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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】赤外レーザ顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20240917BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20240917BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20240917BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240917BHJP
   G01N 25/04 20060101ALI20240917BHJP
   G01N 25/16 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
G02B21/06
H01S3/00 A
G02B21/36
G01N21/17 A
G01N25/04 Z
G01N25/16 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020204452
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091556
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】汪 子涵
(72)【発明者】
【氏名】小野田 有吾
(72)【発明者】
【氏名】繁野 雅次
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 真行
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-139028(JP,A)
【文献】特開2001-007173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/74
G01N 25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の繰り返し周波数の第1パルス列のポンプ光を所定の周期で出力する第1出力部と、
前記第1パルス列と前記繰り返し周波数が同一の第2パルス列のプローブ光を前記所定の周期で出力する第2出力部と、
前記第1出力部から出力された前記ポンプ光と、前記第2出力部から出力された前記プローブ光とを試料に照射する光学系と、
前記試料からの前記プローブ光の強度を検出する検出部と、
を備え、
前記試料へ照射される前記第1パルス列の位相と前記第2パルス列の位相との位相関係は、同位相を含み、前記第1パルス列が出力される期間と前記第2パルス列が出力される期間とが同期されている、赤外レーザ顕微鏡。
【請求項2】
前記プローブ光のパルス幅は、前記ポンプ光のパルス幅以下であり、
前記ポンプ光が照射されていない期間は、前記プローブ光が照射されないように制御されることにより、前記第1パルス列が出力される期間と前記第2パルス列が出力される期間とが同期されている
請求項1に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項3】
前記試料に前記第1パルス列が照射されるタイミングと、前記試料に前記第2パルス列が照射されるタイミングとの間に遅延時間を発生させる遅延部を更に備える、
請求項1又は請求項2に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項4】
前記第1パルス列に含まれるパルスの数と、前記第2パルス列に含まれるパルスの数と、は同一である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項5】
ポンプ光と前記プローブ光との各レーザ光が前記試料に照射される照射位置を走査する走査部を更に備え、
前記走査部は、前記試料又は前記レーザ光を動かすことで前記照射位置を走査する、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項6】
前記試料へ照射される前記第1パルス列と前記第2パルス列との相対的な位相を変調する位相変調部を更に備える、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項7】
前記位相変調部は、前記相対的な位相を同位相とする同位相状態と、前記相対的な位相を逆位相とする逆位相状態とを切り替え、
前記検出部は、前記同位相状態において前記試料から得られる前記プローブ光の強度である第1強度と、前記逆位相状態において前記試料から得られる前記プローブ光の強度である第2強度とを区別して検出する、
請求項に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項8】
前記検出部は、
第1強度から第2強度を差し引くことでバックグラウンドの影響を除外した前記プローブ光の強度を計測する計測部を更に備える、
請求項に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項9】
前記計測部は、
前記同位相状態と前記逆位相状態とを切り替える周波数である特定周波数を参照信号として前記バックグラウンドの影響を除外した前記プローブ光の強度を計測するロックインアンプである、
請求項に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項10】
前記検出部は、
前記同位相状態においては前記第1パルス列又は前記第2パルス列が出力されている期間のみ露光することで前記第1強度を検出し、前記逆位相状態においては前記第2パルス列が出力されている期間のみ露光することで前記第2強度を検出する撮像部を備え、
前記計測部は、前記撮像部によって検出された前記第1強度及び前記第2強度を取得し、第1強度から第2強度を差し引くことでバックグラウンドの影響を除外した前記プローブ光の強度を計測する、
請求項に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【請求項11】
前記試料に対して前記プローブ光が照射される位置を検出するビームコントロールユニットを更に備える、
前記検出部は、前記ビームコントロールユニットの検出結果に基づいて前記プローブ光が照射される位置を設定位置に調整する、
請求項1から10のいずれか一項に記載の赤外レーザ顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外レーザ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
光熱分光法の一つとして、ポンプ光とプローブ光とを試料に照射して試料の特性を観測するポンプ・プローブ分光法が知られている(例えば、特許文献1)。例えば、ポンプ・プローブ分光法は、パルス列のポンプ光を試料に照射することで試料を熱膨張させ、その熱膨張によって生じる試料の状態変化(反射率の変化や透過率の変化など)を連続的に照射されるプローブ光によって捉える手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9091594号明細書
【文献】特開2008-139028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1などに記載されているポンプ・プローブ分光法は、ポンプ光が照射されていない期間においてもプローブ光を照射している。そのため、プローブ光を照射しているのにもかかわらず試料の状態変化を検出できていない期間がある。したがって、試料の状態変化の検出効率を向上させる点で改善する余地がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、試料の状態変化の検出効率を向上させる赤外レーザ顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、所定の繰り返し周波数の第1パルス列のポンプ光を所定の周期で出力する第1出力部と、前記第1パルス列と前記繰り返し周波数が同一の第2パルス列のプローブ光を前記所定の周期で出力する第2出力部と、前記第1出力部から出力された前記ポンプ光と、前記第2出力部から出力された前記プローブ光とを試料に照射する光学系と、前記試料からの前記プローブ光の強度を検出する検出部と、を備え、前記試料へ照射される前記第1パルス列の位相と前記第2パルス列の位相との位相関係は、同位相を含み、前記第1パルス列が出力される期間と前記第2パルス列が出力される期間とが同期されている、赤外レーザ顕微鏡である。
