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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】スタンプ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240917BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023091977
(22)【出願日】2023-06-02
(62)【分割の表示】P 2021567434の分割
【原出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2023107839
(43)【公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019234816
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504097823
【氏名又は名称】SCIVAX株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131657
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 律次
(72)【発明者】
【氏名】近藤 弓紀子
(72)【発明者】
【氏名】田中 覚
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080000(JP,A)
【文献】特開2017-103438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に樹脂成型物が形成されたスタンプであって、
前記樹脂成型物は、
パターンを有する面と、
前記パターンを有する面から基板へ向かって伸びる側面と、
前記側面の前記基板側の端部から前記基板の外縁に向かって前記基板の表面に延在する部分と、を有することを特徴とするスタンプ。
【請求項2】
前記樹脂成形物は、前記基板の外縁に形成されていないことを特徴とする請求項1記載のスタンプ。
【請求項3】
前記樹脂成形物は、樹脂の硬化物であることを特徴とする請求項1又は2記載のスタンプ。
【請求項4】
前記パターンは、凸部および凹部を有することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載のスタンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の分野では、機能又は付加価値を高めるために、同一又は異種の機能を有する微小部品を1つの基板上に集積する高集積化又は複合化が行われている。
【0003】
当該高集積化を行う方法には様々なものがあるが、例えば、弾性材料からなり複数の突起を有するスタンプを用いて微小部品を転送する方法がある(例えば、特許文献1)。この場合、微小部品をピックアップする際のスタンプの突起と微少部品の間の圧力や速度によって、微少部品との付着力を制御することができる。
【0004】
一方、当該スタンプをインプリント法によって形成することが検討されている。インプリント法とは、樹脂等の被成形物に微細パターンを有するモールドを加圧し、光や熱を利用して当該パターンを被成形物に転写するものである(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開番号WO2008/088068
【文献】国際公開番号WO2004/062886
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のインプリント法では、モールドを加圧すると、図8に示すように、モールドの中央部が沿ってしまうという問題があった。この場合、成形されたスタンプの突起の先端の位置が異なることになる。すると、微小部品をピックアップする際のスタンプの突起と微少部品の間の圧力が不均一になるため、微少部品との付着力を制御することができないという問題がある。
【0007】
そこで本発明では、転写された成型パターンの歪みが小さいスタンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のスタンプは、基板上に樹脂成型物が形成されたものであって、前記樹脂成型物は、パターンを有する面と、前記パターンを有する面から基板へ向かって伸びる側面と、前記側面の前記基板側の端部から前記基板の外縁に向かって前記基板の表面に延在する部分と、を有することを特徴とする。
【0009】
この場合、前記樹脂成形物は、前記基板の外縁に形成されていない方が好ましい。また、前記樹脂成形物は、樹脂の硬化物である。
【0010】
また、本発明に係る第1のインプリント装置は、被成形物をモールドと基板で加圧して、前記モールドの成型パターンを前記被成形物に転写するためのものであって、前記モールド又は前記基板のいずれか一方を載置するためのステージと、前記被成形物を前記モールドと前記基板が挟む位置であると共に、前記モールドと前記基板が近接する方向に自由に移動可能な位置に、前記モールドと前記基板のうち前記ステージに載置されていない方を配置する配置手段と、前記モールドと前記基板を内包可能な調圧室を有する調圧部と、前記調圧室内を減圧する減圧手段と、前記モールドと前記基板が近接する方向に自由に移動可能な範囲で、前記調圧室内を加圧する加圧手段と、前記被成形物を前記成型パターンに定着させるための定着手段と、を具備することを特徴とする。
