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特許7556305物質の組成計算装置及び物質の組成計算方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】物質の組成計算装置及び物質の組成計算方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/38 20060101AFI20240918BHJP
   C22B 1/24 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G01N25/38
C22B1/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021022441
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124672
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大志
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-52994(JP,A)
【文献】特開2008-189952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/282024(US,A1)
【文献】特開2018-179714(JP,A)
【文献】特開2004-294111(JP,A)
【文献】特開2000-129367(JP,A)
【文献】特開2002-294352(JP,A)
【文献】特開2008-82901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
C22B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペレット状又は平板状に形成された反応物質をガスと接触させて加熱する時の、前記反応物質の内部の組成を予測する、物質の組成計算装置であって、
前記反応物質の内部を、前記反応物質の表面から一次元に分割する分割部と、
前記分割部において分割した各位置での温度を計算し、前記反応物質の内部の温度分布を計算する温度分布計算部と、
前記表面から、前記分割部で分割した各位置に拡散するガスの濃度を計算し、前記反応物質の内部のガス濃度の分布を計算するガス濃度計算部と、
前記温度分布計算部で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、所定の物質に関する反応速度を用いて、所定の物質の、組成の初期値又は前回の計算値のうち、時間刻み内での反応量を算出する反応量計算部と、
前記温度分布計算部で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、前記ガス濃度計算部で得られた前記反応物質内の各位置でのガス濃度と、前記反応物質の組成の初期値又は前回の計算値と、前記反応量計算部で得られた時間刻み内での反応量とを用いて、前記反応物質内の分割した各位置及び各時間刻みで熱力学平衡が生じていると仮定して熱力学平衡計算を行い、前記反応物質の組成変化を計算する熱力学平衡計算部と、
前記熱力学平衡による前記反応物質の発熱量及び吸熱量の少なくとも一方に基づいて、前記温度分布計算部において得られた、前記反応物質内の各位置の温度を修正し、温度分布を修正する温度修正部と、
前記熱力学平衡による前記ガスの消費量に基づいて、前記ガス濃度計算部において得られた、前記反応物質内の各位置のガス濃度を修正し、前記ガスの濃度分布を修正するガス濃度修正部と、
を備え、
前記温度分布計算部、前記ガス濃度計算部、前記反応量計算部、前記熱力学平衡計算部、前記温度修正部及び前記ガス濃度修正部が、所定の計算時間以上になるまで繰り返される、物質の組成計算装置。
【請求項2】
前記分割部は、前記反応物質の内部を、前記反応物質の前記表面からの前記ガスの拡散距離に基づいて分割する請求項1に記載の物質の組成計算装置。
【請求項3】
前記温度分布計算部は、前記分割部において分割した各位置での温度を、差分化した非定常一次元拡散方程式を用いて計算する請求項1又は2に記載の物質の組成計算装置。
【請求項4】
前記ガス濃度計算部は、前記表面から、前記分割部で分割した各位置に拡散する前記ガスの濃度を、差分化した非定常一次元拡散方程式を用いて計算する請求項1~3の何れか一項に記載の物質の組成計算装置。
【請求項5】
前記反応物質が、ペレットである請求項1~4の何れか一項に記載の物質の組成計算装置。
【請求項6】
ペレット状又は平板状に形成された反応物質をガスと接触させて加熱する時の、前記反応物質の内部の組成を予測する、物質の組成計算方法であって、
前記反応物質の内部を、前記反応物質の表面から一次元に分割する分割工程と、
前記分割工程において分割した各位置での温度を計算し、前記反応物質の内部の温度分布を計算する温度分布計算工程と、
前記表面から、前記分割工程にて分割した各位置に拡散するガスの濃度を計算し、前記反応物質の内部のガス濃度の分布を計算するガス濃度計算工程と、
前記温度分布計算工程で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、所定の物質に関する反応速度を用いて、所定の物質の、組成の初期値又は前回の計算値のうち、時間刻み内での反応量を算出する反応量計算工程と、
前記温度分布計算工程で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、前記ガス濃度計算工程で得られた前記反応物質内の各位置でのガス濃度と、前記反応物質の組成の初期値又は前回の計算値と、前記反応量計算工程で得られた時間刻み内での反応量とを用いて、前記反応物質内の分割した各位置及び各時間刻みで熱力学平衡が生じていると仮定して熱力学平衡計算を行い、前記反応物質の組成変化を計算する熱力学平衡計算工程と、
前記熱力学平衡による前記反応物質の発熱量及び吸熱量の少なくとも一方に基づいて、前記温度分布計算工程において得られた、前記反応物質内の各位置の温度を修正し、温度分布を修正する温度修正工程と、
前記熱力学平衡による前記ガスの消費量に基づいて、前記ガス濃度計算工程において得られた、前記反応物質内の各位置のガス濃度を修正し、前記ガスの濃度分布を修正するガス濃度修正工程と、
