(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】病虫害診断装置、病虫害診断方法、病虫害診断プログラム、モデル生成装置、モデル生成方法、及びモデル生成プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20240917BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240917BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240917BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240917BHJP
G06N 20/20 20190101ALI20240917BHJP
【FI】
G06Q50/02
A01G7/00 603
G06T7/00 350B
G06N20/00 130
G06N20/20
(21)【出願番号】P 2020207867
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-07-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究「AIを活用した病害虫診断技術の開発」、官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)「農業データアグリゲーションスキームの構築及びそれを活用した病害虫診断AI技術開発の加速化」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山中 武彦
(72)【発明者】
【氏名】孫 建強
(72)【発明者】
【氏名】岸 茂樹
【審査官】藤原 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-093957(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047726(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/174645(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137085(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
A01G 7/00
G06T 7/00
G06N 20/00
G06N 20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の病虫害を診断する対象植物を撮影した画像を取得する取得部と、
前記画像から、当該画像が撮影された位置及び日時を表す情報を抽出する抽出部と、
植物を撮影した画像と、当該画像中の植物の病虫害を表すデータとを教師データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、前記画像を入力として、植物の病虫害を推定する推定部と、
過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを参照して、前記抽出部が抽出した前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する算出部と、
前記病虫害の推定結果と前記病虫害の発生確率の算出結果とを参照して、前記対象植物の病虫害を診断する診断部と
を備えた、病虫害診断装置。
【請求項2】
前記算出部は、
前記発生履歴データに基づいて作成した統計モデルであって、任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を推定する統計モデル、又は、
前記発生履歴データを教師データとして機械学習を行うことにより生成した学習モデルであって、任意の位置及び任意の日時を入力として、当該位置及び当該日時における病虫害の発生確率を推定するように学習された学習モデル
を用いて、前記抽出部が抽出した前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する、請求項1に記載の病虫害診断装置。
【請求項3】
前記診断部は、
前記病虫害の推定結果を得るための学習モデルと前記病虫害の発生確率の算出結果を得るための学習モデルとを融合した、前記対象植物における病虫害の診断結果を推定するアンサンブル学習モデルを用いて、又は
前記病虫害の推定結果と前記病虫害の発生確率の算出結果との相関を所定の基準で評価するフィルタリングにより、
前記対象植物の病虫害を診断する、請求項1又は2に記載の病虫害診断装置。
【請求項4】
前記病虫害の推定結果と前記病虫害の発生確率の算出結果との相関が所定の基準を満たさないと前記診断部が判断した場合に、病虫害を診断できない旨をユーザに通知する通知部をさらに備えている、請求項1から3の何れか1項に記載の病虫害診断装置。
【請求項5】
前記通知部が病虫害を診断できない旨をユーザに通知した場合に、ユーザによる病虫害の診断結果の入力を受け付ける入力部をさらに備えている、請求項4に記載の病虫害診断装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の病虫害診断装置によって対象植物の病虫害を診断する方法であって、