【0011】
この場合、前記モールドと前記基板のスライド移動を防止するスライド防止手段を具備する方が好ましい。また、前記配置手段をスライド防止手段として用いてもよい。この場合には、前記配置手段は、前記モールドと前記基板のスライド移動を防止する位置に移動可能に形成される。
【0012】
また、前記配置手段は、前記基板に対する前記モールドの相対的な位置を検出する位置検出手段を有していてもよい。
【0013】
また、位置検出手段の検出情報に基づいて、前記配置手段又は前記加圧手段の少なくともいずれか一方を制御する制御手段を具備してもよい。
【0014】
また、前記配置手段は、前記モールドと前記基板が平行となるように配置するものである方が好ましい。
【0015】
また、前記成型パターンの周囲を囲む壁部を有するモールドを具備する方が好ましい。この場合、前記成型パターンを有する面に対する前記壁部の高さは、1μm以上に形成する方が好ましい。また、前記成型パターンを有する面に対する前記壁部の高さの最大値と最小値の差は、1μm以下である方が好ましい。
【0016】
また、前記定着手段は、前記被成形物に光を照射して固化させるための光照射手段、又は前記被成形物の温度を調節する温調手段を用いることができる。
【0017】
また、本発明に係る第1のインプリント方法は、被成形物をモールドと基板で加圧して、前記モールドの成型パターンを前記被成形物に転写するための方法であって、前記モールドと被成形物の間の気体を除去する減圧工程と、減圧化において、前記被成形物を間に挟んだ状態であって前記モールドと前記基板が近接する方向に自由に移動可能な位置に、前記モールドと前記基板を配置する配置工程と、前記モールドと前記基板が近接する方向に自由に移動可能な範囲で、前記モールドと前記被成形物を気体で加圧する加圧工程と、前記被成形物を前記成型パターンに定着させる定着工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
前記加圧工程は、前記モールドと前記基板のスライド移動を防止しながら行う方が好ましい。
【0019】
また、前記配置工程は、前記モールドと前記基板が平行となるように配置する方が好ましい。
【0020】
また、前記定着工程は、前記被成形物に光を照射して固化させ、当該被成形物に前記成型パターンを定着させる工程、又は前記被成形物の温度を調節して固化させ、当該被成形物に前記成型パターンを定着させる工程を用いることができる。
【0021】
この場合、前記モールドは、前記成型パターンの周囲を囲む壁部を有する方が好ましい。前記成型パターンを有する面に対する前記壁部の高さは、1μm以上のものを用いる方が好ましい。また、前記成型パターンを有する面に対する前記壁部の高さの最大値と最小値の差は、1μm以下であるものを用いる方が好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のスタンプは、転写された成型パターンの歪みが小さい。したがって、成形されたスタンプの突起の先端の位置を揃えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の減圧工程時のインプリント装置を示す断面図である。
図2】本発明の配置工程時のインプリント装置を示す断面図である。
図3】本発明の別の配置工程時のインプリント装置を示す断面図である。
図4】本発明の加圧工程時のインプリント装置を示す断面図である。
図5】本発明の加圧工程時の別のインプリント装置を示す断面図である。
図6】本発明の定着工程時のインプリント装置を示す断面図である。
図7】本発明による成形後の被成形物を示す断面図である。
図8】従来の成型方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のインプリント装置を図1~7を用いて説明する。本発明のインプリント装置は、図1に示すように、被成形物3をモールド1と基板2で加圧して、モールド1の成型パターンを被成形物3に転写するためのものであって、ステージ4と、配置手段5と、調圧部6と、減圧手段71と、加圧手段72と、定着手段8と、で主に構成される。
【0025】
また、本発明のインプリント装置やインプリント方法に用いるモールド1は、成型パターンに歪みが生じないように、剛体からなるものが好ましい。例えば、PETやCOP等の樹脂や、ガラス等の無機材料を用いればよい。光インプリントプロセスにおいて、光源をモールド1側に配置する場合には、透明な材料が選択される。また、熱インプリントに用いる場合には、使用温度に対して耐熱性のある材料が選択される。
【0026】
成型パターンは、凹凸からなる幾何学的な形状のみならず、例えば所定の表面粗さを有する鏡面状態の転写のように所定の表面状態を転写するためのものも含む。また、成型パターンは、凸部の幅や凹部の幅の最小寸法が100μm以下、10μm以下、2μm以下、1μm以下、100nm以下、10nm以下等種々の大きさに形成される。また、深さ方向の寸法も、10nm以上、100nm以上、200nm以上、500nm以上、1μm以上、10μm以上、100μm以上等種々の大きさに形成される。
