(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】凝固・線溶系関連因子の測定方法及び測定試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240918BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G01N33/53 L
G01N33/531 B
(21)【出願番号】P 2020125014
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019151232
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】明庭 昇平
(72)【発明者】
【氏名】河合 信之
(72)【発明者】
【氏名】大竹 則久
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/146119(WO,A1)
【文献】特開平07-020128(JP,A)
【文献】国際公開第2004/046723(WO,A1)
【文献】Yu Xiong et al.,Changes of plasma and placental tissue factor pathway inhibitor-2 in women with preeclampsia and normal pregnancy,Thrombosis Research,2010年,Vol.125,e317-e322
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の凝固・線溶系関連因子と、凝固・線溶系関連因子を特異的に認識する抗体とを反応させることにより測定する方法において、凝固・線溶系関連因子と当該抗体とが反応する際に、キレート作用を有する物質を共存させ
、
凝固・線溶系関連因子が組織因子経路インヒビター2(TFPI2)であり、
キレート作用を有する物質が、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)又は1,2-ビス(O-アミノフェノキシド)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(BAPTA)であり、
当該抗体は、標識としてアルカリホスファターゼに結合されて用いるものである、
ことを特徴とする、
TFPI2の測定方法。
【請求項2】
凝固・線溶系関連因子を特異的に認識する抗体及びキレート作用を有する物質を含有
し、
凝固・線溶系関連因子が組織因子経路インヒビター2(TFPI2)であり、
当該抗体はアルカリホスファターゼに結合されており、
キレート作用を有する物質が、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)又は1,2-ビス(O-アミノフェノキシド)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(BAPTA)であり、
かつキレート作用を有する物質がEGTAの場合は、抗体に結合しているアルカリホスファターゼとEGTAとが直接接することのないよう分けて保存されている、
ことを特徴とする、試料中の
TFPI2の測定に使用するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の凝固系関連因子及び/又は線溶系関連因子(以下、「凝固・線溶系関連因子」という。)を測定する免疫学的測定方法において、キレート作用を有する物質を共存させることにより、測定値の乖離を抑制することができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免疫学的測定法は、臨床検査薬として広く医療現場で使用されているが、感染症マーカーや腫瘍マーカー等による診断において、カットオフ値を基準にして判断する場合は、測定値が乖離を示すことは医療現場において致命的な問題である。
【0003】
凝固系関連因子とは出血を止めるために生体が血液を凝固させる反応に関与する一連の分子であり、最終的に血栓を形成するフィブリンの他、様々なタンパク質やタンパク質分解酵素、カルシウムイオン等が含まれる。線溶系関連因子とは固まった血栓を溶かして分解する反応に関与する一連の分子であり、分解産物であるD-dimerの他、フィブリン分解酵素および分解酵素の活性化因子、阻害因子等が含まれる。
【0004】
凝固・線溶系関連因子の1つである組織因子経路インヒビター2(以下「TFPI2」という。)は、胎盤タンパク質5(Placental Protein 5;PP5)と同一のタンパク質であり、3つのクニッツ型プロテアーゼインヒビタードメインを含む胎盤由来セリンプロテアーゼインヒビターである。TFPI2は卵巣明細胞癌細胞株から特異的に産生されること、卵巣癌患者組織における遺伝子発現が明細胞癌患者のみで特異的に向上することが明らかとなっており(特許文献1)、血中TFPI2は健常人及び子宮内膜症例と比較して明細胞癌で有意に向上し、CA125陰性明細胞癌例も高頻度で検出できることが見出されている(特許文献2、非特許文献1)。また、TFPI2の測定を行うことにより、卵巣明細胞癌を検出する方法(特許文献3、非特許文献2)も開示されている。
【0005】
しかしながら、TFPI2は血液凝固・線溶系への関与が示唆されており(非特許文献3)、プラスミンやトロンビンとの相互作用も報告されている(非特許文献4、5)。そのため、それらが原因と推察される、採血管の種類や採血後から遠心分離までの放置時間の違いによって生じる血清中TFPI2の測定値乖離が問題となっていた。
【0006】
先に述べたように臨床検査の分野において、検体採取から測定に至るまで様々な条件の違いがあっても、測定値が乖離しないことが種々の試薬で求められている。これまでに血清と血漿の測定値乖離を抑制するため、反応時に血漿成分を添加する方法は報告されている(特許文献4)。しかしながら、血清を得る際の放置時間の差による測定値の乖離は知られていたものの、それを抑制する方法は見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5224309号公報
【文献】特許第6074676号公報
【文献】国際公開第2016/084912号パンフレット
【文献】特開2010-54516号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】J. Proteome Res., 2013, 12 (10), pp 4340-4350
【文献】PloS one 11.10 (2016): e0165609.
