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特許7556262表面処理赤外線吸収微粒子およびその製造方法、赤外線吸収微粒子分散液、並びに赤外線吸収微粒子分散体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】表面処理赤外線吸収微粒子およびその製造方法、赤外線吸収微粒子分散液、並びに赤外線吸収微粒子分散体
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/06 20060101AFI20240918BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240918BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C09C3/06
C09K3/00 105
C01G41/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020177937
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2022069021
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/055570(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093524(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D17/00
C09K3/00
C01G41/00
C09C3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線吸収微粒子と、その表面を被覆するように形成される金属酸化物の水和物を含む被覆膜とを備え、
燃焼‐赤外線吸収法で測定したときの炭素濃度が5.0質量%以下であり、
前記金属酸化物の水和物に由来する水の含有量が1.0質量%以上8.0質量%以下である、
表面処理赤外線吸収微粒子。
【請求項2】
前記金属酸化物が、Al、Zr、Ti、Si、Znから選択される1種類以上の金属元素を含む、請求項1に記載の表面処理赤外線吸収微粒子。
【請求項3】
前記赤外線吸収微粒子が、一般式WyOz(ただし、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、および、一般式MxWyOz(ただし、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子の少なくとも1つである、
請求項1又は請求項2に記載の表面処理赤外線吸収微粒子。
【請求項4】
前記被覆膜は、前記金属酸化物の水和物を構成する金属元素を、前記赤外線吸収微粒子100質量部に対して10質量部以上500質量部以下、含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の表面処理赤外線吸収微粒子。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の表面処理赤外線吸収微粒子と液体媒質とを含む、赤外線吸収微粒子分散液。
【請求項6】
前記液体媒質が、有機溶剤、油脂、液状可塑剤、硬化により高分子化される化合物および水の少なくとも1つである、請求項に記載の赤外線吸収微粒子分散液。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の表面処理赤外線吸収微粒子が固体状樹脂中に分散して構成される、赤外線吸収微粒子分散体。
【請求項8】
前記固体状樹脂が、フッ素樹脂、PET樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂およびポリイミド樹脂の少なくとも1つである、請求項に記載の赤外線吸収微粒子分散体。
【請求項9】
赤外線吸収微粒子と水とを混合して被覆膜形成用分散液を得る工程と、
前記被覆膜形成用分散液に金属キレート化合物を含む表面処理剤を添加する工程と、
前記表面処理剤が添加された前記被覆膜形成用分散液に加熱処理を行う工程と、を有し、
前記赤外線吸収微粒子の表面に、前記金属キレート化合物に由来する金属酸化物の水和物を含む被覆膜が形成され、燃焼‐赤外線吸収法で測定したときの炭素濃度が5.0質量%以下であり、前記金属酸化物の水和物に由来する水の含有量が1.0質量%以上8.0質量%以下である表面処理赤外線吸収微粒子を得る、
表面処理赤外線吸収微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記加熱処理を温度40℃以上80℃以下で4時間以上行う、
請求項に記載の表面処理赤外線吸収微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記表面処理剤を添加する工程では、前記金属酸化物を構成する金属元素の含有量が前記赤外線吸収微粒子100質量部に対して10質量部以上500質量部以下となるように、前記表面処理剤を添加する、
請求項9又は10に記載の表面処理赤外線吸収微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理赤外線吸収微粒子およびその製造方法、赤外線吸収微粒子分散液、並びに赤外線吸収微粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線吸収体の需要が急増しており、赤外線吸収体に関する特許が多く提案されている。これらの提案を機能的観点から俯瞰すると、例えば、各種建築物や車両の窓材等の分野において、可視光線を十分に取り入れながらも近赤外領域の光(赤外線)を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的としたものがある。
【0003】
本発明者等は、このような赤外線吸収体として、赤外線吸収微粒子が媒質中に分散してなる赤外線吸収微粒子分散体を特許文献1に開示している。具体的には、赤外線吸収微粒子として、一般式WyOz(ただし、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物の微粒子、または/および、一般式MxWyOz(ただし、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子であって、粒子直径が1nm以上800nm以下のものを含む赤外線吸収微粒子分散体を開示している。
【0004】
特許文献1の赤外線吸収微粒子では、水分との接触により表面が分解し、赤外線の透過率が経時的に上昇してしまい、赤外線吸収微粒子が本来有する赤外線吸収特性を維持できないことがある。
【0005】
そこで、本発明者等は特許文献2において、赤外線吸収微粒子の耐水性を向上すべく、赤外線吸収微粒子の表面を、4官能性シラン化合物もしくはその部分加水分解生成物、または/および、有機金属化合物で被覆する技術を開示している。
【0006】
また、赤外線吸収体は屋外で使用されることから、赤外線吸収微粒子には、耐水性とともに、湿熱雰囲気での長期暴露耐性(耐湿熱性)に優れていることが要求される。耐湿熱性とは、赤外線吸収体が湿熱雰囲気で長期間にわたって暴露されたときでも、暴露前後での赤外線透過率の変化量が少なく、赤外線吸収特性を高く維持できることを示す。
【0007】
この点、本発明者等は、特許文献3において、特許文献2の赤外線吸収微粒子について耐湿熱性を向上させる技術を開示している。具体的には、赤外線吸収微粒子の表面を、金属キレート化合物や金属環状オリゴマー化合物の加水分解生成物もしくはその重合物、で被覆する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2005/37932号
【文献】国際公開第2010/55570号
【文献】国際公開第2019/093524号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、赤外線吸収微粒子には、より高い耐湿熱性が要求されており、さらなる改善が求められている。具体的には、赤外線吸収微粒子分散体を湿熱雰囲気に暴露させたときに、より長期間にわたって赤外線吸収特性を高く維持できることが求められている。
【0010】
本発明は、赤外線吸収微粒子において優れた赤外線吸収特性を維持しつつ、耐湿熱性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
赤外線吸収微粒子と、その表面を被覆するように形成される金属酸化物の水和物を含む被覆膜とを備え、
燃焼‐赤外線吸収法で測定したときの炭素濃度が5.0質量%以下である、
表面処理赤外線吸収微粒子である。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記金属酸化物が、Al、Zr、Ti、Si、Znから選択される1種類以上の金属元素を含む。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記赤外線吸収微粒子が、一般式WyOz(ただし、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、および、一般式MxWyOz(ただし、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子の少なくとも1つである。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1から第3の態様のいずれか1つの表面処理赤外線吸収微粒子と液体媒質とを含む、赤外線吸収微粒子分散液である。
【0015】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記液体媒質が、有機溶剤、油脂、液状可塑剤、硬化により高分子化される化合物および水の少なくとも1つである。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1から第3の態様のいずれか1つの表面処理赤外線吸収微粒子が固体状樹脂中に分散して構成される、赤外線吸収微粒子分散体である。
【0017】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、前記固体状樹脂が、フッ素樹脂、PET樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂およびポリイミド樹脂の少なくとも1つである。
【0018】
本発明の第8の態様は、
赤外線吸収微粒子と水とを混合して被覆膜形成用分散液を得る工程と、
前記被膜形成用分散液に金属キレート化合物を含む表面処理剤を添加する工程と、
前記表面処理剤が添加された前記被覆膜形成用分散液に加熱処理を行う工程と、を有し、
前記赤外線吸収微粒子の表面に、前記金属キレート化合物に由来する金属酸化物の水和物を含む被覆膜が形成される表面処理赤外線吸収微粒子を得る、
表面処理赤外線吸収微粒子の製造方法である。
【0019】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記加熱処理を温度40℃以上80℃以下で4時間以上行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、赤外線吸収微粒子において優れた赤外線吸収特性を維持しつつ、耐湿熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物における結晶構造の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<本発明者等の知見>
本発明者等は、上述の課題を解決するために、赤外線吸収微粒子の表面を被覆する被覆膜について検討を行い、被覆膜を形成する化合物として、金属キレート化合物に着目した。金属キレート化合物は、加水分解により、加水分解生成物もしくはその重合物を生成し、赤外線吸収微粒子の表面に付着することで、被覆膜を形成する。
