(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】アルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/149 20060101AFI20240917BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240917BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240917BHJP
B01J 27/19 20060101ALI20240917BHJP
B01J 27/138 20060101ALI20240917BHJP
B01J 23/652 20060101ALI20240917BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20240917BHJP
C07C 31/10 20060101ALI20240917BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240917BHJP
【FI】
C07C29/149
B01J37/08
B01J37/02 101D
B01J27/19 Z
B01J27/138 Z
B01J23/652 Z
C07C31/20 B
C07C31/20 Z
C07C31/10
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020022162
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019025400
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】水垣 共雄
(72)【発明者】
【氏名】金田 清臣
(72)【発明者】
【氏名】梶川 泰照
(72)【発明者】
【氏名】平井 雄一郎
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-505399(JP,A)
【文献】特表2016-532704(JP,A)
【文献】特表2002-536164(JP,A)
【文献】新田晃大ほか,Pt-Mo系触媒を用いたカルボン酸からアルコールへの選択的水素化反応,触媒討論会討論会A予稿集,2018年,Vol.122,p470,1I14
【文献】水垣共雄ほか,ハイドロキシアパタイト固定化白金-モリブデン触媒によるカルボン酸の高選択的水素化反応,触媒討論会討論会A予稿集,2017年,Vol.120,p43,P037
【文献】新田晃大ほか,ハイドロキシアパタイト固定化Pt-Mo触媒を用いたバイオマス由来カルボン酸からアルコールへの選択的水素化反応,日本化学会春季年会講演予稿集,2017年,Vol.97,ROMBUNNO.1A9-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記触媒の存在下で、下記基質が有するカルボキシル基を還元して、対応するアルコールを製造するアルコールの製造方法。
触媒:金属種として下記M
1とM
2が、下記担体に担持されてなる触媒
(M
1)白金
(M
2)モリブデン
(担体)
比表面積が10~50m
2
/gの酸化ジルコニウ
ム
基質:下記式(1a)又は(1b)又は(1c)で表されるカルボン酸
【化1】
(式中、R
1は水素原子
、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数2~5のアルケニル基を示し、R
2は単結合
、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、ビニレン基、1-メチルビニレン基、メチリデンエチレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1,3-ブタジエニレン基、1-ペンテニレン基、又は2-ペンテニレン基を示す)
【請求項2】
基質として式(1b)又は(1c)で表されるカルボン酸を使用し、当該基質の転化率が90%以上となった時点での、反応生成物全量における、下記式(2)で表されるアルコールの選択率が70%以上であり、下記式(3)で表されるラクトンの選択率が5%以下である、請求項1に記載のアルコールの製造方法。
【化2】
(式中、R
2は単結合
、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、ビニレン基、1-メチルビニレン基、メチリデンエチレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1,3-ブタジエニレン基、1-ペンテニレン基、又は2-ペンテニレン基を示す)
【請求項3】
触媒が、金属種としてM
1とM
2を、M
11モルに対してM
2を0.05~1モルの範囲で含有する請求項1又は2に記載のアルコールの製造方法。
【請求項4】
触媒の使用量(M
1金属換算)が、基質の0.01~30モル%である請求項1~3の何れか1項に記載のアルコールの製造方法。
【請求項5】
水の存在下で還元反応を行う請求項1~
3の何れか1項に記載のアルコールの製造方法。
【請求項6】
金属種として下記M
1とM
2が下記担体に担持されてなり、下記式(1a)又は(1b)又は(1c)で表される基質が有するカルボキシル基を還元して、対応するアルコールを得るのに使用される、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、又はジカルボン酸の還元触媒。
(M
1)白金
(M
2)モリブデン
(担体)
比表面積が10~50m
2
/gの酸化ジルコニウ
ム
【化3】
(式中、R
1は水素原子
、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数2~5のアルケニル基を示し、R
2は単結合