前記取得部が植物の病虫害を診断する対象植物を撮影した画像を取得する取得工程と、
前記抽出部が前記画像から、当該画像が撮影された位置及び日時を表す情報を抽出する抽出工程と、
前記推定部が植物を撮影した画像と、当該画像中の植物の病虫害を表すデータとを教師データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、前記画像を入力として、当該植物の病虫害を推定する推定工程と、
前記算出部が過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを参照して、前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する算出工程と、
前記診断部が前記病虫害の推定結果と前記病虫害の発生確率の算出結果とを参照して、前記対象植物の病虫害を診断する診断工程と、
を包含する、病虫害診断方法。
【請求項7】
請求項1から5の何れか1項に記載の病虫害診断装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
植物の病虫害を診断する対象植物を撮影した画像を取得する取得ステップと、
前記画像から、当該画像が撮影された位置及び日時を表す情報を抽出する抽出ステップと、
植物を撮影した画像と、当該画像中の植物の病虫害を表すデータとを教師データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、前記画像を入力として、当該植物の病虫害を推定する推定ステップと、
過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを参照して、前記抽出部が抽出した前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する算出ステップと、
前記病虫害の推定結果と前記病虫害の発生確率の算出結果とを参照して、前記対象植物の病虫害を診断する診断ステップと
を実行する、病虫害診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病虫害診断装置、病虫害診断方法、病虫害診断プログラム、モデル生成装置、モデル生成方法、及びモデル生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化する農業従事者や経験の浅い新規就農者による安定営農を支えるため、高度な専門性を必要とする植物の病虫害の診断及び防除の充実した支援体制が求められている。専門知識や経験がなくても植物の病虫害の診断を可能にする技術として、植物を撮影した画像に基づき植物の病虫害を診断する技術が開発されている。
【0003】
特許文献1には、植物を撮影した画像に基づき、統計的に病虫害を診断する技術が記載されている。特許文献2には、機械学習を利用して、植物を撮影した画像に基づき病虫害を診断する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2017/194276A1
【文献】特開2016-168046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術のように、画像のみに基づき病虫害を診断するためには、膨大な画像情報を収集する必要がある。したがって、数多くの対象作目を加害する主要な病虫害の全てを診断することが可能な画像診断システムを構築するためには、長い年月がかかる。一方で、病虫害の診断システムの開発は急務である。さらに、技術開発は日進月歩であるため、長い年月をかけて画像診断システムを構築しても、完成したときには陳腐化してしまう可能性がある。また、外観のみでは区別しづらい病虫害も存在するため、画像のみでは正確な診断が困難な場合もある。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、容易に植物の病虫害を診断する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る病虫害診断装置は、植物の病虫害を診断する対象植物を撮影した画像を取得する取得部と、前記画像から、当該画像が撮影された位置及び日時を表す情報を抽出する抽出部と、植物を撮影した画像と、当該画像中の植物の病虫害を表すデータとを教師データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、前記画像を入力として、植物の病虫害を推定する推定部と、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを参照して、前記抽出部が抽出した前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する算出部と、前記病虫害の推定結果と前記病虫害の発生確率の算出結果とを参照して、前記対象植物の病虫害を診断する診断部とを備えている。
【0008】
本発明の一態様に係る病虫害診断方法は、植物の病虫害を診断する対象植物を撮影した画像を取得する取得工程と、前記画像から、当該画像が撮影された位置及び日時を表す情報を抽出する抽出工程と、植物を撮影した画像と、当該画像中の植物の病虫害を表すデータとを教師データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、前記画像を入力として、当該植物の病虫害を推定する推定工程と、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを参照して、前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する算出工程と、前記病虫害の推定結果と前記病虫害の発生確率の算出結果とを参照して、前記対象植物の病虫害を診断する診断工程とを包含する。