また、上記の赤外レーザ顕微鏡であって、前記プローブ光のパルス幅は、前記ポンプ光のパルス幅以下であり、前記ポンプ光が照射されていない期間は、前記プローブ光が照射されないように制御されることにより、前記第1パルス列が出力される期間と前記第2パルス列が出力される期間とが同期されている。
【0007】
(2)上記(1)の赤外レーザ顕微鏡であって、前記試料に前記第1パルス列が照射されるタイミングと、前記試料に前記第2パルス列が照射されるタイミングとの間に遅延時間を発生させる遅延部を更に備えてもよい。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)の赤外レーザ顕微鏡であって、前記第1パルス列に含まれるパルスの数と、前記第2パルス列に含まれるパルスの数とは同一であってもよい。
【0009】
(4)上記(1)から(3)のいずれかの赤外レーザ顕微鏡であって、前記ポンプ光と前記プローブ光との各レーザ光が前記試料に照射される照射位置を走査する走査部を更に備え、前記走査部は、前記試料又は前記レーザ光を動かすことで前記照射位置を走査してもよい。
【0010】
(5)上記(1)から(4)のいずれかの赤外レーザ顕微鏡であって、前記試料へ照射される前記第1パルス列と前記第2パルス列との相対的な位相を変調する位相変調部を更に備えてもよい。
【0011】
(6)上記(5)の赤外レーザ顕微鏡であって、前記位相変調部は、前記相対的な位相を同位相とする同位相状態と、前記相対的な位相を逆位相とする逆位相状態とを切り替え、前記検出部は、前記同位相状態において前記試料から得られる前記プローブ光の強度である第1強度と、前記逆位相状態において前記試料から得られる前記プローブ光の強度である第2強度とを区別して検出してもよい。
【0012】
(7)上記(6)の赤外レーザ顕微鏡であって、前記検出部は、第1強度から第2強度を差し引くことでバックグラウンドの影響を除外した前記プローブ光の強度を計測する計測部を更に備えてもよい。
【0013】
(8)上記(7)の赤外レーザ顕微鏡であって、前記計測部は、前記同位相状態と前記逆位相状態とを切り替える周波数である特定周波数を参照信号として前記バックグラウンドの影響を除外した前記プローブ光の強度を計測するロックインアンプを更に備えてもよい。
【0014】
(9)上記(7)の赤外レーザ顕微鏡であって、前記計測部は、前記同位相状態においては前記第1パルス列又は前記第2パルス列が出力されている期間のみ露光することで前記第1強度を検出し、前記逆位相状態においては前記第2パルス列が出力されている期間のみ露光することで前記第2強度を検出する撮像部と、前記撮像部によって検出された前記第1強度及び前記第2強度を取得し、第1強度から第2強度を差し引くことでバックグラウンドの影響を除外した前記プローブ光の強度を計測する情報処理部と、を備えてもよい。
【0015】
(10)上記(1)から上記(9)のいずれかの赤外レーザ顕微鏡であって、前記試料に対して前記プローブ光が照射される位置を検出するビームコントロールユニットを更に備え、前記検出部は、前記ビームコントロールユニットの検出結果に基づいて前記プローブ光が照射される位置を設定位置に調整してもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、試料の状態変化の検出効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡の基本構成図である。
図2】第1の実施形態に係るポンプ光とプローブ光とを示す図である。
図3】第1の実施形態に係る検出部の概略構成図である。
図4】第2の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡の基本構成図である。
図5A】第2の実施形態に係る同位相状態と逆位相状態とを切り替える第1の例を示す図である。
図5B】第2の実施形態に係る同位相状態と逆位相状態とを切り替える第2の例を示す図である。
図6】第2の実施形態に係る検出部の第1の例の概略構成図である。
図7】第2の実施形態に係る検出部の第2の例の概略構成図である。
図8】第1の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡の具体的な構成図である。
図9】本実施形態のACUの概略構成図である。
図10】本実施形態のBCUの概略構成図である。
図11】第2の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡の具体的な構成図である。
図12】第1の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、以下に説明する「同一」又は「一致」とは、完全一致を含み得るが、完全一致以外のものを排除するものではなく、同一と同視し得る範囲を含むものであり、誤差範囲を含んでもよい。本実施形態では、説明の便宜上、AとBとが同一又は一致であることを、A=Bと示すが、これは、AとBとが完全一致の他に、予め定められた誤差の範囲内での同一も意味する。
【0019】
本実施形態の赤外レーザ顕微鏡は、ポンプ・プローブ分光法を用いて試料の状態変化を検出するものである。試料の状態変化とは、例えば、反射率の変化又は透過率の変化である。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡1の基本構成の一例を図である。図1に示すように、赤外レーザ顕微鏡1は、第1出力部100、第2出力部200、制御部250、光学系300、及び検出部400を備える。
【0021】
第1出力部100は、所定の繰り返し周波数frep-pumpの第1パルス列のポンプ光を所定の周期Tで出力する。ポンプ光Lpnは、試料Sの熱膨張を励起させる励起光である。ポンプ光Lpnは、例えば赤外線である。ポンプ光Lpnの波長は、例えば中赤外線スペクトル範囲(約2.5[μm]~25[μm])を部分的または完全にカバーできる波長である。繰り返し周波数frep-pumpは、熱拡散効果を抑制するために数[kHz]よりも高いことが望ましい。第1パルス列のパルス幅τpumpは、例えば、フェムト秒[fs]からナノ秒[ns]の範囲である。このポンプ光Lpnの第1パルス列は、所定の周期Tでオンオフする。すなわち、第1パルス列は、その所定の周期Tから求まる特定周波数fp(=1/T)でオンオフする。
【0022】
第2出力部200は、第1パルス列と繰り返し周波数が同一の第2パルス列のプローブ光Lprを所定の周期Tで出力する。すなわち、第2パルス列の繰り返し周波数frep-probeは、第1パルス列の繰り返し周波数frep-pumpと同一である(frep-probe=frep-pump)。また、第2パルス列は、上記の特定周波数fp(=1/T)でオンオフする。なお、第1パルス列のパルス数と第2パルス列のパルス数とは、一致していることが望ましい。
【0023】
プローブ光Lprは、試料Sの熱膨張によって発生した試料Sの反射率の変化又は透過率の変化を検出するための光である。例えば、プローブ光Lprは、可視光である。プローブ光Lprの波長は、例えば可視範囲(380[nm]~740[nm])までの範囲の波長である。ただし、これに限定されず、プローブ光Lprの波長は、200[nm]~300[nm]の紫外線の範囲であってもよい。プローブ光Lprのパルス幅τprobeは、最適化された検出効率と信号強度を得るために、ポンプ光Lpnのパルス幅τpump以下である(τprobe≦τpump)。
【0024】