【文献】SEMINARS IN THROMBOSIS AND HEMOSTASIS(2007) 33.7:653-659
【文献】J.Biol.Chem.(2005),280:27832-27838.
【文献】Placenta(1981),2:205-210.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、凝固・線溶系関連因子を免疫学的に測定する際に、種々の条件で得られた検体であっても、効果的に測定値の乖離を抑制することができる測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、乖離要因として、TFPI2と相互作用する因子による抗原抗体反応の阻害が推察された。測定値の乖離は、高速凝固採血管を用いた場合や放置時間の長い検体で大きくなることから、凝固反応が進むほどTFPI2と当該因子が相互作用し、測定値に乖離をもたらすと考えられた。TFPI2と因子との相互作用にはカルシウムイオンが必要であり、鋭意検討の結果、キレート剤の共存によりTFPI2と因子との相互作用が解離し、測定値の乖離を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)試料中の凝固・線溶系関連因子と、凝固・線溶系関連因子を特異的に認識する抗体とを反応させることにより測定する方法において、凝固・線溶系関連因子と当該抗体とが反応する際に、キレート作用を有する物質を共存させることを特徴とする、凝固・線溶系関連因子の測定方法。
(2)上述の(1)に記載の方法において、凝固・線溶系関連因子が組織因子経路インヒビター2(TFPI2)である方法。
(3)上述の(1)又は(2)に記載の方法において、キレート作用を有する物質が、キレート剤又はカゼインである方法。
(4)上述の(3)に記載の方法において、キレート剤がカルシウムイオンに対する選択性が高いキレート剤である方法。
(5)上述の(4)に記載の方法において、カルシウムイオンに対する選択性が高いキレート剤がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)又は1,2-ビス(O-アミノフェノキシド)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(BAPTA)である方法。
(6)凝固・線溶系関連因子を特異的に認識する抗体及びキレート作用を有する物質を含有することを特徴とする、試料中の凝固・線溶系関連因子の測定に使用するための試薬。以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、試料とは特に限定されるものではないが、例えば血液、血漿、血清などの血液又は血液成分があげられる。特に血清作製の際に凝固させるための放置時間が異なって得られた血清があげられる。
【0013】
凝固・線溶系関連因子とは、例えばTFPI2、フィブリン、トロンボプラスチン、トロンビン、プラスミン等があげられ、中でもTFPI2が好ましい。
【0014】
本発明で使用される抗体は、凝固・線溶系関連因子を特異的に認識する抗体であれば特に限定されるものではなく、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体又は抗血清でもよい。抗体を産生するための動物種は特に限定されるものではなく、例えばウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、マウス又はラット等由来の抗体が使用できる。抗体の形態は完全抗体や、それを酵素処理や化学処理により切断したF(ab’)2やFab’等のような抗体断片であってもよい。
【0015】
本発明において、試料中の凝固・線溶系関連因子と、それを特異的に認識する抗体とを反応させる方法は特に限定されるものではなく、免疫反応を利用した種々の方法を行うことができる。例えば、サンドイッチ法、競合法、凝集反応免疫測定法などがあげられる。
【0016】
その際、抗体を固相担体に結合させて用いることができる。固相担体としては、微粒子、ビーズ、マイクロプレート、マイクロタイターウェル、マイクロチューブ、ストリップ、メンブレン、ゲルなどがあげられる。ビーズの粒子径は100から5,000μmが好ましく、さらには500から2,000μmが好ましい。微粒子の粒子径は0.1から100μmが好ましく、さらには1から10μmが好ましい。
【0017】
