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特許7556290細胞培養の下地膜として使用するポリマーの製造方法及び細胞培養容器
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  • 特許-細胞培養の下地膜として使用するポリマーの製造方法及び細胞培養容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】細胞培養の下地膜として使用するポリマーの製造方法及び細胞培養容器
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20240918BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240918BHJP
   C08F 220/34 20060101ALI20240918BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20240918BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C12N5/07
C12M1/00 C
C08F220/34
C08F220/06
C08F220/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020538462
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2019032785
(87)【国際公開番号】W WO2020040247
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2018157444
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
(72)【発明者】
【氏名】広井 佳臣
(72)【発明者】
【氏名】安部 菜月
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-292957(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196650(WO,A1)
【文献】特表2003-523766(JP,A)
【文献】特開2016-192957(JP,A)
【文献】国際公開第2018/136015(WO,A1)
【文献】特表2009-524634(JP,A)
【文献】特開2014-162865(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093293(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/002796(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/204201(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/065279(WO,A1)
【文献】IWAI, R et al.,Induction of cell self-organization on weakly positively charged surfaces prepared by the deposition of polyion complex nanoparticles of thermoresponsive, zwitterionic copolymers,J Biomed Mater Res B Appl Biomater,105(5),2017年07月,pp.1009-1015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/07
C12M 1/00
C08F 220/34
C08F 220/06
C08F 220/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

[式中、
a1及びUa2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra1は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra2は、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]で表されるモノマー、下記式(II):
【化2】

[式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表す]で表されるモノマー、ラジカル重合開始剤及び有機溶媒を含む混合物を調製する調製工程、記混合物を昇温、撹拌し、モノマーを重合させポリマーを調製する重合工程、及び前記工程で得られるポリマーと、含水溶液を混合する工程を含む、細胞培養の下地膜形成剤の製造方法。
【請求項2】
さらに2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーを上記混合物中に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーが、下記式(III):
【化3】

[式中、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Reは、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、nは1~50の数を表す]で表されるモノマーである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマー中の式(I)で表されるモノマー由来の単位/式(II)で表されるモノマー由来の単位のモル比が、98/2~50/50である、請求項1~3何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
ポリマーの数平均分子量(Mn)が、20,000~1,000,000であり、かつポリマーの重量平均分子量(Mw)と前記数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.01~10.00である、請求項1~4何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5何れか1項に記載の製造方法により得られる細胞培養の下地膜形成剤を、容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程を含む、細胞培養の下地膜の製造方法。
【請求項7】
上記の塗布・乾燥工程前に、下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化4】

[式中、
a11、Ua12、Ub11、Ub12及びUb13は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
上記容器又は基板が、細胞の付着抑制能を有する、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5何れか1項に記載の製造方法により得られた細胞培養の下地膜形成剤を、容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程を含む、細胞培養容器の製造方法。
【請求項10】
上記塗布・乾燥工程前に、下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化5】

[式中、
a11、Ua12、Ub11、Ub12及びUb13は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
上記容器又は基板が、細胞の付着抑制能を有する、請求項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項9~11何れか1項に記載の製造方法により得られる細胞培養容器を使用する、細胞凝集塊の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養の下地膜として使用するポリマーの製造方法及び前記下地膜を備える細胞培養容器の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の重合体である、ポリ(2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)は、約32℃の曇点を有する温度応答性ポリマーとして知られている。
【0003】
従来のPDMAEMAの製造方法では、DMAEMAを含む混合物を調製して(調製工程)、その後、この混合物に紫外線を照射して(照射工程)DMAEMAをラジカル重合させることによって、PDMAEMAを製造する。
【0004】
ここで、PDMAEMAの側鎖に結合する、カチオン性の2-N,N-ジメチルアミノエチル基を含むエステル基の一部を、加水分解によりアニオン性のカルボキシル基に変換することによって、物性を変化させたPDMAEMA由来のポリマーを製造する需要も存在していた。
【0005】
しかしながら、上記従来のPDMAEMAの製造方法を用いて、カチオン性の2-N,N-ジメチルアミノエチル基、及びアニオン性のカルボキシル基を有するPDMAEMA由来のポリマーを製造する場合、側鎖にエステル基を介してカチオン性の2-N,N-ジメチルアミノエチル基を有するDMAEMAを、紫外線を照射によりラジカル重合させた後、エステル基の一部を加水分解することによって、アニオン性のカルボキシル基を生じさせる必要があり、製造に要する工程が多い、また加水分解の比率の制御が困難、さらに分子量制御が困難という問題があった。
【0006】
かかる問題を解決するため、特許文献1では、DMAEMAを水存在下で紫外線照射しラジカル重合させることによって、カチオン性官能基及びアニオン性官能基を有する、ポリ(2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)由来のポリマーの製造が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、上記PDMAEMAの製造方法を用いた場合でも、カチオン性官能基とアニオン性官能基の割合を制御するのが困難、また分子量の制御が困難という課題があり、さらにアニオン性官能基としてDMAEMAを加水分解したメタクリル酸のみしか使用できないという問題があった。
【0008】
特許文献2では、DMAEMAを水の非存在下で紫外線照射することによって、PDMAEMAを調製し、引き続きアニオン性モノマーを導入して紫外線照射することによって、DMAEMAブロック配列とDMAEMAとアニオン性モノマーのランダム配列を有するポリマーの製造が報告されている。上記製造方法ではアニオン性官能基の選択性を付与できる(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、上記の製造方法を用いた場合でもカチオン性官能基とアニオン性官能基の割合を制御するのは困難であり、また分子量や分子量分布の制御が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-162865号公報
【文献】特開2017-14323号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Wetering P et al, J Controlled Release 49, p59-69, 1997.
【文献】Wetering P at al, Macromolecules 31, p8063-8068, 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、紫外線のような光照射に拠らず、カチオン性官能基を有するモノマーと、好ましくはさらにアニオン性官能基を有するモノマーとから、ポリ(2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)由来のポリマーを、分子量や分子量分布を制御しながら、好ましくはカチオン性官能基とアニオン性官能基の割合を制御しながら簡便に製造すること、さらに上記ポリマーを含む細胞培養の下地膜、細胞培養の下地膜形成剤及び細胞培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである:
[1]
下記式(I):
【化1】

