(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】画像形成装置及びプロセスカートリッジ
(51)【国際特許分類】
G03G 21/00 20060101AFI20240918BHJP
G03G 21/18 20060101ALI20240918BHJP
C10M 105/24 20060101ALI20240918BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240918BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240918BHJP
C10N 40/14 20060101ALN20240918BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
G03G21/00 318
G03G21/18 114
C10M105/24
C10N30:06
C10N10:04
C10N40:14
C10N30:00 Z
(21)【出願番号】P 2020115766
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】中井 洋志
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-118307(JP,A)
【文献】特開2011-191732(JP,A)
【文献】特開2007-086441(JP,A)
【文献】特開2009-276539(JP,A)
【文献】特開2009-098532(JP,A)
【文献】特開2007-140391(JP,A)
【文献】特開2016-024355(JP,A)
【文献】特開2016-021002(JP,A)
【文献】特開2002-287592(JP,A)
【文献】特開2015-018031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
G03G 15/00
G03G 21/18
C10M 105/24
C10N 30/06
C10N 10/04
C10N 40/14
C10N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体と、該像担持体に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段と、を備える画像形成装置であって、
前記潤滑剤塗布手段は、
固形の潤滑剤を粉状に削り、粉状の潤滑剤を前記像担持体へ供給する潤滑剤供給部材と、前記像担持体の回転方向において前記潤滑剤供給部材よりも下流側に配置され、前記像担持体にトレーリング方式で当接し、前記像担持体上の前記粉状の潤滑剤を均す潤滑剤塗布ブレードと、を有し、
前記潤滑剤塗布ブレードは、ブレード部材と、該ブレード部材の表面の少なくとも一部に形成され、前記像担持体と接触するコート部と、を有し、前記像担持体の回転方向における前記像担持体と接触する面の幅の平均値が80μm以上400μm以下であり、かつ、前記コート部の摩擦係数が前記ブレード部材の摩擦係数よりも低いことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記コート部は、ダイヤモンドライクカーボンからなることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記潤滑剤は、当該潤滑剤中、脂肪酸金属塩を50質量%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記脂肪酸金属塩が、ステアリン酸亜鉛であることを特徴とする請求項
3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
クリーニングブレードを有し、前記像担持体をクリーニングするクリーニング手段を備え、
前記潤滑剤塗布手段は、前記像担持体の回転方向において、前記クリーニング手段よりも下流側に配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記コート部の厚みは、0.01μm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
像担持体と、クリーニングブレードにより前記像担持体をクリーニングするクリーニング手段と、前記像担持体の回転方向において前記クリーニング手段よりも下流側に配置され、前記像担持体に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段と、を備え、画像形成装置本体に対して着脱自在なプロセスカートリッジであって、
前記潤滑剤塗布手段は、
固形の潤滑剤を粉状に削り、粉状の潤滑剤を前記像担持体へ供給する潤滑剤供給部材と、前記像担持体の回転方向において前記潤滑剤供給部材よりも下流側に配置され、前記像担持体にトレーリング方式で当接し、前記像担持体上の前記粉状の潤滑剤を均す潤滑剤塗布ブレードと、を有し、
前記潤滑剤塗布ブレードは、ブレード部材と、該ブレード部材の表面の少なくとも一部に形成され、前記像担持体と接触するコート部と、を有し、前記像担持体の回転方向における前記像担持体と接触する面の幅の平均値が80μm以上400μm以下であり、かつ、前記コート部の摩擦係数が前記ブレード部材の摩擦係数よりも低いことを特徴とするプロセスカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及びプロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式による画像形成では、外周部が光導電性物質等で形成された像担持体上に静電荷による潜像を形成し、この静電潜像に対して、帯電したトナー粒子を付着させ可視像を形成している。トナーにより形成された可視像は、最終的に紙等の転写媒体に転写後、熱、圧力や溶剤気体等によって転写媒体に定着され、出力画像となる。
