性炭C
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕し、D10が18μm、D50が55μm、D90が152μmの粉末状活性炭Cを得た。
【0091】
・粉末状活性炭D
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕し、D10が15μm、D50が86μm、D90が164μmの粉末状活性炭Dを得た。
【0092】
・粉末状活性炭E
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕し、D10が18μm、D50が45μm、D90が130μmの粉末状活性炭Eを得た。
【0093】
・粉末状活性炭F
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕し、D10が18μm、D50が44μm、D90が120μmの粉末状活性炭Fを得た。
【0094】
・粉末状活性炭G
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕し、D10が16μm、D50が32μm、D90が58μmの粉末状活性炭Gを得た。
【0095】
・粉末状活性炭H
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕し、D10が13μm、D50が108μm、D90が194μmの粉末状活性炭Hを得た。
【0096】
・粉末状活性炭I
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ロールミルで粉砕し、D10が72μm、D50が138μm、D90が215μmの粉末状活性炭Iを得た。
【0097】
・粉末状活性炭J
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕した後、乾式分級を行った。最終的に、D10が24μm、D50が58μm、D90が149μmの粉末状活性炭Jを得た。
【0098】
・粉末状活性炭K
粉末状活性炭Aの際と同様の方法で粒状活性炭を得て、得られた粒状活性炭を、ボールミルで粉砕し、D10が10μm、D50が32μm、D90が66μmの粉末状活性炭Kを得た。
【0099】
上記の粉末状活性炭A~粉末状活性炭Kの物性は、後の表3および表4にて吸着フィルターの物性とその評価結果と共にまとめて示す。
【0100】
(バインダー)
・アクリル系繊維状バインダー:日本エクスラン工業(株)製、「アクリル繊維Bi-PUL/F」、CSF値83mL
・セルロース系繊維状バインダー(上記アクリル系繊維状バインダー(CSF値83mL)100質量部に対して当該セルロース系繊維状バインダーを50質量部配合した状態でのCSF値が28mLである)
【0101】
(その他)
・チタノシリケート系鉛吸着剤:Solenis社製、「ATS」、平均粒子径20μm
・中芯:ダイワボウプログレス(株)製、「PMF-30C-12-14」
・不織布:シンワ(株)製、「9540-F」
【0102】
[原料の活性炭の粒度分布の測定]
原料の活性炭のD10(μm)、D50(μm)およびD90(μm)、ならびに粒子径10μm以下の粒子含有率(体積%)は、レーザー回折・散乱法により測定した。すなわち、測定対象である活性炭を界面活性剤と共にイオン交換水中に入れ、超音波振動を与え均一分散液を作製し、湿式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、「Microtrac MT3300EX-II」)を用いて測定した。界面活性剤には、富士フイルム和光純薬株式会社製の「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用いた。分析条件を以下に示す。
【0103】
(分析条件)
測定回数;3回の平均値
測定時間;30秒
分布表示;体積
粒径区分;標準
計算モード;MT3000II
溶媒名;WATER
測定上限;2000μm、測定下限;0.021μm
残分比;0.00
通過分比;0.00
残分比設定;無効
粒子透過性;吸収
粒子屈折率;N/A
粒子形状;N/A
溶媒屈折率;1.333
DV値;0.0882
透過率(TR);0.880~0.900
拡張フィルター;無効
流速;70%
超音波出力;40W
超音波時間;180秒
【0104】
[吸着フィルター密度の測定]