を含み、
前記温度分布計算工程、前記ガス濃度計算工程、前記反応量計算工程、前記熱力学平衡計算工程、前記温度修正工程及び前記ガス濃度修正工程が、所定の計算時間以上になるまで繰り返される、物質の組成計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の組成計算装置及び物質の組成計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石の一種であるリモナイト鉱石及びサプロライト鉱石等のラテライト鉱石(ニッケル酸化鉱石)の製錬方法として、移動炉床炉、ロータリーキルン等を使用して、鉄とニッケルを主成分とする合金であるフェロニッケルを製造する乾式製錬方法等が知られている。
【0003】
移動炉床炉による乾式製錬方法として、ペレット状に形成したニッケル酸化鉱を還元加熱することによって、鉄-ニッケル合金を得るニッケル酸化鉱の製錬方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このニッケル酸化鉱の製錬方法では、ニッケル酸化鉱と炭素質還元剤とを含む混合物を塊状化して形成したペレットを移動炉床炉において加熱還元処理する際、ペレットの表面から熱が伝わって加熱されることにより、ペレット表面から順にメタルに還元している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6447429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のニッケル酸化鉱の製錬方法は、ペレットの表面から還元反応が進行してメタル化する場合の組成変化しか考慮していない。製錬炉内に存在する酸化性ガスがペレット内に侵入して内部に拡散すると、炭素質還元剤の消費及び還元反応により表面で生成したメタルの酸化が生じ、組成変化が生じる可能性がある。また、ペレット等のように厚みを有し、ペレット内部での組成が酸化性ガスの拡散の影響を受け易い場合には、ペレット内部での濃度分布及び温度分布の影響も考慮して、還元反応等を計算する必要がある。
【0007】
よって、ペレットのような反応物質が酸化性ガスと接触する際の反応物質の組成変化を予測する際には、反応物質初期組成のみによる反応での組成変化のみならず、拡散により侵入する酸化性物ガスとの反応で生じる組成変化も考慮しなければ、移動炉床炉内での反応物質の組成変化を詳細に把握することができない。
【0008】
本発明の一態様は、酸化性ガスとの反応によって生じる反応物質の内部の組成を高精度に計算できる物質の組成計算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る物質の組成計算装置の一態様は、ペレット状又は平板状に形成された反応物質をガスと接触させて加熱する時の、前記反応物質の内部の組成を予測する、物質の組成計算装置であって、
前記反応物質の内部を、前記反応物質の表面から一次元に分割する分割部と、
前記分割部において分割した各位置での温度を計算し、前記反応物質の内部の温度分布を計算する温度分布計算部と、
前記表面から、前記分割部で分割した各位置に拡散するガスの濃度を計算し、前記反応物質の内部のガス濃度の分布を計算するガス濃度計算部と、
前記温度分布計算部で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、所定の物質に関する反応速度を用いて、所定の物質の、組成の初期値又は前回の計算値のうち、時間刻み内での反応量を算出する反応量計算部と、
前記温度分布計算部で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、前記ガス濃度計算部で得られた前記反応物質内の各位置でのガス濃度と、前記反応物質の組成の初期値又は前回の計算値と、前記反応量計算部で得られた時間刻み内での反応量とを用いて、前記反応物質内の分割した各位置及び各時間刻みで熱力学平衡が生じていると仮定して熱力学平衡計算を行い、前記反応物質の組成変化を計算する熱力学平衡計算部と、
前記熱力学平衡による前記反応物質の発熱量及び吸熱量の少なくとも一方に基づいて、前記温度分布計算部において得られた、前記反応物質内の各位置の温度を修正し、温度分布を修正する温度修正部と、
前記熱力学平衡による前記ガスの消費量に基づいて、前記ガス濃度計算部において得られた、前記反応物質内の各位置のガス濃度を修正し、前記ガスの濃度分布を修正するガス濃度修正部と、
を備え、
前記温度分布計算部、前記ガス濃度計算部、前記反応量計算部、前記熱力学平衡計算部、前記温度修正部及び前記ガス濃度修正部が、所定の計算時間以上になるまで繰り返される。
【0010】
本発明に係る物質の組成計算方法の一態様は、ペレット状又は平板状に形成された反応物質をガスと接触させて加熱する時の、前記反応物質の内部の組成を予測する、物質の組成計算方法であって、
前記反応物質の内部を、前記反応物質の表面から一次元に分割する分割工程と、
前記分割工程において分割した各位置での温度を計算し、前記反応物質の内部の温度分布を計算する温度分布計算工程と、
前記表面から、前記分割工程にて分割した各位置に拡散するガスの濃度を計算し、前記反応物質の内部のガス濃度の分布を計算するガス濃度計算工程と、
前記温度分布計算工程で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、所定の物質に関する反応速度を用いて、所定の物質の、組成の初期値又は前回の計算値のうち、時間刻み内での反応量を算出する反応量計算工程と、
前記温度分布計算工程で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、前記ガス濃度計算工程で得られた前記反応物質内の各位置でのガス濃度と、前記反応物質の組成の初期値又は前回の計算値と、前記反応量計算工程で得られた時間刻み内での反応量とを用いて、前記反応物質内の分割した各位置及び各時間刻みで熱力学平衡が生じていると仮定して熱力学平衡計算を行い、前記反応物質の組成変化を計算する熱力学平衡計算工程と、
前記熱力学平衡による前記反応物質の発熱量及び吸熱量の少なくとも一方に基づいて、前記温度分布計算工程において得られた、前記反応物質内の各位置の温度を修正し、温度分布を修正する温度修正工程と、
