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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】熱伝導性グリース
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20240918BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C09K5/14 101E
H01L23/36 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021016514
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119422
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 智
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】木部 龍夫
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-518927(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0315625(US,A1)
【文献】特開2006-241277(JP,A)
【文献】特開2009-046639(JP,A)
【文献】特開2008-280516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
C10M101/00-177/00
H01L23/29-23/473
H05K7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末充填剤と、基油と、を含有する熱伝導性グリースであって、
前記無機粉末充填剤は、モリブデナイトを含有するし、
前記無機粉末充填剤を、熱伝導性グリース全量中80質量%以上98質量%以下の割合で含有する
熱伝導性グリース。
【請求項2】
無機粉末充填剤と、基油と、を含有する熱伝導性グリースであって、
前記無機粉末充填剤は、モリブデナイトを含有し、
前記基油を、熱伝導性グリース全量中2質量%以上20質量%以下の割合で含有する
熱伝導性グリース。
【請求項3】
前記モリブデナイトを、熱伝導性グリース全量中0.1質量%以上の割合で含有する
請求項1又は2に記載の熱伝導性グリース。
【請求項4】
前記無機粉末充填剤は、銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含有する
請求項1からのいずれかに記載の熱伝導性グリース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率を有する熱伝導性グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体部品の中には、コンピューターのCPUやインバーター、コンバーター等の電源制御用のパワー半導体のように使用中に発熱をともなう部品がある。これらの半導体部品を熱から保護し、正常に機能させるためには、発生した熱をヒートシンク等の放熱部品へ伝導させ放熱する方法がある。熱伝導性グリースは、これら半導体部品と放熱部品を密着させるように両者の間に塗布され、半導体部品の熱を放熱部品に効率よく伝導させるために用いられる。
【0003】
熱伝導性グリースは、液状炭化水素やシリコーン油やフッ素油等の基油に、酸化亜鉛、酸化アルミニウムなどの金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物や、アルミニウムや銅などの金属粉末等、熱伝導率の高い充填剤が多量に分散されたグリース状組成物である。例えば、特定の表面改質剤を配合したもの(特許文献1、2等参照)等が開示されている。
【0004】
一般に熱伝導性グリースの熱伝導性は、半導体部品(発熱体)と放熱部品の界面での熱抵抗と反比例する。熱抵抗を低減させるためには、例えば、2面間を加圧した際に熱伝導性グリースが薄く広がって2面間距離が短くなるように、熱伝導性グリースの展性を高くする方法が知られている。熱伝導性グリースを高展性とするには、熱伝導性充填剤の充填率を低くし、柔らかい性質にすることが望ましい。
【0005】
しかしながら、熱伝導性グリースの熱伝導性は熱伝導性充填剤の含有量にも依存するものであり、同じ厚みであれば熱伝導性充填剤の充填率が低下すると熱伝導率も下がる。また、展性が高すぎると、熱伝導性グリースの流動性が増加する。すると、熱伝導性グリースが塗布部分からはみ出し、その内部にボイド(空隙)が発生して良好な放熱効率を維持できなくなる場合がある。この現象をポンプアウトと呼び、部品寿命を決定する重要な特性となっている。なお、このようなポンプアウト性を改善する方法が特許文献3~5に開示されている。
【0006】
一方、熱伝導性充填剤の充填率を高くすると熱伝導性グリースの展性が低下し、熱伝導性グリースが薄く広がることができなくなる。このように、熱伝導性グリースは、展性と熱伝導性充填剤の充填率とのバランスを取ることが重要となり、使用目的に応じて熱伝導性グリースの配合が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-122307号公報
【文献】特開2008-280516号公報
【文献】特開2018-076423号公報
【文献】特願2009-134943号公報