吸着フィルター密度(g/cm)は、得られた吸着フィルターを120℃で2時間乾燥した後、以下の式に従って算出した。なお、吸着フィルター密度とは、活性炭の成型層のみの密度を指す。
吸着フィルター密度=(吸着フィルター活性炭の成型層の質量)/(吸着フィルター活性炭の成型層の体積)
【0105】
[水銀ポロシメータでの吸着フィルターの細孔容積の測定]
吸着フィルターの細孔容積は、水銀圧入法細孔容積測定装置(マイクロメリティックス社製、「MicroActive AutoPore V 9620」)を用いて測定した。測定圧力は0.7kPa-420MPaとした。円筒状吸着フィルターの活性炭とバインダーから成る成型層を図3のように切り取った後、切断した断片をさらに約1cm角の大きさに切り取った。切り取った約1cm角のサンプルにおける、吸着フィルターの重量基準での細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積(cm/g)、細孔直径7μm以下の細孔容積(cm/g)および全細孔容積(cm/g)を算出した。そして、これらの値に、上記で求めた吸着フィルター密度を乗じることで、吸着フィルターの体積基準での細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積(cm/cc)、細孔直径7μm以下の細孔容積(cm/cc)および全細孔容積(cm/cc)を算出した。
【0106】
[濁り物質ろ過能力の評価]
吸着フィルターの濁り物質ろ過能力は、濁り物質を含む試験水を用いた通水試験を行い、濁り除去率ライフ(L/cc)および濁り目詰まりライフ(L/cc)を算出することによって評価した。これらは、次に述べる方法によって測定および算出した。
【0107】
まず、濁り物質として粒子径0.1μm~4μmのカオリン(ナカライテスク(株)製)を使用し、濁度を2度に調製した希釈水を水温20±3℃に調整し、これを試験水とした。この試験水を、得られた円筒状吸着フィルターの外側から内側に向かって、動水圧が0.1MPaを維持するように通水し、経時的に流量を測定した。その際、同時に、試験水と処理水とを採取してサンプルとした。これらのサンプルを、分光光度計((株)SHIMADZU製、「UV-1900」)を用い、円筒型50mmの石英セルを使用して、波長660nmにおける濁度を測定した。その結果から、試験水中に含まれる濁度の処理による除去率(%)を計算した。さらに、濁度除去率が80%未満になった時点での吸着フィルター体積当たりの積算通水量を、濁り除去率ライフ(L/cc)として算出した。この試験では、濁り除去率ライフ(L/cc)が10.5L/cc以上の場合を合格基準とし、当該吸着フィルターは、濁り物質を長期間にわたり良好に除去可能であると評価した。
【0108】
さらに、流量が通水開始10分後の1/2未満になった時点での吸着フィルター体積当たりの積算通水量を、濁り目詰まりライフ(L/cc)として算出した。この試験では、濁り目詰まりライフ(L/cc)が10.5L/cc以上の場合を合格基準とし、当該吸着フィルターは、濁り物質を目詰まりさせることなく、優れた通水性を長期間にわたり保つことができると評価した。
【0109】
[逆洗作業を行う場合における濁り物質ろ過能力の評価]
逆洗作業を行う場合における吸着フィルターの濁り物質ろ過能力は、次の方法によって評価した。逆洗作業を行いながら、濁り物質を含む試験水を用いて通水試験を行い、その場合における濁り除去率ライフ(L/cc)および濁り目詰まりライフ(L/cc)を算出した。これらは、次に述べる方法によって測定および算出した。
【0110】
逆洗作業は、通水試験開始から、5時間通水する毎に1回行った。具体的に、逆洗作業は、1分間通水方向を逆にして、すなわち試験水が円筒状吸着フィルターの内側から外側に向かうようにして、動水圧が0.1MPaを維持するように通水することによって行った。1分間経過後、通水方向を元の方向に戻して、すなわち再度試験水が吸着フィルターの外側から内側に向かうようにして、動水圧が0.1MPaを維持するように通水した。その他の手順、測定方法および算出方法については、前述した濁り除去率ライフ(L/cc)および濁り目詰まりライフ(L/cc)の場合と同様である。
【0111】
この試験では、逆洗作業を行った場合での濁り除去率ライフ(L/cc)が15.1L/cc以上の場合を合格基準とし、当該吸着フィルターは、逆洗作業を行いながら濁り物質をより長期間にわたり良好に除去可能であると評価した。また、逆洗作業を行った場合での濁り目詰まりライフ(L/cc)が15.1L/cc以上の場合を合格基準とし、当該吸着フィルターは、逆洗作業を行いながら濁り物質を目詰まりさせることなく、より優れた通水性を長期間にわたり保つことができると評価した。
