IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマの特許一覧

特許7555524六方晶窒化ホウ素粉末、樹脂組成物および樹脂シート
<>
  • 特許-六方晶窒化ホウ素粉末、樹脂組成物および樹脂シート 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末、樹脂組成物および樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240913BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20240913BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C01B21/064 G
C08K3/38
C08L101/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024531311
(86)(22)【出願日】2024-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2024004998
【審査請求日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023052285
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】柿木 智行
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-218254(JP,A)
【文献】特開2020-075845(JP,A)
【文献】特開2016-115808(JP,A)
【文献】特開平11-268903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C08K 3/38
C08L 101/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップかさ密度が0.50g/cm以上であり、ゆるみかさ密度に対する前記タップかさ密度の比率が2.1以上であり、平均粒子径が15μm以上である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子であって粒子径が20μm以上50μm以下の第1凝集粒子を含み、
前記第1凝集粒子は、平均面積円形度が0.1以上0.6未満であり、平均面積包絡度が0.4以上0.9未満である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子であって粒子径が60μm以上110μm以下の第2凝集粒子をさらに含み、
前記第2凝集粒子は、平均面積円形度が0.4以上0.9以下であり、平均面積包絡度が0.4以上0.9以下である、請求項2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
前記ゆるみかさ密度が0.15g/cm以上0.35g/cm以下である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物からなる樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶窒化ホウ素粉末、樹脂組成物および樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化およびハイパワー化に伴って、電子部品の発熱量の増大が問題となっている。そのため、電子部品の効率的な放熱のため、熱伝導性に優れた素材の開発が行われている。
【0003】
六方晶窒化ホウ素粉末は、電子部品に用いられる樹脂に配合することで、樹脂の熱伝導率を向上させる。従来の六方晶窒化ホウ素粉末は、結晶構造に由来する鱗片状の構造を有する一次粒子を含む。このような鱗片状粒子は熱的異方性を有しているため、シート等に充填した場合に熱伝導率が低くなる方向が生じる。
【0004】
このような熱的異方性を改善するため、例えば特許文献1には、六方晶窒化ホウ素凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2011-98882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のような従来の六方晶窒化ホウ素粉末は、含まれる凝集粒子同士の接触部分を通じて熱が伝わるため、充填時に密度が上昇するほど熱伝導率が向上する傾向がある。そのため、高い熱伝導率を発揮するには、単位体積当たりの六方晶窒化ホウ素粉末の充填量が多くなる傾向があった。
【0007】
本発明の一態様は、従来よりも少ない充填量により良好な熱伝導率を発揮できる六方晶窒化ホウ素粉末等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、タップかさ密度が0.50g/cm以上であり、ゆるみかさ密度に対する前記タップかさ密度の比率が2.1以上であり、平均粒子径が15μm以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、従来よりも少ない充填量により良好な熱伝導率を発揮できる六方晶窒化ホウ素粉末等を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】六方晶窒化ホウ素粉末の概要を示す模式図であって、符号101により示す図は従来例であり、符号102により示す図は本発明の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。本明細書において、数値範囲を表す「A~B」は、特記しない限り「A以上B以下」を意図する。