【0023】
被覆膜を形成する化合物としては、金属キレート化合物以外に、例えば金属環状オリゴマー化合物がある。しかし、金属環状オリゴマー化合物は、キシレンやトルエンなどの低極性溶媒に溶解させる必要があるため、高極性溶媒である水を添加して加水分解させるときに、低極性溶剤の存在により加水分解反応を十分に進められないことがある。そのため、金属環状オリゴマー化合物に由来する炭素成分などが被覆膜中に残存するおそれがある。これに対して、金属キレート化合物は、金属環状オリゴマー化合物のように低極性溶媒を使用する必要がなく、水の添加により加水分解反応を進めやすいので、金属環状オリゴマー化合物と比較して炭素成分の残存を抑制することができる。そのため、金属キレート化合物によれば、金属環状オリゴマー化合物と比較して、被覆膜と赤外線吸収微粒子との親和性をより高く、また被覆膜を赤外線吸収微粒子の表面により均一に設けることができるので、より強固な被覆膜を形成することができる。この結果、金属キレート化合物によれば、より高い耐湿熱性を得ることができる。
【0024】
ただし、金属キレート化合物から形成される被覆膜では、湿熱雰囲気に長期間にわたって暴露させたときに、赤外線の透過率が経時的に上昇してしまい、所望の赤外線吸収特性を長期間にわたって維持できないことが確認された。特に、赤外線の中でも、波長800nm~1000nmの透過率が大きく上昇することが確認された。つまり、金属キレート化合物から形成される被覆膜では、耐湿熱性において改善の余地があることが確認された。
【0025】
本発明者等の検討によると、金属キレート化合物から形成される被覆膜には、加水分解生成物やその重合物に由来する炭素成分が残存しており、これらの濃度が高くなるほど、耐湿熱性が低くなる傾向にあることが見出された。このメカニズムは定かではないが、炭素成分が被覆膜の緻密もしくは高密度な形成を妨げ、その結果として耐湿熱性を低下させるものと推測される。
【0026】
このことから、被覆膜における炭素成分を低減する方法について検討を行った。そして、加水分解生成物やその重合物から形成される被覆膜を形成した後、この被覆膜に対して加熱処理を施す方法に着目した。
【0027】
加熱処理によれば、被覆膜に含まれる加水分解生成物や重合物をさらに加水分解させて、金属酸化物の水和物にすることができ、被覆膜を、金属酸化物の水和物を含むように構成することができる。つまり、被覆膜において、加水分解生成物や重合物の含有量を減らし、それに由来する炭素成分を少なくすることができる。そして、さらなる検討の結果、被覆膜を、炭素成分が所定濃度となるように構成することにより、表面処理赤外線吸収微粒子が本来有する赤外線吸収特性を維持しながらも、耐湿熱性を向上できることを見出した。
【0028】
本発明は、上述した知見に基づいてなされたものである。
【0029】
<一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0030】
<1>表面処理赤外線吸収微粒子
本実施形態の表面処理赤外線吸収微粒子は、赤外線吸収微粒子と、被覆膜と、を備えて構成される。
【0031】
<1-1>赤外線吸収微粒子
赤外線吸収微粒子は、自由電子を含有する各種材料を含み、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺の電磁波に反射吸収応答を示す(赤外線吸収特性を有する)粒子である。赤外線吸収微粒子は、例えば光の波長より小さな粒子径を有することで、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱を低減することができ、可視光領域について特に高い透明性を得ることができる。なお、ここでいう「透明性」とは、「可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高い」ことを示す。
【0032】
赤外線吸収微粒子としては、公知の微粒子を用いることができるが、透明性を確保しながらも、高い赤外線吸収特性を得る観点からは、タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子の少なくとも1つを用いることが好ましい。これらの赤外線吸収微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。以下、各微粒子について説明する。
【0033】
(タングステン酸化物微粒子)
タングステン酸化物微粒子は、酸素欠損をもつWOで構成され、一般式WyOz(ただし、Wはタングステン、Oは酸素)で表記されるタングステン酸化物の微粒子である。
【0034】
一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物において、タングステンと酸素との組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、赤外線吸収微粒子をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999であることが好ましい。z/yの値が2.2以上であれば、タングステン酸化物中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することができるとともに、材料としての化学的安定性を得ることができるので有効な赤外線吸収微粒子となる。一方、z/yの値が2.999以下であれば、必要とされる量の自由電子が生成され効率よい赤外線吸収微粒子となる。
【0035】
(複合タングステン酸化物微粒子)
複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン酸化物(WO)中に、自由電子を生成する陽性元素(以下、M元素ともいう)を添加して構成され、一般式MxWyOz(ただし、Mは陽性元素、Wはタングステン、Oは酸素)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子である。複合タングステン酸化物微粒子は、酸素量の制御と元素Mの添加により赤外線吸収特性を示し、特に1000nm付近で強い吸収特性を示す。
【0036】
また、複合タングステン酸化物微粒子において、元素Mは、自由電子を生成できるものであれば特に限定されないが、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上であることが好ましい。
【0037】
また、MxWyOzにおける安定性の観点からは、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。さらに、赤外線吸収微粒子としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、元素Mは、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものであることがさらに好ましい。
【0038】
また、一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物において、元素M、タングステンおよび酸素の各組成範囲は特に限定されないが、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3の関係を満たすことが好ましい。
【0039】
上記組成について、まず、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。
x/yの値が0.001以上であれば、複合タングステン酸化物において十分な量の自由電子が生成され、目的とする赤外線吸収効果を得ることができる。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下であれば、複合タングステン酸化物微粒子中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0040】
次に、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。
z/yの値については、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述したWyOzで表記されるタングステン酸化物と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0や2.0≦z/y≦2.2においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給がある。このため、2.0≦z/y≦3.0が好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0041】
また、複合タングステン酸化物微粒子は、可視光領域での透過性と赤外線吸収特性を向上させる観点からは、六方晶の結晶構造を有することが好ましい。この点について図1を用いて説明する。図1は、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物における結晶構造の模式的な平面図である。
【0042】
図1において、符号11で示すWO単位にて形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、この空隙中に、符号12で示す元素Mが配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して、六方晶の結晶構造が構成される。可視光領域における光の透過を向上させ、赤外領域における光の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物微粒子中に、図1を用いて説明した単位構造が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物微粒子が結晶質であっても非晶質であっても構わない。
【0043】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域における光の透過が向上し、赤外領域における光の吸収が向上する。ここで一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成されやすい。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snを添加したとき六方晶が形成されやすい。これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に上述した元素Mが存在すれば良く、上述の元素に限定される訳ではない。
【0044】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、上述した元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0045】
なお、複合タングステン酸化物の結晶構造は、六方晶に限定されず、正方晶や立方晶でもよい。結晶構造によって、赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順である。従って、より可視光領域の光を透過し、より赤外線領域の光を吸収する用途には、六方晶の複合タングステン酸化物を用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0046】
なお、複合タングステン酸化物微粒子や上述のタングステン酸化物微粒子において、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、赤外線領域の吸収特性も良いので、赤外線吸収微粒子として好ましい。
【0047】
(結晶子径)