固相担体の材質は、例えばアガロース、ニトロセルロース、デキストランなどの生体由来高分子あるいは天然物由来高分子、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリアクリルアミドなどのアクリル樹脂、テフロン(登録商標)、ポリアセタールなどの合成高分子等の有機物があげられ、またガラス、シリカゲル、アルミナ、セラミック、カーボン、硫酸マグネシウムなどの無機質材料もあげられる。固相担体であるビーズや微粒子は磁性体を含むものであってもよい。
【0018】
本発明において抗体は、固相に直接結合していてもよく、二次抗体を介して固相に抗体が結合していてもよく、アビジン-ビオチン結合を介して固相に抗体が結合していてもよい。また、固相に抗体が直接結合されていなくても、抗原抗体反応に続く反応工程で固相に結合するような測定法であってもよい。
【0019】
本発明において、抗体を標識に結合させて用いることができる。標識としては、例えば、125I、3Hなどの放射性物質、西洋わさびペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素、フルオレッセインなどの螢光物質、金コロイド、セレンコロイドなどの発光又は発色物質などがあげられる。本発明においては、酵素に抗体が直接結合されていなくても、抗原抗体反応に続く反応工程で酵素を結合するような測定法、例えば、ビオチニル化抗体を用いたサンドイッチ法による免疫反応工程の後に、アビジン-酵素複合体を反応させるような測定法であってもよい。
【0020】
本発明においてキレート作用を有する物質とは、特に限定されるものではないが、例えばキレート剤又はカゼインがあげられる。キレート剤としては特に限定されるものではないが、測定原理上、金属イオンが必要な測定系を用いる場合には、当該金属イオンに対する選択制の低いキレート剤が好ましい。例えば、測定系にアルカリホスファターゼを使用する場合は、例えばカルシウムイオンに選択性の高いキレート剤(以下、「カルシウムキレート剤」ともいう。)を用いることが好ましく、具体的にはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)又は1,2-ビス(O-アミノフェノキシド)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(BAPTA)等があげられる。より好ましくはEGTA又はBAPTAである。これらキレート剤は、市販されており、単独又は複数組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明に用いられるキレート作用を有する物質の量は、使用する物質の種類によって異なるが、例えばカルシウムキレート剤では、免疫反応液中に好ましくは1~50mM、さらに好ましくは10~20mMである。
【0022】
キレート作用を有する物質の共存させ方にも特に限定はなく、凝固・線溶系関連因子と抗体とが反応する際に共存すればよく、例えばキレート作用を有する物質と凝固・線溶系因子と抗体とを同時に接触させてもよい。又はあらかじめキレート作用を有する物質を凝固・線溶系因子と接触させ、その後に抗体を反応させてもよい。さらにはキレート作用を有する物質をあらかじめ抗体と接触させ、その後に凝固・線溶系因子を反応させてもよい。なお、抗体に結合している標識物質等が、キレート作用を有する物質により悪影響を受けやすい場合は、保存時にはキレート作用を有する物質と標識物質等が直接接触することのないように分けて保存する等の手段をとることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、キレート剤を共存させるという簡便な操作で、免疫学的測定で生じる測定値の乖離を抑制することが可能となる。本発明に用いられる乖離抑制剤は一般に市販で入手可能であり、またよく知られている材料であり、単独又は組み合わせて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例3で得られた放置時間と測定値比との関係を示す図である。
【
図2】実施例4で得られた、標準採血管検体のTFPI2測定値と高速凝固採血管検体のTFPI2測定値との相関を示す図である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例により限定されるものではない。
【0026】
