(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】イオンミリング装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/305 20060101AFI20240917BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20240917BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240917BHJP
G01N 1/32 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
H01J37/305 A
H01J37/09 Z
G01N1/28 G
G01N1/32 B
(21)【出願番号】P 2023523842
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2021020112
(87)【国際公開番号】W WO2022249371
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】会田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高須 久幸
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 健人
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/189614(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016105462(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
G01N 1/28
G01N 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室と、
前記試料室内に配置され、試料を載置する試料ステージと、
アノードとカソードとの間の放電により発生した電子によって生成されたイオンを加速電極により加速することにより、前記試料に向かう非集束のイオンビームとして放出するイオン源と、
前記イオン源と前記試料ステージとの間に配置され、前記イオンビームを遮蔽する導電性のシャッターと、
前記シャッターを駆動するシャッター駆動源と、
前記シャッターにより前記イオンビームが遮蔽される状態で、前記アノードと前記カソードとの間に放電電圧及び前記アノードと前記加速電極との間に加速電圧を印加し、前記放電により前記アノードと前記カソードとの間に流れる放電電流または前記シャッターに前記イオンビームが照射されることにより流れるイオンビーム電流のいずれかが
前記イオン源の内部温度の上昇による前記イオン源内部の吸着ガスの放出に伴って低下して所定の基準値を下回った後に、前記シャッター駆動源により前記シャッターを前記イオンビームが遮蔽されない位置に退避可能とする制御部とを有するイオンミリング装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、前記放電により前記アノードと前記カソードとの間に流れる放電電流または前記シャッターに前記イオンビームが照射されることにより流れるイオンビーム電流のいずれかが低下して所定の基準値を下回り、かつ所定の期間、所定の基準範囲以下の変動幅となった後に、前記シャッター駆動源により前記シャッターを前記イオンビームが遮蔽されない位置に退避可能とするイオンミリング装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記放電電流または前記イオンビーム電流の値を表示する表示部を有するイオンミリング装置。
【請求項4】
請求項
3において、
前記表示部に、前記放電電流または前記イオンビーム電流のいずれかが低下して前記所定の基準値を下回ったことが表示されるイオンミリング装置。
【請求項5】
請求項1において、
ヒータと
熱電対と
前記ヒータと前記熱電対とを駆動するヒータ駆動源とを備え、
前記制御部は、前記ヒータ駆動源により、前記ヒータ及び前記熱電対を前記加速電極に接触させ、前記ヒータにより前記イオン源を加熱するイオンミリング装置。
【請求項6】
請求項
5において、
前記制御部は、前記熱電対により前記イオン源の温度をモニタリングし、前記イオン源の温度が所定の温度を上回ったときには、前記ヒータ駆動源により、前記ヒータを前記イオン源から退避させて前記ヒータによる前記イオン源の加熱を停止するイオンミリング装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記イオン源にアルゴンガスを供給する供給ガス制御部を有し、