【0003】
これら電子写真方式による画像形成装置では、一般的にドラム形状や無端ベルト形状をした像担持体(一般的には感光体)を回転させつつ一様に帯電させる。そして、レーザー光等により像担持体上に潜像パターンを形成し、これを現像装置により可視像化して、更に転写媒体上に転写を行っている。
【0004】
転写媒体へトナー像を転写した後の像担持体上には、転写されなかったトナー成分が残存する。これらの残存物がある状態で、そのまま帯電工程が行われると、像担持体の均等な帯電を阻害することがある。そのため、一般的には、転写工程の後に、像担持体上に残存するトナー成分等をクリーニング工程にて除去し、像担持体の表面(以下、単に「像担持体表面」ともいう)を十分に清浄な状態にしてから帯電を行う。
【0005】
このように、像担持体表面は帯電、現像、転写、クリーニング等の各工程で、さまざまな物理的ストレスや電気的ストレスを受け、経時により表面状態が変化する。これらのストレスのうちクリーニング工程での摩擦によるストレスは、像担持体を摩耗させるだけでなく、クリーニング部材の寿命も低下させる原因となる。画像形成装置やこれに使用される部材の長寿命化は、ランニングコストの低減や廃棄物の低減による地球環境保護の観点から、市場での関心が高い。このような流れから、近年では像担持体だけでなく周辺部材の長寿命化も求められてきており、クリーニング工程でのストレス低減は大きな課題となっている。
【0006】
この課題を解消すべく、像担持体とクリーニング部材間の摩擦力を低減し、像担持体及びクリーニング部材の双方を保護すること、並びにクリーニング性を向上させることを目的として、各種潤滑剤を像担持体上に供給、成膜する潤滑剤塗布装置(潤滑剤塗布手段ともいう)が提案されている。潤滑剤塗布装置は、感光体と接するローラ部材に固形潤滑剤を押し付けて、例えばローラ部材によって感光体表面に潤滑剤を供給する。そして、感光体の回転方向におけるローラ部材よりも下流側にブレードを接触させ、感光体表面に塗布した潤滑剤を均す構成が多く用いられる。ブレードの接触のさせ方としては、トレーリング方式とカウンター方式が知られている。このブレードは、その機能から、潤滑剤均しブレード(特許文献1)、薄層化ブレード(特許文献2)などと呼ばれているが、以下、潤滑剤塗布ブレード又は単に塗布ブレードと呼ぶこととする。
【0007】
特許文献1にはトレーリング方式の潤滑剤塗布ブレードが開示されており、塗布ブレードの先端を感光体の回転方向の下流側に向けて腹当たり接触させている。その目的は、塗布ブレードの摩耗による潤滑剤の塗布性能劣化を防止し、色すじ画像や濃度むら画像の発生を防止することである。また、腹当たり接触とは、先端部を折り曲げた塗布ブレードを用い、塗布ブレードの先端エッジよりも手前の面を主として接触させることを意味する。このようにすることで、接触面圧を小さくして塗布ブレードの摩耗量を減らすことができるというものである。
特許文献2にはカウンター方式の潤滑剤塗布ブレードが記載されており、塗布ブレードのエッジ部を感光体ドラムの回転方向に対向させて接触させている。
【0008】
従来の滑剤塗布装置においては、固形の潤滑剤をブラシやスポンジ等のローラ部材で研削し像担持体上に研削した潤滑剤の粉を付着させ、板状のゴムブレードにて延展させる方式が多く使用されている。
しかし、昨今のプロセススピードの高速化により、潤滑剤の粉がブレード部にて十分に延展されず、粉のままブレードをすり抜けてしまうという問題があった。すり抜けた潤滑剤の粉が帯電部に侵入すると、静電的或いは物理的に帯電ローラやワイヤ等に付着し、帯電部材汚染の原因となる。帯電部材の汚染が進行すると、黒スジ等の異常が画像上に現れるので好ましくない。
【0009】
トレーリング方式の潤滑剤塗布ブレードは、カウンター方式のものに比べて、省スペース化を図るうえで有利であり、接触箇所でのトルクが低いために像担持体へのストレスが少ないというメリットがある。しかし、潤滑剤塗布性能及びクリーニング性がカウンター方式のものよりも劣っており、供給された潤滑剤の粉を十分に延展できず、粉状の潤滑剤が塗布ブレードをすり抜けて帯電ローラ汚れや異常画像が発生しやすい。一方で、カウンター方式の潤滑剤塗布ブレードを搭載した場合には、ブレード先端の巻き込み量が大きくなるため摺動抵抗が大きくなり、トレーリング方式のものよりもトルクが増加して、像担持体の摩耗が促進され、像担持体とブレードとの摺動部で異音が発生してしまう等の問題があった。
【0010】
上記諸問題に対して、特許文献3では、ビビリ振動や異音の発生を抑制し、像担持体およびクリーニングブレードの寿命が向上し、経時にわたり良好なクリーニング性を維持し、かつ、良好な画像を得ることができる画像形成装置が提案されている。特許文献3では、クリーニングブレードの先端稜線部を硬くすることに加え、摩擦係数を所定の範囲にするとともに、トレーリング方式又はカウンター方式の潤滑剤均しブレードを用いることが開示されている。また、特許文献4では、潤滑剤を均一に塗布する目的で、均しブレードの硬度、当接角度、当接線圧を規定することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献3では、潤滑剤塗布ブレードを用いた際に良好な潤滑剤塗布性を得ることについてはいまだ不十分であり、更なる向上が求められている。潤滑剤塗布性が劣るとフィルミングや異常画像が生じることが懸念される。また、特許文献4では、均しブレードの硬度を高くした場合、像担持体に対する負荷が増加し、トルク増加に伴う像担持体の摩耗や異音が生じることが懸念される。このように、上記諸問題を解決できる画像形成装置が求められている。
【0012】