[式中、
a1及びUa2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra1は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra2は、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]で表されるモノマー、ラジカル重合開始剤及び有機溶媒を含む混合物を調製する調製工程、及び前記混合物を昇温、撹拌し、モノマーを重合させ重合体を調製する重合工程
を含む、細胞培養の下地膜として使用するポリマーの製造方法。
【0014】
[2]
さらに式(II):
【化2】

[式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表す]で表されるモノマーを上記混合物中に含む、[1]に記載のポリマーの製造方法。
【0015】
[3]
さらに2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーを上記混合物中に含む、[1]又は[2]に記載のポリマーの製造方法。
【0016】
[4]
上記2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーが、下記式(III):
【化3】

[式中、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Reは、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、nは1~50の数を表す]で表されるモノマーである、[3]に記載のポリマーの製造方法。
【0017】
[5]
前記ポリマー中の式(I)で表されるモノマー由来の単位/式(II)で表されるモノマー由来の単位のモル比が、100/0~50/50である、[1]~[4]何れか一項に記載のポリマーの製造方法。
【0018】
[6]
ポリマーの重量平均分子量(Mn)が、20,000~1,000,000であり、かつポリマーの重量平均分子量(Mw)と前記数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.01~10.00である、[1]~[5]何れか1項に記載のポリマーの製造方法。
【0019】
[7]
細胞を接着させた後に剥離させて、細胞凝集塊を得るための細胞培養の下地膜として使用するポリマーである、[1]~[6]いずれか1項記載のポリマーの製造方法。
【0020】
[8]
[1]~[7]何れか1項に記載の製造方法により得られるポリマーと、含水溶液を混合する工程を含む、細胞培養の下地膜形成剤の製造方法。
【0021】
[9]
[8]記載の製造方法により得られる細胞培養の下地膜形成剤を、容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程を含む、細胞培養の下地膜の製造方法。
【0022】
[10]
上記の塗布・乾燥工程前に、下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化4】

[式中、
a11、Ua12、Ub11、Ub12及びUb13は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程をさらに含む、[9]に記載の細胞培養の下地膜の製造方法。
【0023】
[11]
上記容器又は基板が、細胞の付着抑制能を有する、[9]に記載の細胞培養の下地膜の製造方法。
【0024】
[12]
[8]に記載の製造方法により得られた細胞培養の下地膜形成剤を、容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程を含む、細胞培養容器の製造方法。
【0025】
[13]
上記塗布・乾燥工程前に、下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化5】

[式中、
a11、Ua12、Ub11、Ub12及びUb13は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程をさらに含む、[12]に記載の細胞培養容器の製造方法。
【0026】
[14]
上記容器又は基板が、細胞の付着抑制能を有する、[12]に記載の細胞培養容器の製造方法。
【0027】
[15]
下記式(I):
【化6】

[式中、
a1及びUa2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra1は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra2は、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]で表されるモノマー由来の単位を含む重合体を細胞培養の下地膜として使用する、細胞凝集塊の製造方法。
【0028】
[16]
上記重合体が、さらに式(II):
【化7】

[式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表す]で表されるモノマー由来の単位を含む共重合体である、[15]に記載の細胞凝集塊の製造方法。
【0029】
[17]
下記式(I):
【化8】

[式中、
a1及びUa2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra1は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra2は、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]で表されるモノマー由来の単位を含む重合体の、細胞を接着させた後に剥離させて、細胞凝集塊を得るための細胞培養の下地膜としての使用。
【0030】
[18]
上記重合体が、さらに式(II):
【化9】

[式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表す]で表されるモノマー由来の単位を含む共重合体である、[17]に記載の、細胞を接着させた後に剥離させて、細胞凝集塊を得るための細胞培養の下地膜としての使用。
【発明の効果】
【0031】
本願発明によれば、紫外線のような光照射に拠らず、カチオン性官能基を有するモノマーと、好ましくはさらにアニオン性官能基を有するモノマーとから、ポリ(2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)由来のポリマーを、分子量や分子量分布を制御しながら、さらにはカチオン性官能基とアニオン性官能基の割合を任意に制御しながら簡便に製造することができる。分子量を制御しながら製造することで、基材に対する塗布性を容易に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例2の(塗布膜の表面形状観察)にて、合成例3及び合成例8のポリマーの接触針膜厚計による表面形状測定結果を示す図である。
図2】実施例4の(4-3.細胞付着実験)にて、合成例3及び合成例4のポリマーを下地膜として備えるポリマーコーティングプレートにおける接着細胞の様子を観察した写真である。
図3】実施例4の(4-4.細胞凝集塊の観察)にて、合成例3及び合成例4のポリマーを下地膜として備えるポリマーコーティングプレートにおける細胞凝集塊の様子を観察した写真である。
図4】実施例5の(5-3.細胞付着実験)にて、合成例1、10、11及び12のポリマーを下地膜として備えるポリマーコーティングディッシュにおける細胞の様子を観察した写真である。
図5】実施例5の(5-4.細胞凝集塊の観察)にて、合成例1、10、11及び12のポリマーを下地膜として備えるポリマーコーティングディッシュにおける細胞凝集塊の様子を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[細胞培養の下地膜として使用するポリマー]
本願の細胞培養の下地膜として使用するポリマーは、
下記式(I):
【化10】
【0034】
[式中、
a1、Ua2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra1は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra2は、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]で表されるカチオン性モノマーを重合することで得られる。
【0035】
上記ポリマーは、上記式(I)で表されるカチオン性モノマーと共に、下記式(II):
【化11】