【0012】
<六方晶窒化ホウ素粉末>
本発明の一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末(以下、「本六方晶窒化ホウ素粉末」と称する場合がある)は、タップかさ密度が0.50g/cm以上であり、ゆるみかさ密度に対するタップかさ密度の比率が2.1以上であり、平均粒子径が15μm以上である。
【0013】
六方晶窒化ホウ素は、その結晶構造に由来した鱗片状の一次粒子を形成する。当該一次粒子は、例えば樹脂に充填して樹脂シートとした場合、樹脂シートの面方向に配向する。そうすると、樹脂シートの厚さ方向における熱伝導率が低減する。このような熱的異方性を改善するため、六方晶窒化ホウ素の凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末が提案されている。六方晶窒化ホウ素の凝集粒子は、一次粒子よりも球状に近い形状とすることができるため、熱的異方性の問題を低減できる。
【0014】
六方晶窒化ホウ素粉末は例えば、放熱材料として、樹脂組成物を得るための樹脂への充填剤に使用される。このような樹脂組成物の熱伝導率は、六方晶窒化ホウ素粉末の充填密度が増加するほど大きくなる傾向がある。
【0015】
図1において符号101により示す参考例のように、従来の六方晶窒化ホウ素粉末は、粒子径が異なる2種類以上の凝集粒子を含むことで、充填密度を向上できる。比較的粒子径が大きな凝集粒子の隙間に小さな凝集粒子が入り込むことで、充填密度を容易に上昇できるためである。
【0016】
しかし、所望の熱伝導率を得るために六方晶窒化ホウ素粉末の充填密度を上昇させると、六方晶窒化ホウ素粉末の必要量も上昇するため、コストの面で改善の余地があった。この点、本六方晶窒化ホウ素粉末は、従来の六方晶窒化ホウ素粉末と同等の熱伝導率を、従来よりも低い充填量により得ることができる。以下、本六方晶窒化ホウ素粉末について説明する。
【0017】
(充填密度)
本六方晶窒化ホウ素粉末は、ゆるみかさ密度に対するタップかさ密度の比率(タップかさ密度/ゆるみかさ密度、以下「密度比率」と証する場合がある)が2.1以上である。ゆるみかさ密度とは、容器に粉末をゆるく充填した粗充填状態における、粉末の充填密度を示す。タップかさ密度とは、粉末を充填した容器を所定の回数タップすることで密となった密充填状態における、粉末の充填密度を示す。
【0018】
本六方晶窒化ホウ素粉末のタップかさ密度は、例えば株式会社セイシン企業製:タップデンサーKYT-5000を用いて、後述する実施例に記載の測定条件にて取得できる。また、本六方晶窒化ホウ素粉末のゆるみかさ密度は、タップかさ密度を測定するためにタップする前の、容器に粗充填した状態の充填密度を測定することで取得できる。容器中における本六方晶窒化ホウ素粉末の充填密度は、質量/体積により求められる。
【0019】
上述のような密度比率を有する本六方晶窒化ホウ素粉末は、タップによる充填密度の上昇が大きい。これは、特に作用機序を限定するものではないが、本六方晶窒化ホウ素粉末が、複雑な凝集構造または表面の凹凸等を有することにより、タップによって充填密度が大きく上昇する程度に、粒子同士が粗く接触した状態で存在し得ることを示すものである。このような粗い接合状態において、粒子同士の接触により粒子間で熱は伝達されるため、本六方晶窒化ホウ素粉末は、充填物における良好な熱伝導率を実現できる。
【0020】
このような密度比率を有する本六方晶窒化ホウ素粉末は、平均粒子径が15μm以上であれば、タップかさ密度が0.50g/cm以上という比較的低い充填密度でも良好な熱伝導率が得られる。そのため、本六方晶窒化ホウ素粉末であれば、従来の六方晶窒化ホウ素粉末と同等の熱伝導率を、従来よりも低い充填密度により得られる。
【0021】
比較的低い充填密度により良好な熱伝導率を得る観点から、本六方晶窒化ホウ素粉末における密度比率は、2.1以上であればよく、2.2以上であることが好ましい。また、当該密度比率は、4.0以下であってよく、3.5以下であってもよい。
【0022】
本六方晶窒化ホウ素粉末のゆるみかさ密度は、0.15g/cm以上0.35g/cm以下であることが好ましい。本六方晶窒化ホウ素粉末がこのようなゆるみかさ密度を有していれば、密度比率を2.1以上としながら、タップかさ密度を比較的小さい値に調整できる。そのため、本六方晶窒化ホウ素粉末の充填量を低減できる。
【0023】
(平均粒子径)
本六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒子径は、熱伝導率向上の観点から、15μm以上であればよく、20μm以上であってもよく、25μm以上であってもよい。また、当該平均粒子径は、流動性向上の観点から、100μm以下であってよく、75μm以下であってもよく、50μm以下であってもよい。
【0024】
(第1凝集粒子および第2凝集粒子)