光学系300は、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとを試料Sに照射する。また、光学系300は、試料Sで反射又は透過したプローブ光Lprを検出器420に導く。
【0025】
図2は、試料Sへ照射されるポンプ光Lpnの第1パルス列とプローブ光Lprの第2パルス列とを示している。図2に示す例では、試料Sへ照射される第1パルス列の位相と第2パルス列の位相との位相関係は同位相である。第1パルス列の位相と第2パルス列の位相との位相関係を同位相とする方法としては、例えば、第1出力部100からの第1パルス列の出射のタイミングと第2出力部200からの第2パルス列のタイミングとを一致させる方法がある。例えば、第1出力部100と第2出力部200とが互いに通信することによって第1パルス列の出射のタイミングと第2パルス列のタイミングとを一致させてもよい。また、制御部250が第2パルス列と第1パルス列とを同タイミングでオンオフさせることで第1パルス列の出射のタイミングと第2パルス列のタイミングとを一致させてもよい。また、第1パルス列及び第2パルス列が出射された後において、光学系300内において、第1パルス列の位相と第2パルス列の位相とを同位相に制御してもよい。この制御は、制御部250が行ってもよい。なお、試料Sへ照射される第1パルス列の位相と第2パルス列の位相との位相関係は同位相を含んでいればよく、同位相以外の位相関係を更に含んでもよい。なお、以下の説明において、第2パルス列内の各パルスと第1パルス列内の各パルスとは互いに同期しているとは、上記位相関係が同位相であることを示すものであって、第1パルス列と第2パルス列の各出射のタイミングが一致させることで上記位相関係を同位相にしてもよいし、第1パルス列と第2パルス列の各出射のタイミングが異なっていても試料Sに照射されるまでの間において上記位相関係を同位相にすることで上記位相関係を同位相にしてもよい。
【0026】
検出部400は、試料Sからのプローブ光Lprの強度を検出する。例えば、検出部400は、ポンプ光Lpnの照射による、試料Sで反射又は透過したプローブ光Lprの強度変化を検出する。以下において、検出部400の概略構成の一例について説明する。
【0027】
図3は、第1の実施形態に係る検出部400の概略構成図である。図3に示すように、例えば、検出部400は、検出器420、ロックインアンプ430、及び情報処理部440を有している。
【0028】
検出器420は、試料Sで反射又は透過したプローブ光Lprを、光学系300を介して検出する。検出器420は、検出したプローブ光Lprの強度を示すプローブ信号をロックインアンプ430に出力する。検出器420は、例えば、光電子増倍管や増幅光検出器などの光検出器である。
【0029】
ロックインアンプ430は、検出器420からのプローブ信号のうち、参照信号の周波数と同期している成分のみを抽出するロックイン検出を行う。ロックインアンプ430は、ロックイン検出したプローブ信号を情報処理部440に出力する。第1の実施形態では、参照信号の周波数は、繰り返し周波数frep-pump(=繰り返し周波数frep-probe)である。なお、ロックインアンプ430は、「計測部」の一例である。
【0030】
情報処理部440は、ロックインアンプ430からのプローブ信号が示すプローブ光Lprの強度を数値化する。情報処理部440は、例えば、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置である。
【0031】
なお、検出器420は、光検出器ではなく、例えば、金属酸化物半導体(CMOS)又は電荷結合素子(CCD)を用いたカメラ(撮像部)であってもよい。検出器420がカメラである場合には、ロックインアンプ430は不要である。
【0032】
以下において、第1の実施形態における赤外レーザ顕微鏡1の動作の流れを説明する。
【0033】
第1出力部100は、所定の繰り返し周波数frep-pumpの第1パルス列のポンプ光Lpnを所定の周期Tで出力する。また、第2出力部200は、第1パルス列と繰り返し周波数が同一である第2パルス列のプローブ光Lprを所定の周期Tで出力する。制御部250は、第1パルス列が出力される期間と第2パルス列が出力される期間とを同期させる。制御部250によってパルス列が同期したポンプ光Lpnとプローブ光Lprとが試料Sに照射される。ポンプ光Lpnは、試料Sの特定分子振動と共振することで、試料Sに対して局所的な熱膨張及び局所的な屈折率の変化を誘起させる。したがって、プローブ光Lprに対して、試料Sの反射率又は透過率の変化が引き起こされる。そのため、試料で反射又は透過したプローブ光Lprの強度は、熱膨張によって引き起こされる試料の反射率又は透過率の変化によって変化する。検出部400は、ポンプ光Lpnより誘起された反射率の変化又は透過率の変化をプローブ光Lprの強度変化として検出する。
【0034】
ここで、プローブ光Lprの第2パルス列は、ポンプ光Lpnの第1パルス列と同期している。したがって、パルス幅がτprobe≦τpumpの関係にあるポンプ光Lpnとプローブ光Lprとにおいて、ポンプ光Lpnが照射されていない期間は、プローブ光Lprも照射されていない。そのため、検出部400は、試料Sの反射率又は透過率の変化の検出効率ξを向上させることができる。以下において、検出効率ξについて説明する。
【0035】
光熱分光方式の信号対雑音(S/N)は、以下の式(1)で表される。
【0036】
【数1】
【0037】
ここで、σは試料Sに依存する赤外線の吸収の断面積である。また、検出率ξは、式(2)に示すように、プローブ信号の持続時間Sτとプローブ光Lprの持続時間Pτとの比である。Ipumpは、ポンプ光Lpnの励起密度である。Iprobeは、プローブ光Lprの励起密度である。
【0038】
一般的な光熱分光法では、ポンプ光Lpnはパルス光であるが、プローブ光Lprは連続波である。例えば、ポンプ光Lpnの繰り返し周波数frep-pumpが100[kHz]で、パルス幅がτ=500[ns]であると想定する。その場合には、1秒間でのプローブ信号の持続時間Sτは、以下のようになる。
【0039】
Sτ=frep-pump×τ=5×10[ns]
【0040】
一方、プローブ光Lprは連続波であるため、プローブ光Lprにおける1秒間での持続時間Pτは、10[ns]となる。すると、検出効率ξ=0.05となり、「1」を大きく下回る。
【0041】
そこで、第1の実施形態の赤外レーザ顕微鏡1では、ポンプ光Lpnだけではなくプローブ光Lprもパルス光とする。また、赤外レーザ顕微鏡1は、ポンプ光Lpnのパルスとプローブ光Lprのパルスとを同期させている。そのため、プローブ信号の持続時間Sτとプローブ光Lprの持続時間Pτとが同一となり、検出効率ξが1.0又は1.0に近い値となる。したがって、第1の実施形態の赤外レーザ顕微鏡1は、検出効率ξを向上させることができる。
【0042】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡1Aの基本構成の一例を図である。第2の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡1Aは、第1の実施形態と比較して位相変調部500を有する点が異なり、その他の構成は同一であってもよい。以下の説明において、第1の実施形態で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0043】
図4に示すように、赤外レーザ顕微鏡1Aは、第1出力部100、第2出力部200、制御部250、位相変調部500、光学系300A、及び検出部400Aを備える。
【0044】
位相変調部500は、試料Sへ照射される第1パルス列と第2パルス列との相対的な位相を変調する。例えば、位相変調部500は、試料Sへ照射される第1パルス列と第2パルス列とが同位相である同位相状態と、第1パルス列と第2パルス列とが同位相状態ではない状態とを切り替える位相切替処理を実行する。同位相状態ではない状態とは、同位相状態でなければよいが、例えば逆位相である。なお、位相切替処理が行われても繰り返し周波数frep-pump=繰り返し周波数frep-probeは維持され、所定の周期Tも維持される。以下の説明においては、位相変調部500が、試料Sへ照射される第1パルス列と第2パルス列とが同位相である同位相状態と、第1パルス列と第2パルス列とが逆位相である逆位相状態とを切り替える場合について説明する。
