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特許7555790エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240917BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240917BHJP
   C08K 5/31 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
C08L29/04 S
B32B27/30 102
C08K5/31
C08L29/04 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020184068
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2022074211
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真人
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-107197(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005288(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/110077(WO,A1)
【文献】特開2016-003265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
B32B 27/30
C08K 5/31
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位含有量が20モル%超60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100質量部と、グアニジン骨格を有する化合物(B)を0.5~15質量部含み、前記グアニジン骨格を有する化合物(B)がトリアゾール類である、樹脂組成物。
【請求項2】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度が80モル%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
金属塩を金属原子換算で1ppm~10000ppm含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属塩がアルカリ土類金属塩を含む、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項6】
請求項1~4の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層備え、EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂を含む層を少なくとも1層備える、多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレン-ビニルアルコール共重合体およびグアニジン骨格を有する化合物を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」と略記する場合がある)は酸素バリア性、耐油性、非帯電性、機械強度等に優れた材料であり、フィルム、シート、容器など各種包装材料として広く用いられており、その成形方法は様々であるが、押出成形又は射出成形のように溶融成形されることが多く、酸素バリア性の他に、溶融成形時のロングラン性や成形物の外観性が求められる。
【0003】
そのような要求がある中、特許文献1には、カルボン酸、リン酸等の酸や、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の金属塩を適当量含有させたEVOH樹脂組成物が、外観性、溶融成形時のロングラン性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-164059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、EVOHの溶融成形を行う場合は200℃以上の温度が必要となる。EVOHは、200℃以上の条件に長時間晒されると徐々に粘度が上昇する傾向となるか、金属塩等の添加により徐々に粘度が減少する傾向となる場合がある。本発明の発明者らは、溶融成形性を高めるために粘度挙動に着目し、220℃で、24時間窒素下で熱処理した後、230℃、10.9kg荷重の条件下におけるメルトフローレート(MFR24)が高く(粘度が低く)、熱処理せずに測定したMFR0との比(MFR24/MFR0)が1より低く1に近い程、溶融成形時の取扱性が良好になる傾向にあることを見出した。
【0006】
しかしながら、上記従来の樹脂組成物では高温で長時間溶融成形を行った場合に、24時間後のMFRが低すぎる傾向があり、長時間連続成形によって得られた成形体の成形安定性が悪化する場合や、着色が見られる場合があり、溶融成形性に改善の余地があった。
【0007】
本発明は、長時間連続して溶融成形を行う場合の取扱性が良好であり、長時間連続運転後の成形体の成形安定性及び着色耐性が良好である樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]エチレン単位含有量が20モル%超60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100質量部と、グアニジン骨格を有する化合物(B)を0.05~15質量部含む、樹脂組成物;
[2]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度が80モル%以上である、[1]の樹脂組成物;
[3]金属塩を金属原子換算で1ppm~10000ppm含む、[1]または[2]の樹脂組成物;
[4]前記金属塩がアルカリ土類金属塩を含む、[3]の樹脂組成物;
[5][1]~[4]の樹脂組成物を含む、成形体;
[6][1]~[4]の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層備え、EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂を含む層を少なくとも1層備える、多層構造体;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長時間連続して溶融成形を行う場合の取扱性が良好であり、長時間連続運転後の成形体の成形安定性及び着色耐性が良好である樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、エチレン単位含有量が20モル%超60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(以下「EVOH(A)」と略記する場合がある)を100質量部、グアニジン骨格を有する化合物(B)(以下「化合物(B)」と略記する場合がある)を0.05~15質量部含む樹脂組成物である。