上述のようなパラメータを充足する本六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、第1凝集粒子と、第1凝集粒子とは粒子径が異なる第2凝集粒子との、少なくとも2種類の凝集粒子を含むことが好ましい。第1凝集粒子および第2凝集粒子はいずれも、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子である。
【0025】
第1凝集粒子は、本六方晶窒化ホウ素粉末における、粒子径が20μm以上50μm以下の凝集粒子を示す。第1凝集粒子は、平均面積円形度が0.1以上0.6未満であり、平均面積包絡度が0.4以上0.9未満であることが好ましい。
【0026】
面積円形度は、凝集粒子の形状が完全な球状に近いほど1.0に近い値となる。そのため、上述のような平均面積円形度を有する第1凝集粒子は、球状から離れた歪な形状の凝集粒子といえる。各凝集粒子の面積円形度は、凝集粒子の2次元投影像を用いて、「4π×投影面積/(周囲長)」により求められる。
【0027】
面積包絡度は、凝集粒子の輪郭が滑らかであるほど1.0に近い値となる。上述のような平均面積包絡度を有する第1凝集粒子は、輪郭が粗い歪な形状の凝集粒子といえる。各凝集粒子の面積包絡度は、凝集粒子の2次元投影像を用いて、「実際の周囲長を巻き付けた面積/包絡周囲長を巻き付けた面積」により求めることができる。
【0028】
このような歪な形状の第1凝集粒子は、例えば、複数の球状の凝集粒子が繋がったような枝分かれ状の形状であってよい。このような第1凝集粒子は、充填密度が小さい状態でも他の凝集粒子と接触しやすい。凝集粒子同士の接触により凝集粒子間の熱伝達が効率的に生じるため、上述の第1凝集粒子の形状は熱伝導率の向上に寄与する。これにより、前記の構成を有する本六方晶窒化ホウ素粉末は、タップかさ密度が比較的小さい状態でも、高い熱伝導率を発揮でき、充填に用いる本六方晶窒化ホウ素粉末の使用量を低減できる。
【0029】
第1凝集粒子の平均面積円形度は、0.1以上であってよく、0.2以上であってもよい。また、当該平均面積円形度は、0.6未満であってよく、0.5以下であってもよく、0.4以下であってもよい。
【0030】
第1凝集粒子の平均面積包絡度は、0.4以上であってよく、0.5以上であってもよい。また、当該平均面積包絡度は、0.9未満であってよく、0.8以下であってもよく、0.7以下であってもよい。
【0031】
本六方晶窒化ホウ素粉末全体に対して、第1凝集粒子の割合は20体積%以上であってよく、25体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよい。また、第1凝集粒子の割合は、70体積%以下であってよく、65体積%以下であってもよく、60体積%以下であってもよい。本六方晶窒化ホウ素粉末は、このような割合で第1凝集粒子を含んでいれば、上述の密度比率が得られやすい。
【0032】
第2凝集粒子は、本六方晶窒化ホウ素粉末における、粒子径が60μm以上110μm以下の凝集粒子を示す。第2凝集粒子は、平均面積円形度が0.4以上0.9以下であり、平均面積包絡度が0.4以上0.9以下であることが好ましい。
【0033】
このような構成を有する第2凝集粒子は、第1凝集粒子と比較して、球状に近い滑らかな形状を有する凝集粒子である。本六方晶窒化ホウ素粉末のタップ後の充填状態において、このような第2凝集粒子の隙間に第1凝集粒子が効率よく位置して互いに接触することで、熱伝導率を向上できる。
【0034】
本六方晶窒化ホウ素粉末全体に対して、第2凝集粒子の割合は20体積%以上であってよく、25体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよい。また、第2凝集粒子の割合は、70体積%以下であってよく、65体積%以下であってもよく、60体積%以下であってもよい。本六方晶窒化ホウ素粉末は、このような割合で第2凝集粒子を含んでいれば、充填時における熱伝導率を向上しやすい。
【0035】
また、本六方晶窒化ホウ素粉末は、第1凝集粒子および第2凝集粒子以外の凝集粒子をさらに含んでいてもよく、未凝集の一次粒子を含んでいてもよい。本六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる未凝集の一次粒子は、20体積%以下であることが好ましい。
【0036】
以上のような構成によれば、図1において符号102により示す本発明例のように、凝集粒子間に隙間がある状態でも、歪な形状の第1凝集粒子と、第1凝集粒子よりも大きい第2凝集粒子との間において、隙間を確保しながら接触部分を増加できる。そのため、樹脂組成物等の充填物において、所望の熱伝導率を従来よりも少ない充填量により確保でき、樹脂組成物等の製造における本六方晶窒化ホウ素粉末の使用量を低減できる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」等の達成にも貢献するものである。
【0037】
<六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法>
本六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、特に制限されるものではないが、例えば以下の製造方法により製造できる。
【0038】