【0027】
また、アスペクトの高い成形パターンを転写する場合や、成型パターンを支持する基部の厚みが大きい場合、被成形物3がモールド1の側面方向へ漏れ出し、成型パターンに被成形物3を充填するための成型圧が不足するという課題がある。そこで、モールド1は、成型パターンの周囲を囲む壁部11を有していてもよい。これにより、モールド1による被成形物3の加圧時に被成形物3がモールド1の側面方向へ漏れるのを抑制し、成型パターンに被成形物3を十分に充填することができる。成型パターンを有する面に対する壁部11の高さは、例えば、1μm以上とすればよい。また、壁部の高さがばらついていると、後述するインプリント方法の加圧工程において、壁部近傍の被成型物の流動の度合いが異なるために、加圧によってモールドと基板の平行が乱れる。したがって、壁部の高さのばらつきは少ない方が好ましい。例えば、成型パターンを有する面に対する壁部の高さの最大値と最小値の差を1μm以下にする方が好ましい。
【0028】
基板2は、被成形物3を支持できるものであればどのようなものでもよく、例えば、樹脂、無機化合物又は金属等を用いることができる。
【0029】
被成形物3は、モールド1の成型パターンが転写されるもので、少なくともモールド1と基板2のいずれか一方に保持されていればよい。被成形物3に用いる樹脂としては、例えば、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、あるいは熱可塑性樹脂がある。
【0030】
被成形物3に用いる光硬化性樹脂は、特定の波長の光によって硬化する流動性のある樹脂であり、光インプリント技術に用いられるものであればどのようなものでも用いることができる。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコンゴムや、エポキシド含有化合物類、(メタ)アクリル酸エステル化合物類、ビニルエーテル化合物類、ビスアリルナジイミド化合物類のようにビニル基・アリル基等の不飽和炭化水素基含有化合物類等を用いることができる。この場合、光反応性の開始剤を添加して光照射により重合反応を進行させて成型パターンを形成できるものでもよい。光反応性のラジカル開始剤としてはアセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾインエーテル誘導体、キサントン誘導体等が好適に使用できる。また、反応性モノマーは無溶剤で使用しても良いし、溶媒に溶解して塗布後に脱溶媒して使用しても良い。
【0031】
被成形物3に用いる熱硬化性樹脂は、加熱すると硬化する流動性のある樹脂であり、熱インプリント技術に用いられるものであればどのようなものでも用いることができる。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコンゴムや、エポキシド含有化合物類、(メタ)アクリル酸エステル化合物類、ビニルエーテル化合物類、ビスアリルナジイミド化合物類のようにビニル基・アリル基等の不飽和炭化水素基含有化合物類等を用いることができる。この場合、熱的に重合するために重合反応性基含有化合物類を単独で使用することも可能であるし、熱硬化性を向上させるために熱反応性の開始剤を添加して使用することも可能である。熱反応性のラジカル開始剤としては有機過酸化物、アゾ化合物が好適に使用でき、光反応性のラジカル開始剤としてはアセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾインエーテル誘導体、キサントン誘導体等が好適に使用できる。また、反応性モノマーは無溶剤で使用しても良いし、溶媒に溶解して塗布後に脱溶媒して使用しても良い。
【0032】
また、被成形物3に用いる熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度または融点に達すると流動性を有し、冷却すると固化する樹脂であり、熱インプリント技術に用いられるものであればどのようなものでも用いることができる。例えば、環状オレフィン開環重合/水素添加体(COP)や環状オレフィン共重合体(COC)等の環状オレフィン系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ビニルエーテル樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリスチレン、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等を用いることができる。
【0033】
ステージ4は、図2又は図3に示すように、モールド1又は基板2のいずれか一方を載置するためのものである。モールド1と基板2が平行になるように載置できるものがよく、好ましくは、モールド1の成型パターンがある面と基板2の対向する側の面が水平となるように載置できるものがよい。ステージ4の材質は、成形条件に適合するものであればどのようなものでも良いが、例えば、成形条件に対し、耐圧性、耐熱性等を有するものを用いるのが好ましく、ステンレス鋼などの金属を用いることができる。また、光インプリントプロセスにおいて、光源をステージ4側に配置する場合には、ガラス等の透明な材料を用いれば良い。
【0034】