前記熱力学平衡による前記ガスの消費量に基づいて、前記ガス濃度計算工程において得られた、前記反応物質内の各位置のガス濃度を修正し、前記ガスの濃度分布を修正するガス濃度修正工程と、
を含み、
前記温度分布計算工程、前記ガス濃度計算工程、前記反応量計算工程、前記熱力学平衡計算工程、前記温度修正工程及び前記ガス濃度修正工程が、所定の計算時間以上になるまで繰り返される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る物質の組成計算装置の一態様は、酸化性ガスとの反応によって生じる反応物質の内部の組成を高精度に計算できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る物質の組成計算装置が適用される移動炉床炉の軸方向視における概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る物質の組成計算装置の機能を示すブロック図である。
図3】反応物質の内部を分割した状態を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る物質の組成計算方法を説明するフローチャートである。
図5】物質の組成計算装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
本実施形態に係る物質の組成計算装置について説明するに当たり、本実施形態に係る物質の組成計算装置が適用される乾式製錬炉の構成について説明する。なお、本実施形態では、乾式製錬炉が移動炉床炉である場合について説明するが、内容物を熱処理できる熱処理炉であればよく、例えばロータリーキルン等でもよい。また、本実施形態では、移動炉床炉のうち回転炉床炉の場合について説明するが、他の形状を有する移動炉床炉、例えば、ローラーハースキルン等でもよい。なお、回転炉床炉は、一つの設備で省スペースを実現できると共に、各処理領域の面積を十分に確保することができるため、より好ましい。
【0015】
<移動炉床炉>
図1は、本実施形態に係る物質の組成計算装置が適用される移動炉床炉の軸方向視における概略構成を示す図である。図1に示すように、移動炉床炉1は、ペレットPを装入する装入領域11aと、ペレットに含まれる結晶水を除去するためにペレットPを400℃~600℃程度でか焼するか焼領域11bと、還元加熱処理に先立ち還元加熱温度まで炉内を昇温する昇温領域11cと、還元加熱温度でペレットPを還元加熱処理する還元領域11dと、還元加熱後に再加熱処理に先立ち再加熱温度まで炉内を昇温する再昇温領域11eと、再加熱温度でペレットPを再加熱する再加熱領域11fと、再加熱後に冷却ガスなどを炉内に吹き込んでペレットPを1000℃以下程度まで冷却する冷却領域11gと、ペレットPを排出する排出領域11hを有する。
【0016】
移動炉床炉1へ供給するペレットPは、原料鉱石であるニッケル酸化鉱と、バインダー等の、例えば、粒径が0.2mm~0.8mm程度の原料粉末とを混合した混合物である。
【0017】
バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0018】
ペレットPを製造するにあたり、所定量の炭素質還元剤を混合して混合物とし、その混合物によりペレットを形成する。
【0019】
炭素質還元剤としては特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料のニッケル酸化鉱の粒度と同等のものであることが好ましい。
【0020】
なお、本実施形態では、ペレットPは移動炉床炉1内を移動できるものであればよく、球状、ペレット状、平板状等、その形状は特に限定されない。
【0021】
移動炉床炉1では、図中の矢印の方向に回転しながら、各領域(11a~11h)においてそれぞれの処理を行う。そのとき、各領域(11a~11h)の温度を所定の温度に調整すると共に、各領域(11a~11h)を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することによって、それぞれの領域(11a~11h)での処理温度を調整する。そして、回転炉床炉が1回転するごとに、ペレットPが製錬処理される。
【0022】
装入領域11aでは、ペレットPが装入される。
【0023】
か焼領域11bでは、装入領域11aで装入したペレットP中に含まれる結晶水を除去するために、ペレットPを400℃~600℃でか焼する。
【0024】
昇温領域11cでは、還元領域11dに先立ち、還元加熱温度まで炉内を昇温する。還元加熱温度としては、1000℃~1300℃とすることが好ましい。
【0025】
還元領域11dでは、還元加熱温度で、ペレットPが還元加熱される。還元領域11dでは、下記反応式に示すような還元反応が進行する。
Fe23+C→Fe34+CO ・・・(I)
【0026】
下記式(II)に示すように、還元が進行してFe34がFeOまで還元されると、NiO-SiO2として結合していたニッケル酸化物NiOとFeOとの置換が進み、下記式(III)に示すように、Niの還元が始まる。
Fe34+C→FeO+CO ・・・(II)
NiO+CO→Ni+CO2 ・・・(III)
【0027】
このようにして、ニッケル酸化物の還元が進むと共に、例えば、下記反応式(IV)に示すような鉄酸化物の還元反応が進行することにより、メタル化が進行して鉄-ニッケル合金(フェロニッケル)が生成される。
FeO+CO→Fe+CO2 ・・・(IV)
【0028】
ペレットP中に含まれる炭素質還元材が消費され尽くすと、Feのメタル化が止まり、メタル化しなかったFeはFeO(一部はFe34)の形態で残留する。
【0029】
再昇温領域11eでは、再加熱領域11fに先立ち、再加熱温度まで炉内を昇温する。再加熱温度としては、還元加熱処理の温度以上であることが必要であり、好ましくは1200℃~1500℃とする。
【0030】
再加熱領域11fでは、再加熱温度でペレットPを再加熱する。再加熱処理を施すことによって、ペレット内スラグの溶融が進行して半溶融状態又は溶融状態のスラグとなる。そして、スラグ中に分散していた細かい粒径のメタル粒同士が結合し、大きな粒径のメタル粒となる。
【0031】
冷却領域11gでは、再加熱後に冷却ガス等を炉内に吹き込んで、ペレットPを1000℃以下程度まで冷却する。
【0032】
排出領域11hでは、冷却領域11gで冷却されたペレットPが炉外に排出される。