免疫測定装置としてAIA-2000全自動エンザイムイムノアッセイ装置(東ソー(株)製)と免疫測定用試薬として当該装置用免疫反応試薬を用い、1ステップあるいは2ステップサンドイッチ法により各測定を行った。なお、各免疫反応試薬は後述のように調製した。
【0027】
(実施例1)種々の添加剤比較
特許文献3の方法に従い、DNA免疫法により得られたTFPI2抗体を用いて、以下の実施例を行った。まず、抗TFPI2抗体(TF11-03)を固定化したフェライト含有エチレン酢酸ビニルコポリマービーズおよびアルカリ性フォスファターゼ標識された抗TFPI2抗体(TF01-04)を含む溶液(以下、「反応液」という。)を反応カップに分注して凍結乾燥し、標準試薬(ref)を作製した。
【0028】
測定は最初に反応カップに試験試料(血清)と標準試薬(凍結乾燥物)の溶解液とを同時に添加し、37℃にて攪拌しながら10分間反応させた。その後、未反応の試験試料及び標識抗体をB/F分離により除去し、4-メチルウンベリフェリルりん酸塩を含む基質溶液を添加した。生成した免疫反応複合体(固相抗体-TFPI2-標識抗体)中のアルカリ性フォスファターゼによって生成される4メチルウンベリフェロンの生成速度(nM/秒)を蛍光強度を測定することによって求めた。この生成速度はアルカリ性フォスファターゼ量に比例し、蛍光の強度によって試験試料中のTFPI2抗原の濃度を知ることができる。
【0029】
試験試料は、採血した全血5例をそれぞれ採血管(VP-P070K30、テルモ社製。採血後、遠心分離するまでの推奨放置時間1.0時間以上)に入れ、放置時間を0.5時間又は1.0時間とし、その後に遠心分離して得られた血清検体5例(S01~S05)を用いた。
【0030】
また第1の検討として、血清検体5例(S01~S05)を対象に、標準試薬による測定において、血漿成分(ヘパリンナトリウム又はEDTA)を各血清検体に添加した場合としなかった場合において、放置時間の違いによるTFPI2測定値の乖離度を比較した。結果を表1に示す。
【0031】
第2の検討として、以下のように行った。即ち、上述の標準試薬と同様にして、但し、標準試薬作成の際に上述の反応液に表1に記載の物質を添加して凍結乾燥して試薬Aから試薬Lを作製した。なお試薬Lは、カゼイン含有物(CaseiNSBlock、シグマ・アルドリッチ・ジャパン製)を添加した。それを用いて、血清検体5例(S01~S05)を対象に、放置時間の違いによるTFPI2測定値の乖離抑制効果を検証した。結果を表1に示す。
【0032】
表1からわかるように、標準試薬において5例の測定値比(0.5h/1.0h)の平均は162.6%であったのに対し、検体にEDTAを添加した場合で測定値比は117.4%、試薬K、Lにおいては135.4%、134.5%と乖離が抑えられていた。その他の物質を添加した場合については、測定値比が146.6~168.9%であり、同一検体に由来する試料であっても、放置した時間の違いによって測定値に乖離が見られ、添加による効果はさほど認められなかった。
【0033】
【0034】
この結果から、免疫反応時にカルシウムイオンにキレート作用のある物質(カゼイン等)を共存させることで、放置時間の異なる血清検体の測定値乖離を抑制可能であることが明らかとなった。
【0035】
(実施例2)キレート剤比較
実施例1と同様にして、標準試薬およびEDTAを反応液に添加した試薬Mを作製した。また、EDTAを含まない反応液で一度凍結させ、その上からEDTAを添加した酵素標識抗体を含まない反応液を添加して凍結乾燥させた試薬N(2段分注)を作製した。さらに、EDTAを添加するが酵素標識抗体を含まない反応液を凍結乾燥させ、酵素標識抗体はB/F分離後に添加する形とした試薬O(2ステップ)を作製した。実施例1と同じ試料S01~S05を用いて、各試薬でTFPI2を測定し、乖離抑制効果を検証した。
【0036】
表2は、上記検討結果である。表2に示すように、標準試薬において5例の測定値比(0.5h/1.0h)の平均は165.2%であったのに対し、試薬Mでは検出不可となったが、試薬Nでは134.8%、試薬Oでは123.8%と乖離が抑えられていた。ただし、EDTAのキレート作用により、いずれも標識酵素の活性が著しく低下しており、試薬としての精度や再現性については課題の残る結果となった。
【0037】
【0038】
上記の課題解決のため、カルシウムイオン選択性の高いキレート剤とされているEGTAおよびBAPTAを用いて、実施例2と同様にして、表3に示す試薬P~Vを作製し、キレート剤の分注方法と濃度について検証した。