【0009】
本発明の一態様に係るモデル生成装置は、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを用いて、当該発生位置と、当該発生日時における気象データとの関連性をモデル化することで、任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を算出する算出モデルを生成する生成部を備えている。
【0010】
本発明の一態様に係るモデル生成方法は、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを用いて、当該発生位置と、当該発生日時における気象データとの関連性をモデル化することで、任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を算出する算出モデルを生成する工程を包含する。
【0011】
本発明の各態様に係る病虫害診断装置及びモデル生成装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記病虫害診断装置及び前記モデル生成装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記病虫害診断装置及び前記モデル生成装置をコンピュータにて実現させる病虫害診断装置及びモデル生成装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、容易に植物の病虫害を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る病虫害診断装置及びモデル生成装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る病虫害診断装置及びモデル生成装置において利用する発生履歴データの一例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る病虫害診断装置による病虫害の診断の概念を説明する図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る病虫害診断装置における診断処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係るモデル生成装置におけるモデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔病虫害診断装置〕
図1を参照して、本発明の一態様に係る病虫害診断装置100について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る病虫害診断装置100及びモデル生成装置104の要部構成の一例を示すブロック図である。モデル生成装置104の詳細については、後述する。
【0015】
病虫害診断装置100は、植物の病虫害を診断する装置である。病虫害診断装置100において診断する病虫害には、病原菌又は害虫が原因となる植物病、植物の生理障害等が含まれ、植物の正常な状態又は健常な状態とは異なる状態が意図される。病虫害診断装置100は、植物に病虫害が発生しているか否か、及び、発生している病虫害の種類を診断する。
【0016】
病虫害診断装置100は、植物の作目毎(例えば、トマト用、キュウリ用、ナス用、イチゴ用等)に設けられたものであってよいし、複数の作目をまとめて対象とするものであってもよい。
【0017】
病虫害診断装置100は、病虫害診断サービスを提供する企業、団体等のサービス提供者が使用するものであり得る。本明細書中におけるユーザとは、当該サービス提供者であることが意図されるが、サービスの提供を受けて病虫害の診断結果を利用する農業従事者も含まれ得る。
【0018】
図1に示すように、病虫害診断装置100は、制御部10を備えている。制御部10は、病虫害診断装置100の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部10の各部が構成される。当該各部として、制御部10は、取得部11、抽出部12、推定部13、算出部14、診断部15を備えている。
【0019】
(取得部11)
取得部11は、対象植物を撮影した画像の画像データを取得する。取得部11は、入力装置101を介してユーザが入力した画像データを取得する。取得部11は、画像データと共に、当該画像データに含まれる植物の作目名を表す情報を取得してもよい。植物の作目名を表す情報は、ユーザが入力した情報であってもよいし、画像データから推定された情報であってもよい。
【0020】
画像には、診断の対象となる植物の全体又は一部の画像が含まれ得る。画像は、植物の葉、茎、花などの局所画像であることが好ましい。また、画像は、植物の全体が含まれる画像や複数の植物が含まれる広域画像から葉等の局所部分を切り出した画像であってもよい。画像は、スマートフォンやタブレット端末、デジタルカメラ等の撮影装置を用いて撮影された画像である。取得部11は、取得した画像データを抽出部12へ出力する。
【0021】
(抽出部12)