【0033】
<物質の組成計算装置>
本発明の実施形態に係る物質の組成計算装置について説明する。本実施形態では、図1に示すペレットPがペレット状の反応物質Mであるものとして説明する。
【0034】
図2は、本実施形態に係る物質の組成計算装置の機能を示すブロック図である。図2に示すように、本実施形態に係る物質の組成計算装置20は、入力部21、分割部22、初期値設定部23、境界条件設定部24、温度分布計算部25、ガス濃度計算部26、反応量計算部27、熱力学平衡計算部28、温度修正部29、ガス濃度修正部30、計算時間判定部31、再計算部32及び出力部33を備え、ペレット状の反応物質Mを酸化性ガスと接触させて加熱する時の、反応物質Mの内部の組成を計算する。
【0035】
なお、明細書において、ペレット状とは、球状、円柱状、楕円柱状、多角柱(例えば、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱等)等の略一定の厚みを有する粒状をいう。本実施形態では、球状である場合について説明する。なお、反応物質Mの表面は凹凸があってもよい。ペレット径とは、短径と長径の平均値であり、ペレット長とは反応物質Mの断面に対して垂直な方向の反応物質Mの最大長さである。また、本実施形態では、反応物質Mの形状がペレット状である場合について説明するが、反応物質Mの形状は、ペレット状以外に、平板状でもよい。平板状とは、シート状等をいう。
【0036】
物質の組成計算装置20は、反応物質M内の部位で局所的に反応物質Mと酸化性ガスとの熱力学平衡計算を行って求めた計算結果に基づいて、反応物質M内の局所的な部位及び分割した時間刻みΔt毎に予め予測した温度分布及びガス濃度分布を修正し、反応物質M内の組成を計算するものである。
【0037】
熱力学平衡計算は、物質の平衡到達時の状態を定量的に知ることができ、乾式製錬等の非鉄金属製錬のプロセスの解析に非常に有用であり、乾式製錬炉での、原料組成、操業条件等の変更に伴う生成物変化の予測等に広く使用されている。乾式製錬炉における反応は、比較的高温下で行われる反応であるため、反応速度が大きく、一般的には、均一かつ平衡な状態を仮定した解析が可能な系であることが多い。しかし、ペレットPの内部の分布の考慮が必要な系も多い。このような系は、ペレットPの平均温度や単一濃度を用いて熱力学平衡計算を1回行っただけでは表現できない不均一な系である。
【0038】
例えば、ペレットPと酸化性ガスとの反応等、不均一系の反応では、ペレットPの内部への酸化性ガスの拡散が律速となることによってペレットPの内部と表面とでは酸化性ガスの濃度が異なるため、反応挙動又は反応量がペレットPの内部と表面で異なる場合がある。また、ペレットPを熱源により加熱する系では、ペレットP内での温度差に起因して、ペレットPの内部と表面で平衡状態が異なる場合がある。これらの場合、外部からの酸化性ガスの拡散量及び熱移動量を考慮する必要がある。ペレットPのガス濃度及び温度を単一のガス濃度又は平均温度として扱った1回の熱力学平衡計算、即ちペレットP内のガス濃度及び温度を均一な状態であるとして熱力学平衡計算を行っても、反応挙動を詳細に表現できない。
【0039】
そのため、ガス濃度及び温度が均一な系であると仮定して熱力学平衡計算したり、人為的にペレットPの内部のガス濃度や温度を仮定して熱力学平衡計算を行っても、求められるペレットPの内部の各位置での反応挙動を詳細に把握することは困難である。また、ペレットPの表面からの加熱、即ち、ペレットP内の各位置での温度分布を考慮せずに、ペレットPの平均温度を用いて平衡計算を実施すると、ペレットP内の反応率、即ちメタル化率は異なる値となる可能性が高い。
【0040】
物質の組成計算装置20は、温度分布計算部25及びガス濃度計算部26で予め予測した反応物質M内の温度分布及びガス濃度分布を、熱力学平衡計算部28で求めた反応物質Mと酸化性ガスとの熱力学平衡計算の計算結果を用いて、温度修正部29及びガス濃度修正部30で修正する。そして、物質の組成計算装置20は、温度分布計算部25、ガス濃度計算部26、反応量計算部27、熱力学平衡計算部28、温度修正部29及びガス濃度修正部30を、所定の計算時間以上になるまで繰り返す。これにより、物質の組成計算装置20は、反応物質M内の各位置での組成変化を計算でき、最終的に得られる反応物質M内の組成の計算精度を高めることができる。
【0041】
入力部21は、反応物質Mの内部の各位置における、温度、ガス濃度、反応物質Mの組成の初期値に関する情報、移動炉床炉1内の圧力、ガス雰囲気等の移動炉床炉1内の各種条件に関する情報等を入力する。
【0042】
分割部22は、反応物質Mの内部を、反応物質Mの表面から一次元に分割する。即ち、分割部22は、図3に示すように、反応物質Mの内部を反応物質Mの中心から表面に向かって一次元に分割する。これにより、反応物質Mは、その内部を複数のセルに分割できる。なお、セルとは、反応物質Mの内部を一次元に分割した時の、分割された反応物質Mの内部の領域をいう。
【0043】
分割の間隔は、等間隔でもよいし、等間隔でなくてもよく、反応物質Mの温度変化、濃度変化等に応じて適宜設定してもよい。例えば、反応物質Mの温度変化及び濃度変化が大きい箇所では、細かく分割して、各セルを細かく配置しても構わない。
【0044】
本実施形態では、反応物質Mを等間隔に分割したものとし、分割された各セル同士の分割間隔をΔrとし、反応物質Mの半径Rを分割間隔ΔrにN(整数)を乗じた値(R=N・Δr)とする。
【0045】
分割部22は、反応物質Mの内部を、反応物質Mの表面からの酸化性ガスの拡散距離に基づいて分割することが好ましい。これにより、反応物質Mの内部を酸化性ガスの拡散距離を考慮してより適切に分割できる。
【0046】
初期値設定部23は、反応物質Mの内部の各位置における、温度、ガス濃度、反応物質Mの組成の初期値を設定する。初期値設定部23は、反応物質Mの内部の、温度、圧力、ガス濃度、ガス雰囲気、反応物質Mの組成の初期値が入力されることで、設定できる。
【0047】
境界条件設定部24は、反応物質Mの内部の、温度、ガス濃度等の境界条件を設定する。境界条件設定部24は、反応物質Mの内部の、温度、ガス濃度等の境界条件が入力されることで、設定できる。
【0048】
温度分布計算部25は、分割部22において分割した各位置の温度を計算し、反応物質Mの内部の温度分布を計算する。