まず、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物および炭化ホウ素を、以下に示す割合により混合して混合物を得る。含酸素ホウ素化合物のB換算質量とカーボン源のC換算質量との比B/C(元素比)を、0.75~1.05とする。含酸素ホウ素化合物のB換算質量とカーボン源のC換算質量との合計量100質量部に対して、含酸素カルシウム化合物をCaO換算で5~20質量部とする。含酸素ホウ素化合物、カーボン源および含酸素カルシウム化合物の、それぞれB、CおよびCaO換算質量の合計量100質量部に対して、前記炭化ホウ素を5~45質量部とする。
【0039】
次に、得られた混合物を窒素雰囲気下にて1600~1950℃の温度に加熱して、還元窒化反応を行う。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、解砕により粒度分布を調整する。還元窒化反応生成物中に存在する窒化ホウ素以外の副生成物は、酸洗により除去されてもよい。酸洗後の六方晶窒化ホウ素粉末について、窒素を含むガス雰囲気下にて1700~2050℃の温度に加熱することで、再焼成を行う。
【0040】
以上のように、含酸素ホウ素化合物および炭化ホウ素の2種類のホウ素源を原料に用いることで、第1凝集粒子および第2凝集粒子を含む本六方晶窒化ホウ素粉末が得られる。具体的には、含酸素ホウ素化合物、カーボン源および含酸素カルシウム化合物が第1凝集粒子の生成源となり、炭化ホウ素が第2凝集粒子の核となると考えられる。
【0041】
(原料)
含酸素ホウ素化合物としては、ホウ素と酸素原子とを含有する化合物が使用されてよい。含酸素ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、無水ホウ酸、メタホウ酸、過ホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、および過ホウ酸ナトリウムが挙げられる。これらのうち、入手が容易なホウ酸または酸化ホウ素が好適に用いられてよい。
【0042】
含酸素カルシウム化合物は、含酸素ホウ素化合物と複合酸化物を形成することで、高融点の複合酸化物を形成し、含酸素ホウ素化合物の揮散を防止する役割を担う。また、炭化ホウ素を直接窒化する反応において触媒の役割を果たすことも確認されている。
【0043】
含酸素カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、およびシュウ酸カルシウムが挙げられる。これらは1種または2種類以上を混合して使用することも可能である。その中でも、酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムを使用するのが好ましい。
【0044】
カーボン源としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、およびカーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、およびモノマーまたはポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素が挙げられる。そのうち、反応性の高い非晶質炭素が好ましく、更に、工業的に品質制御されている点で、カーボンブラックが特に好適に使用される。また、カーボンブラックとしては、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック、およびサーマルブラックを挙げることができる。
【0045】
炭化ホウ素としては、公知の炭素ホウ素が使用されてよい。炭化ホウ素の粒径としては、1~500μmが好ましく、10~400μmが更に好ましく、20~300μmが更に好ましい。
【0046】
各原料を含む混合物の還元窒化反応への供給形態は、例えば、粉末状のままでもよく、また造粒体を形成して行ってもよい。各原料の混合は、例えば振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、振動攪拌機、およびV字混合機等の混合機を使用して行うことが可能である。
【0047】
(還元窒化)
還元窒化反応において、反応系への窒素源の供給は、公知の手段によって形成することができる。例えば、後に例示する反応装置の反応系内に窒素ガスを流通させる方法が最も好ましい。また、使用する窒素源としては、窒素ガスに限らず、還元窒化反応において窒化が可能なガスであれば特に制限されない。具体的には、窒素ガスの他、アンモニアガスを使用することも可能である。また、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、およびヘリウム等の非酸化性ガスを混合して使用することも可能である。
【0048】
結晶性の高い六方晶窒化ホウ素粉末を得るために、還元窒化反応における加熱温度としては、1600~1950℃、好ましくは1650~1900℃、更に好ましくは1680~1880℃の温度が採用できる。即ち、加熱温度が1600℃未満では還元窒化反応が未進行、且つ、結晶性の高い六方晶窒化ホウ素を得ることが困難であり、1950℃を超える温度では、効果が頭打ちとなり、経済的に不利である。
【0049】
還元窒化反応の時間は適宜決定されるが、例えば、10~30時間程度である。
【0050】
(粒度調整)