【0045】
図5Aは、同位相状態と逆位相状態とを切り替える第1の例を示す図である。図5Bは、同位相状態と逆位相状態とを切り替える第2の例を示す図である。ただし、位相変調部500は、第1の例及び第2の例以外の方法で同位相状態と逆位相状態とを切り替えてもよい。すなわち、位相変調部500は、同位相状態と逆位相状態とを切り替えることができればよく、その方法には特に限定されない。また、位相変調部500は、ハードウェアにより実現されてもよく、ソフトウェアにより実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせにより実現されてもよい。
【0046】
第1の例では、位相変調部500は、第1パルス列と第2パルス列との相対的な位相関係を連続的にスイープする。例えば、位相変調部500は、開始点t=0で第1パルス列と第2パルス列とを完全に同位相に制御する。その後、位相変調部500は、第2パルス列の位相の遅延時間を徐々に設け、ある時点t=nで第1パルス列と第2パルス列とを完全に逆位相に制御する。位相変調部500は、第1パルス列と第2パルス列との間の位相関係を、ある周波数である特定周波数fpでスイープさせて同相と逆位相とを連続的に切り替える。
【0047】
第2の例では、位相変調部500は、第1パルス列と第2パルス列との相対的な位相関係を連続的にスイープすることなく切り替える。すなわち、位相変調部500は、第1パルス列と第2パルス列との間の位相関係を、特定周波数fpで同位相と逆位相とを一気に切り替える。特定周波数fpは、例えば、1[kHz]である。なお、一例として位相変調部500は、プローブ光Lprの位相を変調することで第1パルス列と第2パルス列との相対的な位相を変調する。ただし、これに限定されず、位相変調部500は、ポンプ光Lpnの位相を変調してもよいし、ポンプ光Lpnの位相とプローブ光の位相の両方を変調してもよい。なお、位相変調部500によって位相が変調されたプローブ光Lprをプローブ光Lpr´と称する。
【0048】
光学系300Aは、光学系300と同一であってもよいし、光学系300と異なる構成であってもよい。
【0049】
検出部400Aは、同位相状態において試料Sから得られるプローブ光Lprの強度である第1強度と、逆位相状態において試料から得られるプローブ光Lpr´の強度である第2強度とを区別して検出する。検出部400Aがロックインアンプ430を有する場合には、ロックインアンプ430の参照信号の周波数は、特定周波数fpに設定される。
【0050】
図6は、第2の実施形態に係る検出部400Aの概略構成図である。例えば、検出部400Aは、検出部400と同様の構成を備える。以下において、検出部400Aの各構成について説明する。検出部400Aは、検出器420A、ロックインアンプ430A、及び情報処理部440Aを備える。
【0051】
検出器420Aは、検出器420と同様の構成を備える。例えば、検出器420Aが光検出器である場合には、その検出器420Aは、試料Sから得られるプローブ光の強度を示すプローブ信号をロックインアンプ430Aに出力する。
【0052】
ロックインアンプ430Aは、検出器420Aからの同位相状態でのプローブ信号の強度である第1強度Sin-phaseと、逆位相状態でのプローブ信号の強度である第2強度Soff-phaseとを検出する。ここで、第1強度Sin-phaseは、熱膨張によって引き起こされる試料の反射率又は透過率の変化を示すプローブ信号の強度である。一方、第2強度Soff-phaseは、熱膨張が起こっていないときのプローブ信号の強度であって、いわゆるバックグラウンドの強度である。すなわち、逆位相状態でのプローブ信号は、バックグラウンド信号である。したがって、ロックインアンプ430Aは、第1強度Sin-phaseから第2強度Soff-phaseを差し引くことで、バックグラウンドの影響を除外したプローブ信号(以下、「差動信号」という。)を求め、その差動信号を情報処理部440Aに出力する。なお、ロックインアンプ430は、「計測部」の一例である。
【0053】
情報処理部440Aは、ロックインアンプ430Aの差動信号を受信し、その差動信号に基づいて所定の解析処理を実行したり、差動信号が示す強度を数値化して表示画面に表示したりする。
【0054】
検出器420Aは、第1の実施形態と同様に、光検出器ではなく、撮像部を有してもよい。その場合には、撮像部は、同位相状態においては第1パルス列又は第2パルス列が出力されている期間、すなわち同位相期間のみ露光することで第1強度を検出する。また、撮像部は、逆位相状態においては第2パルス列が出力されている期間のみ露光する。これにより、撮像部は、同位相状態でのプローブ信号と、逆位相状態でのプローブ信号とを検出することができる。情報処理部440Aは、撮像部から取得した同位相状態及び逆位相状態の各プローブ信号に基づいて、第1強度Sin-phaseと第2強度Soff-phaseとを検出する。そして、情報処理部440Aは、第1強度Sin-phaseから第2強度Soff-phaseを差し引くことで、バックグラウンドの影響を除去した差動信号の強度Sdiffを計測する。すなわち、図7に示すように、検出器420Aが光検出器ではなく撮像部である場合には、ロックインアンプ430Aは使用されないため、情報処理部440Aが差動信号を計測することになる。図7に示す例では、情報処理部440Aが「計測部」の一例である。なお、検出器420Aは、図7に示すように、同位相状態でのプローブ信号を検出する第1撮像部と、逆位相状態でのプローブ信号を検出する第2撮像部と、を有してもよい。この場合には、情報処理部440Aは、第1撮像部から同位相状態でのプローブ信号を取得し、第2撮像部から逆位相状態でのプローブ信号を取得する。
【0055】
以下において、第2の実施形態における赤外レーザ顕微鏡1Aの動作の流れを説明する。
【0056】
第1出力部100は、所定の繰り返し周波数frep-pumpの第1パルス列のポンプ光Lpnを所定の周期Tで出力する。また、第2出力部200は、第1パルス列と繰り返し周波数が同一である第2パルス列のプローブ光Lprを所定の周期Tで出力する。制御部250は、第1パルス列が出力される期間と第2パルス列が出力される期間とを同期させる。さらに、位相変調部500は、第1パルス列と第2パルス列との相対的な位相を変調する。例えば、位相変調部500は、第1パルス列の位相を基準として、第2パルス列の位相を変調する。具体的には、位相変調部500は、第2パルス列の位相を第1パルス列の位相と同位相とする同位相状態と、第2パルス列の位相を第1パルス列の位相と逆位相とする逆位相状態と、を特定周波数fpで切り替える。したがって、試料Sに対して同位相の第1パルス列と第2パルス列とが照射される期間と、試料Sに対して互いに逆位相の第1パルス列と第2パルス列とが照射される期間と、が存在することになる。したがって、検出部400Aは、同位相状態でのプローブ光Lprの第1強度Sin-phaseと、逆位相状態でのプローブ光Lpr´の第2強度Soff-phaseとを区別して検出し、第1強度Sin-phaseから第2強度Soff-phaseを差し引くことでバラックグランドを除去したプローブ信号である差動信号を得ることができる。
【0057】
プローブ信号にはバックグラウンドが常に存在している。プローブ信号は基本的に微弱であるため、プローブ信号を検出する際にはロックイン検出が行われることが多い。理想的にはロックイン検出は、参照信号の周波数以外の他の周波数のノイズ成分を減らすことが可能である。ただし、ロックイン検出を使用しても、プローブ信号にはバックグラウンドが含まれるため、完全にはバックグラウンドを除去することができない場合がある。
【0058】
そこで、第2の実施形態の赤外レーザ顕微鏡1Aは、試料Sに照射する第1パルス列と第2パルス列とが同位相となる同位相状態と逆位相となる逆位相状態とを切り替える。そして、赤外レーザ顕微鏡1Aは、同位相状態でのプローブ信号から逆位相状態のプローブ信号を差し引くこと、プローブ信号からバックグラウンドを除去することができる。