【文献】特願2006-092718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、エレクトロニクス機器における半導体素子は、小型化・高性能化に伴い、発熱密度及び発熱量も増大している。このため、長期間に渡って十分な熱伝導性を維持できる熱伝導性グリースが求められる。
【0009】
ところが、従来の熱伝導性グリースでは、長期間に渡って十分な熱伝導性を維持することは必ずしも容易ではなかった。
【0010】
本発明は、長期間に渡って十分な熱伝導性を維持することのできる熱伝導性グリースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、モリブデナイトを含有する熱伝導性グリースであれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のものを提供する。
【0012】
本発明の第1は、無機粉末充填剤と、基油と、を含有する熱伝導性グリースであって、前記無機粉末充填剤は、モリブデナイトを含有する熱伝導性グリースである。
【0013】
本発明の第2は、第1の発明において、前記無機粉末充填剤を、熱伝導性グリース全量中80質量%以上98質量%以下の割合で含有する熱伝導性グリースである。
【0014】
本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記モリブデナイトを、熱伝導性グリース全量中0.1質量%以上の割合で含有する熱伝導性グリースである。
【0015】
本発明の第4は、第1から第3のいずれかの発明において、前記基油を、熱伝導性グリース全量中2質量%以上20質量%以下の割合で含有する熱伝導性グリースである。
【0016】
本発明の第5は、第1から第4のいずれかの発明において、前記無機粉末充填剤は、銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含有する熱伝導性グリースである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱伝導性グリースは、長期間に渡って十分な熱伝導性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
≪1.熱伝導性グリース≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、無機粉末充填剤と、基油と、を含有する。そして、無機粉末充填剤は、モリブデナイトの粉末(単に「モリブデナイト」ともいう)を含有することを特徴とする。
【0020】
本発明者らの研究により以下のことが明らかとなった。すなわち、発熱部品と放熱部品が使用中に発熱して熱変形を繰り返すと、その両者の間に塗布された熱伝導性グリースに含有されている無機粉末充填剤によってその塗布面が摩耗する。すると、その摩耗した部分により半導体部品(発熱部品)全体の放熱効率が低下してしまい、長期間に渡って十分な熱伝導性を維持することができなくなる。
【0021】
特に、発熱部品の放熱面に銅板を使用し、その銅板にニッケルメッキが施されている場合にはニッケルメッキが摩耗することで銅板が露出し、熱伝導グリースと銅板が接触することがある。すると、銅の触媒作用によって熱伝導性グリースに含まれる基油の酸化劣化が促進されてしまい、半導体部品(発熱部品)全体の放熱効率がさらに低下することがある。
【0022】
そこで、モリブデナイトを含有する無機粉末充填剤を使用することで、熱伝導性グリースの塗布面が摩耗することを効果的に抑制して、半導体部品(発熱部品)全体の放熱効率が低下することを抑制することが可能となって、長期間に渡って十分な熱伝導性を維持できるようになる。
【0023】
以下、熱伝導性グリースに含まれる各成分について説明する。
【0024】
<1-1.無機粉末充填剤>
(1)無機粉末充填剤
無機粉末充填剤は、熱伝導性グリースに高い熱伝導性を付与する。無機粉末充填剤は、金属酸化物、無機窒化物、金属、ケイ素化合物、カーボン材料などの粉末が好適に用いられる。無機粉末充填剤の種類は1種類であってもよいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、後述するモリブデナイトも無機粉末充填剤に該当するが、ここでは、モリブデナイトとは異なる無機粉末充填剤について説明する。
【0025】
無機粉末充填剤は、電気絶縁性を求める場合には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、ダイヤモンドなどの、半導体やセラミックなどの非導電性物質の粉末が好適に使用でき、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカの粉末がより好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムの粉末が特に好ましい。これらの無機粉末充填剤をそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0026】
また、電気絶縁性を求めず、より高い熱伝導性を求める場合には、アルミニウム、銀、銅などの金属粉末や、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素材料粉末が好適に使用でき、金属粉末がより好ましく、金属アルミニウムの粉末が特に好ましい。また、金属粉末や炭素材料粉末を上記の非導電性物質の粉末と組み合わせて用いることもできる。