還元窒化反応後の六方晶窒化ホウ素粉末について、解砕を行うことで所定の粒度分布に調整してもよい。解砕は、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、または石臼式粉砕機等を用いて緩やかに行うことが好ましい。また、解砕後の粉末を、気流分級または篩処理による分級処理によって、適宜粒度を調整してもよい。
【0051】
解砕後であって再焼成前において、六方晶窒化ホウ素粉末の、粒子径が10μm以下の凝集粒子の体積頻度と、粒子径が10μm超50μm以下の凝集粒子の体積頻度と、を所定の範囲内に調整することが好ましい。
【0052】
具体的には、粒子径が10μm以下の凝集粒子の体積頻度を、10%未満とすることが好ましく、7%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることがさらに好ましい。再焼成前の六方晶窒化ホウ素粉末において、粒子径が10μm以下の凝集粒子は含まれていなくてもよい。
【0053】
また、粒子径が10μm超50μm以下の凝集粒子の体積頻度を、20%以上としてよく、25%以上とすることが好ましく、30%以上とすることがより好ましい。また、粒子径が10μm超50μm以下の凝集粒子の体積頻度を、65%以下としてよく、60%以下とすることが好ましい。
【0054】
再焼成前の六方晶窒化ホウ素粉末を上述のような粒度分布に調整すれば、再焼成後において、密度比率が2.1以上となる本六方晶窒化ホウ素粉末を好適に得ることができる。
【0055】
(酸洗)
上述の還元窒化反応によって得られる反応生成物は、六方晶窒化ホウ素粉末の他に、酸化ホウ素-酸化カルシウムから成る複合酸化物等の不純物が存在するため、酸を用いて洗浄することが好ましい。かかる酸洗の方法は特に制限されず、公知の方法が制限無く採用されてよい。例えば、還元窒化反応後に得られた副生成物含有窒化ホウ素粉末を容器に投入し、該副生成物含有窒化ホウ素粉末の5~10倍量の希塩酸(10~20質量%HCl)を加え、4~8時間接触させる方法などが挙げられる。
【0056】
酸洗時に用いる酸としては、塩酸の他、硝酸、硫酸、または酢酸等を用いることも可能である。
【0057】
酸洗の後、残存する酸を洗浄する目的で、純水を用いた水洗浄を行ってもよい。水洗浄の方法としては、酸洗時の酸をろ過した後、使用した酸と同量の純水に酸洗した六方晶窒化ホウ素粉末を分散させ、再度ろ過してよい。
【0058】
(乾燥)
酸洗または水洗浄後において、含水塊状物の乾燥を行ってもよい。乾燥条件としては、例えば50~250℃の大気中、もしくは減圧下が好ましい。乾燥時間は、特に指定しないが、含水率が0%に限りなく近づくまで乾燥することが好ましい。
【0059】
(再焼成)
再焼成が行われる窒素を含むガス雰囲気下とは、例えば、窒素を含む雰囲気であってよい。再焼成における反応系への窒素源の供給は、還元窒化と同様の方法としてよい。
【0060】
再焼成における加熱温度としては、1700~2050℃、好ましくは1800~2000℃、更に好ましくは1900~2000℃の温度が採用できる。このような加熱温度であれば、密度比率が2.1以上となる本六方晶窒化ホウ素粉末を好適に得ることができる。
【0061】
以上に示す還元窒化反応および再焼成は、反応雰囲気制御の可能な公知の反応装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉および竪型反応炉等の連続加熱炉も使用可能である。
【0062】
<樹脂組成物>
本六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば樹脂組成物の充填剤として用いることができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」と称する場合がある)は、本六方晶窒化ホウ素粉末を含んでいてよい。このような本樹脂組成物において、本六方晶窒化ホウ素粉末は、電気絶縁性向上または熱伝導性付与等の目的で、後述する樹脂と混合するための充填剤として使用されてよい。本六方晶窒化ホウ素粉末が充填されることにより、本樹脂組成物は、高い電気絶縁性および熱伝導性を有する。
【0063】
本樹脂組成物は種々の用途に使用することができるが、熱伝導性樹脂組成物あるいは熱伝導性成形体を形成することで、例えばポリマー系放熱シートおよびフェイズチェンジシート等のサーマルインターフェイスマテリアル、放熱テープ、放熱グリース、放熱接着剤、ギャップフィラー等の有機系放熱シート、放熱塗料、放熱コート等の放熱塗料、PWBベース樹脂基板、CCLベース樹脂基板等の放熱樹脂基板、アルミベース基板、銅ベース基板等のメタルベース基板の絶縁層およびパワーデバイス用封止材等の用途に好ましく用いてよい。
【0064】
本樹脂組成物は、公知の高熱伝導絶縁フィラーである窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウム等の、熱伝導性フィラーを含んでいてもよい。
【0065】
前記樹脂としては、例えばポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂およびビスマレイミドトリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂、並びに合成ゴム等が挙げられる。
【0066】
