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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】メルトブローン不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20240917BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20240917BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20240917BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240917BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
D04H3/16
D04H3/007
B01D39/16 A
A61K9/70 401
A61K47/32
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022182267
(22)【出願日】2022-11-15
(62)【分割の表示】P 2019540890の分割
【原出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2023016845
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017173124
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】城谷 泰弘
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-256490(JP,A)
【文献】特表2003-504523(JP,A)
【文献】特開2011-231163(JP,A)
【文献】特開2015-190081(JP,A)
【文献】特表2005-526923(JP,A)
【文献】特開2001-210549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00-41/04
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂を含む繊維で構成されるメルトブローン不織布であって、1000倍に拡大したSEM画像においてランダムに選択した100ポイントの繊維径データのうち、繊維径の小さいデータから大きなデータへ向かってデータを四分位に分けて得られる第3四分位数より大きな繊維径を有するデータの平均値が30μm以下であり、平均繊維径のCV値が90%以下である、メルトブローン不織布。
【請求項2】
請求項1に記載のメルトブローン不織布であって、前記環状オレフィン系樹脂がノルボルネン単位を少なくとも含む共重合体である、メルトブローン不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメルトブローン不織布であって、JIS L 1906に準じて測定される通気度が10~550cm/cm・sである、メルトブローン不織布。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布であって、目付が10~50g/mである、メルトブローン不織布。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布であって、下記式(1)を満たす、メルトブローン不織布。
80 ≦B/A≦ 800 (1)
[式中、A:厚さ(mm)、B:通気度(cm/cm・s)を表す]
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布であって、平均繊維径が1~15μmの繊維で構成される、メルトブローン不織布。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布であって、第1四分位数より大きく第3四分位数より小さい繊維径を有するデータの平均値である平均繊維径(Dc)に対する、第3四分位数より大きい繊維径を有するデータの平均値である平均繊維径(Db)の比Db/Dcが3.5以下である、メルトブローン不織布。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布であって、厚さが0.10~0.85mmである、メルトブローン不織布。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布を用いたフィルター。
【請求項10】
有効成分を放出する経皮投与シートに用いられる支持体であって、請求項1~8のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布からなる支持体。
【請求項11】
有効成分と、請求項10に記載された支持体とを少なくとも備える経皮投与シート。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は2017年9月8日出願の特願2017-173124の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、環状オレフィン系樹脂を含む繊維で構成され、太径繊維の混入を低減したメルトブローン(MB)不織布およびメルトブローン(MB)不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