【0059】
以上の通り、第2実施形態の赤外レーザ顕微鏡1Aでは、第1実施形態の赤外レーザ顕微鏡1と同様の効果を奏する他、プローブ信号からバックグラウンドを除去することができる。
【0060】
[第1の実施形態の具体的な構成]
図8は、第1の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡1の具体的な構成を示す。
【0061】
第1出力部100は、ポンプレーザ110及びパルス列変調部120を備える。
【0062】
ポンプレーザ110は、所定の繰り返し周波数frep-pumpのパルス光である第1パルス列を出力する。このポンプレーザ110では、中赤外線スペクトル範囲を部分的または完全にカバーできる波長にパルス光の波長を調整可能である。例えば、ポンプレーザ110は、量子カスケードレーザ(Quantum cascade laser)、光パラメトリックオシレーター(optical parametric oscillator)、光パラメトリックアンプ(optical parametric amplifier)、スーパーコンティニウムレーザ、自由電子レーザ(free electron laser)などである。
【0063】
パルス列変調部120は、第1パルス列を所定の周期Tでオンオフさせる。例えば、パルス列変調部120は、例えば、ポンプレーザ110からの第1パルス列の出力を所定の周期Tごとにオンオフする。ここで、パルス列変調部120は、例えば、光学チョッパーなどの光機械デバイスであってもよいし、広帯域中赤外対応の電気光学変調器や音響光学変調器であってもよい。なお、パルス列変調部120は、ポンプレーザ110内に内蔵されてもよいし、ポンプ光Lpnのビームライン上に設置されてもよい。図7に示す例では、パルス列変調部120は、ポンプ光Lpnのビームライン上に設置される光学チョッパーである場合について説明する。なお、光学チョッパーは、制御部250によって制御される。
【0064】
第2出力部200は、プローブレーザ210及びパルス列変調部220を備える。
【0065】
プローブレーザ210は、ポンプレーザ110と通信しており、繰り返し周波数frep-pumpと同一の繰り返し周波数frep-probeのパルス光である第2パルス列を出力する。また、ポンプレーザ110の繰り返し周波数frep-pumpとプローブレーザ210の繰り返し周波数frep-probeとは、同期されている。すなわち、第1パルス列と第2パルス列は、一つの例では同等のパルス幅で、且つ、一つの例では同じタイミングで同時に出力される。
【0066】
パルス列変調部220は、第2パルス列を所定の周期Tでオンオフさせる。例えば、パルス列変調部220は、例えば、プローブレーザ210からの第2パルス列の出力を所定の周期Tごとにオンオフする。ここで、パルス列変調部220は、例えば、光学チョッパーなどの光機械デバイスであってもよいし、広帯域中赤外対応の電気光学変調器や音響光学変調器であってもよい。なお、パルス列変調部220は、プローブレーザ210内に内蔵されてもよいし、プローブ光Lprのビームライン上に設置されてもよい。図7に示す例では、パルス列変調部220が制御部250によって制御されるチョッパー、可視光対応の電気光学変調器又は可視光対応の音響光学変調器であって、プローブ光Lprのビームライン上に設置される。
【0067】
光学系300は、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとのぞれぞれのアライメント調整用の独立したビームラインを有する。また、光学系300は、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとの両方のビームをフォーカス用に対物レンズに入射する前に、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとを共線で合流させる。さらに、光学系300は、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとを合流させた後、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとを平行にして対物レンズに同軸入射させる。この際、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとは空間的に重なり合うが、時間的に重なり合っていなくてもよい。
【0068】
光学系300は、試料Sから反射されたプローブ光(以下、「反射光」)又は試料Sを透過したプローブ光(以下、「透過光」)を検出器420に入射させる。
【0069】
以下、本実施形態の光学系300について具体的に説明する。
【0070】
光学系300は、第1ビームライン部310、第2ビームライン部320、及び第3ビームライン部330を備える。
【0071】
第1ビームライン部310は、HgCdTe検出器(以下、「MCT検出器」という。)311、ビームサンプラー312、ガイドレーザ照射部313、電動フリップミラー314、ミラー315~317、及びビームエキスパンダー318を備える。
【0072】
MCT検出器311は、ポンプ光Lpnが特定のスペクトル範囲にわたってスキャンしている場合に、ポンプ光Lpnの出力強度を記録する。MCT検出器311において特定のスペクトル範囲で記録されたレーザ強度プロファイルは、プローブ信号の正規化のために利用される。
【0073】
ビームサンプラー312は、ポンプレーザ110から出力されたポンプ光Lpnの強度をモニタリングのために、ポンプレーザ110から出力されたポンプ光Lpnの一部をMCT検出器311に入射させる。
【0074】
ガイドレーザ照射部313は、可視のガイドレーザを照射する。
【0075】
電動フリップミラー314は、手動または自動でコントロールされる切替式の反射鏡である。電動フリップミラー314は、ポンプレーザ110から出力されたポンプ光Lpnの一部の光路を所定の方向に切り替える。所定の方向にはミラーM11を介してACU(Alignment Check Unit)600が配置されている。また、電動フリップミラー314の後段には、パルス列変調部120が設けられている。すなわち、ポンプレーザ110から出力されたポンプ光Lpnは、一部の光がミラーM11を介してACU600に入射され、その他の光がパルス列変調部120によって所定の周期Tでオンオフされる。パルス列変調部120によって所定の周期Tでオンオフされたポンプ光Lpn(以下、「周期ポンプ光」という。)は、ミラー315及びミラー316を介してビームエキスパンダー318に入射させる。
【0076】
ビームエキスパンダー318は、周期ポンプ光Lpnを拡大させる。例えば、ビームエキスパンダー318は、固定または可変の拡張比を持つ反射タイプである。ビームエキスパンダー318によって拡大された周期ポンプ光Lpnは、ミラー317によってステアリングされ、ダイクロイックミラー331を透過する。
【0077】
第2ビームライン部320は、ミラー321,322、BCU(Beam Control Unit:ビームコントロールユニット)700、及びビームエキスパンダー323を備える。
【0078】
ミラー321,322は、プローブレーザ210から出力されたプローブ光Lprをパルス列変調部220に平行に入射させる。パルス列変調部220に平行に入射したプローブ光Lprは、パルス列変調部220によって所定の周期Tでオンオフされる。パルス列変調部220によって所定の周期Tでオンオフされたプローブ光Lpr(以下、「周期プローブ光Lpr」という。)は、BCU700に入射する。
【0079】
BCU700は、試料Sに対して周期プローブ光Lprが照射される位置を検出して補正する。BCU700は、BCU700に入射されたビーム(この場合は可視光パルスレーザービーム)をBCU700内部にある電動ミラーや位置検出器(例えば、Position Sensitive Detector)などでフィードバックして、ビームの空間位置の変動を高速で所定の位置に補正する。所定の位置とは、例えば、検出部400にて検出されるプローブ光Lprの強度が最大となるような位置である。BCU700から出た後の周期プローブ光Lprは、ビームエキスパンダー323に入射される。
