(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】保持テーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 41/06 20120101AFI20240917BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240917BHJP
B23Q 3/08 20060101ALI20240917BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20240917BHJP
【FI】
B24B41/06 L
B24B27/06 M
B23Q3/08 A
B23K26/364
(21)【出願番号】P 2020208729
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-356357(JP,A)
【文献】特開昭61-039546(JP,A)
【文献】特開2012-206247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 41/06
B24B 27/06
B23Q 3/08
B23K 26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持テーブルの製造方法であって、
板状物の表面に第1の方向に沿った複数の第1の溝を形成する第1の溝形成ステップと、
該板状物を裏返して、該板状物の裏面に該第1の方向に交差する第2の方向に沿った複数の第2の溝を形成する第2の溝形成ステップと、
複数の該第1の溝と、複数の該第2の溝と、がそれぞれ形成された複数の該板状物を重ね合わせ、複数の該板状物を一体化し吸引プレートを形成する吸引プレート形成ステップと、
上面に収容凹部が形成された枠体の該収容凹部に該吸引プレートを収容して保持テーブルを形成する収容ステップと、を備え、
該第1の溝及び該第2の溝は、該板状物の側面に達しておらず、
該第1の溝の深さ及び該第2の溝の深さの和は該板状物の厚さより大きく、該第1の溝及び該第2の溝は互いに連通し、
該吸引プレートの厚さは、該収容凹部の深さよりも大きいことを特徴とした保持テーブルの製造方法。
【請求項2】
該第1の溝形成ステップでは、円環状の切削ブレードで該板状物の該表面側を切削することで該第1の溝を形成し、
該第2の溝形成ステップでは、該切削ブレードで該板状物の該裏面側を切削することで該第2の溝を形成することを特徴とする請求項1に記載の保持テーブルの製造方法。
【請求項3】
該第1の溝形成ステップでは、該板状物に吸収される波長のレーザービームを該板状物の該表面側に照射してアブレーション加工により該第1の溝を形成し、
該第2の溝形成ステップでは、該レーザービームを該板状物の該裏面側に照射してアブレーション加工により該第2の溝を形成することを特徴とする請求項1に記載の保持テーブルの製造方法。
【請求項4】
該収容ステップでは、接着材により該吸引プレートを該枠体の該収容凹部に固定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の保持テーブルの製造方法。
【請求項5】
該吸引プレート形成ステップの前に複数の該板状物のそれぞれの該表面側及び該裏面側をエッチングするエッチングステップをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の保持テーブルの製造方法。
【請求項6】
該板状物は、該保持テーブルで保持する被加工物と同素材であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の保持テーブルの製造方法。
【請求項7】
複数の該第1の溝の間隔と、複数の該第2の溝の間隔と、の一方又は両方は、該板状物の中心から離れるほど狭いことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の保持テーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置において板状の被加工物を保持するための保持テーブルを製造する保持テーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に搭載されるデバイスチップを形成する際、まず、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスを円板状の半導体ウェーハの表面に形成する。このとき、複数の該デバイスを行列状に半導体ウェーハの表面に配する。そして、半導体ウェーハを裏面側から研削して薄化し、半導体ウェーハをデバイス毎に分割してデバイスチップを形成する。
【0003】
半導体ウェーハの研削は、研削装置で実施される(例えば、特許文献1参照)。研削装置は、半導体ウェーハ等の被加工物を吸引保持する保持テーブルと、該保持テーブルで吸引保持された被加工物を研削する研削ユニットと、を備える。研削ユニットは、環状の研削ホイールを下端に備える。そして、保持テーブルの上面に対面する該研削ホイールの下面には、円環状に配列された研削砥石が装着されている。
【0004】
保持テーブルは、平面形状が被加工物と概ね等しい多孔質部材と、該多孔質部材を収容する収容凹部を上部に備えた枠体と、を有する。枠体の内部には、一端が収容凹部の底面に達し、他端が枠体の外部に達する吸引路が設けられている。枠体の収容凹部に多孔質部材を収容して該多孔質部材の上面を露出させ、多孔質部材の上に被加工物を載せ、該吸引路の該他端側に吸引源を接続すると、該吸引路及び該多孔質部材を介して該被加工物に負圧が作用し、該被加工物が吸引保持される。
【0005】
研削装置で被加工物を研削する際、研削ホイールを回転させて研削砥石を環状軌道上に回転移動させ、研削ユニットを保持テーブルに向けて下降させる。すると、研削砥石の底面が被加工物の上面の被研削面に接触し、被加工物が研削される。ここで、被加工物を高精度に研削するためには、保持テーブルの多孔質部材の上面と、回転移動する研削砥石の底面と、が平行である必要がある。そこで、被加工物を多孔質部材に載せる前に、研削砥石で多孔質部材を研削して形状を整えるセルフグラインドと呼ばれる工程が実施される。
【0006】
しかしながら、半導体等の材料で形成される被加工物と、セラミックス等の材料で形成される多孔質部材と、では研削に適した研削砥石の種別が異なる。そのため、セルフグラインドを実施する際には、専用の研削砥石を備える研削ホイールを研削ユニットに装着する必要があり、セルフグラインドが終了した後に被加工物に適した研削砥石を備える研削ホイールを交換する必要があった。
【0007】
ここで、被加工物と同質の材料で多孔質構造が形成された保持テーブルが知られている(例えば、特許文献2参照)。この場合、保持テーブルの研削と被加工物の研削を同じ研削砥石で実施できるため、セルフグラインドを実施した後に研削ホイールの交換が不要であり、セルフグラインドの後にそのまま被加工物の研削を開始できる。ただし、この多孔質構造を有する保持テーブルの製造のために、複雑な工程が必要であった。
【0008】