そこで、本発明は、良好な潤滑剤塗布性が得られ、像担持体の摩耗を低減でき、異音の発生を抑制した画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の画像形成装置は、像担持体と、該像担持体に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段と、を備える画像形成装置であって、前記潤滑剤塗布手段は、固形の潤滑剤を粉状に削り、粉状の潤滑剤を前記像担持体へ供給するローラ部材と、前記像担持体の回転方向において前記ローラ部材よりも下流側に配置され、前記像担持体にトレーリング方式で当接し、前記像担持体上の前記粉状の潤滑剤を均す潤滑剤塗布ブレードと、を有し、前記潤滑剤塗布ブレードは、ブレード部材と、該ブレード部材の表面の少なくとも一部に形成され、前記像担持体と接触するコート部と、を有し、前記像担持体の回転方向における前記像担持体と接触する面の幅の平均値が80μm以上400μm以下であり、かつ、前記コート部の摩擦係数が前記ブレード部材の摩擦係数よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な潤滑剤塗布性が得られ、像担持体の摩耗を低減でき、異音の発生を抑制した画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る画像形成装置の一例を示す断面概略図である。
【
図2】潤滑剤塗布ブレードの一例における自由長を説明するための概略図である。
【
図3】潤滑剤塗布ブレードの一例における像担持体との接触箇所を説明するための概略図(A)及び接触幅の測定の一例を説明するための図(B)である。
【
図4】潤滑剤塗布ブレードの一例における接触幅の測定の一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図5】潤滑剤塗布ブレードのコート箇所の一例を説明するための図(A)及び(B)並びにコートが行われた後の図(C)である。
【
図6】本発明に係る画像形成装置の他の例を示す概略図である。
【
図7】本発明に含まれない画像形成装置の一例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る画像形成装置及びプロセスカートリッジについて図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0017】
本発明の画像形成装置は、像担持体と、該像担持体に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段と、を備える画像形成装置であって、前記潤滑剤塗布手段は、固形の潤滑剤を粉状に削り、粉状の潤滑剤を前記像担持体へ供給するローラ部材と、前記像担持体の回転方向において前記ローラ部材よりも下流側に配置され、前記像担持体にトレーリング方式で当接し、前記像担持体上の前記粉状の潤滑剤を均す潤滑剤塗布ブレードと、を有し、前記潤滑剤塗布ブレードは、ブレード部材と、該ブレード部材の表面の少なくとも一部に形成され、前記像担持体と接触するコート部と、を有し、前記像担持体の回転方向における前記像担持体と接触する面の幅の平均値が80μm以上400μm以下であり、かつ、前記コート部の摩擦係数が前記ブレード部材の摩擦係数よりも低いことを特徴とする。
【0018】
また、本発明のプロセスカートリッジは、像担持体と、クリーニングブレードにより前記像担持体をクリーニングするクリーニング手段と、前記像担持体の回転方向において前記クリーニング手段よりも下流側に配置され、前記像担持体に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段と、を備え、画像形成装置本体に対して着脱自在なプロセスカートリッジであって、前記潤滑剤塗布手段は、固形の潤滑剤を粉状に削り、粉状の潤滑剤を前記像担持体へ供給する潤滑剤供給部材と、前記像担持体の回転方向において前記潤滑剤供給部材よりも下流側に配置され、前記像担持体にトレーリング方式で当接し、前記像担持体上の前記粉状の潤滑剤を均す潤滑剤塗布ブレードと、を有し、前記潤滑剤塗布ブレードは、ブレード部材と、該ブレード部材の表面の少なくとも一部に形成され、前記像担持体と接触するコート部と、を有し、前記像担持体の回転方向における前記像担持体と接触する面の幅の平均値が80μm以上400μm以下であり、かつ、前記コート部の摩擦係数が前記ブレード部材の摩擦係数よりも低いことを特徴とする。
【0019】
本実施形態の画像形成装置を
図1に示す。
図1は、本実施形態の画像形成装置の要部における断面概略図であり、1つの感光体ユニット(プロセスカートリッジ)を図示するものである。
【0020】
本実施形態の画像形成装置は、像担持体(感光体とも称することがある)としての感光体ドラム8、感光体ドラム8に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段2を備えており、その他にも、クリーニングブレード27、帯電ローラ9等を有している。図示を省略しているが、その他にも現像手段、転写手段、定着手段を有している。
【0021】
図中の矢印は、感光体ドラム8の回転方向を示し、潤滑剤塗布手段2よりも上流側にクリーニングブレード27が配置されている。クリーニングブレード27は感光体ドラム8上に付着した転写残トナー等をかき取って除去し、粉体搬送コイル28はクリーニングブレード27で感光体ドラム8から除去した転写残トナー等を搬送する役割を果たす。
【0022】
また、潤滑剤塗布手段2よりも下流側に帯電ローラ9が配置されている。帯電ローラ9は感光体ドラム8と、両端部の画像領域外でコロを介して接触しており、感光体ドラム8との間に微小なギャップを保っていて、帯電ローラ9に帯電バイアスを印加することで感光体ドラム8の表面を一様に帯電させる。帯電クリーナローラ26は帯電ローラ9を清掃するためのものである。
【0023】
像担持体である感光体ドラム8に対向して配設された潤滑剤塗布手段2は、潤滑剤31、潤滑剤供給部材30、潤滑剤保持部材32、押圧力付与機構33、潤滑剤塗布ブレード34等から主に構成される。
【0024】