【0080】
ビームエキスパンダー323は、BCU700から出た後の周期プローブ光Lprを拡大させる。ビームエキスパンダー323は、例えば、透過式(ガリレオ式またはケプラー式)または反射式であり、拡大率が固定または可変可能である。
【0081】
キューブビームスプリッター324は、ビームエキスパンダー323の後段に設置されている。キューブビームスプリッター324は、ビームエキスパンダー323によって拡大された周期プローブ光Lprのうち、例えば50%の周期プローブ光Lprを透過させ、他の50%の周期プローブ光Lprを反射させてブロックする。キューブビームスプリッター324を透過した周期プローブ光Lprは、第3ビームライン部330のダイクロイックミラー331で反射して、周期ポンプ光Lpnと同一の直線上に合流する。
【0082】
第3ビームライン部330は、ダイクロイックミラー331、電動フリップミラー332、反射式対物レンズ333、ピエゾ駆動対物レンズステージ334、対物レンズ335、ミラー336~340、電動フリップミラー341、及びレンズ342を備える。
【0083】
ダイクロイックミラー331は、周期ポンプ光Lpnと周期プローブ光Lprとを同一の直線上に合流させる。
【0084】
電動フリップミラー332は、同一の直線上に合流した周期ポンプ光Lpnと周期プローブ光Lprとの両レーザ光のうち、アライメントが必要である場合には、一部の両レーザ光をACUに入射させ、その他の両レーザ光を透過させて反射式対物レンズ333に入射させる。
【0085】
反射式対物レンズ333は、ピエゾ駆動対物レンズステージに取り付けられたカセグレン型反射対物レンズである。反射式対物レンズ333によって周期ポンプ光Lpnと周期プローブ光Lprとは、同じエリアに同時に集光される。ただし、周期ポンプ光Lpnと周期プローブ光Lprとのスポットサイズは異なる。例えば、周期プローブ光Lprのスポットサイズは、周期ポンプ光Lpnのスポットサイズよりも小さい。なお、試料Sは、X方向、Y方向及びZ方向の三方向に移動可能なサンプルステージMに固定されている。したがって、サンプルステージMによって、試料Sの粗調整と焦点調整とが実行される。ピエゾ駆動対物レンズステージ334及びサンプルステージMは、情報処理部440によって制御される。
【0086】
対物レンズ335は、反射式対物レンズ333に対して共役面に逆に設置される。ここで、対物レンズ335は、透過光をコリメートする。対物レンズ335によってコリメートされた透過光は、ミラー336~339によってステアリングされ、電動フリップミラー341に導かれる。
【0087】
電動フリップミラー341は、手動または自動でコントロールされる切替式の反射鏡である。電動フリップミラー341は、検出部400の前段に設置されている。電動フリップミラー341は、ミラー340を経由した反射光をブロックするか(フリップオン状態)、ブロックせずに検出部400に入射させるか(フリップオフ状態)のいずれかを行う。
【0088】
レンズ342は、試料Sから反射された反射光又は試料Sを透過した透過光を集光して検出器420に入射させる。
【0089】
以下において、反射光または透過光が検出器420に入射するまでの流れを説明する。試料Sからの反射光は、反射式対物レンズ333を経由してダイクロイックミラー331でキューブビームスプリッター324へ反射する。キューブビームスプリッター324では、反射光の50%を90度ステアリングする。キューブビームスプリッター324でステアリングされた反射光は、ミラー340によってピックアップされ、電動フリップミラー341に導かれる。電動フリップミラー341がフリップオフ状態である場合には、反射光がレンズ342を通って検出器420に入射される。一方、電動フリップミラー341がフリップオン状態である場合には、電動フリップミラー341は、反射光をブロックして透過光を有効にする。したがって、電動フリップミラー341がフリップオン状態では、透過光がレンズ342を通って検出器420に入射される。なお、検出部400の前にピンホールホイールを設置してレンズ342の非焦点面からのノイズを除去してもよい。
【0090】
次に、本実施形態のACU600の動作について説明する。図8は、本実施形態のACU600の概略構成図である。
【0091】
ACU600は、2つのレーザ光のアライメントを確認するユニットである。例えば、ACU600は、2つのミラー601,602及び焦電検出器610を備える。第1の実施形態の光学系300は、2つのACU600を有する。なお、2つのACU600のそれぞれを区別するために、一方のACU600を「ACU600a」、他方のACU600を「ACU600b」とする。ACU600aは、ガイドレーザとポンプ光Lpnとの空間位置アライメントを行うためのACU600であって、大まかな位置合せ用(rough alignment)である。ACU600bは、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprの空間位置アライメントを行うためのACU600であって、精細な位置合せ用(Fine alignment)である。まず、ACU600aの動作について説明する。
【0092】
ACU600aは、ガイドレーザとポンプ光Lpnとが合流した後の光路に設置される。合流した後のガイドレーザとポンプ光Lpnとの両レーザ光(以下、「第1両レーザ光」という。)は、ミラー601,602によって焦電検出器610に導かれる。例えば、焦電検出器610は、四分割象限焦電検出器又は焦電走査シルトビームプロファイラーである。第1両レーザ光の空間位置合わせのために、ミラー602と焦電検出器610との間に虹彩620のペアが設置されている。例えば、キネマティック光学マウント上に固定されたガイドレーザは、焦電検出器610の検出結果に応じてポンプ光Lpnと平行かつ重なるように調整される。焦電検出器610の検出結果は、コネクタ630を介して情報処理部440に接続される。
【0093】
次に、本実施形態のACU600bの動作について説明する。
【0094】
ACU600bは、ダイクロイックミラー331によって合流した周期ポンプ光Lpnと周期プローブ光Lprとの両レーザ光(以下、「第2両レーザ光」という。)のアライメントを確認する。第2両レーザ光の一部は、試料Sに照射される前に電動フリップミラー332によってACU600bに入射される。この第2両レーザ光は、2つのミラー601,602によって焦電検出器610に入射される。周期プローブ光Lprは、焦電検出器610の検出結果に応じて周期ポンプ光Lpnと平行かつ重なるように調整される。
【0095】
次に、本実施形態のBCU700について説明する。図10は、本実施形態のBCU700の概略構成図である。
【0096】
例えば、BCU700は、ミラー701~703、電動ミラー710,711、位置検出器720~722、キューブビームスプリッター730~732、光学ファラデーアイソレータ740、光学ノイズイーター750、光遅延ステージ760、およびカメラユニット770を備える。
【0097】
ミラー701~703は、ピッチ軸とヨー軸の両方で手動または電動で調整可能である。
【0098】
電動ミラー710,711は、ピッチ軸とヨー軸の両方でビームを手動および自動で操縦可能である。例えば、電動ミラー710は、コネクタC11,C12を介して情報処理部440によって制御される。電動ミラー711は、コネクタC13,C14を介して情報処理部440によって制御される。例えば、電動ミラー710,711は、音声コイル駆動の高速ステアリングミラー(FSM)または圧電ミラー(PM)である。
【0099】