また、被加工物と同質の材料で形成された吸引プレートを保持テーブルの多孔質部材の上に載せ、吸引プレート及び多孔質部材を介して被加工物を吸引保持する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。吸引プレートの内部には、一方の面から他方の面に通じた吸引経路が形成される。ただし、研削装置ではセルフグラインドを実施する際、吸引プレートの上面が露出して負圧が漏出するため、吸引プレートの保持が容易ではなくセルフグラインドを適切に実施しにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-200545号公報
【文献】特開2011-9424号公報
【文献】特開2004-356357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、枠体の収容凹部に多孔質部材に代えて吸引プレートを収容して保持テーブルを作成することも考えられる。しかしながら、多孔質部材が収容されていた収容凹部に収容する吸引プレートは、収容凹部の深さよりも大きな厚さを備える必要がある。さもなければ、保持テーブルをセルフグラインドする際に吸引プレートよりも先に枠体に研削砥石が接触することになる。この場合、セルフグラインドのための研削ホイールの交換が必要となる。
【0011】
その一方で、吸引プレートを単に厚くすると、吸引プレートの一方の面から他方の面に至る吸引経路を該吸引プレートに形成するのが困難となる。例えば、円環状の切削ブレードで吸引プレートの両面に切削溝を形成して両面の切削溝を互いの交差点で連通させる場合、吸引プレートが厚くなると深い切削溝を形成する必要がある。深い切削溝を形成するためには刃厚の大きい切削ブレードを使用しなければならず、形成される切削溝の幅も増大する。この場合、被加工物を吸引プレートで適切に支持できなくなる。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、研削装置で効率的にセルフグラインドできる保持テーブルを容易に製造できる保持テーブルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によると、保持テーブルの製造方法であって、板状物の表面に第1の方向に沿った複数の第1の溝を形成する第1の溝形成ステップと、該板状物を裏返して、該板状物の裏面に該第1の方向に交差する第2の方向に沿った複数の第2の溝を形成する第2の溝形成ステップと、複数の該第1の溝と、複数の該第2の溝と、がそれぞれ形成された複数の該板状物を重ね合わせ、複数の該板状物を一体化し吸引プレートを形成する吸引プレート形成ステップと、上面に収容凹部が形成された枠体の該収容凹部に該吸引プレートを収容して保持テーブルを形成する収容ステップと、を備え、該第1の溝及び該第2の溝は、該板状物の側面に達しておらず、該第1の溝の深さ及び該第2の溝の深さの和は該板状物の厚さより大きく、該第1の溝及び該第2の溝は互いに連通し、該吸引プレートの厚さは、該収容凹部の深さよりも大きいことを特徴とした保持テーブルの製造方法が提供される。
【0014】
好ましくは、該第1の溝形成ステップでは、円環状の切削ブレードで該板状物の該表面側を切削することで該第1の溝を形成し、該第2の溝形成ステップでは、該切削ブレードで該板状物の該裏面側を切削することで該第2の溝を形成する。
【0015】
または、好ましくは、該第1の溝形成ステップでは、該板状物に吸収される波長のレーザービームを該板状物の該表面側に照射してアブレーション加工により該第1の溝を形成し、該第2の溝形成ステップでは、該レーザービームを該板状物の該裏面側に照射してアブレーション加工により該第2の溝を形成する。
【0016】
また、好ましくは、該収容ステップでは、接着材により該吸引プレートを該枠体の該収容凹部に固定する。
【0017】
また、好ましくは、該吸引プレート形成ステップの前に複数の該板状物のそれぞれの該表面側及び該裏面側をエッチングするエッチングステップをさらに備える。
【0018】
また、好ましくは、該板状物は、該保持テーブルで保持する被加工物と同素材である。
【0019】
また、好ましくは、複数の該第1の溝の間隔と、複数の該第2の溝の間隔と、の一方又は両方は、該板状物の中心から離れるほど狭い。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様に係る保持テーブルの製造方法では、板状物の表面と裏面のそれぞれに互いに交差するように複数の溝を形成する。そして、この板状物を重ね合わせて一体化して吸引プレートを形成する。各板状物では、表面と裏面のそれぞれの溝が互いの交差点で接続される。そのため、各板状物の表裏面間が連通し、吸引プレートの表裏面間が連通する。ここで、吸引プレートよりも薄い板状物のそれぞれの両面に互いに連通する溝を形成するのは、比較的容易である。
【0021】
そして、吸引プレートを構成する板状物の数を変えることで吸引プレートの厚さを調整できるため、枠体の収容凹部の深さを超える厚さの吸引プレートの形成も可能となる。そのような厚さの吸引プレートを形成して収容凹部に収容して保持テーブルを製造したとき、吸引プレートの上部が枠体の上面よりも高くなる。この保持テーブルを研削装置に組み込みセルフグラインドを実施すると、研削砥石を枠体に接触させることなく吸引プレートだけを研削できる。
【0022】
したがって、本発明により、研削装置で効率的にセルフグラインドできる保持テーブルを容易に製造できる保持テーブルの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】第1の溝形成ステップを模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、板状物の表面側を模式的に示す斜視図であり、
図4(B)は、板状物の裏面側を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5(A)は、板状物の表面側の一部を拡大して模式的に示す平面図であり、
図5(B)は、板状物の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6(A)は、板状物を積み重ねる様子を模式的に示す斜視図であり、
図6(B)は、吸引プレートを模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8(A)は、収容ステップを模式的に示す断面図であり、
図8(B)は、製造された保持テーブルを模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10(A)は、収容ステップを模式的に示す断面図であり、
図10(B)は、製造された保持テーブルを模式的に示す断面図である。
【
図11】レーザー加工装置を模式的に示す斜視図である。
【
図12】保持テーブルの製造方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係る保持テーブルの製造方法では、加工装置で被加工物を保持するのに使用できる保持テーブルを製造する。特に、被加工物を研削する研削装置に好適に使用できる。ただし、保持テーブルの用途はこれに限定されず、他の目的で使用されてもよい。