環状オレフィン系樹脂は、高透明性、高耐熱性、耐薬品性、不純物の低溶出性、低吸着性などの特長から、種々の方法で成形され、薬品包装材や検査容器などの医療用途、レンズや光学フィルムなどの光学用途、電子デバイス用途などに使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2001-210549号公報)には、環状炭化水素系重合体を含む樹脂組成物からなるエレクトレットについて記載されており、エレクトレットは、フィルム、シート、繊維、不織布等の形態にすることができること、不織布のエレクトレット化はメルトブロー法が好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-210549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、メルトブローン不織布の製造方法に関して、一般的なメルトブロー法の条件を記載しているのみであり、実施例ではフィルムを作製しているのみである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、環状オレフィン系樹脂を含む繊維で構成され、太い繊維の混入が抑制されたメルトブローン不織布、これを用いたフィルター、並びに経皮投与シート用支持体及び経皮投与シート(特に経皮吸収剤、貼付剤)を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、太い繊維の混入を抑制させることができる、環状オレフィン系樹脂を含む繊維で構成されるメルトブローン不織布の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(i)環状オレフィン系樹脂に対してメルトブロー法を適用すると、樹脂の混練時に働く機械的エネルギーにより主鎖の分解が起こり、分解した二重結合同士が新たな結合を作り、ゲル化が発生する「メカノケミカル反応」と呼ばれる現象を誘発するため、環状オレフィン系樹脂を用いて得られるMB不織布は、ショットと呼ばれるビーズ状の塊が発生してしまうこと、また、たとえショットが混入しない場合であっても、メカノケミカル反応に由来して、許容される太さの繊維よりも太い繊維が欠点として混入してしまうことを見出した。そして、(ii)メルトブロー法において、押出機内での樹脂の混練時やダイへの供給時等に、樹脂に機械的エネルギー(特に圧縮応力)が働くと、樹脂のメカノケミカル反応が発生しやすいことを見出し、さらに研究を進めた結果、(iii)混練部導入前の樹脂溶融物の粘度を低下させたり、樹脂混練物の吐出量(Q)とスクリュの回転数(N)との比(Q/N)を小さくするなどして、できる限り樹脂を圧縮させないという方法を用いることにより、太い繊維の発生が抑制されたMB不織布を得ることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
環状オレフィン系樹脂を含む繊維で構成されるメルトブローン不織布であって、1000倍に拡大したSEM画像においてランダムに選択した100ポイントの繊維径データのうち、繊維径の小さいデータから大きなデータへ向かってデータを四分位に分けて得られる第3四分位数より大きな繊維径を有するデータの平均値が30μm以下である、メルトブローン不織布。
【0011】
〔態様2〕
態様1に記載のメルトブローン不織布であって、前記環状オレフィン系樹脂がノルボルネン単位を少なくとも含む共重合体である、メルトブローン不織布。
【0012】
〔態様3〕
態様1または2に記載のメルトブローン不織布であって、JIS L 1906に準じて測定される通気度が10~550cm/cm・sである、メルトブローン不織布。
【0013】
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載のメルトブローン不織布であって、目付が10~50g/mを満たすメルトブローン不織布。
【0014】
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載のメルトブローン不織布であって、下記式(1)を満たすメルトブローン不織布。
80 ≦B/A≦ 800 (1)
[式中、A:厚さ(mm)、B:通気度(cm/cm・s)を表す]
【0015】
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載のメルトブローン不織布であって、平均繊維径が1~15μmの繊維で構成される、メルトブローン不織布。
【0016】
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載のメルトブローン不織布を用いたフィルター。
【0017】
〔態様8〕
有効成分を放出する経皮投与シートに用いられる支持体であって、態様1~6のいずれか一態様に記載のメルトブローン不織布からなる支持体。
【0018】
〔態様9〕
有効成分と、態様8に記載された支持体とを少なくとも備える経皮投与シート。
【0019】
〔態様10〕
環状オレフィン系樹脂を少なくとも含む樹脂組成物を供給部において、加熱溶融し、樹脂溶融物を得る溶融工程と、
前記樹脂溶融物を混練部に導入し、加熱下でスクリュの回転により混練し、樹脂混練物を得る混練工程と、
前記樹脂混練物をエアーとともにノズルから吐出する吐出工程と、
前記ノズルから吐出された吐出糸状物を、捕集面で捕集してウェブを得る捕集工程と、を少なくとも備える環状オレフィン系樹脂を含むメルトブローン不織布の製造方法であって、
前記混練部に導入される樹脂溶融物の粘度ηが80~200poiseである、メルトブローン不織布の製造方法。
【0020】