赤外線吸収微粒子の結晶子径は、特に限定されないが、より高い赤外線吸収特性を得る観点からは、1nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは1nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上70nm以下である。ここで、結晶子径は、粉末X線回折法(θ―2θ法)によるX線回折パターンの測定と、リートベルト法による解析を用いて測定されるものである。X線回折パターンの測定には、例えばスペクトリス株式会社PANalytical製の粉末X線回折装置「X’Pert-PRO/MPD」などを用いて行うことができる。
【0048】
<1-2>被覆膜
被覆膜は、赤外線吸収微粒子の表面を被覆するように形成され、赤外線吸収微粒子の耐湿熱性を向上させるものである。上述したように、被覆膜は、金属キレート化合物を加水分解して得られる加水分解生成物もしくはその重合物を加熱処理することで形成され、金属キレート化合物に由来する金属酸化物の水和物を含んで構成される。また、被覆膜には、金属酸化物の水和物以外に、水が脱離した金属酸化物が含まれることもある。なお、以下では、赤外線吸収微粒子の表面に形成される膜について、加熱処理前のものを付着膜、付着膜に加熱処理を施したものを被覆膜とよぶ。
【0049】
金属キレート化合物は、金属および加水分解構造を有する。金属キレート化合物は、加水分解反応により、加水分解構造の一部または全部がヒドロキシル基やカルボキシル基となった加水分解生成物、もしくは、加水分解反応を経て自己縮合した重合物となる。加水分解生成物や重合物が赤外線吸収微粒子の表面に付着することで、加水分解生成物や重合物を含む付着膜が形成される。本実施形態では、この付着膜で覆われた赤外線吸収微粒子に加熱処理を施す。加熱により、付着膜に含まれる加水分解生成物や重合物の加水分解反応を促進させて、金属キレート化合物に由来する金属酸化物の水和物を生成させる。これにより、金属酸化物の水和物を含む被覆膜を得ることができる。
【0050】
被覆膜に含まれる金属酸化物の水和物は、金属キレート化合物に由来する金属元素を含む。金属酸化物の水和物に含まれる金属元素は、特に限定されないが、耐湿熱性の観点からは、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、シリコン(Si)および亜鉛(Zn)のいずれか1つを含むことが好ましい。金属酸化物の水和物としては、具体的には、アルミナ水和物、ジルコニア水和物、チタニア水和物、シリカ水和物および酸化亜鉛水和物のうち1つ以上を含むものであることが好ましい。
【0051】
被覆膜には、金属酸化物の水和物だけでなく、加水分解生成物や重合物などが残存することがある。加水分解生成物や重合物には炭素成分が含まれるが、本実施形態では、加水分解生成物や重合物を少なくできるので、被覆膜における炭素濃度を小さくすることができる。具体的には、被覆膜における炭素濃度を5.0質量%以下とすることができる。好ましくは3.5質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下、更により好ましくは2.5質量%以下である。炭素濃度を上記範囲内とすることにより、被覆膜をより緻密に形成することができ、所望の耐湿熱性を得ることができる。なお、下限値は、特に限定されないが、0.01質量%である。また、被覆膜に含まれる炭素濃度は、燃焼-赤外線吸収法を原理とした炭素分析装置等を用いて測定される。例えば、LECO社製の炭素分析装置「CS-600」等を用いることができる。
【0052】
また、被覆膜は、主に金属酸化物の水和物を含むため、水和物に由来する水の含有量が好ましくは0.50質量%以上10質量%以下となることが好ましい。より好ましくは、1.0質量%以上8.0質量%以下である。
【0053】
ここで、水和物に由来する水の含有量について説明する。
被覆膜に含まれる水は、水和物だけでなく、加水分解しきれずに残存する加水分解生成物や重合物に由来する。加水分解生成物には例えばヒドロキシル基などが残存するため、熱分析装置による分析においてヒドロキシル基などは水として検出されることがある。そのため、水和物に由来する水の含有量hは、被覆膜に含まれる水の含有量から、ヒドロキシル基などを有する加水分解生成物に由来する水の含有量を差し引くことで算出される。
加水分解生成物に由来する水の含有量は、被覆膜に含まれる炭素濃度c[質量%]、加水分解生成物に含まれる炭素原子の数x、加水分解生成物を熱分析したときに生成する水分子の数yから、c/(x×12)×y×18と算出される。xやyは、使用する金属キレート化合物の種類に応じて、つまり、生成する加水分解生成物の種類に応じて適宜変更する。一方、被覆膜に含まれる水の含有量は、表面赤外線吸収微粒子を熱分析することにより測定される。そして、被覆膜に含まれる水の含有量から、加水分解生成物に由来する水の含有量を差し引くことにより、水和物に由来する水の含有量hを算出することができる。具体的な算出は、後述の実施例にて詳述する。
【0054】
被覆膜の厚さは、特に限定されないが、0.5nm以上100nm以下であることが好ましく、0.5nm以上20nm以下であることがより好ましく、1nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。0.5nm以上とすることにより、表面処理赤外線吸収微粒子において所望の耐湿熱性を得ることができる。一方、100nm以下とすることにより、表面処理赤外線吸収微粒子において透明性や赤外線吸収特性などの光学的特性を担保することができる。
【0055】
なお、被覆膜の厚さは、金属キレート化合物の添加量から見積もられた被覆膜の含有量、被覆膜の比重、そして赤外線吸収微粒子のBET比表面積から算出することができる。例えば、金属キレート化合物の添加量から算出される赤外線吸収微粒子100質量部当たりの被覆膜の含有量をx質量部、被覆膜の比重をd[g/cm]、赤外線吸収微粒子のBET比表面積をS[m/g]としたとき、被覆膜の厚さt[nm]は、t=(x×10)/(S×d)で算出される。ここで、被覆膜の比重dは、金属キレート化合物のみを水に添加し、後述する表面処理および加熱処理と同様の操作を行い、金属酸化物の水和物からなる水和物粉末を得て、その粉末を用いて測定されるものである。金属酸化物の水和物の比重として、例えば、アルミナ水和物は2.5g/cm、ジルコニア水和物は3.5g/cm、チタニア水和物は2.6g/cm、シリカ水和物は2.0g/cm、酸化亜鉛水和物は3.5g/cmである。
【0056】
被覆膜を形成するための金属キレート化合物は、金属および加水分解構造を有しており、加水分解により赤外線吸収微粒子の表面に付着できるような加水分解生成物を形成する。金属キレート化合物に含まれる金属としては、表面処理赤外線吸収微粒子の耐湿熱性を向上させる観点からは、Al、Zr、Ti、SiおよびZnのいずれかを含むことが好ましい。また、加水分解構造としては、エーテル結合、エステル結合、アルコキシ基、アセチル基から選択される1種以上を有することが好ましい。具体的には、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネートおよび金属カルボキシレートのいずれかであることが好ましい。
【0057】
金属キレート化合物としては、具体的には以下のものを用いることができる。
【0058】
アルミニウム系のキレート化合物としては、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムsec-ブチレート、モノ-sec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミニウムアルコレートまたはこれら重合物、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、オクチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロプレート、ステアリルアセトアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等、を例示することができる。
これらの化合物は、アルミニウムアルコレートを非プロトン性溶媒や、石油系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、アミド系溶剤等に溶解し、この溶液に、β-ジケトン、β-ケトエステル、一価または多価アルコール、脂肪酸等を加えて、加熱還流し、リガンドの置換反応により得られた、アルコキシ基含有のアルミニウムキレート化合物である。
【0059】
ジルコニア系のキレート化合物としては、ジルコニウムエチレート、ジルコニウムブチレートなどのジルコニウムアルコレートまたはこれら重合物、ジルコニウムトリブトキシステアレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等、を例示することができる。
【0060】
チタン系のキレート化合物としては、メチルチタネート、エチルチタネート、イソプロピルチタネート、ブチルチタネート、2-エチルヘキシルチタネートなどのチタンアルコレートやこれら重合物、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等、を例示することができる。
【0061】
シリコン系のキレート化合物としては、一般式:Si(OR)(ただし、Rは同一または異種の炭素原子数1~6の一価炭化水素基)で示される4官能性シラン化合物またはその加水分解生成物を用いることができる。4官能性シラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。さらに、これらアルコキシシランモノマーのアルコキシ基の一部あるいは全量が加水分解し、シラノール(Si-OH)基となったシランモノマー、および、加水分解反応を経て自己縮合した重合体の適用も可能である。
また、4官能性シラン化合物の加水分解生成物(4官能性シラン化合物の中間体全体を指示する適宜な術語が存在しない。)としては、アルコキシ基の一部あるいは全量が加水分解して、シラノール(Si-OH)基となったシランモノマーが挙げられる。なお、アルコキシシランモノマー中のアルコキシシリル基(Si-OR)は、加水分解反応の過程において、その全てが加水分解してシラノール(Si-OH)になるわけではない。
【0062】
亜鉛系のキレート化合物としては、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛などの有機カルボン酸亜鉛塩、アセチルアセトン亜鉛キレート、ベンゾイルアセトン亜鉛キレート、ジベンゾイルメタン亜鉛キレート、アセト酢酸エチル亜鉛キレート等、を好ましく例示することができる。
【0063】
上記金属キレート化合物の中でも、特にAlを含むものが好ましい。Al系の金属キレート化合物によれば、Ti系やZn系ほど加水分解反応が速すぎず、またZr系よりも加水分解反応が速いため、加水分解反応を制御しやすく、赤外線吸収微粒子の表面に被覆膜を均一に形成しやすい。その結果、被覆膜の耐湿熱性をより高く、かつ安定して形成することができる。しかも、生産コストを低減でき、さらには安全性にも優れている。
【0064】
<2>表面処理赤外線吸収微粒子の製造方法
続いて、上述した表面処理赤外線吸収微粒子の製造方法について説明する。
【0065】
<2-1>被覆膜形成用の赤外線吸収微粒子分散液の調製
まず、赤外線吸収微粒子を含む微粒子粉末を液体媒質に添加し分散させて、被覆膜形成用の赤外線吸収微粒子分散液(以下、被覆膜形成用分散液ともいう)を調製する。ここでは、微粒子粉末を予め細かく粉砕したうえで、液体媒質に添加するとよい。もしくは、微粒子粉末を液体媒質に添加した後に、粉砕・分散処理を施すのが良い。これにより、赤外線吸収微粒子の凝集を抑制し、赤外線吸収微粒子を液体媒質中に単分散させることができる。この結果、被覆膜の形成の際に、個々の赤外線吸収微粒子に対して均一に被覆膜を形成することができる。
【0066】