、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、ビニレン基、1-メチルビニレン基、メチリデンエチレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1,3-ブタジエニレン基、1-ペンテニレン基、又は2-ペンテニレン基を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸を還元してアルコールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球規模の二酸化炭素排出量削減のために、バイオマス資源から有用化成品への効率的変換反応の開発が強く望まれている。バイオマス由来の化合物としてコハク酸やフマル酸等のカルボン酸が挙げられる。これらのカルボン酸を還元することにより得られるアルコールは、プラスチックなどの化成品原料として有用である。
【0003】
従来、カルボン酸からアルコールへの還元には、LiAlH4やBH3等の還元剤が使用されてきた。しかし、これらの還元剤を使用した場合、反応後に多量の塩が副生することが問題であった。そのため、反応後に水のみを副生する分子状水素を還元剤として使用する、触媒的還元反応の開発が求められている。
【0004】
分子状水素を還元剤として使用するカルボン酸の触媒的還元反応としては、例えば、Ru-Ir-Re/SiO2等の触媒を使用する方法が知られている(特許文献1)。しかし、副生物の生成を抑制して、アルコールを選択的に得る為には、高温、高圧条件下で反応させることが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、温和な条件下で、効率よくカルボン酸を還元して、アルコールを選択的に製造する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、人体に安全であり、環境に優しい水を溶媒として使用して、効率よくカルボン酸を還元して、アルコールを選択的に製造する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、カルボン酸を効率よく還元してアルコールを選択的に製造する用途に使用する触媒を提供することにある。
本発明の他の目的は、カルボン酸を効率よく還元してアルコールを選択的に製造する用途に使用する触媒であって、耐久性に優れ、繰り返し使用しても高い触媒活性を維持することができる触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記特定の触媒を使用すると、温和な条件下でモノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、又はジカルボン酸を速やかに還元して対応するアルコールを選択的に製造することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は下記触媒の存在下で、下記基質が有するカルボキシル基を還元して、対応するアルコールを製造するアルコールの製造方法を提供する。
触媒:金属種として下記M
1とM
2が、下記担体に担持されてなる触媒
(M
1)ロジウム、白金、ルテニウム、イリジウム、又はパラジウム
(M
2)スズ、バナジウム、モリブデン、タングステン、又はレニウム
(担体)酸化ジルコニウム、ハイドロキシアパタイト、五酸化ニオブ、フルオロアパタイト、又はハイドロタルサイト
基質:下記式(1a)又は(1b)又は(1c)で表されるカルボン酸
【化1】
(式中、R
1は水素原子又は1価の炭化水素基を示し、R
2は単結合又は2価の炭化水素基を示す)
【0009】
本発明は、また、基質として式(1b)又は(1c)で表されるカルボン酸を使用し、当該基質の転化率が90%以上となった時点での、反応生成物全量における、下記式(2)で表されるアルコールの選択率が70%以上であり、下記式(3)で表されるラクトンの選択率が5%以下である前記アルコールの製造方法を提供する。
【化2】
(式中、R
2は単結合又は2価の炭化水素基を示す)
【0010】
本発明は、また、触媒が、金属種としてM1とM2を、M11モルに対してM2を0.05~1モルの範囲で含有する前記アルコールの製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、また、触媒の使用量(M1金属換算)が、基質の0.01~30モル%である前記アルコールの製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、また、触媒に含まれる担体の比表面積が5~250m2/gである、前記アルコールの製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、下記工程を経て触媒を調製し、得られた触媒を使用する前記アルコールの製造方法を提供する。
工程1:担体に、金属種M2を含有する溶液を含浸させ、乾燥し、その後、金属種M1を含有する溶液を含浸させ、乾燥する
工程2:溶液含浸後の担体を350~650℃で焼成する
【0014】
本発明は、また、水の存在下で還元反応を行う前記アルコールの製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、また、金属種として下記M
1とM
2が下記担体に担持されてなり、下記式(1a)又は(1b)又は(1c)で表される基質が有するカルボキシル基を還元して、対応するアルコールを得るのに使用される、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、又はジカルボン酸の還元触媒を提供する。
(M
1)ロジウム、白金、ルテニウム、イリジウム、又はパラジウム
(M
2)スズ、バナジウム、モリブデン、タングステン、又はレニウム
(担体)酸化ジルコニウム、ハイドロキシアパタイト、五酸化ニオブ、フルオロアパタイト、又はハイドロタルサイト
【化3】
(式中、R
1は水素原子又は1価の炭化水素基、R
2は単結合又は2価の炭化水素基を示す)
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、ワンステップで、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、又はジカルボン酸から、温和な条件下で、効率よく且つ選択的にアルコールを製造することができる。