〔態様11〕
態様10に記載のメルトブローン不織布の製造方法であって、下記式(2)を満たす、メルトブローン不織布の製造方法。
20 ≦(Q×η)/N≦ 100 (2)
[式中、Q:ノズルからの樹脂混練物の吐出量(kg/hr)、η:混練部に導入される樹脂溶融物の粘度(poise)、N:スクリュ回転数(rpm)を表す]
【0021】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のMB不織布によれば、特有の副反応を生じる環状オレフィン系樹脂を含む繊維で構成されているにもかかわらず、太い繊維の混入が抑制されたMB不織布を得ることが可能であり、このMB不織布を用いたフィルター、経皮投与シート(特に経皮吸収剤、貼付剤)を提供することができる。
【0023】
また、本発明では、メルトブロー法で不織布を製造する場合に、混練部に導入する前の樹脂溶融物の粘度を特定の範囲にすることにより、環状オレフィン系樹脂に特有の「メカノケミカル反応」が発生するのを抑制でき、その結果太い繊維の混入が抑制されたメルトブローン不織布の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
図1】本発明の一実施形態のM B 不織布の製造に用いられる装置を示す概略断面図である。
図2参考例1で得られたMB不織布のSEM画像(倍率:300倍)である。
図3】実施例2で得られたMB不織布のSEM画像(倍率:300倍)である。
図4参考例3で得られたMB不織布のSEM画像(倍率:300倍)である。
図5】実施例4で得られたMB不織布のSEM画像(倍率:300倍)である。
図6】比較例1で得られたMB不織布のSEM画像(倍率:300倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(メルトブローン不織布)
本発明のMB不織布は、環状オレフィン系樹脂を含む繊維で構成されており、1000倍に拡大した走査型電子顕微鏡(SEM)画像においてランダムに選択した100ポイントの繊維径データのうち、繊維径の小さいデータから大きいデータへ向かってデータを四分位に分けて得られる第3四分位数より大きい繊維径を有するデータの平均値が30μm以下である。
【0026】
「四分位数」とは、データの値をその大きさの小さい順に並べたときに四等分する位置の値をいい、小さい方から1/4のデータの値を第1四分位数、2/4のデータの値を第2四分位数(中央値)、3/4のデータの値を第3四分位数という。
【0027】
本発明のMB不織布は、メカノケミカル反応に由来する太い繊維が少ないものであり、その不織布を1000倍に拡大した走査型電子顕微鏡画像においてランダムに選択した100ポイントの繊維径データの第3四分位数より大きな繊維径を有するデータ(第76番目から第100番目までのデータ)の平均値である平均繊維径(Db)が30μm以下であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは16μm以下である。繊維径データの第3四分位数より大きい繊維径を有するデータの平均値を小さくすることにより、不織布の緻密性を高くすることができ、地合いの良好なものとすることができるとともに、手触りのよい不織布とすることができる。前記平均繊維径Dbの下限は、特に限定されないが、例えば、不織布を構成する繊維の平均繊維径であってもよい。
【0028】
また、本発明のMB不織布は、不織布の緻密性を向上させる観点から、その不織布を構成する繊維の平均繊維径が、例えば、1~15μmであってもよく、好ましくは1~12μm、より好ましくは1~10μm、さらに好ましくは1~8μmであってもよい。なお、平均繊維径とは、測定した全ての繊維径データの平均値をいい、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0029】
また、本発明のMB不織布は、不織布の緻密性および地合いの均一性を向上させる観点から、その不織布を構成する繊維の平均繊維径のCV値が、例えば、110%以下であってもよく、好ましくは105%以下であってもよい。CV値の下限値は特に限定されないが、50%以上であってもよい。なお、平均繊維径のCV値とは、測定した繊維径データの標準偏差の平均繊維径に対する割合をいい、繊維径分布のばらつきを表す指標であり、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0030】
また、本発明のMB不織布は、不織布の緻密性および地合いの均一性を向上させる観点から、その不織布を1000倍に拡大した走査型電子顕微鏡画像においてランダムに選択した100ポイントの繊維径データの第3四分位数より大きい繊維径を有するデータ(第76番目から第100番目までのデータ)の平均値である平均繊維径(Db)が、第1四分位数より大きく第3四分位数より小さい繊維径を有するデータ(第26番目から第75番目までのデータ)の平均値である平均繊維径(Dc)に対して、例えば、Db/Dcとして4.0以下であってもよく、好ましくは3.5以下であってもよい。また、均一性の観点からは、Db/Dcが1以上であるのが好ましい。
【0031】
本発明のMB不織布を構成する繊維は、環状オレフィン系樹脂を含む繊維である。例えば、繊維を構成する樹脂組成物のうち環状オレフィン系樹脂を50質量%以上含んでいてもよく、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上含んでいてもよい。
【0032】