被覆膜形成用分散液に用いる液体媒質としては、水を用いる。水を用いる場合、被覆膜形成用分散液に金属キレート化合物を添加するときに、金属キレート化合物の加水分解反応を即座に開始させることができるためである。具体的に説明すると、金属キレート化合物における加水分解構造には、少量の水でも加水分解しやすい置換基と、多量の水で加水分解する置換基とが含まれている。例えば、金属キレート化合物であるアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートであれば、イソプロポキシ基は少量の水でも加水分解でき、アルミニウムエチルアセトアセテートジヒドロキシドとなる一方、エチルアセトアセテートを含む置換基は多量の水ではじめて加水分解する傾向がある。このような金属キレート化合物を液体媒質として有機溶媒に添加した後に加水分解させる場合、金属キレート化合物における加水分解構造の一部が加水分解するだけで、全部を加水分解できないことがある。この結果、被覆膜には、加水分解しきれない置換基に由来する炭素成分が残存することとなり、被覆膜における炭素濃度が高くなる傾向がある。これに対して、液体媒質として水を用いることにより、加水分解構造をより確実に加水分解させることができ、被覆膜に残存する炭素成分を低減し、炭素濃度をより低くすることができる。この結果、被覆膜を緻密で高密度に形成することができる。
【0067】
なお、被覆膜形成用分散液において、赤外線吸収微粒子の添加量は特に限定されないが、赤外線吸収微粒子が液体媒質に分散する分散濃度が0.01質量%以上80質量%以下となるように調整することが好ましい。このような分散濃度とすることにより、被膜形成用分散液のpHを8以下とすることができ、液体媒質中で赤外線吸収微粒子を静電反発により分散させた状態を保持しやすくできる。
【0068】
また、微粒子粉末の粉砕・分散処理の具体的方法としては、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。その中でも、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いた、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで粉砕・分散処理を行うことは、所望の分散粒子径への到達時間が短いことから好ましい。
【0069】
<2-2>表面処理剤の準備
続いて、金属キレート化合物を含む表面処理剤を準備する。
【0070】
表面処理剤としては、金属キレート化合物をそのまま使用してもよいが、被覆膜形成用分散液に添加する際に、時間当たりの添加量を調整するために、金属キレート化合物を溶剤で希釈して使用してもよい。希釈に用いる溶剤としては、金属キレート化合物と反応せず、被覆膜形成用分散液に含まれる液体媒質との相溶性が高いものが好ましい。具体的には、アルコール系、ケトン系、グリコール系等を好ましく使用することができる。なお、希釈倍率は特に限定されないが、生産性を担保する観点から、希釈倍率は100倍以下とするのが好ましい。
【0071】
<2-3>表面処理剤の添加
続いて、被覆膜形成用分散液に、金属キレート化合物を含む所定量の表面処理剤を所定時間をかけて添加する。金属キレート化合物は被覆膜形成用分散液に添加されて加水分解することで、加水分解生成物、もしくはその重合物になる。加水分解生成物や重合物が赤外線吸収微粒子の表面に付着することで、加水分解生成物およびその重合物の少なくとも一方を含む付着膜が形成される。
【0072】
表面処理剤の添加は、被覆膜形成用分散液を攪拌混合しながら行うとよい。攪拌混合により、赤外線吸収微粒子の凝集を抑制し、単分散の状態を維持することができる。これにより、赤外線吸収微粒子の凝集体の表面に被覆膜を形成することを抑制し、個々の微粒子の表面に加水分解生成物もしくは重合物を均一かつ強固に付着させることができる。この結果、透明性を低下させる粗大粒子の形成を抑制するとともに、緻密で高密度な被覆膜を形成することができる。
【0073】
金属キレート化合物の添加量は、赤外線吸収微粒子100質量部に対して、金属元素換算で0.1質量部以上、1000質量部以下であることが好ましく、1質量部以上、500質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上150質量部以下であることがさらに好ましい。添加量を0.1質量部以上とすることにより、被覆膜により所望の耐湿熱性を得ることができる。一方、添加量を1000質量部以下とすることにより、赤外線吸収微粒子に対して金属酸化物の水和物の被覆量が過剰になることを回避することができる。また、表面処理による耐湿熱性の向上が飽和せず、被覆効果の向上が望める。さらに、赤外線吸収微粒子に対して金属酸化物の水和物の被覆量が過剰になることで、媒質除去時に金属酸化物の水和物を介して微粒子同士が造粒し易くなることを回避することができる。この結果、造粒による透明性の低下を抑制し、良好な透明性を担保することができる。しかも、金属キレート化合物の過剰による、添加量および処理時間の増加による生産コスト増加も回避できる。
【0074】
なお、被覆膜形成用分散液に金属キレート化合物を添加するときに、その開始直後では金属キレート化合物が金属イオンにまで分解されることもあるが、添加時間が経過し、添加量が増えて飽和水溶液となるところで、金属イオンまでの分解は終了する。
【0075】
<2-4>加熱処理
続いて、表面に付着膜が形成された赤外線吸収微粒子を含む分散液に加熱処理を施す。
【0076】
加熱処理により、付着膜に含まれる加水分解生成物や重合物をさらに加水分解させて、金属酸化物の水和物とする。加熱処理によれば、被覆膜において金属酸化物の水和物の比率を高め、加水分解生成物などに由来する炭素成分を低減する。このとき、被覆膜に含まれる炭素濃度が5.0質量%以下となるように、加熱処理を施す。これにより、金属酸化物の水和物を含む被覆膜が表面に形成された表面処理赤外線吸収微粒子を形成する。
【0077】
加熱処理は、加熱温度および加熱時間を適宜調整するとよい。加水分解生成物や重合物の加水分解を促進させつつ、赤外線吸収微粒子の変質を抑制する観点からは、加熱温度は40℃以上80℃以下が好ましく、50℃以上70℃以下がより好ましく、50℃以上60℃以下がさらに好ましい。また、加熱時間は4時間以上24時間以下とすることが好ましい。このような加熱温度および加熱時間によれば、被覆膜において加水分解生成物や重合物の残存量をより低減し、金属酸化物の水和物の比率をより高めることができるとともに、赤外線吸収微粒子の変質による赤外線吸収特性の低下を抑制することができる。
【0078】
また、加熱処理は、分散液を攪拌混合しながら行うとよい。これにより、各微粒子の被覆膜について均一に加熱処理を施すことができ、被覆膜の膜質の均一性を担保することができる。
【0079】
加温処理の具体的な方法としては、例えばホットプレート等の抵抗加熱ヒーターを内蔵した台、ラバーヒーター等の抵抗加熱ヒーターを巻き付けた容器や窯、ウォーターバスやオイルバス等の恒温槽、温水や加熱オイル等の温媒配管を巻き付けた容器や窯を用いた方法が挙げられる。
【0080】
<2-5>乾燥処理
続いて、加熱処理により得られた、表面処理赤外線吸収微粒子を含む分散液を乾燥させる。具体的には、上記分散液を、表面処理赤外線吸収微粒子の強凝集を回避できる条件での加熱、乾燥、または、例えば100℃未満の温度下における真空流動乾燥、噴霧乾燥等によって乾燥する。これにより、表面処理赤外線吸収微粒子を含む微粒子粉末を得る。
【0081】
真空流動乾燥による処理では、減圧雰囲気下で乾燥と解砕の処理を同時に行うため、乾燥速度が速い上に表面処理赤外線吸収微粒子の凝集を回避できる。また、減圧雰囲気下での乾燥のため、比較的低温でも揮発成分を除去することができ、残存する揮発成分量も限りなく少なくすることができる。また、噴霧乾燥による処理では、揮発成分の表面力に起因する二次凝集が発生しにくく、解砕処理を施さずとも比較的二次凝集していない表面処理赤外線吸収微粒子が得られる。
【0082】
乾燥温度は、分散液に含まれる水を除去できれば特に限定されないが、40℃以上80℃以下が好ましく、50℃以上70℃以下がより好ましく、50℃以上60℃以下がさらに好ましい。このような温度で乾燥処理を行うことにより、乾燥処理時にも、被覆膜に残存する加水分解生成物(水和物まで加水分解しきれていない生成物など)の加水分解を促進することができるので、上記加熱処理の時間を低減し、表面処理赤外線吸収微粒子の製造効率をより向上させることができる。
【0083】
なお、本実施形態では、加熱処理と乾燥処理とを別々に行う場合を説明したが本発明はこれに限定されず、例えば加熱処理と同時に乾燥処理を行ってもよい。この場合、加熱処理が乾燥処理における昇温や恒温の段階に該当する。加熱処理と乾燥処理とを別々に行う場合は、加水分解生成物をより安定して加水分解できる一方、加熱処理と乾燥処理とを同時に行う場合は、製造工程を簡略化して製造効率を向上させることができる。
【0084】
<3>表面処理赤外線吸収微粒子の用途
本実施形態の表面処理赤外線吸収微粒子は、微粒子状態、液体媒質または固体媒質に分散された状態で用いることができる。以下、表面処理赤外線吸収微粒子の用途について、赤外線吸収微粒子分散液、赤外線吸収微粒子分散体、赤外線吸収基材、並びに、赤外線吸収微粒子分散体や赤外線吸収基材を用いた物品を例に具体的に説明する。
【0085】
<3-1>赤外線吸収微粒子分散液
赤外線吸収微粒子分散液は、上述した表面処理赤外線吸収微粒子を含む微粒子粉末と、液体媒質と、を含み、微粒子粉末が液体媒質に分散されてなるものである。
【0086】
赤外線吸収微粒子分散液は、例えば、微粒子粉末を液体媒質に添加して再分散して作製することができる。また例えば、上述した表面処理赤外線吸収微粒子を含む分散液から表面処理赤外線吸収微粒子を分離し、液体媒質に添加するといったように、液体媒質を置き換えて溶媒置換することで作製することができる。
【0087】
(分散粒子径)
微粒子粉末を液体媒質に分散させたときの表面処理赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、赤外線吸収微粒子分散液の用途に応じて適宜変更することができる。例えば透明性が求められる用途であれば、分散粒子径を800nm以下とすることが好ましい。分散粒子径を800nm以下とすることにより、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができる。
【0088】
また、特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに微粒子による散乱を考慮することが好ましい。微粒子による散乱を低減する観点からは、分散粒子径を200nm以下とすることが好ましく、100nm以下とすることがより好ましい。この理由は、粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm~780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線吸収膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるためである。すなわち、分散粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。
【0089】
さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0090】
分散粒子径を800nm以下とすることにより、赤外線吸収微粒子を液体媒質中に分散させた赤外線吸収微粒子分散体のヘイズ値は、可視光透過率85%以下でヘイズ30%以下とすることができる。ヘイズが30%よりも大きい値であると、曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
【0091】
なお、分散粒子径は、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS-8000等を用いて測定することができる。
【0092】
(液体媒質)
液体媒質としては、有機溶剤、油脂、液状可塑剤、硬化により高分子化される化合物、水、から選択される1種以上の液体媒質を用いることができる。
【0093】