【0025】
まず、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法で製造される保持テーブルが使用される研削装置について説明する。
図1は、研削装置2を模式的に示す斜視図である。研削装置2の各構成要素を支持する基台4の上面には、開口4aが形成されている。開口4a内には、保持テーブル10が上面に載る移動テーブル6が設けられている。移動テーブル6は、保持テーブル10上で被加工物が着脱される搬出入領域16と、被加工物の研削が実施される加工領域18と、の間を移動する。
【0026】
搬出入領域16と、加工領域18と、の間を移動する移動テーブル6の移動方向における該移動テーブル6の両端部には、開口4aを覆うように移動テーブル6の移動に伴って伸縮する蛇腹状の防塵防滴カバー8が接続されている。防塵防滴カバー8の下方には、移動テーブル6を該移動方向に沿って移動させる図示しない移動機構が配設されている。
【0027】
移動テーブル6に載る保持テーブル10は、被加工物の径に対応する径の吸引プレート14と、該吸引プレート14を収容する収容凹部が上面に形成された枠体12と、を有する。保持テーブル10の上面は、被加工物を保持する保持面となる。保持テーブル10は、一端が吸引プレート14に通じ、他端が図示しない吸引源に接続された吸引路(
図1において不図示)を内部に備える。
【0028】
被加工物を保持テーブル10で保持する際には、被加工物を保持面の上に載せる。その後、該吸引源を作動させると、保持面上に載せられた被加工物に負圧が作用して、該被加工物が保持テーブル10に吸引保持される。
【0029】
保持テーブル10の底部の中央には、保持面に垂直な方向に沿った回転軸(不図示)の上端が組付けられている。回転軸の下端には図示しない回転駆動源が接続されており、該回転駆動源を作動させると、保持テーブル10は保持面に垂直な回転軸の周りに回転する。
【0030】
加工領域18の上方には、被加工物を研削する研削ユニット32が配設される。研削装置2の基台4の後方端部には支持部20が立設されており、この支持部20により研削ユニット32が支持されている。支持部20の前面には、研削ユニット32を昇降させる昇降ユニット22が配設されている。昇降ユニット22は、支持部20の前面に設けられた鉛直方向に伸長する一対のガイドレール24と、ガイドレール24にスライド可能に取り付けられた移動プレート26と、を有する。
【0031】
移動プレート26の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、ガイドレール24に平行なボールねじ28が螺合されている。ボールねじ28の一端部には、パルスモータ30が連結されている。パルスモータ30でボールねじ28を回転させれば、移動プレート26は、ガイドレール24に沿って鉛直方向に移動する。
【0032】
昇降ユニット22は、ガイドレール24と、移動プレート26と、ボールねじ28と、パルスモータ30と、を含む。移動プレート26の前面には、研削ユニット32が固定されている。昇降ユニット22を作動させると、移動プレート26に固定された研削ユニット32を昇降できる。
【0033】
研削ユニット32は、鉛直方向に沿って伸長するスピンドル36と、スピンドル36の上部を覆うスピンドルハウジング34と、スピンドル36の基端側(上端側)に連結されたモータ(不図示)と、を備える。さらに、スピンドル36の先端側(下端側)にはホイールマウント38が配設されており、ホイールマウント38の下面には研削ホイール40が固定される。
【0034】
研削ホイール40の下面には、円環状に並ぶ複数の研削砥石42が装着されている。研削砥石42は、例えば、樹脂等でなるボンド材と、該ボンド材に分散固定されたダイヤモンド等の砥粒と、を備える。モータを作動させてスピンドル36を回転させると、研削砥石42が円環軌道上を移動する。スピンドル36を回転させている状態で研削ユニット32を下降させ、研削砥石42を保持テーブル10で保持された被加工物の上面に接触させると、被加工物が研削されて薄化される。
【0035】
研削装置2では、被加工物を高精度に研削するために、保持テーブル10の保持面と、回転移動する研削砥石42の底面と、が平行である必要がある。そこで、被加工物を保持テーブル10に載せる前に、研削砥石42で保持テーブル10の保持面を研削して形状を整えるセルフグラインドと呼ばれる工程が実施される。ここで、保持テーブル10の吸引プレート14を被加工物と同素材で形成すると、セルフグラインドと、被加工物の研削と、を同じ研削砥石42で実施できる。
【0036】
研削装置2で研削される被加工物は、例えば、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体等の材料で形成される略円板状の基板である。または、被加工物は、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる基板等である。
【0037】
被加工物の表面には、ICやLSI等の複数のデバイスが行列状に配されて形成される。被加工物を裏面側から研削して薄化し、その後デバイス毎に分割すると、個々のデバイスチップが得られる。デバイスチップは、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器に搭載されて使用される。
【0038】
なお、保持テーブル10の吸引プレート14は、被加工物と厳密に同じ素材から形成される必要はない。研削砥石42による研削され易さが被加工物と同程度の素材であれば、セルフグラインドの前後で研削ホイール40の交換は不要となる。したがって、吸引プレート14の素材は、被加工物の素材に限定されない。
【0039】
次に、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法で使用される切削装置について説明する。
図2は、切削装置44を模式的に示す斜視図である。切削装置44は、各構成要素を支持する基台46を備える。
【0040】
基台46の上面には、長手方向がX軸方向(加工送り方向)に沿うように矩形の開口46aが形成されている。開口46a内には、移動テーブル48と、移動テーブル48の移動に伴って伸縮する蛇腹状の防塵防滴カバー50が接続されている。防塵防滴カバー50の下方には、移動テーブル48をX軸方向に沿って移動させる図示しない移動機構(加工送りユニット)が配設されている。
【0041】
移動テーブル48の上面には、保持テーブル52が配設されている。保持テーブル52は、上方に露出した多孔質部材52aに載せられた被加工物を吸引保持する機能を有する。多孔質部材52aの上面は、被加工物を保持する保持面となる。保持テーブル52は、保持面の周囲に複数のクランプ52bを備える。クランプ52bは、
図3を用い後述するように、被加工物となる板状物1を含むフレームユニット11を構成する環状フレーム7を把持する機能を有する。
【0042】