また、本樹脂組成物は、必要に応じて樹脂組成物の配合剤として公知の重合開始剤、硬化剤、重合禁止剤、重合遅延剤、カップリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、抗菌剤、有機フィラーおよび有機無機複合フィラー等を含んでもよい。また、本樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の無機フィラーを含んでいてもよい。
【0067】
<樹脂シート>
本発明の一実施形態に係る樹脂シート(以下、「本樹脂シート」と称する場合がある)は、上述の本樹脂組成物からなるものであってよい。本樹脂シートの用途は特に限定されないが、例えば回路基板用途および多層プリント配線板の絶縁層用途等に用いることができる。
【0068】
<その他の用途>
本六方晶窒化ホウ素粉末は、立方晶窒化ホウ素または窒化ホウ素成型品等の窒化ホウ素加工品製品の原料、エンジニアリングプラスチックの核剤、フェーズチェンジマテリアル、固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル、溶融金属または溶融ガラス成形型の離型剤、化粧品、および複合セラミックス原料等の用途にも使用することができる。
【0069】
<まとめ>
上述の通り、本発明の態様1に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、タップかさ密度が0.50g/cm以上であり、ゆるみかさ密度に対する前記タップかさ密度の比率が2.1以上であり、平均粒子径が15μm以上である。
【0070】
本発明の態様2に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、前記態様1において、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子であって粒子径が20μm以上50μm以下の第1凝集粒子を含み、前記第1凝集粒子は、平均面積円形度が0.1以上0.6未満であり、平均面積包絡度が0.4以上0.9未満であってもよい。
【0071】
本発明の態様3に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、前記態様2において、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子であって粒子径が60μm以上110μm以下の第2凝集粒子をさらに含み、前記第2凝集粒子は、平均面積円形度が0.4以上0.9以下であり、平均面積包絡度が0.4以上0.9以下であってもよい。
【0072】
本発明の態様4に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、前記態様1から3のいずれかにおいて、前記ゆるみかさ密度が0.15g/cm以上0.35g/cm以下であってもよい。
【0073】
本発明の態様5に係る樹脂組成物は、前記態様1から4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む。
【0074】
本発明の態様6に係る樹脂シートは、前記態様5に記載の樹脂組成物からなる。
【実施例
【0075】
本発明の一実施例について以下に説明するが、本発明は以下に示す各実施例に限定されるものではない。
【0076】
<六方晶窒化ホウ素粉末の製造および評価>
実施例および比較例に係る六方晶窒化ホウ素粉末について、以下に示す方法によりそれぞれ製造した。
【0077】
(実施例1)
実施例1に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、酸化ホウ素141g、カーボンブラック56g、酸化カルシウム32gおよび炭化ホウ素30gを含む混合物259gを、ボールミルを使用して混合した。混合物を、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、最高温度1750℃で2時間保持することで還元窒化処理を行った。
【0078】
得られた六方晶窒化ホウ素について解砕を行い、粒度分布で10μm以下の凝集粒子の体積基準割合を4%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合を48%に調整した。粒度分布調整後の六方晶窒化ホウ素粉末を容器に投入し、5倍量の塩酸(7質量%HCl)を加え、回転数700rpmで24時間攪拌して酸洗処理を行った。当該酸洗処理の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純粋に、ろ過して得られた六方晶窒化ホウ素粉末を分散させ、再度ろ過した。この操作を5回繰り返した後、200℃で6時間真空乾燥させた。
【0079】
乾燥後に得られた六方晶窒化ホウ素粉末を、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気か、1900℃で6時間保持することで再焼成処理を行った。
【0080】
再焼成後に得られた六方晶窒化ホウ素粉末を目開き106μmの篩にかけて、白色の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
【0081】
(実施例2)
実施例2に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、解砕条件以外の条件については、実施例1の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が2%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が25%とした。