【0027】
これらの中でも銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含有するものであることが好ましい。これらの無機粉末充填剤は熱伝導性が高いものであるが、硬度が高いものである。このため、これらの無機粉末充填剤を含有すると、熱伝導性グリースが塗布された部品の表面に摩耗がより生じやすくという問題が発生しやすい。モリブデナイトを含有する本実施の形態に係る熱伝導性グリースであれば、熱伝導性グリースの塗布面が摩耗することを効果的に抑制することができるので、これらの無機粉末充填剤をさらに含有することで、塗布面の摩耗を抑制しながら、熱伝導性グリースの熱伝導性を高める効果を享受することが可能となる。
【0028】
(2)モリブデナイト
モリブデナイトとは、モリブデンの硫化物(MoS)である。本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、無機粉末充填剤の一部にモリブデナイトを含有することにより、熱伝導性グリースに高い熱伝導性を付与するとともに、熱伝導性グリースの塗布面での耐摩耗性を効果的に向上させることができる。なお、無機粉末充填剤は、モリブデナイトのみからなるものであってもよい。
【0029】
この理由は必ずしも明らかではないが、モリブデナイトを含有する熱伝導性グリースによれば、その熱伝導性グリースの塗布面においてモリブデナイトが劈開(へきかい)して部品の表面に加わる応力が緩和されるためであると考えられる。
【0030】
熱伝導性グリース中におけるモリブデナイトの含有量は、特に限定されないが、熱伝導性グリース全量中0.1質量%以上の割合で含有することが好ましく、0.5質量%以上の割合で含有することがより好ましい。モリブデナイトの含有量が0.1質量%以上の割合であることにより、熱伝導性グリースの塗布面が摩耗することをより効果的に抑制することができる。また、熱伝導性グリース中におけるモリブデナイトの含有量は、特に限定されないが、熱伝導性グリース全量中20.0質量%以下の割合であることが好ましく、15.0質量%以下の割合であることがより好ましい。
【0031】
(3)無機粉末充填剤の平均粒径及び含有量
本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいて、無機粉末充填剤の平均粒径は1種類であってもよい。無機粉末充填剤は、平均粒径0.15μm以上3μm以下の細粒の無機粉末充填剤を用いることが好ましい。平均粒径を0.15μm以上とすることで、表面改質剤を含む基油からなる液体成分に対する無機粉末充填剤の比表面積が大きくなりすぎず、熱伝導性グリースに適したより高いちょう度を得ることができる。一方、平均粒径を3μm以下とすることで、より高い熱伝導率とすることができ、また離油もしづらくなる。
【0032】
また、無機粉末充填剤の平均粒径は1種類であってもよいが、平均粒径が大きく異なる2種類以上の無機粉末充填剤を組み合わせて用いてもよい。上記の細粒と、平均粒径5μm以上50μm以下の粗粒の無機粉末を組み合わせることができる。この場合には、粗粒の平均粒径を50μm以下とすることで塗膜を十分薄く保つことができ、実装時の熱伝導性を十分高くすることができる。一方、粗粒の平均粒径は5μm以上とすることでより高い熱伝導率を得やすくすることができる。
【0033】
なお、無機粉末充填剤の平均粒径はレーザー回折散乱法(JIS R 1629:1997に準拠)により測定した粒度分布の体積平均径として算出できる。
【0034】
また、無機粉末充填剤を細粒と粗粒の組み合わせとする場合の質量比は、細粒:粗粒=20:80~85:15の範囲で混合するのが好ましい。粗粒を2種類以上組み合わせる場合には粗粒同士の質量比は特に限定されないが、この場合にも細粒の質量比を無機粉末充填剤のうち20質量%以上85質量%以下の範囲にするのが好ましい。細粒と粗粒の配合比を上記範囲とすることで、無機粉末充填剤の表面積と液体成分の量のバランスが良好となり、塗布に適切なちょう度を得ることができる。また、粗粒と細粒のバランスが充填密度を高くするのに適しており、離油もしづらくなる。
【0035】
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、無機粉末充填剤の含有量の下限は特に限定されないが、熱伝導性グリース全量中80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。無機粉末充填剤の含有量が80質量%以上であることで熱伝導性グリースの熱伝導性を十分に高くすることができる。
【0036】
特に、無機粉末充填剤の含有量が多いと、熱伝導性グリースが塗布された部品の表面に摩耗がより生じやすくなる。モリブデナイトを含有する本実施の形態に係る熱伝導性グリースであれば、熱伝導性グリースの塗布面が摩耗することを効果的に抑制することができるので、無機粉末充填剤の含有量が多いことによる塗布面の摩耗を抑制しながら、熱伝導性グリースの熱伝導性高める効果を享受することが可能となる。
【0037】
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、無機粉末充填剤の含有量の上限は特に限定されないが、熱伝導性グリース全量中98質量%以下であることが好ましく、96質量%以下であることがより好ましい。熱伝導性グリース全量中98質量%以下であることで、相対的に基油等の他の成分の含有量が増加するので、熱伝導性グリースの状態に調製が容易となる。
【0038】