潤滑剤塗布ブレード34は、感光体ドラム8の回転方向を基準とした時、トレーリング方式にて感光体ドラム8に当接している。潤滑剤塗布ブレード34は、ブレード部材と、該ブレード部材の表面の少なくとも一部に形成され、像担持体と接触するコート部(コート膜と称してもよい)とを有している。なお、潤滑剤塗布ブレードを塗布ブレードと称することもある。
【0025】
潤滑剤塗布ブレード34のブレード部材に用いられる材料は、特に制限されるものではなく、例えばクリーニングブレード用材料として一般に公知のウレタンゴム、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体を単独またはブレンドして使用することができる。また、弾性体の硬度を調整するために、必要に応じて他の有機微粒子や無機微粒子に代表される充填材を分散しても良い。
【0026】
潤滑剤塗布ブレード34は、先端部が像担持体表面へ押圧当接できるように、接着や融着等の任意の方法によってブレード支持体35に固定される。本実施形態の画像形成装置において、潤滑剤塗布ブレード34は感光体ドラム8にトレーリング方式で当接しており、これをトレーリング方向に当接していると称してもよい。
【0027】
一方、本発明に含まれないカウンター方式を採用した画像形成装置の一例を
図7に示す。
図7に示すように、潤滑剤塗布ブレード34は感光体ドラム8にカウンター方向に当接している。
【0028】
本発明において、潤滑剤塗布ブレード34は、感光体ドラム8の回転方向における感光体ドラム8と接触する面の幅(接触幅とも称する)の平均値が80μm以上400μm以下である。
【0029】
発明者らの観察によると、従来の潤滑剤塗布ブレードと感光体ドラムとの接触幅は、機種による多少の違いやトレーリング方式、カウンター方式で違いはあるものの、経時も含めておよそ60μm以下に設定されており、そのほとんどが40μm以内の値にとどまっていた。これは主に接触幅を狭くし、高い面圧をかけることで潤滑剤の粉を堰き止める思想に基づいたものである。従来のクリーニングブレードもこれと同様の思想にて設計されている。
【0030】
トレーリング方式の潤滑剤塗布ブレードは、カウンター方式のものに比べて、省スペース化で有利であることに加え、感光体ドラムとの接触箇所でのトルクが低いために感光体ドラムへのストレスが少ないというメリットがある。しかし、トレーリング方式は潤滑剤の塗布性能がカウンター方式よりも劣っており、供給された潤滑剤の粉を十分に延展できず、粉状の潤滑剤が塗布ブレードをすり抜けて帯電ローラの汚れや異常画像が発生しやすい。一方で、カウンター方式の潤滑剤塗布ブレードを搭載した場合には、ブレード先端の巻き込み量が大きくなるため摺動抵抗が大きくなり、トレーリング方式のものよりもトルクが増加して、像担持体の摩耗が促進されてしまう。更に、カウンター方式の潤滑剤塗布ブレードを搭載した場合、像担持体とブレードとの摺動部で異音が発生してしまう等の問題があった。
【0031】
そこで本発明者らは、潤滑剤塗布性の向上等の観点から鋭意検討を行った結果、トレーリング方式を採用した上で接触幅を増やすことにより良い方向となることを見出した。トレーリング方式の潤滑剤塗布ブレードにおいては、接触幅を狭くして局所的に高い面圧を得るよりも、広い接触幅を確保して潤滑剤の粉が引き延ばされる確率を増やした方が、特に高い面圧を必要としなくても潤滑剤が十分に延展される。
【0032】
接触幅の値として具体的にどのような範囲であればよいかを鋭意検討した結果、上述した80μm以上400μm以下の範囲である場合に、潤滑剤塗布性を向上させることができ、像担持体のフィルミングが抑制されることを見出した。また、上記の範囲にすることで、潤滑剤の使用量を少量とした場合においても上記の効果が得られることを見出した。
【0033】
一方、接触幅が80μm未満では、上記の効果が得られず、良好な潤滑剤塗布性が得られない。また、400μm近傍で上記の効果が飽和するため、接触幅を400μmよりも大きくすると、副作用が大きくなることが懸念され、経時で異音が発生してしまう。
【0034】
接触幅を上記の範囲にする方法としては、例えば、潤滑剤塗布ブレード34の突き出し部分の長さ(自由長)や、感光体ドラム8に対する食込み量を調整する方法等が挙げられる。中でも、自由長を変更する方法が簡便であり好ましい。例えば自由長を長くすることで、感光体ドラム8への当接圧をほとんど変化させずに接触幅のみを増加させることができる。
【0035】
図2に自由長を説明するための図を示す。ここでは、潤滑剤塗布ブレード34とブレード支持体35が図示されている。図示されるように、潤滑剤塗布ブレード34におけるブレード支持体35からの突き出し部分の長さが自由長となる。
【0036】
また、潤滑剤塗布ブレード34の感光体ドラム8に対する食込み量を調整する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。食込み量を増やす場合は、例えばブレード取り付け時にユニットとブレードホルダの間に板状の部材を挟むようにする。食込み量を減らす場合は、例えばユニットやブレードホルダの一部を削るようにする。
【0037】
接触幅の測定方法の一例を
図3、
図4を用いて説明する。なお、
図3において、潤滑剤塗布ブレード34のコート部は図示を省略している。
【0038】
図3(A)は、感光体ドラム8に潤滑剤塗布ブレード34が当接している場合の例を示す概略図であり、符号34cは、潤滑剤塗布ブレード34における感光体ドラム8との接触部を示している。また、矢印のように接触幅が模式的に示されている。
図3(B)は、接触幅を測定するために、ユニットから取り外した潤滑剤塗布ブレード34にテープを貼り付けた場合の例を示す概略図である。
【0039】
本例における接触幅の測定方法を説明する。
図3(A)のように実機内で通紙を行い、その後、潤滑剤塗布ブレード34をユニットからそっと取り外す。このとき、潤滑剤塗布ブレード34に付着した潤滑剤が落ちないように留意する。次いで、