位置検出器720~722は、PSD(Position Sensitive Detector)である。位置検出器720~722は、光を受光し、その受光した光の位置に応じた位置信号を情報処理部440に出力する。位置検出器720~722は、水平方向および垂直方向に光学ブレッドボードに対して移動できる電動ステージに取り付けられている。位置検出器720は、コネクタC15を介して情報処理部440に接続されて制御される。位置検出器721は、コネクタC16を介して情報処理部440に接続されて制御される。位置検出器722は、コネクタC17を介して情報処理部440に接続されて制御される。位置検出器720~722は、横効果型のPSDであってもよいし、四分割のPSDであってもよい。
【0100】
キューブビームスプリッター730~732は、レーザビームを直交方向に分割する。ここで、キューブビームスプリッター730~732の分割比は、反射させる光Rと透過させる光Tとの間の光強度の比であって、例えば、R:T=90:10である。
【0101】
光学ファラデーアイソレータ740は、プローブ光Lprへの戻り光を抑制する。これにより、光学ファラデーアイソレータ740は、戻り光によって引き起こされるモードホッピングによりレーザノイズが発生することを抑制する。
【0102】
光学ノイズイーター750は、レーザビームにおける光ノイズを低減する。この光ノイズとは、レーザ光源自体または環境ノイズによって生じるノイズである。
【0103】
光遅延ステージ760は、ビームラインの光路長さを制御するために、光学レトロリフレクター761が取り付けられた高精度のリニアステージまたはステッピングモーターステージである。
【0104】
カメラユニット770は、レンズチューブ771と光源772を備えている。カメラユニット770は、必要に応じてサンプルの照明や観察を実行できる。
【0105】
次に、本実施形態のBCU700の動作について説明する。
【0106】
BCU700に入射したプローブ光Lprが光学レトロリフレクター761の片側に平行的に入射するよう電動ミラー710とミラー701が事前に調整される。分割比R:Tが10:90であるキューブビームスプリッター730は、ミラー701と光学レトロリフレクター761の間に設置されており、プローブ光Lprのレーザスポットの位置(以下、「レーザスポット位置」という。)を監視するためにそのプローブ光Lprの一部(例えば、10%)を位置検出器720に入射させる。
【0107】
キューブビームスプリッター730を透過した90%のプローブ光Lprは、光学レトロリフレクター761によって逆方向に反射され、ミラー702および電動ミラー711によってピックアップされる。ミラー702および電動ミラー711は、プローブ光LprがBCU700の出口を平行に通過するように事前に調整される。分割比R:T=50:50のキューブビームスプリッター731は、電動ミラー711とBCU700の出口の間に設置され、電動ミラー711で反射したプローブ光Lprのレーザスポット位置を監視するためにそのプローブ光Lprの一部(50%)を位置検出器721に入射させる。
【0108】
プローブ光Lprのレーザスポット位置が所定の位置になるように位置検出器720及び位置検出器721の位置、電動ミラー710及び電動ミラー711のピッチ軸とヨー軸が事前に手動又は自動で調整される。以下において、この調整をアライメント調整と称する。アライメント調整が完了すると、アライメント調整された位置検出器720の位置信号は、電動ミラー710の第1セットポイントとして情報処理部440に設定される。また、アライメント調整された位置検出器721の位置信号は、電動ミラー711の第2セットポイントとして情報処理部440に設定される。
【0109】
これにより、第1セットポイントが設定されると、情報処理部440は、位置検出器720の位置信号が示す現在のレーザスポット位置と第1セットポイントとを比較して、レーザスポット位置と第1セットポイントとの偏差が無くなるように電動ミラー710のピッチ軸やヨー軸をフィーバック制御する。また、第2セットポイントが設定されると、情報処理部440は、位置検出器721の位置信号が示す現在のレーザスポット位置と第2セットポイントとを比較して、位置検出器721が示すレーザスポット位置と第2セットポイントとの偏差が無くなるように電動ミラー711のピッチ軸やヨー軸をフィーバック制御する。これによって、プローブ光Lprのポインティングの不安定性や環境ノイズによってプローブ光Lprのレーザスポット位置がセットポイントからずれることを抑制する。また、上記BCU700の構成は、BCU700の出口でレーザビームを可能な限り高速化で安定させ、プローブ光Lprのレーザスポットの角度および空間的な位置の両方の不安定性を抑制することができる。
【0110】
光学ファラデーアイソレータ740及び光学ノイズイーター750は、電動ミラー711とキューブビームスプリッター731との間に設置されている。また、分割比R:T=90:10のキューブビームスプリッター732は、位置検出器721の反対側に設定されている。この構成により、位置検出器722は、BCU700の出口から入射した試料Sからの反射光をピックアップして、試料Sの焦点偏差を検出することができる。この位置検出器722の位置信号は、反射式対物レンズ333の位置を示す情報として用いられる。ここで、本実施形態では、検出部400に対して反射光を導く場合でも透過光を導く場合でも、反射光は常に位置検出器722に戻される。
【0111】
また、プローブ信号は、焦点上ではなく、ガウス型の点像分布関数(以下、「ガウス型PSF」という。)の積分がピークに達する位置で最大化される。プローブ光Lprは横モードで発振している。そのため、試料Sに対するプローブ光Lprの焦点スポットの強度分布、すなわち点像分布関数(PSF:Point Spread Function)は、ガウス関数となる。試料Sの法線方向であるZ方向のガウス型PSFは、ポンプ光Lpnによって誘起される屈折率の変化、つまり熱レンズ効果により、拡大又は縮小する。熱レンズ効果を明確に観察する、つまり、プローブ信号を最大化するには、プローブ光Lprを焦点に正確に設定する代わりにガウス型PSFの積分がピークに達する位置に設定した方が有利である。
【0112】
このような観点から、反射式対物レンズ333のZ方向の位置(以下、「Z方向位置」という。)は、ガウス型PSFの積分のピークに対応するポイントである第3セットポイントに設定される。すなわち、第3セットポイントとして、ガウス型PSFの最大変化率に対応する「焦点を合わせた位置」、言い換えるとガウス型PSFの積分がピークに達する位置が情報処理部440に事前に設定される。したがって、情報処理部440は、反射式対物レンズ333のZ方向位置が第3セットポイントになるようにフィードバック制御する。すなわち、情報処理部440は、第3セットポイントの設定が完了すると、位置検出器722の位置信号が示すZ方向位置と第3セットポイントとを比較して、そのZ方向位置と第3セットポイントとの偏差が無くなるように反射式対物レンズ333の位置を調整する。このように、情報処理部440は、BCU700の検知結果(位置検出器720~722の検出結果)に基づいてプローブ光が照射される位置を設定位置に調整する。
【0113】
[第2の実施形態の具体的な構成]
図11は、第2の実施形態に係る赤外レーザ顕微鏡1Aの具体的な構成を示す。図10に示す例では、パルス列変調部220は、ポンプ光Lpnのビームライン上に設置される光学チョッパーである場合を例として説明するが、光学チョッパーに限定されず、他の方式であってもよい。なお、この光学チョッパーは、制御部250によって制御される。以下の説明において、図7で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0114】
以下、本実施形態の光学系300Aについて具体的に説明する。
【0115】
光学系300Aは、第1ビームライン部310、第2ビームライン部320A、及び第3ビームライン部330Aを備える。
【0116】
第2ビームライン部320Aは、キューブビームスプリッター350、ミラー351~356、キューブビームスプリッター357、ビームエキスパンダー358、及びキューブビームスプリッター359を備える。また、第2ビームライン部320Aには、2つのBCU700(BCU700a,BCU700b)を備える。また、第2ビームライン部320Aには、光学チョッパー800が設置されている。この光学チョッパー800は、パルス列変調部220及び位相変調部500の機能を有する。