抽出部12は、画像から、当該画像が撮影された位置及び日時を表す情報を抽出する。抽出部12は、取得部11から出力された画像データを取得し、画像データに含まれるヘッダ情報から、当該画像が撮影された位置及び日時を表す情報を抽出する。画像データからの位置及び日時を表す情報の抽出は、画像データからヘッダ情報を抽出するように構築されたプログラムにより実行することができる。抽出部12は、抽出した位置及び日時を表す情報を算出部14へ出力する。また、抽出部12は、画像データを推定部13へ出力する。
【0022】
画像データに含まれる位置情報は、撮影装置に搭載されたGPS受信機により得られた位置情報であり得、一例として、GPS座標から得られる緯度及び経度を表す情報である。一例として、GPSによる衛星測位システムを挙げているが、GLONASS、ガリレオ、みちびきなど任意の衛星測位システムを利用することができる。また、得られた緯度及び経度から特定される市区町村、県等の情報であってもよい。画像データに含まれる日時情報は、撮影装置に搭載されたカレンダー機能から得られる撮影した日付に関する情報であり、一例として、撮影した年月日を表す情報である。
【0023】
(推定部13)
推定部13は、植物を撮影した画像と、当該画像中の植物の病虫害を表すデータとを教師データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、画像を入力として、植物の病虫害を推定する。推定部13は、画像に基づき、植物の病虫害を推定する。推定部13は、植物の病虫害の推定結果を診断部15に出力する。病虫害の推定結果には、一例として、病虫害の分類がその発生確率と共に含まれている。
【0024】
推定部13が利用する学習モデルは、植物を撮影した画像と、当該画像中の植物の病虫害を表すデータとを教師データとして用いて機械学習を行うことにより生成されたものである。機械学習方法の一例として、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)等の深層ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン、等の既知の機械学習方法が挙げられる。
【0025】
教師データには、植物病に罹患した植物、害虫の被害を受けた植物、生理障害が生じた植物等の画像と、それらの原因となる病原菌名、病状名、害虫名等の診断結果とを対応付けたデータが含まれる。また、診断結果には、病中害の発生の可能性、発生程度、症状の進行の度合いなどの情報が含まれていてもよい。推定部13が利用する学習モデルは、入力された画像中の植物がどの診断結果に分類されるかを推定して出力する。学習モデルが推定する診断結果には、病虫害の分類と、その病虫害が発生している確率とが含まれていてもよい。
【0026】
学習モデルは、植物の作目毎の教師データを用いて生成したものであってもよい。診断の対象となる植物の作目毎に学習モデルが生成されており、推定部13は、取得した画像に含まれる植物の作目に応じた学習モデルを選択して推定に用いてもよい。また、学習モデルは、複数の作目を含む教師データを用いて生成したものであってもよい。この場合、学習モデルは、入力された画像中の植物の作目の分類とその診断結果とを推定し得る。
【0027】
(算出部14)
算出部14は、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを参照して、前記抽出部が抽出した前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する。算出部14は、病虫害の発生履歴に基づいた分析により、病虫害の発生確率を算出する。算出部14は、発生確率の算出結果を診断部15に出力する。発生確率の算出結果には、一例として、病虫害の分類がその発生確率と共に含まれている。
【0028】
図2を参照して、算出部14が参照する発生履歴データ200について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る病虫害診断装置100及びモデル生成装置104において利用する発生履歴データ200の一例を示す図である。発生履歴データ200は、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表すデータである。
図2に示すように、発生履歴データ200には、一例として、年月日、都道府県名、作物名、病虫害名、調査名、及び程度のデータが含まれる。
【0029】
年月日は病虫害に関する調査を行った日を表し、これを便宜上、病虫害の発生日時とみなす。都道府県名は、病虫害の調査を行った都道府県名を表しており、これを便宜上、病虫害の発生位置とみなす。作物名は、病虫害が発生した植物の分類を表す。病虫害名は、植物に発生した病虫害の分類を表す。調査名は、病虫害に関して調査した指標を表す。程度は、病虫害の発生の度合いを表す。
【0030】
発生履歴データ200は、複数の作物について、複数の病虫害を対象としてその発生を調査して得られたものであり得る。また、発生履歴データ200は、都道府県単位で所定期間毎に複数年調査して得られたものであり得る。発生履歴データは、作目毎に作成されたものであってもよい。算出部14は、作目毎に作成された発生履歴データを参照することにより、作目毎に病虫害の発生確率を推定してもよい。
【0031】
