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  • 特許-ナノメッシュシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ナノメッシュシート
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/257 20210101AFI20240918BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240918BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61B5/257
B32B7/023
B32B3/24 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020196634
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085127
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二宮 直哉
(72)【発明者】
【氏名】原田 千寛
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179907(WO,A1)
【文献】東京大学 他,「皮膚呼吸が可能な皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサーの開発に成功」,[online],2017年07月18日,インターネット<URL: https://www.jst.go.jp/pr/announce/20170718/index.html>、インターネット<URL: https://web.archive.org/web/20170719131010/https://www.jst.go.jp/pr/announce/20170718/index.html>
【文献】OH Ji Soo et al.,”Invisible Silver Nanomesh Skin Electrode via Mechanical Press Welding”,Nanomaterials,2020年03月28日,Vol. 10、No. 4、Article 633,pp. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/25-5/297
B32B 7/023
B32B 3/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水又はアルコール水溶液を滴下することで被着体に貼着した水溶性樹脂のナノメッシュ層と、導電性物質層と、が積層された被着体上のナノメッシュシートであって、
前記水溶性樹脂のナノメッシュ層のヘイズ値が12以下であり、
可視光透過率が95.0%以上99.9%以下であり、
UV光透過率が95.0%以上99.9%以下であり、
かつ、前記UV光透過率/前記可視光透過率の値が0.95以上1.0以下である、ナノメッシュシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性物質層を有するナノメッシュシートに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルな基材上にエレクトロニクスデバイスを形成する、フレキシブルエレクトロニクスが研究されており、生体への適用についても研究が進んでいる。
例えば、高い表面追従性を有し、長期間安定的に使用可能なものとして、開口部を有する基材と、開口部の周囲を外枠として懸架された繊維網を有する電子機能部材が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、通気性と伸縮性を兼ね備えた皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサーを、生体適合性がありかつ生分解性も期待できるポリビニルアルコール(PVA)樹脂を用いて作成することが提案されている(非特許文献1参照)。
【0004】
非特許文献1に開示されたナノメッシュセンサーは、エレクトロスピニング法により作成されたPVAナノファイバーのメッシュの一方の面に、導電性の金属等をコートしたものである。このナノメッシュセンサーを皮膚上におき、水を吹きかけることで導電性金属等のナノファイバーメッシュが皮膚表面に接着し、接着した導電性金属等のナノファイバーメッシュが皮膚の変形等に追随し、関節等への適用が可能で、各種センサーへの配線等に使用することができる。