また、本発明のMB不織布は、本発明の効果を達成できる範囲であれば、特に限定されず、後述する環状オレフィン系樹脂以外にも、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。例えば、熱可塑性樹脂としては、鎖状ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂)等が挙げられる。
【0033】
また、本発明のMB不織布を構成する繊維は、低溶出性の観点から、その繊維表面の少なくとも一部が後述する環状オレフィン樹脂で形成されていてもよい。
【0034】
また、本発明のMB不織布を構成する繊維は、本発明の効果を達成できる範囲であれば、特に限定されず、複合繊維であってもよく、例えば、芯鞘型繊維、並列型繊維、又は海島型繊維であってもよい。
【0035】
本発明のMB不織布は、用途に応じて目付を適宜決定することができ、その目付は特に制限されないが、例えば、軽量化および緻密性の観点から、目付は、例えば、10~50g/m程度であってもよく、好ましくは10~45g/m程度、より好ましくは10~40g/m程度であってもよい。なお、目付は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0036】
本発明のMB不織布は、用途に応じて厚さを適宜決定することができ、その厚さは特に制限されないが、例えば、軽量化および風合いの観点から、厚さは、例えば、0.10~1.00mm程度であってもよく、好ましくは0.10~0.85mm程度、より好ましくは0.10~0.70mm程度であってもよい。なお、厚さは、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0037】
本発明のMB不織布は、用途に応じて通気度を適宜決定することができ、その通気度は特に制限されないが、例えば、緻密性の観点から、通気度は、例えば、10~550cm/cm・s程度であってもよく、好ましくは10~500cm/cm・s程度、より好ましくは10~400cm/cm・s程度であってもよい。なお、通気度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0038】
また、本発明のMB不織布は、厚さが薄いにもかかわらず緻密性に優れるのが好ましく、例えば、不織布の厚さA(mm)に対する通気度B(cm/cm・s)の割合(B/A)が、80≦B/A≦800であってもよく、好ましくは90≦B/A≦500、より好ましくは100≦B/A≦400であってもよい。
【0039】
本発明のMB不織布は、医療・美容・衛生材料、工業資材用途、日用品および衣料用途などの各種用途に利用できる。中でも、水等の液体ろ過用フィルターやエアフィルター(例えば、クリーンルーム用エアフィルター)などの各種フィルター、経皮投与シート(例えば、経皮吸収剤、貼付剤)などに好適に使用でき、特に、不純物の低溶出性に優れるため、液体ろ過用フィルター、経皮投与シート(例えば、経皮吸収剤、貼付剤)において、好適に使用することができる。
【0040】
本発明のMB不織布を各種フィルターに用いる場合、JIS T 8151に準拠して測定されるフィルターの捕集効率は85%以上が好ましく、88%以上がより好ましく、90%以上がさらにより好ましい。また、JIS T 8151に準拠して測定されるフィルターの圧力損失は15Pa以下が好ましく、13Pa以下がより好ましく、10Pa以下がさらにより好ましい。なお、捕集効率および圧力損失は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
本発明のMB不織布は低圧損、高捕集効率のエアフィルターとして非常に有効である。また、環状オレフィン系樹脂は低溶出性でFDA(アメリカ食品医薬品局)認可のポリマーであることから、浄水等の液体ろ過用フィルターへの応用も期待できる。浄水等の液体ろ過用フィルターに用いる場合、MB不織布の繊維径を細くしてもよく、例えば、MB不織布の平均繊維径は1~8μmであってもよく、好ましくは1~7μmであってもよい。
【0041】
さらに、医療用途や美容用途としては、本発明のMB不織布は、不純物の低溶出性に優れるとともに、薬剤などの有効成分が不織布へ移行することを低減できるため、有効成分(例えば、薬事的または美容的有効成分、好ましくは薬事的有効成分)を放出する経皮投与シート(好ましくは経皮吸収剤、貼付剤)において好適に用いることができ、前記経皮投与シートは、少なくとも、前記有効成分と、支持体として本発明のMB不織布とを備えることができる。具体的には、前記経皮投与シートにおいて、本発明のMB不織布は、有効成分を含む液体を保持するための支持体として用いられてもよく、または、有効成分を含む半固体または固体を支持するための支持体(バッキング)として用いられてもよい。
【0042】
(環状オレフィン系樹脂)
環状オレフィン系樹脂とは、環状オレフィンに由来する構造単位を主鎖に含む重合体又は共重合体である。この環状オレフィンは、ノルボルネンやジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセンに代表されるような、環状炭化水素構造中に少なくとも一つのオレフィン性二重結合を有する不飽和炭化水素化合物であり、これを単量体として用いることにより導入される。環状オレフィン系樹脂は、その製造方法から環状オレフィンの付加重合体またはその水素添加物;環状オレフィンとα-オレフィンとの付加共重合体またはその水素添加物;および環状オレフィンの開環(共)重合体またはその水素添加物等を挙げることができる。本発明における環状オレフィン系樹脂は、例えば、特性及びコストの両方を具備する観点から、環状オレフィンとα-オレフィンとの付加共重合体であってもよい。