【0112】
[超微粒子除去性能の測定]
吸着フィルターの超微粒子除去性能は、次の方法によって測定した。まず、Thermo Fisher Scientific社製の蛍光粒子Fluoro-Max(商標)Green Fluorescent Polymer Microspheres G500(粒子直径0.5μm)を使用し、濃度を10000個/ml以上とした希釈水を調製し、当該希釈水の温度を20±3℃に調整し、試験水とした。この試験水を、円筒状吸着フィルターの外側から内側に向かって、1.9L/分の流量で流し、経時的に試験水と処理水とを同時に採取してサンプルとした。これらのサンプルを、0.2μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC社製、MEMBRANE FILTER A020B025A WHITE(セルロース混合エステル、0.2μm、25mm、黒罫線入り))でろ過し、当該メンブレンフィルターを60℃で乾燥させた。乾燥後のメンブレンフィルターをスライドガラス上に固定し、蛍光顕微鏡(OLYMPUS社製、「BX51-34-FL」)で観察することで、両サンプル中の蛍光粒子数を算出し、試験水中に含まれる粒子の処理による除去率(%)を計算した。さらに、粒子除去率が85%未満になった時点での吸着フィルター体積当たりの積算通水量を、超微粒子除去率ライフ(L/cc)として算出した。この試験では、超微粒子除去率ライフ(L/cc)が10.5L/cc以上の場合を合格基準とし、当該吸着フィルターは超微粒子を長期間にわたり良好に除去可能であると評価した。
【0113】
[初期通水抵抗の測定]
円筒状吸着フィルターの外側から内側に向かって20±3℃の水を1.9L/分の流量で通水し、通水開始10分後の通水抵抗(MPa)を、初期通水抵抗(MPa)として測定した。なお、本通水抵抗の値は、ハウジングによる抵抗を除いた値とした。
【0114】
[VOC除去性能の測定]
吸着フィルターのVOC除去性能は、次の方法によって測定した。まず、クロロホルム濃度60±12ppbの希釈水を調製し、当該希釈水の温度を20±3℃に調整し、試験水とした。この試験水を、円筒状吸着フィルターの外側から内側に向かって、1.9L/分の流量で流し、経時的に試験水と処理水とを同時に採取してサンプルとした。これらのサンプル中のクロロホルム濃度をECDガスクロマトグラフ(「GC-2014」、島津製作所社製)で測定し、除去率(%)を計算した。さらに、クロロホルム除去率が80%未満になった時点での吸着フィルター体積当たりの積算通水量を、VOC除去率ライフ(L/cc)として算出した。この試験では、VOC除去率ライフ(L/cc)が10.5L/cc以上の場合を合格基準とし、当該吸着フィルターはVOCを長期間にわたり良好に除去可能であると評価した。
【0115】
[鉛除去性能の測定]
吸着フィルターの鉛除去性能は、次の方法によって測定した。まず、鉛濃度150±15ppbの希釈水を調製し、当該希釈水のpHを水酸化ナトリウム水溶液を使用して8.30~8.60に調整し、温度を20±3℃に調整し、試験水とした。この試験水を、円筒状吸着フィルターの外側から内側に向かって、1.9L/分の流量で流し、経時的に試験水と処理水とを同時に採取してサンプルとした。これらのサンプル中の鉛濃度を、超音波ネブライザー(「UAG-1」、島津製作所社製)を使用してICP発光分析装置(「ICPE9820」、島津製作所社製)によって測定した。さらに、処理水の鉛濃度が10ppb以上になった時点での吸着フィルター体積当たりの積算通水量を、鉛除去率ライフ(L/cc)として算出した。この試験では、鉛除去率ライフ(L/cc)が10.5L/cc以上の場合を合格基準とし、当該吸着フィルターは鉛を長期間にわたり良好に除去可能であると評価した。
【0116】
次に、各実施例および各比較例における吸着フィルターの製造方法、ならびに製造した吸着フィルターの物性測定結果および性能評価結果について詳細に説明する。
【0117】
<実施例1>
粉末状活性炭A、チタノシリケート系鉛吸着剤、アクリル系繊維状バインダーおよびセルロース系繊維状バインダーを、後の表1に示す配合比率において合計8.36kgとなるように調製し、水道水を追加した。添加後のスラリー量は、83.6Lとした。
【0118】
