(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】3Dプリンター用樹脂組成物およびフィラメント状成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20240918BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240918BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20240918BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240918BHJP
C08L 31/04 20060101ALI20240918BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240918BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
B29C64/118
C08L101/02 ZBP
C08L67/04
C08L23/08
C08L31/04 S
B33Y70/00
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2020026903
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】釘本 大資
(72)【発明者】
【氏名】幸田 真吾
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-531214(JP,A)
【文献】特開2019-172924(JP,A)
【文献】特開2019-026702(JP,A)
【文献】特表2016-532579(JP,A)
【文献】特開2008-056783(JP,A)
【文献】特開平07-316367(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003901(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/110685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/118
C08L 101/02
C08L 67/04
C08L 23/08
C08L 31/04
B33Y 70/00
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂(A)
としてポリ乳酸を
80重量%以上9
0重量%以下、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を
10重量%以上
20重量%以下(ここで(A)及び(B)の合計は100重量%とする)を含む熱溶解積層法3Dプリンター造形材料用樹脂組成物。
【請求項2】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が酢酸ビニル含有量の異なる2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む組成物である請求項
1に記載の熱溶解積層法3Dプリンター造形材料用樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が酢酸ビニル含有量の異なる3種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む組成物である請求項1
または2に記載の熱溶解積層法3Dプリンター造形材料用樹脂組成物。
【請求項4】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が、各共重合体の酢酸ビニル含量の差を取った際に、少なくとも1組の共重合体の酢酸ビニル含量の差が40重量%以下となるエチレン-酢酸ビニル共重合体組成物である請求項
2または
3に記載の熱溶解積層法3Dプリンター造形材料用樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が、架橋処理された2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む組成物である請求項
2乃至
4いずれか一項に記載の熱溶解積層法3Dプリンター造形材料用樹脂組成物。
【請求項6】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の加水分解物を含む請求項1乃至
5いずれか一項に記載の熱溶解積層法3Dプリンター造形材料用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至
6いずれか一項に記載の樹脂組成物を含み、かつ、フイラメント状構造を有する
熱溶解積層法3Dプリンター用フィラメント状成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンター用樹脂組成物およびフィラメント状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
3DCADや3次元コンピューターグラフィックスのデータを元に、立体造形物を作製する3Dプリンターは、近年産業向けを中心に急速に普及している。3Dプリンターの造形方法には、光造形、インクジェット、粉末石膏造形、粉末焼結造形、熱溶解積層造形などの方法があるが、個人向け等の低価格の3Dプリンターの多くは熱溶解積層法を採用している。この熱溶解積層法3Dプリンターにおいては、造形材料としてフィラメント状成形体が使用され、該フィラメントにはポリ乳酸やABS樹脂、アクリル樹脂、ナイロンなどの樹脂が用いられている。
【0003】
特にポリ乳酸は、比較的低温で溶融し、他の樹脂と比較して造形性や造形物の反りが小さいことから、熱溶解積層法3Dプリンターの材料として適している。しかし、ポリ乳酸は硬くて脆いため、造形品の機械強度が十分ではなかった。また、熱溶解積層法3Dプリンターの造型は、土台上に溶融した樹脂を積層していくため、造形中に積層した樹脂が土台から剥離すると造型不良や反りの原因となる。樹脂をなぞるように積層していく熱溶解積層法3Dプリンターでは、造形中に背腕に積層していた樹脂を引っ張ってしまうことがあり、土台との剥離を起こしやすい。つまり、樹脂と土台との接着性が造型性や反りに影響する要素の一つとなるが、ポリ乳酸では土台と十分な接着性が得難く、改良の余地があった。