【0082】
(実施例3)
実施例3に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、解砕条件以外の条件については、実施例1の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が5%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が58%とした。
【0083】
(実施例4)
実施例4に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、解砕条件以外の条件については、実施例1の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が4%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が45%とした。
【0084】
(実施例5)
実施例5に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、解砕条件以外の条件については、実施例1の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が3%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が42%とした。
【0085】
(実施例6)
実施例6に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、解砕条件以外の条件については、実施例1の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が3%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が30%とした。
【0086】
(比較例1)
比較例1に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、解砕条件以外の条件については、実施例1の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が10%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が30%とした。
【0087】
(比較例2)
比較例2に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、原料として炭化ホウ素を添加せず、酸化ホウ素142g、カーボンブラック62gおよび酸化カルシウム38gを含む混合物242gについて、還元窒化処理を行った。この点を除いて、実施例1の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が30%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が70%とした。
【0088】
(比較例3)
比較例3に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、再焼成における加熱温度を1500℃とした点を除いて、実施例1の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が4%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が40%とした。
【0089】
(比較例4)
比較例4に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、解砕条件以外の条件については、比較例3の条件に従って製造した。解砕後の粒度分布は、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合が2%、10μm超50μm以下の凝集粒子の体積基準割合が20%とした。
【0090】
炭化ホウ素(BC)の使用有無、再焼成前の六方晶窒化ホウ素粉末の粒度分布、および再焼成の加熱温度(最高到達温度)について、下記表1にまとめた。また、得られた再焼成後の六方晶窒化ホウ素粉末のタップかさ密度、ゆるみかさ密度、密度比率(タップかさ密度/ゆるみかさ密度)および平均粒子径についても、下記表1に示す。なお、表1における再焼成前粒度分布の列に記載の「10~50μm」とは、10μm超50μm以下であることを示す。
【0091】
【表1】
【0092】
(評価方法)
・ゆるみ嵩密度、タップかさ密度
六方晶窒化ホウ素粉末のゆるみかさ密度およびタップかさ密度については、株式会社セイシン企業製:タップデンサーKYT-5000を用いて測定した。六方晶窒化ホウ素粉末を、試料セル100mLに粗充填し、粗充填直後の質量および体積からゆるみかさ密度を算出した。次に、ゆるみかさ密度を算出後の100mL試料セルについて、タップ速度120回/分、タップ高さ5cm、タップ回数500回の条件でタップを行い、タップ後の質量および体積からタップかさ密度を算出した。試料セルは直径28mm、高さ163mmのフタ付円筒からなる。
【0093】
・平均面積円形度、平均面積包絡度および体積割合