【0011】
(EVOH(A))
EVOH(A)は、通常、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することで得ることができる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造およびケン化は、公知の方法により行うことができる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的であるが、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等のその他の脂肪酸ビニルエステルであってもよい。
【0012】
EVOH(A)のエチレン単位含有量は20モル%超であり、22モル%以上が好ましく、23モル%以上がより好ましい。また、EVOH(A)のエチレン単位含有量は60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましく、40モル%以下がよりさらに好ましく、34モル%以下が特に好ましく、32モル%以下、30モル%以下が好ましい場合もある。エチレン単位含有量が20モル%以下であると、溶融成形時の取り扱い性が低下し、本発明の成形体の成形安定性及び着色耐性が悪化する傾向となる。60モル%以上であるとガスバリア性が低下し、バリア性樹脂としての利点が損なわれる。また、EVOH(A)のエチレン単位含有量が34モル%以下のように、より低いエチレン単位含有量である場合、化合物(B)による成形安定性の効果が顕著に表れる傾向となる。EVOH(A)のエチレン単位含有量は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0013】
EVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度は80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。ケン化度が80モル%以上であると、ガスバリア性が高まる傾向となる。また、EVOH(A)のケン化度は100モル%以下であっても、99.99モル%以下であってもよい。EVOH(A)のケン化度は、1H-NMR測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出できる。
【0014】
また、EVOH(A)は本発明の目的が阻害されない範囲でエチレンとビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOHが前記他の単量体単位を有する場合、EVOHの全構造単位に対する前記他の単量体単位の含有量は、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。また、EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、その下限値は0.05モル%であってもよいし0.10モル%であってもよい。前記他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基を有するアルケン又はそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0015】
EVOH(A)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の手法の後変性されたEVOH(A)であってもよい。かかる変性されたEVOH(A)は溶融成形性が良好になる傾向にある。
【0016】
EVOH(A)として、エチレン単位含有量、ケン化度、共重合体成分、変性の有無又は変性の種類等が異なる2種以上のEVOH(A)を混合して用いてもよい。
【0017】
(グアニジン骨格を有する化合物(B))
本発明の樹脂組成物は、化合物(B)を有することで、220℃、24時間、窒素下で熱処理した後、230℃、10.9kg荷重の条件下におけるメルトフローレート(MFR24)が高くなり、熱処理せずに測定したMFR0との比(MFR24/MFR0)が1に近くなるため、溶融成形時の取扱性が良好となり、長時間連続運転後の成形体の成形安定性及び着色耐性が得られる。通常、EVOHを窒素下で24時間熱処理した場合、MFRが一度上昇した後に徐々に低下していく傾向となり、24時間後のEVOHのMFRは非常に低い値となる傾向となるが、化合物(B)の添加によりMFRの低下を抑制できる傾向となる。化合物(B)の添加によりこのような効果を奏する理由は定かでは無いが、EVOH(A)の熱劣化によって生じる化合物を捕捉することができるため、粘度上昇を抑制できると推察される。ここで、「グアニジン骨格を有する化合物」とは、C(=NR1)(-NR232の骨格を有していれば特に限定されず、前記R1、R2及びR3それぞれ独立して任意の置換基であってもよく、グアニジン骨格の一部が芳香環を形成していてもよい。
【0018】
化合物(B)としては、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール類、シアノグアニジン、塩酸グアニジン、硝酸グアニジン、炭酸グアニジン、燐酸グアニジン、スルファミン酸グアニジンなどグアニジンの塩類、重炭酸アミノグアニジン、塩酸アミノグアニジン、硫酸アミノグアニジンなどの酸アミノグアニジン等が挙げられる。
【0019】
本発明の樹脂組成物における化合物(B)の含有量は、EVOH(A)100質量部に対して0.05質量部以上であり、0.1質量部以上が好ましく、0.25質量部以上がより好ましく、0.4質量部以上がさらに好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。また、化合物(B)の含有量はEVOH(A)100質量部に対して15質量部以下であり、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下が特に好ましい。化合物(B)の添加量が0.05質量部未満の場合、溶融成形時の取扱性が不十分となり、成形安定性及び着色耐性が不十分となる傾向となる。また、化合物(B)の添加量が15質量部を超える場合、溶融成形性が悪化し、連続溶融成形時にゲルやブツが発生する傾向となる。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)及び化合物(B)の他に、EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂、金属塩、酸、ホウ素化合物、可塑剤、フィラー、ブロッキング防止剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、充填材、各種繊維などの補強材等、他の成分を有していてもよい。中でも、熱安定性や本発明の樹脂組成物を含む層と他の層との接着性の観点から金属塩及び酸を含むことが好ましい。