【0004】
特許文献1にはメチルメタクリレート樹脂とゴム質グラフト重合体の添加、また、特許文献2にはポリブチレンアジペートテレフタレートの添加により、3Dプリンター用材料として使用されるポリ乳酸の機械強度を向上できることが開示されているが、土台との接着性の影響を受ける造型性や反りについては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-221896号公報
【文献】特開2017-132076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱溶解積層法3Dプリンターの造型性に優れ造形物の反りが小さく、また、脆性を抑制し機械物性に優れることを特徴とする3Dプリンター用樹脂組成物およびその樹脂組成物からなるフィラメント状成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の配合の樹脂組成物からなるフィラメントが熱溶解積層法3Dプリンターの造型性に優れ、造形物の反りが小さく、機械物性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、生分解性樹脂(A)を1重量%以上99重量%以下、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を1重量%以上99重量%以下(ここで(A)及び(B)の合計は100重量%とする)を含む3Dプリンター用樹脂組成物、及び該樹脂組成物を含むフィラメント状成形体に関するものである。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の生分解性樹脂(A)としては、ポリ乳酸(ポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、L-乳酸とD-乳酸の共重合体、ポリL-乳酸とポリD-乳酸のステレオコンプレックスを含む)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ3-ヒドロキシブチレート、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、修飾澱粉、酢酸セルロースからなる群の少なくとも1種を例示することができる。
【0011】
この中で、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)との相溶性に優れ、熱溶解積層法3Dプリンターの造型性に優れることから、ポリ乳酸が好ましい。
生分解性樹脂(A)がポリ乳酸の場合、L-乳酸および/またはD-乳酸を主たる構成成分とするポリマーであるが、耐熱性の点から、乳酸成分の光学純度が高いポリ乳酸系樹脂を用いることが好ましい。すなわち、ポリ乳酸系樹脂の総乳酸成分の内、L体が80%以上含まれるかまたはD体が80%以上含まれることが好ましく、L体が90%以上含まれるかまたはD体が90%以上含まれることがさらに好ましく、L体が95%以上含まれるかまたはD体が95%以上含まれることが特に好ましく、L体が98%以上含まれるかまたはD体が98%以上含まれることが最も好ましい。
【0012】
生分解性樹脂(A)の分子量や分子量分布は、成形体として使用でき得る剛性を有するという点で、重量平均分子量として好ましくは1万以上、より好ましくは5万以上、さらに好ましくは10万以上である。ここでの重量平均分子量とは、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0013】
生分解性樹脂(A)のメルトマスフローレートとしては、熱溶解積層法3Dプリンターに用いた際の造型性に優れることから、0.1g/10分以上50以下g/10分が好ましく、0.1g/10分以上20g/10分以下がより好ましく、1g/10分以上10g/10分以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明の組成物は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を含む。
【0015】
本発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)は公知の製造方法により得ることができる。具体的には、高圧法ラジカル重合、溶液重合や乳化重合等の製造方法が挙げられ、このような樹脂は市販品の中から便宜選択することができ、エチレン-酢酸ビニル共重合体として、東ソー株式会社からウルトラセンの商品名で、ランクセス株式会社からレバプレンの商品名で各々市販されている。
【0016】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のJIS K6924-1で測定した酢酸ビニル含有量は、6重量%以上90重量%以下であることが好ましく、より好ましくは15重量%以上85重量%以下である。酢酸ビニル含有量が6重量%以上であれば生分解性樹脂(A)との相溶性に優れ、熱溶解積層法3Dプリンターの造型性および反りにより優れる。酢酸ビニル含有量が90重量%以下であれば造形品の脆性がより改善される。
【0017】
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)は単独で使用しても、酢酸ビニル含有量が異なる2種類以上の共重合体を含む組成物であってもよい。3Dプリンターの造型性と機械強度に優れたものとなることから、酢酸ビニル含有量が異なる2種類以上の共重合体を含む組成物であることが好ましい。
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が、前記の2種以上の共重合体組成物である場合、各共重合体の酢酸ビニル含量の差を取った際に、少なくとも1組の共重合体の酢酸ビニル含量の差が40重量%以下であることが好ましい。これにより、組成物(B)を構成するエチレン-酢酸ビニル共重合体間の相溶性がより向上し、得られる造形物の機械強度が向上する。少なくとも1組の共重合体の酢酸ビニル含量の差は、好ましくは35重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下であり、最も好ましくは28重量%以下である。
【0018】