特に導電性金属等として金を用いること、メッシュ構造であり皮膚呼吸等を妨げないこと、により、ナノメッシュ装着に起因する不快感、炎症が発生することがきわめて少なくなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-112246号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】“皮膚呼吸が可能な皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサーの開発に成功”、[online]、東京大学、科学技術振興機構、慶應義塾大学、理化学研究所、[令和2年10月14日検索]、インターネット<URL:http://www.jst.go.jp/pr/announce/20170718/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示された方法のように、水を吹きかけてPVAナノファイバーのような水溶性樹脂を溶解させて導電性金属を皮膚表面に貼着する場合、一旦水に溶解した水溶性樹脂は、水の蒸発により皮膚表面上に再び皮膜を形成することとなる。この際に、皮膚表面上に再度形成された皮膜は、水溶性樹脂の種類や皮膜の厚みによっては、非常に目立つ存在になる場合があり、使用者が敬遠する恐れがあることに想到した。
本発明は、網目状の基体層上に、水溶性樹脂のナノメッシュ層と、導電性物質層と、を有するナノメッシュシートを被着体に貼着した際に初めて生じる、上記課題を解決するものである。
【0008】
更に、本発明者らは、被着体が皮膚である場合、外出時には上述した水溶性樹脂皮膜を形成した箇所と当該箇所以外の部分において日焼けの程度に差が生じてしまい、日焼け跡が目立つという問題点にも想到した。
本発明の別の課題は、このような局所的な日焼け跡のムラを緩和することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ね、導電性物質層を被着体上に貼着した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層のヘイズ値を特定の値以下とすることで上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、以下のものを含む。
[1]水溶性樹脂のナノメッシュ層と、導電性物質層と、が積層されたナノメッシュシートであって、
前記ナノメッシュシートの導電性物質層と被着体とを対向させて該ナノメッシュシートを被着体上に設置し、前記ナノメッシュ層側から水を滴下することで導電性物質層を被着体上に貼着した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層のヘイズ値が12以下である、ナノメッシュシート。
[2]前記ナノメッシュシートの導電性物質層と被着体とを対向させて該ナノメッシュシートを被着体上に設置し、前記ナノメッシュ層側から水を滴下することで導電性物質層を被着体上に貼着した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層の可視光透過率が95.0%以上99.9%以下である、[1]に記載のナノメッシュシート。
[3]前記ナノメッシュシートの導電性物質層と被着体とを対向させて該ナノメッシュシートを被着体上に設置し、前記ナノメッシュ層側から水を滴下することで導電性物質層を被着体上に貼着した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層のUV光透過率が95.0%以上99.9%以下である、[1]又は[2]に記載のナノメッシュシート。
[4]前記ナノメッシュシートの導電性物質層と被着体とを対向させて該ナノメッシュシートを被着体上に設置し、前記ナノメッシュ層側から水を滴下することで導電性物質層を被着体上に貼着した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層の、UV光透過率/可視光透過率の値が0.95以上1.0以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のナノメッシュシート。
【0011】
また、本発明者らは、上記別の課題を解決すべく検討を重ね、導電性物質層を被着体上に貼着した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層のUV光透過率/可視光透過率の値を特定の範囲とすることで上記別の課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち本発明はまた、以下のものを含む。
[5]水溶性樹脂のナノメッシュ層と、導電性物質層と、が積層されたナノメッシュシートであって、
前記ナノメッシュシートの導電性物質層と被着体とを対向させて該ナノメッシュシートを被着体上に設置し、前記ナノメッシュ層側から水を滴下することで導電性物質層を被着体上に貼着した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層の、UV光透過率/可視光透過率の値が0.95以上1.00以下である、ナノメッシュシート。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、被着体に貼着した後に水溶性樹脂が目立たないナノメッシュシートを提供できる。また、皮膚に貼着した後、局所的な日焼け跡ムラを緩和することができるナノメッシュシートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態のナノメッシュシートを示す断面模式図である。