また、本発明の製造方法によれば、人体に安全であり、環境に優しい水を溶媒として使用して、効率よく且つ選択的にアルコールを製造することができる。
そして、このようにして得られるアルコールは、プラスチックなどの化成品原料として有用である。従って、本発明の製造方法は工業的にアルコールを製造する方法として有用である。
【0017】
また、本発明のM1とM2が、酸化ジルコニウム、ハイドロキシアパタイト、五酸化ニオブ、フルオロアパタイト、又はハイドロタルサイトに担持されてなる触媒は、人体に安全であり、環境に優しい水を溶媒として使用して、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、又はジカルボン酸を還元してアルコールを得るための触媒として好適に使用することができる。
【0018】
前記触媒のなかでも、酸化ジルコニウムを担体とする触媒は、とりわけ耐久性に優れ、再利用を繰り返しても、高い触媒活性を維持することができる。そのため、前記酸化ジルコニウムを担体とする触媒によれば、触媒を繰り返し利用することができるので、アルコールの製造コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1の還元反応における反応時間(h)と反応生成物の収率(%)とを示す。
【
図2】調製例3で得られた触媒(3)のTEM画像(a)と、調製例4で得られた触媒(4)のTEM画像(b)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(触媒)
本発明のアルコールの製造方法は、金属種として下記M1とM2が、下記担体に担持されてなる触媒を、少なくとも1種使用することを特徴とする。
(M1)ロジウム、白金、ルテニウム、イリジウム、又はパラジウム
(M2)スズ、バナジウム、モリブデン、タングステン、又はレニウム
(担体)酸化ジルコニウム、ハイドロキシアパタイト、五酸化ニオブ、フルオロアパタイト、又はハイドロタルサイト
【0021】
尚、M1としては、ロジウム、白金、ルテニウム、イリジウム、及びパラジウムから選択される1種の金属種が担持され、M2としては、スズ、バナジウム、モリブデン、タングステン、及びレニウムから選択される1種の金属種が担持される。
【0022】
担体に担持されるM1とM2は、金属単体であってもよく、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、又は金属錯体等であってもよい。
【0023】
担体に担持されるM1粒子の平均粒子径は、例えば0.5~3.0nmである。前記平均粒子径は、特に優れた触媒活性を発揮する点において、1.0~2.0nmが好ましい。尚、前記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察法により求められる。
【0024】
M1の担持量(金属換算)は、担体の、例えば1~50重量%程度、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは1~10重量%である。M1を過剰に担持しても、触媒活性は飽和して横ばい状態となり、反応を促進する効果は得られない。一方、M1の担持量が上記範囲を下回ると、十分な触媒活性が得られ難くなる傾向がある。
【0025】
M2の担持量(金属換算)は、担体の、例えば0.01~20重量%程度、好ましくは0.01~10重量%、特に好ましくは0.01~1重量%、最も好ましくは0.05~0.8重量%、とりわけ好ましくは0.1~0.6重量%である。M2の担持量が上記範囲を外れると選択性が変化して、アルコール(例えば、基質としてモノカルボン酸を使用した場合はモノオール、基質としてジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸を使用した場合にはジオール)を選択的に製造することが困難となる傾向がある。
【0026】
本発明における触媒は、M1とM2の界面に触媒活性点を有すると考えられる。そして、M1とM2の一方が過剰になると、過剰の金属種によってもう一方の金属種が覆われて界面が減少し、触媒活性点が減少するためか、触媒活性が低下してアルコールの収率が低下する傾向がある。
【0027】
そのため、M1とM2の担持量は特定の範囲であることが好ましく、M11モルに対するM2の担持量は、例えば0.05~1モルの範囲であることが好ましい。また、M11モルに対するM2の担持量の上限は、好ましくは0.5モル、特に好ましくは0.4モル、最も好ましくは0.35モル、とりわけ好ましくは0.3モルである。M11モルに対するM2の担持量の下限は、好ましくは0.07モル、特に好ましくは0.1モル、最も好ましくは0.15モル、とりわけ好ましくは0.20モルである。
【0028】
本発明における触媒は、M1とM2以外の第3金属種の担持量が、M1とM2の合計担持量の例えば200モル%以下、好ましくは150モル%以下、より好ましくは100モル%以下、更に好ましくは70モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、特に好ましくは10モル%以下、最も好ましくは5モル%以下、とりわけ好ましくは1モル%以下である。第3金属種の担持量が上記範囲を上回ると、触媒活性点が減少するためか、本発明の効果が得られにくくなる傾向がある。
【0029】
本発明においては、M1とM2を担体に担持した状態で使用する。担体に担持することにより、M1とM2の界面面積を稼ぐことができ、触媒活性点を多く露出させることができる。
【0030】
前記担体としては、酸化ジルコニウム、ハイドロキシアパタイト、五酸化ニオブ、フルオロアパタイト、及びハイドロタルサイトが挙げられる。
【0031】
前記担体の比表面積は、例えば5~250m2/gである。前記担体としては、なかでも、より小さい比表面積を有する担体(比表面積は、好ましくは5~100m2/g、特に好ましくは10~50m2/g)が、触媒活性を高める点において好ましい。
【0032】