【0021】
前記金属塩としては、本発明の樹脂組成物を含む層と他の層との層間接着性をより高める観点からはアルカリ金属塩が好ましく、熱安定性の観点からはアルカリ土類金属塩が好ましい。アルカリ金属塩を構成する金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられ、ナトリウム又はカリウムが好ましい。また、アルカリ金属塩としては、脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられる。中でも、脂肪族カルボン酸塩及びリン酸塩が入手容易である点から好ましく、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムが好ましい。アルカリ土類金属塩を構成する金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等が挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましい。また、アルカリ土類金属塩としては、脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられる。中でも、脂肪族カルボン酸塩が好ましく、具体的には本発明の樹脂組成物が金属塩を含む場合、その含有量は金属塩の金属原子換算で1ppm以上が好ましく、5ppm以上がより好ましく、10ppm以上がさらに好ましく、20ppm以上が特に好ましい。また金属塩の含有量は金属原子換算で10000ppm以下が好ましく、5000ppm以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましく、500ppm以下が特に好ましい。金属塩の含有量が上記範囲にあると、本発明の樹脂組成物を含む層と他の層との層間接着性を良好に保ちつつ、リサイクルを行った際の熱安定性が良好となる傾向になる。なお、アルカリ土類金属塩を一定以上の量含む場合、熱処理により粘度が低下していく(MFRが上昇していく)傾向となる。
【0022】
前記酸としては、カルボン酸化合物又はリン酸化合物が本発明の樹脂組成物溶融成形時の熱安定性を高める観点から好ましい。カルボン酸化合物としては、特に限定されず、例えば、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、安息香酸、2-ナフトエ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられ、酢酸等の脂肪族カルボン酸が好ましく用いられる。本発明の樹脂組成物がカルボン酸化合物を含む場合、カルボン酸の含有量はEVOH(A)に対し1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。また、カルボン酸の含有量は10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。リン酸化合物としては、特に限定されずリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができ、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムなどが好適に用いられる。本発明の樹脂組成物がリン酸化合物を含む場合、リン酸化合物の含有量はEVOH(A)に対し1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、30ppm以上がさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量は10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。本発明の樹脂組成物がカルボン酸化合物又はリン酸化合物を上記範囲内で含むと、溶融成形時の熱安定性が良好になる傾向にある。
【0023】
本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)及び化合物(B)が占める割合は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、98質量%以上、99質量%以上が好ましい場合もあり、本発明の樹脂組成物は実質的にEVOH(A)及び化合物(B)のみからなってもよい。
【0024】
本発明の樹脂組成物の220℃、24時間窒素下で熱処理した後、230℃、10.9kg荷重の条件下におけるMFR24は3g/10分以上が好ましく、3.5g/10分以上がより好ましく、5g/10分以上、10g/10分以上が好ましい場合もある。また、MFR24は55g/10分以下であっても、40g/10分以下であっても、30g/10分以下であってもよい。MFR24が上記範囲内であると、成形安定性が良好となる傾向となる。
【0025】
また本発明の樹脂組成物のMFR24と230℃、10.9kg荷重の条件下におけるMFR0との比(MFR24/MFR0)は0.05以上が好ましく、0.07以上がより好ましく、0.15以上、0.25以上が好ましい場合もある。また、MFR24/MFR0は1以下であることが好ましく、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下m0.5以下であってもよい。
【0026】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、EVOH(A)に化合物(B)を添加して調整する方法が好適に採用される。EVOH(A)に化合物(B)を添加する方法としては、EVOH(A)と化合物(B)をドライブレンドする方法、化合物(B)を含む溶液を溶融状態のEVOH(A)に添加する方法、化合物(B)を含む溶液を、溶媒を含浸させたペースト状のEVOH(A)に添加する方法、化合物(B)を液体に懸濁させた状態で添加する方法、化合物(B)を含む溶液にEVOH(A)を接触(または浸漬)させて添加する方法などが例示される。中でも、EVOH(A)に化合物(B)を均一に分散させる観点から、化合物(B)を含む溶液を溶融状態のEVOH(A)に添加する方法、又は化合物(B)を含む溶液にEVOH(A)を接触(または浸漬)させて添加する方法が好ましい。化合物(B)を溶解する溶媒は特に限定されないが、添加剤の溶解性、コストの観点、取り扱いの容易性、作業環境の安全性等の観点から水が好適に用いられる。金属塩及び酸を添加する場合も同様の手法を用いることができる。
【0027】
(成形体)