図2】実施例における、ナノメッシュ層のヘイズ値、光透過率の測定ポイントを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本発明の一実施形態は、水溶性樹脂のナノメッシュ層と、導電性物質層と、が積層されたナノメッシュシートであって、前記ナノメッシュシートの導電性物質層と被着体とを対向させて該ナノメッシュシートを被着体上に設置し、前記ナノメッシュ層側から水を滴下することで導電性物質層を被着体上に貼着した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層のヘイズ値が12以下である、ナノメッシュシートである。図を用いて本実施形態に係るナノメッシュシートを説明する。
【0017】
図1に、本実施形態に係るナノメッシュシートの断面模式図を示す。
ナノメッシュシート100は、網目状の基体層10上に、水溶性樹脂のナノメッシュ層11と、導電性物質層12が積層された構成を有する。
網目状の基体層10は、水溶性樹脂のナノメッシュ層11及び導電性物質層12が積層された積層体を支持する。水溶性樹脂のナノメッシュ層11及び導電性物質層12が積層された積層体は非常に薄いため、網目状の基体層10上に積層されることが、貼着の容易性の観点から好ましい。網目状の基体層10としては、難溶性であり、網目から液体を透過できるものであれば特に限定されない。
網目状の基体層10の厚さは、水溶性樹脂のナノメッシュ層11及び導電性物質層12を支持できれば特段限定されず、通常10μm以上、好ましくは50μm以上であり、また通常5000μm以下、好ましくは1000μm以下である。
【0018】
網目状の基体層10は、液体を透過できればその網目の粗さは特段限定されないが、通常目開き50nm以上、好ましくは目開き100nm以上であり、また通常目開き20mm以下、好ましくは目開き10mm以下である。
網目状の基体層10の材質は特段限定されないが、被着体上へ貼付ける際の取り扱いが容易である観点から適度な弾性率を有する熱可塑性樹脂が挙げられ、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、などの汎用プラスチックを用いることができる。
網目状の基体層10は、多孔質フィルムなどの市販品を用いてもよく、既知の方法で製造してもよい。
【0019】
水溶性樹脂のナノメッシュ層11は、水溶性樹脂の繊維からなり、水溶性樹脂としてはポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリデン(PVP)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)などがあげられ、PVAが好ましい。PVAは水酸基、酢酸基、アセトアセチル基などを導入した、変性PVAであってもよい。
水溶性樹脂は、可溶性であれば特に限定されないが、通常溶解性が10%以上であり、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。ここでの溶解性とは、22±1℃の純水に1h浸漬した際の可溶性高分子重量の、浸漬前の可溶性高分子重量に対する減少割合のことである。
【0020】
水溶性樹脂のナノメッシュ層11は、典型的にはエレクトロスピニング法で作成される。エレクトロスピニング法では、上記網目状の基体層10を準備し、その上に水溶性樹脂のナノメッシュ層を形成する。エレクトロスピニング法は、特許文献1でも用いられた方法であり、当該文献を参照できる。この際のナノメッシュ層を構成する水溶性樹脂繊維の繊維径は、通常50nm以上1000μm以下であり、水への溶解性の観点から好ましくは100nm以上900μm以下である。ナノメッシュ層を構成する水溶性樹脂繊維の繊
維径は、例えばエレクトロスピニング法でいえば水溶液濃度、液供給速度、等により制御することができる。繊維径を細くしたい場合は、水溶液濃度を薄める、および/または、液供給速度を少なくすることで制御できる。一方で、繊維径を太くしたい場合は、水溶液濃度を濃くする、および/または、液供給速度を多くすることで制御できる。
【0021】
水溶性樹脂のナノメッシュ層11上には導電性物質層12が形成される。導電性材料は、導電性を有する限り特段限定されず、具体的には金、銀、銅、チタン、カーボン(炭素)等を用いることができ、導電性材料を透明にしたい場合にはITO(酸化インジウムスズ)を使用してもよい。これ以外の、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化インジウム、インジウム-ジルコニウム酸化物(IZO)、酸化チタン、酸化インジウム又は酸化亜鉛等の導電性金属酸化物を使用してもよい。ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングしたPEDOT:PSSや、ポリチオフェン誘導体にパラトルエンスルホン酸をドーピングしたPEDOT:PTS、ポリピロール又はポリアニリン等にヨウ素等をドーピングした導電性高分子材料を用いてもよい。これらのうち、生体への適用を考慮すると、金、カーボン、チタン、PEDOT:PSS、およびPEDOT:PTSが好ましく、特に好ましくは金である。