前記担体としては、なかでも、カルボン酸からアルコール(例えば、基質としてジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸を使用した場合にはジオール)を選択的且つ収率よく製造することができる点で、ハイドロキシアパタイト、五酸化ニオブ、フルオロアパタイト、及び酸化ジルコニウムから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0033】
担体としては、耐久性に優れる点で、酸化ジルコニウム又はハイドロキシアパタイトが好ましく、特に酸化ジルコニウムが好ましい。
【0034】
担体としては、カルボン酸からアルコール(例えば、基質としてジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸を使用した場合にはジオール)を選択的且つ収率よく製造することができ、且つ耐久性に優れる点で、酸化ジルコニウムが好ましい。
【0035】
ハイドロキシアパタイトとしては、例えば、商品名「リン酸三カルシウム」(和光純薬工業(株)製)等の市販品を好適に使用することができる。
【0036】
本発明における触媒は、カルボン酸を還元してアルコール(例えば、基質としてジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸を使用した場合にはジオール)を得るための還元触媒として好適に使用することができる。
【0037】
また、本発明においては、M1とM2を担体に担持してなる触媒を使用するため、反応終了後に、濾過、遠心分離等の物理的な分離手段により容易に触媒と反応生成物を分離することができ、反応生成物と分離され、回収された触媒は、そのままで、又は洗浄、乾燥等を施した後に、再利用することができる。前記触媒のなかでも、特に、酸化ジルコニウムを担体とする触媒は耐久性に優れ、反応溶液への溶出が抑制されるため、再利用を繰り返しても、高い触媒活性を維持することができる。
【0038】
本発明においては、前記の通り、高価な触媒を繰り返し利用することができるので、アルコールの製造コストを大幅に削減することができる。
【0039】
(触媒の調製方法)
本発明における触媒は、例えば、含浸法により調製することができる。
【0040】
含浸法は、上記金属種を含む化合物(=金属化合物)を溶媒(例えば、水等)に溶解して得られる溶液(例えば、水溶液)に担体を浸漬して、前記金属化合物を担体に含浸させた後、乾燥し、焼成することにより金属種を担体に担持させる方法である。溶液中の金属化合物濃度や、担体の浸漬時間等を調整することにより、金属種の担持量を制御することができる。
【0041】
そして、担体に、金属種M1を含有する溶液(金属種M1を含む化合物を溶媒に溶解して得られる溶液であり、以後、「M1含有溶液」と称する場合がある)と金属種M2を含有する溶液(金属種M2を含む化合物を溶媒に溶解して得られる溶液であり、以後、「M2含有溶液」と称する場合がある)を順次含浸させる方法(=逐次含浸法)や、担体にM1含有溶液とM2含有溶液を同時に含浸させる方法(=共含浸法)により調製することができる。共含浸法により触媒を調製する場合は、M1含有溶液とM2含有溶液の混合液中に担体を含浸し、その後、乾燥し、焼成すればよく、逐次含浸法により触媒を調製する場合は、担体をM1含有溶液とM2含有溶液の一方に含浸し、乾燥してから、M1含有溶液とM2含有溶液の他方に含浸し、乾燥し、その後、焼成すればよい。
【0042】
例えば、M1としてのPtとM2としてのMoが、共含浸法により担体に担持された触媒(例えば、Pt-Mo/担体)は、Pt化合物(例えば、H2PtCl6等)とMo化合物[例えば、(NH4)6Mo7O24・4H2O等]を水に溶解して得られる溶液中に担体を浸漬し、その後、担体を引き上げて焼成することにより調製することができる。
【0043】
例えば、M1としてのPtとM2としてのMoが、Mo-Ptの順に逐次的に担体に担持された触媒(例えば、Pt/Mo/担体)は、まず担体を、Mo化合物[例えば、(NH4)6Mo7O24・4H2O等]を水に溶解して得られる溶液中に浸漬し、引き上げて乾燥してから、次にPt化合物(例えば、H2PtCl6等)を水に溶解して得られる溶液中に浸漬し、その後、引き上げて焼成することにより調製することができる。
【0044】
前記溶液中に担体を浸漬する際の温度は、例えば10~80℃程度である。
【0045】
前記溶液中に担体を浸漬する時間は、例えば1~30時間程度、好ましくは1~5時間である。
【0046】
本発明においては、なかでも、逐次含浸法により、担体に、まずM2含有溶液を含浸し、乾燥してから、M1含有溶液を含浸し、乾燥後、焼成して得られた触媒が好ましい。前記方法で得られる触媒は、M1がM2に被覆されることが無く、M1の露出量が向上することにより、優れた選択性を発現して、アルコールを収率よく製造することができる。
【0047】
前記焼成は、例えばマッフル炉等を使用して行われる。焼成温度は、例えば300℃以上、700℃未満である。焼成時間は、例えば1~5時間である。焼成温度が上記範囲を上回ると、担体に担持された金属種が凝集するためか、触媒活性が急激に低下する傾向がある。
【0048】
焼成温度は、触媒活性を高める点において、なかでも350~650℃が好ましく、特に400~550℃が好ましく、とりわけ450~550℃が好ましい。
【0049】
また、焼成後、更に還元処理を施してもよい。還元処理に使用する還元剤としては、例えば、水素(H2)等を挙げることができる。
【0050】
還元処理温度及び時間としては、例えば0~600℃(好ましくは、100~200℃)の温度で、0.5~5時間程度(好ましくは、0.5~2時間)である。
【0051】
上記調製方法により得られた触媒は、その後、洗浄処理(水や有機溶媒等により洗浄)、乾燥処理(真空乾燥等により乾燥)等を施してもよい。
【0052】
(基質)
本発明では、基質として、下記式(1a)で表されるモノカルボン酸、下記式(1b)で表されるヒドロキシカルボン酸、又は下記式(1c)で表されるジカルボン酸を使用する。
【化4】
【0053】
前記式中、R1は水素原子又は1価の炭化水素基、R2は単結合又は2価の炭化水素基を示す。
【0054】
前記R1における1価の炭化水素基には、1価の脂肪族炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基、及びこれらから選択される2個以上の基が結合してなる1価の基が含まれる。