[式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表す]で表されるアニオン性モノマーを重合することで得られる共重合体であることが好ましい。
【0036】
本明細書において、他に定義のない限り、「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基又は1-エチルプロピル基が挙げられる。
a1及びRは、それぞれ独立して、水素原子及びメチル基から選ばれることが好ましい。
a1及びUa2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基及びn-ブチル基から選ばれることが好ましいが、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0037】
本明細書において、他に定義のない限り、「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基」としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチル-テトラメチレン基、2-メチル-テトラメチレン基、1,1-ジメチル-トリメチレン基、1,2-ジメチル-トリメチレン基、2,2-ジメチル-トリメチレン基、1-エチル-トリメチレン基等が挙げられる。これらの中で、Ra2としてはエチレン基及びプロピレン基から選ばれることが好ましい。
【0038】
したがって、上記式(I)で表されるカチオン性モノマーとしては、2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N-イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられ、2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。上記式(II)で表されるアニオン性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられ、メタクリル酸が好ましい。
【0039】
前記ポリマー中の式(I)で表されるモノマー由来の単位/式(II)で表されるモノマー由来の単位のモル比が、100/0~50/50である。好ましくは98/2~50/50である。より好ましくは98/2~60/40であり、特に好ましくは98/2~70/30である。
式(II)のモル比が51以上であると、ポリマーのアニオン性が過剰となり、細胞の接着力が低下するためである。
【0040】
(2つ以上の炭素―炭素不飽和結合を有するモノマー)
上記ポリマーは、式(I)/式(II)で表されるモノマーと共に、さらに2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとを重合することで得られるポリマーであってもよい。2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとは、具体的には、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有するモノマーであり、例えば多官能アクリレート化合物、多官能アクリルアミド化合物、多官能ポリエステル、又はイソプレン化合物などが挙げられる。
【0041】
好ましい具体例としては下記式(III)~(V)で表されるモノマーが挙げられる。
【化12】
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Reは、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、nは1~50の数を表す。これらの中で、式(III)で表されるモノマーであることが好ましい。
【0045】
前記ポリマー全体に対する式(III)~(V)で表されるモノマーのモル比は、0~5.0%であることが好ましい。さらに好ましくは0~3.0%である。
式(III)~(V)のモル比が5.0%以上であると、過度な架橋による高分子量化により、製造中にゲル化して製造を困難にする恐れがあるためである。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子及びメチル基から選ばれることが好ましい。
はメチレン基、エチレン基及びプロピレン基から選ばれることが好ましく、エチレン基が最も好ましい。
nは1~50の数であるが、nは1~30の数であることが好ましく、nは1~10の数であることが好ましい。
【0046】
前記ポリマー全体に対する式(II)で表されるモノマーの占めるモル%の値と、前記調製工程時のモノマー仕込み量全体に対する式(II)で表される単量体の占めるモル%の値の差が、0~10モル%である。本願のポリマーは後述する製造方法により、モノマー仕込み比と、製造されたポリマーの実測値との差が少なく、0~10モル%である。さらに好ましくは0~8モル%である。
【0047】
前記ポリマーの数平均分子量(Mn)は、20,000~1,000,000であり、50,000~800,000であることがさらに好ましい。
【0048】
前記ポリマーの重量平均分子量(Mw)と前記数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.01~10.00であり、1.2~8.0であることが好ましく、1.4~6.0であることが好ましく、1.5~5.0であることが好ましく、1.6~4.5であることが好ましい。
【0049】
前記数平均分子量(Mn)と数平均分子量(Mn)は、例えば実施例に記載のGel Filtration Chromatographyにより求めることができる。
本願のポリマーを利用することで、細胞を接着させた後に剥離させて細胞凝集塊を形成させることが可能である。なお細胞凝集塊とは、細胞が凝集した結果形成する構造体を示し、球状やリング状などのように形状が限定されない。従来の細胞低接着プレート上での非接着培養により作製される細胞凝集塊と比較し、接着面積の規定による細胞凝集塊のサイズ調整(任意の大きさの細胞凝集塊が製造できる)などの点でメリットがある。
【0050】
[細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造方法]
本願のポリマーは、熱重合法により製造することができる。例えば上記式(I)のモノマーを有機溶媒に溶解し、ラジカル重合開始剤を添加、必要に応じて次いで上記式(II)、さらに必要に応じて2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマー(式(III)~(V)で表されるモノマー等)を加え混合物とした後、十分に攪拌して均一とした後、窒素フローしながら、例えば51℃以上、例えば51~180℃、51~150℃、51~130℃、51~100℃、例えば溶媒のリフラックス温度(例えばテトラヒドロフランでは66~85℃)に昇温して、例えば1~48時間攪拌することで重合体(ポリマー)が得られる。得られたポリマーを再沈殿、透析により精製してもよい。
【0051】
一の実施態様では、上記式(I)のモノマーを溶媒に溶解し、重合開始剤を添加、必要に応じて次いで上記式(II)のモノマーを、溶媒中で、両化合物の合計濃度0.01質量%乃至40質量%にて反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。
【0052】
上記重合において使用する有機溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの炭素原子数1乃至4の脂肪族アルコール溶媒、トルエンなどの芳香族炭化水素溶媒あるいはその混合溶媒が挙げられる。
【0053】
重合反応を効率的に進めるためには、ラジカル重合開始剤を使用することが望ましい。ラジカル重合開始剤の例としては、ジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物(VA-057、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)(VAm-110、富士フイルム和光純薬(株)製)などのアゾ重合開始剤が挙げられる。
重合開始剤の添加量としては、重合に用いられるモノマーの合計重量に対し、0.05質量%~5質量%である。
重合開始剤の使用は、重合反応の効率化のみならず、末端官能基の修飾によるポリマー物性の調整が可能となる。
【0054】
[細胞培養の下地膜形成剤の製造方法]
前記ポリマーに、自体公知の方法にて含水溶液を混合させることで、細胞培養の下地膜形成剤が製造できる。
含水溶液とは、水、生理食塩水又はリン酸緩衝溶液などの塩含有水溶液、あるいは水又は塩含有水溶液とアルコールとを組み合わせた混合溶媒が挙げられる。アルコールとしては、炭素原子数2乃至6のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(=ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(=t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、単独で又はそれらの組み合わせの混合溶媒を用いてもよい。