また、少なくとも1組の共重合体の酢酸ビニル含量の差は5重量%以上であることが好ましい。これにより、生分解性樹脂(A)と組成物(B)を構成するエチレン-酢酸ビニル共重合体間の相溶性がより向上し、得られる造形物の機械強度が向上する。
ここで、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が組成物である場合、各共重合体の酢酸ビニル含量の差とは、例えば、酢酸ビニル含量25重量%、50重量%、80重量%の3種のエチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、酢酸ビニル含量をそれぞれ。VAc25、VAc50、VAc80と表記する)を含む組成物においては、次にように算出できる。
VAc50 - VAc25 = 25重量%
VAc80 - VAc50 = 30重量%
VAc80 - VAc25 = 55重量%
【0019】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が、前記の2種以上の共重合体組成物である場合、各共重合体の酢酸ビニル含量の差を取った際に、各酢酸ビニル含量の差が全ての組合せにおいて70重量%以下であることが好ましい。これにより得られる造形物の機械強度がより向上する。全ての酢酸ビニル含量の差は、好ましくは60重量%以下である。
また、各酢酸ビニル含量の差が全て5重量%以上であることが好ましい。これにより、生分解性樹脂(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)間の相溶性がより向上し、得られる造形物の機械強度が向上する。
【0020】
本発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)は酢酸ビニル含量が異なる3種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むものであることが好ましい。この場合、以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことが好ましい。
・酢酸ビニル含量が15重量%以上30重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体
・酢酸ビニル含量が45重量%以上55重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体
・酢酸ビニル含量が75重量%以上85重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体
これらを満足させるためには、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を構成するエチレン-酢酸ビニル共重合体は2種以上、好ましくは3種以上とすることで調整することができ、酢酸ビニル含量25重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体をVAc25と表記し、成分の組成を(+)で表すと、例えば、(VAc25+VAc40)、(VAc25+VAc50)、(VAc50+VAc80)、(VAc25+VAc50+VAc80)、(VAc25+VAc50+VAc70+VAc80)、(VAc25+VAc40+VAc50+VAc70)、(VAc25+VAc40+VAc50+VAc70+VAc80)などが例示される。
【0021】
本発明におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が、酢酸ビニル含量が異なる2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む組成物である場合、それらのエチレン-酢酸ビニル共重合体は架橋されていてもよい。
架橋変性方法としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)に架橋剤を添加する手法が挙げられ、架橋剤としては各成分を架橋できるものあればよく、特に限定されるものではないが、反応性などを考慮して有機過酸化物を使用することが好ましい。
【0022】
架橋剤の有機過酸化物としては、有機過酸化物であれば特に限定されず、例えば、ジクミルペルオキシド、ジt-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1、1ージ(tーブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,3-ジ-(t-ブチルペルオキシ)-ジイソプロピルベンゼン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシドなどが挙げることができる。これらは単独で或いは2種類以上を混合して使用することができる。
なかでも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1、1ージ(tーブチルペルオキシ)シクロヘキサンが反応性の観点から好ましく用いられる。また、前記架橋剤と共に、必要に応じて、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの架橋助剤を用いてもよい。
上記架橋剤を含んでいるエチレン-酢酸ビニル共重合体組成物(B)を、熱を加え混練することで架橋することができる。この際、混練温度はエチレン-酢酸ビニル共重合体組成物(B)の融点~300℃程度が好ましい。
【0023】
また、本発明におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)は、生分解性樹脂(A)との相溶性を高めるために加水分解処理して酢酸ビニルをビニルアルコールに変換してもよい。
加水分解の処理方法は特に限定されないが、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のペレットをアルカリ中で直接加水分解処理するのが好ましい。本発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のケン化度は10重量%以上が好ましい。10重量%以上であれば生分解性樹脂(A)に対する相溶性が向上する。