導電性物質層の形成方法は特に限定されず、ドライプロセス又は塗布法により形成される。ドライプロセスとしては、蒸着、スパッタリング、CVDなどが用いられる。このうち、蒸着により導電性物質層を形成することが最も簡単である。塗布法に特段の制限はないが、具体的には、ワイヤーバーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、スリットダイコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット等が挙げられる。
【0022】
水溶性樹脂のナノメッシュ層11の厚みは目的に応じて適宜設定すればよく、特段限定されないが、通常0.1μm以上であり、1μm以上であってよく、また通常100μm以下であり、80μm以下であってよい。
導電性物質層12の厚みは特段限定されないが、通常5nm以上であり、10nm以上であってよく、また通常2μm以下であり、1μm以下であってよく、500nm以下であってよい。
【0023】
水溶性樹脂のナノメッシュ層11の目付量は0.3g/m以上であることが好ましく、0.5g/m以上であることがより好ましい。また、3g/m以下であることが好ましく、2.5g/m以下であることがより好ましい。
目付量が上記範囲内であることで、ナノメッシュ層11の溶解性が適切な範囲となる傾向にあり、積層体を被着体へ貼り付けた際の通気性を十分なものとすることができる。ナノメッシュ層の目付量は、例えばエレクトロスピニング法でいえば印加電圧、紡糸時間、等により制御することができる。目付量を低減させたい場合は、印可電圧を低くする、および/または、紡糸時間を短くすることで制御できる。一方で、目付量を増加させたい場合は、印加電圧を高くする、および/または、紡糸時間を長くすることで制御できる。
【0024】
水溶性樹脂のナノメッシュ層11は、ナノメッシュシート100の導電性物質層12と被着体(図示せず)とを対向させて、ナノメッシュシート100を被着体上に設置し、前記網目状の基体層10側から水を滴下することで導電性物質層12を被着体上に貼着し、前記網目状の基体層10を除去した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層11のヘイズ値が12以下である。
【0025】
本実施形態では、水溶性樹脂のナノメッシュ層11が上記ヘイズ値を満たすことで、被着体上にナノメッシュシート100を貼着した際に、目立たないものとすることができる。一旦水に溶解した水溶性樹脂は、水の蒸発により被着体上に再び皮膜を形成することと
なり、水溶性樹脂の種類や皮膜の厚みによっては、非常に目立つ存在になる場合があったところ、本実施形態のナノメッシュシートにより、被着体に貼着させた後であっても、目立たなくすることができる。上記ヘイズ値は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましく、小さい値であるほどよいが、通常0.1以上である。
【0026】
また、水溶性樹脂のナノメッシュ層11は、ナノメッシュシート100の導電性物質層12と被着体(図示せず)とを対向させて、ナノメッシュシート100を被着体上に設置し、前記網目状の基体層10側から水を滴下することで導電性物質層12を被着体上に貼着し、前記網目状の基体層10を除去した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層11の可視光透過率が90.0%以上99.9%以下であってよく、95.0%以上99.9%以下であってもよい。可視光透過率が上記範囲であることで、ナノメッシュシートを被着体に貼着させた後、水溶性樹脂のナノメッシュ層11を目立たなくすることができる。
上記ヘイズ値及び可視光透過率は、水溶性樹脂のナノメッシュ層を構成する樹脂材料、繊維径、目付量、空隙率などを適宜調整することで、所望の値とすることができる。ヘイズ値は水溶性樹脂の皮膜における膜厚、繊維残存率と大きく関係しており、ヘイズ値を低減させたい場合は皮膜の膜厚を小さくする、および/または、皮膜中の繊維残存率を小さくすることで制御できる。一方、ヘイズ値を増加させたい場合は皮膜の膜厚を厚くする、および/または、皮膜中の繊維残存率を高くすることで制御できる。
【0027】
また、本発明の別の実施形態は、網目状の基体層上に、水溶性樹脂のナノメッシュ層と、導電性物質層と、がこの順に積層されたナノメッシュシートであって、前記ナノメッシュシートの導電性物質層と被着体とを対向させて該ナノメッシュシートを被着体上に設置し、前記網目状の基体層側から水を滴下することで導電性物質層を被着体上に貼着し、前記網目状の基体層を除去した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層の、UV光透過率/可視光透過率の値が0.95以上1.0以下である、ナノメッシュシートである。
【0028】