さらに下地膜形成剤は、上記共重合体と溶媒の他に、必要に応じて得られる下地膜の性能を損ねない範囲で他の物質を添加することもできる。他の物質としては、pH調整剤、架橋剤、防腐剤、界面活性剤、容器又は基板との密着性を高めるプライマー、防カビ剤及び糖類等が挙げられる。
【0055】
[細胞培養の下地膜の製造方法、細胞培養容器の製造方法、細胞培養容器]
前記細胞培養の下地膜形成剤を、容器又は基板の表面に塗布し乾燥することにより、細胞培養の下地膜、該下地膜を含む細胞培養容器が製造できる。ここで「表面」とは、細胞又は細胞培養液などの内容物と接する面を指す。
容器又は基板としては、例えば、細胞の培養に一般的に用いられるペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュなどのシャーレ又はディッシュ、細胞培養フラスコ、スピナーフラスコなどのフラスコ、プラスチックバッグ、テフロン(登録商標)バッグ、培養バッグなどのバッグ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレートなどのプレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、ローラーボトルなどのボトル等が挙げられる。好ましくは、シャーレ又はディッシュ、プレート、トレイが挙げられる。
【0056】
また、容器又は基板の材質は、例えば、ガラス、金属、金属含有化合物若しくは半金属含有化合物、活性炭又は樹脂を挙げることができる。金属は、典型金属:(アルカリ金属:Li、Na、K、Rb、Cs;アルカリ土類金属:Ca、Sr、Ba、Ra)、マグネシウム族元素:Be、Mg、Zn、Cd、Hg;アルミニウム族元素:Al、Ga、In;希土類元素:Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu;スズ族元素:Ti、Zr、Sn、Hf、Pb、Th;鉄族元素:Fe、Co、Ni;土酸元素:V、Nb、Ta、クロム族元素:Cr、Mo、W、U;マンガン族元素:Mn、Re;貴金属:Cu、Ag、Au;白金族元素:Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等が挙げられる。金属含有化合物若しくは半金属含有化合物は、例えば基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体であるセラミックス、シリコンのような半導体、金属酸化物若しくは半金属酸化物(シリコン酸化物、アルミナ等)、金属炭化物若しくは半金属炭化物、金属窒化物若しくは半金属窒化物(シリコン窒化物等)、金属ホウ化物若しくは半金属ホウ化物等の無機化合物の成形体等の無機固体材料、アルミニウム、ニッケルチタン、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)が挙げられる。
【0057】
樹脂としては、天然樹脂若しくはその誘導体、又は合成樹脂いずれでもよく、天然樹脂若しくはその誘導体としては、セルロース、三酢酸セルロース(CTA)、ニトロセルロース(NC)、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等、合成樹脂としてはポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)又はテフロン(登録商標)が好ましく用いられる。本発明の細胞培養容器の製造では、重合体を、容器又は基板の表面の少なくとも一部に存在するようにコーティングする際に、高温での処理を要しないため、耐熱性が低い樹脂等も適用可能である。
【0058】
容器又は基板の材質は1種類であっても2種類以上の組み合わせであってもよい。これらの材質の中において、ガラス、シリコン、シリコン酸化物、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、テフロン(登録商標)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)若しくはステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)単独、又はこれらから選ばれる組み合わせであることが好ましく、ガラス、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であることが特に好ましい。
【0059】
本願の細胞培養の下地膜形成剤の塗布の方式としては、例えばインクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法、ロール・トゥー・ロール法等を用いることが出来るが、好ましくはインクジェット法又はスクリーン印刷等の印刷技術で行われる。
【0060】
別の塗布方法としては、例えば該容器を上記下地膜形成剤に浸漬する、下地膜形成剤を容器に添加し、所定の時間静置する、又はコーティング剤を容器又は基板の表面に塗布する等の方法が用いられるが、容器、一態様として細胞培養容器の場合は、下地膜形成剤を容器に添加し、所定の時間静置する方法によって行われる。添加は、例えば、容器の全容積の0.5乃至1倍量の下地膜形成剤を、シリンジ等を用いて添加することによって行うことができる。静置は、容器又は基板の材質や細胞培養の下地膜形成剤の種類に応じて、時間や温度を適宜選択して実施されるが、例えば、1分から24時間、好ましくは5分から3時間、10乃至80℃で実施される。これにより、容器の表面の少なくとも一部に、好ましくは全体にわたって、細胞培養の下地膜を有する細胞培養容器を製造することができる。
【0061】
また、かかる方法により得られる容器又は基板の表面の細胞培養の下地膜は、上記容器又は基板の表面の少なくとも一部と接触させる工程後、好ましくは細胞培養の下地膜形成剤を添加し、所定の時間静置する工程後、乾燥工程を経ずにそのまま、あるいは水又は細胞培養に付される試料の媒質(例えば、水、緩衝液、培地等)を用いての洗浄後に、細胞培養容器として使用することができる。
【0062】
すなわち、上記容器又は基板の表面の少なくとも一部と接触させる工程後、好ましくは細胞培養の下地膜形成剤を添加し、所定の時間静置する工程後、48時間以内、好ましくは24時間以内、さらに好ましくは12時間以内、さらに好ましくは6時間以内、さらに好ましくは3時間以内、さらに好ましくは1時間以内に乾燥工程を経ずにそのまま、あるいは水又は細胞培養に付される試料の媒質(例えば、水、緩衝液、培地等、特に好ましくは培地(例えば、DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地))を用いての洗浄後に、細胞培養容器として使用することができる。
【0063】
容器は、乾燥工程に付してもよい。乾燥工程は、大気下又は真空下にて、好ましくは、温度-200℃乃至200℃の範囲内で行なう。乾燥工程により、上記下地膜形成剤中の溶媒を取り除くことで、基体へ完全に固着する。
【0064】
下地膜は、例えば室温(10℃乃至35℃、好ましくは20℃乃至30℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速に下地膜を形成させるために、例えば40℃乃至50℃にて乾燥させてもよい。乾燥温度が-200℃未満であると、一般的ではない冷媒を使用しなければならず汎用性に欠けることと、溶媒昇華のために乾燥に長時間を要し効率が悪い。乾燥温度が200℃超であると、ポリマーの熱分解が生じる。より好ましい乾燥温度は10℃乃至180℃、より好ましい乾燥温度は20℃乃至150℃である。
【0065】
本願の細胞培養の下地膜は、以上の簡便な工程を経て製造される。
また、細胞培養の下地膜に残存する不純物、未反応モノマー等を無くすために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる少なくとも1種の溶媒で洗浄する工程を実施してもよい。洗浄は、流水洗浄又は超音波洗浄等が望ましい。上記水及び電解質を含む水溶液は例えば40℃乃至95℃の範囲で加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。固着後は水、PBS及びアルコール等で洗浄してもコーティング膜は溶出せずに基体に強固に固着したままである。
【0066】
本願の細胞培養の下地膜の膜厚は、最大膜厚と最小膜厚が1~1000nmの範囲であり、好ましくは5~500nmの範囲である。
【0067】
上記下地膜の塗布・乾燥工程前に、容器又は基板が細胞の付着抑制処理を施されたものであってよい。細胞の付着抑制能を有する容器又は基板は、例えば公知の細胞の付着抑制能を持つコーティング膜形成用組成物を塗布する工程を経て製造出来る。細胞の付着抑制能を有するコーティング膜形成組成物としては、下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化15】