【0043】
上記環状オレフィンには、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン等の1環の環状オレフィン;ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環の環状オレフィン;トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン、トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,7-ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,8-ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3-エン、5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンといった3環の環状オレフィン;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(テトラシクロドデセン)、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-プロペニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンといった4環の環状オレフィン;8-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキシル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキセニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ-4,9,11,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ-5,10,12,14-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-へキサヒドロアントラセン)、ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]-4-ペンタデセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]-14-エイコセン、シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンが挙げられる。これらの環状オレフィンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
環状オレフィンと共重合可能なα-オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~8のα-オレフィン等が挙げられる。これらのα-オレフィンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
環状オレフィンまたは環状オレフィンとα-オレフィンとの重合方法および水素添加方法は特に制限されず、公知の方法に従って行うことができる。
【0046】
本発明の環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンとしてノルボルネンを少なくとも用いた、ノルボルネン単位を少なくとも含む共重合体が好ましく、特に、エチレンとノルボルネンの共重合体が好ましい。
【0047】
例えば、エチレンとノルボルネンの共重合体において、加工性および溶出性の観点から、エチレン単位とノルボルネン単位の合計に占めるノルボルネン単位の質量比は60~99質量%であってもよく、好ましくは63~90質量%であってもよい。
【0048】
(メルトブローン不織布の製造方法)
本発明のMB不織布の製造方法は、環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物を供給部において、加熱溶融し、樹脂溶融物を得る溶融工程;
前記樹脂溶融物を混練部に導入し、加熱下でスクリュの回転により混練し、樹脂混練物を得る混練工程;
前記樹脂混練物をエアーとともにノズルから吐出する吐出工程;および
前記ノズルから吐出された吐出糸状物を、捕集面で捕集してウェブを得る捕集工程;を少なくとも備える。
【0049】
図1は、本発明の一実施形態のMB不織布の製造に用いられる装置100を示す概略断面図である。図1に示すように、前記装置100は、押出機10と、ダイ40と、捕集部材60とを少なくとも備えている。押出機10は、シリンダ30、およびシリンダ30内で回転するスクリュ20を少なくとも備えている。スクリュ20は、樹脂固形物を供給するための供給部22と、供給部22から供給された樹脂を混練するための混練部24とを備えている。図1では、環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物は、押出機10のスクリュ20の供給部22において、加熱溶融され、混練部24へと導入される。
また、図1では、混練部24は、圧縮部26と計量部28とで構成されている。例えば、ホッパ12から投入された固体状の樹脂組成物(樹脂固形物)は、シリンダ30内において、スクリュ20の回転によりダイ40へ向かって、供給部22から混練部24に送られる。
【0050】
通常、スクリュ20において、供給部22は同一の深さ(Hp)の溝を有し、圧縮部26は、流れ方向Xに向かって、徐々に浅くなる溝を有している。スクリュ20の溝の深さは計量部28において最も浅くなり、計量部28は、同一の深さ(Hm)の溝を有している(ここでHp>Hm)。