【0055】
1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、オクチル、2-エチルヘキシル、デシル基等の炭素数1~10(好ましくは、炭素数1~5)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;ビニル、アリル、プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル基等の炭素数2~10(好ましくは、炭素数2~5)の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基等が挙げられる。
【0056】
1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル基等の炭素数3~10(好ましくは、炭素数3~6)のシクロアルキル基;シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロオクテニル基等の炭素数3~10(好ましくは、炭素数3~6)のシクロアケニル基等が挙げられる。
【0057】
1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、ビナフチル、アントラセニル基等の炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。
【0058】
前記炭化水素基から選択される2個以上の基が結合してなる1価の基としては、例えば、シクロヘキシルメチル、ベンジル基等が挙げられる。
【0059】
前記R2における2価の炭化水素基には、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、及びこれらから選択される2個以上の基が結合してなる2価の基が含まれる。
【0060】
2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基等の炭素数1~10(好ましくは、炭素数1~5)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基;ビニレン、1-メチルビニレン、プロペニレン、1-ブテニレン、2-ブテニレン、1-ペンテニレン、2-ペンテニレン基等の炭素数2~10(好ましくは、炭素数2~5)の直鎖状又は分岐鎖状アルケニレン基等が挙げられる。
【0061】
2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチレン、シクロヘキシレン(例えば、1,2-シクロヘキシレン、1,3-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキシレン)、シクロヘプチレン基等の炭素数3~10(好ましくは、炭素数3~6)のシクロアルキレン基;シクロプロペニレン、シクロブテニレン、シクロペンテニレン、シクロヘキセニレン、シクロオクテニレン基等の炭素数3~10(好ましくは、炭素数3~6)のシクロアケニレン基等が挙げられる。
【0062】
2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン(例えば、o-フェニレン、m-フェニレン、p-フェニレン)、ビフェニレン、ナフチレン、ビナフチレン、アントラセニレン基等の炭素数6~20のアリーレン基が挙げられる。
【0063】
前記炭化水素基から選択される2個以上の基が結合してなる2価の基としては、例えば、シクロヘキシレンビス(メチレン)[例えば、1,2-シクロヘキシレンビス(メチレン)、1,3-シクロヘキシレンビス(メチレン)、1,4-シクロヘキシレンビス(メチレン)]、フェニレンビス(メチレン)(例えば、1,2-フェニレンビス(メチレン)、1,3-フェニレンビス(メチレン)、1,4-フェニレンビス(メチレン))等が挙げられる。
【0064】
前記1価の炭化水素基及び2価の炭化水素基は置換基を1個又は2個以上有していてもよい。前記置換基としては、例えば、C1-5アルコキシ基、C6-10アリールオキシ基、C7-11アラルキルオキシ基、オキソ基、ハロゲン原子、ハロC1-5アルキル基等が挙げられる。
【0065】
[アルコールの製造方法]
本発明のアルコールの製造方法は、上記触媒の存在下で基質が有するカルボキシル基を還元して(好ましくは、分子状水素で還元若しくは水素化して)、対応するアルコールを製造することを特徴とする。
【0066】
本発明のアルコールの製造方法では、使用する基質に応じたアルコールが得られる。
例えば、基質として下記式(1a)で表されるモノカルボン酸を使用した場合、下記式(4)で表されるモノオールが得られる。
基質として下記式(1b)で表されるヒドロキシカルボン酸、又は下記式(1c)で表されるジカルボン酸を使用した場合、下記式(2)で表されるジオールが得られる。
【化5】
(式中、R
1、R
2は上記に同じ)
【0067】
より詳細には、基質として式(1c)で表されるジカルボン酸を使用した場合、式(1c)で表されるジカルボン酸は、2つのカルボキシル基が同時に還元されて、或いは順次に還元されることにより式(1b)で表されるヒドロキシカルボン酸を経て、式(2)で表されるジオールとなる[1][2]。
また、[1]を経て得られた式(1b)で表されるヒドロキシカルボン酸の一部は、分子内脱水縮合されることにより、式(3)で表されるラクトンとなるが[3]、ラクトンは更に還元されて環状エステル基が開環することにより、式(2)で表されるジオールとなる[4]。
【化6】
【0068】
触媒の使用量(触媒に含まれるM1金属換算)は、基質の、例えば0.01~30モル%程度、好ましくは0.1~10モル%、特に好ましくは0.5~5モル%、最も好ましくは1~5モル%である。
【0069】
また、触媒の使用量(触媒に含まれるM2金属換算)は、基質の、例えば0.01~10モル%程度、好ましくは0.05~5モル%、特に好ましくは0.1~2モル%である。
【0070】