保持テーブル52の内部には、該保持テーブル52の外部に設けられたエジェクタ等の吸引源(不図示)に一端が接続された吸引路(不図示)が形成されている。吸引路の他端は、多孔質部材52aに達している。保持面に被加工物を置き該吸引源を作動させると、保持テーブル52は該被加工物を吸引保持できる。保持テーブル52はモータ等の回転駆動源(不図示)に連結されており、Z軸方向(鉛直方向)に概ね平行な回転軸の周りに回転する。
【0043】
保持テーブル52の上方には、切削ユニット76が配設される。基台46の上面には、切削ユニット76を支持するための支持構造54が配置されている。支持構造54は、開口46aの上方に該開口46aを渡るように伸長した腕部56を上部に備える。
【0044】
支持構造54の前面上部には、切削ユニット76をY軸方向(割り出し送り方向)に移動させる割り出し送りユニット58が設けられている。割り出し送りユニット58は、支持構造54の前面にY軸方向に沿って伸長した一対のY軸ガイドレール60を備える。一対のY軸ガイドレール60には、Y軸移動プレート62がスライド可能に装着されている。Y軸移動プレート62の裏面側(後面側)にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部にはY軸ガイドレール60に平行なY軸ボールねじ64が螺合されている。
【0045】
Y軸ボールねじ64の一端部には、Y軸パルスモータ(不図示)が連結されている。Y軸パルスモータによってY軸ボールねじ64を回転させることにより、Y軸移動プレート62がY軸ガイドレール60に沿ってY軸方向に移動する。
【0046】
Y軸移動プレート62の表面(前面)には、切削ユニット76をZ軸方向(上下方向)に沿って昇降させる昇降ユニット66が設けられる。昇降ユニット66は、Z軸方向に沿った一対のZ軸ガイドレール68をY軸移動プレート62の表面に備える。一対のZ軸ガイドレール68にはZ軸移動プレート70がスライド可能に取り付けられている。
【0047】
Z軸移動プレート70の裏面側(後面側)にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部にはZ軸ガイドレール68に平行な方向に沿うように設けられたZ軸ボールねじ72が螺合されている。Z軸ボールねじ72の一端部にはZ軸パルスモータ74が連結されており、このZ軸パルスモータ74によってZ軸ボールねじ72を回転させることにより、Z軸移動プレート70がZ軸ガイドレール68に沿ってZ軸方向に移動する。
【0048】
Z軸移動プレート70の下部には切削ユニット76が固定されている。切削ユニット76に隣接する位置には、保持テーブル52に支持された被加工物を撮像し、加工位置を検出するための撮像ユニット76bが設けられている。割り出し送りユニット58により切削ユニット76及び撮像ユニット76bのY軸方向における位置が制御され、昇降ユニット66により切削ユニット76及び撮像ユニット76bのZ軸方向における位置が制御される。
【0049】
図3には、切削ユニット76を模式的に示す斜視図が含まれている。切削ユニット76は、先端に切削ブレード78が装着されたスピンドルを収容する筒状のスピンドルハウジング80を備える。このスピンドルハウジング80には、Y軸方向に対して概ね平行な回転軸となるスピンドルが回転できるように収容される。
【0050】
このスピンドルの一端部には、環状の切削ブレード78が装着される。切削ブレード78は、アルミニウム等で形成された環状の基台78aと、該基台78aの外周部に固定された環状の切り刃78bと、を備える。切り刃78bは、例えば、ダイヤモンド等の砥粒を樹脂や金属等の結合材で固定することによって形成される。
【0051】
スピンドルの他端側にはモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されており、該回転駆動源でスピンドルを回転させると、切削ブレード78が回転する。スピンドルハウジング80の一端側には、切削ブレード78の外周部の上側を覆うブレードカバー76aが設けられている。
【0052】
ブレードカバー76aの下端には、それぞれ、Y軸方向において切削ブレード78を挟むように配置される一対のノズル82が設けられている。被加工物を切削する際には、この一対のノズル82から切削ブレード78や被加工物に切削水が供給される。切削水としては、例えば、水(純水)や、水に薬品を添加した液体等が使用される。
【0053】
次に、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法について説明する。該製造方法では、研削装置2で加工される被加工物と同様の形状及び素材の板状物を準備し、この板状物を加工して両面を連通させる吸引路を形成する。そして、吸引路が形成された複数の板状物を一体化させて吸引プレート14を形成し、これを枠体12の収容凹部に収容して保持テーブルを製造する。
図12は、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【0054】
ここで、吸引プレート14の部品となる板状物について説明する。
図3には、板状物1を模式的に示す斜視図が含まれている。例えば、研削装置2で被加工物としてシリコンウェーハを研削することが予定されている場合、板状物1もシリコンウェーハとするとよい。次に説明する第1の溝形成ステップS10及び第2の溝形成ステップS20は、切削装置44で実施される。
【0055】
図3に示す通り、板状物1を切削装置44に搬入する前に板状物1と、粘着テープ9と、環状フレーム7と、を一体化してフレームユニット11を形成してもよい。すなわち、環状フレーム7の開口を塞ぐように該環状フレーム7に粘着テープ9を貼り、該開口中に露出した粘着テープ9の粘着面に板状物1を貼着する。例えば、板状物1の裏面1b側を下方に向けて粘着テープ9に貼り付け、板状物1の表面1a側を上方に露出させる。
【0056】
そして、フレームユニット11を形成した後、フレームユニット11の状態の板状物1を切削装置44に搬入してこの状態の板状物1を切削装置44で加工する。ただし、板状物1は必ずしも粘着テープ9及び環状フレーム7と一体化しなくてもよい。
【0057】
本実施形態に係る保持テーブルの製造方法では、まず、第1の溝形成ステップS10を実施する。第1の溝形成ステップS10は、例えば、
図2に示す切削装置44で実施される。まず、板状物1を含むフレームユニット11を保持テーブル52の多孔質部材52a上に載せ、環状フレーム7をクランプ52bで把持し、粘着テープ9を介して板状物1を吸引保持する。そして、保持テーブル52を回転させ、切削装置44の加工送り方向(X軸方向)と、板状物1の第1の方向13(
図4参照)と、の向きを合わせる。
【0058】
図3は、第1の溝形成ステップS10を模式的に示す斜視図である。
図3では、保持テーブル52等を省略している。
図3に示す通り、第1の溝形成ステップS10では、板状物1の表面1aに一つの方向に沿った複数の第1の溝3を形成する。ここで、
図3に示す通り、第1の溝形成ステップS10で板状物1の表面1a側に形成される第1の溝3のそれぞれの両端は、板状物1の側面1cに達しない。
【0059】