[式中、
a11、Ua12、Ub11、Ub12及びUb13は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
と、溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を容器又は基板の表面に塗布し乾燥する工程を含むことが好ましい。
【0068】
炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基は、上述のものと同一である。
上記コーティング膜形成用組成物は例えば、WO2014/196650に記載されているコーティング膜形成用組成物が使用できる。
上記コーティング膜形成用組成物の塗布方法としては、特に制限は無く、通常のスピンコート、ディップコート、溶媒キャスト法等の塗布法が用いられる。
【0069】
上記コーティング膜の乾燥工程は、大気下又は真空下にて、温度-200℃乃至180℃の範囲内で行なう。乾燥工程により、上記コーティング膜形成用組成物中の溶媒を取り除くと共に、上記共重合体の式(a)及び式(b)同士がイオン結合を形成して基体へ完全に固着する。
【0070】
上記コーティング膜は、例えば室温(10℃乃至35℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速にコーティング膜を形成させるために、例えば40℃乃至50℃にて乾燥させてもよい。またフリーズドライ法による極低温~低温(-200℃乃至-30℃前後)での乾燥工程を用いてもよい。フリーズドライは真空凍結乾燥と呼ばれ、通常乾燥させたいものを冷媒で冷却し、真空状態にて溶媒を昇華により除く方法である。フリーズドライで用いられる一般的な冷媒は、ドライアイスとメタノールを混合媒体(-78℃)、液体窒素(-196℃)等が挙げられる。
【0071】
乾燥温度が-200℃以下であると、一般的ではない冷媒を使用しなければならず汎用性に欠けることと、溶媒昇華のために乾燥に長時間を要し効率が悪い。乾燥温度が200℃以上であると、コーティング膜表面のイオン結合反応が進みすぎて該表面が親水性を失い、生体物質付着抑制能が発揮されない。より好ましい乾燥温度は10℃乃至180℃、より好ましい乾燥温度は25℃乃至150℃である。
【0072】
乾燥後、該コーティング膜上に残存する不純物、未反応モノマー等を無くすため、さらには膜中の共重合体のイオンバランスを調節するために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる1以上の溶媒で流水洗浄又は超音波洗浄等で洗浄することが望ましい。上記水及び電解質を含む水溶液は例えば40℃乃至95℃の範囲で加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。固着後は水、PBS及びアルコール等で洗浄してもコーティング膜は溶出せずに基体に強固に固着したままである。形成されたコーティング膜は生体物質が付着してもその後水洗等にて容易に除去することができ、上記コーティング膜が形成された基体表面は、生体物質の付着抑制能を有する。
上記コーティング膜の膜厚は、好ましくは5~1000nmであり、さらに好ましくは5~500nmである。
【0073】
また、上記細胞培養容器として、市販の細胞低接着処理済みの細胞培養皿、細胞の付着抑制能を有する細胞培養器を使用してもよい、例えば特開2008-61609号公報に記載されている細胞培養容器が使用できるが、これに限定されるものではない。
【0074】
細胞の付着抑制能を有するとは、例えばWO2016/093293の実施例に記載した方法で行う蛍光顕微鏡によるコーティング膜無し、又は細胞低吸着処理無しと比較した場合の相対吸光度(WST O.D.450nm)(%)((実施例の吸光度(WST O.D.450nm))/(比較例の吸光度(WST O.D.450nm)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味する。
【0075】
[細胞凝集塊の製造方法]
本願の細胞凝集塊の製造方法は、下記式(I):
【化16】
【0076】
[式中、
a1、Ua2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra1は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Ra2は、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]で表されるモノマー由来の単位を含む重合体より得た細胞培養の下地膜の上で、それ自体公知の方法、例えば実施例に記載の方法で行う細胞凝集塊の製造方法である。
上記細胞培養の下地膜は、式(I)で表されるモノマー由来の単位と共に、下記式(II):
【0077】
【化17】