触媒を上記範囲で使用すると、温和な条件下で、効率よく基質を還元して、アルコールを選択的に製造することができる。触媒の使用量が上記範囲を下回ると、アルコールの収率が低下する傾向がある。
【0071】
還元反応(若しくは、水素化反応)に使用する水素の供給は、例えば水素雰囲気下で反応を行う方法や、水素ガスをバブリングする方法等により行われる。
【0072】
本発明では、上記触媒を使用するため温和な条件下で基質が有するカルボキシル基や環状エステル基の還元を速やかに進行させることができ、還元反応時の水素圧は、例えば、10MPa以下、好ましくは8MPa以下、特に好ましくは5MPa以下(例えば、1~5MPa)である。
【0073】
また、還元反応の反応温度は、使用する触媒によって変化するが、例えば50~200℃、好ましくは100~180℃、特に好ましくは120~160℃、最も好ましくは120~150℃である。
【0074】
特に酸化ジルコニウムを担体とする触媒(とりわけ、担体としての酸化ジルコニウムに、逐次含浸法により、金属種がM2-M1の順で担持されてなる触媒)は、高い触媒活性を有するため、これを触媒として使用する場合は、前記還元反応の反応温度を、例えば70~100℃まで(特に、80~95℃まで)低温化することができる。
【0075】
還元反応の反応時間は、例えば1~36時間程度、好ましくは5~30時間、特に好ましくは5~20時間である。
【0076】
還元反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0077】
還元反応は液相で行うことが好ましい。すなわち、本発明における還元反応は液相反応が好ましい。モノカルボン酸、ジカルボン酸、及びヒドロキシカルボン酸は沸点が高いので、還元反応を気相で行うと反応生成物が分解し、アルコールの収率が低下する傾向がある。
【0078】
液相で反応を行う場合、溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール系溶媒;1,4-ジオキサン、THF、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;トルエン、ヘキサン、ドデカン等の炭化水素系溶媒;1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒などを挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0079】
本発明においてはなかでも、人体に安全であり、環境に優しい点で、水が好ましい。すなわち、本発明における還元反応は水の存在下で行うことが好ましい。また、本発明においては、上記[3]の反応により生成した式(3)で表されるラクトンは、水の存在下で還元反応を行うと、上記[4]のエステル開環反応が進行して、式(2)で表されるジオールを生成することができる。従って、本発明では、基質として式(1b)又は(1c)で表されるカルボン酸を使用する場合には、とりわけ、水の存在下で還元反応を行うことが、式(2)で表されるジオールを高収率で得ることができる点で好ましい。
【0080】
溶媒全量における水の使用量は、例えば1重量%以上が好ましく、より好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上、とりわけ好ましくは90重量%以上である。従って、溶媒全量における水以外の溶媒(例えば有機溶媒、特にTHF等のエーテル系有機溶媒)の使用量は、例えば90重量%以下が好ましく、より好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下、更に好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下、とりわけ好ましくは1重量%以下である。
【0081】
溶媒の使用量は、バッチ式で反応させる場合は、基質の初期濃度が例えば0.01~10重量%程度となる範囲が好ましい。
【0082】
本発明では、上記触媒を使用するため、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸などの酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の塩基から選択される1種又は2種以上が反応系に存在せずとも、基質の還元反応を速やかに進行させることができる。また、本発明では、前記酸や塩基を使用してもよいが、これらの使用量(2種以上含有する場合はその総量)は、基質1モルに対して、例えば0.001モル未満であることが好ましく、実質的に使用しないことが特に好ましい。反応系に前記酸や塩基が前記範囲を超えて存在すると、後処理にて中和処理が必要となるが、中和処理により塩が副生し、副生した塩を除去することで製品にロスが発生するためである。また、前記酸や塩基は腐食性を有するため、使用する反応器の材質が制限されるためである。
【0083】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0084】
本発明のアルコールの製造方法では、温和な条件下でも、基質を効率よく転化することができる。反応開始から30時間後(好ましくは20時間後)の基質の転化率は、例えば80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0085】
そして、上記触媒は、基質として式(1b)又は(1c)で表されるカルボン酸を使用した場合には、前記カルボン酸が有するカルボキシル基を速やかに還元することができるため、分子内脱水縮合反応が進行してラクトンが副生するのを抑制し、且つ副生したラクトンは還元することにより、対応するアルコールを選択的に且つ高収率で製造することができる。
【0086】
そのため、基質として式(1b)又は(1c)で表されるカルボン酸を使用し、当該基質の転化率が90%以上となった時点での、反応生成物全量における、下記式(2)で表されるアルコールの選択率は、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。そして、下記式(3)で表されるラクトンの選択率は、例えば5%以下、好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