有機溶剤としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系、等を使用することができる。
具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;
アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;
3-メチル-メトキシ-プロピオネート、酢酸n-ブチルなどのエステル系溶剤;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;
フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;
トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;
エチレンクロライド、クロルベンゼン、等を使用することができる。
そして、これらの有機溶剤中でも、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n-ブチル、等を好ましく使用することができる。
【0094】
油脂としては、植物油脂または植物由来油脂が好ましい。
植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油、等を使用することができる。
植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類、等を使用することができる。
また、市販の石油系溶剤も油脂として用いることができる。
市販の石油系溶剤として、アイソパー(登録商標)E、エクソール(登録商標)Hexane、Heptane、E、D30、D40、D60、D80、D95、D110、D130(以上、エクソンモービル製)、等を使用することができる。
【0095】
液状可塑剤としては、例えば、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤、等を使用することができる。なお、いずれも室温で液状であるものが好ましい。
なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤を好ましく使用することができる。当該多価アルコールと脂肪酸とから合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物、等を使用することができる。
また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、前記一塩基性有機とのエステル化合物等も挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-オクタネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステル、等を使用することができる。さらに、トリエチレングリコールの脂肪酸エステルも好ましく使用することができる。
【0096】
硬化により高分子化される化合物は、重合等により高分子を形成する単量体やオリゴマーである。具体的には、メチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体、スチレン樹脂単量体、等を使用することができる。
【0097】
以上、説明した液状媒質は、2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、必要に応じて、これらの液状媒質へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
【0098】
(その他の添加剤)
赤外線吸収微粒子分散液には、必要に応じて、上記以外の他の添加剤として分散剤、界面活性剤、カップリング剤などを添加してもよい。これら添加剤によれば、表面処理赤外線吸収微粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒子径の粗大化を回避することができる。
【0099】
分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、表面処理赤外線吸収微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、均一に分散させる効果を持つ。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤は、さらに好ましい。
【0100】
また、官能基を有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤も好ましい分散剤として挙げられる。中でも、カルボキシル基を官能基として有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤が、より好ましい例として挙げられる。官能基にアミンを含有する基を有する分散剤は、分子量Mw2000~200000、アミン価5~100mgKOH/gのものが好ましい。また、カルボキシル基を有する分散剤では、分子量Mw2000~200000、酸価1~50mgKOH/gのものが好ましい。
【0101】
市販の分散剤における好ましい具体例としては、日本ルーブリゾール社製SOLSPERSE(登録商標)(以下同じ)3000、5000、9000、11200、12000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、71000、76500、J180、J200、M387等;SOLPLUS(登録商標)(以下同じ)D510、D520、D530、D540、DP310、K500、L300、L400、R700等;ビックケミー・ジャパン社製Disperbyk(登録商標)(以下同じ)-101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、191、192、2000、2001、2009、2020、2025、2050、2070、2095、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164、Anti-Terra(登録商標)(以下同じ)-U、203、204等;BYK(登録商標)(以下同じ)-P104、P104S、P105、P9050、P9051、P9060、P9065、P9080、051、052、053、054、055、057、063、065、066N、067A、077、088、141、220S、300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、340、345、346、347、348、350、354、355、358N、361N、370、375、377、378、380N、381、392、410、425、430、1752、4510、6919、9076、9077、W909、W935、W940、W961、W966、W969、W972、W980、W985、W995、W996、W9010、Dynwet800、Siclean3700、UV3500、UV3510、UV3570等;エフカアディティブズ社製EFKA(登録商標)(以下同じ)2020、2025、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4310、4320、4330、4340、4400、4401、4402、4403、4500、5066、5220、6220、6225、6230、6700、6780、6782、7462、8503等;BASFジャパン社製JONCRYL(登録商標)(以下同じ)67、678、586、611、680、682、690、819、-JDX5050等;大塚化学社製TERPLUS(登録商標)(以下同じ) MD1000、D 1180、D 1130等;味の素ファインテクノ社製アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB-711、PB-821、PB-822等;楠本化成社製ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-325、DA-375、DA-550、DA-705、DA-725、DA-1401、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L等;東亞合成社製アルフォン(登録商標)(以下同じ)UH-2170、UC-3000、UC-3910、UC-3920、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4040、UG-4070、レゼダ(登録商標)(以下同じ)GS-1015、GP-301、GP-301S等;三菱化学社製ダイヤナール(登録商標)(以下同じ)BR-50、BR-52、BR-60、BR-73、BR-77、BR80、BR-83、BR-85、BR-87、BR-88、BR-90、BR-96、BR-102、BR-113、BR-116等が挙げられる。
【0102】
(赤外線吸収微粒子分散液の使用方法)
赤外線吸収微粒子分散液は、適宜な基材の表面に塗布し、ここに分散膜を形成して赤外線吸収基材として利用することができる。つまり、分散膜は、赤外線吸収微粒子分散液の乾燥固化物の一種である。
【0103】
また、赤外線吸収微粒子分散液を乾燥し、粉砕処理して、粉末状の赤外線吸収微粒子分散体(以下、分散粉ともいう)とすることができる。つまり、分散粉は、赤外線吸収微粒子分散液の乾燥固化物の一種である。分散粉は表面処理赤外線吸収微粒子が固体媒質中(分散剤等)に分散された粉末状の分散体であり、上述の表面処理赤外線吸収微粒子粉末とは区別する。分散粉は分散剤を含んでいるため、適宜な媒質と混合することで表面処理赤外線吸収微粒子を媒質中へ容易に再分散させることが可能である。
【0104】
分散粉は、赤外線吸収製品へ表面処理赤外線吸収微粒子を分散状態で添加する原料として用いることができる。すなわち、表面処理赤外線吸収微粒子が固体媒質中に分散された分散粉を、再度、液体媒質中に分散させ、赤外線吸収製品用の分散液として使用しても良いし、後述するように分散粉を樹脂中に練り込んで使用してもよい。
【0105】
一方、赤外線吸収微粒子分散液は、光熱変換を利用した様々な用途に用いられる。
【0106】
例えば、表面処理赤外線吸収微粒子を未硬化の熱硬化性樹脂へ添加する、または、表面処理赤外線吸収微粒子を適宜な溶媒中に分散した後、未硬化の熱硬化性樹脂を添加することにより、硬化型インク組成物を得ることができる。硬化型インク組成物は、所定の基材上に設けられ、赤外線などの電磁波を照射して硬化させた際、基材への密着性に優れたものである。このとき、表面処理赤外線吸収微粒子は赤外線照射による発熱量を高める助剤として作用している。そして、硬化型インク組成物は、従来のインクとしての用途に加え、所定量を塗布し、ここへ赤外線などの電磁波を照射して硬化させて積み上げ、3次元物体を造形する光造形法にも最適な硬化型インク組成物となる。
【0107】
また例えば、表面処理赤外線吸収微粒子を加熱溶融させた熱可塑性樹脂へ添加する、または、表面処理赤外線吸収微粒子を適宜な溶媒中に分散した後、溶媒への溶解性の高い熱可塑性樹脂を添加することにより、熱可塑性樹脂含有インク組成物を得ることができる。熱可塑性樹脂含有インク組成物は、所定の基材上に設けられ、赤外線などの電磁波照射による溶媒除去と樹脂の加熱融着を経て、基材へ密着する。このとき、表面処理赤外線吸収微粒子は赤外線照射による発熱量を高める助剤として作用している。そして、熱可塑性樹脂含有インク組成物は、従来のインクとしての用途に加え、所定量を塗布し、ここへ赤外線などの電磁波を照射して溶媒除去と樹脂の加熱融着を繰り返すことで積み上げていき、3次元物体を造形する光造形法にも最適な熱可塑性樹脂含有インク組成物となる。
【0108】
<3-2>赤外線吸収微粒子分散体
赤外線吸収微粒子分散体は、表面処理赤外線吸収微粒子と、固体媒質と、を含み、固体媒質中に表面処理赤外線吸収微粒子が分散してなるものである。
【0109】