次いで、前述した図1に示す円筒状成型用の型枠(外径40.0mmφ、中軸径11.6mmφおよび外径鍔間隔365.0mmH)に中芯を装着し、得られたスラリーを金型外径より若干大きい43mmφまで、400mmHgで吸引のみ実施して成型し、その後乾燥した。次いで、得られた成型体を、図4に示される自動研削機に装着し、成型体回転数360回転/分、砥石回転数2535回転/分、砥石移動速度250mm/10秒(2.5cm/秒)で、成型体の外表面を研削し、外径38.6mmφ、内径12mmφおよび高さ108.0mmHの円筒状吸着フィルターを得た。
【0119】
このようにして得た吸着フィルターに対し、上述した方法で、吸着フィルターの密度および水銀ポロシメータでの細孔容積を測定した。この吸着フィルターの物性測定の結果を、後の表3にまとめて示す。
【0120】
その後、得られた吸着フィルターの外周に不織布を1重に巻き付けた。次いで、厚さ約1mmのABS樹脂で形成された外径39mmφの円柱状パッキンを、吸着フィルターの一方の端にホットメルト接着剤で接着した。さらに、外径39mmφであり、中央部分に2.2mmφの穴が2つ開いており、かつ通水試験用ハウジングに接続可能なネジ部を有するパッキンを、吸着フィルターのもう一方の端にホットメルト接着剤で接着した。
【0121】
不織布を巻き付け、パッキンを接着させた吸着フィルターを、平均直径50mm、長さ約117mm、内在量約230cmのABS樹脂製ハウジングに装填した。これを用いて、外側から内側に通水し、上述した方法で、濁りろ過能力、逆洗作業を行う場合における濁りろ過能力、超微粒子除去性能、初期通水抵抗、VOC除去性能、および鉛除去性能を評価した。これらの性能評価結果も、後の表3にまとめて示す。なお、表3には、上述した方法で測定される原料の活性炭の粒子径10μm以下の粒子含有率(体積%)も併記した。
【0122】
<実施例2~実施例6>
後の表1に示すように、実施例2~実施例6では、原料の活性炭において粉末状活性炭Aではなく、各々、粉末状活性炭B~粉末状活性炭Fを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、円筒状吸着フィルターを得た。実施例2~実施例6における吸着フィルターの物性測定結果および性能評価結果は、後の表3にまとめて示す。
【0123】
<比較例1~比較例5>
後の表2に示すように、比較例1~比較例5では、原料の活性炭において粉末状活性炭Aではなく、各々、粉末状活性炭G~粉末状活性炭Kを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、円筒状吸着フィルターを得た。比較例1~比較例5における吸着フィルターの物性測定結果および性能評価結果は、後の表4にまとめて示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
上記表1および表2において、「‐」は含まれていないことを意味する。また、上記表1および表2のアクリル系繊維状バインダーおよびセルロース系繊維状バインダーの量は、原料の活性炭とチタノシリケート系鉛吸着剤の合計100質量部に対する質量部において示している。
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
さらに、図5に、実施例1~3および比較例1における、濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果のグラフを示す。加えて、図6に、実施例1~3および比較例1における、逆洗作業を行う場合での濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果のグラフを示す。また、図7に、実施例4~6における、濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフを示す。図8に、実施例4~6における、逆洗作業を行う場合での濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフを示す。図9に、比較例2~5における、濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフを示す。図10に、比較例2~5における、逆洗作業を行う場合での濁り物質を含む試験水を用いた通水試験結果を示すグラフを示す。
【0130】
[考察]