ここで、ケン化度はJIS K7192(1999年)に準拠して測定することができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物における生分解性樹脂(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)との混合比率は、生分解性樹脂(A)を1重量%以上99重量%以下、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を1重量%以上99重量%以下であることが好ましい。生分解性樹脂(A)を99重量%以下含むことで熱溶解積層法3Dプリンターでの造型により得られる造形物の機械強度がより優れたものとなる。一方、生分解性樹脂(A)を1重量%以上含むことで得られる造形物の剛性や反りがより優れたものとなる。本発明の組成物は、さらに好ましくは生分解性樹脂(A)を30重量%以上95重量%以下、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を5重量%以上70重量%含み、またさらに好ましくは生分解性樹脂(A)を50重量%以上90重量%以下、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を10重量%以上50重量%含む。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、熱溶解積層法3Dプリンターの造型性に優れるものとなることからJIS K6924-1により測定しメルトマスフローレイトが0.01~20g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.05~10g/10分である。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体組成物(B)を混練する混練工程を有する製造方法により製造することができる。
本発明の樹脂組成物を混練する方法としては、生分解性樹脂(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)をヘンシェルミキサー又はタンブラー等の混合機により予備ブレンドしておき同時に混練装置で混練する方法が挙げられる。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が2種以上から構成される場合は、生分解性樹脂(A)と各種エチレン-酢酸ビニル共重合体を予備ブレンドしておき同時に混練装置で混練する方法と、エチレン-酢酸ビニル共重合体混合物を事前に混練し、その後生分解性樹脂(A)と混練したエチレン-酢酸ビニル共重合体混合物をブレンドし更に混練する方法が挙げられる。後者の方がエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)がより均一に混ざり所望の物性が安定して得られることから好ましい。
【0027】
混練装置としては、各成分を均一に分散できれば特に制限はなく、通常用いられる樹脂の混練装置により製造することができる。例えば、単軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダ-、回転ロール、インターナルミキサーなどの混練装置が挙げられる。混練温度は生分解性樹脂(A)の融点~300℃程度が好ましい。単軸押出機、もしくは多軸押出機で混練する場合、溶融混練したポリ乳酸生分解性樹脂(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とから、樹脂組成物のペレットを作製することなく、そのままフィラメントを作製することも可能である。
混練温度は熱可塑性樹脂(A)の融点または非晶性樹脂であればガラス転移温度~300℃程度が好ましい。
【0028】
また、本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、造核剤、滑剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、流動性改良剤、離型剤、難燃剤、着色剤、無機系中和剤、塩酸吸収剤、充填剤導電剤、鎖長延長剤、加水分解防止剤等が用いられても良い。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、3Dプリンターの造型原料として用いることができる。なかでも、熱溶解積層法に好適用いることができる。熱溶解積層法は、フィラメント状の樹脂材料を造形ヘッド内のプーリーで押出し、その先のヒーターで当該フィラメント状の樹脂材料を溶解しながら、押出された樹脂を造形テーブルに押し付けるように積層を行う技術である。
【0030】
本発明の別の態様としては、3Dプリンター用のフィラメント形状成形体を挙げることができる。本発明の樹脂組成物がフィラメント状の構造に成形することで、熱溶解積層法の原料として使用することできる。
【0031】
本発明のフィラメント状成形体は、本発明の樹脂組成物を含有する。フィラメントは、モノフィラメントでも、マルチフィラメントでもよいが、モノフィラメントが好ましい。またこれらは未延伸のものであっても延伸したものであってもよい。ここで「モノフィラメント」とは、1本の単糸からなる繊維状を表す。一方、「マルチフィラメント」とは複数の単糸からなる繊維状を表す。
フィラメントを構成する単糸は、直径が0.2mm以上5.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以上3.2mm以下であることがより好ましく、1.6mm以上2.5mm以下であることがさらに好ましい。ここで「フィラメントの直径」とは、フィラメントの長手方向に対して垂直に切断した断面における、最大長径と最小短径の平均である。フィラメントは、直径が0.2mm未満であると、細くなりすぎて、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに適さないことがある。
【0032】
本発明のフィラメントは、溶融押出法、インジェクション法、カレンダー法等の成形方法により作製することができ、生産性の観点から溶融押出法が好ましい。溶融押出法でフィラメントを作製する方法としては、押出機などの定量供給装置で、本発明の樹脂組成物を170℃以上270℃以下で溶融しノズル孔から押し出す。押出された樹脂を10℃以上80℃以下の水中、もしくは空冷により冷却固化後、巻き取り装置にて一定速度でスプールに巻き取る方法等が挙げられる。フィラメントはボビン等に巻き取り、カートリッジに収納するなどして、フィラメント状の造形材料を最終的に得ることができる。なお、造形材料をモノフィラメント状にする際は、ある程度の範囲内の倍率で延伸が施されていてもよい。