ナノメッシュシートを貼着する被着体が皮膚である場合、水溶性樹脂皮膜を形成した箇所と当該箇所以外の部分において日焼けの程度に差が生じてしまい、日焼け跡が目立つという問題点を、本発明者らは新たに見出した。このような問題点に対し本発明者らは、水溶性樹脂のナノメッシュ層のUV光透過率/可視光透過率の値を上記範囲とすることで、ナノメッシュシートを皮膚に貼着後、貼付け場所による日焼け跡のムラを抑制することが可能となった。
上記UV光透過率/可視光透過率の値は、0.98以上1.0以下であることが、より好ましい。この範囲とすることにより、広い波長範囲における波長毎の光線透過率の差を小さくすることができ、特に屋外での使用時などUV波長領域に比較的高い入射エネルギーを持つ光源に対して効果的である。
【0029】
また、水溶性樹脂のナノメッシュ層11は、ナノメッシュシート100の導電性物質層12と被着体(図示せず)とを対向させて、ナノメッシュシート100を被着体上に設置し、前記網目状の基体層10側から水を滴下することで導電性物質層12を被着体上に貼着し、前記網目状の基体層10を除去した後の水溶性樹脂のナノメッシュ層11のUV光透過率は一般的には80%以上であることが好ましい。上記ナノメッシュ層11のUV透過率は、90%以上であることが好ましく、小さい値であるほどよいが、通常99.9%以下である。
【0030】
上記水溶性樹脂のナノメッシュ層11のUV光透過率は、水溶性樹脂のナノメッシュ層11を構成する樹脂材料、膜厚、繊維径、目付量などを適宜調整することに加え、酸化チタンなどの金属微粒子や紫外線吸収剤を、ナノメッシュ層11を構成する樹脂材料に添加(練り込み)することなどにより、所望の値とすることができる。なお、ナノメッシュ層
11に金属微粒子や紫外線吸収剤を添加する場合、添加量を多くするとナノメッシュ層11のヘイズ値が高くなる傾向にあることから、添加量を適宜調整する必要がある。
UV光線透過率は水溶性樹脂の皮膜における繊維径、繊維残存率と大きく関係しており、通常のmmオーダーからμmオーダーの繊維集合体に比べて繊維が密に存在するため、nmオーダーの光を透過させずに拡散、散乱することが可能となる。そのため、UV光透過率を低くしたい場合は皮膜中の繊維残存率を多くすることで制御できる。一方、UV光透過率を高くしたい場合は皮膜中の繊維残存率を少なくすることで制御できる。
【0031】
本実施形態のナノメッシュシートは、網目状の基材層側を上にして皮膚などの被着体に貼付し、水溶性樹脂のナノメッシュ層に水を接触させることで水溶性樹脂のナノメッシュが溶け、水の乾燥と共に水溶性樹脂が接着剤として作用し、被着体に導電性物質層、即ち配線や導電回路を形成できる。
この時、水を使用してもよいが、水ではなくアルコール水溶液を用いてもよい。アルコール水溶液を用いることで、液体の乾燥速度が向上し、水溶性樹脂のナノメッシュの丸まりなどが起こりにくく、位置ずれが抑制されるため、好ましい。
【0032】
アルコールは、水を含む液体の蒸発を加速し得るものが好ましく、エチルアルコール又はメチルアルコール、イソプロピルアルコールを含むことが好ましく、これらが混合されていてもよい。また水との混合割合は5:95-98:2の範囲で選択することができる。このうち好ましくはエタノールの割合が90%~50%であり、特に消毒用に使用されるアルコール(エチルアルコール80%前後)が好ましい。また、界面活性剤等を含有することもできる。
【0033】
また、本実施形態に係るナノメッシュ積層体に対して、霧吹きを用いて、また、水などを含ませた脱脂綿等の担持体を用いて水などを供給することができる。ナノメッシュ積層体と担持体を一体的に用いることによって、容易に人体に導電回路を形成できることかできるため、例えば病気患者の各種パラメータを測定するためのセンサーを取り付ける際に、非常に容易となる。また、多くの患者に対して、安定して同じ回路を設けることができる。また、患者毎に形成された回路のバラツキが小さく、回路形成ミスを減少させることもできる。
【実施例
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。まずは、本実施例で行なった測定・評価試験について説明する。
【0035】
<水溶性樹脂皮膜のヘイズ値、全光線透過率の測定方法>
水溶性樹脂皮膜のヘイズ値、全光線透過率の測定は、図2に示すように、ナノメッシュシートをガラスプレート20に設置し、網目状基体層(図示せず)側から水を滴下することで導電性物質層22をガラスプレート20に水溶性樹脂の皮膜21を介して貼着し、乾燥後網目状基体層を除去し、ガラスプレート20上の水溶性樹脂皮膜21のみが存在する箇所で、ガラスプレート20に対し法線方向(図中上方から)から日本電色工業社製ヘイズメーターNDH7000を用いて測定した。ヘイズ値、全光線透過率の算出方法については、JIS K 7136に準拠して算出した。また、水溶性樹脂皮膜のみのヘイズ値、全光線透過率は、得られた測定値をガラスプレートのみのヘイズ値、全光線透過率でそれぞれ除して求めた。
【0036】
<水溶性樹脂皮膜の可視光領域、UV光領域の透過率の測定方法>
水溶性樹脂皮膜の可視光透過率、UV光透過率の測定は、図2に示すように、ナノメッシュシートをガラスプレート20に設置し、網目状基体層(図示せず)側から水を滴下す