図3(B)に示されるように、ユニットから取り外した潤滑剤塗布ブレード34にテープ40を貼り付け、潤滑剤塗布ブレード34に付着した潤滑剤がテープに転写されるように軽く押さえつけた後、テープ40を剥がす。次いで、潤滑剤が転写されたテープ40をSEM(走査型電子顕微鏡)等により観察することで接触幅を測定する。
【0040】
図4は、潤滑剤塗布ブレード34に貼り付けたテープの一例を説明するための図である。
図4(A)は、潤滑剤塗布ブレード34に貼り付けたときのテープ40の側面又は断面を示し、
図4(B)は、潤滑剤塗布ブレード34から剥がしたテープ40の平面を示している。
図4(A)と
図4(B)において、符号40aが対応している。また、
図4(B)に示される矢印は、感光体ドラム8の回転方向を示している。
【0041】
図4(B)に示されるように、潤滑剤塗布ブレード34から剥がしたテープ40において、感光体ドラム8との接触箇所(接触部43c)の前後には潤滑剤の粉が付着しており、粉溜まり51が形成されている。一方、接触部43cには、潤滑剤の粉がほとんど存在しない状態となっている。そのため、ユニットから取り外した潤滑剤塗布ブレード34にテープ40を貼り付け、潤滑剤を転写させた後、テープ40を剥がし、テープ40における潤滑剤が付着していない部分の幅を測定することで、潤滑剤塗布ブレード34と感光体ドラム8との接触幅を測定することができる。
【0042】
図4(B)に示されるように、接触幅は長手方向(感光体ドラム8の回転方向と垂直な方向)で数μm程度のばらつきがある。このため、視野全体で長手方向における平均値を求める。平均値は、例えば20個程度の測定点に対する平均を取ることが好ましい。
【0043】
上述のように、接触幅の平均値を80μm以上400μm以下とすることで、潤滑剤塗布性が向上する。しかしながら、本発明者らは検討を進めていったところ、接触幅を従来よりも大きくし、接触面積を増やした場合、トルクが増加してしまうことの他、感光体ドラムとの接触面で振動が起き、異音が発生しやすくなることが明らかとなった。これは、潤滑剤の材料が同じでも、粉状の方が膜状よりも潤滑効果が大きいためであり、接触幅を上述の範囲にすることにより、従来は多く存在していた粉状の潤滑剤がより膜状に引き延ばされていることを示すものと推定される。また、長期間のランニング試験を行った際の感光体ドラムの摩耗量が悪化するという副作用も新たに見つかった。
【0044】
これを解決するため、本発明者らは更に検討を行い、潤滑剤塗布ブレードの接触部に所定のコートを行うことで良い方向になることを見出した。すなわち、ブレード部材と、該ブレード部材の表面の少なくとも一部に形成され、前記像担持体と接触するコート部とを有する潤滑剤塗布ブレードにおいて、コート部の摩擦係数がブレード部材の摩擦係数よりも低くなるようにした。これにより、像担持体との接触幅が大きい場合にもトルクが増加せず、かつ振動による異音の発生を抑制することができる。
【0045】
従って、接触幅とコート部の要件等を有する本発明によれば、良好な潤滑剤塗布性が得られ、長期にわたってフィルミングによる異常画像の発生がなく、副作用である異音や像担持体の摩耗を抑制することができる。
【0046】
コート部は、ブレード部材における感光体ドラムとの接触面をブレード部材表面の材料よりも摩擦係数の低い物質でコートすることにより形成する。
コート部の材料としては、ブレード部材の表面にコートした際に、元の状態(ブレード部材)よりも像担持体に対する摩擦係数が低下するものであれば良い。コート部の材料としては、例えば一般的に良く知られるフッ素系化合物、シリコーン系化合物やそれらの含有物、無機系の潤滑性物質等が挙げられる。中でも、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)が好ましい。DLCは特に摩擦係数が低く、像担持体の摩耗に対して特に優れた効果が得られる。また、コート部の耐久性を向上させることができるといった利点もあることに加え、真空薄膜作製法による加工が行いやすいという利点もある。
【0047】
また、DLCコートとしては、水素フリーDLCであるTa-C及びa-C、水素含有DLCであるTa-C:H及びa-C:Hのいずれも好ましく用いることができる。DLCコートは、例えばカウンター方式のクリーニングブレードのように、狭い接触幅で高い面圧がかかる構成では像担持体に対する負荷が強くなりすぎるが、本発明のようなトレーリング方式の塗布ブレードに求められる潤滑性には非常に有利である。
【0048】
これらをコートする方法としては、適宜選択することができ、塗布ブレード表面に公知の手段で塗布する方法が挙げられる。中でも真空薄膜作製法を用いることが好ましい。真空薄膜作製法を用いる場合、コートの効果がより長期間にわたって持続し、トルクが増加しにくくなるため、像担持体の摩耗に対して特に優れた効果が得られる。また、DLCを真空薄膜作製法によりコートすることが好ましく、コート部の耐久性及び摩擦係数低減の面から特に好ましい。
【0049】
真空薄膜作製法としては、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングといったPVD(物理蒸着法)、熱、光、プラズマ等のCVD(化学蒸着法)、特開2007-86329に示されるようなFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)方式等、公知の方法を用いることができる。これらの方法により形成したコーティング膜は基材との密着性の面で有利であり、いずれも優れた耐久性が得られる。
【0050】
摩擦係数の測定には、接触子として実際のブレード片、サンプルとして像担持体またはその表面を模した平板を選ぶことができる。本発明において、上記摩擦係数は動摩擦係数とし、動摩擦係数の測定装置としては、例えば新東科学社製の表面性測定機TYPE:14FWを使用する。
【0051】