本発明の樹脂組成物は、溶融成形等によりフィルム、シート、チューブ、袋、容器等の成形体に成形できる。本発明の樹脂組成物は長時間連続的に溶融成形を行っても成形安定性及び着色耐性が良好であるため、本発明の成形体は生産性が高い。本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物のみからなる成形体であってもよいし、本発明の樹脂組成物のみからなる部分と、他の部分とから構成される成形体であってもよい。本発明の樹脂組成物を溶融成形する方法としては、例えば押出成形、キャスト成形、インフレーション押出成形、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形、射出ブロー成形等が挙げられる。溶融成形温度はEVOH(A)の融点等により異なるが、150~270℃程度が好ましい。これらの成形体は再使用の目的で粉砕し再度成形することも可能である。また、フィルム、シート等は一軸または二軸延伸することも可能である。
【0028】
(多層構造体)
本発明の多層構造体は、本発明の樹脂組成物からなる層(以下「バリア層」という場合もある)を少なくとも1層備え、EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂を含む層(以下「熱可塑性樹脂層」と略記する場合もある)を少なくとも1層備える。熱可塑性樹脂層における熱可塑性樹脂が占める割合は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、熱可塑性樹脂層は熱可塑性樹脂からなる層であってもよい。本発明の多層構造体を構成する層の層数は、2層以上であり、3層以上が好ましい。また、多層構造体の層数は1000層以下であっても、100層以下であっても、10層以下であってもよい。また、本発明の多層構造体は、樹脂以外から形成される層、例えば紙層、金属層等をさらに有していてもよい。本発明の樹脂組成物は、長時間連続運転後であっても成形安定性が良好であるため、本発明の多層構造体は生産安定性が高い。
【0029】
本発明の多層構造体は、接着性層を有することで、バリア層と熱可塑性樹脂層との層間接着性を高めることができる場合があるため、接着層を有していてもよい。本発明の多層構造体の層構造は特に限定されず、バリア層をE、接着層をAd、熱可塑性樹脂層をTで表わす場合、例えばT/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T等の構造が挙げられ、これらの層構造を有した多層構造体であることが好ましい。これらの各層は単層であっても多層であってもよい。
【0030】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独またはその共重合体;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエステルエラストマー;ナイロン-6、ナイロン-66等のポリアミド;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステルが好ましく用いられる。
【0031】
接着層は、ラミネートする際等に用いられる接着剤からなる層であっても、接着性樹脂からなる層であってもよい。上記接着性樹脂としては、バリア層及び他の成分からなる層(例えば熱可塑性樹脂層)との接着性を有していれば特に限定されないが、カルボン酸変性ポリオレフィンを含有する接着性樹脂が好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンとしては、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物を化学的に結合させたカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体が好ましい。ここでオレフィン系重合体とは、ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、オレフィンと他のモノマーとの共重合体を意味し、接着性樹脂のベースとなるオレフィン系重合体としては、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン及びエチレン-酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0032】
本発明の多層構造体を製造する方法は特に限定されず、例えば本発明の樹脂組成物からなる成形体に熱可塑性樹脂を溶融押出する方法、本発明の樹脂組成物と熱可塑性樹脂を共押出する方法、本発明の樹脂組成物と熱可塑性樹脂を共射出成形する方法、バリア層と樹脂組成物層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法等が挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物と熱可塑性樹脂の共押出の方法は特に限定されず、マルチマニホールド合流方式Tダイ法、フィードブロック合流方式Tダイ法、インフレーション法等を挙げることができる。
【0034】
本発明の多層構造体は、フィルム状又はシート状であってよく、様々な形状に成形されてもよい。本発明の多層構造体は、包装材料、容器、チューブ等に用いることができ、また、熱成形容器等の熱成形用の材料としても好適に用いることができる。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例と比較例とを挙げて具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されない。
【0036】
<使用した材料>
・EVOH(A)
A-1:「エバール(商標)L101B」;株式会社クラレ製、EVOH、エチレン単位含有量27mol%
A-2:「エバール(商標)M100B」;株式会社クラレ製、EVOH、エチレン単位含有量24mol%
・化合物(B)
B-1:「3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール」;和光純薬工業株式会社製
B-2:「炭酸グアニジノ」;和光純薬工業株式会社製
・化合物(B)以外の添加剤
B-C1:「ピロガロール」;富士フイルム和光純薬株式会社製
B-C2:「ベンゾトリアゾール」;和光純薬工業株式会社製
【0037】
<評価方法>
(1)カルボン酸化合物の定量
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を凍結粉砕により粉砕した。得られた粉砕物を、呼び寸法1mmのふるい(標準フルイ規格JIS-Z8801準拠)でふるい分けした。上記のふるいを通過した粉砕物10gとイオン交換水50mLを共栓付き100mL三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付け、95℃で10時間撹拌、抽出した。得られた抽出液2mLを、イオン交換水8mLで希釈した。上記の希釈された抽出液を、横河電機社製イオンクロマトグラフィー「IC7000」を用いて定量分析し、カルボン酸イオンの量を定量することで、カルボン酸化合物のカルボン酸根換算量を算出した。なお、定量に際しては酢酸水溶液を用いて作成した検量線を用いた。
イオンクロマトグラフィー測定条件:
カラム :Dionex IonPac社製「ICE-AS-1」
溶離液 :1.0mmol/L オクタンスルホン酸溶液
測定温度 :35℃
溶離液流速 :1mL/min.