固体媒質としては、例えば樹脂、ガラス、等の固体媒質を用いることができる。樹脂の種類は特に限定されず、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、低コストで透明性が高く汎用性の広い樹脂として、PET樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、等の使用することができる。また、耐候性を考慮してフッ素樹脂を使用することもできる。
【0110】
固体媒質に対するフィラー量(すなわち、表面処理赤外線吸収微粒子の配合量)は、基材の厚さや必要とされる光学特性、機械特性に応じて適宜変更できるが、一般的に固体媒質に対して50質量%以下であることが好ましい。50質量%以下であれば、固体媒質中での微粒子同士の造粒を抑制できるので、良好な透明性を保つことができる。また、表面処理赤外線吸収微粒子の使用量も制御できるのでコスト的にも有利である。
【0111】
赤外線吸収微粒子分散体の形状は特に限定されず、用途に応じて適宜変更することができる。例えば、フィルム形状やボード形状など任意の形状に変更することができる。また、フィルム形状やボート形状としたときの厚さは、使用目的に応じて適宜変更するとよく、例えば0.1μm~50mmとするとよい。
【0112】
赤外線吸収微粒子分散体は、以下のように作製することができる。
例えば表面処理赤外線吸収微粒子、赤外線吸収微粒子分散液、もしくは、表面処理赤外線吸収微粒子が固体媒質に分散された粉末状の分散体を液体媒質に添加したものを直接樹脂に練り込み、任意の形状に成形することで作製することができる。具体的には、樹脂を融点付近の温度(200~300℃前後)に加熱して溶融させた後に、表面処理赤外線吸収微粒子などを混合して練り込む。続いて、この混合物を、例えば、押し出し成形法、インフレーション成形法、溶液流延法、キャスティング法等により、所定形状に成形する。なお、練り込んだ混合物は、そのまま成形してもよいが、ペレット化した後にペレットを上記方法により成形してもよい。
【0113】
また例えば、表面処理赤外線吸収微粒子を固体媒質に分散させた赤外線吸収微粒子分散体を、さらに粉砕し粉末としたものを用いて作製することができる。粉末状の赤外線吸収微粒子分散体には、既に、表面処理赤外線吸収微粒子が固体媒質中で十分に分散している。そのため、粉末状の赤外線吸収微粒子分散体を所謂マスターバッチとして、適宜な液体媒質に溶解させたり、樹脂ペレット等と混練することで、容易に、液状または固形状の赤外線吸収微粒子分散体を製造することができる。
【0114】
<3-3>赤外線吸収基材
赤外吸収基材は、基材の表面に、表面処理赤外線吸収微粒子を含む膜状の分散体(分散膜)が形成されてなるものである。赤外線吸収基材によれば、表面に分散膜が設けられることで、耐湿熱性および化学安定性に優れ、かつ赤外線吸収材料として好適に利用することができる。
【0115】
基材の材質は、透明体であれば特に限定されないが、ガラス、樹脂ボード、樹脂シート、樹脂フィルムが好ましく用いられる。
【0116】
樹脂ボード、樹脂シート、樹脂フィルムに用いる樹脂としては、必要とするボード、シート、フィルムの表面状態や耐久性に不具合を生じないものであれば特に制限はない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマーや、さらにこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物等の透明ポリマーからなるボード、シート、フィルムが挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはポリエチレン-2,6-ナフタレート等のポリエステル系2軸配向フィルムが、機械的特性、光学特性、耐熱性および経済性の点より好適である。当該ポリエステル系2軸配向フィルムは共重合ポリエステル系であっても良い。
【0117】
赤外吸収基材は、以下のように作製することができる。例えば、表面処理赤外線吸収微粒子を、アルコール等の有機溶剤や水等の液体媒質と、樹脂バインダーと、所望により分散剤とを混合した赤外線吸収微粒子分散液を、適宜な基材表面に塗布した後、液体媒質を除去したり、硬化させたりすることで、赤外線吸収微粒子分散体が基材表面に直接積層された赤外線吸収基材を得ることができる。
【0118】
樹脂バインダー成分は用途に合わせて選択可能であり、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂、等が挙げられる。一方、樹脂バインダー成分を含まない赤外線吸収微粒子分散液を、基材表面に赤外線吸収微粒子分散体を積層してもよいし、積層の後に、バインダー成分を含む液体媒質を赤外線吸収微粒子分散体の層上に塗布してもよい。
【0119】
具体的には、有機溶剤、樹脂を溶解させた有機溶剤、樹脂を分散させた有機溶剤、水、から選ばれる1種以上の液体媒質に表面処理赤外線吸収微粒子が分散している液状の赤外線吸収微粒子分散体を基材表面に塗布し、得られた塗布膜を適宜な方法で固めた赤外線吸収基材が挙げられる。また、樹脂バインダー成分を含む液状の赤外線吸収微粒子分散体を基材表面に塗布し、得られた塗布膜を適宜な方法で固めた赤外線吸収基材が挙げられる。さらに、粉末状である固体媒質中に表面処理赤外線吸収微粒子が分散している赤外線吸収微粒子分散体を所定媒質に混合した液状の赤外線吸収微粒子分散体を、基材表面に塗布し、得られた塗布膜を適宜な方法で固めた赤外線吸収基材も挙げられる。勿論、当該各種の液状の赤外線吸収微粒子分散液の2種以上を混合した赤外線吸収微粒子分散液を基材表面に塗布し、得られた塗布膜を適宜な方法で固めた赤外線吸収基材も挙げられる。
【0120】
<3-4>物品
上述した赤外線吸収微粒子分散体や赤外線吸収基材であるフィルムやボード等の赤外線吸収物品は、例えば、各種建築物や車両において、可視光線を十分に取り入れながら赤外領域の光を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的とした窓材等、PDP(プラズマディスプレイパネル)に使用され、当該PDPから前方に放射される赤外線を遮蔽するフィルター等、に好適に使用することができる。
【0121】
また、表面処理赤外線吸収微粒子は赤外線領域に吸収を有するため、表面処理赤外線吸収微粒子を含む印刷面へ赤外線レーザーを照射したとき、特定の波長を有する赤外線を吸収する。従って、この表面処理赤外線吸収微粒子を含む偽造防止インクを被印刷基材の片面又は両面に印刷して得た偽造防止用印刷物は、特定波長を有する赤外線を照射し、その反射若しくは透過を読み取ることによって、反射量又は透過量の違いから、印刷物の真贋を判定することができる。偽造防止用印刷物は、本発明にかかる赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
【0122】
また、赤外線吸収微粒子分散液とバインダー成分とを混合してインクを製造し、このインクを基材上に塗布し、塗布したインクを乾燥させた後、乾燥させたインクを硬化させることにより光熱変換層を形成することができる。光熱変換層は、赤外線などの電磁波レーザーの照射により、高い位置の精度をもって所望の箇所のみで発熱させることが可能であり、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲に分野において適用可能である。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子をレーザー転写法で形成する際に用いるドナーシートや、感熱式プリンタ用の感熱紙や熱転写プリンタ用のインクリボンとして好適に用いることができる。光熱変換層は本発明にかかる赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
【0123】
また、表面処理赤外線吸収微粒子を適宜な媒体中に分散させて、分散物を繊維の表面および/または内部に含有させることにより、赤外線吸収繊維が得られる。赤外線吸収繊維は、表面処理赤外線吸収微粒子の含有により太陽光などからの近赤外線等を効率良く吸収し、保温性に優れた赤外線吸収繊維となり、同時に可視光領域の光は透過させるので意匠性に優れた赤外線吸収繊維となる。その結果、保温性を必要とする防寒用衣料、スポーツ用衣料、ストッキング、カーテン等の繊維製品やその他産業用繊維製品等の種々の用途に使用することができる。当該赤外線吸収繊維は本発明にかかる赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
【0124】
また、フィルム状またはボード状の赤外線吸収微粒子分散体を、農園芸用ハウスの屋根や外壁材等に用いられる資材に応用することができる。そして、可視光を透過して農園芸用ハウス内の植物の光合成に必要な光を確保しながら、それ以外の太陽光に含まれる近赤外光等の光を効率よく吸収することにより、断熱性を備えた農園芸施設用断熱資材として使用することができる。農園芸施設用断熱資材は、本発明にかかる赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
【0125】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0126】
本実施形態の表面処理赤外線吸収微粒子は、赤外線吸収微粒子の表面に金属キレート化合物の加水分解生成物もしくはその重合物を付着させた後、その付着膜に加熱処理を施すことにより作製されている。加熱処理によれば、付着膜に含まれる加水分解生成物もしくはその重合物をさらに加水分解させて、金属酸化物の水和物とすることができる。そして、付着膜を加熱処理して得られる被覆膜は、金属酸化物の水和物を含み、炭素濃度が5.0質量%以下となるように構成されている。このような被覆膜によれば、金属キレート化合物の加水分解生成物もしくはその重合物が少なく、これらに由来する炭素成分が少ない。そのため、表面処理赤外線吸収微粒子において、赤外線吸収特性を高く維持しながらも、被覆膜を加水分解生成物で構成する場合と比較して高い耐湿熱性を実現することができる。
【0127】
被覆膜を形成する金属酸化物の水和物は、Al、Zr、Ti、Si、Znから選択される1種類以上の金属元素を含むことが好ましい。このような金属元素を含むことにより、表面処理赤外線吸収微粒子の耐湿熱性をより向上させることができる。
【0128】
加熱処理は、加熱温度40℃以上80℃以下で4時間以上、行うことが好ましい。このような条件で加熱処理を行うことにより、付着膜における加水分解生成物などをより加水分解させることができる。そのため、得られる被覆膜において炭素濃度を少なくして金属酸化物の水和物の比率をより高くすることができ、耐湿熱性をより向上させることができる。
【0129】
また、本実施形態の表面処理赤外線吸収微粒子において、被覆膜は、所定の加熱処理により炭素濃度が少なく、緻密かつ高密度な膜に構成されているので、赤外線吸収微粒子との密着性や化学的安定性を高めるために行う100℃以上の加熱処理を必要としない。
一般的に、100℃以上の加熱処理を行うと、表面処理赤外線吸収微粒子が凝集し、粗大な凝集体が形成されやすい。粗大な凝集体は赤外線吸収微粒子分散体などの透明性を損ねるので、解砕して再分散させる必要がある。しかし、表面処理赤外線吸収微粒子を解砕すると、被覆膜が傷つき、場合によっては被覆膜の一部が剥離してしまうことがある。そのため、透明性と耐湿熱性とを両立しにくくなる。
この点、本実施形態の表面処理赤外線吸収微粒子では、100℃以上の加熱処理を必要としないので、高温の加熱処理による凝集、凝集を再分散させるための解砕を回避することができる。このため、被覆膜の損傷などによる耐湿熱性の低下を抑制できるとともに、高い透明性を実現することができる。
【0130】
本実施形態の表面処理赤外線吸収微粒子、もしくはそれを含む赤外線吸収微粒子分散液によれば、赤外線吸収特性、耐湿熱性および透明性に優れる赤外線吸収微粒子分散体もしくは赤外線吸収基材を作製することができる。
【0131】