【0049】
温度分布計算部25は、分割部22において分割した各位置での温度を、差分化した非定常一次元熱伝導方程式を用いて計算することが好ましい。本実施形態では、反応物質Mがペレット状であると仮定しているため、差分化した非定常一次元熱伝導方程式を用いることで適切に計算できる。
【0050】
温度分布計算部25は、下記式(1)に示す非定常一次元熱伝導方程式を差分化した下記式(2)を用いて、分割部22で分割した各位置での温度を計算できる。即ち、下記式(2)を用いることで、所定のセルの位置(p番目)での温度Ti Pを求めることができるため、次の(p+1)番目のセルにおける温度Ti P+1を順次求めることができる。よって、反応前の反応物質Mの内部の温度分布が予測される。
【0051】
【数1】
【0052】
【数2】
【0053】
式(1)及び(2)中、ρは密度であり、CPは比熱、kは熱伝導率、Tは温度、tは計算時間、i及びpは整数である。p番目の計算での計算時間tは、時間刻みをΔtとして、p番目に時間刻みΔtを乗じた値(t=pΔt)とする。式(1)の熱伝導率kは、温度依存性を有しないと仮定し、式(2)では、簡素化のために、下記式(3)とする。
【0054】
【数3】
【0055】
上記式(2)では、反応物質Mの表面、即ち、r=R(図3参照)における境界条件Tr=R=Tbulk(Tbulkは、反応物質Mが接しているガスのバルク温度である)と、r=0(図3参照)における境界条件(dT/dr=0)と、初期条件T0 i=Tini(iは、反応物質M内の位置(1≦i≦N)、Tiniは反応物質Mの初期温度)を用いることにより、反応物質M内の分割した各位置の温度TP iを用いて、次のセル(p+1)番目における温度TP+1 iを求めることができる。
【0056】
なお、上記式(1)~(3)では、反応物質Mの中心(図3中、r=0)から表面(図3中、r=R)にかけて計算が進行している状態を示すが、反応物質Mの表面(図3中、r=R)から中心(図3中、r=0)にかけて計算が進行していると見なしてもよい。この場合、rが0であること(r=0)は、各式での反応物質Mの中心を意味し、rが半径Rであること(r=R)は、各式での反応物質Mの表面(即ち、反応物質Mの半径)を意味するため、(R-r)をr'とした時(R-r=r')、各式中のrは、(R-r')と置き換える。また、iが0であること(i=0)は、位置が各式で反応物質Mの中心にあることを意味し、iがNであること(i=N)は、位置が各式で反応物質Mの表面(即ち、反応物質Mの半径)にあることを意味するため、(N-i)をi'とした時(N-i=i')、各式中のiは、N-i'と置き換える。
【0057】
ガス濃度計算部26は、反応物質Mの表面から、分割部22で分割した各位置に拡散する酸化性ガスの濃度を計算し、反応物質Mの内部のガス濃度の分布を計算する。
【0058】
ガス濃度計算部26は、分割部22において分割した各位置での温度を、差分化した非定常一次元拡散方程式を用いて計算することが好ましい。本実施形態では、反応物質Mがペレット状であると仮定しているため、差分化した非定常一次元拡散方程式を用いることで適切に計算できる。
【0059】
ガス濃度計算部26は、下記式(4)に示す非定常一次元拡散方程式を差分化した下記式(5)を用いて、分割部22で分割した各セルの位置(p番目)でのガス濃度を算出できる。即ち、下記式(5)を用いることで、所定のセルの位置(p番目)でのガス濃度CP A,iを求めることができるため、次の(p+1)番目のセルにおけるガス濃度CP+1 A,iを順次求めることができる。よって、反応前の反応物質Mの内部のガス濃度の分布が予測される。
【0060】
【数4】
【0061】
【数5】
【0062】
式(4)及び(5)中、CAはある特定のガスAのモル濃度、DABはガスA中の他の特定のガスB中での拡散係数である。式(5)では、簡素化のために、下記式(6)とした。拡散係数DABは、温度依存性はないと仮定した。
【0063】
【数6】
【0064】
式(5)では、反応物質Mの表面、即ち、r=R(図3参照)における境界条件CA(r=R)=CA,bulk(CA,bulkは反応物質Mが接しているガスAの濃度)と、r=0(図3参照)における境界条件(dCA/dr=0)と、初期条件C0 A,i=0を用いることにより、反応物質M内の分割した各位置のガスAのガス濃度CP A,iを用いて、次のセル(p+1)番目における濃度C(P+1) A,iを求めることができる。
【0065】
なお、上記式(4)~(6)では、反応物質Mの中心(図3中、r=0)から表面(図3中、r=R)にかけて計算が進行している状態を示すが、上記式(1)~(3)と同様、反応物質Mの表面(図3中、r=R)から中心(図3中、r=0)にかけて計算が進行していると見なしてもよい。この場合、上記式(1)~(3)と同様、(R-r)をr'とした時(R-r=r')、各式中のrは、R-r'と置き換える。また、(N-i)をi'とした時(N-i=i')、各式中のiは、N-i'と置き換える。
【0066】
反応量計算部27は、温度分布計算部25で得られた反応物質M内の各位置での温度と、所定の物質に関する反応速度を用いて、所定の物質の、組成の初期値又は前回の計算値のうち、時間刻みΔt内で反応すると見込まれる量(以下、反応量)を算出する。
【0067】
時間刻みΔt内での所定の物質の反応量を算出することによって、続く熱力学平衡計算部28での反応進行を、時間刻み相当分にすることが可能となる。反応量を算出する物質の数は、反応物質M内の全ての物質でも構わないし、限定した数種類でもよい。例えば、還元剤である炭素の時間刻みΔt内での反応量を設定することによって、還元の進行量を規定することができるので、時間の進行に伴う反応物質M全体での反応の進行度合いを表現することが可能となる。反応速度の与え方の例としては、例えばアレニウス型の反応速度式で与える方法がある。
【0068】
熱力学平衡計算部28は、温度分布計算部25で得られた反応物質M内の各位置での温度と、ガス濃度計算部26で得られた反応物質M内の各位置でのガス濃度と、反応物質Mの組成の初期値又は前回の計算値と、反応量計算部27で得られた時間刻みΔt内での反応量とを用いて、反応物質M内の分割した各位置で熱力学平衡が生じていると仮定して熱力学平衡計算を行い、反応物質Mの組成変化を計算する。
【0069】