【0051】
スクリュ20では、混練部24においてスクリュ20の溝が流れ方向Xに向かって浅くなるため、流れ方向Xに推進するにつれてスクリュ20とシリンダ30の内壁との間で樹脂溶融物に対して働く機械的エネルギーが大きくなる。混練部24を経た樹脂混練物は、その後、ダイ40に投入される。次いで、樹脂混練物はノズル42から吐出され、吐出糸状物50が捕集面62に捕集されることにより、不織布が生成される。
【0052】
(溶融工程)
図1に示すように、溶融工程では、シリンダ30内に設けられたスクリュ20の供給部22において、環状オレフィン系樹脂を少なくとも含む樹脂組成物はスクリュ20の回転により輸送されるとともに、シリンダ30に設置されたヒーター等の公知の加熱手段により加熱溶融される。供給部22では、ホッパ12から供給された樹脂固形物がスクリュ20とシリンダ30との間でソリッドベッドを形成し、流れ方向Xへ移動する。
【0053】
通常の方法では、ソリッドベッドは供給部では破壊されず、混練部24において破壊され樹脂溶融物が形成される。しかしながら、本発明では、供給部22での加熱温度をソリッドベッドが破壊される程度に高くすることにより、供給部22において、特定の粘度を有する樹脂溶融物を形成することができる。なお、上述の記載は単軸押出機を例として説明しているが、押出機10としては、単軸押出機、多軸押出機(二軸以上)等の公知の押出機を用いることができる。
【0054】
本発明のMB不織布の製造方法では、従来、樹脂組成物が固体のまま、あるいは固体を含んだ状態で混練部に導入されるところ、混練部において加熱混練する前にあらかじめ特定の低粘度を有する樹脂溶融物とすることにより、混練工程におけるスクリュの回転によるせん断応力や、ダイに供給するときやノズルから吐出するときにかかる圧縮応力等の樹脂溶融物に働く機械的エネルギーを小さくすることができる。これにより、環状オレフィン系樹脂に特徴的に見られる「メカノケミカル反応」を抑制することが可能となり、その結果太い繊維の生成を抑制できる。
【0055】
供給部における加熱温度は、環状オレフィン系樹脂や樹脂組成物中に含まれる他の熱可塑性樹脂の粘度特性や熱分解温度等によって適宜決定でき、例えば、200~400℃であってもよく、好ましくは250~390℃、より好ましくは300~380℃であってもよい。供給部における加熱温度を大きくすることにより、樹脂溶融物の粘度ηを低下させることが可能である。
【0056】
供給部での加熱温度における樹脂溶融物の粘度ηは80~200poiseであり、好ましくは85~195poise、より好ましくは90~190poiseであってもよい。なお、粘度は後述する実施例に記載された方法により測定される値である。供給部で所定の粘度に調整された樹脂溶融物が混練部へと導入される。
【0057】
(混練工程)
供給部22であらかじめ溶融された樹脂溶融物は、次いで、混練部24に導入され、混練部24において加熱下でスクリュ20の回転により混練され、樹脂混練物が得られる。供給工程において、樹脂溶融物の粘度を予め下げておくことにより、混練工程において、ダイ導入時に樹脂混練物にかかる圧縮応力を抑制することができる。
【0058】
スクリュについて、後述する吐出工程における樹脂混練物の吐出量Q(kg/hr)とスクリュの回転数N(rpm)との比Q/Nと前記樹脂溶融物の粘度η(poise)との積(Q×η)/Nは、例えば20~100であってもよく、好ましくは30~90、より好ましくは40~80であってもよい。(Q×η)/Nとは、スクリュの回転により樹脂に与えられる機械的エネルギーを樹脂が混練される際の粘度を反映したパラメータであり、上記範囲にすることにより、樹脂に与える機械的エネルギー、特に圧縮応力を小さくすることが可能となり、環状オレフィン系樹脂に起こる「メカノケミカル反応」を抑制できる。
【0059】
樹脂に与える機械的エネルギー、特に圧縮応力を小さくするという観点から、後述する吐出工程における樹脂混練物の吐出量Q(kg/hr)とスクリュの回転数N(rpm)との比Q/Nは、0.1~2.0であってもよく、好ましくは0.2~1.5、より好ましくは0.3~1.0であってもよい。Q/Nとは、スクリュの回転数当たりの樹脂の処理量をいい、この値を上記範囲にすることにより、樹脂が混練部で受ける機械的エネルギーを小さく抑えることができる。
【0060】
また、樹脂混練物の粘度を低減し、ダイに供給するときの樹脂混練物に与える圧縮応力を小さくするという観点から、スクリュの軸方向の長さ(L)とスクリュの直径(D)との比(L/D)は15~40であってもよく、好ましくは18~40、より好ましくは20~40であってもよい。
【0061】
混練部における加熱温度は、環状オレフィン系樹脂や樹脂組成物中に含まれる他の熱可塑性樹脂の粘度特性や熱分解温度等によって適宜決定でき、樹脂混練物の粘度を低減するという観点から、例えば、230~400℃であってもよく、好ましくは250~390℃、より好ましくは300~380℃であってもよい。
【0062】
(吐出工程)
得られた樹脂混練物は、樹脂混練物を吐出するためのノズル42およびノズル42の両側に設けられたエアー噴射溝(図示せず)を備えているダイ40に導入され、エアー噴射溝から噴射されるエアーと共に、ノズル42から吐出される。
【0063】
ノズルの孔径は、所定の繊維径の繊維が得られる限り特に限定されないが、例えば、0.01~1.0mmであってもよく、好ましくは0.05~0.8mm、より好ましくは0.1~0.5mmであってもよい。
【0064】