コート部が形成される箇所、すなわちブレード部材の表面に対してコートを行う範囲については、適宜選択することが可能である。コートを行う範囲としては、ブレード部材と感光体ドラムとの接触面(接触部)が含まれていれば良い。
【0052】
コートを行う範囲の一例を
図5に示す。
図5(A)では、潤滑剤塗布ブレード34とブレード支持体35が図示されており、例えば、潤滑剤塗布ブレード34の先端からエッジ部を含む両端3mmの範囲をコートする。コート範囲を符号36で示している。
このとき、長手方向全幅にコートすることが好ましい。
図5(B)は、
図5(A)のa方向から見た場合の図であり、長手方向全幅にコートしている。また、
図5(C)に、コートが行われた後の潤滑剤塗布ブレード34の模式図を示す。図示されるように、ブレード部材34aにコート部34bが形成されている。
【0053】
コート部の厚みとしては、適宜選択することが可能であるが、例えば0.01~1μmであることが好ましい。
【0054】
コート部の摩擦係数は、例えば0.1~0.5であることが好ましい。
ブレード部材の摩擦係数は、通常1.0~2.0程度であり、例えば材料面や潤滑性物質の添加による改良ではゴム物性が変化してしまうため、ブレード部材自体に必要な強度や弾性を維持する観点から摩擦係数を下げることが難しい。このため、上記のように摩擦係数の低いコート部を表面にのみ形成することにより、ブレード自体に求められる物性を維持しながら、像担持体との接触幅が大きい場合にもトルクが増加せず、かつ振動による異音の発生を抑制することができる。
【0055】
次に、潤滑剤塗布手段2における他の構成要素について説明する。
潤滑剤31は、潤滑剤保持部材32を介して押圧力付与機構33からの押圧力を受け、ローラ状の潤滑剤供給部材30に接する。
潤滑剤供給部材30は、固形の潤滑剤31を粉状に削り、粉状の潤滑剤31を感光体ドラム8へ供給する。潤滑剤供給部材30は感光体ドラム8と線速差をもって回転して摺擦し、この際に、潤滑剤供給部材30の表面に保持された潤滑剤を感光体ドラム8の表面に供給する。
【0056】
潤滑剤供給部材30としては、図示されるようなローラ状の部材であってもよいし、この他にも例えば可撓性の繊維からなるブラシ部材や発泡ウレタン等のスポンジ部材等、公知の部材を用いることができる。
【0057】
潤滑剤31は、無機潤滑剤、脂肪酸金属塩、ワックス類、オイル類、フッ素樹脂等、公知の材料を用いることができ、これらの材料を例えばバー状に成型したものを用いることができる。これらの中でも、脂肪酸金属塩が特に好ましく用いられる。脂肪酸金属塩を用いる場合、潤滑剤の延展性に優れ、特にフィルミングに対する余裕度を高くすることができる。
【0058】
脂肪酸金属塩としては、例えばステアリン酸バリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸鉄、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸銅、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸鉄、オレイン酸コバルト、オレイン酸銅、オレイン酸鉛、オレイン酸マンガン、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸コバルト、パルミチン酸鉛、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸アルミニウム、パルミチン酸カルシウム、カプリル酸鉛、カプリン酸鉛、リノレン酸亜鉛、リノレン酸コバルト、リノレン酸カルシウム、リシノール酸亜鉛、リシノール酸カドミウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛等があるが、これに限るものではない。また、これらの混合物を使用してもよい。
【0059】
これらの中でも、ステアリン酸亜鉛が特に好ましく、ステアリン酸亜鉛を用いる場合、像担持体への成膜性や延展性を向上させることができ、フィルミングに良好な影響を与えることに加えて像担持体の摩耗に対する余裕度も高くすることができる。
【0060】
脂肪酸金属塩の含有量としては、適宜選択することが可能であるが、潤滑剤の主成分として用いることが好ましい。この場合、上記効果が得られやすくなる。なお、本発明でいう主成分とは、潤滑剤全体に占める重量比が50%よりも多いことを意味する。
【0061】
図6は、本発明における画像形成装置100の一例を示す断面図である。
本例では、ドラム状の像担持体1の周囲に、潤滑剤塗布装置2、帯電装置3、潜像形成装置8、現像装置5、転写装置6、クリーニング装置4が配置されている。本例では、像担持体1K、1C、1M、1Yにそれぞれ対応して、取り外し可能な感光体ユニット(プロセスカートリッジ)を4つ備えている。感光体ユニットは例えば
図1のような構成とすることができる。なお、上記像担持体を区別せず説明する場合、像担持体1と称する。
【0062】
画像形成のための一連のプロセスについて、ネガ-ポジプロセスで説明を行う。
有機光導電層を有する感光体(OPC)に代表される像担持体1は、除電ランプ等で除電され、帯電部材を有する帯電装置3で均一にマイナスに帯電される。
【0063】
帯電装置による像担持体の帯電が行われる際には、電圧印加機構から帯電部材に、像担持体1を所望の電位に帯電させるに適した、適当な大きさの電圧またはこれに交流電圧を重畳した帯電電圧が印加される。
【0064】
帯電された像担持体1は、レーザー光学系等の潜像形成装置8によって照射されるレーザー光で潜像形成(露光部電位の絶対値は、非露光部電位の絶対値より低電位となる)が行なわれる。レーザー光は半導体レーザーから発せられて、高速で回転する多角柱の多面鏡(ポリゴン)等により像担持体1の表面を、像担持体1の回転軸方向に走査する。
【0065】
このようにして形成された潜像が、現像装置5にある現像剤担持体である現像スリーブ上に供給されたトナー粒子、またはトナー粒子及びキャリア粒子の混合物からなる現像剤により現像され、トナー可視像が形成される。