熱力学平衡計算部28は、反応物質M内の位置と、反応物質M内の各位置での温度と、反応物質M内の各位置でのガス濃度と、移動炉床炉1内の圧力、ガス雰囲気等を予め設定しておくことにより、反応物質M内の分割した各位置で生じる生成物質の自由エネルギーが最小となるように、熱力学平衡計算を行って、反応物質M内の組成を決定し、組成変化に伴う発熱量、吸熱量、及び生成物の比熱等を算出する機能を有する。
【0070】
熱力学平衡計算は、例えば、市販の熱力学平衡計算ソフトウェアFactSage等を用いて行うことができる。
【0071】
温度修正部29は、熱力学平衡計算部28の熱力学平衡で発生した発熱量及び吸熱量の少なくとも一方に基づいて、温度分布計算部25において得られた、反応物質M内の各位置の温度を修正し、温度分布を修正する。
【0072】
ガス濃度修正部30は、熱力学平衡計算部28の熱力学平衡で発生したガスの消費量に基づいて、ガス濃度計算部26において得られた、反応物質M内の各位置のガス濃度を修正し、ガスの濃度分布を修正する。
【0073】
計算時間判定部31は、計算時間が所定値以上か判定する。計算時間判定部31は、計算時間が所定値未満である場合には、境界条件設定部24、温度分布計算部25、ガス濃度計算部26、反応量計算部27、熱力学平衡計算部28、温度修正部29及びガス濃度修正部30を、所定の計算時間まで繰り返し行う。
【0074】
所定の計算時間は、特に限定されるものではなく、反応物質Mの種類、大きさ等に応じて適宜設定でき、例えば10分~20分の間で設定されてもよい。
【0075】
再計算部32は、計算時間判定部31の判定結果に基づいて、計算時間が所定値未満である場合には、境界条件設定部24、温度分布計算部25、ガス濃度計算部26、反応量計算部27、熱力学平衡計算部28、温度修正部29及びガス濃度修正部30を、この順番に所定の計算時間以上になるまで繰り返し行わせる。
【0076】
出力部33は、温度修正部29において修正された温度分布の結果、ガス濃度修正部30において修正されたガスの濃度分布の結果、計算時間判定部31における計算時間の判定結果等を表示する。出力部33としては、具体的には、モニター等を挙げられる。
【0077】
なお、本実施形態においては、温度分布計算部25及びガス濃度計算部26において、反応物質Mの内部での熱伝導方程式、拡散方程式を球座標系にて記述し、差分化して数値解を求めたが、反応物質Mが平板状である場合には、直交座標系による熱伝導方程式、拡散方程式を差分化して数値解を求めてもよい。
【0078】
本実施形態では、温度分布計算部25及びガス濃度計算部26は、差分法に基づいて、反応物質M内を離散化して各位置での温度及びガス濃度を算出したが、反応物質M内を離散化する方法は、これに限定されず、例えば、有限体積法等の他の方法でもよい。
【0079】
<物質の組成計算方法>
次に、本実施形態に係る物質の組成計算装置を用いて、本実施形態に係る物質の組成計算方法について説明する。図4は、本実施形態に係る物質の組成計算方法を説明するフローチャートである。図4に示すように、物質の組成計算装置20は、分割部22により、反応物質Mの内部を、反応物質Mの表面から一次元に分割する(分割工程:ステップS11)。
【0080】
分割工程(ステップS11)では、反応物質Mの内部を、反応物質Mの表面からの酸化性ガスの拡散距離に基づいて分割することが好ましい。酸化性ガスの拡散距離は、反応物質Mの大きさ、内部の形状、空隙率等、反応物質Mの位置によって異なる。そのため、反応物質Mの内部を酸化性ガスの拡散距離に基づいて分割することで、反応物質Mの内部は、実際の状態に近づけて、より適切に分割できる。
【0081】
次に、物質の組成計算装置20は、初期値設定部23により、反応物質Mの内部の各位置における、温度、ガス濃度、反応物質Mの組成の初期値を設定する(初期値設定工程:ステップS12)。
【0082】
次に、物質の組成計算装置20は、境界条件設定部24により、反応物質Mの内部の、温度、ガス濃度等の境界条件を設定する(境界条件設定工程:ステップS13)。
【0083】
次に、物質の組成計算装置20は、温度分布計算部25により、分割工程(ステップS11)において分割した各位置での温度を計算し、反応物質Mの内部の温度分布を計算する(温度分布計算工程:ステップS14)。
【0084】
本実施形態では、反応物質Mがペレット状であると仮定しているため、差分化した非定常一次元熱伝導方程式を用いて、反応物質Mの内部の温度分布を計算することが好ましい。
【0085】
次に、物質の組成計算装置20は、ガス濃度計算部26により、反応物質Mの表面から、分割工程(ステップS11)で分割した各位置に拡散する酸化性ガスの濃度を計算し、反応物質Mの内部のガス濃度の分布を計算する(ガス濃度計算工程:ステップS15)。
【0086】
本実施形態では、反応物質Mがペレット状であると仮定しているため、分割工程(ステップS11)で分割した各位置での温度を、差分化した非定常一次元拡散方程式を用いて計算することが好ましい。
【0087】
次に、物質の組成計算装置20は、反応量計算部27により、温度分布計算工程(ステップS14)で得られた反応物質M内の各位置での温度と、所定の物質に関する反応速度を用いて、所定の物質の、組成の初期値又は前回の計算値のうち、時間刻みΔt内での反応量を算出する(反応量計算工程:ステップS16)。
【0088】
次に、物質の組成計算装置20は、熱力学平衡計算部28により、温度分布計算工程(ステップS14)で得られた反応物質M内の各位置での温度と、ガス濃度計算工程(ステップS15)で得られた反応物質M内の各位置でのガス濃度と、反応物質Mの組成の前回の計算値又は前回の計算値と、反応量計算部27で得られた時間刻みΔt内での反応量とを用いて、反応物質M内の分割した各位置で熱力学平衡が生じていると仮定して熱力学平衡計算を行い、反応物質Mの組成変化を計算する(熱力学平衡計算工程:ステップS17)。
【0089】
次に、物質の組成計算装置20は、温度修正部29により、熱力学平衡計算工程(ステップS17)の熱力学平衡で発生した発熱量及び吸熱量の少なくとも一方に基づいて、温度分布計算工程(ステップS14)において得られた、反応物質M内の各位置の温度を修正し、温度分布を修正する(温度修正工程:ステップS18)。
【0090】