[式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表す]で表されるモノマー由来の単位を含む共重合体より得た下地膜であることが好ましい。
【実施例
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
<分子量の測定方法>
下記合成例に示す重量平均分子量はGel Filtration Chromatography(以下、GFCと略称する)による結果である。
(測定条件)
・装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
・GFCカラム:TSKgel G6000+3000PWXL-CP
・流速:1.0ml/min
・溶離液:塩含有の水/有機混合溶媒
・カラム温度:40℃
・検出器:RI
・注入濃度:ポリマー固形分0.05質量%
・注入量:100μL
・検量線:三次近似曲線
・標準試料:ポリエチレンオキサイド(Agilent社製)×10種
【0080】
<合成例1>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(1)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)9.00gにテトラヒドロフラン27.04gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.01gを、20℃以下に保ちながら、上記テトラヒドロフラン溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ホモポリマーが得られた(収量:6.4g、収率:71%)。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は250,000、多分散度は2.0であった(合成例ポリマー1)。
【0081】
<合成例2>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(2)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)9.00gにテトラヒドロフラン37.10gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.02g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.26gを、20℃以下に保ちながら、上記テトラヒドロフラン溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた(収量:6.6g、収率:71%)。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は24,000、多分散度は2.0であった(合成例ポリマー2)。
【0082】
<合成例3>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(3)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00gにテトラヒドロフラン41.94gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.01g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.48gを、20℃以下に保ちながら、上記テトラヒドロフラン溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた(収量:7.3g、収率:69%)。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は290,000、多分散度は1.9であった(合成例ポリマー3)。
【0083】
<合成例4>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(4)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)9.00gにテトラヒドロフラン38.26gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.02g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.55gを、20℃以下に保ちながら、上記テトラヒドロフラン溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた(収量:7.2g、収率:75%)。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は250,000、多分散度は1.9であった(合成例ポリマー4)。
【0084】
<合成例5>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(5)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)9.00gにテトラヒドロフラン41.00gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.02g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)1.23gを、20℃以下に保ちながら、上記テトラヒドロフラン溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた(収量:5.8g、収率:57%)。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は270,000、多分散度は2.1であった(合成例ポリマー5)。
【0085】
<合成例6>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(6)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)9.00gにテトラヒドロフラン44.58gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.03g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)2.11gを、20℃以下に保ちながら、上記テトラヒドロフラン溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた(収量:9.6g、収率:86%)。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は270,000、多分散度は2.4であった(合成例ポリマー6)。
【0086】
<合成例7>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(7)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00gにテトラヒドロフラン41.94gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.01g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.48g、ポリエチレングリコールジメタクリレート(n=約4)(東京化成工業(株)製)0.21gを、20℃以下に保ちながら、上記テトラヒドロフラン溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は660,000、多分散度は3.8であった(合成例ポリマー7)。
【0087】
<合成例8>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(8)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00gにエタノール43.30gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.31g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.48gを、20℃以下に保ちながら、上記エタノール溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は88,000、多分散度は2.4であった(合成例ポリマー8)。
【0088】
<合成例9>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(9)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00gにテトラヒドロフラン41.94gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.01g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.48gを、20℃以下に保ちながら、上記テトラヒドロフラン溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながら60℃まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は140,000、多分散度は2.5であった(合成例ポリマー9)。