フィラメン卜を用いて3Dプリンターでの造型を行う場合、ニップロールやギアロール等の駆動ロールに当該モノフィラメン卜を係合させて、引き取りながら押出ヘッドへ供給する方法を例示できる。
【0033】
熱溶解積層法においては、加熱押出ヘッドの温度を好ましくは180~240℃とし、また、テーブル温度を通常80℃以下として、安定的に造形品を製造することができる。
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂は、好ましくは直径0.01~1mm、より好ましくは直径0.02~0.8mmのス卜ランド状で吐出される。
【0034】
本発明の熱溶解積層法3Dプリンター用樹脂組成物からなるフィラメントは、熱溶解積層法3Dプリンターにて造型されることで各種の部品やフィギュア、モックアップ、模型、型、治具などに好的に用いられる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の樹脂組成物およびその樹脂組成物からなるフィラメントは、熱溶解積層法3Dプリンターの造型性に優れ、得られた造形物は反りが小さく、機械物性に優れたものとなるため、熱溶解積層法3Dプリンター用の造型材料として好適である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)メルトマスフローレート(MFR)
ポリ乳酸(A)およびエチレン-酢酸ビニル共重合体のMFRは、メルトインデクサー(宝工業製)にて190℃、2.16kg荷重の条件にて測定した。
(2)酢酸ビニル含有率
酢酸ビニル含有率は、JIS K6924-1に準拠して測定した。
(3)反りの評価
造型性の評価の一環として、造形物の反りの評価を行った。樹脂組成物フィラメントを用いて、3Dプリンター(FLASHFORGE社製、DREAMER) を用いて、ノズル温度200℃、テーブル温度50℃の条件で厚さ4.0mm、ASTM D638と同形状のダンベル片を造形し、造形品の反りを目視で評価した。反りがないものを○、反りがあるものを×とした。
(4)引張試験
3Dプリンタで作製した、厚さ4.0mm、ASTM D638と同形状のダンベル片を、テンシロン引張試験機(エー・アンド・デー製、UTM2.5T)にて、チャック間距離115mm、引張速度10mm/分の条件で測定した。試料が破断した点における伸度(破断伸度[%]=破断に要した引張長さ[mm]/チャック間距離115mm)を計測した。
【0037】
実施例1
生分解性樹脂(A)としてL体比率98.5%、D体比率1.5%、重量平均分子量18万g/mol、メルトマスフローレイト4g/10分、融点170℃であるポリ乳酸(A-1)(NatureWorks(株)社製、商品名Ingeo4032D)90重量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)として酢酸ビニル含量25重量%、メルトマスフローレイト3g/10分であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B-25)(東ソー(株)製 商品名ウルトラセン640)10重量%をタンブラー混合機で予備ブレンドしておき、二軸押出機を用い180℃で溶融混練し、ダイから押し出された樹脂を水で冷却しながら巻き取ることで、直径1.75mmのフィラメントを得た。
得られたフィラメントを、3Dプリンター(FLASHFORGE社製、DREAMER)を用いて、ノズル温度200℃、テーブル温度50℃の条件でASTM D638形状のダンベル片を造形した。得られたダンベル片について、前記評価方法で測定した。評価の結果を表1に示す。
【0038】
実施例2
生分解性樹脂(A)としてポリ乳酸(A-1)を80重量%、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(B-25)を20重量%とした以外は、実施例1と同様の手法によりダンベル片を得た。得られたダンベル片について、前記評価方法で測定した。評価の結果を表1に示す。
【0039】
実施例3
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)20重量%を下記の組成とした以外は実施例1と同様の手法によりダンベル片を得た。
・酢酸ビニル含量25重量%、メルトマスフローレイト3g/10分であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B-25)(東ソー(株)製 商品名ウルトラセン640)10重量%
・酢酸ビニル含量50重量%、メルトマスフローレイト3g/10分であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B-50)(ランクセス(株)製 商品名レバプレン500)5重量%
・酢酸ビニル含量80重量%、メルトマスフローレイト5g/10分であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B-80)(ランクセス(株)製 商品名レバプレン800)5重量%
得られたダンベル片について、前記評価方法で測定した。評価の結果を表1に示す。
【0040】
比較例1
生分解性樹脂(A)としてポリ乳酸(A-1)100重量%を用いた以外は実施例1と同様の手法によりダンベル片を得た。得られたダンベル片について、前記評価方法で測定した。評価の結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
表1より、エチレン―酢酸ビニル共重合体を配合した実施例はいずれもそりが抑制され、造型性に優れ、かつ、ある程度の引っ張り伸度を示すことから脆性が抑制され機械特性に優れることが確認された。一方、エチレン―酢酸ビニル共重合体を配合していない比較例1は、造型性、機械特性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の樹脂組成物およびその樹脂組成物からなるフィラメントは、熱溶解積層法3Dプリンターの造型性に優れ、得られた造形物は反りが小さく、機械物性に優れたものとなるため、熱溶解積層法3Dプリンター用の造型材料として好適に用いられる。