【化7】
(式中、R
2は単結合又は2価の炭化水素基を示す)
【0087】
従って、本発明のアルコールの製造方法によれば、ワンステップの簡便な方法で、また、人体に安全であり、環境に優しい水を溶媒として使用して、アルコールを選択的且つ高収率で製造することができる。特に、基質として式(1b)又は(1c)で表されるカルボン酸を使用した場合に、ラクトンの副生を抑制して、ジオールを選択的且つ高収率で製造することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0089】
調製例1
(触媒の調製:共含浸法)
H2PtCl6 0.0898gと(NH4)6Mo7O24・4H2O 0.088gを水50mLに溶解して得られた溶液中に、室温(25℃)条件下で、ハイドロキシアパタイト(HAP、商品名「リン酸三カルシウム」、和光純薬工業(株)製)1gを4時間浸漬した。浸漬後、ハイドロキシアパタイトを溶液から取り出して、ロータリーエバポレーターにて減圧下で水を留去した。これにより粉末を得た。その後、得られた粉末を空気雰囲気下、マッフル炉にて500℃で3時間焼成して、触媒(1)[Pt-Mo/HAP、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0.485重量%、Mo/Pt(モル比)=0.25]を得た。
【0090】
調製例2
(触媒の調製:共含浸法)
ハイドロキシアパタイトに代えて、フルオロアパタイト(FAP、商品名「フッ素アパタイト」、太平化学産業(株)製)を使用した以外は調製例1と同様にして、触媒(2)[Pt-Mo/FAP、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0.485重量%、Mo/Pt(モル比)=0.25]を得た。
【0091】
調製例3
(触媒の調製:共含浸法)
ハイドロキシアパタイトに代えて、酸化ジルコニウム(ZrO
2、比表面積:22.1m
2/g、触媒学会参照触媒「JRC-ZRO-8」)を使用した以外は調製例1と同様にして、触媒(3)[Pt-Mo/JRC-ZRO-8、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0.5重量%、Mo/Pt(モル比)=0.25、担持されるPt粒子の平均粒子径:1.5nm、標準偏差(δ):0.4nm]を得た。得られた触媒(3)のTEM画像を
図2に示す。
【0092】
調製例4
(触媒の調製:共含浸法)
ハイドロキシアパタイトに代えて、酸化ジルコニウム(ZrO
2、比表面積:100.5m
2/g、触媒学会参照触媒「JRC-ZRO-7」)を使用した以外は調製例1と同様にして、触媒(4)[Pt-Mo/JRC-ZRO-7、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0.5重量%、Mo/Pt(モル比)=0.25、担持されるPt粒子の平均粒子径:0.8nm、標準偏差(δ):0.2nm]を得た。得られた触媒(4)のTEM画像を
図2に示す。
【0093】
調製例5
(触媒の調製:逐次含浸法)
H2PtCl6 0.0898gを水50mLに溶解して得られたPt溶液中に、室温(25℃)条件下で、「JRC-ZRO-8」1gを4時間浸漬した。浸漬後、酸化ジルコニウムをPt溶液から取り出して、110℃で乾燥させた。
乾燥後、酸化ジルコニウムを、(NH4)6Mo7O24・4H2O 0.088gを水50mLに溶解して得られたMo溶液中に、室温(25℃)条件下で4時間浸漬した。浸漬後、酸化ジルコニウムをMo溶液から取り出して、110℃で乾燥させ、更に、空気雰囲気下、マッフル炉にて500℃で3時間焼成して、触媒(5)[Mo/Pt/JRC-ZRO-8、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0.5重量%、Mo/Pt(モル比)=0.25]を得た。
【0094】
調製例6
(触媒の調製:逐次含浸法)
担体を、まずPt溶液に浸漬し、続いてMo溶液に浸漬したのに代えて、まずMo溶液に浸漬し、続いてPt溶液に浸漬した以外は調製例5と同様にして、触媒(6)[Pt/Mo/JRC-ZRO-8、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0.5重量%、Mo/Pt(モル比)=0.25]を得た。
【0095】
調製例7
(触媒の調製:共含浸法)
ハイドロキシアパタイトに代えて、五酸化ニオブ(Nb2O5、和光純薬工業(株)製)を使用した以外は調製例1と同様にして、触媒(7)[Pt-Mo/Nb2O5、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0.485重量%、Mo/Pt(モル比)=0.25]を得た。
【0096】
調製例8
(触媒の調製:逐次含浸法)
焼成温度を300℃に変更した以外は調製例6と同様にして、触媒(8)[Pt/Mo/JRC-ZRO-8、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0.5重量%、Mo/Pt(モル比)=0.25]を得た。
【0097】
調製例9
(触媒の調製:逐次含浸法)
Mo溶液濃度を変更した以外は調製例6と同様にして、触媒(9)[Pt/Mo/JRC-ZRO-8、Pt担持量:4重量%、Mo/Pt(モル比)=0.13]を得た。
【0098】
調製例10
(触媒の調製:逐次含浸法)
Mo溶液濃度を変更した以外は調製例6と同様にして、触媒(10)[Pt/Mo/JRC-ZRO-8、Pt担持量:4重量%、Mo/Pt(モル比)=0.19]を得た。
【0099】
調製例11
(触媒の調製:逐次含浸法)
Mo溶液濃度を変更した以外は調製例6と同様にして、触媒(11)[Pt/Mo/JRC-ZRO-8、Pt担持量:4重量%、Mo/Pt(モル比)=0.31]を得た。
【0100】
比較調製例1
(触媒の調製:逐次含浸法)
Mo溶液への浸漬を行わなかった以外は調製例6と同様にして、触媒(12)[Pt/JRC-ZRO-8、Pt担持量:4重量%、Mo担持量:0]を得た。
【0101】
実施例1
(参考例とする)