前記制御部は、前記アノードと前記カソードとの間に放電電圧及び前記アノードと前記加速電極との間に加速電圧とを印加した後に、前記供給ガス制御部からの前記イオン源へのアルゴンガスの供給を開始するイオンミリング装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記アノードの内壁面は前記カソードの内壁面よりも粗面化されているイオンミリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置は、電子顕微鏡観察対象である試料(例えば、金属、半導体、ガラス、セラミックなど)に対して非集束のイオンビームを照射し、スパッタリング現象によって試料表面の原子を弾き飛ばし、無応力で試料表面の研磨や試料の内部構造を露出できる装置である。イオンビームの照射によって試料表面や、露出した試料内部構造は、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡の観察面となる。
【0003】
イオンミリング装置で電子顕微鏡観察対象試料の表面研磨や内部構造を露出させる加工を行う場合に、量産工程の管理を目的とする場合など、試料の加工形状を均一に保つことが求められる場合がある。非集束のイオンビームで試料を加工するイオンミリング装置において、加工形状の均一性を高めるためには、イオンビーム電流やイオン分布を一定に保つ必要がある。
【0004】
このようなイオンミリング装置に使用されるぺニング型イオンガンにおいて、イオン化室で発生したイオンが、イオンガン内部のカソードや加速電極などに対しても照射されてしまうことにより、これらの表面がスパッタされ、アノードなど、イオンガンの構成部品に付着する現象が生じることが知られている。このような堆積物は異常放電や短絡といった不具合の原因となる。特許文献1は、カソードのイオン化室に面する表面に凹凸を設けることで、カソードのスパッタ収率を低減させ、スパッタ粒子の発生量を低減させることを開示する。特許文献2は、イオンガンに向けてガスを噴射する手段を設け、イオンガン内部に付着した付着物を移動させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-235948号公報
【文献】国際公開第2016/189614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イオンミリング装置による加工形状の均一性を高めるため、ミリング処理中におけるイオンビームのエネルギーや分布を一定範囲に保つよう、イオン源に導入するアルゴンガス量、イオン源に印加する放電電圧といった制御パラメータを設定する必要がある。しかしながら、制御パラメータで制御できない外乱の影響が大きいことが分かってきた。
【0007】
外乱の一つが放電電流値、イオンビーム電流値に対する大気由来の吸着ガスの影響である。ぺニング方式のイオン源では、後述するように電子を発生させるための電極部品を内蔵している。そのような電極部品の一つであるカソードは放電時に生じるアルゴンイオンによってスパッタリングされ、これによりカソード由来の堆積膜がイオン源内部に形成される。堆積膜は成長を続け、最終的には針状に剥離する。電極部品の一つであるアノード内壁面に形成された堆積膜は、アノード-カソード間を短絡させるおそれがある。アノード-カソード間が短絡すると、放電電圧の印加ができなくなる。このため、アノード内壁面と堆積膜の接触面積を増やして堆積膜が剥離し難いよう、意図的にアノード内壁面を粗面化している。具体的には、このときのアノード内壁面の表面粗さ(Ra)がカソード内壁面の表面粗さよりも大きくなるように、サンドブラスト処理による研削を実施している。
【0008】
試料を交換するためのベント(大気開放)時に、大気由来のガスがアノード内壁面およびカソード内壁面の堆積膜に吸着し、吸着したガスがイオンビームのエネルギーや分布に影響を与えることが確認されている。とりわけアノード内壁面は粗面化され、凹凸が増大されていることにより吸着するガスの量も大きく、無視できない影響を及ぼす。
【0009】
理想的には放電電流値は導入したアルゴンガス量に依存するが、実際には、イオンビームの放出開始時には上述した大気由来のガスのイオン化分が放電電流値に加算される一方、時間経過とともに、大気由来のガスはイオンビームの放出に伴い、加算分の放電電流が減少していく。これにより、イオンミリング装置による加工形状の均一化が困難になっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施の形態であるイオンミリング装置は、試料室と、試料室内に配置され、試料を載置する試料ステージと、アノードとカソードとの間の放電により発生した電子によって生成されたイオンを加速電極により加速することにより、試料に向かう非集束のイオンビームとして放出するイオン源と、イオン源と試料ステージとの間に配置され、イオンビームを遮蔽する導電性のシャッターと、シャッターを駆動するシャッター駆動源と、シャッターによりイオンビームが遮蔽される状態で、アノードとカソードとの間に放電電圧及びアノードと加速電極との間に加速電圧を印加し、放電によりアノードとカソードとの間に流れる放電電流またはシャッターにイオンビームが照射されることにより流れるイオンビーム電流のいずれかがイオン源の内部温度の上昇によるイオン源内部の吸着ガスの放出に伴って低下して所定の基準値を下回った後に、シャッター駆動源によりシャッターをイオンビームが遮蔽されない位置に退避可能とする制御部とを有する。