【0089】
<合成例10>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(10)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00gにエタノール31.46gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.01g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.48gを、20℃以下に保ちながら、上記エタノール溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は770,000、多分散度は4.1であった(合成例ポリマー10)。
【0090】
<合成例11>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(11)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00gにエタノール43.90gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.01g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.97gを、20℃以下に保ちながら、上記エタノール溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は660,000、多分散度は3.6であった(合成例ポリマー11)。
【0091】
<合成例12>熱重合による細胞培養の下地膜形成剤として使用するポリマーの製造(10)
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00gにエタノール70.00gを加え十分に溶解した。次いでジメチル 1,1'-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.01g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)2.35gを、20℃以下に保ちながら、上記エタノール溶液に加えた。十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで重合体が反応生成物として得られた。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。得られた紛体を純水に溶解させ、溶液を透析チューブに移した。透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性ポリマーが得られた。GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は570,000、多分散度は3.6であった(合成例ポリマー12)。
【0092】
<比較合成例1>光重合によるポリマーの製造(1)
容量30mLの軟質ガラス製の透明なバイアル瓶に、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00g、及び水500μLを加えて、十分に攪拌して均一にした。そして、この混合物(液体)に対して窒素ガスを15分間パージすることにより、この混合物を脱酸素した。
その後、この反応物に対して、高圧水銀ランプ(USHIO社製、型番:UM-102)を用いて、照度計にて365nmにおける照度が0.1mW/cm2となるように距離を調整して約25℃で19時間紫外線照射することにより、上記反応物を重合させた。反応物は、5時間後に粘性を帯び18時間後に固化(ゲル化)して、重合体が反応生成物として得られた。この反応生成物は2-プロパノールに対して難溶性であり、一部溶解した部分のみを透析チューブに移した。なお溶解液は糸引き粘性体であり取り扱いが困難だった。そして、透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、比較合成例ポリマー1が得られた(収量:1.5g、収率:15%)。
【0093】
<比較合成例2>光重合によるポリマーの製造(2)
容量30mLの軟質ガラス製の透明なバイアル瓶に、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00g、及び水1000μLを加えて、十分に攪拌して均一にした。そして、この混合物(液体)に対して窒素ガスを15分間パージすることにより、この混合物を脱酸素した。
その後、この反応物に対して、高圧水銀ランプ(USHIO社製、型番:UM-102)を用いて、照度計にて365nmにおける照度が0.1mW/cm2となるように距離を調整して約25℃で19時間紫外線照射することにより、上記反応物を重合させた。反応物は、5時間後に粘性を帯び18時間後に固化して、重合体が反応生成物として得られた。この反応生成物は2-プロパノールに対して難溶性であり、一部溶解した溶液のみを透析チューブに移した。なお溶解液は糸引き粘性体であり取り扱いが困難だった。そして、透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、比較合成例ポリマー2が得られた(収量:2.6g、収率:26%)。
【0094】
<比較合成例3>光重合によるポリマーの製造(3)
容量30mLの軟質ガラス製の透明なバイアル瓶に、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)10.00g、及び水500μLを加えて、十分に攪拌して均一にした。そして、この混合物(液体)に対して窒素ガスを15分間パージすることにより、この混合物を脱酸素した。
その後、この反応物に対して、高圧水銀ランプ(USHIO社製、型番:UM-102)を用いて、照度計にて365nmにおける照度が0.1mW/cm2となるように距離を調整して約25℃で19時間紫外線照射することにより、上記反応物を重合させた。反応物は、5時間後に粘性を帯び18時間後に固化して、重合体が反応生成物として得られた。この反応生成物は2-プロパノールに対して難溶性であり、一部溶解した溶液のみを透析チューブに移した。なお溶解液は糸引き粘性体であり取り扱いが困難だった。そして、透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液をグラスファイバー製の1.0μmフィルター(アズワン社製、型番:SYGF0605MNXX104)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、比較合成例ポリマー3が得られた(収量:3.3g、収率:33%)。
【0095】
<実施例1>(ポリマーの1H-NMR測定による組成解析)
合成例ポリマー1~12、比較合成例ポリマー1~3の核磁気共鳴スペクトル(NMR)を、核磁気共鳴装置(BRUKER社製、型番:ASCEnd500)を用いて、重水(DO)を標準物質として測定した。下記には、合成例ポリマー1~合成例ポリマー6に共通する代表的なピークを示す。
【0096】
1H-NMR (in D2O) δ 0.8-1.2 (br, -CH2-C(CH3)-), 1.6-2.0 (br, -CH2-C(CH3)-), 2.2-2.4 (br, -N(CH3)2), 2.5-2.7 (br, -CH2-N(CH3)2), 4.0-4.2 (br, -O-CH2-).
【0097】
ここで、主鎖のメチル基-CH2-C(CH3)-(δ 0.8-1.2)のプロトン数(DMAEMAのホモポリマーの場合はモノマー1分子につき3個)Aと、側鎖の-O-CH2-基(δ 4.0-4.2)のメチルプロトン数(DMAEMAのホモポリマーの場合はモノマー1分子につき2個)Bとから、側鎖が有するアミノ基の官能基数と、側鎖のカルボキシル基の官能基数との比を算出した。
その結果、熱重合で合成した合成例1から12のメタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(以下、「DM」と略す)/メタクリル酸(以下、「MA」と略す)の組成比について、合成例1の場合は100/0、合成例2の場合は95/5、合成例3の場合は95/5、合成例4の場合は88/12、合成例5の場合は82/18、合成例6の場合は76/24、合成例7の場合は89/11、合成例8~10の場合は92/8、合成例11の場合は85/15、合成例12の場合は70/30、となった。光重合で合成した比較合成例の場合について、比較合成例1、2、3の全てにおいて99/1となりDMとMAの比率の制御が困難であった。上記の結果から、熱重合により合成したポリマーでは、光重合により合成したポリマーと比較して、DMとMAの比率が制御でき、さらに高収率でポリマーを得られることが確認された。
詳細な結果を表1に示す。
【0098】