テフロン(登録商標)製内筒を備えたオートクレーブに、基質としてのコハク酸1ミリモルと触媒(1)100mg[基質の2モル%のPt、0.5モル%のMo(金属換算)]、及び水3mLを仕込み、水素圧5MPaの条件下、130℃で12時間反応させて反応生成物を得た。HPLCを使用して基質の転化率(conv.[%])を測定し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を使用して各反応生成物の収率(yield[%])を測定した。結果を
図1に示す。
【0102】
【0103】
実施例2(参考例とする)
反応条件を下記に変更した以外は実施例1と同様に行った。
水素圧:8MPa
水:100mL
反応時間:31時間
【0104】
実施例3(参考例とする)
触媒(1)に代えて触媒(2)を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0105】
実施例4
触媒(1)に代えて触媒(3)を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0106】
実施例5(参考例とする)
触媒(1)に代えて触媒(7)を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0107】
比較例1~9
触媒(1)に代えて、表1に記載の触媒を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0108】
【0109】
実施例6~10(参考例とする)
基質、及び反応時間を下記表に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0110】
【0111】
実施例11、12(参考例とする)
基質、反応時間、及び反応温度を下記表に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0112】
【0113】
実施例13(参考例とする)
触媒(1)に代えて、実施例1の反応終了後、反応生成物中に含まれる触媒を取り出し、水洗し、乾燥することにより得られた触媒(1)reuse 1を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0114】
実施例14(参考例とする)
触媒(1)に代えて、実施例13の反応終了後、反応生成物中に含まれる触媒を取り出し、水洗し、乾燥して得られた触媒(1)reuse 2を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0115】
実施例15(参考例とする)
触媒(1)に代えて、実施例14の反応終了後、反応生成物中に含まれる触媒を取り出し、水洗し、乾燥して得られた触媒(1)reuse 3を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0116】
実施例16(参考例とする)
触媒(1)に代えて、実施例3の反応終了後、反応生成物中に含まれる触媒を取り出し、水洗し、乾燥して得られた触媒(2)reuse 1を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0117】
実施例17
触媒(1)に代えて、実施例4の反応終了後、反応生成物中に含まれる触媒を取り出し、水洗し、乾燥することにより得られた触媒(3)reuse 1を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0118】
実施例18
触媒(1)に代えて、実施例17の反応終了後、反応生成物中に含まれる触媒を取り出し、水洗し、乾燥して得られた触媒(3)reuse 2を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0119】
実施例19
触媒(1)に代えて、実施例18の反応終了後、反応生成物中に含まれる触媒を取り出し、水洗し、乾燥して得られた触媒(3)reuse 3を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0120】
実施例20(参考例とする)
触媒(1)に代えて、実施例5の反応終了後、反応生成物中に含まれる触媒を取り出し、水洗し、乾燥することにより得られた触媒(7)reuse 1を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0121】
結果を下記表にまとめて示す。下記表より、担体として酸化ジルコニウムを使用した触媒は耐久性に優れ、2回以上繰り返し再利用しても活性が低下しないことがわかる。
【0122】
【0123】
実施例21、22(実施例22は参考例とする)
下記表に記載の触媒を使用し、且つ反応温度を110℃に変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を下記表にまとめて示す。下記表より、酸化ジルコニウムの比表面積は小さい方が、触媒活性が高いことがわかる。
【0124】
【0125】
実施例23~25
下記表に記載の触媒(調製例3,5,又は6で得られた触媒)を使用し、且つ反応温度を110℃、反応時間を3時間に変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を下記表にまとめて示す。
下記表より、逐次含浸法によりM1とM2を、M2-M1の順で担持して得られた触媒が、共含浸法により得られた触媒や、逐次含浸法であってもM1-M2の順に担持して得られた触媒よりも、活性が高いことがわかる。
【0126】
【0127】
実施例26、27
下記表に記載の触媒(調製例6又は8で得られた触媒)を使用し、且つ反応温度を80℃、反応時間を12時間に変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を下記表にまとめて示す。
【0128】
【0129】
実施例28~33、比較例10
下記表に記載の触媒(調製例6,9,10,11,又は比較調製例1で得られた触媒)を使用し、下記表に記載の温度で反応させた以外は実施例1と同様に行った。結果を下記表にまとめて示す。
【0130】