ダイにおける加熱温度、すなわち、紡糸温度は、環状オレフィン系樹脂や樹脂組成物中に含まれる他の熱可塑性樹脂の粘度特性や熱分解温度等によって適宜決定でき、樹脂混練物の吐出量の調整という観点から、例えば、300~400℃であってもよく、好ましくは320~395℃、より好ましくは350~390℃であってもよい。
【0065】
(捕集工程)
そして、ノズル42から吐出された吐出糸状物50を、捕集部材60の捕集面62で捕集してウェブを得る。捕集部材60は、MB不織布を製造する場合に一般的に捕集部材として用いられるものであれば特に限定されず、回転ロールであってもよいし、コンベアベルトであってもよい。例えば、捕集部材60は、図1に示すように、一方向に周回されるコンベアベルトであってもよく、捕集面62において吐出糸状物50が集積され、コンベアベルトの回転に伴って、MB不織布が連続的に形成される。
【0066】
(帯電工程)
本発明のMB不織布を各種フィルターに用いる場合は、MB不織布の捕集性能をさらに向上させるために、帯電処理(帯電性を付与する処理)を施してもよい。「帯電」とは、MB不織布が電気を帯びている状態を指し、好適にはその表面電荷密度(ファラデーケージ[静電電荷量計]を用いて測定される電荷量を測定面積で除した値)が1.0×10-10クーロン/cm以上、より好適には1.5×10-10クーロン/cm以上、さらに好適には2.0×10-10クーロン/cm以上である。
【0067】
MB不織布に帯電性を付与する方法としては、摩擦、接触により電荷を付与する方法、活性エネルギー線(例えば電子線、紫外線、X線等)を照射する方法、コロナ放電、プラズマ等の気体放電を利用する方法、高電界を利用する方法、水等の極性溶媒を用いたハイドロチャージング法などの適宜のエレクトレット化処理が挙げられる。中でも、比較的に低い電力量で高い帯電性が得られることから、コロナ放電法、ハイドロチャージング法が好ましい。
【0068】
コロナ放電法に用いる装置及び条件は特に制限されず、例えば直流高電圧安定化電源を用い、例えば電圧を印加する電極間の直線距離:5~70mm(好ましくは10~50mm)、印加電圧:-50~-10kV及び/又は10~50kV(好ましくは-40~-20kV及び/又は20~40kV)、温度:常温(20℃)~100℃(好ましくは30~80℃)、処理時間:0.1~20秒(好ましくは0.5~10秒)の条件で行うことができる。
【0069】
ハイドロチャージング法では、例えば、水、有機溶媒等の極性溶媒(排水処理等の生産性の観点からは、好ましくは水)を、MB不織布に噴霧したり、噴霧しながら振動させたりすることによって帯電させる。MB不織布に衝突させる極性溶媒の圧力は、好ましくは0.1~5MPa、より好ましくは0.5~3MPaであり、下部からの吸引圧力は、好ましくは500~5000mmHO、より好ましくは1000~3000mmHOである。ハイドロチャージングの処理時間は、好ましくは0.01~5秒、より好ましくは0.02~1秒である。ハイドロチャージング法を施した後の帯電させたMB不織布は、例えば40~100℃、好ましくは50~80℃の温度で乾燥させることが好ましい。
【実施例
【0070】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0071】
[樹脂溶融物の粘度(poise)]
各実施例及び比較例で用いた環状オレフィン系樹脂について、東洋精機キャピログラフ1B型を用い、各実施例及び比較例の供給部の温度に設定し、剪断速度r=1200sec-1の条件下で粘度を測定した。なお、この条件で測定された粘度を混練部に導入される樹脂溶融物の粘度(η)とした。
【0072】
[平均繊維径、第3四分位数の平均繊維径]
走査型電子顕微鏡を用いてMB不織繊維構造を観察した。1000倍に拡大した電子顕微鏡写真より無作為に選択した100本の繊維径を測定し、その繊維径分布から平均繊維径、CV値、第1四分位数より大きく第3四分位数より小さい繊維径を有する繊維の平均繊維径Dc、および第3四分位数より大きな繊維径を有する繊維の平均繊維径Dbを求めた。
【0073】
[目付]
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.2に準じて、MB不織布の目付(g/m)を測定した。
【0074】
[厚さ]
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.1に準じて、MB不織布の厚さを測定した。
【0075】
[通気度]
JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の8.26に準じて、フラジール形法により通気度(cm/cm・s)を測定した。
【0076】
[捕集性能]
捕集効率(%)及び圧力損失(Pa)
JIS T 8151に準拠し、帯電不織布体11cmφの大きさに切り出してこれを濾過部8.6cmφの試料台にセットし(濾過面積:58.1cm)、風量20L/分、面速度5.7cm/秒でNaCl粒子(平均粒径:0.1μm)を濾過したときの捕集効率(%)及び圧力損失(Pa)を測定した。
【0077】
参考例1)
環状オレフィン系樹脂として、ノルボルネン含量が75質量%であるエチレン-ノルボルネン共重合体(ポリプラスチックス株式会社製、商品名「TOPAS」5013)を供給部において、360℃で加熱溶融させて、樹脂溶融物を混練部に導入した。混練部に導入される樹脂溶融物の粘度(η)は100poiseであった。混練部において、380℃での加熱下、スクリュ回転数(N)5.0rpmで樹脂溶融物を混練した。得られた樹脂混練物を、ノズル単孔径(直径)0.15mm、ノズル単孔長さ/ノズル単孔径=10、ノズル孔ピッチ0.75mmのノズルを有するダイに供給し、温度340℃の熱風をノズル1m幅当りのエアー量15Nm/分で吹き付けながら、樹脂混練物を紡糸温度380℃、吐出量(Q)2.2kg/hrでノズルから吐出した。ノズルから吐出された吐出糸状物を、捕集ネットにおいて捕集し、目付34.2g/m、厚さ0.430mmの環状オレフィン系メルトブローン不織布を得た。得られたメルトブローン不織布の電子顕微鏡拡大写真を図2に示す。