ることで導電性物質層22をガラスプレート20に水溶性樹脂の皮膜21を介して貼着し、乾燥後網目状基体層を除去し、ガラスプレート20上の水溶性樹脂皮膜21のみが存在する箇所で、ガラスプレート20に対し法線方向(図中上方から)から日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U4100を用いて測定した。波長領域毎の光線透過率の算出方法については、JIS R 3106に準拠して算出した。また、水溶性樹脂皮膜のみの光線透過率は、得られた測定値をガラスプレートのみの光線透過率で除して求めた。
【0037】
<水溶性樹脂皮膜の視認性評価>
ナノメッシュシートを前腕の皮膚上に置き、網目状基体層側から水もしくはアルコール水溶液を滴下して皮膚上に水溶性樹脂を貼着し、乾燥後に網目状基体層を除去した。水溶性樹脂皮膜形成後に、明室下において30cm離れた位置から水溶性樹脂皮膜の貼付け部を観察し、皮膜が視認できるかを確認した。以下が評価基準である。
○:貼付け部とそれ以外の箇所の境界がほとんど区別できない。
△:貼付け部が部分的に視認可能である。
×:貼付け部が全体的に視認可能である。
【0038】
<水溶性樹脂皮膜の日焼け跡評価>
ナノメッシュシートを前腕の皮膚上に置き、網目状基体層側から水もしくはアルコール水溶液を滴下して皮膚上に水溶性樹脂を貼着し、乾燥後に網目状基体層を除去した。水溶性樹脂皮膜形成後に、AM1.5G条件で1000W/cmの照射強度で3時間照射した。照射後すぐに水溶性樹脂皮膜を完全に除去し、明室下において30cm離れた位置から水溶性樹脂皮膜の貼付け部を観察し、日焼け跡の状態を観察した。以下が評価基準である。
○:貼付け部とそれ以外の箇所の境界が全く区別できない。
△:貼付け部とそれ以外の箇所の境界がぼんやりと確認できる。
×:貼付け部とそれ以外の箇所の境界が鮮明に確認できる。
【0039】
(実施例1)
〔網状基材の準備〕
網状基材(開孔率26%、角穴並列型網、ポリプロピレン製、厚さ240μm)をカトーテック社製ドラム型エレクトロスピニング装置のナノメッシュ形成部(ドラム上)に装着した。
【0040】
〔ナノメッシュシートの製造〕
PVA(未変性、ケン化度88モル%、20重量%水溶液粘度1052mPa・s)を純水に溶解させ、20重量%粘度5mPa・sのPVA水溶液を作製し、紡糸液とした。
上記で準備した網状基材を設置したエレクトロスピニング装置に、かかる紡糸液を4ml、シリンジ中に投入し、シリンジ先端のノンベベル針18G(テルモ社製)に電極を取り付けて、エレクトロスピニングによりナノメッシュ層を製造し、繊維径300nm、目付量1.2g/mのナノメッシュシートを得た。エレクトロスピニング装置の設定は以下の通りである。
本実施例においては、導電性物質による回路が形成されたセンサー層の代わりに、回路形成がないナノメッシュシートを用いた。
<設定条件>
Target speed:5m/min
Traverse speed:10cm/min
シリンジ speed:0.050~0.080mm/min
電圧:15~20kV
成膜時間:15min
【0041】
実施例1によって得られたナノメッシュシートの評価を行なった。ナノメッシュシートを3cm角のサイズに切出し、4cm角、0.7mm厚のガラスプレート上にナノメッシュ層が接するように置く。その後約23℃の屋内環境において網目状基体層側から水を染み込ませた脱脂綿をガラスプレートに3分間押し当て、水溶性樹脂の皮膜をガラスプレートに貼着した。乾燥後、網目状基体層を除去したのちに水溶性樹脂の皮膜側を加湿器の噴霧口付近に3分間静置した。得られたガラスプレート上の水溶性樹脂皮膜をヘイズメーター、分光光度計でそれぞれ測定した。また、体温約36℃の被験者の前腕皮膚上に上述と同様の貼付け工程で水溶性樹脂皮膜を皮膚上に貼着し、視認性評価、日焼け跡評価をそれぞれ実施した。得られた結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2)
加湿器の噴霧を実施しないこと以外は、実施例1と同様の方法により水溶性樹脂皮膜を貼着し、同様の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
脱脂綿に染み込ませた液体をアルコール水溶液(エチルアルコール80%、水20%)とし、押し当てた時間を3分間に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法により水溶性樹脂皮膜を貼着し、同様の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
押し当てた時間を1分間に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により水溶性樹脂皮膜を貼着し、同様の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【符号の説明】
【0046】
100 ナノメッシュシート
10 網目状基体層
11 水溶性樹脂のナノメッシュシート
12 導電性物質層
20 ガラスプレート
21 水溶性樹脂の皮膜
22 導電性物質層
図1
図2