配置手段5は、被成形物3をモールド1と基板2が挟む位置であると共に、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置に、モールド1と基板2のうちステージ4に載置されていない方を配置するものである。なお、本明細書中で、「被成形物3をモールド1と基板2が挟む」とは、被成形物3がモールド1と基板2の間で両方に接触している状態を意味する。また、本明細書中で、「モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能」とは、モールド1又は基板2が流動性のある被成形物3上に載置されて実質的に浮いており、当該モールド1又は基板2の全体が均一な圧力を受けられる状態を意味する。具体的には、図2に示すように、ステージ4に基板2が載置されている場合には、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置にモールド1を配置する。すなわち、基板2上の被成形物3にモールド1が載置されて実質的に浮いた状態とする。また、図3に示すように、ステージ4にモールド1が載置されている場合には、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置に基板2を配置する。すなわち、モールド1上の被成形物3に基板2が載置されて実質的に浮いた状態とする。
【0035】
また、配置手段5は、モールド1と基板2が平行となるように配置できるものが好ましい。配置手段5は、被成形物3をモールド1と基板2が挟む位置であると共に、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置にモールド1と基板2のいずれか一方を配置することができればどのようなものでもよいが、例えば、モールド1又は基板2を水平に保持する保持部と、保持部を昇降するための昇降手段と、保持部をモールド1から横方向に離間させる離間手段と、で構成すればよい。保持部としては、例えば、モールド1の側面に水平に突出する突出部15を設け、当該突出部15を載置可能に形成すればよい。昇降手段や離間手段による保持部の移動は、図示しないが、油圧式又は空圧式のシリンダによって移動するものや、電気モータとボールねじによって移動するもの等、周知のものを用いれば良い。
【0036】
また、配置手段5は、基板2に対するモールド1の相対的な位置を検出する位置検出手段を有していてもよい。これにより、モールド1と被成形物3又は基板2と被成形物3が接触する位置や、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置を把握することができる。また、加圧時にも、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な範囲で、モールド1と基板2を加圧することができる。位置検出手段としては、周知のものを用いればよく、例えば、ステージ4に設けられたレーザ測長機を用いて、モールド1の位置を測定するものを用いればよい。また、配置手段5に電気モータを用いる場合には、電気モータに設けられたエンコーダを用いて、変位量から計算してモールド1の位置を測定するものでもよい。
【0037】
調圧部6はモールド1と基板2を内包可能な調圧室61を構成するものである。これにより、調圧室61の気圧を調節することで、モールド1の成型パターン内に気体が残るのを抑制したり、モールド1と基板2で被成形物3に加圧したりすることができる。調圧室61は、モールド1と基板2を内包可能であればどのような大きさ、形状でもよく、調圧室61内の気圧や調節時間等を考慮して、設計すればよい。例えば、図4に示すように、ステージ4と共に調圧室61を構成する有底筒状の筐体62を用いることができる。この場合、モールド1や基板2を調圧室61内に搬送するために、筐体62をステージ4に対して昇降可能な昇降手段を設けて、筐体62とステージ4の間を開放するようにしてもよいし、モールド1や基板2を調圧室61内に搬送するための開閉部を筐体62に設けてもよい。また、調圧部6としては、ステージ4も内包する調圧室61を有するように構成してもよい。
【0038】
減圧手段71は、モールド1と被成形物3の間の気体を除去し、パターンの形成に問題がない圧力まで調圧室61内を減圧するためのものである。パターンの形成に問題がない圧力とは、成型パターン内に気体が気泡として残存し転写不良が生じることを防止できる圧力を意味し、例えば、1000Pa以下、好ましくは、100Pa以下がよい。減圧手段71としては、例えば調圧室61に接続され、当該調圧室61内の気体を除去可能な周知の減圧ポンプを用いればよい。
【0039】
また、加圧手段72は、被成形物3をモールド1の成型パターンに充填するために、調圧室61内を加圧するためのものである。被成形物3をモールド1の成型パターンに充填可能な圧力は、被成形物3の粘度等によって適宜設定される。また、加圧手段72は、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な範囲で、調圧室61内を加圧する。これにより、モールド1、基板2および被成形物3に均一な圧力を加えることができるため、被成形物3に歪みが生じるのを防止することができる。加圧手段72としては、例えば調圧室61に接続され、当該調圧室61内を加圧可能な空気や不活性ガス等の気体を供給するボンベや、加圧ポンプを用いることができる。また、加圧する圧力が大気圧で十分である場合には、図4に示すように、調圧室61内と調圧室61外を接続する開放弁を用いてもよい。