サンプル打ち込み量:50μL
【0038】
(2)金属塩の定量
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を凍結粉砕により粉砕した。得られた粉砕物10gとイオン交換水50mLを100mL共栓付き三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付けて、95℃で10時間撹拌、加熱抽出した。得られた抽出液2mLを、イオン交換水8mLで希釈した。上記の希釈された抽出液を、パーキンエルマージャパン社製ICP発光分光分析装置「Optima 4300 DV」を用いて、以下に示す各観測波長で定量分析することで、金属塩の金属原子換算量を算出した。
Na :589.592nm
K :766.490nm
Mg :285.213nm
Ca :317.933nm
【0039】
(3)リン酸化合物の定量
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を凍結粉砕により粉砕した。得られた粉砕物1.0g、濃硝酸15mL及び濃硫酸4mLを共栓付き100mL三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付け、200~230℃で加熱分解した。得られた溶液をイオン交換水で50mLメスフラスコにメスアップした。上記の溶液を、パーキンエルマージャパン社製ICP発光分光分析装置「Optima 4300 DV」を用いて、観測波長214.914nmで定量分析することで、リン元素の量を定量し、リン酸化合物のリン酸根換算量を算出した。
【0040】
(4)溶融粘度挙動評価
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、230℃10.9kg荷重下のMFR0の測定及び、220℃窒素下で24時間の封管熱処理を行った後の230℃10.9kg荷重下のMFR24の測定を行った。24時間後のMFRが高く、MFR比(MFR24/MFR0)が1より低く1に近いほど、溶融粘度が安定しており、長期熱安定性があるとみなす。
【0041】
(5)樹脂組成物を用いた単層フィルム成形安定性評価
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を、東洋精機製作所社製の20mm押出機「D2020」(D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=2.0、スクリュー:フルフライト)を用い、以下の条件で単層フィルムを製膜した。24時間連続で運転した後のフィルムを採取した。
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=180/260/260/260℃
スクリュー回転数:40rpm
吐出量:1.3kg/hr
引取りロール温度:80℃
引取りロール速度:3.1m/min.
フィルム厚み:20μm
【0042】
採取した24時間後の単層フィルムを紙管に巻き取り、フィルム膜面の荒れを肉眼で以下のように判定し、成形安定性の評価とした。
判定:基準
A :膜面荒れなし
B :膜面荒れあり
C :大きな膜面荒れあり
【0043】
(6)着色耐性評価
上記評価方法(5)で作製された紙管に巻き取られた単層フィルムのロールの端面の着色度を肉眼で以下のように判定した。
判定:基準
A:着色なし
B:やや黄変
C:黄変
【0044】
<実施例1>
乾燥器を用いて「エバール(登録商標)L101B」を60℃48時間乾燥した。乾燥後のEVOHから20kg取り出し、43Lの水/メタノール混合溶液(重量比:水/メタノール=4/6)に80℃で12時間、撹拌しながら溶解させ、かかる溶液温度を65℃まで下げた後、5時間放置した。その後、かかる溶液を直径3.5mmの円形の開口部を有する金板から、水/メタノール混合溶液(重量比:水/メタノール=9/1)中に押出してストランド状に析出させ、直径約4mm、長さ約5mmのペレットとなる様切断した。得られたペレットから2.4kg取り出し、24Lの純水を加え、25℃で2時間撹拌し脱液する操作を2回繰り返し、含水EVOHペレットを得た。
【0045】
得られた含水EVOHペレット2kgを、下記浸漬液40Lに投入し、断続的に撹拌しながら25℃で4時間浸漬した。浸漬後の含水EVOHペレットを遠心脱水し、熱風乾燥器にて80℃で3時間乾燥した後、105℃で15時間乾燥することで樹脂組成物1を得た。得られた樹脂組成物1について、上記評価方法(1)~(6)に従って評価した。評価結果を表1に示す。浸漬液としては、酢酸ナトリウム、リン酸2水素カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸、及び3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾールを含む水溶液を用い、各成分の濃度は、得られる樹脂組成物1の各成分の含有量が表1に記載の含有量となるように適宜調整した。
【0046】
<実施例2~4、比較例1~4>
使用する樹脂の種類、添加物の種類及び添加量を表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物2~4、C1~C4を製造し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】