算出部14は、前記発生履歴データに基づいて作成した統計モデルであって、任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を推定する統計モデル、又は、前記発生履歴データを教師データとして機械学習を行うことにより生成した学習モデルであって、任意の位置及び任意の日時を入力として、当該位置及び当該日時における病虫害の発生確率を推定するように学習された学習モデルを用いて、前記抽出部が抽出した前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する。算出部14は、発生履歴データ200に基づき構築した統計モデル又は学習モデルを用いて、病虫害の発生確率を算出し得る。統計モデル及び学習モデルは、複数の作目を対象として生成されたものであってもよいし、作目毎に生成されてもよい。
【0032】
算出部14が用いる統計モデルは、発生履歴データ200に基づいて作成したものである。統計モデルは、発生履歴データ200と、病虫害の発生位置及び発生日時における気象データとの関連性をモデル化することで、任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を推定するものである。ここで、気象データは、病虫害の発生位置及び発生日時における降水量や気温等の情報を含んでおり、気象庁等の気象情報を提供する機関が公開しているデータであり得る。気象データは、位置及日時毎の気象情報を表したデータであってもよいし、市区町村毎や都道府県毎のデータ、並びに、月毎や季節毎のデータであってもよい。
【0033】
統計モデルは、一例として、病虫害が発生する位置及びその位置の気象データと病虫害の発生確率との相関、及び、病虫害が発生する日時及びその日の気象データと病虫害の発生確率との相関を表す統計モデルである。統計モデルの一例として、線形回帰モデル、スパースモデリング、一般化線形モデル、状態空間モデル、階層ベイズモデル、時系列モデル、クラスタリング等が挙げられる。
【0034】
算出部14が用いる学習モデルは、発生履歴データ200と気象データとを教師データとして機械学習を行うことにより生成したものである。学習モデルは、任意の位置及び任意の日時を入力として、当該位置及び当該日時における病虫害の発生確率を出力するものである。機械学習方法の一例として、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン、等が挙げられる。
【0035】
(診断部15)
診断部15は、病虫害の推定結果と病虫害の発生確率の算出結果とを参照して、前記対象植物の病虫害を診断する。診断部15は、推定部13による画像データに基づく病虫害の推定結果と、算出部14による発生履歴データに基づく病虫害の推定結果との両方を参照して、植物の病虫害を診断する。診断部15は、診断結果を出力装置102及び記憶装置103に出力する。診断部15は、病虫害の推定結果と病虫害の発生確率の算出結果とを同等の重要度で診断し得る。また、診断部15は、病虫害の推定結果による診断を病虫害の発生確率の算出結果により補強するように診断してもよいし、病虫害の発生確率の算出結果による診断を病虫害の推定結果により補強するように診断してもよい。
【0036】
診断部は、病虫害の推定結果を得るための学習モデルと病虫害の発生確率の算出結果を得るための学習モデルとを融合した、対象植物における病虫害の診断結果を推定するアンサンブル学習モデルを用いて、又は、病虫害の推定結果と病虫害の発生確率の算出結果との相関を所定の基準で評価するフィルタリングにより、対象植物の病虫害を診断し得る。
【0037】
診断部15は、アンサンブル学習により病虫害を診断し得る。アンサンブル学習は、一例として、画像データを入力として病虫害を推定するニューラルネットワークの2層目又は3層目に、発生履歴データに基づく病虫害の発生確率の算出結果を入力し、2層又は3層のニューラルネットワークを追加構築したものである。アンサンブル学習は、画像データに基づく病虫害の推定結果と、発生履歴データに基づく病虫害の発生確率の算出結果とのカテゴリ数が同一又は大きく異ならない場合に適している。
【0038】
診断部15は、フィルタリングにより病虫害を診断し得る。フィルタリングは、一例として、病虫害の推定結果と病虫害の発生確率の算出結果とを様々に組み合わせて、所定の基準で評価した場合の最適な診断結果を得るものである。フィルタリングは、画像データに基づく病虫害の推定結果と、発生履歴データに基づく病虫害の発生確率の算出結果とのカテゴリ数が大きく異なる場合に適している。一例として、発生履歴データに基づく病虫害の発生確率の算出結果が画像データに基づく病虫害の推定結果よりもカテゴリ数が多いことが想定され、このような場合は、フィルタリングによる診断が適している。
【0039】
診断部15は、病虫害の診断結果が所定の基準を満たさないような場合には、病虫害の診断ができないと判断し、診断を中止する。この場合、診断部15は、診断ができない旨の情報を出力装置102に出力する。病虫害の診断結果が所定の基準を満たさない場合とは、一例として、病虫害の推定結果又は病虫害の発生確率の算出結果が適切でない場合、病虫害の推定結果と病虫害の発生確率の算出結果との相関が低い場合等、正確な診断が困難である場合が挙げられる。また、対象植物に新規の病虫害又は稀な病虫害が発生している場合にも診断が困難であるため、診断部15による診断を中止する。
【0040】