【0078】
(実施例2)
ノズル単孔径(直径)を0.3mmとする以外は、参考例1と同様に実施した。得られたメルトブローン不織布の目付31.8g/m、厚さ0.608mmであり、電子顕微鏡拡大写真を図3に示す。
【0079】
参考例3)
供給部における加熱温度を350℃とし、混練部における混練条件を360℃での加熱下、スクリュ回転数(N)10.5rpmとし、紡糸条件として、紡糸温度360℃、吐出量(Q)4.3kg/hrでノズルから吐出した以外は実施例2と同様に実施した。混練部に導入される樹脂溶融物の粘度(η)は150poiseであった。得られたメルトブローン不織布の目付31.2g/m、厚さ0.612mmであり、電子顕微鏡拡大写真を図4に示す。
【0080】
(実施例4)
用いる樹脂をノルボルネン含量が75質量%であるエチレン-ノルボルネン共重合体(ポリプラスチックス株式会社製、商品名「TOPAS」6013)とした以外は、実施例2と同様に実施した。混練部に導入される樹脂溶融物の粘度(η)は180poiseであった。得られたメルトブローン不織布の目付20.7g/m、厚さ0.286mmであり、電子顕微鏡拡大写真を図5に示す。
【0081】
(比較例1)
供給部における加熱温度を300℃とし、混練部における混練条件を320℃での加熱下、スクリュ回転数(N)10.8rpmとし、紡糸条件として、紡糸温度320℃、吐出量(Q)4.8kg/hrでノズルから吐出した以外は実施例2と同様に実施した。混練部に導入される樹脂溶融物の粘度(η)は270poiseであった。得られたメルトブローン不織布の目付70.3g/m、厚さ1.154mmであり、電子顕微鏡拡大写真を図6に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、比較例1では、混練部に導入される樹脂溶融物の粘度が高く、(Q×η)/Nも高いものであったため、環状オレフィン系樹脂に機械的エネルギーが働き、メカノケミカル反応に由来する太い繊維が多く存在した(図6)。この太い繊維の混入により、比較例1のMB不織布は、平均繊維径、および第3四分位数より大きな繊維の平均繊維径Dbが参考例1および3ならびに実施例2および4のMB不織布と比較して大きいものであった。また、太い繊維の混入に起因して、通気度は参考例1および3ならびに実施例2および4と比較して大きくなり、緻密性が十分でなかった。
【0084】
一方、参考例1および3ならびに実施例2および4では、混練部に導入される樹脂溶融物の粘度を低く制御したため、メカノケミカル反応に由来する太い繊維の発生を抑制できた(図2~5)。そのため、参考例1および3ならびに実施例2および4のMB不織布は、平均繊維径、および第3四分位数より大きな繊維の平均繊維径Dbのいずれについても、比較例1と比べて小さくすることができた。
【0085】
また、得られたMB不織布は、比較例1より通気度が小さく、緻密性を高めることができた。さらに、参考例ならびに実施例2および4のMB不織布では、厚さ当たりの通気度(B/A)が小さい値であり、特に緻密性に優れていた。特に、実施例2および4のMB不織布では、構成する繊維の平均繊維径のCV値を90%以下に抑制することができたためか、手触りのよいものであった。
【0086】
(実施例5)
実施例2で得られたメルトブローン不織布に対してコロナ放電法により帯電処理を施した。コロナ放電法の具体的条件は次のとおりである。得られた帯電不織布の捕集効率(%)及び圧力損失(Pa)を上述の方法に従って測定した。結果を表2に示す。
・使用電源:直流高電圧安定化電源
・電圧を印加する電極間の直線距離:35mm
・印加電圧:-28kV
・印加電流:8.0mA
・温度:25℃
・処理時間:1秒
【0087】
(実施例6)
実施例2で得られたメルトブローン不織布に代えて、実施例4で得られたメルトブローン不織布を用いたこと以外は実施例5と同様にして帯電不織布を得た。得られた帯電不織布の捕集効率(%)及び圧力損失(Pa)を上述の方法に従って測定した。結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
実施例5及び6で得られた帯電不織布は捕集効率が85%以上であり、かつ圧力損失が10Pa以下であるため各種フィルター用途に好適に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のMB不織布は、上述したように、医療・美容・衛生材料、工業資材用途、日用品および衣料用途などの各種用途に利用できる。特に、緻密性及び不純物の低溶出性に優れるため、液体ろ過用フィルターやエアフィルター(例えば、クリーンルーム用エアフィルター)、経皮投与シート(例えば、経皮吸収剤、貼付剤)などにおいて、好適に使用することができる。
【0091】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
10・・・押出機
12・・・ホッパ
20・・・スクリュ
22・・・供給部
24・・・混練部
26・・・圧縮部
28・・・計量部
30・・・シリンダ
40・・・ダイ
42・・・ノズル
50・・・吐出糸状物
60・・・捕集部材
62・・・捕集面
図1
図2
図3
図4
図5
図6