【0039】
表3に示すように、EGTAはEDTAと同様に反応液に添加した場合(試薬P)には標識酵素の活性を著しく低下させ、測定不可となった。2段分注試薬Q,Rであれば標識酵素の活性を損なうことなく測定が可能であり、測定値比(0.5h/1.0h)も10mM添加時で99.8%、50mM添加時で103.6%と、良好な乖離抑制効果を示した。
【0040】
一方で、BAPTAは反応液に添加した場合(試薬S,T)でも標識酵素の活性は損なわれず、測定値比(0.5h/1.0h)は1mM添加時で117.7%、10mM添加時で99.9%。となった。2段分注した場合(試薬U,V)においても同様の結果を示し、1mM添加時で130.5%、10mM添加時で101.3%となった。
【0041】
【0042】
この結果から、反応時にキレート剤を添加することで放置時間の異なる血清検体の測定値乖離を抑制可能であることが確認され、測定原理上、金属イオンを必要とする測定系を用いる場合には、当該金属イオンに反応性の低いキレート剤、例えばカルシウムイオン選択性の高いキレート剤を使用することが望ましいことが確認された。また、キレート剤の濃度としては1mMでも効果が見られるものの、10mM以上の添加が望ましいことが確認された。
【0043】
(実施例3)放置時間比較
放置時間による測定値乖離の影響をより詳細に検証した。即ち、採血した全血4例をそれぞれ採血管(VP-AS109K50、テルモ社製。採血後、遠心分離するまでの推奨放置時間0.5時間以上)に入れ、放置時間を5分、0.5時間、1時間、2時間とし、その後に遠心分離して得られた血清検体4例(S06~S09)を用意した。それらを標準試薬と実施例2にて乖離抑制効果が確認され精度高く測定可能だった試薬Qとを用いて、TFPI2を測定し、その測定値を比較した。採血管の推奨放置時間である0.5時間放置して得られた血清試料のTFPI2測定値を100%とした場合の、各試料血清のTFPI2測定値の比を算出した。結果を表4および
図1に示す。
【0044】
図1に示すように、標準試薬で測定した場合は放置時間が長くなるにつれ測定値比が低下し、即ち各放置時間におけるS06~S09の平均を示すAverageをつないだ線に傾きが見られ、放置時間5分と2時間では30%近い測定値の乖離があった。一方、試薬Qで測定した場合は放置時間に関わらず測定値比が96.4~103.4%に収束しており、即ちAverageをつないだ線がより平らであり、良好な乖離抑制効果が確認された。
【0045】
【0046】
(実施例4)採血管比較
採血管の種類による測定値乖離の影響を検証した。即ち、採血した卵巣腫瘍患者の全血53例(OC-S001~S053)をそれぞれ標準採血管(VP-AS109K50、テルモ社製。採血後、遠心分離するまでの推奨放置時間0.5時間以上)および高速凝固採血管(SMD750SQ3、積水メディカル社製。採血後、遠心分離するまでの推奨放置時間5分以上)に入れ、標準採血管では0.5~1時間、高速凝固採血管では15~30分の放置時間とし、その後に遠心分離して得られた血清検体106例(標準採血管検体53例、高速凝固採血管検体53例)を用意した。それらを実施例3と同様に標準試薬と試薬Qを用いてTFPI2を測定し、その測定値を比較した。測定結果の詳細を表5に、標準採血管検体のTFPI2測定値(横軸)と高速凝固採血管検体のTFPI2測定値(縦軸)の相関を
図2に示す。
【0047】
表5に示すように、いずれの試薬においても2種類の採血管間で高い相関性(相関係数>0.98)が認められたが、標準採血管検体と比較して高速凝固採血管検体でTFPI2測定値が低下傾向にあった。(a)標準試薬では、標準採血管検体のTFPI2測定値に対する高速凝固採血管検体のTFPI2測定値が中央値で10.3%の低下率(測定値比89.7%)となり、凝固反応の進行度が原因と推察される測定値の乖離が生じる結果となった。一方、(b)試薬Qの場合は、中央値で5.4%の低下率(測定値比94.6%)に止まり、測定値乖離を抑制する効果が確認された。
図2の結果からも、標準試薬と比較して試薬Qの方が高速凝固採血管検体における測定値低下を抑える、即ち相関曲線の傾きが1に近い(標準試薬:0.876、試薬Q:0.922)結果となり、卵巣腫瘍患者の臨床検体においても試薬Qへの組成変更によって採血管の違いによるTFPI2測定値への影響を低減させる効果が確認された。
【0048】