【0066】
潜像の現像時には、電圧印加機構から現像スリーブに、像担持体1の露光部と非露光部の間にある、適当な大きさの電圧またはこれに交流電圧を重畳した現像バイアスが印加される。
【0067】
各色に対応した像担持体1上に形成されたトナー像は、転写装置6にて中間転写媒体60上に転写され、給紙機構200から給送された紙などの転写媒体上にトナー像が転写される。このとき、転写装置6には、転写バイアスとしてトナー帯電の極性と逆極性の電位が印加されることが好ましい。その後、中間転写媒体60が像担持体1から分離され、転写像が得られる。
【0068】
また、像担持体上に残存するトナー粒子は、クリーニング部材によってクリーニング装置4内のトナー回収室へ回収される。
【0069】
画像形成装置としては、上述の現像装置が複数配置されたものを用い、複数の現像装置によって順次作製された色が異なる複数トナー像を転写材上へ順次転写した後、定着機構へ送り、熱等によってトナーを定着する装置としてもよい。この他にもあるいは、上記と同様にして作製された複数のトナー像を一旦中間転写媒体上に順次転写した後、これを一括して転写媒体に転写した後、上記と同様に定着する装置としてもよい。
【0070】
また、上述の帯電装置3は公知のいずれの構成を使用してもよいが、像担持体表面に接触または近接して配設された帯電装置であることがより好ましい。これにより、放電ワイヤを用いた、いわゆるコロトロンやスコロトロンと言われるコロナ放電器と比して、帯電時に発生するオゾン量を大幅に抑制することが可能となる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
<潤滑剤塗布ブレードの加工>
図1と略同等の潤滑剤塗布手段を具備した、リコー社製複写機RICOH MPC5503の黒ステーションの感光体ユニットにおいて、潤滑剤塗布ブレード(材料:ウレタンゴム)を次のように加工したものと交換し、評価用ユニットを作製した。
潤滑剤塗布ブレードの自由長を標準品(自由長:5.5mm)よりも0.8mm長くしたものを準備し、
図5に示した例と同様に、潤滑剤塗布ブレード先端からエッジ部を含む両面3mmの範囲かつ長手方向全幅に対して、水素フリーDLCであるTa-CコートをFCVA方式にて形成した(ナノフィルム社にて実施)。コート膜の厚みは0.5μmであった。
このように加工した潤滑剤塗布ブレードを元の感光体ユニットに戻して評価用ユニットとした。本ユニットの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅を前述の方法にて別途測定したところ245μmであった。
また、加工前の潤滑剤塗布ブレード(ブレード部材)の摩擦係数は1.32であり、Ta-Cコート後の摩擦係数は0.28であった。なお、潤滑剤塗布ブレードの動摩擦係数の測定は、以下のように行った。
【0073】
-摩擦係数の測定-
・測定器は表面性測定機TYPE:14FW(新東科学社製)を使用した。
・実機搭載分と同条件で作製した別の潤滑剤塗布ブレードを支持体から剥がし、8mm幅に切り取ったものを表面性測定機に付属のブレードホルダにセットして接触子とした。
・RICOH MPC5503にて使用されている感光体の表面層と同処方の材料を、ガラス平板上にディッピングにて塗布し、サンプルとした。
・荷重100g、サンプル移動速度30mm/min、サンプル移動距離5mmにて、トレーリング方向に走査した際の動摩擦係数の平均値を測定した。
【0074】
また、RICOH MPC5503の潤滑剤塗布手段には、主成分としてステアリン酸亜鉛を80%含有する潤滑剤を使用した。
【0075】
<評価>
上記のようにして得た感光体ユニットを備えた画像形成装置を用いて、以下のように潤滑剤塗布性、及び副作用を確認するための実機特性評価(異音、摩耗量の評価)を行った。なお、各評価ではいずれも黒ステーションを単独で使用した。
【0076】
<<1.潤滑剤塗布性の評価>>
潤滑剤塗布性が良好なほど、潤滑剤の消費量が少ない条件でもフィルミングは発生しないことから、次の方法にて潤滑剤塗布性を評価した。
リコー社製RICOH MPC5503の潤滑剤塗布手段に含まれる押圧力付与機構(
図1の押圧力付与機構33に相当)であるばねの加圧力を1/2とし、潤滑剤の消費量を減少させた条件で、高温高湿(30℃、90%)環境下で黒縦帯チャートをA4横、30000枚まで連続通紙した。
このとき、1000枚毎に感光体ユニットを取り出し、感光体を目視してフィルミングの有無を確認した。また、フィルミングが発生した場合はハーフトーン画像を出力して、フィルミングがNGレベルの異常画像として現れるかどうかを確認した。目視にてフィルミングが確認できた枚数、及びNGレベルの異常画像が確認された枚数をチェックし、潤滑剤塗布性の判断基準とした。
なお、フィルミングの評価においては、フィルミングが発生しないことが最も好ましく、フィルミングが発生した場合でも、30000枚の評価でフィルミングによる異常画像が確認されなければ合格とした。
【0077】
<<2.異音の評価>>
上記潤滑剤塗布性の評価において、1000枚毎に感光体を取り出す前に、半速モードにて白紙チャートを3枚連続通紙し、塗布ブレード起因の異音が発生しないかどうかを確認した。耳ではっきりと聞き取れる異音が発生した場合、その時点の枚数をチェックし、副作用の判断基準とした。
30000枚の時点でも異音が発生していない場合を合格とし、30000枚の評価で異音が発生した場合を不合格とした。
【0078】
<<3.感光体摩耗量の確認>>
動トルクが高い条件ほど感光体摩耗が進むことから、上記潤滑剤塗布性の評価において、30000枚までランした感光体のうち、フィルミングが発生していない箇所について感光体の膜厚を測定した。初期からの摩耗量を比較することで、副作用の判断基準とした。
【0079】
(実施例2)