【発明の効果】
【0011】
イオンミリング装置において、試料加工前にイオン源に吸着したガスを放出させることにより、イオンミリング装置による加工再現性を高めることができる。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のイオンミリング装置の構成例(模式図)である。
【
図2】イオン源とイオン源に制御電圧を印加する電源回路とを示す模式図である。
【
図3A】イオン源から吸着ガスを放出するプロセスを説明するための図である。
【
図3B】イオン源から吸着ガスを放出するプロセスを説明するための図である。
【
図4】時間経過にともなう放電電流値の変化を示したグラフである。
【
図5】実施例1の試料加工のフローチャートである。
【
図6】実施例2のイオンミリング装置の構成例(模式図)である。
【
図7】実施例1の試料加工のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1のイオンミリング装置100の主要部を側面から示した模式図である。
図1では、鉛直方向をZ方向として表示している。イオンミリング装置100は、その主要な構成としてイオン源101、シャッター102、シャッター駆動源103、電源ユニット104、供給ガス制御部105、試料ステージ106、試料ステージ駆動源107、制御部108、表示部109、試料室110、電流計115を有する。
【0015】
イオンミリング装置100は、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡によって試料の表面あるいは断面を観察するための前処理装置として用いられる。このような前処理装置向けのイオン源は、構造を小型化するために有効なペニング方式を採用する場合が多い。本実施例でもイオン源101はペニング方式を採用しており、イオン源101から試料ステージ106に固定された試料に向けて、非集束のイオンビームが照射される。制御部108は、電源ユニット104からイオン源101内部の電極に印加される電圧、供給ガス制御部105から供給されるガス流量を制御することにより、イオンビームの出力を制御する。イオン源101と試料ステージ106との間には導電性のシャッター102が設けられている。シャッター102はイオン源101からのイオンビームが試料に照射されるのを遮蔽するとともに、イオンビームがシャッター102に照射されることにより流れるイオンビーム電流を測定するための測定子の役割も有する。シャッター102に照射されたイオンビーム電流は電流計115によって測定され、イオンビーム電流値は電流計115から制御部108に出力される。制御部108はイオンビーム電流値をイオンビームの出力状態をモニタリングするために使用する。イオンビーム電流値を表示部109に表示してもよい。
【0016】
上述のように、試料室110のベント時にイオン源101の電極部品に大気中のガスが吸着し、イオン源101内部の吸着ガスがイオン化されて放出されることにより、イオン源101から放出されるイオンビームは設定したイオンビーム電流値を上回る。このため、まずは、シャッター102でイオンビームを遮蔽するとともに、イオンビーム電流値を計測する。計測されたイオンビーム電流値が設定した値を下回ると、イオン源101内部の吸着ガスが十分に放出されたとみなし、制御部108によりシャッター駆動源103を駆動させてシャッター102を退避させ、試料ステージ106に載置された試料に対して、供給ガス制御部105から供給されるアルゴン由来のイオンビームを照射するようにする。
【0017】
試料が載置される試料ステージ106は、試料ステージ駆動源107を介して試料室110に取付けられている。試料ステージ駆動源107は回転軸R0を中心に試料ステージ106を回転させる。また、試料ステージ駆動源107は、試料ステージ106の位置をX方向、Y方向、Z方向のそれぞれに、また、イオンビーム中心軸B0に対する試料ステージ106の向きをXZ平面の角度方向(T1軸を中心とする回転方向)、YZ平面の角度方向(T2軸を中心とする回転方向)のそれぞれに調整可能なように、試料室110に取付けられている。
【0018】
図2は、ペニング方式を採用したイオン源101と、イオン源101の電極部品に制御電圧を印加する電源回路とを示す模式図である。電源回路は電源ユニット104の一部である。
【0019】
イオン源101は、第1カソード201、第2カソード202、アノード203、永久磁石204、加速電極205、ガス配管206、イオン化室207、イオンビーム照射口208を有する。上述のようにアノード-カソード間の堆積膜による短絡を防止するため、イオン化室207に面するアノード内壁面の表面粗さ(Ra)は、イオン化室207に面するカソード内壁面の表面粗さよりも大きくされている。イオンビームを発生させるため、ガス配管206を通してイオン化室207にアルゴンガスが注入される。イオン源101内部には、同電位とされる第1カソード201及び第2カソード202が対向して配置されており、第1カソード201と第2カソード202との間にはアノード203が配置されている。カソード201,202とアノード203との間に電源ユニット104から放電電圧Vdが印加されることにより電子が発生する。