六方晶窒化ホウ素粉末について、マルバーン製:モフォロギG3-ID/G3SE-IDを用いて、六方晶窒化ホウ素粉末全体の平均粒子径と、第1凝集粒子および第2凝集粒子それぞれの平均面積円形度、平均面積包絡度および体積割合とを評価した。
【0094】
・平均粒子径、10μm以下の体積基準%および10μm超50μm以下の体積基準%
六方晶窒化ホウ素粉末について、レーザー回折・散乱式粒径測定装置MT3000(マイクロトラック・ベル株式社製)を用いて、平均粒子径(μm)、10μm以下の体積基準%および10μm超50μm以下の体積基準%を測定した。詳しくは、エタノール50ccが充填されている装置付属の混合槽に六方晶窒化ホウ素粉末0.1gを投入したサンプルを測定に使用し、測定結果より体積基準の粒径(D50)、10μm以下の体積基準%および10μm超50μm以下の体積基準%を算出した。この際、超音波処理などの解砕処理等は行わずに測定した。
【0095】
(結果)
実施例および比較例に係る六方晶窒化ホウ素粉末について、第1凝集粒子および第2凝集粒子の評価を行った結果を下記表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
実施例1~6に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、第1凝集粒子の平均面積円形度が0.2以上0.3以下であり、平均面積包絡度が0.5以上0.7以下であった。この結果は、第1凝集粒子の形状が歪な形状を有していることを示す。
【0098】
一方、比較例1、3、4に係る第1凝集粒子は、平均面積円形度が0.6以上であり、平均面積包絡度も0.8以上であった。すなわち、比較例1、3、4に係る第1凝集粒子は、各実施例に係る第1凝集粒子と比較して球状に近い形状を有していた。
【0099】
また、実施例1~6および比較例1、3、4に係る六方晶窒化ホウ素粉末はいずれも、各実施例に係る第1凝集粒子よりも球状に近い形状の第2凝集粒子を含んでいた。なお、比較例2に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、大部分が粒子径20μm以上50μm以下の第1凝集粒子であり、粒子径60μm以上の第2凝集粒子は検出されなかった。そのため、平均面積円形度および平均面積包絡度の評価対象外とした。
【0100】
本六方晶窒化ホウ素粉末を得るためには、比較例1、2に示すように、再焼成前の粒度分布について、10μm以下の凝集粒子の体積基準割合を10%未満とすることが重要であることが示された。また、比較例3、4に示すように、再焼成における最高到達温度は1700℃以上とすることが重要であることも、併せて示された。
【0101】
<六方晶窒化ホウ素粉末を充填した樹脂シートの評価>
次に、各実施例および比較例に係る六方晶窒化ホウ素粉末を充填した樹脂シートを製造し、当該樹脂シートの熱伝導率を評価した。
【0102】
(樹脂シートの製造方法)
得られた六方晶窒化ホウ素粉末をエポキシ樹脂に充填し樹脂組成物を作製し、熱伝導率の評価を行った。エポキシ樹脂は、(三菱化学株式会社製JER828)100質量部と、硬化剤(イミダゾール系硬化剤、四国化成株式会社製キュアゾール2E4MZ)5質量部と、溶媒としてメチルエチルケトン210質量部との混合物を準備した。次に、基材樹脂35体積%と前記特定窒化ホウ素粉末65体積%、基材樹脂40体積%と前記特定窒化ホウ素粉末60体積%、または基材樹脂45体積%と前記特定窒化ホウ素粉末55体積%となるように、ワニス状の前記混合物と六方晶窒化ホウ素粉末とを自転・公転ミキサー(倉敷紡績株式会社製MAZERUSTAR)にて混合して樹脂組成物を得た。
【0103】
前記樹脂組成物を、テスター産業社製自動塗工機PI-1210を用いて、PETフィルム上に厚み180~220μm程度に塗工・乾燥し、減圧下、温度:200℃、圧力:5MPa、保持時間:30分の条件で硬化させ、厚さ150μmのシートを作製した。該シートを温度波熱分析装置にて解析し、熱伝導率を算出した。
【0104】
(結果)
得られた樹脂シートの熱伝導率(W/m・K)を下記表3に示す。
【0105】
【表3】
【0106】
充填量が55体積%および60体積%の条件において、実施例1~6に係る樹脂シートは、比較例1~4に係る樹脂シートよりも高い熱伝導率を示した。一方、充填量が65体積%の条件では、比較例2を除いて、各実施例および比較例に係る樹脂シートの熱伝導率は同等であった。これは、本発明の一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末が、比較的低い充填量の範囲において特に、従来よりも高い熱伝導率を得るために有効であることを示す結果である。
【0107】
以上の結果から、本発明の一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を用いることで、所望の熱伝導率を得るための充填量を、従来よりも低減できることが示された。
【0108】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【要約】
従来よりも少ない充填量により良好な熱伝導率を発揮できる六方晶窒化ホウ素粉末等を実現する。六方晶窒化ホウ素粉末であって、タップかさ密度が0.50g/cm以上であり、ゆるみかさ密度に対する前記タップかさ密度の比率が2.1以上であり、平均粒子径が15μm以上である。
図1