具体的には、可視光透過率が80%となるように赤外線吸収微粒子分散体もしくは赤外線吸収基材を作製したときに、波長800nm~1000nmの光の透過率が32%以上55%以下であり、高い赤外線吸収特性を実現することができる。
【0132】
また、可視光透過率が80%となるように作製した赤外線吸収微粒子分散体もしくは赤外線吸収基材を、温度85℃相対湿度90%の湿熱雰囲気中に1000時間にわたって暴露させたとき、暴露前後における波長800nm~1000nmの透過率の平均値の変化量が1.5%以下となり、優れた耐湿熱性を実現することができる。
【0133】
また、可視光透過率が80%となるように赤外線吸収微粒子分散体もしくは赤外線吸収基材を作製したときに、ヘイズ値が1.2%以下であり、優れた透明性を実現することができる。
【実施例
【0134】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0135】
まず、実施例、比較例における評価方法について説明する。本実施例では、表面処理赤外線吸収微粒子については、分散粒子径、結晶子径、BET比表面積、および炭素濃度を測定した。赤外線吸収基材としての赤外線吸収シートについては、光学特性、ヘイズ値、および耐湿熱性を評価した。以下、各評価方法について説明する。
【0136】
(分散粒子径)
分散粒子径は、動的光散乱法に基づく粒径測定装置(大塚電子株式会社製ELS-8000)により測定した平均値をもって示した。
【0137】
(結晶子径)
結晶子径は、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X’Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)により測定し、リートベルト法を用いて算出した。
【0138】
(BET比表面積)
BET比表面積は、BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製Macsorb-1208)を用いて測定した。
【0139】
(炭素濃度)
表面処理赤外線吸収微粒子粉末の炭素濃度は、燃焼-赤外線吸収法を原理とした炭素分析装置(LECO社製CS-600)を用いて測定した。
【0140】
(光学特性)
赤外線吸収シートの光学特性は、分光光度計(日立製作所株式会社製U-4100)を用いて波長200nm~2600nmの範囲において5nmの間隔で測定し、可視光透過率はJISR3106に従って算出した。また、波長800nm~1000nmの透過率の平均値も算出した。なお、ここでいう赤外線吸収シートの光学特性値(可視光透過率、ヘイズ値)は、基材である樹脂シートの光学特性値を含む値である。
【0141】
(ヘイズ値)
赤外線吸収シートのヘイズ値は、ヘイズメーター(村上色彩株式会社製HM-150)を用いて測定し、JISK7105に従って算出した。
【0142】
(耐湿熱性)
赤外線吸収シートの耐湿熱性の評価方法は、可視光透過率80%前後の当該赤外線吸収シートを温度85℃相対湿度90%の湿熱雰囲気中に1000時間暴露する。そして、当該暴露前後における日射透過率の変化量が1.5%以下のものを耐湿熱性が良好と判断し、変化量が1.5%を超えるものは耐湿熱性が不足と判断した。
【0143】
[実施例1]
(表面処理赤外線吸収微粒子粉末の作製)
Cs/W(モル比)=0.33の六方晶セシウムタングステンブロンズ(Cs0.33WO、2.0≦z≦3.0)粉末CWO(登録商標)(住友金属鉱山株式会社製YM-01)25質量%と純水75質量%とを混合して得られた混合液を、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し10時間粉砕・分散処理し、実施例1にかかるCs0.33WO微粒子の分散液を得た。
【0144】
得られた分散液中のCs0.33WO微粒子の分散粒子径を測定したところ、100nmであった。なお、粒径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドは純水を用いて測定し、溶媒屈折率は1.33とした。また、得られた分散液の溶媒を除去したあと、結晶子径を測定したところ32nmであった。さらに、得られた分散液の溶媒を除去した後、乾固物を乳鉢で解砕し、Cs0.33WO微粒子のBET比表面積を測定したところ、38m/gであった。
【0145】
得られたCs0.33WO微粒子の分散液と純水とを混合し、Cs0.33WO微粒子の濃度が2質量%である被覆膜形成用分散液Aを得た。
【0146】
以上を下記表1に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
続いて、下記表2に示すように、アルミニウム系のキレート化合物としてアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート2.5質量%と、イソプロピルアルコール(IPA)97.5質量%とを混合して表面処理剤aを得た。
【0149】
【表2】
【0150】
続いて、得られた被覆膜形成用分散液A890gをビーカーに入れ、羽根の付いた攪拌機によって強く攪拌しながら、上記表2に示すように、表面処理剤a360gを3時間かけて滴下添加した。ここでは、表2に示すように、Al系キレート化合物に由来するAl元素の含有量が赤外線吸収微粒子100質量部に対して5質量部となるように表面処理剤aを添加した。これにより、表面処理剤aに含まれるAl系キレート化合物を加水分解させ、その加水分解生成物またはその重合物を赤外線吸収微粒子の表面に付着させることで付着膜を形成した。続いて、下記表3に示すように、表面処理剤aの滴下添加後、さらに温度55℃で5時間の攪拌を行い、実施例1にかかる熟成液を作製した。これにより、付着膜における加水分解生成物や重合物をさらに加水分解させて金属酸化物の水和物とし、金属酸化物の水和物を含む被覆膜を形成した。次いで、温度55℃3時間の真空流動乾燥により、熟成液から媒質を蒸発させて実施例1にかかる表面処理赤外線吸収微粒子を含む粉末(表面処理赤外線吸収微粒子粉末)を得た。
【0151】
【表3】
【0152】
(表面赤外線吸収微粒子粉末における炭素濃度)
実施例1にかかる表面処理赤外線吸収微粒子粉末の炭素濃度を測定したところ、下記表4に示すように、1.9質量%であった。
【0153】
【表4】
【0154】
(赤外線吸収微粒子分散液の作製)
実施例1にかかる表面処理赤外線吸収微粒子粉末8質量%とポリアクリレート系分散剤24質量%とトルエン68質量%とを混合した。得られた混合液を、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、1時間粉砕・分散処理し、実施例1にかかる赤外線吸収微粒子分散液を得た。
【0155】
(赤外線吸収シートの作製および評価)
次いで、上述した赤外線吸収微粒子分散液から真空流動乾燥により媒質を蒸発させ、実施例1にかかる赤外線吸収微粒子分散粉を得た。この分散粉とポリカーボネート樹脂とを、後に得られる赤外線吸収シートの可視光透過率が80%前後になるようにドライブレンドした。ここでは、表面処理赤外線吸収微粒子の濃度が0.09wt%となるようにブレンドした。得られたブレンド物を、二軸押出機を用いて290℃で混練し、Tダイより押出して、カレンダーロール法により0.75mm厚のシート材とし、実施例1にかかる赤外線吸収シートを得た。なお、赤外線吸収シートは本発明にかかる赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
【0156】
得られた実施例1にかかる赤外線吸収シートの光学特性を測定したところ、下記表5に示すように、可視光透過率が79.7%、波長800nm~1000nmの透過率の平均値が32.5%、ヘイズが0.9%であった。
【0157】
得られた実施例1にかかる赤外線吸収シートを温度85℃相対湿度90%の湿熱雰囲気中に1000時間暴露後、光学特性を測定したところ、下記表5に示すように、可視光透過率が80.4%、波長800nm~1000nmの透過率の平均値が33.7%、ヘイズが0.9%であった。湿熱雰囲気暴露による可視光透過率の変化量は0.7%、波長800nm~1000nmの透過率の平均値の変化量は1.2%とどちらも小さく、また、ヘイズは変化しないことが分かった。
【0158】
【表5】
【0159】
(表面処理赤外線吸収微粒子の評価)
最後に、実施例1にかかる赤外線吸収シートの中に含有されている表面処理赤外線吸収微粒子の素性を調査した。実施例1にかかる赤外線吸収シートをクロロホルムに浸漬し、有機成分を全て溶解させた。その後、遠心分離機(株式会社コクサン製H-9R)を用い、回転速度22000rpmの条件でクロロホルムと表面処理赤外線吸収微粒子凝集体のケーキを分離した。その後、このケーキをトルエン、アセトン、エタノールの順番で洗い出しを行い、表面処理赤外線吸収微粒子のみを取り出した。
【0160】
取り出した表面処理赤外線吸収微粒子の含有成分をICP発光分析装置(島津製作所製 型式:ICPE9000)により分析したところ、表4に示すように、56質量%のタングステン、4.2質量%のアルミニウムが含まれていることが分かった。タングステンはCs0.33WO微粒子起因の元素であることから、表面処理赤外線吸収微粒子中に84質量%のCs0.33WO微粒子が含まれていることが判明した。ここで、Cs0.33WOのZは3.0として算出した。さらに、熱天秤装置(ブルカーエイエックスエス株式会社製)に質量分析装置(Q-MS、ブルカーエイエックスエス株式会社製)を接続した熱分析装置により分析したところ、水が2.4質量%含まれていることが分かった。ここから水和物由来の水の含有量を算出したところ、1.5質量%となった。つまり、被覆膜においては、金属酸化物の水和物に由来する水が占める比率が高く、被覆膜は主に水和物を含んで構成されることが分かった。ここで、熱分析装置による分析は、室温から500℃まで昇温速度20℃/minで昇温し、He流量150cc/minでキャリアガスを流して実施した。質量電荷数比m/z=17、18のガス成分が全て水であると見なし、その発生量を評価した。
【0161】
なお、水和物に由来する水の含有量は、具体的には以下のように算出した。
金属キレート化合物として、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートを用いた場合、アルミニウムエチルアセトアセテートジヒドロキシドが、加水分解しきれずに、加水分解生成物として被覆膜に残存する。アルミニウムエチルアセトアセテートジヒドロキシド1個を熱分析したとき、そこから水分子(分子量18)が2個生成するため、その分を差し引いた水の量が水和物由来の水の量となる。アルミニウムエチルアセトアセテートジヒドロキシド中に炭素原子(原子量12)は6個存在するため、表面処理赤外線吸収微粒子の炭素濃度をc[質量%]としたとき、加水分解生成物(アルミニウムエチルアセトアセテートジヒドロキシド)に由来する水の含有量hは、c/(12×6)×18×2となり、c×0.5となる。よって、被覆膜における水の含有量をh[質量%]としたとき、水和物に由来する水の含有量h[質量%]は、h-c×0.5となる。具体的には、hが2.4質量%、cが1.9質量%であることから、実施例1では、加水分解生成物に由来する水の含有量hは、0.95(=1.9×0.5)質量%であり、水和物に由来する水の含有量h[質量%]は1.5質量%となる。
【0162】
以上の結果から、表面処理赤外線吸収微粒子は、Cs0.33WO微粒子がアルミナ水和物(Al・nHO)を含む被覆膜で被覆されたものであることが特定された。
【0163】
[実施例2、3]
実施例2、3では、表2に示すように、表面処理条件について表面処理剤aの量とその滴下添加時間とを変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。具体的には、表面処理剤aの滴下量について、実施例1の300gから、実施例2では1800gに、実施例3では3600gにそれぞれ変更した。また滴下添加時間について、実施例1の3時間から、実施例2では15時間、実施例3では30時間にそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様に操作を行い、表面処理赤外線吸収微粒子粉末、赤外線吸収微粒子分散液、赤外線吸収微粒子分散粉、赤外線吸収シートを得て、実施例1と同様の評価を実施した。なお、水和物に由来する水の含有量は、実施例1と同様の方法により算出した。