第1の溝3を板状物1に形成する際、まず、最初に形成する第1の溝3の形成予定ラインの一端の上方に切削ユニット76の切削ブレード78の切り刃78bを位置づける。そして、切削ブレード78を毎分約3万回転程度の回転速度で回転させつつ、切削ユニット76を下降させ、切削ブレード78を板状物1の表面1aに切り込ませる。
【0060】
その後、板状物1を加工送りして第1の溝3の形成予定ラインの他端にかけて切削ブレード78で板状物1の表面1a側を切削する。そして、切削ブレード78が第1の溝3の形成予定ラインの他端に達したとき、板状物1の加工送りを停止し、切削ユニット76を上昇させる。すると、板状物1の表面1aに第1の溝3が形成される。
【0061】
その後、次に形成する第1の溝3の形成予定ラインの一端の上方に切削ユニット76を移動させ、同様に板状物1の表面1aに次の第1の溝3を形成する。これを繰り返すと、
図4(A)に示す通り、第1の方向13に沿った複数の第1の溝3が板状物1の表面1aに形成される。
【0062】
ここで、第1の溝形成ステップS10で形成される第1の溝3の深さは、次に説明する第2の溝形成ステップS20で板状物1の裏面1b側に形成される第2の溝5の深さとの和が板状物1の厚さを超えるように設定されるとよい。より好ましくは、第1の溝3の深さ及び第2の溝5は、それぞれ板状物1の厚さの半分を超える。第1の溝形成ステップS10及び第2の溝形成ステップS20では、形成される第1の溝3及び第2の溝5が所定の深さとなるように、切削ユニット76の下降位置が制御される。
【0063】
次に、第2の溝形成ステップS20について説明する。第2の溝形成ステップS20は、第1の溝形成ステップS10と同様に切削装置44で実施される。
図4(B)は、第2の溝形成ステップS20で第2の方向15に沿った複数の第2の溝5が裏面1b側に形成された板状物1を模式的に示す斜視図である。第2の溝形成ステップS20では、板状物1を裏返して、板状物1の裏面1bに第1の方向13に交差する第2の方向15に沿った複数の第2の溝5を形成する。
【0064】
ここで、第1の溝形成ステップS10を実施する際に、板状物1がフレームユニット11に組み込まれていた場合、粘着テープ9の貼り換えが必要となる。すなわち、板状物1の表面1a側に新しい粘着テープ9を貼り付け、裏面1b側に貼り付けられていた古い粘着テープ9を剥離し、板状物1の裏面1b側を露出する。その後、新たに形成されたフレームユニット11を保持テーブル52に載せ、新しい粘着テープ9を介して保持テーブル52で板状物1を吸引保持する。
【0065】
その後、第1の溝形成ステップS10と同様に切削ブレード78で板状物1の裏面1b側を切削し、板状物1の裏面1bに第1の方向13と交差する第2の方向15に沿った複数の第2の溝5を形成する。ここで、板状物1の表面1a及び裏面1bに区別はない。例えば、先に溝が形成される面が表面1aであり、次に溝が形成される面が裏面1bである。
【0066】
そして、第1の溝3と第2の溝5が互いに平行とならないように、第1の方向13と第2の方向15の向きが設定される。各図では、第1の方向13及び第2の方向15が直交しており、第1の溝3及び第2の溝5が直交しているが、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法はこれに限定されない。すなわち、第1の方向13及び第2の方向15が非平行であり、板状物1を平面視したときに第1の溝3及び第2の溝5の交差点が形成されるように第1の方向13及び第2の方向15が設定されればよい。
【0067】
図5(A)は、第1の溝3及び第2の溝5が形成された板状物1の表面1a側の一部を拡大して模式的に示す平面図であり、
図5(B)は、第1の溝3及び第2の溝5が形成された板状物1の一部を拡大して模式的に示す断面図である。ここで、第2の溝形成ステップS20で形成される第2の溝5の深さは上述の通りである。すなわち、第1の溝3の深さ及び第2の溝5の深さの和が板状物1の厚さよりも大きくなるように設定される。
【0068】
この場合、第1の溝3及び第2の溝5のそれぞれの交差点では、両者の互いの底部が連通されて板状物1の表面1a側及び裏面1b側を接続する連通路17が形成される。そして、板状物1の表面1a側及び裏面1b側では、連通路17を通じて気体が往来可能となる。その一方で、それぞれの第1の溝3及び第2の溝5は、板状物1の側面1cに達していない。そのため、連通路17を通る気体が板状物1の側面1c側に漏れることはない。
【0069】
また、第1の溝3及び第2の溝5の深さは、第1の溝形成ステップS10及び第2の溝形成ステップS20で実施される切削における精度及びばらつきを考慮して設定されることが好ましい。例えば、板状物1が厚さ780μmのシリコンウェーハである場合、この厚さの半分は390μmであるが、第1の溝3及び第2の溝5の深さをそれぞれ390μmよりも数十μm程度深く形成することが望ましい。これより、第1の溝3及び第2の溝5の交差点で確実に両者が接続される。
【0070】
また、第1の溝3及び第2の溝5の幅は、それぞれ、10μm以上とするとよく、板状物1に所定の深さで安定的に形成されるように数百μm程度とすることが好ましい。第1の溝3及び第2の溝5の幅には、切削ブレード78の切り刃78bの刃厚が反映される。第1の溝3及び第2の溝5の幅がこのような幅となるような刃厚の切り刃78bを有する切削ブレード78を使用すると、第1の溝3及び第2の溝5を安定的に形成できる。
【0071】
さらに、複数の第1の溝3及び複数の第2の溝5は等間隔で形成されるとよく、その間隔は0.5mm以上10mm以下とするとよい。複数の第1の溝3及び複数の第2の溝5が等間隔で板状物1に形成されると、板状物1の全域において、表面1a及び裏面1bの間で後述の負圧が均一に伝わる。
【0072】
なお、第1の溝3の及び第2の溝5の深さ及び間隔はこれらに限定されず、製造される保持テーブル10で吸引保持される被加工物の種別や大きさ、被加工物に作用させたい負圧の大きさ等に対応するように適宜決定される。また、保持テーブル10が組み込まれる装置で実施される加工の内容に適した性能となるように、第1の溝3の及び第2の溝5の深さ及び間隔、本数等を選択可能である。
【0073】
本実施形態に係る保持テーブルの製造方法では、複数の第1の溝3及び複数の第2の溝5が形成された板状物1を後述の吸引プレート19を形成するのに必要な数だけ準備する。すなわち、必要な数の板状物1の準備が完了していない場合(S30、
図12参照)、第1の溝形成ステップS10及び第2の溝形成ステップS20を繰り返して必要な数の板状物1を準備する。複数の第1の溝3及び複数の第2の溝5が形成された板状物1を必要な数だけ準備できた場合(S30、
図12参照)、次のステップに進む。
【0074】
次に、複数の第1の溝3及び複数の第2の溝5がそれぞれ形成された複数の板状物1を重ね合わせ、複数の板状物1を一体化し吸引プレートを形成する吸引プレート形成ステップS50を実施する。
図6(A)は、複数の板状物1を重ね合わせる様子を模式的に示す斜視図であり、
図6(B)は、形成される吸引プレート19を模式的に示す斜視図である。
【0075】
吸引プレート形成ステップS50では、まず、複数の板状物1を重ね合わせる。ここで、重ね合わせる板状物1の数により形成される吸引プレート19の厚さを決定できる。板状物1の数は、後述の枠体12(