実施例1において、潤滑剤塗布ブレードの自由長を標準品よりも1.1mm長くしたものを用いて表面コートを行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。このときの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅は396μmであった。
【0080】
(実施例3)
実施例1において、潤滑剤塗布ブレードの自由長を標準品よりも0.5mm長くしたものを用いて表面コートを行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。このときの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅は83μmであった。
【0081】
(実施例4)
実施例1において、潤滑剤塗布ブレードの自由長を標準品とし、かつ加工した潤滑剤塗布ブレードを感光体ユニットに戻す際に、感光体に対する食込み量を1.0mm増加させた以外は、実施例1と同様に評価を行った。このときの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅は370μmであった。
【0082】
(実施例5)
実施例4において、潤滑剤塗布ブレードの感光体に対する食込み量増加分を0.5mmとした以外は、実施例1と同様に評価を行った。このときの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅は91μmであった。
【0083】
(実施例6)
実施例1において、以下のようにして潤滑剤塗布ブレードの表面コートを行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。
潤滑剤塗布ブレードの自由長を標準品よりも0.8mm長くしたものを準備し、
図5に示した例と同様に、潤滑剤塗布ブレード先端からエッジ部を含む両面3mmの範囲かつ長手方向全幅に対して、PTFEコートをスプレー塗布方式にて形成した(藤倉コンポジット社にて実施)。コート膜の厚みは1.0μmであった。
このように加工した潤滑剤塗布ブレードを元の感光体ユニットに戻し、潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅を別途測定したところ260μmであった。また、コート後の摩擦係数は0.49であった。
【0084】
(実施例7)
実施例1において、以下のようにして潤滑剤塗布ブレードの表面コートを行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。
潤滑剤塗布ブレードの自由長を標準品よりも0.8mm長くしたものを準備し、
図5に示した例と同様に、塗布ブレード先端からエッジ部を含む両面3mmの範囲かつ長手方向全幅に対してシリコーン樹脂コートをディッピング塗布方式にて形成した(藤倉コンポジット社にて実施)。コート膜の厚みは0.5μmであった。
このように加工した潤滑剤塗布ブレードを元の感光体ユニットに戻し、潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅を別途測定したところ243μmであった。また、コート後の摩擦係数は0.55であった。
【0085】
(実施例8)
実施例1において、潤滑剤塗布装置に使用する潤滑剤として、主成分としてステアリン酸亜鉛の代わりにラウリン酸亜鉛を80%含有し、他の成分は同じである潤滑剤を使用した以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0086】
(実施例9)
実施例1において、潤滑剤塗布装置に使用する潤滑剤として、主成分としてステアリン酸亜鉛の代わりにパラフィンワックスを80%含有し、他の成分は同じである潤滑剤を使用した以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0087】
(比較例1)
実施例1において、潤滑剤塗布ブレードとして標準品をそのまま用い、かつコートを行わなかった以外は、実施例1と同様に評価を行った。このときの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅は32μmであった。
【0088】
(比較例2)
実施例1において、潤滑剤塗布ブレードとして標準品を用いて表面コートを行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。このときの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅は30μmであった。
【0089】
(比較例3)
実施例1において、潤滑剤塗布ブレードの自由長を標準品よりも0.8mm長くし、かつコートを行わなかったものを用いた以外は、実施例1と同様に評価を行った。このときの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅は298μmであった。
【0090】
(比較例4)
実施例1において、潤滑剤塗布ブレードの自由長を標準品よりも1.4mm長くしたものを用いて表面コートを行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。このときの潤滑剤塗布ブレードと感光体の接触幅は480μmであった。
【0091】
実施例1~9、比較例1~4の結果をまとめて表1に示す。
【0092】
【符号の説明】
【0093】
2 潤滑剤塗布手段
8 感光体ドラム
31 潤滑剤
30 潤滑剤供給部材
32 潤滑剤保持部材
33 押圧力付与機構
34 潤滑剤塗布ブレード
35 ブレード支持体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【文献】特開2011-191732号公報
【文献】特開2013-148692号公報
【文献】特開2009-300750号公報
【文献】特開2007-140391号公報