【0040】
また、位置検出手段の検出情報に基づいて、配置手段5や加圧手段72を制御する制御手段を有していてもよい。これにより、配置手段5によって、被成形物2をモールド1と基板2が挟む位置であると共に、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置にモールド1又は基板2を配置したり、加圧手段72によって、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な範囲でモールド1と被成形物3を加圧したりすることができる。制御手段としては、配置手段5や加圧手段72を制御することができればどのようなものでもよく、周知のコンピュータを用いることができる。
【0041】
定着手段8は、被成形物3を成型パターンに定着させるためのものである。定着手段8としては、光インプリントに用いる場合には、光照射手段81を用いればよい。また、熱インプリントに用いる場合には、温調手段を用いればよい。
【0042】
光照射手段81は、光硬化性樹脂からなる被成形物3に光を照射して固化させるためのものである。光照射手段81としては、被成形物3に所定波長の電磁波を照射して硬化することができればどのようなものでもよいが、例えば、被成形物3に紫外線を照射する紫外線照射装置を用いればよい。ここで、光照射手段8は被成形物3に照射できれば単数でも複数でもよい。複数配置する場合には、照度分布が被成形物3においてできる限り均一になるように配置するのが好ましい。
【0043】
温調手段は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる被成形物3の温度を調節し、当該被成形物3に流動性をもたせたり、固化させたりするためのものである。温調手段としては、被成形物3を直接的又は間接的に加熱する加熱手段を用いることができる。また、被成形物3を直接的又は間接的に冷却する冷却手段を用いることもできる。
【0044】
加熱手段は、モールド1と被成形物3のいずれか一方又は両方を、所定温度、例えば被成形物3を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度や融点以上、又は熱硬化性樹脂の硬化温度以上に加熱することができるものであればどのようなものでも良い。また、被成形物3をステージ4側から加熱するものでも、モールド1側から加熱するものでも良い。例えば、ステージ4内にヒータを設けてモールド1や被成形物3を加熱するものを用いることができる。また、加熱した液体や気体を用いて加熱することも可能である。
【0045】
冷却手段は、モールド1と被成形物3のいずれか一方又は両方を、所定温度、例えば被成形物3を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度や融点未満、又は熱硬化性樹脂の硬化温度未満に冷却することができるものであればどのようなものでも良い。また、被成形物3をステージ4側から冷却するものでも、モールド1側から冷却するものでも良い。例えば、冷却用ファンや、ステージ4内に形成され液体を流すことによりモールド1や被成形物3を冷却する冷却用の水路を用いることができる。
【0046】
また、温調手段は、モールド1、基板2、被成形物3、ステージ4等の温度を検出する温度検出手段を備え、検出した温度情報に基づいて被成形物3の温度を調節してもよい。
【0047】
また、本発明のインプリント装置では、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置で、モールド1と基板2のいずれか一方が被成形物3上に浮いている状態であるため、モールド1と基板2の加圧時にモールド1と基板2がスライド移動し易いという問題がある。そこで、モールド1と基板2のスライド移動を防止するスライド防止手段9を設けてもよい。スライド防止手段9は、被成形物3上に浮いているモールド1又は基板2の近接方向の移動を妨げないで、近接方向と直交する方向のスライド移動を防止できればどのようなものでもよい。例えば、図4に示すように、被成形物3上に浮いているモールド1の側面に所定の隙間を空けて配置されたガイド状のスライド防止手段9を設ければよい。また、被成形物3上に浮いているのが基板2の場合には、図示しないが基板2の側面に所定の隙間を空けて配置されたガイド状のスライド防止手段を設ければよい。また、図5に示すように、配置手段5をスライド防止手段として利用してもよい。この場合、配置手段5は、モールド1と被成形物3の加圧時に、モールド1と基板2のスライド移動を防止する位置に移動可能に形成すればよい。なお、スライド防止手段9とモールド1又は基板2の側面の隙間の大きさは、モールド1と基板2のスライド移動を許容できる大きさであれば特に限定されないが、例えば0.5mm以内の大きさとすればよい。
【0048】
次に、本発明のインプリント方法について説明する。本発明のインプリント方法は、被成形物3をモールド1と基板2で加圧して、モールド1の成型パターンを被成形物3に転写するための方法であって、減圧工程と、配置工程と、加圧工程と、定着工程と、で主に構成される。