<1-2.基油>
基油としては、特に制約はなく、一般的な熱伝導性グリースに用いられている油を用いることができ、例えば、鉱油、合成炭化水素基油、エステル系基油、エーテル系基油等を使用することができる。これらの基油は後述するポリサルファイドが可溶である油であり、ポリサルファイドを含有する場合には特に好ましい。
【0039】
合成炭化水素基油としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリ-α-オレフィン又はこれらの水素化物等を単独で、もしくは2種以上を混合して使用することができる。中でもポリ-α-オレフィンがより好ましい。また、アルキルベンゼンやアルキルナフタレン等を用いることもできる。
【0040】
エステル系基油としては、ジエステルやポリオールエステルが挙げられる。ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4以上36以下の脂肪族二塩基酸が好ましい。エステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4以上26以下の一価アルコール残基が好ましい。ポリオールエステルとしては、従来から高温用潤滑油の基油として用いられてきたものを用いることができる。特に、ポリオールエステルのアルコール成分がジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンまたはネオペンチルグリコールであるものが好適に用いられる。
【0041】
ポリオールエステルの酸成分は、特に限定されないが、潤滑油の粘度が所望の範囲になるように適宜選択できる。酸成分としては、炭素数7以上10以下の直鎖状もしくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸などが使用でき、分岐鎖状の脂肪酸がより好適に用いられる。具体的には、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2-エチルペンタン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2-エチル-2-メチルブタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、2-プロピルペンタン酸、2,2-ジメチルへキサン酸、2-エチル-2-メチルヘプタン酸、2-メチルオクタン酸、2,2-ジメチルヘプタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、2,2-ジメチルオクタン酸等を挙げることができる。特に、3,5,5-トリメチルヘキサン酸が耐熱性に優れているため好ましい。
【0042】
エーテル系基油としては、ポリグリコールや(ポリ)フェニルエーテル等が挙げられる。ポリグリコールとしては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、及びこれらの誘導体等が挙げられる。(ポリ)フェニルエーテルとしては、モノアルキル化ジフェニルエーテル、ジアルキル化ジフェニルエーテル等のアルキル化ジフェニルエーテルや、モノアルキル化テトラフェニルエーテル、ジアルキル化テトラフェニルエーテル等のアルキル化テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、モノアルキル化ペンタフェニルエーテル、ジアルキル化ペンタフェニルエーテル等のアルキル化ペンタフェニルエーテル等が挙げられる。
【0043】
熱伝導性グリース中における基油の含有量の下限は特に限定されないが、基油の含有量は熱伝導性グリース全量中1.5質量%以上の割合であることが好ましい。基油の含有量が1.5質量%以上の割合であることにより、熱伝導性グリースに含まれる基油成分が適切な量となり、グリースの状態に維持することができる良好なちょう度とすることができる。熱伝導性グリース中における基油の含有量の上限は特に限定されないが、基油の含有量は熱伝導性グリース全量中25質量%以下の割合であることが好ましい。基油の含有量が25質量%以下の割合であることにより、高温環境における流出や離油をより効果的に防ぐことができ、周辺が基油によって汚染されることを抑制することができる。
【0044】
<1-3.ポリサルファイド>
本実施の形態に係る熱伝導性グリースはポリサルファイドを含有してもよい。ポリサルファイドとは、2つの硫黄原子が直接連結した-S-S-結合を含む有機硫黄化合物である。ポリサルファイドを熱伝導性グリースに含有させることにより、熱伝導性グリースに還元特性を付与し、これにより、熱伝導性グリースが塗布された部品の表面が摩耗により腐食することを効果的に抑制できる。
【0045】
ポリサルファイドの含有量は、特に限定はされないが、基油組成物100質量%に対して0.1質量%以上であることが好ましい。ポリサルファイドの含有量が0.1質量%以上であることにより、熱伝導性グリースが塗布された部品の表面が腐食することをより効果的に抑制できる。
【0046】
ポリサルファイドの含有量は、特に限定はされないが、ポリサルファイドの含有量は基油組成物100質量%に対して5.0質量%以下であることが好ましい。5.0質量%を超えても還元特性の効果はそれ以上に向上せず不経済であり、かつ、余剰なポリサルファイドが熱伝導性グリースとしての保管安定性に影響を及ぼす可能性がある。
【0047】
<1-4.その他の成分>