次に、物質の組成計算装置20は、ガス濃度修正部30により、熱力学平衡計算工程(ステップS17)の熱力学平衡で発生したガスの消費量に基づいて、ガス濃度計算工程(ステップS15)において得られた、反応物質M内の各位置のガス濃度を修正し、ガスの濃度分布を修正する(濃度修正工程:ステップS19)。
【0091】
次に、物質の組成計算装置20は、計算時間判定部31により、計算時間が所定値以上か判定する(計算時間判定工程:ステップS20)。
【0092】
計算時間が所定値以上である場合には(ステップS20:Yes)、計算が所定の計算時間まで実施されたと判断し、終了する。これにより、物質の組成計算装置20は、反応物質M内の各位置での組成変化を計算でき、反応物質M内の組成変化を求めることができる。
【0093】
一方、計算時間が所定値未満である場合には(ステップS20:No)、計算が所定の計算時間までまだ行われていないと判断し、境界条件設定工程(ステップS13)に戻り、温度分布計算工程(ステップS14)~濃度修正工程(ステップS19)を繰り返す。そして、物質の組成計算装置20は、境界条件設定工程(ステップS13)~濃度修正工程(ステップS19)を、所定の計算時間以上になるまで繰り返す。
【0094】
物質の組成計算装置20は、出力部33により、温度修正工程(ステップS18)において修正された温度分布の結果、濃度修正工程(ステップS19)において修正されたガスの濃度分布の結果、計算時間判定工程(ステップS20)における計算時間の判定結果、反応物質M内の各位置での組成変化量、反応物質M内の組成等を表示する。
【0095】
<物質の組成計算装置のハードウェア構成>
次に、物質の組成計算装置のハードウェア構成の一例について説明する。図5は、物質の組成計算装置のハードウェア構成図である。図5に示すように、物質の組成計算装置20は、情報処理装置(コンピュータ)で構成され、物理的には、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)201、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)202及びROM(Read Only Memory)203、入力デバイスである入力装置204、出力装置205、通信装置206並びにハードディスク等の補助記憶装置207等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス208で相互に接続されている。なお、出力装置205及び補助記憶装置207は、外部に設けられていてもよい。
【0096】
CPU201は、物質の組成計算装置20の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU201は、ROM203又は補助記憶装置207に格納された物質の組成計算プログラム(以下、単に計算プログラムという。)を実行して、測定収録画面と解析画面の表示動作を制御する。
【0097】
RAM202は、CPU201のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。
【0098】
ROM203は、基本入出力プログラム等を記憶する。予測プログラムはROM203に保存されてもよい。
【0099】
入力装置204は、キーボード、マウス、操作ボタン、タッチパネル等である。
【0100】
出力装置205は、モニタディスプレイ等である。出力装置205では、測定入力情報、予測結果等が表示され、入力装置204や通信装置206を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0101】
通信装置206は、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスであり、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースとして機能する。
【0102】
補助記憶装置207は、SSD(Solid State Drive)、及びHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、例えば、予測プログラムや物質の組成計算装置20の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0103】
図3に示す物質の組成計算装置20の各機能は、CPU201、RAM202等の主記憶装置又は補助記憶装置207に所定のコンピュータソフトウェア(予測プログラムを含む)を読み込ませ、RAM202、ROM203又は補助記憶装置207に格納された予測プログラム等をCPU201により実行する。これにより、RAM202、ROM203及び補助記憶装置207等におけるデータの読み出し及び書き込みを行うと共に、入力装置204、出力装置205及び通信装置206を動作させることで、物質の組成計算装置20の各機能は、実現される。即ち、本実施形態に係る物質の組成計算プログラムをコンピュータ上で実行させることで、物質の組成計算装置20は、図2の、分割部22、温度分布計算部25、ガス濃度計算部26、反応量計算部27、熱力学平衡計算部28、温度修正部29及びガス濃度修正部30等として機能する。
【0104】
物質の組成計算プログラムは、以下の構成のプログラムを用いることができる。
即ち、物質の組成計算プログラムは、ペレット状又は平板状に形成された反応物質をガスと接触させて加熱する時の、前記反応物質の内部の組成を予測する、物質の組成計算を少なくともコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記反応物質の内部を、前記反応物質の表面から一次元に分割する分割工程と、
前記分割工程において分割した各位置での温度を計算し、前記反応物質の内部の温度分布を計算する温度分布計算工程と、
前記表面から、前記分割工程にて分割した各位置に拡散するガスの濃度を計算し、前記反応物質の内部のガス濃度の分布を計算するガス濃度計算工程と、
前記温度分布計算工程で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、所定の物質に関する反応速度を用いて、所定の物質の、組成の初期値又は前回の計算値のうち、時間刻み内での反応量を算出する反応量計算工程と、