【0117】
キューブビームスプリッター350は、例えば分割比R:Tが50:50であって、プローブレーザ210から出力されたプローブ光Lprを第1プローブ光と第2プローブ光とに分割する。例えば、プローブレーザ210から出力されたプローブ光Lprは、2つの独立した光路である第1光路と第2光路に分割される。そして、第1光路には第1プローブ光が入射し、第2光路には第2プローブ光が入射する。
【0118】
ミラー351~353は、第1プローブ光をBCU700aに入射させる。例えば、ミラー351~353は、第1光路を構成する。ミラー354,355は、第2プローブ光をBCU700bに入射させる。例えば、ミラー354,355は、第2光路を構成する。
【0119】
光学チョッパー800は、第1プローブ光と第2プローブ光との両方を位相変調させる。光学チョッパー800は、第1光路と第2光路とのそれぞれが通る光路に設置されている。光学チョッパー800は、第1プローブ光がポンプ光と同位相になるようにし、第2プローブ光がポンプ光と逆位相になるように位相変調する。光学チョッパー800は、プローブ光の繰り返し周波数frep-probeと同期している。第1プローブ光と第2プローブ光は、光学チョッパー800を通過する際に互いが逆位相となる。例えば、第1プローブ光と第2プローブ光を光学チョッパー800の光学チョッパーホイールの異なる箇所に入射するように光学チョッパー800を配置させる。そうすると、第1プローブが光学チョッパーによって切断されている際には、第2プローブは切断されずに通過してBCU700bに送られる。一方、第2プローブが光学チョッパーによって切断されている際には、第1プローブは切断されずに通過してBCU700aに送られる。
【0120】
BCU700aからの第1プローブ光は、キューブビームスプリッター357に送られる。また、BCU700bからの第2プローブ光は、ミラー346によってキューブビームスプリッター357に送られる。キューブビームスプリッター357は、第1プローブ光と第2プローブ光とを合流させ、合流させた第1プローブ光と第2プローブ光との両レーザ光(以下、「第3両レーザ光」という。)を同一線上でビームエキスパンダー358に送る。
【0121】
ビームエキスパンダー358は、第3両レーザ光を拡大させる。ビームエキスパンダー358は、ビームエキスパンダー323と同様である。
【0122】
キューブビームスプリッター359は、ビームエキスパンダー358によって拡大された第3両レーザ光のうち、50%の第3両レーザ光を透過させ、他の50%の第3両レーザ光を反射させてブロックする。キューブビームスプリッター359を透過した第3両レーザ光は、第3ビームライン部330Aのダイクロイックミラー331で反射して、周期ポンプ光Lpnと同一の直線上に合流する。
【0123】
第3ビームライン部330Aは、ダイクロイックミラー331、電動フリップミラー332、反射式対物レンズ333、ピエゾ駆動対物レンズステージ334、対物レンズ335、ミラー361~365、電動フリップミラー370、キューブビームスプリッター371、及びレンズ380,381を備える。
【0124】
ダイクロイックミラー331によって合流した周期ポンプ光Lpnと第3両レーザ光とは、試料Sに照射される。対物レンズ335によってコリメートされた透過光は、ミラー361~365によってステアリングされ、電動フリップミラー370に導かれる。
【0125】
電動フリップミラー370は、手動または自動でコントロールされる切替式の反射鏡である。電動フリップミラー370は、反射光をブロックするか(フリップオン状態)、ブロックせずに検出部400Aに入射させるか(フリップオフ状態)のいずれかを行う。
【0126】
キューブビームスプリッター371は、反射光又は透過光を2つの直交方向に分割する。ここで、キューブビームスプリッター371の分割比は、例えば、R:T=50:50である。
【0127】
レンズ380は、キューブビームスプリッター371で分割される2つの直交方向のうち、一方の直交方向に設置されている。レンズ381は、キューブビームスプリッター371で分割される2つの直交方向のうち、他方の直交方向に設置されている。
【0128】
以下において、反射光または透過光が2つの検出器420A(撮像部)に入射するまでの流れを説明する。試料Sからの反射光は、反射式対物レンズ333を経由してダイクロイックミラー331でキューブビームスプリッター359へ反射する。キューブビームスプリッター359では、反射光の50%を90度ステアリングする。キューブビームスプリッター359でステアリングされた反射光は、電動フリップミラー370に導かれる。電動フリップミラー370がフリップオフ状態である場合には、反射光がレンズ380、レンズ381を通って各検出器420A(撮像部)に入射される。一方、電動フリップミラー370がフリップオン状態である場合には、電動フリップミラー370は、反射光をブロックして透過光を有効にする。したがって、電動フリップミラー370がフリップオン状態では、透過光がレンズ380、レンズ381を通って各検出器420A(撮像部)に入射される。なお、各検出器420Aの前にピンホールホイールを設置してレンズ380,381の非焦点面からのノイズを除去してもよい。
【0129】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0130】
上記第1の実施形態の赤外レーザ顕微鏡1又は第2の実施形態の赤外レーザ顕微鏡1Aは、試料Sに第1パルス列が照射されるタイミングと、試料Sに第2パルスが照射されるタイミングとの間に遅延時間を発生させる遅延部を更に備えてもよい。例えば、第1の実施形態を例として説明する場合には、図12に示すように、赤外レーザ顕微鏡1は、遅延部900を更に備えてもよい。遅延部900は、赤外ポンプ光Lpnによる試料Sの熱膨過程の発生の時間を考慮して、ポンプ光Lpnが試料Sに入射してから所定の遅延時間が経過した後にプローブ光Lprが試料Sに入射するように遅延時間を生成する。遅延時間を設ける方法には、特に限定されないが、例えば、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとの位相を合わせた後で光学系300にて遅延時間を設けてもよいし、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprが光学系300へ照射される際にプローブレーザ210にて遅延時間を設けてもよい。なお、遅延時間は、「0(ゼロ)」であってもよい。
【0131】
上記第1の実施形態の赤外レーザ顕微鏡1又は赤外レーザ顕微鏡1Aは、ポンプ光Lpnとプローブ光Lprとの各レーザ光が試料Aに照射される照射位置を走査する走査部を備えてもよい。この走査部は、試料Sを動かすサンプルスキャン又はレーザ光を動かすレーザスキャンで照射位置を走査する。上記実施形態では、試料Sを動かすサンプルステージMを動かす情報処理部440,440Aが「走査部」の一例である。ただし、これに限定されず、光学系300,300Aなどに設けられた可動式のミラーであってもよい。
【0132】
以上、説明したように、本実施形態の赤外レーザ顕微鏡は、所定の繰り返し周波数の第1パルス列(ポンプ光)と、第1パルス列と繰り返し周波数が同一の第2パルス列(プローブ光)とを同期させる。このような構成によれば、検出効率ξを向上させることができる。
【0133】
また、本実施形態の赤外レーザ顕微鏡は、試料Sへ照射される第1パルス列と第2パルス列との相対的な位相を同位相と逆位相とに切り替える位相変調部500を更に備える。このような構成により、バックグラウンドを除去したプローブ信号を得ることができる。
【符号の説明】
【0134】
1,1A 赤外レーザ顕微鏡
100 第1出力部
200 第2出力部
250 制御部
300,300A 光学系
400,400A 検出部
420,420A 検出器
430,430A ロックインアンプ
440,440A 情報処理部
700 BCU
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12