【0049】
減圧工程は、モールドと被成形物の間の気体を除去するためのものである。図1に示すように、モールド1と被成形物3の間を空けて調圧室61内を減圧し、調圧室61内の気体を除去すればよい。これにより、成型パターン内に気体が気泡として残存し転写不良が生じることを防止することができる。減圧工程における圧力は、パターンの形成に問題がない圧力まで調圧室61内を減圧できれば特に制限されないが、例えば、1000Pa以下、好ましくは、100Pa以下がよい。
【0050】
配置工程は、図2又は図3に示すように、減圧化において、被成形物3を間に挟んだ状態であって、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置に、モールド1と基板3を配置するものである。具体的には、図2に示すように、ステージ4に基板2が載置されている場合には、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置にモールド1を配置する。すなわち、基板2上の被成形物3にモールド1が載置されて実質的に浮いた状態とする。また、図3に示すように、ステージ4にモールド1が載置されている場合には、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置に基板2を配置する。すなわち、モールド1上の被成形物3に基板2が載置されて実質的に浮いた状態とする。なお、配置工程では、モールド1と基板2は平行となるように配置する方が好ましい。
【0051】
加圧工程は、図4に示すように、モールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な範囲で、モールド1と被成形物3を気体で加圧するものである。これにより、モールド1、基板2および被成形物3に均一な圧力を加えることができるため、被成形物3に歪みが生じるのを防止することができる。
【0052】
なお、加圧工程では、上述したようにモールド1と基板2が近接する方向に自由に移動可能な位置で、モールド1と基板2のいずれか一方が被成形物3上に浮いている状態であるため、モールド1と基板2の加圧時にモールド1と基板2がスライド移動し易い。したがって、加圧工程は、モールド1と基板2のスライド移動を防止しながら行う方が好ましい(図4又は図5参照)。
【0053】
定着工程は、被成形物3を成型パターンに定着させるものである。定着工程としては、光インプリントの場合、図6に示すように、光硬化性樹脂からなる被成形物3に光を照射して固化させ、成型パターンを被成形物3に定着させればよい。照射する光は、被成形物3に用いた光硬化性樹脂を硬化させることができるものであればどのようなものでもよく、例えば、紫外線を用いることができる。また、熱インプリントの場合、被成形物3の温度を調節して固化させ、成型パターンを被成形物3に定着させればよい。例えば、被成形物3が熱硬化性樹脂からなる場合には、当該樹脂が硬化する温度以上に被成形物3を加熱して固化させればよい。また、被成形物3が熱可塑性樹脂からなる場合には、当該樹脂のガラス転移温度未満又は融点未満に被成形物3を冷却して固化させればよい。
【0054】
なお、熱インプリントの場合には、加圧工程の前に、被成形物3が流動性を有するように温度を調節する温度調節工程が必要な場合もある。例えば、被成形物3が熱可塑性樹脂からなる場合には、当該樹脂のガラス転移温度又は融点以上に被成形物3を加熱する。また、被成形物3が熱硬化性樹脂からなる場合には、当該樹脂が硬化しない温度以下に被成形物3の温度を維持する。なお、温度調節工程は、減圧工程の前後のいずれに行ってもよい。
【0055】
最後に、図7に示すように、モールド1を被成形物3から離型すれば、モールド1の成型パターンを歪みなく転写した被成形物3を形成することができる。
【0056】
これにより、基板上に樹脂成型物が形成されたスタンプ等を製造することができる。当該樹脂成型物は、図7に示すように、パターンを有する面31と、側面32と、周辺部33とを有する。
【0057】
ここで、パターンを有する面31とは、図6に示すように、モールド1の成型パターンによって形成された面である。また、パターンは突起を有する。
【0058】
また、側面32とは、パターンを有する面31から基板2へ向かって伸びる面である。当該側面32は、図6に示すように、モールド1の壁部11の内面(内側の側面)によって形成された面である。
【0059】
また、周辺部33とは、側面32から基板2の外縁に向かって延びる部分である。具体的には、図7に示すように、側面32の基板側の端部から基板2の外縁に向かって基板1の表面に延在する部分である。当該周辺部33は、図4又は図5に示すように、モールド1又は基板2が流動性のある被成形物3上に載置されて実質的に浮いた状態で加圧されることにより、壁部11の基板側の端部と基板2の間に形成された部分である。
【符号の説明】
【0060】
1 モールド
2 基板
3 被成形物
4 ステージ
5 配置手段
6 調圧部
8 定着手段
9 スライド防止手段
11 壁部
15 突出部
61 調圧室
62 筐体
71 減圧手段
72 加圧手段
81 光照射手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8