前記温度分布計算工程で得られた前記反応物質内の各位置での温度と、前記ガス濃度計算工程で得られた前記反応物質内の各位置でのガス濃度と、前記反応物質の組成の初期値又は前回の計算値と、前記反応量計算工程で得られた時間刻み内での反応量とを用いて、前記反応物質内の分割した各位置及び各時間刻みで熱力学平衡が生じていると仮定して熱力学平衡計算を行い、前記反応物質の組成変化を計算する熱力学平衡計算工程と、
前記熱力学平衡による前記反応物質の発熱量及び吸熱量の少なくとも一方に基づいて、前記温度分布計算工程において得られた、前記反応物質内の各位置の温度を修正し、温度分布を修正する温度修正工程と、
前記熱力学平衡による前記ガスの消費量に基づいて、前記ガス濃度計算工程において得られた、前記反応物質内の各位置のガス濃度を修正し、前記ガスの濃度分布を修正するガス濃度修正工程と、
を含み、
前記温度分布計算工程、前記ガス濃度計算工程、前記反応量計算工程、前記熱力学平衡計算工程、前記温度修正工程及び前記ガス濃度修正工程が、所定の計算時間以上になるまで繰り返される、物質の組成計算を少なくともコンピュータに実行させるプログラムを用いることができる。
【0105】
物質内部の組成の計算プログラムは、例えば、RAM202やROM203の主記憶装置又は補助記憶装置207等のコンピュータが備える記憶装置内に格納される。なお、物質の組成計算プログラムは、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、コンピュータが備える通信装置206等により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、物質の組成計算プログラムは、その一部又は全部が、CD-ROM、DVD-ROM、フラッシュメモリ等の携帯可能な記憶媒体に格納された状態から、コンピュータ内に記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【0106】
以上の通り、本実施形態に係る物質の組成計算装置20は、上記構成を備え、反応物質Mの内部の温度分布、反応物質Mの内部に侵入して拡散する酸化性ガスのガス濃度分布を予め予測した後、反応物質Mの内部の各位置で熱力学平衡計算を行って反応物質Mの内部の組成変化を計算し、反応物質M内の温度分布及びガス濃度分布を修正する。そして、物質の組成計算装置20は、計算時間が所定値以上になるまで繰り返し、反応物質M内の反応による組成変化を計算する。
【0107】
即ち、物質の組成計算装置20は、反応物質Mの内部で局所的に、設定した時間刻みΔt内で熱力学平衡が生じていると仮定して、予め予測した反応物質M内の温度分布及びガス濃度分布と、反応物質Mの組成の初期値又は前回の計算値と、時間刻みΔt内での反応量とを用いて熱力学平衡計算を行い、組成変化を計算する。そして、物質の組成計算装置20は、この組成変化の際に生じる、発熱量、吸熱量、酸化性ガスの消費量に基づいて、反応物質M内の温度分布及びガス濃度分布を修正し、反応物質M内の反応による組成変化を計算する。
【0108】
よって、物質の組成計算装置20は、反応物質Mの内部の温度分布、反応物質Mの内部に侵入して拡散する酸化性ガスのガス濃度分布等を考慮しつつ、反応物質Mの内部の各位置での、反応による組成変化をより詳細に解析できる。したがって、物質の組成計算装置20は、反応物質Mの反応による物質内部の組成を高精度に計算できる。
【0109】
物質の組成計算装置20は、分割部22で、反応物質Mの内部を、その表面からの酸化性ガスの拡散距離に基づいて分割できる。これにより、物質の組成計算装置20は、実際の反応物質M内の酸化性ガスの拡散割合の状態に近づけて、反応物質M内を分割できるため、反応物質M内の各位置での熱力学平衡計算をより適切に行い、反応物質M内の反応による組成変化を計算できる。よって、物質の組成計算装置20は、反応物質M内の反応による組成の計算精度を高めることができる。
【0110】
物質の組成計算装置20は、温度分布計算部25で、分割部22において分割した各位置での温度を、差分化した非定常一次元拡散方程式を用いて計算できる。これにより、物質の組成計算装置20は、反応物質Mがペレット状、特に球状である時に、温度分布計算部25で、反応物質M内の分割した各位置での温度をより適切に計算できる。そのため、物質の組成計算装置20は、反応物質M内の各位置での熱力学平衡計算をより適切に行い、反応物質M内の反応による組成変化をより高精度に計算できるため、反応物質M内の反応による組成の計算精度を高めることができる。
【0111】
物質の組成計算装置20は、ガス濃度計算部26で、分割部22において分割した各位置でのガス濃度を、差分化した非定常一次元拡散方程式を用いて計算できる。これにより、物質の組成計算装置20は、反応物質Mがペレット状、特に球状である時に、ガス濃度計算部26で、反応物質M内の分割した各位置でのガス濃度をより適切に計算できる。そのため、物質の組成計算装置20は、反応物質M内の各位置での熱力学平衡計算をより適切に行い、反応物質M内の反応による組成変化をより高精度に計算できるため、反応物質M内の反応による組成の計算精度を高めることができる。
【0112】
物質の組成計算装置20は、反応物質MとしてペレットP(図1参照)を用いることができる。これにより、移動炉床炉1(図1参照)等の乾式製錬炉に、反応物質Mとして投入されるペレットP(図1参照)の炉内の反応を予測するのに有効に用いることができる。
【0113】
物質の組成計算装置20は、上記のような特性を有することから、乾式製錬炉等の熱処理炉で酸化性ガス等を用いて熱処理する反応物質Mの炉内反応を予め予測するのに有効に用いることができる。そのため、物質の組成計算装置20は、移動炉床炉1等の熱処理炉の運転条件(例えば、熱処理炉の大きさや、原料鉱石の種類、供給量、移動速度)等を変えながら、熱処理炉内の各物質の挙動をより正確に解析できる。よって、物質の組成計算装置20は、ペレットの種類及び供給量の変更、熱処理炉の設備改善の事前検討、操業条件等による影響調査等に有効に活用することが可能である。
【0114】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0115】
1 移動炉床炉
20 物質の組成計算装置
22 分割部
23 初期値設定部
24 境界条件設定部
25 温度分布計算部
26 ガス濃度計算部
27 反応量計算部
28 熱力学平衡計算部
29 温度修正部
30 ガス濃度修正部
31 計算時間判定部
M 反応物質
P ペレット
図1
図2
図3
図4
図5