【0164】
[実施例4~7]
実施例4~7では、表2に示すように、表面処理剤aの代わりに表面処理剤b~eを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、表面処理赤外線吸収微粒子粉末、赤外線吸収微粒子分散液、赤外線吸収微粒子分散粉、赤外線吸収シートを得て、実施例1と同様の評価を実施した。
表面処理剤bは、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート2.4質量%とイソプロピルアルコール97.6質量%とを混合して調製した。
表面処理剤cは、ジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテート2.6質量%とイソプロピルアルコール97.4質量%とを混合して調製した。
表面処理剤dは、イソプロピルアルコールを添加せずに、テトラエトキシシラン309gのみを含むように調製した。
表面処理剤eは、亜鉛アセチルアセトナート4.4質量%とイソプロピルアルコール95.6質量%とを混合して調製した。
【0165】
実施例4~7について、実施例1と同様に、赤外線吸収シートの中に含有されている表面処理赤外線吸収微粒子の素性を調査した。
その結果、表4に示すように、実施例4では、Cs0.33WO微粒子の表面にジルコニア水和物を含む被覆膜が形成された表面処理赤外線吸収微粒子であることが特定された。
また、実施例5では、Cs0.33WO微粒子の表面にチタニア水和物を含む被覆膜が形成された表面処理赤外線吸収微粒子であることが特定された。
また、実施例6では、Cs0.33WO微粒子の表面にシリカ水和物を含む被覆膜が形成された表面処理赤外線吸収微粒子であることが特定された。
また、実施例7では、Cs0.33WO微粒子の表面に酸化亜鉛水和物を含む被覆膜が形成された表面処理赤外線吸収微粒子であることが特定された。
【0166】
なお、実施例4~7において、水和物に由来する水の含有量は以下の方法により算出した。
実施例4では、金属キレート化合物として、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートを用いたため、加水分解しきれずに残存する成分はジルコニウムトリヒドロキシドアセチルアセトネートであった。この加水分解生成物には炭素原子が5個含まれ、熱分析により水分子が3個生成する。このことから、加水分解生成物に由来する水の含有量はc×0.9となり、水和物に由来する水の含有量は、h-c×0.9であって、1.3質量%と算出された。
また、実施例5では、金属キレート化合物として、ジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテートを用いたため、加水分解しきれずに残存する成分はジヒドロキシチタンビスエチルアセトアセテートであった。この加水分解生成物には炭素原子が10個含まれ、熱分析により水分子が2個生成する。このことから、加水分解生成物に由来する水の含有量はc×0.3となり、水和物に由来する水の含有量は、h-c×0.3であって、1.8質量%と算出された。
また、実施例6では、金属キレート化合物として、テトラエトキシシランを用いたため、加水分解しきれずに残存する成分はテトラエトキシシランとなる。テトラエトキシシランは、熱分析で水分子を生成しないので、水和物に由来する水の含有量はhであって、4.5質量%となる。
また、実施例7では、金属キレート化合物として、亜鉛アセチルアセトナートを用いたため、加水分解しきれずに残存する成分は亜鉛モノヒドロキシモノアセチルアセトナートであった。この加水分解生成物には炭素原子が5個含まれ、熱分析により水分子が1個生成する。このことから、加水分解生成物に由来する水の含有量はc×0.3となり、水和物に由来する水の含有量は、h-c×0.3であって、1.5質量%と算出された。
【0167】
[実施例8、9]
実施例8、9では、表1に示すように赤外線吸収微粒子の種類を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。具体的には、赤外線吸収微粒子について、実施例1の六方晶セシウムタングステンブロンズ粉末から、実施例8ではRb/W(モル比)=0.33の六方晶ルビジウムタングステンブロンズ粉末に、実施例9ではマグネリ相のW1849にそれぞれ変更し、被覆膜形成用分散液B、Cを調製した。その後、この被覆膜形成用分散液B、Cについて実施例1と同様の操作を行い、表面処理赤外線吸収微粒子粉末、赤外線吸収微粒子分散液、赤外線吸収微粒子分散粉および赤外線吸収シートを得て、実施例1と同様の評価を実施した。なお、水和物に由来する水の含有量は、実施例1と同様の方法により算出した。
【0168】
[比較例1]
比較例1では、実施例1~9のように赤外線吸収微粒子に表面処理を施さずに赤外線吸収微粒子分散液、赤外線吸収微粒子分散粉および赤外線吸収シートを作製した。具体的には、表1に示すように、六方晶セシウムタングステンブロンズ粉末7質量%とポリアクリレート系分散剤24質量%とトルエン69質量%とを混合し、得られた混合液を、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し4時間粉砕・分散処理し、比較例1にかかる被覆膜形成用分散液Dを得た。得られた被覆膜形成用分散液D中の赤外線吸収微粒子の分散粒子径を測定したところ、100nmであった。なお、粒径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドはトルエンを用いて測定し、溶媒屈折率は1.50とした。また、得られた分散液の溶媒を除去したあと、結晶子径を測定したところ32nmであった。
【0169】
次いで、この被覆膜形成用分散液Dへ表面処理剤を加えることなく、このまま比較例1にかかる赤外線吸収微粒子分散液とした。比較例1にかかる赤外線吸収微粒子分散液から真空流動乾燥により媒質を蒸発させ、比較例1にかかる赤外線吸収微粒子分散粉を得た。
【0170】
比較例1にかかる赤外線吸収微粒子分散粉とポリカーボネート樹脂を、赤外線吸収微粒子の濃度が0.075wt%になるようにドライブレンドした。得られたブレンド物を、二軸押出機を用いて290℃で混練し、Tダイより押出して、カレンダーロール法により0.75mm厚のシート材とし、比較例1にかかる赤外線吸収シートを得た。
【0171】
得られた比較例1にかかる赤外線吸収シートの光学特性を測定したところ、表4に示すように、可視光透過率が79.2%、波長800nm~1000nmの透過率の平均値が32.6%、ヘイズが1.0%であった。
【0172】
得られた比較例1にかかる赤外線吸収シートを85℃90%の湿熱雰囲気中に1000時間暴露後、光学特性を測定したところ、可視光透過率が81.2%、波長800nm~1000nmの透過率の平均値が40.3%、ヘイズが1.2%であった。湿熱雰囲気暴露による可視光透過率の変化量は2.0%、波長800nm~1000nmの透過率の平均値の変化量は7.7%となり、実施例と比較して大きいことが分かった。また、ヘイズの変化の割合は0.2%であった。
【0173】
なお、比較例1では被覆膜を形成していないため、赤外線吸収微粒子の含有成分についてICP発光分析を行っていない。また、炭素濃度についても測定していない。
【0174】
[比較例2、3]
比較例2、3では、表1に示すように、赤外線吸収微粒子の種類を変更した以外は比較例1と同様の操作を行った。具体的には、赤外線吸収微粒子の種類について、比較例1の六方晶セシウムタングステンブロンズ粉末から、比較例2ではRb/W(モル比)=0.33の六方晶ルビジウムタングステンブロンズ粉末に、比較例3ではマグネリ相のW1849にそれぞれ変更し、被覆膜形成用分散液E、Fを調製した。続いて、この分散液E、Fを用いて、赤外線吸収微粒子分散粉および赤外線吸収シートを得て、実施例1と同様の評価を実施した。なお、比較例2、3では被覆膜を形成していないため、赤外線吸収微粒子の含有成分についてICP発光分析を行っていない。また、炭素濃度についても測定していない。
【0175】
[比較例4]
比較例4では、表3に示すように、表面処理剤添加後の加熱処理条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。具体的には、実施例1と同様にして得られた被覆膜形成用分散液A890gをビーカーに入れ、羽根の付いた攪拌機によって強く攪拌しながら、ここへ表面処理剤a360gを3時間かけて滴下添加した。比較例4では、表面処理剤aの滴下添加後、温度20℃で24時間の攪拌を行い、熟成液を作製した。次いで、温度30℃72時間の真空流動乾燥により、熟成液から媒質を蒸発させて比較例4にかかる表面処理赤外線吸収微粒子を含む粉末を得た。比較例4にかかる表面処理赤外線吸収微粒子粉末の炭素濃度を測定したところ、表4に示すように、5.6質量%であった。得られた粉末を用いて、実施例1と同様の操作をすることで、比較例4にかかる赤外線吸収微粒子分散液、赤外線吸収微粒子分散粉、赤外線吸収シートを得て、実施例1と同様の評価を実施した。
【0176】
比較例4について、実施例1と同様に、赤外線吸収シートの中に含有されている表面処理赤外線吸収微粒子の素性を調査した。その結果、表4に示すように、55質量%のタングステン、4.1質量%のアルミニウムが含まれていることが分かった。タングステンはCs0.33WO微粒子起因の元素であることから、表面処理赤外線吸収微粒子中に83質量%のCs0.33WO微粒子が含まれていることが判明した。ここで、Cs0.33WOのZは3.0として算出した。さらに、水が3.1質量%含まれていることが分かった。ここから、実施例1と同様に、水和物に由来する水の含有量を算出したところ、0.30質量%となった。また、表4に示すように、炭素濃度が5.6質量%と5.0%を超えていることが分かった。このことから、比較例4の被覆膜においては、金属酸化物の水和物に由来する水が占める比率が小さく、被覆膜には、水和物まで加水分解しきれていない加水分解生成物が、水和物よりも多く残存していることが確認された。
【0177】
<評価結果>
表4および5に示すように、実施例1~9では、金属酸化物の水和物を含み、かつ炭素濃度が5.0質量%以下と少ない被覆膜を形成することにより、波長800nm~1000nmの光の透過率について暴露前後での変化量が1.5%以下であって、高い耐湿熱性を実現できることが確認された。また、波長800nm~1000nmの光の透過率について暴露前の初期値が32%以上55%以下であって、高い赤外線吸収特性を実現できることが確認された。また、ヘイズ値も1.2%以下と小さく、透明性に優れていることが確認された。
【0178】
これに対して、比較例1~3では、表5に示すように、波長800nm~1000nmの光の透過率について、暴露前の初期値は低いものの、暴露後の値が高くなり、耐湿熱性が低いことが確認された。これは、赤外線球種微粒子の表面に被覆膜を設けていないため、水分により赤外線吸収微粒子の表面が分解し、その赤外線吸収特性が低下したためと考えられる。
【0179】
また、比較例4では、表4に示すように、表面処理赤外線吸収微粒子における炭素濃度が5.6質量%であって、5.0質量%を超えていることが確認された。これは、比較例4では、加水分解生成物を含む付着膜を形成した後、加熱処理を施したものの、加熱処理が不十分で、加水分解生成物の加水分解があまり進まず、被覆膜に加水分解生成物が残存したためと考えられる。
【0180】
以上のように、本実施例によれば、表面処理赤外線吸収微粒子において、被覆膜を、所定量の金属酸化物の水和物を含み、かつ炭素濃度が所定値以下となるように構成することで、所望の高い赤外線吸収特性を維持しつつ、耐湿熱性を向上できることが確認された。
図1