合成例1~12で合成したポリマーについて、重量平均分子量Mwの範囲は88,000~770,000と幅広い範囲で作り分けることが可能だった。また分子量分布(PDI)の範囲は、1.9~4.1となっており、小さい分布から比較的大きな分布まで作り分けることが可能だった。またいずれのポリマーもゲル化することなく合成できた。一方、光重合にて本ポリマーを合成した場合は分子量の制御や分子量分布を小さい領域で制御することが難しい。例えば特許公報(特許第5746240号)では比較合成例1と同様の方法で合成した場合はPDI=3.0、比較合成例2と同様の方法で合成した場合はPDI=4.3、比較合成例3と同様の方法で合成した場合はPDI=7.4、となることが記されている。また光重合では合成時に全てのポリマーがゲル化してしまい、分子量だけでなく反応自体の制御が難しい。分子量分布が極端に大きくなると、低分子量成分の溶出や高分子量成分の析出も懸念される。これらを踏まえると熱重合を用いてポリマーを合成することで、光重合で合成した場合と比較して、分子量や分子量分布を制御しつつ、安定にポリマーを製造できる。
【0099】
【表1】
【0100】
<実施例2> 塗布膜の表面形状測定
分子量の異なる実施例ポリマー3、8をそれぞれ滅菌水で0.5mg/mLの濃度となるように溶解させ、細胞培養の下地膜形成剤を製造した。インクジェット装置(MICROJET社製、型番:LaboJet-600)を用いて、ヘキサメチルジシラザン処理したシリコン基板に200nLずつ塗布した。室温で5分間乾燥させて膜を硬化後に、微細形状測定機((株)小坂研究所製、型番:ET-4000A)を用いて、塗布膜の表面形状を測定した。測定条件は測定力100μN、送り速さ0.05mm/secとした。
合成例ポリマー3(Mw=290,000)では塗布膜の周辺部が盛り上がっており、内部は平坦な形状となった。一方で合成例ポリマー8(Mw=88,000)では、塗布膜周辺部の盛り上がりに加え中心部にも盛り上がりが観測された。ポリマーの分子量及び分子量分布により、塗布膜の断面形状が変化することが分かった。
【0101】
<実施例3> 細胞培養の下地膜形成剤製造用のポリマー水溶液の製造
合成例ポリマー1~合成例ポリマー12をそれぞれ滅菌水で1mg/mLの濃度となるように溶解させ、ポリマー水溶液1~12を製造した。
【0102】
<実施例4:細胞凝集塊製造試験>
(4-1.細胞低接着プレートの調製)
WO2014/196650の実施例30に記載の製造方法に従って、共重合体含有ワニスからコーティング溶液を調製した。調製したコーティング溶液を、12穴細胞培養プレート(BDバイオサイエンス社製、#351143)のウェルに500μL(固形分0.5質量%)/ウェルとなるよう添加し、室温にて1時間静置後、過剰のコーティング溶液を除去した。オーブン(アドバンテック東洋(株)製、乾燥機FC-612)を用いて50℃で一晩乾燥させた。その後、滅菌水を1ウェルあたり500μL添加後、除去して洗浄を行った。同様にさらに2回洗浄を行い、50℃で一晩乾燥させて細胞低接着プレートを得た。
【0103】
(細胞培養の下地膜形成剤の製造、細胞培養の下地膜として使用するポリマーコーティングプレートの調製)
合成例ポリマー3及合成例ポリマー4から得られた1mg/mLのポリマー水溶液を滅菌水で100μg/mLになるよう希釈して、細胞培養の下地膜形成剤3及び4を製造した。製造したポリマー水溶液を上記細胞低接着プレート上へ1μLずつ滴下し、室温で30分間乾燥させることにより、試験に用いる細胞培養の下地膜として使用するポリマーコーティングプレートを得た。
【0104】
(4-2.細胞の調製)
細胞は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(PromoCell社製)を用いた。細胞の培養に用いた培地は、間葉系幹細胞増殖培地MesenchymalStemCellGrowthMedium2(PromoCell社製)を用いた。細胞は、37℃/COインキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、直径10cmのシャーレ(培地10mL)を用いて2日間以上静置培養した。引き続き、本細胞をHepesBSS溶液(PromoCell社製)4mlで洗浄した後、トリプシン-EDTA溶液(PromoCell社製)4mLを添加して室温で5分間静置した。TrypsinNeutralizingSolution(PromoCell社製)を4mL添加して細胞を剥がし、回収した。本懸濁液を遠心分離((株)トミー精工製、型番LC-230、200×g/3分、室温)後、上清を除き、上記の培地を添加して細胞懸濁液を調製した。
【0105】
(4-3.細胞付着実験)
上記にて調製したプレートに対して、細胞懸濁液を5.9×10cells/well(1.75×10cells/cm)となるように各500μL加えた。その後、5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃/COインキュベーター内にて3.5時間静置した。静置後、非接着細胞と培地を除去し、PBSで洗浄することで接着細胞のみをウェル上へ残した。洗浄後、新しい培地を500μL/well添加し、倒立型リサーチ顕微鏡IX73(オリンパス(株)製)を用いて接着細胞の様子を観察、撮影した。その結果、図2に示すように、細胞培養の下地膜形成剤3、細胞培養の下地膜形成剤4をコーティングした箇所への細胞の付着が確認された。
【0106】
(4-4.細胞凝集塊の観察)
上記にて試験したプレートを37℃/COインキュベーター内にてさらに1日間静置した。静置後、倒立型リサーチ顕微鏡IX73(オリンパス(株)製)を用いて、細胞の様子を観察した。その結果、図3に示すように細胞培養の下地膜形成剤3と細胞培養の下地膜形成剤4上に接着した細胞がプレートから剥がれて凝集し、細胞凝集塊(スフェロイド)を形成していることが確認された。このことから、本願のポリマーを含む下地膜は、細胞培養容器の下地膜として有用であることが示された。
【0107】
<実施例5:細胞凝集塊製造試験>
(5-1.細胞培養の下地膜形成剤の製造及び細胞培養の下地膜として使用するポリマーコーティングプレートの調製)
合成例1、合成例10、合成例11及び合成例12から得られた1mg/mLのポリマー水溶液を滅菌水で50μg/mLになるよう希釈して、細胞培養の下地膜形成剤5、6、7及び8を製造した。製造したポリマー水溶液を細胞低接着ディッシュ(住友ベークライト社製,#MS-9035X)上へ1μLずつ滴下し、50℃で30分間乾燥させることにより、試験に用いる細胞培養の下地膜として使用するポリマーコーティングディッシュを得た。
【0108】
(5-2.細胞の調製)
細胞は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(PromoCell社製)を用いた。細胞の培養に用いた培地は、間葉系幹細胞増殖培地MesenchymalStemCellGrowthMedium2(PromoCell社製)を用いた。細胞は、37℃/COインキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、直径10cmのシャーレ(培地10mL)を用いて2日間以上静置培養した。引き続き、本細胞をHepesBSS溶液(PromoCell社製)4mlで洗浄した後、トリプシン-EDTA溶液(PromoCell社製)4mLを添加して室温で5分間静置した。TrypsinNeutralizingSolution(PromoCell社製)を4mL添加して細胞を剥がし、回収した。本懸濁液を遠心分離((株)トミー精工製、型番LC-230、220×g/3分、室温)後、上清を除き、上記の培地を添加して細胞懸濁液を調製した。
【0109】
(5-3.細胞付着実験)
上記にて調製したプレートに対して、細胞懸濁液を2.7×10cells/3mL/dish(3×10cells/cm)となるように加えた。その後、5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃/COインキュベーター内にて2時間静置した。静置後、非接着細胞と培地を除去し、PBSで洗浄することで接着細胞のみをウェル上へ残した。洗浄後、新しい培地を2mL/dish添加し、EVOS FL Auto(ThermoFisherScientific社製)を用いて接着細胞の様子を観察、撮影した。その結果、図4に示すように、細胞培養の下地膜形成剤5、細胞培養の下地膜形成剤6、細胞培養の下地膜形成剤7及び細胞培養の下地膜形成剤8をコーティングした箇所への細胞の付着が確認された。
【0110】
(5-4.細胞凝集塊の観察)
上記にて試験したプレートを、引き続きEVOS FL Autoを用いてタイムラプス撮影した。タイムラプス撮影は37℃/5%CO条件下で、同一視野をそれぞれ1時間おきに撮影した。その結果、図5に示すように細胞培養の下地膜形成剤5、細胞培養の下地膜形成剤6、下地膜形成剤7、及び下地膜形成剤8上に接着した細胞がプレートから剥がれて凝集し、細胞凝集塊(スフェロイド)を形成していることが確認された。このことから、本願のポリマーを含む下地膜は、細胞培養容器の下地膜として有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の製造方法で得られるポリマーは、細胞培養の下地膜形成剤として使用できる。本発明の下地膜形成剤を用いて、細胞培養の下地膜、それを含む細胞培養容器が製造できる。
図1
図2
図3
図4
図5