図8(A)等参照)の収容凹部86(
図8(A)等参照)の深さよりも厚い吸引プレート19を形成できるように決定されるとよい。
【0076】
また、
図6(A)では、各板状物1の表面1a側が上方に向き、裏面1b側が下方に向いており、各板状物1に形成された第1の溝3の向き及び第2の溝5の向きが統一されている。しかしながら、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法はこれらに限定されない。吸引プレート19を形成する上で、表面1a側と裏面1b側の向きによる板状物1の性能に変化はなく、また、第1の溝3及び第2の溝5の向きによる板状物1の性能の変化もない。そのため、各板状物1の向きは特に制御される必要はない。
【0077】
吸引プレート形成ステップS50では、複数の板状物1を重ねた後、該複数の板状物1を一体化させる。複数の板状物1は、例えば、直接的な接合技術により一体化可能である。複数の板状物1を重ね合わせる前に酸等の薬液をそれぞれの板状物1の表面1a及び裏面1bに作用させ、表面1a及び裏面1bに薄い酸化膜を形成するとともに露出する水酸基を設ける。
【0078】
次に、ある板状物1の上に別の板状物1を重ねて載置すると、両者が互いに接合される。これは、両者の互いに対面する面に設けられた水酸基間に水素結合が形成されためと考えられる。そして、接合された複数の板状物1の積層体を400℃以上の温度に加熱すると、接合面から水分子が脱離して、各板状物1がより強く結合するようになる。特に、複数の板状物1の積層体を1000℃程度に加熱すると、各板状物1を構成する材料(シリコン等)に含まれる結合(原子間の共有結合等)と同程度に各板状物1が結合する。
【0079】
さらに、複数の板状物1は、加熱が不要な方法で一体化されてもよい。例えば、一体化させる2つの板状物1を真空チャンバーに搬入し、該真空チャンバーの内部でそれぞれの板状物1の接合させる面に表面処理を実施する。この表面処理は、例えば、アルゴンイオンを照射するスパッタリングであり、板状物1の外面を構成する原子を活性化させて反応性を高める処理である。
【0080】
その後、真空チャンバー内で2つの板状物1を接触させると、両者の外面を構成する原子間に結合が生じ、2つの板状物1が強力に接合される。そして、真空チャンバー内で板状物1の接合を繰り返すと、吸引プレート19を形成できる。なお、吸引プレート形成ステップS50はこれに限定されず、熱圧着等の種々の既存の方法により実施可能である。ただし、複数の板状物1を接合させて一体化させる場合、各板状物1が極めて平坦性の高い面である必要がある。
【0081】
吸引プレート形成ステップS50を実施すると、複数の板状物1が一体化された吸引プレート19が形成される。このとき、各板状物1の第1の溝3または第2の溝5は、隣接する他の板状物1の第1の溝3または第2の溝5に接続される。そのため、吸引プレート19の表面19a側と裏面19b側とが連通する。
【0082】
なお、第1の溝形成ステップS10及び第2の溝形成ステップS20を実施して形成された第1の溝3及び第2の溝5の周囲において、板状物1にマイクロクラックとよばれる微小なひび割れ形状や、チッピングと呼ばれる損傷が生じる。そこで、吸引プレート形成ステップS50を実施して複数の板状物1を一体化させる前に、エッチングステップS40実施するとよい。
【0083】
エッチングステップS40は、第1の溝形成ステップS10及び第2の溝形成ステップS20を実施した後、吸引プレート形成ステップS50を実施する前に実施するとよい。エッチングステップS40では、例えば、板状物1を硝酸とフッ酸の混合液等で処理する。これにより、マイクロクラックやチッピング等の損傷が板状物1から除去される。この場合、各板状物1の強度が高まり、その後に形成される吸引プレート19の強度も高まる。また、各板状物1の外面が清浄化され、複数の板状物1の接合が容易となる。
【0084】
本実施形態に係る保持テーブルの製造方法では、エッチングステップS40及び吸引プレート形成ステップS50を実施した後、収容ステップS60を実施する。
図8(A)は、収容ステップS60を模式的に示す断面図である。収容ステップS60では、上面に収容凹部86が形成された枠体12の該収容凹部86に吸引プレート19を収容して保持テーブル10を形成する。
【0085】
ここで、収容ステップS60で吸引プレート19を収容する枠体12について説明する。
図7は、枠体12を模式的に示す平面図である。また、
図8(A)及び
図8(B)には、枠体12を模式的に示す断面図が含まれている。枠体12は、例えば、ステンレス鋼やセラミックス等の材料で形成され円盤状の部材である。
【0086】
枠体12の上面には、吸引プレート19を収容できる収容凹部86が形成されている。収容凹部86は、吸引プレート19及び板状物1の形状に対応した形状である。例えば、板状物1が円板状である場合、収容凹部86は、板状物1の径よりもわずかに大きい径の円形の領域に形成される。
【0087】
収容凹部86の底部には、吸引溝90と、枠体12の裏面側(下面側)に通じる吸引路92と、が形成されている。吸引溝90は、例えば、複数の放射溝90aと、複数の環状溝90bと、により構成される。放射溝90a及び環状溝90bは、吸引路92に通じている。また、収容凹部86の底部の吸引溝90ではない主要な領域は、高さが統一された平坦面94である。後述の通り、平坦面94は、吸引プレート19を支持する支持面となる。
【0088】
なお、吸引溝90の放射溝90a及び環状溝90bの構成には特に制限はなく、吸引溝90は放射溝90a及び環状溝90bから構成されている必要もない。吸引溝90は、後述の通り吸引プレート19の裏面19bに負圧を均一に伝達できるように構成が決定されるとよい。また、吸引プレート19を支持する平坦面94を十分な広さで確保できる形状に決定されるとよい。
【0089】
枠体12の収容凹部86の外側には、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法で製造される保持テーブル10を固定先となる加工装置等のベース(不図示)に固定するためのボルト等の固定具が締めこまれる複数の貫通孔88が形成されている。
【0090】
枠体12の収容凹部86に円板状の多孔質部材を収容すると従来の保持テーブルを製造でき、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法で製造される保持テーブル10は、従来の保持テーブルで多孔質部材の収容に使用されていた枠体12を流用して製造できる。すなわち、枠体12は、吸引プレート19を収容するための専用品である必要はない。そして、従来の枠体12を利用する場合、収容凹部86の深さよりも大きい厚さに吸引プレート19を形成するために、吸引プレート19を構成する板状物1の数を決定する。
【0091】