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、耐食性を損なわない範囲で、上記の各成分の他の成分(その他の成分)を含有することができる。その他の成分としては、拡散防止剤、増ちょう剤、酸化防止剤等を挙げることができる。
【0048】
基油拡散防止剤としては、パーフルオロアルキル基を含有する拡散防止剤を用いることができる。
【0049】
増ちょう剤としては、ポリブテン、ポリメタクリレート、脂肪酸塩、ウレア化合物、石油ワックス、ポリエチレンワックス、有機処理ベントナイト、シリカ等が挙げられる。
【0050】
酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、イオウ系、リン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、HALS等の化合物が挙げられる。
【0051】
≪2.熱伝導性グリースの製造方法≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、各成分を混合することにより製造する。製造方法としては均一に成分を混合できればその方法には特に限定はされない。一般的な製造方法としては、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサーなどにより混練りを行い、グリース状にした後、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法がある。
【0052】
≪3.熱伝導性グリースの性状≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリースのちょう度は200以上であれば使用可能であるが、塗布性、拡がり性、付着性、離油防止性などの点から250以上400以下であることが好ましく、300以上400以下であることがより好ましく、330以上400以下であることが特に好ましい。
【実施例
【0053】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
≪実施例、比較例≫
熱伝導性グリース用の材料として、下記(1)、(2)に示す各材料を準備した。
【0055】
(1)無機粉末充填剤
アルミナ1:平均粒径 11μm
アルミナ2:平均粒径 0.6μm
モリブデナイト:SFG(アマックス・サイプラス社)
(2)基油
ポリオールエステル 日本油脂社製:ユニスターH481R
【0056】
下記表1に示す配合割合で上記材料(1)、(2)を配合し、プラネタリーミキサーにて混合してグリース状とした。その後、三本ロールによる混錬を行うことにより各材料が十分に分散された、実施例及び比較例の熱伝導性グリースを製造した。
【0057】
[評価]
製造した各熱伝導性グリースの試料を用いて、以下の方法で耐摩耗性、熱伝導率を評価した。
【0058】
(耐摩耗性)
耐摩耗性の評価は、リングオンディスク式の摩擦摩耗試験機を用いて測定した比摩耗量による加速試験で行った。比摩耗量の測定は、プラスチックの滑り摩耗試験方法であるJIS K7218(1986)のA法に準じて行い、評価対象の円板試験片には一般的なヒートシンク材質であるアルミ材(A5052P)を用い、相手材料の接触する表面部分に100μmの膜厚で各実施例及び比較例の熱伝導性グリースの試料を塗布した。相手材料にはSUS304製の中空円筒を用い、荷重を10、50、150、300Nと変化させた際の摩耗量より、アルミの比摩耗量を算出した。算出測定結果を表1に示す(表1中「耐摩耗性」と表記)。
【0059】
なお、グリースを塗布しないアルミ板自身の比摩耗量は概ね10×10-4mm/(N/mm・m/s・hr)だったため、比摩耗量が10×10-4 mm/(N/mm・m/s・hr)以下の場合を良好と判断できる。
【0060】
(熱伝導率)
京都電子工業(株)製迅速熱伝導率計QTM-500を用いて室温にて実施例及び比較例の熱伝導性グリースの熱伝導率を測定した。この測定結果を表1に示す(表1中「熱伝導率」と表記。)。
【0061】
【表1】
【0062】
表1より、モリブデナイトを含有する実施例の熱伝導性グリースは、いずれも比摩耗量が10.0×10-4mm/(N/mm・m/s・hr)よりも低く、熱伝導性グリースの塗布面での耐摩耗性を向上させることができることが分かる。
【0063】
さらに、実施例1と実施例2との熱伝導性グリースを比較すると、無機粉末充填剤の含有量が同量であるにも関わらず、モリブデナイトの含有量が多い実施例2の熱伝導性グリースは、実施例1の熱伝導性グリースと比較しても比摩耗量が少なくなっている。このことから、モリブデナイトの含有量が多くなるにつれて熱伝導性グリースの塗布面での耐摩耗性をより効果的に向上させることができることが分かる。
【0064】
一方、比較例の熱伝導性グリースは、いずれも比摩耗量が10.0×10-4mm/(N/mm・m/s・hr)よりも高く、熱伝導性グリースの塗布面での耐摩耗性を向上できるものとはなっていない。
【0065】
なお、実施例1の熱伝導性グリースは、熱伝導率が高いものであったが、若干塗布性が低いものであった。一方、実施例4の熱伝導性グリースは、熱伝導率が若干低いものであったが、塗布性が極めて良好であった。
【0066】
以上の結果から、モリブデナイトを含有する熱伝導性グリースであれば、熱伝導性グリースの塗布面が摩耗することを効果的に抑制できるので、摩耗した部分により半導体部品(発熱部品)全体の放熱効率が低下することを効果的に抑制できるようになることから、長期間に渡って十分な熱伝導性を維持できることが分かる。