入力装置(入力部)101は、ユーザによる病虫害診断装置100に対する操作入力を受け付け、当該操作入力を表す情報を病虫害診断装置100に出力する。入力装置101は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タブレット等の入力デバイスである。
【0041】
入力装置101は、病虫害診断装置100内に備えられていてもよい。入力装置101は、ユーザが撮影した植物の画像を受け付ける。また、入力装置101は、ユーザからの診断開始を表す操作入力や、診断を求める植物の作目名等の操作入力を受け付けてもよい。入力装置101は、ユーザが植物を撮影した撮影装置からインターネット等の通信媒体を介して送信された画像データを受け付けるものであってもよい。また、入力装置101は、クラウドコンピューティング等を利用してネットワーク上から画像データをダウンロードするものであってもよい。
【0042】
入力装置101は、出力装置102が病虫害を診断できない旨をユーザに通知した場合に、ユーザによる病虫害の診断結果の入力を受け付ける。診断部15による診断が困難な場合にはユーザが診断して、その結果を出力するようにしてもよい。
【0043】
出力装置(通知部)102は、病虫害診断装置100による診断結果を表す情報を出力する。出力装置102による出力の態様は特に限定されない。出力装置102は、例えば、当該情報を画像として表示する表示装置、当該情報を印刷する印刷装置、又は、当該情報を音声として出力する警報装置であってもよい。
【0044】
出力装置102は、病虫害診断装置100内に備えられていてもよい。出力装置102は、病虫害の推定結果と病虫害の発生確率の算出結果との相関が所定の基準を満たさないと診断部15が判断した場合に、病虫害を診断できない旨をユーザに通知する。出力装置102は、一例として、病虫害を診断できないことを表す表示を表示装置に表示して、ユーザに通知する。
【0045】
記憶装置103は、病虫害診断装置100にて使用されるプログラム及びデータを記憶する。記憶装置103は、一例として、病虫害診断装置100による診断結果、病虫害診断装置100が使用する学習モデル及び算出モデル等を記憶している。また、記憶装置103は、発生履歴データを記憶していてもよい。記憶装置103は、診断結果を記憶するデータベースをクラウド又はサーバ上に有していてもよい。
【0046】
図3及び4を参照して、病虫害診断装置100による病虫害の診断処理(病虫害診断方法)の流れについて説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る病虫害診断装置による病虫害の診断の概念を説明する図である。
図4は、本発明の一実施形態に係る病虫害診断装置における診断処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0047】
図3及び4に示すように、病虫害診断装置100は、まず、取得部11において画像データを取得する(ステップS1、取得工程)。取得された画像データは抽出部12に送られる。抽出部12は、画像データから、画像が撮影された位置及び日時の情報を抽出する(ステップS2、抽出工程)。画像データ中の画像は、抽出部12から推定部13に送られ、位置及び日時の情報は、抽出部12から算出部14に送られる。
【0048】
推定部13は、画像に基づいて植物の病虫害を推定する(ステップS3、推定工程)。推定部13において得られた画像判定結果は、診断部15に送られる。算出部14は、発生履歴データを参照して、抽出された位置及び日時における病虫害の発生確率を算出する(ステップS4、算出工程)。算出部14において得られた発生確率は、診断部15に送られる。診断部15は、病虫害の推定結果と病虫害の発生確率の算出結果とを参照して、病虫害を診断する(ステップS5、診断工程)。
【0049】
病虫害診断装置100は、画像に基づく病虫害の判定と過去の発生履歴に基づく病虫害の判定とを組み合わせて、植物の病虫害を診断するので、膨大な画像情報を収集しなくても、病虫害を診断することができる。そのため、画像のみに基づいて病虫害を診断する場合と比較して、容易に病虫害を診断することができる。また、病虫害診断装置100は、膨大な画像情報の収集が必要ないため、短期間で容易に装置を構築することができる。さらに、病虫害診断装置100は、画像及び発生履歴に基づいて統合的に病虫害を診断するので、外観では区別しづらい病虫害のように画像のみでは診断が困難な場合であっても、病虫害を診断することができる。
【0050】
〔モデル生成装置〕
図1を参照して、本発明の一態様に係るモデル生成装置104について説明する。モデル生成装置104は、病虫害診断装置100の算出部14が病虫害の発生確率を算出するために用いる算出モデルを生成する。
【0051】
図1に示すように、モデル生成装置104は、制御部20を備えている。制御部20は、モデル生成装置104の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部20の各部が構成される。当該各部として、制御部20は、データ取得部21、モデル生成部(生成部)22、及び、気象データ取得部23を備えている。
データ取得部21は、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを取得する。データ取得部21は、発生履歴データは入力装置101を介して取得することができる。また、データ取得部21は、記憶装置103に記憶された発生履歴データを取得してもよい。発生履歴データは、上述した病虫害診断装置100において使用した発生履歴データと同一であるため、その詳細な説明は省略する。データ取得部21は、取得した発生履歴データをモデル生成部22へ出力する。