収容ステップS60では、枠体12の収容凹部86に吸引プレート19を収容する。吸引プレート19を枠体12に固定するために、吸引プレート19の裏面19b側または枠体12の収容凹部86の底部の平坦面94に予め接着材96を配設するとよい。吸引プレート19を収容凹部86に収容して枠体12に固定すると、保持テーブル10を製造できる。このとき、吸引プレート19の上部は収容凹部86の外に露出し、枠体12の上面よりも吸引プレート19の表面19aが高くなる。
【0092】
吸引プレート19の裏面19bに配設された板状物1の下面(裏面1b)側に形成された溝(第2の溝5)が枠体12の吸引溝90に接続される。そして、枠体12の吸引路92及び吸引プレート19の表面19aは、吸引プレート19を構成する各板状物1の第1の溝3及び第2の溝5と、吸引溝90と、を通じて連通される。すなわち、吸引路92の下端に吸引源(不図示)を接続すると、吸引プレート19の表面19aに負圧が伝達される。このとき、他の経路は塞がれるため、負圧は漏出しにくい。
【0093】
収容ステップS60を実施して製造された保持テーブル10は、
図1に示す研削装置2等の加工装置に組み込める。研削装置2では、保持テーブル10を支持する図示しないベースを備える。そして、保持テーブル10を該ベースに乗せ、貫通孔88にボルト等の固定具を通して該ベースに形成された固定穴に該ボルトを締め込むと、保持テーブル10を研削装置2の該ベースに固定できる。このとき、枠体12の吸引路92の下端が研削装置2の吸引源(不図示)に接続される。
【0094】
研削装置2では、被加工物となるシリコンウェーハ等を保持テーブル10に載せる前に、研削砥石42で保持テーブル10の上面を研削するセルフグラインドが実施される。このとき、保持テーブル10の上面では被加工物と同様の素材で形成された吸引プレート19が突出しているため、研削砥石42は吸引プレート19を研削する。そのため、セルフグラインドを実施する際と、被加工物を研削する際と、で同じ研削砥石42が使用可能であり、研削ホイール40の交換が不要となる。
【0095】
ここで、従来の保持テーブル10で使用されていた多孔質部材を被加工物と同様の素材で形成することも考えられるが、多孔質部材を形成するための複雑な製造工程が必要となる。これに対して、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法では、被加工物と同様の素材で構成される複数の板状物1を一体化させて吸引プレート19を製造し、これを従来と同様に枠体12に収容することで容易に保持テーブル10を形成できる。
【0096】
特に、吸引プレート19と同等の厚さの板状物の表裏面に互いに接続される深い溝を形成するのではなく、該吸引プレート19よりも薄い板状物1に比較的浅い溝を形成し、複数の板状物1を一体化して吸引プレート19を形成する。比較的浅い第1の溝3及び第2の溝5は、容易かつ安定的に形成できる。
【0097】
以上に説明するように、本実施形態に係る保持テーブルの製造方法によると、被加工物を研削する研削砥石42を使用して効率的にセルフグラインドできる保持テーブル10を安定的かつ容易に製造できる。
【0098】
なお、本発明は、上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、吸引プレート19を構成する板状物1は、保持テーブル10で保持する被加工物と同素材である場合について説明したが、完全に該被加工物と同素材である必要はない。セルフグラインドと、被加工物の研削時と、において同じ研削砥石42が使用可能であれば十分である。すなわち、板状物1は、被加工物を研削できる研削砥石42で研削できる素材であればよい。
【0099】
また、上記実施形態では、収容ステップS60において吸引プレート19を接着材96で枠体12に固定する場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。すなわち、吸引プレート19は、他の方法で枠体12に固定されてもよい。
図9は、他の方法で吸引プレート19を固定できる枠体12aを模式的に示す平面図であり、
図10(A)は、収容ステップS60において該枠体12aに吸引プレート19を収容する様子を模式的に示す断面図である。
【0100】
枠体12aには、
図7等に示した枠体12とは異なり、平坦面94に通じた複数のプレート吸引路98が形成されている。このプレート吸引路98は、吸引溝90及び吸引路92とは独立している。そして、各プレート吸引路98は、それぞれ、枠体12の下面に通じている。または、各プレート吸引路98は、枠体12aの内部で合流して枠体12の下面に通じている。
【0101】
図10(B)は、収容ステップS60で製造される保持テーブル10aを模式的に示す断面図である。収容ステップS60では、吸引プレート19を枠体12aの収容凹部86に収容することで保持テーブル10aが形成される。吸引プレート19は、平坦面94で支持される。
【0102】
この保持テーブル10aが組み込まれる研削装置2等の加工装置には、吸引路92に接続される吸引源(吸引路)とは独立して制御可能な他の吸引源(吸引路)が接続される。そして、該他の吸引源等によりプレート吸引路98を介して吸引プレート19を吸引することで吸引プレート19を枠体12aに固定できる。そのため、収容ステップS60では、必ずしも枠体12aに吸引プレート19が固定される必要はない。この場合、研削装置2等の加工装置に枠体12aを固定したまま吸引プレート19だけを交換できる。
【0103】
また、上記実施形態では、切削装置44(
図2参照)を使用して第1の溝形成ステップS10及び第2の溝形成ステップS20を実施する場合について説明した。すなわち、円環状の切削ブレード78で板状物1の表面1a側を切削することで第1の溝3を形成し、切削ブレード78で板状物1の裏面1b側を切削することで第2の溝5を形成する場合について説明した。しかしながら、本発明の一態様はこれに限定されず、第1の溝3及び第2の溝5は他の方法により板状物1に形成されてもよい。
【0104】
図11は、板状物1にレーザービームを照射してアブレーション加工により第1の溝3及び第2の溝5を形成できるレーザー加工装置100を模式的に示す斜視図である。すなわち、第1の溝形成ステップS10では、板状物1に吸収される波長のレーザービームを板状物1の表面1a側に照射してアブレーション加工により第1の溝3を形成してもよい。また、第2の溝形成ステップS20では、該レーザービームを板状物1の裏面1b側に照射してアブレーション加工により第2の溝5を形成してもよい。
【0105】
ここで、レーザー加工装置100について説明する。レーザー加工装置100は、各構成要素を支持する基台102を備える。基台102の上面には、板状物1を保持する保持テーブル126をX軸方向に移動させるX軸方向移動ユニット104と、保持テーブル126をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるY軸方向移動ユニット114と、が設けられている。
【0106】
X軸方向移動ユニット104は、X軸方向に沿った一対のX軸ガイドレール106を基台102の上面に備える。一対のX軸ガイドレール106には、X軸移動テーブル108がスライド可能に取り付けられる。X軸移動テーブル108の裏面側にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部にはX軸ガイドレール106に対して概ね平行なX軸ボールねじ110が螺合されている。