上記表3に示すように、実施例1~6の吸着フィルターは、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積が0.06cm/cc~0.30cm/ccの範囲内である。さらに、実施例1~実施例6の吸着フィルターの原料の活性炭(粉末状活性炭A~F)は、D50が30μm以上110μm以下、D90が110μm以上、かつ粒子径10μm以下の粒子含有率が1.2体積%以上8.9体積%以下の全ての条件を満たしている。一方、比較例1~5の吸着フィルターは、細孔直径15μm以上30μm以下の細孔容積が0.06cm/cc~0.30cm/ccの範囲外であるか、または原料の活性炭のD50が30μm以上110μm以下、D90が110μm以上、かつ粒子径10μm以下の粒子含有率が1.2体積%以上8.9体積%以下の条件を満たしていない。
【0131】
上記表3および表4ならびに図5および図7に示すように、実施例1~6の吸着フィルターは、比較例1の吸着フィルターと比べると、長期間にわたり、超微粒子だけでなく濁り物質を良好に除去し、かつ優れた通水性も保っていた。さらに、上記表3および表4に示すように、実施例1~6の吸着フィルターは、比較例1の吸着フィルターと比べると、初期通水抵抗の値も低かった。これは、原料の活性炭の粒度が小さい比較例1の吸着フィルターは、実施例1~6のフィルターと同等に超微粒子は除去できるが、より大きい濁り物質によって目詰まりが生じ、通水性が悪くなり、最終的に吸着フィルターのライフが短くなったと考えられる。
【0132】
さらに、上記表3ならびに図6および図8に示すように、実施例1~6の吸着フィルターは、逆洗作業による流量の再生効果が高く、より長期間において良好なフィルターの濁り除去性能を維持することができていた。一方、比較例1の吸着フィルターでは、原料の活性炭の粒度が小さく、逆洗作業を行った場合でも濁り物質が放出され難いため、最終的に吸着フィルターのライフをそれほど長くすることができなかったと考えられる。
【0133】
比較例2の吸着フィルターは、実施例1~6の吸着フィルターと比べて、通水性は良好であったが、濁り物質除去性能(逆洗作業有りの場合も含む)および超微粒子除去性能の両方において劣っており、フィルターのライフが短くなっていた。これは、吸着フィルターの細孔直径が、実施例1~6と比べて、より大きい領域に分布していたためと考えられる。
【0134】
比較例3の吸着フィルターも、実施例1~6の吸着フィルターと比べて、通水性は良好であったが、濁り物質除去性能(逆洗作業有りの場合も含む)および超微粒子除去性能の両方において劣っており、フィルターのライフが短くなっていた。これは、原料の活性炭の粒度が、実施例1~6と比べて、顕著に大きすぎたためと考えられる。
【0135】
比較例4の吸着フィルターは、実施例1~6の吸着フィルターと比べて、濁り物質除去性能(逆洗作業有りの場合も含む)において劣っており、フィルターのライフが短くなっていた。これは、実施例1~6と比べて、原料の活性炭における粒子径10μm以下の粒子含有率が低すぎたためと考えられる。
【0136】
比較例5の吸着フィルターは、実施例1~6の吸着フィルターと比べて、濁り物質によって目詰まりが生じ、通水性に劣っており、フィルターのライフが短くなっていた。これは、比較例1と同様に、原料の活性炭の粒度が、実施例1~6と比べて、小さかったためと考えられる。
【0137】
また、上記表3に示すように、実施例1~6の吸着フィルターは、長期間にわたり、VOCおよび有害物質に相当する鉛を良好に除去可能であった。
【0138】
この出願は、2022年3月29日に出願された日本国特許出願特願2022-053499号を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0139】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態および実施例を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態および実施例を変更および/または改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明における吸着フィルターは、例えば水道水中に含まれる遊離残留塩素、トリハロメタン類等のVOC(揮発性有機化合物)、農薬、カビ臭等の有害物質等を除去するため、ハウジングに充填して浄水用カートリッジとして好適に利用される。
図1
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図10