【0052】
モデル生成部22は、発生履歴データを用いて、任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を算出する算出モデルを生成する。算出モデルは、病虫害の発生履歴に基づいた分析により、病虫害の発生確率を算出するものである。
【0053】
気象データ取得部23は、過去の病虫害の発生位置及び発生日時における気象データを取得する。気象データ取得部23は、入力装置101を介して気象データを取得することができる。また、気象データ取得部23は、記憶装置103に記憶された気象データを取得してもよい。気象データは、上述した病虫害診断装置100において使用した気象データと同一であるため、その詳細な説明は省略する。気象データ取得部23は、取得した気象データをモデル生成部22へ出力する。
【0054】
算出モデルは、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データに基づいて作成した統計モデルであって、任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を推定する統計モデル、又は、発生履歴データを教師データとして機械学習を行うことにより生成した学習モデルであって、任意の位置及び任意の日時を入力として、当該位置及び当該日時における病虫害の発生確率を推定するように学習された学習モデルである。
【0055】
モデル生成部22が生成する統計モデル及び学習モデルについては、上述した病虫害診断装置100の算出部14が用いる統計モデル及び学習モデルと同一であるため、その詳細な説明は省略する。モデル生成部22は、生成した算出モデルを病虫害診断装置100へ出力する。また、モデル生成部22は、生成した算出モデルを記憶装置103に記憶させてもよい。
【0056】
図5を参照して、モデル生成装置104によるモデル生成処理(モデル生成方法)の流れについて説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係るモデル生成装置におけるモデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0057】
図5に示すように、モデル生成装置104は、まず、データ取得部21において発生履歴データを取得する(ステップS11)。続いて、気象データ取得部23において、気象データを取得する(ステップS12)。取得した発生履歴データ及び気象データはモデル生成部22に送られる。モデル生成部22は、発生履歴データ及び気象データを用いて、病虫害の発生確率を算出する算出モデルを生成する(ステップS13、算出モデルを生成する工程)。
【0058】
モデル生成装置104は、病虫害の発生履歴データを用いて任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を算出する算出モデルを生成するので、病虫害の発生履歴に基づくヒストリカル分析に利用することができる。
【0059】
〔ソフトウェアによる実現例〕
病虫害診断装置100及びモデル生成装置104の制御部10及び制御部20は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0060】
後者の場合、病虫害診断装置100及びモデル生成装置104は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0061】
すなわち、以下の病虫害診断プログラム及びモデル生成プログラムについても、本発明の技術的範囲に含まれる:
本発明の一態様に係る病虫害診断装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、植物の病虫害を診断する対象植物を撮影した画像を取得する取得ステップと、前記画像から、当該画像が撮影された位置及び日時を表す情報を抽出する抽出ステップと、植物を撮影した画像と、当該画像中の植物の病虫害を表すデータとを教師データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、前記画像を入力として、当該植物の病虫害を推定する推定ステップと、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを参照して、前記抽出部が抽出した前記位置及び前記日時における病虫害の発生確率を算出する算出ステップと、前記病虫害の推定結果と前記病虫害の発生確率の算出結果とを参照して、前記対象植物の病虫害を診断する診断ステップとを実行する、病虫害診断プログラム;
本発明の一態様に係るモデル生成装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、過去の病虫害の発生位置及び発生日時の履歴を表す発生履歴データを用いて、任意の位置及び任意の日時における病虫害の発生確率を算出する算出モデルを生成するステップを実行する、モデル生成プログラム。
【0062】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
11 取得部
12 抽出部
13 推定部
14 算出部
15 診断部
22 モデル生成部(生成部)
100 病虫害診断装置
104 モデル生成装置