電子はイオン源101内に配置した永久磁石204によって滞留し、イオン化室207内でガス配管206から注入されたアルゴンガスと衝突してアルゴンイオンを生成する。アノード203と加速電極205との間には電源ユニット104から加速電圧Vaが印加されており、生成されたアルゴンイオンは加速電極205に誘引され、イオンビーム照射口208を通してイオンビームとして放出される。電源回路にはアノード203と第1カソード201及び第2カソード202との間に電流計210が備えられており、電流計210により放電によりカソードとアノードとの間に流れる放電電流が測定される。電流計210により測定される放電電流値も制御部108に出力される。制御部108は放電電流値をイオンビームの出力状態をモニタリングするために使用する。放電電流値を表示部109に表示してもよい。
【0020】
イオン源101から放出されるイオンビームの出力は、イオン源101の内部の放電の状況に依存する。ペニング方式を採用したイオン源101では、イオンビームの照射を繰り返すうちに、照射対象の試料から発生した微小粒子等が、第1カソード201、第2カソード202、アノード203に汚れとして付着する。試料室110のベント時に、大気中のガスがこれら電極部品の汚れに吸着され、ガス配管206から供給されるアルゴンガスとともにイオン化されることにより、加工開始時の放電電流値とイオンビーム電流値は想定よりも高くなる。再現性の高い試料加工を行うには、放電電流値とイオンビーム電流値とを一定に保つ必要があるため、試料のミリング前に吸着ガスを放出する必要がある。
【0021】
図3A~Bを用いて、イオン源101から吸着ガスを放出するプロセスを示す。試料室110のベント時に、イオン源101の第1カソード201、第2カソード202、アノード203に、大気中のガスが吸着する。
図3Aに示すように、まず、シャッター駆動源103により、シャッター102はイオン源101からのイオンビームを遮蔽する位置に移動させておく。この状態で、制御部108は、電源ユニット104に、第1カソード201、第2カソード202、アノード203、加速電極205に所定の電圧を印加する。イオン源101内部の電極部品に電圧が印加されることにより、イオン源101内部の温度が上昇し、吸着ガスの放出が促進される。また、吸着ガスは、電圧印加によりイオン源101内に発生する電子と衝突してイオン化し、加速電極205によって引き出され、イオンビームとしてシャッター102に照射される。シャッター102に照射されるイオンビーム電流値は制御部108で常時モニタリングされるが、一定値を下回ったときに、吸着ガスが放出されたとみなされる。その後、
図3Bに示すように、シャッター102がシャッター駆動源103によりイオン源101の前方から退避させられ、イオンビームは試料に照射される。
【0022】
図4は、本実施例による時間経過にともなう放電電流値の変化を示したグラフである。放電開始直後の放電電流値は、アルゴンイオンに加えて吸着ガスイオンが含まれるため、高い値を示す。吸着ガスは、イオン源101内部の温度上昇に伴って徐々に放出されていくため、イオン源101内部の放電電流値は次第に低下し、最終的にはアルゴンイオンのみの値(定常値)となる。本実施例では、試料の加工前にイオン源101内部の吸着ガスを放出させる期間を設ける。吸着ガス放出期間の終期は、放電電流値またはイオンビーム電流値をモニタし、放電電流値またはイオンビーム電流値が、吸着ガス放出完了を判定する基準値を下回ったときとし、その後試料加工に移行する。これにより、試料に対してイオン源101内部の放電電流値およびイオンビーム電流値の変化量が少ない、安定したイオンビームを照射でき、この結果、イオンビームによる加工形状の均一性が向上させられる。
【0023】
図5は、実施例1のイオンミリング装置100における試料加工のフローチャートである。本フローチャートは、試料のセット(S301)以降は、制御部108により実行される。
【0024】
S301:試料ステージ106に試料をセットし、試料ステージの位置を試料ステージ駆動源107で調整する。試料がセットされた後、図示しない真空排気系により、試料室110内を排気して減圧する。
【0025】
S302:制御部108は、アノード203と、同電位である第1カソード201および第2カソード202との間に放電電圧Vdを印加し、イオン源101内部の温度を上昇させ、電極部品の吸着ガスを放出させる。また、アノード203と加速電極205との間に加速電圧Vaを印加し、イオン化した吸着ガスをイオンビームとしてイオン源前方のシャッター102に照射する。
【0026】
S303:制御部108は、シャッター102に照射されたイオンビームのイオンビーム電流値または電流計210で計測される放電電流値が、あらかじめ設定したイオンビーム電流値または放電電流値の基準値と比較する。基準値を下回っていない場合は引き続きイオン源101内部の放電を行い、吸着ガスの放出を促進する。
【0027】