【0107】
X軸ボールねじ110の一端部には、X軸パルスモータ112が連結されている。X軸パルスモータ112によってX軸ボールねじ110を回転させることにより、X軸移動テーブル108がX軸ガイドレール106に沿ってX軸方向に移動する。
【0108】
Y軸方向移動ユニット114は、Y軸方向に沿った一対のY軸ガイドレール116をX軸移動テーブル108の上面に備える。一対のY軸ガイドレール116には、Y軸移動テーブル118がスライド可能に取り付けられる。Y軸移動テーブル118の裏面側にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部にはY軸ガイドレール116に対して概ね平行なY軸ボールねじ120が螺合されている。
【0109】
Y軸ボールねじ120の一端部には、Y軸パルスモータ122が連結されている。Y軸パルスモータ122によってY軸ボールねじ120を回転させることにより、Y軸移動テーブル118がY軸ガイドレール116に沿ってY軸方向に移動する。Y軸移動テーブル118の上面には、カバー124と、板状物1を保持する保持テーブル126と、が設けられている。
【0110】
保持テーブル126の周囲には、フレームユニット11の環状フレーム7を把持する複数のクランプ130が設けられる。保持テーブル126は、上面に露出する多孔質部材128と、多孔質部材128に一端が接続された吸引路と、該吸引路の他端に接続された吸引源と、を備える。該吸引源を作動させると、保持テーブル126に載せられた板状物1が吸引保持される。
【0111】
保持テーブル126の上方には、保持テーブル126で吸引保持された板状物1にレーザービームを照射できるレーザービーム照射ユニット134が設けられる。レーザービーム照射ユニット134は、基台102の後方上面から上方に伸長した柱部と、該柱部の上端から保持テーブル126の上方に伸びた腕部と、を備える支持部132により支持される。
【0112】
レーザービーム照射ユニット134は、板状物1に吸収される波長(板状物1が吸収性を有する波長)のレーザービームを出射できるレーザー発振器(不図示)と、該レーザービームを板状物1の上面に集光できる集光レンズ(不図示)と、を備える。
【0113】
第1の溝形成ステップS10では、板状物1を含むフレームユニット11を保持テーブル126で保持する。そして、保持テーブル126をX軸方向又はY軸方向に移動させながらレーザービーム照射ユニット134から板状物1の表面1aにレーザービームを照射する。より詳細には、第1の溝3の形成予定ラインの一端から他端にかけて表面1aにレーザービームを集光し、板状物1をアブレーション加工する。すると、第1の溝3を形成できる。
【0114】
なお、一度のレーザービームの照射で十分な深さの第1の溝3を板状物1に形成できない場合、形成された第1の溝3にさらにレーザービームを照射して複数のアブレーション加工を実施し、第1の溝3を深くする。こうして、板状物1の表面1aに第1の溝3を形成できる。そして、同様に第2の溝形成ステップS20を実施することで板状物1の裏面1bに第2の溝5を形成できる。
【0115】
このように、本発明の一態様に係る保持テーブルの製造方法では、切削装置44による切削以外の方法で第1の溝3及び第2の溝5が形成されてもよく、レーザー加工装置100によるアブレーション加工で第1の溝3及び第2の溝5が形成されてもよい。
【0116】
また、上記実施形態では、複数の第1の溝3が板状物1の表面1aに等間隔に形成され、複数の第2の溝5が板状物1の裏面1bに等間隔で形成される場合について主に説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。すなわち、複数の第1の溝3及び複数の第2の溝5は、それぞれ、等間隔で板状物1に形成される必要はない。
【0117】
各板状物1における複数の第1の溝3及び複数の第2の溝5の形成位置や数、形成密度により板状物1の性質が変化する場合があり、複数の板状物1により構成される吸引プレート19の性質が変化する場合がある。第1の溝3及び第2の溝5が等間隔であると、例えば、製造された保持テーブル10を研削装置2に組み込みセルフグラインドを実施して吸引プレート19の表面19aを研削したときに、吸引プレート19の中心部で研削が進行しやすい場合がある。
【0118】
吸引プレート19における位置で研削の進行しやすさが異なる場合、セルフグラインドを実施しても吸引プレート19の表面19aと、回転移動する研削砥石42の底面と、が平行にならない。これでは、セルフグラインドの目的が達成されない。そこで、セルフグラインドを実施したときに吸引プレート19の表面19aと、回転移動する研削砥石42の底面と、が平行になるように、複数の第1の溝3及び複数の第2の溝5の形成位置や数、形成密度を調整して各板状物1の性質を調整することが考えられる。
【0119】
例えば、複数の第1の溝3の間隔と、複数の第2の溝5の間隔と、の一方又は両方を一定とはせず、板状物1の中心から離れるほど狭くなるようにそれぞれを板状物1に形成する。この場合、吸引プレート19の中心において研削の進行しやすさが低減され、研削装置2でセルフグラインドを実施したときに吸引プレート19の表面19aと、研削砥石42の底面と、が平行になる。すなわち、セルフグライドの目的を達成できる。このように、第1の溝3及び第2の溝5の形成位置等により吸引プレート19の性質を制御できる。
【0120】
上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0121】
1 板状物
1a,19a 表面
1b,19b 裏面
1c 側面
3 第1の溝
5 第2の溝
7 環状フレーム
9 粘着テープ
11 フレームユニット
13 第1の方向
15 第2の方向
17 連通路
19 吸引プレート
2 研削装置
4,46,102 基台
4a,46a 開口
6,48,108,118 移動テーブル
8,50 防塵防滴カバー
10,10a,52,126 保持テーブル
12,12a 枠体
14 吸引プレート
16 搬出入領域
18 加工領域
20,132 支持部
22,66 昇降ユニット
24,60,68,106,116 ガイドレール
26,62,70 移動プレート
28,64,72,110,120 ボールねじ
30,74,112,122 パルスモータ
32 研削ユニット
34 スピンドルハウジング
36 スピンドル
38 ホイールマウント
40 研削ホイール
42 研削砥石
44 切削装置
52a,128 多孔質部材
52b,130 クランプ
54 支持構造
56 腕部
58 割り出し送りユニット
76 切削ユニット
76a ブレードカバー
76b 撮像ユニット
78 切削ブレード
78a 基台
78b 切り刃
80 スピンドルハウジング
82 ノズル
86 収容凹部
88 貫通孔
90 吸引溝
90a 放射溝
90b 環状溝
92 吸引路
94 平坦面
96 接着材
98 プレート吸引路
100 レーザー加工装置
104,114 移動ユニット
124 カバー
134 レーザービーム照射ユニット