S304:イオンビーム電流値または放電電流値が基準値を下回った場合には、制御部108は、イオンビーム電流値または放電電流値が安定しているかどうかを判定する。判定方法としては、イオンビーム電流値または放電電流値の基準範囲を設け、イオンビーム電流値または放電電流値の変動幅が、所定の期間、基準範囲以下となったことを確認する。イオンビーム電流値または放電電流値が安定しない場合は、引き続きイオン源101内部の放電を行い、吸着ガスの放出を促進する。
【0028】
S305:イオンビーム電流値または放電電流値が基準値を下回って安定したと判定された場合には、制御部108は、シャッター駆動源103により、シャッター102をイオンビームが遮蔽されない位置に退避させ、イオンビームを試料に照射して加工を開始する。
【0029】
S306:制御部108は、シャッター駆動源103を介して、イオン源101前方にシャッター102を移動させ、試料加工を終了する。
【0030】
アルゴンガス供給開始のタイミングは、限定しない。イオン源への電圧印加開始前、または同時に、アルゴンガスの供給を開始してもよく、イオン源への電圧印加開始後、または吸着ガスの放出処理中にはアルゴンガスの供給を行うことなく、吸着ガスの放出完了判定後にアルゴンガスの供給を開始してもよい。アルゴンガスの供給開始を遅らせることで、イオン源101の加熱を促進し、吸着ガスの放出処理に要する期間を短縮できる。なお、アルゴンガスの有無によりステップS303の基準値は変化するため、アルゴンガス供給のタイミングに応じた基準値を決定しておく必要がある。
【実施例2】
【0031】
図6は、実施例2のイオンミリング装置200の主要部を側面から示した模式図である。イオンミリング装置200は、イオン源101を加熱する加熱機構を備えている。実施例1と共通する構成については、同じ符号を用いて示し、重複する説明は省略する。イオン源101近傍に配置される加熱機構は、ヒータ111、ヒータ駆動源112、熱電対113を備えている。実施例2では、ヒータ111でイオン源を40~130℃の範囲で設定した値になるように加熱することにより、吸着ガス放出完了までの時間を短縮する。ヒータが加熱する温度上限を40~130℃の範囲としたのは、イオン源101内部の磁場に影響を与えないためである。この範囲でイオン源の吸着ガスの量に応じてヒータ111の加熱温度を調整してもよい。
【0032】
ヒータ111はヒータ駆動源112で動かせるものとし、イオン源101内の加速電極205に接触させることにより、イオン源101を加熱する。また、ヒータ駆動源112はヒータ111とともに熱電対113も加速電極205に接触させ、イオン源101の温度をモニタリングする。加速電極205の温度が、設定した上限値を上回ると、制御部108はヒータ111を退避させるよう、ヒータ駆動源112を制御する。
【0033】
図7は、実施例2のイオンミリング装置200における試料加工のフローチャートである。本フローチャートも、試料のセット(S301)以降は、制御部108により実行される。
【0034】
基本的には実施例1のフローチャート(
図5)と同じであるため、実施例1のフローチャートに追加されたステップを中心に説明する。試料のセットおよび試料ステージの位置調整(S301)後に、制御部108は、ヒータ駆動源112によりヒータ111および熱電対113を加速電極205に接触させる(S401)。その後、制御部108は、イオン源内部で放電させるとともに、ヒータ温度を上昇させる(S402)。ヒータ加熱時には熱電対113でイオン源101の温度のモニタリングを行い、イオン源101の温度が所定値を上回った時に、制御部108は、イオン源101からヒータ111を退避させてイオン源101の加熱を停止するよう、ヒータ駆動源112を動作させる。
【0035】
実施例2においても、実施例1と同様、アルゴンガス供給開始のタイミングは、限定しない。
【0036】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は記述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、制御部108は、イオンビームによる加工を開始する基準を満たした状態で、自動的にシャッター駆動源103にシャッター102を退避するよう制御するようにしてもよいし、表示部109によって、イオンビームによる加工を開始する基準を満たしたことをユーザに通知し、ユーザがシャッター102の退避をシャッター駆動源103に指示するようにしてもよい。また、吸着ガスの放出のために試料加工前にイオン源に対して印加する放電電圧は、吸着ガスの量に応じて、試料加工時の放電電圧よりも高い電圧を印加するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
100,200:イオンミリング装置、101:イオン源、102:シャッター、103:シャッター駆動源、104:電源ユニット、105:供給ガス制御部、106:試料ステージ、107:試料ステージ駆動源、108:制御部、109:表示部、110:試料室、111:ヒータ、112:ヒータ駆動源、113:熱電対、115:電流計、201:第1カソード、202:第2カソード、203:アノード、204:永久磁石、205:加速電極、206:ガス配管、207:イオン化室、208:イオンビーム照射口、210:電流計。